説明

車両外装部品用塗装治具

【課題】車両外装部品を安定して保持可能な車両外装部品用塗装治具を提供する。
【解決手段】本発明の車両外装部品用塗装治具10では、ロッカーモール90の内面に当接する部品が板金部品である支持板金25なので、従来の線材に比べて熟練を必要とせずに設計通りの形状に製作することができる。また、それら複数の支持板金25を連結する連結板金24に関しても同様である。これらにより、車両外装部品用塗装治具10をロッカーモール90の内面にフィットした3次元形状にすることが可能になり、ロッカーモール90が安定して保持され、塗装品質が安定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面湾曲構造の車両外装部品を塗装可能な状態に保持する車両外装部品用塗装治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両外装部品用塗装治具として、車両外装部品(ワーク)を被せて取り付け可能なインナーフレームを備えたものが知られている。そのインナーフレームは、従来、複数の線材(鉄筋)を湾曲させた状態で相互に交差させて溶接した構造になっていた(例えば、先行文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−51751号公報(図1,図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の車両外装部品用塗装治具では、その治具の製作時における線材の変形作業及び溶接作業に熟練を要し、インナーフレームを車両外装部品の内面形状に対応した3次元形状にすることが困難であった。そして、インナーフレームが車両外装部品の内面形状に正しく対応した3次元形状になっていないために、車両外装部品(ワーク)の変形不良が発生したり、塗装ガンからの塗料の噴出圧力やコンベア搬送時の衝撃等により、治具からの車両外装部品のずれ・離脱が発生したりして、塗装ムラや損傷が生じることがあった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、車両外装部品を安定して保持可能な車両外装部品用塗装治具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る車両外装部品用塗装治具は、断面湾曲構造の車両外装部品の内面を下方から支持し、車両外装部品を水平方向に移動不能に保持する車両外装部品用塗装治具において、車両外装部品の複数位置における鉛直断面に対応した外縁形状を有する複数の支持板金を、車両外装部品の複数位置に内側から当接可能となるように配置して連結板金にて連結したところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両外装部品用塗装治具において、連結板金は、複数の支持板金に交差して延び、それら交差部分における支持板金及び連結板金のそれぞれに、一方が他方を板厚方向で挟んで位置決めする位置決用スリットを形成したところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の車両外装部品用塗装治具において、車両外装部品はロッカーモールであって、複数の支持板金は、ロッカーモールの長手方向の複数位置に配置され、連結板金はロッカーモールの長手方向に延びているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
[請求項1の発明]
請求項1の車両外装部品用塗装治具では、車両外装部品の内面に当接する部品が、板金部品である支持板金なので、従来の線材に比べて熟練を必要とせずに設計通りの形状に近づけて製作することができる。しかも、それら複数の支持板金を連結する部品も板金部品である連結板金なので、やはり熟練を必要とせずに設計通りの形状に近づけて製作することができる。これらにより、車両外装部品用塗装治具を車両外装部品の内面にフィットした3次元形状にすることが可能になり、車両外装部品が安定して保持され、塗装品質も安定する。特に、支持板金及び連結板金を、NC制御されたレーザー加工機にて加工した場合には、作業者の技能とは無関係に、支持板金及び連結板金を設計通りの形状に近づけて製作することができ、車両外装部品の保持の安定度が増す。
【0010】
[請求項2の発明]
請求項2の車両外装部品用塗装治具では、支持板金及び連結板金のそれぞれに形成された位置決用スリットによって支持板金及び連結板金が相互に位置決めされるので、作業者の技能の影響が抑えられ、支持板金及び連結板金の組付形状が安定する。
