説明

車両用バンパーの衝撃吸収構造

【目的】車両用バンパの衝撃吸収構造において、低衝撃時には部品交換をすることなく元の状態に復帰させ、高衝撃時は十分に衝撃を吸収して乗員を保護する。
【構成】バンパ本体2と、衝撃吸収部材3とからなる。バンパ本体2は、パイプ状の金属をU状に折曲させることによって両端を平行な一対の脚部2bとし、中央部を上方部に折曲させて起立部2cとした本パイプと、U字状に折曲した金属パイプの中央部を本パイプの起立部2cに溶着固定し、金属パイプ両端をそれぞれ本パイプの脚部2bの固設部材2a近傍に溶着固定した補強パイプ2dとからなる。これにより、補強パイプ2dを一辺とするトラス構造がバンパ本体2に形成される。
一方、衝撃吸収部材3は、衝突時に前述したバンパ本体が車体へ向けて揺動した際にバンパ本体の起立部2c上端と接触するように車体に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の衝突時の衝撃を吸収して乗員を保護する車両用バンパにおける衝撃吸収構造に関するものであって、特に小型車両に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時の衝撃を吸収する車両用バンパにおいて、車両の衝突時の変形による部品交換の煩わしさを軽減する為、衝突時のバンパの変形後、部品交換することなく、もとの状態に復帰させるバンパ構造が望まれている。例えば下記特許文献1には、車両前方に取り付けたバンパにおいて、バンパ11下端を車体フレーム12に対して揺動可能に固定し、かつ車体フレーム12に連結したバネ13にバンパ11上部を結合することにより、バネ13の付勢力によって、バンパ11を車両外方へ付勢している(図10)。
【0003】
このような発明は、衝突時の車両の衝撃程度が小さいときは、一度変形したバンパ11が、バネ13の弾性力で元の状態に戻る為、部品交換の必要がなく、利便性の高いものである。しかしながら、衝突時の車両の衝撃程度が大きいときは、バネ13の弾性変形力のみで衝撃吸収を賄うこととなる為、衝撃吸収が不十分であって、乗員にかかる衝撃が大きくなり、安全を損なうといった問題があった。
【特許文献1】特開平11−78733
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明においては、車両用バンパの衝撃吸収構造において、衝突時の衝撃が小さい時には、バンパ本体の変形により衝撃を吸収して部品交換をすることなく、元の状態に復帰させることができ、衝突時の衝撃が大きいときは、バンパ本体及び衝撃吸収部材の変形によって衝撃を充分に吸収して乗員を保護するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成すべく請求項1に記載した本発明は、車両前部、後部もしくは側部の少なくともいずれかに取り付けられてバンパ本体と衝撃吸収部材からなる衝突時の衝撃を吸収する車両用バンパにおける衝撃吸収構造であって、前記バンパ本体は、略水平方向に複数並んでバンパ本体を車体に固設する固設部及び固設部から車両外方へ延伸する複数の脚部及び前記各脚部の車両外方側から脚部に対して上方へ起立して車両衝突時の衝撃を受ける起立部とからなり、前記起立部と前記脚部を連結して所定の荷重がかかるまで車両衝突時に前記起立部と前記脚部の角度を維持する補強部を有し、さらに、前記脚部には、前記補強部との連結部位と前記固設部の間に位置して前記補強部によって補強された部位よりも低い衝撃力で変形して衝撃を吸収する衝撃吸収部位を有するものであって、前記衝撃吸収部材は、車両衝突時に前記バンパ本体における起立部が衝撃を受けて前記衝撃吸収部位の変形によって前記バンパ本体が車体側へ揺動した際に、前記起立部のいずれかの部位と接触して衝撃を吸収するものである。
【0006】
また、前記目的を達成すべく請求項2に記載した本発明は、車両前部、後部もしくは側部の少なくともいずれかに取り付けられてバンパ本体と衝撃吸収部材からなる衝突時の衝撃を吸収する車両用バンパにおける衝撃吸収構造であって、前記バンパ本体は、略水平方向に複数並んでバンパ本体を車体に固設する固設部及び固設部から車両外方へ延伸する複数の脚部及び前記各脚部の車両外方側から脚部に対して下方へ垂下して車両衝突時の衝撃を受ける垂下部とからなり、前記垂下部と前記脚部を連結して所定の荷重がかかるまで車両衝突時に前記垂下部と前記脚部の角度を維持する補強部を有し、さらに、前記脚部には、前記補強部との連結部位と前記固設部の間に位置して前記補強部によって補強された部位よりも低い衝撃力で変形して衝撃を吸収する衝撃吸収部位を有するものであって、前記衝撃吸収部材は、車両衝突時に前記バンパ本体における垂下部が衝撃を受けて、前記衝撃吸収部位の変形によって前記バンパ本体が車体側へ揺動した際に、前記垂下部のいずれかの部位と接触して衝撃を吸収するものである。
