説明

車両接近通報装置

【課題】様々な異常モードに対して異常検出を行うことができる車両接近通報装置を提供する。
【解決手段】マイコン21からの発音出力がAMP22およびHPF24を通過することで、発音出力に対応する出力電圧VOUTをスピーカ3に印加して車両接近音を発音させる車両接近通報装置2において、出力電圧VOUTをモニタする電圧センサ回路25を備えると共に、異常検出時に発音出力としてチェック用出力を発生させる。チェック用出力には、スピーカ共振周波数帯域に含まれる周波数で、例えばユーザが認識し難くスピーカの再生能力の低い低周波(例えば60Hz以下)の単周波の出力を用いる。そして、電圧センサ回路25が出力する積分回路電圧が異常判定用の閾値とされる電圧範囲内にあるか、その電圧範囲外であるかに基づいて異常検出を行う

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両から音声を発生させることにより、車両が接近していることを周囲に通報する車両接近通報装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV車)やハイブリッド車(HV車)などでは、その構造的に発生騒音が小さく、これらの車両の接近を歩行者が気付き難いということから、歩行者など周囲に車両が近くにいるという認知度を上げるために擬似エンジン音や擬似モータ音などの車両接近通報音を発生させる車両接近通報装置が搭載されつつある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−136831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような車両接近通報装置においては、スピーカに何らかの異常が発生して発音できなくなると、車両から歩行者に対して車両の接近を通報する機能が失われることになる。運転者がそれを知らずに運転し続けると、運転者は歩行者に対して車両接近通報音が発音されていることを前提として走行しているのにもかかわらず、実際には車両接近通報音が発音されておらず、歩行者が車両接近に気付き難くなるという問題が発生する。このため、車両接近通報装置の異常について検出できるようにすることが必要となる。
【0005】
このような車両接近通報装置の異常検出方法として、発音時にスピーカに流される電流(以下、スピーカ電流という)もしくは印加される電圧(以下、スピーカ電圧という)を利用する方法が考えられる。具体的には、車両接近通報装置で発音させる擬似エンジン音や擬似モータ音は、時間と共に周波数成分や音量が変化するものであるため、発音時のスピーカ電流およびスピーカ電圧は常に変動している。したがって、スピーカのオープン(断線)時にはスピーカ出力配線にスピーカ電流が流れず、スピーカのショート時にはスピーカ出力配線に過大な直流電流が流れるといった極端な事象においては、電流センサ回路もしくは電圧センサ回路によって発音時におけるセンサ電流もしくはセンサ電圧をモニタし、スピーカのオープンもしくはショート異常判定用の閾値と比較することにより、それらの異常検出を行うことができる。
【0006】
しかしながら、スピーカがオープンになりかけ、つまりスピーカ出力配線経路中のインピーダンスが過大となる場合や、スピーカがショートになりかけ、つまり部分的にショートしてインピーダンスが正常時より低下するようなレイヤーショートのような中間異常モード、あるいは、スピーカのコーンの氷結固着といった異常モードにおいては、上記のような手法によって異常検出を行うことが困難である。すなわち、これらの異常モードでは、発音時のスピーカ電流が常に変動しているため、電流センサ回路もしくは電圧センサ回路によって発音時におけるセンサ電流もしくはセンサ電圧をモニタし、スピーカのオープンもしくはショート異常判定用の閾値と比較するだけでは正確に異常検出が行えない。