説明

車両存在通報装置

【課題】通報音によって車両の前後方向の判別が可能な車両存在通報装置を提供する。
【解決手段】パラメトリックスピーカと車両用ホーンの両方から、異なる音色の通報音を同時に発生させる。すると、車両の移動方向と移動速度に応じて、人に聞こえる通報音の音色(人の耳に到達する「パラメトリックスピーカによる通報音」と「車両用ホーンによる通報音」の音色差)が変化する。その結果、通報音の音色の変化具合のみで車両の進行方向および車速を判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通報音によって車両の存在を車外(歩行者)へ知らせる車両存在通報装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歩行者のうちの例えば視覚障害者は、一般的にエンジン音によって車両の存在を把握する。
しかしながら、電動モータによって走行する車両(電気自動車や燃料電池自動車など)は、エンジン(内燃機関)を搭載しないため、視覚障害者は、車両の存在を知ることが困難になる。
同様に、低負荷走行時と停車中にエンジンを停止させるハイブリッド車両の場合も、エンジン音が無く、視覚障害者は、車両の存在を知ることが困難になる。
【0003】
また、近年におけるエンジン音の静寂化技術の向上によってエンジン音が歩行者に届き難い可能性があり、視覚障害者が、路上騒音等の影響によりエンジン音の静かな車両の存在を知ることができない場合が想定される。
【0004】
視覚障害者は、「エンジン音の音色」や「走行音の音色」の音情報に加え、
(i)エンジン音と走行音の組み合わせ、
(ii)エンジン音と排気音の組み合わせなど、
種々の音情報を組み合わせることで、車両の前後方向の把握精度を高めている。
特に、左右の耳に聞こえる微妙な音色差を瞬時に判別することで、車両の前後方向の把握精度を高めている。
【0005】
一方、従来技術として、車両に取り付けたダイナミックスピーカ(可聴音を直接放射するスピーカ)から車外に向けて「通報音」を発生させて、車両の周囲に車両の存在を知らせる提案が成されている(例えば、特許文献1参照)。
ダイナミックスピーカから放出された「通報音」は、図10の実線βに示すように、車両Sの周囲に与えられる。
【0006】
しかし、ダイナミックスピーカから「通報音」を発生させるだけでは、視覚障害者は車両の前後方向を判別することは困難である。
なお、上記では具体的な一例として視覚障害者を例に問題点を説明したが、健常者であっても、無意識に耳からの音情報によって車両の前後方向を把握している。このため、健常者であっても、音情報から車両の前後方向が判ることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−201001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、通報音によって車両の前後方向の判別が可能な車両存在通報装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段の車両存在通報装置は、高指向性スピーカと低指向性スピーカの両方から、異なる音色の通報音を同時に発生させる。
すると、車両の移動方向と移動速度に応じて、人に聞こえる通報音の音色(人の耳に到達する「高指向性スピーカの通報音」と「低指向性スピーカの通報音」の音色差)が変化することになり、通報音の音色の変化具合から車両の前後方向(進行方向)を判別することが可能になる。
【0010】
〔請求項2の手段〕
請求項2の手段の車両存在通報装置は、「高指向性スピーカがパラメトリックスピーカ」であり、「低指向性スピーカがダイナミックスピーカ」である。
パラメトリックスピーカとダイナミックスピーカの両方から同一の音声信号(通報音を成す信号)を再生させた場合、「パラメトリックスピーカによって再生される通報音の周波数特性および音質」と「ダイナミックスピーカによって再生される通報音の周波数特性および音質」とは明確に異なる。
このため、パラメトリックスピーカ(高指向性スピーカ)と、ダイナミックスピーカ(低指向性スピーカ)の両方から通報音を再生することで、高指向性スピーカと低指向性スピーカから異なる音色の通報音が再生され、上述した請求項1の効果(音色の変化具合から車両の前後方向を判別できる効果)を得ることができる。
