説明

車両の蓋体塗装用治具

【課題】ボディの塗装の際,そのボディに取り付けた蓋体の向きを自由に変更することができて蓋体全体の塗装を容易にし,また多機種の蓋体の取り付けにも簡単に対応できるようにする。
【解決手段】ボディBの任意の箇所に,そのボディBと共に塗装する蓋体2を取り付けるための,車両の蓋体塗装用治具において,ベース部材10と,それに回動可能に支持される回動アーム部材11と,この回動アーム部材11に設けられ,塗装すべき蓋体2の裏面に係合して蓋体2を支持する蓋体支持手段12と,このベース部材10をボディBに取り付ける取り付け手段13とを備え,ボディと共に蓋体を塗装する時,回動アーム部材の回動により蓋体の向きを自由に変更可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,車両のボディの塗装時,そのボディの任意の箇所に,そのボディと共に塗装する蓋体を取り付けるための車両の蓋体塗装用治具の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のボディの塗装時,フューエルリッド等の蓋体が本来の装着位置にヒンジ結合されていると,蓋体がその装着部周辺のシーリング作業を邪魔したり,また蓋体のヒンジが合成樹脂製で絶縁性である場合には蓋体をボディと同時に電着塗装や静電塗装をすることができない等の理由から,蓋体を本来の装着位置以外の任意の場所に蓋体塗装用治具により取り付け,その蓋体をボディと共に塗装することは,特許文献1に開示されるように,既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−206024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,従来の蓋体塗装用治具では,それによって取り付けた蓋体の向きを自由に変更することができなかったり,多機種の蓋体の取り付けに対応することが困難である等の問題があった。
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,ボディに取り付けた蓋体の向きを自由に変更できて蓋体全体の塗装を容易にし,また多機種の蓋体の取り付けにも簡単に対応できるようにした車両の蓋体塗装用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために,本発明は,車両のボディの塗装の際,そのボディの任意の箇所に,そのボディと共に塗装する蓋体を取り付けるための,車両の蓋体塗装用治具において,ベース部材と,このベース部材に回動可能に支持される回動アーム部材と,この回動アーム部材に設けられ,塗装すべき蓋体の裏面に係合して蓋体を支持する蓋体支持手段と,前記ベース部材に設けられ,このベース部材を塗装すべきボディに取り付ける取り付け手段とを備えることを第1の特徴とする。尚,前記蓋体は,後述する本発明の実施例中のフューエルリッド2に対応する。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記回動アーム部材が,略平行に並ぶ一対のアーム部と,これらアーム部の一端部を互いに対向するように屈曲してなる枢軸部とからなるよう1本の弾性金属線で構成され,その枢軸部を前記ベース部材に回転可能に支持する一方,前記蓋体支持手段を,前記一対のアーム部に橋渡して設けられ前記蓋体の裏面側の一端部に形成された第1係合部に凹凸係合する位置決め板と,前記一対のアーム部に形成され,前記蓋体の裏面側の他端部に形成された第2係合部に前記一対のアーム部相互の弾性力により係合して前記位置決め板の前記第1係合部からの離脱を阻止する弾性係止爪とで構成したことを第2の特徴とする。
【0008】
さらに本発明は,第2の特徴に加えて,前記位置決め板及び弾性係止爪間の間隔を調節し得るよう,該位置決め板を前記一対のアーム部に対して移動可能に取り付けたことを第3の特徴とする。
【0009】
さらにまた本発明は,第2の特徴に加えて,前記ベース部材が,その表面から起立して前記一対のアーム部の配列方向に並ぶ一対の起立壁を有しており,これら起立壁に前記枢軸部が回転自在に貫通する軸孔を設け,この枢軸部を,前記ベース部材の表面とその表面にボルト結合される板ばねとで挟持して,この枢軸部と前記ベース部材及び板ばねとの摩擦力により,前記回動アーム部材の回動位置を保持し得るようにしたことを第4の特徴とする。
【0010】
