車両用スタータリングギヤ
【課題】ドライブプレートとの溶接の際に起こる外周歯の硬さ低下を抑制することができる車両用スタータリングギヤを提供する。
【解決手段】スタータリングギヤ44の内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、ドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、ドライブプレート26との溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として機能するものであって、溶接ビード92よりも周方向長さが長くなるように他方の側面90に周方向に形成された複数の周方向溝94を備えていることから、高周波焼入により硬さが高められたスタータリングギヤ44の外周歯44aが、スタータリングギヤ44とドライブプレート26との溶接時に焼きなまされることが抑制されるので、ドライブプレート26との溶接により溶接部付近の外周歯44aの硬さが低下することを抑制することができる。
【解決手段】スタータリングギヤ44の内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、ドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、ドライブプレート26との溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として機能するものであって、溶接ビード92よりも周方向長さが長くなるように他方の側面90に周方向に形成された複数の周方向溝94を備えていることから、高周波焼入により硬さが高められたスタータリングギヤ44の外周歯44aが、スタータリングギヤ44とドライブプレート26との溶接時に焼きなまされることが抑制されるので、ドライブプレート26との溶接により溶接部付近の外周歯44aの硬さが低下することを抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの始動に際して用いられる車両用スタータリングギヤに係り、特に、その車両用スタータリングギヤの外周歯の硬さ低下を抑制するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外周歯を有して円環状を成し、エンジンと共に回転する円板状部材の外周面に嵌合された状態でその円板状部材との間で複数箇所が溶接され、前記エンジンを始動するために、前記外周歯と噛合可能なピニオンギヤを有するスタータモータにより回転駆動される車両用スタータリングギヤが知られている。たとえば、特許文献1および2に記載されたものがそれである。特許文献1のスタータリングギヤは、エンジンと共に回転する円板状部材としてのトルクコンバータのカバーに溶接されている。また、特許文献2のスタータリングギヤは、たとえばトルクコンバータのカバーに固定される、エンジンと共に回転する円板状部材としての円板状のドライブプレートに溶接されている。
【0003】
上記車両用スタータリングギヤは、たとえば、棒状の引抜材が円環状に曲成され、その端面同士が互いに突き合わされた状態で溶接されることで円環状部材が形成され、その円環状部材の外周面にホブ等の歯切工具が用いられて外周歯が形成され、その外周歯に高周波焼入や浸炭焼入などが施されることによって、製作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−13852号公報
【特許文献2】特開平3−99788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の車両用スタータリングギヤは、上述のようにして製作された後、前記円板状部材の外周面に嵌合された状態でその円板状部材との間で複数箇所が溶接されるが、その際、その溶接時の熱が溶接部付近の外周歯に伝導されることで周方向の一部の外周歯が焼きなまされ、その周方向の一部の外周歯の硬さが低下するという問題があった。そして、前記ピニオンギヤとの係合により生じる外周歯の摩耗が周方向において局部的に発生するという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、円板状部材との溶接の際に起こる外周歯の硬さ低下を抑制することができる車両用スタータリングギヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、外周歯を有し、(a) 外周歯を有して円環状を成し、エンジンと共に回転する円板状部材の外周面に嵌合された状態でその円板状部材との間で複数箇所が溶接され、前記エンジンを始動するために、前記外周歯と噛合可能なピニオンギヤを有するスタータモータにより回転駆動される車両用スタータリングギヤであって、(b) その車両用スタータリングギヤの内周面と前記外周歯の歯面との間のうち、少なくとも前記車両用スタータリングギヤと前記円板状部材との間の溶接部の外周側に、その溶接部の溶接時の熱が前記外周歯へ伝導することを抑制する熱抵抗部を備えていることにある。
【0008】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの側面に周方向に形成された周方向溝または接線方向に形成された直線溝であることにある。
【0009】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの側面に全周にわたって連続して形成された環状溝であることにある。
【0010】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの一方の側面から他方の側面に向けて貫通して形成された貫通穴であることにある。
【0011】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項2または3にかかる発明において、(a) 前記ピニオンギヤは、前記車両用スタータリングギヤに噛み合う噛合位置とその車両用スタータリングギヤに噛み合わない非噛合位置との間で前記車両用スタータリングギヤの回転中心線に平行な方向に移動可能に設けられ、前記スタータモータにより前記車両用スタータリングギヤが回転駆動される場合には前記噛合位置に移動させられ、前記スタータモータにより前記車両用スタータリングギヤが回転駆動されない場合には前記非噛合位置に移動させられるものであり、(b) 前記熱抵抗部は、前記非噛合位置に位置させられた前記ピニオンギヤに対して前記回転中心線に平行な方向において対向する前記車両用スタータリングギヤの一方の側面に前記円板状部材との溶接が施される場合には、その一方の側面に設けられることにある。
【0012】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至5のいずれか1にかかる発明において、前記車両用スタータリングギヤは、車両走行停止時には前記エンジンが一時的に自動停止されると共に車両走行開始時には前記エンジンが再始動されるエンジン自動停止始動制御の実行時において、前記エンジンを再始動するために前記スタータモータにより回転駆動されることにある。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にかかる発明の車両用スタータリングギヤによれば、車両用スタータリングギヤの内周面と外周歯の歯面との間のうち、少なくとも車両用スタータリングギヤと円板状部材との間の溶接部の外周側に、その溶接部の溶接時の熱が外周歯へ伝導することを抑制する熱抵抗部を備えていることから、例えば高周波焼入や浸炭焼入などで外周歯が硬さが高められた車両用スタータリングギヤが円板状部材の外周面に嵌合された状態でその円板状部材との間で溶接される際に、その溶接時の熱が外周歯に伝導されることでその外周歯が焼きなまされることが抑制されるので、円板状部材との溶接の際に起こる外周歯の硬さ低下を抑制することができる。そして、前記ピニオンギヤとの係合により生じる摩耗量を低減することができる。
【0014】
また、請求項2にかかる発明の車両用スタータリングギヤによれば、前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの側面に周方向に形成された周方向溝または接線方向に形成された直線溝であることから、車両用スタータリングギヤと円板状部材との間の溶接部の外周側に周方向溝または直線溝が有ることにより、その溝が無いときと比較して上記溶接部の溶接時の熱がその溶接部から外周歯へ伝動され難くなるので、円板状部材との溶接時に外周歯が焼きなまされるのが抑制され、その外周歯の硬さが低下することを抑制することができる。
【0015】
また、請求項3にかかる発明の車両用スタータリングギヤによれば、前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの側面に全周にわたって連続して形成された環状溝であることから、車両用スタータリングギヤと円板状部材との間の溶接部の外周側に環状溝が有ることにより、その環状溝が無いときと比較して上記溶接部の溶接時の熱がその溶接部から外周歯へ伝動され難くなるので、円板状部材との溶接時に外周歯が焼きなまされるのが抑制され、その外周歯の硬さが低下することを抑制することができる。また、全周にわたって連続して形成される環状溝は、周方向の一部に形成される周方向溝と比較して、加工が容易であるという利点があり、スタータリングギヤの製造コストを低減することができる。また、熱抵抗部としての周方向溝が形成された車両用スタータリングギヤにおいては、それを円板状部材の外周面に嵌合するときに上記周方向溝が車両用スタータリングギヤと円板状部材との溶接部となる周方向位置に一致するように位置合わせするか、又は車両用スタータリングギヤと円板状部材とを溶接するときに周方向溝が有る周方向位置を溶接する必要があるが、熱抵抗部としての環状溝が形成された車両用スタータリングギヤによれば、上記のような位置合わせ又は溶接時の配慮が不要であり、加工工数が低減されるので、スタータリングギヤの製造コストを低減することができる。
【0016】
また、請求項4にかかる発明の車両用スタータリングギヤによれば、前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの一方の側面から他方の側面に向けて貫通して形成された貫通穴であることから、車両用スタータリングギヤと円板状部材との間の溶接部の外周側に貫通穴が有ることにより、その貫通穴が無いときと比較して上記溶接部の溶接時の熱がその溶接部から外周歯へ伝動され難くなるので、円板状部材との溶接時に外周歯が焼きなまされるのが抑制され、その外周歯の硬さが低下することを抑制することができる。
【0017】
また、請求項5にかかる発明の車両用スタータリングギヤによれば、前記ピニオンギヤは、前記車両用スタータリングギヤに噛み合う噛合位置とその車両用スタータリングギヤに噛み合わない非噛合位置との間で車両用スタータリングギヤの回転中心線に平行な方向に移動可能に設けられ、前記スタータモータにより前記車両用スタータリングギヤが回転駆動される場合には前記噛合位置に移動させられ、そのスタータモータにより前記車両用スタータリングギヤが回転駆動されない場合には前記非噛合位置に移動させられるものであり、前記熱抵抗部は、前記非噛合位置に位置させられた前記ピニオンギヤに対して前記回転中心線に平行な方向において対向する前記車両用スタータリングギヤの一方の側面に前記円板状部材との溶接が施される場合には、その一方の側面に設けられることから、車両用スタータリングギヤの外周歯のうち、特に、ピニオンギヤが非噛合位置から噛合位置へ移動させられるときにそのピニオンギヤと接触する上記一方の側面側の部分に、車両用スタータリングギヤと円板状部材との溶接時の熱が伝導されることが抑制されるので、車両用スタータリングギヤの外周歯のうち、特に硬さが必要とされる上記一方の側面側の部分の硬さ低下を抑制することができる。
