説明

車上装置及び速度照査パターン更新制御方法

【課題】速度照査パターンを適切に更新するようにすること。
【解決手段】駅誤通過防護システム1では、地上装置10が、停止目標位置を示す目標位置情報Fを軌道回路に送出し、車上装置30では、レールから受信した目標位置情報Fにもとづいて速度照査パターンを設定する。しかし、設定されている速度照査パターンの終端である停止目標位置と受信された今回の目標位置情報Fが示す停止目標位置との組み合わせ、及び、前回と今回の目標位置情報Fの受信間隔をもとに、速度照査パターンを更新するか否かを判定し、更新すると判定した場合に、今回受信した目標位置情報Fが受信できなくなったタイミングで、今回受信した目標位置情報Fにもとづく速度照査パターンに更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速度照査パターンに従って速度照査を行う車上装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道における列車の速度制御として、地上装置から列車制御信号をレールに送信し、車上装置が、受信した列車制御信号にもとづき速度照査パターンを設定して速度照査を行うシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−341775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、速度照査パターンの更新・設定をいつ行うかについては、種々の技術が考えられる。その1つとして、列車制御信号を受信できなくなったタイミング(当該軌道回路から進出したタイミング)で、その直前まで受信していた列車制御信号にもとづいて、速度照査パターンを更新する方法が考えられる。しかしながら、この方法では、いくつかの問題が生じ得る。例えば、レールから列車制御信号を瞬間的に受信できなくなる「瞬断」が生じる場合である。瞬断が生じると、本来ならば更新を行わないタイミングで、速度照査パターンの更新・設定を行ってしまうことになる。また、列車制御信号を受信できなくなったタイミング毎に、停止目標が先の速度照査パターンに更新される場合には、防護の意味がなさなくなる可能性もある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、速度照査パターンを適切に更新するようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の形態は、
停止目標位置を示す目標位置情報をレールに送出する地上装置(例えば、図1の地上装置10)が軌道に沿って敷設された当該レール上を走行する列車に搭載される車上装置(例えば、図1の車上装置30)であって、
前記レールに送出されている情報を受信する受信手段(例えば、図6の受電器24)と、
速度照査パターンを設定するパターン設定手段(例えば、図6の速度照査パターン設定部312)と、
前記設定された速度照査パターンに従った速度照査を行う速度照査手段(例えば、図6の速度照査部313)と、
前記受信手段により前記目標位置情報が受信されている受信状態であることを検出する受信状態検出手段(例えば、図6の速度照査パターン設定部312)と、
前記受信状態検出手段によって検出がなされなくなって後に次の受信状態が検出されるまでの時間間隔を用いて、前記速度照査パターンを更新するか否かを判定する判定手段(例えば、図6の速度照査パターン設定部312)と、
を備え、
前記パターン設定手段は、前記判定手段により更新すると判定された場合に、前記次の受信状態で受信された前記目標位置情報が示す目標位置に列車を停止させるための速度照査パターンに更新設定する、
車上装置である。
【0007】
また、他の形態として、
停止目標位置を示す目標位置情報をレールに送出する地上装置が軌道に沿って敷設された当該レール上を走行する列車に搭載されて、前記レールに送出されている情報を受信する受信手段と、速度照査パターンを設定するパターン設定手段と、前記設定された速度照査パターンに従った速度照査を行う速度照査手段とを備えた車上装置が行う速度照査パターン更新制御方法であって、
前記受信手段により前記目標位置情報が受信されている受信状態から非受信状態となって後に次の受信状態となるまでの時間間隔を用いて、前記速度照査パターンを更新するか否かを判定する判定ステップ(例えば、図8のステップS11)と、