さらにまた本発明は,第2の特徴に加えて,前記ベース部材には,前記取り付け手段として,前記起立壁とは反対方向に起立する一対の取り付け壁を形成すると共に,この両取り付け壁の一端部に,ボディの開口部の第1内側縁に係合する第1係合溝を,またそれらの他端部には,前記開口部の,前記第1内側縁と対向する第2内側縁に係合する第2係合溝を形成し,この第2係合溝は,これと前記第2内側縁との係合状態で前記第1係合溝の前記第1内側縁との係脱を可能にするよう,前記第1係合溝よりも深く形成し,前記取り付け壁には,前記第2内側縁に弾発係合してその反発力により第1係合溝と第1内側縁との係合状態を保持するセットばねを設けたことを第5の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば,ボディと共に蓋体を塗装する時,回動アーム部材の回動により,蓋体の向きを自由に変更することができ,これにより蓋体を表裏全体を隈なく塗装できるのみならず,蓋体に邪魔されることなくボディを容易,的確に塗装することができる。
【0012】
本発明の第2の特徴によれば,蓋体の蓋体支持手段への取り付けには,回動アーム部材及び弾性係止爪の弾性を利用することで,特別な工具を使用せずに済み,その取り付け作業を容易に行うことができる。また一対のアーム部,弾性係止爪及び枢軸部を備える回動アーム部材は一本の弾性金属線で構成されるので,蓋体塗装用治具の構造の簡素化に寄与し得る。
【0013】
本発明の第3の特徴によれば,位置決め板及び弾性係止爪間の間隔は,位置決め板のアーム部への取り付け位置の調節により自由に調節することができるので,ボディの機種変更により,蓋体の第2係合部の位置変更があっても,位置決め板のアーム部への取り付け位置の調節により,弾性係止爪と第2係合部との的確な係合状態を確保することができる。
【0014】
本発明の第4の特徴によれば,回動アーム部材の回動位置,即ち回動アーム部材に取り付けられる蓋体の開き位置を無段階に保持することができ,したがって塗装条件に応じて蓋体の開き位置を調節することにより,蓋体のみならずボディの塗装を容易に行うことができる。
【0015】
本発明の第5の特徴によれば,取り付け手段のボディへの取り付け時には,セットばねのばね力を利用することで,特別な工具の使用を不要にすることができ,その取り付け作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施例に係る蓋体塗装用治具により,蓋体としてのフューエルリッドを自動車のボディに取り付けた状態を示す側面図。
【図2】図1の2部拡大図。
【図3】図2の3−3線断面図。
【図4】図2の4−4線断面図。
【図5】図2の5−5線断面図。
【図6】図2の6−6線断面図。
【図7】上記フューエルリッドの裏面側から見た斜視図。
【図8】蓋体の閉じ状態で示す上記蓋体塗装用治具の斜視図。
【図9】蓋体の開き状態で示す上記蓋体塗装用治具の斜視図。
【図10】上記蓋体塗装用治具における取り付け手段のボディへの取り付け要領説明図。
【図11】本発明の第2実施例に係る蓋体塗装用治具を示す図1との対応図。
【図12】図11の蓋体塗装用治具の拡大図。
【図13】図12の13−13線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の好適な実施例に基づいて以下に説明する。先ず,図1〜図10に示す本発明の第1実施例の説明より始める。
【0018】
図1において,符号Bは,自動車の未塗装のボディを示し,その後部側面には,給油ガン挿入用の開口部1が開口しており,本来,その開口部1の一側縁にその開口部1を開閉する,蓋体としてのフューエルリッド2がヒンジ結合されるようになっているが,この第1実施例の場合,フューエルリッド2は鋼板製であるが,それをボディBに結合するヒンジが合成樹脂製であるため,このフューエルリッド2を,本発明に係る導電性の蓋体塗装用治具JによりボディBの任意の場所に取り付け,このフューエルリッド2をボディBと共に電着塗装及び静電塗装を行い得るようにする。その際,蓋体塗装用治具Jを取り付ける場所として,例えば,通常,リアバンパにより覆われて人目につかない車室換気用開口部3が選定される。
【0019】
図2,図8及び図9において,蓋体塗装用治具Jは,ベース部材10と,このベース部材10に回動可能に支持される回動アーム部材11と,この回動アーム部材11に設けられ,塗装すべきフューエルリッド2の裏側部分に弾性的に係合してフューエルリッド2を支持する蓋体支持手段12と,前記ベース部材10に設けられ,このベース部材10を上記車室換気用開口部3に取り付ける取り付け手段13とからなり,以下,各部について順次詳しく説明する。
【0020】
