説明

車両用制動装置

【課題】車両用制動装置において、構造の簡素化並びに製造コストの低減を図る。
【解決手段】入力ピストン13内にチャンバ81にリリーフ弁86を移動自在に支持することで、第1吸引室R11と第2吸引室R12と拘束室R13とを区画し、第2吸引室R12に連通孔83を介して加圧室R5を連通し、第1吸引室R11に吸引ポート84を介して第1排出ポート41を連通し、拘束室R13に連通孔85を介して供給ポート37と連通し、リリーフ弁86を付勢スプリング87により連通孔83を閉止する方向に付勢支持すると共に、吸引ポート84から第1吸引室R11への吸引力により連通孔83を開放可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の制動操作に対して車両に付与する制動力を電子制御する車両用制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の制動装置として、ブレーキペダルから入力されたブレーキ操作量(または、操作力)に対して制動装置の制動力、つまり、この制動装置を駆動するホイールシリンダへ供給する制動油圧を電気的に制御する電子制御式制動装置が知られている。このような制動装置としては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
この特許文献1に記載された車両用制動制御装置は、運転者がブレーキペダルを操作すると、マスタシリンダがその操作量に応じた油圧を発生すると共に、作動油の一部がストロークシミュレータに流れ込み、ブレーキペダルの踏力に応じたブレーキペダルの操作力が調整される一方、ブレーキECUが検出したペダルストロークに応じて車両の目標減速度を設定し、各車輪に付与する制動力分配を決定し、各ホイールシリンダに所定の液圧を付与するものである。
【0004】
【特許文献1】特開2004−243983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の車両用制動制御装置にあっては、ブレーキペダルの操作量に応じた油圧を発生するマスタシリンダに対して、作動油の一部が流れ込むことでブレーキペダルの操作力を調整するストロークシミュレータを設けると共に、マスタシリンダにマスタカット弁を介して4系統のホイールシリンダに供給する作動油を加圧する加圧機構が各系統ごとに設けられている。そのため、アキュムレータ、マスタシリンダ、ストロークシミュレータなどを連結するための油圧配管の連結系統が複雑なものとなり、製造コストが上昇してしまうという問題がある。
【0006】
また、マスタシリンダは、ブレーキペダルの操作量に応じた油圧を発生することができるものであることから、内部に作動油を隙間なく充填する必要がある。そのため、このマスタシリンダの組付作業が完了した後に、各室に残留する空気を吸引して真空状態とし、真空状態の各室に作動油を隙間なく充填する。しかし、マスタシリンダは内部が複雑な構成であるため、油圧経路を通して各室に残留する空気を全て吸引することは困難であり、そのための吸引経路を設けることで構造が複雑化してしまう。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためのものであって、構造の簡素化並びに製造コストの低減を図った車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の車両用制動装置は、乗員が制動操作する操作部材と、シリンダ内に軸方向に沿って移動自在に支持されると共に前記操作部材により前進可能な駆動ピストンと、前記シリンダ内に前記駆動ピストンが移動自在に支持されることで該駆動ピストンの前方及び後方に区画される第1圧力室及び第2圧力室と、前記操作部材から前記駆動ピストンへの操作に応じた制御油圧を出力可能な油圧供給手段と、該油圧供給手段から出力される制御油圧を前記第2圧力室に供給することで前記第1圧力室から制動油圧を発生させる油圧供給経路と、前記第2圧力室の油圧をリザーバに排出する油圧排出経路と、前記シリンダ内に設けられて前記駆動ピストンの前進に応じて該駆動ピストンを介して前記操作部材に対して操作反力を付与する反力室と、該反力室と前記油圧排出経路とを連通する連通経路と、該連通経路を閉止する方向に付勢支持されると共に前記油圧排出経路の減圧により前記連通経路を開放可能なリリーフ弁とを具えたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の車両用制動装置では、前記連通経路は前記油圧供給経路に連通され、前記油圧供給経路から前記第2圧力室に供給される制御油圧により前記リリーフ弁の移動を抑制するリリーフ弁拘束手段が設けられ、前記油圧供給経路から前記第2圧力室に制御油圧が供給されないときに前記油圧排出経路の減圧により前記リリーフ弁を移動して前記連通経路を開放可能であることを特徴としている。
【0010】
本発明の車両用制動装置では、前記連通経路は、前記駆動ピストン内に形成されたチャンバと、該チャンバと前記反力室とを連通する第1連通路と、前記チャンバと前記油圧供給経路及び前記油圧排出経路とを連通する第2連通路とを有し、前記リリーフ弁は、前記第1連通路を閉止する方向に付勢支持され、前記第2連通路から作用する制御油圧により移動が抑制される一方、前記第2連通路から制御油圧が作用しないときに前記油圧排出経路の減圧により前記第1連通路を開放であることを特徴としている。
【0011】
本発明の車両用制動装置では、前記駆動ピストン内に設けられて前記反力室の容積減少に応じて変形することで前記駆動ピストンを介して前記操作部材に対して操作反力を付与可能な反力付与手段を設けたことを特徴としている。
【0012】
本発明の車両用制動装置では、前記反力室は、前記シリンダと前記駆動ピストンとの間に環状をなして形成され、前記反力付与手段は、前記駆動ピストン内に移動自在に支持されることで加圧室を区画する反力ピストンと、前記反力室と前記加圧室とを連通する連通路と、前記反力ピストンを一方に付勢することで前記加圧室を加圧する付勢部材とを有し、前記連通経路は前記加圧室と前記油圧排出経路とを連通することを特徴としている。
