説明

車両用リッドロック装置

【課題】緊急時に移動部材を引き戻すために設けられた操作用牽引部材の、車両への搭載性を向上させることのできる車両用リッドロック装置の提供。
【解決手段】リッドロック装置1は、電動モータ3を作動させてウォームホイール5を回動させることにより、ロックシャフト6をハウジング2に対し進退させて、車両ボデーに設けられたリッドと係脱させる。ロックシャフト6の後端には、合成樹脂材料にて一体成形された緊急用ツール7が接続されている。ロックシャフト6に形成された挿入部66を、シャフト係合部71の組付孔711に挿入した後、緊急用ツール7を後方に牽引して、仕切片713を撓ませながら挿入部66をスライド孔712内に移動させることにより、緊急用ツール7とロックシャフト6とが接続される。電動モータ3によるロックシャフト6の戻し作動ができなくなった場合、操作者が緊急用ツール7を引っ張ってロックシャフト6を牽引する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ボデーに設けられたリッド体を閉止状態で固定する車両用リッドロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両ボデーに設けられ、内部に給油口が収容されたリッドボックスを開閉するフューエルリッド(以下、リッド体という)を、閉止した状態で固定するためのリッドロック装置に関する従来技術があった(例えば、特許文献1参照)。このリッドロック装置は、ロックシャフト(以下、移動部材という)をリッド体に向けて突出させ、移動部材の先端をリッド体と係合させている(ロック状態)。
一方、給油時には電動モータによりウォームホイールを駆動し、ウォームホイールと係合した移動部材を引き戻してリッド体との係合を解除している(アンロック状態)。
【0003】
ところで、特許文献1に開示されたリッドロック装置には、電動モータの故障等のような緊急時にリッド体との係合を解除させるために、移動部材を引き戻す牽引手段が備えられている。
これは、例えば、紐状部材の一端に操作用ハンドルを取り付けて牽引部材を形成し、移動部材の後端に形成された貫通孔に、紐状部材の他端を挿入して繋ぐとともに、操作用ハンドルをトランクルーム内に取り付けるものである。これによって、緊急時において、トランクルームから取り外した操作用ハンドルを把持して牽引することにより、牽引部材を介して移動部材を引き戻すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−106438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術によるリッドロック装置においては、電動モータによってウォームホイールが回転されるたびに、移動部材に繋がれた牽引部材の端部が移動部材の軸方向に移動する。
したがって、牽引部材の車両への搭載検討をする場合、その端部が常に移動することを想定して、その搭載スペースを確保する必要があった。牽引部材が車両上の他部材に対して当接を繰返した場合、牽引部材あるいは車両ボデー部品の損傷につながるためである。よって、他部材との干渉を回避させるために、牽引部材の取付スペースが増大し、その車両への搭載性を悪化させていた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、緊急時に移動部材を引き戻すために設けられた操作用牽引部材の、車両への搭載性を向上させることのできる車両用リッドロック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る車両用リッドロック装置の発明の構成は、ハウジング内に収容された駆動用モータと、ハウジング内に移動可能に支持され、一端がハウジングより突出して車両ボデーに設けられたリッド体と係合することにより、リッド体を開放不能にするとともに、駆動用モータの作動により後退し、リッド体との係合が解除される移動部材と、一側の端部が移動部材の他端と接続され、駆動用モータによって移動部材を移動させることが不可能な場合に、他側の端部が牽引されることにより、移動部材の一端をハウジング内に向かって後退させて、リッド体との係合を解除する操作用牽引部材と、を備える車両用リッドロック装置であって、操作用牽引部材が操作されていない場合、移動部材は、操作用牽引部材の一側の端部に対して移動部材の移動方向に相対移動可能なことである。
【0007】
請求項2に係る発明の構成は、請求項1の車両用リッドロック装置において、操作用牽引部材は、移動部材の他端に取り付けられる係合部を備え、係合部および移動部材の他端のうちの一方には、移動部材の移動方向に延びるスリットが形成されており、係合部および移動部材の他端のうちの他方には、スリットに移動可能に連結する連結突部が形成されることである。
【0008】
請求項3に係る発明の構成は、請求項2の車両用リッドロック装置において、係合部および移動部材の他端のうちの一方には、移動部材の移動方向に対して直交する方向に貫通して連結突部が挿通可能な組付孔と、スリットとが形成されており、スリットは、組付孔に連続するとともに、組付孔の内径よりも小さい幅を有して移動部材の移動方向に延び、連結突部は、係合部または移動部材に一体に設けられた基部と、基部から移動部材の移動方向に対して直交する方向に突出した中間部と、中間部に対し、基部とは反対側に接続された抜止部と、を備え、基部の外径は、組付孔を通過不能な大きさに形成され、抜止部の外径は、組付孔に挿入可能、かつ、スリットを通過不能な大きさに形成されるとともに、中間部の外径はスリット内に収容可能な大きさに形成されており、移動部材と操作用牽引部材とを接続する場合、連結突部を組付孔に挿入し、抜止部が組付孔を通過した後、移動部材の移動方向に移動させて、中間部をスリットに対して移動部材の移動方向に移動可能に係合させることである。
【0009】
請求項4に係る発明の構成は、請求項3の車両用リッドロック装置において、組付孔およびスリットは、係合部に形成され、組付孔とスリットとの間には、スリットの幅を狭める方向に延びる仕切片が形成され、連結突部は、組付孔に挿入された後、仕切片を押圧してスリットの幅を増大させる方向に撓ませながらスリット内に移動することである。
【0010】
請求項5に係る発明の構成は、請求項4の車両用リッドロック装置において、仕切片を押圧して、連結突部を組付孔側からスリット内に移動させる場合に比べ、連結突部をスリット側から組付孔内に移動させる場合の方が抵抗が大きいことである。
【0011】
請求項6に係る発明の構成は、請求項5の車両用リッドロック装置において、仕切片の組付孔側の端部には、組付孔の幅がスリット側に向かって縮小されるように傾斜した後方壁が形成され、仕切片のスリット側の端部には、スリットの幅が組付孔側に向かって縮小されるように傾斜した前方壁が形成されており、後方壁は前方壁よりも緩やかに傾斜していることである。
