車両の走行制御装置
【課題】電動機走行状態時のエンジン始動に際して駆動トルクを速やかに要求駆動トルクまで到達させることができ、車両の動力性能を高めることができる車両の走行制御装置を提供する。
【解決手段】トルクコンバータ6とエンジン9とを備えた車両の走行制御装置であって、トルクコンバータ6の出力軸22を回転駆動する電動機10と、ステータ翼車6sを出力軸22に選択的に連結するクラッチCs、Ciと、エンジン停止中に電動機10で出力軸22を回転駆動させる電動機走行状態時にエンジン始動要求があった場合、クラッチCs、Ciを介してステータ翼車6sに連結された出力軸22でステータ翼車6sを回転駆動させてタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転差△Nを小さくすることで、トルクコンバータ6の容量係数Cをステータ翼車6sが回転停止状態であるときの値よりも小さくする低容量化制御手段140とを含む。
【解決手段】トルクコンバータ6とエンジン9とを備えた車両の走行制御装置であって、トルクコンバータ6の出力軸22を回転駆動する電動機10と、ステータ翼車6sを出力軸22に選択的に連結するクラッチCs、Ciと、エンジン停止中に電動機10で出力軸22を回転駆動させる電動機走行状態時にエンジン始動要求があった場合、クラッチCs、Ciを介してステータ翼車6sに連結された出力軸22でステータ翼車6sを回転駆動させてタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転差△Nを小さくすることで、トルクコンバータ6の容量係数Cをステータ翼車6sが回転停止状態であるときの値よりも小さくする低容量化制御手段140とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源から入力されたトルクを流体を介して伝達するとともに、容量係数を変更することが可能な可変容量型トルクコンバータを備えた車両の走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体式伝動装置の一種に、入力軸に連結されたポンプ翼車と、出力軸に連結されたタービン翼車と、それらタービン翼車とポンプ翼車との間に配設されたステータ翼車とを有するトルクコンバータが知られている。このようなトルクコンバータでは、ステータ翼車が一方向クラッチを介して非回転部材に連結されており、可変容量特性を備えない。一般に、トルクコンバータの流体特性としては、燃費指向であるときは高い容量(容量係数)であること、加速指向であるときは低い容量(容量係数)であることが望まれるが、上記従来の構成では、上記容量がポンプ翼車、タービン翼車、ステータ翼車の形状によって一義的に定められてしまうため、走行パターンに拘わらず同一流体特性となり、燃費性能および動力性能を同時に向上させることには限界があった。
【0003】
これに対し、特許文献1に示されているように、ステータ翼車と非回転部材との間にブレーキ手段を設け、そのブレーキ手段の制動トルクを調節して容量を可変とした可変容量型トルクコンバータが提案されている。これによれば、ブレーキ手段による制動トルクを調節することによってステータ翼車の回転はポンプ翼車の回転方向とは反対の負回転方向の範囲で制御されるので、トルクコンバータのトルク比および容量係数を無段階或いは多段階に変化させることが可能となり、運転条件や走行条件に応じてトルク比および容量係数を変更でき、車両の走行性能を高めることができる。
【特許文献1】特開2006−300099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来の可変容量型トルクコンバータでは、ステータ翼車の回転はポンプ翼車の回転方向とは反対の負回転方向の範囲で制御されるに過ぎず、それにより得られるトルク比の上限値や容量係数の下限値には限界があり、運転条件や走行条件に応じて必ずしも十分にトルクコンバータのトルク比を高め、容量係数を低く変化させることができず、車両の動力性能を十分に高めることができなかった。特に、例えば車両の主動力源としてのエンジンを始動するときに所望の駆動トルクが発生するまでに時間がかかるという問題があった。
【0005】
そこで、未公知であるが、エンジンとは別に設けられた電動機によりステータ翼車をポンプ翼車の回転方向へ回転駆動することで従来に比較して高いトルク比と低い容量係数が得られる可変容量型トルクコンバータが考えられており、これによれば、エンジンの始動に際してトルクコンバータの容量係数を小さくすることでそのエンジン始動の応答性を向上させて、所望の駆動トルクが発生するまでかかる時間を短縮することができる。しかしながら、上述のように従来に比較して高いトルク比と低い容量係数が得られる可変容量型トルクコンバータであっても、エンジンの停止中に電動機を用いて出力軸を回転駆動させる電動機走行状態であるときにエンジンの始動要求があった場合には、電動機を用いてステータ翼車を回転駆動させることができず、容量係数を低く変化させて所望の駆動トルクが発生するまでにかかる時間を短縮することができないという問題があった。しかも、電動機による出力軸の回転駆動を停止させてその電動機を用いてステータ翼車を回転駆動させるということが考えられるが、これによれば、車両の駆動トルクが途切れるという不都合があった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両の主動力源としてのエンジンとは別に設けられた電動機により出力軸を回転駆動させる電動機走行状態においてエンジンを始動させる際に駆動トルクを速やかに要求駆動トルクまで到達させることができ、車両の動力性能を十分に高めることができる車両の走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、以上の事情を背景として種々検討を重ねた結果、車両の主動力源とは別の動力源である電動機を用いてステータ翼車を上記正回転方向へ積極的に駆動すると、従来に比較して高いトルク比と低い容量係数が得られるということを見いだし、さらに、ステータ翼車をタービン翼車に連結してそのタービン翼車の駆動トルクでステータ翼車をポンプ翼車の回転方向である正回転方向へ回転駆動すると、従来に比較して高いトルク比と低い容量係数が得られるということを見いだした。本発明はかかる知見に基づいて為されたものである。
【0008】
すなわち、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(1)入力軸に連結されたポンプ翼車と、出力軸に連結されたタービン翼車と、そのタービン翼車とそのポンプ翼車との間に配設されたステータ翼車とを有するトルクコンバータと、前記入力軸に連結されたエンジンとを備えた車両の走行制御装置であって、(2)前記出力軸を回転駆動するための電動機と、(3)前記ステータ翼車を前記出力軸に選択的に連結する係合装置と、(4)前記エンジンの停止中に前記電動機を用いて前記出力軸を回転駆動させる電動機走行状態であるときに前記エンジンの始動要求があった場合には、前記係合装置の係合トルクを制御して前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差を小さくすることにより、前記トルクコンバータの容量係数を前記ステータ翼車が回転停止状態であるときの値よりも小さくする低容量化制御手段とを含むことにある。
【0009】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記低容量化制御手段は、運転者の加速操作量が大きいほど前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差を小さくして前記トルクコンバータの容量係数を小さくするものであることにある。
【0010】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1または2にかかる発明において、(1)予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて前記トルクコンバータの目標容量係数を算出する目標容量係数算出手段と、(2)予め記憶された関係からその目標容量係数算出手段により算出された前記目標容量係数に基づいて前記ステータ翼車と前記タービン翼車との目標回転差を算出する目標回転差算出手段とを備え、(3)前記低容量化制御手段は、前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差が前記目標回転差算出手段により算出された前記目標回転差に一致するように、前記係合装置の係合度合いを調節して前記ステータ翼車の回転速度を制御するものであることにある。
【0011】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項3にかかる発明において、(1)予め記憶された関係から前記ポンプ翼車と前記タービン翼車との速度比に基づいて前記ステータ翼車が自由回転状態とされた場合の前記トルクコンバータの容量係数と前記ステータ翼車が出力軸直結状態とされた場合の前記トルクコンバータの容量係数とにより示される低容量化可能範囲を算出する低容量化可能範囲算出手段と、(2)前記目標容量係数算出手段により算出された前記目標容量係数が前記低容量化可能範囲算出手段により算出された前記低容量化可能範囲外であるときには、前記ステータ翼車が出力軸直結状態とされたときの容量係数を目標容量係数とする目標容量係数最適化手段とを備えることにある。
【0012】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれか1にかかる発明において、前記低容量化制御手段は、車両が所定以上の急加速状態である場合に前記低容量化制御を実行することにある。
【0013】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項5にかかる発明において、(1)予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて前記エンジンが始動されてから車両の駆動トルクが該加速操作量に対応する要求駆動トルクに達するまでにかかる要求駆動トルク到達時間を算出する要求駆動トルク到達時間算出手段と、(2)該要求駆動トルク到達時間算出手段により算出された前記要求駆動トルク到達時間が所定値を下回る車両の急加速状態か否かを判定する急加速判定手段とを備え、(3)前記低容量化制御手段は、該急加速判定手段により車両の急加速状態が判定された場合に前記低容量化制御を実行することにある。
【0014】
また、請求項7にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至6のいずれか1にかかる発明において、(1)予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて車両の要求駆動トルクを算出する要求駆動トルク算出手段と、(2)予め記憶された関係から車速に基づいて前記電動機が出力可能な最大駆動トルクとその車速を維持するための走行維持駆動トルクとの差で示される余裕駆動トルクを算出する余裕駆動トルク算出手段と、(3)前記要求駆動トルク算出手段により算出された要求駆動トルクが前記余裕駆動トルク算出手段により算出された余裕駆動トルクに比較して大きいときに、前記エンジンの始動を要求するエンジン始動判定手段とを備えていることにある。
【0015】
また、請求項8にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至7のいずれか1にかかる発明において、(1)前記係合装置は、前記電動機と前記ステータ翼車との間に配設されてその電動機とそのステータ翼車とを選択的に連結する第1クラッチと、前記電動機と前記出力軸との間に配設されてその電動機とその出力軸とを選択的に連結する第2クラッチとを有し、(2)前記低容量化制御手段は、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチをそれぞれ介して前記ステータ翼車に連結された前記出力軸でそのステータ翼車を回転駆動させることにより前記トルクコンバータの容量係数を変更する第1可変容量係数走行と、前記第1クラッチを介して前記ステータ翼車に連結された前記電動機を用いてそのステータ翼車を回転駆動させることにより前記トルクコンバータの容量係数を変更する第2可変容量係数走行とを切り換えるものであることにある。
【発明の効果】
【0016】
請求項1にかかる発明の走行制御装置によれば、入力軸に連結されたポンプ翼車と、出力軸に連結されたタービン翼車と、それらタービン翼車とポンプ翼車との間に配設されたステータ翼車とを有するトルクコンバータと、前記入力軸に連結されたエンジンとを備えた車両の走行制御装置であって、前記出力軸を回転駆動するための電動機と、前記ステータ翼車を前記出力軸に選択的に連結する係合装置と、前記エンジンの停止中に前記電動機を用いて前記出力軸を回転駆動させる電動機走行状態であるときに前記エンジンの始動要求があった場合には、前記係合装置の係合トルクを制御して前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差を小さくすることにより、前記トルクコンバータの容量係数を前記ステータ翼車が回転停止状態であるときの値よりも小さくする低容量化制御手段とを含むことから、トルクコンバータレンジにおいてステータ翼車の回転がその回転停止状態からポンプ翼車の回転方向とは反対の負回転方向の範囲で制御される従来のものに比較して、ステータ翼車をその回転停止状態からポンプ翼車の回転方向である正回転方向に回転駆動させることでトルクコンバータのトルク比を高め且つ容量係数を低く変化させることができるので、エンジンの始動応答性を向上させて車両の駆動トルクを速やかに要求駆動トルクまで到達させることができ、車両の動力性能を十分に高めることができる。
【0017】
また、請求項2にかかる発明の走行制御装置によれば、前記低容量化制御手段は、運転者の加速操作量が大きいほど前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差を小さくして前記トルクコンバータの容量係数を小さくするものであることから、例えばアクセル開度やスロットル開度等の加速操作量の大きさに比例するように設定された車両の要求駆動トルクが大きいほどトルクコンバータの容量係数が小さくされるので、エンジンの始動応答性を高めることができ、車両の動力性能をより効果的に高めることができる。
【0018】
また、請求項3にかかる発明の走行制御装置によれば、予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて前記トルクコンバータの目標容量係数を算出する目標容量係数算出手段と、予め記憶された関係からその目標容量係数算出手段により算出された前記目標容量係数に基づいて前記ステータ翼車と前記タービン翼車との目標回転差を算出する目標回転差算出手段とを備え、前記低容量化制御手段は、前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差が前記目標回転差算出手段により算出された前記目標回転差に一致するように、前記係合装置の係合度合いを調節して前記ステータ翼車の回転速度を制御するものであることから、係合装置の係合度合いすなわちスリップ量を制御することにより、加速操作量に応じたエンジンの始動性を得るために必要且つ充分に容量係数を制御することができる。
【0019】
また、請求項4にかかる発明の走行制御装置によれば、予め記憶された関係から前記ポンプ翼車と前記タービン翼車との速度比に基づいて前記ステータ翼車が自由回転状態とされた場合の前記トルクコンバータの容量係数と前記ステータ翼車が出力軸直結状態とされた場合の前記トルクコンバータの容量係数とにより示される低容量化可能範囲を算出する低容量化可能範囲算出手段と、前記目標容量係数算出手段により算出された前記目標容量係数が前記低容量化可能範囲算出手段により算出された前記低容量化可能範囲外であるときには、前記ステータ翼車が出力軸直結状態とされたときの容量係数を目標容量係数とする目標容量係数最適化手段とを備えることから、過大な偏差に対応した係合装置の操作が行われることがないので、制御系が安定し、より確実にエンジンの始動性を向上させることができる。
【0020】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれか1にかかる発明において、前記低容量化制御手段は、車両が所定以上の急加速状態である場合に前記低容量化制御を実行することから、車両が所定以上の急加速状態でない緩加速状態の場合には必要以上に容量係数を低下させないので、容量係数を低下させるためにステータ翼車が出力軸に連結されることで出力軸の駆動トルクが必要以上に低下することを抑制することができ、加速性能や燃費性能を高めることができる。
【0021】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項5にかかる発明において、予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて前記エンジンが始動されてから車両の駆動トルクが該加速操作量に対応する要求駆動トルクに達するまでにかかる要求駆動トルク到達時間を算出する要求駆動トルク到達時間算出手段と、該要求駆動トルク到達時間算出手段により算出された前記要求駆動トルク到達時間が所定値を下回る車両の急加速状態か否かを判定する急加速判定手段とを備え、前記低容量化制御手段は、該急加速判定手段により車両の急加速状態が判定された場合に前記低容量化制御を実行することから、前記要求駆動トルク到達時間が長い緩加速状態の場合には必要以上にトルクコンバータの容量係数を低下させないので、容量係数を低下させるためにステータ翼車が出力軸に連結されることで出力軸の駆動トルクが必要以上に低下することを抑制することができ、加速性能や燃費性能を高めることができる。
【0022】
また、請求項7にかかる発明の走行制御装置によれば、予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて車両の要求駆動トルクを算出する要求駆動トルク算出手段と、予め記憶された関係から車速に基づいて前記電動機が出力可能な最大駆動トルクとその車速を維持するための走行維持駆動トルクとの差で示される余裕駆動トルクを算出する余裕駆動トルク算出手段と、前記要求駆動トルク算出手段により算出された要求駆動トルクが前記余裕駆動トルク算出手段により算出された余裕駆動トルクに比較して大きいときに、前記エンジンの始動を要求するエンジン始動判定手段とを備えていることから、要求駆動トルクを達成するために必要なときだけエンジンを始動させることができる。
【0023】
また、請求項8にかかる発明の走行制御装置によれば、前記係合装置は、前記電動機と前記ステータ翼車との間に配設されてその電動機とそのステータ翼車とを選択的に連結する第1クラッチと、前記電動機と前記出力軸との間に配設されてその電動機とその出力軸とを選択的に連結する第2クラッチとを有し、前記低容量化制御手段は、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチをそれぞれ介して前記ステータ翼車に連結された前記出力軸でそのステータ翼車を回転駆動させることにより前記トルクコンバータの容量係数を変更する第1可変容量係数走行と、前記第1クラッチを介して前記ステータ翼車に連結された前記電動機を用いてそのステータ翼車を回転駆動させることにより前記トルクコンバータの容量係数を変更する第2可変容量係数走行とを切り換えるものであることから、トルクコンバータレンジにおいてステータ翼車の回転がその回転停止状態からポンプ翼車の回転方向とは反対の負回転方向の範囲で制御される従来のものに比較して、第1クラッチおよび第2クラッチの総合係合度合いを調節してステータ翼車をその回転停止状態からポンプ翼車の回転方向である正回転方向に回転駆動させることによりトルクコンバータのトルク比を高め且つ容量係数を低く変化させることができるので、エンジンの始動応答性を向上させて車両の駆動トルクを速やかに要求駆動トルクまで到達させることができ、車両の動力性能を十分に高めることができる。
【0024】
また、エンジンにより車両の駆動を行っているときには、係合状態とされた第1クラッチを介してステータ翼車に連結された電動機を用いてそのステータ翼車を回転駆動させることにより、従来のものに比較して、トルクコンバータのトルク比を高め且つ容量係数を低く変化させることができるので、車両の動力性能を十分に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0026】
図1は、本発明の一実施例のトルクコンバータ(可変容量型トルクコンバータ)6が適用された車両用駆動装置7の構成の一部を説明する骨子図である。図1において、この車両用駆動装置7は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、車両走行用の動力源として内燃機関で構成される例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等であるエンジン9と、そのエンジン9の後段に設けられるとともにそのエンジン9から入力されたトルクを流体を介して出力するトルクコンバータ6と、そのトルクコンバータ6の後段に設けられるとともにそのトルクコンバータ6の回転を変速して後述の図11に示す差動歯車装置114および駆動軸116などを介して駆動輪118へ伝達する自動変速機8などを備えている。なお、このトルクコンバータ6および自動変速機8はその軸心Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはそれら軸心の下半分が省略されている。
【0027】
トルクコンバータ6は、エンジン9のクランク軸に連結されたトルクコンバータ6の入力軸21に連結され、そのエンジン9により回転駆動されることでトルクコンバータ6内の作動油の流動による流体流を発生させるポンプ翼車6pと、自動変速機8の入力軸に連結されたトルクコンバータ6の出力軸22に連結され、ポンプ翼車6pからの流体流を受けることで回転させられるタービン翼車6tと、タービン翼車6tからポンプ翼車6pへの流体流中に回転可能に配設されたステータ翼車6sとを備えており、作動油を介して動力伝達を行うようになっている。
【0028】
上記ポンプ翼車6pとタービン翼車6tとの間には、油圧制御回路95(図5参照)によって係合状態或いは解放状態が制御されるロックアップクラッチL/Cが設けられている。このロックアップクラッチL/Cが完全係合状態とされることによって、ポンプ翼車6pおよびタービン翼車6tが一体回転させられてエンジン9のクランク軸とトルクコンバータ6の出力軸22とが相互に直結状態とされるようになっている。
【0029】
トルクコンバータ6は、ステータ翼車6s、出力軸22、またはステータ翼車6sおよび出力軸22に選択的に連結されてステータ翼車6sおよび出力軸22を回転駆動するための電動機10と、電動機10とステータ翼車6sとの間に配設されてそれら電動機10とステータ翼車6sとを選択的に連結するクラッチ(第1クラッチ)Csと、電動機10と出力軸22との間に配設されてそれら電動機10と出力軸22とを選択的に連結するクラッチ(第2クラッチ)Ciと、ステータ翼車6sと非回転部材であるトランスミッションケース11との間に配設されてそれらステータ翼車6sとトランスミッションケース11とを選択的に係合するブレーキBsとを備えている。なお、本実施例において、上記クラッチCsおよびクラッチCiは、ステータ翼車6sを出力軸22に選択的に連結するための本発明における係合装置を構成するものに相当する。
【0030】
上記電動機10は、動力を発生させる発動機としての機能と電力を発生させる発電機としての機能とが選択的に得られるように構成されたモータジェネレータであって、後述の図11に示すインバータ112を介してバッテリーおよびコンデンサなどの蓄電装置113に接続されており、インバータ112によりその回転速度すなわち電動機回転速度NMが制御されるようになっている。
【0031】
上記クラッチCs、CiおよびブレーキBsは、従来の車両用自動変速機においてもよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置である。これらは、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた複数本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ型などにより構成され、これらが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。これらクラッチCs、CiおよびブレーキBsは、油圧制御回路95から上記油圧アクチュエータに供給される油圧に応じて係合度合いが調整されることにより、それぞれが介挿されている両側の部材間の完全係合状態、半係合状態(スリップ状態)、或いは解放状態を制御するようになっている。なお、本明細書において、完全係合とは、すべり(スリップ)が生じない状態を示し、また、係合とは、上記完全係合およびすべりが生じる半係合を含む状態を示している。