【0011】
〔請求項3の手段〕
請求項3の手段の制御回路は、車両の運転状態に応じて、
高指向性スピーカから発生させる通報音の周波数特性と、
低指向性スピーカから発生させる通報音の周波数特性とを、
異なる周波数特性に変化させる。
このように、通報音の周波数特性を積極的に変更することで、人に聞こえる通報音の音色変化が大きくなるため、通報音の音色の変化具合から車両の前後方向(走行状態)を判別することが容易になる。
【0012】
〔請求項4の手段〕
請求項4の手段の制御回路は、車両の運転状態に応じて、
高指向性スピーカから発生させる通報音の唸り周波数と、
低指向性スピーカから発生させる通報音の唸り周波数とを、
異なる周波数に変化させる。
このように、唸り周波数を変更することで、人に聞こえる通報音の音色変化が明確になるため、通報音の音色の変化具合から車両の前後方向(走行状態)を判別することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】車両の走行状態、通報音の到達分布、通報音の周波数特性、唸り周波数の関係を示す説明図である。
【図2】車両存在通報装置の概略図である(実施例1)。
【図3】高指向性スピーカ(パラメトリックスピーカにおける超音波スピーカ)と低指向性スピーカ(車両用ホーン)の車両搭載図である。
【図4】(a)車両用ホーンの構造説明用の概略断面図、(b)ルーバーの説明用の斜視図である。
【図5】車両用ホーンを自励により作動させた場合、および他励により作動させた場合の周波数特性を示すグラフである。
【図6】通報音の作成説明図である。
【図7】パラメトリックスピーカの原理説明図である。
【図8】車両存在通報装置の概略図である(実施例2)。
【図9】車両存在通報装置の概略図である(実施例3)。
【図10】通報音の到達分布を示す説明図である(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して実施形態を説明する。
車両存在通報装置は、通報音によって車両の存在を知らせるものであり、指向性の強い高指向性スピーカ1(後述する実施例では、パラメトリックスピーカ)と、指向性の弱いあるいは指向性の無い低指向性スピーカ2(後述する実施例ではダイナミックスピーカの一例として用いる車両用ホーン)とを備え、高指向性スピーカ1と低指向性スピーカ2の両方から異なる音色の通報音を同時に発生させる。
【0015】
また、この実施形態では、
・車両の停車中に通報音として「停車車両を知らせる通報音(例えば、擬似アイドリング音)」を発生させ、
・車両の前進中に通報音として「前進車両を知らせる通報音(例えば、擬似走行音)」を発生させ、
・車両の後退中に通報音として「後退車両を知らせる通報音(例えば、高音周波数の断続音等よりなる後退通報音)」を発生させるものである。
【0016】
なお、前進中は、通報音の音色(例えば、擬似走行音の音色)を走行速度に応じて変化させることが望ましい。具体的な一例として、車速が上昇するに従い、通報音を低音側強調から高音側強調へ変化させることが望ましいものである。
【0017】
さらに、この実施形態では、所定周波数(XHz)の間隔で連続する多数の周波数信号を同時に発生させて通報音を作成する。なお、以下では所定周波数(XHz)の間隔を唸り周波数と称する。
そして、この実施形態では、唸り周波数を走行速度に応じて変化させることが望ましい。具体的な一例として、停車中の唸り周波数が最も低い周波数に設定され、前進速度が上昇するに従って、唸り周波数を連続的あるいは段階的に高める(唸り周波数の間隔を大きくする)ことが望ましいものである。
【実施例】
【0018】
以下において本発明が適用された具体的な一例(実施例)を、図面を参照して説明する。以下で説明する実施例は具体的な一例であって、本発明が実施例に限定されないことはいうまでもない。
なお、以下の実施例において、上記「発明を実施するための形態」と同一符号は同一機能物を示すものである。
【0019】
[実施例1]
図1〜図7を参照して実施例1を説明する。
この実施例では、エンジンを搭載しない車両(電気自動車、燃料電池自動車等)や、走行中および停車中にエンジンを停止する可能性のある車両(ハイブリッド車両等)など、走行音や停車中が静かな自動車に用いられる車両存在通報装置を説明する。
【0020】