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、様々な異常モードに対して異常検出を行うことができる車両接近通報装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、発音体(3)からの発音を行う車両接近通報音を生成するための接近通報音波形に対応する発音出力を発生させる接近通報音波形生成部(21a)と、発音出力に応じた入力電圧(VIN)を発生させるパワーアンプ(22)と、入力電圧(VIN)を入力し、該入力電圧(VIN)の低周波成分をフィルタリングした出力電圧(VOUT)を出力して発音体(3)に印加するハイパスフィルタ(24)と、出力電圧(VOUT)を積分する積分回路を有し、該積分回路で出力電圧(VOUT)を積分した積分回路電圧を出力する電圧センサ回路(25)と、電圧センサ回路(25)の出力する積分回路電圧をモニタし、該積分回路電圧に基づいて発音体(3)の異常検出を行う異常モニタ部(21b)とを有し、異常モニタ部(21b)にて発音体(3)の異常が検出されると、警報機(4)を介してその旨の警報を行う車両接近通報装置であって、接近通報音波形生成部(21a)は、異常検出時に、チェック用出力として、発音体(3)の共振周波数帯域における共振周波数よりも低い周波数の発音出力を発生させ、異常モニタ部(21b)は、異常検出時に、チェック用出力となる発音出力に基づいて、パワーアンプ(22)およびハイパスフィルタ(24)を介して発音体(3)に出力電圧(VOUT)が印加されると、当該出力電圧(VOUT)が電圧センサ回路(25)の積分回路で積分された積分回路電圧を入力し、予め記憶しておいた異常判定用の閾値と比較することで発音体(3)の異常検出を行うことを特徴としている。
【0009】
このように、発音出力がパワーアンプ(22)およびハイパスフィルタ(24)を通過することで、発音出力に対応する出力電圧(VOUT)を発音体(3)に印加して車両接近音を発音させる車両接近通報装置において、出力電圧(VOUT)をモニタする電圧センサ回路(25)を備えると共に、異常検出時に発音出力としてチェック用出力を発生させるようにしている。そして、電圧センサ回路(25)が出力する積分回路電圧が異常判定用の閾値とされる電圧範囲内にあるか、その電圧範囲外であるかに基づいて異常検出を行うようにしている。これにより、各異常モードすべてにおいて確実に異常検出を行うことができる。
【0010】
例えば、請求項2に記載したように、異常モニタ部(21b)は、異常検出時に、積分回路電圧の平均値を演算し、該平均値が異常判定用の閾値とされる電圧範囲内であるか否かにより、発音体(3)の異常検出を行うことができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、パワーアンプ(22)に対して電源から供給される電流を検出する電流センサ回路(23)を有し、電流センサ回路(23)にてパワーアンプ(22)に供給される電流が過電流であることが検出されると、電源からパワーアンプ(22)への電流供給を停止し、発音体(3)への出力電圧(VOUT)の印加を停止することを特徴としている。
【0012】
このように、パワーアンプ(22)に供給される電流が過電流である場合に、電源からパワーアンプ(22)への電流供給を停止し、発音体(3)への出力電圧(VOUT)の印加を停止することで、過電流によって車両接近通報装置が故障したり、発音体(3)で想定していない音圧で発音が行われることを防止している。
【0013】
この場合において、請求項4に記載したように、電流センサ回路(23)にてパワーアンプ(22)に供給される電流が過電流であることが検出された場合、異常モニタ部(21b)にて電圧センサ回路(25)が出力する積分回路電圧に基づいて異常が検出されていれば、発音体(3)への出力電圧(VOUT)の印加を停止するようにしても良い。
【0014】
請求項5に記載の発明では、異常モニタ部(21b)にて発音体(3)が異常であることが検出されたときに、故障履歴情報として記憶する記憶装置(21c)が備えられていることを特徴としている。
【0015】
このように記憶装置(21c)に故障履歴情報を記憶しておくことで、その記憶内容を自動車ディーラー等の修理工場での故障診断に活用し、サービス性、メンテナンス性の向上を図ることが可能となる。
【0016】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる車両接近通報装置を含む車両接近通報システムのブロック図である。
