説明

車両の空力特性制御構造

【課題】簡単な構成で車両の下方を通過する走行風を円滑に流動させて車両の空力特性を効果的に向上できるようにする。
【解決手段】車両の床面下方に設けられた床下アンダーカバー5を有する車両の空力特性制御構造であって、上記床下アンダーカバー5が、前輪と後輪との間に亘ってサイドシル13の下端よりも低い位置に設置された略平坦面形状の内側カバー部14と、該内側カバー部14と上記サイドシルと13の間に配設された外側カバー部15とを有し、該外側カバー部15には、上記内側カバー部14の設置高さよりも上方に位置する上壁板17を有する段差部が設けられるとともに、底面視でサイドシル下端部の特定位置に対向した作業用開口部20が形成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の床面下方に設けられたアンダーカバーを有する車両の空力特性制御構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、路面干渉などの破壊入力に強く、走行風により振動することのないアンダーカバーを提供することを目的として、車体底面を覆うアンダーカバーの下面に、少なくとも車両の前後方向に凹部と凸部を交互に連続して形成するとともに、前記凹凸部の断面形状を連続する湾曲面状に形成することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−024047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、前輪の側方から燃料タンクの底部までを覆うように設置されたアンダーカバーが開示されている。当該アンダーカバー構造によれば、車両の走行時に上記アンダーカバーの下方を通過する走行風をスムーズに流動させることができるため、車両の空力特性を、より効果的に向上させることが可能である。この反面、車両の床面およびサイドシルの下方に工具をセットしてジャッキアップ等を行うための作業用開口部を上記アンダーカバーに形成する必要がある。上記ジャッキアップを行う際等の作業性を考慮して大径の開口部を上記アンダーカバーに形成した場合には、該開口部の存在により車両の下方を通過する走行風の流動性が顕著に低下し、車両の空力特性が却って悪化するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で車両の下方を通過する走行風を円滑に流動させて車両の空力特性を効果的に向上させることができる車両の空力特性制御構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、車両の床面下方に設けられた床下アンダーカバーを有する車両の空力特性制御構造であって、上記床下アンダーカバーが、前輪と後輪との間に亘ってサイドシルの下端よりも低い位置に設置された略平坦面形状の内側カバー部と、該内側カバー部と上記サイドシルとの間に配設された外側カバー部とを有し、該外側カバー部には、上記内側カバー部の設置高さよりも上方に位置する上壁板を有する段差部が設けられるとともに、底面視でサイドシル下端部の特定位置に対向した作業用開口部が形成されたものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の車両の空力特性制御構造において、上記外側カバー部の車両後方側端部には、ホイールハウスの内部に走行風が巻き込まれるのを防止する空気流ガイド部が後下がりの傾斜状態で設置されたものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の車両の空力特性制御構造において、車両の前部に位置するエンジンルームの下方を覆う略平坦形状の前部アンダーカバーを有し、該前部アンダーカバーと上記内側カバー部とが略同一高さに設置されたものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の空力特性制御構造において、上記内側カバー部には、車両床面に設けられたタイダウン部に対向する位置にタイダウン用開口部が形成されるとともに、該タイダウン用開口部の車両前方側には、後下がりに傾斜した整流ガイド部が設けられ、かつ上記タイダウン用開口部の車両後方側には、所定高さの縦壁部が設けられたものである。
【0010】
