説明

車両用サスペンションアーム

【課題】必要な強度を確保しながら、部品重量を軽減可能な車両用サスペンションアームを提供する。
【解決手段】基幹部6の斜め前方に延長部7が延設されたトランスバースリンク4において、プレス成形の基本形状である板状部8を前後方向荷重の入力方向と平行に配置し、基幹部6と延長部7との連接部位であるA−A断面の車両後方側端部、即ち前後方向荷重の入力側と反対側の端部に下向きのカール部9を延設し、板状部8とカール部9との連接部10を上方の膨出することで、断面積の増大を図って強度を確保すると共に、連接部10の剪断中心を断面中心である図心と同等の高さにして前後方向荷重の入力方向と平行にする。また、少なくとも車両前方側端部、即ち前後方向荷重の入力側にはカール部が必要ないので、部品重量が軽減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられるサスペンションアームに関するものであり、特に一枚の金属板をプレス加工して成形する場合に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
このような車両用サスペンションアームとしては、例えば入力方向と平行又は略平行に配置される板状部の両端部に、略パイプ状の補強部を形成したものがある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−188022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の車両サスペンションアームでは、板状部の両端部に、パイプ状の補強部を形成しなければならないため、部品重量の面で改善の余地がある。
本発明はこれらの諸問題を解決するために開発されたものであり、部品重量を軽減できると共に、強度にも優れる車両用サスペンションアームを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記諸問題を解決するため、本発明の車両用サスペンションアームは、荷重の入力方向と平行又は略平行に板状部を配置し、この板状部の端部のうち、前記荷重の入力側と反対側の端部にのみ、断面半円弧又はコ字状のカール部を、当該板状部に連接し且つ当該板状部と一連に形成したことを特徴とするものである。また、前記板状部とカール部との連接部を、当該カール部の開放端部と逆方向に膨出するとよい。
【発明の効果】
【0005】
而して、本発明の車両用サスペンションアームによれば、荷重の入力方向と平行又は略平行に板状部を配置し、この板状部の端部のうち、前記荷重の入力側と反対側の端部にのみ、断面半円弧又はコ字状のカール部を、当該板状部に連接し且つ当該板状部と一連に形成したことにより、荷重に対する強度を確保しながら部品重量を軽減することが可能となる。また、前記板状部とカール部との連接部を、当該カール部の開放端部と逆方向に膨出することにより、サスペンションアームの剪断中心と断面中心とを含む面を、板状部に近づけることができ、これにより強度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の車両用サスペンションアームをフロントサスペンションのトランスバースリンクに適用した一実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施形態のフロントサスペンション全体の斜視図である。図中の符号1はサスペンションメンバー、符号2はショックアブソーバ及びコイルスプリングからなるストラット、符号3はスタビライザバー、符号4がトランスバースリンクである。トランスバースリンクとは、車両横方向又は斜め横方向に配設されるリンクを意味する。
【0007】
本実施形態のトランスバースリンク4は、一枚の金属板をプレス加工して成形される。前左輪用のトランスバースリンク4の平面図を図2に、そのA−A断面を図3に示す。このトランスバースリンク4は、車両前後方向に離れた二カ所の支持点21,22で車体側、即ちサスペンションメンバー1に支持され、それらの支持点から車両斜め前方に位置する連結点23で、車輪側部材であるアクスル5に連結される。全体の形状としては、平面視でくの字状に形成され、車両後方側の支持点21から車両斜め前方に長手の基幹部6と、そこから車両横方向に延設される延長部7とから構成され、基幹部6の車両前方部位を前記車両前方の支持点22で車体側、即ちサスペンションメンバー1に支持する。
【0008】
このトランスバースリンク4は、前記サスペンションメンバー1に支持される二カ所の支持点21,22並びにアクスル5に連結される連結点23、及び後述する最弱部を除き、略一様の断面をしている。この断面のうち、最も強度面で不利な断面が、図1のA−A断面となる。この種のトランスバースリンク4には、例えば突起乗り越しに伴ってアクスル連結点23から車両前後方向荷重が入力される。この荷重の入力方向は前方から後方であり、その荷重に対して、最も脆弱な断面が基幹部6と延長部7との連結部位に相当するA−A断面となるのである。