【0013】
本発明の車両用制動装置では、前記駆動ピストンは、シリンダ内に直列に配置された入力ピストンと加圧ピストンとを有し、前記入力ピストンに前記操作部材の操作力が入力可能であり、前記加圧ピストンの前方に前記第1圧力室が区画され、前記加圧ピストンと前記入力ピストンとの間に前記第2圧力室が区画され、前記入力ピストンの後方に第3圧力室が区画され、前記第2圧力室と前記第2圧力室とが連通路により連通されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両用制動装置によれば、操作部材により前進可能な駆動ピストンをシリンダ内に移動自在に支持することで第1圧力室及び第2圧力室を区画し、制御油圧供給手段が制御油圧を油圧供給経路により第2圧力室に作用させることで第1圧力室から制動油圧を発生可能とし、シリンダ内に駆動ピストンの前進に応じて操作部材に対して操作反力を付与する反力室を設けると共に、第2圧力室の油圧をリザーバに排出する油圧排出経路と、反力室と油圧排出経路とを連通する連通経路とを設け、この連通経路を閉止する方向に付勢支持されると共に油圧排出経路の減圧により連通経路を開放可能なリリーフ弁を設けたので、油圧排出経路を減圧すると、その減圧力によりリリーフ弁が移動して連通経路を開放することとなり、反力室を含むシリンダ内の空気を連通経路や油圧排出経路から容易に吸引して内部を真空状態とすることができ、この真空状態となったシリンダの内部に作動油を適正に充填することができ、油圧経路を簡素化することができ、製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明に係る車両用制動装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の実施例1に係る車両用制動装置を表す概略構成図、図2は、実施例1におけるリリーフ弁の支持構造を表す断面図である。
【0017】
実施例1の車両用制動装置において、図1に示すように、マスタシリンダ11は、シリンダ12内に駆動ピストンとしての入力ピストン13及び加圧ピストン14が軸方向に移動自在に支持されて構成されている。このシリンダ12は、先端部に蓋部材15が螺合(または圧入)して固定される一方、基端部に支持部材16が螺合(または圧入)して固定されることで、先端部が閉塞して基端部が開口した円筒形状をなし、内部に入力ピストン13と加圧ピストン14が同軸上に直列配置されて軸方向に沿って移動自在に支持されている。
【0018】
また、操作部材としてのブレーキペダル17は、上端部が図示しない車体の取付ブラケットに支持軸18により回動自在に支持されており、下端部に運転者が踏み込み操作可能なペダル19が取付けられている。そして、ブレーキペダル17は、中間部に連結軸20によりクレビス21が取付けられ、このクレビス21には操作ロッド22の基端部が連結されている。そして、シリンダ12の基端部側に配置された入力ピストン13は、基端部にブレーキペダル17の操作ロッド22の先端部が連結されている。
【0019】
入力ピストン13は、外周面がシリンダ12の小径部12a及び支持部材16の内周面により移動自在に支持されると共に、円盤形状をなすフランジ部23がシリンダ12の大径部12bの内周面に移動自在に支持されている。そして、入力ピストン13は、フランジ部23がシリンダ12の第1段付部12c及び支持部材16の端面に当接することでその移動ストロークが規制されると共に、支持部材16とブレーキペダル17のブラケット24との間に張設された反力スプリング25によりフランジ部23が支持部材16に当接する位置に付勢支持されている。
【0020】
シリンダ12の先端部側に配置された加圧ピストン14は断面がコ字形状をなし、外周面がシリンダ12の小径部12aの内周面に移動自在に支持されている。そして、加圧ピストン14は、フランジ部26が蓋部材15とシリンダ12の第2段付部12dに当接することでその移動ストロークが規制されると共に、蓋部材15との間に張設された付勢スプリング27により加圧ピストン14が第2段付部12dに当接する位置に付勢支持されている。この場合、入力ピストン13の先端面と加圧ピストン14の基端面とは、所定間隔(ストローク)S0をもって離間した状態で保持されている。
【0021】
従って、運転者がペダル19を踏み込むことでブレーキペダル17が回動すると、その操作力が操作ロッド22を介して入力ピストン13に伝達され、この入力ピストン13が反力スプリング25の付勢力に抗して前進可能であり、入力ピストン13が所定ストロークS0だけ前進すると、加圧ピストン14に当接して押圧可能であり、一体となって付勢スプリング27の付勢力に抗して前進可能となっている。
【0022】
このようにシリンダ12内に入力ピストン13と加圧ピストン14が同軸上に移動自在に配置されることで、加圧ピストン14における前進方向(図1にて左方)に第1圧力室R1が区画され、加圧ピストン14における後退方向(図1にて右方)、つまり、入力ピストン13と加圧ピストン14との間に第2圧力室R2が区画され、入力ピストン13における後退方向(図1にて右方)、つまり、入力ピストン13と支持部材16の間に第3圧力室R3が区画されている。そして、第2圧力室R2と第3圧力室R3とは、シリンダ12に形成された連通路28により連通されている。
【0023】
油圧ポンプ31は図示しないモータにより駆動可能であり、配管32を介してリザーバタンク33に連結されると共に、配管34を介してアキュムレータ35に連結されている。従って、モータを駆動すると、油圧ポンプ31はリザーバタンク33に貯留されている作動油を配管32,34を介してアキュムレータ35に供給することで昇圧することができ、アキュムレータ35は、所定圧力の油圧を蓄圧することができる。
