説明

車両用温度測定装置

【課題】 外乱光の影響がある場合においても車室内の絶対温度分布を精度よく測定でき、これにより人の表面温度を正確に測定するとともに、空調の吹き出し口から人までの距離も正確に推定でき、より快適な空調制御を行うことができる車両用温度測定装置を提供すること。
【解決手段】 16素子のサーモパイルモジュール21により車室内で放射される赤外光を検知して温度を分布で測定する赤外線センサユニット2を備えた、車両用温度測定装置1において、サーモパイルモジュール21の検知対象範囲で、所定の温度で発熱する標準発熱体ユニット3と、サーモパイルモジュール21による標準発熱体ユニット3の検知結果からサーモパイルモジュール21の較正を赤外線センサユニット2のCPU24が行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に車両用空調装置のために車内の温度を測定する車両用温度測定装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来においては、車両用空調システムで空調をより快適にするために、車室内に配置された複数個の赤外線センサまたは1ないし2次元の赤外線センサ・アレイにより、人の皮膚、着衣やその周辺部の表面温度を非接触で測定しその温度分布から人の位置を推定し、空調の吹き出し温度、風量、風向きを制御している(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、温度分布により空調の吹き出し口から人までの距離を推定し、風量、風向を制御したり、エアバッグから人までの距離を推定し、エアバッグの作動の有無、展開速度等を制御するための利用が提案されていた(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平4−271912号公報(第2−5頁、全図)
【特許文献2】特開平11−201822号公報(第2−5頁、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、実際に赤外線センサにより、車室内の温度分布を測定するにはコスト的な面から熱型の赤外線センサを使用するのが現実的である。熱型センサは感度が低く出力信号は微弱である。そのため、出力信号を数万倍に増幅して使用することになり、ノイズの影響を受けやすく絶対温度を高精度に測定することは現実的には難しい。例えば、車室内に入射してくる外乱によって測定誤差が生じることが考えられる。赤外線センサを空調制御に使用する場合、人とその周辺部の温度分布を測定し人の位置を推定するとともに、なるべく高精度にその絶対温度を測定することが求められていた。
【0005】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、外乱光の影響がある場合においても車室内の絶対温度分布を精度よく測定でき、これにより人の表面温度を正確に測定するとともに、空調の吹き出し口から人までの距離も正確に推定でき、より快適な空調制御を行うことができる車両用温度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、複数の素子により車室内で放射される赤外光を検知して温度を分布で測定する赤外線センサを備えた、車両用温度測定装置において、前記赤外線センサの検知対象範囲で、所定の温度で発熱する標準発熱体と、前記赤外線センサによる前記標準発熱体の検知結果から赤外線センサの較正を行う手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明にあっては、外乱光の影響がある場合においても車室内の絶対温度分布を精度よく測定できる。これにより、乗員の表面温度を正確に測定するとともに、空調の吹き出し口から乗員までの距離もより正確に推定でき、より快適な空調制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の車両用温度測定装置を実現する実施の形態を、請求項1,2,3,4に係る発明に対応する実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の車両用温度測定装置の概略図である。図2は実施例1の車両用温度測定装置のブロック図である。
実施例1の車両用温度測定装置1は、赤外線センサユニット2と標準発熱体ユニット3を主な構成とし、赤外線センサユニット22は車両の空調制御ユニット4と接続している。
