説明

車両乗務員支援装置

【課題】列車が駅ホームに対して正規の停車位置から外れて停車した場合に誤って扉の開閉操作を行われるのを防ぐ。
【解決手段】車両が停車する駅ホームHの手前に設置されたIDタグ40から送信されるトリガ信号をIDタグ送受信部2で受信し、IDタグ送受信部2でトリガ信号を受信してから演算処理部1にて走行速度がゼロになったことを検出するまでの間に列車が走行した距離を演算する。演算処理部1は、演算した走行距離に基づいて停車している列車と駅ホームHとの相対的な位置関係を特定するとともに当該位置関係から駅ホームHを基準として定められた所定の停車範囲内に列車が停車していると判定される場合にのみ、扉インタロック回路部4のインタロックを解除して乗務員による扉の開放操作を許可する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、進行方向に沿った側面に乗降用の扉を有する車両に搭載され、当該車両の乗務員による前記扉の開閉操作を支援するための車両乗務員支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、進行方向に沿った側面に乗降用の扉を有する車両に搭載され、当該車両の乗務員による前記扉の開閉操作を支援するための車両乗務員支援装置として、駅ホームに対向しない方の側面に設けられた扉が誤って開閉操作されることを防止するものが既に提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、列車が駅に到着した際、当該列車に車掌が乗務している場合は車掌が車両側面の扉の開閉操作を行うが、この場合、車掌は車両の停車位置を目視で確認して乗務員室内に設けられている扉操作釦を操作して扉を開閉する。一方、車掌が乗務していないワンマン運転の列車では、運転士が車両の停車位置を目視で確認して運転席前方の操作パネルに設けられている扉操作釦を操作して扉を開閉する。
【特許文献1】特許第3595770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、列車が正規の停車位置を通り過ぎて停車した場合、あるいは列車が正規の停車位置よりも手前に停車した場合、先頭車両の最前部の扉若しくは後尾車両の最後部の扉が駅ホームの有効な乗降位置から外れてしまうことがある。そして、車掌が乗務している場合に先頭車両の最前部の扉が駅ホームの有効な乗降位置から外れていることを車掌が直接知ることができず、また、車掌が乗務していない場合に後尾車両の最後部の扉が駅ホームの有効な乗降位置から外れていることを運転士が直接知ることができないため、車掌又は運転士が誤って扉の開閉操作を行ってしまい、かかる誤操作によって乗客が駅ホームに降車できなかったり、あるいは駅ホームで待っている待ち客が列車に乗車できなくなる虞があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、列車が駅ホームに対して正規の停車位置から外れて停車した場合に誤って扉の開閉操作を行われるのを防ぐことができる車両乗務員支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、進行方向に沿った側面に乗降用の扉を有する車両に搭載され、当該車両の乗務員による前記扉の開閉操作を支援するための車両乗務員支援装置であって、前記車両が停車する駅ホームの手前に設置された送信機から無線通信媒体により送信されるトリガ信号を受信する受信手段と、車両の走行速度を検出する走行速度検出手段と、前記受信手段でトリガ信号を受信してから前記走行速度検出手段にて走行速度がゼロになったことを検出するまでの間に当該車両が走行した距離を演算する走行距離演算手段と、当該走行距離演算手段で演算した走行距離に基づいて停車している当該車両と前記駅ホームとの相対的な位置関係を特定するとともに当該位置関係から前記駅ホームを基準として定められた所定の停車範囲内に当該車両が停車していると判定される場合にのみ乗務員による前記扉の開閉操作を許可する扉開閉許可手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記扉開閉許可手段が扉の開閉操作を許可しなかったときに音又は光で乗務員に警告する警告手段を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記走行距離演算手段は、前記走行速度検出手段で検出する走行速度に基づいて求められる加速度が所定のしきい値以上であるときは予め決められている規定の走行速度によって走行距離を演算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、前記車両が停車する駅ホームの手前に設置された送信機から無線通信媒体により送信されるトリガ信号を受信手段で受信し、受信手段でトリガ信号を受信してから前記走行