【0018】
また、請求項6にかかる発明の車両用スタータリングギヤによれば、その車両用スタータリングギヤは、車両走行停止時には前記エンジンが一時的に自動停止されると共に車両走行開始時には前記エンジンが再始動されるエンジン自動停止始動制御の実行時において、前記エンジンを再始動するために前記スタータモータにより回転駆動されるものであることから、エンジン自動停止始動制御が実行されることで、その制御が実行されない場合と比べてエンジン始動回数が大幅に増加し、一層スタータリングギヤの耐久性が必要となる場合であっても、スタータリングギヤの溶接部の外周側に熱抵抗部を設けるという比較的簡単な変更を加えるだけでスタータリングギヤの外周歯の耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が適用された車両のエンジンおよび動力伝達装置の構成を示す概略図である。
【図2】図1のエンジンや動力伝達装置を制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】図1のスタータリングギヤを含むトルクコンバータおよびクランク軸の一部を示す断面図である。
【図4】図3においてIV矢視方向から見たスタータリングギヤおよびドライブプレートだけを示す図である。
【図5】図4のV-V矢視部断面を示す断面図である。
【図6】スタータリングギヤのうち、一方の側面から厚み方向の0.5mm内側の位置における、外周歯の歯先面から径方向内側の距離とスタータリングギヤの硬さとの関係を、所定の周方向位置毎に示す図である。
【図7】本発明の他の実施例のスタータリングギヤおよびドライブプレートを示す図であって、実施例1の図4に相当する図である。
【図8】本発明の他の実施例のスタータリングギヤおよびドライブプレートを示す図であって、実施例1の図5に相当する図である。
【図9】本発明の他の実施例のスタータリングギヤおよびドライブプレートを示す図であって、実施例1の図3に相当する図である。
【図10】本発明の他の実施例のスタータリングギヤおよびドライブプレートの周方向の一部を示す図である。
【図11】実施例1のスタータリングギヤと比較して複数の周方向溝が設けられていないことだけが異なる従来のスタータリングギヤのうち、一方の側面から厚み方向の0.5mm内側の位置における、外周歯の歯先面から径方向内側の距離とスタータリングギヤの硬さとの関係を、所定の周方向位置毎に示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明が適用された車両のエンジン10および動力伝達装置12の構成を示す概略図である。これらエンジン10および動力伝達装置10は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に好適に採用されるものである。内燃機関にて構成された走行用の動力源としてのエンジン10の出力は、そのエンジン10のクランク軸14からトルクコンバータ16、自動変速機18、およびプロペラシャフト20をそれぞれ介して差動歯車装置22に伝達され、その差動歯車装置22から左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0022】
トルクコンバータ16は、円板状のドライブプレート26を介してクランク軸14に連結されたポンプ翼車16pと、自動変速機18の入力軸28に連結されたタービン翼車16tと、一方向クラッチ30によって一方向の回転が阻止されているステータ翼車16sとを備えて構成され、クランク軸14と共に回転するポンプ翼車16pの回転がそのポンプ翼車16pによりトルクコンバータ16内を循環させられる作動流体を介してタービン翼車16tへ伝達される良く知られた流体伝動装置である。上記ポンプ翼車16pには、機械式オイルポンプ32の駆動軸が連結されており、この機械式オイルポンプ32は、エンジン10により回転駆動させられるようになっている。なお、上記ドライブプレート26は、本発明におけるエンジンと共に回転する円板状部材に相当するものである。
【0023】
自動変速機18は、複数組の遊星歯車装置およびクラッチやブレーキ等の複数の油圧係合装置を有する変速機構34と、上記油圧係合装置の係合状態を切り換えるためにその油圧係合装置に供給される油圧を制御する油圧制御回路36とを主体として構成され、入力軸28と出力軸38との回転速度比すなわち変速比が、車両の走行状態に応じて予め設定された複数の変速比のいずれか1に選択的に切り換えられる良く知られた遊星歯車式変速機である。動力伝達装置12は、前記機械式オイルポンプ32と、エンジン10の作動によらず図示しないバッテリの電力で作動させられる電動式オイルポンプ40とを備えている。上記油圧制御回路36には、機械式オイルポンプ32および電動式オイルポンプ40のどちらかから元圧となる油圧が圧送され、前記油圧係合装置には、油圧制御回路36により上記元圧を元に調圧された油圧が供給されるようになっている。
【0024】
また、動力伝達装置12は、エンジン10を始動させるため、すなわちエンジン10が自力で回転するようになるまでそのエンジン10の作動を補助するためのエンジン始動装置42を備えている。このエンジン始動装置42は、外周歯44aを有して円環状を成し、ドライブプレート26の外周面に固定されたスタータリングギヤ44と、外周歯44aと噛合可能なピニオンギヤ46aを有し、スタータリングギヤ44を回転駆動するスタータモータ46と、ピニオンギヤ46aをスタータリングギヤ44に噛み合う噛合位置と噛み合わない非噛合位置との間で移動させるマグネットスイッチ48とを備えている。なお、図1において破線で示すピニオンギヤ46aがスタータリングギヤ44に噛み合う噛合位置に位置させられたものであり、また、図1において実線で示すピニオンギヤ46aがスタータリングギヤ44と噛み合わない非噛合位置に位置させられたものである。
【0025】
上記スタータモータ46は、図1中に矢印aで示すようにスタータリングギヤ44の回転中心線Cに平行な軸心方向へ移動可能な出力軸46bと、その出力軸46bの先端部に固定されたピニオンギヤ46aとを有している。また、上記マグネットスイッチ48は、ソレノイド48aと、図1中に矢印bで示すように出力軸46aに平行な方向に移動可能に設けられ、ソレノイド48aが通電させられることでソレノイド48a側に引きつけられる可動鉄心48bとを有している。
【0026】
ピニオンギヤ46aは、スタータモータ46によりスタータリングギヤ44が回転駆動される場合には、ソレノイド48aが通電させられて可動鉄心48bがソレノイド48a側に移動させられ、その可動鉄心48bがてこ部材50を介して出力軸46bを軸心方向のスタータリングギヤ44側に移動させることにより、図1中に破線で示すようにスタータリングギヤ44に噛み合う噛合位置に移動させられるようになっている。スタータリングギヤ44は、上記噛合位置に位置させられたピニオンギヤ46aを介して伝達されるスタータモータ46の出力トルクにより回転駆動されるようになっている。
【0027】
また、ピニオンギヤ46aは、スタータモータ46によりスタータリングギヤ44が回転駆動されない場合には、ソレノイド48aの通電が停止され、出力軸46bがスプリング52の付勢力によりスタータリングギヤ44とは反対側へ移動させられることにより、図1中に実線で示すようにスタータリングギヤ44に噛み合わない非噛合位置に移動させられるようになっている。
【0028】
このように構成されたエンジン始動装置42は、エンジン始動時にスタータモータ46を作動させることでピニオンギヤ46aおよびリングギヤ44を介してクランク軸14を回転駆動させ、エンジン10の回転速度を予め定められた所定のエンジン点火可能回転速度まで上昇させる。
【0029】
図2は、図1のエンジン10や動力伝達装置12を制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図2において、電子制御装置54は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン10の出力制御、自動変速機18の変速制御、およびエンジン始動装置42の作動制御などを実行する。
【0030】
電子制御装置54には、たとえば、車速センサ56により検出される車速Vを表す車速信号、アクセル開度センサ58により検出されるアクセルペダルの操作量すなわちアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、ブレーキスイッチ60により検出されるブレーキペダルの踏み込みの有無を表すブレーキ操作信号、レバーポジションセンサ62により検出される、シフト操作装置64のシフトレバー66の操作位置PSHを表す操作位置信号などが供給される。上記シフト操作装置64は、自動変速機18の作動状態を切り換えるために、運転者により予め定められた複数の操作位置PSHに手動操作されるシフトレバー66を有するものである。上記シフトレバー66は、自動変速機18内の動力伝達経路を遮断しつつ自動変速機18の出力軸38をロックするための駐車位置、自動変速機18を後進用ギヤ段に切り換えるための後進走行位置、自動変速機18内の動力伝達経路を遮断するための中立位置、自動変速機18を複数の前進用ギヤ段を含むDレンジの範囲内で自動変速するための前進走行位置のいずれか1へ操作可能に設けられている。
【0031】
一方、電子制御装置54からは、エンジン10の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号として、例えば、電子スロットル弁68の開閉を制御するためにスロットルアクチュエータ70を駆動するスロットル信号、燃料噴射装置72から噴射される燃料の量を制御するための燃料噴射信号、および点火装置74によるエンジン10の点火時期を制御するための点火時期信号などがそれぞれ出力される。また、電子制御装置54からは、自動変速機18のギヤ段を切り換えるために油圧制御回路36を制御する信号、スタータモータ46を回転駆動するための信号、およびスタータモータ46のピニオンギヤ46aをスタータリングギヤ44に噛み合わせるためにマグネットスイッチ48のソレノイド48aを通電させるための信号などがそれぞれ出力される。
【0032】
ここで、電子制御装置54の備える制御機能のうちのエンジン自動停止始動制御手段76について説明する。このエンジン自動停止始動制御手段76は、車両走行停止時にはエンジン10を一時的に自動停止し、車両走行開始時にはエンジン始動装置42のスタータモータ46によりスタータリングギヤ44を回転駆動することでエンジン10を再始動するエンジン自動停止始動制御を行う。上記エンジン自動停止始動制御は、エコラン制御(エコノミーランニング制御)或いはアイドルストップ制御などとも称される。たとえば、エンジン自動停止始動制御手段76は、交差点等の車両走行停止時に燃費の向上、排気ガスの低減、騒音の低減等のために、所定のエンジン停止条件が成立した場合には、エンジン10を一時的に自動停止するためにスロットルアクチュエータ70による電子スロットル弁68を閉じる制御、燃料噴射装置72による燃料供給を停止する制御等を実行する。そして、エンジン自動停止始動制御手段76は、所定のエンジン始動条件が成立した場合には、エンジン始動装置46によりエンジン10を始動させる。
【0033】
たとえば、本実施例における上記所定のエンジン停止条件は、自動変速機18がDレンジの範囲内で自動変速される前進走行状態であり、アクセル開度Accが零であり、フットブレーキが操作されており、且つ車速Vが零であることである。また、たとえば、本実施例における上記所定のエンジン始動条件は、運転者によって車両の発進が意図される操作が行われる場合であって、フットブレーキが非操作状態とされるか、又はアクセルペダルが操作されてアクセル開度Accが零を超えることである。
【0034】