【0007】
なお、本発明の請求項1及び請求項2におけるバンパ本体の「衝撃吸収部位」とは、バンパ本体の脚部の一部に該当し、補強部と固設部の間に位置するものである。この衝撃吸収部位は、脚部における他の部位と構造を変化させて変形しやすくする場合が該当する。また、脚部の他の部位と構造は変わらないものの、脚部の他の部位に補強部を設けた結果他の部位に比して相対的に変形しやすくした場合も該当する。
【0008】
また、前記目的を達成すべく請求項3に記載した本発明は、請求項1もしくは2に記載の車両用バンパにおける衝撃吸収構造において、前記補強部は、前記起立部もしくは垂下部と前記脚部を連結する長尺状のものであって、前記起立部もしくは垂下部を一辺とし、前期脚部を一辺とするトラス構造を形成するものである。なお、「長尺状」とは、棒状のもの、平板状のもの等、幅、径に比して長さの長いものをいう。
【0009】
さらに、前記目的を達成すべく請求項4に記載した本発明は、請求項3に記載の車両用バンパにおける衝撃吸収構造において、前記バンパ本体における脚部と前記補強部の連結は前記固設部近傍であって、かつ前記バンパ本体における起立部もしくは垂下部と補強部の連結は、起立部上端近傍に補強部上端近傍を連結するもしくは垂下部下端近傍に補強部下端近傍を連結するものであって、車両衝突時に前記バンパ本体における起立部もしくは垂下部が衝撃を受けることによって、バンパ本体が車体側へ揺動し、前記起立部上端もしくは前記垂下部下端が前記衝撃吸収部材と接触して衝撃を吸収するものである。
【0010】
さらに、前記目的を達成すべく請求項5に記載した本発明は、請求項1乃至4に記載の車両用バンパにおける衝撃吸収構造において、前記バンパ本体における補強部は一本のパイプ状の金属を折曲させることによって成形されたものであって、パイプ状の金属の中央部を前記起立部もしくは垂下部に連結し、両端を前記脚部に連結したものである。
【0011】
加えて、前記目的を達成すべく請求項6に記載した本発明は、請求項1乃至5に記載の車両用バンパにおける衝撃吸収構造において、前記衝撃吸収部材は、車両衝突時に前記バンパ本体の起立部もしくは垂下部が車体側に揺動した際に、起立部もしくは垂下部と接触する接触面を有する受部と、変形により衝撃を吸収する変形部と、車体に固定するための固定部とからなるものであって、前記受部は、上端部もしくは下端部の少なくとも一方を車両外方へ折曲させたものである。
【発明の効果】
【0012】
<請求項1の発明>
請求項1に記載の車両用バンパの衝撃吸収構造はバンパ本体と衝撃吸収部材を分離して設け、脚部及び起立部を有するバンパ本体に脚部と起立部を連結する補強部を設けた。また、バンパ本体の脚部は、補強部との連結部位と固設部間に衝撃吸収部位を有する。これにより、車両衝突時に起立部が受けた衝撃によって、バンパ本体が脚部と起立部の角度を維持した状態で衝撃吸収部位を中心として車体側へ揺動し、その後、バンパ本体の起立部と衝撃吸収部材が接触することによって衝撃吸収部材が衝撃を受けて変形する。最後にバンパ本体における補強部と起立部と脚部で形成される構造が破壊され、起立部と脚部の角度が広がることによりさらに衝撃を吸収できる。すなわち、本発明は、衝撃吸収度合に応じて三段階で衝撃を吸収できる。したがって、例えば衝撃が小さいときは、衝撃吸収部位のみの変形ですむ為、その後の措置によってバンパ本体の起立部を復帰させれば足り、部品の交換が不要となる。一方、衝撃が大きいときは、バンパ本体にかかった衝撃を衝撃吸収部材とバンパ本体の補強部の変形により、衝撃をさらに吸収することができる。したがって、乗員にかかる衝撃を軽減することができ、安全性の高いものとなる。なお、衝撃吸収部材の剛性に比してバンパ本体の補強部と起立部と脚部で形成される構造の剛性を低く設定した場合にあっては、先にバンパ本体における補強部等が破壊されて起立部と脚部の角度が広がった後、衝撃吸収部材が変形する。しかし、衝突時の変形が容易に予測できて衝突時の衝撃吸収部材とバンパ本体の起立部を確実に接触させることができる点で、衝撃吸収部材よりバンパ本体の補強部等の剛性を高く設定する方が望ましい。
