説明

車両内装材用布帛

【課題】動植物由来繊維を一部に用いながら、車両内装材に適用した場合に、経時による外観品位や物性の低下が抑制された、耐久性を有する布帛を提供する。
【解決手段】動植物由来原料からなる繊維を含んでなる糸条Aと、ポリエステル系繊維からなる糸条Bとで構成される布帛であって、下記式により求めた、布帛の表面積に対する糸条Aの露出度が20%以下であることを特徴とする、車両内装材用布帛。糸条Aの露出度=(SA/SF)×100ここで、SAは布帛の表面に露出した糸条Aの総面積であり、SFは布帛の表面積である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内装材用途に適した布帛に関する。詳しくは、動植物由来原料からなる繊維を一部に用い、かつ、車両内装材に適用した場合に十分な耐久性を有する布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、列車、飛行機、船舶などの車両内装材として、座席シート、天井、カーテンなど様々な部位に布帛が用いられている。車両内装材は、長期間過酷な条件で使用されることから、高度な耐久性が求められ、したがって、車両内装材用布帛を構成する繊維としては、物理的および化学的特性に優れた合成繊維、なかでもポリエステル系繊維が多用されてきた。
【0003】
一方、近年、地球温暖化や石油資源の枯渇など環境問題に対する意識が高まる中、自動車などの業界においても、車両内装材の材料として、あるいは車両内装材用布帛の材料として、リサイクル性に優れる材料や環境に優しい材料を採用しようとする動きが盛んである。なかでも、環境に優しい材料として、動植物由来原料からなる繊維(以下、「動植物由来繊維」と称する場合がある)が、その製造に石油資源の使用が少なく、使用後に自然環境中で最終的に水と二酸化炭素に分解されることから、採用が切望されている。しかしながら、動植物由来繊維は、従来のポリエステル系繊維などの合成繊維と比較して耐久性が劣るという問題があり、車両内装材用布帛の材料として実用化されるには到っていない。
【0004】
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、芯部がポリ乳酸系重合体であり、外周が芳香族ポリエステル系重合体で覆われた横断面形状を呈する、単糸繊度が1.1〜7.7dtexの複合繊維を少なくとも一部に使用してなるモケットパイル布帛が開示されている。ポリ乳酸系重合体の問題点である強度や耐摩耗性の不足を、芳香族ポリエステル系重合体により補い、複合繊維全体として強度や耐摩耗性に優れたものを得ようとするもので、車両用シートなどに好適に用いることができることが説明されている。
【0005】
また、特許文献2には、ポリ乳酸短繊維をあらかじめ熱処理して収縮させることにより、その後の乾熱処理における収縮率を小さくしたポリ乳酸短繊維、および該ポリ乳酸短繊維を少なくとも一部に用いることにより、屑の発生を少なくし、生産安定性を向上させた不織布、および該不織布を用いた自動車内装材が開示されている。
【0006】
しかしながら上記モケットパイル布帛や不織布を車両内装材に適用した場合、経時により外観品位や物性が低下し、実用に耐えないという問題があった。特に、特許文献2に開示の不織布は、不織布表面にポリ乳酸短繊維が多く露出するため、光や熱、湿度による繊維の脆化が著しい。また、特許文献1に開示のモケットパイル布帛に使用する複合繊維は、いわゆる芯鞘型繊維や海島型繊維に限定され、製造コストが高くなるという問題もあった。
【特許文献1】特開2005−281891号公報
【特許文献2】特開2005−307359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題に鑑みてなされたものであり、動植物由来繊維を一部に用いながら、車両内装材に適用した場合に、経時による外観品位や物性の低下が抑制された、耐久性を有する布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、動植物由来繊維の布帛表面への露出を極小に留めることによって、経時による外観品位や物性の低下を抑制することが可能で、車両内装材用布帛として十分な耐久性を具備し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、動植物由来原料からなる繊維を含んでなる糸条Aと、ポリエステル系繊維からなる糸条Bとで構成される布帛であって、下記式により求めた、布帛の表面積に対する糸条Aの露出度が20%以下であることを特徴とする、車両内装材用布帛である。
糸条Aの露出度=(SA/SF)×100
ここで、SAは布帛の表面に露出した糸条Aの総面積であり、SFは布帛の表面積である。
