説明

車両用サスペンション装置

【課題】 カバーでサスペンションアームを効果的に保護しながら、カバー自体の損傷を最小限に抑える。
【解決手段】 車輪を懸架する第2ロアアーム15の本体部下面を覆うようにカバー31を取り付けたので、縁石や飛び石との接触による第2ロアアーム15の損傷をカバー31により保護することができる。特に、カバー31を合成樹脂部材32とラバー部材33とで構成したので、弾性変形可能なラバー部材33によりカバー31が縁石や飛び石に当たった場合の損傷を最小限に抑えることができ、しかもカバー31を空気抵抗を減少させる整流部材として機能させる場合に、車速に応じた風圧でラバー部材33を変形させることで空力特性を変化させることができる。また合成樹脂部材32およびラバー部材33を重ね合わせてクリップ34で第2ロアアーム15に共締めしたので、カバー31の脱落を確実に防止しながら容易に着脱することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を懸架するサスペンションアームにカバーを取り付けた車両用サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のサスペンション装置のロアコントロールアームの基端部が車体側のブラケットに枢支される部分が目視可能であると外観が低下するため、その部分を着脱可能な合成樹脂製のサスペンションカバーで覆ったものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】実用新案登録第2522838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで上記従来のものは、サスペンションカバーがサスペンションアームの基端部だけを覆っているため、縁石や飛び石との接触からサスペンションアーム全体を効果的に保護することができず、しかもサスペンションカバー全体が合成樹脂製であるため、縁石や飛び石と接触した場合に破損し易いという問題があった。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、カバーでサスペンションアームを効果的に保護しながら、カバー自体の損傷を最小限に抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車輪を懸架するサスペンションアームにカバーを取り付けた車両用サスペンション装置において、前記サスペンションアームの本体部下面を覆うように固定されたカバーの少なくとも一部を該カバーの他の部分よりも軟質の軟質部材で構成したことを特徴とする車両用サスペンション装置が提案される。
【0006】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記カバーを合成樹脂部材および該合成樹脂部材よりも軟質のラバー部材で構成し、ラバー部材を合成樹脂部材よりも車体後方側に配置したことを特徴とする車両用サスペンション装置が提案される。
【0007】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、合成樹脂部材およびラバー部材を重ね合わせてクリップでサスペンションアームに共締めしたことを特徴とする車両用サスペンション装置が提案される。
【0008】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、合成樹脂部材にラバー部材を接着し、合成樹脂部材をクリップでサスペンションアームに固定したことを特徴とする車両用サスペンション装置が提案される。
【0009】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記カバーを軟質のラバー部材で構成してサスペンションアームに接着したことを特徴とする車両用サスペンション装置が提案される。
【0010】
尚、実施例の第2ロアアーム15は本発明のサスペンションアームに対応し、実施例のラバー部材33は本発明の軟質部材に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、車輪を懸架するサスペンションアームの本体部下面を覆うように取り付けたカバーの少なくとも一部を該カバーの他の部分よりも軟質の軟質部材で構成したので、損傷し易いサスペンションアームの下面を効果的に保護するとともに、弾性変形可能な軟質部材によりカバーが縁石や飛び石に当たった場合の損傷を最小限に抑えることができ、しかもカバーを空気抵抗を減少させる整流部材として機能させる場合に、車速に応じた風圧で軟質部材を変形させることで空力特性を変化させることができる。
【0012】
請求項2の構成によれば、カバーを合成樹脂部材および該合成樹脂部材よりも軟質のラバー部材で構成し、ラバー部材を合成樹脂部材よりも車体後方側に配置したので、車体後方側に位置することで縁石や飛び石に当たり易い部分をラバー製としてカバーの損傷を更に効果的に抑制することができる。
【0013】
請求項3の構成によれば、合成樹脂部材およびラバー部材を重ね合わせてクリップでサスペンションアームに共締めしたので、サスペンションアームからのカバーの脱落を確実に防止しながら、カバーを容易に着脱することができる。