【0013】
<請求項2の発明>
請求項2に記載の車両用バンパの衝撃吸収構造はバンパ本体と衝撃吸収部材を分離して設け、脚部及び起立部を有するバンパ本体に脚部と起立部を連結する補強部を設けた。また、バンパ本体の脚部は、補強部との連結部位と固設部間に衝撃吸収部位を有する。これにより、車両衝突時に垂下部が受けた衝撃によって、バンパ本体が脚部と垂下部の角度を維持した状態で衝撃吸収部位を中心として車体側へ揺動し、その後、バンパ本体の垂下部と衝撃吸収部材が接触することによって衝撃吸収部材が衝撃を受けて変形する。最後にバンパ本体における補強部と垂下部と脚部で形成される構造が破壊され、垂下部と脚部の角度が広がることによりさらに衝撃を吸収できる。すなわち、本発明は、衝撃吸収度合に応じて三段階で衝撃を吸収できる。したがって、例えば衝撃が小さいときは、衝撃吸収部位のみの変形ですむ為、その後の措置によってバンパ本体の垂下部を復帰させれば足り、部品の交換が不要となる。一方、衝撃が大きいときは、衝撃吸収部材とバンパ本体の補強部の変形により、衝撃をさらに吸収することができる。したがって、乗員にかかる衝撃を軽減することができ、安全性の高いものとなる。なお、衝撃吸収部材の剛性に比してバンパ本体の補強部と垂下部と脚部で形成される構造の剛性を低く設定した場合にあっては、先にバンパ本体における補強部等が破壊されて垂下部と脚部の角度が広がった後、衝撃吸収部材が変形する。しかし、衝突時の変形が容易に予測できて衝突時の衝撃吸収部材とバンパ本体の垂下部を確実に接触させることができる点で、衝撃吸収部材よりバンパ本体の補強部等の剛性を高く設定する方が望ましい。
【0014】
<請求項3の発明>
請求項3に記載の車両用バンパによれば、バンパ本体における起立部もしくは垂下部と脚部と補強部を各辺とするトラス構造を形成することとなるため、補強部を複雑にすることなくバンパ本体の剛性を確保することができる。
【0015】
<請求項4の発明>
請求項4に記載の車両用バンパによれば、バンパ本体は、脚部と補強部の連結を脚部の固設部近傍にし、起立部上端と補強部上端を連結するか、もしくは垂下部下端と補強部下端を連結した。したがって、補強部を一端とするトラス構造は起立部もしくは垂下部全体で一辺を形成することができ、かつ脚部の大部分で他の一辺を形成することができる。その為、トラス構造を形成する各辺が不用意な部位で変形する恐れを軽減できる。また、衝突時には、バンパ本体の衝撃吸収部位を中心として起立部もしくは垂下部を一辺とするトラス構造を維持した状態で車体側へ揺動するが、起立部先端もしくは垂下部下端の軌跡が予測しやすく、衝撃吸収部材の車体への固定位置を明確にしやすいため、設計性に優れたものとなる。
【0016】
<請求項5の発明>
請求項5に記載の車両用バンパによれば、補強部を一本のパイプ状の金属を折曲させることによって成形したものである為、部品点数の削減に寄与することができる。
【0017】
<請求項6の発明>
請求項6に記載の車両用バンパによれば、衝撃吸収部材における受部の上端部もしくは下端部の少なくとも一方を、車両外方へ向けて折曲して形成したものである為、バンパ本体における起立部もしくは垂下部の先端が受部に接触した後、衝撃吸収部材における変形部の変形とバンパ本体の揺動によってバンパ本体における起立部もしくは垂下部と衝撃吸収部材の受部における接触位置が変化しても、両者の接触を維持し、確実にバンパ本体の衝撃を衝撃吸収部材に伝達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明の車両用バンパにおける衝撃吸収構造は、図1に記したバンパ本体2及び図2に示した衝撃吸収部材3とからなる。
【0020】