前記判定ステップにより更新すると判定された場合に、前記次の受信状態で受信された前記目標位置情報が示す目標位置に列車を停止させるための速度照査パターンに更新設定する更新設定ステップ(例えば、図8のステップS15)と、
を含む速度照査パターン更新制御方法を構成しても良い。
【0008】
この第1の形態等によれば、車上装置では、地上装置からレールに送出されている目標位置情報を受信し、受信した目標位置情報が示す目標位置に列車を停止させるための速度照査パターンを設定し、設定した速度照査パターンに従った速度照査を行う。但し、目標位置情報が受信されている受信状態から非受信状態となって次に受信状態となるまでの時間間隔を用いて、速度照査パターンを更新するか否かを判定する。そして、更新すると判定された場合に、次の受信状態で受信された目標位置情報が示す目標位置に列車を停止させるための速度照査パターンに更新設定する。
【0009】
地上装置からレールへの目標位置情報の送信は、軌道回路を単位として行われる。このため、車上装置では、軌道回路の境界を通過すると、目標位置情報の非受信状態となった後、次の軌道回路に送信されている目標位置情報が受信されるようになる。また、車上装置では、同一の軌道回路内では同一の目標位置情報を連続的に受信するが、この目標位置情報の受信が瞬間的に途切れる「瞬断」が生じる場合がある。
【0010】
従って、この第1の形態によれば、目標位置情報の時間間隔から、目標位置情報の受信に「瞬断」が生じたのか、或いは、軌道回路の境界を通過して次の目標位置情報の受信が開始されたのかを判断することができ、その判断結果に応じて、速度照査パターンを更新するか否かを判定することが可能となる。
【0011】
また、第2の形態として、第1の形態の車上装置であって、
前記地上装置には、駅停止位置の内方の駅誤通過防護停止位置を前記停止目標位置とした目標位置情報を送出する第1の地上装置(例えば、図2の駅誤通過防護用地上装置10−1)と、駅停止位置を前記停止目標位置とした目標位置情報を送出する第2の地上装置(例えば、図2の駅停止用地上装置10−2)とが有り、
前記判定手段は、現在の速度照査パターンの停止目標位置、及び、前記次の受信状態で受信された前記目標位置情報が示す停止目標位置それぞれが、前記駅停止位置及び前記誤通過防護停止位置の何れであるかを更に用いて、前記更新をするか否かを判定する、
車上装置を構成しても良い。
【0012】
この第2の形態によれば、地上装置からレールに送出される目標位置情報には、駅停止位置の内方の駅誤通過防護停止位置を停止目標位置とした目標位置情報と、駅停止位置を停止目標とした目標位置情報とが有る。そして、車上装置では、速度照査パターンを更新するか否かの判定は、更に、現在の速度照査パターンの停止目標位置、及び、次の受信状態で受信された目標位置情報が示す目標停止位置それぞれが、駅停止位置及び駅誤通過停止位置の何れであるかを用いてなされる。
【0013】
また、第3の形態として、第2の形態の車上装置であって、
前記判定手段は、前記時間間隔が所定の短時間条件を満たし、且つ、前記次の受信状態で受信された前記目標位置情報が示す停止目標位置が前記駅誤通過防護停止位置である場合には、更新すると判定する、
車上装置を構成しても良い。
【0014】
この第3の形態によれば、時間間隔が所定の短時間条件を満たし、且つ、次の目標停止位置が駅誤通過防護停止位置である場合には、速度照査パターンを更新すると判定される。
【0015】
また、第4の形態として、第2又は第3の形態の車上装置であって、
前記判定手段は、現在の速度照査パターンの停止目標位置と前記次の受信状態で受信された目標位置情報が示す停止目標位置とが同じ場合、前記時間間隔が所定の短時間条件を満たすときには更新すると判定し、満たさないときには更新しないと判定する、
車上装置を構成しても良い。
【0016】
この第4の形態によれば、現在の速度照査パターンの停止目標位置と次の停止目標位置とが同じ場合、時間間隔が所定の短時間条件を満たすときには速度照査パターンを更新すると判定され、満たさないときには更新しないと判定される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】駅誤通過防護システムの構成図。
【図2】駅誤通過防護の概要図。
