説明

車両用空気調和装置の吹出口構造

【課題】インストルメントパネル内のスペースを確保し、且つインストルメントパネルの見栄えを損なわずに、吹出口の後端部における負圧の発生を抑えて、吹出口の風を設計どおりの方向に供給できる車両用空気調和装置の吹出口構造を提供すること。
【解決手段】吹出口1の後端部に、その吹出口1の後端部からインストルメントパネル2の内側に向かう縦壁部19と、その縦壁部19の下端から車両後方に向かう底部20とによって段部21が形成されており、吹出口1から吹き出す風W1の向きと交差する向きで段部21に吹出口1から吹き出す風W1とは別の風W2を供給する導入口22を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インストルメントパネルの上面に設けてある吹出口を、その吹出口から吹き出す風の向きが斜め後方上方に傾斜するように構成して、前記吹出口から吹き出す風が車両後部に向かうようにしてある車両用空気調和装置の吹出口構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用空気調和装置の吹出口構造としては、例えば、下記特許文献1に示すものが知られている。この従来の吹出口構造は、吹出口の後端部にインストルメントパネルの裏面側から表側に抜ける空気抜き孔を並設することによって、吹出口の下部における負圧域の発生を防ぎ、これにより吹出口から吹出す風を設計どおりの向きで車両後部に供給しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−16525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の吹出口構造においては、空気抜き孔から吹き出す風の向きが、吹出口から吹き出す風の向きと略平行なため、速い流れに誘引されて、空気抜き孔から吹き出す風も同様の高速の流れを作り易い。そのため、結果的に空気抜き孔の下部に負圧が生じてしまう。さらに、空気抜き孔の下部には、空気抜き孔から吹き出す風がインストルメントパネル側に旋回して再びもとの風の流れに合流するための十分なスペースが設けられていないため、風の流れが滞り易く、このためより一層空気抜き孔の下部に負圧が生じ易い構成となっている。空気抜き孔の下部に負圧が生じると、空気抜き孔から吹出す風だけでなく、吹出口から吹出す風も負圧側に誘引されてしまうため、従来の吹出口構造は、必ずしも設計どおりの風の向きを確保できるものではなく、改善する余地が残されていた。
【0005】
尚、吹出口の後端部における負圧の発生を防止するための他の方法としては、例えば、(1)吹出口の後端部をインストルメントパネルの内側に大きくえぐるような構造とする、(2)吹出口の後端部に大きな穴をあける、(3)吹出口をインストルメントパネルから突出させるような構造とすることなどが挙げられる。
しかし、(1)については内蔵物との関係でスペースを確保し難いという問題がある。(2)については、穴が大きいために物落ち防止のための対策が必要になると共に乗員から穴が見えてしまうためインストルメントパネルの見栄えを悪くする。(3)については、インストルメントパネルの見栄えをかなり悪化させてしまうという問題がある。
以上より本発明の目的は、インストルメントパネル内のスペースを確保し、且つインストルメントパネルの見栄えを損なわずに、吹出口の後端部における負圧の発生を抑えて、吹出口の風を設計どおりの方向に供給できる車両用空気調和装置の吹出口構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の特徴構成は、インストルメントパネルの上面に設けてある吹出口を、その吹出口から吹き出す風の向きが斜め後方上方に傾斜するように構成して、前記吹出口から吹き出す風が車両後部に向かうようにしてある車両用空気調和装置の吹出口構造であって、前記吹出口の後端部に、その吹出口の後端部から前記インストルメントパネルの内側に向かう縦壁部と、その縦壁部の下端から車両後方に向かう底部とによって段部が形成されており、前記吹出口から吹き出す風の向きと交差する向きで前記段部に前記吹出口から吹き出す風とは別の風を供給する導入口を備える点にある。
【0007】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく、吹出口の後端部に、その吹出口の後端部から前記インストルメントパネルの内側に向かう縦壁部と、その縦壁部の下端から車両後方に向かう底部とによって段部を形成することによって、吹出口から吹き出す風をインストルメントパネル側に旋回させて再びもとの風の流れに合流させて排出するためのスペースが確保される。これにより、吹出口からの風の流れが滞ることがなくなるため、段部における負圧が生じ難い。