バンパ本体2は、本パイプ2b、2cと補強パイプ2d(請求項における補強部)と固設部材2a(請求項における固設部)とからなる。本パイプ2b、2cは、パイプ状の金属をU状に折曲させることによって両端を平行な一対の脚部2bとし、さらに折曲したパイプ状の金属の中央部を脚部2bに対して上方かつ外方へ起立させる起立部2cを形成したものである。また、本パイプ2b、2cを支持するための補強パイプ2dとして、U字状に折曲した金属パイプの中央部を本パイプの起立部2c上端近傍に溶着固定し、金属パイプ両端をそれぞれ本パイプの脚部2bであって、後述する固設部材2aの近傍に溶着固定する。固設部材2aは、両端にフランジを設け、ネジ止め等により車体に固設する一対の平板状の金属プレートであって、本パイプ2b、2cの両端にそれぞれ溶着固定される。ここで、バンパ本体2の脚部2bの延伸方向を正面とした場合の幅方向(以下幅方向と記す)からみたバンパ本体2は、起立部2c、脚部2b、補強パイプ2dを各辺とするトラス構造を形成する。ここで、トラス構造は、安定的な強度を有することは一般的に知られている。したがって、脚部2bにおける補強パイプ2dとの連結部位と固設部材2aとの間の部位(本請求項における衝撃吸収部位)が、トラス構造の一辺となる脚部2bの他の部位や起立部2c、補強パイプ2dよりも相対的に強度が低く、変形しやすくなっている。なお、補強パイプ2dは、折曲しない二本の棒状のパイプを用意し、各パイプの一端を起立部2c端部に連結して他端を脚部2bに連結することにより、バンパ本体の幅方向の両端部でトラス構造をそれぞれ形成することも可能である。しかしながら、本実施の形態のように、「バンパ本体における幅方向の中央部に補強部上端を連結し、脚部に補強部下端を連結する」ことにより、衝撃をバンパ本体2の全体に分散しやすくなり、衝突時に起立部2cの幅方向両端部の変形が小さく、中央部のみ大きく変形するといった恐れをなくし、衝撃吸収部材3への衝撃の伝達を確実に行うことができる。
【0021】
一方、衝撃吸収部材3は、受部3aと、変形部3bと、固定部3cとからなる。受部3aは、上下にフランジ3a2を有し、上下のフランジ3a2間に接触面3a1を有する金属プレートからなり、衝突時に前述したバンパ本体2が車体へ向けて揺動した際にバンパ本体の起立部上端が接触面3a1に接触するものである。上下のフランジ3a2を有することにより、バンパ本体2の起立部2cが接触面3a1と接触した後に衝撃吸収部材3が変形してバンパ本体がさらに回動した場合であっても、双方の接触状態を維持することができる。
【0022】
一方変形部3bは、中空四角柱状の金属筒体から構成されるものであり、表面に複数の切欠き3b1を設けることにより、前述した受部3aがバンパ本体2の衝撃を受けた場合に変形して衝撃を吸収しやすい構造としている。なお、前述した受部3aの接触面3a1の表面積が、変形部3bにおけるそれと平行する断面積より大きくしている。これにより、衝撃吸収部材3を大型化することなく、衝突時のバンパ本体2の起立部2c上端と衝撃吸収部材3の接触を確実にして、設計性、生産性に優れたものとなる点で好ましい。
【0023】
さらに、固定部3cは、変形部3bの後端に溶着固定されたものであり、ネジ止めにより車体に固定する為の平板状の金属からなるものである。
【0024】
次に、以上に記した本発明における車両用バンパの衝撃吸収構造を図9に記す一人乗り電気自動車1の車体前部に取り付ける為の取り付け構造について詳述する。なお、本実施形態に関連のある車体前方の構造のみについて詳述し、車両後方等の説明を省略する。電気自動車の前方(図9における左方)は、図3に示すように、フレームASSY4の上にダッシュパネルリーンホースメント5がネジ止め固定された構造となっている。そして、バンパ本体2がフレームASSY4の先端に固設部2aによってネジ止めされる。一方、衝撃吸収部材3は、ダッシュパネルリーンホースメント5の前面に固定部3cによってネジ止め固定される。このとき、バンパ本体2における補強パイプ2dと脚部2bの連結部は、固設部2a近傍に位置させ、かつバンパ本体2を側面視(脚部2bの延伸方向を正面とした場合の側面視)した際の補強パイプ2dにおける上下端連結部を結ぶ距離が、バンパ本体の固設部2aの高さ方向中心位置と衝撃吸収部材3における受部3aの高さ方向中心位置を側面視した際の直線距離に等しいものであることが望ましい(図4)。そのような構造によって、衝突時に、バンパ本体2は、補強パイプ2dと脚部2bの連結部と固設部2aの間のいずれかの部位(請求項における衝撃吸収部位)を中心として補強パイプ2dと脚部2bと起立部2cを三辺とするトラス構造を維持しつつ、車体側に揺動する為、起立部2c上端を衝撃吸収部材3の受部3aと接触させて衝撃を衝撃吸収部材3に伝達できる。
【0025】