【図2】車両接近通報装置2に備えられる電圧センサ回路25の具体的な構成例を示した回路ブロック図である。
【図3】各異常モードおよび正常時における入力周波数とスピーカ3のインピーダンスの変化との関係を示した図である。
【図4】各異常モードおよび正常時における発音出力の周波数とHPF24の周波数特性の変化との関係を示した図である。
【図5】各異常モードおよび正常時における各電圧波形などを示した図である。
【図6】各異常モードおよび正常時における入力周波数とスピーカ3のインピーダンスの変化との関係を示した図である。
【図7】各異常モードおよび正常時における発音出力の周波数とHPF24の周波数特性の変化との関係を示した図である。
【図8】各異常モードおよび正常時における各電圧波形などを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態にかかる車両接近通報装置を含む車両接近通報システムのブロック図である。この図を参照して、本実施形態にかかる車両用接近通報装置を含む車両接近通報システムについて説明する。
【0020】
図1に示すように、車両接近通報システムは、車速センサ1、車両接近通報装置2、スピーカ3および警報機4を有した構成とされている。車両接近通報システムでは、車両接近通報装置2が発音体であるスピーカ3からの発音を行うことで、車両の接近を周囲の歩行者などに通報する。なお、ここでは、車両接近通報装置2をスピーカ3と別体としているが、スピーカ3を車両接近通報装置2と一体化した構成としても良い。
【0021】
車速センサ1は、車両の走行状態を示す信号として車速検知信号を出力する。この車速センサ1の検知信号が車両接近通報装置2に入力されることで、車両接近通報装置2は、車速に応じた車両接近通報音を発生させる。
【0022】
車両接近通報装置2には、マイコン21、パワーアンプ(以下、AMPという)22、電流センサ回路23、ハイパスフィルタ(以下、HPFという)24、電圧センサ回路25が備えられている。
【0023】
マイコン21は、接近通報音波形生成部21aと異常モニタ部21bおよび記憶装置21cなどを有した構成とされている。
【0024】
接近通報音生成部21aは、図示しないメモリを有していると共に、デジタルアナログコンバータ(以下、DACという)もしくはPWM出力器などを有した構成とされる。メモリには、発音の制御プログラムやPCM(パルス符号変調)のデータ、つまり音声の大きさをデータコードに変換して符号化したものなどが記憶されていると共に、車速検知信号が示す車速に対応付けた音圧レベルの演算式もしくはマップなどが記憶されている。接近通報音生成部21aは、このメモリに記憶された制御プログラムに従って、車速センサ1からの車速検知信号が入力されると、車速に応じた音圧レベルを演算式もしくはマップを用いて演算し、PCMのデータを演算した音圧レベルに設定したものを所定のサンプリング周期毎にDACもしくはPWM出力器などにセットして出力することで、接近通報音波形に対応する発音出力を発生させている。例えば、車速が大きいほど音圧レベルを大きくすることで、歩行者などへの車両接近の認知度の向上を図るようにしている。
【0025】
異常モニタ部21bは、電圧センサ回路25の出力に基づいてスピーカ3が正常であるか、故障しているかの検出、つまり異常検出を行うものである。異常のモードとしては、スピーカ3のオープン(断線)、オープンになりかけの中間オープン、ショート、ショートになりかけの中間ショート、スピーカ3の氷結固着があるが、これらいずれの異常モードについても異常モニタ部21bによって異常状態として検出できるようにしている。異常モニタ部21bは、電圧センサ回路25が出力する電圧の平均値を演算し、その平均値が予め記憶しておいた異常判定用の閾値とされる電圧範囲内に含まれている否かに基づいて異常検出を行っている。異常判定用の閾値とされる電圧範囲は一定の値であり、後述するようにチェック用出力という一定の周波数の発音出力を用いることで異常判定用の閾値とされる電圧範囲を一定の値にできるようにしている。この異常モニタ部21bによる異常検出の詳細については後述する。
