説明

車両用シフト切替装置

【課題】可及的に小型で応答性に優れた車両用シフト切替装置を提供する。
【解決手段】係合部材60は、アクチュエータ14による軸部材50の回転駆動によりディテント部材52と固定部材66との間で撓まされることで弾性エネルギを蓄積し得るものであり、係合部62の係合位置が第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えられる際、アクチュエータ14を駆動するための電圧が所定の閾値VTH以下である場合には、一旦係合部材60をディテント部材52と固定部材66との間で撓ませた後にその切り替えを実行するものであることから、係合部材60に蓄積された弾性エネルギを補助的に用いることで、比較的トルクが小さなアクチュエータ14であっても応答性に優れた好適なシフト切替が実現され、燃費の悪化といった新たな不具合の発生も抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のアクチュエータを介して車両のシフトレンジを切り替える車両用シフト切替装置に関し、特に、装置の小型化を実現するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載された変速機のシフトレンジを切り替える車両用シフト切替装置の一例として、その変速機のシフトレンジを電気制御により切り替えるものが知られている。斯かる技術では、例えば、運転者によるシフトレバーの操作に従ってモータ等のアクチュエータによりディテント部材を所定の軸まわりに回動させ、そのディテント部材の回動に応じてパーキングレンジと非パーキングレンジとの間のシフト切替をはじめとする変速機のシフトレンジの切替動作を実行する。
【0003】
ところで、上述のように変速機のシフトレンジを電気制御により切り替えるシフト切替装置において、バッテリの残量が少なくなりアクチュエータに十分な電力が供給されない場合には、上記ディテント部材を回動させるために必要なトルクが得られず、好適なシフト切替が行えなくなる可能性がある。斯かる不具合を解消するための技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載されたシフトバイワイヤシステムがそれである。この技術によれば、バッテリの電圧が所定値以下である場合にはエンジンのアイドル回転速度を高め、そのエンジンの回転により電源を充電することで、確実なシフト切替を実現できるとされている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−349701号公報
【0005】
しかし、前記従来の技術では、シフト切替のためにエンジンのアイドル回転速度を高める必要があり、燃費が悪化するという新たな不具合を生じさせるものであった。また、アクチュエータのトルクを高めるためには必然的に大型のアクチュエータが要求されることから搭載性が悪化したり、減速比を上げることでシフト切替の応答性が悪くなるといった弊害も指摘されていた。このため、可及的に小型で応答性に優れ且つコストの低減を可能とする車両用シフト切替装置の開発が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、可及的に小型で応答性に優れた車両用シフト切替装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、所定のアクチュエータを介して車両のシフトレンジを切り替える車両用シフト切替装置であって、前記アクチュエータにより回転駆動される軸部材と、パーキングロック位置及び非パーキングロック位置に位置決めされるための第1凹状谷部及び第2凹状谷部を有するカム面を外周縁部に備えて前記軸部材の軸心まわりに回動可能に設けられるディテント部材と、そのディテント部材のカム面に向かって付勢されてそのカム面に圧接させられると共に前記第1凹状谷部及び第2凹状谷部に選択的に係合される係合部と固定部材に固定される固定部とを両端部に備えたばね材から成る係合部材と、前記係合部の係合位置が前記第1凹状谷部から第2凹状谷部へ切り替えられる際、前記アクチュエータを駆動するために用いることが可能な電力が所定の閾値以下である場合には、一旦前記係合部材を前記ディテント部材と固定部材との間で撓ませた後にその弾性復帰力の助勢により切り替えを実行する切替制御装置とを、有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記アクチュエータにより回転駆動される軸部材と、パーキングロック位置及び非パーキングロック位置に位置決めされるための第1凹状谷部及び第2凹状谷部を有するカム面を外周縁部に備えて前記軸部材の軸心まわりに回動可能に設けられるディテント部材と、そのディテント部材のカム面に向かって付勢されてそのカム面に圧接させられると共に前記第1凹状谷部及び第2凹状谷部に選択的に係合される係合部と固定部材に固定される固定部とを両端部に備えたばね材から成る係合部材と、前記係合部の係合位置が前記第1凹状谷部から第2凹状谷部へ切り替えられる際、前記アクチュエータを駆動するために用いることが可能な電力が所定の閾値以下である場合には、一旦前記係合部材を前記ディテント部材と固定部材との間で撓ませた後にその弾性復帰力の助勢により切り替えを実行する切替制御装置とを、有するものであることから、その係合部材に蓄積された弾性エネルギを補助的に用いることで、比較的トルクが小さなアクチュエータであっても応答性に優れた好適なシフト切替が実現され、燃費の悪化といった新たな不具合の発生も抑制できる。すなわち、可及的に小型で応答性に優れた車両用シフト切替装置を提供することができる。
【0009】
ここで、好適には、前記係合部材は、前記アクチュエータによる前記軸部材の前記係合部の係合位置が前記第2凹状谷部から第1凹状谷部へ切り替えられる方向の回転駆動により、その第1凹状谷部における第2凹状谷部とは逆側の壁部に前記係合部が圧接させられることで、前記ディテント部材と固定部材との間で撓まされて弾性エネルギを蓄積するものである。このようにすれば、簡単且つ実用的な態様で前記係合部材に弾性エネルギを蓄積できる。
【0010】
また、好適には、車両の状態に応じて所定の数値範囲内で前記閾値を変更できるものである。このようにすれば、前記係合部の係合位置を前記第1凹状谷部から第2凹状谷部へ切り替えるために必要とされるトルクに関係する車両の状態に応じて前記係合部材の弾性エネルギを利用するか否かを適宜選択できる。
