説明

車両用シート

【課題】シート側方からの着座動作、シート側方への移動、のうち一つ以上が可能な車両用シートにおいて、着座するために姿勢を維持したり、身体を移動させたりするための手掛かりを供給すること、着座状態での座り心地、乗り降りする過程での座り心地を確保すること、それらの両立を外観良く達成することにある。
【解決手段】シート座面の近傍且つ着座状態の乗員から荷重を受けるシート表皮の表面上に、シート座面に沿って扁平に延出するグリップを配設している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用シートに係り、特に座る人の動作を補助するグリップ機能を備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両においては、車両用シートが設置された客室内で、乗員の乗り降り時に乗員の動作を補助するために、乗員が手で握ることができるグリップ等の補助具を、車両構成部品に設置している。
【0003】
従来、車両用シートには、シート部を左右一対の脚部にて車体フロアに立設してなる構造において、前記脚部の中間部を外方へ膨出して形成し、前記脚部をシート部の一側部の外側に立設したものがある。
シートバックのバックボードの取付構造には、シートバックの背面上部にグリップを装着し、シートバックの背面にはバックボードを取り付けたものがある。
乗降動作補助装置には、シートのサイドサポート部から大腿部を押圧することにより、膝から上の身体の重心を立ち足上方に近づける補助力を発生する補助力発生手段を備え、乗員の乗降操作パターンに応じて補助力の発生方法を変更可能なものがある。
自動車用シートには、シートサイド部に多機能アームレストユニットを回動可能に支持し、この多機能アームレストユニットの回動位置又はアタッチメントにより複数の機能を持たせ、利便性・使用性を向上するものがある。
【特許文献1】実開平2−97132号公報
【特許文献2】特開2001−252148号公報
【特許文献3】特開2002−326528号公報
【特許文献4】特開2003−182429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来、車両の客室内のグリップは、車体パネルや、この車体パネルに取付けられた部品等、機械的剛性の高い構造部材に強固に固定して設けられることが多く、その上さらに、決められた外形形状を持たせた機械的な構造を有しているため、設置できる範囲が非常に限られている。
また、グリップは、人が移動する経路付近に設けるのが一般的であるが、その人の移動や動作を妨げることがないことを優先するように配設されているので、設置できる範囲がやはり限られている。この場合、特に、小さな子供や力のない高齢者といった者等、よりニーズの高い者にとって使いづらいという矛盾が生じていた。
それに対し、吊り革の類の場合には、それ自体の形状的な剛性は高くなく、接触で不都合を生じるおそれも少ない。しかし、吊り革の類それ自体が動くので、標準的な体格の大人でも、人が移動する際の手掛かりとしては、使い勝手が良くなく、高い位置では視線に近く目障りとなるデメリットもある。例えば、吊り革の類は、動きや高さがあるので、子供や高齢者にとっては、やはり使いづらいものであった。
また、グリップを低い位置に設ける場合には、シートベルトのアンカーボルトを利用したりして、低い位置で、シートベルトのバックル等のように長く延出する紐状のグリップを設けることも考えられる。しかし、このように、長く延出する部材のグリップは、シートスライドやシートアレンジの妨げとなるおそれがあるだけでなく、そのスライドやアレンジの結果、使いづらい位置に落ちたり、動かされたりしてしまう不都合があり、さらに、放置状態の不都合も生じ、不使用時の収納、外観も考慮する必要があった。
一方、車両用シートは、シート表皮の材質や織り方を変えたり、縫製パターンを変えたりして、座り心地と意匠性を主に両立させ、肌触りや抗菌・防汚処理等で使い勝手を向上させている。そして、シート表皮が切り換えられる切換部位となる縫製部位は、凹凸が少なく、パイピング等の飾り縁があっても、凹凸が小さい。また、伸縮性の少ない材質や表皮では、小さなひだを寄せてあるものの、指先で摘むこともままならず、掴むこと等は、なお難しかった。
