説明

車両用スライドドア構造

【課題】構造が簡単で、しかも車室内空間及びドア開口部を大きくすることのできる車両用スライドドア構造を提供する。
【解決手段】スライドドア4によって開閉されるドア開口部5の上部に車両前後方向に沿って設けられたアッパレール6と、スライドドア4の前側上部に取り付けられアッパレール6に向けて配置されたアッパアーム8と、アッパアーム8の先端部に取り付けられアッパレール6にガイドされながらアッパレール6内を回転移動するガイドローラ9とを備え、アッパレール6は、前端部が車幅方向内側に湾曲しているとともに上方にも湾曲し、アッパアーム8は、ヒンジ部7を介してスライドドア4に取り付けられ、ヒンジ部7を中心にして上下方向に揺動自在である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用スライドドア構造に係り、特に、スライドドアの上方にスライド機構を有する車両用スライドドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スライドドアを有する車両においては、スライドドアによって開閉されるドア開口部の上部に車両前後方向に沿ってアッパレールが設けられている。このようなアッパレールとして、例えば、直線状のメインレールと、このメインレールの下側に配置され前部が車室内側へなだらかに湾曲したサブレールとを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に示された車両用スライド構造は、スライドドアの前側上部に固定されたアッパアームにメインローラとサブローラが回転自在に取り付けられており、メインローラはメインレール内を、サブローラはサブレール内をそれぞれ回転しながら移動するよう構成されている。
【特許文献1】特開2003−214015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に示された車両用スライド構造では、2種類のローラ(メインローラとサブローラ)が必要で、また2種類のレール(メインレールとサブレール)も必要であって、しかもアッパアームがスライドドアに対して水平方向に回動する構成であるため、構造が複雑化するという問題がある。
【0005】
また、2種類のレール(メインレールとサブレール)は上下2段に配置されているため、ルーフトリムの出っ張りが大きくなって乗員上部の頭上空間が狭くなるとともに、ドア開口部の上下方向の開口寸法が小さくなってしまうという問題もある。
【0006】
本発明の課題は、構造が簡単で、しかも車室内空間及びドア開口部を大きくすることのできる車両用スライドドア構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、スライドドアによって開閉されるドア開口部の上部に車両前後方向に沿って設けられたアッパレールと、スライドドアの前側上部に取り付けられ前記アッパレールに向けて配置されたアッパアームと、前記アッパアームに取り付けられ前記アッパレールにガイドされながら該アッパレール内を移動する移動体とを備え、前記アッパレールは、前端部が車幅方向内側に湾曲しているとともに上方にも湾曲し、前記アッパアームは、スライドドアへの取付点と前記移動体の取付点との間で上下方向に揺動自在であることを特徴としている。
【0008】
上記のように、アッパレールの前端部を車幅方向内側に湾曲させるとともに上方にも湾曲させ、その上で、アッパアームをスライドドアへの取付点と移動体の取付点との間で上下方向に揺動自在な構成にすれば、アッパレールを上下2段に配置しなくてもルーフトリムの出っ張りの小さな車両用スライドドア構造を実現できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ルーフトリムの出っ張りが小さくなって、乗員上部の頭上空間を大きくすることができるとともに、ドア開口部の上下方向の開口寸法も大きくすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【実施例】
【0011】
図8は、本発明に係る車両用スライドドア構造が適用された車両の外観図である。図8に示すように、この車両1は、いわゆるミニバンタイプの自動車であり、その車体2の左側側部3には、車両前後方向に移動することで開閉可能とされたスライドドア4が設けられている。スライドドア4は、その前端上部4A、前端下部4B及び後端中央部4Cの3箇所で車体側部3に支持されている。また、スライドドア4の前端上部4Aにはアッパローラ(図示省略)が、前端下部4Bにはロアローラ(図示省略)が、後端中央部4Cにはセンタローラ(図示省略)がそれぞれ配設されており、これらローラと車体2側に固定されたアッパレール、ロアレール及びセンタレール(いずれも図示省略)によって、スライドドア4は、全閉位置と全開位置との間をスライド可能となっている。
【0012】