以上のような車両用バンパの衝撃吸収構造を有する電気自動車前方は、図5に示すようなポリプロピレンを主材とする弾力性を有する樹脂からなるフードパネル6、バンパカバー7、フロントフェンダーRHパネル9、フロントフェンダーLHパネル8の各部品によって覆われる。
【0026】
次に、以上に記した本発明によるバンパ構造を有する電気自動車が、走行中障害物等に衝突した場合について詳述する。
【0027】
まず、低速走行時の衝突等、衝撃程度が小さい場合、車両正面のバンパカバー7を介してバンパ本体2の起立部2cが衝撃を受ける。バンパ本体2は、補強パイプ2d、起立部2c、脚部2bを三辺とするトラス構造を有することにより、その構造を維持しながら、脚部2bにおける補強パイプ2dとの連結部と固設部2aの間で屈曲する。その結果、起立部が車体に取り付けられた衝撃吸収部材に向かって揺動することとなる。しかしながら、衝撃が軽度であることより、起立部2c上端と衝撃吸収部材3の受部3aが接触することなく、バンパ本体2の揺動が停止する。その後、工具等による人為的もしくは機械的作業により、バンパ本体2の衝突によって屈曲した部位について元の状態に戻すことにより、部品を交換することなく、再度利用することができる。なお、バンパカバー等の樹脂パネルは、弾力性を有するものであるため、衝突によって一時的に変形するものの、人為的な力によって元の状態に戻すことができるものである。
【0028】
一方、高速走行時の衝突等、衝撃程度が大きい場合、バンパ本体2の変形については、前述した低衝撃時と同じく、バンパ本体2が補強パイプ2dを一辺とするトラス構造を維持しつつ、車体側へ回動する。この際、衝撃が大きいことにより、バンパ本体2の起立部2cの上端が衝撃吸収部材3の受部3aに接触する。その結果、バンパ本体2の起立部2cが受けた衝撃が衝撃吸収部材3に伝達され、衝撃吸収部材3の変形部3bが変形して衝撃を吸収する。次に、衝撃吸収部材3における変形部3bの変形によっても衝撃の吸収が不十分であるときは、補強パイプ2dを一辺とするトラス構造が変形して脚部2bと起立部2cの角度が大きくなることによってさらに衝撃を吸収することとなる。
【0029】
以上に記したように、本発明における車両用バンパは、衝突時の衝撃程度が大きい場合、バンパ本体2の揺動、衝撃吸収部材3における変形部3bの変形、バンパ本体2における補強パイプ2dを一辺とするトラス構造の変形の三段階で衝撃を吸収できるため、乗員にかかる衝撃を軽減して上員の保護を図ることができる。また、バンパ本体における起立部2c及び脚部2bを一本のパイプを折曲させて形成したことより、部品点数が少なく、各部を別部品にする場合に比して起立部2cと脚部2b間の剛性を高めることができる。さらに、起立部2cの容積が小さいことより、軽量化を図ることもできる。
【0030】
次に本発明における第二の実施の形態について図6に基づいて詳述する。
【0031】
本発明における第二の実施の形態は、第一の実施の形態に記した電気自動車用フロントバンパにおいて、第一の実施の形態と同じ構造を有するバンパ本体2を、ダッシュパネルリーンホースメント5の前面に固設部2aによってネジ止め固設される。その時、第一の実施の形態における本パイプ2の起立部2cは、垂下部2eとして、先端が脚部2bに対して下方であって、外方へ向けて垂下するように固設する。一方、衝撃吸収部材3は、フレームASSY4の前端に固定部3cによって固定される。このような構造を有する車両用バンパの衝撃吸収構造において、衝突時には、垂下部が衝撃を受けてその下端が衝撃吸収部材3の受部3aに向けて揺動する。そして、衝撃が小さいときはバンパ本体2の垂下部2e下端が衝撃吸収部材3の受部3aに接触することなく、バンパ本体2のみの変形で衝撃吸収を賄うことができる。したがって、人為的作業もしくは機械的作業によってバンパ本体2を元の状態に復帰させ、部品交換の必要性を軽減できる。
【0032】