請求項5に係る発明は、上記請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の空力特性制御構造において、上記床下アンダーカバーが、車両床面に設けられたトンネル部内に配設された排気系を挟んでその左右に所定距離を置いて設置されものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、床下アンダーカバーの内側カバー部をサイドシルの下端よりも低い位置で前輪と後輪との間に亘って略平坦形状に設置したため、車両の床下部を通過する走行風を車両後方まで円滑に流動させることができるとともに、上記内側カバー部とサイドシルとの間に外側カバー部を配設したため、床下の左右両右側辺部を通過する走行風を上記外側カバー部に沿って円滑に流動させることにより、車両の空力特性を効果的に向上できるという利点がある。そして、上記外側カバー部に内側カバー部の設置高さよりも上方に位置する上壁板を有する段差部を設けたため、該上壁板等に形成される作業用開口部の開口面積を必要以上に大きくすることなく、該作業用開口部を介して車体のジャッキアップ作業等を容易かつ適正に行うことかできる。
【0012】
請求項2に係る発明では、記外側カバー部の車両後方側端部に、ホイールハウスの内部に走行風が巻き込まれるのを防止する空気流ガイド部を後下がりの傾斜状態で設置したため、外側カバー部の下面に沿って流動する走行風が後輪用のサスペンション部材等に衝突して乱流が形成されるのを効果的に防止し、これによって車両の空力特性が悪化するのを抑制できるという利点がある。
【0013】
請求項3に係る発明では、車両の前部に位置するエンジンルームの下方を覆う略平坦形状の前部アンダーカバーを設け、該前部アンダーカバーと上記内側カバー部とを略同一高さに設置したため、上記前部アンダーカバーおよび内側カバー部の下方を通過する走行風を、より円滑に流動させることができ、車両の長さ方向略全長に亘って空力特性を向上できるという利点がある。
【0014】
請求項4に係る発明では、車両床面に設けられたタイダウン部に対向する位置にタイダウン用開口部を上記内側カバー部に形成するとともに、該タイダウン用開口部の車両前方側に、後下がりに傾斜した整流ガイド部を設け、かつ上記タイダウン用開口部の車両後方側に、所定高さの縦壁部を設けたため、開口面積が大きくなりがちな上記タイダウン用開口部を内側カバー部に設けたにも拘わらず、該内側カバー部の下面に沿って流動する走行風が上記タイダウン用開口部内に巻き込まれるのを効果的に防止して空力特性の低下を抑制できるという利点がある。
【0015】
請求項5に係る発明では、上記床下アンダーカバーを、車両床面に設けられたトンネル部内に配設された排気系を挟んでその左右に所定距離を置いて設置したため、上記床下アンダーカバーが排気系により過度に加熱されて熱害が発生するのを効果的に抑制しつつ、排気系の設置部を除く広い範囲に上記床下アンダーカバーを設置することにより、車両の空力特性を最大限に向上できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る車両の空力特性制御構造の実施形態を示す底面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】上記車両の空力特性制御構造の要部構成を示す底面斜視図である。
【図4】図1のIV−IV線断面図である。
【図5】図1のV−V線断面図である。
【図6】図1のVI−VI線断面図である。
【図7】図1のVII−VII線断面図である。
【図8】図1のVIII−VIII線断面図である。
【図9】本発明の比較例を示す図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1〜図3は、本発明の実施形態に係る車両の空力特性制御構造を備えた車両の底面図を示している。該車両の前部に位置するエンジンルームの下方には前部アンダーカバー1が設置されている。該前部アンダーカバー1の後方側に配設されたフロアパネル2からなる車両床面の下方には、床下アンダーカバー5が前輪3と後輪4との間に亘って設けられるとともに、エンジンルーム内の空気を後方に案内する導風カバー6が上記前部アンダーカバー1と床下アンダーカバー5との間に配設されている。
【0018】
上記前部アンダーカバー1は、合成樹脂材等により略平坦面形状で、エンジンルームの下方部を被覆し得る大きさに形成されている。該前部アンダーカバー1の前部が、車体の前端部において車幅方向に延びるよう設置されたバンパースカート部7の下面に係止クリップまたは取付ボルト等からなる係止具を介して止着されるとともに、上記前部アンダーカバー1の後部が、前輪3用のサスペンション部材を支持する左右一対のサスペンションフレーム8の前辺部下面に係止具を介して止着されている。