総じて、車両用シートにおいて、内部のシートクッション材は弾発力に富んでおり、隙間なく滑らかな形状を露呈するように作られているため、滑ってしまい、指先で摘まむこともままならず、掴むこと等は、なお難しいものである。
さらに、車両用シートの中央付近では、シートベルトを締結するシートベルトバックルやタングを通す開口孔が設けられたり、肘掛が設けられたりすることがあるが、ドア開口からは遠く離れた位置となり、乗員の乗降動作の助けにはなり難く、上手く利用できたとしても、健常者の中でも、体格や身体能力に恵まれる一部の人間に限られてしまう。
そのような部材の取り付けを利用して、上記したような紐類で延長したグリップを設けても、美観が良いとは言えず、使用後等の不使用時には、遊んでしまう頻度が多く、人が座ろうとする動作の邪魔をする可能性が、やはり高いままである。
そして、力のない高齢者では、乗り込みながら着座する動作が困難であり、シート上にはい上がったり、そのままはって移動したりしようとする。しかし、その助けとなるものが、シート上には存在しないようになっている。
結局、座りたいシート座面の周りに万人に使うことが可能な手掛かりを設けることが、最も利便性を高めたグリップであり、しかも、不使用時にも不都合を生じないことが機能として求められる。すなわち、美観を損ねない、異物感をなくして座り心地を低下させない、シートを傷めない(破損しない)等の機能を備えているが、それを感じさせないようなシートに座るためのグリップの改善が望まれていた。
【0005】
そこで、この発明の目的は、着座するために姿勢を維持したり、身体を移動させたりするための手掛かりを供給すること、着座状態での座り心地、乗り降りする過程での座り心地を確保すること、それらの両立を外観良く達成する車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、車両の客室内に設けられて乗員が着座するシートであって、シート側方からの着座動作、シート側方への移動、のうち一つ以上が可能な車両用シートにおいて、シート座面の近傍且つ着座状態の乗員から荷重を受けるシート表皮の表面上に、前記シート座面に沿って扁平に延出するグリップを配設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明の車両用シートは、美観を損うことなく、万人に手が届き易く、力もかけ易くして、利便性を高くできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明は、着座するために姿勢を維持したり、身体を移動させたりするための手掛かりを供給すること、着座状態での座り心地、乗り降りする過程での座り心地を確保すること、それらの両立を外観良く達成する目的を、シート表皮の表面上に、シート座面に沿って扁平に延出するグリップを配設して実現するものである。
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を詳細且つ具体的に説明する。
【実施例1】
【0009】
図1〜図4は、この発明の第1実施例を示すものである。
図1において、1は車両、2は客室、3は車両ボディ、4はインストルメントパネル、5は車両パネル、6は右側第1フロントピラー6Aと右側第2フロントピラー6Bとからなる右側フロントピラー、7は右側センタピラー、8は右側第1リアピラー8Aと右側第2リアピラー8Bとからなる右側リアピラー、9は右側フロントルーフサイドレール、10は右側リアルーフサイドレール、11は左側フロントシル、12は左側リアシル、13は車体フロア、14は左側リアフロア内装材、15は左側リアホイールハウスである。
客室2内には、右側且つ前側で、ステアリングホイール16を備えたステアリング装置17が設置されている。
車両ボディ3には、右側第2フロントピラー6Bと右側センタピラー7と右側フロントルーフサイドレール9との間に右側フロントドア開口18が形成され、また、右側センタピラー7と右側第1リアピラー8Aと右側リアルーフサイドレール10との間に右側リアドア開口19が形成されている。
右側フロントピラー6には、右側フロント肘掛け部20を備えた右側フロントドア21が右側フロントドア開口18を開閉可能に取り付けられる。右側センタピラー7には、右側リア肘掛け部22を備えた右側リアドア23が右側リアドア開口19を開閉可能に取り付けられる。
右側センタピラー7には、右側フロントシートベルト24が取り付けられる。右側第2リアピラー8Bには、右側リアシートベルト25が取り付けられる。