【0011】
[請求項3の発明]
請求項3の車両外装部品用塗装治具によれば、車両外装部品としてのロッカーモールが、長手方向の複数位置で複数の支持板金にて支持され、安定して保持される。
【0012】
なお、上記した請求項3に記載の車両外装部品用塗装治具において、複数の支持板金を連結板金で連結してなるインナーフレームを、車両の左右のロッカーモールに対応して対にして平行かつ左右対称に配置すると共に、それら1対のインナーフレームを空中に浮かせた状態に保持するスタンドを設け、スタンドには、1対のインナーフレームの間の中央に配置されてインナーフレームと平行に延びたメイン支持梁と、メイン支持梁の長手方向の複数位置から左右対称に張り出して先端部が1対のインナーフレームに連結された複数対の支持アームと、メイン支持梁を下方から支持する支持脚とが備えられた構成にしてもよい。
【0013】
このような構成にすれば、車両の左右のロッカーモールを保持することができ、それらロッカーモールを一度に塗装することが可能になると共に、1対のインナーフレームは、スタンドによって空中に浮かせた状態に保持されるので、塗装ガンの取り廻しの自由度が高まり、塗装作業を効率よく行うことができる。また、上記支持アームのうちロッカーモールの下端部が突き合わされる部分を下方に湾曲させれば、支持アームに蓄積された塗料がロッカーモールに付着する事態を回避することができる。
【0014】
さらには、車両外装部品用塗装治具を組み立てるための治具組立用治具として、鉛直方向に起立した複数の第1垂直板金と、複数の第1垂直板金と格子状に交差した複数の第2垂直板金とを備え、複数の第1垂直板金の各上端側板厚面に、複数の連結板金の各板厚面を重ねて載置しかつ複数の第2垂直板金の各上端側板厚面に複数の支持板金の各板厚面を重ねて載置することで、複数の支持板金と複数の連結板金とを相互に位置決め可能としたところに特徴を有する治具組立用治具を設けてもよい。
【0015】
このような構成の治具組立用治具によれば、第1と第2の垂直板金上に連結板金と支持板金とを載置するだけで、それら連結板金と支持板金とが相互に位置決めされるので、熟練を要さず容易に車両外装部品用塗装治具を組み付けることができる。また、第1及び第2の垂直板金上に連結板金及び支持板金を載置した状態で、それら連結板金と支持板金とを溶接すれば、溶接作業を容易に行うことができる。即ち、治具組立用治具によれば、車両外装部品用塗装治具を容易に作成することができる。
また、この治具組立用治具において、第1垂直板金及び第2垂直板金に載置された連結板金と支持板金とによって構成されるインナーフレームは、車両外装部品を支持する際のインナーフレームと上下を逆転した配置にすれば、第1及び第2の垂直板金上に載置された連結板金及び支持板金によって構成されるインナーフレームが、塗装用に使用するときと上下が逆転するので、インナーフレームに上方からスタンドを組み付けることが可能になり、インナーフレームとスタンドとの組み付け作業が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)ロッカーモールの側面図,(B)ロッカーモールの鉛直断面における断面図
【図2】ロッカーモールの鉛直断面における断面図
【図3】本発明の一実施形態に係る車両外装部品用塗装治具の斜視図
【図4】車両外装部品用塗装治具の正面図
【図5】車両外装部品用塗装治具の平面図
【図6】支持板金の正面図
【図7】ウイングプレートの斜視図
【図8】車両外装部品用塗装治具の正面図
【図9】治具組立用治具の斜視図
【図10】治具組立用治具の斜視図
【図11】治具組立用治具の製作過程を示した斜視図
【図12】車両外装部品用塗装治具の組付過程を示した斜視図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図12に基づいて説明する。図1(A)及び図1(B)には、車両99に組み付けられた状態のロッカーモール90が示されている。図1(B)に示すようにロッカーモール90は、車両99の両側部の下端に配置され、一側面に開放口91を有した断面湾曲構造をなし、図1(A)に示すように車両99の前輪と後輪との間で車両99の前後方向に延びている。また、ロッカーモール90の鉛直断面形状は長手方向の位置に応じて細部が異なり、その鉛直断面形状の一例が図1(B)に示されると共に、それを拡大したものが図2に示されている。