先ず,図2〜図5,図8及び図9に示すようにベース部材10は,鋼板製であって,そのの表面に起立した上下一対の起立壁14,14と,裏面に起立した左右一対の取り付け壁15,15とを有する。起立壁14,14には同軸状に並ぶ軸孔16,16が,それらの内周面の一部がベース部材10の表面と面一となるように設けられ,これら軸孔16,16により回動アーム部材11が回動可能に支持される。
【0021】
回動アーム部材11は,略平行に並ぶ上下一対のアーム部18,18と,これらアーム部18,18の一端部相互を一体に連結する連結部19と,アーム部18,18の他端部を互いに対向するように屈曲してなる枢軸部20とからなるもので,1本の弾性金属線,例えばばね鋼線21で構成される。その枢軸部20は,前記起立壁14,14の外側から軸孔16,16(図5参照)に回転自在に嵌挿され,そして起立壁14,14間において,ベース部材10の表面と,これに複数のボルト22,22…及びナット23,23…により締結される板ばね24とで挟持される。前記ナット23,23…は,ベース部材10の裏面に溶接される。
【0022】
而して,回動アーム部材11は,枢軸部20と,これを挟持するベース部材10及び板ばね24との摩擦力により任意の回動位置を保持し得るようになっている。したがって,回動アーム部材11の回動位置,即ち回動アーム部材11に取り付けられるフューエルリッド2を任意の開き位置に無段階に保持することができる。ベース部材10には,この回動アーム部材11の回動限界を規制する全閉ストッパ25及び全開ストッパ26が設けられる。その全閉ストッパ25は,回動回動アーム部材11がベース部材10の表面と平行となる全閉位置T(図6及び図8参照)を規制し,全開ストッパ26は,回動アーム部材11が全閉位置Tから90°以上回動した開き全開位置H(図6及び図9参照)を規制するようになっている。
【0023】
次に,前記蓋体支持手段12は,図2〜図9に示すように,前記一対のアーム部18,18に橋渡して設けられフューエルリッド2の裏面側の一端部に形成された第1係合部28に係合する位置決め板30と,前記一対のアーム部18,18の,位置決め板30及び前記連結部19の中間部に形成される上下一対の弾性係止爪31,31とで構成され,その弾性係止爪31,31は,第2係合部29に弾発的に係合して位置決め板30の第1係合部28からの離脱を阻止するようになっている。
【0024】
位置決め板30は,左右両側に起立壁32,32を有しており,これら起立壁32,32の各両端部には,前記一対のアーム部18,18が摺動自在に係合する位置決め溝33,33が設けられる。これら位置決め溝33,33に係合したアーム部18,18は,位置決め板30と,これに複数のボルト35,35…により締結される押え板36とで挟持され,その挟持力を緩めることにより,位置決め板30のアーム部18,18上での移動が可能となる。上記ボルト35は,押え板36に形成されるねじ孔37(図2及び図3参照)にねじ込まれる。
【0025】
前記起立壁32,32の一方には,他方より高く起立する支持壁39が延長形成され,この支持壁39の上端部に,その両側に突出する一対の位置決め爪40,40と,これら位置決め爪40,40の中間部に位置する位置決め突起41とが形成される。
【0026】
また前記弾性係止爪31,31は,前記支持壁39と同方向に突出するよう,アーム部18,18の一部を山形に屈曲させて構成され,両弾性係止爪31,31は,アーム部18,18の弾性により互いに離反方向に拡張する拡張性が付与される。
【0027】
こゝで,フューエルリッド2の構造について説明する。図7〜図9に示すように,フューエルリッド2は,鋼板製の外板2a及び内板2bの外周縁部を重ねてかしめ結合して構成される(図7参照)。その内板2bは,内周縁部が外板2aの裏面から浮き上がった長方形の開口部2cを有しており,その開口部2cの一端縁と両側縁とに前記第1及び第2係合部28,29が形成される。第1係合部28は,開口部2cの一端縁に設けられて前記位置決め板30の支持壁39が嵌入される位置決め凹部43と,この位置決め凹部43の両側に起立して前記一対の位置決め爪40,40が裏面側に小面積で当接する一対の突起44,44とで構成される。また第2係合部29は,前記一端縁と直角をなす両側縁にそれぞれ形成される固定爪45,45よりなっており,これら固定爪45,45に前記弾性係止爪31,31が弾性係合するようになっている。
【0028】