車両パネル5には、右側リアドア開口19の上方で、右側リアグリップ26が取り付けられる。
【0010】
図1に示すように、客室2内には、車両用シートとして、右側フロントヘッドレスト27を備えた右側フロントシート(運転者シート)28と、左側フロントヘッドレスト29を備えた左側フロントシート30と、右側リアヘッドレスト31を備えた右側リアシート32と、左側リアヘッドレスト33を備えた左側リアシート34とが、所定箇所に配置されている。
右側フロントシート28と左側フロントシート30と右側リアシート32と左側リアシート34とは、車両用のシートとしてほぼ同一構成を備えており、ここでは、以下の図2、図3に示すように、左側リアシート34を代表して説明する。
【0011】
図2、図3に示すように、左側リアシート34は、車両1の客室2内に設けられて乗員が着座するシートであって、シート側方からの着座動作、シート側方への移動、のうち一つ以上が可能なものである。
左側リアシート34は、車体フロア13に設置されたシートスライド機構35によって車両前後方向に所定範囲で移動可能であり、シート座部36とシート背部37とを備えている。このシート背部37は、折りたたみ用あるいはリクライニング用の右側シートヒンジ38・左側シートヒンジ39によってシート座部36に連結され、車両前後方向Xに揺動可能に設けられている。また、シート座部36の側部の取付ブラケット40には、シートベルトを締結するシートベルトバックル41が座面から上に突出可能、且つ、座面より下方に格納可能に取り付けられている。
【0012】
シート座部36は、図2に示すように、弾発力を有するシートクッション材42の表面であるシート座面43を覆うシート表皮44を設けて構成される。
また、このシート表皮44の表面45上においては、図3に示すように、シート座面43のうちシート側方からのアプローチ(図3のF方向で示す)が可能且つシート側部寄りの一定割合を占める部位を半掛けエリアS1とし、また、シート座面43上の左右対をなす乗員の臀部に対応する部位の主掛けエリアS2としている。この主掛けエリアS2は、図3に示すように、平面視で、車両前後方向Xに延びるシート中心線Cを境にして、車両幅方向(シート幅方向、荷重方向、移動方向の各種方向に該当する)Yで略対称になっている。
シートクッション材42は、ウレタンフォームが主であり、圧縮方向の荷重に対しては強いが、引き裂き方向、接着部の引き剥がし方向には脆弱である。このため、シート表皮44そのもので荷重を受け止められる場合を除き、内部のウレタンフォームに引き方向の力が加わらないようにする工夫が必要となり、それが、シート表皮44を裏側でバックアップする補強部材である。このような補強部材としては、引っ張りに強い部材であって、シートクッション材42の圧縮方向には容易にたわむ又は変形する部材が良い。例えば、ナイロンの繊帯等が考えられ、ヒップポイントから離れた位置で、構造体に固定すれば良い。
【0013】
シート座部36には、図1に示すように、シート表皮44の表面45上で、左側(図3のアプローチ方向「F」で示す)から右側へ順次に、シート表皮44の切換部位としての第1〜第3座部縫製ライン46〜48が車両前後方向Xに指向し且つ車両幅方向Yに所定間隔で並列に形成される。
また、シート背部37の表面である背当り面49には、前記第1〜第3座部縫製ライン46〜48に対応した位置で、第1〜第3背部縫製ライン50〜52が車両上下方向に指向して所定間隔で形成されている。
【0014】
そして、シート座部36において、シート座面43の近傍且つ着座状態の乗員から荷重を受けるシート表皮44の表面45上には、シート座面43に沿って扁平に延出するグリップ53を配設する。
この第1実施例においては、図1、図4に示すように、シート表皮44の縫製ラインである、例えば、第1座部縫製ライン46に沿って片持ち状となる輪状のヘミング部(折返し片、フリル等)54を設け、このヘミング部54を前記グリップ53として利用可能とする。
これにより、シート美観を損ねない、万人に手が届き易く、力もかけ易いので、利便性を高くでき、また、異物感なくして、座り心地を低下させない。
また、ヘミング部54は、図1、図4に示すように、シート座面43上の半掛けエリアS1に配設されている。車両1では、人が乗り込む一連の動作の中に、着座動作が含まれている。そして、正しい着座位置まで一気に達する場合以外では、シートに近づいた際に、一時的に腰を掛ける状態、すなわち半掛けがある。この後、室内方向への移動等を目的とし姿勢を変化するためには、半掛かりとなるものが、すぐ脇に設けられてあると、助けとなり、好ましい。これにより、万人に手が届き易く、力もかけ易いので、利便性を高くできる。