【0012】
請求項7に係る発明の構成は、請求項5または6の車両用リッドロック装置において、連結突部により、仕切片を組付孔側から押圧した場合の連結突部の当接位置に比べ、仕切片をスリット側から押圧した場合の連結突部の当接位置がスリットの幅方向外側に位置することである。
【0013】
請求項8に係る発明の構成は、請求項5乃至7のうちのいずれかの車両用リッドロック装置において、仕切片は、スリット側から組付孔に向けて押圧しても撓み不能としたことである。
【0014】
請求項9に係る発明の構成は、請求項3乃至8のうちのいずれかの車両用リッドロック装置において、組付孔は、開口面の一方向が他方向よりも長い長孔に形成されており、抜止部の断面は、組付孔に挿入可能なように一方向に長く形成されており、移動部材と操作用牽引部材とを接続する場合、組付孔と抜止部の双方の長手方向を一致させた状態で、抜止部が組付孔を通過した後、連結突部を組付孔の軸中心に回転させ、その後、スリット内に移動させることである。
【0015】
請求項10に係る発明の構成は、請求項3乃至9うちのいずれかの車両用リッドロック装置において、係合部または移動部材には移動方向端部に位置するように、連結突部よりも突出量が大きい抜止片が立設され、抜止片は、連結突部とともに組付孔に挿入されることである。
【0016】
請求項11に係る発明の構成は、請求項2乃至10のうちのいずれかの車両用リッドロック装置において、操作用牽引部材は、係合部と、操作者が把持するハンドル部と、係合部とハンドル部とを繋ぐ接続部と、を備え、係合部、ハンドル部および接続部は、合成樹脂材料にて一体に形成されていることである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る車両用リッドロック装置によれば、操作用牽引部材が操作されていない場合、移動部材は、操作用牽引部材の一側の端部に対して移動部材の移動方向に相対移動可能なことにより、正常時において、駆動用モータによって移動部材が移動させられても操作用牽引部材が移動することがなく、車両上の操作用牽引部材の取付スペースを低減でき、車両への搭載性を向上させることができる。
【0018】
請求項2に係る車両用リッドロック装置によれば、操作用牽引部材の係合部および移動部材の他端のうちの一方には、移動部材の移動方向に延びるスリットが形成されており、他方には、スリットに移動可能に連結する連結突部が形成されることにより、連結突部とスリットという簡素な構成によって、移動部材の操作用牽引部材に対する相対移動を行うことができる。
【0019】
請求項3に係る車両用リッドロック装置によれば、移動部材と操作用牽引部材とを接続する場合、連結突部を組付孔に挿入し、抜止部が組付孔を通過した後、移動部材の移動方向に移動させて、中間部をスリットに対して移動部材の移動方向に移動可能に係合させることにより、連結突部を組付孔に挿入した後、スリット内に移動させるのみで、移動部材と操作用牽引部材とを接続することができる。また、移動部材と操作用牽引部材とが接続された後、スリットから移動部材の移動方向に対して直交する方向に引き抜きにくくなるため、移動部材と操作用牽引部材の接続が外れにくくなり、緊急時の操作用牽引部材の操作を確実に行うことができる。
【0020】
請求項4に係る車両用リッドロック装置によれば、組付孔とスリットとの間には、スリットの幅を狭める方向に延びる仕切片が形成され、連結突部を組付孔に挿入した後、仕切片を押圧してスリットの幅を増大させる方向に撓ませながらスリット内に移動させることにより、連結突部を、組付孔への挿入状態からスリットとの係合状態へ、容易に移行させることができる。
また、連結突部を組付孔に挿入した後、仕切片を撓ませながらスリット内に移動させるため、連結突部の移動作業に節度感を持たせることができ、連結突部がスリット内へ移動したことを容易に確認することができる。
【0021】
請求項5に係る車両用リッドロック装置によれば、仕切片を押圧して、連結突部を組付孔側からスリット内に移動させる場合に比べ、連結突部をスリット側から組付孔内に移動させる場合の方が抵抗が大きくなっているので、移動部材と操作用牽引部材とを接続した後、操作用牽引部材を移動部材に向けて押すなどすることにより、連結突部がスリットの端部に当接したとしても、組付孔内に戻りにくくなり、移動部材と操作用牽引部材との接続が外れることを防止することができる。
また、連結突部にさらに大きな荷重を意図的に加えることにより、スリット側から組付孔内に戻り可能なようにすることもできるため、例えば、車両用リッドロック装置の補修の際には、移動部材と操作用牽引部材との接続を解除して、車両用リッドロック装置の本体または操作用牽引部材を車両から取り外すことができる。
【0022】
請求項6に係る車両用リッドロック装置によれば、後方壁は前方壁よりも緩やかに傾斜していることにより、一旦、スリット側に移動した連結突部が組付孔内に戻りにくくなり、簡単な構成で移動部材と操作用牽引部材との接続が外れることを防止することができる。
【0023】
請求項7に係る車両用リッドロック装置によれば、連結突部により、仕切片を組付孔側から押圧した場合の連結突部の当接位置に比べ、仕切片をスリット側から押圧した場合の連結突部の当接位置がスリットの幅方向外側に位置することにより、一旦、スリット側に移動した連結突部が組付孔内に戻りにくくなり、簡単な構成で移動部材と操作用牽引部材との接続が外れることを防止することができる。
【0024】
請求項8に係る車両用リッドロック装置によれば、仕切片は、スリット側から組付孔に向けて押圧しても撓み不能であるので、移動部材と操作用牽引部材とを接続した後、操作用牽引部材を移動部材に向けて押すなどすることにより、連結突部がスリットの端部に当接したとしても、組付孔内に戻ることはなく、移動部材と操作用牽引部材との接続が外れることを完全に防止することができる。
ここで、「移動部材と操作用牽引部材との接続が外れることを完全に防止する」とは、専用の治具等を使用した場合は、当該接続を外すことができることを含んでいる。すなわち、撓み不能とは、全く撓むことができない場合だけではなく、専用の治具等を使用した場合には当該接続を外すことができる程度に撓む場合も含むものである。
【0025】
請求項9に係る車両用リッドロック装置によれば、組付孔は、開口面の一方向が他方向よりも長い長孔に形成されており、抜止部の断面は、組付孔に挿入可能なように一方向に長く形成されており、移動部材と操作用牽引部材とを接続する場合、組付孔と抜止部の双方の長手方向を一致させた状態で、抜止部が組付孔を通過した後、連結突部を組付孔の軸中心に回転させ、その後、スリット内に移動させる。
これにより、組付孔内で回転させた状態で、連結突部が組付孔から引き抜きにくくなるため、移動部材と操作用牽引部材とを接続した後、万が一、連結突部が組付孔内に戻ることがあったとしても、組付孔から脱落しにくくなるため、移動部材と操作用牽引部材との接続が外れることを防止することができる。