【0009】
このA−A断面に代表してトランスバースリンク4の縦断面を図3に示す。本実施形態のトランスバースリンク4は、前述のように一枚の金属板をプレス加工して成形されたものであるので、その基本形状である板状部8は、前記荷重入力方向と平行又は略平行に配置される。そして、板状部8の車両前後方向両端部のうち、車両後方側、つまり前記前後方向荷重の入力側と反対側の端部には、断面コ字状のカール部9が下向きに形成され、そのカール部9と板状部8との連接部10は、板状部8の面直方向で、且つ、当該カール部9の開放端部と逆方向、つまり上方に膨出されている。勿論、板状部8も、連接部10も、カール部9も、一枚の金属板をプレス加工して成形しているので、一連で且つ互いに連接している。なお、カール部9については、例えば断面半円弧形状であってもよい。
【0010】
また、前記板状部8の両端部のうち、車両前方側、つまり前記前後方向荷重の入力側の端部を前記連接部10と同方向、つまり上方に膨出して膨出部11を形成し、且つその端部を膨出方向と逆方向、つまり下方に曲げてフランジ部12を形成している。例えば、図3中の中央部の黒丸が図心、即ち断面の中心であるとすると、この図心から連接部10上端までの高さBは、同じく図芯から膨出部11上端までの高さCより大きい。
【0011】
図2を参照しながら、前後方向の荷重が入力されたときについて説明すると、前記基幹部6と延長部7との連接部位に相当するA−A断面では、車両後方側、つまり荷重入力側と反対側の端部に挫屈応力が集中する。従って、トランスバースリンク4の縦断面において、荷重入力側と反対側の端部の強度を高める必要がある。金属板をプレス加工してトランスバースリンク4、つまりサスペンションアームを成形する場合、強度の向上は、必要部分の断面積の増大によってなされる。そこで、本実施形態では、板状部8の両端部のうち、車両後方側、つまり前記前後方向荷重の入力側と反対側の端部に、断面コ字状のカール部9を下向きに形成し、これにより断面積を増大して強度を確保する。また、カール部9と板状部8との連接部10を上方に膨出することによっても断面積が増大し、強度が向上される。勿論、トランスバースリンク4の車両前方端部の強度も、或る程度は必要であり、そのために、当該車両前方端部に膨出部11やフランジ部12を形成して断面積を増大し、強度を向上している。
【0012】
例えば前記特許文献1に記載されるように板状部8の両端部を略パイプ状にすると、図3に破線で示すような形状になる。このうち、車両前方側、つまり荷重入力側の端部では、前記カール部9のように断面積を確保しなくとも十分な強度が得られるので、本実施形態のトランスバースリンク4では、その分だけ、断面積を減少し、その結果、部品重量を軽減することが可能となる。
【0013】
また、前記車両後方側端部に下向きのカール部9を形成すると、カール部9と板状部8との間、つまり連接部10における剪断中心が下方に下がる。そこで、本実施形態では、カール部9と板状部8との間の連接部10を上方に膨出させ、当該連接部10における剪断中心を上方に持ち上げる。すると、剪断中心と前記図心、つまり断面中心とを含む面が板状部8とに近づくので前記前後方向に荷重の入力があっても、板状部8に曲げやねじりなどの力を小さくすることができ、強度的に有利である。このとき、結果的に、前記膨出部11の高さCよりも連接部10の高さBの方が高くなるので、連接部10の断面積が増大しないように、当該連接部10の車両前後方向の幅を狭くした。また、このように連接部10の幅を狭くすることにより、当該連接部10を上方に膨出する際、剪断中心を効果的に上方に持ち上げることができる。
【0014】
また、本実施形態のトランスバースリンク4では、図2に○で囲んだ部分、つまり車両前方側端部のうち、本来、前記膨出部11及びフランジ部12がある部分をフラット、つまり板状部8と同様の平坦部とすることにより、その部分に最弱部13を形成している。前述したように、このトランスバースリンク4で、前後方向荷重に対して最も脆弱なのは基幹部6と延長部7との連接部位であるA−A断面部である。本実施形態では、前述のような構成とすることにより、通常の走行に対しては十分な強度を確保しているが、例えば過大な前後方向荷重が入力された結果、A−A断面部の車両後方側端部が挫屈すると、その挫屈部分を中心として、それより車両前方の部分が車両後方に折れ曲がり、結果的にアクスル5、即ち車輪はトーアウト方向に変位する。ところが、車輪のトーアウト方向への変位は、転舵の方向と略同じなので、一見したところではトランスバースリンク4が変形しているのか、転舵しているのかが判断できない。これは、挫屈部分がトランスバースリンク4の車両後方側端部である場合、及び車両前方側端部であっても前記前後方向入力に対して直交する部分である場合には、同様に発生する問題である。