【0015】
即ち、グリップ53は、シート周りに設けるグリップ類の中でも、シート構成部品にグリップ機能が組み込まれた構造であり、特に、シート座面43に沿って設けるのに最適な、手掛かり、指掛かり等の機能を備える。
この場合、グリップ53におけるグリップ機能の手掛かりは、ドア開口から客室2の内部への乗り込み動作に伴う荷重を支えるために、車両幅方向Yに対向する向きである。特に、シート座部36の内部方向に向けて荷重を受けるようにし、人が外部方向に向けて掛ける力を十分に受けることができるようにする。
また、グリップ53のグリップ機能の手掛かりは、指先だけが掛かる程度の指掛かりでもよく、その場合、複数の指の指先が同時に掛かるように幅を持って掛けられるようにすると良く、また、当該部位の表面処理加工により滑り止め機能を果たすものとしても良い。
更に、グリップ53としてのヘミング部54は、シート表皮44と同等の布状素材により輪状に構成され、幅を有して延在するような扁平形状によって、可撓性、引っ張り荷重に対する強さ、美観を全て確保している。
また、グリップ53の手掛かり面を露出させないようにすることにより、見た目では、グリップ機能の存在を意識させないようにできる。
更に、グリップ53の延長部は、シート座部36の内部に設けられる。このグリップ53の延長部とは、グリップ機能を果たす上で、また、シート機能を損ねない上で、必要な剛性を確保するための付加的要素のことであり、単なるシート表皮44としては必要ない剛性を与える機能である。
また、輪状のヘミング部54の内部に充填材を入れ、座布団・クッション状に形成し、サポート性を向上することも可能である。シート表皮44と同種の生地によって単純に構成することも可能であるが、ヘミング部54の内部に充填材を設けることで、着座サポート機能を与えたり、触感的に安心感、豪華感を与えたりすることができる。
更に、グリップ53においては、シート表皮44の継ぎ合せ部分の縫製ラインに、一方の表皮の延長折り返し、あるいは、別布の表皮材をあてがって、ヘミング部54を設ける。このヘミング部54としては、シート表皮44の一部折返し、袋状折り返し、フリル等の各種バリエーションがある。それらのヘミング部54の幅を持たせ、摘みや易くしたり、掴み易くしたりすることができる。同時に、シート表皮44の材質によっては、外観的に豪華な印象を付加することができる。
なお、シート表皮44の強度が低い場合、縫製部分に裏から当て布をすることも可能である。この当て布は、シート表皮44と同質のものか、それより剛性の高いもの(伸びが小さいもの)が好ましい。比較して極端に強度や剛性が高いと、繰り返しによる縫製とのこすれが低いが、弱いとこすれ部分を発端として経年劣化が早くなる。縫製の糸は、シート表皮44の伸縮に追従できる材質、縫製荷重とするのが基本である。
また、シート表皮44の縫製は、多重ステッチを基本として、耐久性を確保する。シート表皮44の縫製部分のほつれを避けるため、多重ステッチが必要となるが、同時に、シート表皮44の縫製部分の破れを避けるため、シート表皮44の端縁の折り返しや、部分的な当て布等による補強が必要となる。特に、複数の表皮が集合する部分は特定の表皮が裂ける方向の荷重が、繰り返し加わることになるので、シート表皮44が主体で荷重を支持する構造の場合、特に縫製部分を強化する必要がある。また、縫製や当て布によって、局部的な荷重を分散して受けることができるようにするとより望ましい。
更に、シート座面43の車両前後方向Xの奥行きの中心付近を通る縫製ライン状のエリアでは、荷重が集中しやすく、繰り返し使われる頻度が高い。よって、荷重を分散させるように、図3の二点鎖線G1、G2で示す曲線(円弧状等)にして縫製することが、好ましい。直線状に縫製するならば、多重ステッチの数を多くしたり、ヘミング部54の幅を採るか形状を山形に変えるといった工夫をしたりすると良い。また、縫製ラインのステッチに飾りアクセントを付けても良い。
【実施例2】
【0016】
図5は、この発明の第2実施例を示すものである。
以下の実施例においては、上述の第1実施例と同一機能を果たす箇所には同一符号を付して説明する。