【0026】
請求項10に係る車両用リッドロック装置によれば、係合部または移動部材には移動方向端部に位置するように、連結突部よりも突出量が大きい抜止片が立設され、抜止片は、連結突部とともに組付孔に挿入されることにより、操作用牽引部材の係合部が移動部材に対して傾いたとしても、組付孔の周縁が抜止片に当接して、連結突部が組付孔から外れにくくすることができる。
【0027】
請求項11に係る車両用リッドロック装置によれば、操作用牽引部材の係合部、ハンドル部および接続部は合成樹脂材料にて一体に形成されていることにより、部品点数を削減でき、製造が容易で低コストな操作用牽引部材にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態1による車両用リッドロック装置の分解斜視図
【図2】図1に示した車両用リッドロック装置がロック位置にある状態において、内部を見た場合の正面図
【図3】図2のA−A断面図
【図4】アンロック位置にある車両用リッドロック装置の内部を見た場合の正面図
【図5】車両用リッドロック装置のロックシャフトとリッドとの係合状態を示した部分拡大図
【図6】図1に示した緊急用ツールの全体図
【図7】緊急用ツールがロックシャフトに接続された状態を示した車両用リッドロック装置の正面図
【図8】緊急用ツールをロックシャフトに取り付ける前の状態を示した部分斜視図
【図9】ロックシャフトの挿入部を緊急用ツールの組付孔に挿入した状態を示した正面図
【図10】図9のB−B断面図
【図11】挿入部を緊急用ツールの組付孔からスライド孔に移動させる状態を示した正面図
【図12】挿入部をスライド孔に係合させた状態を示した正面図
【図13】ロックシャフトと緊急用ツールを接続した後、ロックシャフトを前方に移動させた状態を示した正面図
【図14】実施形態2による緊急用ツールをロックシャフトに取り付ける状態を示した部分斜視図
【図15】図14に示した挿入部を組付孔に挿入した状態を示した正面図
【図16】緊急用ツールを組付孔の軸中心に回転させつつある状態を示した正面図
【図17】挿入部が組付孔から引き抜き不能になった状態を示した正面図
【図18】図17の側面図
【図19】挿入部を組付孔からスライド孔に移動させる状態を示した正面図
【図20】挿入部をスライド孔に係合させた状態を示した正面図
【図21】実施形態3によるロックシャフトの中間部の断面形状を示した図
【図22】図21に示した中間部が仕切片に対しスライド孔側から当接した状態を示した図
【図23】実施形態3による中間部の別の実施例を示した図
【図24】実施形態3による中間部および仕切片のさらに別の実施例を示した図
【図25】実施形態4による仕切片に対し中間部がスライド孔側から当接した状態を示した図
【発明を実施するための形態】
【0029】
<実施形態1>
図1乃至図13に基づき、本発明の実施形態1によるリッドロック装置1について説明する。尚、特に断らなければ、図2における右方をリッドロック装置1の前方とし、左方を後方として説明する。さらに、図1における上方を、リッドロック装置1の上方として説明する。
【0030】
リッドロック装置1(車両用リッドロック装置に該当する)は、車両ボデー8に設けられ、内部に給油口(図示せず)が収容されたリッドボックス81を開閉するリッド82(リッド体に該当する)と係合して、リッド82を開放不能とするものである(図5示)。
図1に示すように、本実施形態によるリッドロック装置1は、ボデー21とカバー22とによりアクチュエータハウジング2(ハウジングに該当し、以下ハウジングと言う)が形成され、ハウジング2内に電動モータ3(駆動用モータに該当する)、ウォーム4、ウォームホイール5、ロックシャフト6(移動部材に該当する)が収容されて形成されている。
【0031】
ボデー21とカバー22は、ともに合成樹脂材料にて形成され、上述した内部構成品が収容された後、互いに嵌合されたうえで、ボデー21の係止片211をカバー22の係止突部221に係合させて一体化される。また、ボデー21の底面部212からは、ストッパ支持部213が突出している。ストッパ支持部213は、ボデー21と一体成形により形成されており、ストッパ支持部213には、合成ゴム材料にて形成されたストッパゴム214が上方から装着されている。
【0032】
電動モータ3のアウトプットシャフト31(図2示)はウォーム4に圧入され、ウォーム4は電動モータ3により回転可能とされている。ウォーム4は金属あるいは合成樹脂材料にて形成され、外周面41上には歯部(図示せず)が形成されている。ウォーム4に電動モータ3のアウトプットシャフト31が圧入された後、電動モータ3およびウォーム4は、ボデー21の底面部212上にそれぞれ配設される。
【0033】
ウォームホイール5は、合成樹脂材料にて外周面51が円弧状の略扇形に形成されており、表裏を枢支孔52が貫通している。また、ウォームホイール5は、図1において下方に突出した係合柱53を有し、図2に示すように、係合柱53の近傍には、同じく下方へと延びた平坦な第1ストッパ壁54が形成されている。一方、枢支孔52の近傍には、第1ストッパ壁54と同方向へと延びた第2ストッパ壁55が形成されている。
ウォームホイール5は、枢支孔52がボデー21の底面部212から突出したホイール軸215に嵌合されることにより、ボデー21に対してホイール軸215回りに回転可能に取り付けられる。ウォームホイール5の外周面51には、歯部(図示せず)が形成されており、上述したウォーム4の歯部と噛合している。
【0034】
ロックシャフト6は合成樹脂材料にて長尺状に一体成形されており、先端(図2において右端)には、リッド82と係合するロック部61が形成されている。ロック部61は円柱状に形成され、先端部にはテーパ部61aが設けられている(図5示)。ロック部61と隣接する支持部62は、ロック部61よりも大径の円柱状を呈しており、支持部62には合成ゴム材料により形成された一対のシールリング63が装着される。ロックシャフト6の支持部62は、ボデー21のシャフト保持部216内に軸方向に移動可能に挿入される。
【0035】
図2に示したように、ロックシャフト6のほぼ中央部には、回避部64が所定距離に渡って形成されている。回避部64は、ウォーム4およびウォームホイール5を上方に重合配置するために、前述した支持部62の上半分を厚み方向に取り去ったような形状を呈している。
また、回避部64の後方には、連動孔65がロックシャフト6の厚み方向に掘り下げられるように形成されている。連動孔65には、上述したウォームホイール5に形成された係合柱53が挿入されている。
上述した構成によりロックシャフト6は、ウォームホイール5と係合しながらハウジング2内において、軸方向(図2において左右方向)に移動可能に収容されている。
【0036】