【0024】
アキュムレータ35は、油圧供給配管36の一端部が連結されており、この油圧供給配管36の他端部は、マスタシリンダ11の第3圧力室R3に連通するようにシリンダ12に形成された供給ポート37に連結されている。そして、この油圧供給配管36に、ノーマルクローズタイプの流量制御可能な第1リニア弁38が装着され、この第1リニア弁38は、電力を供給すると、油圧供給配管36の流路を開放する側に作動する。また、マスタシリンダ11における入力ピストン13には、その長手方向に沿って油圧排出路39が形成されており、この油圧排出路39の一端部は、シリンダ12の外方に開口すると共にこのシリンダ12及び支持部材16を貫通して入力ピストン13の外周面に開口する第1排出ポート40,41に連通する一方、他端部は、シリンダ12の外方に開口する第2排出ポート42に連通している。そして、第1油圧排出配管43は、その一端部が油圧供給配管36における第1リニア弁38よりも第1供給ポート37側に連結され、他端部が第1排出ポート40に連結されている。そして、この第1油圧排出配管43に、ノーマルオープンタイプの流量制御可能な第2リニア弁44が装着され、この第2リニア弁44は、電力を供給すると、油圧排出配管43を閉止する側に作動する。また、第2油圧排出配管45は、その一端部がリザーバタンク33に連結され、他端部が第2排出ポート42に連結されている。
【0025】
なお、マスタシリンダ11の第1圧力室R1には、シリンダ12及び加圧ピストン14を貫通する連通ポート46,47が形成されており、この補助ポート連通ポート46,47は油圧連通配管48を介してリザーバタンク33に連結されている。
【0026】
本実施例では、ブレーキペダル17から入力ピストン13への操作に応じた制御油圧を出力可能な本発明の油圧供給手段として、油圧ポンプ32、アキュムレータ35、各リニア弁38,44等が機能する。また、この油圧供給手段から出力される制御油圧をマスタシリンダ11の第2圧力室R2に供給することで第1圧力室R1から制動油圧を発生させる本発明の油圧供給経路として、油圧供給配管36及び供給ポート37が機能し、第2圧力室R2の油圧をリザーバタンク33に排出する油圧排出経路として、油圧供給配管36、第1油圧排出配管43及び第1排出ポート40、油圧排出路39、第2排出ポート42、第2油圧排出配管45等が機能する。
【0027】
また、シリンダ12内に入力ピストン13が移動自在に支持されることで、このシリンダ12と入力ピストン13との間に反力室R4が形成されている。この反力室R4は、入力ピストン13の外周側に環状をなして形成され、この入力ピストン13の前進(図1にて左方移動)に応じてその容積が減少する。そして、入力ピストン13内には、この反力室R4の容積減少に応じて変形することで、反力室R4及び入力ピストン13を介してブレーキペダル17に対して操作反力を付与可能な反力付与機構(反力付与手段)51が設けられている。
【0028】
この反力付与機構51にて、入力ピストン13は、先端側に円筒部13aが一体に形成され、この円筒部13aの端部に蓋部材52が嵌合することで中空形状をなしている。そして、この蓋部材52に隣接して中心部に貫通孔53aを有してリング形状をなすゴム部材53が配置され、このゴム部材53に隣接して中央部の突起部54aの中心部に貫通孔54bを有してリング形状をなす支持ブラケット54が配置されている。そして、反力ピストン55は円板形状をなし、その中心部に支持ブラケット54側に延出する支持ロッド55aが一体に形成され、この支持ロッド55aの先端部が支持ブラケット54の貫通孔54bを貫通し、係止部55bにより係止している。この反力ピストン55は、外周部が入力ピストン13の円筒部13aの内周面に嵌合することで、入力ピストン13内に移動自在に支持されており、反力ピストン55により加圧室R5と減圧室R6が区画され、反力室R4と加圧室R5とは、円筒部13aに形成された連通路56により連通されている。また、減圧室R6にて、支持ブラケット54と反力ピストン55との間には、付勢スプリング(付勢部材)57が調節されており、反力ピストン55は、この付勢スプリング57により一方方向に付勢されることで、加圧室R5を加圧するように作用する。
【0029】
更に、蓋部材52及び入力ピストン13の円筒部13aを貫通してL字形断面を有する排出路58が形成されている。そして、減圧室R6とリザーバタンク33とは、支持ブラケット貫通孔54b、ゴム部材53の貫通孔53a、この排出路58、第2排出ポート42、第2油圧排出配管45とにより連結されている。
【0030】
従って、入力ピストン13内に、操作反力を付与可能な反力付与機構51としてのストロークシミュレータを内蔵することで、運転者によるブレーキペダル17の操作量に応じたペダルストロークを発生させて反力室R4を加圧することで、ブレーキペダル17を介して運転者に操作反力を付与することができる。即ち、運転者がブレーキペダル17を踏み込むと、その操作力が操作ロッド22を介して入力ピストン13に伝達され、この入力ピストン13が前進する。すると、入力ピストン13の前進により反力室R4の容積が減少し、反力室R4内の作動油が連通路56を通して加圧室R5に流れ、反力ピストン55が付勢スプリング57の付勢力に抗して移動すると共に、減圧室R6の容積が減少して内部の作動油が貫通孔54b,53a、排出路58、第2排出ポート42、第2油圧排出配管45を通してリザーバタンク33に排出される。このとき、反力室R4と連通路56と加圧室R5内の作動油は、収縮して付勢力が上昇した付勢スプリング57の付勢力により加圧されることで、入力ピストン13の前進に抵抗する力が作用することとなり、ブレーキペダル17に対して操作反力を付与することができる。
【0031】