【0026】
記憶装置21cは、異常モニタ部21bによる異常検出によってスピーカ3が故障していることが検出されたときに、具体的な異常モードの情報を含めて故障履歴情報として記憶する。このように記憶装置21cに記憶された内容は、自動車ディーラー等の修理工場での故障診断に活用され、サービス性、メンテナンス性の向上が図れるようにしている。
【0027】
AMP22は、電源からの電力供給に基づいてマイコン21の出力と対応する電圧をスピーカ3に印加する。なお、以下の説明では、このAMP22からスピーカ3に対して入力される電圧を入力電圧VINという。
【0028】
電流センサ回路23は、電源からAMP22に供給される電流の大きさを検出するものである。この電流センサ回路23により、AMP22に供給される電流が過電流になっていることを検出している。この電流センサ回路23の検出結果は、マイコン21に入力されており、マイコン21は、AMP22に供給される電流が過電流になっているときには例えばAMP22への電流供給を停止することで、スピーカ3への電圧印加を一時的に停止するなどの処置を行うようになっている。これにより、過電流によって車両接近通報装置2が故障したり、スピーカ3で想定していない音圧で発音が行われることを防止している。
【0029】
HPF24は、AMP22からの入力電圧VINの低周波成分をフィルタリングし、高周波帯域のみを通過させるものであり、例えばカップリングコンデンサによって構成される。
【0030】
電圧センサ回路25は、HPF24を通過してスピーカ3に対して印加される電圧をモニタするものであり、積分回路によって構成され、スピーカ3に印加される電圧の積分値を電圧センサ回路25の出力としてマイコン21に入力する。この電圧センサ回路25によってモニタしているスピーカ3に印加される電圧が、車両接近通報装置2が出力する電圧に相当する。以下の説明では、この電圧を出力電圧VOUTという。
【0031】
図2は、このような構成の車両接近通報装置2に備えられる電圧センサ回路25の具体的な構成例を示した回路ブロック図である。なお、マイコン21の構成については、図1と同様であるため、本図では省略してある。
【0032】
上記したように、マイコン21aの音声出力がAMP22に入力され、AMP22が電源からの電流供給に基づいてスピーカ3への入力電圧VINを出力する。この入力電圧VINがカップリングコンデンサなどで構成されるHPF24にてフィルタリングされたのち、車両接近通報装置2の出力電圧VOUTとしてスピーカ3に印加されることで、スピーカ3から発音出力に対応する音圧および周波数の車両接近通報音が発音される。
【0033】
そして、電圧センサ回路25は、この出力電圧VOUTが伝えられるスピーカ出力配線に接続され、出力電圧VOUTを積分回路にて積分し、その積分値をマイコン21に入力している。
【0034】
具体的には、電圧センサ回路25は、マイコン21の出力ポートとGNDとの間に直列接続された充電電流制限抵抗25a、第1ダイオード25bおよび放電抵抗25cと、充電電流制限抵抗25aと第1ダイオード25bとの接続点と出力電圧VOUTが伝えられるスピーカ出力配線との間に備えられた第2ダイオード25dと、放電抵抗25cに対して並列接続されたコンデンサ25eと、第1ダイオード25bと放電抵抗25cとの接続点とマイコン21との間に接続された入力制限抵抗25fとを有した構成とされている。
【0035】
このように構成される電圧センサ回路25は、第1ダイオード25bと第2ダイオード25dのアノード同士を接続した構成としていることから、第1ダイオード25bのカソード電位がほぼ第2ダイオード25dのカソード電位となる。さらに、スピーカ出力配線に対して第2ダイオード25dを逆接続した状態としてあるため、出力電圧VOUTが半波整流された形で第1ダイオード25bのカソード電位として現れ、かつ、そのカソード電位が第1、第2ダイオード25b、25dのVf分の電圧ドロップの影響が無い状態のカソード電位にできる。
【0036】