【0008】
さらに本構成によれば、吹出口から吹き出す風の向きと交差する向きで、吹出口から吹き出す風とは別の風が導入口から段部に供給されるため、導入口から吹き出す風が、吹出口から吹き出す風に誘引されても、平行な速い流れを形成することはなく、段部における負圧はより一層生じ難くなり、吹出口の風を設計どおりの方向に供給することができる。
【0009】
また本構成によれば、風が流れるスペースを確保するための段部と、吹出口から吹き出す風の向きと交差する向きで段部に風を供給する導入口とを備えることによって、インストルメントパネルの内側に大きくえぐるような構造としたり、吹出口の後端部に大きな穴をあける構造としたり、あるいは吹出口をインストルメントパネルから突出させるような構造とする必要がない。そのため、インストルメントパネル内のスペースを確保することができ、インストルメントパネルの見栄えを損なうこともない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の車両用空気調和装置の吹出口構造を備える車両の側面図である。
【図2】本発明の車両用空気調和装置の吹出口構造を備えるインストルメントパネルの正面図である。
【図3】本発明の車両用空気調和装置の吹出口構造の縦断側面図である。
【図4】本発明の車両用空気調和装置の吹出口構造の正面図である。
【図5】別形態の吹出口構造の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態として、本発明をアッパー吹出口に適用した例を図面に基づいて説明する。
〔実施形態〕
【0012】
図1及び図2に示すように、アッパー吹出口1は、インストルメントパネル2の上面に設けられている。
【0013】
図示しないブロワユニット、クーリングユニット、及びヒータユニット等を備えて構成される車両用空気調和装置(図示せず)が、インストルメントパネル2の内側に配備されている。そして、図1に示すように、車両用空気調和装置によって調整された空気(以下、空調風と称する)は、アッパー吹出口1から、車室内の後席4側に吹き出されるように構成されている。
【0014】
また空調風は、フロント吹出口5(図2及び図3参照)、サイド吹出口6(図2参照)、フット吹出口(図示せず)、デフロスター吹出口(図示せず)、及びサイドデフロスター吹出口(図示せず)のそれぞれからも、車室内の前席3側、前席3の足元側、フロントガラス7側、及びフロントドアのウインドウ(図示せず)側に吹き出されるように構成されている。
【0015】
図3に示すように、アッパー吹出口1を備えるグリル本体8は、横方向に幅広の筒体9を有し、筒体9の前端部分が車両用空気調和装置から延長されたダクト14側に配置される。車両用空気調和装置から供給される空調風は、ダクト14を介して筒体9に流入して、アッパー吹出口1から吹き出される。ダクト14の先端周縁にはフランジ部14aが形成されており、フランジ部14aと筒体9の前端部分との間に隙間が設けられている。図3及び図4に示すように、グリル本体8の筒体9の中には、整流板10が設けられており、整流板10と筒体9の内周面との間にハニカム状に構成された小物脱落防止用の桟部11が形成されている。
【0016】
図3に示すように、グリル本体8の前端部及び後端部のそれぞれには、第1係止部12及び第2係止部13が設けられている。第1係止部12及び第2係止部13のそれぞれは、インストルメントパネル2の第1被係止部15及び第2被係止部16に嵌め込み可能に構成されている。
【0017】
第1被係止部15には、凹部が形成されており、当該凹部にグリル本体8の第1係止部12が嵌め込まれる。
【0018】
第2被係止部16は、フロント吹出口5を備えるグリル体23を嵌め込み可能な嵌合孔17の上面17aと、その上面17aの先端から車両前方に延設される壁部18によって構成されている。グリル本体8の第2係止部13を、第2被係止部16の上面及び壁部18の両方に当接するまで挿入することによって、第2係止部13が第2被係止部16内に嵌め込まれる。
【0019】
グリル本体8は、その第1係止部12及び第2係止部13のそれぞれを、第1被係止部15及び第2被係止部16に嵌め込むことによって、グリル本体8の筒体9の軸心がインストルメントパネル2の上面に対して斜め後方上方に傾斜する姿勢でインストルメントパネル2に取付けられる。これにより、図1に示すように、アッパー吹出口1から吹き出される空調風は、その向きが斜め後方上方に傾斜して、車室内の後席4(車両後部)に向かうようになる。