速度検出手段にて走行速度がゼロになったことを検出するまでの間に当該車両が走行した距離を走行距離演算手段で演算し、扉開閉許可手段が、走行距離演算手段で演算した走行距離に基づいて停車している当該車両と前記駅ホームとの相対的な位置関係を特定するとともに当該位置関係から前記駅ホームを基準として定められた所定の停車範囲内に当該車両が停車していると判定される場合にのみ乗務員による前記扉の開閉操作を許可するため、車両が駅ホームに対して正規の停車位置から外れて停車した場合には扉開閉許可手段によって扉の開閉操作が許可されず、その結果、誤って扉の開閉操作を行われるのを防ぐことができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、警告手段で警告することにより、扉の開閉操作が許可されていないことを乗務員に知らせて事後の対応を速やかに行うように注意を喚起することができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、加速度が所定のしきい値以上となったとき、走行距離演算手段が車輪の空転若しくは滑走が発生した判断し、予め決められている規定の走行速度によって走行距離を演算するため、車輪の空転や滑走による走行距離の誤差を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
本実施形態の車両乗務員支援装置Aは、図1に示すように列車の先頭車両Xにおける運転室内に設置されており、CPUを主構成要素とする演算処理部1、IDタグ送受信部2、速度信号入力部3、扉インタロック回路部4、音声出力部5、インタフェース(I/F)部6を備えている。
【0014】
IDタグ送受信部2は、列車が停車する駅ホームの手前に設置された送信機(IDタグ)40との間で無線通信媒体(電波又は近接磁界)によりアンテナ2aを介して通信するものであって、IDタグ40から送信されるトリガ信号を受信して演算処理部1に伝送する機能と、演算処理部1から伝送されたデータをアンテナ2aを介して無線通信媒体でIDタグ40に送信する機能とを有している。ここで、IDタグ40とIDタグ送受信部2との間では、搬送波(キャリア)を送信データで変調することによって互いにデータを送受信する。なお、無線通信媒体として近接磁界を使用する場合において、IDタグ送受信部2からIDタグ40に対して誘導結合による電力供給を行えば、IDタグ40の電源が不要になるという利点がある。
【0015】
車両Xには速度発電機100が設置されており、列車の走行に伴って速度発電機100から出力される速度信号が速度信号入力部3に入力される。速度信号は列車の走行速度に比例した周波数のパルス信号からなり、速度信号入力部3では速度信号の単位時間当たりのパルス数(周波数)をカウントし当該カウント値を演算処理部1に伝送する。そして、演算処理部1が速度信号入力部3のカウント値に基づいて列車の走行速度を検出するとともに、当該走行速度から列車の走行距離を演算するのである。
【0016】
ここで、運転室における運転台には2つの扉操作スイッチ110,111が設けられている。一方の扉操作スイッチ110は、列車の進行方向右側に設けられている扉を開く際に操作され、他方の扉操作スイッチ111は、列車の進行方向左側に設けられている扉を開く際に操作されるものである。すなわち、扉操作スイッチ110,111が操作されると扉の開閉機構に対して扉開指令が送られて扉が開放され、扉操作スイッチ110,111の操作を止めると扉の開閉機構に対して扉閉指令が送られて扉が閉止されるのである。なお、扉の開閉機構は従来周知であって、例えば、扉開指令を受けたときに電磁弁を作動してエアシリンダに圧縮空気を送り込むことで扉を開放し、扉閉指令を受けたときに電磁弁の作動を解除してエアシリンダに逆向きに圧縮空気を送り込むことで扉を閉止するものである。
【0017】
扉インタロック回路部4は、扉操作スイッチ110,111への通電路に各々挿入された常開型のリレー接点と、演算処理部1から許可信号が出力されたときにだけ駆動されて当該リレー接点を閉成する電磁リレーとを具備し、電磁リレーが駆動されずにリレー接点が開いている間は扉操作スイッチ110,111に通電しないことで扉開指令が出力されないようにして扉の開放操作を禁止(インタロック)するものである。但し、扉インタロック回路部4には各リレー接点を短絡する短絡回路が設けられており、扉操作スイッチ110,111と同様に運転台に設けられている扉インタロック短絡スイッチ112が操作されると各リレー接点が短絡回路で短絡されるため、扉操作スイッチ110,111に通電されて扉の開放操作が可能となる。ここで、車両乗務員支援装置Aや扉操作スイッチ110,111は後尾車両の運転室内にも設置され、先頭車両Xの運転室内に設置されている車両乗務員支援装置Aの扉インタロック回路部4と後尾車両の運転室内に設置されている車両乗務員支援装置Aの扉インタロック回路部4とが信号線Lsで接続されており、先頭車両Xにおける扉インタロック回路部4が演算処理部1から受け取った許可信号が信号線Lsを介して後尾車両における扉インタロック回路部4に伝送され、後尾車両における扉操作スイッチ110,111を操作しても扉を開放することができるようになっている。
