説明

車両用ダクトの固定構造

【課題】ダクトをボデーに対して簡易的な構造で容易に組み付けることができ、組み付け作業性の向上、コストダウン等を図ることができる車両用ダクトの固定構造を提供すること。
【解決手段】車両用ダクトの固定構造1では、ブロー成形により成形してなり、後端側に後部座席の乗員に対してエアを吹き出す吹出口43を備えた後端部42を有するダクト(下流側ダクト)4の後端部42が車両のボデー20に固定されている。下流側ダクト4の後端部42には、ボデー20側に向けて突出した中空突起部44が一体的に設けられ、中空突起部44には、ボデー20に設けた係合孔部23に係合する係合爪部45が設けられており、係合爪部45を中空突起部44の内側に向けて弾性変形させながら、係合爪部45を含む中空突起部44の一部を係合孔部23に挿入し、係合爪部45を係合孔部23に係合させることにより、下流側ダクト4の後端部42をボデー20に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後部座席の乗員に対して空調されたエアを吹き出す吹出口を備えたダクトを車両のボデーに固定する車両用ダクトの固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両において、空調装置からのエアを送風するための様々な車両用ダクト及びその固定構造等が知られている(特許文献1参照)。
車両用ダクトとしては、例えば、後部座席の乗員に対して空調装置からのエアを吹き出すよう構成されたものがある。このような車両用ダクトは、車両のインストルメントパネル内に配設された空調装置から後方に向けて前部座席の下部の床面上に設けられており、複数のダクトを連結して形成されている。そして、最も下流側のダクトは、後部座席の乗員に対してエアを吹き出す吹出口を備えている。
【0003】
また、吹出口を備えたダクトは、その後端部が車両の床面等のボデーに固定されている。従来は、ダクトの後端部に設けた突片部に貫通孔を形成し、さらに床面等のボデーにも貫通孔を形成し、それらの貫通孔にクリップ等の固定部材を挿入することにより、ダクトの後端部を車両のボデーに対して固定していた。
【0004】
【特許文献1】特開2006−273274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の構造では、ダクトをボデーに対して固定する際に、両者を固定するための固定部材等の別部材を必要とする。そのため、組み付けに必要な作業工数や部品点数が多くなってしまう。また、固定部材等を取り付けるための座面等を確保するために、ダクト及びボデーの形状に関して制約が多くなり、設計自由度が低くなってしまう。また、固定部材等の形状によっては、ボデーに固定したダクトを容易に取り外すことができない場合がある。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、ダクトをボデーに対して簡易的な構造で容易に組み付けることができ、組み付け作業性の向上、コストダウン等を図ることができる車両用ダクトの固定構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ブロー成形により成形してなり、先端側が上流側のダクトに接続され、後端側に後部座席の乗員に対して空調されたエアを吹き出す吹出口を備えた後端部を有するダクトの上記後端部を車両のボデーに固定する車両用ダクトの固定構造であって、
上記ダクトの上記後端部には、上記ボデー側に向けて突出した中空突起部が一体的に設けられ、該中空突起部には、上記ボデーに設けた係合孔部に係合する係合爪部が設けられており、
該係合爪部を上記中空突起部の内側に向けて弾性変形させながら、上記係合爪部を含む上記中空突起部の少なくとも一部を上記係合孔部に挿入し、上記係合爪部を上記係合孔部に係合させることにより、上記ダクトの上記後端部を上記ボデーに固定することを特徴とする車両用ダクトの固定構造にある(請求項1)。
【0008】
本発明の車両用ダクトの固定構造において、ブロー成形により成形されてなる上記ダクトの上記後端部には、上記中空突起部が一体的に設けられている。そして、該中空突起部に設けた上記係合爪部を上記ボデーに設けた上記係合孔部に係合させることにより、上記ダクトの上記後端部を上記ボデーに固定している。そのため、上記ダクトを上記ボデーに対して簡易的な構造で容易に組み付けることができる。これにより、上記ダクトの組み付け作業性を向上させることができる。
