説明

車両用シート

【課題】シートの見栄えを極力維持しつつ、表皮材一部を溝部に引込むことにある。
【解決手段】シート構成部材は、シート外形をなすクッション材4Pと、クッション材4Pに穿設されて互いに交わる複数の溝部22と、複数の溝部22が交わることで形成される角部24と、クッション材4Pを被覆可能な表皮材4Sとを有し、クッション材4Pが、角部24の外形部分から突出する突出部30を有するとともに、突出部30が、角部24の外形部分を被覆するとともに、表皮材4Sを引込む際の押圧により角部24の外形部分に向かって縮小する構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材と、クッション材と、クッション材の溝部(表皮材一部を引込み可能な部位)を備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用シートとして、シートクッションとシートバックを備えた車両用シートが公知である(特許文献1を参照)。
公知技術では、シートクッションが、シート外形をなすクッション材と、クッション材を被覆する表皮材を有する。そしてクッション材に複数の溝部(第一溝部,第二溝部)を穿設して、表皮材一部を引込み可能とする。第一溝部は、シート幅方向に延びる溝部である。また第二溝部は、シート前後方向に延びる溝部であり、第一溝部に直交状に交わることができる。
そして公知技術では、各溝部の入口部分の幅寸法を奥側よりも小さく設定して、表皮材一部の抜け外れを防止する。こうすることで複数の溝部内に、表皮材一部を安定的に係止しつつ、クッション材を表皮材で被覆する。
そしてシートクッションの表面には、表皮材の引込みによる線状模様(意匠線)が現れるなどして、意匠性に優れるシート構成となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−20636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで公知技術では、第一溝部と第二溝部が交わる箇所(角部)において、表皮材の引込みによる過度のテンション(押圧力)がかかりやすい。このため角部のクッション材が極端に押つぶされるなどして、クッション材の表皮材への反力が不足して表皮材に皺が生じたり、意匠線がぼやけたりすること(見栄えが悪化すること)があった。
本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、シートの見栄えを極力維持しつつ、表皮材一部を溝部に引込むことにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の車両用シートは、シートクッションやシートバックなどのシート構成部材を有する。
これらシート構成部材は、シート外形をなすクッション材と、クッション材に穿設されて互いに交わる複数の溝部と、複数の溝部が交わることで形成される角部と、クッション材を被覆可能な表皮材とを有する。
そして複数の溝部内に表皮材一部を引込み状に係止しつつ、クッション材を表皮材で被覆する。この種のシート構成では、シートの見栄えを極力維持しつつ、表皮材一部を溝部(特に角部)に引込めることが望ましい。
【0006】
そこで本発明では、上述のクッション材が、角部の外形部分から突出する突出部を有する。そして突出部が、角部の外形部分を被覆する(切れ目なく連続的に覆う)とともに、表皮材を引込む際の押圧により角部の外形部分に向かって縮小する構成とした。
本発明では、突出部にて、角部の外形部分を極力維持(クッション材のつぶれを極力阻止)しつつ、表皮材一部を溝部に引込むことができる。
【0007】
第2発明の車両用シートは、第1発明の車両用シートであって、クッション材と突出部が、弾性的に伸縮可能な樹脂製の一体成型品であるため、シートの製造コストの増加を抑えることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る第1発明によれば、シートの見栄えを極力維持しつつ、表皮材一部を溝部に引込むことができる。また第2発明によれば、シートの製造コストを抑えつつ、表皮材一部を見栄えよく溝部に引込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】車両用シートの斜視図である。
【図2】クッション材の上面図である。
【図3】クッション材一部の上面図であり、図2の丸で囲った部分に相当する。
【図4】(a)は、クッション材一部の上面図であり、(b)は、(a)のb−b線断面図である。
