説明

車両制御装置、車両制御システムおよび管制装置

【課題】車両の走行状態についてのパラメータを適切なものとすることができる車両制御装置を提供すること。
【解決手段】取得した所定の情報に応じて車両の走行状態についての可変なパラメータLを生成することと、パラメータに基づく車両の走行制御あるいは運転操作によるパラメータの実現を支援する運転者に対する情報提供の少なくともいずれか一方を行う所定制御と、を実行可能であり、所定の情報とは、所定制御を実行可能な車両である所定車両CSの割合である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置、車両制御システム及び管制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、渋滞の発生を抑制または回避する試みがなされている。特許文献1には、車両が走行する道路の車両密度を含む交通状態を取得する交通状態取得手段と、道路の車両密度が臨界密度に近づくほど車間距離が短くなりにくくなるように車両の走行制御を行う走行制御手段と、を備える走行制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−262862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の走行状態についてのパラメータを適切なものとすることについて、なお検討の余地がある。例えば、渋滞の発生を抑制する制御を実行する車両がどの程度の割合で存在するかによって、制御における適切なパラメータの値が異なることが考えられる。
【0005】
本発明の目的は、車両の走行状態についてのパラメータを適切なものとすることができる車両制御装置、車両制御システムおよび管制装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両制御装置は、取得した所定の情報に応じて車両の走行状態についての可変なパラメータを生成することと、前記パラメータに基づく前記車両の走行制御あるいは運転操作による前記パラメータの実現を支援する運転者に対する情報提供の少なくともいずれか一方を行う所定制御と、を実行可能であり、前記所定の情報とは、前記所定制御を実行可能な車両である所定車両の割合であることを特徴とする。
【0007】
上記車両制御装置において、前記所定車両の割合は、前記所定車両の普及率に基づくことが好ましい。
【0008】
上記車両制御装置において、前記所定車両の割合は、実際に道路を走行している車両における前記所定車両の割合についての推定または検出結果であることが好ましい。
【0009】
上記車両制御装置において、前記パラメータは、自車両の直前を走行する車両と自車両との車間距離に関連する値であることが好ましい。
【0010】
上記車両制御装置において、道路を走行する車両の密度と、前記所定車両の割合とに応じて前記車間距離に関連する値の目標値を生成するものであって、前記密度が高い場合の前記目標値は、前記密度が低い場合の前記目標値よりも大きいことが好ましい。
【0011】
上記車両制御装置において、前記密度に基づいて前記車間距離に関連する値の目標である第一目標値を算出し、かつ前記所定車両の割合に応じた可変な上限値で前記第一目標値をガード処理して前記目標値を生成することが好ましい。
【0012】
上記車両制御装置において、前記所定車両の割合と前記上限値との関係は、道路を走行する車両における前記所定車両の割合と、各前記所定車両が前記車間距離に関連する値を維持して走行した場合に当該道路を通行可能な交通量との関係に基づくことが好ましい。
【0013】
上記車両制御装置において、前記所定車両の割合が高い場合の前記上限値は、前記所定車両の割合が低い場合の前記上限値よりも小さいことが好ましい。
【0014】
上記車両制御装置において、前記パラメータとして前記車間距離に関連する値の目標値を生成するものであって、前記所定車両は、更に、自車両の前方を走行する前記所定車両である前方所定車両から前記前方所定車両の減速に関する情報を取得し、前記減速に関する情報に基づいて前記前方所定車両の減速と連動して自車両を減速させることが可能であり、前記所定車両の割合が高い場合の前記目標値は、前記所定車両の割合が低い場合の前記目標値よりも小さいことが好ましい。
【0015】
上記車両制御装置において、前記走行制御として、自車両の直前を走行する車両と自車両との車間距離に関連する値を予め定められた所定値とするように前記直前を走行する車両との相対車速に基づくフィードバック制御を行うものであって、前記パラメータとは、前記フィードバック制御のフィードバックゲインであり、前記所定車両の割合が高い場合の前記フィードバックゲインは、前記所定車両の割合が低い場合の前記フィードバックゲインよりも大きいことが好ましい。
【0016】
本発明の車両制御システムは、道路側に設置され、取得した所定の情報に応じて車両の走行状態についての可変なパラメータを生成する管制装置と、前記管制装置から前記パラメータを取得すること、および前記パラメータに基づく前記車両の走行制御あるいは運転操作による前記パラメータの実現を支援する運転者に対する情報提供の少なくともいずれか一方を行う所定制御を実行可能な車両制御装置と、を備え、前記所定の情報とは、前記所定制御を実行可能な車両である所定車両の割合であることを特徴とする。
【0017】
本発明の管制装置は、道路側に設置され、取得した所定の情報に応じて車両の走行状態についての可変なパラメータを生成し、前記パラメータに基づく車両の走行制御あるいは運転操作による前記パラメータの実現を支援する運転者に対する情報提供の少なくともいずれか一方を行う所定制御を実行可能な車両である所定車両に対して前記パラメータを提供するものであって、前記所定の情報とは、前記所定車両の割合であることを特徴とする。
【0018】
本発明の車両制御装置は、取得した所定の情報に応じて自車両の直前を走行する車両と自車両との車間距離に関連する可変な目標値を生成することと、前記目標値に基づく自車両の走行制御である所定制御と、を実行可能であり、前記所定の情報は、天候に関する情報、地形に関する情報、あるいは道路上の車両の状態に関する情報の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0019】
上記車両制御装置において、前記天候に関する情報は、路面の摩擦係数に関する情報を含むことが好ましい。
【0020】
上記車両制御装置において、前記道路上の車両の状態に関する情報は、自車両の前方を走行する前記所定制御を実行しない車両の台数、前記道路上の車両の速度、前記道路上の車両の密度、前記道路上の車両における大型車両の割合、あるいは自車両が走行する車線の前記道路上における位置の少なくともいずれか一つを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる車両制御装置は、取得した所定の情報に応じて車両の走行状態についての可変なパラメータを生成することと、パラメータに基づく車両の走行制御あるいは運転操作によるパラメータの実現を支援する運転者に対する情報提供の少なくともいずれか一方を行う所定制御と、を実行可能である。所定の情報とは、所定制御を実行可能な車両である所定車両の割合である。本発明にかかる車両制御装置によれば、所定車両の割合に応じてパラメータが生成されることで、車両の走行状態についてのパラメータを適切なものとすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、実施形態の車両システムの動作を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施形態のインフラシステムの動作を示すフローチャートである。
【図3】図3は、第1実施形態の車両制御システムを示すブロック図である。
【図4】図4は、インフラシステムについて説明するための図である。
【図5】図5は、減速伝播吸収のイメージを示す図である。
【図6】図6は、車間時間と交通量および渋滞開始遅延時間との関係を示す図である。
【図7】図7は、システム搭載車両の割合および車間時間と交通量および渋滞開始遅延時間との関係を示す図である。
【図8】図8は、目標車間時間の上限値を示す図である。
【図9】図9は、目標車間時間に基づく車間距離について説明するための図である。
【図10】図10は、目標車間時間に基づく情報提供について説明するための図である。
【図11】図11は、臨界状態について説明するための図である。
【図12】図12は、第1変形例の車両制御システムを示す図である。
【図13】図13は、第2変形例の車両制御システムを示す図である。
【図14】図14は、車車間通信による交通量およびシステム搭載車両の混在率の算出について説明するための図である。
【図15】図15は、第2実施形態の車両制御システムを示すブロック図である。
【図16】図16は、一般車両とシステム搭載車両とが混在して走行する状態を示す図である。
【図17】図17は、協調減速制御の開始時の状態を示す図である。
【図18】図18は、協調減速制御の実行中の車両の動作について説明するための図である。
【図19】図19は、システム搭載車両と一般車両とが混在して走行するときの減速の伝播の様子を示す図である。
【図20】図20は、第3実施形態の車両制御システムを示すブロック図である。
【図21】図21は、速度伝播比について説明するための図である。
【図22】図22は、システム搭載車両の混在率とフィードバックゲインとの関係を示す図である。
【図23】図23は、各因子と必要車間時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態にかかる車両制御装置、車両制御システムおよび管制装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0024】
