説明

車両用液体循環システム

【課題】冷暖房運転開始時の快適性を向上し、かつ、冷暖房に要するエネルギーを低く抑えて省エネルギー性向上を図ることができる車両用液体循環システムを提供する。
【解決手段】圧縮機1、冷媒水熱交換器2、膨張弁3、冷媒空気熱交換器4が接続された冷媒回路10と、冷媒水熱交換器2で熱交換された水を循環させるポンプ21、冷媒水熱交換器2に対して直列に接続された第1熱交換器22、第1熱交換器22の下流側に、それぞれ並列に接続した第2熱交換器23、および/または、第3熱交換器24を有する水回路20を備え、第1熱交換器22は送風機28が発する空気により熱伝達し、第2熱交換器23は座席シート以外の車室内を構成する部品表面に設置して輻射により伝熱を行い、第3熱交換器24は座席シート内部に設置して熱伝導により伝熱を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン冷却水を有しない電気自動車や空冷式内燃機関搭載車等の車室内の冷暖房に利用される車両用液体循環システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気自動車のようなエンジン冷却水からの排熱を利用して車室内の暖房ができない車両用の空気調和装置として、空気から熱を汲み上げるヒートポンプ技術を用いたものがある。
【0003】
この技術は、圧縮機、冷媒水熱交換器、蒸発器を有する冷凍サイクルと、温水を循環させるポンプ、ダクト内に設置され流入した温水によりダクト内を流れる空気を加熱する温水式加熱器を有する温水サイクルとを備えることにより、エンジン排熱を用いずにヒートポンプ技術により車室内の暖房を行うものである。例えば、特許文献1には、図5に示すような車両用空気調和装置100が開示されている。
【0004】
この車両用空気調和装置100は、冷媒を循環させる冷媒回路110と温水を循環させる水回路120とを備えている。冷媒回路110は、圧縮機101、冷媒水熱交換器102、減圧手段103、および、蒸発器104が配管により環状に接続されており、一方、水回路120は、ポンプ111、冷媒水熱交換器102、ダクト115内に設置された温水ヒータコア112が配管により環状に接続されている。
【0005】
冷媒回路110における冷媒水熱交換器102にて高温高圧冷媒の凝縮熱によって加熱された温水が、ポンプ111によりダクト115内の温水ヒータコア112に搬送され、温水ヒータコア112では、送風機113の作用によりダクト115内を流れる空気と熱交換して空気を加熱する。その加熱された空気は、送風機113の作用により車室内へ吹き出され車室内が暖房される。
【0006】
このように空気熱源のヒートポンプ技術を用いることにより、エンジン排熱を使用せずに車室内の暖房が可能になる車両用空気調和装置を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3477868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の構成では、消費電力低減の観点から以下のような問題が生じる。すなわち、前記従来の構成による暖房方式では、温水ヒータコア112内の温水と、ダクト115内を流れる空気とが熱交換することにより空気を加熱し、その空気を車室内に吹き出して車室内空間の暖房運転を行うという、いわゆる強制対流を利用した暖房方式であるため、温水ヒータコア112内の温水と空気との温度差を比較的大きくしなければならず、水回路120流れる温水の温度を高くする必要がある。
【0009】
このため、冷媒回路110側の凝縮圧力を高くしなければならず、圧縮機101の消費電力が増加する問題があった。
【0010】
さらに、従来の構成では、水回路120おける温水ヒータコア112へ流入する温水と、空気と熱交換した後に温水ヒータコア112から流出する温水との温度差が小さいため、所定の加熱能力を得るためには、水回路120を流れる温水の循環量を増加させる必要がある。このため、ポンプ111の動力が増加するという問題があった。
【0011】
