説明

車両点検整備用ピットの階段装置

【課題】車両点検整備用のピットの上面から必要な高さの階段踏板までを懸垂部材によって吊る構造とすることによって、部品点数を少なくかつ設置スペースを取らない簡単な構成として、設備費用も掛からない車両点検整備用ピットの階段装置を提供すること。
【解決手段】階段部分の踏板を形成する複数枚の移動踏板17a〜17eと、フロア1のピットコーナ枠7に上端部が取り付けられてピットの両側壁に沿って懸垂状態に支持され、階段の各段に相当する位置に前記移動踏板を支える踏板受具19a〜19eを設けた懸垂棒15a〜15eと、ピット床面の昇降に伴って昇降するとともに移動踏板の下面を下方から支持する移動踏板昇降テーブル33とからなり、移動踏板昇降テーブル33の下降によって前記踏板受具19a〜19eに前記移動踏板17a〜17eを載置して階段とするとともに、上昇によってフロア面と同一面とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、特に大型車両などの整備工場における、床下に設けた車両点検整備用ピット床面への上り下りに用いる階段装置に関するものであり、特に、昇降するピット床面と連動して階段が形成される車両点検整備用ピットの階段装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示すように、自動車、特に大型車両の整備工場などにおいては、車両を持ち上げることなく下からの点検整備を可能とするため、車両が乗り入れられる幅にフロア01を長方形に掘り起こした車両点検整備用ピット03が一般的に設けられていた。
そして、車両の点検整備用ピット03内への階段は、床面の車両通過に支障のない別途の開口部05に固定階段07を設けて車両通路の下部にトンネル09の通路を設けてピット03内に出入りしていた。
【0003】
また、ピット床面の昇降と連動させて階段装置を形成するものとして特許文献1(特開2004−142486号公報)が知られている。この特許文献1には、図8に示すように、階段装置の階段の段数分用意した直方体状ステップ011(011、011、011、011、011)と、階段の各段に相当する位置にステップ天部を支えるステップ支え部012(012、012、012、012、012)を設けた斜めフレーム013と、該斜めフレーム013をピット内の底面020に支持する支持フレーム014と、ピット床面015の昇降に同期して昇降する機構を備えて前記直方体状ステップ011の下部を載置する昇降フレーム016とで階段装置を構成するものである。
【0004】
【特許文献1】特開2004−142486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の固定階段や車両通路の下部にトンネル09の通路を建設するには、別途の開口部05やトンネル09のスペースが必要であった。
また、前記特許文献1は、点検ピット内に雛壇形状に直方体状ステップ011を支持する斜めフレーム013と該斜めフレーム013をピット内の底面020に支持する支持フレーム014とを設けるため、雛壇の高さ以外にもピットの底面020までフレームを作製しなければならず、装置全体が大掛かりなものとなっていた。さらに、直方体状ステップ011をピット床面015の昇降に同期して昇降するために、チェーン022やチェーンスプロケット024や鎖026などの部品を必要とし、部品点数が多くなる問題があった。
【0006】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、車両点検整備用のピットの上面から必要な高さの階段踏板までを懸垂部材によって吊る構造とすることによって、部品点数を少なくかつ設置スペースを取らない簡単な構成として、設備費用も掛からない車両点検整備用ピットの階段装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる課題を解決するもので、車両下部の点検整備用にフロアに設けられたピット床面への上り下りに用いられ、常時はフロアと同一平面で車両点検整備時にピット床面の下降に伴って階段となる車両点検整備用ピットの階段装置であって、階段部分の踏板を形成する複数枚の移動踏板と、前記フロアのピットコーナ枠に上端部が取り付けられてピットの両側壁に沿って懸垂状態に支持され、階段の各段に相当する位置に前記移動踏板を支える踏板受具を設けた懸垂部材と、前記ピット床面の昇降に伴って昇降するとともに前記移動踏板の下面を下方から支持する移動踏板昇降テーブルとからなり、該移動踏板昇降テーブルは、上昇時に前記移動踏板の上面と前記フロアとが略同一面となるよう前記移動踏板を載置し、下降時に前記懸垂部材の踏板受具に前記移動踏板を載置して階段とすることを特徴とする。
