説明

車両内回路

【課題】メッキ加工された繊維を車両内の回路として用いることが可能な車両内回路を提供する。
【解決手段】車両内回路1は、メッキ加工された高強度繊維からなる導電性繊維20を、車両内に設けられた配索対象体10に縫い込むことで形成されている。ここで、高強度繊維とは、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、及びPBO繊維などである。これらの繊維は、耐熱温度が高く、強度が強く、さらに、高強度繊維は屈曲性が高い。このため、車両環境においても繊維は切れ難くなっている。また、これらの高強度繊維はメッキ物と比較して伸度が小さく、繊維にテンションがかかり伸ばされた時においても、メッキが剥がれ難くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両では電線やフレキシブルプリント基板などを用いて、車内の各種機器等に電力供給や信号伝達などを行う回路体が形成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−56946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、車両の電子化に伴い車両用の回路体は肥大化の一途を辿っており、その配索は複雑化している。そこで、本件発明者は、この複雑化に対応すべく、メッキ加工された繊維を車両内の回路として用いることを見出した。メッキ加工された繊維であると、車両内の布材などに縫い込むなどの配索が可能となるからである。しかし、メッキ加工された繊維を車両用として用いる場合、以下の要件を満たすことが必要とされる。
【0005】
第1に、メッキ加工された繊維を車両用として用いる場合、繊維が切れないことが要件とされる。このため、車両環境を考慮すると、繊維は振動に強く、屈曲性が高いことが要求される。さらには、加熱により収縮し過ぎず、且つ、加熱により溶解しないことが要求される。
【0006】
第2に、繊維の伸度がメッキの伸度より小さいことが要件とされる。具体的にポリエステルやナイロン(登録商標)の伸度は高く、これらにメッキ加工したものを用いると、車輛での振動等で繊維に異常なテンションがかかった際に、繊維の伸びにメッキが追従できず、メッキが剥離してしまう。このため、繊維の伸度がメッキの伸度より小さいことが要求される。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その発明の目的とするところは、メッキ加工された繊維を車両内の回路として用いることが可能な車両内回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両内回路は、メッキ加工された高強度繊維からなる導電性繊維を、車両内に設けられた配索対象体に縫い込むことで回路を形成することを特徴とする。
【0009】
この車両内回路によれば、メッキ加工された高強度繊維を用いているため、耐熱温度が高く、強度が強い。さらに、高強度繊維は屈曲性が高い。このため、車両環境においても繊維は切れず、第1の要件を満たす。また、高強度繊維は伸度が小さく、繊維に異常なテンションがかかり繊維が伸ばされた時も、メッキが剥がれ難くなり、第2の要件を満たす。従って、メッキ加工された繊維を車両内の回路として用いることが可能な車両内回路を提供することができる。
【0010】
また、本発明の車両内回路において、配索対象体は、布材であって、導電性繊維は、布材を構成する繊維として布材に縫い込まれていることが好ましい。
【0011】
この車両内回路によれば、配索対象体が布材であって、導電性繊維は布材を構成する繊維として布材に縫い込まれているため、例えば布材の作成時において導電性繊維を布材の縦糸や横糸等として用いることにより、後の工程において布材に導電性繊維を縫い込むことなく、布材と一体となった車両内回路を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、メッキ加工された繊維を車両内の回路として用いることが可能な車両内回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る車両内回路の概略構成図である。
【図2】図1に示した車両内回路にモニターを取り付けたときの状態を示す概略図である。
【図3】第2実施形態に係る車両内回路の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る車両内回路の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る車両内回路の概略構成図である。なお、図1においては車両シートに用いられる車両内回路について例示するが、車両内回路は車両シートに用いられるものに限らない。
【0015】
図1に示すように、車両内回路1は、車両内に設けられた車両用シートの布材を配索対象体10とし、この配索対象体10に導電性繊維20を縫い込むことで形成された回路である。この車両内回路1は、配索対象体10と、導電性繊維20と、端子部30とを備えている。
【0016】
ここで、配索対象体10とは、布材、緩衝材、革製品、及びスポンジなどである。具体的に配索対象体10となる布材としてはシート、床下、天井部、トランク、ドア部、及び、コンソールボックスなどの布材が該当する。また、配索対象体10となる緩衝材としてはドア内部に設けられる緩衝材などが該当する。また、配索対象体10となる革製品としては、シート、ギア、コンソールボックスなどの革材が該当する。さらに、配索対象体10となるスポンジとしては、シート内部、ドア内部、及び天井内部などに設けられるスポンジが該当する。
【0017】
導電性繊維20は、繊維でありながら導電性を有するものであって、本実施形態ではメッキ加工された高強度繊維からなっている。ここで、高強度繊維とは、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、及びPBO繊維などである。これらの繊維は、耐熱温度が高く、強度が強く、さらに、高強度繊維は屈曲性が高い。このため、車両環境においても繊維は切れ難くなっている。また、これらの高強度繊維はメッキ物と比較して伸度が小さく、繊維に異常なテンションがかかり伸ばされた時においても、メッキが剥がれ難くなっている。
【0018】
図2は、図1に示した車両内回路1にモニターを取り付けたときの状態を示す概略図である。端子部30は、導電性繊維20の一端に設けられ、例えば図2に示すように後部座席用のモニター等が取り付けられる。これにより、モニターには、導電性繊維20から電力供給が行われて動作することとなる。なお、導電性繊維20の他端は、丸型端子等を介して例えばコネクタ接続されており、他の車両内回路のコネクタに接続されることとなる。