この車両存在通報装置は、通報音によって車両の存在を歩行者へ知らせるものであり、図2に示すように、
・パラメトリックスピーカ1と、
・ダイナミックスピーカとして用いられる車両用ホーン2と、
・パラメトリックスピーカ1および車両用ホーン2の作動制御を行なう制御回路3と、
を備えて構成される。
【0021】
(車両用ホーン2の説明)
車両用ホーン2は、図3に示すように、フロントグリル4と熱交換器5(例えば、空調用熱交換器等)との間に固定配置されて、乗員によってホーンスイッチ(例えば、ステアリングのホーンボタン)が操作された際に警報音を発生する電磁式警音器であり、直流で閾値以上の自励電圧(例えば、8V以上の電圧:具体的にはバッテリ電圧)が与えられることによって警報音を発生する。
【0022】
車両用ホーン2の具体的な一例を、図4を参照して説明する。
車両用ホーン2は、
・通電により磁力を発生するコイル11と、
・このコイル11の発生磁力により磁気吸引力を発生する固定鉄心12(磁気吸引コア)と、
・振動板13(ダイヤフラム)の中心部に支持されて固定鉄心12に向かって移動可能に支持される可動鉄心14(可動コア)と、
・この可動鉄心14の移動に連動し、可動鉄心14が固定鉄心12に向かって移動することにより固定接点15から離れてコイル11の通電を遮断する可動接点16と、
を備える。
【0023】
そして、車両用ホーン2の通電端子(コイル11の両端に接続される端子)に、直流で閾値以上の自励電圧(8V以上の電圧)が与えられることによって、
(i)コイル11の通電により可動鉄心14が固定鉄心12に磁気吸引されて、固定接点15から可動接点16が離れてコイル11の通電が停止する吸引動作と、
(ii)通電停止によって振動板13がリターンスプリングの作用を可動鉄心14に付与して可動鉄心14が初期位置へ戻り、固定接点15と可動接点16が接触してコイル11の通電が再開する復元動作と、
を連続して繰り返す。
【0024】
即ち、固定接点15と可動接点16によって、コイル11の通電回路を断続する電流断続器17が構成される。
このように、コイル11の通電の断続(固定鉄心12の磁気吸引力の発生の断続)が発生することで可動鉄心14とともに振動板13が振動して車両用ホーン2が警報音を発生する。
具体的に、車両用ホーン2に自励電圧が与えられた場合に車両用ホーン2の発生する警報音の周波数特性を図5の実線Aに示す。
【0025】
一方、車両用ホーン2は、自励電圧より低い他励電圧(例えば、8V未満の電圧)の駆動信号によって、ダイナミックスピーカとして用いられる。即ち、車両用ホーン2は、ダイナミックスピーカの一例であり、他励電圧の「通報音を成す信号(駆動信号)」を与えることで、通報音を直接放出するものである。
車両用ホーン2をダイナミックスピーカとして用いる場合における車両用ホーン2の周波数特性を図5の破線Bに示す。この破線Bは、車両用ホーン2に1Vのサイン波のスイープ信号(低周波数から高周波数への可変信号)を与えた場合における周波数特性である。
【0026】
この実施例における車両用ホーン2は、図4に示すように、振動板13の振動による警報音を増強させて車外へ放出する渦巻ホーン18(渦巻状のラッパ部材:渦巻状の音響管)を備える。
ここで、この実施例の車両用ホーン2は、車両を上から見て、車両用ホーン2の周囲に略均等に通報音が届くように設けられている(図1の破線β参照)。即ち、車両用ホーン2は車両周囲に対して指向性の無い無指向性スピーカとして機能するものであり、低指向性スピーカの一例として用いられるものである。
具体的な一例として、車両用ホーン2における渦巻ホーン18の開口が、車両の下方(路面に向く方向)に向けて取り付けられるものである。なお、渦巻ホーン18の開口の方向は、下方に限定されるものではない。また、反射板等を用いて音波の放射方向を任意の方向へ向けても良い。
【0027】
(パラメトリックスピーカ1の説明)
パラメトリックスピーカ1は、「可聴音(通報音)の波形信号」を超音波変調して超音波スピーカ21から放射させるものであり、超音波スピーカ21から放射された超音波(耳に聞こえない音波)に含まれる変調成分が伝播途中の空気中で自己復調されることで、超音波スピーカ21から離れた場所で可聴音(通報音)を発生させるものである。
【0028】
