説明

車両用ドアヒンジ装置

【課題】ヒンジ部材を単一のボルトにより固定部に簡単かつ確実に締結固定する。
【解決手段】車体パネルに固定される固定ヒンジ部材2とドアパネルに固定される可動ヒンジ部材3とを互いにヒンジ軸4により回動可能に連結し、固定ヒンジ部材2の被固定部21が単一のボルト5により車体パネルに固定される。単一のボルト5は、固定ヒンジ部材2の被固定部21に設けられる単一のボルト挿入孔24に予め回り止め固定され車体パネルに設けられる取付孔に挿入される雄ねじ部54と、被固定部21を車体パネルに固定するため、取付孔に挿入された雄ねじ部54に螺合可能なナットを締め付けることによって、取付孔の開口縁に雄ねじ部54の回転方向に対して係合可能な回り止め突起55を一体的に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアを車体に開閉可能に枢着するための車両用ドアヒンジ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ドアヒンジ装置において、車体パネルにボルトにより締結固定される固定ヒンジ部材と、当該固定ヒンジ部材にヒンジ軸により回動可能に連結されると共にドアパネルにボルトにより締結固定される可動ヒンジ部材とを備え、固定ヒンジ部材を1本のボルトをもって車体パネルに締結固定するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−303831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されているような車両用ドアヒンジ装置は、複数本(例えば2本)のボルトによって固定ヒンジ部材を車体パネルに締結するようにしたものに比して、ボルト数、ボルト取付孔等の加工を少なくして構成の簡素化を図ることはできるが、ボルトが単一であると車体パネルに対する固定ヒンジ部材の回り止め構成が無いため、固定ヒンジ部材を車体パネルに固定する際、車体パネルの裏側から突出したボルトにナットを螺合して締め付けると、単一のボルトが固定ヒンジ部材と共に空回りしてナットの締結が不能になって固定ヒンジ部材の取付け作業効率の低下を招くこととなる。
また、車両取付後においても、経年劣化に伴いドアとともに固定ヒンジ部材が回転してしまうことによって、車体パネルの塗装割れを起こしてしまう虞があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、ヒンジ部材を単一のボルトにより固定部に簡単かつ確実に締結固定可能にした車両用ドアヒンジ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、車体に固定されるヒンジ部材とドアに固定されるヒンジ部材とを互いにヒンジ軸により回動可能に連結し、前記車体又は前記ドアに固定される前記ヒンジ部材が単一のボルトにより前記車体又は前記ドアに固定される車両用ドアヒンジ装置において、前記単一のボルトは、前記車体又は前記ドアに固定される前記ヒンジ部材に設けられる単一のボルト挿入孔に予め回り止め固定されると共に、前記車体又は前記ドアに設けられる取付孔に挿入される雄ねじ部と、前記取付孔に挿入された前記雄ねじ部に螺合可能なナットを締め付けることによって、前記取付孔の開口縁に前記雄ねじ部の回転方向に対して係合可能な回り止め突起を一体的に有することを特徴とする。
【0007】
上記構成を採用することにより、車体又はドアに設けられる取付孔に挿入したボルトにナットを螺合して締結する際、ボルトに設けた回り止め突起が取付孔に回り止め係合してヒンジ部材及びボルトの回動が阻止されるため、ナットを確実に締め付けることができ、ヒンジ部材を車体又はドアに簡単かつ確実に締結固定することが可能となる。また、回り止め突起は、ボルトに一体的に形成され、かつボルトが挿通する取付孔の開口縁に係合するため、車体、ドア及びヒンジ部材に単一の取付孔以外の加工を施す必要がないため、構成の簡素化を図ることが可能となる。
【0008】
好ましくは、前記回り止め突起は、前記取付孔の開口縁の一部を変形させて前記開口縁に係合することを特徴とする。この構成により、ボルトに設けた回り止め突起を取付孔の開口縁に隙間なく係合させることができる。
【0009】