また、ロックシャフト6の後端(図2において左端)には、後述する緊急用ツール7(操作用牽引部材に該当する)の一端部が取り付けられる挿入部66(連結突部に該当する)が、ロックシャフト6の軸に対して垂直方向に突出するように形成されている。挿入部66の詳細については、後述する。
【0037】
リッドロック装置1を形成する各構成部品をボデー21内に収容した後、ボデー21に対してカバー22を嵌合させて、ボデー21の係止片211をカバー22の係止突部221に係合させて一体化する(前述)。これにより、電動モータ3、ウォーム4、ウォームホイール5およびロックシャフト6を、ボデー21とカバー22とによりがたつき無く保持することができる。また、ボデー21のシャフト保持部216の前端部に形成されたシール溝216aには、合成ゴム材料により形成された防水リング23が装着される。
【0038】
図3に示したように、電動モータ3、ウォーム4、ウォームホイール5およびロックシャフト6を収容したボデー21に対し、カバー22を嵌合させた状態で、ウォームホイール5の下面に突出したストッパ押え56が、ストッパゴム214と対向し、ストッパゴム214がストッパ支持部213から抜け出ることを防止している。
【0039】
また、ボデー21とカバー22とを嵌合させた状態において、カバー22の押えボス222に形成された段付部222aが、ボデー21のホイール軸215の上端に形成されたフック部215aと係合する。この時、ウォームホイール5は、ボデー21の底面部212とカバー22の押えボス222の下面とによって挟持されている。
これにより、後述するように、第1ストッパ壁54あるいは第2ストッパ壁55がストッパゴム214に当接して電動モータ3の作動が停止させられた場合に、ウォーム4から上方への荷重を受けたウォームホイール5が、底面部212から浮き上がることを防止している。
【0040】
図2に示すように、リッドロック装置1は、リテーナ83を介してリッドボックス81の支持壁811に搭載される。リテーナ83はリッドロック装置1の構成外の部材であり、支持壁811に貫通するように取り付けられている。リッドボックス81内(図2において支持壁811の右方)に突き出たリテーナ83の大径部831と支持壁811との間には、シールプレート84が介装されており、リッドボックス81の内外を液密的に遮断している。
【0041】
リッドロック装置1のシャフト保持部216は、リテーナ83内に挿入されることにより支持壁811に固定され、シャフト保持部216とリテーナ83との間に介在する防水リング23により、双方の間がシールされている。
図1に示すように、リッドロック装置1のシャフト保持部216からは、操作レバー217が後方に延びており、操作レバー217の途中部位には係合部217aが突出している。シャフト保持部216を、リテーナ83に対し図2において右方に挿入していくと、係合部217aがリテーナ83の内周面と当接することにより、操作レバー217が図2において上方へと撓められる。さらに、シャフト保持部216を挿入すると、操作レバー217が復元して、係合部217aがリテーナ83の凹部832(図2示)と係合することにより、シャフト保持部216の抜け止めが行われる。
【0042】
シャフト保持部216をリテーナ83に装着した状態において、ロックシャフト6がハウジング2に対し軸方向に移動しても、係合部217aと凹部832との係合により、リッドロック装置1が車両ボデー8から抜けることが防止される。また、後述するように、緊急用ツール7により、ロックシャフト6がリッド82との係合が解除される位置に向けて牽引された場合にも、リッドロック装置1が車両ボデー8から脱落することを完全に防止することができる。
【0043】
一方、リッドロック装置1を車両ボデー8から取り外す場合、操作者が操作レバー217を図2において上方へと付勢する。このようにして、係合部217aと凹部832との係合を解除しながら、シャフト保持部216を、リテーナ83から図2における左方に引き抜くことにより容易に取り外すことができる。
【0044】
図4に示したように、ロックシャフト6がリッド82と非係合状態(アンロック位置)にあるリッドロック装置1において、電動モータ3を所定の作動条件で作動させる。これにより、ウォーム4を介してウォームホイール5が、ホイール軸215を中心に図4において反時計回りに回動する。
このため、ウォームホイール5の係合柱53と連動孔65において係合したロックシャフト6が、ハウジング2に対し軸方向(図4において右方)に移動し、ロック部61がハウジング2外に突出する(図2示:ロック位置)。この時、ロック部61はリッドボックス81内に突出し、リッド82と係合して開放不能な状態に保持する(図5示)。尚、図5は、リッドロック装置1の前端部について、図2における上方より見た状態を示している。
【0045】
ウォーム4により回転されたウォームホイール5は、第1ストッパ壁54がストッパゴム214に当接することにより回動が停止される。電動モータ3と接続された図示しないコントローラは、ウォームホイール5の回動停止により発生した電動モータ3の負荷電流を検出し、電動モータ3への電力の供給を停止する。
【0046】
また、図2に示すように、ロックシャフト6がロック位置にあるリッドロック装置1において、電動モータ3を所定の作動条件で作動させて、ウォームホイール5を上述した場合と逆向きに(図2において時計回りに)回動させる。これにより、ロックシャフト6をハウジング2に対し軸方向(図2において左方)に移動させ、ロック部61をハウジング2内に格納する(図4示:アンロック位置)。後退したロック部61は、リッド82との係合が外れてリッド82を開放可能な状態にする。
【0047】
ウォーム4により逆回転されたウォームホイール5は、第2ストッパ壁55がストッパゴム214に当接することにより回動が停止される。コントローラは、ウォームホイール5の回動停止により発生した電動モータ3の負荷電流を検出し、電動モータ3への電力の供給を停止する。
【0048】
次に、前述した緊急用ツール7について詳述する。図6に示すように、緊急用ツール7は、一端(前端)部に設けられ前述したロックシャフト6の挿入部66に取り付けられるシャフト係合部71(係合部に該当する)と、他端(後端)部に形成され、緊急時に操作者の手により把持されるハンドル部72と、シャフト係合部71とハンドル部72とを繋ぐ接続部73とにより形成されている。
緊急用ツール7は、ロックシャフト6を形成する合成樹脂材料よりも軟質の合成樹脂材料による一体成形により形成されている。すなわち、シャフト係合部71、ハンドル部72および接続部73が、合成樹脂材料により一体的に形成されている。
【0049】
シャフト係合部71は概ね平板状に形成されており、組付孔711が厚み方向(ロックシャフト6に取り付けた後、ロックシャフト6の移動方向に直交した方向)に貫通している。また、シャフト係合部71には、組付孔711と連続したスライド孔712(スリットに該当する)が、緊急用ツール7の端部に向かって延びるように形成されている。スライド孔712は、組付孔711の内径よりも小さい幅を有し、ロックシャフト6の移動方向に延びている。