【0032】
上記のように構成されたトルクコンバータ6では、クラッチCsが係合された状態においてステータ翼車6sがその回転停止状態から電動機10でポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向或いはポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向に回転駆動されることにより、そのステータ翼車6sの回転速度すなわちステータ回転速度NSが制御されるようになっている。このステータ翼車6sの回転駆動に際して、電動機10からは、例えば図2に示すように後述の電子制御装置78からインバータ112を介して電動機10に供給される駆動電流IDの大きさに比例する上記正回転方向或いは負回転方向の駆動トルクTDが出力される。そして、ステータ翼車6sには、クラッチCsが完全係合状態とされることにより上記電動機10から出力された駆動トルクTDがそのまま伝達されるようになっており、また、クラッチCsの係合度合いすなわち係合圧が調整されてそのクラッチCsが半係合状態とされることにより上記駆動トルクTDがその係合圧に応じて変更されて伝達されるようになっている。上記駆動トルクTDの伝達割合は、クラッチCsの係合圧が大きいほどすなわちスリップ量が小さいほど、大きくなるようになっている。
【0033】
また、トルクコンバータ6では、クラッチCsが係合された状態において電動機10の回生(発電)が行われてその回生により発生する回生トルクがステータ翼車6sに伝達されることにより、ステータ回転速度NSが制御されるようになっている。このとき、ステータ翼車6sには、例えば図3に示すように電動機10の回生によって蓄電装置113(図11参照)等に供給される発電電流IGの大きさに比例する回生トルクすなわち制動トルクTBがクラッチCsの係合圧に応じて伝達される。上記制動トルクTBの伝達割合は、クラッチCsの係合圧が大きいほどすなわちスリップ量が小さいほど、大きくなるようになっている。
【0034】
また、トルクコンバータ6では、ブレーキBsが係合されるとともにそのブレーキBsの係合度合いすなわち係合圧が調整されてステータ翼車6sの回転が制限されることにより、ステータ回転速度NSが制御されるようになっている。ステータ翼車6sは、ブレーキBsが完全に係合されることによりトランスミッションケース11に固定されて非回転状態とされるが、上記ブレーキBsの係合圧が調整されてそのブレーキBsが半係合状態とされることによりその係合圧に応じた制動トルクTBを受けるようになっている。上記制動トルクTBは、ブレーキBsの係合圧が大きいほどすなわちスリップ量が小さいほど、大きくなるようになっている。
【0035】
また、トルクコンバータ6では、クラッチCiおよびCsの係合トルクを制御してタービン翼車6tのタービン回転速度NTとステータ翼車6sのステータ回転速度Nsとの回転速度差(回転差)△N(=NT−NS)が小さくされることにより、ステータ回転速度NSが制御されるようになっている。すなわち、トルクコンバータ6では、クラッチCiおよびCsが係合されることでステータ翼車6sが出力軸22に連結され、その出力軸でステータ翼車6sが回転駆動されてタービン翼車6tのタービン回転速度NTとステータ翼車6sのステータ回転速度Nsとの回転速度差(回転差)△N(=NT−NS)が小さくされることにより、ステータ回転速度NSが制御されるようになっている。ステータ翼車6sは、クラッチCiおよびCsがそれぞれ完全係合状態とされることにより出力軸22およびタービン翼車6tに直結状態とされてそれらと一体的に回転駆動されるが、クラッチCiおよびCsの係合圧がそれぞれ調整されてそれらクラッチCiおよびCsが半係合状態とされることによりその係合圧に応じた駆動トルクTDを受けるようになっている。上記駆動トルクTDは、クラッチCsおよびCiの総合的な係合圧が大きいほど増大するようになっている。そして、上記駆動トルクTDが大きいほど回転速度差△N(=NT−NS)が小さく且つステータ翼車6sとタービン翼車6t(出力軸22)との速度比すなわちステータ翼車6sのタービン翼車6tに対する回転速度比e1(=NS/NT)が大きくなるようになっている。
【0036】
また、トルクコンバータ6では、クラッチCiが係合された状態において電動機10によって出力軸が回転駆動されることにより、その出力軸22と一体に回転させられるタービン翼車6tのタービン回転速度NTおよび自動変速機8の入力軸回転速度NINが制御されるようになっている。この出力軸22の回転駆動に際して、電動機10からは、例えば図2に示すように後述の電子制御装置78からインバータ112を介して電動機10に供給される駆動電流IDの大きさに比例する駆動トルクTDが出力される。そして、出力軸22には、クラッチCiが完全係合状態とされることにより上記電動機10から出力された駆動トルクTDがそのまま伝達されるようになっており、また、クラッチCiの係合度合いすなわち係合圧が調整されてそのクラッチCiが半係合状態とされることにより上記駆動トルクTDがその係合圧に応じて変更されて伝達されるようになっている。上記駆動トルクTDの伝達割合は、クラッチCiの係合圧が大きいほどすなわちスリップ量が小さいほど、大きくなるようになっている。
【0037】
上記ステータ回転速度NSやタービン回転速度NT(入力軸回転速度NIN)の制御は、同時に行われてもよい。例えば、クラッチCiが係合された状態において電動機10によって出力軸が回転駆動されるとともに、クラッチCiおよびCsの係合によりステータ翼車6sが出力軸22に連結されてその出力軸22のトルクの一部あるいは全部でステータ翼車6sが回転駆動されるようにしてもよい。
【0038】
自動変速機8は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース11内において、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16及びダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを共通の軸心上に有し、トルクコンバータ6の出力軸22から伝達された回転速度を変速して出力軸24から出力する。
【0039】
上記第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1、そのピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持するキャリアCA1、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備えている。また、第2遊星歯車装置16は、サンギヤS2、ピニオンギヤP2、そのピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持するキャリアCA2、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を備えている。また、第3遊星歯車装置18は、サンギヤS3、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2及びP3、そのピニオンギヤP2及びP3を自転及び公転可能に支持するキャリアCA3、ピニオンギヤP2及びP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤR3を備えている。
【0040】
図1において、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2は、クラッチCs、CiおよびブレーキBsと同様な油圧式摩擦係合装置である。第1回転要素RM1(サンギヤS2)は、第1ブレーキB1を介してトランスミッションケース11に選択的に連結されて回転停止され、第3クラッチC3を介して中間出力部材である第1遊星歯車装置12のリングギヤR1(すなわち第2中間出力経路PA2)に選択的に連結され、さらに第4クラッチC4を介して第1遊星歯車装置12のキャリアCA1(すなわち第1中間出力経路PA1の間接経路PA1b)に選択的に連結されるようになっている。また、第2回転要素RM2(キャリアCA2およびCA3)は、第2ブレーキB2を介してトランスミッションケース11に選択的に連結されて回転停止され、第2クラッチC2を介して出力軸22(すなわち第1中間出力経路PA1の直結経路PA1a)に選択的に連結されるようになっている。また、第3回転要素RM3(リングギヤR2およびR3)は、出力軸24に一体的に連結されており、その第3回転要素RM3に入力された回転を出力軸24に出力するようになっている。また、第4回転要素RM4(サンギヤS3)は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に連結されるようになっている。なお、第2回転要素RM2とトランスミッションケース11との間には、第2回転要素RM2の正回転(出力軸22と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
【0041】
図4は、自動変速機8において各変速段を成立させる際の各係合要素の作動状態を説明する図表であり、「○」は係合状態を、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ表している。図4に示すように、本実施例の自動変速機8は、上記各係合装置すなわちクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2が選択的に係合させられることにより、変速比(=自動変速機8の入力軸回転速度NIN/自動変速機8の出力軸回転速度NOUT)が異なる前進8段および後退2段を含む複数の変速段が成立するようになっている。なお、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比によって適宜定められる。
【0042】
図5は、図1のエンジン9や自動変速機8、あるいはトルクコンバータ6などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図であって、電子制御装置78に入力される信号およびその電子制御装置78から出力される信号の一例を示すものである。図5において、電子制御装置78は、CPU、ROM、RAM、および入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン8の出力制御や自動変速機8の変速制御、あるいはトルクコンバータ6の容量係数制御(低容量化制御を含む)を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や変速制御用や容量係数制御用などに分けて構成される。
【0043】
電子制御装置78には、エンジン回転速度センサ80からポンプ翼車6pの回転速度すなわちポンプ回転速度NPに対応するエンジン回転速度NEを示す信号、ステータ回転速度センサ81からステータ翼車6sの回転速度であるステータ回転速度NSを示す信号、タービン回転速度センサ82から自動変速機8の入力軸回転速度NINすなわち出力軸22の回転速度に対応するタービン回転速度NTを示す信号、電動機回転速度センサ83から電動機回転速度NMを示す信号、車速センサ84から自動変速機8の出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vを示す信号、吸入空気量センサ86から吸入空気量QAを示す信号、吸入空気温度センサ88から吸入空気温度TAを示す信号、スロットルセンサ90からスロットル弁開度θTHを示す信号、冷却水温センサ92から冷却水温TWを示す信号、油温センサ94から油圧制御回路95の作動油の温度すなわちトルクコンバータ6内に流れる循環作動油や自動変速機8の各油圧式摩擦係合装置に供給される作動油の油温TOILを示す信号、アクセル開度センサ96からアクセルペダル98の操作量すなわちアクセル開度Accを示す信号、フットブレーキスイッチ100からフットブレーキペダル102の操作の有無を示す信号、シフトレバーポジションセンサ104からシフトレバー106の操作位置PSHを示す信号などが供給されるようになっている。なお、上記アクセル開度Accは、本発明における加速操作量に相当するものである。
【0044】
電子制御装置78からは、エンジン8の吸気管に備えられた電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを制御するスロットルアクチュエータ108への駆動信号、エンジン8の各気筒内への燃料供給量を制御する燃料噴射装置110への燃料供給量信号、エンジン8の点火時期を制御する点火装置111への点火時期信号、エンジン8の始動時に例えばエンジン8の出力軸(クランクシャフト)に固定された図示しないフライホイールを回転駆動するための電動機であるスターター109への駆動信号、トルクコンバータ6や自動変速機8の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御する油圧制御回路95へのバルブ駆動信号、電動機10の電動機回転速度NMを制御するインバータ112への電動機駆動信号等がそれぞれ出力されるようになっている。
【0045】
本実施例では、前記エンジン9の出力制御は、例えば、エンジン9の吸入空気量QAを調整するために電子スロットル弁108のスロットル弁開度θTHが制御されたり、燃料噴射装置110によりエンジン8の各気筒内への燃料噴射量が制御されたり、点火装置112によりエンジン8の点火時期が制御されることにより行われる。
【0046】
また、前記自動変速機8の変速制御は、油圧制御回路95によって行われ、例えば、車速軸とスロットル弁開度軸またはアクセル開度軸との二次元座標内において設定された複数本の変速線から構成される予め記憶された変速線図(変速マップ)から、実際のスロットル弁開度θTHまたはアクセル開度Accおよび車速Vに基づいて自動変速機8の変速すべきギヤ段が決定され、その決定されたギヤ段を成立させるために図4に示す係合作動表に従って油圧制御回路95によりクラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の係合解放状態が切り換えられることにより行われる。この係合解放状態の切り換えは、駆動力変化などの変速ショックが発生したり摩擦材の耐久性が損なわれたりすることを防止するために、各クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の係合圧が連続的に制御されることにより行われる。なお、上記変速制御は、スロットル弁開度θTHまたはアクセル開度Accの他に、吸入空気量QA、路面勾配などに基づいて行われる等、種々の態様が可能である。
【0047】
また、前記トルクコンバータ6の容量係数制御は、例えば、目標容量係数軸とアクセル開度軸との二次元座標内において設定された目標容量係数C*とアクセル開度Accとの予め記憶された関係(マップ)から、実際のアクセル開度Accに基づいて目標容量係数C*が算出され、次いで、目標容量係数軸とタービン翼車6tのポンプ翼車6pに対する回転速度比e2(NP/NT又はNT/NP)を示す回転速度比軸との二次元座標内において目標回転速度差△N*(=NT−NP*)をパラメータとして予め記憶された目標容量係数C*と回転速度比e2と目標回転速度差△N*との関係(マップ)から、上記算出された目標容量係数C*および実際の回転速度比e2に基づいて目標回転速度差△N*が算出され、その算出された目標回転速度差△N*すなわち目標ステータ回転速度NS*(=NT−△N*)を得るために、例えば、電子制御装置78の指令に従ってインバータ112から電動機10に供給される駆動電流ID、電動機10から出力される発電電流IG、または油圧制御回路95からクラッチCs、CiおよびブレーキBsへそれぞれ供給される油圧の大きさが適宜調整されるステータ回転速度制御が実行されることで実施される。
【0048】
上記ステータ回転速度制御は、前述のように、例えば、クラッチCsが係合された状態においてステータ翼車6sがその回転停止状態から電動機10でポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向或いはポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向に回転駆動されること、またはクラッチCsが係合された状態において電動機10の回生(発電)が行われてその回生により発生する回生トルクがステータ翼車6sに伝達されること、またはブレーキBsが係合されるとともにそのブレーキBsの係合度合いすなわち係合圧が調整されてステータ翼車6sの回転が制限されること、またはクラッチCiおよびCsが係合されることでステータ翼車6sが出力軸22に連結され、その出力軸でステータ翼車6sが回転駆動されてタービン翼車6tのタービン回転速度NTとステータ翼車6sのステータ回転速度Nsとの回転速度差△N(=NT−NS)が小さくされること等により行われる。
【0049】
なお、前記容量係数制御において用いられる回転速度比e2は、本発明におけるステータ翼車6sとタービン翼車6t(出力軸22)との速度比に相当するものである。この回転速度比e2は、エンジン9によりポンプ翼車6pが回転駆動されてトルクコンバータ6内に発生させられる流体流を受けることでタービン翼車6tが回転駆動されるエンジン走行状態においては、タービン翼車6tのポンプ翼車6pに対する比(=NT/NP)として表されるが、エンジン9の停止中に電動機10を用いて出力軸22を回転駆動させる電動機走行状態においては、逆駆動特性が適用されて、ポンプ翼車6pのタービン翼車6tに対する比(=NP/NT)として表される。
【0050】
ここで、本実施例のトルクコンバータ6において、遠心力により外周側に張り付く作動油は、トルクコンバータ6の断面において図1の流線FLに沿うようにポンプ翼車6p、タービン翼車6t、ステータ翼車6sの順に循環する。図6に示すように、ポンプ翼車6p、タービン翼車6t、ステータ翼車6sは、周方向において一定間隔に隔てられた複数の羽根を備えている。図6は、各翼車におけるトルクコンバータ6内の作動油の流線FLに沿った羽根の形状をそれぞれ表している。ポンプ翼車6pの羽根によってエネルギーが与えられることにより流動させられた作動油は、タービン翼車6tの羽根に作用してタービン翼車6tを回転させる。タービン翼車6tを通過した作動油は、コンバータ領域では、ステータ翼車6sの羽根に当たって方向変換させられた後、ポンプ翼車6pへ循環させられる。上記ステータ翼車6sの羽根に作動油が当たって方向変換させられることにより、そのステータ翼車6sに反力トルクが発生させられる。この反力トルクは、上記作動油の方向変換量(角度)に対応しており、後述のトルク比tの大きさに対応している。
【0051】
角運動量の定義によれば各翼車(ポンプ翼車6p、タービン翼車6t、およびステータ翼車6s)が作動油(流体)に与えるトルクT[N・m]は、次式(2)のように表される。
【0052】
T=(γ/g)×Q×△(r×vU) ・・・式(2)
【0053】
式(2)において、γはトルクコンバータ6内の作動油の比重量[kg/m3]、gは重力加速度[m/s2]、Qは上記作動油の体積流量[m3/s]、△(r×vU)は各翼車における流体流の出口と入口とにおける作動油の各絶対速度のモーメントr×vU[m2/s]の差である。
【0054】
上記式(2)から、ポンプ翼車6pが作動油に与えるトルクT1[N・m]、タービン翼車6tが作動油に与えるトルクT2[N・m]、およびステータ翼車6sが作動油に与えるトルクT3[N・m]は、次式(3)乃至(5)のように表される。式(3)乃至(5)において、TPはポンプトルク[N・m]すなわちエンジン出力トルクTE、TTはタービントルク[N・m]すなわち自動変速機8への入力トルク、TSはステータ翼車6sの反力トルクの大きさと一致するステータトルク[N・m]すなわちステータ翼車6sにより作動油の流れの向きが変えられる際にそのステータ翼車6sに対してポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向に作用するトルクである。
【0055】
T1= TP=(γ/g)×Q×(VUP×r2−VUS×r1)・・・式(3)
T2=−TT=(γ/g)×Q×(VUT×r3−VUP×r2)・・・式(4)
T3= TS=(γ/g)×Q×(VUS×r1−VUT×r3)・・・式(5)
【0056】
式(3)乃至(5)において、r1はポンプ翼車6pの流体流の出口bpおよびタービン翼車6tの流体流の入口atにおける回転軸心すなわち自動変速機8の入力軸(タービン軸)22からの距離[m]、r2はタービン翼車6tの流体流の出口btおよびステータ翼車6sの流体流の入口asにおける回転軸心からの距離[m]、r3はステータ翼車6sの流体流の出口bsおよびポンプ翼車6pの流体流の入口apにおける回転軸心からの距離[m]である。また、式(3)乃至(5)中において、VUPはポンプ翼車6pの絶対速度の円周分速度[m/s]、VUTはタービン翼車6tの絶対速度の円周分速度[m/s]、VUSはステータ翼車6sの絶対速度の円周分速度[m/s]である。
【0057】
式(3)乃至(5)からT1+T2+T3=0(零)が成立するため、ポンプトルクTP、タービントルクTT、およびステータトルクTSは次式(6)のように表される。つまり、トルクコンバータ6におけるポンプトルクTPに対するタービントルクTTのトルク増加分は、ステータトルクTSに一致することになる。
【0058】
TT=TP+TS・・・式(6)
【0059】
本実施例では、ステータ翼車6sの反力が前記容量係数制御により増減させられることから、その増減に伴ってタービン翼車6tから出力される出力トルクすなわちタービントルクTTが従来の一定容量のトルクコンバータで得られる出力トルクに対して増減させられるようになっている。
【0060】
図7および図8は、上述の内容を示す、本実施例のトルクコンバータ6の特性を示す図である。図7は、前記電動機走行状態におけるポンプ回転速度NPのタービン回転速度NTに対する比すなわち回転速度比e2(=NP/NT)とタービントルクTTのポンプトルクTPに対する比すなわちトルク比(トルク増幅率)t(=TT/TP)との関係を示す図であり、図8は、上記回転速度比e2とトルクコンバータ6の容量係数C(=TP/NP2)[N・m/rpm2]との関係を示す図である。上記容量係数Cは、ポンプ翼車6pを回転させるのにどれだけのトルクが必要か、すなわちポンプ翼車6pがどれだけ回されにくいかを表すものであり、この容量係数Cが小さいとポンプ翼車6pがタービン翼車6tに対して滑りやすくなってエンジン9のエンジン回転速度NEの変化が素早く行われるようになり、容量係数Cが大きいとポンプ翼車6pがタービン翼車6tに対して滑りにくくなってエンジン9のエンジン回転速度NEとトルクコンバータ6のタービン翼車6tとの回転速度差が小さくされるようになっている。
【0061】
図7および図8において、例えばブレーキBsが係合されてステータ翼車6sがトランスミッションケース11に固定されるか、或いはクラッチCsが係合されて制動トルクTBが所定の値に調整されることで、ステータ翼車6sが回転停止状態とされることにより、図7の実線に示すベースラインBtで示すように従来の一定容量のトルクコンバータと同様に設計上定まる所定のトルク比tでトルク伝達が行われる。なお、このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図8の実線で示すベースラインBCで示すようになる。
【0062】
また、図9の低容量化状態(1)に示すようにクラッチCsおよびクラッチCiが係合されてステータ翼車6sと出力軸22とが直結状態とされるか、或いはクラッチCsが係合されるとともに電動機10によりステータ翼車6sがその回転停止状態からポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向へ回転駆動されることで、ステータ回転速度NSがタービン回転速度NTと等しくされることにより、ステータトルクTSが増加し、図7のステータ正転(ステータ直結)を表す1点鎖線のように従来の一定容量のトルクコンバータで得られるよりも大きいトルク比tでトルクの伝達が行われる。このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図8のステータ正転(ステータ直結)を表す1点鎖線のようになる。すなわち、クラッチCsおよびCiの係合トルクが制御されるか或いはクラッチCsが係合されて電動機10の出力トルクが制御されることにより、トルクコンバータ6の容量係数Cが従来の一定容量のトルクコンバータの容量係数Cすなわちステータ翼車6sが回転停止状態とされた場合の容量係数Cに比較して小さくされるようになっている。