さらに、前記従来の構成の冷媒回路110において、冷媒を逆方向に流動させることにより、冷房運転が可能になるが、この場合にも同様に、蒸発圧力の低下に伴う圧縮機101の消費電力の増加とポンプ111の動力の増加という問題があった。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑み、冷暖房に要するエネルギーを低く抑える、いわゆる省エネルギー性の向上を図ることができる車両用液体循環システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するために、本発明の車両用液体循環システムは、圧縮機、冷媒水熱交換器、膨張手段、冷媒空気熱交換器が接続された冷媒回路と、冷媒水熱交換器で熱交換された水を循環させる循環手段、冷媒水熱交換器に対して直列に接続された第1熱交換手段、第1熱交換手段の下流側に接続された第2熱交換手段を有する水回路と、制御手段とを備え、第1熱交換手段は送風手段が発する空気により熱伝達するとともに、第2熱交換手段は車室内を構成する部品の表面または内部に設置され、熱伝導、または輻射により伝熱するものである。
【0014】
これによって、暖房運転を行う場合、冷媒水熱交換器から流出する温度の高い温水を対流熱伝達で伝熱を行う第1熱交換手段で利用し、その後、第1熱交換手段での熱交換により比較的温度の低くなった温水を輻射、または、熱伝導で伝熱を行う第2熱交換手段で利用が可能となる。一方、冷房運転を行う場合、冷媒水熱交換器から流出する温度の低い冷水を対流熱伝達で伝熱を行う第1熱交換手段で利用し、その後、第1熱交換手段での熱交換により比較的温度の高くなった冷水を輻射、または、熱伝導で伝熱を行う第2熱交換手段で利用が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用液体循環システムは、暖房運転時には、冷媒水熱交換器に戻る温水の温度を下げることで、冷媒回路の凝縮圧力を下げることができ、また、冷房運転時には、冷媒水熱交換器に戻る冷水の温度を上げることで、冷媒回路の蒸発圧力を上げることができる。これにより、圧縮機の消費電力を低減することができる。また、水回路において、冷媒水熱交換器の入口と出口の温度差を大きくすることできるため、循環水量を少なくすることができ、ポンプ動力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係る車両用液体循環システムの暖房運転時の概略構成図
【図2】本発明の実施の形態1における暖房運転時の熱交換器通過後の水温変化グラフ
【図3】本発明の実施の形態1に係る車両用液体循環システムの冷房運転時の概略構成図
【図4】本発明の実施の形態1における冷房運転時の熱交換器通過後の水温変化グラフ
【図5】従来の冷凍サイクル装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の発明は、圧縮機、冷媒水熱交換器、膨張手段、冷媒空気熱交換器が接続された冷媒回路と、冷媒水熱交換器で熱交換された水を循環させる循環手段、冷媒水熱交換器に対して直列に接続された第1熱交換手段、第1熱交換手段の下流側に接続された第2熱交換手段を有する水回路と、制御手段とを備え、第1熱交換手段は送風手段が発する空気により熱伝達するとともに、第2熱交換手段は車室内を構成する部品の表面または内部に設置され、熱伝導、または輻射により伝熱することにより、暖房運転においては、対流熱伝達を利用する第1熱交換手段に加えて、さらに、第2熱交換手段で輻射、または、熱伝導により熱交換を行うことにより、比較的温度の低い温水でも同等の温熱感を得られる輻射、または、熱伝導を併用するため、冷媒水熱交換器に戻る温水の温度を下げることができる。
【0018】
これにより、冷媒水熱交換器における水回路の平均温度を下げることが可能となるため、冷媒回路の凝縮圧力を下げることができ、圧縮機の消費電力を低減することができる。
【0019】
また、水回路においても、冷媒水熱交換器の入口と出口の温度差を大きくすることできるため、同一暖房能力においては、循環水量の低減が可能となり、ポンプ動力を低減できるため省エネルギー性の向上を図ることができる。
【0020】