【0010】
上記車両内装材用布帛において、糸条Aは動植物由来原料からなる繊維の他にさらに、ポリエステル系繊維を含むことが好ましい。
【0011】
また、上記車両内装材用布帛において、布帛の重量に対する動植物由来原料からなる繊維の割合は3〜60重量%であることが好ましい。
【0012】
また、上記車両内装材用布帛において、動植物由来原料からなる繊維は、ポリ乳酸繊維、バンブー繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、動植物由来繊維を一部に用いながら、車両内装材に適用した場合に、経時による外観品位や物性の低下が抑制された、耐久性を有する布帛を提供することができる。本発明の車両内装材用布帛は、動植物由来繊維を一部に用いているため、石油資源への依存度が低く、廃棄処理時の負荷も少ない。したがって、環境に優しい車両内装材用布帛として、環境調和型社会の構築に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明の車両内装材用布帛は、動植物由来繊維を含んでなる糸条Aと、ポリエステル系繊維からなる糸条Bとで構成される。その際、糸条Aが布帛の表面に20%を超えて露出しないように、すなわち、下記式により求めた、布帛の表面積に対する糸条Aの露出度が20%以下となるように配されることが肝要である。
糸条Aの露出度=(SA/SF)×100
ここで、SAは布帛の表面に露出した糸条Aの総面積であり、SFは布帛の表面積である。
【0016】
本発明において布帛とは、織物および編物をさし、布帛の表面とは、車両内装材に適用した場合に、室内空間と接する側の一面をさすものとする。動植物由来繊維を含んでなる糸条Aとポリエステル系繊維からなる糸条Bを組み合わせ、かつ、糸条Aを、光や熱、湿度に直接暴露される部分である布帛の表面に20%を超えて露出しないように配することにより、車両内装材に適用した場合に、経時による外観品位や物性の低下を抑制することが可能で、十分な耐久性を備えた布帛とする。糸条Aの露出度が20%を上回ると、車両内装材に適用した場合に、経時による外観品位や物性の低下を十分に抑制することができず、十分な耐久性が得られない虞がある。糸条Aの露出度は、3%以下であることがより好ましく、限りなく0%に近いことがとくに好ましい。
【0017】
動植物由来繊維の典型例は、天然繊維および再生繊維であり、具体的には例えば、綿、麻などの植物由来セルロース系天然繊維;毛、絹などの動物由来タンパク質系天然繊維;レーヨン、バンブー繊維(竹レーヨン)、キュプラ、リヨセルなどの植物由来セルロース系再生繊維;とうもろこしタンパク繊維、大豆タンパク繊維などの植物由来タンパク質系再生繊維;カゼイン繊維などの動物由来タンパク質系再生繊維などを挙げることができる。また、動植物由来原料に化学薬品を反応させて得られる半合成繊維であってもよく、例えば、アセテート、トリアセテートなどの植物由来セルロース系半合成繊維;プロミックスなどの動物由来タンパク質系半合成繊維を挙げることができる。さらに、とうもろこしなどの植物から抽出したデンプンを原料に、乳酸発酵を経て乳酸として、これを重合して得られるポリマーを繊維化したポリ乳酸繊維であってもよい。ポリ乳酸繊維は、石油資源を原料としない生分解性の合成繊維として、近年、注目を集めている。
【0018】
本発明においては、上記いずれの繊維も使用可能であり、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、これら動植物由来繊維のなかにあっては、初期物性に優れ、経時による外観品位や物性の低下が少なく、様々な種類の糸条が入手しやすく汎用性に富むという理由により、ポリ乳酸繊維またはバンブー繊維が好ましく用いられる。
【0019】
動植物由来繊維の形状は、その目的や具体的用途に応じて、長繊維、短繊維のいずれであってもよい。また、断面形状も特に限定されるものでなく、通常の丸型だけでなく、扁平型、三角形、中空型、Y型、T型、U型などの異型であってもよい。
【0020】
糸条Aは、上記動植物由来繊維から選択される少なくとも1種を含んでなるものである。その形態は、目的や具体的用途に応じて、フィラメント糸(長繊維糸)、紡績糸(短繊維糸)のいずれであってもよく、さらには長繊維と短繊維を組み合わせた長短複合紡績糸であってもよい。フィラメント糸は、必要に応じて撚りをかけてもよいし、仮撚加工や流体撹乱処理などにより伸縮性や嵩高性を付与してもよい。
【0021】