パラメトリックスピーカ1に用いられる超音波スピーカ21は、人間の可聴帯域よりも高い周波数(20kHz以上)の空気振動を発生させる超音波発生器であり、超音波を車両前方に向けて放出するように車両に搭載されている。即ち、パラメトリックスピーカ1における超音波スピーカ21は、指向性の強い高指向性スピーカの一例として用いられるものである。
具体的な一例として、この実施例の超音波スピーカ21は、車両用ホーン2の渦巻ホーン18に取り付けられるものであり、渦巻ホーン18において渦を巻く面が車両の正面に向けて取り付けられることで、超音波スピーカ21が車両の前方へ向けて超音波を放射する。
【0029】
この実施例の超音波スピーカ21は、渦巻ホーン18と一体、あるいは渦巻ホーン18に取り付けられる例えば樹脂製の超音波スピーカハウジング22と、この超音波スピーカハウジング22の内側に搭載される複数の超音波振動子23とを備えて構成される。
この実施例の超音波振動子23は、印加電圧(充放電)に応じて伸縮するピエゾ素子(圧電素子)と、このピエゾ素子の伸縮によって駆動されて空気に疎密波を生じさせる超音波振動板とを用いて構成される周知構造の圧電スピーカである。
各超音波振動子23は、超音波スピーカハウジング22の内部に配置される支持板24上に複数配置され、スピーカアレイとして搭載されるものである。
【0030】
一方、超音波スピーカ21は、各超音波振動子23から放射される超音波を車両前方へ向けて放出する開口部(超音波放射口)を備えており、この開口部には、雨水が各超音波振動子23の搭載部位に浸入するのを阻止する防水手段が設けられている。
防水手段の一例として、この実施例では、開口部を覆う超音波透過性の防水シート25と、この防水シート25の前面に配置されたルーバー26とを備えている{図4(a)では防水シート25およびルーバー26が省略された図を示す}。
【0031】
(制御回路3の説明)
制御回路3は、演算処理を行なうCPU、プログラムを保存する記憶手段(メモリ)、入力回路、出力回路などを含む周知構造のマイコンチップ3aを搭載するものであり、図3に示すように車両用ホーン2の内部(具体的には、ホーンハウジングの内部)に搭載されるものであっても良いし、車両用ホーン2とは別体で設けられて車両に搭載されるものであっても良い。
制御回路3は、ECU(エンジン・コントロール・ユニットの略)等から車両の走行状態の車両情報(車速信号等)が入力されるものであり、車両の存在を知らせる運転条件が成立した際に、超音波スピーカ21および車両用ホーン2を駆動して通報音を車両の外部に発生させるものである。
【0032】
この制御回路3は、図2に示すように、
(a)「車両の運転状態が通報音の発生条件に適合しているか否か」を判定する判定部31と、
(b)車両走行状態(後退、停車、前進)に応じた「通報音を成す信号」を発生させる通報音生成部32と、
(c)この通報音生成部32から出力された「通報音を成す信号」を超音波周波数に変調する超音波変調部33と、
(d)この超音波変調部33から出力された「超音波変調された信号」によって超音波スピーカ21を駆動する超音波駆動アンプ34と、
(e)この通報音生成部32から出力された「通報音を成す信号」によって車両用ホーン2を駆動するホーン駆動アンプ35と、
を具備する。
以下において、制御回路3に搭載される上記(a)〜(e)の手段を説明する。
【0033】
(判定部31の説明)
判定部31は、例えば、運転スイッチがONされて、且つ車速が所定速度(例えば、20km/h)以下の時に、車両の運転状態が通報音の発生条件に適合していると判断して、通報音生成部32を作動させるものである(実施例説明のための具体的な一例であって、限定されるものではない)。
【0034】
(通報音生成部32の説明)
通報音生成部32は、通報音生成プログラム(音響ソフト)によって設けられ、判定部31から作動指示が与えられると、デジタル技術によって「通報音を成す信号」を作成するものである。
【0035】
具体的に、通報音生成部32は、
(i)停車中(ドライブレンジの停車中)に「擬似アイドリング音を成す信号(通報音の一例)」を発生し、
(ii)前進中(ドライブレンジの走行中)に「擬似走行音を成す信号(通報音の一例)」を発生し、
(iii)後退中(リバースレンジに設定された際)に「断続する後退通報音を成す信号(通報音の一例)」を発生するように設けられている。
【0036】