而して,蓋体支持手段12へのフューエルリッド2の取り付けに当たっては,位置決め板30の支持壁39をフューエルリッド2の位置決め凹部43に嵌入すると共に,位置決め爪40,40をフューエルリッド2の突起44,44の裏面に小面積で当接させ,同時に位置決め爪40,40及び位置決め突起41をフューエルリッド2の外板2aの裏面に小面積で当接させて,フューエルリッド2の取り付け位置を規定する。次いで,アーム部18,18の一対の山形の弾性係止爪31,31に収縮力を加えてそれらの間隔を狭めながら,弾性係止爪31,31をフューエルリッド2の開口部2c内に挿入した後,収縮力を解放すれば,両弾性係止爪31,31は,それら自体の拡張弾性力により対応する固定爪45,45と係合することができる。
【0029】
こうして,弾性係止爪31,31をフューエルリッド2の固定爪45,45に係合すると,位置決め板30の位置決め爪40,40とフューエルリッド2の突起44,44の係合状態を保持することになり,フューエルリッド2を蓋体支持手段12によって確実に支持することができる。しかも,フューエルリッド2の蓋体支持手段12への取り付けには,回動アーム部材11及び弾性係止爪31,31の弾性を利用することで,特別な工具を使用せずに済み,その取り付け作業を容易に行うことができる。
【0030】
さらに一対のアーム部18,18,弾性係止爪31,31及び枢軸部20を備える回動アーム部材11は一本の鋼線21で構成されるので,蓋体塗装用治具Jの構造の簡素化に寄与し得る。
【0031】
また弾性係止爪31,31と固定爪45,45との係合位置,換言すれば位置決め板30及び弾性係止爪31,31間の間隔は,位置決め板30のアーム部18,18への取り付け位置の調節により,自由に調節することができる。したがって,ボディBの機種変更により,フューエルリッド2の固定爪45,45の位置変更があっても,位置決め板30のアーム部18,18への取り付け位置の調節により,弾性係止爪31,31と固定爪45,45との的確な係合状態を確保することができる。
【0032】
次に,前記取り付け手段13は,図2〜図5,図8及び図9に示すように,ベース部材10に形成された前記左右一対の取り付け壁15,15と,この両取り付け壁15,15の上端部に形成され,ボディBの前記車室換気用開口部3の上部内側縁3bに係合する左右一対の第1係合溝47,47と,両取り付け壁15,15の下端部に形成され,前記開口部3の下部内側縁3aに係合する左右一対の第2係合溝48,48とを備え,その第2係合溝48,48は,これと下部内側縁3aとの係合状態で第1係合溝47,47の前記上部内側縁3bとの係脱を可能にするよう,第1係合溝47,47よりも深く形成される。また上部内側縁3bには,第1係合溝47,47の係合位置を規制するずれ止め凹部6,6(図2及び図9参照)が設けられ,第1係合溝47,47の上部内側縁3b上でのずれを防ぐようになっている。
【0033】
さらに前記取り付け手段13は,前記下部内側縁3aに弾発係合してその反発力により第1係合溝47,47と上部内側縁3bとの係合状態を保持するセットばね49を備える。このセットばね49は,単一の捩じりコイルばねよりなるもので,左右一対のコイル49a,49aと,両コイル49a,49aの内端から延出して相互に一体に連結する可動アーム49bと,両コイル49a,49aの外端から延出する一対の固定アーム49c,49cとからなっており,両コイル49a,49aは,取り付け壁15,15に橋渡されて固定される支持ボルト50により支持され,固定アーム49c,49cは,取り付け壁15,15からそれぞれの内方に切り起こされた係止片51にそれぞれ係止され,可動アーム49bは前記下部内側縁3aに弾発係合するように配置される。また取り付け壁15,15には,可動アーム49bの下部内側縁3aからの離脱時,可動アーム49bの戻り位置を規制するストッパ片52が設けられる。
【0034】
この取り付け手段13のボディBへの取り付け要領について,図10を参照しながら説明する。図10(A)に示すように,先ず取り付け壁15,15の第2係合溝48,48をボディBの開口部3の下部内側縁3aに軽く係合する。次いで図10(B)に示すように,セットばね49の可動アーム49bを開口部3の下部内側縁3aに上方から強く押しつけ,可動アーム49bを支持ボルト50周りに上方へ回動させなつゝ,取り付け壁15,15の第2係合溝48,48を下部内側縁3aに深く係合する。このような状態で図10(C)に示すように,取り付け壁15,15の第1係合溝47,47を開口部3の上部内側縁3bに合わせたところで,可動アーム49bに対する押し下げ力を解放すれば,図4に示すように,セットばね49の反発力によりベース部材10が上昇して取り付け壁15,15の第1係合溝47,47を開口部3の上部内側縁3bに係合させることになる。かくして第1及び第2係合溝47,47;48,48は,セットばね49の弾発力をもって上部及び下部内側縁3a,3bとの係合状態に保持される。このように,取り付け手段13のボディBへの取り付け時には,セットばね49のばね力を利用することで,特別な工具の使用を不要にすることができ,その取り付け作業を容易に行うことができる。