【0011】
また、好適には、車両の勾配を検出する勾配センサを有し、その勾配センサにより検出される車両の勾配が大きいほど前記閾値を大きく設定するものである。このようにすれば、前記係合部の係合位置を前記第1凹状谷部から第2凹状谷部へ切り替えるために必要とされるトルクに関係する車両の勾配に応じて前記係合部材の弾性エネルギを利用するか否かを適宜選択できる。
【0012】
また、好適には、車両の総重量を検出する重量センサを有し、その重量センサにより検出される車両の総重量が大きいほど前記閾値を大きく設定するものである。このようにすれば、前記係合部の係合位置を前記第1凹状谷部から第2凹状谷部へ切り替えるために必要とされるトルクに関係する車両の総重量に応じて前記係合部材の弾性エネルギを利用するか否かを適宜選択できる。
【0013】
また、好適には、車両の牽引の有無を検出する牽引センサを有し、その牽引センサにより牽引が検出される場合には牽引が無い場合よりも前記閾値を大きく設定するものである。このようにすれば、前記係合部の係合位置を前記第1凹状谷部から第2凹状谷部へ切り替えるために必要とされるトルクに関係する牽引の有無に応じて前記係合部材の弾性エネルギを利用するか否かを適宜選択できる。
【0014】
また、好適には、前記係合部の係合位置が前記第1凹状谷部から第2凹状谷部へ切り替えられる際、その時点における閾値では切り替えが行われない場合には、その閾値を大きく設定するものである。このようにすれば、確実に車両のシフトレンジを切り替えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の車両用シフト切替装置を制御するためのシフト制御システム10を例示する図である。このシフト制御システム10は、アクチュエータ14を介して本発明の一実施例である車両用シフト切替装置(以下、単にシフト切替装置という)16による車両のシフトレンジの切替を制御するパーキング制御装置(以下、P−ECUという)12と、エンコーダ18と、図示しない変速機等を含む駆動装置22の動作を制御する車両制御装置(以下、V−ECUという)20と、表示部24と、メータ26と、車両電源スイッチ28と、インジケータ32及び入力部34を有するPスイッチ30と、シフトスイッチ36と、バッテリ38と、バッテリ電圧センサ40と、勾配センサ42と、重量センサ44と、トーイングスイッチ46とを、備えて構成されている。ここで、上記駆動装置22に含まれる変速機は、有段変速機であると無段変速機であるとを問わない。
【0017】
上記P−ECU12は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、上記アクチュエータ14を介して上記シフト切替装置16により車両のシフトレンジをパーキングレンジ(以下、Pレンジという)とパーキングレンジ以外のレンジ(以下、非Pレンジという)との間で切り替えるシフト切替制御を行う。すなわち、本実施例においては、上記P−ECU12が切替制御装置として機能する。また、このP−ECU12から上記表示部24、メータ26、インジケータ32へ所定の指示信号が出力されると共に、上記エンコーダ18から上記アクチュエータ14の回転状況を表す信号が、上記バッテリ電圧センサ40からバッテリ38の電圧Vを表す信号が、上記勾配センサ42から車両の勾配φを表す信号が、重量センサ44から車両の総重量Wを表す信号が、及び上記トルーイングスイッチ46から車両の牽引の有無を表す信号がぞれぞれ上記P−ECU12に入力されるようになっている。
【0018】
前記アクチュエータ14は、好適には、スイッチトリラクタンスモータ(SRM)等の電動モータにより構成され、前記P−ECU12から供給される指示信号に応じて前記シフト切替装置16を駆動する。また、前記エンコーダ18は、前記アクチュエータ14と一体的に回転させられることでそのアクチュエータ14の回転状況を検知してその回転状況を表す信号を前記P−ECU12へ供給するものであり、好適には、A相、B相、及びZ相の信号を出力するロータリエンコーダである。前記P−ECU12は、このエンコーダ18から供給される前記アクチュエータ14の回転状況を表す信号に基づいてそのアクチュエータ14の回転駆動をフィードバック制御する。
【0019】
前記V−ECU20は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記駆動装置22を介して車両の駆動制御を行う。また、このP−ECU12から上記表示部24及びメータ26へ所定の指示信号が出力されると共に、前記車両電源スイッチ28から車両電源のオン・オフ信号が、前記Pスイッチ30の入力部34から運転者による指示信号が、前記シフトスイッチ36からシフトレンジの切替信号がぞれぞれ前記V−ECU20に入力されるようになっている。また、前記P−ECU12及びV−ECU20相互間で上記種々の信号をはじめとする情報の送受信(交換)が可能とされている。
【0020】
前記車両電源スイッチ28は、車両電源のオン・オフを切り替えるためのスイッチである。この車両電源スイッチ28が運転者等により操作されると、その操作に応じた指示信号が前記V−ECU20へ入力される。例えば、前記車両電源スイッチ28がオンとされることにより、前記バッテリ38から電力が供給されて前記シフト制御システム10が起動される。
【0021】
前記Pスイッチ30は、車両のシフトレンジをPレンジと非Pレンジとの間で切り替えるためのスイッチであり、そのPスイッチ30の状態を運転者等に示すためのインジケータ32と、運転者等の入力操作を受け付ける入力部34とを備えている。この入力部34を介して入力された運転者等からの指示は前記V−ECU20へ入力されると共に、そのV−ECU20を介して前記P−ECU12へ入力される。ここで、前記入力部34は、モーメンタリスイッチ等であっても構わない。
【0022】
前記シフトスイッチ36は、シフトレンジをドライブレンジ(D)、リバースレンジ(R)、ニュートラルレンジ(N)、ブレーキレンジ(B)等のレンジに切り替えたり、Pレンジに入れられている場合にはPレンジを解除するための操作を受け付けるスイッチである。このシフトスイッチ36が運転者等により操作されると、その操作に応じた指示信号が前記V−ECU20へ入力される。
【0023】