【0008】
このように車両点検整備用ピットの階段装置を構成することにより、整備工場のフロアを掘り起こしたピット開口部の周縁のコーナ枠を利用して、例えばコーナ枠を形成する鋼材を利用して、懸垂部材の上端部を該鋼材に取り付けて、階段の踏板を形成する移動踏板にかかる踏板荷重を懸垂部材の踏板受具で支持するようにしたので、懸垂部材の長さをピット内の底面まで製作する必要がなく階段の段数に応じた必要な長さだけの懸垂部材を吊り下げるように設ければよい。
すなわち、懸垂部材によって吊り構造とすることによって、部品点数を少なくかつ設置スペースを取らない簡単な小型軽量の構成として、設備費用も掛からない階段装置とすることができる。
【0009】
また、既設の車両点検用のピットにおいて、ピット床面の昇降機構だけが設置されている整備工場などにおいても、ピットコーナ枠に揚程の高さ(ピット床面の昇降機構によって下降する高さ)部分に相当する懸垂部材を装着し、さらにピット床面の一部を改造するのみで連動階段を簡単に増設可能となる。
【0010】
また、本発明において好ましくは、前記移動踏板の両端部には摺動溝が形成され、両側の懸垂部材に前記両端部の摺動溝が組み込まれて、前記移動踏板が上下移動可能とともに移動踏板を斜めにすることで両側の懸垂部材から分離可能に構成されるとよい。
このように構成することによって、移動踏板の片側を持ち上げて分解や組み立てが簡単にできるため、装置の保守点検時等に移動踏板を簡単に外すことができるようになる。
【0011】
また、本発明において好ましくは、移動踏板昇降テーブルはピット床面昇降機構を構成するピット床面部の端部に一体に形成されるとともに該ピット床面部の上面より前記移動踏板の厚さ分低く形成されているとよい。
このように構成することによって、移動踏板昇降テーブルの上面に移動踏板が載置されたときに、ピット床面部の上面と同一面を形成して平らとなるため、ピット床面昇降機構によって最上昇位置まで上昇したときには、複数の移動踏板の上面と整備工場フロアとが段差のない同一平面となり、安全に歩行できる。
【0012】
また、本発明において好ましくは、前記懸垂部材が棒状部材からなり、該棒状部材の上端部がピットコーナ枠を形成する部材に取り付けられているとよい。このように懸垂部材を棒状部材で構成することによって、移動踏板の両端部の位置を確実に固定でき、ガタなどのないしっかりした階段装置を提供できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両点検整備用のピットの上面から必要な高さの階段踏板までを懸垂部材によって吊る構造とすることによって、部品点数を少なくかつ設置スペースを取らない簡単な構成として、設備費用も掛からない車両点検整備用ピットの階段装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0015】
図1は、車両が乗り入れられる幅に整備工場内のフロア1を長方形に掘り起こした車両点検整備用のピット(以下ピットという)3が設けられて、そのピット3の平面視図を示したものである。図2は図1のA−A線断面矢視図を示し、図3は図1のB−B線断面図を示す。図3はピット床面昇降機構5によって作業位置に下降した状態を示し、図4は同様にピット床面昇降機構5によって最も上昇した状態を示している。
【0016】
図1、2においてピット3の縁には、コ字状断面の鋼材のピットコーナ枠7がフロア1に埋め込まれている。ピットコーナ枠7のコ字状の両側壁部9a、9bが上下方向に位置して、上壁部9aがフロア1面と同一面に埋設されている。コ字状の底壁部11をピット3の内側に向けて取り付けられ、該底壁部11に懸垂固定部材13が溶接固定されている。また、懸垂固定部材13は長方形状のピット3の向かい合う長辺両側のピットコーナ枠7にそれぞれ固定されている。
【0017】
図3に示すように懸垂固定部材13には懸垂部材である懸垂棒(ステンレス棒)15(15a、15b、15c、15d、15e)の上端部がそれぞれ取り付けられ、その懸垂棒15の下端部には移動踏板17(17a、17b、17c、17d、17e)の両端部が載置される水平状の踏板受具19(19a、19b、19c、19d、19e)が取り付けられている。なお、懸垂部材については懸垂棒15でなく、吊り下げることができればよいため、チェーン、ワイヤ等であってもよい。
踏板受具19の中央部に懸垂棒15の下端部が取り付けられ、懸垂棒15が階段の1段毎の間隔で懸垂固定部材13に懸垂されている。
さらに、この踏板受具19は、隣の懸垂棒15に取り付けられた踏板受具19の位置と階段の1段ごとの高さの差をもってそれぞれ取り付けられるとともに、隣り合う踏板受具19は水平方向にガタが生じないように垂直方向に配置される連結材21によって結合され、ピット3内の縦壁面3aに沿って設置される。