【0018】
詳細には、図1(B)に示すように、ロッカーモール90のうち車両99の側面を構成する部分は、上下方向の中間部分に外側斜め下方に若干傾斜したメイン段差壁93を有する略クランク状をなし、そのメイン段差壁93と下方から対向する段差対向壁95を下端部に備えている。また、図2に示すように、メイン段差壁93と段差対向壁95の外側縁部同士の間を連絡する湾曲奥部壁94の上端寄り位置には、湾曲奥部壁94の一部を外側に二つ折りに屈曲させて第1突部94Aが形成されている。また、湾曲奥部壁94の下端部は第1突部94Aと略同一の大きさで側方に突出しかつ第1突部94Aより幅広な第2突部94Bが備えられている。さらに、メイン段差壁93の内側縁部からは平坦な板状の端部平坦壁92が鉛直上方に起立し、段差対向壁95の内縁部には、肉厚が薄くなったヒンジ部90Hを介してヒンジ付属壁96が接続されている。ヒンジ付属壁96は、ヒンジ部90Hから上方に立ち上がってから湾曲奥部壁94とは反対側に屈曲した形状をなし、このヒンジ付属壁96と端部平坦壁92及びメイン段差壁93との間が開放口91になっている。また、ロッカーモール90の長手方向の両端縁からは、突出した図示しない突壁が内側に向かって突出している。
【0019】
本実施形態の車両外装部品用塗装治具10は、図3に示すように1対のインナーフレーム20,20を左右対称に備え、それらインナーフレーム20,20をスタンド11にて空中に浮かせた状態に保持した構造になっている。そして、図4に示すように、左右対称の1対のロッカーモール90,90が、それぞれ開放口91を下方に向けた状態でインナーフレーム20,20に被せて取り付けられる。
【0020】
各インナーフレーム20は、対応したロッカーモール90の長手方向における複数位置に当接可能な複数の支持板金25を複数の連結板金24で連結した構造になっている。それら複数の支持板金25は、ロッカーモール90の長手方向の複数位置における鉛直断面形状に対応した外縁形状を有し、それぞれ板厚方向がロッカーモール90の長手方向に向けられている。ここで、ロッカーモール90は、前述したように長手方向の位置に応じて鉛直断面形状が異なった構造になっているので、複数の支持板金25はロッカーモール90の各位置の鉛直断面形状に応じて互いに異なる形状をなしている。そして、その支持板金25の一例が図6に拡大して示されている。
【0021】
各支持板金25は、NC制御されたレーザー加工機で板金の母材を切断してなり、そのNCデータは、ロッカーモール90の設計図のCADデータから作成されている。そして、例えば、図6に示した支持板金25では、上側の外縁形状(即ち、上縁形状)が、前述したロッカーモール90の端部平坦壁92、メイン段差壁93及び湾曲奥部壁94に対応した形状になっている。具体的には、支持板金25の上縁部には、ロッカーモール90の端部平坦壁92の内面に面当接可能な板厚面を有した端部水平支持部25Aと、ロッカーモール90のメイン段差壁93の内面にクリアランスC1を介して対向可能な板厚面を有したメイン段差支持部25Bと、湾曲奥部壁94の内面うち略水平な部分に面当接する中央水平支持部25Cと、第2突部94Bの内側に収まる端部突入支持部25Vとが備えられている。また、端部突入支持部25Vには、第2突部94Bの内面のうち段差対向壁95側の傾斜面に面当接する端部傾斜支持部25Eと、第2突部94Bの内面のうち段差対向壁95と離れた側の傾斜面にクリアランスC2を介して対向する板厚面を有したサブ段差支持部25Dとが備えられている。なお、支持板金25のうちロッカーモール90の第1突部94Aと対向した部分は、平坦になっている。
【0022】
支持板金25の下縁部では、ロッカーモール90の端部平坦壁92とメイン段差壁93との角部に対応した部分が丸みを帯びて屈曲し、ロッカーモール90の湾曲奥部壁94に対応した部分がヒンジ付属壁96の上方位置で水平に延びている。また、支持板金25の端部傾斜支持部25Eと支持板金25の下縁部との間は、ロッカーモール90の段差対向壁95から徐々に離れるように傾斜した端部傾斜対向部25Fによって連絡されている。そして、図6の二点鎖線で示したようにロッカーモール90のうち段差対向壁95と湾曲奥部壁94とが交差した角部を支点にして、端部平坦壁92及び湾曲奥部壁94等を、支持板金25の端部傾斜支持部25E及び中央水平支持部25C等から離すように傾斜させた状態にして、支持板金25をロッカーモール90の内側に収容し、上記支点を中心にロッカーモール90を回動して端部平坦壁92及び湾曲奥部壁94等を支持板金25の端部傾斜支持部25E及び中央水平支持部25C等に上方から当接させることができる。また、これら支持板金25の端部水平支持部25A、メイン段差支持部25B、中央水平支持部25C、端部突入支持部25V等によって、ロッカーモール90の荷重を受けると共にロッカーモール90を水平幅方向で位置決めされる。また、ロッカーモール90の長手方向の両端部に配置された支持板金25,25は、ロッカーモール90の長手方向の両端縁から突出した図示しない突壁と対向し、これによりロッカーモール90を水平長手方向でも位置決めされる。