前記バッテリ38は、前記シフト制御システム10に電力を供給するための電源装置であり、好適には、最大12.6V程度の電圧を発生させる鉛蓄電池である。このバッテリ38は、前記アクチュエータ14を駆動するための電源として用いられる。また、前記バッテリ電圧センサ40は、例えば、前記バッテリ38の端子電圧を検出することで、そのバッテリ38により発生させられる電圧(起電力)Vを検出する。このバッテリ電圧センサ40により検出されたバッテリ38の電圧Vを表す信号は前記P−ECU12へ入力される。
【0024】
路面勾配センサ52は、例えば、車速略零時において用いられるGセンサ或いは傾斜計等から構成されるものであり、路面傾斜角θROAD或いは勾配(傾斜)φ(=tanθROAD)を検出する。この路面勾配センサ52により検出された路面傾斜角θROAD或いは勾配φを表す信号は前記P−ECU12へ入力される。
【0025】
重量センサ44は、例えば、図示しないサスペンション装置の撓み変形量等を検出する変位センサ等を介して車両の総重量Wを検出する。また、図示しないシートスイッチ等から乗員の人数を判定し、その人数に基づいて積載重量を概算してその積載重量から車両の総重量Wを算出する態様や、前記駆動装置22に備えられた図示しないエンジン及びモータジェネレータ等の作動状態と、変速機のギヤ段(変速比)や、車速変化などに基づいて、終減速装置の減速比や駆動輪の径寸法、動力伝達効率等を考慮して予め定められた演算式やマップ等に従って車両重量を算出する態様も考えられる。この重量センサ44により検出された車両の総重量Wを表す信号は前記P−ECU12へ入力される。
【0026】
トルーイングスイッチ46は、例えば、車両における牽引対象との連結部に設けられたものであり、その連結部への牽引対象の連結の有無すなわち車両の牽引の有無を検出する牽引センサとして機能する。また、上記重量センサ44により検出される車両の重量に基づいて、予め定められた判定値より大きいか否かによって牽引の有無を判定するものであってもよい。このトルーイングスイッチ46により検出された牽引の有無を表す信号は前記P−ECU12へ入力される。
【0027】
図2は、本実施例のシフト切替装置16の構成を説明する斜視図であり、図3は、そのシフト切替装置16に備えられたディテント部材52を拡大して示す図である。図2に示すように、前記シフト切替装置16は、前記アクチュエータ14により回転駆動される軸部材50と、パーキングロック位置及び非パーキングロック位置に位置決めされるための第1凹状谷部54及び第2凹状谷部56(図3を参照)を有するカム面58を外周縁部に備えて上記軸部材50の所定位置に相対回転不能に固定されると共にその軸心まわりに回動可能に設けられるディテント部材52と、そのディテント部材52のカム面58に向かって付勢されてそのカム面58に圧接させられると共に前記第1凹状谷部54及び第2凹状谷部56に選択的に係合される係合部62と、ボルト等の締着具68により固定部材66に固定される固定部64とを、両端部に備えた長手平板状のばね材から成る係合部材60とを、有している。ここで、前記アクチュエータ14の本体及び固定部材66等は、ハウジング70に固設されている。なお、上記ディテント部材52は、ディテントプレート、パーキングレバー、ディテントレバー、節度板等とも称される。また、上記係合部材60は、ディテントスプリング等とも称される。
【0028】
上記ハウジング70内には、前記駆動装置22に備えられた図示しない変速機の出力軸と差動歯車装置との間の動力伝達経路の一部を構成する図示しないカウンタ軸が設けられており、そのカウンタ軸の軸端にはパーキングロックギヤ72が固設されている。また、そのパーキングロックギヤ72の外周歯74と係合するパーキングロック位置と非パーキングロック位置とに回動させられる長手状(レバー状)のパーキングロックポール(係合爪部材)76が回動可能に設けられている。このパーキングロックポール76は、基端部がピン78によって回動可能にハウジング70に支持されており、上記外周歯74と係合するための係合歯80を長手方向の中央部に備えるとともに、後述のパーキングロックカム86に摺接させられる摺接部82を先端部に備え、図示しないリターンスプリングによって非パーキングロック位置すなわち上記外周歯74及び係合歯80が相互に係合しない位置に向かって常時付勢されている。
【0029】
基端部が前記ディテント部材52に回動可能に連結されたL字状のパーキングロッド84の先端部には、前記パーキングロックカム86が長手方向の移動可能に嵌め付けられている。このパーキングロックカム86はテーパ状カム面92を備えており、そのパーキングロッド84の先端部には、パーキングロックカム86を図示しない先端ストッパへ向かって予め設定された予荷重で付勢するコイル状の与圧ばね88が上記パーキングロッド84の先端部の所定位置に固定されたばね受90と上記パーキングロックカム86との間に介挿されている。そして、このように構成されたパーキングロッド84の先端部は、そのパーキングロッド84の長手方向(ディテント部材52に回動可能に連結されている軸方向と垂直を成す方向)の移動可能に支持され、パーキングロックカム86がパーキングロックポール76の摺接部82に対して摺動可能に移動させられるようになっている。
【0030】
前記係合部材60は、好適には、長手平板状の板ばねであり、その一端部に設けられた係合部62が前記ディテント部材52のカム面58に向かって所定の押圧力で常時付勢されてカム面58に圧接させられている。前記係合部62は、前記係合部材60の先端部においてディテント部材52の回動軸心と平行な軸心まわりの回転が可能に支持されるローラであり、これにより、基本的には、その係合部62が前記第1凹状谷部54内に落ち込むことによりディテント部材52がパーキングロック位置に位置決めされ、前記第2凹状谷部56内に落ち込むことによりディテント部材52が非パーキングロック位置に位置決めされるようになっている。
【0031】