糸条Aの繊度は特に限定されるものでなく、その目的や具体的用途に応じて適宜選択すればよい。織物であれば、通常、22〜5000dtex、好ましくは33〜1100dtexのものが用いられ、編物であれば、通常、22〜1000dtex、好ましくは33〜660dtexのものが用いられる。糸条Aの繊度が下限値を下回ると、車両内装材用布帛として十分な耐久性が得られない虞がある。糸条Aの繊度が上限値を上回ると、布帛の製造が困難になる虞がある。
【0022】
糸条Aは、そのすべてが動植物由来繊維から構成されていてもよく、他の繊維との複合を必ずしも要さないが、車両内装材用布帛に求められる耐久性を確実なものとするためには、ポリエステル系繊維と組み合わせたものであることが好ましい。動植物由来繊維のみで糸条Aを構成した場合、布帛の組織や具体的使用部位によっては、光や熱、湿度により物性が大きく低下し、糸条として、さらにポリエステル系繊維からなる糸条Bと組み合わせ布帛としてもなお、十分な耐久性が得られない場合があるからである。ポリエステル系繊維と組み合わせて糸条Aを構成することにより、動植物由来繊維のみでは不十分であった物性を補い、糸条としての耐久性を得ることができる。なお、糸条Aは布帛の表面に20%を超えて露出しない糸条であり、ポリエステル系繊維以外の繊維、例えば、ナイロン繊維やアクリル繊維などと組み合わせることはさしたるメリットがない。
【0023】
ポリエステル系繊維として典型的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートを挙げることができるが、これに限定されるものでなく、第3成分として、例えば、イソフタル酸スルホネート、アジピン酸、イソフタル酸、ポリエチレングリコールなどを共重合して得られる繊維、またはこれらの共重合体やポリエチレングリコールをブレンドして得られる繊維であってもよい。これらは、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、物性に優れ、安価に入手可能という理由により、ポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。なお、ポリ乳酸繊維はポリエステル系繊維の1種であるが、本発明においては、動植物由来繊維に含まれるものとし、ポリエステル系繊維には含まれないものとする。
【0024】
ポリエステル系繊維の形状や断面形状は、動植物由来繊維と同様、特に限定されない。また、動植物由来繊維とポリエステル系繊維との複合形態も、引き揃え、合撚、交撚、混繊、混紡など特に限定されない。
【0025】
糸条Aが、動植物由来繊維の他にポリエステル系繊維を含んでなる場合、糸条の重量に対する動植物由来繊維の割合は、3〜90重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜80重量%であり、さらに好ましくは20〜70重量%であり、特に好ましくは40〜60重量%である。動植物由来繊維の割合が3重量%を下回ると(すなわち、ポリエステル系繊維の割合が97重量%を上回ると)、石油資源への依存度や、廃棄処理時の負荷を低減する効果が十分に得られない虞がある。動植物由来繊維の割合が90重量%を上回ると(すなわち、ポリエステル系繊維の割合が10重量を下回ると)、ポリエステル系繊維を組み合わせることによる補強効果が十分に得られない虞がある。
【0026】
一方、糸条Bは、上記ポリエステル系繊維から選択される少なくとも1種からなり、そのすべてがポリエステル系繊維から構成されるものであって、他の繊維の複合を要さない。糸条Aと同様、各種形態のものを用いることができ、繊度も、糸条Aと同様のものを用いることができる。
【0027】
本発明の車両内装材用布帛は、以上に説明した、動植物由来繊維を含んでなる糸条Aと、ポリエステル系繊維からなる糸条Bとで構成され、糸条Aが布帛の表面に20%を超えて露出しないように配されてなるものである。なお、上記条件を満たす限り、糸条AまたはBとして、2種以上の糸条を用いることも可能である。本発明の車両内装材用布帛は、例えば、織物や編物の組織を多重組織とし、裏面側を構成する糸条の少なくとも一部に糸条Aを用いたり、中間層を有する組織にあっては、中間層および/または裏面側を構成する糸条の少なくとも一部に糸条Aを用いたりすることにより、製造することができる。このとき表面側を主として構成する糸条に糸条Bを用いることは言うまでもない。また、多重組織に限られるものでなく、一重組織であっても、糸条Aの表面浮き数が少なくなる組織を採用したり(織物であれば斜文織、朱子織)、繊度(糸条A<糸条B)や糸密度(糸条A<糸条B)の組み合わせを調整したりすることにより、糸条Aが布帛の表面に20%を超えて露出しないようにすることが可能である。また、車両内装材用布帛は、意匠性や触感、風合いを向上させるため、しばしば起毛加工が施されるが、主として糸条Bにより構成される表面を起毛することは、糸条Aの隠蔽に有効な方法である。もちろん、これらの方法を、多重組織の表面側に採用することも可能である。