そして、マイコン21の出力ポートの電位を基準として電圧センサ回路25がプルアップ制御され、この出力ポートの電位と第1ダイオード25bのカソード電位との電位差に基づいて、充電電流制限抵抗25a、第1ダイオード25bおよび放電抵抗25cの経路に電流が流れたり電流が遮断されると共に、放電抵抗25cの両端電圧の電位差に応じてコンデンサ25eが充放電される。充電時には充電電流制限抵抗25aを介して充電が行われるため充電電流が過大になることが防止される。また、放電時には、放電抵抗25cの抵抗値を大きな値に設定することで、マイコン21のA/D入力電圧が緩やかに低下するようにしており、出力電圧VOUTのピークホールドが行えるようにしてある。
【0037】
このコンデンサ25eの充電電圧が入力制限抵抗25fを介してマイコン21に入力されることで、出力電圧VOUTの積分値に相当する電圧がマイコン21に入力されるようにすることができる。
【0038】
上記のように構成された車両接近通報システムでは、車速センサ1からの車速検知信号がマイコン21に入力されると、接近通報音生成部21aが車速検知信号が示す車速に応じた発音出力を発生させる。例えば、接近通報音生成部21aは、メモリに記憶された制御プログラムに従って、車速に応じた音圧レベルを演算式もしくはマップを用いて演算し、PCMのデータを演算した音圧レベルに設定したものを所定のサンプリング周期毎にDACもしくはPWM出力器などにセットして出力することで、接近通報音波形に対応する発音出力を発生させる。
【0039】
そして、接近通報音生成部21aからの発音出力に対応する入力電圧VINがAMP22を介して出力され、この入力電圧VINがHPF24にてフィルタルングされたのち、車両接近通報装置2の出力電圧VOUTとしてスピーカ3に印加される。これにより、スピーカ3は、車速に対応した車両接近通報音を発生させ、歩行者などに車両の接近を通報する。
【0040】
一方、異常検出を行うときには、接近通報音生成部21aから発音出力としてチェック用出力を発生させる。チェック用出力は、スピーカ共振周波数帯域に含まれる周波数で、例えばユーザが認識し難くスピーカ3の再生能力の低い低周波(例えば60Hz以下)の単周波の出力とされている。スピーカ3の再生能力の低い低周波とすることで、異常検出時にスピーカ3から発音されることを抑制し、ドライバを不快にしなくても済むようにしている。このような異常検出は、車両接近通報音を発生させないときであれば何時でも実施可能であるため、車両接近通報音を発生させないときに常に行うことが可能となり、異常検出の頻度を高めることが可能となる。
【0041】
このチェック用出力に対応する入力電圧VINがAMP22を介して出力され、この入力電圧VINがHPF24にてフィルタルングされたのち、車両接近通報装置2の出力電圧VOUTとしてスピーカ3に印加される。これによってスピーカ3から車両接近通報音が出力されても構わないが、ユーザが認識し難くスピーカの再生能力の低い低周波の単周波のチェック用出力を使用しているため、殆ど発音がされないようにできる。
【0042】
このときの出力電圧VOUTを電圧センサ回路25で検出すると共にその積分値をマイコン21の異常モニタ部21bに入力し、これに基づいて異常モニタ部21bで後述する手法によってスピーカ3の異常検出を行う。そして、スピーカ3の故障が検出されると、異常モニタ部21bが記憶部21cに対してスピーカ3の故障が検出されたことを伝えることで故障履歴情報を記憶させると共に、警告機4にその旨を示す信号を出力することで、警告機4を通じてドライバにスピーカ3が故障していることを伝える。
【0043】
例えば、警告機4は、メータ内警告灯もしくはインストルメントパネル内表示器などによって構成され、ドライバに視認できるものもしくは通報音を吹鳴するもので構成される。このような警報機4を介してドライバにスピーカ3が故障していて通報機能が一時的または永久的に機能しない状態になっていることを通報することができ、ドライバの「車両接近通報音を発音しているから歩行者が気づくはず」という思い込みを回避することが可能となる。
【0044】
ここで、本実施形態のスピーカ3の異常検出の詳細について、チェック用出力を用いずに通常の発音出力に基づいて異常検出を行う場合と比較して説明する。
【0045】