図4は、前記シフト切替装置16において前記係合部材60の係合部62の係合位置を前記ディテント部材52の第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替える動作を説明するために、前記ディテント部材52におけるアクチュエータ14側の平面で切断してその平面に垂直な方向から視た視断面図であり、(a)は前記係合部62が第1凹状谷部54に係合されている状態を、(b)は切り替えに先立って前記係合部材60が前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓まされている状態を、(c)は前記係合部62が第2凹状谷部56に係合されている状態をそれぞれ示している。以下、この図4に基づいて前記シフト切替装置16により車両のシフトレンジをPレンジと非Pレンジとの間で切り替えるシフト切替制御について説明する。
【0032】
図4(a)に示すように、前記係合部材60の係合部62が前記ディテント部材52の第1凹状谷部54に係合されている状態では、前記パーキングロッド84が図2の矢印Aで示す方向に駆動させられ、前記パーキングロックカム86のテーパ状カム面92がパーキングロックポール76の摺接部82を持ち上げる状態とされるので、パーキングロックポール76は前記ピンを支点として図2の矢印Bに示す方向に回動させられ、その係合歯80がパーキングロックギヤ72の外周歯74と係合するパーキングロック位置(車両駆動輪の回転を機械的にロックする位置)に位置させられる。本実施例では、上記パーキングロックギヤ72およびその回転を阻止するパーキングロックポール76が、前記ディテント部材52がパーキングロック位置へ移動させられることに伴ってパーキングロッド84から与圧ばね88を介して伝達される駆動力に基づいて前記駆動装置22のカウンタ軸の回転を阻止するロック装置として機能している。
【0033】
上述した図4(a)に示す状態において、運転者により前記Pスイッチ30が操作されること等により車両のシフトレンジをPレンジから非Pレンジへ切り替える指令が前記P−ECU12に入力されると、前記係合部材60の係合部62の係合位置を前記第2凹状谷部56へ切り替えるための動作が開始される。この切替動作は、前記アクチュエータ14による前記軸部材50の回転駆動により行われる。すなわち、前記アクチュエータ14により前記軸部材50が前記係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替える方向(図4では左回り方向)に回転駆動され、前記係合部材60の係合部62が前記第2凹状谷部56内に落ち込むことによりディテント部材52が非パーキングロック位置に回動させられて図4(c)に示すような状態とされると、前記パーキングロッド84が図2の矢印Aで示す方向とは反対の方向に駆動させられ、前記パーキングロックカム86のテーパ状カム面92がパーキングロックポール76の摺接部82を持ち上げない状態とされるため、パーキングロックポール76は図示しないリターンスプリングの付勢力によって前記ピンを支点として図2の矢印Bに示す方向とは反対の方向に回動させられ、前記係合歯80とパーキングロックギヤ72の外周歯74との係合が解除されて非パーキングロック位置(ニュートラル状態や車両の走行状態などのような車両駆動輪の回転を機械的に許容する位置)に位置させられる。このようにして、車両のシフトレンジがPレンジから非Pレンジへ切り替えられる。
【0034】
ここで、本実施例の制御システム10において、前記P−ECU12は、上記制御すなわち前記係合部材60の係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替える制御に際して、前記アクチュエータ14を駆動するための電力が所定の閾値以下である場合には、図4(b)に示すように、一旦前記係合部材60を前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓ませた後にその切り替えを実行する。本実施例においては、前記アクチュエータ14を駆動するための電力に対応する値として、前記バッテリ電圧センサ40により検出される前記バッテリ38の電圧Vが所定の閾値VTH以下である場合には斯かる制御を実行する。具体的には、前記アクチュエータ14により前記軸部材50を前記係合部62の係合位置が前記第2凹状谷部56から第1凹状谷部54へ切り替えられる方向(図4では右回り方向)に回転駆動させることで、その第1凹状谷部54における第2凹状谷部56とは逆側の壁部54f(図3を参照)に前記係合部62を圧接させ、図4(b)に示すように前記係合部材60を前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓ませて弾性エネルギを蓄積させる。
【0035】
図4(b)における矢印F1は前記アクチュエータ14により与えられる前記軸部材50の軸心まわりの回転力(回転トルク)を、矢印F2は前記係合部材60に蓄積された弾性エネルギによる付勢力を、矢印F3は前記パーキングロッド84による押し戻し力をそれぞれ示している。前記アクチュエータ14の駆動により、前記軸部材50が前記係合部62の係合位置を前記第2凹状谷部56から第1凹状谷部54へ切り替える方向に回転させられると、前記係合部材60の係合部62が前記ディテント部材52の第1凹状谷部54における上記壁部54fに接触させられ、更なる前記アクチュエータ14の駆動により前記係合部62がその壁部54に圧接させられる。これにより、前記ディテント部材52から係合部材60にその長手方向への力が与えられ、その係合部材60における係合部62とは逆側の端部は前記固定部材66に固設されているため、前記係合部材60は前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓まされる。前述したように、この係合部材60は板ばね等のばね材から成るものであり、撓まされることで弾性エネルギを蓄積するものであることから、前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓まされることにより図4(b)に示すように前記ディテント部材52の第1凹状谷部54における壁部54fを押す力F2が生じる。この係合部60が壁部54fを押す力F2は、その係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替える方向にはたらく力であるため、前記アクチュエータ14により前記軸部材50を前記係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替える方向に回転駆動させる上での補助トルクとして用いることができる。なお、前記係合部材60の耐久性及び切替に要する時間等を考え、前記アクチュエータ14を駆動するための電力が所定の閾値より大きい場合には記係合部材60を前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓ませる制御は行わずに切り替えを行うのが好ましい。