以下、本発明の一実施例のスタータリングギヤ44について詳しく説明する。図3は、スタータリングギヤ44を含むトルクコンバータ16およびクランク軸14の一部を示す断面図である。図4は、図3においてIV矢視方向から見たスタータリングギヤ44およびドライブプレート26だけを示す図である。また、図5は、図4のV-V矢視部断面を示す断面図である。図3および図4に示すように、ドライブプレート26は、回転中心線Cと同心に形成されたセンター穴78がクランク軸14の一端面に回転中心線Cと同心に形成された突部80に嵌合された状態で、クランク軸14に複数のボルト82により締着されている。そして、ドライブプレート26は、その外周部がトルクコンバータ16のカバー84に複数のボルト86により締着されている。このドライブプレート26の外周部には、トルクコンバータ16とは反対側に突設された短円筒部26aが設けられている。ドライブプレート26およびカバー84は、クランク軸26と共に回転可能に設けられた回転部材である。
【0035】
スタータリングギヤ44は、たとえば、棒状の引抜材が円環状に曲成され、その端面同士が互いに突き合わされた状態で溶接されることで円環状部材が形成され、その円環状部材の外周面にホブ等の歯切工具が用いられて回転中心線Cに平行な複数の外周歯44aが形成され、その外周歯に高周波焼入が施されることによって、製作される。上記のようにして製作されたスタータリングギヤ44は、図3乃至図5に示すように、ドライブプレート26の短円筒部26aの外周面に嵌合された状態でそのドライブプレート26との間で複数箇所が例えばミグ溶接(MIG(metal inert gas)溶接)により固定されている。本実施例では、前記非噛合位置に位置させられた前記ピニオンギヤ46aに対して回転軸心Cに平行な方向において対向する一方の側面88とは反対側の他方の側面90に、回転中心線Cまわりの周方向において等間隔に4箇所にドライブプレート26との溶接が施されている。図3乃至図5には、スタータリングギヤ44とドライブプレート26との間の溶接部に形成された溶接ビード92が示されている。
【0036】
図4および図5に示すように、スタータリングギヤ44は、その内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、スタータリングギヤ44とドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、それら溶接ビード92よりも周方向長さが長くなるように形成された複数(本実施例では4つ)の周方向溝94を有している。これら複数の周方向溝94は、スタータリングギヤ44とドライブプレート26とが溶接されるときにその溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として機能するものであって、他方の側面90に周方向に形成されている。
【0037】
図6は、以上のように構成されたスタータリングギヤ44のうち、図5に示すように、一方の側面88から厚み方向の0.5[mm] 内側の位置における、外周歯44aの歯先面から径方向内側の距離S[mm]とスタータリングギヤ44の硬さ(ビッカース硬さ)H[Hv]との関係を、周方向の2位置についてそれぞれ示す図である。図4のV-V矢視部断面で示される外周歯44aのものは図6において実線で示され、また、図4の矢印dで示す外周歯44aのものは図6において1点鎖線で示されている。なお、図6の関係は、実験的に求められたものである。
【0038】
上記に対して、図11は、本実施例のスタータリングギヤ44と比較して複数の周方向溝94が設けられていないことだけが異なる従来のスタータリングギヤのうち、一方の側面88から厚み方向の0.5[mm] 内側の位置における、外周歯44aの歯先面から径方向内側の距離S[mm]とスタータリングギヤ44の硬さ(ビッカース硬さ)H[Hv]との関係を、周方向の2位置についてそれぞれ示す図である。上記従来のスタータリングギヤと前記ドライブプレート26との溶接部の外周側の外周歯44aのものは図11において実線で示され、また、上記溶接部の外周側に位置しない外周歯44aのものは図11において1点鎖線で示されている。なお、図11の関係は、実験的に求められたものである。
【0039】
図6および図11に示すように、前記ドライブプレート26との溶接部の外周側に位置する外周歯44aの硬さHが上記溶接部の外周側に位置しない外周歯44aの硬さHと比べて小さいことは、スタータリングギヤ44および従来のスタータリングギヤ共に同じである。これは、前記ドライブプレート26との溶接時の熱が溶接部の外周側に位置する外周歯44aに伝導されることにより、その溶接部の外周側に位置する外周歯44aが焼きなまされることに起因するものと考えられる。しかし、図11の実線に示す、従来のスタータリングギヤの溶接部の外周側に位置する外周歯44aの表面付近の硬さHと比較して、図6の実線に示す、本実施例のスタータリングギヤ44の溶接部の外周側に位置する外周歯44aの表面付近の硬さHは、大きくなる。これは、本実施例のスタータリングギヤ44には、ドライブプレート26との溶接部と外周歯44aとの間に周方向溝94が設けられているため、ドライブプレート26との溶接時の熱が溶接部の外周側に位置する外周歯44aに伝導されることが抑制され、その溶接時の熱により外周歯44aが焼きなまされ難いためである。具体的には、本実施例のスタータリングギヤ44が従来のものと比べてドライブプレート26との溶接部の外周側に位置する外周歯44aの硬さHが大きくなるのは、ドライブプレート26との溶接部と外周歯44aとの間に周方向溝94が有ることで、ドライブプレート26との溶接時の熱が外周歯44aに伝導するときの伝導経路が上記周方向溝94を迂回した経路となって長くなることに加え、上記周方向溝94が無いものと比べて放熱面積が大きくなるために、外周歯44aに伝導される熱量が少なくなると考えられる。
【0040】
上述のように、本実施例のスタータリングギヤ44によれば、そのスタータリングギヤ44の内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、ドライブプレート(円板状部材)26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、ドライブプレート26との溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として機能するものであって、溶接ビード92よりも周方向長さが長くなるように他方の側面90に周方向に形成された複数の周方向溝94を備えていることから、高周波焼入で外周歯44aの硬さが高められたスタータリングギヤ44がドライブプレート26の外周面に嵌合された状態で溶接される際に、その溶接時の熱が外周歯44aに伝導されることが抑制されて外周歯44aが焼きなまされることが抑制されるので、ドライブプレート26との溶接により溶接部付近の外周歯44aの硬さが低下することを抑制することができる。そして、ピニオンギヤ46aとの係合により生じる外周歯44aの摩耗が周方向において局部的に発生することを抑制することができる。
【0041】
また、本実施例のスタータリングギヤ44によれば、そのスタータリングギヤ44は、車両走行停止時にはエンジン10を一時的に自動停止し、車両走行開始時にはエンジン始動装置42のスタータモータ46によりスタータリングギヤ44を回転駆動することでエンジン10を再始動するエンジン自動停止始動制御手段76を備えるエンジン始動装置42に設けられることから、エンジン自動停止始動制御が実行されることで、その制御が実行されない場合と比べてエンジン始動回数が大幅に増加し、一層スタータリングギヤ44の耐久性が必要となる場合であっても、スタータリングギヤ44の他方の側面90に複数の周方向溝94を形成するという比較的簡単な変更を加えるだけで、スタータリングギヤ44の外周歯44aの耐久性を高めることができる。
【0042】
因みに、従来から多く用いられている型式のエンジン始動装置であって、スタータモータのピニオンギヤがエンジン始動時にだけスタータリングギヤの外周歯に噛み合わされる型式のものだと、上記エンジン始動回数の大幅増加により、ピニオンギヤをスタータリングギヤの外周歯に噛み合わせるためにそのスタータリングギヤに向けて移動させる際に、スタータリングギヤがピニオンギヤの外周歯と接触する回数が大幅に増加してしまうため、スタータリングギヤの外周歯の耐久性を向上させる必要があった。これに対して、スタータモータとスタータリングギヤとの間に常時噛合クラッチが設けられた常時噛合式リングギヤを採用することにより、上記ピニオンギヤとの接触に伴うスタータリングギヤの耐久性の低下を低減することが考えられるが、これによれば、リングギヤだけでなく周辺の多くの部品を改造する必要があるという問題があった。
【実施例2】
【0043】
次に、本発明の他の実施例について説明する。なお、以下の実施例の説明において、実施例相互に重複する部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0044】
図7は、本発明の他の実施例のスタータリングギヤ100およびドライブプレート26を示す図であって、実施例1の図4に相当する図である。図7において、スタータリングギヤ100は、実施例1のスタータリングギヤ44と比較して、周方向溝94に代えて、スタータリングギヤ100の内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、スタータリングギヤ100とドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、他方の側面90に全周にわたって連続して形成された環状溝102を有していること以外は、同じ構成である。なお、上記環状溝102の断面形状は、実施例1において図5に示す周方向溝94の断面形状と同じである。
【0045】
本実施例のスタータリングギヤ100によれば、そのスタータリングギヤ100の内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、ドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、ドライブプレート26との溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として機能するものであって、他方の側面90に全周にわたって連続して形成された環状溝102を備えていることから、高周波焼入で外周歯44aの硬さが高められたスタータリングギヤ44がドライブプレート26の外周面に嵌合された状態で溶接される際に、その溶接時の熱が外周歯44aに伝導されることが抑制されて外周歯44aが焼きなまされることが抑制されるので、実施例1と同様に、ドライブプレート26との溶接により溶接部付近の外周歯44aの硬さが低下することを抑制することができる。
【0046】
また、本実施例のスタータリングギヤ100によれば、全周にわたって連続して形成される環状溝102は、周方向の一部に形成される周方向溝94と比較して、加工が容易であるという利点があるので、スタータリングギヤ100の製造コストを低減することができるとともに、部品の軽量化に寄与することができる。
【0047】
また、実施例1のスタータリングギヤ44では、それをドライブプレート26の外周面に嵌合するときに周方向溝94がスタータリングギヤ44とドライブプレート26との溶接部となる所定の周方向位置に一致するように位置合わせするか、又はスタータリングギヤ44とドライブプレート26とを溶接するときに周方向溝94が有る周方向位置を溶接する必要があるが、本実施例のスタータリングギヤ100によれば、上記のような位置合わせ又は溶接時の配慮が不要であるので、加工工数が削減され、スタータリングギヤ100の製造コストを低減することができる。
【実施例3】
【0048】