【図5】(a)は、図3のV−V線断面図であり、(b)は、(a)のクッション材に表皮材を被覆した図である。
【図6】(a)は、変形例1のクッション材一部の上面図であり、(b)は、(a)のb−b線断面図である。
【図7】(a)は、変形例2のクッション材一部の上面図であり、(b)は、(a)のb−b線断面図である。
【図8】図2のVIII−VIII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図8を参照して説明する。なお各図には、車両用シート前方に符号F、車両用シート後方に符号B、車両用シート上方に符号UP、車両用シート下方に符号DWを適宜付す。
図1の車両用シート2は、シートクッション4と、シートバック6を有する。これらシート構成部材は、各々、シート外形をなすクッション材(4P,6P)と、クッション材に被覆の表皮材(4S,6S)を有する。
【0011】
<実施例1>
本実施例のシートクッション4は、表皮材4Sと、クッション材4P(溝部21,22、角部24)と、係止構造を有する(図1及び図2を参照、各部材の詳細は後述)。
そしてクッション材4Pを表皮材4Sで被覆しつつ、複数の溝部21,22に、表皮材4S一部を引込み状に係止する。
この種のシート構成では、シートの見栄えを極力維持しつつ、表皮材4S一部を複数の溝部21,22(特に角部24)に引込めることが望ましい。
そこで本実施例では、後述の構成によって、シートの見栄えを極力維持しつつ、表皮材4S一部を複数の溝部21,22に引込むこととした。以下、各構成について詳述する。
【0012】
[表皮材]
表皮材4Sは、複数の表皮ピース(第一ピース14a,第二ピース14b,第三ピース14c、一対の第四ピース14d)と、後述の係止部42を有する(図1及び図8を参照)。
第一ピース14a〜第三ピース14cは、それぞれクッション材4P中央(後述の着座部4a)を覆う部材である。本実施例では、第一ピース14aが中央前部側、第二ピース14bが中央途中、第三ピース14cが中央後部側を被覆できる。
また一対の第四ピース14dは、それぞれクッション材4P側部(後述の土手部4b)を覆う部材である。
そして本実施例では、隣り合うピース端部をそれぞれ内折状に重ね合わせて、中表部16を形成する(図8を参照)。中表部16(表皮材一部)は、シート内方に突出して、シート幅方向又は前後方向に延びる線状となる。そして中表部16を、後述の係止構造を介して複数の溝部21,22内に吊り込み状に係止する。
【0013】
[クッション材]
クッション材4Pは、着座部4aと、一対の土手部4bと、複数の溝部21,22と、角部24と、後述の被係止部44を有する(図1、図2、図8を参照)。
着座部4aは、乗員の着座可能な平坦部位(上面視で略長方形)であり、シートクッション4中央に形成できる。また一対の土手部4bは、シートクッション4両側の凸部位であり、車両のコーナリング時などに乗員の側方を支持できる。
クッション材4Pの材質は特に限定しないが、弾性的に伸縮可能な樹脂を用いることが望ましい。この種の樹脂として、ポリウレタンフォーム(密度:10kg/m3〜60kg/m3)を用いることができる。
【0014】
(溝部)
複数の溝部(第一溝部21、第二溝部22)は、いずれも線状の凹部位であり、クッション材4Pの着座側(上面側)に穿設できる(図2及び図3を参照)。
第一溝部21は、シート幅方向に延びる凹部位であり、第二溝部22は、シート前後方向に延びる凹部位である。
本実施例では、一対の第二溝部22を、それぞれ着座部4aと土手部4bの間に形成する。つぎに一対の第一溝部21を、それぞれ着座部4aを横断して形成しつつ、同溝部両端をそれぞれ第二溝部22に連通する(後述の角部24を形成する)。
【0015】
(角部)
角部24は、第一溝部21と第二溝部22が交わることで形成される部位である(図2〜図4を参照)。
本実施例では、第二溝部22途中に第一溝部21を直交させて(T字路を形成して)、一対の角部24を、第一溝部21を挟んで対称位置に形成する。
各角部24の外形部分(上方視)は三角状であり、第一溝部21の溝部内面TSと、第二溝部22の溝部内面TSが略直角に連結する(図4(a)を参照)。また角部24の外形部分(断面視)は三角状であり、クッション材上面ISと、各溝部の溝部内面TSが略直角に連結する(図4(b)を参照)。
【0016】
(突出部)
突出部30は、角部24の外形部分(クッション材上面IS、溝部内面TS)から突出する部位であり、同部分を被覆する(切れ目なく連続的に覆う)ことができる(図3〜図5を参照)。
突出部30の突出寸法(クッション材のつぶれ見込み)は特に限定しないが、典型的に表皮材4Sのテンションに応じて適宜設定される。