【0036】
図5は、本実施例のように一旦前記係合部材60を前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓ませた後にその切り替えを実行することを前提としたアクチュエータ14及び従来の装置におけるアクチュエータの電圧とトルクの関係を比較して示す図であり、本実施例のアクチュエータ14の関係を実線で、従来の装置におけるアクチュエータの関係を一点鎖線でそれぞれ示している。この図5に示す必要トルクは、前記係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えるために必要とされるトルクであり、図に一点鎖線で示すように、従来の装置におけるアクチュエータではその必要トルクのすべてをアクチュエータ自身のトルクでまかなわねばならず、その最低保証トルクTLOW(最低保証電圧VLOWに対応)が少なくとも上記必要トルク以上でなければならなかった。一方、本実施例のように、前記係合部材60により前記ディテント部材52の第1凹状谷部54における壁部54fを押す力F2を補助トルクとして用いる態様では、前記アクチュエータ14のトルクに斯かる補助トルクを加えた値が上記必要トルク以上となれば足りる。例えば、図5では、上記従来の装置におけるアクチュエータと同じ最低保証電圧VLOWに対応する前記アクチュエータ14のトルクTLOW′と上記力F2による補助トルクとの和が上記必要トルクとなる態様を例示しており、この態様では斯かるトルクTLOW′が出力されれば図5に点線で示すように前記係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えることができるため、前記アクチュエータ14の最低保証トルクをこのトルクTLOW′とする図5に実線で示すような関係をとることができる。すなわち、本実施例のシフト切替装置16では、上記従来の装置におけるアクチュエータよりも最低保証トルクが小さい小型のアクチュエータ14を用いることが可能とされる。
【0037】
ここで、前記P−ECU12は、好適には、車両の状態に応じて所定の数値範囲内(所定の上限値を超えない範囲内)で前記閾値、すなわち前記係合部材60の係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替える制御に際して、一旦前記係合部材60を前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓ませる制御を行うか否かの判定の基準値である閾電圧VTHを変更できるものである。この車両の状態とは、前記パーキングロックカム86のテーパ状カム面92がパーキングロックポール76の摺接部82を持ち上げるために必要とされる力の大きさに関係する要素であり、以下に例をあげて説明する。
【0038】
前記P−ECU12は、好適には、前記勾配センサ42により検出される車両の勾配φに応じて前記閾電圧VTHを変更する。具体的には、図6に示すように、前記勾配センサ42により検出される車両の勾配φが大きいほど前記閾電圧VTHを大きく設定する。車両の勾配φは前記パーキングロックカム86のテーパ状カム面92がパーキングロックポール76の摺接部82を持ち上げるために必要とされる力の大きさに関係し、勾配φが大きくなるほど大きな力が必要とされる。従って、車両の勾配φが大きいほど前記係合部材60の係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えるために必要とされる前記必要トルクは大きくなる。このため、上述のように車両の勾配φが大きいほど前記閾電圧VTHを大きく設定することで、斯かる車両の勾配φにかかわらず好適なシフトレンジの切り替えが実現できる。
【0039】
また、前記P−ECU12は、好適には、前記重量センサ44により検出される車両の総重量Wに応じて前記閾電圧VTHを変更する。具体的には、図7に示すように、前記重量センサ44により検出される車両の総重量Wが大きいほど前記閾電圧VTHを大きく設定する。車両の総重量Wは前記パーキングロックカム86のテーパ状カム面92がパーキングロックポール76の摺接部82を持ち上げるために必要とされる力の大きさに関係し、総重量Wが大きくなるほど大きな力が必要とされる。従って、車両の総重量Wが大きいほど前記係合部材60の係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えるために必要とされる前記必要トルクは大きくなる。このため、上述のように車両の総重量Wが大きいほど前記閾電圧VTHを大きく設定することで、斯かる車両の総重量Wにかかわらず好適なシフトレンジの切り替えが実現できる。
【0040】
また、前記P−ECU12は、好適には、牽引センサすなわち前記トーイングスイッチ46により検出される牽引の有無に応じて前記閾電圧VTHを変更する。具体的には、図8に示すように、前記トーイングスイッチ46により牽引が検出される場合には牽引が無い場合よりも前記閾電圧VTHを例えば所定値VGAPだけ大きく設定する。牽引の有無は前記パーキングロックカム86のテーパ状カム面92がパーキングロックポール76の摺接部82を持ち上げるために必要とされる力の大きさに関係し、牽引が有る場合には牽引が無い場合よりも大きな力が必要とされる。従って、牽引が有る場合には牽引が無い場合よりも前記係合部材60の係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えるために必要とされる前記必要トルクは大きくなる。このため、上述のように牽引が有る場合には牽引が無い場合よりも前記閾電圧VTHを例えば所定値VGAPだけ大きく設定することで、斯かる牽引の有無にかかわらず好適なシフトレンジの切り替えが実現できる。
【0041】