図8は、本発明の他の実施例のスタータリングギヤ110およびドライブプレート26を示す図であって、実施例1の図5に相当する図である。図8において、スタータリングギヤ110は、実施例1のスタータリングギヤ44と比較して、周方向溝94に代えて、スタータリングギヤ110の内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、スタータリングギヤ110とドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、それら溶接ビード92よりも周方向長さが長くなるように且つ一方の側面88から他方の側面90に貫通して形成された複数(本実施例では4つ)の貫通穴112を有していること以外は、同じ構成である。なお、上記貫通穴112が形成される周方向位置は、実施例1の図4に示す周方向溝94の周方向位置と同じである。
【0049】
本実施例のスタータリングギヤ110によれば、そのスタータリングギヤ110の内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、ドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、ドライブプレート26との溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として機能するものであって、一方の側面88から他方の側面90に貫通して形成された複数の貫通穴112を備えていることから、高周波焼入で外周歯44aの硬さが高められたスタータリングギヤ44がドライブプレート26の外周面に嵌合された状態で溶接される際に、その溶接時の熱が外周歯44aに伝導されることが抑制されて外周歯44aが焼きなまされることが抑制されるので、実施例1と同様に、ドライブプレート26との溶接により溶接部付近の外周歯44aの硬さが低下することを抑制することができる。
【実施例4】
【0050】
図9は、本発明の他の実施例のスタータリングギヤ120およびドライブプレート122を示す図であって、実施例1の図3に相当する図である。図9において、ドライブプレート122の外周部には、トルクコンバータ16側に突設された短円筒部122aが設けられている。スタータリングギヤ120は、ドライブプレート122の短円筒部122aの外周面に嵌合された状態でそのドライブプレート122との間で複数箇所が例えばミグ溶接(MIG(metal inert gas)溶接)により固定されている。本実施例では、前記非噛合位置に位置させられた前記ピニオンギヤ46aに対して回転軸心Cに平行な方向において対向する一方の側面124に、回転中心線Cまわりの周方向において等間隔に4箇所にドライブプレート122との溶接が施されている。なお、上記ピニオンギヤ46aは、実施例1と同様に、前記スタータモータ46によりスタータリングギヤ120が回転駆動される場合には、前記マグネットスイッチ48によりスタータリングギヤ120に噛み合う噛合位置に移動させられ、スタータモータ46によりスタータリングギヤ120が回転駆動されない場合には、スタータリングギヤ120に噛み合わない非噛合位置に移動させられるようになっている。
【0051】
スタータリングギヤ120は、その内周面と外周歯120aの歯面との間のうち、スタータリングギヤ120とドライブプレート122との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、それら溶接ビード92よりも周方向長さが長くなるように形成された複数(本実施例では4つ)の周方向溝126を有している。これら複数の周方向溝126は、スタータリングギヤ120とドライブプレート122とが溶接されるときにその溶接時の熱が外周歯120aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として機能するものであって、前記非噛合位置に位置させられた前記ピニオンギヤ46aに対して回転軸心Cに平行な方向において対向する一方の側面124に周方向に形成されている。
【0052】
本実施例のスタータリングギヤ120によれば、ピニオンギヤ46aは、実施例1と同様に、スタータモータ46によりスタータリングギヤ120が回転駆動される場合には、スタータリングギヤ120に噛み合う噛合位置に移動させられ、スタータモータ46によりスタータリングギヤ120が回転駆動されない場合には、スタータリングギヤ120に噛み合わない非噛合位置に移動させられるものであり、スタータリングギヤ120の両側面のうち、前記非噛合位置に位置させられたピニオンギヤ46aに対して回転軸心Cに平行な方向において対向する一方の側面124にドライブプレート122との溶接が施されると共にその一方の側面124に熱抵抗部としての周方向溝126が設けられていることから、スタータリングギヤ120の外周歯120aのうち、特に、ピニオンギヤ46aが前記非噛合位置から前記噛合位置へ移動させられる際にそのピニオンギヤ46aと接触する上記一方の側面124側の部分に、スタータリングギヤ120とドライブプレート122との溶接時の熱が伝導されることが抑制されるので、スタータリングギヤ120の外周歯120aのうち、特に硬さが必要とされる上記一方の側面124側の部分の硬さ低下を抑制することができる。
【0053】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0054】
たとえば、スタータリングギヤ44(100,110,120)には、ドライブプレート26(122)との溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として、溶接部の外周側に周方向溝94(126)、環状溝102、および貫通穴112のいずれか1が設けられていたが、例えば、耐熱樹脂などの熱伝導率の低い材料から成る部材が溶接部の外周側に設けられてもよい。例えば、径方向に3層状を成す金属製の内側円環状部材、耐熱樹脂製の中間円環状部材、および金属製の外側円環状部材が互いに接合され、上記外側円環状部材の外周面にスタータモータのピニオンギヤに噛み合う外周歯が形成されることによって、スタータリングギヤが製作されてもよい。このようにすれば、上記内側円環状部材の内周部とドライブプレート26との溶接時の熱が上記外側円環状部材の外周歯に伝導するのを耐熱樹脂製の中間円環状部材により抑制することができる。
【0055】
また、実施例1において、スタータリングギヤ44の側面には、ドライブプレート26との溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として、溶接部の外周側において周方向に形成された周方向溝94が設けられていたが、溝形状はこれに限られない。例えば、図10に周方向の一部を示すように、スタータリングギヤ130の側面には、上記熱抵抗部として、溶接部の外周側において接線方向に形成された直線溝132が設けられてもよい。
【0056】
また、スタータリングギヤ44(100,110,120)とドライブプレート26(122)とは、ミグ溶接(MIG(metal inert gas)溶接)により接合されていたが、例えばレーザ溶接などの他の溶接により接合されてもよい。
【0057】
また、スタータリングギヤ44(100,110,120)には、回転中心線Cまわりの周方向において等間隔に4箇所にドライブプレート26(122)との溶接が施されていたが、必ずしも等間隔である必要はなく、また4箇所でなくてもよい。例えば6箇所あるいは12箇所が溶接されてもよい。
【0058】
また、スタータリングギヤ44(100,110,120)は、ドライブプレート26(122)に溶接されていたが、例えばトルクコンバータ16のカバー84など、エンジン10のクランク軸14と共に回転する他の部材に溶接されてもよい。
【0059】
また、周方向溝94(126)および貫通穴112は、スタータリングギヤ44(110)とドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、それら溶接ビード92よりも周方向長さが長くなるように形成されていたが、必ずしも溶接ビード92よりも周方向長さが長い必要はない。
【0060】
また、周方向溝94(126)および貫通穴112は、必ずしも1つの溶接ビード92に対してその外周側に1つ設けられる必要はなく、例えば1つの溶接ビード92に対してその外周側に、径方向に重ねられか或いは周方向に並べられて複数設けられてもよい。
【0061】
また、周方向溝94(126)および環状溝102は、必ずしも1の側面だけに設けられる必要はなく、両側面に設けられてもよい。
【0062】
また、エンジン始動装置42は、スタータモータ46のピニオンギヤ46aがエンジン始動時にだけスタータリングギヤ44(100,110,120)に噛み合わされる型式のものであったが、例えば、スタータモータ46とスタータリングギヤ44との間に常時噛合クラッチが設けられた常時噛合式リングギヤが採用されたもの等、他の型式のものであってもよい。
【0063】
また、スタータリングギヤ44(100,110,120)は、遊星歯車式変速機である自動変速機18を備える動力伝達装置12に設けられていたが、例えば、無段変速機や自動クラッチ付の常時噛合式変速機など、他の変速機を備える動力伝達装置に設けられてもよい。
【0064】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0065】
10:エンジン
26:ドライブプレート(円板状部材)
44:スタータリングギヤ(車両用スタータリングギヤ)
44a:外周歯
46:スタータモータ
46a:ピニオンギヤ
88,124:一方の側面
90:他方の側面
92:溶接ビード(溶接部)
94,126:周方向溝(熱抵抗部)
102:環状溝(熱抵抗部)
112:貫通穴(熱抵抗部)
C:回転中心線
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの始動に際して用いられる車両用スタータリングギヤに係り、特に、その車両用スタータリングギヤの外周歯の硬さ低下を抑制するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外周歯を有して円環状を成し、エンジンと共に回転する円板状部材の外周面に嵌合された状態でその円板状部材との間で複数箇所が溶接され、前記エンジンを始動するために、前記外周歯と噛合可能なピニオンギヤを有するスタータモータにより回転駆動される車両用スタータリングギヤが知られている。たとえば、特許文献1および2に記載されたものがそれである。特許文献1のスタータリングギヤは、エンジンと共に回転する円板状部材としてのトルクコンバータのカバーに溶接されている。また、特許文献2のスタータリングギヤは、たとえばトルクコンバータのカバーに固定される、エンジンと共に回転する円板状部材としての円板状のドライブプレートに溶接されている。
【0003】
上記車両用スタータリングギヤは、たとえば、棒状の引抜材が円環状に曲成され、その端面同士が互いに突き合わされた状態で溶接されることで円環状部材が形成され、その円環状部材の外周面にホブ等の歯切工具が用いられて外周歯が形成され、その外周歯に高周波焼入や浸炭焼入などが施されることによって、製作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−13852号公報