【図3】駅停車時の速度照査パターンの設定の説明図。
【図4】駅誤通過時の速度照査パターンの設定の説明図。
【図5】目標位置情報の受信の説明図。
【図6】車上装置の内部構成図。
【図7】更新条件テーブルのデータ構成例。
【図8】速度照査パターン設定処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。但し、本発明の適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
【0019】
[全体構成]
図1は、本実施形態における駅誤通過防護システム1の構成図である。図1に示すように、駅誤通過防護システム1は、軌道に沿って敷設される複数の地上装置10と、列車20に搭載される車上装置30とを備えて構成される。
【0020】
地上装置10は、軌道回路(閉そく区間)の進出側の境界に接続され、列車の停止目標位置を示す目標位置情報Fを電気信号として該軌道回路(レール)に送出する。列車の停止目標位置には、各駅に定められた駅停止位置と、この駅停止位置から所定距離(例えば、50m)だけ内方の駅誤通過停止位置とがある。そして、地上装置10には、駅誤通過停止位置を停止目標位置とした目標位置情報F1を送出する駅誤通過防護用地上装置10−1(第1の地上装置)と、駅停止位置を停止目標位置とした目標位置情報F2を送出する駅停止用地上装置10−2(第2の地上装置)とが有る(図2参照)。
【0021】
車上装置30は、軌道回路(レール)から受信した目標位置情報Fが示す停止目標位置に停止させるための速度照査パターンを設定し、この速度照査パターンに従った列車20の速度制御(制動制御)を行う。
【0022】
[原理]
図2は駅誤通過防護システム1による駅誤通過防護の概要図である。図2では、右方向を列車の進行方向として、軌道の構成(駅や地上装置10の位置)と、設定される速度照査パターンとを示している。図2に示す例では、駅の進入側から遠い順に、駅停止用地上装置10−2、駅誤通過防護用地上装置10−1が設置されている。駅停止用地上装置10−2は、停止目標位置として駅停止位置を示す目標位置情報F2を送出し、駅誤通過防護用地上装置10−1は、停止目標位置として駅停止位置の内方の駅誤通過停止位置を示す目標位置情報F1を送出している。
【0023】
この場合、先ず、駅に接近する列車30は、駅停止用地上装置10−2から送出される目標位置情報F2を受信する。そして、列車30が、駅停止用地上装置10−2からの目標位置情報F2が受信されなくなる地点P1を通過した時点において、この目標位置情報F2が示す駅停止位置を終端とする速度照査パターン(以下、終端が駅停止位置である速度照査パターンを、適宜「駅停止パターン」という)を設定する。
【0024】
列車30が地点P1を越えると、駅誤通過防護用地上装置10−1から送出される目標位置情報F1が受信されるようになる。更に列車30が進行して、駅誤通過防護用地上装置10−1からの目標位置情報F1が受信されなくなる地点P2を通過した時点において、この目標位置情報F1が示す駅誤通過停止位置を終端とする速度照査パターン(以下、終端が駅誤通過停止位置である速度照査パターンを、適宜「駅誤通過防護パターン」という)に更新する。
【0025】
また、車上装置30は、速度照査パターンに従った速度制御(制動制御)を行うが、速度照査パターンが駅停止パターンである場合には常用ブレーキを使用し、駅誤通過防護パターンである場合には非常ブレーキを使用する。すなわち、駅停止パターンにおいては、走行速度が速度照査パターンで定められる走行位置の制限速度を超える場合、常用ブレーキを作用させて減速させ、速度照査パターンで定められる制限速度から一定速度以下となったところでブレーキを緩解させる。一方、駅誤通過防護パターンにおいては、走行速度が速度照査パターンで定められる制限速度を超える場合、非常ブレーキを作用させて列車を停止させる。
【0026】
このように、車上装置30は、地上装置10からレールに送出されている目標位置情報Fが受信されなくなった時点において、該目標位置情報Fが示す停止目標位置を終端とする速度照査パターンの設定・更新を行う。この設定・更新が基本となる。
【0027】