また、前記P−ECU12は、好適には、前記係合部62の係合位置が前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えられる際、その時点における閾電圧VTHでは切り替えが行われない場合には、その閾電圧VTHを大きく設定(再設定)する。例えば、図9に示すように、切替NGとされる場合すなわち前記係合部62の前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56への係合位置の切り替えが好適に行われなかった場合には、前記閾電圧VTHを所定値ΔVずつ上げてゆく。ここで、図9に示すように、斯かる閾電圧VTHの上昇は所定の上限電圧VMAXを最高値とし、それ以下の範囲内で変化させる。また、1回でも切り替えが好適に行われなかった場合には、前記閾電圧VTHを上記上限電圧VMAXに設定する態様も考えられる。
【0042】
図10は、前記P−ECU12によるPレンジから非Pレンジへのシフト切替制御を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0043】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記Pスイッチ30の入力部34等によりシフト切替操作があったか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、その時点における車両のシフトレンジがPレンジ(パーキングレンジ)であるか否かが判断される。このS2の判断が否定される場合には、S6において、切り替えに係るシフトレンジに対応して所定のシフト切替作動ルーチンが実行された後、本ルーチンが終了させられるが、S2の判断が肯定される場合、すなわちPレンジから非Pレンジ(パーキングレンジ以外のレンジ)への切り替えであると判断される場合には、S3において、前記バッテリ電圧センサ40により検出される前記バッテリ38の電圧Vが所定の閾値VTH未満であるか否かが判断される。このS3の判断が否定される場合には、S6以下の処理が実行されるが、S3の判断が肯定される場合には、S4において、前記アクチュエータ14(モータ)の回転駆動により前記係合部62が前記第1凹状谷部54における第2凹状谷部56とは逆側の壁部54f(P壁)に圧接させられ、前記係合部材60が前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓まされる。次に、S5において、前記アクチュエータ14の回転駆動が停止してから所定時間が経過したか否かが判断される。この判断は、前記アクチュエータ14を制御するエンコーダ18の値に基づいて行われる。このS5の判断が否定される場合には、S4以下の処理が再び実行されるが、S5の判断が肯定される場合には、S6において、前記係合部材60が前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓まされることで蓄積された弾性エネルギによるトルクを補助的に用いてPレンジから非Pレンジへの切り替えを行うシフト切替作動ルーチンが実行された後、本ルーチンが終了させられる。
【0044】
図11は、図10を用いて説明した前記P−ECU12によるPレンジから非Pレンジへのシフト切替制御が少なくとも一度行われた後に実行されるシフト切替制御を説明するフローチャートであり、図10の制御と同様に所定の周期で繰り返し実行されるものである。この図11に示す制御において、上述した図10に示す制御と共通するステップについては、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0045】
図11の制御では、先ず、S7において、前述した図10の制御におけるシフト切替が不可であったか否か、すなわちPレンジから非Pレンジへのシフト切替が好適に行われなかったか否かが判断される。このS7の判断が否定される場合、すなわち図10の制御におけるシフト切替が好適に行われたと判断される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S7の判断が肯定される場合には、S8において、コイル断線等のシステム異常があるか否かが判断される。このS8の判断が肯定される場合には、S9において、前記表示部24等に異常警告が表示(出力)された後、本ルーチンが終了させられるが、S8の判断が否定される場合には、S10において、前記バッテリ電圧センサ40により検出される前記バッテリ38の電圧Vが所定の閾値VTHより大きいか否かが判断される。このS10の判断が否定される場合には、システムに何らかの異常があるとされてS9以下の処理が実行されるが、S10の判断が肯定される場合には、S11において、前記閾値VTHに所定値ΔVが加算された後、S4以下の処理が実行される。
【0046】
図12は、前記P−ECU12により図10や図11の制御と並行して実行される閾電圧の変更制御を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0047】
図12の制御では、先ず、SS1において、前記トーイングスイッチ46から供給される信号に基づいて牽引があるか否かが判断される。このSS1の判断が否定される場合には、SS3以下の処理が実行されるが、SS1の判断が肯定される場合には、前記閾電圧VTHに所定値VGAPが加算された後、SS3において、前記勾配センサ42により検出される車両の勾配φに応じて前記閾電圧VTHが補正(変更)される。次に、SS4において、前記重量センサ44により検出される車両の総重量Wに応じて前記閾電圧VTHが補正(変更)される。次に、SS5において、その時点において設定されている閾電圧VTHは所定の最大値VMAXより大きいか否かが判断される。このSS5の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、SS5の判断が肯定される場合には、SS6において、前記閾電圧VTHが最大値VMAXに設定された後、本ルーチンが終了させられる。
【0048】