【0019】
上記床下アンダーカバー5は、エンジンルームと車室と区画するダッシュパネル9の下端部に位置する前輪3の後端部からセンタピラー10の下端部に至る範囲に設置された第1アンダーカバー11と、その後端部から後輪4の前端部に至る範囲に設置された第2アンダーカバー12とに区画されている。
【0020】
上記床下アンダーカバー5の第1アンダーカバー11は、合成樹脂材により一体に成形された内側カバー部14と外側カバー部15とを有している。該内側カバー部14は、図4に示すように、車室下部の左右両右側辺部に沿って車両の前後方向に延びるように設置されたサイドシル13の下端よりも低い位置で、図1に示すように、上記前部アンダーカバー1と略同一高さに設置された略平坦面形状の板状体からなっている。
【0021】
上記外側カバー部15は、内側カバー部14の車幅方向外端部から上方に起立する起立壁16とその上端部から車幅方向外方側に延びる上壁板17とを有し、これらの起立壁16および上壁板17により上記内側カバー部14の設置高さよりも上方に隆起した段差部が形成されている。また、上記第1アンダーカバー11の内側カバー部14および外側カバー部15の所定位置には、上方に凹入した円錐台形状等の取付部18が形成され、該取付部18が係止クリップまたは取付ボルト等からなる係止具を介して車両の床面(フロアパネル2)等に止着されている。
【0022】
上記外側カバー部15の前方外側辺部には、打ち抜き孔または切欠き等からなる作業用開口部20がサイドシル13の特定部位に対向した位置に形成されている。上記作業用開口部20は、ジャッキ19の上端部に設けられたジャッキアッププレートをサイドシル13のジャッキアップポイントに係合して車体をジャッキアップする際、あるいは車両の製造ラインで作業用治具をサイドシル13に係合して車体を搬送する際等に使用されるものである。
【0023】
また、上記内側カバー部14の前部には、図5に示すように、フロアパネル2からなる車両の床面に設けられたタイダウン部(図示せず)に対向する部分およびその前方に位置する取付部18を含む範囲を上方に凹入させた凹部21が形成されている。該凹部21の上壁部には、上記車両床面のタイダウン部にタイダウンフックを係合する際の作業孔となるタイダウン用開口部22が形成されている。
【0024】
上記床下アンダーカバー5の第2アンダーカバー12は、図6に示すように、上記第1アンダーカバー11の内側カバー部14の後端部に接続されて車両の後方側に延びるように設置されることによりサイドシル13の下端よりも低い位置に配設された内側カバー部23と、該内側カバー部23と上記サイドシル13との間に配設された外側カバー部24とを有している。当該内側カバー部23と外側カバー部24とは、合成樹脂材により別体に形成されている。
【0025】
上記第2アンダーカバー12の外側カバー部24は、上記内側カバー部23の車幅方向外端部から上方に延びるように接続される起立壁25と、その上端部から車幅方向外方側に延びる上壁板26とを有している。これらの起立壁25および上壁板26により上記内側カバー部23よりも上方に隆起した段差部が形成されている。また、上記第2アンダーカバー12の内側カバー部23および外側カバー部24の所定位置には、係止具を介して車両床面等に止着される取付部18が形成されている。さらに、上記外側カバー部24の外側辺部には、切欠きまたは打ち抜き孔からなる作業用開口部28が形成されている。
【0026】
図7に示すように、上記外側カバー部24の車両後方側端部には、走行風が後輪4用のホイールハウス30内に巻き込まれるのを防止するための空気流ガイド部29が、45°程度の傾斜角度を持って後下がりに傾斜した状態で設置されている。上記空気流ガイド部29の下方への突出量Lを大きくすれば、上記外側カバー部24に沿って流動する走行風が、その後方に位置するホイールハウス30に流入するのを効果的に防止することができる。
【0027】
上記空気流ガイド部29の下方への突出量Lが大きすぎると、走行風の流動抵抗が増大することにより空力特性が却って悪化する可能性がある。このため、上記空気流ガイド部29の下方への突出量Lは、上記起立壁25および上壁板26からなる段差部の隆起量の1/3〜1/2程度に設定することが望ましい。例えば、上記内側カバー部23の設置高さと外側カバー部24の設置高さとの差T(図6参照)が70mmに設定されている場合には、該空気流ガイド部29の下方への突出量Lを25mm程度に設定することにより、走行風の流動抵抗をそれ程増大させることなく、後輪4のホイールハウス30内に上記走行風が巻き込まれるのを効果的に防止することが可能である。