さらに好ましくは、前記回り止め突起は、前記取付孔の開口縁に予め形成された切欠き部に係合することを特徴とする。この構成により、回り止め突起を取付孔に簡単に係合させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、単一のボルトに設けた回り止め突起をボルトが挿入される固定部の取付孔に回り止め係合することにより、単一のボルトをもって、ヒンジ部材を固定部に簡単かつ確実に締結固定することが可能となる。また、ドアヒンジを車体及びドアへの固定後は、単一のボルトを用いて固定される構造においても、回り止め突起が取付孔に回り止め係合されるため、ドアがボルトを中心に回転することはなく、車体の塗装割れを起こすことがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係わるドアヒンジ装置及び車体の左前部の斜視図である。
【図2】同じくドアヒンジ装置の正面図である。
【図3】同じくドアヒンジ装置の裏面図である。
【図4】図2における矢印IV方向から見た平面図である。
【図5】図2における矢印Vから見た側面図である。
【図6】図3におけるVI−VI線拡大断面図である。
【図7】取付孔の正面図である。
【図8】取付孔の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、図1における左斜め下方、図2、4における左方を「前方」とし、図1における右斜め上方、図2、4における右方を「後方」とし、図4における下方を「車外側」とし、図4における上方を「車内側」とする。なお、図4は、図2において矢印IVから見た平面図を示すが、理解を容易化するため、図4においては、ドアヒンジ装置1を車体パネルB及びドアパネルDに取り付けた状態を示している。
【0013】
ドアヒンジ装置1は、車体パネルBに固定される金属製の固定ヒンジ部材2と、ドアパネルD(図4参照)に固定される金属製の可動ヒンジ部材3とを備え、固定ヒンジ部材2と可動ヒンジ部材3とが互いに上下方向を向く金属製のヒンジ軸4により回動可能に連結されることにより、ドアを車体に開閉可能に枢着する。なお、ドアヒンジ装置1は、通常、図1に示すように上下一組で使用されるが、上下のドアヒンジ装置1は同一構成であるため、以下の説明では、上側のドアヒンジ装置1を代表して説明する。
【0014】
固定ヒンジ部材2は、プレス加工により一体成型され、車体パネルBに対向する正面視ほぼ矩形の被固定部21と、被固定部21の上下に車外側へ直角に折曲形成され互いに対向する上下の支持片部22、22と、被固定部21の後端から車外側へほぼ直角に折曲されたストッパ部23とを有する。
【0015】
固定ヒンジ部材2の被固定部21のほぼ中央には、単一の円形のボルト挿入孔24が設けられている。ボルト挿入孔24には、車内側を向く単一のボルト5が挿入されて回り止め固定される。
【0016】
可動ヒンジ部材3は、プレス加工により一体成形され、ドアパネルDにボルト7により締結固定される上下の取付片部31、31と、固定ヒンジ部材2の上下の支持片部22、22間にヒンジ軸4により回動可能に連結される上下の支持片部32、32と、上下の支持片部32、32の前端同士を連結する連結片部33とを有する。
【0017】
ドアヒンジ装置1は、ドアが開き方向へ回動すると、図4において可動ヒンジ部材3がヒンジ軸4を中心に時計方向へ回動し可動ヒンジ部材3の連結片部33に設けられた被ストッパ部33aが固定ヒンジ部材2のストッパ部23に面当りすることでそれ以上の回動を阻止してドアを全開位置に止める。
【0018】
ボルト5は、車外側から拡径の頭部51、頭部51よりも小径で外周面にセレーションを形成したセレーション軸部52、セレーション軸部52よりも小径の非ねじ部53、非ねじ部53よりも小径の雄ねじ部54の順で形成され、固定ヒンジ部材2のボルト挿入孔24にセレーション軸部52を車外側から圧入することで回り止め固定される。
【0019】
さらに、ボルト5のセレーション軸部52と非ねじ部53間の段差部分には、非ねじ部53の外周から外方へ若干突出する尖形状の回り止め突起55が2個設けられる。
【0020】
ボルト5のセレーション軸部52の軸方向の寸法(図6において上下方向の長さ)は、固定ヒンジ部材2における被固定部21の板厚よりも若干小さくなるように設定される。従って、セレーション軸部52を固定ヒンジ部材2のボルト挿入孔24に圧入した状態において、セレーション軸部52は、ボルト挿入孔24から車内側へ露出することはない。
【0021】
