説明

車両用シート

【課題】他の部材から落込防止機構が磁力を受けていても、落込防止機構の動作不良を生じさせることがない車両用シートを提供すること。
【解決手段】車両用シート1には、車両に後突が発生したときの乗員Mのシートバック3への沈み込み荷重によりクッションフレーム10がフロアF側に落ち込むことを防止する落込防止機構4、20が備えられている。落込防止機構4、20は、シートクッション2のクッションフレーム10に対してその幅方向を軸方向とする軸回りに回動可能に組み付けられたリンク棒20と、シートバック3の内部に組み付けられ、車両に後突が発生したときの乗員Mのシートバック3への沈み込み荷重によりリンク20棒に接続されているケーブル60を引っ張り可能な受圧装置4とから構成されている。受圧装置4により引っ張られたケーブル60はフロアF側とクッションフレーム10との隙間Sに突っ掛かるようにリンク棒20を回動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関し、詳しくは、車両に後突が発生したときの乗員のシートバックへの沈み込み荷重によりクッションフレームがフロア側に落ち込むことを防止する落込防止機構を備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シートクッションとシートバックとを備え、フロア側に対して左右に対を成す平行リンクを介してクッションフレームが昇降可能となっている車両用シートが既に知られている。このような車両用シートには、例えば、平行リンクの動きをロックするブレーキが磨耗していても、車両に後突が発生したときの乗員のシートバックへの沈み込み荷重によりクッションフレームがフロア側に落ち込むことを防止する落込防止機構が備えられている。ここで、下記特許文献1には、車両に後突が発生したときの慣性力と磁力とによりリンクの動きをロックする落込防止機構が開示されている。これにより、クッションフレームがフロア側に落ち込むことを確実に防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−52609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1の技術では、落込防止機構は、車両に後突が発生したときの慣性力と磁力とを利用して成り立っている。そのため、他の部材(落込防止機構を構成する部材以外の部材)から落込防止機構が磁力を受けていると、落込防止機構の動作不良が発生してしまうこと(クッションフレームの落ち込みを確実に防止できないこと)が考えられた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、他の部材から落込防止機構が磁力を受けていても、落込防止機構の動作不良を生じさせることがない車両用シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのものであって、以下のように構成されている。
請求項1に記載の発明は、シートクッションとシートバックとを備え、フロア側に対してリンクを介してクッションフレームが昇降可能となっており、車両に後突が発生したときの乗員のシートバックへの沈み込み荷重によりクッションフレームがフロア側に落ち込むことを防止する落込防止機構を備えた車両用シートであって、落込防止機構は、シートクッションのクッションフレームに対してその幅方向を軸方向とする軸回りに回動可能に組み付けられたリンク棒と、シートバックの内部に組み付けられ、車両に後突が発生したときの乗員のシートバックへの沈み込み荷重によりリンク棒に接続されているケーブルを引っ張り可能な受圧装置と、から構成されており、受圧装置によりケーブルが引っ張られると、引っ張られたケーブルはフロア側とクッションフレームとの隙間に突っ掛かるようにリンク棒を回動させることを特徴とする構成である。
この構成によれば、車両に後突が発生すると、フロア側とクッションフレームとの隙間にリンク棒を突っ掛えさせることができる。そのため、従来技術と同様に、クッションフレームがフロア側に落ち込むことを確実に防止できる。なお、このように防止できると、従来技術とは異なり、磁力を利用する必要がないため、例えば、他の部材から落込防止機構(受圧装置とリンク棒)が磁力を受けていても、クッションフレームがフロア側に落ち込むことを確実に防止できる。すなわち、落込防止機構の動作不良を防止できる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用シートであって、フロア側には、受圧装置がリンク棒を過剰に回動させても、この回動させたリンク棒がフロア側とクッションフレームとの隙間に突っ掛かった状態から脱することを防止するストッパが形成されていることを特徴とする構成である。