前輪FR,FL及び後輪RR,RLにはそれぞれブレーキ装置(図示略)を作動させるホイールシリンダ61FR,61FL,61RR,61RLが設けられており、ABS(Antilock Brake System)62により作動可能となっている。そして、マスタシリンダ11にて、第1圧力室R1に連通する第1吐出ポート63には第1吐出油圧配管64が連結され、この第1吐出油圧配管64はABS62に連結され、前輪FR,FL側のホイールシリンダ61FR,61FLに制動油圧を供給可能となっている。また、第2圧力室R2に連通する第2吐出ポート65には第2吐出油圧配管66が連結され、この第2吐出油圧配管66はABS62に連結され、後輪RR,RL側のホイールシリンダ61RR,61RLに制動油圧を供給可能となっている。
【0032】
なお、支持部材16には、入力ピストン13との摺動面に対してシールするワンウェイシール67が第1排出ポート41の前後に位置して装着されており、油圧の漏洩を防止している。シリンダ12には、加圧ピストン14との摺動面に対してシールするワンウェイシール68が第2排出ポート46の前後に位置して装着されており、油圧の漏洩を防止している。反力ピストン55には、入力ピストン13の円筒部13aとの摺動面に対してシールするワンウェイシール69が装着されており、加圧室R5から減圧室R6への油圧の漏洩を防止している。
【0033】
また、蓋部材15及び支持部材16には、シリンダ12との嵌合面に対してシールするOリング70,71が装着され、油圧の漏洩を防止している。入力ピストン13の円筒部13aとフランジ部23には、シリンダ12との摺動面に対してシールするOリング72,73が装着されると共に、シリンダ12には、入力ピストン13との摺動面に対してシールするOリング74が装着され、このOリング72,74は、排出路58及び第2排出ポート42とを挟持する位置に設けられて油圧の漏洩を防止している。蓋部材52には、入圧ピストン13との嵌合面に対してシールするOリング75が装着され、油圧の漏洩を防止している。
【0034】
ところで、本実施例では、マスタシリンダ11における入力ピストン13、加圧ピストン14、反力ピストン55などが油圧により作動するものであることから、事前に各室R1,R2,R3,R4,R5,R6に対して作動油を充填する必要がある。そのため、マスタシリンダ11を組付けた後に、各室R1,R2,R3,R4,R5,R6に残留する空気を吸引して真空状態としてから作動油を隙間なく充填している。そこで、特に、反力室R4に残留する空気を確実に吸引するため、反力室R4からリザーバタンク33(油圧排出通路)につながる連通通路と、通常時はこの連通経路を閉止しているが、リザーバタンク33(油圧排出通路)が減圧されたときにこの連通経路を開放可能なリリーフ弁を設けている。
【0035】
即ち、図1及び図2に示すように、入力ピストン13には、円柱形状をなすチャンバ81が形成されており、このチャンバ81は、一端部に加圧室R5と区画する隔壁82が固定され、この隔壁82に連通孔(第1連通路)83が形成されている。また、入力ピストン13には、チャンバ81の他端部と第1排出ポート41とを連通する吸引ポート84が形成されると共に、チャンバ81の側面部と供給ポート37とを連通する連通孔(第2連通路)85が形成されている。そして、チャンバ81内には、断面がコ字形状をなすリリーフ弁86が移動自在に支持されている。このリリーフ弁86は、先端部にフランジ部86aが形成され、このフランジ部86aの先端面にスプール86bが一体に形成され、このスプール86bにより連通孔83を閉止可能となっている。そして、スプール86bは、チャンバ81の壁面との間に配置された付勢スプリング87によりこのスプール86bが連通孔83を閉止する方向に付勢支持されている。また、リリーフ弁86は、その外周部にチャンバ81との摺動面に対してシールするOリング88,89が移動方向における前後に位置して装着されることで油圧の漏洩を防止している。
【0036】
この場合、チャンバ81内にリリーフ弁86が移動自在に支持されることで、Oリング89により区画された第1吸引室R11と、Oリング88により区画された第2吸引室R12と、Oリング88,89により区画された拘束室R13が形成されている。そして、吸引ポート84が第1吸引室R11に連通し、連通孔83が第2吸引室R12に連通し、リリーフ弁86が連通孔83を閉止する位置では、連通孔85が拘束室R13に連通する一方、リリーフ弁86が付勢スプリング87の付勢力に抗して移動した位置では、連通孔85が第1吸引室R11に連通するようになっている。
【0037】
なお、反力室R4と油圧供給経路及び油圧排出経路を連通する本発明の連通経路は、チャンバ81と連通路孔83と連通孔85により構成されている。また、油圧供給経路から第3圧力室R3を介して第2圧力室R2に供給される制御油圧によりリリーフ弁86の移動を抑制する本発明のリリーフ弁拘束手段は、連通孔85及び拘束室R13により構成されている。
【0038】
従って、シリンダ12内に入力ピストン13、加圧ピストン14、反力ピストン55などが組み付けられてマスタシリンダ11が構成された状態で、リザーバタンク33から吸引力(減圧)を作用させると、この吸引力は、第2油圧排出配管45、第2排出ポート42、油圧排出路39、第1油圧排出ポート40,41、吸引ポート84を介してチャンバ81の第1吸引室R11に作用する。吸引力がこの第1吸引室R11に作用すると、リリーフ弁86が付勢スプリング87の付勢力に抗して移動することで、スプール86bが連通孔83から離間してこれを開放する。すると、リザーバタンク33から吸引力が、第1油圧排出ポート40,41から第1油圧排出配管43、油圧供給配管36、油圧供給ポート37、連通孔85、チャンバ81の第2吸引室R12、連通孔83、加圧室R5、連通路56を介して反力室R4に作用することとなり、この反力室R4に残留している空気を吸引して真空状態を確保することができる。
【0039】