(第1実施形態)
図1から図11を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、車両制御装置、車両制御システム及び管制装置に関する。図1は、本実施形態にかかる車両システムの動作を示すフローチャート、図2は、本実施形態にかかるインフラシステムの動作を示すフローチャート、図3は、本実施形態にかかる車両制御システムを示すブロック図、図4は、インフラシステムについて説明するための図である。
【0025】
本実施形態の車両制御システム1は、渋滞緩和システムとしての機能を有する。車両制御システム1は、ボトルネック付近を走行する車両における車両システム1−1の搭載率を把握し、搭載率に応じて車間距離目標を変更する。搭載率が高いときの車間距離目標は、搭載率が低いときの車間距離目標よりも短い。本実施形態の車両制御システム1によれば、最低限確保したい交通量と減速伝播を吸収する効果とのバランスをとった渋滞解消が可能となる。
【0026】
図3に示すように、本実施形態の車両制御システム1は、車両システム1−1およびインフラシステム2−1を備える。車両システム1−1は、車両を制御する車両制御装置として機能することができる。車両システム1−1は、車両制御装置として車両に搭載されて当該車両を制御するものである。インフラシステム2−1は、交通基盤としての道路側に設置された管制装置である。インフラシステム2−1は、例えば、道路上や道路脇等に配置される。インフラシステム2−1は、交通量計測装置11、インフラ装置12および路車間通信装置13を有する。また、車両システム1−1は、車間距離計測装置21、自車位置認識装置22、路車間通信装置23、車両ECU24およびHMI(Human Machine Interface)装置25を有する。
【0027】
交通量計測装置11は、道路を走行する車両の交通量を計測するものである。図4に示すように、交通量計測装置11は、道路の各車線に設けられた計測箇所C1,C2における単位時間あたりの車両の通過台数を計測して道路の交通量を計測する。図4には、走行車線および追越車線を1車線ずつ備えた高速道路等の自動車専用道路が示されている。交通量計測装置11は、走行車線の計測箇所C1および追越車線の計測箇所C2のそれぞれにおいて単位時間あたりの通過台数を計測して各車線の交通量および自動車専用道路の合計交通量を計測する。なお、交通量計測装置11は、更に、通過する車両の速度や車両長を計測する機能を有していてもよい。
【0028】
インフラ装置12は、渋滞緩和システムとしての機能を有する本実施形態の車両システム1−1が搭載された車両の割合を算出する。以下の説明では、車両システム1−1が搭載された車両を「システム搭載車両」と記載する。本実施形態のシステム搭載車両は、所定車両に対応している。なお、システム搭載車両には、同一車種の車両であるか否か、同一のメーカーの車両であるか否か等に関わらず、本実施形態の車両システム1−1と同様の制御を実行可能な車両が含まれる。本実施形態では、インフラシステム2−1によって、システム搭載車両の割合に応じて可変なパラメータが生成される。ここでいうシステム搭載車両は、インフラシステム2−1からパラメータを取得すること、およびパラメータに基づく車両の走行制御あるいは運転操作によるパラメータの実現を支援する運転者に対する情報提供の少なくともいずれか一方を行うことが可能な全ての車両を含む。
【0029】
「システム搭載車両の割合」とは、システム搭載車両を含む車両の台数に対するシステム搭載車両の台数の割合であり、例えば、道路の所定区間を走行する全車両の台数に対する所定区間を走行するシステム搭載車両の台数の割合とすることができる。インフラ装置12は、交通量計測装置11によって計測された道路の交通量と、各システム搭載車両との路車間通信により取得した情報とに基づいてシステム搭載車両の割合を算出する。本実施形態のシステム搭載車両の割合は、所定の情報に対応する。
【0030】
後述するように、各システム搭載車両は、自車両の現在位置や進行方向、走行速度等の情報を路車間通信装置23によってインフラシステム2−1に送信している。インフラ装置12は、例えば、自動車専用道路上の路車間通信が可能な領域R1に存在するシステム搭載車両の台数と、交通量計測装置11によって計測された交通量に基づいて算出した上記領域R1に存在する全車両の台数とに基づいてシステム搭載車両の割合を算出することができる。また、インフラ装置12は、車線毎のシステム搭載車両の割合を算出することも可能である。インフラ装置12は、各システム搭載車両の現在位置に基づいて、それぞれのシステム搭載車両が走行車線あるいは追越車線のいずれを走行しているかを判別することができる。インフラ装置12は、その判別結果に基づいて車線毎のシステム搭載車両の割合を算出する。
【0031】
路車間通信装置13は、車両システム1−1とインフラシステム2−1との間で通信を行う通信装置である。路車間通信装置13は、車両システム1−1の路車間通信装置23から送信される信号を受信する。また、路車間通信装置13が送信した信号は、車両システム1−1の路車間通信装置23によって受信される。このように、車両システム1−1とインフラシステム2−1とは双方向の通信が可能である。
【0032】
車両システム1−1の車間距離計測装置21は、自車両の直前を走行する車両と自車両との車間距離に関連する値を計測することができる。車間距離計測装置21は、直前を走行する車両と自車両との車間距離および相対車速を計測することができる。車間距離計測装置21は、例えば、車両前部に搭載されたレーザーレーダーセンサ又はミリ波レーダーセンサなどのセンサとすることができる。
【0033】
自車位置認識装置22は、自車両の位置を認識するものである。自車位置認識装置22は、例えば、GPS装置と地図データを有するナビゲーションシステムとすることができる。GPS装置は、GPSレシーバ、地磁気センサ、距離センサ、ビーコンセンサ、及びジャイロセンサ等を有している。自車位置認識装置22は、GPS装置から自車両の位置や方位(進行方向)を取得する。地図データは、道路に関する情報(座標、直線路、勾配、カーブ、高速道路、車線数、トンネル、サグ等)を含んでいる。自車位置認識装置22は、GPS装置から取得した自車両の位置に基づいて、自車両が走行している道路に関する情報を地図データから取得することができる。自車位置認識装置22は、例えば、自車両が走行している道路の現在位置に関する情報や、自車両の前方の位置に関する情報を地図データから取得する。
【0034】
路車間通信装置23は、インフラシステム2−1の路車間通信装置13と対応するものであり、車両システム1−1とインフラシステム2−1との間で通信を行う通信装置である。
【0035】
車両ECU24は、電子制御ユニットである。車両ECU24は、車間距離計測装置21、自車位置認識装置22および路車間通信装置23と接続されている。車間距離計測装置21によって計測された車間距離に関連する値を示す信号は、車両ECU24に出力される。また、自車位置認識装置22によって認識された自車両の位置や方位を示す信号、および地図データから取得した道路に関する情報は、車両ECU24に出力される。車両ECU24は、路車間通信装置23を介してインフラシステム2−1との間で情報を通信する。
【0036】
路車間通信では、車両ECU24は、識別情報、走行情報、通信規格情報等を送信する。識別情報は、送信元の車両IDや送信元車両が所属する車群のIDを含む。走行情報は、現在位置、進行方向(方位)、走行速度、走行加速度、ジャーク、車間距離、車間時間等の自車両の走行に関する測定値情報である。通信規格情報は、予め決められたルールに基づくものであって、挨拶情報や転送情報を示すフラグなどを含む。
【0037】
HMI装置25は、運転者に対する情報提供等を行う装置である。HMI装置25は、例えば、車室内に設けられたディスプレー装置やスピーカー等を有する。HMI装置25は、インフラシステム2−1から送信される目標車間時間を実現できるように、音声情報、図形情報、文字情報等によって運転者を誘導する。例えば、HMI装置25は、目標車間時間と実際の車間時間とに基づいて、現在の車間を維持すること、現在の車間よりも車間を詰めること、現在の車間よりも車間を空けることのいずれが望ましいかを運転者に対して情報提供する。HMI装置25は、こうした情報提供により運転操作による目標値の実現を支援する。
【0038】
本実施形態の車両制御システム1は、各システム搭載車両の目標車間時間を調節することにより、渋滞の発生を抑制することや渋滞の緩和を図る。自動車専用道路等において、渋滞が発生しやすいボトルネックとなる箇所が存在する。ボトルネックとなる箇所は、例えば、サグのように勾配によって減速が生じやすい箇所などである。ボトルネック箇所では、減速した先行車両に後続車両が次々に追いつき、速度の低下量が増幅しながら後続車両に減速が伝播する減速ショックウェーブが発生することがある。減速ショックウェーブは、渋滞の発生原因ともなるため、速度の伝播を吸収したり分断したりできることが望まれる。
【0039】
本実施形態では、インフラシステム2−1が、各システム搭載車両の目標車間時間を調節することにより、減速の伝搬をシステム搭載車両において吸収させる。図5は、減速伝播吸収のイメージを示す図である。図5において、横軸は時間、縦軸は車両の走行速度をそれぞれ示す。符号S1からS9は、この順番で道路上を縦列して走行する車両の各車両の速度の推移を示している。速度の推移S1は、最も前方を走行する車両の速度の推移を示し、速度の推移S9は、最も後方を走行する車両の速度の推移を示す。8番目を走行する車両はシステム搭載車両であって、速度の推移S8はこのシステム搭載車両の速度の推移を示す。他の車両は、いずれも車両システム1−1を搭載していない一般車両である。図5には、サグを通過する場合など、先頭車両において速度の低下が生じた場合の各車両の速度変化が示されている。