【0018】
音声出力部5は、演算処理部1から出力する音声データをアナログの音声信号に変換し、運転台に備えられているスピーカ113から音声を鳴動させるものである。また、運転台には運転士に対する警告等のメッセージを表示するために液晶表示器(LCD)からなる表示部114が設置されており、演算処理部1から出力される警告等のメッセージの表示データがインタフェース部6より表示器114に伝送されて液晶表示器の画面に表示されるようになっている。
【0019】
次に、図2を参照して車両乗務員支援装置Aの動作を説明する。図2に示す例では、3両編成の列車が左向きに走行しており、走行向きに対して駅ホームHの左側(図2における下側)に停車するものとする。また、列車の走行向きに対して駅ホームHの手前側(図2における右側)の端部から距離L2の位置にIDタグ40が設置されているものとし、駅ホームHの全長をL1、列車の全長をL3、先頭車両X1の先端からアンテナ2aまでの距離をL4、アンテナ2aから後尾車両X3の後端までの距離をL5とする。ここで、IDタグ40は線路Rの枕木(図示せず)上に設置され、駅ホームHの手前側端部からの距離L2や駅ホームHの全長L1のデータ並びに次に停車する駅(駅ホームH)に割り当てられている固有の駅コードのデータ等を保持している。
【0020】
まず、列車の先頭車両X1がIDタグ40の設置地点に到達してアンテナ2aがIDタグ40のほぼ真上を通過するときにIDタグ40とIDタグ送受信部2(アンテナ2a)とが誘導結合されてIDタグ40から送信される搬送波をIDタグ送受信部2で検知したときにIDタグ送受信部2から演算処理部1へトリガ信号が出力される。さらにIDタグ40とIDタグ送受信部2との間で近接磁界によるデータの送受信が行われ、IDタグ40が保持する駅ホームHの手前側端部からの距離L2や駅ホームHの全長L1並びに駅コード等のデータがIDタグ送受信部2に送信されてIDタグ送受信部2から演算処理部1に伝送される。演算処理部1では、IDタグ送受信部2がトリガ信号を受け取った時点より速度信号入力部3でカウントするカウント値がゼロになるまでの間、すなわち、列車が停止して走行速度がゼロになったことを検出するまでの間に列車が走行した距離L6を演算する。なお、走行距離L6は、速度信号入力部3のカウント値に基づいて検出した走行速度と当該単位時間の積(=単位時間当たりの走行距離)を積算することで求められる。すなわち、本実施形態では演算処理部1が走行距離演算手段に相当する。
【0021】
列車が停車した後、演算処理部1では走行距離L6と先頭車両X1の先端からアンテナ2aまでの距離L4との和を求めて駅ホームHと列車の先端(先頭車両X1の先端)との相対的な位置関係と、列車の先端位置(=L6+L4)から列車の全長L3を減算して駅ホームHと列車の後端(後尾車両X3の後端)との相対的な位置関係とを特定するとともに、これらの位置関係から駅ホームHを基準として定められた所定の停車範囲内に列車が停車しているか否か、すなわち、列車の先端又は後端が駅ホームHの端からはみ出しているか否かを判定し、図2(a)に示すように列車の先端並びに後端の何れもが駅ホームHの端からはみ出していないと判定した場合にだけ扉インタロック回路部4に対して許可信号を出力する。ここで、演算処理部1ではIDタグ40から受け取った駅コードに基づいて駅ホームHの左右どちら側に停車するかを判断し、駅ホームHに対向する側の扉(図示例では車両X1〜X3の右側の扉)のみの開放操作を許可する許可信号を扉インタロック回路部4に対して出力する。すなわち、本実施形態では演算処理部1が扉開閉許可手段に相当する。
【0022】
そして、許可信号を受け取った扉インタロック回路部4では、電磁リレーを駆動してリレー接点を閉成することにより右側の扉に対応する扉操作スイッチ110に通電して乗務員(運転士)による扉の開放操作を可能とする。また、演算処理部1から許可信号を受け取っていない場合、扉インタロック回路部4が電磁リレーを駆動しないために扉操作スイッチ110に通電されず、乗務員による扉の開放操作が禁止されることになる。ここで、演算処理部1では列車の先端又は後端の何れかが駅ホームHの端からはみ出していると判定した場合(図2(b),(c)参照)、音声出力部5に対して音声データを出力しスピーカ113から警報メッセージ(例えば、「扉の開放操作ができません」)を鳴動させるとともに、インタフェース部6を通じて表示部114に表示データを伝送し、「扉の開放操作が無効です」といった内容のメッセージを表示部114の画面に表示させており、扉の開閉操作が許可されていないことを乗務員に知らせて事後の対応を速やかに行うように注意を喚起することができる。但し、メッセージの代わりに警報ブザーを鳴動させたり、表示ランプを点灯させても構わない。