図1及び図2はスライドドア4の前端上部4A付近の断面を示しており、図1はスライドドア4を閉めたときの断面図であり、図2はスライドドア4を開けたときの断面図である。
【0013】
車体2の左側側部にはスライドドア4に対応してドア開口部5が形成され、ドア開口部5の上部には1本のアッパレール6が配設されている。アッパレール6は断面が略コの字型を成し、開口部側が下方を向くように配置されている。またアッパレール6は、図3に示すように、前端部が車幅方向内側(車室内R側)に向けて曲げられ湾曲形状を成している。前端部以外では、アッパレール6は車両前後方向に沿って直線状に配置されている。なお、図3はアッパレール6などを上方から見た状態を示しており、下方が車両前部側であり、上方が車両後部側である。
【0014】
また、アッパレール6は、図1に示すように、前端部が僅かに上方に湾曲し、この湾曲した部分では、開口端側は僅かに車室内R側へ傾いている。すなわち、アッパレール6は前端部では3次元的にひねられた形状を成している。
【0015】
スライドドア4はアウタパネル4Aとインナパネル4Bとを備え、このうち、インナパネル4Bの上部にはヒンジ部7が設けられている。ヒンジ部7は、図4に示すように、インナパネル4Bの上部に固定されたヒンジブラケット7Aと、ヒンジブラケット7A先端に固定された軸7Bと、軸7Bに揺動自在に取り付けられたアームブラケット7Cとを備えている。そして、アームブラケット7Cにはアッパアーム8が一体的に取り付けられている。つまり、アッパアーム8はヒンジ部7を中心にして矢印A方向に揺動自在となっている。また、アッパアーム8は先端部が車両前部側に向かってくの字形に折り曲げられている。
【0016】
アッパアーム8の先端部には、移動体として1個のガイドローラ9が回転自在に取り付けられている。ガイドローラ9はアッパレール6内に収容されており、スライドドア4の移動に伴ってアッパレール6内を回転しながら、かつアッパレール6にガイドされながら移動する。
【0017】
図5は、ガイドローラ9がアッパレール6内に収容された様子を示す拡大断面図である。図5に示すように、ガイドローラ9は、アッパアーム8の先端部に固定された支軸9Aに回転自在に取り付けられている。つまり、図には示してないが、支軸9Aの先端にはベアリングが設けられており、ガイドローラ9は前記ベアリングを介して支軸9Aの先端に取り付けられている。
【0018】
また、アッパレール6は開口端側を下方に向けた断面略コの字型を成しているが、開口端側の両先端部には互いに内側に向けて折り曲げられたストッパ6Aが設けられており、ガイドローラ9がアッパレール6から脱落しないようになっている。
【0019】
なお、図1及び図2において、符号10はルーフパネルであり、11はルーフパネル10の内側に張られたルーフトリムである。
【0020】
次に、本実施例による車両用スライドドア構造における作用について説明する。
【0021】
先ず、スライドドア4が開けられたとき(全開時または途中まで開けたとき)は、図2に示すように、アッパアーム8は略水平状態となり、アッパアーム8、ヒンジブラケット7Aが略一直線上に並んでいる。アッパレール6は前端部以外の位置では車両前後方向に沿って直線状に且つ水平に配置されているので、アッパレール6の開口端は下方に向いており、スライドドア4が開けられた位置にあるときは、ガイドローラ9は正立状態(傾いていない状態)で回転する。このため、スライドドア4の前後方向への移動はスムーズである。また、スライドドア4が開けられた位置にあるときは、スライドドア4は車体2から距離Lだけ離れたところに位置している。
【0022】
次に、スライドドア4が閉められたとき(全閉時)は、図1に示すように、ガイドローラ9がアッパレール6前端部の湾曲部に沿って移動し、アッパアーム8が車幅方向内側へ引っ張られる。また、アッパレール6の前端部は僅かに上方へ湾曲しているので、ガイドローラ9がアッパレール6の湾曲部に沿って移動すると、アッパアーム8はガイドローラ9に引っ張られてヒンジ部7を中心にして上方に揺動する。アッパレール6は前端部では開口端が車室内R側に僅かに向いており、この状態のときは、ガイドローラ9は僅かに傾いた状態で回転している。また、スライドドア4の全閉時には、スライドドア4は車体2に密着している。
【0023】
本実施例によれば、アッパレール6は前端部が車幅方向内側に湾曲しているとともに上方に湾曲し、またアッパアーム8はヒンジ部7を中心にして上下方向に揺動自在であるので、構造が極めて簡単となる。すなわち、従来技術のようにアッパレールを上下2段に配置して、各アッパレール内を移動するにガイドローラを設けたりする必要がなくなる。その結果、乗員の頭上空間を大きく確保することができ、また、ドア開口部5の上下方向の開口寸法も大きく確保することができ、乗降性が向上する。また、構造が簡単になるので、車両の軽量化にも寄与する。
【0024】
ここで、乗員の頭上空間を大きく確保することができる点について、本実施例と従来例とを比較しながら説明する。
【0025】