【0040】
図5に速度の推移S1からS7に示すように、1台目の車両が減速すると、後続車両に速度の低下量が拡大して伝播し、後方の車両ほど減速前の速度に対する速度の低下量が大きくなる。本実施形態では、システム搭載車両の目標車間時間は、減速の伝播を吸収できる車間時間とされる。これにより、システム搭載車両の速度の推移S8における速度低下量ΔV8は、直前の車両の速度の推移S7における速度低下量ΔV7よりも低減する。システム搭載車両の後続車両の速度の推移S9においても速度の低下が抑制されている。このように各システム搭載車両において減速の伝播が吸収されることで、減速ショックウェーブを吸収したり、減速ショックウェーブの伝播を遅らせたりすることが可能となる。
【0041】
システム搭載車両の目標車間時間は、例えば、道路を走行する車両の密度に応じて生成される。車両の密度は、例えば、道路の交通量と車速とに基づいて算出される。インフラ装置12は、交通量計測装置11が計測した交通量と、通過する車両の速度とに基づいて道路上の車両の密度を算出することができる。インフラ装置12は、算出された密度が高い場合には、密度が低い場合よりもシステム搭載車両の目標車間時間を長くする。これにより、車両制御システム1は、車両の密度が高く減速が伝播しやすい状況において、システム搭載車両が減速の伝播を吸収する度合いを高めて渋滞の発生を抑制したり渋滞を緩和したりすることができる。車両システム1−1は、運転操作による目標車間時間の実現を支援する情報提供を行うことで、渋滞緩和システムとして機能する。本実施形態の車両システム1−1による情報提供は、所定制御に対応している。
【0042】
車間時間を長くして、減速伝播を吸収し渋滞緩和するシステムにおいて、システム搭載車両の直前の車両とシステム搭載車両との車間時間を長くすることは、減速の伝播を吸収する上で有利である。しかしながら、以下に図6および図7を参照して説明するように、車間時間を長くすることは、交通容量を下げる可能性がある。例えば、道路を走行する車両におけるシステム搭載車両の割合が高くなるほど、各システム搭載車両が目標車間時間を維持して走行した場合の道路上の車両密度が低下し、交通容量の低下につながることがある。図6は、車間時間と交通量および渋滞開始遅延時間との関係を示す図、図7は、システム搭載車両の割合および車間時間と交通量および渋滞開始遅延時間との関係を示す図である。図6および図7には、それぞれ、道路を走行する車両におけるシステム搭載車両の割合と、各システム搭載車両が共通の車間時間を維持して走行した場合に当該道路を通行可能な交通量との関係が示されている。
【0043】
図6において、横軸は、車間時間、縦軸は、CO削減量、渋滞開始遅延時間および交通量を示す。図6には、システム搭載車両の割合が5%である場合のCO削減量、渋滞開始遅延時間および交通量が示されている。渋滞開始遅延時間とは、各システム搭載車両が目標車間時間を維持して走行した場合に、他の一般車両の車間時間と同様の車間時間でシステム搭載車両が走行した場合に対して渋滞の開始を遅延させることができる時間である。図6に示すように、車間時間が大きくなるほど、渋滞開始遅延時間は長くなる。これに対応するように、車間時間が大きくなるほどCO削減量が増加する。一方、車間時間が大きくなると、交通量が低下する。
【0044】
また、車間時間の調整では、車間時間と割り込みの頻度との関係についても考慮することが望ましい。車間時間が大きくなると、システム搭載車両とその直前の車両との間に他の車両が割り込む頻度が増加し、目標車間の維持が困難となる場合がある。従って、割り込み頻度が高くなりすぎない程度に目標車間時間に上限を設けることが望ましい。本実施形態では、割り込み頻度に基づく目標車間時間の上限T1は、2.5[s]とされている。
【0045】
また、車間時間に対する渋滞遅延効果や交通容量は、システム搭載車両の割合によって変化する。図7に示すように、システム搭載車両の割合が50%である場合の渋滞開始遅延時間D50は、システム搭載車両の割合が5%である場合の渋滞開始遅延時間D5に対して大きく伸びている。一方で、システム搭載車両の割合が50%である場合の交通量Q50は、システム搭載車両の割合が5%である場合の交通量Q5に対して低下している。減速の伝播を吸収する効果と、交通容量の確保とを両立できることが望まれている。
【0046】
本実施形態の車両制御システム1では、システム搭載車両の割合に応じて目標車間時間が可変とされる。目標車間時間は、インフラシステム2−1によって生成される車両の走行状態についてのパラメータであって、自車両の直前を走行する車両と自車両との車間距離に関連する値の目標値である。インフラシステム2−1は、システム搭載車両の割合に応じて可変の目標車間時間を生成し、各システム搭載車両に送信(提供)する。生成される目標車間時間は、確保したい交通容量に基づく車間時間の上限値でガード処理される。図8は、目標車間時間の上限値を示す図である。
【0047】
図8において、横軸は、システム搭載車両の割合であるシステム搭載車両混在率を示し、縦軸は、目標車間時間を示す。直線G1は、割り込み頻度から決まる車間時間の上限ラインを示す。また、直線G2は、確保したい交通容量が150台/5分/車線である場合の車間時間の上限ラインを示し、直線G3は、確保したい交通量が180台/5分/車線である場合の車間時間の上限ラインを示す。図8に示すように、目標車間時間の上限値は、システム搭載車両の割合に応じて可変となっている。上限ラインG2およびG3は、例えば、図6および図7に示す車間時間と交通量との関係に基づいて決定されている。上限ラインG2およびG3では、システム搭載車両の割合が高い場合の上限値は、システム搭載車両の割合が低い場合の上限値よりも小さい。
【0048】
インフラ装置12は、図8の目標車間時間の上限値に基づいて、目標車間時間にガード処理を施す。例えば、インフラ装置12は、道路を走行する車両の密度に応じて算出された目標車間時間(第一目標値)に対して、図8に示す上限値によるガード処理を施して目標車間時間を生成する。インフラ装置12は、生成した目標車間時間を路車間通信によって送信する。インフラシステム2−1から送信された目標車間時間を受信した車両システム1−1は、目標車間時間に基づき運転者に対する情報提供を行う。なお、目標車間時間に対して、上限ガード処理に加えて下限ガード処理がなされてもよい。下限ガード処理のガード値は、例えば、一般車両の車間時間分布に基づいて予め定められる。図9は、目標車間時間に基づく車間距離について説明するための図、図10は、目標車間時間に基づく情報提供について説明するための図である。
【0049】
図9には、自動車専用道路をシステム搭載車両CSと一般車両COが混在して走行している状態が示されている。各システム搭載車両CSの車両システム1−1は、直前の車両との車間距離Lが目標車間時間に基づく目標車間距離となるように、運転者に対して情報提供する。目標車間距離は、例えば、目標車間時間と自車両の速度と直前の車両との相対速度とに基づいて算出される。なお、符号Lcは、システム搭載車両CSの前端から次のシステム搭載車両CSの前端までの車頭距離を示す。
【0050】
図1に示す制御フローは、例えば、運転支援ONとされると実行される。図10に示すように、車両システム1−1は、例えば、自車位置認識装置22から取得した情報に基づいて自車両の前方にボトルネックを検出した場合や、道路交通情報通信システム(VICS)等から取得した前方の混雑情報や渋滞発生予測の情報に基づいて渋滞が予測される場合に制御実施を決定する。制御実施を決定した車両システム1−1は、制御開始位置を決める。制御開始位置は、例えば、ボトルネックや混雑(渋滞)箇所の所定距離手前の地点とされる。
【0051】
制御が開始されると、まず、ステップS1では、車両ECU24により、ボトルネック手前区間で、通信にて自車位置データがインフラ装置12に送信される。車両ECU24は、自車位置認識装置22から取得した自車位置データとして、自車両の位置座標データや進行方向などを路車間通信によりインフラ装置12に送信する。
【0052】
次に、ステップS2では、車両ECU24により、減速伝播吸収の目標車間時間が受信される。車両ECU24は、路車間通信によってインフラ装置12から目標車間時間を取得する。車両ECU24は、受信した目標車間時間から目標車間距離を算出する。
【0053】
次に、ステップS3では、車両ECU24により、運転者に対して目標車間距離の実現を支援する情報提供がなされる。車両ECU24は、ステップS2で算出された目標車間距離と、車間距離計測装置21によって検出された直前の車両との車間距離に基づいて、情報提供を行う。例えば、検出された車間距離が、目標車間距離よりも短ければ、実際の車間距離を目標車間距離に近づける運転操作を促す情報提供を行う。この場合、車両ECU24は、HMI装置25によって車間距離を空けるように運転者に促すようにしてもよく、アクセル戻し操作やブレーキをかける操作などの具体的な運転操作をHMI装置25によって運転者に促してもよい。車両ECU24は、具体的な運転操作を運転者に対して促す場合、目標とする加速度等に基づいて促す操作の種類を異ならせるようにしてもよい。例えば、車両ECU24は、目標車間距離を実現するために大きな減速度を要する場合には運転者に対してブレーキ操作を促し、ブレーキ操作による減速度を必要としない場合にはアクセル戻し操作を促すようにしてもよい。
【0054】