ボルト5のセレーション軸部52を固定ヒンジ部材2のボルト挿入孔24に回り止め固定した状態において、2個の回り止め突起55、55は、図6に明示されるように、固定ヒンジ部材2のボルト挿入孔24から車体パネルBに向けて若干突出する。好ましくは、ボルト挿入孔24から突出する回り止め突起55の突出量は、車体パネルBの板厚とほぼ同程度又は若干大きくする。
【0022】
ドアヒンジ装置1の固定ヒンジ部材2を車体パネルBに固定するには、固定ヒンジ部材2のボルト挿入孔24に予めボルト5を回り止め固定し、この状態で、固定ヒンジ部材2のボルト挿入孔24から突出したボルト5の雄ねじ部54を車体パネルBに設けられた取付孔B1に挿入し、車体パネルBの裏側へ突出した雄ねじ部54にナット6を螺合して若干締め付けることにより、回り止め突起55は、車体パネルBの取付孔B1の開口縁の一部を変形させて開口縁に回り止め係合する。これにより、雄ねじ部54に螺合したナット6を強く締め付けても、固定ヒンジ部材2のボルト挿入孔24及び車体パネルBの取付孔B1に回り止め係合したボルト5は空回りすることなく、ナット6を確実に締め付けることができ、固定ヒンジ部材2を車体パネルBに確実に固定することができる。
【0023】
固定ヒンジ部材2と車体パネルBとの固定及び可動ヒンジ部材3とドアパネルDとの固定後は、車体パネルBとドアパネルDとが回動可能に連結される。この場合、単一のボルト5を用いて固定される構造においても、回り止め突起55が車体パネルBの取付孔B1に回り止め係合されるため、ドアパネルDがボルト5を中心に回転することはなく、車体パネルBの塗装割れを起こすことがない。
【0024】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、本実施形態に対して、次のような種々の変形や変更を施すことが可能である。
(i)本発明が適用されるドアを、垂直軸回りに左右方向に揺動して開閉動作するスイング式のドアに代えて、水平軸回りに上下方向に揺動して開閉動作するドアとする。
(ii)車体パネルB又はドアパネルDに設けられる取付孔を、図7に示す円形の取付孔B1に代えて、図8に示すように、円形の取付孔B2の開口縁に回り止め突起55が係合する切欠部B2aを予め形成したものとする。
(iii)ボルト5をボルト挿入孔24に回り止め固定する手段を、セレーションに代えて溶接とする。
(iv)本発明に係わるヒンジ部材を、固定ヒンジ部材2に代えてまたは加えて、可動ヒンジ部材3とする。
(v)回り止め突起55の数を適宜変更する。
(vi)回り止め突起55をセレーション軸52と非ねじ部53間の段差部分に設けるものに代えて、回り止め突起55を取付孔31に係合できるように延長したセレーションと一体的に設けたものとする。
【符号の説明】
【0025】
1 ドアヒンジ装置
2 固定ヒンジ部材
3 可動ヒンジ部材
4 ヒンジ軸
5 ボルト
6 ナット
7 ボルト
21 被固定部
22 支持片部
23 ストッパ部
24 ボルト挿入孔
31 取付片部
32 支持片部
33 連結片部
33a 被ストッパ部
51 頭部
52 セレーション軸部
53 非ねじ部
54 雄ねじ部
55 回り止め突起
B 車体パネル
B1 取付孔
B2 取付孔
B2a 切欠部
D ドアパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固定されるヒンジ部材とドアに固定されるヒンジ部材とを互いにヒンジ軸により回動可能に連結し、前記車体又は前記ドアに固定される前記ヒンジ部材が単一のボルトにより前記車体又は前記ドアに固定される車両用ドアヒンジ装置において、
前記単一のボルトは、前記車体又は前記ドアに固定される前記ヒンジ部材に設けられる単一のボルト挿入孔に予め回り止め固定されると共に、前記車体又は前記ドアに設けられる取付孔に挿入される雄ねじ部と、前記取付孔に挿入された前記雄ねじ部に螺合可能なナットを締め付けることによって、前記取付孔の開口縁に前記雄ねじ部の回転方向に対して係合可能な回り止め突起を一体的に有することを特徴とする車両用ドアヒンジ装置。
【請求項2】
前記回り止め突起は、前記取付孔の開口縁の一部を変形させて前記開口縁に係合することを特徴とする請求項1記載の車両用ドアヒンジ装置。
【請求項3】
前記回り止め突起は、前記取付孔の開口縁に予め形成された切欠き部に係合することを特徴とする請求項1記載の車両用ドアヒンジ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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