【0050】
さらに、組付孔711とスライド孔712との間には、スライド孔712の幅を狭める方向に一対の仕切片713が延びている。各々の仕切片713のスライド孔712側の端部(前端部)には、スライド孔712の幅が組付孔711側に向かって縮小されるように傾斜した前方壁713aが形成され、仕切片713の組付孔711側の端部(後端部)には、組付孔711の幅がスライド孔712側に向かって縮小されるように傾斜した後方壁713bが形成されており、後方壁713bは前方壁713aよりも緩やかに傾斜している(図7示)。後述するように、各々の仕切片713は、スライド孔712の幅を広げる方向に撓み可能なスナップフィットを形成している。
【0051】
一方、ロックシャフト6の後端に形成された挿入部66は、回避部64の後方に一体に連なった基部661と、基部661からロックシャフト6の軸方向に直交する方向に突出した中間部662(図9示)と、中間部662に対して基部661とは反対側に接続された抜止部663とにより形成されている。
【0052】
図9に示したように、基部661は、挿入部66の突出方向に対する垂直断面が略四角形状を呈しており、その外径は、緊急用ツール7の組付孔711およびスライド孔712をともに通り抜け不能な大きさに形成されている。
また、抜止部663の当該断面形状は、その外径が組付孔711に挿入可能な大きさに形成されているが、当該断面の幅方向(図9における上下方向)の長さは、スライド孔712の幅よりも大きく、スライド孔712を通過不能に形成されている。
【0053】
また、中間部662の挿入部66の突出方向に対して垂直な断面形状は、その外径が抜止部663よりも小さく形成され、略小判形状(長円状)を呈している。中間部662の当該断面形状における短い側の長さは、スライド孔712の幅とほぼ同じ長さに形成されており、スライド孔712内に収容可能に形成されている。
【0054】
次に、緊急用ツール7の、ロックシャフト6への接続方法について説明する。図8に示したように、緊急用ツール7の組付孔711に対し、ロックシャフト6の挿入部66をその突出方向に挿入していく。
挿入部66の抜止部663が組付孔711を通過すると(図9および図10示)、緊急用ツール7を後方(図9において右方)に牽引し、中間部662によって仕切片713を前方に押圧する。上述したように、仕切片713の後方壁713bの傾斜は緩やかであるため、比較的少ない荷重で緊急用ツール7を牽引しても中間部662が後方壁713bに乗り上げ、仕切片713をスライド孔712の幅が増大する方向に撓ませることができる(図11示)。このように、緊急用ツール7を牽引することにより、挿入部66が仕切片713を押圧して撓ませながらスライド孔712内に移動し、緊急用ツール7とロックシャフト6との接続が完了する(図12示)。
【0055】
緊急用ツール7とロックシャフト6とが接続された後、中間部662はスライド孔712に対して前後方向に移動可能に嵌合する。これによって、緊急用ツール7が操作されていない場合、ロックシャフト6は緊急用ツール7を静止させたまま、シャフト係合部71に対して軸方向に相対移動可能となる(図13示)。中間部662がスライド孔712に係合した状態において、板状のシャフト係合部71は基部661と抜止部663により挟持されるため、挿入部66に対して、シャフト係合部71が厚み方向(図10において上下方向)に振れることがない。
【0056】
上述したように、中間部662の断面形状は小判形状をしており、その長手方向の外周面がスライド孔712に当接しているため(図12示)、挿入部66がシャフト係合部71に対して前後方向に移動している際に、スライド孔712が中間部662に対して傾かず、緊急用ツール7がスライド孔712の幅方向(図13において上下方向)に振れることがない。
【0057】
上述したように、挿入部66の基部661および抜止部663は、スライド孔712を通過不能な大きさに形成されている。したがって、挿入部66は、スライド孔712からロックシャフト6の軸方向に対し垂直な方向に引き抜かれることはなく、挿入部66がスライド孔712から外れることはない。
【0058】
また、仕切片713の前方壁713aは後方壁713bに比べて急傾斜であるため、中間部662によって前方壁713aが押圧されても中間部662が前方壁713aに乗り上げにくい。すなわち、後方壁713bを押圧して、挿入部66を組付孔711側からスライド孔712内に移動させる場合に比べ、前方壁713aを押圧して、挿入部66をスライド孔712側から組付孔711内に移動させる場合の方が抵抗が大きくなっており、仕切片713がスライド孔712の幅を増大させる方向に撓みにくくなっている。したがって、スライド孔712内に移動した挿入部66が、シャフト係合部71に対する移動中に、組付孔711内に再び戻りにくく形成されている。
【0059】
図6に示すように、ハンドル部72は、平板を屈曲させた形状を呈している。ハンドル部72は、図6における背面側にて車両ボデー8の取付壁(図示せず)に取り付けられる。取付壁は、これに限定されるべきものではないが、車両のトランク等を形成するインナパネルにより形成されている。シャフト係合部71とハンドル部72とを繋いでいる接続部73は、車両ボデー8のインナパネルとアウタパネル(ともに図示せず)との間を通って配置される。接続部73は、操作者による引張り荷重に抗するように、所定の強度を備えている。
【0060】
リッドロック装置1に不具合が発生し、電動モータ3によるロックシャフト6のアンロック位置への戻し作動ができなくなった場合、操作者はハンドル72を掴んで緊急用ツール7を後方に引っ張る。これにより、挿入部66はスライド孔712内を相対移動し、スライド孔712の前端が中間部662に当接して、緊急用ツール7を介してロックシャフト6を牽引可能となる。
【0061】
これ以降、操作者がハンドル部72を牽引することにより、ウォームホイール5、ウォーム4および電動モータ3を回転させながら、ロックシャフト6をアンロック位置へと移動させ、リッド82との係合を解除することができる。
リッド82は図示しないスプリングによって、リッドボックス81を閉鎖する方向に付勢されており、給油が終了した後に、再びロックシャフト6をロック位置に移動させる必要はない。
【0062】
本実施形態によれば、緊急用ツール7が操作されていない場合、ロックシャフト6は、緊急用ツール7を静止させたまま、緊急用ツール7のシャフト係合部71に対して軸方向に相対移動可能なことにより、正常時において、電動モータ3によってロックシャフト6が移動させられても緊急用ツール7が移動することがなく、車両上の緊急用ツール7の取付スペースを低減でき、車両への搭載性を向上させることができる。
【0063】