上記した構成の車両接近通報システムを用いて通常の発音出力に基づいて異常検出を行う場合、スピーカ3が正常のときの電圧範囲を異常判定用の閾値として、積分回路にて構成された電圧センサ回路25の出力がその電圧範囲を超えるか否かによって異常検出を行おうとしても、正確に異常検出を行うことができない。これについて、図3〜図5を参照して説明する。
【0046】
図3は、各異常モードおよび正常時における発音出力の周波数(入力周波数)とスピーカ3のインピーダンスの変化との関係を示した図である。図4は、各異常モードおよび正常時における発音出力の周波数とHPF24の周波数特性の変化との関係を示した図である。また、図5は、各異常モードおよび正常時におけるスピーカ3への印加電圧(出力電圧VOUT)と積分回路で構成された電圧センサ回路25の出力電圧(以下、積分回路電圧という)、閾値との判定用に積分回路電圧を平均化した電圧(以下、平均電圧という)、および、異常判定用の閾値とされる電圧範囲を示した図である。なお、図3、図4中に示した破線は正常時の特性である。
【0047】
図3に示すように、異常モードに応じてスピーカ3のインピーダンスが変化する。しかしながら、異常モードの種類によっては、必ずしも正常時と比較してスピーカ3のインピーダンスの変化が大きくならない場合もある。特に、車両接近通報音は周波数成分に幅を持っており、その幅内のどの入力周波数で異常検出が行われるか判らない。また、図4に示すように、HPF24の周波数特性についても入力周波数に応じて変化するものの、車両接近通報音の周波数成分に幅がある。そして、HPF24での減衰量、すなわち出力電圧VOUT/入力電圧VINによって積分回路電圧が変わることから、入力周波数がある程度大きくなるとHPF24での減衰量が0となり、正常時と異常時とで積分回路電圧に差がなくなるため、積分回路電圧によって正常時と異常時とを判別するのは困難となる。
【0048】
具体的には、図5に示すように、ショート時にはスピーカ3に印加される出力電圧VOUTが0になり、積分回路電圧や平均電圧も0となる。また、オープン時には、出力電圧VOUTが正常時よりも十分に大きな値となり、積分回路電圧や平均電圧も正常時よりも十分に大きな値となる。これらの場合には、平均電圧が異常判定用の閾値とされる電圧範囲から大きく乖離した値となるため、確実に異常検出を行うことができる。
【0049】
ところが、中間ショート時や氷結固着時および中間オープン時には、出力電圧VOUTが0になったり正常時に比べて十分に大きな値となる訳ではない。このため、積分回路電圧や平均電圧も正常時と比べて大きな差が生じず、平均電圧が異常判定用の閾値とされる電圧範囲内もしくはその範囲に近い値となって、確実な異常検出が行えなくなる。
【0050】
このため、本実施形態では、チェック用出力を用いて異常検出を行うようにしている。チェック用出力は、上記したようにスピーカ共振周波数帯域に含まれる周波数の発音出力に設定されている。このチェック用出力は、擬似エンジン音や擬似モータ音などの車両接近通報音の発音を行わないときに出力され、このチェック用出力が発生させられているときに異常検出を行っている。
【0051】
図6は、各異常モードおよび正常時における入力周波数とスピーカ3のインピーダンスの変化との関係を示した図である。図7は、各異常モードおよび正常時における発音出力の周波数とHPF24の周波数特性の変化との関係を示した図である。また、図8は、各異常モードおよび正常時における出力電圧VOUTと積分回路電圧、平均電圧、および、異常判定用の閾値とされる電圧範囲を示した図である。なお、図6、図7中に示した破線は正常時の特性である。
【0052】
図6の正常時の特性に示されるように、共振現象により、スピーカ3のインピーダンスが他の周波数帯域と比較して増加する箇所がある。この領域がスピーカ共振周波数帯域であり、スピーカ用出力の周波数は、例えば共振周波数帯域のうちのスピーカ3のインピーダンスが極大値を取る共振周波数f0の近傍であって、共振周波数f0よりも小さい周波数に設定されている。
【0053】
このようなチェック用出力の周波数を用いる場合、図7に示すように、正常時と各異常モードとで減衰量に差がある周波数を用いることになるため、HPF24での減衰量によって変わる積分回路電圧も正常時と各異常モードとで差が発生する。