続いて、シリンダ12内が真空状態にされた後、同様に、リザーバタンク33から作動油を供給すると、この作動油は、第2油圧排出配管45、第2排出ポート42、油圧排出路39、第1油圧排出ポート40,41、第1油圧排出配管43、油圧供給配管36、油圧供給ポート37、連通孔85、チャンバ81の第2吸引室R12、連通孔83、加圧室R5、連通路56を介して反力室R4に流入すると共に、第1油圧排出ポート40,41から吸引ポート84を介してチャンバ81の第1吸引室R11に流入し、シリンダ12内に作動油を充填することができる。
【0040】
そして、シリンダ12内に作動油が充填されて各リニア弁38,44が電磁駆動している状態では、アキュムレータ35からの油圧が各リニア弁38,44で調圧された後、油圧供給配管36から供給ポート37を通して第3圧力室R3に作用すると共に、連通孔85を通して拘束室R13に作用する。そのため、リリーフ弁86は、付勢スプリング87の付勢力に加え、この制御油圧によりスプール86bが連通孔83を閉止する位置に保持されることとなり、反力室R4の油圧が連通孔56、加圧室R5から連通孔83を通して第2吸引室R12に流れることはない。
【0041】
一方、シリンダ12内に作動油が充填されていても、各リニア弁38,44が消磁されている状態では、第1リニア弁38により油圧供給配管36が閉止しているため、制御油圧が拘束室R13に作用していない。そのため、リリーフ弁86は、付勢スプリング87の付勢力だけでスプール86bが連通孔83を閉止する位置に保持されることとなり、反力室R4の油圧が連通孔56、加圧室R5から連通孔83のスプール86bに作用し、反力油圧が所定値以上になると、このスプール86bを介してリリーフ弁86を移動し、連通孔83を開放する。すると、反力室R4の油圧が連通孔56、加圧室R5から連通孔83を通して連通孔83に作用し、反力油圧が第2吸引室R12に流れ、連通孔85、油圧供給ポート37、油圧供給配管36、第1油圧排出配管43、第1油圧排出ポート40,41、油圧排出路39、第2排出ポート42、第2排出配管45を介してリザーバタンク33に排出される。
【0042】
このように構成された本実施例の車両用制動装置にて、電子制御ユニット(ECU)91は、ブレーキペダル17から入力ピストン13に入力される操作力(ペダル踏力)に応じた目標制御油圧を設定し、この設定された目標制御油圧に基づいて第1リニア弁38及び第2リニア弁44を制御することで、第3圧力室R3に制御油圧を付与すると共に、連通路28を介して第2圧力室R2に制御油圧を付与することで加圧ピストン14をアシストし、前方圧力室R1及び第2圧力室R2からABS62を介して各ホイールシリンダ61FR,61FL,61RR,61RLに制動油圧を付与し、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに制動力を作用させるようにしている。
【0043】
即ち、ブレーキペダル17には、このブレーキペダル17のペダルストロークSpを検出するストロークセンサ92と、その踏力Fpを検出する踏力センサ93が設けられており、各検出結果をECU91に出力している。また、第1油圧吐出配管64には、制動油圧を検出する第1圧力センサ94が設けられており、この第1圧力センサ94は、前輪FR,FLのホイールシリンダ61FR,61FLへ供給される制動油圧PMを検出し、検出結果をECU91に出力している。更に、油圧供給配管36における第1リニア弁38よりも供給ポート37側には、第2圧力センサ95が設けられており、この第2圧力センサ95は、アキュムレータ35からの油圧を第1リニア弁38により調圧した制御油圧PAを検出し、検出結果をECU91に出力している。また、反力室R4には、第3圧力センサ96が設けられており、この第3圧力センサ96は、反力室R4の反力油圧PRを検出し、検出結果をECU91に出力している。また、前輪FR,FL及び後輪RR,RLには、それぞれ車輪速センサ97が設けられており、検出した各車輪速度をECU91に出力している。
【0044】
従って、ECU91は、ストロークセンサ92が検出したブレーキペダル17のペダルストロークSp、または、踏力センサ83が検出したブレーキペダル17のペダル踏力Fpに基づいて目標制御油圧PMTを設定し、第1、第2リニア弁38,44の開度を調整する一方、第1圧力センサ94が検出した制動油圧PMをフィードバックし、目標制御油圧PMTと制動油圧PMとが一致するように制御している。この場合、ECU91は、ペダルストロークSp、または、ペダル踏力Fpに対する目標制御油圧PMTのマップを有しており、このマップに基づいて各リニア弁38,44を制御する。また、ブレーキペダル17に与える反力PRは、反力スプリング25によるスプリング力と反力室R4に作用する反力油圧PVとの加算値であり、スプリング力はスプリングの諸元により決まる値で一定となっており、反力室R4に作用する反力油圧PVは反力付与機構51により設定される。
【0045】
このように構成された本実施例の車両用制動装置による制動力制御について、具体的に説明する。乗員がブレーキペダル17を踏むと、その操作量または操作力により入力ピストン13が前進し、所定のストロークS0が維持されたままで加圧ピストン14が前進し、第2圧力室R2の油圧は連通路28を通して第3圧力室R3に流れることとなり、入力ピストン13がフリーの状態となって、第2圧力室R2の油圧が入力ピストン13を介してブレーキペダル17に対する反力として作用することはない。
【0046】
そして、ストロークセンサ92がペダルストロークSpを検出し、踏力センサ93はペダル踏力Fpを検出し、ECU91は、このペダルストロークSpまたはペダル踏力Fpに基づいて目標制御油圧PMTを設定する。そして、ECU91は、この目標制御油圧PMTに基づいて第1、第2リニア弁38,44を制御し、前輪FR,FL及び後輪RR,RLの各ホイールシリンダ61FR,61FL,61RR,61RLの制動油圧を制御する。
【0047】