一方、衝撃が大きいときは、衝撃を受けたバンパ本体2の垂下部2eは、補強パイプ2dを一辺とするトラス構造を保ちながら衝撃吸収部材3の受部3aに向けて揺動し、バンパ本体2の垂下部2e下端が衝撃吸収部材3の受部3aに接触して衝撃吸収部材3に衝撃が伝達され、衝撃吸収部材3における変形部3bの変形により衝撃を吸収する。また、変形部3bの変形によっても衝撃の吸収が十分でない場合は、バンパ本体2の補強パイプ2dを一辺とするトラス構造が潰れることによってさらに衝撃を吸収する。これにより、衝突時の衝撃を十分に吸収して乗員の安全を確保することができる。なお、この第二の実施の形態においても、補強パイプに2dおける脚部2cとの連結部は、固設部2a近傍に位置させ、かつバンパ本体2を側面視した際の補強パイプ2dにおける上下端連結部を結ぶ距離が、バンパ本体2の固設部2aの高さ方向中心位置と衝撃吸収部材3における受部3aの高さ方向中心位置におけるバンパ本体を側面視した際の距離に等しいものであることが望ましい。そのような構造によって、衝突時に、バンパ本体2は、脚部2cにおける補強パイプ2dとの連結部と固設部2aの間のいずれかの部位(請求項における衝撃吸収部位)を中心として補強パイプ2dを一辺とするトラス構造を維持しつつ、車体側に揺動し、起立部2c下端を衝撃吸収部材3の受部3aに接触させて衝撃を衝撃吸収部材3に伝達することができる。
【0033】
以上に記した本発明は、車両衝突時における衝撃程度が小さいときはバンパ本体の変形のみで衝撃の吸収を賄うため、後の人為的な作業により、バンパ本体2を元の状態に復帰させて部品交換する必要性を軽減できる。一方、車両衝突時における衝撃程度が大きいときは衝撃を受けたパンパ本体2の起立部2c上端もしくは垂下部2e下端が衝撃吸収部材3に衝撃を伝達できる為、衝撃吸収部材3の変形部3bの変形によって衝撃を吸収できる。さらに、バンパ本体2における補強パイプ2dを一辺とするトラス構造が潰されることにより、衝撃を吸収することができ、十分な衝撃吸収構造によって乗員を保護することができる。
【0034】
以上本発明における実施の形態について記したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、例えば以下の実施の形態も考えられる。
【0035】
例えば、本発明における実施の形態では、車両フロントバンパに採用する場合について記したが、フロントバンパに限らず、リアバンパー、サイドバンパーに用いることも考えられる。
【0036】
また、本発明における実施の形態では、本発明における車両用バンパを一人乗用小型電気自動車に採用する場合について記したが、通常の乗用車に用いることも考えられる。なお、小型でない乗用車について本発明を採用する場合にあっては、バンパの幅が大きくなり、バンパ本体2の脚部2bによる起立部2cもしくは垂下部2eの支持が不十分になる恐れがある。したがって、脚部2bを多数にする、もしくは、本発明における車両用バンパの衝撃吸収構造を並列に複数並べて設ける構造が望ましい。
【0037】
次に、本発明におけるバンパ本体2は、一本のパイプ状金属を折曲させることにより脚部2b及び起立部2cもしくは垂下部2eを形成し、別の一本のパイプを折曲させることにより、補強パイプ2dとして形成している。しかしながら、本発明におけるバンパ本体2は、さらに複数の部材を結合させることにより構成することも考えられる。例えば、車両外方へ直線状に伸びる脚部2bの車両外方側先端に平板状の金属板もしくは硬質樹脂を起立部2cもしくは垂下部2eとして接合することが考えられる。
【0038】
また、図7に示すように、バンパ本体の両端を支持する起立部2c、脚部2b、補強パイプ2dを金属パイプで形成した上で、両部材間を平板状硬質樹脂2fで接合しつつ、起立部2cの一部を担うことも可能である。この場合、平板状硬質樹脂2fを金属パイプよりも軽量とすることにより、軽量化を図ることが可能となる。但し、平板状硬質樹脂2fの剛性を衝撃吸収部材3における変形部3bの剛性より高くする必要がある。衝突時に衝撃吸収部材より先に平板状硬質樹脂2fが変形してしまうと、衝撃を衝撃吸収部材に伝達しにくくなるからである。また、このような場合等は、衝突時における衝撃吸収部材3における受部3aと起立部2cの接触を起立部2cの先端とする必要がない。すなわち、衝撃吸収部材3の車体への固定高さ位置を本実施形態の場合に比して低く設定することによって、平板状硬質樹脂2fの先端部でなく、高さ方向中間部となる平板部と衝撃吸収部材を接触させることによって衝撃を伝達する構造が考えられる。但し、本実施の形態に記したように、衝突時に衝撃吸収部材3と接触する部位を起立部2cの先端とする方が、衝撃時における衝撃吸収部材3との接触位置及び角度を予測しやすく、受部3aを大型化する必要性がないことより好ましい。
【0039】