【0023】
図5に示すように、連結板金24は、ロッカーモール90の幅方向の複数位置に配置されてロッカーモール90の長手方向に延びている。また、各連結板金24は支持板金25と同様に、NC制御されたレーザー加工機で板金の母材を切断してなり、そのNCデータは、ロッカーモール90の設計図のCADデータから作成されている。そして、連結板金24は、支持板金25群がロッカーモール90の内面に当接した状態でロッカーモール90の図示しない内面突部と干渉しないように屈曲した構造になっている。
【0024】
各連結板金24の長手方向のうち支持板金25と交差する複数位置には、上下方向の下端から中間位置に亘って位置決用スリット24S(図6参照)が形成されている。これに対し、支持板金25における上縁部の複数位置には、上下方向の上端から中間位置に亘って位置決用スリット25S(図6参照)が形成されると共に、上縁部に一端に切り欠き部25T(図6参照)が形成されている。そして、連結板金24のうち各位置決用スリット24Sより上側部分に、支持板金25の位置決用スリット25S又は切り欠き部25Tを係合させると共に、支持板金25のうち位置決用スリット25S及び切り欠き部25Tより下側部分に、連結板金24の位置決用スリット24Sを係合させて、連結板金24群と支持板金25群とが互いに位置決めされて溶接されている。
【0025】
上記のように構成されたインナーフレーム20は対をなして左右対称に備えられ、それら1対のインナーフレーム20,20が、図3に示すようにスタンド11によって空中に浮かせた状態に保持されている。スタンド11は、1対のインナーフレーム20,20の間の中央に配置されてインナーフレーム20と平行に延びたメイン支持梁12を備え、そのメイン支持梁12の長手方向の複数位置には、ウイングプレート15が取り付けられている。ウイングプレート15は、NC制御されたレーザー加工機で板金の母材を切断してなり、図4に示すように、メイン支持梁12に取り付けられる中央部から両側方に向かって下るように傾斜して延びてから斜め上側方に屈曲した形状になっている。また、ウイングプレート15の中央部には、下端開放の四角形の切り欠き部15Cが備えられ、その切り欠き部15Cの上側には1対のボルト挿通孔15B,15Bが貫通形成されている。さらに、ウイングプレート15の両先端には、フレーム固定孔15D,15Dが貫通形成されている。
【0026】
これに対し、メイン支持梁12の上面における長手方向の複数位置には、図7に示したL形ブラケット17が取り付けられている。各L形ブラケット17は、板金をL字状に屈曲させた構造をなし、そのL形ブラケット17の一方の片である固定片17Bがメイン支持梁12の上面に重ねた状態にして溶接されて、L形ブラケット17の他方の片である起立突片17Aがメイン支持梁12の上面から突出している。また、起立突片17Aには、図示しない1対のボルト挿通孔が貫通形成されている。そして、ウイングプレート15の切り欠き部15Cをメイン支持梁12に係合させてウイングプレート15を起立突片17Aに重ね、ウイングプレート15及び起立突片17Aの各ボルト挿通孔に挿通したボルトにてウイングプレート15がL形ブラケット17に固定されている。また、ウイングプレート15のうちメイン支持梁12から両側方に張り出した部分がそれぞれ支持アーム15A,15Aをなし、各支持アーム15Aの先端部のフレーム固定孔15Dと、支持板金25に形成されたアーム取付孔25Hとを重ねてリベット又はボルトを挿通することで、支持アーム15A群の先端にインナーフレーム20が固定されている。
【0027】
なお、図3に示すように、本実施形態ではウイングプレート15が、メイン支持梁12の長手方向における略等間隔の例えば4カ所に配置され、これに対し、1つのインナーフレーム20には例えば9つの支持板金25が備えられている。そして、一部の支持板金25のみに支持アーム15Aが連結されている。