但し、本実施形態では、目標位置情報Fが受信されなくなったタイミングにおいて、先ず速度照査パターンを更新するか否かの判定を行い、更新すると判定した場合に、該目標位置情報Fにもとづく速度照査パターンの設定・更新を行う。速度照査パターンを更新するか否かの判定は、(条件1)目標位置情報Fが示す停止目標位置、(条件2)目標位置情報Fの受信間隔、にもとづいて行われる(図7参照)。
【0028】
(条件1)目標位置情報Fが示す停止目標位置
この(条件1)は、駅停車時の誤通過防護を実現するための条件である。
図3は、駅停車時の速度照査パターンを説明する図である。図3では、列車がA駅に停車した場合を示している。図3に示す例では、A駅の進入側(外方)に、A駅の駅誤通過停止位置を示す目標位置情報F1を送出する駅誤通過防護用地上装置10A−1が設置されている。また、A駅の進出側(内方)に、次駅であるB駅の駅停止位置を示す目標位置情報F2を送出する駅停止用地上装置10B−2が設置されている。
【0029】
この場合、A駅に接近する列車は、駅誤通過防護用地上装置10A−1から送出されている目標位置情報F1を受信する。次いで、この駅誤通過防護用地上装置10A−1から送出されている目標位置情報F1が受信されなくなる地点P1において、この目標位置情報F1にもとづき、A駅の駅誤通過停止位置を終端とする速度照査パターン(駅誤通過防護パターン)に更新する。
【0030】
この地点P1を越えると、次の駅停止用地上装置10B−2から送出されている目標位置情報F2を受信する。そして、列車がA駅に停止すると、速度照査パターン(駅誤通過防護パターン)が消去される。その後、列車がA駅から発車し、駅停止用地上装置10B−2からの目標位置情報F2が受信されなくなる地点P2において、この目標位置情報F2をもとに、次のB駅の列車停止位置を終端する速度照査パターン(駅停止パターン)が設定される。
【0031】
図4は、駅誤通過時の速度照査パターンを説明する図である。図4では、列車がA駅を誤通過した場合を示している。図4に示す例では、図3と同様に、A駅の進入側(外方)に、A駅の駅誤通過停止位置を示す目標位置情報F1を送出する駅誤通過防護用地上装置10A−1が設置され、A駅の進出側(内方)に、次駅であるB駅の駅停止位置を示す目標位置情報F2を送出する駅停止用地上装置10B−2が設置されている。
【0032】
A駅に接近する列車は、駅誤通過防護用地上装置10A−1から送出されている目標位置情報F1を受信する。次いで、この駅誤通過防護用地上装置10A−1からの目標位置情報F1が受信されなくなる地点P1において、この目標位置情報F1にもとづき、A駅の駅誤通過停止位置を終端とする速度照査パターン(駅誤通過防護パターン)に更新する。この地点P1を越えると、次の駅停止用地上装置10B−2から送出されている目標位置情報F2を受信する。
【0033】
そして、列車がA駅の列車停止目標を越えて走行し、更に、駅停止用地上装置10B−2から送出される目標位置情報F2が受信されなくなる地点P2を越えた場合(誤通過の発生)、速度照査パターン(駅誤通過防護パターン)は更新しない。
【0034】
つまり、駅を誤通過した列車を駅誤通過停止位置までに停止させるため、現在設定されている速度照査パターンの停止目標位置が駅誤通過停止位置である場合には、原則として、速度照査パターンを更新しない。
【0035】
なお、「原則として」としたのは、次の例外があるからである。すなわち、現在設定されている速度照査パターンの停止目標位置が駅誤通過停止位置であり、次に目標位置情報F1を瞬断相当の時間以下の受信間隔で受信した場合には、例外として、速度照査パターンを更新する。現在の速度照査パターンの停止目標位置が駅誤通過停止位置であり、次に目標位置情報F1を受信した場合(図2の地点P2を通過した場合)には、速度照査パターンを更新する。
【0036】
(条件2)目標位置情報Fの受信間隔
先ず、列車における目標位置情報Fの受信について説明する。図5は、列車における目標位置情報Fの受信レベルの説明図である。図5では、右方向を列車の進行方向として、軌道の構成(地上装置10の位置)と、目標位置情報Fの受信レベルとを示している。
【0037】
地上装置10は軌道回路の進出側に設置されており、従って、目標位置情報Fは、軌道回路の進出側から進入側に向かって流れている。このため、車上装置30での目標位置情報Fの受信レベルは、軌道回路への進入時には低い値であるが、進出側に接近するに従って徐々に上昇し、該軌道回路から進出するとほぼゼロとなる。そして、次の軌道回路に進入すると、同様に、進出側に接近するに従って、目標位置情報Fの受信レベルは徐々に上昇する。