また、緊急用ツール7は合成樹脂材料にて一体に形成されていることにより、部品点数を削減でき、製造が容易で低コストな緊急用ツール7にすることができる。
また、シャフト係合部71には、ロックシャフト6の移動方向に延びるスライド孔712が形成されており、ロックシャフト6には、スライド孔712に移動可能に連結する挿入部66が形成されることにより、挿入部66とスライド孔712という簡素な構成によって、ロックシャフト6の緊急用ツール7に対する相対移動を行うことができる。
【0064】
また、ロックシャフト6と緊急用ツール7とを接続する場合、挿入部66を組付孔711に挿入し、抜止部663が組付孔711を通過した後、ロックシャフト6の軸方向に移動させて、中間部662をスライド孔712に対してロックシャフト6の軸方向に移動可能に係合させる。
【0065】
これにより、ロックシャフト6と緊急用ツール7は、挿入部66を組付孔711に挿入した後、緊急用ツール7を後方に牽引するのみで接続することができるため、その組付作業を容易にすることができ、また、ロックシャフト6と緊急用ツール7とが接続された後、挿入部66がスライド孔712からロックシャフト6の軸に対して直交する方向に引き抜きにくくなるため、ロックシャフト6と緊急用ツール7の接続が外れにくくなり、緊急時の緊急用ツール7の操作を確実に行うことができる。
【0066】
また、組付孔711とスライド孔712との間には、スライド孔712の幅を狭める方向に延びる仕切片713が形成され、挿入部66を組付孔711に挿入した後、仕切片713を押圧して撓ませながらスライド孔712内に移動させることにより、挿入部66を、組付孔711への挿入状態からスライド孔712との係合状態へ、容易に移行させることができる。
また、挿入部66を組付孔711に挿入した後、仕切片713を撓ませながらスライド孔712内に移動させるため、挿入部66の移動作業に節度感を持たせることができ、挿入部66がスライド孔712内へ移動したことを容易に確認することができる。
【0067】
また、後方壁713bは前方壁713aよりも緩やかに傾斜していることにより、後方壁713bを押圧して、挿入部66を組付孔711側からスライド孔712内に移動させる場合に比べ、前方壁713aを押圧して、挿入部66をスライド孔712側から組付孔711内に移動させる場合の方が抵抗が大きく、仕切片713がスライド孔712の幅を増大させる方向に撓みにくくなっている。
【0068】
したがって、一旦、ロックシャフト6と緊急用ツール7とが接続された後、緊急用ツール7をロックシャフト6に向けて押すなどすることにより、挿入部66がスライド孔712の端部に当接したとしても、組付孔711内に戻りにくくなり、簡単な構成で緊急用ツール7とロックシャフト6との接続が外れることを防止することができる。
また、挿入部66にさらに大きな荷重を意図的に加えることにより、スライド孔712側から組付孔711内に戻すこともできるため、例えば、リッドロック装置1の補修の際には、ロックシャフト6と緊急用ツール7との接続を解除して、リッドロック装置1の本体または緊急用ツール7を車両から取り外すことができる。
【0069】
<実施形態2>
図14乃至図20に基づき、本発明の実施形態2によるリッドロック装置1のロックシャフト6Aと緊急用ツール7Aの構成および双方の接続方法について、実施形態1の場合との相違点を中心に説明する。
ロックシャフト6Aは、実施形態1の場合と同様に挿入部66を備えており、挿入部66は基部661、中間部662(図17示)および抜止部663とにより形成されている。抜止部663の突出方向に対する垂直断面形状は、一方向に長く形成されている。すなわち、図20に示したように、抜止部663についてのロックシャフト6Aの軸方向寸法rは、ロックシャフト6Aの幅方向寸法tよりも大きく形成されている。
また、ロックシャフト6Aには、その軸方向端部に位置するように、係合片67(抜止片に該当する)が設けられている。係合片67は抜止部663の後端部上から延びることにより、挿入部66よりも突出量が大きく形成されている(図14示)。
【0070】
一方、緊急用ツール7Aのシャフト係合部71Aは、実施形態1の場合と同様に組付孔714、組付孔714に連続したスライド孔712および組付孔714とスライド孔712との間に設けられた仕切片713を備えている。
図20に示したように、組付孔714は、抜止部663が挿入可能な大きさに形成されており、その縦横の寸法R、Tは、式R>rおよびT>tを満足している。
また、組付孔714は、開口面の一方向が他方向よりも長い長孔に形成されており、図20における縦寸法Rは、横寸法Tよりも大きく形成されている。さらに、抜止部663の軸方向寸法rは、組付孔714の横寸法Tよりも大きく形成されている。
ロックシャフト6Aおよび緊急用ツール7Aのその他の構成については、実施形態1の場合と同様と同様であるため、これ以上の説明は省略する。
【0071】
次に、緊急用ツール7Aの、ロックシャフト6Aへの接続方法について説明する。まず、図15に示したように、ロックシャフト6Aの軸方向に対して緊急用ツール7Aの軸方向を90°ずらした状態で、組付孔714に対し挿入部66を、係合片67とともにその突出方向に挿入していく。この時、組付孔714と抜止部663の双方の長手方向が一致している。
【0072】
挿入部66の抜止部663が組付孔714を通過すると、緊急用ツール7Aを組付孔714の軸中心に時計回りに回転させていく(図14および図16示)。緊急用ツール7Aが90°回転され、ロックシャフト6Aの軸方向と緊急用ツール7Aの軸方向とが一致すると(図17および図18示)、抜止部663の軸方向寸法rが、組付孔714の横寸法Tよりも大きいため、挿入部66は組付孔714から引き抜き不能となる。
その後、実施形態1の場合と同様に、緊急用ツール7Aを後方に牽引し(図19示)、仕切片713をスライド孔712の幅を増大させる方向に撓ませながら、挿入部66をスライド孔712内に移動させる(図20示)。
【0073】
本実施形態によれば、組付孔714が長孔に形成され、挿入部66の抜止部663の断面が一方向に長く形成されており、ロックシャフト6Aと緊急用ツール7Aとを接続する場合、組付孔714と抜止部663の双方の長手方向を一致させた状態で、抜止部663を組付孔714に通過させた後、挿入部66を組付孔714の軸中心に回転させ、その後、スライド孔712内に移動させている。
【0074】
これにより、組付孔714内で回転させた状態で、挿入部66が組付孔714から引き抜きにくくなるため、ロックシャフト6Aと緊急用ツール7Aとが接続された後、万が一、挿入部66が組付孔714内に戻ることがあったとしても、組付孔714から脱落しにくくなるため、ロックシャフト6Aと緊急用ツール7Aとの接続が外れることを防止することができる。
【0075】