以下において通報音生成部32による「通報音を成す信号」の具体的な作成例を説明する(限定されるものではない)。
通報音生成部32は、マイコンチップ3aが搭載する基準クロック(水晶発振器)の発生するクロック信号に基づき「擬似アイドリング音を成す周波数信号(波形信号)」を作成するものであり、所定周波数XHzの間隔(唸り周波数)で連続する多数の周波数信号を同時に発生させて通報音を作成する。
【0037】
この実施例では、唸り周波数が車両の走行状態(制御回路3に与えられる車速信号等)に応じて変化するように設けられている。
具体的な一例として、図1に示すように、
(i)車速が0km/h(停車の場合)は、唸り周波数が2Hzに設定され、
(ii)前進の場合は、車速の増加に応じて唸り周波数が8Hz〜32Hzの間で連続的(または段階的)に変化するように設定され、
(iii)後退の場合は、唸り周波数が4Hzに設定されるものである。
【0038】
また、通報音生成部32には、図6に示すように、「唸り周波数の間隔で連続する多数の周波数信号」を、所定の周波数帯域L内(通報音発生域)で発生させる周波数範囲特定手段(プログラム)が設けられている。
【0039】
さらに、通報音生成部32には、「唸り周波数の間隔で連続する多数の周波数信号(通報音を成す信号)」の周波数特性Eを加工(特徴付け)する周波数特性加工手段(プログラム)が設けられている。
この実施例では、周波数特性Eが車両の走行状態(制御回路3に与えられる車速信号等)に応じて変化するように設けられている。
【0040】
具体的な一例として、図1に示すように、
(i)車速が0km/h(停車の場合)は、アイドリング時の擬似エンジン音を表現するために、低域を上げた周波数特性(図中、実線Y1参照)に設定され、
(ii)前進の場合は、車速の上昇に応じた走行音の変化を表現するために、車速の上昇に応じて周波数特性(図中、実線Y2参照)に対して強調域Zを低音側強調から高音側強調へ変化させ、
(iii)後退の場合は、後退信号(トラック等に多く採用されているピッピッピという音信号)を表現するために、高域を上げた周波数特性(図中、実線Y3参照)に設定されるものである。
【0041】
(超音波変調部33の説明)
超音波変調部33は、通報音生成部32の出力(通報音を成す信号)を超音波変調するものである。
超音波変調部33の具体的な一例として、この実施例では、通報音生成部32の出力信号を所定の「超音波周波数(例えば、25kHz等)における振幅変化(電圧の増減変化)」に変調するAM変調(振幅変調)を用いるものである。
なお、超音波変調部33はAM変調に限定されるものではなく、通報音生成部32の出力信号を所定の「超音波周波数におけるパルス幅変化(パルスの発生時間幅)」に変調するPWM変調(パルス幅変調)など、他の超音波変調技術を用いても良い。
【0042】
超音波変調部33による超音波変調の具体例を、図7を参照して説明する。
例えば、超音波変調部33に入力された「通報音を成す信号(擬似アイドリング音を成す信号、または擬似走行音を成す信号)」が、図7(a)に示す電圧変化であるとする(なお、図中では理解補助のために単一周波数の波形を示す)。
一方、制御回路3の搭載する超音波発振器は、図7(b)に示す超音波周波数で発振するものとする。
【0043】
すると、超音波変調部33は、図7(c)に示すように、
・「通報音を成す信号」を成す周波数の信号電圧が大きくなるに従い、超音波振動による電圧の振幅を大きくし、
・「通報音を成す信号」を成す周波数の信号電圧が小さくなるに従い、超音波振動による電圧の振幅を小さくする。
このようにして、超音波変調部33は、通報音生成部32から出力された「通報音を成す信号」を超音波周波数の「発振電圧の振幅変化」に変調するものである。
【0044】
(超音波駆動アンプ34の説明)
超音波駆動アンプ34は、超音波変調部33で変調された超音波信号(超音波変調された通報音を成す信号)に基づいて、超音波スピーカ21を駆動する増幅手段であり、各超音波振動子23の印加電圧(充放電状態)を制御することで、各超音波振動子23から「通報音を成す信号」を変調した超音波を発生させるものである。
【0045】
(ホーン駆動アンプ35の説明)
ホーン駆動アンプ35は、車両用ホーン2をダイナミックスピーカとして作動させるためのパワーアンプであり、通報音生成部32の出力する「通報音を成す信号」を増幅して、車両用ホーン2の通電端子に付与するものである。