また、車両ECU24は、現在の車間距離と目標車間距離との乖離が小さい場合には、現在の車間距離を維持して走行するように運転者に促す。ボトルネック箇所に接近した場合や、渋滞の後尾に接近した場合、車両ECU24は、HMI装置25によって運転者に対して緩減速を促す。ボトルネック箇所に接近したことは、自車位置認識装置22から取得する情報に基づいて判断することができる。渋滞の後尾に接近したことは、VICSより取得した渋滞情報や混雑情報などに基づいて判断することができる。車両ECU24は、例えば、自車両から前方のボトルネック箇所や渋滞後尾までの距離が予め定められた距離以内となった場合に運転者に対して緩減速を促す。
【0055】
次に、ステップS4では、車両ECU24は、情報提供による運転支援を終了する。車両ECU24は、自車両がボトルネック箇所を通過すると、目標車間距離を実現するための情報提供を終了する。車両ECU24は、運転支援のための情報提供を終了すること、およびこの先はシステム側で決定した目標車間距離を維持して走行する必要がないことを運転者に知らせる。これにより、運転者は、車両によって誘導されることなく望む車間距離で走行する通常運転を開始する。ステップS4が実行されると、本制御フローは終了する。
【0056】
一方、インフラ装置12では、図2に示す制御フローが実行される。図2に示す制御フローは、例えば、インフラシステム2−1の電源ONや起動指令によって開始され、所定の間隔で繰り返し実行される。まず、ステップS11では、交通量計測装置11によって、一般車両を含めた交通量が計測される。
【0057】
次に、ステップS12では、インフラ装置12によって渋滞発生臨界状態であるか否かが判定される。インフラ装置12は、例えば、以下に図11を参照して説明するように渋滞発生臨界状態(以下、単に「臨界状態」とも記載する。)であるか否かを判定する。図11は、臨界状態について説明するための図である。図11において、横軸は交通量Q、縦軸は平均車速Vmを示す。交通量Qとは、車線毎の単位時間あたりの通過台数(台/時間・車線)である。つまり、図11には、走行速度と道路を通行可能な交通量との関係が示されている。図11において原点を通る直線の傾きは、道路上の車両密度を示す。車両密度は、交通量Qの増加や平均車速Vmの減少によって増加し、交通量Qの減少や平均車速Vmの増加によって減少する。また、符号Dcは、臨界密度を示す。車両密度が臨界密度Dcを超えると、渋滞状態に移行しやすい。
【0058】
符号Qcは、最大交通量線を示す。最大交通量線Qcは、各平均車速Vmと道路を通行可能な最大交通量との関係を示している。最大交通量線Qcは、人間が車両を走行させるときの平均的な車間時間特性に対応している。符号Ph1は自由相、Ph2は臨界相、Ph3は渋滞相をそれぞれ示す。自由相Ph1は、最大交通量線Qcにおける車両密度が小さな範囲に対応する。臨界相Ph2は、最大交通量線Qcにおいて自由相Ph1よりも車両密度が大きな範囲であって、臨界密度Dcの近傍および臨界密度Dcよりも車両密度が小さな範囲に対応する。渋滞相Ph3は、最大交通量線Qcにおいて臨界密度Dcよりも車両密度が大きな範囲に対応する。
【0059】
車両密度が臨界密度Dcを超えると一様な流れが不安定になり、わずかな速度の揺らぎが、車両の進行方向とは逆向きに成長しながら伝わり(減速ショックウェーブ)、渋滞相Ph3へ一気に変化(相転移)する。例えば、平均車速がV1で交通量がQ1である状態は、臨界相Ph2にある状態、すなわち臨界状態である。交通流状況が臨界状態にある場合、外乱や更なる交通量の増加によって車両密度が臨界密度Dcを超えやすく、渋滞状態に移行しやすい。例えば、サグ等において速度低下が後続車両に伝播するショックウェーブが発生すると、相転移によって渋滞状態に移行しやすい。
【0060】
インフラ装置12は、ステップS11で計測された交通量と、道路を走行する車両の速度とに基づいて、臨界状態であるか否かを判定する。車両の速度は、例えば、路車間通信によって取得したシステム搭載車両の速度を用いることができる。インフラ装置12は、車線毎に臨界状態であるか否かを判定することも、同じ進行方向の全車線の交通量の合計に基づいて臨界状態であるか否かを判定することも可能である。例えば、車線毎に臨界状態の判定を行う場合には、システム搭載車両がいずれの車線を走行しているかの判別を行い、システム搭載車両の速度をそのシステム搭載車両が走行する車線の平均速度として用いるようにすればよい。システム搭載車両がいずれの車線を走行しているかは、例えば、システム搭載車両の位置情報と、道路の座標情報とに基づいて判別することが可能である。それぞれの車線について、車線の速度と、車線の交通量とに基づいて、臨界状態であるか否かを判定することができる。インフラ装置12は、例えば、臨界状態である車線が少なくとも1車線存在する場合に、ステップS12において肯定判定を行う。ステップS12の判定の結果、渋滞発生臨界状態であると判定された場合(ステップS12−Y)にはステップS13に進み、そうでない場合(ステップS12−N)には本制御フローは終了する。
【0061】
次に、ステップS13では、インフラ装置12により、システム搭載車両の混在率が算出される。インフラ装置12は、ステップS11で計測された交通量と、路車間通信によって取得した各システム搭載車両の位置およびシステム搭載車両の台数からシステム搭載車両の混在率を算出する。インフラ装置12は、各システム搭載車両から送信された位置情報に基づいて、道路上の予め定められた所定の領域内を走行中のシステム搭載車両の台数を算出する。また、インフラ装置12は、ステップS11で計測された交通量から、所定の領域内を走行中の全車両の台数を算出する。システム搭載車両の混在率は、所定の領域内のシステム搭載車両の台数と全車両の台数とに基づいて算出される。
【0062】
次に、ステップS14では、混在率に応じた目標車間時間が算出される。インフラ装置12は、ステップS13で算出されたシステム搭載車両の混在率に応じた目標車間時間を算出する。インフラ装置12は、道路を走行する車両の密度に応じて生成された目標車間時間に対して、図8に示す上限値によるガード処理を施した値を目標車間時間として決定する。混在率が低い場合には、割り込み頻度に基づく目標車間時間の上限T1がガード値とされる。また、混在率が高い場合には、確保したい交通量に基づいてガード値が決定される。例えば、少なくとも現在の交通量を確保できるようにガード値が決定される。現在の交通量が150台/5分/車線である場合、上限ラインG2がガード値とされてもよい。あるいは、更に多くの交通量を確保できるように、上限ラインG2に代えて、例えば上限ラインG3がガード値とされてもよい。目標車間時間が算出されると、ステップS15に進む。
【0063】
ステップS15では、インフラ装置12によって、システム搭載車両に目標車間時間が送信される。インフラ装置12は、ステップS14で算出した目標車間時間を路車間通信により各システム搭載車両に向けて送信する。ステップS15が実行されると、本制御フローは終了する。
【0064】
このように、本実施形態の車両制御システム1によれば、システム搭載車両の混在率に基づいて可変な目標車間時間が生成され、各システム搭載車両においてこの目標車間時間を運転操作により実現できるように運転者に対する情報提供が行われる。これにより、各システム搭載車両によって減速の伝播が吸収されることで、渋滞の発生を抑制することや、渋滞の緩和を図ることが可能となる。
【0065】
また、本実施形態では、確保したい交通量に基づいて目標車間時間が決定されることで、道路上の車両分布における粗密を軽減し、車両を均等配分させる効果がある。システム搭載車両の目標車間距離は、交通量と平均速度から平均密度を算出し、その平均密度から1台あたりに換算した車間距離に相当する。システム搭載車両を含む全ての車両がこの目標車間距離を維持すれば、各車両が道路上に均等に配分されることとなる。従って、システム搭載車両の混在率が高くなるほど、道路上の車両密度が均等に近くなり、減速が伝播しにくくなる。
【0066】
本実施形態では、システム搭載車両の混在率に基づいて、目標車間時間が可変とされたが、これに限定されない。混在率に基づいて、目標車間距離など、直前の車両との相対関係に関する他の目標値が可変とされてもよい。例えば、インフラ装置12は、目標車間時間に代えて、目標車間距離を混在率に応じた可変な値として生成し、システム搭載車両に送信するようにしてもよい。
【0067】
また、システム搭載車両の混在率に基づいて、直前の車両との相対関係とは異なる走行状態についての可変なパラメータが生成されてもよい。例えば、システム搭載車両の混在率に基づいて、目標車速が可変とされてもよい。
【0068】
本実施形態では、インフラ装置12が、路車間通信により取得した情報に基づいてシステム搭載車両の混在率を算出したが、混在率の算出方法はこれには限定されない。例えば、インフラ装置12は、道路情報等を提供するセンターとの通信によりシステム搭載車両の混在率を取得したり、センターから取得した情報に基づいてシステム搭載車両の混在率を算出したりしてもよい。
【0069】
また、本実施形態では、システム搭載車両の割合が、実際に道路を走行している車両におけるシステム搭載車両の割合についての検出結果であったが、これには限定されない。システム搭載車両の割合は、実際に道路を走行している車両におけるシステム搭載車両の割合についての推定結果であってもよい。また、システム搭載車両の割合は、例えば、システム搭載車両の普及率に基づくものであってもよい。普及率とは、例えば、販売台数や登録台数におけるシステム搭載車両の台数の割合である。また、システム搭載車両の割合は、自車両付近の車両におけるシステム搭載車両の混在率(システム搭載車両台数/全体台数)であってもよい。また、予め車両システム1−1にシステム搭載車両の予想普及台数についての経時的な推移を示すテーブル等を記憶しておき、テーブルから取得した現在の普及台数についての予想値をシステム搭載車両の割合としてもよい。
【0070】
(第1実施形態の第1変形例)