【0009】
また、上記中空突起部は、ブロー成形により中空状に形成されている。よって、該中空突起部に設けた上記係合爪部も、中空状に形成されている。そのため、上記係合爪部を弾性変形させて上記係合孔部に係合させるという作業を容易に行うことができる。これにより、上記ダクトの組み付け作業性を向上させることができる。
また、上記ダクトを組み付けた状態においては、中空状に形成された上記係合爪部やその周辺部を変形させることにより、上記係合爪部と上記係合孔部との係合状態を容易に解除することができる。つまり、上記ボデーに固定した上記ダクトを容易に取り外すことができる。
【0010】
また、従来のように、上記ダクトを上記ボデーに対して固定するための別部材を必要としない。そのため、上記ダクトの組み付けに必要な作業工数を減らすことができ、組み付け作業性を向上させることができる。また、上記ダクトの組み付けに必要な部品点数を減らすことができ、コストダウンを図ることができる。また、別部材を取り付けるために生じていた上記ダクト及び上記ボデーの形状に関する制約を少なくすることができ、設計自由度を高めることができる。
【0011】
このように、本発明によれば、ダクトをボデーに対して簡易的な構造で容易に組み付けることができ、組み付け作業性の向上、コストダウン等を図ることができる車両用ダクトの固定構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、上記中空突起部は、上記ダクトの上記後端部の後端面から同一平面上に延設されてなる中空延設面を有し、該中空延設面には、後方に突出した上記係合爪部が設けられていることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記ダクトを組み付けた状態において、上記係合孔部に挿入されていない上記係合爪部の周辺部の上記中空延設面又はそれと同一平面上にある上記後端面を押す等して弾性変形させることにより、上記係合爪部の位置を容易に変化させることができる。これにより、上記係合爪部と上記係合孔部との係合状態をさらに容易に解除することができる。つまり、上記ボデーに固定した上記ダクトをさらに容易に取り外すことができる。
【0013】
また、上記係合爪部は、上記係合孔部に挿入された状態において該係合孔部の周縁部裏面に対向する対向面を有することが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記係合爪部と上記係合孔部との係合状態をより一層高めることができる。そのため、上記ダクトの上記後端部を上記ボデーに対して十分かつ確実に固定することができる。
【0014】
また、上記係合爪部は、上記中空突起部の挿入方向に沿って、上記対向面に近づくほど挿入方向に対して直交する方向への突出高さが高くなるよう傾斜する傾斜面を有することが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記係合爪部の上記傾斜面を上記係合孔部の内周縁部に沿わせて、上記中空突起部の少なくとも一部を上記係合孔部に円滑に挿入することができる。そのため、上記ダクトの組み付け作業性をさらに向上させることができる。
【実施例】
【0015】
本発明の実施例にかかる車両用ダクトの固定構造について、図を用いて説明する。
本例の車両用ダクトの固定構造1は、図1〜図3に示すごとく、先端側が上流側のダクト3(以下、上流側ダクト3という)に接続され、後端側に後部座席の乗員に対して空調されたエアを吹き出す吹出口43を備えた後端部42を有するダクト4(以下、下流側ダクト4という)の後端部42を車両のボデー20に固定した構造である。
【0016】
図1に示すごとく、上流側ダクト3は、車両のインストルメントパネル(図示略)内に配設された空調装置(図示略)に対して上下方向に接続される開口部300を有するメインダクト30と、メインダクト30から分岐された第1分岐ダクト31及び第2分岐ダクト32とからなる。
【0017】
同図に示すごとく、第1分岐ダクト31は、メインダクト30に対して上下方向に接続された第1接続部311と、第1接続部311の下端から水平方向に折れて車両フロア21(図3)上に沿わせた第1水平部312とからなる。
また、第2分岐ダクト32も、第1分岐ダクト31と同様に、メインダクト30に対して上下方向に接続された第2接続部321と、第2接続部321の下端から水平方向に折れて車両フロア21(図3)上に沿わせた第2水平部322とからなる。
