説明

車両用シートパッド

【課題】着座時のソフト感の向上効果に優れた車両用シートパッドを提供する。
【解決手段】発泡樹脂成形体よりなる車両用シートパッド10において、パッド表面における尻下部18や腿受部20等の着座部14の少なくとも一部の領域に、複数の凹溝28を連結させて設け、これにより、複数の凸部30と、その周りに凹部32を連結させて設け、更に、凹部32の底部からパッド本体12を貫通する排気孔34を設けて、乗員の着座時に、凹部32内の空気をパッド裏面側に排気するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートパッドに関し、特にパッド表面のソフト感を向上させたシートパッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用シートにはクッション性の高い軟質ポリウレタンフォームからなるシートパッドが使用されており、これを支持フレーム上に載置するとともに、パッド表面に表皮材を被せる等して、車両用シートとして構成されている。
【0003】
このようなシートパッドにおいて、着座時のソフト感を得るために、発泡成形したポリウレタンフォームからなるパッド本体の表面に、軟らかいスラブウレタンフォームを後貼りする方法がある。しかしながら、この方法では、スラブの貼り付けにコストがかかり、また、スラブは接着剤で貼り付けるため、接着不良によるメクレ上がり等の品質不具合が発生することがある。
【0004】
下記特許文献1には、乗員と接するパッド表面に複数のスリットを設けることにより、表面のソフト感を向上させることが記載されている。下記特許文献2には、乗員当接面の少なくとも一部の領域に複数の凸部を設けることにより、また、下記特許文献3には、乗員当接面の少なくとも一部の領域に複数の凹穴を設けることにより、いずれも、表面のソフト感に優れ、乗員の支持特性も良好にすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−348629号公報
【特許文献2】特開2009−78142号公報
【特許文献3】特開2009−160371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献のようにパッド表面に凹凸を設けることにより、ある程度のソフト感を出すことはできる。しかしながら、パッド表面に形成された凹部は、表皮材を被せることにより、表皮材との間で空間部が形成されるが、上記従来の構成では、この空間部の空気を着座時に効果的に排出することができない。この空間部は、パッド本体を構成するポリウレタンウォームが連続気泡を有していることから完全に密閉された空間ではないが、上記凹凸によるソフト感効果を着座時に有効に発揮するためには、該空間部の空気を瞬時に排出する必要がある。すなわち、瞬時に排出されないと、該空間部の空気が圧縮されることで反発力が生じ、ソフト感が損なわれる。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、着座時のソフト感の向上効果に優れた車両用シートパッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両用シートパッドは、発泡樹脂成形体よりなる車両用シートパッドにおいて、パッド表面における着座部の少なくとも一部の領域に複数の凸部を形成する凹部を連結させて設け、前記凹部の底部からパッド本体を貫通して前記凹部内の空気をパッド裏面側に排気する排気孔を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ソフト感を向上させるためにパッド表面に設けた凹部にパッド本体を貫通する排気孔を設けたことにより、乗員の着座時、凹部と表皮材との間に形成された空間部の空気を排気孔を通じてパッド裏面側に排気することができる。よって、着座時のソフト感の向上効果に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施形態に係る車両用シートパッドの平面図
【図2】同シートパッドの断面図(図1のII−II線断面図)
【図3】同シートパッドの断面図(図1のIII−III線断面図)
【図4】同シートパッドの着座面付近の要部拡大断面図
【図5】同シートパッドの発泡成形型の断面図