図6は従来例における車両用スライド構造を断面で示した図であり、車室内の乗員12の頭部とアッパレール6A’,6B’付近のルーフトリム11との間の距離L1が小さい。このような状態では乗員12は圧迫感を感じる。
【0026】
これに対し、本実施例における車両用スライド構造では、図7に示すように、車室内の乗員12の頭部とアッパレール6付近のルーフトリム11との間の距離L2が大きくとれ、乗員12はあまり圧迫感を感じないで済む。
【0027】
なお、図6において、8’はアッパアームを、9A’,9B’はアッパアーム8’の先端に回転自在に取り付けられたガイドローラである。
【0028】
また、本実施例によれば、スライドドア4の前側上部にはヒンジ部7が設けられ、アッパアーム8はヒンジ部7を介してスライドドア6に取り付けられているので、アッパアーム8先端の上下方向への揺動を簡単な構成で実現することができる。
【0029】
また、図3及び図4に示したように、アッパアーム8は先端部が車両前方へ折り曲げられているので、スライドドア4の全閉時、アッパアーム8の先端部はアッパレール6の先端に位置させることができ、車室内のスペースを大きく確保することができる。
【0030】
さらに、アッパアーム8がアッパレール6の下方に配置されているので、スライドドア4の全閉時、アッパアーム8をより車室内方へ位置させることができ、その結果、アッパアーム8の収納性に優れ、また車室内のスペースをより一層大きく確保することができる。
【0031】
以上、本発明の実施例を図面により詳述してきたが、上記実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記実施例の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。例えば、本発明の車両用スライドドア構造はミニバンタイプの自動車だけでなく、通常のバンタイプの自動車にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】スライドドアの前端上部付近の断面を示しており、スライドドアを閉めたときの断面図である。
【図2】図1において、スライドドアを開けたときの断面図である。
【図3】アッパレールやアッパアーム等の平面図である。
【図4】スライドドア、及びその前端上部に取り付けられたヒンジ部やアッパアームの斜視図である。
【図5】アッパアームに取り付けられアッパレール内に収容されたガイドローラを示す図である。
【図6】従来技術による車両用スライドドア構造において、アッパレール付近のルーフトリムと乗員頭部との関係を示す図である。
【図7】本発明による車両用スライドドア構造において、アッパレール付近のルーフトリムと乗員頭部との関係を示す図である。
【図8】本発明による車両用スライドドア構造が適用された車両の外観図である。
【符号の説明】
【0033】
4 スライドドア
5 ドア開口部
6 アッパレール
7 ヒンジ部
8 アッパアーム
9 ガイドローラ
11 ルーフトリム
12 乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドドアによって開閉されるドア開口部の上部に車両前後方向に沿って設けられたアッパレールと、スライドドアの前側上部に取り付けられ前記アッパレールに向けて配置されたアッパアームと、前記アッパアームに取り付けられ前記アッパレールにガイドされながら該アッパレール内を移動する移動体とを備え、
前記アッパレールは、前端部が車幅方向内側に湾曲しているとともに上方にも湾曲し、
前記アッパアームは、スライドドアへの取付点と前記移動体の取付点との間で上下方向に揺動自在であることを特徴とする車両用スライドドア構造。
【請求項2】
前記取付点にはヒンジ部が設けられ、前記アッパアームは前記ヒンジ部を介して前記スライドドアの前側上部に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用スライドドア構造。
【請求項3】
前記アッパアームは、先端部が車両前方へ折り曲げられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用スライドドア構造。
【請求項4】
前記アッパアームは、前記アッパレールの下方に配置されていることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の車両用スライドドア構造。
【請求項5】
前記移動体は、ガイドローラであることを特徴とする請求項1に記載の車両用スライドドア構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−321394(P2007−321394A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151265(P2006−151265)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】