【0063】
また、図9の低容量化状態(2)に示すようにクラッチCsおよびクラッチCiが半係合されるとともにその係合度合いすなわち係合圧が調整されるか、或いはクラッチCsが係合されるとともに電動機10によりステータ翼車6sがその回転停止状態からポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向へ回転駆動されることで、ステータ翼車6sの回転速度NSが制御されることにより、ステータ翼車6sが回転停止状態であるときに比較してステータトルクTSが増加する。これにより、トルク比tは、図7の矢印aで示すように、同じ回転速度比e2であってもベースラインBtからステータ正転(ステータ直結)を表す1点鎖線までの範囲で適宜変更される。このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図8の矢印dで示すように、ベースラインBCからステータ正転(ステータ直結)を表す1点鎖線までの範囲で適宜変更される。
【0064】
また、クラッチCs、CiおよびブレーキBsが解放されてステータ翼車6sが自由回転状態とされることにより、ステータトルクTSが零とされると、図7のステータ逆転(ステータフリー)を表す点線のようにトルクの増大が行われずトルク比t=1でトルクの伝達が行われる。その結果、トルクコンバータ6が流体継手として作動するようになる。このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図8のステータ逆転(ステータフリー)を表す点線のようになる。
【0065】
また、クラッチCsが係合されてステータ翼車6sがその回転停止状態から電動機10でポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向に回転駆動されるか、或いはクラッチCsが係合されて電動機10の回生(発電)が行われてその回生により発生する回生トルクがステータ翼車6sに伝達されるか、或いは、ブレーキBsが係合されるとともにそのブレーキBsの係合度合いすなわち係合圧が調整されてステータ翼車6sの回転が制限されることで、ステータトルクTSがステータ翼車6sが固定される場合に比較して減少する。これにより、トルク比tは、図7の矢印bで示すように、同じ回転速度比e2であってもベースラインBtからステータ逆転(ステータフリー)を表す点線までの範囲で適宜変更される。このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図8の矢印cで示すように、ベースラインBCからステータ逆転(ステータフリー)を表す点線までの範囲で適宜変更される。
【0066】
本実施例におけるトルクコンバータ6では、クラッチCsおよびCiをそれぞれ介してステータ翼車6sに連結された出力軸22でステータ翼車6sを回転駆動させることによりトルクコンバータ6の容量係数Cを変更する第1可変容量係数走行と、クラッチCsを介してステータ翼車6sに連結された電動機10を用いてステータ翼車6sを回転駆動させることによりトルクコンバータ6の容量係数Cを変更する第2可変容量係数走行とを切り換える低容量化制御が行われることにより、ステータ翼車6sがトランスミッションケース11に対して固定されている従来の一定容量のトルクコンバータと同様に設計上定まる所定のトルク比tおよび容量係数Cに対して、トルク比tが増大され、容量係数Cが減少されるようになっている。なお、特に、図9に示すようにクラッチCiが係合されて電動機10により出力軸22を回転駆動する電動機走行状態であるときに容量係数Cを小さくする低容量化制御が行われる場合は、図9の低容量化状態(1)および(2)に示すように上記第1可変容量係数走行が実施される。
【0067】
このように、トルクコンバータ6は、クラッチCs、CiおよびブレーキBsが選択的に係合されることにより、前記第1可変容量係数走行を実施するか、前記第2可変容量係数走行を実施するか、あるいは通常走行を実施するかが適宜変更可能な構成となっている。なお、本実施例における上記通常走行とは、クラッチCs、Ciを解放させつつブレーキBsを係合させることによりステータ翼車6sがトランスミッションケース11に対して固定され、図7の実線に示すベースラインBtで示すように従来の一定容量のトルクコンバータと同様に設計上定まる所定のトルク比tでトルク伝達が行われるようにするものである。
【0068】
本実施例では、電子制御装置78は、車両の走行制御装置としても機能している。図10は、その走行制御装置として機能する電子制御装置78の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【0069】
図10において、車両走行判定手段120は、実際の車速Vが例えば0[km/h] またはそれに近い値に予め設定された車両走行判定値V1を上回るか否かに基づいて、車両が走行状態であるか否かを判定する。
【0070】
エンジン停止判定手段122は、実際のエンジン回転速度NEが例えば0[rpm] またはそれに近い値に予め設定されたエンジン停止判定値NE1以下であるか否かに基づいて、エンジンが停止状態であるか否かを判定する。
【0071】
要求駆動トルク算出手段124は、図11に示すような車速軸と要求駆動トルク軸との二次元座標内において、アクセル開度ACCをパラメータとして車速Vと車両の要求駆動トルクT*との予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際のアクセル開度ACCおよび車速Vに基づいて車両の要求駆動トルクT*を算出する。
【0072】
余裕トルク算出手段は、電動機回転速度NMと電動機10が出力できる最大駆動トルクTMAXとの予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の電動機回転速度NMに基づいて最大駆動トルクTMAXを算出するとともに、自動変速機8のギヤ比hをパラメータとして車速Vと現在の車速Vを維持するために必要な出力軸22のトルクである走行維持出力軸駆動トルク(走行維持駆動トルク)TKとの予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の車速Vおよび実際の自動変速機8のギヤ比hに基づいて走行維持出力軸駆動トルクTKを算出する。そして、余裕トルク算出手段は、上記算出された最大駆動トルクTMAXおよび走行維持出力軸駆動トルクTKに基づいて、それらの差で表される余裕駆動トルクTY(=TMAX−TK)を算出する。
【0073】
エンジン始動判定手段128は、要求駆動トルク算出手段124により算出された要求駆動トルクT*が余裕駆動トルク算出手段126により算出された余裕駆動トルクTYに比較して大きいときに、エンジン9の始動を要求する。
【0074】
モータ走行制御手段130は、エンジン始動判定手段128によりエンジン9の始動要求が行われないときに、クラッチCiを係合するように油圧制御回路95に対して指令を行うとともに電動機10で出力軸22を回転駆動するようにインバータ112に対して指令を行う。このとき、上記油圧制御回路95には、クラッチCiの油圧アクチュエータに所定の油圧が供給されるようにその油圧アクチュエータに対応して油圧制御回路95内に設けられた例えばリニアソレノイド弁等の電磁弁を作動させる信号が供給される。また、上記インバータ112には、車両の駆動トルクTが要求駆動トルク算出手段124により算出された要求駆動トルクT*となるように、例えば、先ず、要求駆動トルクT*を出力軸22から車両の駆動輪までの動力伝達効率ηと実際の自動変速機8のギヤ比hと終減速機の減速比iとで除した要求出力軸駆動トルクTO*を算出し、次いで、例えば図2に示すような電動機10の出力トルクである駆動トルクTDと電動機10を駆動するためにその電動機10に供給される駆動電流IDとの予め記憶された関係から、電動機10の駆動トルクTDを上記算出された要求出力軸駆動トルクTO*に一致させるための駆動電流IDを算出して、電動機10に上記算出された駆動電流IDを供給させる信号がインバータ112に供給される。
【0075】
低容量可能範囲算出手段132は、例えば図12に示すような回転速度比軸と容量係数軸との二次元座標内において、回転速度比e2と容量係数Cとの予め実験的に求められて記憶された関係(容量係数マップ)から、実際の回転速度比e2に基づいて、ステータ翼車6sがトランスミッションケース(非回転部材)11に固定された場合の容量係数Cとステータ翼車6sが出力軸22に直結状態とされた場合の容量係数Cとで示される低容量可能範囲Rを算出する。上記低容量可能範囲Rは、容量係数制御のうち、トルクコンバータ6を低容量化するための制御すなわちトルクコンバータ6の容量係数Cをステータ翼車6sがトランスミッションケース11に固定された場合の容量係数Cよりも小さくする低容量化制御を行うことによって変更可能な容量係数Cの範囲を示すものである。低容量可能範囲算出手段132は、例えば現在の回転速度比e2が図12に示すようにe2(0)、e2(1)、およびe2(2)であるときには、ステータ翼車6sがトランスミッションケース(非回転部材)11に固定された場合の容量係数Cを表す実線とステータ翼車6sが出力軸22に固定された場合の容量係数Cを表す一点差線との間の値で示される低容量可能範囲R(0)、R(1)、およびR(2)をそれぞれ算出する。
【0076】
低容量化実施判定手段134は、要求駆動トルク到達時間算出手段136と急加速判定手段138とを含む。
【0077】
上記要求駆動トルク到達時間算出手段136は、例えば図13に示すようなアクセル開度軸と要求駆動トルク到達時間軸との二次元座標内において、アクセル開度Accと要求駆動トルク到達時間ttとの予め実験的に求められて記憶された関係(要求駆動トルク到達時間マップ)から、実際のアクセル開度Accに基づいてエンジン9が始動されてから車両の駆動トルクTが前記要求駆動トルク算出手段124により算出された要求駆動トルクT*に達するまでにかかる要求駆動トルク到達時間ttを算出する。
【0078】
上記急加速判定手段138は、要求駆動トルク到達時間算出手段136により算出された要求駆動トルク到達時間ttが予め記憶された所定値tt1を下回る急加速状態か否かを判定する。このとき急加速状態ではないと判定されると、トルクコンバータ6の低容量化制御が行われないすなわち後述の低容量化制御手段140による可変容量係数走行が実施されないようになっている。
【0079】
低容量化制御手段140は、車両走行判定手段120により車両が走行状態であると判定されるとともにエンジン停止判定手段122によりエンジン9が停止状態であると判定されたとき即ちモータ走行制御手段130により電動機10が用いられて出力軸22が回転駆動される電動機走行状態であるときに、エンジン始動判定手段128によりエンジン9の始動が要求され、急加速判定手段138により要求駆動トルク到達時間ttが予め記憶された所定値tt1を下回る車両が所定以上の急加速状態であると判定された場合には、クラッチCsおよびCiをそれぞれ係合するように油圧制御回路95に対して指令を行って、それらクラッチCsおよびCiをそれぞれ介してステータ翼車6sに連結された出力軸22でそのステータ翼車6sを回転駆動させてタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nを小さくすることにより、トルクコンバータ6の容量係数Cをステータ翼車6sが回転停止状態であるときの値よりも小さくする第1可変容量係数走行を実施する。
【0080】
また、低容量化制御手段140は、エンジン停止判定手段122によりエンジン9が停止状態ではないと判定されたとき即ち電動機10が用いられずにエンジン9によりポンプ翼車6pが回転駆動されてトルクコンバータ6内に発生させられる流体流を受けることでタービン翼車6tが回転駆動されるエンジン走行状態であるときに、急加速判定手段138により急加速状態であると判定された場合には、クラッチCsを係合するように油圧制御回路95に対して指令を行うとともに、そのクラッチCsを介してステータ翼車6sに連結された電動機10を用いてそのステータ翼車6sを回転駆動させることにより、トルクコンバータ6の容量係数Cをステータ翼車6sが回転停止状態であるときの値よりも小さくする第2可変容量係数走行を実施する。
【0081】
低容量化制御手段140は、上記第1可変容量係数走行と第2可変容量係数走行とを切り換えるものであり、また、それら第1可変容量係数走行および第2可変容量係数走行の実施に際して、アクセル開度Accが大きいほどタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nを小さくしてトルクコンバータ6の容量係数Cを小さくするものである。この低容量化制御手段140は、目標容量係数算出手段142と目標容量係数最適化手段144と目標回転速度差算出手段とステータ回転速度制御手段148とを含んで構成されている。
【0082】
上記目標容量係数算出手段142は、例えば図14に示すようなアクセル開度軸と目標容量係数軸との二次元座標内において設定されたアクセル開度Accと低容量化制御を行うときの目標容量係数C*との予め実験的に求められて記憶された関係から、実際のアクセル開度Accに基づいて目標容量係数C*を算出する。本実施例では、アクセル開度Accがアクセル開度軸に直交する一点鎖線で示される所定値Acc1から矢印aで示すように大きくなるほど目標容量係数C*が小さくされ、また、アクセル開度Accが上記所定値Accから矢印bで示すように小さくなっても目標容量係数C*は一定の値とされる。これは、アクセル開度Accが上記所定値Acc1以下であるときには目標容量係数C*の変更が不要であることを示している。例えば、この所定値Acc1は、前記急加速判定手段138において用いられる所定値tt1に対応する値であり、所定値tt1は、所定値Acc1に基づいて予め設定される値である。
【0083】
前記目標容量係数最適化手段144は、目標容量係数算出手段142により算出された目標容量係数C*および低容量化可能範囲算出手段により算出された低容量化可能範囲Rに基づいて、目標容量係数C*が低容量化可能範囲R外であるときには、前記ステータ翼車6sが出力軸直結状態とされたときの容量係数Cを目標容量係数C*とする。
【0084】
前記目標回転速度差算出手段は、例えば図12に示すような回転速度比軸と目標容量係数軸との二次元座標内において、目標回転速度差△N*をパラメータとして回転速度比e2と目標容量係数C*との予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の回転速度比e2および目標容量係数算出手段142により算出された目標容量係数C*に基づいてタービン翼車6tとステータ翼車6sとの目標回転速度差△N*を算出する。
【0085】
前記ステータ回転速度制御手段148は、タービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nが目標回転速度差算出手段により算出された目標回転速度差△N*に一致するように、例えば前記第1可変容量係数走行を実施するときには、タービン回転速度NTおよびステータ回転速度NSを把握しつつクラッチCsおよびCiの係合度合いをそれぞれ調節してステータ翼車6sのステータ回転速度NSを制御する所謂フィードバック制御を実行し、また、例えば前記第2可変容量係数走行を実施するときには、タービン回転速度NTおよびステータ回転速度NSを把握しつつクラッチCsの係合度合いおよび電動機10の電動機回転速度NMをそれぞれ調節してステータ翼車6sのステータ回転速度NSを制御する所謂フィードバック制御を実行する。
【0086】
図15は、車両の走行制御装置として機能する電子制御装置78の制御作動の要部、すなわち電動機走行状態においてエンジン始動要求が為されるとともに急加速状態であると判定された場合においてトルクコンバータ6の低容量化を行うための一連の手順すなわち低容量化制御ルーチンを説明するフローチャートであり、例えば数msec〜数十msecの所定の周期で繰り返し実行される。
【0087】
図15において、車両走行判定手段120に対応するステップS1(以下、ステップを省略する)では、実際の車速Vが例えば0[km/h] またはそれに近い値に予め設定された車両走行判定値V1を上回るか否かに基づいて、車両が走行状態であるか否かが判定される。
【0088】
S1の判定が否定される場合には、モータ走行制御手段130に対応するS2において、クラッチCiを介して出力軸22に連結された電動機10でその出力軸22を回転駆動する電動機走行制御(EV走行制御)が継続される。
【0089】
また、S1の判定が肯定される場合には、エンジン停止判定手段122に対応するS3において、実際のエンジン回転速度NEが例えば0[rpm] またはそれに近い値に予め設定されたエンジン停止判定値NE1以下であるか否かに基づいて、エンジンが停止状態であるか否かを判定する。
【0090】
S3の判定が否定される場合には、前述のS2が実行されるが、肯定される場合には、要求駆動トルク算出手段124に対応するS4において、図11に示すような車速軸と要求駆動トルク軸との二次元座標内において、アクセル開度ACCをパラメータとして車速Vと要求駆動トルクT*との予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際のアクセル開度ACCおよび車速Vに基づいて車両の要求駆動トルクT*が算出される。
【0091】
次いで、余裕トルク算出手段に対応するS5において、先ず、電動機回転速度NMと電動機10が出力できる最大駆動トルクTMAXとの予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の電動機回転速度NMに基づいて最大駆動トルクTMAXが算出されるとともに、車速Vと自動変速機8のギヤ段と現在の車速Vを維持するために必要な出力軸22を駆動する走行維持出力軸駆動トルクTKとの予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の車速Vおよび実際のギヤ段に基づいて走行維持出力軸駆動トルクTKが算出される。そして、上記算出された最大駆動トルクTMAXおよび走行維持出力軸駆動トルクTKに基づいて、それらの差で表される余裕駆動トルクTY(=TMAX−TK)が算出される。
【0092】
次いで、エンジン始動判定手段128に対応するS6において、S4で算出された要求駆動トルクT*がS5で算出された余裕駆動トルクTYに比較して大きいか否かに基づいて、エンジン9の始動が必要か否かを判定する。
【0093】
S6の判定が否定される場合には、S7において、トルクコンバータ6の低容量化が行われない通常エンジン始動が実施される。
【0094】
また、S6の判定が肯定される場合には、低容量可能範囲算出手段132に対応するS8において、例えば図12に示すような回転速度比軸と容量係数軸との二次元座標内において、回転速度比e2と容量係数Cとの予め実験的に求められて記憶された関係(容量係数マップ)から、実際の回転速度比e2に基づいて、ステータ翼車6sがトランスミッションケース(非回転部材)11に固定された場合の容量係数Cとステータ翼車6sが出力軸22に直結状態とされた場合の容量係数Cとで示される低容量可能範囲Rが算出される。
【0095】
次いで、低容量化実施判定手段134に対応するS9において、先ず、例えば図13に示すようなアクセル開度軸と要求駆動トルク到達時間軸との二次元座標内において、アクセル開度Accと要求駆動トルク到達時間ttとの予め実験的に求められて記憶された関係から、実際のアクセル開度Accに基づいてエンジン9が始動されてから車両の駆動トルクTが前記要求駆動トルク算出手段124により算出された要求駆動トルクT*に達するまでにかかる要求駆動トルク到達時間ttが算出される。そして、上記算出された要求駆動トルク到達時間ttが予め記憶された所定値tt1を下回る急加速状態か否かに基づいて、低容量化制御の実施が必要か否かを判定する。
【0096】
S9の判断が否定される場合には、前述のS7が実施されるが、肯定される場合には、目標容量係数算出手段142および目標容量係数最適化手段144に対応するS10において、先ず、例えば図14に示すようなアクセル開度軸と目標容量係数軸との二次元座標内において設定されたアクセル開度Accと低容量化制御を行うときの目標容量係数C*との予め実験的に求められて記憶された関係から、実際のアクセル開度Accに基づいて目標容量係数C*が算出される。そして、上記算出された目標容量係数C*がS8で算出された低容量化可能範囲R外であるときには、ステータ翼車6sが出力軸直結状態とされたときの容量係数Cが目標容量係数C*とされる。
【0097】
次いで、目標回転速度差算出手段に対応するS11において、例えば図12に示すような回転速度比軸と目標容量係数軸との二次元座標内において、目標回転速度差△N*をパラメータとして回転速度比e2と目標容量係数C*との予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の回転速度比e2および目標容量係数算出手段142により算出された目標容量係数C*に基づいてタービン翼車6tとステータ翼車6sとの目標回転速度差△N*が算出される。
【0098】
次いで、ステータ回転速度制御手段148に対応するS12において、タービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△NがS11で算出された目標回転速度差△N*に一致するように、タービン回転速度NTおよびステータ回転速度NSを把握しつつクラッチCsおよびCiの係合度合いをそれぞれ調節してステータ翼車6sのステータ回転速度NSを制御する所謂フィードバック制御が実行される。
【0099】
図16は、車両の走行制御装置として機能する電子制御装置78の制御作動を説明するタイムチャートであり、前記低容量化制御のうち第1可変容量係数走行が実施される際のTAP[%]、エンジン回転速度NE[rpm]、タービン回転速度NT[rpm]、およびクラッチCsの係合油圧Pcs[Pa]の一例を時系列的に示す図である。図16における横軸は、経過時間を示している。なお、本タイムチャートは、アクセル操作に応じた要求駆動トルクT*を得るためにエンジン9の始動が必要となるCASE1、CASE2、およびCASE3を一例にとって説明する。上記CASE1は、アクセル操作が大きくエンジン始動後に速やかにエンジントルクの伝達が行われる場合である。上記CASE2は、アクセル操作がCASE1に比較して小さいが、低容量化制御を伴わない通常のエンジン始動に比較して早くエンジントルクの伝達が行われる場合である。上記CASE3は、アクセル操作がCASE1およびCASE2に比較して小さく、低容量化制御を伴わない通常のエンジン始動が行われる場合である。
【0100】
図16において、t1時点は、アクセルペダル98の踏み込み操作が開始された時点を示している。このt1時点より、アクセル開度Accに応じて電動機10で出力軸22が駆動されることにより、図16のCASE1(実線)、CASE2(一点鎖線)、およびCASE3(二点鎖線)で示すようにタービン回転速度NTがそれぞれ上昇し始める。
【0101】
t1時点からt2時点までの間においては、上記タービン回転速度NTの上昇に伴ってタービン回転速度NTが車両走行判定値V1に対応する所定値を上回ることによって図15のフローチャートのS1が肯定される。また、電動走行状態であることによって図15のS2が肯定される。そして、図15のS4およびS5が実行され、図15のS6においてエンジン始動の必要性があると判定される。そして、図15のS8が実行され、図15のS9が実行される。ここで、CASE1およびCASE2では、図14に示すように、CASE1におけるアクセル開度Acc_case1およびCASE2におけるアクセル開度Acc_case2が、低容量化実施判定において低容量化制御の実行が判定される際の閾値としての所定値tt1に対応する所定値Acc1をそれぞれ上回っていることから、図15のS9での判定が肯定され、S10およびS11が実行される。また、CASE3では、図14に示すように、CASE3におけるアクセル開度Acc_case3が所定値Acc1と等しいことから、図15のS9での判定が否定される。
【0102】