【0054】
したがって、図8に示すように、ショート時にはスピーカ3に印加される出力電圧VOUTが0になり、積分回路電圧や平均電圧も0となって、平均電圧が異常判定用の閾値とされる電圧範囲よりも小さな値となる。中間ショート時には、出力電圧VOUTが正常時よりも減衰し、積分回路電圧や平均電圧も正常時よりも小さくなって、平均電圧が異常判定用の閾値とされる電圧範囲よりも小さな値となる。氷結固着時には、中間ショート時よりも減衰量は小さくなるものの出力電圧VOUTが正常時よりも減衰し、積分回路電圧や平均電圧も正常時よりも小さくなって、平均電圧が異常判定用の閾値とされる電圧範囲よりも小さな値となる。中間オープン時には、出力電圧VOUTが正常時よりも減衰せず、積分回路電圧や平均電圧が正常時よりも大きくなって、平均電圧が異常判定用の閾値とされる電圧範囲よりも大きな値となる。そして、オープン時には、電圧センサ回路25のプルアップが支配的となって出力電圧VOUTが正常時よりも十分に大きな値となり、積分回路電圧や平均電圧も正常時よりも十分に大きな値となって、平均電圧が異常判定用の閾値とされる電圧範囲よりも大きな値となる。
【0055】
このように、チェック用出力の周波数を共振周波数帯域とすること、好ましくは共振周波数帯域のうちのスピーカ3のインピーダンスが極大値を取る共振周波数f0よりも小さい周波数とすることで、各異常モードすべてにおいて確実に異常検出が行えるようにできる。そして異常検出が成された場合に、異常検出が行われたことに加えて、平均電圧が異常判定用の閾値とされる電圧範囲よりも小さい値であるか、それとも大きな値であるかを故障履歴情報として記憶装置21cに記憶しておく。これにより、故障履歴情報として記憶装置21cに記憶されている記憶内容を自動車ディーラー等の修理工場での故障診断に活用し、サービス性、メンテナンス性の向上を図ることが可能となる。
【0056】
なお、スピーカ3の共振周波数は、スピーカ3のサイズや形状等によって決まるものであり、スピーカ3の共振周波数帯域の出力電圧VOUTが生成されるように、マイコン21における接近通報音生成部21aの発音出力およびHPF24のフィルタ定数などを設定するようにしている。
【0057】
以上説明したように、マイコン21からの発音出力がAMP22およびHPF24を通過することで、発音出力に対応する出力電圧VOUTをスピーカ3に印加して車両接近音を発音させる車両接近通報装置2において、出力電圧VOUTをモニタする電圧センサ回路25を備えると共に、異常検出時に発音出力としてチェック用出力を発生させるようにしている。そして、電圧センサ回路25が出力する積分回路電圧が異常判定用の閾値とされる電圧範囲内にあるか、その電圧範囲外であるかに基づいて異常検出を行うようにしている。これにより、各異常モードすべてにおいて確実に異常検出を行うことができる。
【0058】
(他の実施形態)
上記実施形態では、電流センサ回路23によってAMP22に供給される電流が過電流になっていることを検出し、過電流になっているときの処置の一例として、AMP22への電流供給を停止することで、スピーカ3への電圧印加を一時的に停止する場合を例に挙げた。これに対して、電流センサ回路23の検出結果を電圧センサ回路24の検出結果に合せて用いることもできる。すなわち、電流センサ回路23にて過電流が検出された場合、電圧センサ回路25が出力する積分回路電圧に基づいて異常が検出されていれば、スピーカ3への電圧印加を停止するようにしても良い。
【0059】
また、上記実施形態では、車両の走行状態を示すものとして車速センサを用いたが、車速センサ以外の車両の走行状態を検出する手段からの検出結果に基づいて、車両接近通報音を変化させることもできる。例えば、アクセルペダル開度(もしくはエンジン回転数)を検出するセンサからの検出信号に基づき、アクセルペダル開度に応じて車両接近通報音の音圧レベルや周波数を変化させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0060】
1 車速センサ
2 車両接近通報装置
3 スピーカ
4 警報機
21 マイコン
21a 接近通報音波形生成部
21b 異常モニタ部