【0019】
次に、本実施形態に係る車両用回路の製造方法について説明する。本実施形態に係る車両用回路については2通りの製造方法がある。まず、1つ目の製造方法について説明する。
【0020】
なお、本実施形態では高強度繊維としてアラミド繊維を例示するが、特にこれに限られるものではない。
【0021】
まず、液体の溶解性と気体の浸透性を併せ持つ超臨界状態となった二酸化炭素等を用いてアラミド繊維にメッキ前処理を施す。これにより、繊維に対して無電解、電解メッキを施し、高い密着性を持った導電性繊維20を作成する。
【0022】
ここで、アラミド、ポリアリレート、及びPBOなどの高強度繊維はメッキの密着性が低い。このため、従来、高強度繊維にメッキ処理を行う場合、高強度繊維を断面星型にするなど異形状とし、メッキの密着性を高めることとしていた。しかし、超臨界流体を利用したメッキ前処理を行うことにより、高強度繊維の断面を異形状とすることなく、断面円形のまま密着性が高いメッキ処理を実現することができる。
【0023】
次いで、上記のようにして得られた導電性繊維20を例えば図1に示す車両シートの布材に縫い込んでいく。このとき、縫い込む導電性繊維20の本数、及び、配索位置については、動作対象となる機器に応じて決定される。次いで、導体対象となる機器を接続するための端子部30等を設置し、車両内回路1が形成される。
【0024】
次に、2つ目の製造方法について説明する。まず、1つ目の方法と同様に、超臨界流体を利用してアラミド繊維にメッキ前処理を施す。これにより、繊維に対して無電解、電解メッキを施し、高い密着性を持った導電性繊維20を作成する。
【0025】
次いで、車両シートの布材を構成する縦糸や横糸を用意すると共に、回路の配索位置となる箇所の縦糸や横糸について導電性繊維20を用いる。そして、これらを編み上げていく。これにより、導電性繊維20は、布材を構成する繊維として布材に縫い込まれ、車両内回路1が形成される。
【0026】
このようにして、本実施形態に係る車両内回路1によれば、メッキ加工された高強度繊維を用いているため、耐熱温度が高く、強度が強い。さらに、高強度繊維は屈曲性が高い。このため、車両環境においても繊維は切れず、第1の要件を満たす。また、高強度繊維はメッキ物と比較して伸度が小さく、繊維にテンションがかかり伸ばされた時においても、メッキが剥がれ難くなり、第2の要件を満たす。従って、メッキ加工された繊維を車両内の回路として用いることが可能な車両内回路1を提供することができる。
【0027】
また、配索対象体10が布材であって、導電性繊維20は布材を構成する繊維として布材に縫い込まれているため、例えば布材の作成時において導電性繊維20を布材の縦糸や横糸等として用いることにより、後の工程において布材に導電性繊維20を縫い込むことなく、布材と一体となった車両内回路1を提供することができる。
【0028】
また、導電性繊維20は超臨界流体利用によりメッキ前処理されているため、繊維を異形状とする必要がなく、密着性が高い導電性繊維20を得ることができる。特に、繊維を異形状とすると、メッキの厚さが厚い部分と薄い部分とが混在することとなり、抵抗値が安定せず回路として適切でなくなってしまう可能性がある。しかし、超臨界流体利用によりメッキ前処理することにより、円形の繊維にメッキ処理することができ、抵抗値が安定的な回路として適切な導電性繊維20を提供することができる。
【0029】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態に係る車両内回路は第1実施形態のものと同様であるが、構成が一部異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0030】
図3は、第2実施形態に係る車両内回路2の概略構成図である。図3に示すように、車両内回路2は、配索対象体10と、導電性繊維20とから構成され、ドア部に適用されている。配索対象体10及び導電性繊維20は第1実施形態のものと同様である。
【0031】
また、第2実施形態において車両内回路2は、端子部30を有していない。さらに、第2実施形態において導電性繊維20は、配索対象体10となるドア部の布材に縫い込まれており、布材終端位置Pからスピーカまでについては、ドア内部を通してスピーカに接続されている。さらに、導電性繊維20の他端は第1実施形態と同様に、コネクタ接続されている。
【0032】
なお、第2実施形態に係る導電性繊維20は、布材終端位置Pからスピーカまでについてドア内部を通してスピーカに接続されているが、これに限らず、スピーカが布材上に配置されている場合には、ドア内部を通すことなくスピーカに接続されることはいうまでもない。
【0033】
このようにして、第2実施形態に係る車両内回路2によれば、第1実施形態と同様に、メッキ加工された繊維を車両内の回路として用いることができ、布材と一体となった車両内回路2を提供することができる。
【0034】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、各実施形態を組み合わせてもよい。
【0035】
例えば、上記実施形態において配索対象体10は布材であるが、特にこれに限らず、緩衝材、革製品及びスポンジであってもよい。また、配索対象体10は、布材、緩衝材、革製品及びスポンジに限られず、他のものであってもよい。すなわち、配索対象体10は、鉄やステンレスなどの針を用いて導電性繊維20を配策することができる硬さで、且つ、配索時においてメッキが剥がれない程度の硬さのものであればよい。
【符号の説明】
【0036】
1,2 車両内回路
10 配索対象体
20 導電性繊維
30 端子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキ加工された高強度繊維からなる導電性繊維を、車両内に設けられた配索対象体に縫い込むことで回路を形成する
ことを特徴とする車両内回路。
【請求項2】
前記配索対象体は、布材であって、
前記導電性繊維は、前記布材を構成する繊維として前記布材に縫い込まれている
ことを特徴とする請求項1に記載の車両内回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−25309(P2012−25309A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167534(P2010−167534)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】