この構成によれば、リンク棒が回動するとき、回動したリンク棒がフロア側とクッションフレームとの隙間に突っ掛かった状態を越えて回動することがない。そのため、リンク棒の突っ掛かりの空振りを防止できる。したがって、クッションフレームがフロア側に落ち込むことをより確実に防止できる。すなわち、落込防止機構の動作不良をより防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の実施例に係る車両用シートの内部構造を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1の受圧装置を示す斜視図である。
【図3】図3は、図2の受圧装置の側面模式図である。
【図4】図4は、図1の車両用シートの側面模式図であり、車両に後突が発生する前の状態を示している。
【図5】図5は、図4において、車両に後突が発生した後の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜5を用いて説明する。まず、本発明の実施例に係る車両用シート1を説明する。なお、以下の説明にあたって、『車両用シート』の例として、『運転席1』を説明することとする。また、以下の説明にあたって、上、下、前、後、左、右とは、上述した図に記載した、上、下、前、後、左、右の方向、すなわち、運転席1を基準にしたときの上、下、前、後、左、右の方向を示している。
【0010】
この運転席1は、図1に示すように、主として、シートクッション2と、シートバック3とから構成されている。以下に、これらシートクッション2とシートバック3とを個別に説明していく。
【0011】
はじめに、シートクッション2から説明していく。このシートクッション2は、クッションフレーム10と、このクッションフレーム10を包み込むように組み付けられるシートクッションパッド(図示しない)と、このシートクッションパッドの表面をカバーリングする表皮(図示しない)とから構成されている。
【0012】
このクッションフレーム10は、左右のサイドフレーム12、14と、この左右のサイドフレーム12、14の前側を端渡すフロントパネル16と、この左右のサイドフレーム12、14の後側を端渡すリアロッド18とから略矩形枠状に形成されている。この左右のサイドフレーム12、14の後端には、その幅方向を軸方向とする軸回りに回動可能に左右に対を成すリンク棒20、20が組み付けられている。
【0013】
このとき、このリンク棒20、20は、運転席1の左側面視において、トーションばね(図示しない)を介して時計回り方向に付勢された状態となっている。なお、この付勢は、通常時(車両に後突が発生していないとき)、リンク棒20、20の先端が前を向いた状態(図1に示す状態)を成すように左右のサイドフレーム12、14に形成されている突起12a、14aによって規制されている。
【0014】
また、このリンク棒20、20は、後述する操作ケーブル60、60に接続されている。そのため、この操作ケーブル60、60のインナケーブル64、64からトーションばねの付勢力に抗して引っ張り力が作用すると、後述する左右のロアレール70、72と左右のサイドフレーム12、14との隙間S、Sに突っ掛かるようにリンク棒20、20を回動させることができる。シートクッション2は、このように構成されている。
【0015】
次に、シートバック3を説明する。このシートバック3は、バックフレーム30と、このバックフレーム30を包み込むように組み付けられるシートバックパッド(図示しない)と、このシートバックパッドの表面をカバーリングする表皮(図示しない)とから構成されている。
【0016】
このバックフレーム30は、左右のサイドフレーム32、34と、この左右のサイドフレーム32、34の上側を端渡すアッパフレーム36と、この左右のサイドフレーム32、34の下側を端渡すロアパネル38とから略矩形枠状に形成されている。このように形成されているバックフレーム30のロアパネル38には、受圧装置4が組み付けられている。
【0017】
ここで、図1〜3を参照して、特に、図2〜3を参照して、この受圧装置4について詳述すると、受圧装置4は、主として、ベースブラケット40と、このベースブラケット40に組み付けられる2本のリンク42、44(第1のリンク42、第2のリンク44)と、受圧板52とから構成されている。
【0018】