【図6】他の実施形態に係る車両用シートパッドの平面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1〜3に示される実施形態のシートパッド10は、自動車シートにおいて、着座者である乗員の臀部を支持するためのシートクッションに用いられるパッドであり、軟質ポリウレタンフォームなどの弾力性を持つ発泡成形体からなるパッド本体12を備えてなる。
【0013】
パッド本体12は、幅方向中央の着座部14と、その左右両側において上方に隆起状に形成されたサイド部16,16とからなり、着座部14は、更に、乗員の臀部を受け止め支持する後側の尻下部18と、乗員の大腿部を受け止め支持する前側の腿受部20とを有して構成されている。
【0014】
パッド表面、即ちパッド本体12の上面には、当該パッド表面を覆う表皮材22(図4参照)を係止するため、前後方向に延びる左右一対の縦吊込み溝24,24と、幅方向に延びる横吊込み溝26とが設けられている。そして、一対の縦吊込み溝24,24よりも幅方向外側が上記サイド部16,16となり、その間が着座部14となっている。また、横吊込み26の後側が尻下部18となり、前側が腿受部20となっている。
【0015】
尻下部18の上面には、パッド表面のソフト感を向上するために複数の凹溝28が連結して設けられている。詳細には、複数の凹溝28は、各々が独立することなく、全てつながった状態に設けられている。凹溝28は、幅方向に間隔をおいて前後方向に延びる複数の縦凹溝28Aと、該縦凹溝28Aに直交するように前後方向に間隔をおいて幅方向に延びる複数の横凹溝28Bとにより格子状に形成されている。
【0016】
これにより、尻下部18の上面には、平面視矩形の凸部30が前後方向及び幅方向に並んで複数設けられるとともに、これら複数の凸部30の周りに上記凹溝28による凹部32が連結して設けられている。そして、上記凹溝28により囲まれた複数の凸部30の天井面によって、この領域での乗員当接面が形成されている。
【0017】
また、凹部32には、その底部からパッド本体12を貫通して凹部32内の空気をパッド裏面側に排気するための排気孔34が複数設けられている。排気孔34は、図4に示すように表皮材22によって上面が塞がれる凹溝28内の空間部36をパッド裏面側に連通させるための孔部であり、凹溝28の底面からパッド本体12を上下方向に貫通してパッド裏面側に開口させて設けられている。この例では、排気孔34は、断面円形状の孔であって、上記複数の凹溝28が設けられた領域における中央部に位置する凹溝部分に複数設けられている。より詳細には、3本の縦凹溝28Aのうちの中央の縦凹溝28Aにおいて前後2箇所に設けられており、そのうちの前側の排気孔34は、縦凹溝28Aと横凹溝28Bとの交差部に設けられて、排気経路を遮断されにくくしている。
【0018】
なお、特に限定するものではないが、凹溝28の深さは3〜30mmであることが好ましく、凹溝28の幅は3〜20mmであることが好ましい。また、排気孔34の断面積(空気通路の断面積)は、20〜400mmであることが好ましい。
【0019】
シートパッド10を製造するに際しては、例えば、図5に示すような発泡成形型50を用いて発泡成形することができる。
【0020】
発泡成形型50は、パッド表面側を成形する上方に開口する下型52と、パッド裏面側を成形する上型54とを備える。上型54は、下型52の一辺側に配されたヒンジ56を介して下型52に対し回動可能に設けられており、下型52の上面開口を開閉することで、下型52との間にパッド形状に対応する発泡空間であるキャビティ58を形成するように構成されている。
【0021】
下型52には、上記吊込み溝24,26を成形するための吊込み溝用突条60が設けられるとともに、該吊込み溝用突条60によって囲まれた尻下部18に対応する位置に、上記凹溝28を成形するための凹溝成形突条62が格子状に突設されている。また、上型54には、上記排気孔34を成形するための円柱状の排気孔成形突起64が設けられており、型閉め時に、該突起64の下端が、下型52に設けられた凹溝成形突条62の上面に当接することで、排気孔34が凹溝28の底面に開口した状態に成形されるよう構成されている。
【0022】
該発泡成形型50を用いて、不図示の注入装置から下型52内に発泡原料を注入し、図5に示すように型閉めして、キャビティ58内でシートパッド10を発泡成形させた後、上型54を開いて、脱型することにより、シートパッド10が得られる。得られたシートパッド10は、吊込み溝24,26を利用して、パッド表面に表皮材22を被せ、係止されることにより、車両用シートを構成することができる。
【0023】