上記第1実施形態では、車両システム1−1は、運転操作による目標車間時間の実現を支援する情報提供を行ったが、これに加えて、目標車間時間に基づく車両の走行制御を行うことができるものであってもよい。図12は、本変形例の車両制御システム2を示す図である。図2に示すように、本変形例の車両システム1−2は、上記第1実施形態のHMI装置25に加えて、走行制御装置26を有する。走行制御装置26は、車両の走行状態を制御する装置であり、エンジン、ブレーキ、自動変速機等の制御を行う。車両ECU24は、走行制御装置26に対して目標車間時間に対応する目標車間距離を実現するよう制御目標、例えば目標加速度を出力する。走行制御装置26は、目標加速度を実現するように車両の走行制御を実行する。本実施形態の走行制御装置26によってなされる車両の走行制御は、所定制御に対応する。
【0071】
目標車間時間を実現する車両制御の実行を指示する操作が運転者によってなされている場合、車両ECU24は、インフラ装置12から送信された目標車間時間と実際の車間時間との乖離を減少させるように車両の走行状態を制御する。この車両制御は、例えば、ACC(Adaptive Cruise Control)制御の一つのモードとして実行されてもよい。ACC制御は、例えば、レーダー等により先行車を検出し、先行車に合わせ一定の車間距離を保つように追従走行する追従制御、および、車両の車速が一定車速となるように車両を走行させる定速走行制御を実行するものである。追従制御において、ボトルネックの手前の区間を走行する場合など、減速の伝播を吸収する車間を確保して走行するときには、運転者によって設定された目標車間距離に代えて、インフラ装置12から送信された目標車間時間に対応する目標車間距離が制御目標とされる。
【0072】
目標車間時間を実現する車両制御の実行を指示する操作が運転者によってなされていない場合には、上記第1実施形態と同様に、車両ECU24によって運転者の運転操作による目標車間時間の実現を支援する情報提供がなされるようにすればよい。
【0073】
(第1実施形態の第2変形例)
上記第1実施形態では、インフラシステム2−1によって交通量の計測やシステム搭載車両の混在率の算出、および目標車間時間の算出がなされたが、これらの算出が車両システムによってなされてもよい。図13は、本変形例の車両制御システム3を示す図である。図3に示すように、車両制御装置としての車両システム1−3は、上記第1実施形態の車両システム1−1が有する装置に加えて、車車間通信装置27を有する。車車間通信装置27は、車両システム1−3が搭載されたシステム搭載車両間の通信を行う通信装置である。
【0074】
車車間通信では、識別情報、走行情報、制御目標量情報、ドライバ操作情報、車両スペック情報、通信規格情報、環境情報を含む各種情報が他車両に向けて送信される。識別情報は、送信元の車両IDや送信元車両が所属する車群のIDを含む。走行情報は、現在位置、進行方向(方位)、走行速度、走行加速度、ジャーク、車間距離、車間時間等の自車両1の走行に関する測定値情報である。制御目標量情報は、車載機器が車両を制御する際の目標値・入力値・制御指令値等であって、目標速度、目標加速度、目標ジャーク、目標方向(方位)、目標車間時間、目標車間距離を含む。
【0075】
ドライバ操作情報は、運転者から入力操作された操作量や入力情報であって、アクセル操作量、ブレーキ操作量(踏力やストローク)、ウィンカ操作(操作の有無や操作方向)、舵角、ブレーキランプのON/OFF等を含む。車両スペック情報は、車重、最大ブレーキ力、最大加速力、最大ジャーク、各アクチュエータ(ブレーキ、アクセル、シフト等)の反応速度や時定数を含む。通信規格情報は、予め決められたルールに基づくものであって、挨拶情報や転送情報を示すフラグなどを含む。環境情報は、走行環境に関する情報であって、路面情報(例えばμ、勾配、温度、ウェット/ドライ/凍結、アスファルト/未舗装)、風速や風向などの情報を含む。
【0076】
各システム搭載車両は、車車間通信装置27によって、周囲のシステム搭載車両の台数を取得する。図14は、車車間通信による交通量およびシステム搭載車両の混在率の算出について説明するための図である。図14において、符号R2は、システム搭載車両CS1の車車間通信範囲を示す。システム搭載車両CS1は、通信範囲R2内を走行する他のシステム搭載車両CS2,CS3の位置情報を車車間通信によって取得する。これにより、通信範囲R2内を走行するシステム搭載車両の台数を算出することができる。また、各システム搭載車両は、自車両の周辺の一般車両の台数を算出する。周辺の車両の台数は、例えば、レーダー等のセンサによって近傍を走行する車両数や各車両との相対位置を検出したり、カメラ等によって撮像された自車両の周囲の画像データに基づいて近傍を走行する車両数や各車両との相対位置を検出したりすることによって検出可能である。自車両の周辺を他のシステム搭載車両が走行している場合、車車間通信によって取得した位置情報に基づいて一般車両とシステム搭載車両とを判別することが可能である。
【0077】
各システム搭載車両は、自車両の周辺を走行する一般車両の台数を車車間通信によって他のシステム搭載車両に送信する。これにより、システム搭載車両CS1は、通信範囲R2内におけるシステム搭載車両の混在率を概算(推定)することができる。例えば、各システム搭載車両から送信された周辺の一般車両の台数に基づいて、通信範囲R2内における車両密度および通信範囲R2内に存在する全車両台数を推定することができる。全車両台数の推定値と、車車間通信に基づいて算出した通信範囲R2内のシステム搭載車両の台数とに基づいて、システム搭載車両の混在率が算出される。システム搭載車両CS1は、例えば、自車両と同一車線上でかつ通信範囲R2内に存在するシステム搭載車両の台数および全車両台数に基づいてシステム搭載車両の混在率を算出する。各システム搭載車両は、算出された混在率に応じた目標車間時間の上限値に基づいて目標車間時間を生成し、その目標車間時間の実現を支援する情報提供を実行する。
【0078】
このように、車両システム1−3が車車間通信によって取得した情報に基づいてシステム搭載車両の混在率を概算するようにすれば、インフラシステム2−1を省略することが可能となる。すなわち、車両制御装置としての車両システム1−3が自律的にシステム搭載車両の割合に応じた可変なパラメータを生成し、生成したパラメータの実現を支援する運転者に対する情報提供を行うことができる。なお、車両システム1−3は、システム搭載車両の割合を算出するための情報の少なくとも一部を路車間通信によってインフラシステム2−1から取得するようにしてもよい。また、システム搭載車両の割合は、上記第1実施形態と同様に、システム搭載車両の普及率、予想普及台数などに基づくものであってもよい。本変形例によれば、インフラシステム2−1が設置されていないエリアにおいてシステム搭載車両の混在率に応じた可変な目標値を生成することが可能となる。
【0079】
なお、車車間通信が可能なシステム搭載車両CS1では、目標車間時間を算出するための車両の密度として、上記第1実施形態の値に代えて、直前のシステム搭載車両CS2との間に挟まれる一般車両の台数を用いてもよい。直前のシステム搭載車両とは、自車線上における自車両CS1の前方を走行するシステム搭載車両のうち自車両CS1に最も近いシステム搭載車両CS2を示す。間に挟まれる一般車両の台数は、自車両CS1と直前のシステム搭載車両CS2との車間距離と、道路上の車両密度とに基づいて推定可能である。
【0080】
車両システム1−3は、運転操作による目標車間時間の実現を支援する運転者に対する情報提供を行うだけでなく、目標車間時間に基づく車両の走行制御を行うようにしてもよい。例えば、上記第1実施形態の第1変形例と同様に、車両システム1−3が走行制御装置26を備え、目標車間時間を実現する車両制御の実行を指示する操作が運転者によってなされている場合には目標車間時間に基づく車両制御を行い、上記操作がなされていない場合には運転者に対する情報提供を行うようにすることができる。
【0081】
(第2実施形態)
図15から図19を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図15は、本実施形態の車両制御システム4を示すブロック図である。
【0082】
図15に示すように、車両制御システム4は、車両システム1−4を備えている。車両システム1−4は、車車間通信装置27を有しており、車車間通信によって取得したデータに基づいてシステム搭載車両の混在率を概算することができる。また、車両システム1−4は、走行制御装置26を有している。車両システム1−4は、インフラシステムの存在なしにシステム搭載車両の割合に応じた可変なパラメータを生成し、所定制御を実行する車両制御装置として機能することができる。なお、車両制御システム4は、上記第1実施形態のインフラシステム2−1と同様のインフラシステムを有し、インフラシステムから車両システム1−4にシステム搭載車両の混在率を送信するものであってもよい。
【0083】
車両システム1−4は、直前の車両に追従する追従走行が可能であると共に、以下に図16から図18を参照して説明するように、前方のシステム搭載車両からそのシステム搭載車両の減速に関する情報を取得し、取得した情報に基づいて前方のシステム搭載車両の減速と連動して自車両を減速させる協調減速制御を実行することができる。図16は、一般車両とシステム搭載車両とが混在して走行する状態を示す図、図17は、協調減速制御の開始時の状態を示す図、図18は、協調減速制御の実行中の車両の動作について説明するための図である。
【0084】