【特許文献2】特開平3−99788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の車両用スタータリングギヤは、上述のようにして製作された後、前記円板状部材の外周面に嵌合された状態でその円板状部材との間で複数箇所が溶接されるが、その際、その溶接時の熱が溶接部付近の外周歯に伝導されることで周方向の一部の外周歯が焼きなまされ、その周方向の一部の外周歯の硬さが低下するという問題があった。そして、前記ピニオンギヤとの係合により生じる外周歯の摩耗が周方向において局部的に発生するという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、円板状部材との溶接の際に起こる外周歯の硬さ低下を抑制することができる車両用スタータリングギヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、外周歯を有し、(a) 外周歯を有して円環状を成し、エンジンと共に回転する円板状部材の外周面に嵌合された状態でその円板状部材との間で複数箇所が溶接され、前記エンジンを始動するために、前記外周歯と噛合可能なピニオンギヤを有するスタータモータにより回転駆動される車両用スタータリングギヤであって、(b) その車両用スタータリングギヤの内周面と前記外周歯の歯面との間のうち、少なくとも前記車両用スタータリングギヤと前記円板状部材との間の溶接部の外周側に、その溶接部の溶接時の熱が前記外周歯へ伝導することを抑制する熱抵抗部を備えていることにある。
【0008】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの側面に周方向に形成された周方向溝または接線方向に形成された直線溝であることにある。
【0009】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの側面に全周にわたって連続して形成された環状溝であることにある。
【0010】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの一方の側面から他方の側面に向けて貫通して形成された貫通穴であることにある。
【0011】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項2または3にかかる発明において、(a) 前記ピニオンギヤは、前記車両用スタータリングギヤに噛み合う噛合位置とその車両用スタータリングギヤに噛み合わない非噛合位置との間で前記車両用スタータリングギヤの回転中心線に平行な方向に移動可能に設けられ、前記スタータモータにより前記車両用スタータリングギヤが回転駆動される場合には前記噛合位置に移動させられ、前記スタータモータにより前記車両用スタータリングギヤが回転駆動されない場合には前記非噛合位置に移動させられるものであり、(b) 前記熱抵抗部は、前記非噛合位置に位置させられた前記ピニオンギヤに対して前記回転中心線に平行な方向において対向する前記車両用スタータリングギヤの一方の側面に前記円板状部材との溶接が施される場合には、その一方の側面に設けられることにある。
【0012】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至5のいずれか1にかかる発明において、前記車両用スタータリングギヤは、車両走行停止時には前記エンジンが一時的に自動停止されると共に車両走行開始時には前記エンジンが再始動されるエンジン自動停止始動制御の実行時において、前記エンジンを再始動するために前記スタータモータにより回転駆動されることにある。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にかかる発明の車両用スタータリングギヤによれば、車両用スタータリングギヤの内周面と外周歯の歯面との間のうち、少なくとも車両用スタータリングギヤと円板状部材との間の溶接部の外周側に、その溶接部の溶接時の熱が外周歯へ伝導することを抑制する熱抵抗部を備えていることから、例えば高周波焼入や浸炭焼入などで外周歯が硬さが高められた車両用スタータリングギヤが円板状部材の外周面に嵌合された状態でその円板状部材との間で溶接される際に、その溶接時の熱が外周歯に伝導されることでその外周歯が焼きなまされることが抑制されるので、円板状部材との溶接の際に起こる外周歯の硬さ低下を抑制することができる。そして、前記ピニオンギヤとの係合により生じる摩耗量を低減することができる。
【0014】
また、請求項2にかかる発明の車両用スタータリングギヤによれば、前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの側面に周方向に形成された周方向溝または接線方向に形成された直線溝であることから、車両用スタータリングギヤと円板状部材との間の溶接部の外周側に周方向溝または直線溝が有ることにより、その溝が無いときと比較して上記溶接部の溶接時の熱がその溶接部から外周歯へ伝動され難くなるので、円板状部材との溶接時に外周歯が焼きなまされるのが抑制され、その外周歯の硬さが低下することを抑制することができる。
【0015】
また、請求項3にかかる発明の車両用スタータリングギヤによれば、前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの側面に全周にわたって連続して形成された環状溝であることから、車両用スタータリングギヤと円板状部材との間の溶接部の外周側に環状溝が有ることにより、その環状溝が無いときと比較して上記溶接部の溶接時の熱がその溶接部から外周歯へ伝動され難くなるので、円板状部材との溶接時に外周歯が焼きなまされるのが抑制され、その外周歯の硬さが低下することを抑制することができる。また、全周にわたって連続して形成される環状溝は、周方向の一部に形成される周方向溝と比較して、加工が容易であるという利点があり、スタータリングギヤの製造コストを低減することができる。また、熱抵抗部としての周方向溝が形成された車両用スタータリングギヤにおいては、それを円板状部材の外周面に嵌合するときに上記周方向溝が車両用スタータリングギヤと円板状部材との溶接部となる周方向位置に一致するように位置合わせするか、又は車両用スタータリングギヤと円板状部材とを溶接するときに周方向溝が有る周方向位置を溶接する必要があるが、熱抵抗部としての環状溝が形成された車両用スタータリングギヤによれば、上記のような位置合わせ又は溶接時の配慮が不要であり、加工工数が低減されるので、スタータリングギヤの製造コストを低減することができる。
【0016】
また、請求項4にかかる発明の車両用スタータリングギヤによれば、前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの一方の側面から他方の側面に向けて貫通して形成された貫通穴であることから、車両用スタータリングギヤと円板状部材との間の溶接部の外周側に貫通穴が有ることにより、その貫通穴が無いときと比較して上記溶接部の溶接時の熱がその溶接部から外周歯へ伝動され難くなるので、円板状部材との溶接時に外周歯が焼きなまされるのが抑制され、その外周歯の硬さが低下することを抑制することができる。
【0017】
また、請求項5にかかる発明の車両用スタータリングギヤによれば、前記ピニオンギヤは、前記車両用スタータリングギヤに噛み合う噛合位置とその車両用スタータリングギヤに噛み合わない非噛合位置との間で車両用スタータリングギヤの回転中心線に平行な方向に移動可能に設けられ、前記スタータモータにより前記車両用スタータリングギヤが回転駆動される場合には前記噛合位置に移動させられ、そのスタータモータにより前記車両用スタータリングギヤが回転駆動されない場合には前記非噛合位置に移動させられるものであり、前記熱抵抗部は、前記非噛合位置に位置させられた前記ピニオンギヤに対して前記回転中心線に平行な方向において対向する前記車両用スタータリングギヤの一方の側面に前記円板状部材との溶接が施される場合には、その一方の側面に設けられることから、車両用スタータリングギヤの外周歯のうち、特に、ピニオンギヤが非噛合位置から噛合位置へ移動させられるときにそのピニオンギヤと接触する上記一方の側面側の部分に、車両用スタータリングギヤと円板状部材との溶接時の熱が伝導されることが抑制されるので、車両用スタータリングギヤの外周歯のうち、特に硬さが必要とされる上記一方の側面側の部分の硬さ低下を抑制することができる。
【0018】
また、請求項6にかかる発明の車両用スタータリングギヤによれば、その車両用スタータリングギヤは、車両走行停止時には前記エンジンが一時的に自動停止されると共に車両走行開始時には前記エンジンが再始動されるエンジン自動停止始動制御の実行時において、前記エンジンを再始動するために前記スタータモータにより回転駆動されるものであることから、エンジン自動停止始動制御が実行されることで、その制御が実行されない場合と比べてエンジン始動回数が大幅に増加し、一層スタータリングギヤの耐久性が必要となる場合であっても、スタータリングギヤの溶接部の外周側に熱抵抗部を設けるという比較的簡単な変更を加えるだけでスタータリングギヤの外周歯の耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が適用された車両のエンジンおよび動力伝達装置の構成を示す概略図である。
【図2】図1のエンジンや動力伝達装置を制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】図1のスタータリングギヤを含むトルクコンバータおよびクランク軸の一部を示す断面図である。
【図4】図3においてIV矢視方向から見たスタータリングギヤおよびドライブプレートだけを示す図である。
【図5】図4のV-V矢視部断面を示す断面図である。
【図6】スタータリングギヤのうち、一方の側面から厚み方向の0.5mm内側の位置における、外周歯の歯先面から径方向内側の距離とスタータリングギヤの硬さとの関係を、所定の周方向位置毎に示す図である。
【図7】本発明の他の実施例のスタータリングギヤおよびドライブプレートを示す図であって、実施例1の図4に相当する図である。
【図8】本発明の他の実施例のスタータリングギヤおよびドライブプレートを示す図であって、実施例1の図5に相当する図である。
【図9】本発明の他の実施例のスタータリングギヤおよびドライブプレートを示す図であって、実施例1の図3に相当する図である。
【図10】本発明の他の実施例のスタータリングギヤおよびドライブプレートの周方向の一部を示す図である。
【図11】実施例1のスタータリングギヤと比較して複数の周方向溝が設けられていないことだけが異なる従来のスタータリングギヤのうち、一方の側面から厚み方向の0.5mm内側の位置における、外周歯の歯先面から径方向内側の距離とスタータリングギヤの硬さとの関係を、所定の周方向位置毎に示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明が適用された車両のエンジン10および動力伝達装置12の構成を示す概略図である。これらエンジン10および動力伝達装置10は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に好適に採用されるものである。内燃機関にて構成された走行用の動力源としてのエンジン10の出力は、そのエンジン10のクランク軸14からトルクコンバータ16、自動変速機18、およびプロペラシャフト20をそれぞれ介して差動歯車装置22に伝達され、その差動歯車装置22から左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0022】
トルクコンバータ16は、円板状のドライブプレート26を介してクランク軸14に連結されたポンプ翼車16pと、自動変速機18の入力軸28に連結されたタービン翼車16tと、一方向クラッチ30によって一方向の回転が阻止されているステータ翼車16sとを備えて構成され、クランク軸14と共に回転するポンプ翼車16pの回転がそのポンプ翼車16pによりトルクコンバータ16内を循環させられる作動流体を介してタービン翼車16tへ伝達される良く知られた流体伝動装置である。上記ポンプ翼車16pには、機械式オイルポンプ32の駆動軸が連結されており、この機械式オイルポンプ32は、エンジン10により回転駆動させられるようになっている。なお、上記ドライブプレート26は、本発明におけるエンジンと共に回転する円板状部材に相当するものである。