以上よりなる本実施形態のシートパッド10であると、パッド表面に複数の凹溝28を設けて、尻下部18における乗員当接面を複数の凸部30で形成したので、このような凹溝を設けていない平坦な面で乗員を受け止める場合に比べて、パッド表面にソフト感を出すことができる。特に、本実施形態では排気孔34を設けたことにより次の作用効果が奏される。
【0024】
尻下部18に凹溝28を設けた場合、図4に示すように、凹溝28と表皮材22との間に空間部36が形成される。乗員の着座時、凹溝28によるソフト感効果を有効に発揮するためには、空間部36内の空気が圧縮されることによる反発力が生じないように、空間部36内の空気を瞬時に排出する必要がある。本実施形態のものでは、上記の排気孔34を設けたことにより、着座時、特に乗員の尻が座面に接触した当初の段階から、空間部36の空気を排気孔34を通じて瞬時にパッド裏面側に排出することができるので、排気孔を設けない場合と比べて、着座時のソフト感を格段に向上することができる。そして、尻が沈み込んでゆき、凸部30が潰れると、その下側の凹溝28のない本体部分によって乗員の尻をしっかりと受け止めることができる。
【0025】
なお、仮に排気孔34を設けずに着座時のソフト感を十分に向上しようとすると、凸部30の体積比率を小さくして、その圧縮変形による反発力を小さくしなければならない。しかしながら、凸部30の比率が小さくなると、表皮材22を被せたとしても、シートの所定の外形形状を維持することが難しく、表皮材22を介して凹凸感が現れたり、着座時の違和感が生じたりするおそれがある。本実施形態によれば、排気孔34を設けたことで、このような問題を生じることなく、ソフト感を十分に向上できる。
【0026】
また、本実施形態であると、排気孔34を格子状の凹溝28の中央部に設けており、この付近は、乗員の着座時、比較的初期にかつ高い座圧がかかりやすい部分であるので、排気孔34から効果的に空気を排出することができる。
【0027】
図6は、他の実施形態に係るシートパッド10Aを示したものである。この例では、第1に、排気孔34の配設位置が上記実施形態とは異なる。
【0028】
すなわち、この例では、排気孔34は、上記複数の凹溝28が設けられた領域における中央部に位置する凹溝部分だけでなく、該領域の周縁部に位置する凹溝部分にも設けられている。より詳細には、排気孔34は、尻下部18に設けられた3本の縦凹溝28Aのうちの中央の縦凹溝28Aに1つ設けられるとともに、左右両側の2本の縦凹溝28Aにもそれぞれ1つずつ設けられている。中央の縦凹溝28Aに設けられた排気孔34は、後部寄りに設けられている。一方、左右の縦凹溝28Aに設けられた排気孔34は、前部寄りに設けられており、かつ、縦凹溝28Aと横凹溝28Bとの交差部に設けられている。
【0029】
このように排気孔34を格子状の凹溝28の周縁部に設けた場合、該周縁部は、中央部に比べて、乗員の着座時に座圧がかかりにくく、また座圧がかかるのが遅れるので、座圧によって排気孔34が塞がれるのを回避することができる。
【0030】
また、特に、この例のように、排気孔34を上記周縁部と中央部の双方に設けておくことで、乗員の着座時、比較的初期に高い座圧がかかりやすい部分において、中央部の排気孔34からの直接的な排気を可能としながら、仮に中央部の排気孔34又はその周りの凹溝部分が塞がれたとしても、周縁部の排気孔34により排気を可能として、空間部36の空気が排出されなくなる不具合をできるだけ回避することが可能となる。
【0031】
図6に示す例では、また、尻下部18だけでなく、腿受部20にもソフト感を向上するための凹溝を設けた点で上記実施形態とは異なる。
【0032】
すなわち、この例では、腿受部20の上面にも、複数の凹溝38が連結して設けられており、凹溝38は、前後方向に延びる複数の縦凹溝38Aと、該縦凹溝38Aに直交するように幅方向に延びる複数の横凹溝38Bとにより格子状に形成されている。これにより、腿受部20の上面には、平面視矩形の凸部40が前後方向及び幅方向に並んで複数設けられるとともに、これら複数の凸部40の周りに上記凹溝38による凹部42が連結して設けられている。
【0033】
そして、この凹部42にも、尻下部18の凹部32と同様、パッド本体12を貫通する排気孔44が複数設けられており、表皮材22との間で形成される凹溝38内の空気を排気孔44を通じてパッド裏面側に排気するように構成されている。排気孔44は、尻下部18の排気孔34と同様、格子状の凹溝38の中央部だけでなく、周縁部にも設けられており、より詳細には、3本の横凹溝38Bのうちの中央の横凹溝38Bの幅方向中央に1つと、4本の縦凹溝38Aのうちの左右両側の2本の縦凹溝38Aの前端部にそれぞれ1つずつ設けられている。