車両システム1−4を搭載したシステム搭載車両である自車両CS13は、自車両CS13の通信範囲R3内を走行する他のシステム搭載車両CS11,CS12との間で車車間通信によって情報を授受する。各システム搭載車両CS11,CS12,CS13は、自車両の位置情報、方位、走行速度等を他のシステム搭載車両に送信する。以下の説明において、特に記載しない限り、車両システム1−4とは自車両CS13の車両システム1−4であり、車両ECU24とは自車両CS13の車両ECU24であるものとする。車両システム1−4は、受信した情報に基づいて、自車両CS13と同じ車線における自車両CS13の前方を走行するシステム搭載車両を判別する。図16では、通信範囲R3内において、自車両CS13が走行する車線における自車両CS13の前方を2台のシステム搭載車両CS11,CS12が走行している。車両システム1−4は、システム搭載車両CS11,CS12が自車線における前方を走行していることを認識する。
【0085】
車両システム1−4の車両ECU24は、自車両CS13の直前を走行する直前車両Cpreに対する追従制御を実行可能であると共に、前方のシステム搭載車両CS11,CS12と協調して減速する協調減速制御を実行することができる。追従制御および協調減速制御は、例えば、ACC制御の一つの制御モードとして行われる。車両ECU24は、追従制御において、自車両CS13と直前車両Cpreとの車間距離Lを予め定められた目標車間距離Ltとするように自車両CS13の加速度を制御する。また、車両ECU24は、前方のシステム搭載車両CS11,CS12と自車両CS13との速度差を低減するように自車両CS13の加速度を制御する。車両ECU24は、例えば、下記式(1)によって自車両CS13の目標加速度である自車目標加速度atを算出する。
【0086】
t=kvc1(Vc1−V)+kvc2(Vc2−V)+・・・+kvcN(VcN−V)
+kaRelV(Vpre−V)+kaS(Lt−L)…(1)
【0087】
上記式(1)において、Vは自車速度、Vpreは直前車速度、Lは車間距離、kaRelVは直前車との速度差フィードバックゲイン、kaSは直前車との車間距離誤差フィードバックゲインである。また、kvc1・・・kvcNは、前方のシステム搭載車両との速度差フィードバックゲインであり、例えば正の値である。Vc1・・・VcNは、前方のシステム搭載車両の速度である。本実施形態では、自車両の前方のシステム搭載車両の速度である直前車速度Vpreが当該システム搭載車両の減速に関する情報に対応している。図16では、通信範囲R3内において自車両CS13の前方を走行するシステム搭載車両は2台であるため、上記式(1)においてN=2とすればよい。走行制御装置26は、自車目標加速度atに基づいて自車両CS13の加速度を制御する。
【0088】
上記式(1)に示すように、自車目標加速度atは、直前車Cpreに対する追従制御のフィードバック項(右辺の最後の2項)だけでなく、前方のシステム搭載車両との速度差に基づくフィードバック項に基づいて算出される。これにより、自車両CS13の前方のシステム搭載車両が減速すると、連動して自車目標加速度atが減少し、走行制御装置26が自車両CS13の加速度を減少させる。つまり、走行制御装置26は、前方のシステム搭載車両の減速と協調して自車両CS13を減速させることができる。
【0089】
このように自車目標加速度atが決定されることで、前方のシステム搭載車両が減速した場合、走行制御装置26は、前方のシステム搭載車両の減速開始と連動して自車両CS13を減速させることが可能となる。図17において、横軸は、自車両CS13と自車両CS13の前方の各車両との距離、縦軸は、各車両の速度をそれぞれ示す。図17には、先頭のシステム搭載車両CS11の減速に協調して、後続するシステム搭載車両CS12が減速を開始した直後の状態が示されている。各車両に付した斜め下向きの矢印は、各車両の減速度を示しており、矢印の長さは減速度の大きさを示している。システム搭載車両CS12の減速開始直後は、システム搭載車両CS12の1台後ろの一般車両CO1が減速を開始しているが、2台後ろの一般車両CO2および自車両CS13の直前車両Cpreにはまだ減速が伝播していない。一方、自車両CS13は、矢印Y1に示すように、前方のシステム搭載車両CS11,CS12の減速と協調して減速を開始している。これにより、自車両CS13と直前車両Cpreとの車間距離Lは広がり始める。
【0090】
図18には、システム搭載車両CS12の2台後ろの一般車両CO2まで減速が伝播し、かつ直前車両Cpreにはまだ減速が伝播していない状態が示されている。この時点で、直前車両Cpreとの車間距離L2は、図17に示す時点の車間距離L1よりも拡大している。また、自車両CS13の速度は、直前車両Cpreの速度よりも低速となっている。よって、図19を参照して説明するように、本実施形態の車両制御装置としての車両システム1−4は、減速の伝播を分断することができる。図19は、システム搭載車両と一般車両とが混在して走行するときの減速の伝播の様子を示す図である。図19において、符号Ssはシステム搭載車両の速度の推移を示し、符号Soは一般車両の速度の推移を示す。各システム搭載車両は、前方のシステム搭載車両の減速と協調して減速を行う。これにより、図19に示すように、システム搭載車両において前方からの減速の伝播が分断される。
【0091】
本実施形態では、協調減速制御を実行可能な車両システム1−4を搭載したシステム搭載車両の混在率に応じて、追従制御の目標車間距離が可変とされる。車両ECU24は、システム搭載車両の混在率が高い場合には、混在率が低い場合よりも目標車間距離を小さくする。これは、以下のような理由による。システム搭載車両の混在率は、例えば、上記第1実施形態の第2変形例におけるシステム搭載車両の混在率の算出方法と同様の方法とすることができる。なお、車両制御システム4が上記第1実施形態のインフラシステム2−1と同様のインフラシステムを備えている場合には、インフラシステムからシステム搭載車両の混在率を取得するようにすればよい。
【0092】
システム搭載車両の混在率が低い場合には、自車両CS13と前方のシステム搭載車両CS12との間に多くの一般車両を挟んで走行する可能性が多い。間に挟まれる一般車両の台数が多いほど、自車両CS13までどのように減速が伝播してくるかが予測しにくい。例えば、自車両CS13と前方のシステム搭載車両CS12との間を走行する一般車両が減速することで減速の伝播が開始される場合がある。減速を開始した一般車両と自車両CS13との間にシステム搭載車両が走行していなければ、減速が自車両CS13に伝播してから減速を開始しなければならない。また、多くの一般車両を介して減速が伝播することで、前方のシステム搭載車両CS12から自車両CS13に減速が伝播するまでに時間を要する。これにより、前方のシステム搭載車両CS12の減速が終了することで協調減速が終了し、自車両CS13が直前車両Cpreに接近した後で減速が伝播してくる可能性がある。このように、システム搭載車両の混在率が低い場合には不確定要素が多いことから、目標車間距離に余裕を持たせることが好ましい。
【0093】
システム搭載車両の混在率が高い場合には、自車両CS13と前方のシステム搭載車両CS12との間に多くの一般車両を挟んで走行する可能性は低い。従って、一般車両に起因する不確定要素が少ない。例えば、前方のシステム搭載車両と協調して減速を開始するシステム搭載車両が多く存在するため、減速の伝播は各所で分断され、道路上において車両の分布に粗密が生じにくい。また、前方のシステム搭載車両CS12との間を走行する一般車両から減速の伝播が開始されたとしても、その一般車両と自車両CS13との間に介在する車両数は少ないため、大きく速度を低下させなければならない場面は発生しにくい。このため、システム搭載車両の混在率が高い場合には、混在率が低い場合よりも目標車間距離を小さなものとすることができる。
【0094】
システム搭載車両の混在率が高いと、車両ECU24によって目標車間距離が小さなものとされることで、道路の交通容量が増加する。また、目標車間距離が小さいと、空気抵抗が減少してシステム搭載車両の燃費が向上するという利点がある。
【0095】
このように、本実施形態の車両制御システム4によれば、協調減速制御により減速の伝播を分断することが可能であると共に、システム搭載車両の混在率が高い場合に目標車間距離が小さくされることで、交通容量の増加や燃費の向上を実現することができる。
【0096】
なお、前方のシステム搭載車両の減速に関する情報は直前車速度Vpreには限定されない。減速に関する情報は、前方のシステム搭載車両の運転者による減速操作に関する情報や、車両の減速制御に関する情報であってもよい。例えば、減速に関する情報は、ブレーキ操作量に関する情報や、ブレーキ制御量に関する情報、変速操作に関する情報などであってもよい。
【0097】
(第3実施形態)
図20から図22を参照して、第3実施形態について説明する。第3実施形態については、上記実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0098】
本実施形態では、システム搭載車両の混在率に応じて追従制御におけるフィードバックゲインが可変とされる。混在率が高い場合のフィードバックゲインは、混在率が低い場合のフィードバックゲインよりも大きな値とされ、車群の安定を重視した制御がなされる。図20は、本実施形態の車両制御システム5を示すブロック図、図21は、速度伝播比について説明するための図、図22は、システム搭載車両の混在率とフィードバックゲインとの関係を示す図である。
【0099】
図20に示すように、本実施形態の車両システム1−5は、上記第1実施形態の車両システム1−1のHMI装置25に代えて走行制御装置26を備えている。走行制御装置26は、車両の走行状態を制御する装置であり、エンジン、ブレーキ、自動変速機等の制御を行う。車両ECU24は、自車両の直前を走行する直前車両と自車両との車間距離や車間時間を予め定められた所定値とするように直前車両に対して追従して走行する追従制御を実行可能である。車両システム1−5は、追従制御において、直前車両と自車両との相対車速に基づくフィードバック制御を行う。追従制御は、例えば、ACC制御の一つの制御モードとして行われる。車両ECU24は、たとえば、下記式(2)によって追従制御における自車目標加速度atを算出する。