【0018】
同図に示すごとく、上流側ダクト3の第1分岐ダクト31の第1水平部312の後端側には、第1水平部312に対して水平方向に接続された下流側ダクト4が設けられている。また、同様に、上流側ダクト3の第2分岐ダクト32の第2水平部322の後端側には、第2水平部322に対して水平方向に接続された下流側ダクト4が設けられている。
ここで、両下流側ダクト4は、同様の構成を有している。よって、以下、第1分岐ダクト31に接続された下流側ダクト4について説明し、第2分岐ダクト32に接続された下流側ダクト4については説明を省略する。
【0019】
図2、図3に示すごとく、下流側ダクト4は、ブロー成形により成形してなり、中空状に形成されている。下流側ダクト4は、車両フロア21上に沿わせて水平方向に設けられた本体部40と、本体部40の後端から上方に立ち上がって設けられた立ち上がり部41と、立ち上がり部41の上端から後方に向けて水平方向に突出し、本体部40及び立ち上がり部41よりも幅広に設けられた後端部42とからなる。また、本体部40の先端側には、上流側ダクト3と接続される先端部401が設けられている。
また、後端部42の上面421には、立ち上がり部41の立ち上がり方向に開口し、後部座席の乗員に対して空調されたエアを吹き出す吹出口43が設けられている。
【0020】
図3に示すごとく、吹出口43の上方には、吹出口43を覆うように吹出グリル25が設けられている。吹出グリル25は、後方に開口する吹出開口部251を有しており、吹出口43から吹き出したエアが吹出グリル25の内部を通過して吹出開口部251から送出されるよう構成されている。
また、後端部42と吹出グリル25との間には、フロアカーペット24が後端部42の上面421を座面として敷設されている。
【0021】
また、図2、図3に示すごとく、後端部42の幅方向における中央寄りの位置には、ボデー20側に向けて突出した中空突起部44が一体的に設けられている。中空突起部44は、後端部42の後端面420から同一平面上に延設されてなる中空延設面440を有している。中空延設面440には、後方に突出した係合爪部45が設けられている。
【0022】
また、図3に示すごとく、後端部42と車両フロア21との間には、フロアクロスメンバ22が配設されている。フロアクロスメンバ22は、車両フロア21上において車幅方向に延びて配設されている。フロアクロスメンバ22には、フロアクロスメンバ22を貫通して形成された係合孔部23が設けられている。この係合孔部23には、係合爪部45を含む中空突起部44の一部が挿入されており、係合爪部45が係合孔部23に係合している。
【0023】
具体的には、図2、図3に示すごとく、係合爪部45は、板状の部材であるフロアクロスメンバ22の係合孔部23の周縁部裏面231に対向する対向面451を有している。この対向面451が係合孔部23の周縁部裏面231に対向することにより、中空突起部44の係合爪部45が係合孔部23に係合され、下流側ダクト4の後端部42がボデー20に対して固定される。
【0024】
また、図2、図3に示すごとく、係合爪部45は、中空突起部44の挿入方向に沿って、対向面451に近づくほど挿入方向に対して直交する方向への突出高さが高くなるよう傾斜する傾斜面452を有している。
【0025】
次に、本例の車両用ダクトの固定構造1における作用効果について説明する。
本例の車両用ダクトの固定構造1において、下流側ダクト4を組み付ける際には、その先端部401を上流側ダクト3に接続し、その接続位置を中心として後端部42を下方に回動させる。これにより、図3を参照のごとく、中空突起部44に設けられた係合爪部45は、その傾斜面452が係合孔部23の内周縁部232に接触し、中空突起部44の内側に押されて弾性変形する。そして、係合爪部45を含む中空突起部44の一部を係合孔部23に挿入する。その後、挿入孔部23に挿入された係合爪部45が元の形状に戻り、係合爪部45の対向面451が係合孔部23の周縁部裏面231に対向することにより、係合爪部45が係合孔部23に係合する。
【0026】
すなわち、本例では、中空突起部44に設けた係合爪部45をボデー20に設けた係合孔部23に係合させることにより、下流側ダクト4の後端部42をボデー20に固定している。そのため、下流側ダクト4をボデー20に対して簡易的な構造で容易に組み付けることができる。これにより、下流側ダクト4の組み付け作業性を向上させることができる。