【0015】
そこで、本実施形態では、図2に○で囲んだ部分、つまり基幹部6の前端部に設けられた支持点22のすぐ後方の車体側の側部、換言すれば前後方向荷重の入力側端部のうち、当該前後方向荷重の入力方向に対して直交でない部分に最弱部13を形成し、過大な前後方向荷重が入力したときに最弱部13で挫屈が生じるようにした。図4aは、トランスバースリンク4が変形していないときの前左輪を側方から見たときのリンク4及び車輪20の概略を示している。前述のように、過大な前後方向荷重により前記最弱部13で挫屈が生じると、図4bに示すように、最弱部13より車両前方の部分が車両後方且つ上方に変形し、その結果、アクスル5、即ち車輪はトーアウト方向と共にネガティブキャンバ方向に変位する。このようなキャンバ方向への車輪の変位は、通常の転舵では表れない車輪挙動なので、一見してトランスバースリンク4が変形しているものと判断することができる。
【0016】
このように本実施形態のトランスバースリンク4によれば、前後方向荷重の入力方向と平行又は略平行に板状部8を配置し、この板状部8の端部のうち、前後方向荷重の入力側と反対側の端部にのみ、断面半円弧又はコ字状のカール部9を、当該板状部8に連接し且つ当該板状部8と一連に形成したことにより、前後方向荷重の入力側と反対側の端部の強度を確保しながら、前後方向荷重の入力側の端部の断面積を減少し、もって部品重量を軽減することができる。
【0017】
また、板状部8とカール部9との連接部10を、当該カール部9の開放端部と逆方向に膨出したことにより、連接部10における剪断中心と断面形状の中心とを含む平面を、前後方向荷重の入力方向と平行にすることができ、これにより前後方向荷重に対する強度を向上することができる。
また、板状部8の端部のうち、前後方向荷重の入力側の端部を、連接部10と同方向に膨出して膨出部11を形成し、且つその端部を膨出方向と逆方向に曲げてフランジ部12を形成したことにより、前後方向荷重の入力側の端部の強度も或る程度確保しながら、部品重量を軽減することが可能となる。
【0018】
また、板状部8の端部のうち、前後方向荷重の入力側の端部で且つ前後方向荷重の入力方向と直交でない部位の強度を、他の部位の強度に対して低くして最弱部13を形成したことにより、過大な前後方向荷重による変形を容易に判断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の車両用サスペンションアームをトランスバースリンクに適用した一実施形態を示すサスペンション全体の斜視図である。
【図2】図1のトランスバースリンクの平面図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】図2のトランスバースリンクの作用の説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1はサスペンションメンバー
2はストラット
3はスタビライザバー
4はトランスバースリンク(車両用サスペンションアーム)
5はアクスル
6は基幹部
7は延長部
8は板状部
9はカール部
10は連接部
11は膨出部
12はフランジ部
13は最弱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷重の入力方向と平行又は略平行に板状部を配置し、この板状部の端部のうち、前記荷重の入力側と反対側の端部にのみ、断面半円弧又はコ字状のカール部を、当該板状部に連接し且つ当該板状部と一連に形成したことを特徴とする車両用サスペンションアーム。
【請求項2】
前記板状部とカール部との連接部を、前記板状部の面直方向に、且つ、当該カール部の開放端部と逆方向に膨出したことを特徴とする請求項1に記載の車両用サスペンションアーム。
【請求項3】
前記板状部の端部のうち、前記荷重の入力側の端部を、前記連接部と同方向に膨出し、且つその端部を膨出方向と逆方向に曲げたことを特徴とする請求項2に記載の車両用サスペンションアーム。
【請求項4】
前記板状部の端部のうち、前記荷重の入力側の端部で且つ荷重の入力方向と直交でない部位の強度を、他の部位の強度に対して低くして最弱部を形成したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の車両用サスペンションアーム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−27341(P2006−27341A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205838(P2004−205838)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】