【0034】
このようにソフト感を向上するための凹溝は、尻下部18だけでなく腿受部20にも設けることができ、着座時のパッド表面でのソフト感を向上することができる。また、尻下部18には設けずに、腿受部20のみに設けてもよい。更には、サイド部16にも、このようなソフト感を向上するための凹溝を設けてもよい。
【0035】
なお、上記実施形態では、格子状の凹溝28,30は、パッドの前後方向に延びる縦凹溝28A,38Aとパッドの幅方向に延びる横凹溝28B,38Bとにより構成したが、これらはパッド前後方向及び幅方向に対して傾斜した構成とすることもでき、また交差角度も直角には限られない。
【0036】
また、上記実施形態では、凹溝28,30を設けることによって、パッド表面に凸部30,40と凹部32,42を設けており、従って凸部30,40周りの凹部32,42は細長い溝状に形成されているが、このような凹溝を設けずに凸部を形成してもよい。すなわち、例えば、平面視円形の凸部を複数ランダムに配置して、凸部とその周りの連結された凹部を形成してもよく、凹部がつながっている限り、種々の変更が可能である。また、凸部の形状も、矩形、三角形、それ以外の多角形、円形、楕円形など、種々の形状が適用可能である。
【0037】
また、上記実施形態では、複数の凸部30,40がその全周にわたって凹部32,42により取り囲まれることでそれぞれ完全に分離した形態に設けられているが、本発明ではこのような形態には限られず、各凸部の周縁部の一部を繋げることにより、複数の凸部を全体として1つの連結された形態とすることもできる。また、複数の凸部としては、凹部を形成した領域を取り囲むパッド表面の周辺領域から一体に連結して形成されたものであってもよい(すなわち、ソフト感を向上させる領域の周りに位置する領域から一体に延びて形成された凸部であってもよく、凸部の全周が凹部に囲まれている必要はない)。
【0038】
また、上記実施形態では、凹溝28と排気孔44をともにパッド本体12の発泡成形時に型成形により設けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、凹溝28は発泡成形により型成形しつつ、排気孔44は発泡成形後にカッターやパンチにより形成してもよい。また、凹溝28と排気孔44ともにパッド本体12の発泡成形後にカッターなどを用いて形成することも可能である。
【0039】
更に、上記実施形態では、乗員の臀部を支持するためのシートクッションパッドに適用したが、本発明は、背もたれ部を構成するシートバックパッドに適用することもでき、その場合、シートバックパッドのパッド表面(即ち、前面)における着座部(即ち、乗員が当接する幅方向中央部)の少なくとも一部の領域に、上記実施形態と同様の凸部及び凹部と排気孔を設ければよい。その他、一々列挙しないが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
10,10A…シートパッド、 12…パッド本体、
14…着座部、 16…サイド部、
18…尻下部、 20…腿受部、
28,38…凹溝、 30,40…凸部、
32,43…凹部、 34,44…排気孔、
36…空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂成形体よりなる車両用シートパッドにおいて、
パッド表面における着座部の少なくとも一部の領域に複数の凸部を形成する凹部を連結させて設け、前記凹部の底部からパッド本体を貫通して前記凹部内の空気をパッド本体の裏面側に排気する排気孔を設けたことを特徴とする車両用シートパッド。
【請求項2】
前記凹部が、前記領域に複数の凹溝を連結させて設けることにより形成されたことを特徴とする請求項1記載の車両用シートパッド。
【請求項3】
前記複数の凹溝が格子状に設けられた請求項2に記載の車両用シートパッド。
【請求項4】
前記領域が尻下部を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用シートパッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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