【0028】
また、上記内側カバー部23の前後方向中間部において、その車幅方向外方側部位には、図8に示すように、フロアパネル2からなる車両床面に設けられたタイダウン部(図示せず)に対向する切欠きまたは打ち抜き孔からなるタイダウン用開口部31が形成されている。該タイダウン用開口部31の車両前方側には、後下がりに傾斜した整流ガイド部32が設けられるとともに、該整流ガイド部32の後端部には、後上がりの傾斜状態で車両後方側へ延びる傾斜板33が連設されている。さらに、上記タイダウン用開口部31の車両後方側には、所定高さで上方に起立した縦壁部34が設けられている。
【0029】
上記導風カバー6は、図1に示すように、左右両端部が上記サスペンションフレーム8の後辺部下面および第1アンダーカバー11の内側辺部に係止された合成樹脂製のプレート材からなり、その左右両側方部には車幅方向に延びる複数個の開口溝35が一定間隔で形成されている。そして、車両の走行時に、エンジンルーム内の空気がダッシュパネル9に沿って下方に流動した後、上記導風カバー6を介して車両の後方側に案内されることにより、フロアパネル2の中央部に形成されたトンネル部36内に案内されるように構成されている。また、上記ダッシュパネル9に沿って下方に流動した空気の一部が、上記導風カバー6の開口溝35を介して下方に導出され、かつ上記導風カバー6の下面に沿って流動する走行風の一部が、上記開口溝35を介してトンネル部36内に流入するようになっている。
【0030】
上記内側カバー部14および外側カバー部15からなる前方側の第1アンダーカバー11と、上記第2アンダーカバー12を構成する内側カバー部23および外側カバー部24とを一体に連結した状態で、これらを車体に組み付けることにより、車両の床面に設けられた上記トンネル部36内に配設された排気系37の設置部を挟んでその左右に所定距離を置いて左右一対の床下アンダーカバー5が配設されている。
【0031】
上記のように車両の床面下方に設けられた床下アンダーカバー5を有する車両の空力特性制御構造において、前輪3と後輪4との間に亘ってサイドシル13の下端よりも低い位置に設置された略平坦面形状の内側カバー部14,23と、該内側カバー部14,23と上記サイドシル13との間に配設された外側カバー部15,24とを設け、該外側カバー部15,24に、上記内側カバー部14,23の設置高さよりも上方に位置する上壁板17,26を有する段差部を設けるとともに、底面視でサイドシル13の下端部の特定位置に対向した作業用開口部20,28を上記外側カバー部15,24に形成したため、簡単な構成で車両の下方を通過する走行風を円滑に流動させて車両の空力特性を効果的に向上させることができるという利点がある。
【0032】
すなわち、上記実施形態では、第1アンダーカバー11の内側カバー部14と第2アンダーカバー12の内側カバー部23とを、サイドシル13の下端よりも低い位置で前輪3と後輪4との間に亘って略平坦形状に設置したため、車両の床下部を通過する走行風を車両後方まで円滑に流動させることができ、車両の空力特性を効果的に向上できるという利点がある。また、上記内側カバー部14,23とサイドシル13との間に外側カバー部15,24を配設したため、床下の左右両右側辺部を通過する走行風を上記外側カバー部15,24に沿って円滑に流動させることができる。
【0033】
そして、上記外側カバー部15,24に、内側カバー部14,23の設置高さよりも上方に位置する上壁板17,26を有する段差部を設け、該上壁板17,26をサイドシル13の下端と略同一高さに位置させ、あるいは該サイドシル13の下端よりもやや上方に位置させるように構成したため、上記外側カバー部15,24の上壁板17,26等に形成される作業用開口部20,28の開口面積を必要以上に大きくすることなく、該作業用開口部20,28を介して車体のジャッキアップ作業等を容易かつ適正に行うことが可能である。
【0034】
例えば、図9に示すように、上記外側カバー部15,24を省略し、サイドシル13の下端よりも低い位置において該サイドシル13の近傍まで延びる略平坦面形状の床下アンダーカバー40を設けた構造とした場合には、該床下アンダーカバー40と上記サイドシル13とが上下に大きく離間した状態となるため、ジャッキ19の上端部を上記サイドシル13のジャッキアップポイントに係合する作業を支障なく行い得るようにするには、ジャッキ19の本体部等に対応した大きさの作業用開口部41を上記床下アンダーカバー40の所定位置に形成する必要がある。