【0028】
メイン支持梁12の長手方向における中央部からは、1対の支持脚13,13が垂下され、それら支持脚13,13の中間部同士の間に補強梁14が差し渡されている。これら支持脚13は、パイプ構造をなして下端面が開口している。また、図4に示すように、支持脚13の外面下端部からは側方に自立補助壁13Aが側方に張り出している。
【0029】
メイン支持梁12の上面における長手方向の中央には、品番プレート16が取り付けられている。そして、車両外装部品用塗装治具10に装着可能なロッカーモール90の品番(型番)が品番プレート16に表示されている。
【0030】
本実施形態の車両外装部品用塗装治具10の構成に関する説明は以上である。次に、この車両外装部品用塗装治具10の作用効果について説明する。例えば、車両の塗装ラインに設置された搬送台には、図示しない1対の支柱が起立している。そして、それら支柱を車両外装部品用塗装治具10の支持脚13,13内に挿入して、車両外装部品用塗装治具10が搬送台に固定される。その状態で、車両外装部品用塗装治具10のインナーフレーム20,20に1対のロッカーモール90,90が装着される。すると、各インナーフレーム20における複数の支持板金25の外縁部が、ロッカーモール90の内面の複数位置で当接し、ロッカーモール90が水平方向に移動不能に保持される。この状態で、車両外装部品用塗装治具10を搬送台と共に図示しない塗装ブース内に自動搬送する。そして、塗装ブース内に設置されている図示しない塗装ロボットに取り付けられた塗装ガン98(図8参照)にてロッカーモール90,90に塗料を吹き付けて塗装する。このとき、ロッカーモール90は、上方、斜め上方、斜め下方、水平方向と様々な方向から塗料の噴射圧を受ける。しかしながら、本実施形態の車両外装部品用塗装治具10では、インナーフレーム20が各ロッカーモール90の内面にフィットし、ロッカーモール90が安定して保持されるので、塗料の噴射圧によるロッカーモール90の変形不良や位置ずれが防がれ、塗装品質が安定する。具体的には、本実施形態の車両外装部品用塗装治具10では、ロッカーモール90の内面に当接する部品が板金部品である支持板金25なので、従来の線材に比べて熟練を必要とせずに設計通りの形状に製作することができる。また、それら複数の支持板金25を連結する連結板金24に関しても同様である。しかも、支持板金25群及び連結板金24群をレーザー加工機にて製作したので作業者の技能とは無関係に設計通りの形状に近づけることができる。これらにより、車両外装部品用塗装治具10のインナーフレーム20をロッカーモール90の内面にフィットした3次元形状にすることが可能になり、上述の如く、ロッカーモール90が車両外装部品用塗装治具10に安定して保持され、塗装品質が安定する。
【0031】
また、本実施形態の車両外装部品用塗装治具10によれば、ロッカーモール90,90がインナーフレーム20,20と共にスタンド11によって空中に浮かせた状態に保持されるので、塗装ガン98をロッカーモール90の下方にも容易に取り廻すことができ、ロボットの姿勢の自由度が高まり、塗装作業を効率よく行うことができる。また、車両外装部品用塗装治具10が繰り返して塗装に使用されると、車両外装部品用塗装治具10の各部位に塗料が蓄積されるが、本実施形態の車両外装部品用塗装治具10では、支持アーム15のうちロッカーモール90の下端部が突き合わされる部分が下方に湾曲しているので、支持アーム15に蓄積された塗料がロッカーモール90に付着する事態を回避することができる。
【0032】
次に、車両外装部品用塗装治具10を組み付けるための治具組立用治具50を、図9〜図12に基づいて説明する。図9に示した治具組立用治具50は、ベース板51から鉛直に起立した複数の第1垂直板金57と複数の第2垂直板金58とを格子状に交差させた状態にして備えている。そして、車両外装部品用塗装治具10の上下を逆転させて治具組立用治具50の上面に載置すると、図10に示すように、車両外装部品用塗装治具10における複数の連結板金24の板厚面が複数の第1垂直板金57の各上端側板厚面に重ねられると共に、複数の支持板金25の板厚面が複数の第2垂直板金58の各上端側板厚面に重ねられて、各インナーフレーム20,20が治具組立用治具50上で位置決めされるようになっている。
【0033】