この第2実施例の特徴とするところは、以下の点にある。即ち、シート座部36においては、図5に示すように、シート表皮44の一部分を平面的に覆うとともに車両幅方向Y(シート幅方向)に開口55を形成する帯状部材56を設け、この帯状部材56をグリップ53として利用可能とする。この帯状部材56の前端56A及び後端56Bは、開口55を形成するように、シート表皮44に固定手段で固定される。
つまり、グリップ53は、シート表皮44を部分的に覆う帯状グリップとして機能する帯状部材56からなる。シート表皮44を部分的に覆うとは、図5に示すように、ここでは、一人当たりシート座面43の1/4−1/6程度面積を有することを指す。そして、乗員の左右の臀部のうち片側に対応させて敷設する。帯状部材56がその面積よりも小さいと、乗員との接触部分で局部的な当り感を生んでしまい、座り心地を悪くしてしまう可能性があるからである。
この第2実施例の構成によれば、シート美観を損ねない、万人に手が届き易く、力もかけ易いので、利便性を高くできる。また、異物感をなくして、座り心地を低下させない。
【実施例3】
【0017】
図6は、この発明の第3実施例を示すものである。
この第3実施例の特徴とするところは、以下の点にある。即ち、シート座部36においては、図6に示すように、シート表皮44に、シート座面43のシートクッション材42に入り込むように、第1〜第3座部縫製ライン46〜48に沿って第1〜第3条溝57〜59を形成する。第1〜第3条溝57〜59は、所定の幅W1〜W3で且つ深さD1〜D3で形成される。この場合、D1=D3、D1・D3>D2の関係がある。
そして、シートクッション材42には、第1条溝57・第2条溝58の第1縦壁60・第2縦壁61から扁平な楔状とする性状の異なる他のクッション材としての第1クッション材62・第2クッション材63を設け、第1〜第3条溝57〜59をグリップ53として利用可能とする。この場合、第1クッション材62・第2クッション材63は、シートクッション材42よりも硬質の材質によって形成される。
具体的には、図6に示すように、例えば、第1〜第3条溝57〜59は、断面U字形状であり、指先が入り易く、比較的深く、シートクッション材42としての美観に変化を与えることができる。そして、第1条溝57・第2条溝58の第1縦壁60・第2縦壁61から扁平な楔状の形状とし、やや硬質・高密度の充填材(やや硬質・高密度のウレタン)として、第1クッション材62・第2クッション材63を設ける。そして、シートクッション材42の内部且つシート表皮44近傍の剛性に方向性を持たせる、すなわち、横剛性が高く、上下方向の縦剛性は、低いようにすることができる。
この第3実施例の構成によれば、シート美観を損ねない、万人に手が届き易く、力もかけ易いので、利便性を高くできる。また、異物感をなくして、座り心地を低下させず、更に、シートを破損しない。
なお、この第3実施例においては、図7に示すように、シート座部36の平面視で、主掛けエリアS2の左側と後側と右側とに連続するU字形状の条溝64を形成するとともに、第1座部縫製ライン46に沿って扁平な断面楔状ないしL字状とする性状の異なる他のクッション材65を設ける。
これにより、シート美観を損ねない、万人に手が届き易く、力もかけ易いので、利便性を高くでき、また、異物感をなくして、座り心地を低下させない。
【実施例4】
【0018】
図8は、この発明の第4実施例を示すものである。
この第4実施例の特徴とするところは、以下の点にある。即ち、シート座面43のシートクッション材42に入り込むようなスリット66を第2座部縫製ライン47上に設け、このスリット66にシート表皮44から延出し且つシートクッション材42の裏面まで延出(貫通)する第1介在部材67・第2介在部材68を設け、スリット66及び第1介在部材67・第2介在部材68によって構成されるスリット部69を、グリップ53として利用可能とする。このスリット部69は、シート座面43上の左右対をなす乗員の臀部に対応する主掛けエリアS2の中心に配設され、通常、内部に充填されたウレタン等の弾発力によって殆ど露出しないので、美観を損ねることはない。
この第4実施例の構成によれば、美観を損ねない、万人に手が届き易く、力もかけ易いので、利便性を高くでき、また、シートを破損せず、さらに、異物感をなくして、座り心地を低下させない。