t2時点は、CASE1およびCASE2の場合、図15のS12が実行されることでエンジン9が始動されるとともにトルクコンバータ6の低容量化制御が実施される時点を示している。また、t2時点は、CASE3の場合、図15のS7が実行されることでトルクコンバータ6の低容量化制御を伴わない通常のエンジン9の始動が実施される時点を示している。
【0103】
CASE1およびCASE2においては、t2時点より、トルクコンバータ6の回転速度差△Nが図15のS11で算出された目標回転速度差△N*に一致するようにクラッチCsの係合油圧Pcsの制御が開始されている。これにともなって、クラッチCsの係合油圧Pcsが上昇させられている。CASE1におけるアクセル開度Acc_case1は、CASE2におけるアクセル開度Acc_case2に比較して大きいため、CASE1では、CASE2に比較して回転速度差△Nをより小さくするために係合油圧Pcsがより大きくされている。これにより、CASE1では、CASE2に比較してトルクコンバータ6の容量係数Cがより小さくされる。このため、CASE1では、CASE2に比較してエンジン回転速度NEがより速やかに上昇している。
【0104】
CASE3においては、低容量化制御が実施されないため、t2時点以降もクラッチCsの係合油圧Pcsが変更されていない。これにより、CASE2では、CASE3に比較してトルクコンバータ6の容量係数Cがより小さくされる。このため、CASE2では、CASE3に比較してエンジン回転速度NEがより速やかに上昇している。
【0105】
t3時点は、CASE1においてエンジントルクがタービン翼車6tに伝達開始される時点を示している。また、t4時点は、CASE1においてエンジントルクがタービン翼車6tに伝達開始される時点を示している。また、t5時点は、CASE1においてエンジントルクがタービン翼車6tに伝達開始される時点を示している。前述のように、容量係数Cが最も小さくされたCASE1が、最も早くエンジントルク伝達開始時点に達し、最もエンジン9の始動応答性が高められている。また、その次に容量係数Cが小さくされたCASE2が、CASE3に比較して早くエンジントルク伝達開始時点に達し、エンジン9の始動応答性が高められている。
【0106】
上述のように、本実施例の車両の走行制御装置によれば、入力軸21に連結されたポンプ翼車6pと、出力軸22に連結されたタービン翼車6tと、それらタービン翼車6tとポンプ翼車6pとの間に配設されたステータ翼車6sとを有するトルクコンバータ6と、入力軸21に連結されたエンジン9とを備えた車両の走行制御装置であって、出力軸22を回転駆動するための電動機10と、ステータ翼車6sを出力軸22に選択的に連結する係合装置としてのクラッチCsおよびCiと、エンジン9の停止中に電動機10を用いて出力軸22を回転駆動させる電動機走行状態であるときにエンジン9の始動要求があった場合には、クラッチCsおよびCiを介してステータ翼車6sを出力軸22に連結してその出力軸22でそのステータ翼車6sを回転駆動させてタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nを小さくすることにより、トルクコンバータ6の容量係数Cをステータ翼車6sが回転停止状態であるときの値よりも小さくする低容量化制御手段140とを含むことから、トルクコンバータレンジにおいてステータ翼車6sの回転がその回転停止状態からポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向の範囲で制御される従来のものに比較して、ステータ翼車6sをその回転停止状態からポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向に回転駆動させることでトルクコンバータ6のトルク比tを高め且つ容量係数Cを低く変化させることができるので、エンジン9の始動応答性を向上させて車両の駆動トルクTを速やかに要求駆動トルクT*まで到達させることができ、車両の動力性能を十分に高めることができる。
【0107】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、低容量化制御手段140は、運転者の加速操作量としてのアクセル開度Accが大きいほどタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nを小さくしてトルクコンバータ6の容量係数Cを小さくするものであることから、アクセル開度Accの大きさに比例するように設定された車両の要求駆動トルクT*が大きいほどトルクコンバータ6の容量係数Cが小さくされるので、エンジンの始動応答性を高めることができ、車両の動力性能をより効果的に高めることができる。
【0108】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてトルクコンバータ6の目標容量係数C*を算出する目標容量係数算出手段142と、予め記憶された関係から目標容量係数算出手段142により算出された目標容量係数C*に基づいてステータ翼車6sとタービン翼車6tとの目標回転速度差△N*を算出する目標回転速度差算出手段とを備え、低容量化制御手段140は、タービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nが目標回転速度差算出手段により算出された目標回転速度差△N*に一致するように、クラッチCsおよびCiの係合度合いをそれぞれ調節してステータ回転速度NSを制御するものであることから、クラッチCsおよびCiの係合度合いすなわちスリップ量をそれぞれ制御することにより、アクセル開度Accに応じたエンジン9の始動性を得るために必要且つ充分に容量係数Cを制御することができる。
【0109】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、予め記憶された関係からポンプ翼車6pのタービン翼車6tに対する回転速度比e1に基づいてステータ翼車6Sが自由回転状態とされた場合の容量係数Cとステータ翼車6sが出力軸直結状態とされた場合の容量係数Cとにより示される低容量化可能範囲Rを算出する低容量化可能範囲算出手段と、目標容量係数算出手段142により算出された目標容量係数C*が低容量化可能範囲算出手段により算出された低容量化可能範囲R外であるときには、ステータ翼車6sが出力軸直結状態とされたときの容量係数Cを目標容量係数C*とする目標容量係数最適化手段144とを備えることから、過大な偏差に対応したクラッチCsおよびCiの操作が行われることがないので、制御系が安定し、より確実にエンジン9の始動性を向上させることができる。
【0110】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、低容量化制御手段140は、要求駆動トルク到達時間ttが所定値tt1を下回る急加速状態である場合に低容量化制御を実行することから、車両が所定以上の急加速状態すなわち要求駆動トルク到達時間ttが所定値tt1を下回る急加速状態でない緩加速状態の場合には必要以上に容量係数Cを低下させないので、容量係数Cを低下させるためにステータ翼車6sが出力軸22に連結されることで出力軸22の駆動トルクTが必要以上に低下することを抑制することができ、車両の加速性能や燃費性能を高めることができる。
【0111】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてエンジン9が始動されてから車両の駆動トルクTがそのアクセル開度Accに対応する要求駆動トルクT*に達するまでにかかる要求駆動トルク到達時間ttを算出する要求駆動トルク到達時間算出手段136と、その要求駆動トルク到達時間算出手段136により算出された要求駆動トルク到達時間ttが所定値tt1を下回る急加速状態か否かを判定する急加速判定手段138とを備え、低容量化制御手段140は、急加速判定手段138により車両の急加速状態が判定された場合に前記低容量化制御を実行することから、要求駆動トルク到達時間tt1が長い緩加速状態の場合には必要以上にトルクコンバータ6の容量係数Cを低下させないので、容量係数Cを低下させるためにステータ翼車6sが出力軸22に連結されることで出力軸22の駆動トルクTが必要以上に低下することを抑制することができ、車両の加速性能や燃費性能を高めることができる。
【0112】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいて車両の要求駆動トルクT*を算出する要求駆動トルク算出手段124と、予め記憶された関係から車速Vに基づいて電動機10が出力可能な最大駆動トルクとその車速Vを維持するための走行維持出力軸駆動トルクTKとの差で示される余裕駆動トルクTYを算出する余裕駆動トルク算出手段126と、要求駆動トルク算出手段124により算出された要求駆動トルクT*が余裕駆動トルク算出手段126により算出された余裕駆動トルクTYに比較して大きいときに、エンジン9の始動を要求するエンジン始動判定手段128とを備えていることから、要求駆動トルクT*を達成するために必要なときだけエンジン9を始動させることができる。
【0113】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、トルクコンバータ6は、係合装置として、電動機10とステータ翼車6sとの間に配設されてその電動機10とそのステータ翼車6sとを選択的に連結するクラッチ(第1クラッチ)Csと、電動機10と出力軸22との間に配設されてその電動機10とその出力軸22とを選択的に連結するクラッチ(第2クラッチ)Ciとを有し、低容量化制御手段140は、クラッチCsおよびCiをそれぞれ介してステータ翼車6sに連結された出力軸22でそのステータ翼車6sを回転駆動させることによりトルクコンバータ6の容量係数Cを変更する第1可変容量係数走行と、クラッチCsを介してステータ翼車6sに連結された電動機10を用いてそのステータ翼車6sを回転駆動させることによりトルクコンバータ6の容量係数Cを変更する第2可変容量係数走行とを切り換えるものであることから、トルクコンバータレンジにおいてステータ翼車6sの回転がその回転停止状態からポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向の範囲で制御される従来のものに比較して、クラッチCsおよびCiの総合係合度合いを調整してステータ翼車6sをその回転停止状態からポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向に回転駆動させることによりトルクコンバータ6のトルク比tを高め且つ容量係数Cを低く変化させることができるので、エンジン9の始動応答性を向上させて車両の駆動トルクTを速やかに要求駆動トルクT*まで到達させることができ、車両の動力性能を十分に高めることができる。
【0114】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0115】
例えば、前述の実施例において、トルクコンバータ6は、ステータ翼車6sとトランスミッションケース11との間のブレーキBsが除去されて構成されても差し支えない。それにより、エンジン9の始動時に限らず実施されるトルクコンバータ6の容量係数制御は、電動機10およびクラッチCs、Ciのみによって行われてもよい。また、ロックアップクラッチL/Cは、必ずしも設けられなくてもよい。
【0116】
また、前述の実施例において、トルクコンバータ6は、係合装置としてステータ翼車6sと電動機10との間に設けられたクラッチCsおよび電動機10と出力軸22との間に設けられたクラッチCiを備え、ステータ翼車6sを出力軸に連結するときにはそれらクラッチCsおよびクラッチCiをそれぞれ係合することにより行われていたが、たとえば、上記クラッチCsは、ステータ翼車6sと出力軸22との間に設けられ、ステータ翼車6sを出力軸に連結するときにはそのクラッチCsを係合することにより行われもよい。そして、クラッチCiは、除去されてもよい。
【0117】
また、前述の実施例において、低容量化制御手段140は、前記第1可変容量係数走行および第2可変容量係数走行の実施に際して、アクセル開度Accが大きいほどタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nを小さくしてトルクコンバータ6の容量係数C(目標容量係数C*)を小さくするものであったが、これに限らず、アクセル開度Accの大きさに関係なく回転速度差△Nを一律に予め設定された所定値とし、容量係数C(目標容量係数C*)を一律に小さくするもの、或いは、アクセル開度Accの大きさに応じて回転速度差△Nを予め段階的に設定された複数の所定値とし、容量係数C(目標容量係数C*)を段階的に小さくするものであってもよい。これに伴い、低容量化制御手段140は、目標容量係数算出手段142、目標容量係数最適化手段144、および目標回転速度差算出手段が設けられず、また、そのうちステータ回転速度制御手段148は、回転速度差△Nが上記予め設定された所定値に一致するように、前記第1可変容量係数走行或いは第2可変容量係数走行を実施するものであってもよい。
【0118】
また、前述の実施例において、低容量化制御手段140は、前記第1可変容量係数走行および第2可変容量係数走行の実施に際して、アクセル開度Accが大きいほどタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nを小さくしてトルクコンバータ6の容量係数Cを小さくするものであったが、これに限らず、アクセル開度Accが大きいほどステータ翼車6sのタービン翼車6tに対する回転速度比e1を小さくしてトルクコンバータ6の容量係数Cを小さくするものであってもよい。これにより、前記目標回転速度差算出手段に代えて、例えば回転速度比軸と目標容量係数軸との二次元座標内において、目標回転速度比e1*をパラメータとして回転速度比e2と目標容量係数C*との予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の回転速度比e2および目標容量係数算出手段142により算出された目標容量係数C*に基づいてステータ翼車6sのタービン翼車6tに対する目標回転速度比e1*を算出する目標回転速度比算出手段が設けられてもよい。そして、ステータ回転速度制御手段148は、実際の回転速度比e1が上記目標回転速度比算出手段により算出された目標回転速度比e1*に一致するようにステータ翼車6sのステータ回転速度NSを制御するものであってもよい。
【0119】
また、前述の実施例においては、加速操作量としてアクセル開度Accが用いられていたが、これに限らず、例えば、スロットル弁開度θTHや吸入空気量QA、或いは燃料噴射量などが用いられてもよい。
【0120】
また、前述の実施例において、低容量化制御を実施するか否かの判定は、要求駆動トルク到達時間算出手段136により算出された要求駆動トルク到達時間ttが予め記憶された所定値tt1を下回る急加速状態か否かに基づいて行われていたが、例えば、アクセル開度Accが図14に示す予め設定された所定値Acc1以下であるか否かに基づいて行われてもよい。
【0121】
また、前述の実施例において、車両は、走行用の動力源として例えば内燃機関等で構成されるエンジン9を備え、また、縦置型の自動変速機8を備えたFR方式の後輪駆動車両であったが、これに限らない。要するに、トルクコンバータ6を備えるものであれば、本発明は適用され得る。例えば、FF方式の前輪駆動車両や、RR方式或いはMR方式の後輪駆動車両、または全輪駆動車両等であってもよい。そして、自動変速機8に関しては、変速機の構造は前述の実施例のものに限定されず、遊星歯車装置又はクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2などの各係合要素の数や変速段数、および上記各係合要素が上記遊星歯車装置のどの要素と選択的に連結されているか等に特に限定はない。
【0122】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の一実施例のトルクコンバータ(可変容量型トルクコンバータ)が適用された車両用駆動装置の構成の一部を説明する骨子図である。
【図2】図1のトルクコンバータの電動機における駆動電流と駆動トルクとの関係を示す図である。
【図3】図1のトルクコンバータの電動機における発電電流と制動トルクとの関係を示す図である。
【図4】図1の自動変速機において各変速段を成立させる際の各係合要素の作動状態を説明する作動表である。
【図5】図1のエンジンや自動変速機、あるいはトルクコンバータなどを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図である。
【図6】図1のトルクコンバータにおいて、ポンプ翼車、タービン翼車、ステータ翼車の羽根の流線に沿った断面形状をそれぞれ展開して示す図である。
【図7】図1のトルクコンバータの特性を示す図であって、速度比に対するトルク比を示す図である。
【図8】図1のトルクコンバータの特性を示す図であって、速度比に対する容量係数を示す図である。
【図9】図1のトルクコンバータを有する車両の電動機走行状態とその電動機走行状態からエンジン始動が行われる際に低容量化制御が実施される車両の走行状態とにおける電動機、クラッチ、およびブレーキのそれぞれの作動状態を表す表を示す図である。
【図10】図1のトルクコンバータを有する車両の走行制御装置として機能する電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図11】アクセル開度をパラメータとして車速と要求駆動力との予め実験的に求められて記憶された関係を示す図である。
【図12】回転速度差をパラメータとして回転速度比と容量係数との予め実験的に求められて記憶された関係を示す図である。
【図13】アクセル開度と要求駆動トルク到達時間との予め実験的に求められて記憶された関係を示す図である。
【図14】アクセル開度と目標容量係数との予め実験的に求められて記憶された関係を示す図である。
【図15】図1のトルクコンバータを有する車両の走行制御装置として機能する電子制御装置の制御作動の要部、すなわち電動機走行状態においてエンジン始動要求が為されるとともに急加速状態であると判定された場合においてトルクコンバータの低容量化を行うための一連の手順すなわち低容量化制御ルーチンを説明するフローチャートである。
【図16】図1のトルクコンバータを有する車両の走行制御装置として機能する電子制御装置の制御作動を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0124】
6:トルクコンバータ(可変容量型トルクコンバータ)
6p:ポンプ翼車
6t:タービン翼車
6s:ステータ翼車
9:エンジン
10:電動機
22:出力軸
78:電子制御装置(走行制御装置)
120:車両走行判定手段
122:エンジン停止判定手段
124:要求駆動トルク算出手段
126:余裕駆動トルク算出手段
128:エンジン始動判定手段
130:モータ走行制御手段
132:低容量可能範囲算出手段
134:低容量化実施判定手段
136:要求駆動トルク到達時間算出手段
138:急加速判定手段
140:低容量化制御手段
142:目標容量係数算出手段
144:目標容量係数最適化手段
146:目標回転速度手段
148:ステータ回転速度制御手段
Acc、Acc_case1、Acc_case2、Acc_case3:アクセル開度(加速操作量)
C:容量係数
C*:目標容量係数
Cs:クラッチ(第1クラッチ)
Ci:クラッチ(第2クラッチ)
NS:ステータ回転速度
NS*:目標ステータ回転速度
NT:タービン回転速度
R、R(0)、R(1)、R(2):低容量可能範囲
T:駆動トルク
T*:要求駆動トルク
TK:走行維持出力軸駆動トルク(走行維持駆動トルク)
TY:余裕駆動トルク
V:車速
e1、e2、e2(0)、e2(1)、e2(2):回転速度比(速度比)
tt:要求駆動トルク到達時間
tt1:所定値
△N:回転速度差(回転差)
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源から入力されたトルクを流体を介して伝達するとともに、容量係数を変更することが可能な可変容量型トルクコンバータを備えた車両の走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体式伝動装置の一種に、入力軸に連結されたポンプ翼車と、出力軸に連結されたタービン翼車と、それらタービン翼車とポンプ翼車との間に配設されたステータ翼車とを有するトルクコンバータが知られている。このようなトルクコンバータでは、ステータ翼車が一方向クラッチを介して非回転部材に連結されており、可変容量特性を備えない。一般に、トルクコンバータの流体特性としては、燃費指向であるときは高い容量(容量係数)であること、加速指向であるときは低い容量(容量係数)であることが望まれるが、上記従来の構成では、上記容量がポンプ翼車、タービン翼車、ステータ翼車の形状によって一義的に定められてしまうため、走行パターンに拘わらず同一流体特性となり、燃費性能および動力性能を同時に向上させることには限界があった。
【0003】
これに対し、特許文献1に示されているように、ステータ翼車と非回転部材との間にブレーキ手段を設け、そのブレーキ手段の制動トルクを調節して容量を可変とした可変容量型トルクコンバータが提案されている。これによれば、ブレーキ手段による制動トルクを調節することによってステータ翼車の回転はポンプ翼車の回転方向とは反対の負回転方向の範囲で制御されるので、トルクコンバータのトルク比および容量係数を無段階或いは多段階に変化させることが可能となり、運転条件や走行条件に応じてトルク比および容量係数を変更でき、車両の走行性能を高めることができる。
【特許文献1】特開2006−300099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来の可変容量型トルクコンバータでは、ステータ翼車の回転はポンプ翼車の回転方向とは反対の負回転方向の範囲で制御されるに過ぎず、それにより得られるトルク比の上限値や容量係数の下限値には限界があり、運転条件や走行条件に応じて必ずしも十分にトルクコンバータのトルク比を高め、容量係数を低く変化させることができず、車両の動力性能を十分に高めることができなかった。特に、例えば車両の主動力源としてのエンジンを始動するときに所望の駆動トルクが発生するまでに時間がかかるという問題があった。
【0005】
そこで、未公知であるが、エンジンとは別に設けられた電動機によりステータ翼車をポンプ翼車の回転方向へ回転駆動することで従来に比較して高いトルク比と低い容量係数が得られる可変容量型トルクコンバータが考えられており、これによれば、エンジンの始動に際してトルクコンバータの容量係数を小さくすることでそのエンジン始動の応答性を向上させて、所望の駆動トルクが発生するまでかかる時間を短縮することができる。しかしながら、上述のように従来に比較して高いトルク比と低い容量係数が得られる可変容量型トルクコンバータであっても、エンジンの停止中に電動機を用いて出力軸を回転駆動させる電動機走行状態であるときにエンジンの始動要求があった場合には、電動機を用いてステータ翼車を回転駆動させることができず、容量係数を低く変化させて所望の駆動トルクが発生するまでにかかる時間を短縮することができないという問題があった。しかも、電動機による出力軸の回転駆動を停止させてその電動機を用いてステータ翼車を回転駆動させるということが考えられるが、これによれば、車両の駆動トルクが途切れるという不都合があった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両の主動力源としてのエンジンとは別に設けられた電動機により出力軸を回転駆動させる電動機走行状態においてエンジンを始動させる際に駆動トルクを速やかに要求駆動トルクまで到達させることができ、車両の動力性能を十分に高めることができる車両の走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、以上の事情を背景として種々検討を重ねた結果、車両の主動力源とは別の動力源である電動機を用いてステータ翼車を上記正回転方向へ積極的に駆動すると、従来に比較して高いトルク比と低い容量係数が得られるということを見いだし、さらに、ステータ翼車をタービン翼車に連結してそのタービン翼車の駆動トルクでステータ翼車をポンプ翼車の回転方向である正回転方向へ回転駆動すると、従来に比較して高いトルク比と低い容量係数が得られるということを見いだした。本発明はかかる知見に基づいて為されたものである。
【0008】