【0028】
以下、車両内装材用布帛として、本発明において採用し得る多重組織の織物および編物について、より詳細に説明する。
【0029】
多重組織の織物としては、例えば、経二重織物、緯二重織物、経緯二重織物などの二重織物;経パイル織物、緯パイル織物などのパイル織物を挙げることができる。経二重織物の場合は裏経糸に、緯二重織物の場合は裏緯糸に、経緯二重織物の場合は裏経糸および/または裏緯糸に、経パイル織物の場合は緯糸および/または裏経糸に、緯パイル織物の場合は経糸および/または裏緯糸に、糸条Aを用いることができる。なかでも、表面側の組織を斜文織または朱子織とした二重織物が好ましい。なお、糸密度は、用いる糸条の繊度や組織によって大きく異なる。車両内装材用布帛として必要な物性を満たす限り、糸密度は特に限定されない。
【0030】
多重組織の編物としては、例えば、トリコット編物、ダブルラッセル編物などの経編物;丸編物などの緯編物を挙げることができる。
【0031】
多重組織のトリコット編物は、2枚以上の筬を有するトリコット編機により編成される。このトリコット編物の表面側を主として編成する糸条には糸条Bを用いることが求められるが、残りの糸条には糸条Aを用いることができる。
【0032】
トリコット編機の筬枚数は、2〜5枚であることが好ましい。筬枚数が1枚であると、多重組織のトリコット編物を編成することができない。筬枚数が6枚以上であると、編成されるトリコット編物の触感や風合いが粗硬になる虞がある。車両内装材用布帛として必要な初期物性および耐久性を考慮すると、より好ましい筬枚数は3〜4枚である。
【0033】
組織は特に限定されない。また、ゲージも特に限定されないが、車両内装材用布帛として必要な初期物性および耐久性を考慮すると、20〜36ゲージであることが好ましい。
【0034】
トリコット編物には、パイルの有無により、表面にパイルを有さないカットレストリコット、表面を起毛することにより形成されるパイルを有する起毛トリコット、ポールシンカーにより編成時に形成されるパイルを有するポールトリコットがある。糸条Aが布帛の表面に20%を超えて露出しないようにするには、起毛トリコットやポールトリコットが好ましい。
【0035】
ダブルラッセル編物は、表裏の地組織と、これらを連結する連結糸とからなる立体編物で、3枚以上の筬を有するダブルラッセル編機により編成される。このダブルラッセル編物の表地組織を編成する地糸には糸条Bを用いることが求められるが、裏地組織を編成する地糸、および/または連結糸には、糸条Aを用いることができる。ここで、糸条Aを連結糸に用いる場合には、連結糸・糸条Aの繊度に対して、表地組織を編成する地糸・糸条Bの繊度を大きくしたり、表地組織を編成する地糸を起毛したりすることが好ましい。
【0036】
組織は特に限定されないが、裏地組織や連結糸が光に曝露され難くするため、表地組織の組織は、開口部を有さない組織とすることが好ましい。また、ゲージも特に限定されないが、車両内装材用布帛として必要な初期物性および耐久性を考慮すると、18〜28ゲージであることが好ましい。
【0037】
ダブルラッセル編物は、連結糸をバンドナイフにてセンターカットし、パイル品として用いることも可能である。この態様においては、パイル側が表面側であり、両地組織を編成する地糸に糸条Aを用いることができる。
【0038】
多重組織の丸編物は、ダブルニット丸編機により編成される。このダブルニットの表面側を主として編成する糸条には糸条Bを用いることが求められるが、裏面側を主として編成する糸条には糸条Aを用いることができる。
【0039】
組織は特に限定されない。また、ゲージも特に限定されないが、車両内装材用布帛として必要な初期物性および耐久性を考慮すると、18〜28ゲージであることが好ましい。
【0040】
かくして、本発明の車両内装材用布帛を得ることができる。
【0041】
本発明の車両内装材用布帛において、布帛の重量に対する糸条Aの割合は5〜80重量%であることが好ましく、より好ましくは20〜60重量%である。また、布帛の重量に対する動植物由来繊維の割合は3〜60重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜40重量%である。これらの割合が下限値を下回ると、石油資源への依存度や、廃棄処理時の負荷を低減する効果が十分に得られない虞がある。これらの割合が上限値を上回ると、車両内装材に適用した場合に、経時による外観品位や物性の低下を十分に抑制することができず、十分な耐久性が得られない虞がある。
【0042】
布帛は、従来公知の加工工程、例えば、プレセット、染色、セット、起毛、仕上げ、などの工程を経て、車両内装材用布帛として提供される。