一方、冷房運転においても、対流熱伝達を利用する第1熱交換手段に加えて、さらに、第2熱交換手段で輻射、または、熱伝導により熱交換を行うことにより、比較的温度の高い冷水でも同等の冷熱感を得られる輻射、または、熱伝導を併用するため、冷媒水熱交換器に戻る冷水の温度を上げることができる。
【0021】
これにより、冷媒水熱交換器における水回路の平均温度を上げることができるため、冷媒回路の蒸発圧力を上げることができ、圧縮機の消費電力を低減することができる。
【0022】
また、水回路においても、冷媒水熱交換器の入口と出口の温度差を大きくすることできるため、同一冷房能力においては、循環水量の低減が可能となり、ポンプ動力を低減できるため省エネルギー性の向上を図ることができる。
【0023】
第2の発明は、特に、第1の発明の第2熱交換手段を複数設置し、かつそれぞれを並列に設置したことにより、対流熱伝達を利用する第1熱交換手段による車室内全体の冷暖房、および熱伝導、または、輻射を利用する第2熱交換手段による在席者ごとに局所的な冷暖房を、運転時間帯、在席者の位置、在席者の体感等により使い分けることができる。
【0024】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明における第1熱交換手段、第2熱交換手段のそれぞれを流れる水流量を調整する流量調整手段を配設することにより、第1熱交換手段、第2熱交換手段への水流量を個別に調整することができる。
【0025】
これにより、輻射、および、熱伝導による暖房・冷房運転において、在席者の有無や要求負荷に応じて水流量を適正に制御することができ、快適性を向上することができる。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が制限されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における、車両用液体循環システム50を示す。この車両用液体循環システム50は、冷媒を循環させる冷媒回路10と、冷媒回路10を熱源として生成される温水、または冷水を循環させる水回路20と、制御手段である制御装置40とを備えている。
【0028】
冷媒回路10は、冷媒を圧縮する圧縮機1、冷媒の流動方向を切り換える四方弁5、冷媒と水とを熱交換させる冷媒水熱交換器2、高圧冷媒を膨張させる膨張手段である膨張弁3、および、冷媒と空気とを熱交換させる冷媒空気熱交換器4が配管により接続されて構成されている。
【0029】
冷媒回路10には、暖房運転から冷房運転へ、または、暖房運転から除霜運転へ切り換えるための四方弁5が設けられている。
【0030】
なお、冷媒としては、例えば、R410A等の擬似共沸混合冷媒、R407C等の非共沸混合冷媒、または、フロン冷媒系、または、自然冷媒系の単一冷媒等を用いることができる。
【0031】
一方、水回路20は、水を搬送する循環手段であるポンプ21、冷媒水熱交換器2、そして、冷媒水熱交換器2にて熱交換された水の熱を放熱するための第1熱交換器22、第2熱交換器23、第3熱交換器24、および、第2熱交換器23への水流量を調整するための流量調整手段としての第1流量調整弁25、第3熱交換器24への水流量を調整するための流量調整手段としての第2流量調整弁26から構成されている。
【0032】
第1熱交換器22は本発明における第1熱交換手段であり、第2熱交換器23、第3熱交換器24は、本発明における第2熱交換手段である。
【0033】
水回路20において、第1熱交換器22は冷媒水熱交換器2に対して直列に設置されている。また、第2熱交換器23、および、第3熱交換器24は、第1熱交換器22の下流側に直列に設置され、第2熱交換器23、第3熱交換器24は、それぞれ並列に接続されている。
【0034】
また、第1流量調整弁25、第2流量調整弁26は、第2熱交換器23、第3熱交換器24の入口側で、かつ、車室外に設置するものとする。
【0035】
第1熱交換器22は送風ダクト27の中に設置され、送風手段である送風機28の送風により対流熱伝達を利用して水から空気へ熱交換が行われる。第1熱交換器22で熱交換された空気は送風ダクト27の吹出口に設置された風量調整ダンパ29を介して車室内へ吹き出される。