【0023】
自動変速機18は、複数組の遊星歯車装置およびクラッチやブレーキ等の複数の油圧係合装置を有する変速機構34と、上記油圧係合装置の係合状態を切り換えるためにその油圧係合装置に供給される油圧を制御する油圧制御回路36とを主体として構成され、入力軸28と出力軸38との回転速度比すなわち変速比が、車両の走行状態に応じて予め設定された複数の変速比のいずれか1に選択的に切り換えられる良く知られた遊星歯車式変速機である。動力伝達装置12は、前記機械式オイルポンプ32と、エンジン10の作動によらず図示しないバッテリの電力で作動させられる電動式オイルポンプ40とを備えている。上記油圧制御回路36には、機械式オイルポンプ32および電動式オイルポンプ40のどちらかから元圧となる油圧が圧送され、前記油圧係合装置には、油圧制御回路36により上記元圧を元に調圧された油圧が供給されるようになっている。
【0024】
また、動力伝達装置12は、エンジン10を始動させるため、すなわちエンジン10が自力で回転するようになるまでそのエンジン10の作動を補助するためのエンジン始動装置42を備えている。このエンジン始動装置42は、外周歯44aを有して円環状を成し、ドライブプレート26の外周面に固定されたスタータリングギヤ44と、外周歯44aと噛合可能なピニオンギヤ46aを有し、スタータリングギヤ44を回転駆動するスタータモータ46と、ピニオンギヤ46aをスタータリングギヤ44に噛み合う噛合位置と噛み合わない非噛合位置との間で移動させるマグネットスイッチ48とを備えている。なお、図1において破線で示すピニオンギヤ46aがスタータリングギヤ44に噛み合う噛合位置に位置させられたものであり、また、図1において実線で示すピニオンギヤ46aがスタータリングギヤ44と噛み合わない非噛合位置に位置させられたものである。
【0025】
上記スタータモータ46は、図1中に矢印aで示すようにスタータリングギヤ44の回転中心線Cに平行な軸心方向へ移動可能な出力軸46bと、その出力軸46bの先端部に固定されたピニオンギヤ46aとを有している。また、上記マグネットスイッチ48は、ソレノイド48aと、図1中に矢印bで示すように出力軸46aに平行な方向に移動可能に設けられ、ソレノイド48aが通電させられることでソレノイド48a側に引きつけられる可動鉄心48bとを有している。
【0026】
ピニオンギヤ46aは、スタータモータ46によりスタータリングギヤ44が回転駆動される場合には、ソレノイド48aが通電させられて可動鉄心48bがソレノイド48a側に移動させられ、その可動鉄心48bがてこ部材50を介して出力軸46bを軸心方向のスタータリングギヤ44側に移動させることにより、図1中に破線で示すようにスタータリングギヤ44に噛み合う噛合位置に移動させられるようになっている。スタータリングギヤ44は、上記噛合位置に位置させられたピニオンギヤ46aを介して伝達されるスタータモータ46の出力トルクにより回転駆動されるようになっている。
【0027】
また、ピニオンギヤ46aは、スタータモータ46によりスタータリングギヤ44が回転駆動されない場合には、ソレノイド48aの通電が停止され、出力軸46bがスプリング52の付勢力によりスタータリングギヤ44とは反対側へ移動させられることにより、図1中に実線で示すようにスタータリングギヤ44に噛み合わない非噛合位置に移動させられるようになっている。
【0028】
このように構成されたエンジン始動装置42は、エンジン始動時にスタータモータ46を作動させることでピニオンギヤ46aおよびリングギヤ44を介してクランク軸14を回転駆動させ、エンジン10の回転速度を予め定められた所定のエンジン点火可能回転速度まで上昇させる。
【0029】
図2は、図1のエンジン10や動力伝達装置12を制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図2において、電子制御装置54は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン10の出力制御、自動変速機18の変速制御、およびエンジン始動装置42の作動制御などを実行する。
【0030】
電子制御装置54には、たとえば、車速センサ56により検出される車速Vを表す車速信号、アクセル開度センサ58により検出されるアクセルペダルの操作量すなわちアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、ブレーキスイッチ60により検出されるブレーキペダルの踏み込みの有無を表すブレーキ操作信号、レバーポジションセンサ62により検出される、シフト操作装置64のシフトレバー66の操作位置PSHを表す操作位置信号などが供給される。上記シフト操作装置64は、自動変速機18の作動状態を切り換えるために、運転者により予め定められた複数の操作位置PSHに手動操作されるシフトレバー66を有するものである。上記シフトレバー66は、自動変速機18内の動力伝達経路を遮断しつつ自動変速機18の出力軸38をロックするための駐車位置、自動変速機18を後進用ギヤ段に切り換えるための後進走行位置、自動変速機18内の動力伝達経路を遮断するための中立位置、自動変速機18を複数の前進用ギヤ段を含むDレンジの範囲内で自動変速するための前進走行位置のいずれか1へ操作可能に設けられている。
【0031】
一方、電子制御装置54からは、エンジン10の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号として、例えば、電子スロットル弁68の開閉を制御するためにスロットルアクチュエータ70を駆動するスロットル信号、燃料噴射装置72から噴射される燃料の量を制御するための燃料噴射信号、および点火装置74によるエンジン10の点火時期を制御するための点火時期信号などがそれぞれ出力される。また、電子制御装置54からは、自動変速機18のギヤ段を切り換えるために油圧制御回路36を制御する信号、スタータモータ46を回転駆動するための信号、およびスタータモータ46のピニオンギヤ46aをスタータリングギヤ44に噛み合わせるためにマグネットスイッチ48のソレノイド48aを通電させるための信号などがそれぞれ出力される。
【0032】
ここで、電子制御装置54の備える制御機能のうちのエンジン自動停止始動制御手段76について説明する。このエンジン自動停止始動制御手段76は、車両走行停止時にはエンジン10を一時的に自動停止し、車両走行開始時にはエンジン始動装置42のスタータモータ46によりスタータリングギヤ44を回転駆動することでエンジン10を再始動するエンジン自動停止始動制御を行う。上記エンジン自動停止始動制御は、エコラン制御(エコノミーランニング制御)或いはアイドルストップ制御などとも称される。たとえば、エンジン自動停止始動制御手段76は、交差点等の車両走行停止時に燃費の向上、排気ガスの低減、騒音の低減等のために、所定のエンジン停止条件が成立した場合には、エンジン10を一時的に自動停止するためにスロットルアクチュエータ70による電子スロットル弁68を閉じる制御、燃料噴射装置72による燃料供給を停止する制御等を実行する。そして、エンジン自動停止始動制御手段76は、所定のエンジン始動条件が成立した場合には、エンジン始動装置46によりエンジン10を始動させる。
【0033】
たとえば、本実施例における上記所定のエンジン停止条件は、自動変速機18がDレンジの範囲内で自動変速される前進走行状態であり、アクセル開度Accが零であり、フットブレーキが操作されており、且つ車速Vが零であることである。また、たとえば、本実施例における上記所定のエンジン始動条件は、運転者によって車両の発進が意図される操作が行われる場合であって、フットブレーキが非操作状態とされるか、又はアクセルペダルが操作されてアクセル開度Accが零を超えることである。
【0034】
以下、本発明の一実施例のスタータリングギヤ44について詳しく説明する。図3は、スタータリングギヤ44を含むトルクコンバータ16およびクランク軸14の一部を示す断面図である。図4は、図3においてIV矢視方向から見たスタータリングギヤ44およびドライブプレート26だけを示す図である。また、図5は、図4のV-V矢視部断面を示す断面図である。図3および図4に示すように、ドライブプレート26は、回転中心線Cと同心に形成されたセンター穴78がクランク軸14の一端面に回転中心線Cと同心に形成された突部80に嵌合された状態で、クランク軸14に複数のボルト82により締着されている。そして、ドライブプレート26は、その外周部がトルクコンバータ16のカバー84に複数のボルト86により締着されている。このドライブプレート26の外周部には、トルクコンバータ16とは反対側に突設された短円筒部26aが設けられている。ドライブプレート26およびカバー84は、クランク軸26と共に回転可能に設けられた回転部材である。
【0035】
スタータリングギヤ44は、たとえば、棒状の引抜材が円環状に曲成され、その端面同士が互いに突き合わされた状態で溶接されることで円環状部材が形成され、その円環状部材の外周面にホブ等の歯切工具が用いられて回転中心線Cに平行な複数の外周歯44aが形成され、その外周歯に高周波焼入が施されることによって、製作される。上記のようにして製作されたスタータリングギヤ44は、図3乃至図5に示すように、ドライブプレート26の短円筒部26aの外周面に嵌合された状態でそのドライブプレート26との間で複数箇所が例えばミグ溶接(MIG(metal inert gas)溶接)により固定されている。本実施例では、前記非噛合位置に位置させられた前記ピニオンギヤ46aに対して回転軸心Cに平行な方向において対向する一方の側面88とは反対側の他方の側面90に、回転中心線Cまわりの周方向において等間隔に4箇所にドライブプレート26との溶接が施されている。図3乃至図5には、スタータリングギヤ44とドライブプレート26との間の溶接部に形成された溶接ビード92が示されている。
【0036】
図4および図5に示すように、スタータリングギヤ44は、その内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、スタータリングギヤ44とドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、それら溶接ビード92よりも周方向長さが長くなるように形成された複数(本実施例では4つ)の周方向溝94を有している。これら複数の周方向溝94は、スタータリングギヤ44とドライブプレート26とが溶接されるときにその溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として機能するものであって、他方の側面90に周方向に形成されている。
【0037】
図6は、以上のように構成されたスタータリングギヤ44のうち、図5に示すように、一方の側面88から厚み方向の0.5[mm] 内側の位置における、外周歯44aの歯先面から径方向内側の距離S[mm]とスタータリングギヤ44の硬さ(ビッカース硬さ)H[Hv]との関係を、周方向の2位置についてそれぞれ示す図である。図4のV-V矢視部断面で示される外周歯44aのものは図6において実線で示され、また、図4の矢印dで示す外周歯44aのものは図6において1点鎖線で示されている。なお、図6の関係は、実験的に求められたものである。
【0038】
上記に対して、図11は、本実施例のスタータリングギヤ44と比較して複数の周方向溝94が設けられていないことだけが異なる従来のスタータリングギヤのうち、一方の側面88から厚み方向の0.5[mm] 内側の位置における、外周歯44aの歯先面から径方向内側の距離S[mm]とスタータリングギヤ44の硬さ(ビッカース硬さ)H[Hv]との関係を、周方向の2位置についてそれぞれ示す図である。上記従来のスタータリングギヤと前記ドライブプレート26との溶接部の外周側の外周歯44aのものは図11において実線で示され、また、上記溶接部の外周側に位置しない外周歯44aのものは図11において1点鎖線で示されている。なお、図11の関係は、実験的に求められたものである。