21c 記憶装置
22 AMP
23 電流センサ回路
24 HPF
25 電圧センサ回路
25a 充電電流制限抵抗
25b 第1ダイオード
25c 放電抵抗
25d 第2ダイオード
25e コンデンサ
25f 入力制限抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された発音体(3)から車両接近通報音を発音することにより、前記車両の接近を通報する車両接近通報装置において、
前記発音体(3)からの発音を行う車両接近通報音を生成するための接近通報音波形に対応する発音出力を発生させる接近通報音波形生成部(21a)と、
前記発音出力に応じた入力電圧(VIN)を発生させるパワーアンプ(22)と、
前記入力電圧(VIN)を入力し、該入力電圧(VIN)の低周波成分をフィルタリングした出力電圧(VOUT)を出力して前記発音体(3)に印加するハイパスフィルタ(24)と、
前記出力電圧(VOUT)を積分する積分回路を有し、該積分回路で前記出力電圧(VOUT)を積分した積分回路電圧を出力する電圧センサ回路(25)と、
前記電圧センサ回路(25)の出力する積分回路電圧をモニタし、該積分回路電圧に基づいて前記発音体(3)の異常検出を行う異常モニタ部(21b)とを有し、
前記異常モニタ部(21b)にて前記発音体(3)の異常が検出されると、警報機(4)を介してその旨の警報を行い、
前記接近通報音波形生成部(21a)は、異常検出時に、チェック用出力として、前記発音体(3)の共振周波数帯域における共振周波数よりも低い周波数の発音出力を発生させ、
前記異常モニタ部(21b)は、異常検出時に、前記チェック用出力となる発音出力に基づいて、前記パワーアンプ(22)および前記ハイパスフィルタ(24)を介して前記発音体(3)に前記出力電圧(VOUT)が印加されると、当該出力電圧(VOUT)が前記電圧センサ回路(25)の積分回路で積分された積分回路電圧を入力し、予め記憶しておいた異常判定用の閾値と比較することで前記発音体(3)の異常検出を行うことを特徴とする車両接近通報装置。
【請求項2】
前記異常モニタ部(21b)は、異常検出時に、前記積分回路電圧の平均値を演算し、該平均値が前記異常判定用の閾値とされる電圧範囲内であるか否かにより、前記発音体(3)の異常検出を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両接近通報装置。
【請求項3】
前記パワーアンプ(22)に対して電源から供給される電流を検出する電流センサ回路(23)を有し、
前記電流センサ回路(23)にて前記パワーアンプ(22)に供給される電流が過電流であることが検出されると、前記電源から前記パワーアンプ(22)への電流供給を停止し、前記発音体(3)への前記出力電圧(VOUT)の印加を停止することを特徴とする請求項1または2に記載の車両接近通報装置。
【請求項4】
前記電流センサ回路(23)にて前記パワーアンプ(22)に供給される電流が過電流であることが検出された場合、前記異常モニタ部(21b)にて前記電圧センサ回路(25)が出力する積分回路電圧に基づいて異常が検出されていれば、前記発音体(3)への前記出力電圧(VOUT)の印加を停止することを特徴とする請求項3に記載の車両接近通報装置。
【請求項5】
前記異常モニタ部(21b)にて前記発音体(3)が異常であることが検出されたときに、故障履歴情報として記憶する記憶装置(21c)が備えられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両接近通報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−28232(P2013−28232A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164502(P2011−164502)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(390001812)アンデン株式会社 (97)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】