なお、ホーン駆動アンプ35は、車両用ホーン2から通報音を発生させる際に、車両用ホーン2が警報音を発生しないように(即ち、電流断続器17を断続しないように)車両用ホーン2のコイル11を通電制御するものである。
【0046】
なお、この実施例では、車速に応じてパラメトリックスピーカ1による通報音の音圧を可変させる音圧可変部が設けられている。この音圧可変部は、車速の上昇に応じてパラメトリックスピーカ1によって再生させる通報音の音圧を上昇させるものであり、超音波駆動アンプ34の増幅ゲインの可変を行うものである。
具体的に、音圧可変部は、車速に応じて超音波駆動アンプ34の電源電圧(供給電圧)を可変させるものであっても良いし、超音波駆動アンプ34の最終増幅前の信号電圧を可変させるものであっても良いし、超音波振動子23の使用数の切り替えを行うものであっても良い。また、音圧可変部による増幅ゲインの可変は、段階的可変であっても、連続可変であっても良い。
なお、音圧可変部は、車速だけでなく、雨天走行、雪天走行などの走行状態に応じて通報音の音圧を上昇させるものであっても良い。
【0047】
(車両存在通報装置の作動)
判定部31が「車両の運転状態が通報音の発生条件に適合している」と判定すると、通報音生成部32から車両の運転状態に応じた「通報音を成す信号」が出力される。
【0048】
超音波スピーカ21は、図7(c)に示すように、「通報音を成す信号」を変調した超音波(聞こえない音波)を車両前方へ向けて放射する。
すると、図7(d)に示すように、空気中を超音波が伝播するにつれて、空気の粘性等によって波長の短い超音波が歪んで鈍(なま)される。
【0049】
その結果、図7(e)に示すように、伝播途中の空気中において超音波に含まれていた振幅成分が自己復調され、結果的に超音波の発生源(超音波スピーカ21を搭載する車両)から離れた場所である車両前方において通報音が再生される。
このパラメトリックスピーカ1による通報音の到達範囲を、図1の破線αに示す。なお、図1における符号Sは車両であり、破線αは通報音の音圧が50dBの到達範囲を示すものである。
【0050】
一方、通報音生成部32が「通報音を成す信号」を出力することで、車両用ホーン2から車両の周囲に車両の運転状態に応じた通報音を直接発生させる。
この車両用ホーン2による通報音の到達範囲を、図1の破線βに示す。なお、図1の破線βは、通報音の音圧が50dBの到達範囲を示すものである。
【0051】
(実施例1の効果1)
この実施例の車両存在通報装置は、パラメトリックスピーカ1(高指向性スピーカの一例)と車両用ホーン2(低指向性スピーカの一例)の両方から、異なる音色の通報音を同時に発生させる。
【0052】
具体的に、この実施例では、パラメトリックスピーカ1と車両用ホーン2の両方から同一の通報音を再生させる。
ここで、「パラメトリックスピーカ1によって再生される通報音の周波数特性および音質」と「車両用ホーン2によって再生される通報音の周波数特性および音質」とは明確に異なる。具体的には、パラメトリックスピーカ1によって再生される通報音は硬い音質であり、ダイナミックスピーカである車両用ホーン2によって再生される通報音は軟らかい音質であり、一聴して明確に異なる音色として聞こえる。
このため、パラメトリックスピーカ1と車両用ホーン2の両方から同一の通報音を再生させても、「パラメトリックスピーカ1が発生する通報音の音色」と「車両用ホーン2が発生する通報音の音色」とが異なることになり、結果的にパラメトリックスピーカ1(高指向性スピーカの一例)と車両用ホーン2(低指向性スピーカの一例)の両方から、異なる音色の通報音を同時に発生させることができる。
【0053】
この結果、車両の移動方向と移動速度に応じて、人に聞こえる通報音の音色(人の耳に到達する「パラメトリックスピーカ1による通報音」と「車両用ホーン2による通報音」の音色差)が変化することになり、通報音の音色の変化具合から車両の前後方向(進行方向および車速)を判別することが可能になる。
【0054】
(実施例1の効果2)
この実施例の車両存在通報装置は、
(i)停車中に「擬似アイドリング音」を発生させ、
(ii)前進中に「擬似走行音」を発生させ、
(iii)後退時に「後退通報音」を発生させる。
【0055】
これにより、歩行者は、上述した「実施例1の効果1」に加え、