【0038】
そして、車上装置30では、目標位置情報Fの受信レベルが所定の判定レベル以上である状態が、該目標位置情報Fが受信されている状態(受信状態)となる。また、前回の目標位置情報Fが受信されなくなってから、次の目標位置情報Fが受信されるまでの時間間隔、すなわち、非受信状態である時間が、前回の目標位置情報Fと次の目標位置情報Fとの「受信間隔」となる。
【0039】
ところで、列車の走行中には、図5(b)に示すように、目標位置情報Fの受信レベルが瞬間的に低下する「瞬断」が生じる場合がある。この瞬断が生じた期間は、目標位置情報Fが一時的に受信されない非受信状態となる。車上装置30では、目標位置情報Fが受信されなくなったタイミングで、該目標位置情報Fにもとづく速度照査パターンの設定・更新を行う。つまり、瞬断が生じると、本来ならば行われないそのタイミングで、速度照査パターンの設定・更新が行われてしまう。
【0040】
目標位置情報Fに含まれる停止目標位置は、当該目標位置情報Fが送出される軌道回路の進出側の境界を基準とした距離(或いはキロ程)で表現されている。このため、瞬断によって誤ったタイミングで速度照査パターンを更新してしまうと、誤った位置を停止目標位置とした速度照査パターンとなってしまう。そこで、前回の目標位置情報F及び次の目標位置情報Fのそれぞれが示す停止目標位置が同じであり、且つ、その目標位置情報Fの受信間隔が所定の短時間条件(例えば、500ms以下)を満たす場合には、瞬断が生じたと判断する。そして、次の目標位置情報Fが受信できなくなったタイミングで次の目標位置情報Fにもとづき速度照査パターンを更新する。
【0041】
[機能構成]
図6は、車上装置30の内部構成図である。図6によれば、車上装置30は、処理部310と、記憶部320とを備えて構成される。
【0042】
処理部310は、例えばコンピュータ等の演算装置で実現され、記憶部320に記憶されたプログラムやデータ、受電器24を介した受信データ等に基づいて、車上装置30の全体制御を行う。本実施形態では、処理部310は、位置・速度算出部311と、速度照査パターン設定部312と、速度照査部313とを有する。
【0043】
位置・速度算出部311は、車軸に取り付けられた速度発電機の回転数の計測値をもとに、自列車の現在の走行位置(走行距離或いはキロ程)及び走行速度を算出する。なお、軌道に沿って設置された地上子を含むシステムの場合には、この地上子の近傍を通過時に、該地上子との間の無線通信によって取得した地上子IDから該地上子を識別し、走行位置を補正することにしてもよい。
【0044】
速度照査パターン設定部312は、受電器24を介して受信した目標位置情報Fをもとに、速度照査パターンを設定する速度照査パターン設定処理(図8参照)を行う。具体的には、目標位置情報Fの受信レベルが所定レベル未満となったことで、受信されていた目標位置情報Fが受信されなくなると、この受信された今回の目標位置情報Fにもとづく速度照査パターンに更新するか否かを判定する。すなわち、速度照査パターンが設定されていないならば、今回の目標位置情報Fにもとづく速度照査パターンを設定する。一方、速度照査パターンが設定されているならば、(条件1)現在の速度照査パターンの停止目標位置と次の目標位置情報Fが示す停止目標位置との組み合わせ、及び、(条件2)前回の目標位置情報Fと今回の目標位置情報Fとの受信間隔をもとに、更新条件テーブル324に従って、速度照査パターンを更新するか否かを判定する。そして、更新すると判定したならば、受信した今回の目標位置情報Fにもとづく速度照査パターンに更新・設定する。
【0045】
図7は、更新条件テーブル324のデータ構成例を示す図である。図7によれば、更新条件テーブル324は、速度照査パターンを更新するか否かの条件を定めたデータテーブルであり、(条件1)現在の速度照査パターンの終端となっている停止目標位置と、今回受信した目標位置情報Fが示す停止目標位置との組み合わせ、及び、(条件2)前回と今回の目標位置情報Fの受信間隔、の組み合わせそれぞれについて、更新するか否かの判定内容を対応付けて格納している。
【0046】