【0018】
図6には、移動踏板17の平面視図を示し、図5にはその移動踏板17の正面視図を示し、階段の高さにより、複数枚設定される。本実施形態においては、5枚の移動踏板17(17a、17b、17c、17d、17e)を組み合わせた例を示す。移動踏板17は同一の長方形状をし、両端部分の幅方向中央部には両端側に開口した摺動溝23がそれぞれ切り欠かれており、長方形状の長手方向中央部分は両端側部分より厚くなった踏台部25が形成されている。
摺動溝23によって、移動踏板17は懸垂棒15に沿って前後左右に対し安定して昇降でき、両端部が踏板受具19上に載置されて懸垂棒15によって吊られた状態で支持される。また、移動踏板17が上下移動可能とともに斜めにして手前に引くことで両側の懸垂棒15から分離可能であるため、移動踏板17の片側を持ち上げて分解や組み立てが簡単にでき、ピット床面昇降機構5の保守点検時等に移動踏板17を簡単に外すことができる。
【0019】
ピット床面昇降機構5は、X型のリンク機構を構成するリンク部材27、28、ピット床面を形成するピット床面部29、および油圧ユニットの油圧シリンダ31からなり、油圧シリンダ31の作動によりリンク部材27、28の立ち上がりによってピット床面部29が上昇し、リンク部材27、28の倒れによってピット床面部29が下降するようになっている。そして、ピット3内での作業時には、ピット床面部29を必要な高さに油圧シリンダ31の作動によって昇降して使用する。
【0020】
ピット床面部29の端部には、ピット床面部29と一体に移動踏板昇降テーブル33が形成される。このテーブルは1枚の平板状部材でも2本または複数本のフォーク状の爪部材でもよく、全ての移動踏板17(17a、17b、17c、17d、17e)の下面にかかる位置まで延びて形成されている。さらに、ピット床面部29の上面より移動踏板17の厚さ分Hだけ低く形成されている。
【0021】
このように構成することによって、移動踏板昇降テーブル33の上面に移動踏板17(17a、17b、17c、17d、17e)が載置されたときに、ピット床面部29の上面と移動踏板17の上面とが同一面を形成して平らとなるため、ピット床面昇降機構5によって最上昇位置まで上昇したときには、複数の移動踏板17の上面と整備工場フロア1とが段差のない同一平面となり、歩行者がつまずくことや落下することがなく安全である。
【0022】
以上のように構成された車両点検整備用ピットの階段装置において、ピット床面昇降機構5の昇降に連動して階段の形成について、図3、図4を参照して説明する。
図3は、ピット床面部29が下降して階段が形成された状態であり、図4に示す最上昇位置から、油圧シリンダ31の作動によるリンク部材27、28の回動に伴って、ピット床面部29が下降を開始すると、移動踏板昇降テーブル33の上面に載置されている移動踏板17a、17b、17c、17d、17eの摺動溝23が懸垂棒15に沿って摺動することで、それぞれの移動踏板17は昇降テーブル33とともに下降する。そして、先端側に載置されている第1移動踏板17aの両端部分が、まず、第1踏板受具19aに載置されて一段目の階段が形成され、次に、第2移動踏板17bの両端部分が、第2踏板受具19bに載置されて二段目の階段が形成されるようにして、順次階段が移動踏板昇降テーブル33の下降に伴って形成されていく。そして、図4のような作業位置にピット床面部29が位置されると、一定の階段数の階段装置が形成され、該階段を用いて、整備工場のフロア1からピット床面部29へ降りることができる。
【0023】
また、図4の下降状態から油圧シリンダ31の作動によるリンク部材27、28の回動に伴って、ピット床面部29の上昇を開始すると、前記とは逆に、第5移動踏板17eがまず移動踏板昇降テーブル33の上面に載置され、次に、移動踏板17d、次に17cと載置されて、最上昇位置において、図4に示すように5枚の移動踏板17が全て移動踏板昇降テーブル33上に載置されて移動踏板17上面と整備工場のフロア1とが段差のない同一平面となってフロア面を形成する。
【0024】
また、既設の車両点検用のピット3において、ピット床面昇降機構5だけが設置されている整備工場などにおいても、ピットコーナ枠7に揚程の高さ(ピット床面の昇降機構によって下降する高さ)部分に相当する懸垂棒15、さらに踏板受具19および複数枚の移動踏板17を用意して、ピット床面部29の端部の厚さを、移動踏板17の厚さ分Hだけ削って移動踏板昇降テーブル33を形成することによって、ピット床面昇降機構5との連動階段装置を簡単に増設できる。
【0025】