ベースブラケット40は、側壁40a、40aを有する溝状に形成されている支持部材である。このベースブラケット40は、その長手方向が上下方向を向くようにロアパネル38に締結されている。また、2本のリンク42、44は、車両に後突が発生したときの乗員Mのシートバック3への沈み込み荷重により後述する操作ケーブル60、60のインナケーブル64、64を引っ張る引っ張り部材である。
【0019】
この2本のリンク42、44のうち、第1のリンク42は、その一端がベースブラケット40の側壁40a、40aの下部に対して固定ローラ46aを有する固定軸46を介して枢着される格好で組み付けられている。一方、この2本のリンク42、44のうち、第2のリンク44は、その一端がベースブラケット40の側壁40a、40aの上部に形成されている長孔40b、40b対して可動ローラ50aを有する可動軸50を介して差し込まれる格好で組み付けられている。
【0020】
また、この第1のリンク42と第2のリンク44は、その両他端が受圧ローラ48aを有する受圧軸48を介して枢着される格好で組み付けられている。また、受圧板52は、車両に後突が発生したときの乗員Mのシートバック3への沈み込み荷重を受圧ローラ48aに伝達可能に形成されている伝達部材である。この受圧板52は、受圧ローラ48aの前方に配置されるように、リングR、Rを介してバックフレーム30に組み付けられているコンターマット30aに掛け留めされている(図1参照)。
【0021】
受圧装置4は、これらベースブラケット40と、2本のリンク42、44(第1のリンク42、第2のリンク44)と、受圧板52とから構成されている。このように構成されている受圧装置4と一対のリンク棒20、20とは、操作ケーブル60、60を介してそれぞれ接続されている。
【0022】
なお、これら受圧装置4と一対のリンク棒20、20とが、特許請求の範囲に記載の「落込防止機構」に相当する。この操作ケーブル60は、筒状に形成されたアウタケーブル62と、このアウタケーブル62の内部を移動可能にワイヤー状に形成されたインナケーブル64とから構成されている。
【0023】
以下、この操作ケーブル60、60の接続を詳述する。なお、この操作ケーブル60、60の接続は左右に対象であるため、左側の操作ケーブル60の接続を説明することで、右側の操作ケーブル60の接続の説明を省略することとする。この左側の操作ケーブル60のアウタケーブル62の一端は、ベースブラケット40に掛け留めされ、同他端は、シートクッション2の左のサイドフレーム12に掛け留めされている。
【0024】
一方、この左側の操作ケーブル60のインナケーブル64の一端は、固定ローラ46aの前面側、受圧ローラ48aの後面側および可動ローラ50aの前面側を巻き回してベースブラケット40に掛け留めされ(図3参照)、同他端は、左のリンク棒20の基端に掛け留めされている。シートバック3は、このように構成されている。これらシートクッション2とシートバック3とから運転席1は構成されている。
【0025】
このように構成されている運転席1は、図1に戻って、スライド装置と昇降装置とを介して車両フロアFに締結されている。このスライド装置は、公知のものであり、車両フロアFに締結され、左右に対を成すように形成されているロアレール70、72と、この左右のロアレール70、72に対してスライド可能に形成されているアッパレール74、76とから構成されている。
【0026】
この左右のロアレール70、72には、操作ケーブル60、60のインナケーブル64、64によって引っ張られるリンク棒20、20の回動を規制可能なストッパ74a、76aが形成されている。これにより、リンク棒20、20を左右のロアレール70、72と左右のサイドフレーム12、14との隙間S、Sに突っ掛かった状態を越えて回動することがないように規制できる。この記載が、特許請求の範囲に記載の「フロア側には、受圧装置がリンク棒を過剰に回動させても、この回動させたリンク棒がフロア側とクッションフレームとの隙間に突っ掛かった状態から脱することを防止するストッパが形成されている」に相当する。
【0027】
一方、この昇降装置も公知のものであり、左右のサイドフレーム12、14と左右のアッパレール74、76との間に掛け留めされ、左右に対を成す平行リンク80、80から構成されている。この平行リンク80、80記載が、特許請求の範囲に記載の「リンク」に相当する。この左右の平行リンク80、80のうちの右側のリンク80には、ハンドル(図示しない)の操作に伴って回転するピニオンギア(図示しない)に噛み合うセクタギア82が形成されている。そのため、ハンドルを操作すると、左右のアッパレール74、76に対して左右のサイドフレーム12、14を昇降できる、すなわち、車両フロアFに対して運転席1を昇降できる。