【0014】
請求項4の構成によれば、ラバー部材を接着した合成樹脂部材をクリップでサスペンションアームに固定したので、サスペンションアームからのカバーの脱落を確実に防止しながら、カバーを容易に着脱することができる。
【0015】
請求項5の構成によれば、軟質のラバー部材よりなるカバーをサスペンションアームに接着したので、カバーのどの部分に縁石や飛び石が当たっても損傷することがなく、しかもカバーがサスペンションアームから脱落する虞もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0017】
図1〜図3は本発明の第1実施例を示すもので、図1は自動車の右前輪のサスペンション装置を斜め下方から見た図、図2は第2ロアアームおよびカバーの分解斜視図、図3は図2の2−2線断面図である。
【0018】
図1に示すように、自動車のサスペンション装置は、図示せぬ車輪を回転自在に支持するナックル10を備えており、ナックル10の上部がA型のアッパーアーム11の車幅方向外端にボールジョイント12を介して枢支されるとともに、ナックル10の下部がI型の第1ロアアーム13の車幅方向外端にボールジョイント14を介して枢支され、更にナックル10の下部がI型の第2ロアアーム15の車幅方向外端にゴムブッシュジョイント16を介して弾性支持される。またナックル10の上部に油圧ダンパー17の下端がゴムブッシュジョイント18を介して弾性支持され、この油圧ダンパー17と分離されたコイルスプリング19の下端が第1ロアアーム13の中間部に設けたばね座13aの上面に支持される。更に、スタビライザー20の左右両端部が左右のナックル10,10にそれぞれ接続される。そしてアッパーアーム11の車幅方向内端と、第1ロアアーム13の車幅方向内端と、第2ロアアーム15の車幅方向内端とが、それぞれゴムブッシュジョイント21,21;22;23を介して車体24に弾性支持される。
【0019】
図2および図3から明らかなように、断面U字状の押し出し材で構成された第2ロアアーム15は、底壁15aと、その底壁15aの両側縁から立ち上がる一対の側壁15b,15cとよりなる本体部を備えており、底壁15aに3個のクリップ孔15d…が形成される。第2ロアアーム15の下面を覆うカバー31は、合成樹脂部材32と該合成樹脂部材32よりも軟質のラバー部材33とで構成されており、ラバー部材33は第2ロアアーム15の底壁15aの下面と合成樹脂部材32の上面との間に挟まれるように配置される。
【0020】
合成樹脂部材32は、第2ロアアーム15の底壁15aから前方に突出する前半部32aと、第2ロアアーム15の底壁15aを覆って該底壁15aから僅かに後方に突出する後半部32bとを備える。断面が概ね三角形をなす前半部32aは第2ロアアーム15の前側の側壁15bを覆い、その長手方向両端に形成された係止爪32c,32cが前側の側壁15bの上縁に係合する。断面が概ね平板状をなす後半部32bは、第2ロアアーム15に向けて突出する3個のボス部32d…と、各々のボス部32d…の中心を貫通する3個のクリップ孔32e…とを備えるとともに、その車幅方向内端の後縁に台形状の切欠32fが形成される。合成樹脂部材32の車幅方向内側に重ね合わされるラバー部材33は、合成樹脂部材32の約半分の大きさを有する平板状の部材であり、その前縁寄りの位置に2個の開口33a,33aが形成される。
【0021】
しかして、カバー31を第2ロアアーム15に取り付けるには、先ず合成樹脂部材32の上面にラバー部材33を重ね合わせ、合成樹脂部材32の3個のボス部32d…のうちの2個をラバー部材33の2個の開口33a,33aに係合させて位置決めする。その結果、合成樹脂部材32の後縁とラバー部材33の後縁とが整列し、合成樹脂部材32の切欠32fからラバー部材33の一部が露出する。そして合成樹脂部材32の3個のクリップ孔32e…を上向きに貫通する3個のクリップ34…を第2ロアアーム15の3個のクリップ孔15d…に係合させることで、合成樹脂部材32およびラバー部材33を第2ロアアーム15に共締めする。
【0022】
このようにしてカバー31を第2ロアアーム15の下面に固定することで、カバー31により縁石や飛び石を遮って第2ロアアーム15を損傷から保護することができる。しかもカバー31の一部にラバー部材33が露出しているので、この部分に縁石や飛び石が接触した場合には、カバー31自体の損傷をも回避することができる。特に、ラバー部材33の中心は合成樹脂部材32の中心よりも車体後方側に位置しているので、飛び石が当たり易いカバー31の後部にラバー部材33を位置させてカバー31の損傷を一層効果的に回避することができる。
【0023】
また図3から明らかなように、第2ロアアーム15に取り付けられたカバー31は第2ロアアーム15の断面形状を流線型に近づけ、前方からの走行風の空気抵抗を減少させる整流部材としての機能を発揮することができる。しかもカバー31の下面の圧力変化により合成樹脂部材32の切欠32fから露出したラバー部材33の一部が撓み変形することで、車速に応じてカバー31の空力特性を変化させることができる。
【0024】