速度照査部313は、速度照査パターン設定部312によって設定された速度照査パターンに従った速度照査を行う。すなわち、速度照査パターンで定められる現在の走行位置に対する制限速度と、現在の走行速度とを比較し、走行速度が制限速度を超える場合には、ブレーキ機構26を作動させて減速させる。本実施形態において、ブレーキ機構26の作動方法は、常用ブレーキと非常ブレーキとの二種類がある。なお、このブレーキ機構26は、列車の運転士による手動制御によっても作動される。
【0047】
記憶部320は、ROMやRAM等の記憶装置で実現され、処理部310が車上装置30を統合的に制御するためのシステムプログラムやデータ、各種機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部310の作業領域として用いられ、処理部310が実行した演算結果や、受電器24からの受信データ等が一時的に格納される。本実施形態では、受電器24を介して受信された目標位置情報321と、目標位置情報Fの受信間隔データ322と、設定されている設定速度照査パターンデータ323と、更新条件テーブル324と、速度照査パターン設定プログラム325とが記憶される。
【0048】
[処理の流れ]
図8は、速度照査パターン設定処理の流れを説明するフローチャートである。図8によれば、速度照査パターン設定部312は、受電器24による受信レベルが受信判定レベル以上となったか否かによって目標位置情報Fの受信が開始されたか否かを判定する。受信レベルが受信判定レベル以上となったことをもって目標位置情報Fの受信が開始されたと判定したならば(ステップS1:YES)、前回の目標位置情報Fが受信されなくなった時点から、今回の目標位置情報Fの受信が開始された時点までの時間間隔を算出する(ステップS3)。
【0049】
次いで、受電器24による受信レベルが所定レベル未満となったことをもって目標位置情報Fが受信されなくなったと判定し(ステップS5:YES)、現在設定されている速度照査パターンが無いならば(ステップS7:NO)、受信された今回の目標位置情報Fにもとづく速度照査パターンを設定する(ステップS9)。
【0050】
一方、速度照査パターンが設定されているならば(ステップS7:YES)、更新条件テーブル324に従って、速度照査パターンを更新するか否かを判定する(ステップS11)。その結果、速度照査パターンを更新すると判定したならば(ステップS13:YES)、受信された今回の目標位置情報Fにもとづく速度照査パターンに設定・更新する(ステップS15)。一方、速度照査パターンを更新しないと判定したならば(ステップS13:NO)、現在の速度照査パターンを継続する(ステップS17)。
【0051】
また、ステップS1において、受電器24による受信レベルが受信判定レベル未満であることをもって目標位置情報Fの受信が開始されていないと判定したならば(ステップS1:NO)、現在速度照査を行っているか、すなわち速度照査パターンの設定有無を判定し、無いならば(ステップS27:NO)、ステップS1に戻る。
【0052】
続いて、自列車の走行速度が停止条件を満たす速度以下となったか否かによって停止したか否かを判定し、停止と判定したならば(ステップS19:YES)、停止位置から速度照査パターンの停止目標位置までの距離(接近距離)を算出し(ステップS21)、算出した接近距離が所定距離(150m)以下ならば(ステップS23:YES)、設定されている速度照査パターンを消去する(ステップS25)。その後、ステップS1に戻り、同様の処理を繰り返す。
【0053】
[作用・効果]
このように、本実施形態の駅誤通過防護システム1では、地上装置10が、停止目標位置を示す目標位置情報Fを軌道回路に送出し、車上装置30では、レールから受信した目標位置情報Fにもとづいて速度照査パターンを設定する。しかし、設定されている速度照査パターンの停止目標位置と受信された今回の目標位置情報Fが示す停止目標位置との組み合わせ、及び、前回と今回の目標位置情報Fの受信間隔をもとに、速度照査パターンを更新するか否かを判定し、更新すると判定した場合に、今回受信した目標位置情報Fが受信できなくなったタイミングで、今回受信した目標位置情報Fにもとづく速度照査パターンに更新する。
【0054】
これにより、目標位置情報Fの受信に「瞬断」が生じた場合には、速度照査パターンを更新することができる。また、現在の速度照査パターンが駅誤通過停止位置を停止目標位置とする速度照査パターン(駅誤通過防護パターン)である場合に、列車が停止するまで更新を行わないようにすることができる、