また、スリット66をシート座部36の肉厚を貫通させ、このスリット66の奥深い位置(下方)であって、シートクッション材42の中に、荷重を受けられる程度に高い剛性部材を設ける。これにより、スリット66がシート座部36の下部まで貫通するので、スリット66に入ったごみが下に抜け落ち、ゴミが溜まらない。
更に、スリット部69は、シート座面43上の左右対をなす臀部に対応する主掛けエリアS2の中心に配設される。スリット66は、その両側に均等な荷重が加わる場合、その存在があらわになることは少ないが、片方だけに荷重が加わるとあらわになり易く、その状態が長く続いたり、繰り返されたりすると、くせがつき、それが進むと、ほつれややぶれ等の破損に陥ることになる。そこで、均等に荷重をうけることができるヒップポイント、すなわち着座中心に設けられると良い。両側の臀部に対応する位置では、着座圧が最大となるが、比較的弱い荷重がかかるだけでなく、それら両側の高い圧力によって押し縮められ、着座状態では破壊しにくい。また、不使用状態では、荷重がなく破損しにくい。
なお、この第4実施例においては、図8の破線で示すように、スリット部69の近傍で段差を形成してこの中に芯材70を設けることも可能である。また、硬質のウレタン類の変わりに、帯状の芯材や、中空のチューブを入れても良い。帯状の芯材は、シートクッション材42を上下に柔らかくするように指向性を持たせて配設する。
【0019】
なお、この発明においては、上述した各実施例に限定されず、種々応用改変が可能であることは勿論である。
例えば、図9に示すように、グリップ53を、シート背部37の背当り面49に設ける。この場合、主な設置範囲をシート背部37の最も低い位置(例えば、シート背部37の高さの下から1/4の範囲)を避けた低い範囲P(例えば、斜線部分で示すように、シート背部37の高さの下から1/2−1/4の範囲)とする。このような範囲にグリップ53を配設することにより、ジュニアシートや座布団があっても使用可能となる。
【0020】
また、上記の実施例1に設けた当て布等の補強部材を、図示しないシートの構造部材に強固に支持する構造としても良い。図示しないシートの構造部材は、シートクッション材42の下側あるいは内部下側に設ける金属パイプや、シートクッション材42の下面を覆う金属製の底面パネル、あるいは樹脂製の底面カバーによって構成し、これらに補強部材を強固に固定する。帯状の布でできた補強部材を固着するだけでなく、構造部材と一体化した縦壁等の受け面等を補強部材とすることができる。表皮の強度に関わらず、表皮を介して受ける荷重を補強部材が実質的に担うので、十分な強度を確保できる。また、補強部材が露出しないので、美観を損ねることはない。
【0021】
また、図10に示すように、グリップ53を、シートクッション材42の肉厚前側(ふくらはぎ寄り)の前面部(斜線部分で示す)71に設ける。このような位置にグリップ53を配設することにより、シート表皮44上に座布団があってもグリップ53が使用可能となる。また、グリップ53が目立たないので、美観を損ねることはない。
【0022】
更に、シート座部には、シート表皮の表面を覆うように、カバー部材に設ける。つまり、シートクッション材全体を覆うシートカバーをシート外形や構造部に固定的に配設し、それにグリップを設けても良い。ここで、固定的とは、紐や挟み込み等で一般的な用いられる着脱可能な固定方法のことを指す。シートカバーを、シートクッション材の下方周辺を取り囲むよう固定することで、強固に固定し、シートカバーがグリップにかかる荷重を全体で受け止めることが可能となる。
【0023】
また、シート表皮を部分的に覆う当布状カバーを配設し、それにグリップを設けることも可能である。更に、シート背部やヘッドレストを利用してシート表皮を覆うよう設けられるカバー部材に応用しても良い。シート表皮の表面に沿うように敷設され、且つ固定されるシートクッション材、座布団類に設けるよう応用しても良い。
これらのカバー類に応用して構成する場合、カバー類をシートに固定する部材の固定部に効率的な荷重伝達が行われるようにして、カバー部材の変形を小さく抑制することが望ましい。例えば、車両幅方向で中央付近にあるシートヒンジ付近に延びる帯状部材を設ければ、シートヒンジ付近を支点として、効率的に荷重を受けることが可能となる。また、それらの固定のためにシートの脚部や、樹脂カバー等に固定用のフックや条溝等を設けてもよい。それにより、支持剛性を高めることができる。
【0024】