【0043】
本発明の車両内装材用布帛は、その裏面に、樹脂組成物またはゴム組成物からなるバッキング層を設けることが好ましい。バッキング層を設けることにより、主として布帛の裏面に配される糸条Aがバッキング層によって固定されるため、たとえ経時により糸条Aの物性が低下した場合においても、布帛として受ける影響が少なく、車両内装材用布帛として十分な耐久性を有することができる。
【0044】
バッキング層の形成に用いられる樹脂組成物またはゴム組成物は特に限定されるものでなく、樹脂成分としては例えば、アクリル系、ウレタン系、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などの樹脂を挙げることができる。ゴム成分としては例えば、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、MBR(メチルメタクリレート−ブタジエンゴム)などの合成ゴム;天然ゴムを挙げることができる。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0045】
樹脂組成物またはゴム組成物には、必要に応じて添加剤を加えてもよい。任意の添加剤としては、例えば、無機顔料・有機顔料などの着色剤、キレート剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、圧縮回復剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤、湿潤剤、架橋剤、酸化亜鉛硫黄・加硫促進剤などの加硫剤、タック防止剤、感熱ゲル化剤、起泡剤、整泡剤、浸透剤、撥水剤、撥油剤、ブロッキング防止剤、難燃剤、導電材料、抗菌剤、消臭剤などを挙げることができ、目的に応じて1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0046】
布帛の裏面に樹脂組成物またはゴム組成物を塗布する方法は特に限定されるものでなく、例えば、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、スプレーコーティング法などを挙げることができる。次いで、熱処理することにより、バッキング層を形成することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例における布帛の物性評価は、以下の方法に従った。
【0048】
[耐光堅牢度]
65mm×150mmに裁断した試験片を、同じ大きさで10mm厚のスラブウレタンフォームに重ね合わせた状態で、キセノンランプ(水冷式6.5kw)を備えた高温耐光堅牢度試験機:Ci35W型(アトラス社製)を用いて、下記条件にて試験を行った。
明サイクル 暗サイクル
照射総量 750kJ/m
照度強度 0.55W/m
ブラックパネル温度 89±3℃ 38±3℃
相対湿度 50±5% 95±5%
サイクル時間 3.8hr 1.0hr
照射前後の試験片を目視にて観察し、照射後の試験片について、JIS L−0804規格のグレイスケール(gray scale)を用いて耐光堅牢度を判定した。変色4級以上、退色3級以上を合格とした。
【0049】
[耐熱性]
10cm四方に裁断した試験片を、広口試薬瓶(共栓付250ml瓶、硬質ガラス製)の中に試験片を試薬瓶の側面に沿わせて入れ、110℃に調整された乾燥機内に400時間静置して熱処理した。熱処理後、試薬瓶を乾燥機から取り出し室温まで冷却した後、試験片を試薬瓶から取り出し、熱処理前後の試験片を目視にて観察し、熱処理後の試験片について、JIS L−0804規格のグレイスケール(gray scale)を用いて判定した。変色4級以上、退色4級以上を合格とした。
【0050】
[耐湿熱性]
50mm(布帛の長手方向)×250mm(布帛の幅方向)に裁断した試験片を、50℃、95%RHに調整された恒温恒湿機:PR−2KTH(ESPEC.CORP製)に400時間静置して湿熱処理した。湿熱処理後、試験片を取り出し20±2℃、65±5%RHの雰囲気に24時間静置した後、湿熱処理前後の試験片について、引張強さおよび引裂強さを測定した。
【0051】
[引張強さ]
20±2℃、65±5%RHの雰囲気下、50mm(布帛の長手方向)×250mm(布帛の幅方向)に裁断した試験片を、つかみ間隔が150mmとなるように、低速度伸長型引張試験機:島津オートグラフAG−1型(株式会社島津製作所製)のつかみ具に取り付けた。このとき、初荷重は、織物の場合1.96N、編物の場合0.98Nとした。取り付けた試験片を、引張速度200mm/minで試験片が破断するまで引っ張り、破断に要する荷重の強度を測定した。湿熱処理前の試験片、湿熱処理後の試験片ともに、織物の場合500N以上、編物の場合400N以上を合格とした。