またサスペンション装置を組み立てるとき、合成樹脂部材32の切欠32fから露出したラバー部材33の一部を弾性変形させながら工具を挿入することができるので、カバー31を取り付けたままサスペンション装置の組み立てを行うことが可能になって作業性が向上する。
【0025】
更に、クリップ34…を用いてカバー31を第2ロアアーム15に着脱することができるので、カバー31の脱落を確実に防止することができるだけでなく、カバー31をボルトで着脱する場合に比べて着脱作業が容易であり、損傷したカバー31を交換するような場合に作業性が大幅に向上する。
【0026】
次に、図4に基づいて本発明の第2実施例を説明する。
【0027】
第1実施例では合成樹脂部材32およびラバー部材33が分離可能であったが、第2実施例はラバー部材33の前縁部に形成したスリット33bを合成樹脂部材32の後縁に嵌合させて加硫接着したものであり、合成樹脂部材32およびラバー部材33は予め一体化される。従って、クリップ34…は合成樹脂部材32のクリップ孔32e…だけを貫通して第2ロアアーム15のクリップ孔15d…に係合することになり、カバー31の着脱性が第1実施例に比べて向上する。第2実施例のその他の構成および効果は、第1実施例と同じである。
【0028】
次に、図5に基づいて本発明の第3実施例を説明する。
【0029】
第1、第2実施例のカバー31は合成樹脂部材32およびラバー部材33で構成されていたが、第3実施例のカバー31は全体がラバー製であり、第2ロアアーム15に加硫接着により固定される。この第3実施例によれば、カバー31全体がラバー製であるので縁石や飛び石に接触しても多少傷が付く程度であり、カバー31の大きな破損により第2ロアアーム15の保護機能が根本的に損なわれる虞はない。しかも合成樹脂部材32やクリップ34…が不要になるので部品点数およびコストの削減に寄与することができる。第3実施例のその他の構成および効果は、第1、第2実施例と同じである。
【0030】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0031】
例えば、実施例ではサスペンションアームとして第2ロアアーム15を例示したが、本発明は他の任意のサスペンションアームに対して適用することができる。
【0032】
また実施例では軟質部材としてラバー部材33を用いているが、ラバー部材33に代えて前記合成樹脂部材32よりも軟質の合成樹脂部材を用いても良く、また第2実施例の如く、カバー31を2種類の材料で一体的に構成する場合に、硬度の異なる材料で2色成形しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】自動車の右前輪のサスペンション装置を斜め下方から見た図
【図2】第2ロアアームおよびカバーの分解斜視図
【図3】図2の2−2線断面図
【図4】第2実施例に係る、前記図3に対応する図
【図5】第2実施例に係る、前記図3に対応する図
【符号の説明】
【0034】
15 第2ロアアーム(サスペンションアーム)
31 カバー
32 合成樹脂部材
33 ラバー部材
34 クリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を懸架するサスペンションアーム(15)にカバー(31)を取り付けた車両用サスペンション装置において、
前記サスペンションアーム(15)の本体部下面を覆うように固定されたカバー(31)の少なくとも一部を該カバー(31)の他の部分よりも軟質の軟質部材(33)で構成したことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項2】
前記カバー(31)を合成樹脂部材(32)および該合成樹脂部材(32)よりも軟質のラバー部材(33)で構成し、ラバー部材(33)を合成樹脂部材(32)よりも車体後方側に配置したことを特徴とする、請求項1に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項3】
合成樹脂部材(32)およびラバー部材(33)を重ね合わせてクリップ(34)でサスペンションアーム(15)に共締めしたことを特徴とする、請求項2に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項4】
合成樹脂部材(32)にラバー部材(33)を接着し、合成樹脂部材(32)をクリップ(34)でサスペンションアーム(15)に固定したことを特徴とする、請求項2に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項5】
前記カバー(31)を軟質のラバー部材(33)で構成してサスペンションアーム(15)に接着したことを特徴とする、請求項1に記載の車両用サスペンション装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−56463(P2006−56463A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242746(P2004−242746)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】