すなわち、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(1)入力軸に連結されたポンプ翼車と、出力軸に連結されたタービン翼車と、そのタービン翼車とそのポンプ翼車との間に配設されたステータ翼車とを有するトルクコンバータと、前記入力軸に連結されたエンジンとを備えた車両の走行制御装置であって、(2)前記出力軸を回転駆動するための電動機と、(3)前記ステータ翼車を前記出力軸に選択的に連結する係合装置と、(4)前記エンジンの停止中に前記電動機を用いて前記出力軸を回転駆動させる電動機走行状態であるときに前記エンジンの始動要求があった場合には、前記係合装置の係合トルクを制御して前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差を小さくすることにより、前記トルクコンバータの容量係数を前記ステータ翼車が回転停止状態であるときの値よりも小さくする低容量化制御手段とを含むことにある。
【0009】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記低容量化制御手段は、運転者の加速操作量が大きいほど前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差を小さくして前記トルクコンバータの容量係数を小さくするものであることにある。
【0010】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1または2にかかる発明において、(1)予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて前記トルクコンバータの目標容量係数を算出する目標容量係数算出手段と、(2)予め記憶された関係からその目標容量係数算出手段により算出された前記目標容量係数に基づいて前記ステータ翼車と前記タービン翼車との目標回転差を算出する目標回転差算出手段とを備え、(3)前記低容量化制御手段は、前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差が前記目標回転差算出手段により算出された前記目標回転差に一致するように、前記係合装置の係合度合いを調節して前記ステータ翼車の回転速度を制御するものであることにある。
【0011】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項3にかかる発明において、(1)予め記憶された関係から前記ポンプ翼車と前記タービン翼車との速度比に基づいて前記ステータ翼車が自由回転状態とされた場合の前記トルクコンバータの容量係数と前記ステータ翼車が出力軸直結状態とされた場合の前記トルクコンバータの容量係数とにより示される低容量化可能範囲を算出する低容量化可能範囲算出手段と、(2)前記目標容量係数算出手段により算出された前記目標容量係数が前記低容量化可能範囲算出手段により算出された前記低容量化可能範囲外であるときには、前記ステータ翼車が出力軸直結状態とされたときの容量係数を目標容量係数とする目標容量係数最適化手段とを備えることにある。
【0012】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれか1にかかる発明において、前記低容量化制御手段は、車両が所定以上の急加速状態である場合に前記低容量化制御を実行することにある。
【0013】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項5にかかる発明において、(1)予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて前記エンジンが始動されてから車両の駆動トルクが該加速操作量に対応する要求駆動トルクに達するまでにかかる要求駆動トルク到達時間を算出する要求駆動トルク到達時間算出手段と、(2)該要求駆動トルク到達時間算出手段により算出された前記要求駆動トルク到達時間が所定値を下回る車両の急加速状態か否かを判定する急加速判定手段とを備え、(3)前記低容量化制御手段は、該急加速判定手段により車両の急加速状態が判定された場合に前記低容量化制御を実行することにある。
【0014】
また、請求項7にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至6のいずれか1にかかる発明において、(1)予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて車両の要求駆動トルクを算出する要求駆動トルク算出手段と、(2)予め記憶された関係から車速に基づいて前記電動機が出力可能な最大駆動トルクとその車速を維持するための走行維持駆動トルクとの差で示される余裕駆動トルクを算出する余裕駆動トルク算出手段と、(3)前記要求駆動トルク算出手段により算出された要求駆動トルクが前記余裕駆動トルク算出手段により算出された余裕駆動トルクに比較して大きいときに、前記エンジンの始動を要求するエンジン始動判定手段とを備えていることにある。
【0015】
また、請求項8にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至7のいずれか1にかかる発明において、(1)前記係合装置は、前記電動機と前記ステータ翼車との間に配設されてその電動機とそのステータ翼車とを選択的に連結する第1クラッチと、前記電動機と前記出力軸との間に配設されてその電動機とその出力軸とを選択的に連結する第2クラッチとを有し、(2)前記低容量化制御手段は、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチをそれぞれ介して前記ステータ翼車に連結された前記出力軸でそのステータ翼車を回転駆動させることにより前記トルクコンバータの容量係数を変更する第1可変容量係数走行と、前記第1クラッチを介して前記ステータ翼車に連結された前記電動機を用いてそのステータ翼車を回転駆動させることにより前記トルクコンバータの容量係数を変更する第2可変容量係数走行とを切り換えるものであることにある。
【発明の効果】
【0016】
請求項1にかかる発明の走行制御装置によれば、入力軸に連結されたポンプ翼車と、出力軸に連結されたタービン翼車と、それらタービン翼車とポンプ翼車との間に配設されたステータ翼車とを有するトルクコンバータと、前記入力軸に連結されたエンジンとを備えた車両の走行制御装置であって、前記出力軸を回転駆動するための電動機と、前記ステータ翼車を前記出力軸に選択的に連結する係合装置と、前記エンジンの停止中に前記電動機を用いて前記出力軸を回転駆動させる電動機走行状態であるときに前記エンジンの始動要求があった場合には、前記係合装置の係合トルクを制御して前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差を小さくすることにより、前記トルクコンバータの容量係数を前記ステータ翼車が回転停止状態であるときの値よりも小さくする低容量化制御手段とを含むことから、トルクコンバータレンジにおいてステータ翼車の回転がその回転停止状態からポンプ翼車の回転方向とは反対の負回転方向の範囲で制御される従来のものに比較して、ステータ翼車をその回転停止状態からポンプ翼車の回転方向である正回転方向に回転駆動させることでトルクコンバータのトルク比を高め且つ容量係数を低く変化させることができるので、エンジンの始動応答性を向上させて車両の駆動トルクを速やかに要求駆動トルクまで到達させることができ、車両の動力性能を十分に高めることができる。
【0017】
また、請求項2にかかる発明の走行制御装置によれば、前記低容量化制御手段は、運転者の加速操作量が大きいほど前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差を小さくして前記トルクコンバータの容量係数を小さくするものであることから、例えばアクセル開度やスロットル開度等の加速操作量の大きさに比例するように設定された車両の要求駆動トルクが大きいほどトルクコンバータの容量係数が小さくされるので、エンジンの始動応答性を高めることができ、車両の動力性能をより効果的に高めることができる。
【0018】
また、請求項3にかかる発明の走行制御装置によれば、予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて前記トルクコンバータの目標容量係数を算出する目標容量係数算出手段と、予め記憶された関係からその目標容量係数算出手段により算出された前記目標容量係数に基づいて前記ステータ翼車と前記タービン翼車との目標回転差を算出する目標回転差算出手段とを備え、前記低容量化制御手段は、前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差が前記目標回転差算出手段により算出された前記目標回転差に一致するように、前記係合装置の係合度合いを調節して前記ステータ翼車の回転速度を制御するものであることから、係合装置の係合度合いすなわちスリップ量を制御することにより、加速操作量に応じたエンジンの始動性を得るために必要且つ充分に容量係数を制御することができる。
【0019】
また、請求項4にかかる発明の走行制御装置によれば、予め記憶された関係から前記ポンプ翼車と前記タービン翼車との速度比に基づいて前記ステータ翼車が自由回転状態とされた場合の前記トルクコンバータの容量係数と前記ステータ翼車が出力軸直結状態とされた場合の前記トルクコンバータの容量係数とにより示される低容量化可能範囲を算出する低容量化可能範囲算出手段と、前記目標容量係数算出手段により算出された前記目標容量係数が前記低容量化可能範囲算出手段により算出された前記低容量化可能範囲外であるときには、前記ステータ翼車が出力軸直結状態とされたときの容量係数を目標容量係数とする目標容量係数最適化手段とを備えることから、過大な偏差に対応した係合装置の操作が行われることがないので、制御系が安定し、より確実にエンジンの始動性を向上させることができる。
【0020】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれか1にかかる発明において、前記低容量化制御手段は、車両が所定以上の急加速状態である場合に前記低容量化制御を実行することから、車両が所定以上の急加速状態でない緩加速状態の場合には必要以上に容量係数を低下させないので、容量係数を低下させるためにステータ翼車が出力軸に連結されることで出力軸の駆動トルクが必要以上に低下することを抑制することができ、加速性能や燃費性能を高めることができる。
【0021】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項5にかかる発明において、予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて前記エンジンが始動されてから車両の駆動トルクが該加速操作量に対応する要求駆動トルクに達するまでにかかる要求駆動トルク到達時間を算出する要求駆動トルク到達時間算出手段と、該要求駆動トルク到達時間算出手段により算出された前記要求駆動トルク到達時間が所定値を下回る車両の急加速状態か否かを判定する急加速判定手段とを備え、前記低容量化制御手段は、該急加速判定手段により車両の急加速状態が判定された場合に前記低容量化制御を実行することから、前記要求駆動トルク到達時間が長い緩加速状態の場合には必要以上にトルクコンバータの容量係数を低下させないので、容量係数を低下させるためにステータ翼車が出力軸に連結されることで出力軸の駆動トルクが必要以上に低下することを抑制することができ、加速性能や燃費性能を高めることができる。
【0022】
また、請求項7にかかる発明の走行制御装置によれば、予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて車両の要求駆動トルクを算出する要求駆動トルク算出手段と、予め記憶された関係から車速に基づいて前記電動機が出力可能な最大駆動トルクとその車速を維持するための走行維持駆動トルクとの差で示される余裕駆動トルクを算出する余裕駆動トルク算出手段と、前記要求駆動トルク算出手段により算出された要求駆動トルクが前記余裕駆動トルク算出手段により算出された余裕駆動トルクに比較して大きいときに、前記エンジンの始動を要求するエンジン始動判定手段とを備えていることから、要求駆動トルクを達成するために必要なときだけエンジンを始動させることができる。
【0023】
また、請求項8にかかる発明の走行制御装置によれば、前記係合装置は、前記電動機と前記ステータ翼車との間に配設されてその電動機とそのステータ翼車とを選択的に連結する第1クラッチと、前記電動機と前記出力軸との間に配設されてその電動機とその出力軸とを選択的に連結する第2クラッチとを有し、前記低容量化制御手段は、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチをそれぞれ介して前記ステータ翼車に連結された前記出力軸でそのステータ翼車を回転駆動させることにより前記トルクコンバータの容量係数を変更する第1可変容量係数走行と、前記第1クラッチを介して前記ステータ翼車に連結された前記電動機を用いてそのステータ翼車を回転駆動させることにより前記トルクコンバータの容量係数を変更する第2可変容量係数走行とを切り換えるものであることから、トルクコンバータレンジにおいてステータ翼車の回転がその回転停止状態からポンプ翼車の回転方向とは反対の負回転方向の範囲で制御される従来のものに比較して、第1クラッチおよび第2クラッチの総合係合度合いを調節してステータ翼車をその回転停止状態からポンプ翼車の回転方向である正回転方向に回転駆動させることによりトルクコンバータのトルク比を高め且つ容量係数を低く変化させることができるので、エンジンの始動応答性を向上させて車両の駆動トルクを速やかに要求駆動トルクまで到達させることができ、車両の動力性能を十分に高めることができる。
【0024】
また、エンジンにより車両の駆動を行っているときには、係合状態とされた第1クラッチを介してステータ翼車に連結された電動機を用いてそのステータ翼車を回転駆動させることにより、従来のものに比較して、トルクコンバータのトルク比を高め且つ容量係数を低く変化させることができるので、車両の動力性能を十分に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0026】
図1は、本発明の一実施例のトルクコンバータ(可変容量型トルクコンバータ)6が適用された車両用駆動装置7の構成の一部を説明する骨子図である。図1において、この車両用駆動装置7は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、車両走行用の動力源として内燃機関で構成される例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等であるエンジン9と、そのエンジン9の後段に設けられるとともにそのエンジン9から入力されたトルクを流体を介して出力するトルクコンバータ6と、そのトルクコンバータ6の後段に設けられるとともにそのトルクコンバータ6の回転を変速して後述の図11に示す差動歯車装置114および駆動軸116などを介して駆動輪118へ伝達する自動変速機8などを備えている。なお、このトルクコンバータ6および自動変速機8はその軸心Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはそれら軸心の下半分が省略されている。
【0027】
トルクコンバータ6は、エンジン9のクランク軸に連結されたトルクコンバータ6の入力軸21に連結され、そのエンジン9により回転駆動されることでトルクコンバータ6内の作動油の流動による流体流を発生させるポンプ翼車6pと、自動変速機8の入力軸に連結されたトルクコンバータ6の出力軸22に連結され、ポンプ翼車6pからの流体流を受けることで回転させられるタービン翼車6tと、タービン翼車6tからポンプ翼車6pへの流体流中に回転可能に配設されたステータ翼車6sとを備えており、作動油を介して動力伝達を行うようになっている。
【0028】
上記ポンプ翼車6pとタービン翼車6tとの間には、油圧制御回路95(図5参照)によって係合状態或いは解放状態が制御されるロックアップクラッチL/Cが設けられている。このロックアップクラッチL/Cが完全係合状態とされることによって、ポンプ翼車6pおよびタービン翼車6tが一体回転させられてエンジン9のクランク軸とトルクコンバータ6の出力軸22とが相互に直結状態とされるようになっている。
【0029】
トルクコンバータ6は、ステータ翼車6s、出力軸22、またはステータ翼車6sおよび出力軸22に選択的に連結されてステータ翼車6sおよび出力軸22を回転駆動するための電動機10と、電動機10とステータ翼車6sとの間に配設されてそれら電動機10とステータ翼車6sとを選択的に連結するクラッチ(第1クラッチ)Csと、電動機10と出力軸22との間に配設されてそれら電動機10と出力軸22とを選択的に連結するクラッチ(第2クラッチ)Ciと、ステータ翼車6sと非回転部材であるトランスミッションケース11との間に配設されてそれらステータ翼車6sとトランスミッションケース11とを選択的に係合するブレーキBsとを備えている。なお、本実施例において、上記クラッチCsおよびクラッチCiは、ステータ翼車6sを出力軸22に選択的に連結するための本発明における係合装置を構成するものに相当する。
【0030】
上記電動機10は、動力を発生させる発動機としての機能と電力を発生させる発電機としての機能とが選択的に得られるように構成されたモータジェネレータであって、後述の図11に示すインバータ112を介してバッテリーおよびコンデンサなどの蓄電装置113に接続されており、インバータ112によりその回転速度すなわち電動機回転速度NMが制御されるようになっている。
【0031】
上記クラッチCs、CiおよびブレーキBsは、従来の車両用自動変速機においてもよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置である。これらは、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた複数本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ型などにより構成され、これらが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。これらクラッチCs、CiおよびブレーキBsは、油圧制御回路95から上記油圧アクチュエータに供給される油圧に応じて係合度合いが調整されることにより、それぞれが介挿されている両側の部材間の完全係合状態、半係合状態(スリップ状態)、或いは解放状態を制御するようになっている。なお、本明細書において、完全係合とは、すべり(スリップ)が生じない状態を示し、また、係合とは、上記完全係合およびすべりが生じる半係合を含む状態を示している。
【0032】
上記のように構成されたトルクコンバータ6では、クラッチCsが係合された状態においてステータ翼車6sがその回転停止状態から電動機10でポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向或いはポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向に回転駆動されることにより、そのステータ翼車6sの回転速度すなわちステータ回転速度NSが制御されるようになっている。このステータ翼車6sの回転駆動に際して、電動機10からは、例えば図2に示すように後述の電子制御装置78からインバータ112を介して電動機10に供給される駆動電流IDの大きさに比例する上記正回転方向或いは負回転方向の駆動トルクTDが出力される。そして、ステータ翼車6sには、クラッチCsが完全係合状態とされることにより上記電動機10から出力された駆動トルクTDがそのまま伝達されるようになっており、また、クラッチCsの係合度合いすなわち係合圧が調整されてそのクラッチCsが半係合状態とされることにより上記駆動トルクTDがその係合圧に応じて変更されて伝達されるようになっている。上記駆動トルクTDの伝達割合は、クラッチCsの係合圧が大きいほどすなわちスリップ量が小さいほど、大きくなるようになっている。
【0033】
また、トルクコンバータ6では、クラッチCsが係合された状態において電動機10の回生(発電)が行われてその回生により発生する回生トルクがステータ翼車6sに伝達されることにより、ステータ回転速度NSが制御されるようになっている。このとき、ステータ翼車6sには、例えば図3に示すように電動機10の回生によって蓄電装置113(図11参照)等に供給される発電電流IGの大きさに比例する回生トルクすなわち制動トルクTBがクラッチCsの係合圧に応じて伝達される。上記制動トルクTBの伝達割合は、クラッチCsの係合圧が大きいほどすなわちスリップ量が小さいほど、大きくなるようになっている。
【0034】
また、トルクコンバータ6では、ブレーキBsが係合されるとともにそのブレーキBsの係合度合いすなわち係合圧が調整されてステータ翼車6sの回転が制限されることにより、ステータ回転速度NSが制御されるようになっている。ステータ翼車6sは、ブレーキBsが完全に係合されることによりトランスミッションケース11に固定されて非回転状態とされるが、上記ブレーキBsの係合圧が調整されてそのブレーキBsが半係合状態とされることによりその係合圧に応じた制動トルクTBを受けるようになっている。上記制動トルクTBは、ブレーキBsの係合圧が大きいほどすなわちスリップ量が小さいほど、大きくなるようになっている。
【0035】
また、トルクコンバータ6では、クラッチCiおよびCsの係合トルクを制御してタービン翼車6tのタービン回転速度NTとステータ翼車6sのステータ回転速度Nsとの回転速度差(回転差)△N(=NT−NS)が小さくされることにより、ステータ回転速度NSが制御されるようになっている。すなわち、トルクコンバータ6では、クラッチCiおよびCsが係合されることでステータ翼車6sが出力軸22に連結され、その出力軸でステータ翼車6sが回転駆動されてタービン翼車6tのタービン回転速度NTとステータ翼車6sのステータ回転速度Nsとの回転速度差(回転差)△N(=NT−NS)が小さくされることにより、ステータ回転速度NSが制御されるようになっている。ステータ翼車6sは、クラッチCiおよびCsがそれぞれ完全係合状態とされることにより出力軸22およびタービン翼車6tに直結状態とされてそれらと一体的に回転駆動されるが、クラッチCiおよびCsの係合圧がそれぞれ調整されてそれらクラッチCiおよびCsが半係合状態とされることによりその係合圧に応じた駆動トルクTDを受けるようになっている。上記駆動トルクTDは、クラッチCsおよびCiの総合的な係合圧が大きいほど増大するようになっている。そして、上記駆動トルクTDが大きいほど回転速度差△N(=NT−NS)が小さく且つステータ翼車6sとタービン翼車6t(出力軸22)との速度比すなわちステータ翼車6sのタービン翼車6tに対する回転速度比e1(=NS/NT)が大きくなるようになっている。
【0036】
また、トルクコンバータ6では、クラッチCiが係合された状態において電動機10によって出力軸が回転駆動されることにより、その出力軸22と一体に回転させられるタービン翼車6tのタービン回転速度NTおよび自動変速機8の入力軸回転速度NINが制御されるようになっている。この出力軸22の回転駆動に際して、電動機10からは、例えば図2に示すように後述の電子制御装置78からインバータ112を介して電動機10に供給される駆動電流IDの大きさに比例する駆動トルクTDが出力される。そして、出力軸22には、クラッチCiが完全係合状態とされることにより上記電動機10から出力された駆動トルクTDがそのまま伝達されるようになっており、また、クラッチCiの係合度合いすなわち係合圧が調整されてそのクラッチCiが半係合状態とされることにより上記駆動トルクTDがその係合圧に応じて変更されて伝達されるようになっている。上記駆動トルクTDの伝達割合は、クラッチCiの係合圧が大きいほどすなわちスリップ量が小さいほど、大きくなるようになっている。
【0037】
上記ステータ回転速度NSやタービン回転速度NT(入力軸回転速度NIN)の制御は、同時に行われてもよい。例えば、クラッチCiが係合された状態において電動機10によって出力軸が回転駆動されるとともに、クラッチCiおよびCsの係合によりステータ翼車6sが出力軸22に連結されてその出力軸22のトルクの一部あるいは全部でステータ翼車6sが回転駆動されるようにしてもよい。
【0038】
自動変速機8は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース11内において、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16及びダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを共通の軸心上に有し、トルクコンバータ6の出力軸22から伝達された回転速度を変速して出力軸24から出力する。
