説明

車両用リクライニング装置

【課題】シートバックの最大調整角を常に一定に保って左右の同期性の低下を防ぐとともに、シートバックの角度調整を円滑に行うことができる車両用リクライニング装置を提供すること。
【解決手段】シートクッション側に取り付けられた固定ブラケット2と、シートバック側に取り付けられた可動ブラケット3との間にリクライニング機構4を介設し、両ブラケット2,3間にリターンスプリング10を介装するとともに、該リターンスプリング10の端部を係止するリターンスプリングブラケット(係止部材)5,6を前記固定ブラケット2及び可動ブラケット3にそれぞれ設け、前記可動ブラケット3の回動量を規制するストッパ手段を設けて成る車両用リクライニング装置1において、前記ストッパ手段を構成するアーム3dとストッパブラケット7を前記リターンスプリングブラケット5,6とは別部材で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートのシートバックの傾斜角度を調整するための車両用リクライニング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用リクライニング装置の一例を図6〜図8に示す。
【0003】
図6は従来の車両用リクライニング装置要部の平面図、図7は図6のB−B線断面図、図8は同車両用リクライニング装置要部の斜視図である。
【0004】
車両用リクライニング装置101は、不図示のシートクッションに取り付けられた固定ブラケット102と不図示のシートバックに取り付けられた可動ブラケット103との間にリクライニング機構104を介設し、両ブラケット102,103間にリターンスプリング110を介装するとともに、前記リクライニング機構104を駆動するためのセンターシャフト108を両ブラケット102,103とリクライニング機構104に挿通させて構成されている。
【0005】
上記リクライニング機構104は、シートバックの傾斜角度を調整するためのものであって、その内部には、前記可動ブラケット103の回動(シートバックの傾動)をロック/アンロックする機構が収納されている。そして、図7に示すように、このリクライニング機構104の一端面(図7の上面)は固定ブラケット102に固定され、他端面(図7の下面)は可動ブラケット103に固定されている。
【0006】
又、固定ブラケット102には、板金をクランク状にプレス成形して成る係止部材であるリターンスプリングブラケット105が固着され、可動ブラケット103にも板金をL字状にプレス成形して成るストッパブラケット107が固着されている。そして、図6に示すように、ストッパブラケット107の外周の所定角度位置には径方向外方に延びる2つのアーム107a,107bが一体に形成されるとともに、垂直に起立する係止部107cが一体に形成されている。
【0007】
而して、前記センターシャフト108の周囲にはスパイラル状に巻回されたリターンスプリング110が巻装されており、このリターンスプリング110の一端は、リターンスプリングブラケット105の垂直に起立する係止部105aに係止され、他端は、前記ストッパブラケット107の係止部107cに係止されている。従って、可動ブラケット103は、リターンスプリング110によって固定ブラケット102(シートクッション)に対して図6の矢印方向(シートバックの前傾方向)に常時付勢されている。
【0008】
ところで、図7及び図8に示すように、可動ブラケット103に固着されたストッパブラケット107のアーム107a,107bとリターンスプリングブラケット105は、可動ブラケット103の回動量(シートバックの角度調整量)を規制するストッパ手段を構成している。即ち、ストッパブラケット107のアーム107a,107bの端面がリターンスプリングブラケット105の係止部105aの端面にそれぞれ当接することによって可動ブラケット103の回動量(シートバックの角度調整量)が規制される。
【0009】
又、図7に示すように、前記センターシャフト108の一端には操作レバー109が結着されている。
【0010】
尚、以上のように構成された車両用リクライニング装置101は、車両用シートの左右両側にそれぞれ設けられている。
【0011】
而して、シートバックの傾斜角度を調整する場合には、操作レバーを乗員が回動操作すれば、操作レバー109とセンターシャフト108が一体に回動せしめられ、リクライニング機構104による可動ブラケット103の回動ロックが解除(アンロック)され、シートバックの傾斜角度の調整が可能となる。具体的には、シートバックは、図6に示すニュートラル位置からストッパブラケット107の一方のアーム107aの端面がリターンスプリングブラケット105の係止部105aの一端面に当接するまで前方へ図示の最大角度θ1だけ傾斜することができ、ストッパブラケット107の他方のアーム107bの端面がリターンスプリングブラケット105の係止部105aの他端面に当接するまで後方へ図示の最大角度θ2だけ傾斜することができる。