赤外線センサユニット2は、サーモパイルモジュール21、アナログフィルタ22、可視光センサ23、CPU24(較正手段に相当する)、A/Dコンバータ25、通信I/F26を主要な構成としている。
サーモパイルモジュール21は、視野範囲を1次元方向に16分割して温度測定するサーモパイル素子の温度測定用のサーミスタ、マルチプレクサ、アンプ、アンプ用リファレンス電圧出力回路を内蔵している。
【0010】
アナログフィルタ22は、サーモパイルモジュール21及び可視光センサ23の出力信号のノイズを低減させるフィルタ回路である。
可視光センサ23は、較正時の外乱光の状態をモニタする。
A/Dコンバータ25は、サーモパイルモジュール21及び可視光センサ23の出力信号をA/D変換してCPU24へ出力する。
CPU24は、標準発熱体ユニット3と通信を行い較正のための発熱を行わせ、標準発熱体ユニット3の赤外光画像と可視光センサ23の検出結果から較正を行い、較正結果を基に車室内の温度を測定し、その結果を通信I/F26を介して空調制御ユニット4に送信する。
通信I/F26は、外部とのデータの入出力を行う。
【0011】
標準発熱体ユニット3は、CPU31(発熱温度変更手段、チョッピング手段に相当する)、ヒーター32、温度センサ33(車室内雰囲気温度検知手段に相当する)、A/Dコンバータ34、シャッター開閉装置35、通信I/F36を主要な構成にしている。
CPU31は、赤外線センサユニット2との通信により発熱開始、終了の制御を行い、温度センサ33の検知結果によりヒーター32、シャッター開閉装置35を制御する。
ヒーター32は、車室内及び車室内に設けられたサーモパイルモジュール21に向かって赤外光を放射するよう発熱を行う。尚、ヒーター32の発熱量はCPU31で制御する。
【0012】
温度センサ33は、ヒーター32の基板上に設けられ、ヒーター32の発熱量を計測する。
A/Dコンバータ34は、温度センサ33の出力をA/D変換してCPU31へ出力する。
シャッター開閉装置35は、CPU31の制御で発熱により赤外線の放出をシャッターの開閉によりチョッピングする。
通信I/F36は、外部の赤外線センサユニット2とのデータの入出力を行う。
【0013】
実施例1の車両用温度測定装置1では、図1に示すように、赤外線センサユニット2は、インストルメントパネルの乗員の頭部を前方の下方から測定する位置に設けられ、標準発熱体ユニット3は、ルーフ下面に設ける構成にしている。なお、可視光センサ23は、インストルメントパネルの上部の外光を捉えやすい位置に設けるようにする。
【0014】
次に作用を説明する。
[温度測定処理]
図3に示すのは、実施例1の車両用温度測定装置で実行する温度測定・較正の処理の流れを示すフローチャートであり、以下各ステップについて説明する。
【0015】
ステップS1は、処理前のアイドル状態であることを示す。
【0016】
ステップS2では、ヒーター32を発熱させる前の温度センサ33の検知結果から車室内の雰囲気温度を検知し、雰囲気温度に応じた、ヒーター32、つまり標準発熱体ユニット3における発熱温度を設定する。
【0017】
ステップS3では、標準発熱体ユニット3のヒーター32をONにする。
【0018】
ステップS4では、発熱した標準発熱体ユニット3の発熱温度を測定する。
【0019】
ステップS5では、発熱温度が目標の温度範囲内かどうかを判断し、範囲内ならばステップS6へ移行し、範囲内でないならばステップS4へ移行する。
【0020】
ステップS6では、標準発熱体ユニット3のシャッター装置35を作動させ、シャッターの開閉を開始する。
【0021】
ステップS7では、サーモパイルモジュール21により車室内の温度分布を計測する。
【0022】
ステップS8では、可視光による外乱があるかどうかを判断し、外乱がある場合にはステップS7へ移行し、外乱がない(非常に小さい)場合にはステップS9へ移行する。
【0023】
ステップS9では、サーモパイルモジュール21の全素子が均一な変化をしているかどうかを判断し、均一な変化をしているならばステップS10へ移行し、均一な変化をしていないならばステップS7へ移行する。
【0024】
ステップS10では、全素子への均一な変化に対して補正するデータの演算を行う。
【0025】
ステップS11では、計測した車室内温度分布のデータを空調制御ユニット4へ出力する。
【0026】