【0035】
こうしてボディB側面の室内換気用開口部3に,蓋体塗装用治具Jを介してフューエルリッド2を取り付けるので,給油ガン挿入用の開口部1の周縁部には,フューエルリッド2に邪魔されることなくシーリング作業を行うことができる。また蓋体塗装用治具Jは導電性であるから,ボディBの電着塗装及び静電塗装時には,ボディBと共にフューエルリッド2をも同時に塗装することができる。ボディBの塗装時,フューエルリッド2に邪魔されることで室内換気用開口部3の周縁部に多少の塗りむらがあっても,その室内換気用開口部3は,後の組立工程でボディBの後部に装着されるリアバンパで覆われるので,ボディBの外観を損じることを防ぐことができる。
【0036】
しかも,蓋体塗装用治具Jにおいて,フューエルリッド2を支持する回動アーム部材11は,ベース部材10に対して回動可能に支持され,フューエルリッド2を,これがボディBの側面と平行する全閉位置Tから前記全開位置Hまでの間の任意の開き位置に回動して摩擦保持し得るので,フューエルリッド2及びその周辺のボディBの塗装時には,その塗装条件に応じて回動アーム部材11の回動により,フューエルリッド2の向きを自由に無段階に変更することができ,これによりフューエルリッド2を表裏全体を隈なく塗装できるのみならず,フューエルリッド2を適当な開き位置に保持することにより,フューエルリッド2に邪魔されることなくボディBの室内換気用開口部3の周囲を容易,的確に塗装することができる。
【0037】
尚,取り付け手段13のボディBへの取り付けを先に行い,その後,蓋体支持手段12にフューエルリッド2を取り付けてもよい。
【0038】
次に,図11〜図13に示す本発明の第2実施例について説明する。
【0039】
この第2実施例は,ボディBの一部を構成するドアBaの窓枠7の内側にフューエルリッド2を配置するよう,蓋体塗装用治具Jにおける取り付け手段13の構造を変更したものである。即ち,この第2実施例では,蓋体塗装用治具Jの取り付け手段13が,ベース部材10に溶接等により固着されてその下方に且つ回動アーム部材11の枢軸部20と平行に延びる左右一対の支柱55,55と,これら支柱55,55の下端部同士を連結して水平方向に延びるステー56とを備えている。そのステー56の一端部には,該一端部と協働して第1フォーク57を構成する第1フォーク片57aが,またその他端部には,該他端部と協働して第2フォーク58を構成する第2フォーク片58aがそれぞれ溶接される。またステー56の他端には,先端部を第2フォーク片58aに対して進退させ得るクランプボルト59が螺着される。その他の構成は前実施例と同様であるので,図11〜図13中,前実施例との対応部分には同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0040】
取り付け手段13のドアBaへの取り付けに当たっては,ドアBaを開放状態にして,そのドアBaのインナパネル8の中央開口部8aの左右両側縁に第1及び第2フォーク57,58を引っ掛け,クランプボルト59を締め付けて,第2フォーク片58aとクランプボルト59とのよりインナパネル8を挟持する。こうして,取り付け手段13はドアBaに取り付けられ,回動アーム部材11に支持されるフューエルリッド2は窓枠7内に臨む位置を占めることになる。
【0041】
したがって,ボディBの塗装時には,ドアBaと共にフューエルリッド2を塗装することができる。その際,前実施例と同様に,フューエルリッド2を回動アーム部材11と共に回動して,その向きを自由に変えることができるので,フューエルリッド2を表裏全体を隈なく塗装でき,またフューエルリッド2に邪魔されることなくドアBaの各部を容易,的確に塗装することができる。
【0042】
本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
B・・・・・ボディ
J・・・・・車両の蓋体塗装用治具
2・・・・・蓋体(フューエルリッド)
3・・・・・開口部(車室換気用開口部)
10・・・・ベース部材
11・・・・回動アーム部材
12・・・・蓋体支持手段
13・・・・取り付け手段
14・・・・起立壁