(i)「擬似アイドリング音」によって「停車車両の存在」を把握し、
(ii)「擬似走行音」によって「前進車両の存在」を把握し、
(iii)「後退通報音」によって「後退車両の存在」を把握することができる。
【0056】
さらに歩行者は、「擬似アイドリング音」、「擬似走行音」、「後退通報音」が切り替わることで、車両の走行状態の変化(停車から発車、発車から停車、停車から後退、後退から停車)を把握することができる。
【0057】
(実施例1の効果3)
この実施例1の車両存在通報装置は、車両速度に応じて唸り周波数を変化させている。 このため、唸り周波数の変化具合(通報音の変化具合)から車速を把握することが可能になる。
【0058】
さらに、この実施例では、車速の増加に応じて唸り周波数を高めるだけでなく、車速の増加に応じて、「擬似走行音(通報音の一例)」の強調域Z(強調周波数)を低音側強調から高音側強調へ変化させている。
これにより、車速の増加に応じて「エンジン音やロードノイズの周波数特性が高音側に変化すること」が通報音によって再現されるため、「擬似走行音」の強調域Zの変化具合からも車速を把握することが可能になる。
【0059】
[実施例2]
図8を参照して実施例2を説明する。なお、以下の実施例において上記実施例1と同一符号は同一機能物を示すものである。
上記の実施例1では、「パラメトリックスピーカ1が発生する通報音の音色」と「車両用ホーン2が発生する通報音の音色」とが異なることを利用する例を示した。
【0060】
これに対し、この実施例2の制御回路3は、車両の運転状態(停車、前進、後退等)に応じて、
(i)パラメトリックスピーカ1を駆動する「通報音を成す信号」の周波数特性と、
(ii)車両用ホーン2を駆動する「通報音を成す信号」の周波数特性とが、
大きく異なる周波数特性となるように「積極的」に変化させるものである。
【0061】
具体的な一例として、図8に示す制御回路3では、通報音生成部32からホーン駆動アンプ35に与えられる「通報音を成す信号」の周波数特性を変化させるトーンコントロール部36を設け、車両の運転状態(停車、前進、後退等)に応じて、車両用ホーン2を駆動する「通報音を成す信号」の周波数特性のみを積極的に変化させることで、
(i)パラメトリックスピーカ1を駆動する「通報音を成す信号」の周波数特性と、
(ii)車両用ホーン2を駆動する「通報音を成す信号」の周波数特性とを、
異なる周波数特性に変化させるものである。
【0062】
このように設けることにより、「パラメトリックスピーカ1が発生する通報音」と「車両用ホーン2が発生する通報音」との音色差を積極的に大きくすることができるため、車両の移動方向と移動速度に応じて、人に聞こえる通報音の音色(人の耳に到達する「パラメトリックスピーカ1による通報音」と「車両用ホーン2による通報音」の音色差)が大きく変化することになり、通報音の音色の変化具合から車両の前後方向(進行方向および車速)を判別することが容易になる。
【0063】
[実施例3]
図9を参照して実施例3を説明する。
上記の実施例2では、
(i)パラメトリックスピーカ1を駆動する「通報音を成す信号」の周波数特性と、
(ii)車両用ホーン2を駆動する「通報音を成す信号」の周波数特性とを、
異なる周波数特性に変化させる例を示した。
【0064】
これに対し、この実施例3の制御回路3は、車両の運転状態(停車、前進、後退等)に応じて、
(i)パラメトリックスピーカ1を駆動する「通報音を成す信号」を作成する際に用いる唸り周波数と、
(ii)車両用ホーン2を駆動する「通報音を成す信号」を作成する際に用いる唸り周波数とを、
異なる周波数に変化させるものである。
【0065】
具体的な一例として、図9に示す制御回路3では、
(i)パラメトリックスピーカ1から発生させる「通報音を成す信号」を作る通報音生成部32とは別に、
(ii)車両用ホーン2から発生させる「通報音を成す信号」を作る第2通報音生成部37を独立して設ける。
【0066】
そして、車両の運転状態(停車、前進、後退等)に応じて、
(i)パラメトリックスピーカ1の「通報音を成す信号」を作成する際に用いる唸り周波数と、
(ii)車両用ホーン1の「通報音を成す信号」を作成する際に用いる唸り周波数とを、異なる周波数に設定するものである。
【0067】