【0100】
t=KV・(Vpre−V)+KL・(Lt−L)…(2)
ここで、KVは直前車両との速度差フィードバックゲイン、(Vpre−V)は直前車両との速度差、KLは直前車両との車間距離誤差フィードバックゲイン、(Lt−L)は直前車両との車間距離誤差である。本実施形態では、直前車両との速度差フィードバックゲインKVが可変なパラメータに対応する。
【0101】
車両ECU24は、算出された自車目標加速度atを走行制御装置26に出力する。走行制御装置26は、自車目標加速度atを実現するようにエンジン、ブレーキ、自動変速機等を制御する。
【0102】
追従制御では、フィードバックゲインによって減速の伝播の仕方が異なる。図21において、符号Saは、直前車両の速度の推移を示し、符号Sbは、直前車両に追従走行する車両の速度の推移を示す。また、符号ΔVaは、直前車両の減速時の速度低下量を示し、符号ΔVbは、追従走行する車両の速度低下量を示す。減速の伝播における速度伝播比γは、以下の式(3)で表される。
速度伝播比γ=ΔVb/ΔVa…(3)
【0103】
速度伝播比γが1よりも大である場合、後車の速度低下量ΔVbが前車の速度低下量ΔVaよりも大きいこと、すなわち、速度低下量ΔVが増幅されて後続車両に伝播されていくことを示している。速度伝播比γが大きいほど、減速の伝播における速度の低下幅が大きくなり、渋滞を招きやすくなるなど車群の安定性が低下する。一方、速度伝播比γが小さくなるほど、減速の伝播における速度の低下幅が小さくなる。速度伝播比γが1未満であれば、追従走行する車両の速度低下量ΔVbは、直前車両の速度低下量ΔVaよりも小さくなり、速度低下の伝播が吸収される。従って、速度伝播比γを1未満とすることができれば、減速ショックウェーブの発生を抑制することができる。
【0104】
ここで、追従走行する車両の速度低下量ΔVbは、追従走行のフィードバックゲインによって変化する。例えば、直前車両との速度差フィードバックゲイン(以下、単に「速度差フィードバックゲイン」と記載する。)KVを大きくすれば、走行制御装置26は直前車両の減速に応じて大きな減速度を発生させる。その結果、速度差フィードバックゲインKVが小さな場合よりも追従走行する車両の速度低下量ΔVbは低減する。速度伝播比γを1未満とできるように速度差フィードバックゲインKVを定めた場合、前車よりも速度低下しないようにすることや、後続車両に速度低下を増幅して伝搬させないようにすること、すなわち車群を安定させることが可能となる。
【0105】
本実施形態の車両システム1−5は、システム搭載車両の混在率に応じて可変な自車目標加速度を生成する。システム搭載車両の混在率は、例えば、インフラシステム2−1から取得することができる。図22に示すように、車両ECU24は、システム搭載車両の混在率が高い場合の速度差フィードバックゲインKVを、混在率が低い場合の速度差フィードバックゲインKVよりも大きな値とする。これにより、システム搭載車両の混在率が低い場合の追従制御は、乗り心地の重視を狙ったものとすることができる。システム搭載車両の混在率が高い場合の追従制御は、車群安定の重視を狙ったものとすることができる。
【0106】
なお、システム搭載車両の混在率に応じて可変とするフィードバックゲインは、速度差フィードバックゲインKVには限定されない。自車目標加速度atの算出に用いる他のフィードバックゲイン、例えば、車間距離誤差フィードバックゲインKLがシステム搭載車両の混在率に応じて可変とされてもよい。また、道路上の車両の密度に応じてフィードバックゲインが可変とされてもよい。例えば、車両の密度が高い場合には、車両の密度が低い場合よりも、システム搭載車両の混在率の変化に対するフィードバックゲインの変化の割合を大きくするようにしてもよい。さらに、車両の密度が低い場合には、システム搭載車両の混在率の変化に対してフィードバックゲインを変化させないようにしてもよい。例えば、車両の密度が低い場合にフィードバックゲインを小さな値に固定するようにすれば、乗り心地を向上させることができる。
【0107】
システム搭載車両の混在率とフィードバックゲインとの対応関係は、図22に示すような直線状の関係には限定されない。例えば、システム搭載車両の混在率の増加に応じて段階的にフィードバックゲインが増加するようにされてもよい。速度差フィードバックゲインKV等のパラメータは、インフラシステム2−1によって生成されて各システム搭載車両に提供されてもよい。
【0108】
(第4実施形態)
図23を参照して、第4実施形態について説明する。第4実施形態については、上記実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0109】
本実施形態では、道路上の車両の状態に関する情報、地形に関する情報、天候に関する情報等に応じてシステム搭載車両の追従走行における目標車間時間が調節される。前提とするシステム搭載車両は、取得した所定の情報に応じて自車両の直前を走行する車両と自車両との車間距離に関連する可変な目標値を生成すること、および生成した目標値に基づく自車両の走行制御である所定制御を実行可能なものである。この所定制御は、例えば、直前を走行する車両に対して追従走行する追従制御である。車両制御装置としての車両システムの構成は、例えば、上記第3実施形態の車両システム1−5と同様のものとすることができるが、車両システムはこれには限定されない。上記の他の実施形態や変形例の車両システムにおいて、同様に目標車間時間が調節されてもよい。さらに、上記の各実施形態や変形例に示される車両システムに限らず、所定制御を実行可能な他の車両システムにおいて、以下に説明する目標車間時間の調節がなされてもよい。また、道路側には上記の実施形態と同様のインフラシステム2−1が設けられていてもよい。
【0110】
図23は、各因子と必要車間時間との関係を示す図である。天候に関する情報、地形に関する情報、あるいは道路上の車両の状態に関する情報の少なくとも一つに基づいて、因子に応じた必要車間時間に基づく目標車間時間の調節がなされる。各因子は、車両システムによって検出あるいは推定されてもよく、インフラシステム2−1が設けられている場合には、インフラシステム2−1によって検出あるいは推定されてもよい。目標車間時間の調節は、例えば、車両ECU24によってなされるが、これに代えてインフラ装置12によって目標車間時間の調節がなされてもよい。一例として、目標車間時間の調節は、因子の値と目標車間時間の補正量との対応関係を示すマップに基づいて行われる。車両ECU24によって目標車間時間の調節がなされる場合、車両ECU24は、上記のマップ等に基づいて各因子の値に応じた可変な目標車間時間を生成する。インフラ装置12によって目標車間時間の調節がなされる場合、インフラ装置12は、因子に応じて調節した目標車間時間そのものあるいは目標車間時間の補正値を路車間通信によって各システム搭載車両に送信する。各システム搭載車両の車両ECU24は、受信した目標車間時間を自車両の目標車間時間とし、あるいは受信した補正値に基づいて目標車間時間を補正する。
【0111】
図23に示すように、システム搭載車両間を走行している所定制御を実行しない一般車両の台数が多い場合には、少ない場合よりも必要車間時間が長くされる。自車両と前方における自車両に最も近いシステム搭載車両との間に挟まれる一般車両の台数が多いほど、目標車間時間が長くされる。これにより、一般車両の台数が多く、速度低下量が大きく増幅された状態でシステム搭載車両に減速が伝播した場合でも減速の伝播を吸収しやすくなる。システム搭載車両間に挟まれる一般車両の台数は、例えば、インフラシステム2−1から取得した交通量と、前方のシステム搭載車両の位置情報とに基づいて推定することが可能である。前方のシステム搭載車両の位置情報は、例えば、インフラシステム2−1を介して取得するようにすればよい。前方のシステム搭載車両と自車両との車間距離と、自車線の交通量、すなわち自車線の車両密度とに基づいて、前方のシステム搭載車両との間に何台の一般車両が挟まれているかが推定可能である。なお、システム搭載車両が車車間通信装置を備えている場合、前方のシステム搭載車両との間に何台の一般車両が挟まれているかは、車車間通信によって取得した前方のシステム搭載車両の位置情報や、周辺を走行する車両の密度に基づいて推定されてもよい。
【0112】
また、走行速度が高い場合には、走行速度が低い場合よりも目標車間時間が長くされる。因子としての走行速度は、自車両の走行速度や、自車線の車両の走行速度、自車両の周囲を走行する車両の走行速度などである。また、走行速度は、1台の車両の走行速度であっても、複数台の車両の平均速度であってもよい。走行速度が高いほど目標車間時間が長くされることで、好適に減速の伝播を吸収することが可能となる。
【0113】
道路上の車両密度が高い場合には、車両密度が低い場合よりも目標車間時間が長くされる。道路上の車両密度は、たとえば、交通量計測装置11が計測した交通量と、道路上を走行する車両の平均速度とに基づいて算出可能である。車両密度が高い場合には減速が伝播しやすくなるが、目標車間時間が長くされることで、システム搭載車両において減速の伝播が十分に吸収可能となる。
【0114】
道路上を走行する車両の車種構成に基づいて目標車間時間が調節されてもよい。例えば、大型車の比率(割合)が高い場合の目標車間時間が、大型車の比率が低い場合の目標車間時間よりも長くされる。例えば、交通量計測装置11として車両長を検出可能なものを用いるようにすれば、交通量計測装置11の計測結果に基づいて大型車の比率を検出することができる。大型車の比率が高い場合には減速が伝播しやすくなるが、目標車間時間が長くされることで、システム搭載車両によって減速の伝播を十分に吸収可能となる。