次に、本発明の請求項の補強部に相当する本実施の形態における補強パイプ2dは、脚部2bと起立部2cもしくは垂下部2eを連結する金属パイプで形成しているが、必ずしもパイプ状のものではなく、例えば図8に記すように3角形の板状のものにして、その一頂点を脚部2bの車体外方側端部であって、起立部2cの下端に位置させることによって、平板状の補強部2gがバンパ本体における脚部2b、起立部2cの間を塞ぐ形態とすることも考えられる。
【0040】
また、本発明の実施の形態におけるバンパ本体2の起立部2cもしくは垂下部2eは、脚部2bに対して外方へ起立もしくは垂下している。しかしながら、脚部2bに対して起立部2cもしくは垂下部2eを垂直に位置させることも可能である。但し、本発明のように「バンパ本体における起立部は、脚部に対して上方であって外方へ起立している」もしくは「バンパ本体における垂下部は、脚部に対して下方であって外方へ垂下している」ことが望ましい。衝突荷重を受けてバンパ本体の起立部2cもしくは垂下部2eが揺動することによって、起立部2bもしくは垂下部2eが垂直な位置になるまでの間に衝撃を吸収することができ、最初から垂直に起立部2bもしくは垂下部2eを形成した場合に比して乗員にかかる衝撃を吸収できるからである。
【0041】
また、本発明における実施の形態において、衝撃吸収部材3は、変形部に切欠きを設けた中空状の金属筒体を用いているが、これ以外にも例えば硬質樹脂を用いた中空状のものを変形部として用いることも可能である。この場合、硬質樹脂はある程度の衝撃によって変形する為、金属板のように切欠きを設けなくとも変形部材としての機能を果たすものとすることができて、生産性の良好なものとなる。
【0042】
さらに、本発明の実施の形態における脚部は、一端から他端まで一定の太さの金属パイプを用いているが、衝突時の屈曲位置を明確にして、より確実に起立部2c上端もしくは垂下部2c下端と衝撃吸収部材3を接触させる為、補強パイプ2dの脚部2bにおける補強パイプ2dとの連結位置と固設部2aの間は、切り欠きを設けることや、径を小さくして他の脚部2bに比してあらかじめ剛性を低くしておく構造とすることが考えられる。また、固設部2aと脚部2b間をあらかじめ回動自在とした構造にして通常はロックしておき、衝突時に一定の負荷がかかった場合のみ、ロックが外れる構造としておけば、衝突時の衝撃が軽度である場合に、バンパ本体の元の状態への復帰を容易に行うことができる。
【0043】
加えて、本発明の実施の形態におけるバンパ本体2は、起立部2cの上端近傍と補強パイプ2dの上端を連結している。もしくは、垂下部2eの下端近傍と補強パイプ部2dの下端を連結している。しかしながら、起立部2c上端もしくは垂下部2e下端以外の部位について補強パイプ2dの先端を連結することも考えられる。但し、本発明の実施形態のように、起立部2cもしくは垂下部2eの先端と補強パイプ2dの先端を結合した場合の方が、バンパ本体2の変形及び揺動時の軌跡の予測がしやすい為、設計性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明におけるバンパ本体の全体斜視図である。
【図2】本発明における衝撃吸収部材の全体斜視図である。
【図3】本発明におけるバンパ本体と衝撃吸収部材の車体への組み付け分解図である。
【図4】本発明における車両用バンパの衝撃吸収構造を車体に組み付けた状態での側面図である。
【図5】本発明のおける車両用バンパの衝撃吸収構造を覆う樹脂ボデーの分解図である。
【図6】本発明における別の実施形態における図3に相当する図である。
【図7】本発明における別の実施形態における図1に相当する図である。
【図8】本発明における別の実施形態における図1に相当する図である。
【図9】本発明の車両用バンパを搭載した小型車両である。
【図10】従来の車両用バンパの側面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 一人乗用小型電気自動車
2 バンパ本体
3 衝撃吸収部材
4 フレームASSY
5 ダッシュパネルリーンホースメント
6 フードパネル
7 バンパカバー
8 フロントフェンダーLHパネル
9 フロントフェンダーRHパネル