15・・・・取り付け壁
16・・・・軸孔
18・・・・アーム部
20・・・・枢軸部
21・・・・弾性金属線(鋼線)
24・・・・板ばね
28・・・・第1係合部
29・・・・第2係合部
30・・・・位置決め板
31・・・・弾性係止爪
33・・・・位置決め溝
47・・・・第1係合溝
48・・・・第2係合溝
49・・・・セットばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボディ(B)の塗装の際,そのボディ(B)の任意の箇所に,そのボディ(B)と共に塗装する蓋体(2)を取り付けるための,車両の蓋体塗装用治具において,
ベース部材(10)と,このベース部材(10)に回動可能に支持される回動アーム部材(11)と,この回動アーム部材(11)に設けられ,塗装すべき蓋体(2)の裏面に係合して蓋体(2)を支持する蓋体支持手段(12)と,前記ベース部材(10)に設けられ,このベース部材(10)を塗装すべきボディ(B)に取り付ける取り付け手段(13)とを備えることを特徴とする,車両の蓋体塗装用治具。
【請求項2】
請求項1記載の車両の蓋体塗装用治具において,
前記回動アーム部材(11)が,略平行に並ぶ一対のアーム部(18,18)と,これらアーム部(18,18)の一端部を互いに対向するように屈曲してなる枢軸部(20)とからなるよう1本の弾性金属線(21)で構成され,その枢軸部(20)を前記ベース部材(10)に回転可能に支持する一方,前記蓋体支持手段(12)を,前記一対のアーム部(18,18)に橋渡して設けられ前記蓋体(2)の裏面側の一端部に形成された第1係合部(28)に凹凸係合する位置決め板(30)と,前記一対のアーム部(18,18)に形成され,前記蓋体(2)の裏面側の他端部に形成された第2係合部(29)に前記一対のアーム部(18,18)相互の弾性力により係合して前記位置決め板(30)の前記第1係合部(28)からの離脱を阻止する弾性係止爪(31,31)とで構成したことを特徴とする,車両の蓋体塗装用治具。
【請求項3】
請求項2記載の車両の蓋体塗装用治具において,
前記位置決め板(30)及び弾性係止爪(31,31)間の間隔を調節し得るよう,該位置決め板(30)を前記一対のアーム部(18,18)に対して移動可能に取り付けたことを特徴とする,車両の蓋体塗装用治具。
【請求項4】
請求項2記載の車両の蓋体塗装用治具において,
前記ベース部材(10)が,その表面から起立して前記一対のアーム部(18,18)の配列方向に並ぶ一対の起立壁(14,14)を有しており,これら起立壁(14,14)に前記枢軸部(20)が回転自在に貫通する軸孔(16,16)を設け,この枢軸部(20)を,前記ベース部材(10)の表面とその表面にボルト結合される板ばね(24)とで挟持して,この枢軸部(20)と前記ベース部材(10)及び板ばね(24)との摩擦力により,前記回動アーム部材(11)の回動位置を保持し得るようにしたことを特徴とする,車両の蓋体塗装用治具。
【請求項5】
請求項2記載の車両の蓋体塗装用治具において,
前記ベース部材(10)には,前記取り付け手段(13)として,前記起立壁(14,14)とは反対方向に起立する一対の取り付け壁(15,15)を形成すると共に,この両取り付け壁(15,15)の一端部に,ボディ(B)の開口部(3)の第1内側縁(3b)に係合する第1係合溝(47)を,またそれらの他端部には,前記開口部(3)の,前記第1内側縁(3b)と対向する第2内側縁(3a)に係合する第2係合溝(48)を形成し,この第2係合溝(48)は,これと前記第2内側縁(3a)との係合状態で前記第1係合溝(47)の前記第1内側縁(3b)との係脱を可能にするよう,前記第1係合溝(47)よりも深く形成し,前記取り付け壁(15,15)には,前記第2内側縁(3a)に弾発係合してその反発力により第1係合溝(47)と第1内側縁(3b)との係合状態を保持するセットばね(49)を設けたことを特徴とする,車両の蓋体塗装用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−264393(P2010−264393A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118427(P2009−118427)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(591140086)理研化機工業株式会社 (16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】