このように、本実施例によれば、前記アクチュエータ14により回転駆動される軸部材50と、パーキングロック位置及び非パーキングロック位置に位置決めされるための第1凹状谷部54及び第2凹状谷部56を有するカム面58を外周縁部に備えて前記軸部材50の軸心まわりに回動可能に設けられるディテント部材52と、そのディテント部材52のカム面58に向かって付勢されてそのカム面58に圧接させられると共に前記第1凹状谷部54及び第2凹状谷部56に選択的に係合される係合部62と固定部材66に固定される固定部64とを両端部に備えたばね材から成る係合部材60と、前記係合部62の係合位置が前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えられる際、前記アクチュエータ14を駆動するために用いることが可能な電圧が所定の閾値VTH以下である場合には、一旦前記係合部材60を前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓ませた後にその弾性復帰力の助勢により切り替えを実行する切替制御装置であるP−ECU12とを、有するものであることから、その係合部材60に蓄積された弾性エネルギを補助的に用いることで、30%程度の出力の向上が見こまれ、例えば従来用いられていたアクチュエータに比べて軸寸法を15%程度低減させた比較的トルクが小さなアクチュエータ14であっても応答性に優れた好適なシフト切替が実現され、燃費の悪化といった新たな不具合の発生も抑制できる。すなわち、可及的に小型で応答性に優れた車両用シフト切替装置16を提供することができる。
【0049】
また、前記係合部材60は、前記アクチュエータ14による前記軸部材50の前記係合部62の係合位置が前記第2凹状谷部56から第1凹状谷部54へ切り替えられる方向の回転駆動により、その第1凹状谷部54における第2凹状谷部56とは逆側の壁部54fに前記係合部62が圧接させられることで、前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓まされて弾性エネルギを蓄積するものであるため、簡単且つ実用的な態様で前記係合部材60に弾性エネルギを蓄積できる。
【0050】
また、車両の状態に応じて所定の数値範囲内すなわち最大値VMAX以下の範囲内で前記閾電圧VTHを変更できるものであるため、前記係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えるために必要とされるトルクに関係する車両の状態に応じて前記係合部材60の弾性エネルギを利用するか否かを適宜選択できる。
【0051】
また、車両の勾配φを検出する勾配センサ42を有し、その勾配センサ42により検出される車両の勾配φが大きいほど前記閾電圧VTHを大きく設定するものであるため、前記係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えるために必要とされるトルクに関係する車両の勾配φに応じて前記係合部材60の弾性エネルギを利用するか否かを適宜選択できる。
【0052】
また、車両の総重量Wを検出する重量センサ44を有し、その重量センサ44により検出される車両の総重量Wが大きいほど前記閾電圧VTHを大きく設定するものであるため、前記係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えるために必要とされるトルクに関係する車両の総重量Wに応じて前記係合部材60の弾性エネルギを利用するか否かを適宜選択できる。
【0053】
また、車両の牽引の有無を検出する牽引センサとして機能するトーイングスイッチ46を有し、そのトーイングスイッチ46により牽引が検出される場合には牽引が無い場合よりも前記閾電圧VTHを大きく設定するものであるため、前記係合部62の係合位置を前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えるために必要とされるトルクに関係する牽引の有無に応じて前記係合部材60の弾性エネルギを利用するか否かを適宜選択できる。
【0054】
また、前記係合部62の係合位置が前記第1凹状谷部54から第2凹状谷部56へ切り替えられる際、その時点における閾電圧VTHでは切り替えが行われない場合には、その閾電圧VTHを大きく設定するものであるため、確実に車両のシフトレンジを切り替えられる。
【0055】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0056】
例えば、前述の実施例において、前記シフト切替装置16に適用される係合部材60は、図2及び図4等に示すように長手平板状を成す板ばねであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、図13に示すように一部が湾曲した板ばねから成る係合部材94や、図14に示すように段差が設けられた板ばねから成る係合部材96が前記シフト切替装置16に適用されても構わない。また、前記係合部材60は、必ずしも板ばねでなくともよく、例えばコイルスプリングによって一回動方向に付勢されたアームの先端に前記係合部62が回転可能に支持された構成等、前記アクチュエータ14による前記軸部材50の回転駆動により前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓まされることで弾性エネルギを蓄積し得るばね材であれば、その形態は問わない。
【0057】
また、前述の実施例において、前記シフト切替装置16に適用されるディテント部材52は、パーキングロック位置及び非パーキングロック位置に位置決めされるための第1凹状谷部54及び第2凹状谷部56を有するカム面58を外周縁部に備えたものであったが、例えば、図15に示すように、よく知られたPポジション、Rポジション、Nポジション、Dポジション、2ポジションに対応する3つ以上(図15では5つ)の凹状谷部が順次設けられたカム面58を外周縁部に備えたディテント部材98が前記シフト切替装置16に適用されても構わない。すなわち、パーキングロック位置及び非パーキングロック位置に位置決めされるための第1凹状谷部及び第2凹状谷部を有するカム面を外周縁部に備えて前記軸部材50の軸心まわりに回動可能に設けられるディテント部材であれば、その形態は問わない。
【0058】
また、前述の実施例において、前記P−ECU12は、前記バッテリ38の電圧Vを基準として、前記係合部材60を一旦前記ディテント部材52と固定部材66との間で撓ませるか否かの判定を行うものであったが、例えば、前記アクチュエータ14を駆動するための電流を検出し、その電流が所定の閾値以下であるか否かを判定の基準とするものであっても構わない。
【0059】
また、前述の実施例では、ディテント部材52をパーキングロック位置および非パーキングロック位置へ位置決めするように、その第1凹状谷部54及び第2凹状谷部56内に選択的に係合される回転可能に支持された係合ローラである係合部62が用いられていたが、必ずしも係合ローラでなくてもよく、第1凹状谷部54および第2凹状谷部56内に係合可能な凸状突起を備えた部材が用いられてもよい。