【0023】
上述のように本実施形態の車両乗務員支援装置Aによれば、車両が停車する駅ホームHの手前に設置されたIDタグ40から無線通信媒体により送信される信号をIDタグ送受信部2で受信し、IDタグ送受信部2で信号を受信してから走行速度検出手段たる演算処理部1にて走行速度がゼロになったことを検出するまでの間に当該車両が走行した距離を走行距離演算手段たる演算処理部1で演算し、扉開閉許可手段たる演算処理部1が、演算した走行距離に基づいて停車している当該車両と駅ホームHとの相対的な位置関係を特定するとともに当該位置関係から駅ホームHを基準として定められた所定の停車範囲内に当該車両が停車していると判定される場合にのみ、扉インタロック回路部4のインタロックを解除して乗務員による扉の開放操作を許可するため、車両が駅ホームHに対して正規の停車位置から外れて停車した場合には演算処理部1によって扉の開放操作が許可されず、その結果、乗務員により誤って扉の開放操作が行われるのを防ぐことができる。但し、上述の説明では演算処理部1が列車の先端並びに後端と駅ホームHの両端との相対的な位置関係を比較しているが、例えば、列車の先頭車両X1における最前部の扉並びに後尾車両X3における最後部の扉と駅ホームHの両端との相対的な位置関係を比較することで駅ホームHを基準として定められた所定の停車範囲内に列車が停車しているか否かを判定するようにしても構わない。また、本実施形態では駅ホームHの手前側端部からの距離L2や駅ホームHの全長L1などのデータをIDタグ40に保持しているが、これらのデータを各停車駅毎に駅コードと対応させた形で車両乗務員支援装置Aに保持し、IDタグ40から受け取った駅コードに対応するデータを演算処理部1で参照するようにしても構わない。
【0024】
ところで、降雨時や降雪時などにおいては線路と車輪の摩擦力が著しく低下し、速度発電機100の設けられている車輪(車軸)が空転あるいは滑走してしまい、演算処理部1で演算した走行距離と実際の走行距離との間に大きな誤差が生じる場合がある。そこで、車輪が空転したときは列車の加速度が相対的に増加し、反対に車輪が滑走したときは列車の加速度が相対的に減少することに着目し、演算処理部1において、走行速度に基づいて求められる加速度(単位時間当たりの走行速度の変化量)が所定のしきい値以上であることを検出したときには予め決められている規定の走行速度によって走行距離を演算すれば、車輪の空転や滑走による走行距離の誤差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】(a)〜(c)は同上の動作説明図である。
【符号の説明】
【0026】
A 車両乗務員支援装置
1 演算処理部
2 IDタグ送受信部
3 速度信号入力部
4 扉インタロック回路部
5 音声出力部
6 インタフェース(I/F)部
40 IDタグ(送信機)
110,111 扉操作スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向に沿った側面に乗降用の扉を有する車両に搭載され、当該車両の乗務員による前記扉の開閉操作を支援するための車両乗務員支援装置であって、
前記車両が停車する駅ホームの手前に設置された送信機から無線通信媒体により送信されるトリガ信号を受信する受信手段と、車両の走行速度を検出する走行速度検出手段と、前記受信手段でトリガ信号を受信してから前記走行速度検出手段にて走行速度がゼロになったことを検出するまでの間に当該車両が走行した距離を演算する走行距離演算手段と、当該走行距離演算手段で演算した走行距離に基づいて停車している当該車両と前記駅ホームとの相対的な位置関係を特定するとともに当該位置関係から前記駅ホームを基準として定められた所定の停車範囲内に当該車両が停車していると判定される場合にのみ乗務員による前記扉の開閉操作を許可する扉開閉許可手段とを備えたことを特徴とする車両乗務員支援装置。
【請求項2】
前記扉開閉許可手段が扉の開閉操作を許可しなかったときに音又は光で乗務員に警告する警告手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の車両乗務員支援装置。
【請求項3】
前記走行距離演算手段は、前記走行速度検出手段で検出する走行速度に基づいて求められる加速度が所定のしきい値以上であるときは予め決められている規定の走行速度によって走行距離を演算することを特徴とする請求項1又は2記載の車両乗務員支援装置。

【図1】
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【図2】
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