【0052】
[引裂強さ]
50mm(布帛の長手方向)×250mm(布帛の幅方向)に裁断した試験片に、短辺が100mm、長辺が150mmで、高さが試験片の短辺(50mm)となる等脚台形のマークを付け、台形の短辺の中央に辺と垂直に10mmの切り込みを入れた。
20±2℃、65±5%RHの雰囲気下、試験片を、つかみ間隔が100mmとなるように、台形の短辺は張り、長辺は緩めた状態で、マーク(台形の斜辺部分)に沿って、低速度伸長型引張試験機:島津オートグラフAG−1型(株式会社島津製作所製)のつかみ具に取り付けた。取り付けた試験片を、引張速度200mm/minで引き裂き、強度を測定した。湿熱処理前の試験片については、織物の場合100N以上、編物の場合70N以上を合格とした。湿熱処理後の試験片については、織物の場合、編物の場合ともに、50N以上を合格とした。
【0053】
[実施例1]
170羽/インチのジャガード織機を用い、経糸として56dtex/48fのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントの双糸を花糸とし33dtex/12fのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸を芯糸とする先染糸(糸条B1)を用いた。裏緯糸としてポリエチレンテレフタレートの1.6dtex51mmステープルファイバーとポリ乳酸の1.7dtex51mmステープルファイバーを50:50の混率で紡糸した30/2番手の混紡糸(糸条A1)と、表緯糸として167dtex/36fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸(糸条B2)を、それぞれ1in1out、1out1inの配列で、116本/インチの密度で打ち込み、図1の組織図に従って、緯二重織物の生機を製織した。
この生機を80℃の浴中で15分間リラックス処理した後、130℃で1分間熱処理した。
次いで、布帛の裏面に、下記処方1の樹脂組成物を固形分量で60g/mとなるようにナイフコーティングし、130℃で2分間熱処理してバッキング層を形成し、本発明の車両内装材用布帛を得た。得られた布帛の経糸密度は215本/インチ、緯糸密度は120本/インチであった。
【0054】
処方1
ボンコートAB−782−E(※1) 80重量部
F−3053A(※2) 80重量部
水 7.7重量部
12.5重量%アンモニア水 1重量部
ボンコートV−E(※3) X重量部
室温における粘度が、BM型粘度計(No.4ローター×12rpm)にて17000cpsとなるように調整した。
【0055】
※1)アクリル酸エステル共重合体、固形分45重量%、
大日本インキ化学工業株式会社製
※2)難燃剤、デカブロモジフェニルエーテル、三酸化アンチモン、
固形分70重量%、日華化学株式会社製
※3)増粘剤、アクリル酸エステル、固形分30重量%、
大日本インキ化学工業株式会社製
【0056】
[実施例2]
170羽/インチのジャガード織機を用い、経糸として990dtex/324fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸(糸条B3)を用い、緯糸としてポリエチレンテレフタレートとポリ乳酸の30/2番手の先染混紡糸(混率50:50、先染糸である以外は実施例1で用いたもの(糸条A1)と同じ。以下、同様に表記する)(糸条A2)と、390dtex/130fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸(糸条B4)を、交互に、170本/インチの密度で打ち込み、平織物の生機を織製した。
これ以降は、実施例1と同様に加工して、本発明の車両内装材用布帛を得た。得られた布帛の経糸密度は215本/インチ、緯糸密度は120本/インチであった。
【0057】
[実施例3]
経糸として940dtex/313fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラ
メント糸(糸条B5)を用いた以外は、実施例2と同様にして本発明の車両内装材用布帛
を得た。
【0058】
[実施例4]
経糸として890dtex/297fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸(糸条B6)を用いた以外は、実施例2と同様にして本発明の車両内装材用布帛を得た。
【0059】
[実施例5]
経糸として790dtex/239fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸(糸条B7)を用いた以外は、実施例2と同様にして本発明の車両内装材用布帛を得た。