【特許文献1】特開2005−034287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図6〜図8に示した従来の車両用リクライニング装置101においては、リターンスプリング110を係止するリターンスプリングブラケット105の係止部105aとストッパブラケット107のアーム107a,107bがストッパ手段を構成し、リターンスプリングブラケット105の係止部105aの端面がストッパブラケット107のアーム107a,107bを受ける構成が採用されている。このため、リターンスプリングブラケット105の係止部105aとストッパブラケット107のアーム107a,107bがリターンスプリング110から受ける大きな力によって撓み変形した場合には、可動ブラケット103の前後の最大傾斜角度が大きくなったり、この最大傾斜角度がシートの左右で異なるために左右のリクライニング装置101の動作の同期性が損なわれる。又、可動ブラケット103の軸方向に強制的な負荷が作用した場合には、可動ブラケット103に倒れを生じて回動抵抗が大きくなる等の問題が発生する。
【0013】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、シートバックの最大調整角を常に一定に保って左右の同期性の低下を防ぐとともに、シートバックの角度調整を円滑に行うことができる車両用リクライニング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、シートクッション側に取り付けられた固定ブラケットと、シートバック側に取り付けられた可動ブラケットとの間にリクライニング機構を介設し、両ブラケット間にリターンスプリングを介装するとともに、該リターンスプリングの端部を係止する係止部材を前記固定ブラケット及び可動ブラケットにそれぞれ設け、前記可動ブラケットの回動量を規制するストッパ手段を設けて成る車両用リクライニング装置において、前記ストッパ手段を前記係止部材とは別部材で構成したことを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ストッパ手段を、前記固定ブラケットに固定されたストッパブラケットと、前記可動ブラケットに設けられたアームとで構成し、該アームを前記ストッパブラケットに形成されたガイド孔に摺動可能に嵌合させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、ストッパ手段を係止部材とは別部材で構成したため、ストッパ手段がリターンスプリングから力を受けて変形することがなく、該ストッパ手段によって可動ブラケット、つまりシートバックの最大調整角が常に一定に保たれ、シートの左右に設けられたリクライニング装置の動作に高い同期性が確保される。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、シートバックの角度調整範囲は、可動ブラケットのアームがストッパブラケットのガイド孔に沿って摺動し得る角度範囲に規制されるが、ストッパ手段を構成するストッパブラケットもアームもリターンスプリングからの力を受けて変形することがないため、シートバックの最大調整角が常に一定に保たれる。又、ストッパブラケットのガイド孔により可動ブラケットの軸方向の倒れを防止することができるため、可動部ブラケットの回動抵抗が小さく抑えられてシートバックの角度調整が抵抗なく円滑になされる。又、ストッパブラケットには閉じたガイド孔が形成されるため、該ストッパブラケットには高い強度と剛性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明に係る車両用リクライニング装置要部の平面図、図2は図1のA−A線断面図、図3、図4及び図5は同車両用リクライニング装置要部のニュートラル状態、最前傾状態、最後傾状態をそれぞれ示す斜視図である。
【0020】
本発明に係る車両用リクライニング装置1は、固定ブラケット2、可動ブラケット3、リクライニング機構4、リターンスプリングブラケット5,6、ストッパブラケット7、センターシャフト8、操作レバー9、リターンスプリング10等の要素を含んで構成されている。以下、各構成要素について説明する。
【0021】
固定ブラケット2は、板金のプレス成形品であって、不図示の車両用シートのシートクッションに取り付けられる。この固定ブラケット2の端部には円形の隆起部2aが形成されており、この隆起部2aの中心には中心孔2bが穿設され、図示しないが、中心孔2bの周囲には複数の円孔が穿設されている。
【0022】
可動ブラケット3も板金のプレス成形品であって、車両用シートの不図示のシートバックに取り付けられる。この可動ブラケット3の端部には円形の隆起部3aが形成されており、この隆起部3aの中心には中心孔3bが穿設され、該中心孔3bの周囲には6つの円孔3cが穿設されている。