即ち、電源系統が正常に作動している場合に、ECU91は、目標制御油圧PMTに基づいて第1、第2リニア弁38,44を制御することで、アキュムレータ35からの油圧を増圧または減圧し、油圧供給配管36から供給ポート37を通して第3圧力室R3に所定の制御油圧を作用させる。すると、この制御油圧は第3圧力室R3から連通路28を通って第2圧力室R2に作用すると共に、第2吐出ポート65から第2吐出油圧配管66に所定の制動油圧PMが作用すると共に、第3圧力室R3から第2吐出油圧配管66に所定の制動油圧PAが作用することとなる。また、第3圧力室R3の制御油圧が連通路28を通して第2圧力室R2に作用することで、加圧ピストン14がアシストされることから、第1圧力室R1から第1吐出油圧配管64に所定の制動油圧PMが作用することとなる。このとき、第1圧力センサ94が検出した制動油圧PMをフィードバックしており、ECU91は、目標制御油圧PMTと制動油圧PMとが一致するように、第1、第2リニア弁38,44の開度を補正している。そのため、この制動油圧PM,PAがABS62を介してホイールシリンダ61FR,61FL,61RR,61RLに作用することとなり、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して乗員のブレーキペダル17の操作力に応じた制動力を発生させることができる。
【0048】
また、電源系統が正常に作動しているとき、反力付与機構51にて、運転者がブレーキペダル17を踏み込むと、入力ピストン13が前進して反力室R4の容積が減少し、この反力室R4内の作動油が連通路56を通して加圧室R5に流れ、反力ピストン55が付勢スプリング87の付勢力に抗して移動すると共に、減圧室R6の容積が減少して内部の作動油が貫通孔54b,53a、排出路58、第2排出ポート42、第2油圧排出配管45を通してリザーバタンク33に排出される。従って、反力室R4と連通路56と加圧室R5内の作動油は、収縮して付勢力が上昇した付勢スプリング57の付勢力により加圧されることで、入力ピストン13の前進に抵抗する力が作用し、ブレーキペダル17に対して操作反力を付与することができる。
【0049】
このとき、アキュムレータ35からの油圧が油圧供給配管36から供給ポート37及び連通孔83を介して拘束室R13に作用しているため、リリーフ弁86は、付勢スプリング87の付勢力に加えてこの制御油圧によりスプール86bが連通孔83を閉止する位置に保持されており、反力室R4に作用する反力油圧が増大しても、反力室R4の油圧が連通孔56、加圧室R5から連通孔83を通して第2吸引室R12に流れることはなく、反力室R4における適正な反力油圧を維持し、ブレーキペダル17に対して適正な操作反力を付与することができる。
【0050】
一方、電源系統に故障が発生して失陥しているとき、第1、第2リニア弁38,44を電気的に制御することで、各ホイールシリンダ61FR,61FL,61RR,61RLへ付与する制動油圧を適正油圧に制御することができない。ところが、本実施例では、マスタシリンダ11の第1圧力室R1と前輪FR,FLのホイールシリンダ61FR,FLとを第1油圧吐出配管64により直接連結している。
【0051】
従って、この電源系統の失陥時には、乗員がブレーキペダル17を踏むと、その操作力により入力ピストン13が所定のストロークS0だけ前進すると、加圧ピストン14に当接して両ピストン13,14が一体となって前進する。すると、第1圧力室R1が加圧されることで、この第1圧力室R1の油圧が第1油圧吐出配管64に吐出する。そして、この第1油圧吐出配管64に吐出された油圧が前輪FR,FLのホイールシリンダ61FR,FLに制動油圧として付与されることとなり、前輪FR,FLに対して乗員のブレーキペダル17の操作力に応じた制動力を発生させることができる。
【0052】
また、電源系統が失陥しているとき、反力付与機構51にて、運転者がブレーキペダル17を踏み込むと、入力ピストン13が前進して反力室R4の容積が減少し、この反力室R4内の油圧が増大する。そして、この反力室R4の反力油圧が連通孔56及び加圧室R5から連通孔83を閉止しているスプール86bに作用する。このとき、第1リニア弁38により油圧供給配管36が閉止しているため、制御油圧が拘束室R13に作用しておらず、リリーフ弁86は、付勢スプリング87の付勢力だけでスプール86bが連通孔83を閉止している。そのため、反力油圧が所定値以上になると、スプール86bを介してリリーフ弁86を押圧して移動し、連通孔83を開放するため、反力室R4の油圧が連通孔56及び加圧室R5から連通孔83を通して第2吸引室R12に流れ、連通孔85、油圧供給ポート37、油圧供給配管36、第1油圧排出配管43、第1油圧排出ポート40,41、油圧排出路39、第2排出ポート42、第2排出配管45を介してリザーバタンク33に排出されることとなり、ブレーキペダル17が作動不能となったり、操作力が必要以上に重くなったりすることはない。
【0053】
このように実施例1の車両用制動装置にあっては、シリンダ12内に入力ピストン13と加圧ピストン14を直列で移動自在に支持することで第1圧力室R1と第2圧力室R2と第3圧力室R3を区画すると共に、第2圧力室R2と第3圧力室R3を連通路28により連通し、ECU91は、第1、第2リニア弁38,44が調圧した制御油圧を第3圧力室R3から第2圧力室R2に作用させることで、加圧ピストン14をアシストして第1圧力室R1から制動油圧を出力可能とし、シリンダ11内に入力ピストン13の前進に応じて容積が減少する反力室R4を設けると共に、入力ピストン13内に反力室R4の容積減少に応じて変形することで入力ピストン13を介してブレーキペダル17に対して操作反力を付与可能な反力付与機構51を設けている。
【0054】