詳細構造については、治具組立用治具50の製造過程と共に以下説明する。車両外装部品用塗装治具10の連結板金24及び支持板金25と同様に、治具組立用治具50の第1垂直板金57及び第2垂直板金58もNC制御されたレーザー加工機によって製作され、そのNCデータはロッカーモール90又は車両外装部品用塗装治具10の設計図のCADデータから作成されている。そして、各第1垂直板金57の各上端側板厚面は対応した連結板金24の板厚面に対応した形状をなし、各第2垂直板金58の各上端側板厚面は対応した支持板金25の板厚面に対応した形状になっている。
【0034】
図11(B)に示すように、第1と第2の垂直板金57,58の交差部分には、連結板金24及び支持板金25の交差部分と同様に位置決用スリット57S,58Sが形成されている。そして、第1と第2の垂直板金57,58が位置決用スリット57S,58Sを互いに係合させた状態で格子状に組み付けられている。
【0035】
第1と第2の垂直板金57,58の下端縁は、全体が水平に延びた直線状をなすと共に、図11(A)及び図11(B)に示すように、それらの下縁部には両端部を含む複数位置に位置決突起57K,58Kが形成されている。これに対し、長方形のベース板51の所定の箇所には、スリット51Aがレーザー加工機により穿孔されている。そして、図11(A)に示すように、第1垂直板金57の位置決突起57Kをベース板51のスリット51Aに凹凸係合させて第1垂直板金57群をベース板51に組み付けてから、図11(B)に示すように、第2垂直板金58を第1垂直板金57群に交差させかつ第2垂直板金58の位置決突起58Kをスリット51Aに凹凸係合させて第2垂直板金58群をベース板51に組み付け、その状態で、例えば、各第2垂直板金58の下縁部の中央をベース板51に点溶接して、第1垂直板金57群及び第2垂直板金58群がベース板51に一体固定される。
【0036】
図9に示すように、ベース板51の長手方向における両端部には、端部起立板52,52が組み付けられる。端部起立板52は、全体が第1及び第2の垂直板金57,58より高い四角形をなし、下縁部に図示しない複数の位置決突起を備えている。そして、それら位置決突起をベース板51のスリット51Aに凹凸係合させ、一部の第1垂直板金57の端部から上方に延びた支持突部56Tに端部起立板52の片方の面を当接させた状態で、例えば点溶接してベース板51及び支持突部56Tに固定されている。また、各端部起立板52の上縁部における中央には、四角形の位置決凹部52Aが形成されている。そして、治具組立用治具50上に車両外装部品用塗装治具10を上下逆転させて載置した状態で、1対の端部起立板52,52における位置決凹部52A,52Aの間に検査梁53を差し渡すと、検査梁53の下面が、丁度、車両外装部品用塗装治具10における支持脚13,13の端面に接するように設定されている。
【0037】
本実施形態の治具組立用治具50の構成に関する説明は以上である。この治具組立用治具50を用いて車両外装部品用塗装治具10を組み付けるには、以下のように行う。図12(A)に示すように、治具組立用治具50の各第1垂直板金57の上端側板厚面に、それらに対応した各連結板金24の板厚面を重ねて載置する。すると、複数の連結板金24が正規の位置に位置決めされた状態になる。次いで、図12(B)に示すように、治具組立用治具50の各第2垂直板金58の上端側板厚面に、それらに対応した各支持板金25の各板厚面を重ねて載置して連結板金24群と交差させる。これにより、連結板金24群と支持板金25群とが正規の状態に組み付けられる。そして、この状態で連結板金24と支持板金25との交差部分を溶接してインナーフレーム20,20を完成させる。
【0038】
次いで、インナーフレーム20,20における所定の支持板金25群にウイングプレート15の両端部を連結する。そして、支持脚13及び補強梁14が予め溶接されたメイン支持梁12をウイングプレート15群の上に載置して、メイン支持梁12から突出した起立突片17A(図7参照)を支持アーム15Aにボルトにて固定する。以上で車両外装部品用塗装治具10が完成する。
【0039】
このように、本実施形態の治具組立用治具50を使用すれば、複数の第1と第2の垂直板金57,58上に連結板金24と支持板金25とを載置するだけで、それら連結板金24と支持板金25とが相互に位置決めされるので、熟練を要さず容易に車両外装部品用塗装治具10を組み付けることができる。また、第1及び第2の垂直板金57,58上に連結板金24及び支持板金25を載置した状態で、それら連結板金24と支持板金25とを溶接することで、溶接作業を容易に行うことができる。また、第1及び第2の垂直板金57,58上に載置された連結板金24及び支持板金25によって構成されるインナーフレーム20,20が、塗装用に使用するときと上下が逆転するので、インナーフレーム20,20に上方からスタンド11を組み付けることが可能になり、インナーフレーム20,20とスタンドと11の組み付け作業も容易になる。即ち、本実施形態の治具組立用治具50によれば、車両外装部品用塗装治具10を容易に作成することができる。