【0115】
走行する車線の道路上における位置に応じて目標車間時間が調節されてもよい。例えば、追越し側の車線ほど目標車間時間が長くされてもよい。例えば、片側3車線の道路において、進行方向右側の車線が追越車線、中央および左側の車線がそれぞれ走行車線である場合、追越車線では最も目標車間時間が長く、左車線では最も目標車間時間が短くされる。あるいは、走行車線では目標車間時間を共通とし、追越車線において走行車線よりも目標車間時間を長くするようにしてもよい。減速が伝播しやすい追越車線側において目標車間時間が長くされることで、システム搭載車両によって減速の伝播が十分に吸収可能となる。なお、システム搭載車両において、自車両がいずれの車線を走行しているかは、例えば、自車位置認識装置22から取得した自車位置情報と道路情報とに基づいて判別可能である。
【0116】
道路の勾配に基づいて目標車間時間が調節されてもよい。例えば、勾配の大きな道路を走行する場合の目標車間時間は、勾配の小さな道路を走行する場合の目標車間時間よりも長くされる。道路の勾配は、例えば、自車位置認識装置22から取得することが可能である。減速が伝播しやすい勾配の大きな道路において目標車間時間が長くされることで、システム搭載車両によって減速の伝播を十分に吸収可能となる。
【0117】
見通しの悪さに基づいて目標車間時間が調節されてもよい。例えば、見通しが悪い道路を走行する場合の目標車間時間は、見通しが良い道路を走行する場合の目標車間時間よりも長くされる。見通しの良し悪しは、例えば、自車位置認識装置22が記憶している道路形状に関する情報に基づいて判断することが可能である。見通しが悪く減速が伝播しやすい道路において目標車間時間が長くされることで、システム搭載車両によって減速の伝播を十分に吸収可能となる。
【0118】
雨量や風量に基づいて目標車間時間が調節されてもよい。例えば、雨量が多い場合には雨量が少ない場合よりも目標車間時間が長くされてもよい。また、風量が多い(風速が強い)場合には、風量が少ない場合よりも目標車間時間が長くされてもよい。雨量や風量に関する情報は、例えば、インフラシステム2−1から取得するようにすればよい。雨量や風量が多く減速が伝播しやすい場面において目標車間時間が長くされることで、システム搭載車両によって減速の伝播を十分に吸収可能となる。
【0119】
明るさに基づいて目標車間時間が調節されてもよい。例えば、暗い場合には、明るい場合よりも目標車間時間が長くされてもよい。減速が伝播しやすい暗い状況において目標車間時間が長くされることで、システム搭載車両によって減速の伝播を十分に吸収可能となる。
【0120】
路面の摩擦係数に基づいて目標車間時間が調節されてもよい。例えば、摩擦係数が小さい場合には、摩擦係数が大きい場合よりも目標車間時間が長くされる。摩擦係数が小さく減速が伝播しやすい天候において、目標車間時間が長くされることで、システム搭載車両によって減速の伝播を十分に吸収可能となる。
【0121】
なお、本実施形態で例示したものに限らず、減速の伝播しやすさに影響を与える他の因子に基づいて目標車間時間が調節されてもよい。
【0122】
上記の各実施形態に示された内容は、適宜組合せて実行可能である。
【産業上の利用可能性】
【0123】
以上のように、本発明にかかる車両制御装置、車両制御システムおよび管制装置は、車両の走行状態についての目標値を適切なものとするのに適している。
【符号の説明】
【0124】
1,2,3,4,5 車両制御システム
1−1,1−2,1−3,1−4,1−5 車両システム(車両制御装置)
2−1 インフラシステム(管制装置)
12 インフラ装置
24 車両ECU
25 HMI装置
26 走行制御装置
CS システム搭載車両
CO 一般車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取得した所定の情報に応じて車両の走行状態についての可変なパラメータを生成することと、
前記パラメータに基づく前記車両の走行制御あるいは運転操作による前記パラメータの実現を支援する運転者に対する情報提供の少なくともいずれか一方を行う所定制御と、
を実行可能であり、
前記所定の情報とは、前記所定制御を実行可能な車両である所定車両の割合である
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記所定車両の割合は、前記所定車両の普及率に基づく
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記所定車両の割合は、実際に道路を走行している車両における前記所定車両の割合についての推定または検出結果である
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記パラメータは、自車両の直前を走行する車両と自車両との車間距離に関連する値である
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
道路を走行する車両の密度と、前記所定車両の割合とに応じて前記車間距離に関連する値の目標値を生成するものであって、前記密度が高い場合の前記目標値は、前記密度が低い場合の前記目標値よりも大きい
請求項4に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記密度に基づいて前記車間距離に関連する値の目標である第一目標値を算出し、かつ前記所定車両の割合に応じた可変な上限値で前記第一目標値をガード処理して前記目標値を生成する
請求項5に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記所定車両の割合と前記上限値との関係は、道路を走行する車両における前記所定車両の割合と、各前記所定車両が前記車間距離に関連する値を維持して走行した場合に当該道路を通行可能な交通量との関係に基づく
請求項6に記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記所定車両の割合が高い場合の前記上限値は、前記所定車両の割合が低い場合の前記上限値よりも小さい
請求項6または7に記載の車両制御装置。
【請求項9】
前記パラメータとして前記車間距離に関連する値の目標値を生成するものであって、
前記所定車両は、更に、自車両の前方を走行する前記所定車両である前方所定車両から前記前方所定車両の減速に関する情報を取得し、前記減速に関する情報に基づいて前記前方所定車両の減速と連動して自車両を減速させることが可能であり、
前記所定車両の割合が高い場合の前記目標値は、前記所定車両の割合が低い場合の前記目標値よりも小さい
請求項4に記載の車両制御装置。
【請求項10】
前記走行制御として、自車両の直前を走行する車両と自車両との車間距離に関連する値を予め定められた所定値とするように前記直前を走行する車両との相対車速に基づくフィードバック制御を行うものであって、
前記パラメータとは、前記フィードバック制御のフィードバックゲインであり、
前記所定車両の割合が高い場合の前記フィードバックゲインは、前記所定車両の割合が低い場合の前記フィードバックゲインよりも大きい
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項11】
道路側に設置され、取得した所定の情報に応じて車両の走行状態についての可変なパラメータを生成する管制装置と、
前記管制装置から前記パラメータを取得すること、および前記パラメータに基づく前記車両の走行制御あるいは運転操作による前記パラメータの実現を支援する運転者に対する情報提供の少なくともいずれか一方を行う所定制御を実行可能な車両制御装置と、
を備え、
前記所定の情報とは、前記所定制御を実行可能な車両である所定車両の割合である
ことを特徴とする車両制御システム。
【請求項12】
道路側に設置され、取得した所定の情報に応じて車両の走行状態についての可変なパラメータを生成し、
前記パラメータに基づく車両の走行制御あるいは運転操作による前記パラメータの実現を支援する運転者に対する情報提供の少なくともいずれか一方を行う所定制御を実行可能な車両である所定車両に対して前記パラメータを提供するものであって、
前記所定の情報とは、前記所定車両の割合である
ことを特徴とする管制装置。
【請求項13】
取得した所定の情報に応じて自車両の直前を走行する車両と自車両との車間距離に関連する可変な目標値を生成することと、
前記目標値に基づく自車両の走行制御である所定制御と、
を実行可能であり、
前記所定の情報は、天候に関する情報、地形に関する情報、あるいは道路上の車両の状態に関する情報の少なくとも一つを含む
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項14】
前記天候に関する情報は、路面の摩擦係数に関する情報を含む
請求項13に記載の車両制御装置。
【請求項15】
前記道路上の車両の状態に関する情報は、自車両の前方を走行する前記所定制御を実行しない車両の台数、前記道路上の車両の速度、前記道路上の車両の密度、前記道路上の車両における大型車両の割合、あるいは自車両が走行する車線の前記道路上における位置の少なくともいずれか一つを含む
請求項13に記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−35795(P2012−35795A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178980(P2010−178980)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】