【0023】
リクライニング機構4は、シートバックの傾斜角度を調整するためのものであって、固定ブラケット2と可動ブラケット3の間に介設されている。このリクライニング機構4には、シートバックに取り付けられた前記可動ブラケット3の回動(シートバックの傾動)をロック/アンロックする機構が内蔵されており、その中心部には円孔4aが形成されている。そして、このリクライニング機構4の一端面(図2の下面)の前記円孔4aの周囲には、可動ブラケット3に形成された前記円孔3cに嵌合する6つの円柱状突起4bが突設され、同リクライニング機構4の他端面(図2の上面)の前記円孔4aの周囲にも、固定ブラケット2に形成された不図示の円孔に嵌合する複数の円柱状突起4cが突設されており、溶接等により結合されている。尚、このリクライニング機構4は公知であるため、これについての説明は省略する(構成の詳細は特許文献1参照)。
【0024】
リターンスプリングブラケット5,6は、前記リターンスプリング10の端部を係止する係止部材を構成するものであって、板金によってそれぞれクランク状、L字状にプレス成形されて固定ブラケット2及び可動ブラケット3とは別部材で構成されている。一方のリターンスプリングブラケット5は、その平坦部5aが2本のピン11によって固定ブラケット2の前記隆起部2aの近傍に固着されており、平坦部5aからは平面視円弧状の係止部5bが垂直に立設され、この係止部5bにはリターンスプリング10のL字状に折曲された一端が係止されている。
【0025】
又、他方のリターンスプリングブラケット6は、その平坦部6aが可動ブラケット3の前記隆起部3aの中心に固着されており、平坦部6aからは平面視円弧状の係止部6bが垂直に立設され、この係止部6bにはリターンスプリング10のU字状に折曲された他端が係止されている。尚、リターンスプリングブラケット6の平坦部6aには円孔6cが穿設されている。
【0026】
ストッパブラケット7は、板金によってL字状にプレス成形された部品であって、前記固定ブラケット2の隆起部2aと前記リターンスプリングブラケット5との間に配置され、その平坦部7aが固定ブラケット2に固着されている。そして、このストッパブラケット7の平坦部7aからは固定ブラケット2の隆起部2aの外周に沿う平面視円弧状のガイド部7bが垂直に立設されており、このガイド部7bには、図3〜図5に示すように、スリット状のガイド孔7cが円周方向に沿って形成されている。そして、このストッパブラケット7のガイド孔7cには、前記可動ブラケット3の外周から径方向外方に一体に延びるアーム3dが摺動可能に挿通嵌合しており、このアーム3dとストッパブラケット7は、可動ブラケット3の回動量(シートバックの傾動量)を規制するストッパ手段を構成している。
【0027】
センターシャフト8は、固定ブラケット2に形成された中心孔2bと、リクライニング機構4に形成された円孔4aと、可動ブラケット3に形成された中心孔3b及びリターンスプリングブラケット6に形成された円孔6cに挿通されるものであって、後述のように該センターシャフト8を回動操作することによってリクライニング機構4による可動ブラケット3の回動ロックが解除(アンロック)されてシートバックの傾斜角度の調整が可能となる。
【0028】
操作レバー9は、センターシャフト8の先端部に挿通固着されている。尚、本実施の形態では、操作レバーは、シートクッション側に設けられている。
【0029】
リターンスプリング10は、スパイラル状に巻回されたスプリングであって、可動ブラケット3を図1の矢印方向(シートバックの前傾方向)に付勢するものであり、前述のように、その外周端は、一方のリターンスプリングブラケット5の係止部5bに係止され、内周端は、他方のリターンスプリングブラケット6の係止部6bに係止されている。
【0030】
以上のように構成された車両用リクライニング装置1は、車両用シートの左右両側にそれぞれ設けられるが、次にその作用を図3〜図5に基づいて説明する。
【0031】
シートバックがニュートラル位置にあるときには、可動ブラケット3は図3に示す位置にあり、このとき、ストッパ手段を構成するアーム3dは、ストッパブラケット7のガイド孔7cの中間に位置し、リクライニング機構4はロック状態にあって、回動ブラケット3の回動がロックされ、シートバックはニュートラル位置で固定されている。
【0032】
而して、シートバックの傾斜角度を調整する場合には、操作レバー9を乗員が回動操作すれば、該操作レバー9とセンターシャフト8が一体に回動せしめられ、リクライニング機構4による可動ブラケット3の回動ロックが解除(アンロック)され、シートバックの傾斜角度の調整が可能となる。
【0033】