【0055】
なお、本発明の適用可能な実施形態は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
1 駅誤通過防護システム
10 地上装置
10−2 駅停止用地上装置、10−1 駅誤通過防護用地上装置
20 列車
30 車上装置
310 処理部
311 位置・速度算出部、312 速度照査パターン設定部
313 速度照査部
320 記憶部
321 受信目標位置情報、322 受信間隔データ
323 設定速度照査パターンデータ、324 更新条件テーブル
325 速度照査パターン設定プログラム
R レール
F(F1,F2) 目標位置情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
停止目標位置を示す目標位置情報をレールに送出する地上装置が軌道に沿って敷設された当該レール上を走行する列車に搭載される車上装置であって、
前記レールに送出されている情報を受信する受信手段と、
速度照査パターンを設定するパターン設定手段と、
前記設定された速度照査パターンに従った速度照査を行う速度照査手段と、
前記受信手段により前記目標位置情報が受信されている受信状態であることを検出する受信状態検出手段と、
前記受信状態検出手段によって検出がなされなくなって後に次の受信状態が検出されるまでの時間間隔を用いて、前記速度照査パターンを更新するか否かを判定する判定手段と、
を備え、
前記パターン設定手段は、前記判定手段により更新すると判定された場合に、前記次の受信状態で受信された前記目標位置情報が示す目標位置に列車を停止させるための速度照査パターンに更新設定する、
車上装置。
【請求項2】
前記地上装置には、駅停止位置の内方の駅誤通過防護停止位置を前記停止目標位置とした目標位置情報を送出する第1の地上装置と、駅停止位置を前記停止目標位置とした目標位置情報を送出する第2の地上装置とが有り、
前記判定手段は、現在の速度照査パターンの停止目標位置、及び、前記次の受信状態で受信された前記目標位置情報が示す停止目標位置それぞれが、前記駅停止位置及び前記誤通過防護停止位置の何れであるかを更に用いて、前記更新をするか否かを判定する、
請求項1に記載の車上装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記時間間隔が所定の短時間条件を満たし、且つ、前記次の受信状態で受信された前記目標位置情報が示す停止目標位置が前記駅誤通過防護停止位置である場合には、更新すると判定する、
請求項2に記載の車上装置。
【請求項4】
前記判定手段は、現在の速度照査パターンの停止目標位置と前記次の受信状態で受信された目標位置情報が示す停止目標位置とが同じ場合、前記時間間隔が所定の短時間条件を満たすときには更新すると判定し、満たさないときには更新しないと判定する、
請求項2又は3に記載の車上装置。
【請求項5】
停止目標位置を示す目標位置情報をレールに送出する地上装置が軌道に沿って敷設された当該レール上を走行する列車に搭載されて、前記レールに送出されている情報を受信する受信手段と、速度照査パターンを設定するパターン設定手段と、前記設定された速度照査パターンに従った速度照査を行う速度照査手段とを備えた車上装置が行う速度照査パターン更新制御方法であって、
前記受信手段により前記目標位置情報が受信されている受信状態から非受信状態となって後に次の受信状態となるまでの時間間隔を用いて、前記速度照査パターンを更新するか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにより更新すると判定された場合に、前記次の受信状態で受信された前記目標位置情報が示す目標位置に列車を停止させるための速度照査パターンに更新設定する更新設定ステップと、
を含む速度照査パターン更新制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−253935(P2012−253935A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125381(P2011−125381)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】