【0039】
図6および図11に示すように、前記ドライブプレート26との溶接部の外周側に位置する外周歯44aの硬さHが上記溶接部の外周側に位置しない外周歯44aの硬さHと比べて小さいことは、スタータリングギヤ44および従来のスタータリングギヤ共に同じである。これは、前記ドライブプレート26との溶接時の熱が溶接部の外周側に位置する外周歯44aに伝導されることにより、その溶接部の外周側に位置する外周歯44aが焼きなまされることに起因するものと考えられる。しかし、図11の実線に示す、従来のスタータリングギヤの溶接部の外周側に位置する外周歯44aの表面付近の硬さHと比較して、図6の実線に示す、本実施例のスタータリングギヤ44の溶接部の外周側に位置する外周歯44aの表面付近の硬さHは、大きくなる。これは、本実施例のスタータリングギヤ44には、ドライブプレート26との溶接部と外周歯44aとの間に周方向溝94が設けられているため、ドライブプレート26との溶接時の熱が溶接部の外周側に位置する外周歯44aに伝導されることが抑制され、その溶接時の熱により外周歯44aが焼きなまされ難いためである。具体的には、本実施例のスタータリングギヤ44が従来のものと比べてドライブプレート26との溶接部の外周側に位置する外周歯44aの硬さHが大きくなるのは、ドライブプレート26との溶接部と外周歯44aとの間に周方向溝94が有ることで、ドライブプレート26との溶接時の熱が外周歯44aに伝導するときの伝導経路が上記周方向溝94を迂回した経路となって長くなることに加え、上記周方向溝94が無いものと比べて放熱面積が大きくなるために、外周歯44aに伝導される熱量が少なくなると考えられる。
【0040】
上述のように、本実施例のスタータリングギヤ44によれば、そのスタータリングギヤ44の内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、ドライブプレート(円板状部材)26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、ドライブプレート26との溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として機能するものであって、溶接ビード92よりも周方向長さが長くなるように他方の側面90に周方向に形成された複数の周方向溝94を備えていることから、高周波焼入で外周歯44aの硬さが高められたスタータリングギヤ44がドライブプレート26の外周面に嵌合された状態で溶接される際に、その溶接時の熱が外周歯44aに伝導されることが抑制されて外周歯44aが焼きなまされることが抑制されるので、ドライブプレート26との溶接により溶接部付近の外周歯44aの硬さが低下することを抑制することができる。そして、ピニオンギヤ46aとの係合により生じる外周歯44aの摩耗が周方向において局部的に発生することを抑制することができる。
【0041】
また、本実施例のスタータリングギヤ44によれば、そのスタータリングギヤ44は、車両走行停止時にはエンジン10を一時的に自動停止し、車両走行開始時にはエンジン始動装置42のスタータモータ46によりスタータリングギヤ44を回転駆動することでエンジン10を再始動するエンジン自動停止始動制御手段76を備えるエンジン始動装置42に設けられることから、エンジン自動停止始動制御が実行されることで、その制御が実行されない場合と比べてエンジン始動回数が大幅に増加し、一層スタータリングギヤ44の耐久性が必要となる場合であっても、スタータリングギヤ44の他方の側面90に複数の周方向溝94を形成するという比較的簡単な変更を加えるだけで、スタータリングギヤ44の外周歯44aの耐久性を高めることができる。
【0042】
因みに、従来から多く用いられている型式のエンジン始動装置であって、スタータモータのピニオンギヤがエンジン始動時にだけスタータリングギヤの外周歯に噛み合わされる型式のものだと、上記エンジン始動回数の大幅増加により、ピニオンギヤをスタータリングギヤの外周歯に噛み合わせるためにそのスタータリングギヤに向けて移動させる際に、スタータリングギヤがピニオンギヤの外周歯と接触する回数が大幅に増加してしまうため、スタータリングギヤの外周歯の耐久性を向上させる必要があった。これに対して、スタータモータとスタータリングギヤとの間に常時噛合クラッチが設けられた常時噛合式リングギヤを採用することにより、上記ピニオンギヤとの接触に伴うスタータリングギヤの耐久性の低下を低減することが考えられるが、これによれば、リングギヤだけでなく周辺の多くの部品を改造する必要があるという問題があった。
【実施例2】
【0043】
次に、本発明の他の実施例について説明する。なお、以下の実施例の説明において、実施例相互に重複する部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0044】
図7は、本発明の他の実施例のスタータリングギヤ100およびドライブプレート26を示す図であって、実施例1の図4に相当する図である。図7において、スタータリングギヤ100は、実施例1のスタータリングギヤ44と比較して、周方向溝94に代えて、スタータリングギヤ100の内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、スタータリングギヤ100とドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、他方の側面90に全周にわたって連続して形成された環状溝102を有していること以外は、同じ構成である。なお、上記環状溝102の断面形状は、実施例1において図5に示す周方向溝94の断面形状と同じである。
【0045】
本実施例のスタータリングギヤ100によれば、そのスタータリングギヤ100の内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、ドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、ドライブプレート26との溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として機能するものであって、他方の側面90に全周にわたって連続して形成された環状溝102を備えていることから、高周波焼入で外周歯44aの硬さが高められたスタータリングギヤ44がドライブプレート26の外周面に嵌合された状態で溶接される際に、その溶接時の熱が外周歯44aに伝導されることが抑制されて外周歯44aが焼きなまされることが抑制されるので、実施例1と同様に、ドライブプレート26との溶接により溶接部付近の外周歯44aの硬さが低下することを抑制することができる。
【0046】
また、本実施例のスタータリングギヤ100によれば、全周にわたって連続して形成される環状溝102は、周方向の一部に形成される周方向溝94と比較して、加工が容易であるという利点があるので、スタータリングギヤ100の製造コストを低減することができるとともに、部品の軽量化に寄与することができる。
【0047】
また、実施例1のスタータリングギヤ44では、それをドライブプレート26の外周面に嵌合するときに周方向溝94がスタータリングギヤ44とドライブプレート26との溶接部となる所定の周方向位置に一致するように位置合わせするか、又はスタータリングギヤ44とドライブプレート26とを溶接するときに周方向溝94が有る周方向位置を溶接する必要があるが、本実施例のスタータリングギヤ100によれば、上記のような位置合わせ又は溶接時の配慮が不要であるので、加工工数が削減され、スタータリングギヤ100の製造コストを低減することができる。
【実施例3】
【0048】
図8は、本発明の他の実施例のスタータリングギヤ110およびドライブプレート26を示す図であって、実施例1の図5に相当する図である。図8において、スタータリングギヤ110は、実施例1のスタータリングギヤ44と比較して、周方向溝94に代えて、スタータリングギヤ110の内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、スタータリングギヤ110とドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、それら溶接ビード92よりも周方向長さが長くなるように且つ一方の側面88から他方の側面90に貫通して形成された複数(本実施例では4つ)の貫通穴112を有していること以外は、同じ構成である。なお、上記貫通穴112が形成される周方向位置は、実施例1の図4に示す周方向溝94の周方向位置と同じである。
【0049】
本実施例のスタータリングギヤ110によれば、そのスタータリングギヤ110の内周面と外周歯44aの歯面との間のうち、ドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、ドライブプレート26との溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として機能するものであって、一方の側面88から他方の側面90に貫通して形成された複数の貫通穴112を備えていることから、高周波焼入で外周歯44aの硬さが高められたスタータリングギヤ44がドライブプレート26の外周面に嵌合された状態で溶接される際に、その溶接時の熱が外周歯44aに伝導されることが抑制されて外周歯44aが焼きなまされることが抑制されるので、実施例1と同様に、ドライブプレート26との溶接により溶接部付近の外周歯44aの硬さが低下することを抑制することができる。
【実施例4】
【0050】
図9は、本発明の他の実施例のスタータリングギヤ120およびドライブプレート122を示す図であって、実施例1の図3に相当する図である。図9において、ドライブプレート122の外周部には、トルクコンバータ16側に突設された短円筒部122aが設けられている。スタータリングギヤ120は、ドライブプレート122の短円筒部122aの外周面に嵌合された状態でそのドライブプレート122との間で複数箇所が例えばミグ溶接(MIG(metal inert gas)溶接)により固定されている。本実施例では、前記非噛合位置に位置させられた前記ピニオンギヤ46aに対して回転軸心Cに平行な方向において対向する一方の側面124に、回転中心線Cまわりの周方向において等間隔に4箇所にドライブプレート122との溶接が施されている。なお、上記ピニオンギヤ46aは、実施例1と同様に、前記スタータモータ46によりスタータリングギヤ120が回転駆動される場合には、前記マグネットスイッチ48によりスタータリングギヤ120に噛み合う噛合位置に移動させられ、スタータモータ46によりスタータリングギヤ120が回転駆動されない場合には、スタータリングギヤ120に噛み合わない非噛合位置に移動させられるようになっている。
【0051】
スタータリングギヤ120は、その内周面と外周歯120aの歯面との間のうち、スタータリングギヤ120とドライブプレート122との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、それら溶接ビード92よりも周方向長さが長くなるように形成された複数(本実施例では4つ)の周方向溝126を有している。これら複数の周方向溝126は、スタータリングギヤ120とドライブプレート122とが溶接されるときにその溶接時の熱が外周歯120aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として機能するものであって、前記非噛合位置に位置させられた前記ピニオンギヤ46aに対して回転軸心Cに平行な方向において対向する一方の側面124に周方向に形成されている。