【0060】
[実施例6]
緯糸の一部として、ポリエチレンテレフタレートとポリ乳酸の30/2番手の先染混紡糸(混率50:50)(糸条A2)の代わりに、ポリエチレンテレフタレートとポリ乳酸の30/2番手の先染混紡糸(混率10:90)(糸条A3)を用いた以外は、実施例2と同様にして本発明の車両内装材用布帛を得た。
【0061】
[実施例7]
緯糸の一部として、ポリエチレンテレフタレートとポリ乳酸の30/2番手の先染混紡糸(混率50:50)(糸条A2)の代わりに、ポリ乳酸の先染紡績糸(単糸繊度、繊維長とも同じ)(糸条A4)を用いた以外は、実施例2と同様にして本発明の車両内装材用布帛を得た。
【0062】
[実施例8]
バッキング層を形成しなかった以外は、実施例5と同様にして本発明の車両内装材用布帛を得た。
【0063】
[実施例9]
緯糸の一部として、ポリエチレンテレフタレートとポリ乳酸の30/2番手の先染混紡糸(混率50:50)(糸条A2)の代わりに、ポリエチレンテレフタレートとバンブーの30/2番手の先染混紡糸(混率50:50、ポリ乳酸をバンブーに置き換えた以外は、単糸繊度、繊維長ともポリ乳酸のそれに同じ)(糸条A5)を用いた以外は、実施例2と同様にして本発明の車両内装材用布帛を得た。
【0064】
[実施例10]
28ゲージで3枚の筬を有するトリコット編機を用い、筬L1(バック)にポリエチレンテレフタレートとポリ乳酸の30/2番手の先染混紡糸(混率50:50)(糸条A2)を、筬L2(ミドル)、L3(フロント)に140dtex/60fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸(糸条B8)をそれぞれ導糸し、筬L1は3−4/1−0、筬L2は1−0/1−2、筬L3は1−0/5−6の組織で、編機上の密度が69コース/インチのトリコット編物の生機を編成した。
この生機を80℃の浴中で15分間リラックス処理した後、130℃で1分間熱処理した。
次いで、布帛の表面に、パイル針布ローラー12本、カウンターパイル針布ローラー12本を有する針布起毛機を用い、針布ローラートルク2.5Mpa、布速12m/分の条件で、編終わり方向からの起毛と編始め方向からの起毛を交互に計12回行い、次いで130℃で1分間熱処理して、本発明の車両内装材用布帛を得た。得られた布帛の密度は36ウエル/インチ、61コース/インチであった。
【0065】
[実施例11]
28ゲージで6枚の筬を有するダブルラッセル編機を用い、筬L1、L6に地糸としてポリエチレンテレフタレートとポリ乳酸の30/2番手の先染混紡糸(混率50:50)(糸条A2)を、筬L2、L5に地糸として110dtex/24fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸(糸条B9)を、筬L3、L4にパイル糸として30dtex/2fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸(糸条B10)をそれぞれ導糸し、下記の組織に従って、編機上の密度が38コース/インチのダブルラッセル編物の生機を編成した。
この生機をセンターカット後、整毛処理し、次いで、80℃の浴中で15分間リラックス処理した後、130℃で1分間熱処理して、本発明の車両内装材用布帛を得た(パイル側が表面側となる)。得られた布帛の密度は23.5ウエル/インチ、38コース/インチであった。
【0066】
筬L1:3−2/0−1
筬L2:0−1/2−1
筬L3:0−1/1−2/2−1/1−0/1−2/2−3/3−2/2−1
筬L4:0−1/1−2/2−1/1−0/1−2/2−3/3−2/2−1
筬L5:2−1/0−1
筬L6:0−1/3−2
【0067】
[実施例12]
28ゲージで5枚の筬を有するダブルラッセル編機を用い、筬L1、L2に地糸としてポリエチレンテレフタレートとポリ乳酸の30/2番手の先染混紡糸(混率50:50)(糸条A2)を、筬L4に地糸として55dtex/24fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸(糸条B11)を、筬L5に地糸として84dtex/144fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸(糸条B12)を、筬L3に連結糸として30dtex/12fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸(糸条B13)をそれぞれ導糸し、下記の組織に従って、編機上の密度が50コース/インチのダブルラッセル編物の生機を編成した。