【0036】
また、第2熱交換器23は車室内のドア内面パネルに設置され輻射により座席シートへの在席者に温冷熱を伝え、第3熱交換器24は車室内の座席シートの内部に設置され、熱伝導により座席シート、および、座席シートへの在席者に温冷熱を伝える。
【0037】
水回路20に使用する水としては、例えば、市水等のほか、不凍液、ブライン等を用いることができる。
【0038】
水回路20の第1熱交換器22の入口配管(冷媒水熱交換器2出口から第1熱交換器22入口までの配管)には、第1熱交換器22へ流入する水温を検出するための入口温度センサ30が設置されている。第2熱交換器23の出口配管(第2熱交換器23出口から第2熱交換器23と第3熱交換器24との合流部までの配管)には、第2熱交換器23から流出する水の温度を検出するための第1出口温度センサ31が設置されている。また、第3熱交換器24の出口配管(第3熱交換器24出口から第2熱交換器23と第3熱交換器24との合流部までの配管)には、第3熱交換器24から流出する水の温度を検出するための第2出口温度センサ32が設置されている。
【0039】
制御手段である制御装置40は、入口温度センサ30、第1出口温度センサ31、第2出口温度センサ32、第1流量調整弁25、第2流量調整弁26と信号線で接続されている。制御装置40は、入口温度センサ30、第1出口温度センサ31、第2出口温度センサ32が検出した検出値に基づいて、送風機28の運転有無、第1流量調整弁25、第2流量調整弁26を通過する水流量を制御する。
【0040】
以上のように構成された車両用液体循環システムは、四方弁5を切り換えることで、第1熱交換器22や第2熱交換器23、第3熱交換器24へ温水を搬送する暖房運転と、第1熱交換器22や第2熱交換器23、第3熱交換器24へ冷水を搬送する冷房運転を行うことができる。以下、暖房運転における冷媒、および、水の状態変化を説明する。
【0041】
図1の本実施形態の車両用液体循環システム50では、冷媒回路10の加熱運転により生成された温水を、水回路20において各熱交換器へ搬送して車室内の暖房に利用する暖房運転の動作を示している。図1では暖房運転時の冷媒の流れ方向を実線矢印、水の流れ方向を破線矢印で示している。
【0042】
まず、冷媒回路10において、圧縮機1から吐出された高圧ガス冷媒は、四方弁5により冷媒水熱交換器2に流入する方向に切り換えられ、凝縮器として作用する冷媒水熱交換器2において冷媒水熱交換器2の水側流路を通過する水と熱交換して水を加熱し、冷媒自身は放熱して液化凝縮し、高圧液冷媒となる。
【0043】
冷媒水熱交換器2から流出した高圧液冷媒は、膨張弁3によって減圧されて膨張し、低圧二相冷媒となり、蒸発器として作用する冷媒空気熱交換器4に流入する。
【0044】
冷媒空気熱交換器4に流入した低圧二相冷媒は、ここで蒸発して空気から気化熱を吸熱して過熱冷媒となって冷媒空気熱交換器4を流出し、圧縮機1へ戻る。
【0045】
一方、水回路20において、ポンプ21により水回路20を循環する水は、冷媒水熱交換器2の水側流路において、冷媒水熱交換器2の冷媒側流路で凝縮する冷媒と熱交換して温水となる。
【0046】
その後、第1熱交換器22に温水が流入し、温水から空気へ対流熱伝達で加熱されることにより温風を生成して車室内の暖房を行い、水自身は空気との熱交換によって水温が低下して第1熱交換器22から流出する。
【0047】
そして、車室内のドア内面パネルに設置された第2熱交換器23に流入した場合、在席者の体温より高い温水で加熱されたドア内面パネルから輻射により座席シート在席者に温熱を伝え在席者の暖房快適性を高め、水自身は輻射により座席シート在席者に温熱を伝えることよって水温が低下して第2熱交換器23から流出する。
【0048】
一方、車室内の座席シートの内部に設置された第3熱交換器24に流入した場合、在席者の体温より高い温水が、熱伝導により座席シート、および、座席シート在席者に温熱を伝え在席者の暖房快適性を高め、水自身は座席シートや在席者との熱交換によって水温が低下して第3熱交換器24から流出する。
【0049】
そして、第2熱交換器23、第3熱交換器24から流出した水は集合後、冷媒水熱交換器2へ戻る。