【0028】
続いて、図3〜5を参照して、上述した構成から成る運転席1の作用を説明していく。図4に示すように、運転席1に乗員Mが着座しているとき、車両に後突が発生すると、図5に示すように、乗員Mがシートバック3に沈み込む。すると、この沈み込みの荷重により受圧板52を介して受圧ローラ48aが押し込まれる。これにより、可動軸50が長孔40b、40bに沿って上昇していくため、可動ローラ50aがトーションばねの付勢力に抗して操作ケーブル60、60の両インナケーブル64、64を引っ張っていく。
【0029】
そのため、リンク棒20、20は、運転席1の左側面視において、反時計回り方向に回動していく。このように回動していくと、リンク棒20、20は、左右のロアレール70、72と左右のサイドフレーム12、14との隙間S、Sに突っ掛かる。したがって、従来技術と同様に、クッションフレーム10が車両フロアFに落ち込むことを確実に防止できる。
【0030】
本発明の実施例に係る運転席1は、上述したように構成されている。この構成によれば、車両に後突が発生すると、左右のロアレール70、72と左右のサイドフレーム12、14との隙間S、Sにリンク棒20、20を突っ掛えさせることができる。そのため、従来技術と同様に、クッションフレーム10が車両フロアFに落ち込むことを確実に防止できる。なお、このように防止できると、従来技術とは異なり、磁力を利用する必要がないため、例えば、他の部材から落込防止機構(受圧装置4と一対のリンク棒20、20)が磁力を受けていても、クッションフレーム10が車両フロアFに落ち込むことを確実に防止できる。すなわち、落込防止機構の動作不良を防止できる。
【0031】
また、この構成によれば、リンク棒20、20が回動するとき、回動したリンク棒20、20が左右のロアレール70、72と左右のサイドフレーム12、14との隙間S、Sに突っ掛かった状態を越えて回動することがない。そのため、リンク棒20、20の突っ掛かりの空振りを防止できる。したがって、クッションフレーム10が車両フロアFに落ち込むことをより確実に防止できる。すなわち、落込防止機構の動作不良をより防止できる。
【0032】
上述した内容は、あくまでも本発明の一実施の形態に関するものであって、本発明が上記内容に限定されることを意味するものではない。
実施例では、『車両用シート』の例として、『運転席1』を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、『助手席』、『後部座席』などであっても構わない。
【0033】
また、実施例では、『リンク』の例として、『平行リンク80、80』を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、『Xリンク』など車両フロアFに対して運転席1を昇降できるリンクであれば、どのようなリンクであっても構わない。
【符号の説明】
【0034】
1 運転席(車両用シート)
2 シートクッション
3 シートバック
4 受圧装置
10 クッションフレーム
20 リンク棒
60 操作ケーブル
74a ストッパ
76a ストッパ
80 平行リンク
F 車両フロア




【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションとシートバックとを備え、フロア側に対してリンクを介してクッションフレームが昇降可能となっており、車両に後突が発生したときの乗員のシートバックへの沈み込み荷重によりクッションフレームがフロア側に落ち込むことを防止する落込防止機構を備えた車両用シートであって、
落込防止機構は、
シートクッションのクッションフレームに対してその幅方向を軸方向とする軸回りに回動可能に組み付けられたリンク棒と、
シートバックの内部に組み付けられ、車両に後突が発生したときの乗員のシートバックへの沈み込み荷重によりリンク棒に接続されているケーブルを引っ張り可能な受圧装置と、から構成されており、
受圧装置によりケーブルが引っ張られると、引っ張られたケーブルはフロア側とクッションフレームとの隙間に突っ掛かるようにリンク棒を回動させることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートであって、
フロア側には、受圧装置がリンク棒を過剰に回動させても、この回動させたリンク棒がフロア側とクッションフレームとの隙間に突っ掛かった状態から脱することを防止するストッパが形成されていることを特徴とする車両用シート。








【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate