説明

車両用照明装置

【課題】車輪の空転時のパッシング動作を防止して、ロービームとハイビームの切り替えを自動的に行うことを目的とする。
【解決手段】前方車両が検出されない場合には、各車輪速センサによって検出された車輪速が所定値以上の場合に、配光制御ECUが前照灯ドライバを制御することによってロービームからハイビームに配光を切り替え、前方車が検出された場合には、ロービームに配光を切り替えるように、前照灯の点灯を制御する(102)。ロービームとハイビームの切替制御の際に、各車輪速センサ22の検出結果から車輪の空転を検出して(104、106)、車輪の空転を検出した場合には、ロービームとハイビームの切り替え制御を禁止する(108)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用照明装置にかかり、特に、前照灯のハイビームやロービーム切替等の配光を制御する車両用照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車輪速や車速が所定車速以上になった場合に、ロービームからハイビームに切り替えを行う車両用照明装置が提案されている。このようにロービームとハイビームの切り替えを自動的に行う技術としては、例えば、特許文献1〜4に記載の技術が提案されている。
【0003】
特許文献1〜3に記載の技術では、先行車や対向車が検出された場合に、ハイビームからロービームに自動的に切り替え、先行車や対向車が検出されない場合に、ロービームからハイビームに自動的に切り替える車両用照明装置が提案されている。詳細には、特許文献1に記載のでは、方向指示器動作中はライトの現在のビーム状態を維持してパッシングを防ぐことが提案され、特許文献2に記載の技術では、所定時間内のハイビームとロービームの切り替え回数が所定回数以上になった場合に、システムを強制終了することが提案され、特許文献3に記載の技術では、連続点灯時間が所定時間以内の場合には、ハイビームとロービームの切り替えをキャンセルことが提案されている。
【0004】
一方、特許文献4に記載の技術では、ステアリングの操舵に連動して前照灯の光軸を操舵方向に変化させる車両用照明装置において、車輪速センサによって後輪の空転を検出した場合に、操舵にかかわらず光軸を車両中心に戻すことが提案されている。
【特許文献1】特開2007−290612号公報
【特許文献2】特開2007−91023号公報
【特許文献3】実開平2−10141号公報
【特許文献4】特開平5−305845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車速に応じてロービームとハイビームを切り替える車両用照明装置では、悪路や雪路など車輪が空転を引き起す状況に至った場合、ドライバが、スリップする状況を脱するために、複数回にわたりアクセルのオンオフを繰り返すことにより、車輪速が変化して、ロービームとハイビームの切り替えが頻繁に発生し、パッシングに相当するハイ/ローの切り替えが連続して発生してしまう。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して成されたもので、車輪の空転時のパッシング動作を防止して、ロービームとハイビームの切り替えを自動的に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、ロービームとハイビームの切替が可能な車両用照明手段と、車両に設けられた各車輪の車輪速を検出する検出手段と、前記検出手段によって検出された車輪速が所定値未満の場合にロービームに切り替え、ハイビームに切り替える予め定めた条件を満たし、かつ前記検出手段によって検出された車輪速が所定値以上の場合にハイビームに切り替えるように、前記車両用照明手段を制御する制御手段と、前記検出手段によって検出された各車輪速に基づいて車輪の空転を判断する判断手段と、前記判断手段によって車輪が空転していると判断された場合に前記制御手段による制御を禁止する禁止手段と、を備えることを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、車両用照明手段は、ロービームとハイビームの切替が可能とされている。すなわち、一般的に使用される前照灯等を適用することができる。例えば、ハロゲンランプ、LED、放電灯(ディスチャージランプ)等の各種光源を用いた前照灯を適用することができる。
【0009】
検出手段では、車両に設けられた各車輪の車輪速が検出される。そして、制御手段では、検出手段によって検出された車輪速が所定値未満の場合にロービームに切り替え、ハイビームに切り替える予め定めた条件を満たし、かつ前記検出手段によって検出された車輪速が所定値以上の場合にハイビームに切り替えるように、車両用照明手段が制御される。これによって、高速道路等を走行する際の視認範囲を広げることができる。なお、ハイビームに切り替える予め定めた条件としては、例えば、前方車を検出して前方車が存在しない場合等が挙げられる。
【0010】
また、判断手段では、検出手段によって検出された各車輪速に基づいて車輪の空転が判断される。判断手段は、例えば、各車輪の車輪速を比較して、予め定めた速度以上の差が発生した場合に空転検知と判断することができる。
【0011】
そして、禁止手段では、判断手段によって車輪が空転していると判断された場合に制御手段による制御が禁止される。これによって、車輪速に応じた車両用照明手段のロービームとハイビームの切替が禁止されるので、悪路や雪路など車輪が空転を引き起す状況に至った場合に、車輪をスリップする状況を脱するために、ドライバが複数回にわたりアクセルのオンオフを繰り返すことによって発生するパッシング動作を防止することができる。
【0012】
従って、車輪の空転時のパッシング動作を防止して、ロービームとハイビームの切り替えを自動的に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、検出した車輪速に基づいて車輪の空転を判断して、車輪の空転が判断された場合に、ロービームとハイビームの切替制御を禁止するので、車輪の空転時のパッシング動作を防止して、ロービームとハイビームの切り替えを自動的に行うことができる、という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係わる車両用照明装置の構成を示すブロック図である。
【0015】
本発明の実施の形態に係わる車両用照明装置10は、図1に示すように、車両に設けられた前照灯12が、配光制御ECU14に接続されており、配光制御ECU14によって前照灯の配光が制御される。
【0016】
本実施の形態では、前照灯12は、ロービームとハイビームの切り替えが可能とされた一般的な前照灯が適用される。前照灯12の一例としては、例えば、ハロゲンランプ、LED、放電灯(ディスチャージランプ)等の各種光源を用いたものを適用することができる。
【0017】
配光制御ECU14は、CPU14A、RAM14B、ROM14C、及びI/O14Dを含むマイクロコンピュータで構成され、前照灯12のロービームとハイビームの切り替えを制御する。
【0018】
配光制御ECU14のROM14Cには、前照灯12のロービームとハイビームの切り替えを制御するためのテーブルやプログラム等が記憶され、RAM14Bは、CPU14Aによって行われる各種演算等を行う作業用メモリとして機能する。
【0019】
I/O14Dには、スイッチ16、カメラ18、前照灯ドライバ20、及び各車輪速センサ22が接続されており、スイッチ16の操作状態や、カメラ18による撮影結果が配光制御ECU14に入力される。
【0020】
スイッチ16は、ドライバの操作によって前照灯12の点灯指示等が行われる。例えば、スイッチ16は、前照灯12のオンオフ指示、前照灯12のロービームとハイビームの切り替え指示、ロービームとハイビームの自動切替指示等が可能で、ドライバによってスイッチ16の操作が行われた場合に、操作結果をを配光制御ECU14に出力する。
【0021】
また、カメラ18は、車両前方を撮影し、撮影によって得られる撮影画像を配光制御ECU14に出力する。
【0022】
各車輪速センサ22は、車両に設けられた各車輪の速度を各々検出して、検出結果を配光制御ECU14に出力する。なお、図1では、各車輪速センサ22として1つを示すが、本実施の形態では車両の車輪の数に対応して設けられているものとするが、駆動輪のみに設けるようにしてもよい。
【0023】
そして、配光制御ECU14は、スイッチ16の状態に応じて前照灯ドライバ20を制御して前照灯12の点灯を制御すると共に、スイッチ16によってロービームとハイビームの自動切替指示が行われた場合には、カメラ18の撮影結果及び各車輪速センサ22の検出結果に基づいて、ロービームとハイビームの切り替えを制御する。
【0024】
ここで、本発明の実施の形態に係わる車両用照明装置10の配光制御ECU14で行われるロービームとハイビームの自動切替制御について説明する。
【0025】
本実施の形態では、ドライバがスイッチ16を操作することによってロービームとハイビームの自動切替指示が行われた場合には、配光制御ECU14が前照灯ドライバ20を制御して前照灯12の点灯(ロービーム)を開始し、カメラ18の撮影結果に基づいて、先行車や対向車などの前方車両を検出する。例えば、撮影画像を画像処理することによって光輝点を検出することによって先行車のテールランプや対向車の前照灯を検出することで、前方車両を検出することができる。そして、前方車両が検出されない場合には、各車輪速センサ22によって検出された車輪速が所定値以上の場合に、配光制御ECU14が前照灯ドライバ20を制御することによってロービームからハイビームに配光を切り替え、前方車が検出された場合には、ロービームに配光を切り替えるように、前照灯12の点灯を制御するようになっている。すなわち、前方車両が存在しないときには、図2に示すように、車速が所定値Va未満の場合にロービームに切り替え、車速が所定値Va以上の場合にハイビームに切り替えるので、対向車等へのグレア光を防止しながら、高速道路等を走行する際の視認範囲を広げることができる。なお、各車輪速センサ22によって検出された車輪速に応じてロービームとハイビームの切替を行うようにしたが、車輪速が求められる車速に応じてロービームとハイビームの切替を行うようにしてもよい。この場合車輪速から車速を検出する際には、例えば、各車輪速センサ22から得られる車輪速の平均値等を求めることによって車速を得ることができる。
【0026】
ところで、このように車速に応じて前照灯12のロービームとハイビームの切り替えを制御する車両用照明装置10では、悪路や雪路等の車輪が空転する状況に陥った場合には、車輪のスリップする状況を脱しようとして、ドライバがアクセルのオンオフを繰り返すことにより、車輪が空転して、ロービームとハイビームを切り替える閾値の車輪速Vaを行ったり来たりすることになり、前照灯12から照射される光がパッシング状態となる。
【0027】
そこで、本実施の形態では、配光制御ECU14が、各車輪速センサ22の検出結果から車輪の空転を検出して、車輪の空転を検出した場合には、ロービームとハイビームの切り替え制御を禁止するようにしている。これによって上述のように車輪の空転によって発生するパッシングを防止することができる。
【0028】
続いて、上述のように構成された本発明の実施の形態に係わる車両用照明装置10の配光制御ECU14で行われる詳細の処理の一例について説明する。図3は、本発明の実施の形態に係わる車両用照明装置10の配光制御ECU14で行われる処理の流れの一例を表すフローチャートである。なお、図3の処理は、スイッチ16によってロービームとハイビームの自動切替指示が行われた場合に開始し、スイッチ16がオフされた場合に終了するものとして説明する。
【0029】
スイッチ16によってロービームとハイビームの自動切替指示が行われると、ステップ100では、配光制御ECU14によって前照灯ドライバ20が制御されることによって、前照灯12がロービーム点灯されてステップ102へ移行する。なお、ロービームで点灯開始するようにしたが、ハイビームで点灯開始するようにしてもよい。
【0030】
ステップ102では、前照灯12のロービームとハイビームを自動的に切り替える自動切替制御が行われてステップ104へ移行する。
【0031】
ここで、図4を参照して自動切替制御について詳細に説明する。図4は、本発明の実施の形態に係わる車両用照明装置10のロービームとハイビームの自動切替制御の流れの一例を示すフローチャートである。
【0032】
自動切替制御が開始されるとステップ200では、カメラ18の撮影結果が配光制御ECU14によって取得されてステップ202へ移行する。
【0033】
ステップ202では、前方車両の検出が行われてステップ204へ移行する。前方車両の検出は、例えば、カメラ18の撮影画像から画像処理によって予め定めた輝度以上の光輝点があるか否かを判定したり、画像処理によってパターンマッチング等を行うことにより、先行車や対向車などの前方車両を検出する。
【0034】
ステップ204では、前方車両があるか否か配光制御ECU14によって判定される。すなわち、ステップ202によって前方車両が検出されたか否かを判定し、該判定が否定された場合にはステップ206へ移行し、肯定された場合にはステップ210へ移行する。
【0035】
ステップ206では、各車輪速センサ22によって検出された車輪速が所定車輪速Va以上か否か配光制御ECU14によって判定され、該判定が肯定された場合にはステップ208へ移行し、否定された場合にはステップ210へ移行する。なお、該判定は、各車輪速センサ22の検出結果に基づいて検出された車速が所定車速以上か否かを判定するようにしてもよい。
【0036】
ステップ208では、前照灯12がハイビームに切り替えられて、自動切替制御がリターンされて図3のステップ104へ移行する。すなわち、配光制御ECU14が前照灯ドライバ20を制御することによって前照灯12をハイビームに切り替える。この時、前照灯12が既にハイビームの場合にはハイビームが維持される。
【0037】
一方、ステップ210では、前照灯12がロービームに切り替えられて、自動切替制御がリターンされて図3のステップ104へへ移行する。すなわち、配光制御ECU14が前照灯ドライバ20を制御することによって前照灯12をロービームに切り替える。この時、前照灯12が既にロービームの場合にはロービームが維持される。
【0038】
続いて、図3のステップ104へ移行すると、各車輪速センサ22によって検出された車両に設けられた車輪の各車輪速の検出結果が配光制御ECU14によって取得されてステップ106へ移行する。
【0039】
ステップ106では、空転を検知したか否か配光制御ECU14によって判定される。該判定は、例えば、各車輪の車輪速を比較して、予め定めた速度以上の差が発生した場合に空転検知と判定する。すなわち、各車輪速センサ22の検出結果が略同一ではなくなった場合に空転検知とし、該判定が肯定された場合にはステップ108へ移行し、否定された場合にはステップ104に戻って上述の処理が繰り返される。
【0040】
ステップ108では、上述のステップ102によって行われている自動切替制御が配光制御ECU14によってキャンセルされてステップ110へ移行する。すなわち、車輪速に応じて行われるロービームとハイビームの切り替えがキャンセルされるので、車輪が空転してアクセルオンオフが繰り返されることによって発生するパッシングを防止することができる。なお、自動切替制御がキャンセルされた場合には、キャンセル前の状態(ロービーム又はハイビーム)を維持するようにしてもよいし、ロービームにするようにしてもよい。
【0041】
ステップ110では、空転を検知したか否か配光制御ECU14によって再び判定される。該判定はステップ106同様に判定を行い、判定が肯定された場合には自動切替制御がキャンセルされた状態なので判定が否定されるまで待機、すなわち、空転が停止されるまで待機して、判定が否定されたところでステップ100に戻って上述の処理が繰り返される。
【0042】
このように、車輪速に応じてロービームとハイビームを自動的に切り替える処理を行っているときに、空転を検知して、車輪速に応じたロービームとハイビームの自動切替をキャンセルすることによって、車輪の空転時のパッシング動作を防止して、ロービームとハイビームの切り替えを自動的に行うことができる。
【0043】
なお、上記の実施の形態では、車輪速に応じてロービームとハイビームを切り替える配光制御を例として挙げたが、車輪速や車速に応じて行う他の配光制御(例えば、光軸を移動したり、対向車や歩行者等の照明対象への光を減光したりする配光制御)を適用するようにしてもよい。
【0044】
また、上記の実施の形態では、所定車輪速Vaを閾値としてロービームとハイビームを切り替えるようにしたが、所定車輪速Va付近で走行している際の制御のチャタリングを防止するために、ヒステリスを設けるようにしてもよい。例えば、ロービームからハイビームへの切替の閾値とハイビームからロービームへの切替の閾値を異なる閾値としてヒステリスを設けるようにしてもよい。
【0045】
また、上記の実施の形態では、カメラ18の撮影画像に基づいて前方車両を検出するようにしたが、レーダー等を用いて前方車両を検出してもよいし、カメラ18とレーダーを組み合わせて前方車両を検出するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態に係わる車両用照明装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係わる車両用照明装置のロービームとハイビームの自動切替制御を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態に係わる車両用照明装置の配光制御ECUで行われる処理の流れの一例を表すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態に係わる車両用照明装置のロービームとハイビームの自動切替制御の流れの一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0047】
10 車両用照明装置
12 前照灯
14 配光制御ECU
18 カメラ
20 前照灯ドライバ
22 各車輪速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロービームとハイビームの切替が可能な車両用照明手段と、
車両に設けられた各車輪の車輪速を検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出された車輪速が所定値未満の場合にロービームに切り替え、ハイビームに切り替える予め定めた条件を満たし、かつ前記検出手段によって検出された車輪速が所定値以上の場合にハイビームに切り替えるように、前記車両用照明手段を制御する制御手段と、
前記検出手段によって検出された各車輪速に基づいて車輪の空転を判断する判断手段と、
前記判断手段によって車輪が空転していると判断された場合に前記制御手段による制御を禁止する禁止手段と、
を備えた車両用照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−155489(P2010−155489A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333719(P2008−333719)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】