【0039】
上記第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1、そのピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持するキャリアCA1、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備えている。また、第2遊星歯車装置16は、サンギヤS2、ピニオンギヤP2、そのピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持するキャリアCA2、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を備えている。また、第3遊星歯車装置18は、サンギヤS3、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2及びP3、そのピニオンギヤP2及びP3を自転及び公転可能に支持するキャリアCA3、ピニオンギヤP2及びP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤR3を備えている。
【0040】
図1において、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2は、クラッチCs、CiおよびブレーキBsと同様な油圧式摩擦係合装置である。第1回転要素RM1(サンギヤS2)は、第1ブレーキB1を介してトランスミッションケース11に選択的に連結されて回転停止され、第3クラッチC3を介して中間出力部材である第1遊星歯車装置12のリングギヤR1(すなわち第2中間出力経路PA2)に選択的に連結され、さらに第4クラッチC4を介して第1遊星歯車装置12のキャリアCA1(すなわち第1中間出力経路PA1の間接経路PA1b)に選択的に連結されるようになっている。また、第2回転要素RM2(キャリアCA2およびCA3)は、第2ブレーキB2を介してトランスミッションケース11に選択的に連結されて回転停止され、第2クラッチC2を介して出力軸22(すなわち第1中間出力経路PA1の直結経路PA1a)に選択的に連結されるようになっている。また、第3回転要素RM3(リングギヤR2およびR3)は、出力軸24に一体的に連結されており、その第3回転要素RM3に入力された回転を出力軸24に出力するようになっている。また、第4回転要素RM4(サンギヤS3)は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に連結されるようになっている。なお、第2回転要素RM2とトランスミッションケース11との間には、第2回転要素RM2の正回転(出力軸22と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
【0041】
図4は、自動変速機8において各変速段を成立させる際の各係合要素の作動状態を説明する図表であり、「○」は係合状態を、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ表している。図4に示すように、本実施例の自動変速機8は、上記各係合装置すなわちクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2が選択的に係合させられることにより、変速比(=自動変速機8の入力軸回転速度NIN/自動変速機8の出力軸回転速度NOUT)が異なる前進8段および後退2段を含む複数の変速段が成立するようになっている。なお、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比によって適宜定められる。
【0042】
図5は、図1のエンジン9や自動変速機8、あるいはトルクコンバータ6などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図であって、電子制御装置78に入力される信号およびその電子制御装置78から出力される信号の一例を示すものである。図5において、電子制御装置78は、CPU、ROM、RAM、および入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン8の出力制御や自動変速機8の変速制御、あるいはトルクコンバータ6の容量係数制御(低容量化制御を含む)を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や変速制御用や容量係数制御用などに分けて構成される。
【0043】
電子制御装置78には、エンジン回転速度センサ80からポンプ翼車6pの回転速度すなわちポンプ回転速度NPに対応するエンジン回転速度NEを示す信号、ステータ回転速度センサ81からステータ翼車6sの回転速度であるステータ回転速度NSを示す信号、タービン回転速度センサ82から自動変速機8の入力軸回転速度NINすなわち出力軸22の回転速度に対応するタービン回転速度NTを示す信号、電動機回転速度センサ83から電動機回転速度NMを示す信号、車速センサ84から自動変速機8の出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vを示す信号、吸入空気量センサ86から吸入空気量QAを示す信号、吸入空気温度センサ88から吸入空気温度TAを示す信号、スロットルセンサ90からスロットル弁開度θTHを示す信号、冷却水温センサ92から冷却水温TWを示す信号、油温センサ94から油圧制御回路95の作動油の温度すなわちトルクコンバータ6内に流れる循環作動油や自動変速機8の各油圧式摩擦係合装置に供給される作動油の油温TOILを示す信号、アクセル開度センサ96からアクセルペダル98の操作量すなわちアクセル開度Accを示す信号、フットブレーキスイッチ100からフットブレーキペダル102の操作の有無を示す信号、シフトレバーポジションセンサ104からシフトレバー106の操作位置PSHを示す信号などが供給されるようになっている。なお、上記アクセル開度Accは、本発明における加速操作量に相当するものである。
【0044】
電子制御装置78からは、エンジン8の吸気管に備えられた電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを制御するスロットルアクチュエータ108への駆動信号、エンジン8の各気筒内への燃料供給量を制御する燃料噴射装置110への燃料供給量信号、エンジン8の点火時期を制御する点火装置111への点火時期信号、エンジン8の始動時に例えばエンジン8の出力軸(クランクシャフト)に固定された図示しないフライホイールを回転駆動するための電動機であるスターター109への駆動信号、トルクコンバータ6や自動変速機8の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御する油圧制御回路95へのバルブ駆動信号、電動機10の電動機回転速度NMを制御するインバータ112への電動機駆動信号等がそれぞれ出力されるようになっている。
【0045】
本実施例では、前記エンジン9の出力制御は、例えば、エンジン9の吸入空気量QAを調整するために電子スロットル弁108のスロットル弁開度θTHが制御されたり、燃料噴射装置110によりエンジン8の各気筒内への燃料噴射量が制御されたり、点火装置112によりエンジン8の点火時期が制御されることにより行われる。
【0046】
また、前記自動変速機8の変速制御は、油圧制御回路95によって行われ、例えば、車速軸とスロットル弁開度軸またはアクセル開度軸との二次元座標内において設定された複数本の変速線から構成される予め記憶された変速線図(変速マップ)から、実際のスロットル弁開度θTHまたはアクセル開度Accおよび車速Vに基づいて自動変速機8の変速すべきギヤ段が決定され、その決定されたギヤ段を成立させるために図4に示す係合作動表に従って油圧制御回路95によりクラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の係合解放状態が切り換えられることにより行われる。この係合解放状態の切り換えは、駆動力変化などの変速ショックが発生したり摩擦材の耐久性が損なわれたりすることを防止するために、各クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の係合圧が連続的に制御されることにより行われる。なお、上記変速制御は、スロットル弁開度θTHまたはアクセル開度Accの他に、吸入空気量QA、路面勾配などに基づいて行われる等、種々の態様が可能である。
【0047】
また、前記トルクコンバータ6の容量係数制御は、例えば、目標容量係数軸とアクセル開度軸との二次元座標内において設定された目標容量係数C*とアクセル開度Accとの予め記憶された関係(マップ)から、実際のアクセル開度Accに基づいて目標容量係数C*が算出され、次いで、目標容量係数軸とタービン翼車6tのポンプ翼車6pに対する回転速度比e2(NP/NT又はNT/NP)を示す回転速度比軸との二次元座標内において目標回転速度差△N*(=NT−NP*)をパラメータとして予め記憶された目標容量係数C*と回転速度比e2と目標回転速度差△N*との関係(マップ)から、上記算出された目標容量係数C*および実際の回転速度比e2に基づいて目標回転速度差△N*が算出され、その算出された目標回転速度差△N*すなわち目標ステータ回転速度NS*(=NT−△N*)を得るために、例えば、電子制御装置78の指令に従ってインバータ112から電動機10に供給される駆動電流ID、電動機10から出力される発電電流IG、または油圧制御回路95からクラッチCs、CiおよびブレーキBsへそれぞれ供給される油圧の大きさが適宜調整されるステータ回転速度制御が実行されることで実施される。
【0048】
上記ステータ回転速度制御は、前述のように、例えば、クラッチCsが係合された状態においてステータ翼車6sがその回転停止状態から電動機10でポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向或いはポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向に回転駆動されること、またはクラッチCsが係合された状態において電動機10の回生(発電)が行われてその回生により発生する回生トルクがステータ翼車6sに伝達されること、またはブレーキBsが係合されるとともにそのブレーキBsの係合度合いすなわち係合圧が調整されてステータ翼車6sの回転が制限されること、またはクラッチCiおよびCsが係合されることでステータ翼車6sが出力軸22に連結され、その出力軸でステータ翼車6sが回転駆動されてタービン翼車6tのタービン回転速度NTとステータ翼車6sのステータ回転速度Nsとの回転速度差△N(=NT−NS)が小さくされること等により行われる。
【0049】
なお、前記容量係数制御において用いられる回転速度比e2は、本発明におけるステータ翼車6sとタービン翼車6t(出力軸22)との速度比に相当するものである。この回転速度比e2は、エンジン9によりポンプ翼車6pが回転駆動されてトルクコンバータ6内に発生させられる流体流を受けることでタービン翼車6tが回転駆動されるエンジン走行状態においては、タービン翼車6tのポンプ翼車6pに対する比(=NT/NP)として表されるが、エンジン9の停止中に電動機10を用いて出力軸22を回転駆動させる電動機走行状態においては、逆駆動特性が適用されて、ポンプ翼車6pのタービン翼車6tに対する比(=NP/NT)として表される。
【0050】
ここで、本実施例のトルクコンバータ6において、遠心力により外周側に張り付く作動油は、トルクコンバータ6の断面において図1の流線FLに沿うようにポンプ翼車6p、タービン翼車6t、ステータ翼車6sの順に循環する。図6に示すように、ポンプ翼車6p、タービン翼車6t、ステータ翼車6sは、周方向において一定間隔に隔てられた複数の羽根を備えている。図6は、各翼車におけるトルクコンバータ6内の作動油の流線FLに沿った羽根の形状をそれぞれ表している。ポンプ翼車6pの羽根によってエネルギーが与えられることにより流動させられた作動油は、タービン翼車6tの羽根に作用してタービン翼車6tを回転させる。タービン翼車6tを通過した作動油は、コンバータ領域では、ステータ翼車6sの羽根に当たって方向変換させられた後、ポンプ翼車6pへ循環させられる。上記ステータ翼車6sの羽根に作動油が当たって方向変換させられることにより、そのステータ翼車6sに反力トルクが発生させられる。この反力トルクは、上記作動油の方向変換量(角度)に対応しており、後述のトルク比tの大きさに対応している。
【0051】
角運動量の定義によれば各翼車(ポンプ翼車6p、タービン翼車6t、およびステータ翼車6s)が作動油(流体)に与えるトルクT[N・m]は、次式(2)のように表される。
【0052】
T=(γ/g)×Q×△(r×vU) ・・・式(2)
【0053】
式(2)において、γはトルクコンバータ6内の作動油の比重量[kg/m3]、gは重力加速度[m/s2]、Qは上記作動油の体積流量[m3/s]、△(r×vU)は各翼車における流体流の出口と入口とにおける作動油の各絶対速度のモーメントr×vU[m2/s]の差である。
【0054】
上記式(2)から、ポンプ翼車6pが作動油に与えるトルクT1[N・m]、タービン翼車6tが作動油に与えるトルクT2[N・m]、およびステータ翼車6sが作動油に与えるトルクT3[N・m]は、次式(3)乃至(5)のように表される。式(3)乃至(5)において、TPはポンプトルク[N・m]すなわちエンジン出力トルクTE、TTはタービントルク[N・m]すなわち自動変速機8への入力トルク、TSはステータ翼車6sの反力トルクの大きさと一致するステータトルク[N・m]すなわちステータ翼車6sにより作動油の流れの向きが変えられる際にそのステータ翼車6sに対してポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向に作用するトルクである。
【0055】
T1= TP=(γ/g)×Q×(VUP×r2−VUS×r1)・・・式(3)
T2=−TT=(γ/g)×Q×(VUT×r3−VUP×r2)・・・式(4)
T3= TS=(γ/g)×Q×(VUS×r1−VUT×r3)・・・式(5)
【0056】
式(3)乃至(5)において、r1はポンプ翼車6pの流体流の出口bpおよびタービン翼車6tの流体流の入口atにおける回転軸心すなわち自動変速機8の入力軸(タービン軸)22からの距離[m]、r2はタービン翼車6tの流体流の出口btおよびステータ翼車6sの流体流の入口asにおける回転軸心からの距離[m]、r3はステータ翼車6sの流体流の出口bsおよびポンプ翼車6pの流体流の入口apにおける回転軸心からの距離[m]である。また、式(3)乃至(5)中において、VUPはポンプ翼車6pの絶対速度の円周分速度[m/s]、VUTはタービン翼車6tの絶対速度の円周分速度[m/s]、VUSはステータ翼車6sの絶対速度の円周分速度[m/s]である。
【0057】
式(3)乃至(5)からT1+T2+T3=0(零)が成立するため、ポンプトルクTP、タービントルクTT、およびステータトルクTSは次式(6)のように表される。つまり、トルクコンバータ6におけるポンプトルクTPに対するタービントルクTTのトルク増加分は、ステータトルクTSに一致することになる。
【0058】
TT=TP+TS・・・式(6)
【0059】
本実施例では、ステータ翼車6sの反力が前記容量係数制御により増減させられることから、その増減に伴ってタービン翼車6tから出力される出力トルクすなわちタービントルクTTが従来の一定容量のトルクコンバータで得られる出力トルクに対して増減させられるようになっている。
【0060】
図7および図8は、上述の内容を示す、本実施例のトルクコンバータ6の特性を示す図である。図7は、前記電動機走行状態におけるポンプ回転速度NPのタービン回転速度NTに対する比すなわち回転速度比e2(=NP/NT)とタービントルクTTのポンプトルクTPに対する比すなわちトルク比(トルク増幅率)t(=TT/TP)との関係を示す図であり、図8は、上記回転速度比e2とトルクコンバータ6の容量係数C(=TP/NP2)[N・m/rpm2]との関係を示す図である。上記容量係数Cは、ポンプ翼車6pを回転させるのにどれだけのトルクが必要か、すなわちポンプ翼車6pがどれだけ回されにくいかを表すものであり、この容量係数Cが小さいとポンプ翼車6pがタービン翼車6tに対して滑りやすくなってエンジン9のエンジン回転速度NEの変化が素早く行われるようになり、容量係数Cが大きいとポンプ翼車6pがタービン翼車6tに対して滑りにくくなってエンジン9のエンジン回転速度NEとトルクコンバータ6のタービン翼車6tとの回転速度差が小さくされるようになっている。
【0061】
図7および図8において、例えばブレーキBsが係合されてステータ翼車6sがトランスミッションケース11に固定されるか、或いはクラッチCsが係合されて制動トルクTBが所定の値に調整されることで、ステータ翼車6sが回転停止状態とされることにより、図7の実線に示すベースラインBtで示すように従来の一定容量のトルクコンバータと同様に設計上定まる所定のトルク比tでトルク伝達が行われる。なお、このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図8の実線で示すベースラインBCで示すようになる。
【0062】
また、図9の低容量化状態(1)に示すようにクラッチCsおよびクラッチCiが係合されてステータ翼車6sと出力軸22とが直結状態とされるか、或いはクラッチCsが係合されるとともに電動機10によりステータ翼車6sがその回転停止状態からポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向へ回転駆動されることで、ステータ回転速度NSがタービン回転速度NTと等しくされることにより、ステータトルクTSが増加し、図7のステータ正転(ステータ直結)を表す1点鎖線のように従来の一定容量のトルクコンバータで得られるよりも大きいトルク比tでトルクの伝達が行われる。このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図8のステータ正転(ステータ直結)を表す1点鎖線のようになる。すなわち、クラッチCsおよびCiの係合トルクが制御されるか或いはクラッチCsが係合されて電動機10の出力トルクが制御されることにより、トルクコンバータ6の容量係数Cが従来の一定容量のトルクコンバータの容量係数Cすなわちステータ翼車6sが回転停止状態とされた場合の容量係数Cに比較して小さくされるようになっている。
【0063】
また、図9の低容量化状態(2)に示すようにクラッチCsおよびクラッチCiが半係合されるとともにその係合度合いすなわち係合圧が調整されるか、或いはクラッチCsが係合されるとともに電動機10によりステータ翼車6sがその回転停止状態からポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向へ回転駆動されることで、ステータ翼車6sの回転速度NSが制御されることにより、ステータ翼車6sが回転停止状態であるときに比較してステータトルクTSが増加する。これにより、トルク比tは、図7の矢印aで示すように、同じ回転速度比e2であってもベースラインBtからステータ正転(ステータ直結)を表す1点鎖線までの範囲で適宜変更される。このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図8の矢印dで示すように、ベースラインBCからステータ正転(ステータ直結)を表す1点鎖線までの範囲で適宜変更される。
【0064】
また、クラッチCs、CiおよびブレーキBsが解放されてステータ翼車6sが自由回転状態とされることにより、ステータトルクTSが零とされると、図7のステータ逆転(ステータフリー)を表す点線のようにトルクの増大が行われずトルク比t=1でトルクの伝達が行われる。その結果、トルクコンバータ6が流体継手として作動するようになる。このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図8のステータ逆転(ステータフリー)を表す点線のようになる。
【0065】
また、クラッチCsが係合されてステータ翼車6sがその回転停止状態から電動機10でポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向に回転駆動されるか、或いはクラッチCsが係合されて電動機10の回生(発電)が行われてその回生により発生する回生トルクがステータ翼車6sに伝達されるか、或いは、ブレーキBsが係合されるとともにそのブレーキBsの係合度合いすなわち係合圧が調整されてステータ翼車6sの回転が制限されることで、ステータトルクTSがステータ翼車6sが固定される場合に比較して減少する。これにより、トルク比tは、図7の矢印bで示すように、同じ回転速度比e2であってもベースラインBtからステータ逆転(ステータフリー)を表す点線までの範囲で適宜変更される。このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図8の矢印cで示すように、ベースラインBCからステータ逆転(ステータフリー)を表す点線までの範囲で適宜変更される。
【0066】
本実施例におけるトルクコンバータ6では、クラッチCsおよびCiをそれぞれ介してステータ翼車6sに連結された出力軸22でステータ翼車6sを回転駆動させることによりトルクコンバータ6の容量係数Cを変更する第1可変容量係数走行と、クラッチCsを介してステータ翼車6sに連結された電動機10を用いてステータ翼車6sを回転駆動させることによりトルクコンバータ6の容量係数Cを変更する第2可変容量係数走行とを切り換える低容量化制御が行われることにより、ステータ翼車6sがトランスミッションケース11に対して固定されている従来の一定容量のトルクコンバータと同様に設計上定まる所定のトルク比tおよび容量係数Cに対して、トルク比tが増大され、容量係数Cが減少されるようになっている。なお、特に、図9に示すようにクラッチCiが係合されて電動機10により出力軸22を回転駆動する電動機走行状態であるときに容量係数Cを小さくする低容量化制御が行われる場合は、図9の低容量化状態(1)および(2)に示すように上記第1可変容量係数走行が実施される。
【0067】
このように、トルクコンバータ6は、クラッチCs、CiおよびブレーキBsが選択的に係合されることにより、前記第1可変容量係数走行を実施するか、前記第2可変容量係数走行を実施するか、あるいは通常走行を実施するかが適宜変更可能な構成となっている。なお、本実施例における上記通常走行とは、クラッチCs、Ciを解放させつつブレーキBsを係合させることによりステータ翼車6sがトランスミッションケース11に対して固定され、図7の実線に示すベースラインBtで示すように従来の一定容量のトルクコンバータと同様に設計上定まる所定のトルク比tでトルク伝達が行われるようにするものである。
【0068】
本実施例では、電子制御装置78は、車両の走行制御装置としても機能している。図10は、その走行制御装置として機能する電子制御装置78の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【0069】
図10において、車両走行判定手段120は、実際の車速Vが例えば0[km/h] またはそれに近い値に予め設定された車両走行判定値V1を上回るか否かに基づいて、車両が走行状態であるか否かを判定する。
【0070】
エンジン停止判定手段122は、実際のエンジン回転速度NEが例えば0[rpm] またはそれに近い値に予め設定されたエンジン停止判定値NE1以下であるか否かに基づいて、エンジンが停止状態であるか否かを判定する。
【0071】
要求駆動トルク算出手段124は、図11に示すような車速軸と要求駆動トルク軸との二次元座標内において、アクセル開度ACCをパラメータとして車速Vと車両の要求駆動トルクT*との予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際のアクセル開度ACCおよび車速Vに基づいて車両の要求駆動トルクT*を算出する。
【0072】
余裕トルク算出手段は、電動機回転速度NMと電動機10が出力できる最大駆動トルクTMAXとの予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の電動機回転速度NMに基づいて最大駆動トルクTMAXを算出するとともに、自動変速機8のギヤ比hをパラメータとして車速Vと現在の車速Vを維持するために必要な出力軸22のトルクである走行維持出力軸駆動トルク(走行維持駆動トルク)TKとの予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の車速Vおよび実際の自動変速機8のギヤ比hに基づいて走行維持出力軸駆動トルクTKを算出する。そして、余裕トルク算出手段は、上記算出された最大駆動トルクTMAXおよび走行維持出力軸駆動トルクTKに基づいて、それらの差で表される余裕駆動トルクTY(=TMAX−TK)を算出する。