【0040】
ところで、車両外装部品用塗装治具10をロッカーモール90,90の塗装に繰り返して使用している間に車両外装部品用塗装治具10が変形する場合がある。そして、車両外装部品用塗装治具10が変形した状態で使用し続けると、ロボットによる塗料の吹き付け位置からロッカーモール90,90がずれて塗装ムラ等が発生し得る。これに対し、本実施形態の治具組立用治具50を用いて車両外装部品用塗装治具10の変形度合いを管理することができる。具体的には、塗装に使用した車両外装部品用塗装治具10を上下逆転させて治具組立用治具50上に載置し、検査梁53を端部起立板52,52における位置決凹部52A,52Aの間に差し渡す。そして、検査梁53と端部起立板52の底面との間、及び、検査梁53の下面と支持脚13の端面との間の隙間の大きさをメジャー等で計測して、予め定められた基準値を超えたか否かに基づき、車両外装部品用塗装治具10を継続して使用可能であるか否かを判別することができる。
【0041】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0042】
(1)前記実施形態における車両外装部品用塗装治具10は、車両外装部品としてロッカーモール90を保持するためのものであったが、本発明の車両外装部品用塗装治具は、断面湾曲構造の車両外装部品を保持するものであればよく、ロッカーモール90を保持する車両外装部品用塗装治具に限定されない。
【0043】
(2)前記実施形態における車両外装部品用塗装治具10は、1対のインナーフレーム20,20を備えていたが、インナーフレームを1つ又は3つ以上備えた構成にしてもよい。
【0044】
(3)前記実施形態の車両外装部品用塗装治具10は、インナーフレーム20をスタンド11にて空中に保持していたが、インナーフレームをロボットによって空中に保持する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 車両外装部品用塗装治具
11 スタンド
12 メイン支持梁
13 支持脚
15 ウイングプレート
15A 支持アーム
20 インナーフレーム
24 連結板金
24S 位置決用スリット
25 支持板金
25S 位置決用スリット
50 治具組立用治具
51 ベース板
52 端部起立板
57 第1垂直板金
58 第2垂直板金
90 ロッカーモール(車両外装部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面湾曲構造の車両外装部品の内面を下方から支持し、前記車両外装部品を水平方向に移動不能に保持する車両外装部品用塗装治具において、
前記車両外装部品の複数位置における鉛直断面に対応した外縁形状を有する複数の支持板金を、前記車両外装部品の複数位置に内側から当接可能となるように配置して連結板金にて連結したことを特徴とする車両外装部品用塗装治具。
【請求項2】
前記連結板金は、複数の前記支持板金に交差して延び、それら交差部分における前記支持板金及び前記連結板金のそれぞれに、一方が他方を板厚方向で挟んで位置決めする位置決用スリットを形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両外装部品用塗装治具。
【請求項3】
前記車両外装部品はロッカーモールであって、前記複数の支持板金は、前記ロッカーモールの長手方向の複数位置に配置され、前記連結板金は前記ロッカーモールの長手方向に延びていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両外装部品用塗装治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−110543(P2011−110543A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272438(P2009−272438)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】