このように設けることにより、「パラメトリックスピーカ1が発生する通報音」と「車両用ホーン2が発生する通報音」との音色差を明確にできるため、車両の移動方向と移動速度に応じて、人に聞こえる通報音の音色(人の耳に到達する「パラメトリックスピーカ1による通報音」と「車両用ホーン2による通報音」の音色差)が大きく変化することになり、通報音の音色の変化具合から車両の前後方向(進行方向および車速)を判別することが容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
上記の各実施例を組み合わせて用いても良い。
上記の実施例では、電動モータで走行可能な車両(電気自動車、燃料電池自動車、ハイブリッド車両等)に本発明を用いる例を示したが、アイドルストップ機能を搭載するエンジン車両(コンベ車)に本発明を用いても良いし、アイドルストップ機能を搭載しないエンジン車両(コンベ車)であってもエンジン音の静かな車両に本発明を適用して安全性を高めるようにしても良い。
【0069】
上記の実施例では、高指向性スピーカの一例としてパラメトリックスピーカ1を用いる例を示したが、指向性の強いダイナミックスピーカ(例えば、ダイナミックスピーカ+音を車両前方へ向けて放出するホーン等)を用いても良い。
【0070】
上記の実施例では、通報音の一例として「擬似アイドリング音」、「擬似走行音」「後退通報音」を用いる例を示したが、音の種類は限定されるものではなく、車両の存在を知らせることができる通報音であれば良い。
【符号の説明】
【0071】
1 パラメトリックスピーカ(高指向性スピーカ)
2 車両用ホーン(低指向性スピーカ、ダイナミックスピーカ)
3 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通報音によって車両の存在を知らせる車両存在通報装置において、
この車両存在通報装置は、
指向性の強い高指向性スピーカ(1)と、
この高指向性スピーカ(1)に比較して指向性の弱い、あるいは指向性の無い低指向性スピーカ(2)とを備え、
前記高指向性スピーカ(1)と前記低指向性スピーカ(2)の両方から異なる音色の通報音を同時に発生させることを特徴とする車両存在通報装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両存在通報装置において、
前記高指向性スピーカ(1)は、通報音を超音波変調してなる超音波を車外へ向けて放出するパラメトリックスピーカであり、
前記低指向性スピーカ(2)は、通報音を直接車外へ向けて放出するダイナミックスピーカであることを特徴とする車両存在通報装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両存在通報装置において、
この車両存在通報装置は、前記高指向性スピーカ(1)および前記低指向性スピーカ(2)から通報音を発生させる制御回路(3)を具備し、
この制御回路(3)は、車両の運転状態に応じて、
前記高指向性スピーカ(1)から発生させる通報音の周波数特性と、
前記低指向性スピーカ(2)から発生させる通報音の周波数特性とを、
異なる周波数特性に変化させることを特徴とする車両存在通報装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の車両存在通報装置において、
この車両存在通報装置は、前記高指向性スピーカ(1)および前記低指向性スピーカ(2)から通報音を発生させる制御回路(3)を具備し、
この制御回路(3)は、所定周波数の間隔で連続する多数の周波数信号を同時に発生させて通報音を作成する通報音生成手段を備えるものであり、
前記所定周波数の間隔を唸り周波数と定義した場合、
前記制御回路(3)は、
前記高指向性スピーカ(1)から発生させる通報音の唸り周波数と、
前記低指向性スピーカ(2)から発生させる通報音の唸り周波数とを、
異なる周波数に変化させることを特徴とする車両存在通報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−71516(P2013−71516A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210631(P2011−210631)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】