具体的には、シートバックは、図3に示すニュートラル位置から可動ブラケット3のアーム3dがストッパブラケット7のガイド孔7c内を摺動し得る角度範囲でその傾斜角が前後に調整可能であって、例えば図4に示すようにアーム3dがストッパブラケット7のガイド孔7cの一端に当接するまでニュートラル位置から前方へ最大角度θ1(図1参照)だけ傾斜することができる。又、シートバックは、図5に示すようにアーム3dがストッパブラケット7のガイド孔7cの他端に当接するまでニュートラル位置から後方へ最大角度θ2(図1参照)だけ傾斜することができる。
【0034】
以上において、本実施の形態では、シートバックの角度調整範囲は、可動ブラケット3のアーム3dがストッパブラケット7のガイド孔7cに沿って摺動し得る角度範囲に規制されるが、ストッパ手段を構成するストッパブラケット7もアーム3dもリターンスプリングブラケット5,6とは別部材で構成したため、リターンスプリング10の力がストッパブラケット7とアーム3dに及ぶことがない。このため、これらのストッパブラケット7とアーム3dがリターンスプリング10の力で変形することがなく、シートバックの最大調整角が常に一定に保たれ、従来のように最大調整角が増加するようなことがなく、車両用シートの左右に設けられた車両用リクライニング装置1の動作に高い同期性が確保される。
【0035】
又、可動ブラケット3の軸方向(シートバックの幅方向)に負荷が作用しても、アーム3dがストッパブラケット7のガイド孔7c縁部に当接して倒れを防ぐため、可動部ブラケット3の回動抵抗が小さく抑えられてシートバックの角度調整が抵抗なく円滑になされる。
【0036】
更に、ストッパブラケット7には閉じたガイド孔7cが形成されるため、該ストッパブラケット7には高い強度と剛性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る車両用リクライニング装置要部の平面図である。
【図2】図2は図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明に係る車両用リクライニング装置要部のニュートラル状態を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る車両用リクライニング装置要部の最前傾状態を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る車両用リクライニング装置要部の最後傾状態を示す斜視図である。
【図6】従来の車両用リクライニング装置要部の平面図である。
【図7】図7は図6のB−B線断面図である。
【図8】従来の車両用リクライニング装置要部の斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1 車両用リクライニング装置
2 固定ブラケット
2a 固定ブラケットの隆起部
2b 固定ブラケットの中心孔
3 可動ブラケット
3a 可動ブラケットの隆起部
3b 可動ブラケットの中心孔
3c 可動ブラケットの円孔
3d 可動ブラケットのアーム
4 リクライニング機構
4a リクライニング機構の円孔
4b,4c リクライニング機構の円柱状突起
5,6 リターンスプリングブラケット
5a,6a リターンスプリングブラケットの平坦部
5b,6b リターンスプリングブラケットの係止部
6c リターンスプリングブラケットの円孔
7 ストッパブラケット
7a ストッパブラケットの平坦部
7b ストッパブラケットのガイド部
7c ストッパブラケットのガイド孔
8 センターシャフト
9 操作レバー
10 リターンスプリング
11 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッション側に取り付けられた固定ブラケットと、シートバック側に取り付けられた可動ブラケットとの間にリクライニング機構を介設し、両ブラケット間にリターンスプリングを介装するとともに、該リターンスプリングの端部を係止する係止部材を前記固定ブラケット及び可動ブラケットにそれぞれ設け、前記可動ブラケットの回動量を規制するストッパ手段を設けて成る車両用リクライニング装置において、
前記ストッパ手段を前記係止部材とは別部材で構成したことを特徴とする車両用リクライニング装置。
【請求項2】
前記ストッパ手段を、前記固定ブラケットに固定されたストッパブラケットと、前記可動ブラケットに設けられたアームとで構成し、該アームを前記ストッパブラケットに形成されたガイド孔に摺動可能に嵌合させたことを特徴とする請求項1記載の車両用リクライニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−109974(P2008−109974A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293498(P2006−293498)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000237307)富士機工株式会社 (392)
【Fターム(参考)】