また、ロックシャフト6Aには、その軸方向端部に位置するように、挿入部66よりも突出量が大きい係合片67が立設されており、係合片67は、挿入部66とともに組付孔714に挿入されることにより、緊急用ツール7Aのシャフト係合部71Aがロックシャフト6Aに対して、その厚み方向(図18において上下方向)に傾いたとしても、組付孔714の周縁が係合片67に当接して、挿入部66が組付孔714から外れにくくすることができる。
【0076】
<実施形態3>
図21乃至図24に基づき、実施形態3によるロックシャフト6の中間部664について説明する。図21に示したように、実施形態3の最初の実施例による中間部664は、実施形態1による中間部662に対して、後方側に一対の突部664a(図21においてハッチングを付した部位)を一体に設けることにより形成されている。中間部664のその他の構成については、実施形態1による中間部662と同様である。また、図22に示すように、中間部664が係合する緊急用ツール7の仕切片713およびその他の構成も、実施形態1によるものと同様である。
【0077】
本実施形態においては、突部664aが形成されたことにより、中間部664が組付孔711側からスライド孔712へ移動する場合の、中間部664の後方壁713bに対する当接位置(図22において中間部664の形状を破線にて示す)に比べ、中間部664がスライド孔712側から組付孔711へ移動する場合の、中間部664の前方壁713aに対する当接位置が、スライド孔712の幅方向外側(図22において上方または下方)に位置している。換言すれば、中間部664がスライド孔712側から仕切片713を押圧する場合、仕切片713の根元に当接する。
【0078】
したがって、押圧する前方壁713aの部位の剛性が大きく、前方壁713aが後方壁713bよりも急傾斜であることと相俟って、後方壁713bを押圧して、中間部664を組付孔711側からスライド孔712内に移動させる場合に比べ、前方壁713aを押圧して、中間部664をスライド孔712側から組付孔711内に移動させる場合の方が抵抗が大きくなっている。よって、後方壁713bが押圧された場合に比べ、仕切片713がスライド孔712の幅を増大させる方向に撓みにくくなっており、スライド孔712内に移動した挿入部66が、シャフト係合部71に対する移動中に、組付孔711内に再び戻りにくく形成されている。
【0079】
本実施形態によれば、中間部664に一対の突部664aを一体に形成することにより、後方壁713bを組付孔711側から押圧した場合の中間部664の当接位置に比べ、前方壁713aをスライド孔712側から押圧した場合の中間部664の当接位置がスライド孔712の幅方向外側に位置することにより、一旦、スライド孔712側に移動した中間部664が組付孔711内に戻りにくくなり、簡単な構成でロックシャフト6と緊急用ツール7との接続が外れることを防止することができる。
また、実施形態3の次の実施例として、図23に示したように、後端部を平坦面に形成した中間部665としてもよい。
【0080】
また、実施形態3のさらに次の実施例として、図24に示したように、前端部を鋭角状に形成するとともに、後端部を平坦面に形成した中間部666としてもよい。図に示すように、この場合、中間部666が係合する緊急用ツール7の仕切片715は、前方壁715aの傾斜と後方壁715bの傾斜とを等しくすることができる。
図23および図24に示した中間部665、666についても、中間部665、666が組付孔711側からスライド孔712へ移動する場合の、中間部665、666の後方壁713b、715bに対する当接位置に比べ、中間部665、666がスライド孔712側から組付孔711へ移動する場合の、中間部665、666の前方壁713a、715aに対する当接位置が、スライド孔712の幅方向外側に位置している。したがって、中間部665、666がスライド孔712側から押圧した場合に、仕切片713、715がスライド孔712の幅を増大させる方向に撓みにくくなっており、スライド孔712内に移動した中間部665、666が、組付孔711内に再び戻りにくく形成されている。
【0081】
<実施形態4>
図25に基づき、実施形態4による緊急用ツール7の仕切片716について説明する。図25に示した中間部665は、図23に示したものと同様に形成されている。一方、本実施形態による仕切片716は、実施形態1による仕切片713の後方壁713bと同様に傾斜した後方壁716bと、中間部665の移動方向に対して垂直な前方壁716aとが組み合わされて形成されている。中間部665および仕切片716のその他の構成については、実施形態1によるものと同様である。
上述したように、仕切片716は、前方壁716aが中間部665の移動方向に対して垂直に形成されている。このため、中間部665によってスライド孔712側から組付孔711に向けて押圧されても、スライド孔712の幅を増大させる方向に付勢する荷重ベクトルが0であるため、仕切片716は撓み不能となる。尚、中間部665によって仕切片716の後方壁716bを組付孔711側から押圧した場合、実施形態1による場合のようにスライド孔712の幅を増大させる方向に撓み易いことは言うまでもない。
【0082】
本実施形態によれば、仕切片716は、スライド孔712側から組付孔711に向けて押圧しても撓み不能であるので、ロックシャフト6と緊急用ツール7とを接続した後、緊急用ツール7をロックシャフト6に向けて押すなどすることにより、中間部665がスライド孔712の端部に当接したとしても、組付孔711内に戻ることはなく、ロックシャフト6と緊急用ツール7との接続が外れることを完全に防止することができる。
ここで、「ロックシャフト6と緊急用ツール7との接続が外れることを完全に防止する」とは、専用の治具等を使用した場合は、当該接続を外すことができることを含んでいる。すなわち、撓み不能とは、全く撓むことができない場合だけではなく、専用の治具等を使用した場合には当該接続を外すことができる程度に撓む場合も含むものである。
実施形態3および実施形態4による中間部664、665、666および仕切片715、716は、上述した実施形態2によるロックシャフト6Aおよび緊急用ツール7Aに適用してもよい。
【0083】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
組付孔711およびスライド孔712をロックシャフト6の後端部に形成し、挿入部66を緊急用ツール7のシャフト係合部71に形成してもよい。
また、仕切片713は、緊急用ツール7、7Aに1個設けるのみであってもよい。
【0084】
また、実施形態2による緊急用ツール7Aにおいては、ロックシャフト6Aに接続された状態において、長孔に形成された組付孔714から挿入部66が引き抜き不能であるため、組付孔714とスライド孔712との間に形成された仕切片713は必ずしも設けなくてもよい。
また、緊急用ツール7のハンドル部72の形状は、本実施形態によるものに限られるものではなく、操作者が把持して牽引することが可能であれば、いかなる形状であってもよい。