【0050】
ここで、水回路20において、暖房運転における各熱交換器を通過した温水の温度の変化は、図2に示すようになる。
【0051】
図2において、温水は温度t1で第1熱交換器22に流入し、温度t2で流出する。このとき、第1熱交換器22における温水の温度差は、△t(=t1−t2)となる。その後、温水は温度t2で第2熱交換器23、および/または、第3熱交換器24に流入し、温度t3で流出することになる。このとき、第1熱交換器22、第2熱交換器23、および/または、第3熱交換器24において放熱された温水の温度差は、最終的に△t’(=t1−t3)となる。
【0052】
すなわち、対流熱伝達による伝熱を行う第1熱交換器22において、温度の高い温水を利用した後に、比較的低温の温水でも十分に温熱感を得られる輻射、または、熱伝導を利用して伝熱を行う第2熱交換器23、および/または、第3熱交換器24で利用することにより、冷媒水熱交換器2への温水の戻り温度を下げることができる。
【0053】
したがって、冷媒水熱交換器2への温水の戻り温度が低いため、冷媒水熱交換器2の冷媒側流路における冷媒の凝縮圧力を低下させることができる。このため、圧縮機1は、吐出する冷媒の圧力を低くできるために、圧縮機1の消費電力を低減できる。
【0054】
また、冷媒水熱交換器2の入水温度(図2における戻り温水温度)と出水温度(図2における行き温水温度)との温度差を大きくすることができるため、各熱交換器で、同一の加熱能力を車内に供給する場合に、水流量を低減することが可能となる。このため、ポンプ21の動力を低減でき、省エネルギー性の向上を図ることができる。
【0055】
次に、冷房運転における冷媒、および、水の状態変化を説明する。
【0056】
図3では、冷媒回路10の冷却運転により生成された冷水を、水回路20において各熱交換器へ搬送して車室内の冷房に利用する冷房運転の動作を示している。図3では冷房運転時の冷媒の流れ方向を実線矢印、水の流れを破線矢印で示している。
【0057】
まず、冷媒回路10において、圧縮機1から吐出された高圧ガス冷媒は、四方弁5により冷媒空気熱交換器4に流入する方向に切り換えられ、凝縮器として作用する冷媒空気熱交換器4において空気と熱交換して冷媒自身は放熱して液化凝縮し、高圧液冷媒となる。
【0058】
冷媒空気熱交換器4から流出した高圧液冷媒は、膨張弁3によって減圧されて膨張し、低圧二相冷媒となり、蒸発器として作用する冷媒水熱交換器2に流入する。
【0059】
冷媒水熱交換器2に流入した低圧二相冷媒は、冷媒水熱交換器2の水側流路を通過する水と熱交換して水から気化熱を吸熱して過熱冷媒となって冷媒水熱交換器2を流出し、圧縮機1へ戻る。
【0060】
一方、水回路20において、ポンプ21により水回路20を循環する水は、冷媒水熱交換器2の水側流路において、冷媒水熱交換器2の冷媒側流路で蒸発する冷媒と熱交換して冷水となる。
【0061】
その後、第1熱交換器22に冷水が流入し、冷水から空気へ対流熱伝達で加熱されることにより冷風を生成して車室内の冷房を行い、水自身は空気との熱交換によって水温が上昇して第1熱交換器22から流出する。
【0062】
そして、車室内のドア内面パネルに設置された第2熱交換器23に流入した場合、在席者の体温より低い冷水により冷却されたドア内面パネルから輻射により座席シート在席者に冷熱を伝えることにより在席者の冷房快適性を高め、水自身は輻射により座席シート在席者に冷熱を伝えることよって水温が上昇して第2熱交換器23から流出する。
【0063】
一方、車室内の座席シートの内部に設置された第3熱交換器24に流入した場合、在席者の体温より低い温水が、熱伝導により座席シート、および、座席シート在席者に冷熱を伝えることにより在席者の冷房快適性を高め、水自身は座席シートや在席者との熱交換によって水温が上昇して第3熱交換器24から流出する。
【0064】
そして、第2熱交換器23、第3熱交換器24から流出した水は集合後、冷媒水熱交換器2へ戻る。
【0065】
ここで、水回路20において、冷房運転における各熱交換器を通過した冷水の温度の変化は、図4に示すようになる。
【0066】