ステップS12では、測定を継続するかどうかを空調制御ユニット4との通信により判断し、継続する場合にはステップS7へ移行し、継続しない場合にはステップS13へ移行する。
【0027】
ステップS13では、標準発熱体ユニット3のヒーター32をOFFにする。
【0028】
[車室内の温度分布測定の精度向上]
実施例1では、横方向1列に素子を配列したサーモパイルモジュール21により、16素子で検出される。CPU24は16素子のサーモパイルをスキャンし、データをサンプリングし演算により車室内の水平方向の温度分布を測定する。
尚、サーモパイルモジュール21を垂直方向にスキャンするための移動機構を設ければ、2次元の温度分布測定も可能である。
【0029】
この測定の際には、サーモパイルモジュール21の16素子のいずれかが、標準発熱体ユニット3を検知する。標準発熱体ユニット3は、車室内の雰囲気温度に応じた発熱を行うため、検知する車室内温度に近い温度で発熱する。この発熱温度は、温度センサ33によりCPU31で検知され、ヒーター32を制御することで所定の温度に精度よく保たれる。
よって、サーモパイルモジュール21で検知する標準発熱体ユニット3の温度をヒーター32設定温度として較正すれば、非常に精度のよい測定を行うことになるのである。
さらに、実施例1では、シャッター開閉装置35による標準発熱体ユニット3の赤外線放射をチョッピングつまり特定周波数により間欠化にしている。よって、CPU24により、検知・処理されるサーモパイルモジュール21の温度分布が、標準発熱体ユニット3の位置であり、且つ間欠化したチョッピング周波数に同期した信号となっているものを捉えて較正すれば、より外乱の影響を受けない標準発熱体ユニット3の発熱による赤外光で較正することになり、さらに精度が向上する。
【0030】
また、この較正及び測定を行う際には、可視光センサ23により、外乱の状態が計測されるため、外乱の状態が計測にふさわしくない状態であると判断される際には、サーモパイルモジュール21による再測定を行う(ステップS8)ため、さらに精度が向上する。
【0031】
またさらに、可視光センサ23の検知結果から外乱の状態が計測にふさわしいと判断した場合において、図4の符号53の部分に示すようにサーモパイルモジュール21が均一的な変化をした場合には、その変化分を補正し、測定をやめるほどではない、外乱の影響をも取り除くようにし、さらに精度を向上した測定を行う。言い換えて説明すると、赤外線センサユニット2の取付部の側壁などサーモパイルモジュール21の視野外から入射し、全素子に平均的に加わる外乱に対する補正を行い、影響を除去することで測定の精度を向上させるのである。
なお、図4の符号51,52のように特定の素子のみが変化したような場合には、補正は行わない。
【0032】
このようにして、精度よく、乗員hの頭部、標準発熱体ユニット3を含む温度分布画像を得るならば、乗員の頭部位置、温度をより正確に空調制御ユニット4が得ることができ、それに合わせた制御を行うことで、より快適な車内空間にすることになる。
【0033】
次に、効果を説明する。
【0034】
実施例1の車両用温度測定装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0035】
(1)16素子のサーモパイルモジュール21により車室内で放射される赤外光を検知して温度を分布で測定する赤外線センサユニット2を備えた、車両用温度測定装置1において、サーモパイルモジュール21の検知対象範囲で、所定の温度で発熱する標準発熱体ユニット3と、サーモパイルモジュール21による標準発熱体ユニット3の検知結果からサーモパイルモジュール21の較正を赤外線センサユニット2のCPU24が行うため、外乱光の影響がある場合においても車室内の温度分布を精度よく測定できる。これにより、乗員の表面温度を正確に測定するとともに、空調の吹き出し口から乗員までの距離もより正確に推定でき、より快適な空調制御を行うことができる。
【0036】
(2)標準発熱体ユニット3は、車室内雰囲気温度を検知し、かつヒーター32温度を検知する温度センサ33と、車室内雰囲気温度に応じてヒーター32の発熱温度をCPU31の制御で変更するため、校正を測定する温度に合わせて行い、より精度よく温度測定を行うことができる。
【0037】
(3)標準発熱体ユニット3は、発熱による赤外線の放射を間欠した放射にするシャッター開閉装置35を備え、赤外線センサユニット2のCPU24は、標準発熱体ユニット3のチョッピング周波数に同期した信号を標準発熱体ユニット3の温度検知信号とするため、外乱の影響を受けにくくして、より精度よく温度測定を行うことができる。