【0020】
グリル本体8におけるアッパー吹出口1の後端部には、アッパー吹出口1の後端部からインストルメントパネル2の内側に向かう縦壁部19と、その縦壁部19の下端から車両後方に向かう底部20とによって段部21が一体形成されている。尚、前述の第2係止部13は底部20に一体に連設している。
【0021】
さらに、段部21の底部20には、インストルメントパネル2の内部に通じる導入口22が横方向に沿って複数形成されている(図4参照)。導入口22からは、アッパー吹出口1から吹き出す空調風W1とは別の風W2が吹き出すように構成されており、その風W2は、アッパー吹出口1から吹き出す風W1の向きと交差する向き(好ましくは、直交する向き)で段部21に供給される。
【0022】
本実施形態においては、壁部18の前端側が導入口22の後部上方箇所を上方から覆うように延出されているので、導入口22が壁部18の影に隠れて乗員からは見えず、インストルメントパネル2の見栄えが良い。尚、導入口22は、アッパー吹出口1から吹き出す風W1の向きと交差する向きの風W2を供給するために段部21の底部20に形成されている。これにより導入口22は、もともと乗員からは見え難く構成されており、たとえ壁部18を設けなくともインストルメントパネル2の見栄えが損なわれることはない。そのため、本実施形態に限らず、壁部18を設けない構成としたり、あるいは壁部18が導入口22付近まで延設されていない構成としても差し支えない。また本実施形態では、図4に示すように、導入口22の間に物落ち防止用の仕切り部24を設けているが、導入口22と同様に仕切り部24も乗員からは見え難く構成されているため、仕切り部24によってインストルメントパネル2の見栄えが損なわれることはない。
【0023】
〔その他の実施形態〕
図5に示すように、前述の実施形態におけるグリル本体8の第1係止部12を、インストルメントパネル2の第1被係止部15に嵌め込むことによって、グリル本体8をインストルメントパネル2に対して取付けることができるように構成し、アッパー吹出口1の後端部から斜め後方下方に向かう縦壁部19と、縦壁部19の下端から後方に向かう底部20とを備えて、段部21の底部20とインストルメントパネル2の壁部18との間に隙間を設けることによって導入口22を形成するように構成しても良い。
この構成によれば、導入口22が壁部18の影に完全に隠れるようになるため、インストルメントパネル2の見栄えがさらに良くなる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、アッパー吹出口だけでなく、空調風を設計どおりの向きで供給する必要のある様々な吹出口に適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 アッパー吹出口(吹出口)
2 インストルメントパネル
3 車室内の前席
4 車室内の後席
5 フロント吹出口
7 フロントガラス
8 グリル本体
9 筒体
10 整流板
11 ハニカム状の桟部
12 第1係止部
13 第2係止部
14 ダクト
14a フランジ部
15 第1被係止部
16 第2被係止部
17 嵌合孔
17a 上面
18 壁部
19 縦壁部
20 底部
21 段部
22 導入口
23 グリル体
24 仕切り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インストルメントパネルの上面に設けてある吹出口を、その吹出口から吹き出す風の向きが斜め後方上方に傾斜するように構成して、前記吹出口から吹き出す風が車両後部に向かうようにしてある車両用空気調和装置の吹出口構造であって、
前記吹出口の後端部に、その吹出口の後端部から前記インストルメントパネルの内側に向かう縦壁部と、その縦壁部の下端から車両後方に向かう底部とによって段部が形成されており、前記吹出口から吹き出す風の向きと交差する向きで前記段部に前記吹出口から吹き出す風とは別の風を供給する導入口を備える車両用空気調和装置の吹出口構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−91732(P2012−91732A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242314(P2010−242314)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】