【0073】
エンジン始動判定手段128は、要求駆動トルク算出手段124により算出された要求駆動トルクT*が余裕駆動トルク算出手段126により算出された余裕駆動トルクTYに比較して大きいときに、エンジン9の始動を要求する。
【0074】
モータ走行制御手段130は、エンジン始動判定手段128によりエンジン9の始動要求が行われないときに、クラッチCiを係合するように油圧制御回路95に対して指令を行うとともに電動機10で出力軸22を回転駆動するようにインバータ112に対して指令を行う。このとき、上記油圧制御回路95には、クラッチCiの油圧アクチュエータに所定の油圧が供給されるようにその油圧アクチュエータに対応して油圧制御回路95内に設けられた例えばリニアソレノイド弁等の電磁弁を作動させる信号が供給される。また、上記インバータ112には、車両の駆動トルクTが要求駆動トルク算出手段124により算出された要求駆動トルクT*となるように、例えば、先ず、要求駆動トルクT*を出力軸22から車両の駆動輪までの動力伝達効率ηと実際の自動変速機8のギヤ比hと終減速機の減速比iとで除した要求出力軸駆動トルクTO*を算出し、次いで、例えば図2に示すような電動機10の出力トルクである駆動トルクTDと電動機10を駆動するためにその電動機10に供給される駆動電流IDとの予め記憶された関係から、電動機10の駆動トルクTDを上記算出された要求出力軸駆動トルクTO*に一致させるための駆動電流IDを算出して、電動機10に上記算出された駆動電流IDを供給させる信号がインバータ112に供給される。
【0075】
低容量可能範囲算出手段132は、例えば図12に示すような回転速度比軸と容量係数軸との二次元座標内において、回転速度比e2と容量係数Cとの予め実験的に求められて記憶された関係(容量係数マップ)から、実際の回転速度比e2に基づいて、ステータ翼車6sがトランスミッションケース(非回転部材)11に固定された場合の容量係数Cとステータ翼車6sが出力軸22に直結状態とされた場合の容量係数Cとで示される低容量可能範囲Rを算出する。上記低容量可能範囲Rは、容量係数制御のうち、トルクコンバータ6を低容量化するための制御すなわちトルクコンバータ6の容量係数Cをステータ翼車6sがトランスミッションケース11に固定された場合の容量係数Cよりも小さくする低容量化制御を行うことによって変更可能な容量係数Cの範囲を示すものである。低容量可能範囲算出手段132は、例えば現在の回転速度比e2が図12に示すようにe2(0)、e2(1)、およびe2(2)であるときには、ステータ翼車6sがトランスミッションケース(非回転部材)11に固定された場合の容量係数Cを表す実線とステータ翼車6sが出力軸22に固定された場合の容量係数Cを表す一点差線との間の値で示される低容量可能範囲R(0)、R(1)、およびR(2)をそれぞれ算出する。
【0076】
低容量化実施判定手段134は、要求駆動トルク到達時間算出手段136と急加速判定手段138とを含む。
【0077】
上記要求駆動トルク到達時間算出手段136は、例えば図13に示すようなアクセル開度軸と要求駆動トルク到達時間軸との二次元座標内において、アクセル開度Accと要求駆動トルク到達時間ttとの予め実験的に求められて記憶された関係(要求駆動トルク到達時間マップ)から、実際のアクセル開度Accに基づいてエンジン9が始動されてから車両の駆動トルクTが前記要求駆動トルク算出手段124により算出された要求駆動トルクT*に達するまでにかかる要求駆動トルク到達時間ttを算出する。
【0078】
上記急加速判定手段138は、要求駆動トルク到達時間算出手段136により算出された要求駆動トルク到達時間ttが予め記憶された所定値tt1を下回る急加速状態か否かを判定する。このとき急加速状態ではないと判定されると、トルクコンバータ6の低容量化制御が行われないすなわち後述の低容量化制御手段140による可変容量係数走行が実施されないようになっている。
【0079】
低容量化制御手段140は、車両走行判定手段120により車両が走行状態であると判定されるとともにエンジン停止判定手段122によりエンジン9が停止状態であると判定されたとき即ちモータ走行制御手段130により電動機10が用いられて出力軸22が回転駆動される電動機走行状態であるときに、エンジン始動判定手段128によりエンジン9の始動が要求され、急加速判定手段138により要求駆動トルク到達時間ttが予め記憶された所定値tt1を下回る車両が所定以上の急加速状態であると判定された場合には、クラッチCsおよびCiをそれぞれ係合するように油圧制御回路95に対して指令を行って、それらクラッチCsおよびCiをそれぞれ介してステータ翼車6sに連結された出力軸22でそのステータ翼車6sを回転駆動させてタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nを小さくすることにより、トルクコンバータ6の容量係数Cをステータ翼車6sが回転停止状態であるときの値よりも小さくする第1可変容量係数走行を実施する。
【0080】
また、低容量化制御手段140は、エンジン停止判定手段122によりエンジン9が停止状態ではないと判定されたとき即ち電動機10が用いられずにエンジン9によりポンプ翼車6pが回転駆動されてトルクコンバータ6内に発生させられる流体流を受けることでタービン翼車6tが回転駆動されるエンジン走行状態であるときに、急加速判定手段138により急加速状態であると判定された場合には、クラッチCsを係合するように油圧制御回路95に対して指令を行うとともに、そのクラッチCsを介してステータ翼車6sに連結された電動機10を用いてそのステータ翼車6sを回転駆動させることにより、トルクコンバータ6の容量係数Cをステータ翼車6sが回転停止状態であるときの値よりも小さくする第2可変容量係数走行を実施する。
【0081】
低容量化制御手段140は、上記第1可変容量係数走行と第2可変容量係数走行とを切り換えるものであり、また、それら第1可変容量係数走行および第2可変容量係数走行の実施に際して、アクセル開度Accが大きいほどタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nを小さくしてトルクコンバータ6の容量係数Cを小さくするものである。この低容量化制御手段140は、目標容量係数算出手段142と目標容量係数最適化手段144と目標回転速度差算出手段とステータ回転速度制御手段148とを含んで構成されている。
【0082】
上記目標容量係数算出手段142は、例えば図14に示すようなアクセル開度軸と目標容量係数軸との二次元座標内において設定されたアクセル開度Accと低容量化制御を行うときの目標容量係数C*との予め実験的に求められて記憶された関係から、実際のアクセル開度Accに基づいて目標容量係数C*を算出する。本実施例では、アクセル開度Accがアクセル開度軸に直交する一点鎖線で示される所定値Acc1から矢印aで示すように大きくなるほど目標容量係数C*が小さくされ、また、アクセル開度Accが上記所定値Accから矢印bで示すように小さくなっても目標容量係数C*は一定の値とされる。これは、アクセル開度Accが上記所定値Acc1以下であるときには目標容量係数C*の変更が不要であることを示している。例えば、この所定値Acc1は、前記急加速判定手段138において用いられる所定値tt1に対応する値であり、所定値tt1は、所定値Acc1に基づいて予め設定される値である。
【0083】
前記目標容量係数最適化手段144は、目標容量係数算出手段142により算出された目標容量係数C*および低容量化可能範囲算出手段により算出された低容量化可能範囲Rに基づいて、目標容量係数C*が低容量化可能範囲R外であるときには、前記ステータ翼車6sが出力軸直結状態とされたときの容量係数Cを目標容量係数C*とする。
【0084】
前記目標回転速度差算出手段は、例えば図12に示すような回転速度比軸と目標容量係数軸との二次元座標内において、目標回転速度差△N*をパラメータとして回転速度比e2と目標容量係数C*との予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の回転速度比e2および目標容量係数算出手段142により算出された目標容量係数C*に基づいてタービン翼車6tとステータ翼車6sとの目標回転速度差△N*を算出する。
【0085】
前記ステータ回転速度制御手段148は、タービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nが目標回転速度差算出手段により算出された目標回転速度差△N*に一致するように、例えば前記第1可変容量係数走行を実施するときには、タービン回転速度NTおよびステータ回転速度NSを把握しつつクラッチCsおよびCiの係合度合いをそれぞれ調節してステータ翼車6sのステータ回転速度NSを制御する所謂フィードバック制御を実行し、また、例えば前記第2可変容量係数走行を実施するときには、タービン回転速度NTおよびステータ回転速度NSを把握しつつクラッチCsの係合度合いおよび電動機10の電動機回転速度NMをそれぞれ調節してステータ翼車6sのステータ回転速度NSを制御する所謂フィードバック制御を実行する。
【0086】
図15は、車両の走行制御装置として機能する電子制御装置78の制御作動の要部、すなわち電動機走行状態においてエンジン始動要求が為されるとともに急加速状態であると判定された場合においてトルクコンバータ6の低容量化を行うための一連の手順すなわち低容量化制御ルーチンを説明するフローチャートであり、例えば数msec〜数十msecの所定の周期で繰り返し実行される。
【0087】
図15において、車両走行判定手段120に対応するステップS1(以下、ステップを省略する)では、実際の車速Vが例えば0[km/h] またはそれに近い値に予め設定された車両走行判定値V1を上回るか否かに基づいて、車両が走行状態であるか否かが判定される。
【0088】
S1の判定が否定される場合には、モータ走行制御手段130に対応するS2において、クラッチCiを介して出力軸22に連結された電動機10でその出力軸22を回転駆動する電動機走行制御(EV走行制御)が継続される。
【0089】
また、S1の判定が肯定される場合には、エンジン停止判定手段122に対応するS3において、実際のエンジン回転速度NEが例えば0[rpm] またはそれに近い値に予め設定されたエンジン停止判定値NE1以下であるか否かに基づいて、エンジンが停止状態であるか否かを判定する。
【0090】
S3の判定が否定される場合には、前述のS2が実行されるが、肯定される場合には、要求駆動トルク算出手段124に対応するS4において、図11に示すような車速軸と要求駆動トルク軸との二次元座標内において、アクセル開度ACCをパラメータとして車速Vと要求駆動トルクT*との予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際のアクセル開度ACCおよび車速Vに基づいて車両の要求駆動トルクT*が算出される。
【0091】
次いで、余裕トルク算出手段に対応するS5において、先ず、電動機回転速度NMと電動機10が出力できる最大駆動トルクTMAXとの予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の電動機回転速度NMに基づいて最大駆動トルクTMAXが算出されるとともに、車速Vと自動変速機8のギヤ段と現在の車速Vを維持するために必要な出力軸22を駆動する走行維持出力軸駆動トルクTKとの予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の車速Vおよび実際のギヤ段に基づいて走行維持出力軸駆動トルクTKが算出される。そして、上記算出された最大駆動トルクTMAXおよび走行維持出力軸駆動トルクTKに基づいて、それらの差で表される余裕駆動トルクTY(=TMAX−TK)が算出される。
【0092】
次いで、エンジン始動判定手段128に対応するS6において、S4で算出された要求駆動トルクT*がS5で算出された余裕駆動トルクTYに比較して大きいか否かに基づいて、エンジン9の始動が必要か否かを判定する。
【0093】
S6の判定が否定される場合には、S7において、トルクコンバータ6の低容量化が行われない通常エンジン始動が実施される。
【0094】
また、S6の判定が肯定される場合には、低容量可能範囲算出手段132に対応するS8において、例えば図12に示すような回転速度比軸と容量係数軸との二次元座標内において、回転速度比e2と容量係数Cとの予め実験的に求められて記憶された関係(容量係数マップ)から、実際の回転速度比e2に基づいて、ステータ翼車6sがトランスミッションケース(非回転部材)11に固定された場合の容量係数Cとステータ翼車6sが出力軸22に直結状態とされた場合の容量係数Cとで示される低容量可能範囲Rが算出される。
【0095】
次いで、低容量化実施判定手段134に対応するS9において、先ず、例えば図13に示すようなアクセル開度軸と要求駆動トルク到達時間軸との二次元座標内において、アクセル開度Accと要求駆動トルク到達時間ttとの予め実験的に求められて記憶された関係から、実際のアクセル開度Accに基づいてエンジン9が始動されてから車両の駆動トルクTが前記要求駆動トルク算出手段124により算出された要求駆動トルクT*に達するまでにかかる要求駆動トルク到達時間ttが算出される。そして、上記算出された要求駆動トルク到達時間ttが予め記憶された所定値tt1を下回る急加速状態か否かに基づいて、低容量化制御の実施が必要か否かを判定する。
【0096】
S9の判断が否定される場合には、前述のS7が実施されるが、肯定される場合には、目標容量係数算出手段142および目標容量係数最適化手段144に対応するS10において、先ず、例えば図14に示すようなアクセル開度軸と目標容量係数軸との二次元座標内において設定されたアクセル開度Accと低容量化制御を行うときの目標容量係数C*との予め実験的に求められて記憶された関係から、実際のアクセル開度Accに基づいて目標容量係数C*が算出される。そして、上記算出された目標容量係数C*がS8で算出された低容量化可能範囲R外であるときには、ステータ翼車6sが出力軸直結状態とされたときの容量係数Cが目標容量係数C*とされる。
【0097】
次いで、目標回転速度差算出手段に対応するS11において、例えば図12に示すような回転速度比軸と目標容量係数軸との二次元座標内において、目標回転速度差△N*をパラメータとして回転速度比e2と目標容量係数C*との予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の回転速度比e2および目標容量係数算出手段142により算出された目標容量係数C*に基づいてタービン翼車6tとステータ翼車6sとの目標回転速度差△N*が算出される。
【0098】
次いで、ステータ回転速度制御手段148に対応するS12において、タービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△NがS11で算出された目標回転速度差△N*に一致するように、タービン回転速度NTおよびステータ回転速度NSを把握しつつクラッチCsおよびCiの係合度合いをそれぞれ調節してステータ翼車6sのステータ回転速度NSを制御する所謂フィードバック制御が実行される。
【0099】
図16は、車両の走行制御装置として機能する電子制御装置78の制御作動を説明するタイムチャートであり、前記低容量化制御のうち第1可変容量係数走行が実施される際のTAP[%]、エンジン回転速度NE[rpm]、タービン回転速度NT[rpm]、およびクラッチCsの係合油圧Pcs[Pa]の一例を時系列的に示す図である。図16における横軸は、経過時間を示している。なお、本タイムチャートは、アクセル操作に応じた要求駆動トルクT*を得るためにエンジン9の始動が必要となるCASE1、CASE2、およびCASE3を一例にとって説明する。上記CASE1は、アクセル操作が大きくエンジン始動後に速やかにエンジントルクの伝達が行われる場合である。上記CASE2は、アクセル操作がCASE1に比較して小さいが、低容量化制御を伴わない通常のエンジン始動に比較して早くエンジントルクの伝達が行われる場合である。上記CASE3は、アクセル操作がCASE1およびCASE2に比較して小さく、低容量化制御を伴わない通常のエンジン始動が行われる場合である。
【0100】
図16において、t1時点は、アクセルペダル98の踏み込み操作が開始された時点を示している。このt1時点より、アクセル開度Accに応じて電動機10で出力軸22が駆動されることにより、図16のCASE1(実線)、CASE2(一点鎖線)、およびCASE3(二点鎖線)で示すようにタービン回転速度NTがそれぞれ上昇し始める。
【0101】
t1時点からt2時点までの間においては、上記タービン回転速度NTの上昇に伴ってタービン回転速度NTが車両走行判定値V1に対応する所定値を上回ることによって図15のフローチャートのS1が肯定される。また、電動走行状態であることによって図15のS2が肯定される。そして、図15のS4およびS5が実行され、図15のS6においてエンジン始動の必要性があると判定される。そして、図15のS8が実行され、図15のS9が実行される。ここで、CASE1およびCASE2では、図14に示すように、CASE1におけるアクセル開度Acc_case1およびCASE2におけるアクセル開度Acc_case2が、低容量化実施判定において低容量化制御の実行が判定される際の閾値としての所定値tt1に対応する所定値Acc1をそれぞれ上回っていることから、図15のS9での判定が肯定され、S10およびS11が実行される。また、CASE3では、図14に示すように、CASE3におけるアクセル開度Acc_case3が所定値Acc1と等しいことから、図15のS9での判定が否定される。
【0102】
t2時点は、CASE1およびCASE2の場合、図15のS12が実行されることでエンジン9が始動されるとともにトルクコンバータ6の低容量化制御が実施される時点を示している。また、t2時点は、CASE3の場合、図15のS7が実行されることでトルクコンバータ6の低容量化制御を伴わない通常のエンジン9の始動が実施される時点を示している。
【0103】
CASE1およびCASE2においては、t2時点より、トルクコンバータ6の回転速度差△Nが図15のS11で算出された目標回転速度差△N*に一致するようにクラッチCsの係合油圧Pcsの制御が開始されている。これにともなって、クラッチCsの係合油圧Pcsが上昇させられている。CASE1におけるアクセル開度Acc_case1は、CASE2におけるアクセル開度Acc_case2に比較して大きいため、CASE1では、CASE2に比較して回転速度差△Nをより小さくするために係合油圧Pcsがより大きくされている。これにより、CASE1では、CASE2に比較してトルクコンバータ6の容量係数Cがより小さくされる。このため、CASE1では、CASE2に比較してエンジン回転速度NEがより速やかに上昇している。
【0104】
CASE3においては、低容量化制御が実施されないため、t2時点以降もクラッチCsの係合油圧Pcsが変更されていない。これにより、CASE2では、CASE3に比較してトルクコンバータ6の容量係数Cがより小さくされる。このため、CASE2では、CASE3に比較してエンジン回転速度NEがより速やかに上昇している。
【0105】
t3時点は、CASE1においてエンジントルクがタービン翼車6tに伝達開始される時点を示している。また、t4時点は、CASE1においてエンジントルクがタービン翼車6tに伝達開始される時点を示している。また、t5時点は、CASE1においてエンジントルクがタービン翼車6tに伝達開始される時点を示している。前述のように、容量係数Cが最も小さくされたCASE1が、最も早くエンジントルク伝達開始時点に達し、最もエンジン9の始動応答性が高められている。また、その次に容量係数Cが小さくされたCASE2が、CASE3に比較して早くエンジントルク伝達開始時点に達し、エンジン9の始動応答性が高められている。
【0106】
上述のように、本実施例の車両の走行制御装置によれば、入力軸21に連結されたポンプ翼車6pと、出力軸22に連結されたタービン翼車6tと、それらタービン翼車6tとポンプ翼車6pとの間に配設されたステータ翼車6sとを有するトルクコンバータ6と、入力軸21に連結されたエンジン9とを備えた車両の走行制御装置であって、出力軸22を回転駆動するための電動機10と、ステータ翼車6sを出力軸22に選択的に連結する係合装置としてのクラッチCsおよびCiと、エンジン9の停止中に電動機10を用いて出力軸22を回転駆動させる電動機走行状態であるときにエンジン9の始動要求があった場合には、クラッチCsおよびCiを介してステータ翼車6sを出力軸22に連結してその出力軸22でそのステータ翼車6sを回転駆動させてタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nを小さくすることにより、トルクコンバータ6の容量係数Cをステータ翼車6sが回転停止状態であるときの値よりも小さくする低容量化制御手段140とを含むことから、トルクコンバータレンジにおいてステータ翼車6sの回転がその回転停止状態からポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向の範囲で制御される従来のものに比較して、ステータ翼車6sをその回転停止状態からポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向に回転駆動させることでトルクコンバータ6のトルク比tを高め且つ容量係数Cを低く変化させることができるので、エンジン9の始動応答性を向上させて車両の駆動トルクTを速やかに要求駆動トルクT*まで到達させることができ、車両の動力性能を十分に高めることができる。
【0107】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、低容量化制御手段140は、運転者の加速操作量としてのアクセル開度Accが大きいほどタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nを小さくしてトルクコンバータ6の容量係数Cを小さくするものであることから、アクセル開度Accの大きさに比例するように設定された車両の要求駆動トルクT*が大きいほどトルクコンバータ6の容量係数Cが小さくされるので、エンジンの始動応答性を高めることができ、車両の動力性能をより効果的に高めることができる。
【0108】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてトルクコンバータ6の目標容量係数C*を算出する目標容量係数算出手段142と、予め記憶された関係から目標容量係数算出手段142により算出された目標容量係数C*に基づいてステータ翼車6sとタービン翼車6tとの目標回転速度差△N*を算出する目標回転速度差算出手段とを備え、低容量化制御手段140は、タービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nが目標回転速度差算出手段により算出された目標回転速度差△N*に一致するように、クラッチCsおよびCiの係合度合いをそれぞれ調節してステータ回転速度NSを制御するものであることから、クラッチCsおよびCiの係合度合いすなわちスリップ量をそれぞれ制御することにより、アクセル開度Accに応じたエンジン9の始動性を得るために必要且つ充分に容量係数Cを制御することができる。
【0109】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、予め記憶された関係からポンプ翼車6pのタービン翼車6tに対する回転速度比e1に基づいてステータ翼車6Sが自由回転状態とされた場合の容量係数Cとステータ翼車6sが出力軸直結状態とされた場合の容量係数Cとにより示される低容量化可能範囲Rを算出する低容量化可能範囲算出手段と、目標容量係数算出手段142により算出された目標容量係数C*が低容量化可能範囲算出手段により算出された低容量化可能範囲R外であるときには、ステータ翼車6sが出力軸直結状態とされたときの容量係数Cを目標容量係数C*とする目標容量係数最適化手段144とを備えることから、過大な偏差に対応したクラッチCsおよびCiの操作が行われることがないので、制御系が安定し、より確実にエンジン9の始動性を向上させることができる。