この生機を80℃の浴中で15分間リラックス処理した後、130℃で1分間熱処理して、本発明の車両内装材用布帛を得た(筬L4、L5によって形成された地組織側が表面側となる)。得られた布帛の密度は28ウエル/インチ、50コース/インチであった。
【0068】
筬L1:5−6/5−4/4−3/3−2/2−1/1−0/1−2/2−3/3−4/4−5
筬L2:1−0/1−2/2−3/3−4/4−5/5−6/5−4/4−3/3−2/2−1
筬L3:0−1/1−2/2−1/1−0
筬L4:1−2/1−0
筬L5:4−3/0−1
【0069】
[実施例13]
筬L3に連結糸としてポリエチレンテレフタレートとポリ乳酸の30/2番手の先染混
紡糸(混率50:50)(糸条A2)を用いた以外は、実施例12と同様にして本発明の
車両内装材用布帛を得た。
【0070】
[実施例14]
20ゲージダブルニット丸編機を用い、裏糸としてポリエチレンテレフタレートとポリ乳酸の30/2番手の先染混紡糸(混率50:50)(糸条A2)と、167dtex/48fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸の双糸(糸条B14)を、表糸として250dtex/216fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラメント糸(糸条B15)を用い、図2の組織図に従って、編機上の密度が33.5コース/インチのダブルニットの生機を編成した。
この生機を80℃の浴中で15分間リラックス処理した後、130℃で1分間熱処理して、本発明の車両内装材用布帛を得た。得られた布帛の密度は31.5ウエル/インチ、33コース/インチであった。
【0071】
[実施例15]
経糸の一部として、ポリエチレンテレフタレートとポリ乳酸の30/2番手の先染混紡糸(混率50:50)(糸条A2)の代わりに、ポリエチレンテレフタレートと綿の30/2番手の先染混紡糸(混率50:50、ポリ乳酸を綿に置き換えた以外は、単糸繊度、繊維長ともポリ乳酸のそれに同じ)(糸条A6)を用いた以外は、実施例2と同様にして本発明の車両内装材用布帛を得た。
【0072】
[実施例16]
経糸の一部として、ポリエチレンテレフタレートとポリ乳酸の30/2番手の先染混紡糸(混率50:50)(糸条A2)の代わりに、ポリエチレンテレフタレートとレーヨンの30/2番手の先染混紡糸(混率50:50、ポリ乳酸をレーヨンに置き換えた以外は、単糸繊度、繊維長ともポリ乳酸のそれに同じ)(糸条A7)を用いた以外は、実施例2と同様にして本発明の車両内装材用布帛を得た。
【0073】
[比較例1]
経糸として690dtex/210fのポリエチレンテレフタレート先染マルチフィラ
メント糸(糸条B16)を用いた以外は、実施例2と同様にして布帛を得た。
【0074】
実施例および比較例の布帛について、その構成の概要を表1に示した。また、物性を評
価した結果を表2に示した。
【表1】

【表2】

【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施例1の緯二重織物の組織図である。
【図2】実施例14のダブルニットの組織図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物由来原料からなる繊維を含んでなる糸条Aと、ポリエステル系繊維からなる糸条Bとで構成される布帛であって、下記式により求めた、布帛の表面積に対する糸条Aの露出度が20%以下であることを特徴とする、車両内装材用布帛。
糸条Aの露出度=(SA/SF)×100
ここで、SAは布帛の表面に露出した糸条Aの総面積であり、SFは布帛の表面積である。
【請求項2】
糸条Aが動植物由来原料からなる繊維の他にさらにポリエステル系繊維を含むことを特徴とする、請求項1に記載の車両内装材用布帛。
【請求項3】
布帛の重量に対する動植物由来原料からなる繊維の割合が3〜60重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の車両内装材用布帛。
【請求項4】
動植物由来原料からなる繊維がポリ乳酸繊維、バンブー繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両内装材用布帛。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−133050(P2009−133050A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264258(P2008−264258)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】