本実施例では、角部24において、一対の突出部30(上方視で三角状)が対面配置するとともに、互いの頂点部分が近づきつつ第一溝部21内に突出する(T字路の中心に向かって突出する)。
【0017】
そして突出部30は、弾性的に伸縮可能であり、表皮材4Sを引込む際の押圧により角部24の外形部分に向かって縮小できる(図5を参照)。
突出部30の材質として、布帛(織物,編物,不織布)や樹脂を例示できるが、クッション材4Pと同一の材質を使用することが好ましい。本実施例では、クッション材4Pと突出部30を、ポリウレタンフォーム(弾性的に伸縮可能な樹脂)にて構成することにより、両者を一体成型品とすることができる。
【0018】
(突出部の外形形状)
突出部30の外形形状は特に限定しない。例えば本実施例の突出部30は、三角状(上方視,断面視)の外形形状を有し、切れ目なく連続する複数の辺部(31,32,33)を有する(図3及び図4を参照)。
突出部30の外形形状(上方視)は、第一辺部31と第二辺部32で形成される(図4(a)を参照)。第一辺部31は、第一溝部21(溝部内面TS)から傾斜状に突出し、第二辺部32は、第二溝部22(溝部内面TS)から傾斜状に突出する。第一辺部31と第二辺部32は、図3中のV−V線(角部を左右対称に分割する線)を挟んで軸対称に配置できる。
また突出部30の外形形状(断面視)は、第一辺部31(又は第二辺部)と第三辺部33で形成される(図4(b)を参照)。第三辺部33は、クッション材上面ISから傾斜状に突出し、第一辺部31は、第一溝部21(溝部内面TS)から平行状に突出する。そして各溝部21,22(断面視)は、突出部30によって溝幅寸法が狭小となり、中表部16の抜け外れが防止又は低減される(図5を参照)。
【0019】
(変形例1)
変形例1では、突出部30aの外形部分(上方視)が角部24の略相似形とされる(図6を参照)。
突出部30aの外形形状(上方視)は、第一辺部31aと第二辺部32aにて形成される。第一辺部31aは、第一溝部21(TS)から平行状に突出し、第二辺部32aは、第二溝部22(TS)から平行状に突出する。
また突出部30aの外形形状(断面視)は、例えば第一辺部31aと第三辺部33aで形成される。第三辺部33aは、クッション材上面ISから傾斜状に突出し、第一辺部31aは、第一溝部21(TS)の上部のみから平行状に突出する。そして各溝部21,22は下部側の溝幅寸法が広いため、後述の係止構造を配設できる。
【0020】
(変形例2)
また変形例2では、突出部30bの外形部分(上方視)が略円形状とされる(図7を参照)。
突出部30aの外形形状(上方視)は、第一辺部31bと第二辺部32bにて形成される。第一辺部31bは、第一溝部21(TS)から円弧状に突出し、第二辺部32bは、第二溝部22(TS)から円弧状に突出する。
また突出部30aの外形形状(断面視)は、例えば第一辺部31bと第三辺部33bで形成される。第三辺部33bは、クッション材上面ISから傾斜状に突出する。また第一辺部31bは、第一溝部21(TS)から平行状に突出し、下部側よりも上部側の突出寸法が大きい。そして各溝部21,22は下部側の溝幅寸法が広いため、後述の係止構造を配設できる。
【0021】
[係止構造]
係止構造は、係止部42と、被係止部44と、リング部材46を有する(図2、図3及び図8を参照)。リング部材46は、略C字状の部材であり、工具などによって閉め状態(略O字状)となる。
また係止部42は、第一ワイヤ材42aと、布材42bを有する(図8を参照)。第一ワイヤ材42a(棒状部材)は、中表部16に沿って配置可能な長さ寸法を有する。また布材42bは、中表部16に沿って配置可能な帯状部材である。
本実施例では、布材42bを内折しつつ、例えば第一ピース14aと第二ピース14bの端部(中表部16)に取付ける。そして布材42bの内部に第一ワイヤ材42aを挿入してシート幅方向に延設する。
【0022】
被係止部44は、第二ワイヤ材44aと、凹部44bを有する(図2、図3、図8を参照)。第二ワイヤ材44aは、凹部44bに配置可能な棒状部材である。また凹部44bは、各溝部21,22底面に設けた凹み箇所である。
そして第二ワイヤ材44aを第一溝部21(凹部44b)に配置して、第一ワイヤ材42aに対面可能に配置する。また第二ワイヤ材44aを第二溝部22(凹部44b)に配置して、第一ワイヤ材42aに対面可能に配置する。
【0023】
本実施例では、複数の凹部44bを、各溝部21,22内に形成できる(図2及び図3を参照)。このとき第一溝部21において、角部24の近接位置(離間寸法L1)に凹部44bを形成する。また第二溝部22において、角部24の近接位置(離間寸法L2)に凹部44bを形成する。