【0035】
これに対して上記実施形態に示すように、外側カバー部15,24に上記段差部を設けて、その上壁板17,26をサイドシル13に近接させた構造とした場合には、上記ジャッキ19の上端部に設けられたジャッキアッププレート等が干渉するのを防止し得る大きさの作業用開口部20,28を上記外側カバー部15,24の上壁板17,26等に形成すれば足りる(図4および図6参照)。したがって、上記作業用開口部20,28の存在に起因して車両の下方を通過する走行風の流動性が低下するのを防止して、車両の空力特性を効果的に向上できるという利点がある。
【0036】
また、上記実施形態では、図7に示すように、外側カバー部24の車両後方側端部に後下がりの傾斜した空気流ガイド部29を設置し、上記外側カバー部24の下面に沿って流動する走行風が後輪4のホイールハウス30内に巻き込まれるのを上記空気流ガイド部29により防止するように構成したため、上記走行風が後輪4用のサスペンション部材に衝突して乱流が形成されるのを効果的に防止し、これによって車両の空力特性が悪化するのを抑制できるという利点がある。
【0037】
さらに、上記実施形態に示すように、車両の前部に位置するエンジンルームの下方を覆う略平坦形状の前部アンダーカバー1を設け、該前部アンダーカバー1と上記内側カバー部14,23とを略同一高さに設置した場合には(図1参照)、上記前部アンダーカバー1および内側カバー部14,23の下方を通過する走行風を、より円滑に流動させることができるため、車両の長さ方向略全長に亘って空力特性を向上できるという利点がある。
【0038】
また、上記実施例では、図8に示すように、床下アンダーカバー5の後半部を構成する第2アンダーカバー12の内側カバー部23に、車両床面に設けられたタイダウン部に対向する位置にタイダウン用開口部31を形成するとともに、該タイダウン用開口部31の車両前方側に、後下がりに傾斜した整流ガイド部32を設け、上記内側カバー部23の下面に沿って流動する走行風を上記整流ガイド部32により下方に整流するように構成したため、開口面積が大きくなりがちな上記タイダウン用開口部31を内側カバー部23に設けたにも拘わらず、上記走行風がタイダウン用開口部31内に巻き込まれるのを効果的に防止して空力特性の低下を抑制することができる。
【0039】
特に、上記タイダウン用開口部31の車両後方側に所定高さの縦壁部34を設けた構造とした場合には、上記タイダウン用開口部31内に侵入した空気が上記縦壁部34に当接することにより形成された空気の対流部を、上記内側カバー部23の下面に沿って流動する走行風がタイダウン用開口部31内に流入するのを抑制する流入抵抗部として利用することができるため、簡単な構成で内側カバー部23の下面に沿って流動する走行風が上記タイダウン用開口部31内に巻き込まれるのを、より効果的に防止できるという利点がある。
【0040】
さらに、上記実施形態に示すように、整流ガイド部32の後端部に後上がりの傾斜状態で車両後方側へ延びる傾斜板33を連設した構造とした場合には、該傾斜板33により走行風が上記タイダウン用開口部31内に巻き込まれるのを防止する効果と、該タイダウン用開口部31の設置部を補強する効果とが同時に得られるという利点がある。
【0041】
また、上記実施形態では、図5に示すように、床下アンダーカバー5の前半部を構成する第1アンダーカバー11の内側カバー部14に、車両床面に設けられたタイダウン部(図示せず)に対向する部分およびその前方に位置する取付部18を含む範囲を上方に凹入させた凹部21を形成し、上記タイダウンフックを車両床面のタイダウン部に係合する際の作業孔となるタイダウン用開口部22を上記凹部21の上壁部に形成したため、該タイダウン用開口部22を上記タイダウン部に近接した位置に配設することができる。
【0042】
したがって、上記タイダウン用開口部22に開口面積をそれ程大きくすることなく、該タイダウン用開口部22を介してタイダウンフックをタイダウン部に係合する作業等を容易かつ適正に行うことかできるとともに、上記タイダウン用開口部22にタイダウン用ロープが干渉すること等を効果的に防止できるという利点がある。
【0043】