【0060】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の車両用シフト切替装置を制御するためのシフト制御システムを例示する図である。
【図2】本発明の一実施例である車両用シフト切替装置の構成を説明する斜視図である。
【図3】図2の車両用シフト切替装置に備えられたディテント部材を拡大して示す図である。
【図4】図2の車両用シフト切替装置において係合部材の係合部の係合位置をディテント部材の第1凹状谷部から第2凹状谷部へ切り替える動作を説明するための動作を説明する視断面図であり、(a)は係合部が第1凹状谷部に係合されている状態を、(b)は切り替えに先立って係合部材がディテント部材と固定部材との間で撓まされている状態を、(c)は係合部が第2凹状谷部に係合されている状態をそれぞれ示している。
【図5】図2に示す車両用シフト切替装置のように一旦係合部材をディテント部材と固定部材との間で撓ませた後にその切り替えを実行することを前提としたアクチュエータ及び従来の装置におけるアクチュエータの電圧とトルクの関係を比較して示す図であり、図2のアクチュエータの関係を実線で、従来の装置におけるアクチュエータの関係を一点鎖線でそれぞれ示している。
【図6】図1に示すパーキング制御装置により閾電圧を制御する上で予め定められた車両の勾配と閾電圧との関係を例示する図である。
【図7】図1に示すパーキング制御装置により閾電圧を制御する上で予め定められた車両の総重量と閾電圧との関係を例示する図である。
【図8】図1に示すパーキング制御装置により閾電圧を制御する上で予め定められた牽引の有無と閾電圧との関係を例示する図である。
【図9】図1に示すパーキング制御装置により閾電圧を制御する際、その時点における閾電圧では切り替えが行われない場合にその閾値を大きく設定する様子を説明する図である。
【図10】図1に示すパーキング制御装置によるPレンジから非Pレンジへのシフト切替制御を説明するフローチャートである。
【図11】図10に示すPレンジから非Pレンジへのシフト切替制御が少なくとも一度行われた後に実行される図1に示すパーキング制御装置によるシフト切替制御を説明するフローチャートである。
【図12】図10や図11の制御と並行して図1に示すパーキング制御装置により実行される閾電圧の変更制御を説明するフローチャートである。
【図13】図2の車両用シフト切替装置に適用される係合部材の他の一例を例示する図であり、図4の視断面図に相当するものである。
【図14】図2の車両用シフト切替装置に適用される係合部材の更に別の一例を例示する図であり、図4の視断面図に相当するものである。
【図15】図2の車両用シフト切替装置に適用されるディテント部材の他の一例を例示する図であり、図3に相当するものである。
【符号の説明】
【0062】
12:パーキング制御装置(切替制御装置)
14:アクチュエータ
16:車両用シフト切替装置
42:勾配センサ
44:重量センサ
46:トーイングスイッチ(牽引センサ)
50:軸部材
52、98:ディテント部材
54:第1凹状谷部
54f:壁部
56:第2凹状谷部
58:カム面
60、94、96:係合部材
62:係合部
64:固定部
66:固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のアクチュエータを介して車両のシフトレンジを切り替える車両用シフト切替装置であって、
前記アクチュエータにより回転駆動される軸部材と、
パーキングロック位置及び非パーキングロック位置に位置決めされるための第1凹状谷部及び第2凹状谷部を有するカム面を外周縁部に備えて前記軸部材の軸心まわりに回動可能に設けられるディテント部材と、
該ディテント部材のカム面に向かって付勢されて該カム面に圧接させられると共に前記第1凹状谷部及び第2凹状谷部に選択的に係合される係合部と固定部材に固定される固定部とを両端部に備えたばね材から成る係合部材と、
前記係合部の係合位置が前記第1凹状谷部から第2凹状谷部へ切り替えられる際、前記アクチュエータを駆動するために用いることが可能な電力が所定の閾値以下である場合には、一旦前記係合部材を前記ディテント部材と固定部材との間で撓ませた後にその弾性復帰力の助勢により切り替えを実行する切替制御装置と
を、有するものであることを特徴とする車両用シフト切替装置。
【請求項2】
前記係合部材は、前記アクチュエータによる前記軸部材の前記係合部の係合位置が前記第2凹状谷部から第1凹状谷部へ切り替えられる方向の回転駆動により、該第1凹状谷部における第2凹状谷部とは逆側の壁部に前記係合部が圧接させられることで、前記ディテント部材と固定部材との間で撓まされて弾性エネルギを蓄積するものである請求項1の車両用シフト切替装置。
【請求項3】
車両の状態に応じて所定の数値範囲内で前記閾値を変更できるものである請求項1又は2の車両用シフト切替装置。
【請求項4】
車両の勾配を検出する勾配センサを有し、該勾配センサにより検出される車両の勾配が大きいほど前記閾値を大きく設定するものである請求項3の車両用シフト切替装置。
【請求項5】
車両の総重量を検出する重量センサを有し、該重量センサにより検出される車両の総重量が大きいほど前記閾値を大きく設定するものである請求項3又は4の車両用シフト切替装置。
【請求項6】
車両の牽引の有無を検出する牽引センサを有し、該牽引センサにより牽引が検出される場合には牽引が無い場合よりも前記閾値を大きく設定するものである請求項3から5の何れかの車両用シフト切替装置。
【請求項7】
前記係合部の係合位置が前記第1凹状谷部から第2凹状谷部へ切り替えられる際、その時点における閾値では切り替えが行われない場合には、該閾値を大きく設定するものである請求項3から6の何れかの車両用シフト切替装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−138995(P2007−138995A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330264(P2005−330264)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】