【0038】
(4)赤外線センサユニット2は、横方向に複数の素子を配列したサーモパイルモジュール21と、外乱光の状態を測定するための可視光センサ23と、検出データを処理に前記較正手段となるCPU24とからなり、標準発熱体ユニット3のチョッピング手段は、赤外線センサへの放熱方向に設けたシャッターを開閉して間欠な放熱を行うシャッター開閉装置35であるため、横方向に配列したサーモパイルモジュール21で乗員の頭部と標準発熱体ユニット3を捉え、シャッターの開閉で赤外光をチョッピングして、乗員の頭部を含めた車室内の温度を精度よく測定することができる。
【0039】
以上、本発明の車両用温度測定装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0040】
例えば、実施例1では、可視光センサにより外乱の状態を検知し、外乱の少ない状態で較正・測定を行うようにしているが、外乱の少ない夜間に較正を行うようにしてもよい。
また、実施例1では、説明上、較正と測定を1回の測定に対し行っているが、複数の測定、時間、使用、毎に較正を行うものであってもよく、較正結果は、次の較正が行われるまで保存されるのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1の車両用温度測定装置の概略図である。
【図2】実施例1の車両用温度測定装置のブロック図である。
【図3】実施例1の車両用温度測定装置で実行する温度測定・較正の処理の流れを示すフローチャート図である。
【図4】実施例1の車両用温度測定装置のサーモパイルモジュールの各素子と時間、温度の関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 車両用温度測定装置
2 赤外線センサユニット
21 サーモパイルモジュール
22 アナログフィルタ
23 可視光センサ
24 CPU
25 A/Dコンバータ
26 通信I/F
3 標準発熱体ユニット
31 CPU
32 ヒーター
33 温度センサ
34 A/Dコンバータ
35 シャッター開閉装置
36 通信I/F
4 空調制御ユニット
5 座席
6 車体
h 乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素子により車室内で放射される赤外光を検知して温度を分布で測定する赤外線センサを備えた、
車両用温度測定装置において、
前記赤外線センサの検知対象範囲で、所定の温度で発熱する標準発熱体と、
前記赤外線センサによる前記標準発熱体の検知結果から赤外線センサの較正を行う手段と、
を備えたことを特徴とする車両用温度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用温度測定装置において、
前記標準発熱体は、
車室内雰囲気温度を検知する手段と、
車室内雰囲気温度に応じて発熱温度を変更する手段と、
を備えることを特徴とする車両用温度測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された車両用温度測定装置において、
前記標準発熱体は、
発熱による赤外線の放射を間欠した放射にするチョッピング手段を備え、
前記赤外線センサの較正手段は、
前記標準発熱体のチョッピング周波数に同期した信号を標準発熱体の温度検知信号とする、
ことを特徴とする車両用温度測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載された車両用温度測定装置において、
前記赤外線センサは、
横方向に複数の素子を配列したサーモパイルアレイと、
外乱光の状態を測定するための可視光センサと、
検出データを処理に前記較正手段となるCPUとからなり、
前記標準発熱体のチョッピング手段は、
前記赤外線センサへの放熱方向に設けたシャッターを開閉して間欠な放熱を行うシャッター開閉装置である、
ことを特徴とする車両用温度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−113025(P2006−113025A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303295(P2004−303295)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】