そして、実施例1の車両用制動装置では、入力ピストン13内にチャンバ81にリリーフ弁86を移動自在に支持することで、第1吸引室R11と第2吸引室R12と拘束室R13とを区画し、第2吸引室R12に連通孔83を介して加圧室R5を連通し、第1吸引室R11に吸引ポート84を介して第1排出ポート41を連通し、拘束室R13に連通孔85を介して供給ポート37と連通し、リリーフ弁86を付勢スプリング87により連通孔83を閉止する方向に付勢支持すると共に、吸引ポート84から第1吸引室R11への吸引力により連通孔83を開放可能としている。
【0055】
従って、シリンダ12内に入力ピストン13、加圧ピストン14、反力ピストン55などが組み付けられてマスタシリンダ11が構成された状態で、リザーバタンク33から吸引力を作用させると、この吸引力が第2油圧排出配管45、第2排出ポート42、油圧排出路39、第1油圧排出ポート40,41、吸引ポート84を介してチャンバ81の第1吸引室R11に作用し、リリーフ弁86が移動してスプール86bによる連通孔83の閉止を解除し、リザーバタンク33から吸引力を、第1油圧排出ポート40,41から第1油圧排出配管43、油圧供給配管36、油圧供給ポート37、連通孔85、チャンバ81の第2吸引室R12、連通孔83、加圧室R5、連通路56を介して反力室R4に作用させることで、この反力室R4に残留している空気を吸引して真空状態を確保することができる。その結果、シリンダ12内が真空状態にされた後、リザーバタンク33から作動油を供給すると、容易にシリンダ12内に作動油を充填することができる。
【0056】
そして、電源系統の正常時に、ECU91は、目標制御油圧PMTに基づいて第1、第2リニア弁38,44を制御することで、アキュムレータ35からの油圧を調圧して第3圧力室R3に作用させると共に、連通路28を通って第2圧力室R2に作用させることで加圧ピストン14をアシストし、第1圧力室R1から第1吐出油圧配管64に制動油圧PMを作用させると共に、第2圧力室R2から第2油圧吐出配管66に制動油圧PAが作用させることとなり、この制動油圧PM及び制動油圧PAを各ホイールシリンダ61FR,61FL,61RR,61RLに作用させることで、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して乗員のブレーキペダル17の操作力に応じた制動力を発生させることができる。
【0057】
このとき、反力付与機構51にて、入力ピストン13の前進により反力室R4の容積が減少し、作動油が連通路56を通して加圧室R5に流れ、反力ピストン55が付勢スプリング57の付勢力に抗して移動することで、反力室R4と連通路56と加圧室R5内の作動油が加圧されることとなり、入力ピストン13の前進に抵抗する力が作用し、ブレーキペダル17に対して乗員の操作力に応じた適正な操作反力を付与することができる。また、入力ピストン13が前進して反力室R4の容積が減少し、作動油が連通路56を通して加圧室R5に流れるとき、減圧室R6の容積が減少して内部の作動油が貫通孔54b,53a、第1排出路58、第2排出ポート42、第2油圧排出配管45を通してリザーバタンク33に排出されることとなり、減圧室R6内に作動油を充填することで、反力付与機構51への異物の混入が抑制され、故障の発生を抑制することができる。
【0058】
また、アキュムレータ35からの油圧が油圧供給配管36から供給ポート37及び連通孔83を介して拘束室R13に作用しているため、リリーフ弁86は、付勢スプリング87の付勢力に加えてこの制御油圧によりスプール86bが連通孔83を閉止する位置に保持されており、反力室R4に作用する反力油圧が増大しても、反力室R4の油圧が連通孔56、加圧室R5から連通孔83を通して第2吸引室R12に流れることはなく、反力室R4における適正な反力油圧を維持し、ブレーキペダル17に対して適正な操作反力を付与することができる。
【0059】
一方、電源系統の失陥時に、ブレーキペダル17の操作力により入力ピストン13を前進させて加圧ピストン14に当接し、両ピストン13,14を一体として前進することで、第1圧力室R1を加圧し、この第1圧力室R1から第1油圧吐出配管64に制動油圧PMを作用させることとなり、この制動油圧PMを各ホイールシリンダ61FR,61FLに作用させることで、前輪FRに対して乗員のブレーキペダル17の操作力に応じた制動力を発生させることができる。
【0060】
このとき、第1リニア弁38により油圧供給配管36が閉止して制御油圧が拘束室R13に作用していないため、反力付与機構51にて、入力ピストン13が前進して反力室R4の容積が減少すると、この反力室R4内の油圧が増大してスプール86bを介してリリーフ弁86を移動して連通孔83を開放するため、反力室R4の油圧が連通孔83から第2吸引室R12に流れてリザーバタンク33に排出されることとなり、ブレーキペダル17が作動不能となったり、操作力が必要以上に重くなったりすることはなく、作動性を向上することができる。
【0061】
このように本実施例では、電源系統の正常時には、目標制御圧PMTに基づいて第1、第2リニア弁38,44を制御することで、乗員によるブレーキペダル17の操作に応じた制動油圧を確実に発生させることができると共に、反力付与機構51により反力油圧を確実に発生させることができる一方、電源系統の失陥時には、マスタシリンダ11の静圧を直接ホイールシリンダ61FR,61FLに作用させることで、乗員によるブレーキペダル17の操作に応じた油圧を確実に発生させることができ、その結果、油圧経路を簡略化して構造の簡素化を図ることができると共に、製造コストを低減することができる一方、適正な制動力制御を可能とすることができ、信頼性及び安全性の向上を図ることができる。
【0062】