なお、車両床面に設けられたトンネル部36の下面を上記床下アンダーカバー5により覆うように設置することも可能であるが、この場合には、上記トンネル部36内に配設された排気管および排気浄化装置等からなる排気系37により上記床下アンダーカバー5が可動に加熱されて熱害が発成する可能性がある。これに対して上記実施形態に示すように、上記トンネル部36内に配設された排気系37を挟んでその左右に所定距離を置いて上記床下アンダーカバー5を設置した場合には、上記床下アンダーカバー5に熱害が発生するのを効果的に抑制しつつ、排気系37の設置部を除く広い範囲に上記床下アンダーカバー5を設置することにより、車両の空力特性を最大限に向上できるという利点がある。
【0044】
また、上記実施形態に示すように、車両の走行時にダッシュパネル9に沿って下方に流動したエンジンルーム内の空気を、車両後方側のトンネル部36内に案内する導風カバー6を設けた構造とした場合には、上記ダッシュパネル9に沿って下方に流動したエンジンルーム内の空気と、上記導風カバー6の仮面に沿って流動する走行風とが干渉するのを防止することにより、車両の空力特性を効果的に向上できるという利点がある。
【0045】
さらに、上記実施形態では、図1に示すように、上記導風カバー6に開口溝35を形成したため、ダッシュパネル9に沿って下方に流動する空気が多い場合に、その一部を上記開口溝35から導風カバー6の下方に導出することにより、トンネル部36内に多量の空気が案内されて排気系37が過度に冷却されるという事態の発生を効果的に抑制することができる。逆に、上記ダッシュパネル9に沿って下方に流動する空気が少ない場合には、導風カバー6の下面に沿って流動する走行風の一部を上記開口溝35からトンネル部36内に流入させることにより、上記排気系37の冷却機能を確保できるという利点がある。
【符号の説明】
【0046】
1 前部アンダーカバー
2 フロアパネル(車両床下)
3 前輪
4 後輪
5 床下アンダーカバー
14,23 内側カバー部
15,24 外側カバー部
17,26 上壁板
20,28 作業用開口部
29 空気流ガイド部
30 ホイールハウス
31 タイダウン用開口部
32 整流ガイド部
34 縦壁部
36 トンネル部
37 排気系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の床面下方に設けられた床下アンダーカバーを有する車両の空力特性制御構造であって、上記床下アンダーカバーが、前輪と後輪との間に亘ってサイドシルの下端よりも低い位置に設置された略平坦面形状の内側カバー部と、該内側カバー部と上記サイドシルとの間に配設された外側カバー部とを有し、該外側カバー部には、上記内側カバー部の設置高さよりも上方に位置する上壁板を有する段差部が設けられるとともに、底面視でサイドシル下端部の特定位置に対向した作業用開口部が形成されたことを特徴とする車両の空力特性制御構造。
【請求項2】
上記外側カバー部の車両後方側端部には、ホイールハウスの内部に走行風が巻き込まれるのを防止する空気流ガイド部が後下がりの傾斜状態で設置されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の空力特性制御構造。
【請求項3】
車両の前部に位置するエンジンルームの下方を覆う略平坦形状の前部アンダーカバーを有し、該前部アンダーカバーと上記内側カバー部とが略同一高さに設置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の空力特性制御構造。
【請求項4】
上記内側カバー部には、車両床面に設けられたタイダウン部に対向する位置にタイダウン用開口部が形成されるとともに、該タイダウン用開口部の車両前方側には、後下がりに傾斜した整流ガイド部が設けられ、かつ上記タイダウン用開口部の車両後方側には、所定高さの縦壁部が設けられたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の空力特性制御構造。
【請求項5】
上記床下アンダーカバーが、車両床面に設けられたトンネル部内に配設された排気系を挟んでその左右に所定距離を置いて設置されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の空力特性制御構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−162102(P2012−162102A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21735(P2011−21735)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】