【0110】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、低容量化制御手段140は、要求駆動トルク到達時間ttが所定値tt1を下回る急加速状態である場合に低容量化制御を実行することから、車両が所定以上の急加速状態すなわち要求駆動トルク到達時間ttが所定値tt1を下回る急加速状態でない緩加速状態の場合には必要以上に容量係数Cを低下させないので、容量係数Cを低下させるためにステータ翼車6sが出力軸22に連結されることで出力軸22の駆動トルクTが必要以上に低下することを抑制することができ、車両の加速性能や燃費性能を高めることができる。
【0111】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてエンジン9が始動されてから車両の駆動トルクTがそのアクセル開度Accに対応する要求駆動トルクT*に達するまでにかかる要求駆動トルク到達時間ttを算出する要求駆動トルク到達時間算出手段136と、その要求駆動トルク到達時間算出手段136により算出された要求駆動トルク到達時間ttが所定値tt1を下回る急加速状態か否かを判定する急加速判定手段138とを備え、低容量化制御手段140は、急加速判定手段138により車両の急加速状態が判定された場合に前記低容量化制御を実行することから、要求駆動トルク到達時間tt1が長い緩加速状態の場合には必要以上にトルクコンバータ6の容量係数Cを低下させないので、容量係数Cを低下させるためにステータ翼車6sが出力軸22に連結されることで出力軸22の駆動トルクTが必要以上に低下することを抑制することができ、車両の加速性能や燃費性能を高めることができる。
【0112】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいて車両の要求駆動トルクT*を算出する要求駆動トルク算出手段124と、予め記憶された関係から車速Vに基づいて電動機10が出力可能な最大駆動トルクとその車速Vを維持するための走行維持出力軸駆動トルクTKとの差で示される余裕駆動トルクTYを算出する余裕駆動トルク算出手段126と、要求駆動トルク算出手段124により算出された要求駆動トルクT*が余裕駆動トルク算出手段126により算出された余裕駆動トルクTYに比較して大きいときに、エンジン9の始動を要求するエンジン始動判定手段128とを備えていることから、要求駆動トルクT*を達成するために必要なときだけエンジン9を始動させることができる。
【0113】
また、本実施例の車両の走行制御装置によれば、トルクコンバータ6は、係合装置として、電動機10とステータ翼車6sとの間に配設されてその電動機10とそのステータ翼車6sとを選択的に連結するクラッチ(第1クラッチ)Csと、電動機10と出力軸22との間に配設されてその電動機10とその出力軸22とを選択的に連結するクラッチ(第2クラッチ)Ciとを有し、低容量化制御手段140は、クラッチCsおよびCiをそれぞれ介してステータ翼車6sに連結された出力軸22でそのステータ翼車6sを回転駆動させることによりトルクコンバータ6の容量係数Cを変更する第1可変容量係数走行と、クラッチCsを介してステータ翼車6sに連結された電動機10を用いてそのステータ翼車6sを回転駆動させることによりトルクコンバータ6の容量係数Cを変更する第2可変容量係数走行とを切り換えるものであることから、トルクコンバータレンジにおいてステータ翼車6sの回転がその回転停止状態からポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向の範囲で制御される従来のものに比較して、クラッチCsおよびCiの総合係合度合いを調整してステータ翼車6sをその回転停止状態からポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向に回転駆動させることによりトルクコンバータ6のトルク比tを高め且つ容量係数Cを低く変化させることができるので、エンジン9の始動応答性を向上させて車両の駆動トルクTを速やかに要求駆動トルクT*まで到達させることができ、車両の動力性能を十分に高めることができる。
【0114】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0115】
例えば、前述の実施例において、トルクコンバータ6は、ステータ翼車6sとトランスミッションケース11との間のブレーキBsが除去されて構成されても差し支えない。それにより、エンジン9の始動時に限らず実施されるトルクコンバータ6の容量係数制御は、電動機10およびクラッチCs、Ciのみによって行われてもよい。また、ロックアップクラッチL/Cは、必ずしも設けられなくてもよい。
【0116】
また、前述の実施例において、トルクコンバータ6は、係合装置としてステータ翼車6sと電動機10との間に設けられたクラッチCsおよび電動機10と出力軸22との間に設けられたクラッチCiを備え、ステータ翼車6sを出力軸に連結するときにはそれらクラッチCsおよびクラッチCiをそれぞれ係合することにより行われていたが、たとえば、上記クラッチCsは、ステータ翼車6sと出力軸22との間に設けられ、ステータ翼車6sを出力軸に連結するときにはそのクラッチCsを係合することにより行われもよい。そして、クラッチCiは、除去されてもよい。
【0117】
また、前述の実施例において、低容量化制御手段140は、前記第1可変容量係数走行および第2可変容量係数走行の実施に際して、アクセル開度Accが大きいほどタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nを小さくしてトルクコンバータ6の容量係数C(目標容量係数C*)を小さくするものであったが、これに限らず、アクセル開度Accの大きさに関係なく回転速度差△Nを一律に予め設定された所定値とし、容量係数C(目標容量係数C*)を一律に小さくするもの、或いは、アクセル開度Accの大きさに応じて回転速度差△Nを予め段階的に設定された複数の所定値とし、容量係数C(目標容量係数C*)を段階的に小さくするものであってもよい。これに伴い、低容量化制御手段140は、目標容量係数算出手段142、目標容量係数最適化手段144、および目標回転速度差算出手段が設けられず、また、そのうちステータ回転速度制御手段148は、回転速度差△Nが上記予め設定された所定値に一致するように、前記第1可変容量係数走行或いは第2可変容量係数走行を実施するものであってもよい。
【0118】
また、前述の実施例において、低容量化制御手段140は、前記第1可変容量係数走行および第2可変容量係数走行の実施に際して、アクセル開度Accが大きいほどタービン翼車6tとステータ翼車6sとの回転速度差△Nを小さくしてトルクコンバータ6の容量係数Cを小さくするものであったが、これに限らず、アクセル開度Accが大きいほどステータ翼車6sのタービン翼車6tに対する回転速度比e1を小さくしてトルクコンバータ6の容量係数Cを小さくするものであってもよい。これにより、前記目標回転速度差算出手段に代えて、例えば回転速度比軸と目標容量係数軸との二次元座標内において、目標回転速度比e1*をパラメータとして回転速度比e2と目標容量係数C*との予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から、実際の回転速度比e2および目標容量係数算出手段142により算出された目標容量係数C*に基づいてステータ翼車6sのタービン翼車6tに対する目標回転速度比e1*を算出する目標回転速度比算出手段が設けられてもよい。そして、ステータ回転速度制御手段148は、実際の回転速度比e1が上記目標回転速度比算出手段により算出された目標回転速度比e1*に一致するようにステータ翼車6sのステータ回転速度NSを制御するものであってもよい。
【0119】
また、前述の実施例においては、加速操作量としてアクセル開度Accが用いられていたが、これに限らず、例えば、スロットル弁開度θTHや吸入空気量QA、或いは燃料噴射量などが用いられてもよい。
【0120】
また、前述の実施例において、低容量化制御を実施するか否かの判定は、要求駆動トルク到達時間算出手段136により算出された要求駆動トルク到達時間ttが予め記憶された所定値tt1を下回る急加速状態か否かに基づいて行われていたが、例えば、アクセル開度Accが図14に示す予め設定された所定値Acc1以下であるか否かに基づいて行われてもよい。
【0121】
また、前述の実施例において、車両は、走行用の動力源として例えば内燃機関等で構成されるエンジン9を備え、また、縦置型の自動変速機8を備えたFR方式の後輪駆動車両であったが、これに限らない。要するに、トルクコンバータ6を備えるものであれば、本発明は適用され得る。例えば、FF方式の前輪駆動車両や、RR方式或いはMR方式の後輪駆動車両、または全輪駆動車両等であってもよい。そして、自動変速機8に関しては、変速機の構造は前述の実施例のものに限定されず、遊星歯車装置又はクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2などの各係合要素の数や変速段数、および上記各係合要素が上記遊星歯車装置のどの要素と選択的に連結されているか等に特に限定はない。
【0122】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の一実施例のトルクコンバータ(可変容量型トルクコンバータ)が適用された車両用駆動装置の構成の一部を説明する骨子図である。
【図2】図1のトルクコンバータの電動機における駆動電流と駆動トルクとの関係を示す図である。
【図3】図1のトルクコンバータの電動機における発電電流と制動トルクとの関係を示す図である。
【図4】図1の自動変速機において各変速段を成立させる際の各係合要素の作動状態を説明する作動表である。
【図5】図1のエンジンや自動変速機、あるいはトルクコンバータなどを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図である。
【図6】図1のトルクコンバータにおいて、ポンプ翼車、タービン翼車、ステータ翼車の羽根の流線に沿った断面形状をそれぞれ展開して示す図である。
【図7】図1のトルクコンバータの特性を示す図であって、速度比に対するトルク比を示す図である。
【図8】図1のトルクコンバータの特性を示す図であって、速度比に対する容量係数を示す図である。
【図9】図1のトルクコンバータを有する車両の電動機走行状態とその電動機走行状態からエンジン始動が行われる際に低容量化制御が実施される車両の走行状態とにおける電動機、クラッチ、およびブレーキのそれぞれの作動状態を表す表を示す図である。
【図10】図1のトルクコンバータを有する車両の走行制御装置として機能する電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図11】アクセル開度をパラメータとして車速と要求駆動力との予め実験的に求められて記憶された関係を示す図である。
【図12】回転速度差をパラメータとして回転速度比と容量係数との予め実験的に求められて記憶された関係を示す図である。
【図13】アクセル開度と要求駆動トルク到達時間との予め実験的に求められて記憶された関係を示す図である。
【図14】アクセル開度と目標容量係数との予め実験的に求められて記憶された関係を示す図である。
【図15】図1のトルクコンバータを有する車両の走行制御装置として機能する電子制御装置の制御作動の要部、すなわち電動機走行状態においてエンジン始動要求が為されるとともに急加速状態であると判定された場合においてトルクコンバータの低容量化を行うための一連の手順すなわち低容量化制御ルーチンを説明するフローチャートである。
【図16】図1のトルクコンバータを有する車両の走行制御装置として機能する電子制御装置の制御作動を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0124】
6:トルクコンバータ(可変容量型トルクコンバータ)
6p:ポンプ翼車
6t:タービン翼車
6s:ステータ翼車
9:エンジン
10:電動機
22:出力軸
78:電子制御装置(走行制御装置)
120:車両走行判定手段
122:エンジン停止判定手段
124:要求駆動トルク算出手段
126:余裕駆動トルク算出手段
128:エンジン始動判定手段
130:モータ走行制御手段
132:低容量可能範囲算出手段
134:低容量化実施判定手段
136:要求駆動トルク到達時間算出手段
138:急加速判定手段
140:低容量化制御手段
142:目標容量係数算出手段
144:目標容量係数最適化手段
146:目標回転速度手段
148:ステータ回転速度制御手段
Acc、Acc_case1、Acc_case2、Acc_case3:アクセル開度(加速操作量)
C:容量係数
C*:目標容量係数
Cs:クラッチ(第1クラッチ)
Ci:クラッチ(第2クラッチ)
NS:ステータ回転速度
NS*:目標ステータ回転速度
NT:タービン回転速度
R、R(0)、R(1)、R(2):低容量可能範囲
T:駆動トルク
T*:要求駆動トルク
TK:走行維持出力軸駆動トルク(走行維持駆動トルク)
TY:余裕駆動トルク
V:車速
e1、e2、e2(0)、e2(1)、e2(2):回転速度比(速度比)
tt:要求駆動トルク到達時間
tt1:所定値
△N:回転速度差(回転差)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸に連結されたポンプ翼車と、出力軸に連結されたタービン翼車と、該タービン翼車と該ポンプ翼車との間に配設されたステータ翼車とを有するトルクコンバータと、前記入力軸に連結されたエンジンとを備えた車両の走行制御装置であって、
前記出力軸を回転駆動するための電動機と、
前記ステータ翼車を前記出力軸に選択的に連結する係合装置と、
前記エンジンの停止中に前記電動機を用いて前記出力軸を回転駆動させる電動機走行状態であるときに前記エンジンの始動要求があった場合には、前記係合装置の係合トルクを制御して前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差を小さくすることにより、前記トルクコンバータの容量係数を前記ステータ翼車が回転停止状態であるときの値よりも小さくする低容量化制御手段と
を、含むことを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記低容量化制御手段は、運転者の加速操作量が大きいほど前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差を小さくして前記トルクコンバータの容量係数を小さくするものであることを特徴とする請求項1の車両の走行制御装置。
【請求項3】
予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて前記トルクコンバータの目標容量係数を算出する目標容量係数算出手段と、
予め記憶された関係から該目標容量係数算出手段により算出された前記目標容量係数に基づいて前記ステータ翼車と前記タービン翼車との目標回転差を算出する目標回転差算出手段とを備え、
前記低容量化制御手段は、前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差が前記目標回転差算出手段により算出された前記目標回転差に一致するように、前記係合装置の係合度合いを調節して前記ステータ翼車の回転速度を制御するものであることを特徴とする請求項1または2の車両の走行制御装置。
【請求項4】
予め記憶された関係から前記ポンプ翼車と前記タービン翼車との速度比に基づいて前記ステータ翼車が自由回転状態とされた場合の前記トルクコンバータの容量係数と前記ステータ翼車が出力軸直結状態とされた場合の前記トルクコンバータの容量係数とにより示される低容量化可能範囲を算出する低容量化可能範囲算出手段と、
前記目標容量係数算出手段により算出された前記目標容量係数が前記低容量化可能範囲算出手段により算出された前記低容量化可能範囲外であるときには、前記ステータ翼車が出力軸直結状態とされたときの容量係数を目標容量係数とする目標容量係数最適化手段と
を、備えることを特徴とする請求項3の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記低容量化制御手段は、車両が所定以上の急加速状態である場合に前記低容量化制御を実行することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1の車両の走行制御装置。
【請求項6】
予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて前記エンジンが始動されてから車両の駆動トルクが該加速操作量に対応する要求駆動トルクに達するまでにかかる要求駆動トルク到達時間を算出する要求駆動トルク到達時間算出手段と、
該要求駆動トルク到達時間算出手段により算出された前記要求駆動トルク到達時間が所定値を下回る車両の急加速状態か否かを判定する急加速判定手段とを備え、
前記低容量化制御手段は、該急加速判定手段により車両の急加速状態が判定された場合に前記低容量化制御を実行することを特徴とする請求項5の車両の走行制御装置。
【請求項7】
予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて車両の要求駆動トルクを算出する要求駆動トルク算出手段と、
予め記憶された関係から車速に基づいて前記電動機が出力可能な最大駆動トルクと該車速を維持するための走行維持駆動トルクとの差で示される余裕駆動トルクを算出する余裕駆動トルク算出手段と、
前記要求駆動トルク算出手段により算出された要求駆動トルクが前記余裕駆動トルク算出手段により算出された余裕駆動トルクに比較して大きいときに、前記エンジンの始動を要求するエンジン始動判定手段とを備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1の車両の走行制御装置。
【請求項8】
前記係合装置は、前記電動機と前記ステータ翼車との間に配設されて該電動機と該ステータ翼車とを選択的に連結する第1クラッチと、前記電動機と前記出力軸との間に配設されて該電動機と該出力軸とを選択的に連結する第2クラッチとを有し、
前記低容量化制御手段は、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチをそれぞれ介して前記ステータ翼車に連結された前記出力軸で該ステータ翼車を回転駆動させることにより前記トルクコンバータの容量係数を変更する第1可変容量係数走行と、前記第1クラッチを介して前記ステータ翼車に連結された前記電動機を用いて該ステータ翼車を回転駆動させることにより前記トルクコンバータの容量係数を変更する第2可変容量係数走行とを切り換えるものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1の車両の走行制御装置。
【請求項1】
入力軸に連結されたポンプ翼車と、出力軸に連結されたタービン翼車と、該タービン翼車と該ポンプ翼車との間に配設されたステータ翼車とを有するトルクコンバータと、前記入力軸に連結されたエンジンとを備えた車両の走行制御装置であって、
前記出力軸を回転駆動するための電動機と、
前記ステータ翼車を前記出力軸に選択的に連結する係合装置と、
前記エンジンの停止中に前記電動機を用いて前記出力軸を回転駆動させる電動機走行状態であるときに前記エンジンの始動要求があった場合には、前記係合装置の係合トルクを制御して前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差を小さくすることにより、前記トルクコンバータの容量係数を前記ステータ翼車が回転停止状態であるときの値よりも小さくする低容量化制御手段と
を、含むことを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記低容量化制御手段は、運転者の加速操作量が大きいほど前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差を小さくして前記トルクコンバータの容量係数を小さくするものであることを特徴とする請求項1の車両の走行制御装置。
【請求項3】
予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて前記トルクコンバータの目標容量係数を算出する目標容量係数算出手段と、
予め記憶された関係から該目標容量係数算出手段により算出された前記目標容量係数に基づいて前記ステータ翼車と前記タービン翼車との目標回転差を算出する目標回転差算出手段とを備え、
前記低容量化制御手段は、前記タービン翼車と前記ステータ翼車との回転差が前記目標回転差算出手段により算出された前記目標回転差に一致するように、前記係合装置の係合度合いを調節して前記ステータ翼車の回転速度を制御するものであることを特徴とする請求項1または2の車両の走行制御装置。
【請求項4】
予め記憶された関係から前記ポンプ翼車と前記タービン翼車との速度比に基づいて前記ステータ翼車が自由回転状態とされた場合の前記トルクコンバータの容量係数と前記ステータ翼車が出力軸直結状態とされた場合の前記トルクコンバータの容量係数とにより示される低容量化可能範囲を算出する低容量化可能範囲算出手段と、
前記目標容量係数算出手段により算出された前記目標容量係数が前記低容量化可能範囲算出手段により算出された前記低容量化可能範囲外であるときには、前記ステータ翼車が出力軸直結状態とされたときの容量係数を目標容量係数とする目標容量係数最適化手段と
を、備えることを特徴とする請求項3の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記低容量化制御手段は、車両が所定以上の急加速状態である場合に前記低容量化制御を実行することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1の車両の走行制御装置。
【請求項6】
予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて前記エンジンが始動されてから車両の駆動トルクが該加速操作量に対応する要求駆動トルクに達するまでにかかる要求駆動トルク到達時間を算出する要求駆動トルク到達時間算出手段と、
該要求駆動トルク到達時間算出手段により算出された前記要求駆動トルク到達時間が所定値を下回る車両の急加速状態か否かを判定する急加速判定手段とを備え、
前記低容量化制御手段は、該急加速判定手段により車両の急加速状態が判定された場合に前記低容量化制御を実行することを特徴とする請求項5の車両の走行制御装置。
【請求項7】
予め記憶された関係から前記加速操作量に基づいて車両の要求駆動トルクを算出する要求駆動トルク算出手段と、
予め記憶された関係から車速に基づいて前記電動機が出力可能な最大駆動トルクと該車速を維持するための走行維持駆動トルクとの差で示される余裕駆動トルクを算出する余裕駆動トルク算出手段と、
前記要求駆動トルク算出手段により算出された要求駆動トルクが前記余裕駆動トルク算出手段により算出された余裕駆動トルクに比較して大きいときに、前記エンジンの始動を要求するエンジン始動判定手段とを備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1の車両の走行制御装置。
【請求項8】
前記係合装置は、前記電動機と前記ステータ翼車との間に配設されて該電動機と該ステータ翼車とを選択的に連結する第1クラッチと、前記電動機と前記出力軸との間に配設されて該電動機と該出力軸とを選択的に連結する第2クラッチとを有し、
前記低容量化制御手段は、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチをそれぞれ介して前記ステータ翼車に連結された前記出力軸で該ステータ翼車を回転駆動させることにより前記トルクコンバータの容量係数を変更する第1可変容量係数走行と、前記第1クラッチを介して前記ステータ翼車に連結された前記電動機を用いて該ステータ翼車を回転駆動させることにより前記トルクコンバータの容量係数を変更する第2可変容量係数走行とを切り換えるものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1の車両の走行制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−127462(P2010−127462A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306878(P2008−306878)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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