なお、上述した各実施例では、シリンダ12内に駆動ピストンとしての入力ピストン13及び加圧ピストン14を移動自在に支持することで、マスタシリンダ11を構成したが、シリンダ内に一つの駆動ピストンを移動自在に支持して構成してもよい。この場合、シリンダ内には、駆動ピストンにおける移動方向の前後に第1圧力室と第2圧力室が区画されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明に係る車両用制動装置は、シリンダ内に残量する空気を確実に吸引して容易に作動油を充填可能とすることで、構造の簡素化並びに製造コストの低減を図ったものであり、いずれの種類の制動装置に用いても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例1に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
【図2】実施例1におけるリリーフ弁の支持構造を表す断面図である。
【符号の説明】
【0065】
11 マスタシリンダ
12 シリンダ
13 入力ピストン
14 加圧ピストン
17 ブレーキペダル(操作部材)
22 操作ロッド
25 反力スプリング
27 付勢スプリング
28 連通路
31 油圧ポンプ(制御油圧供給手段)
33 リザーバタンク
35 アキュムレータ(制御油圧供給手段)
36 油圧供給配管(油圧供給経路)
38 第1リニア弁
43 第1油圧排出配管
44 第1リニア弁
45 第2油圧排出配管(油圧排出経路)
51 反力付与機構(反力付与手段)
55 反力ピストン
56 連通路
57 付勢スプリング
61FR,61FL,61RR,61RL ホイールシリンダ
62 ABS
64 第1油圧吐出配管
66 第2油圧吐出配管
81 チャンバ
83 連通孔(第1連通路)
84 吸引ポート
85 連通孔(第2連通路)
86 リリーフ弁(リリーフ弁拘束手段)
86b スプール
87 付勢スプリング
91 電子制御ユニット、ECU
92 ストロークセンサ
93 踏力センサ
94 第1圧力センサ
95 第2圧力センサ
96 第3圧力センサ
1 第1圧力室
2 第2圧力室
3 第3圧力室
4 反力室
5 加圧室
6 減圧室
11 第1吸引室
12 第2吸引室
13 拘束室(リリーフ弁拘束手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が制動操作する操作部材と、シリンダ内に軸方向に沿って移動自在に支持されると共に前記操作部材により前進可能な駆動ピストンと、前記シリンダ内に前記駆動ピストンが移動自在に支持されることで該駆動ピストンの前方及び後方に区画される第1圧力室及び第2圧力室と、前記操作部材から前記駆動ピストンへの操作に応じた制御油圧を出力可能な油圧供給手段と、該油圧供給手段から出力される制御油圧を前記第2圧力室に供給することで前記第1圧力室から制動油圧を発生させる油圧供給経路と、前記第2圧力室の油圧をリザーバに排出する油圧排出経路と、前記シリンダ内に設けられて前記駆動ピストンの前進に応じて該駆動ピストンを介して前記操作部材に対して操作反力を付与する反力室と、該反力室と前記油圧排出経路とを連通する連通経路と、該連通経路を閉止する方向に付勢支持されると共に前記油圧排出経路の減圧により前記連通経路を開放可能なリリーフ弁とを具えたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制動装置において、前記連通経路は前記油圧供給経路に連通され、前記油圧供給経路から前記第2圧力室に供給される制御油圧により前記リリーフ弁の移動を抑制するリリーフ弁拘束手段が設けられ、前記油圧供給経路から前記第2圧力室に制御油圧が供給されないときに前記油圧排出経路の減圧により前記リリーフ弁を移動して前記連通経路を開放可能であることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用制動装置において、前記連通経路は、前記駆動ピストン内に形成されたチャンバと、該チャンバと前記反力室とを連通する第1連通路と、前記チャンバと前記油圧供給経路及び前記油圧排出経路とを連通する第2連通路とを有し、前記リリーフ弁は、前記第1連通路を閉止する方向に付勢支持され、前記第2連通路から作用する制御油圧により移動が抑制される一方、前記第2連通路から制御油圧が作用しないときに前記油圧排出経路の減圧により前記第1連通路を開放であることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の車両用制動装置において、前記駆動ピストン内に設けられて前記反力室の容積減少に応じて変形することで前記駆動ピストンを介して前記操作部材に対して操作反力を付与可能な反力付与手段を設けたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用制動装置において、前記反力室は、前記シリンダと前記駆動ピストンとの間に環状をなして形成され、前記反力付与手段は、前記駆動ピストン内に移動自在に支持されることで加圧室を区画する反力ピストンと、前記反力室と前記加圧室とを連通する連通路と、前記反力ピストンを一方に付勢することで前記加圧室を加圧する付勢部材とを有し、前記連通経路は前記加圧室と前記油圧排出経路とを連通することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の車両用制動装置において、前記駆動ピストンは、シリンダ内に直列に配置された入力ピストンと加圧ピストンとを有し、前記入力ピストンに前記操作部材の操作力が入力可能であり、前記加圧ピストンの前方に前記第1圧力室が区画され、前記加圧ピストンと前記入力ピストンとの間に前記第2圧力室が区画され、前記入力ピストンの後方に第3圧力室が区画され、前記第2圧力室と前記第2圧力室とが連通路により連通されることを特徴とする車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−120126(P2008−120126A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303010(P2006−303010)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】