前記実施形態によれば、フロア1のピットコーナ枠7を利用して、すなわち、ピットコーナ枠7を形成する鋼材を利用して懸垂固定部材13と懸垂棒15の上端部を該鋼材に取り付けて、階段の踏板を形成する移動踏板17にかかる踏板荷重を懸垂棒15の踏板受具19で支持するようにしたので、懸垂棒15の長さをピット3内の底面50まで制作する必要がなく階段の段数に応じた必要な長さだけの懸垂棒を吊り下げるように設ければよい。
このため、部品点数を少なくかつ設置スペースを取らない簡単な小型軽量の構成として、設備費用も掛からない階段装置とすることができる。
【0026】
また、既設の車両点検用のピット3において、ピット床面昇降機構5だけが設置されている整備工場などにおいても、ピットコーナ枠7に揚程の高さ(ピット床面昇降機構5によって下降する高さ)部分に相当する懸垂棒15を装着して、ピット床面部29の先端部を一部削る等の改造をするのみで連動階段を簡単に増設可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、ピットの上面から必要な高さの階段踏板までを懸垂部材によって吊り構造とすることによって、部品点数を少なくかつ設置スペースを取らない簡単な構成とすることができるので、設備費用もかからず、車両点検整備用ピットの階段装置に適する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】フロアに形成されたピットの平面視図である。
【図2】図1のA−A線断面矢視図である。
【図3】ピット床面昇降機構が作業位置に下降した状態を示す図1のB−B線断面図である。
【図4】ピット床面昇降機構が最も上昇した状態を示す図1のB−B線断面図である。
【図5】移動踏板の正面視図である。
【図6】移動踏板の平面視図である。
【図7】従来技術を示す説明図である。
【図8】従来技術を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 フロア
3 車両点検整備用のピット(ピット)
5 ピット床面昇降機構
7 ピットコーナ枠
13 懸垂固定部材
15(15a、15b、15c、15d、15e) 懸垂棒
17(17a、17b、17c、17d、17e) 移動踏板
19(19a、19b、19c、19d、19e) 踏板受具
21 連結部材
23 摺動溝
29 ピット床面部(ピット床面)
33 移動踏板昇降テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両下部の点検整備用にフロアに設けられたピット床面への上り下りに用いられ、常時はフロアと同一平面で車両点検整備時にピット床面の下降に伴って階段となる車両点検整備用ピットの階段装置であって、
階段部分の踏板を形成する複数枚の移動踏板と、前記フロアのピットコーナ枠に上端部が取り付けられてピットの両側壁に沿って懸垂状態に支持され、階段の各段に相当する位置に前記移動踏板を支える踏板受具を設けた懸垂部材と、前記ピット床面の昇降に伴って昇降するとともに前記移動踏板の下面を下方から支持する移動踏板昇降テーブルとからなり、該移動踏板昇降テーブルは、上昇時に前記移動踏板の上面と前記フロアとが略同一面となるよう前記移動踏板を載置し、下降時に前記懸垂部材の踏板受具に前記移動踏板を載置して階段とすることを特徴とする車両点検整備用ピットの階段装置。
【請求項2】
前記移動踏板の両端部には摺動溝が形成され、両側の懸垂部材に前記両端部の摺動溝が組み込まれて、前記移動踏板が上下移動可能とともに移動踏板を斜めにすることで両側の懸垂部材から分離可能に構成されることを特徴とする請求項1記載の車両点検整備用ピットの階段装置。
【請求項3】
移動踏板昇降テーブルはピット床面昇降機構を構成するピット床面部の端部に一体に形成されるとともに該ピット床面部の上面より前記移動踏板の厚さ分低く形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両点検整備用ピットの階段装置。
【請求項4】
前記懸垂部材が棒状部材からなり、該棒状部材の上端部がピットコーナ枠を形成する部材に取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の車両点検整備用ピットの階段装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−137825(P2010−137825A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318855(P2008−318855)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000117467)安全自動車株式会社 (16)
【Fターム(参考)】