【0052】
本実施例のスタータリングギヤ120によれば、ピニオンギヤ46aは、実施例1と同様に、スタータモータ46によりスタータリングギヤ120が回転駆動される場合には、スタータリングギヤ120に噛み合う噛合位置に移動させられ、スタータモータ46によりスタータリングギヤ120が回転駆動されない場合には、スタータリングギヤ120に噛み合わない非噛合位置に移動させられるものであり、スタータリングギヤ120の両側面のうち、前記非噛合位置に位置させられたピニオンギヤ46aに対して回転軸心Cに平行な方向において対向する一方の側面124にドライブプレート122との溶接が施されると共にその一方の側面124に熱抵抗部としての周方向溝126が設けられていることから、スタータリングギヤ120の外周歯120aのうち、特に、ピニオンギヤ46aが前記非噛合位置から前記噛合位置へ移動させられる際にそのピニオンギヤ46aと接触する上記一方の側面124側の部分に、スタータリングギヤ120とドライブプレート122との溶接時の熱が伝導されることが抑制されるので、スタータリングギヤ120の外周歯120aのうち、特に硬さが必要とされる上記一方の側面124側の部分の硬さ低下を抑制することができる。
【0053】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0054】
たとえば、スタータリングギヤ44(100,110,120)には、ドライブプレート26(122)との溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として、溶接部の外周側に周方向溝94(126)、環状溝102、および貫通穴112のいずれか1が設けられていたが、例えば、耐熱樹脂などの熱伝導率の低い材料から成る部材が溶接部の外周側に設けられてもよい。例えば、径方向に3層状を成す金属製の内側円環状部材、耐熱樹脂製の中間円環状部材、および金属製の外側円環状部材が互いに接合され、上記外側円環状部材の外周面にスタータモータのピニオンギヤに噛み合う外周歯が形成されることによって、スタータリングギヤが製作されてもよい。このようにすれば、上記内側円環状部材の内周部とドライブプレート26との溶接時の熱が上記外側円環状部材の外周歯に伝導するのを耐熱樹脂製の中間円環状部材により抑制することができる。
【0055】
また、実施例1において、スタータリングギヤ44の側面には、ドライブプレート26との溶接時の熱が外周歯44aへ伝導することを抑制する熱抵抗部として、溶接部の外周側において周方向に形成された周方向溝94が設けられていたが、溝形状はこれに限られない。例えば、図10に周方向の一部を示すように、スタータリングギヤ130の側面には、上記熱抵抗部として、溶接部の外周側において接線方向に形成された直線溝132が設けられてもよい。
【0056】
また、スタータリングギヤ44(100,110,120)とドライブプレート26(122)とは、ミグ溶接(MIG(metal inert gas)溶接)により接合されていたが、例えばレーザ溶接などの他の溶接により接合されてもよい。
【0057】
また、スタータリングギヤ44(100,110,120)には、回転中心線Cまわりの周方向において等間隔に4箇所にドライブプレート26(122)との溶接が施されていたが、必ずしも等間隔である必要はなく、また4箇所でなくてもよい。例えば6箇所あるいは12箇所が溶接されてもよい。
【0058】
また、スタータリングギヤ44(100,110,120)は、ドライブプレート26(122)に溶接されていたが、例えばトルクコンバータ16のカバー84など、エンジン10のクランク軸14と共に回転する他の部材に溶接されてもよい。
【0059】
また、周方向溝94(126)および貫通穴112は、スタータリングギヤ44(110)とドライブプレート26との間の複数の溶接部すなわち溶接ビード92の外周側に、それら溶接ビード92よりも周方向長さが長くなるように形成されていたが、必ずしも溶接ビード92よりも周方向長さが長い必要はない。
【0060】
また、周方向溝94(126)および貫通穴112は、必ずしも1つの溶接ビード92に対してその外周側に1つ設けられる必要はなく、例えば1つの溶接ビード92に対してその外周側に、径方向に重ねられか或いは周方向に並べられて複数設けられてもよい。
【0061】
また、周方向溝94(126)および環状溝102は、必ずしも1の側面だけに設けられる必要はなく、両側面に設けられてもよい。
【0062】
また、エンジン始動装置42は、スタータモータ46のピニオンギヤ46aがエンジン始動時にだけスタータリングギヤ44(100,110,120)に噛み合わされる型式のものであったが、例えば、スタータモータ46とスタータリングギヤ44との間に常時噛合クラッチが設けられた常時噛合式リングギヤが採用されたもの等、他の型式のものであってもよい。
【0063】
また、スタータリングギヤ44(100,110,120)は、遊星歯車式変速機である自動変速機18を備える動力伝達装置12に設けられていたが、例えば、無段変速機や自動クラッチ付の常時噛合式変速機など、他の変速機を備える動力伝達装置に設けられてもよい。
【0064】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0065】
10:エンジン
26:ドライブプレート(円板状部材)
44:スタータリングギヤ(車両用スタータリングギヤ)
44a:外周歯
46:スタータモータ
46a:ピニオンギヤ
88,124:一方の側面
90:他方の側面
92:溶接ビード(溶接部)
94,126:周方向溝(熱抵抗部)
102:環状溝(熱抵抗部)
112:貫通穴(熱抵抗部)
C:回転中心線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周歯を有して円環状を成し、エンジンと共に回転する円板状部材の外周面に嵌合された状態で該円板状部材との間で複数箇所が溶接され、前記エンジンを始動するために、前記外周歯と噛合可能なピニオンギヤを有するスタータモータにより回転駆動される車両用スタータリングギヤであって、
該車両用スタータリングギヤの内周面と前記外周歯の歯面との間のうち、少なくとも該車両用スタータリングギヤと前記円板状部材との間の溶接部の外周側に、該溶接部の溶接時の熱が前記外周歯へ伝導することを抑制する熱抵抗部を備えていることを特徴とする車両用スタータリングギヤ。
【請求項2】
前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの側面に周方向に形成された周方向溝または接線方向に形成された直線溝であることを特徴とする請求項1の車両用スタータリングギヤ。
【請求項3】
前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの側面に全周にわたって連続して形成された環状溝であることを特徴とする請求項1の車両用スタータリングギヤ。
【請求項4】
前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの一方の側面から他方の側面に向けて貫通して形成された貫通穴であることを特徴とする請求項1の車両用スタータリングギヤ。
【請求項5】
前記ピニオンギヤは、前記車両用スタータリングギヤに噛み合う噛合位置と該車両用スタータリングギヤに噛み合わない非噛合位置との間で該車両用スタータリングギヤの回転中心線に平行な方向に移動可能に設けられ、前記スタータモータにより該車両用スタータリングギヤが回転駆動される場合には前記噛合位置に移動させられ、該スタータモータにより該車両用スタータリングギヤが回転駆動されない場合には前記非噛合位置に移動させられるものであり、
前記熱抵抗部は、前記非噛合位置に位置させられた前記ピニオンギヤに対して前記回転中心線に平行な方向において対向する前記車両用スタータリングギヤの一方の側面に前記円板状部材との溶接が施される場合には、該一方の側面に設けられることを特徴とする請求項2または3の車両用スタータリングギヤ。
【請求項6】
前記車両用スタータリングギヤは、車両走行停止時には前記エンジンが一時的に自動停止されると共に車両走行開始時には該エンジンが再始動されるエンジン自動停止始動制御の実行時において、該エンジンを再始動するために前記スタータモータにより回転駆動されるものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1の車両用スタータリングギヤ。
【請求項1】
外周歯を有して円環状を成し、エンジンと共に回転する円板状部材の外周面に嵌合された状態で該円板状部材との間で複数箇所が溶接され、前記エンジンを始動するために、前記外周歯と噛合可能なピニオンギヤを有するスタータモータにより回転駆動される車両用スタータリングギヤであって、
該車両用スタータリングギヤの内周面と前記外周歯の歯面との間のうち、少なくとも該車両用スタータリングギヤと前記円板状部材との間の溶接部の外周側に、該溶接部の溶接時の熱が前記外周歯へ伝導することを抑制する熱抵抗部を備えていることを特徴とする車両用スタータリングギヤ。
【請求項2】
前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの側面に周方向に形成された周方向溝または接線方向に形成された直線溝であることを特徴とする請求項1の車両用スタータリングギヤ。
【請求項3】
前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの側面に全周にわたって連続して形成された環状溝であることを特徴とする請求項1の車両用スタータリングギヤ。
【請求項4】
前記熱抵抗部は、前記車両用スタータリングギヤの一方の側面から他方の側面に向けて貫通して形成された貫通穴であることを特徴とする請求項1の車両用スタータリングギヤ。
【請求項5】
前記ピニオンギヤは、前記車両用スタータリングギヤに噛み合う噛合位置と該車両用スタータリングギヤに噛み合わない非噛合位置との間で該車両用スタータリングギヤの回転中心線に平行な方向に移動可能に設けられ、前記スタータモータにより該車両用スタータリングギヤが回転駆動される場合には前記噛合位置に移動させられ、該スタータモータにより該車両用スタータリングギヤが回転駆動されない場合には前記非噛合位置に移動させられるものであり、
前記熱抵抗部は、前記非噛合位置に位置させられた前記ピニオンギヤに対して前記回転中心線に平行な方向において対向する前記車両用スタータリングギヤの一方の側面に前記円板状部材との溶接が施される場合には、該一方の側面に設けられることを特徴とする請求項2または3の車両用スタータリングギヤ。
【請求項6】
前記車両用スタータリングギヤは、車両走行停止時には前記エンジンが一時的に自動停止されると共に車両走行開始時には該エンジンが再始動されるエンジン自動停止始動制御の実行時において、該エンジンを再始動するために前記スタータモータにより回転駆動されるものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1の車両用スタータリングギヤ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−252538(P2011−252538A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126236(P2010−126236)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000175722)サンコール株式会社 (96)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000175722)サンコール株式会社 (96)
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