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部、後部もしくは側部の少なくともいずれかに取り付けられてバンパ本体と衝撃吸収部材からなる衝突時の衝撃を吸収する車両用バンパにおける衝撃吸収構造であって、前記バンパ本体は、略水平方向に複数並んでバンパ本体を車体に固設する固設部及び固設部から車両外方へ延伸する複数の脚部及び前記各脚部の車両外方側から脚部に対して上方へ起立して車両衝突時の衝撃を受ける起立部とからなり、前記起立部と前記脚部を連結して所定の荷重がかかるまで車両衝突時に前記起立部と前記脚部の角度を維持する補強部を有し、さらに、前記脚部には、前記補強部の連結部位と前記固設部の間に位置して前記補強部によって補強された部位よりも低い衝撃力で変形して衝撃を吸収する衝撃吸収部位を有するものであって、前記衝撃吸収部材は、車両衝突時に前記バンパ本体における起立部が衝撃を受けて前記衝撃吸収部位の変形によって前記バンパ本体が車体側へ揺動した際に、前記起立部のいずれかの部位と接触して衝撃を吸収するものであることを特徴とする車両用バンパにおける衝撃吸収構造。
【請求項2】
車両前部、後部もしくは側部の少なくともいずれかに取り付けられてバンパ本体と衝撃吸収部材からなる衝突時の衝撃を吸収する車両用バンパにおける衝撃吸収構造であって、前記バンパ本体は、略水平方向に複数並んでバンパ本体を車体に固設する固設部及び固設部から車両外方へ延伸する複数の脚部及び前記各脚部の車両外方側から脚部に対して下方へ垂下して車両衝突時の衝撃を受ける垂下部とからなり、前記垂下部と前記脚部を連結して所定の荷重がかかるまで車両衝突時に前記垂下部と前記脚部の角度を維持する補強部を有し、さらに、前記脚部には、前記補強部との連結部位と前記固設部の間に位置して前記補強部によって補強された部位よりも低い衝撃力で変形して衝撃を吸収する衝撃吸収部位を有するものであって、前記衝撃吸収部材は、車両衝突時に前記バンパ本体における垂下部が衝撃を受けて前記衝撃吸収部位の変形によって前記バンパ本体が車体側へ揺動した際に、前記垂下部のいずれかの部位と接触して衝撃を吸収するものであることを特徴とする車両用バンパにおける衝撃吸収構造。
【請求項3】
請求項1もしくは2に記載の車両用バンパにおける衝撃吸収構造において、前記補強部は、前記起立部もしくは垂下部と前記脚部を連結する長尺状のものであって、前記起立部もしくは垂下部を一辺とし、前期脚部を一辺とするトラス構造を形成するものであることを特徴とする車両用バンパにおける衝撃吸収構造。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用バンパにおける衝撃吸収構造において、前記バンパ本体における脚部と補強部の連結は固設部近傍であって、かつ前記バンパ本体における起立部もしくは垂下部と補強部の連結は、起立部上端近傍に補強部上端近傍を連結するもしくは垂下部下端近傍に補強部下端近傍を連結するものであって、車両衝突時に前記バンパ本体における起立部もしくは垂下部が衝撃を受けることによって、バンパ本体が車体側へ揺動し、前記起立部上端もしくは前記垂下部下端が前記衝撃吸収部材と接触して衝撃を吸収するものであることを特徴とする車両用バンパにおける衝撃吸収構造。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の車両用バンパにおける衝撃吸収構造において、前記バンパ本体における補強部は一本のパイプ状の金属を折曲させることによって成形されたものであって、パイプ状の金属の中央部を前記起立部もしくは垂下部に連結し、両端を前記脚部に連結したものであることを特徴とする車両用バンパにおける衝撃吸収構造。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の車両用バンパにおける衝撃吸収構造において、前記衝撃吸収部材は、車両衝突時に前記バンパ本体の起立部もしくは垂下部が車体側に揺動した際に、起立部もしくは垂下部と接触する接触面を有する受部と、変形により衝撃を吸収する変形部と、車体に固定するための固定部とからなるものであって、前記受部は、上端部もしくは下端部の少なくとも一方を車両外方へ折曲させたものであることを特徴とする車両用バンパにおける衝撃吸収構造。






【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−203853(P2007−203853A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24032(P2006−24032)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)