そして第一辺部31と第二辺部32が軸対称に配置する場合には、上述の離間寸法L1と離間寸法L2を同一に設定することが望ましい(図3及び図4を参照)。こうすることで表皮材4S引込み時において、第一辺部31と第二辺部32に対して略同一のテンションが作用することとなる。
また上述の離間寸法L1(離間寸法L2)が長くなるにつれて、突出部30の突出寸法を小さくすることができる。
【0024】
[表皮材の被覆作業]
図2〜図5及び図8を参照して、複数の溝部21,22内に中表部16を引込み状に係止しつつ、クッション材4Pを表皮材4Sで被覆する。そして中表部16(係止部42)を、リング部材46を介して被係止部44に係止するのであるが、このとき角部24に過度のテンションがかかることがある。
そこで本実施例では、突出部30が、表皮材4Sの押圧により角部24の外形部分に向かって縮小する。このため角部24におけるクッション材4Pの過度のつぶれを極力阻止しつつ、中表部16を各溝部21,22に引込むことができる(図5を参照)。
そして突出部30を切れ目なく連続的に形成したことで、シートクッション4の表面にシャープな意匠線DL(いわゆる角感のない意匠線)が形成されるなどして、意匠性に優れるシート構成となる(図1を参照)。
【0025】
以上説明したとおり本実施例では、突出部30によって、角部24におけるクッション材4Pのつぶれを極力阻止できる。
また本実施例では、クッション材4Pの大幅な設計変更を要することなく、突出部30(クッション材のつぶれ見込み)を形成できるため、各種の車両用シートに適用可能である。また本実施例によると、表皮材4Sの設計変更が不要であるため(例えば皺防止のための他部材を追加する必要がないため)、シート構成がシンプルとなる。
そして本実施例では、クッション材4Pと突出部30が、弾性的に伸縮可能な樹脂製の一体成型品である。このためシートの製造コストを抑えつつ、中表部16を見栄えよく溝部に引込むことができる。
このため本実施例によれば、シートの見栄えを極力維持しつつ、中表部16(表皮材一部)を各溝部21,22に引込むことができる。
【0026】
本実施形態の車両用シート2は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。
(1)本実施形態では、係止構造の一例を説明したが、係止構造の構成を限定する趣旨ではない。例えば係止部42と被係止部44をクリップで連結することもできる。
(2)また本実施形態では、複数の角部24の全てに突出部30を設けることができ、複数の角部24の少なくとも一つに突出部30を設けることもできる。
(3)また本実施形態では、シートクッション4を一例として説明した。本実施例の構成は、シートバック6等の各種シート構成部材に適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
2 車両用シート
4 シートクッション
6 シートバック
4S 表皮材
4P クッション材
4a 着座部
4b 土手部
16 中表部
21 第一溝部
22 第二溝部
24 角部
30 突出部
42 係止部
44 被係止部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションやシートバックなどのシート構成部材を有するとともに、前記シート構成部材が、シート外形をなすクッション材と、前記クッション材に穿設されて互いに交わる複数の溝部と、前記複数の溝部が交わることで形成される角部と、前記クッション材を被覆可能な表皮材とを有し、前記複数の溝部内に前記表皮材一部を引込み状に係止しつつ、前記クッション材を前記表皮材で被覆する構成の車両用シートにおいて、
前記クッション材が、前記角部の外形部分から突出する突出部を有し、
前記突出部が、前記角部の外形部分を被覆するとともに、前記表皮材を引込む際の押圧により前記角部の外形部分に向かって縮小する構成の車両用シート。
【請求項2】
前記クッション材と前記突出部が、弾性的に伸縮可能な樹脂製の一体成型品である請求項1に記載の車両用シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−250662(P2012−250662A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126339(P2011−126339)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】