【0085】
また、本発明を、特許公開公報である特開平4−302680号に記載されたような、スプリング等によりロックシャフト6が常にロック位置に向けて付勢されており、電動モータ3を作動させることにより、スプリングの付勢力に抗してロックシャフト6をアンロック位置に移動させるリッドロック装置に適用してもよい。
【0086】
また、リテーナ83と支持壁811とを接着、溶着等により接合し一体化してもよい。また、リテーナ83と支持壁811とを合成樹脂等により一体成形してもよい。リテーナ83と支持壁811とを一体成形する場合には、シールプレート84が廃止され、防水リング23のみによってリッドボックス81の内外が液密的に遮断される。
また、電動モータ3への電力供給の停止は、タイマー制御により行ってもよい。
【符号の説明】
【0087】
図面中、1はリッドロック装置(車両用リッドロック装置)、2はアクチュエータハウジング(ハウジング)、3は電動モータ(駆動用モータ)、6,6Aはロックシャフト(移動部材)、7,7Aは緊急用ツール7(操作用牽引部材)、8は車両ボデー、66は挿入部(連結突部)、67は係合片(抜止片)、71,71Aはシャフト係合部(係合部)、72はハンドル部、73は接続部、82はリッド(リッド体)、661は基部、662,664,665,666は中間部、663は抜止部、711,714は組付孔、712はスライド孔(スリット)、713,715,716は仕切片、713a,715a,716aは前方壁、713b,715b,716bは後方壁を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に収容された駆動用モータと、
前記ハウジング内に移動可能に支持され、一端が前記ハウジングより突出して車両ボデーに設けられたリッド体と係合することにより、前記リッド体を開放不能にするとともに、前記駆動用モータの作動により後退し、前記リッド体との係合が解除される移動部材と、
一側の端部が前記移動部材の他端と接続され、前記駆動用モータによって前記移動部材を移動させることが不可能な場合に、他側の端部が牽引されることにより、前記移動部材の前記一端を前記ハウジング内に向かって後退させて、前記リッド体との係合を解除する操作用牽引部材と、
を備える車両用リッドロック装置であって、
前記操作用牽引部材が操作されていない場合、前記移動部材は、前記操作用牽引部材の前記一側の端部に対して前記移動部材の移動方向に相対移動可能な車両用リッドロック装置。
【請求項2】
前記操作用牽引部材は、前記移動部材の前記他端に取り付けられる係合部を備え、
前記係合部および前記移動部材の前記他端のうちの一方には、前記移動部材の移動方向に延びるスリットが形成されており、
前記係合部および前記移動部材の前記他端のうちの他方には、前記スリットに移動可能に連結する連結突部が形成される請求項1記載の車両用リッドロック装置。
【請求項3】
前記係合部および前記移動部材の前記他端のうちの一方には、前記移動部材の移動方向に対して直交する方向に貫通して前記連結突部が挿通可能な組付孔と、前記スリットとが形成されており、
前記スリットは、前記組付孔に連続するとともに、前記組付孔の内径よりも小さい幅を有して前記移動部材の移動方向に延び、
前記連結突部は、
前記係合部または前記移動部材に一体に設けられた基部と、
前記基部から前記移動部材の移動方向に対して直交する方向に突出した中間部と、
前記中間部に対し、前記基部とは反対側に接続された抜止部と、
を備え、
前記基部の外径は、前記組付孔を通過不能な大きさに形成され、前記抜止部の外径は、前記組付孔に挿入可能、かつ、前記スリットを通過不能な大きさに形成されるとともに、前記中間部の外径は前記スリット内に収容可能な大きさに形成されており、
前記移動部材と前記操作用牽引部材とを接続する場合、前記連結突部を前記組付孔に挿入し、前記抜止部が前記組付孔を通過した後、前記移動部材の移動方向に移動させて、前記中間部を前記スリットに対して前記移動部材の移動方向に移動可能に係合させる請求項2記載の車両用リッドロック装置。
【請求項4】
前記組付孔および前記スリットは、前記係合部に形成され、
前記組付孔と前記スリットとの間には、前記スリットの幅を狭める方向に延びる仕切片が形成され、
前記連結突部は、前記組付孔に挿入された後、前記仕切片を押圧して前記スリットの幅を増大させる方向に撓ませながら前記スリット内に移動する請求項3記載の車両用リッドロック装置。
【請求項5】
前記仕切片を押圧して、前記連結突部を前記組付孔側から前記スリット内に移動させる場合に比べ、前記連結突部を前記スリット側から前記組付孔内に移動させる場合の方が抵抗が大きい請求項4記載の車両用リッドロック装置。
【請求項6】
前記仕切片の前記組付孔側の端部には、前記組付孔の幅が前記スリット側に向かって縮小されるように傾斜した後方壁が形成され、前記仕切片の前記スリット側の端部には、前記スリットの幅が前記組付孔側に向かって縮小されるように傾斜した前方壁が形成されており、前記後方壁は前記前方壁よりも緩やかに傾斜している請求項5記載の車両用リッドロック装置。
【請求項7】
前記連結突部により、前記仕切片を前記組付孔側から押圧した場合の前記連結突部の当接位置に比べ、前記仕切片を前記スリット側から押圧した場合の前記連結突部の当接位置が前記スリットの幅方向外側に位置する請求項5または6に記載の車両用リッドロック装置。
【請求項8】
前記仕切片は、前記スリット側から前記組付孔に向けて押圧しても撓み不能である請求項5乃至7のうちのいずれか一項に記載の車両用リッドロック装置。
【請求項9】
前記組付孔は、開口面の一方向が他方向よりも長い長孔に形成されており、
前記抜止部の断面は、前記組付孔に挿入可能なように一方向に長く形成されており、
前記移動部材と前記操作用牽引部材とを接続する場合、前記組付孔と前記抜止部の双方の長手方向を一致させた状態で、前記抜止部が前記組付孔を通過した後、前記連結突部を前記組付孔の軸中心に回転させ、その後、前記スリット内に移動させる請求項3乃至8のうちのいずれか一項に記載の車両用リッドロック装置。
【請求項10】
前記係合部または前記移動部材には移動方向端部に位置するように、前記連結突部よりも突出量が大きい抜止片が立設され、前記抜止片は、前記連結突部とともに前記組付孔に挿入される請求項3乃至9のうちのいずれか一項に記載の車両用リッドロック装置。
【請求項11】
前記操作用牽引部材は、
前記係合部と、
操作者が把持するハンドル部と、
前記係合部と前記ハンドル部とを繋ぐ接続部と、
を備え、
前記係合部、前記ハンドル部および前記接続部は、合成樹脂材料にて一体に形成されている請求項2乃至10のうちのいずれか一項に記載の車両用リッドロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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