更にまた、車両1のフロア13の高さの違いやステップの有無に応じて、幅方向の位置を小変更することも可能である。長椅子であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0025】
シート表皮の表面上に、シート座面に沿って扁平に延出するグリップを配設することを、バス、電車等の各種車両に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施例において車両の一部斜視図である。
【図2】第1実施例において車両用シートの左側面図である。
【図3】第1実施例において車両用シートのシート座部の平面図である。
【図4】第1実施例において車両用シートのシート座部の正面図である。
【図5】第2実施例において車両用シートの斜視図である。
【図6】第3実施例において車両用シートのシート座部の正面図である。
【図7】第3実施例の変形例において車両用シートのシート座部の平面図である。
【図8】第4実施例において車両用シートのシート座部の正面図である。
【図9】この発明の第1の変形例において車両用シートの左側面図である。
【図10】この発明の第2の変形例において車両用シートの左側面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 車両
2 客室
28 右側フロントシート
30 左側フロントシート
32 右側リアシート
34 左側リアシート
36 シート座部
37 シート背部
42 シートクッション材
43 シート座面
44 シート表皮
45 シート表皮の表面
46 第1座部縫製ライン
47 第2座部縫製ライン
48 第3座部縫製ライン
53 グリップ
54 ヘミング部
55 開口
56 帯状部材
57 第1条溝
58 第2条溝
59 第3条溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の客室内に設けられて乗員が着座するシートであって、シート側方からの着座動作、シート側方への移動、のうち一つ以上が可能な車両用シートにおいて、シート座面の近傍且つ着座状態の乗員から荷重を受けるシート表皮の表面上に、前記シート座面に沿って扁平に延出するグリップを配設したことを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記シート表皮の切換部位に位置する縫製ラインに沿って片持ち状となるヘミング部を設け、このヘミング部を前記グリップとして利用可能とすることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記シート表皮の表面の一部分を平面的に覆うとともにシート幅方向に開口する帯状部材を設け、この帯状部材を前記グリップとして利用可能とすることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記シート表皮には前記シート座面のシートクッション材に入り込むような条溝を形成する一方、前記シートクッション材に前記条溝の縦壁から扁平な楔状とする性状の異なる他のクッション材を設け、前記条溝を前記グリップとして利用可能とすることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記シート座面上のうちシート側方からのアプローチが可能且つシート側部寄りの一定割合を占める部位を半掛けエリアとし、この半掛けエリアに前記グリップを配設したことを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の車両用シート。
【請求項6】
前記シート座面の前記シートクッション材に入り込むようなスリットを設け、このスリットに前記シート表皮から延出し且つ前記シートクッション材の裏面まで延出する介在部材を設け、前記スリット及び前記介在部材によって構成されるスリット部を前記グリップとして利用可能とすることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項7】
前記グリップは、前記シート座面上の左右対をなす乗員の臀部に対応する部位の主掛けエリアの中心に配設されたことを特徴とする請求項6に記載の車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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