【0027】
また、従来のように、下流側ダクト4をボデー20に対して固定するための別部材を必要としない。そのため、下流側ダクト4の組み付けに必要な作業工数を減らすことができ、組み付け作業性を向上させることができる。また、下流側ダクト4の組み付けに必要な部品点数を減らすことができ、コストダウンを図ることができる。また、別部材を取り付けるために生じていた下流側ダクト4及びボデー20の形状に関する制約を少なくすることができ、設計自由度を高めることができる。
【0028】
また、下流側ダクト4を組み付けた状態においては、中空状に形成された係合爪部45やその周辺部を弾性変形させることにより、係合爪部45と係合孔部23との係合状態を容易に解除することができる。つまり、ボデー20に固定した下流側ダクト4を容易に取り外すことができる。
【0029】
特に、本例では、中空突起部44は、下流側ダクト4の後端部42の後端面420から同一平面上に延設されてなる中空延設面440を有しており、中空延設面440には、後方に突出した係合爪部45が設けられている。そのため、下流側ダクト4を組み付けた状態において、係合孔部23に挿入されていない係合爪部45の周辺部の中空延設面440又はそれと同一平面上にある後端面420を押す等して弾性変形させることにより、係合爪部45の位置を容易に変化させることができる。これにより、係合爪部45と係合孔部23との係合状態を解除し、ボデー20に固定した下流側ダクト4を容易に取り外すことができる。
【0030】
このように、本例によれば、下流側ダクト4をボデー20に対して簡易的な構造で容易に組み付けることができ、組み付け作業性の向上、コストダウン等を図ることができる車両用ダクトの固定構造1を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例における、上流側ダクト及び下流側ダクトを示す説明図。
【図2】実施例における、一方の下流側ダクトを示す説明図。
【図3】図2におけるA−A線断面図。
【符号の説明】
【0032】
1 車両用ダクトの固定構造
20 ボデー
23 係合孔部
4 ダクト(下流側ダクト)
42 後端部
43 吹出口
44 中空突起部
45 係合爪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロー成形により成形してなり、先端側が上流側のダクトに接続され、後端側に後部座席の乗員に対して空調されたエアを吹き出す吹出口を備えた後端部を有するダクトの上記後端部を車両のボデーに固定する車両用ダクトの固定構造であって、
上記ダクトの上記後端部には、上記ボデー側に向けて突出した中空突起部が一体的に設けられ、該中空突起部には、上記ボデーに設けた係合孔部に係合する係合爪部が設けられており、
該係合爪部を上記中空突起部の内側に向けて弾性変形させながら、上記係合爪部を含む上記中空突起部の少なくとも一部を上記係合孔部に挿入し、上記係合爪部を上記係合孔部に係合させることにより、上記ダクトの上記後端部を上記ボデーに固定することを特徴とする車両用ダクトの固定構造。
【請求項2】
請求項1において、上記中空突起部は、上記ダクトの上記後端部の後端面から同一平面上に延設されてなる中空延設面を有し、該中空延設面には、後方に突出した上記係合爪部が設けられていることを特徴とする車両用ダクトの固定構造。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記係合爪部は、上記係合孔部に挿入された状態において該係合孔部の周縁部裏面に対向する対向面を有することを特徴とする車両用ダクトの固定構造。
【請求項4】
請求項3において、上記係合爪部は、上記中空突起部の挿入方向に沿って、上記対向面に近づくほど挿入方向に対して直交する方向への突出高さが高くなるよう傾斜する傾斜面を有することを特徴とする車両用ダクトの固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−64643(P2010−64643A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233576(P2008−233576)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】