図4において、冷水は温度t4で第1熱交換器22に流入し、温度t5で流出する。このとき、第1熱交換手段22における冷水の温度差は、△t(=t5−t4)となる。その後、冷水は温度t5で第2熱交換器23、および/または、第3熱交換器24に流入し、温度t6で流出することになる。このとき、第1熱交換器22、第2熱交換器23、および/または、第3熱交換器24において吸熱された冷水の温度差は、最終的に△t’(=t6−t4)となる。
【0067】
すなわち、対流熱伝達による伝熱を行う第1熱交換器22において、温度の低い冷水を利用した後に、比較的高温の冷水でも十分に冷熱感を得られる輻射、または、熱伝導により伝熱を行う第2熱交換器23、および/または、第3熱交換器24で利用することにより、冷媒水熱交換器2への冷水の戻り温度を上げることができる。
【0068】
したがって、冷媒水熱交換器2への冷水の戻り温度が高いため、冷媒水熱交換器2の冷媒側流路における冷媒の蒸発圧力を上昇させることができる。このため、圧縮機1の冷媒循環量を増加させることができる。これにより、各熱交換器で、同一の冷却能力を車内に供給する場合に、圧縮機1の運転容量(例えば、圧縮機1の回転数)を抑えることができるため、圧縮機1の消費電力を低減することができる。
【0069】
また、冷媒水熱交換器2の入水温度(図4における戻り冷水温度)と出水温度(図4における行き冷水温度)の温度差を大きくすることができるため、各熱交換器で、同一の冷却能力を車内に供給する場合に、水流量を低減することができる。このため、ポンプ21の動力を低減でき、省エネルギー性の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明にかかる車両用液体循環システムは、冷暖房に要するエネルギーを低く抑えることができる。すなわち、省エネルギー性の向上を図ることができるので、水を冷却・加熱し、その水を冷房・暖房に利用する車両用冷暖房装置に特に有用である。
【0071】
さらに、温水や冷水を循環させて冷暖房を行う冷温水循環型暖房冷房装置においても同様の熱交換器の接続構成によって同様の省エネルギー性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 圧縮機
2 冷媒水熱交換器
3 膨張弁(膨張手段)
4 冷媒空気熱交換器
10 冷媒回路
20 水回路
21 ポンプ(循環手段)
22 第1熱交換器(第1熱交換手段)
23 第2熱交換器(第2熱交換手段)
24 第3熱交換器(第2熱交換手段)
25 第1流量調整弁(流量調整手段)
26 第2流量調整弁(流量調整手段)
28 送風機(送風手段)
40 制御装置(制御手段)
50 車両用液体循環システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、冷媒水熱交換器、膨張手段、冷媒空気熱交換器が接続された冷媒回路と、前記冷媒水熱交換器で熱交換された水を循環させる循環手段、前記冷媒水熱交換器と直列に接続された第1熱交換手段、前記第1熱交換手段の下流側に接続された第2熱交換手段を有する水回路と、制御手段とを備え、前記第1熱交換手段は送風手段が発する空気により熱伝達するとともに、前記第2熱交換手段は車室内を構成する部品の表面または内部に設置され、熱伝導、または輻射により伝熱することを特徴する車両用液体循環システム。
【請求項2】
前記第2熱交換手段を複数設置し、かつそれぞれを並列に設置したことを特徴とする請求項1に記載の車両用液体循環システム。
【請求項3】
前記第2熱交換手段を流れる水流量を調整する流量調整手段を配設したことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用液体循環システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−11932(P2012−11932A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151766(P2010−151766)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】