説明

車両用空調システムに用いられる凝縮器および車両用空調システム

【課題】車両用空調システムに用いられる凝縮器により、冷凍サイクルの性能を最適に向上させる。
【解決手段】コンデンサ20(凝縮器)は、気相冷媒を外気との熱交換により凝縮させる凝縮部21と、凝縮部21により凝縮して得られた液相冷媒Lの一部を一時的に貯留するリザーバタンク23(貯液部)と、リザーバタンク23から供給された液相冷媒Lを過冷却する過冷却部とを備え、凝縮部21と過冷却部22とは一体的に形成され、過冷却部22は、その過冷却度が6〜15[度]の範囲となるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調システムに用いられる凝縮器および車両用空調システム車両用空調装置に関し、詳細には、凝縮器における過冷却部の性能の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の空調システムに用いられる凝縮器は、気体圧縮機で高圧とされた気相冷媒を外気との熱交換により凝縮させて液相冷媒を得るものであるが、空調システムの性能を向上させる目的で、凝縮部により凝縮して得られた液相冷媒をさらに冷却する過冷却が行われている。
【0003】
この技術は、凝縮器が凝縮部の他に、凝縮部により凝縮して得られた、気相冷媒(気体状の冷媒)および液相冷媒(液体状の冷媒)が混合された気液二相の冷媒を一時的に貯留し、この気液二相冷媒から気相冷媒を分離する貯液部と、貯液部から分離供給された液相冷媒を過冷却する過冷却部とを備えた構成により実現されており、過冷却部が液相冷媒を過冷却することで凝縮器におけるエンタルピ差を増大させ、これにより冷凍サイクルの性能を向上させている(特許文献1)。
【0004】
また、この技術は、冷凍サイクルの性能を従来と同程度に維持した場合には、冷凍サイクルに供給すべき動力を低減させることもできる。
【0005】
したがって、車両の燃料消費率の面で性能を向上させたり、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2 )を低減させることで、対環境負荷を低減することができる。
【0006】
なお、凝縮部と過冷却部とは一体的な熱交換器を形成している。
【特許文献1】特許第3561957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、車両においては搭載できる熱交換器の大きさが制限されるため、凝縮器の、走行風が当たる面積のうち、過冷却部が占める面積割合を単に増加しただけでは、相対的に凝縮部が占める面積割合が低下するため、凝縮部での放熱量が低下し、負荷変動の状況次第では、凝縮部で十分な凝縮を行うことができなかったり、蒸発器で十分な蒸発を行うことができなくなり、その結果、冷凍サイクルとして所望とする性能を得ることができない虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、冷凍サイクルの性能を適切に向上させることができる、車両用空調システムに用いられる凝縮器および車両用空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両用空調システムに用いられる凝縮器は、その過冷却部による過冷却度が6〜15[度]の範囲となるように設定されていることにより、車両用空調システムの冷凍サイクルの性能を最適化するものである。
【0010】
すなわち、本発明に係る車両用空調システムに用いられる凝縮器は、気相冷媒を外気との熱交換により凝縮させる凝縮部、前記凝縮部により凝縮して得られた気液二相の冷媒を一時的に貯留し、気相冷媒を分離する貯液部、および前記貯液部から供給された液相冷媒を過冷却する過冷却部を備え、前記凝縮部と前記過冷却部とが一体的な熱交換器を形成し、前記過冷却部は、その過冷却度が6〜15[度]の範囲となるように設定されていることを特徴とする。
【0011】
このように構成された本発明に係る車両用空調システムに用いられる凝縮器によれば、車両用空調システムを、高熱負荷条件(例えば、外気温30度以上の環境)の下で稼働させたときであっても、車両の各速度域(高速走行状態、中速走行状態、停車(IDL;アイドリング)状態)において、冷凍サイクルの成績係数COP(Coefficient of Performance)を最大化することができる。
【0012】
具体的には、過冷却度の変化に応じた成績係数COPの変化が最も大きいアイドリング状態においても、凝縮器の過冷却度を6〜15[度]の範囲に設定することによって、成績係数COPを、最大値から最大値の5[%]低下までの範囲に維持することができる。
【0013】
しかも、過冷却度の変化に応じた成績係数COPの変化が、アイドリング状態の場合よりも小さい他の速度域(高速走行状態、中速走行状態)においても、成績係数COPを最大値を含む範囲に維持することができる。
【0014】
したがって、本発明に係る車両用空調システムに用いられる凝縮器によれば、車両用空調システムの冷凍サイクルの性能を最適に向上させることができる。
【0015】
本発明に係る車両用空調システムに用いられる凝縮器においては、前記凝縮部に設けられた、前記気相冷媒が通過するチューブと、前記過冷却部に設けられた、気体圧縮機から吐出されて貯液部で分離された前記液相冷媒が通過するチューブとが、その本数比において9:1から7:3までの範囲で形成されていることが好ましい。
【0016】
凝縮器は、凝縮部に、気相冷媒が通過するチューブが設けられ、過冷却部に、液相冷媒が通過するチューブが設けられた構造を有している。
【0017】
ここで、凝縮器の過冷却度は、過冷却部に設けられたチューブの本数を増加させるにしたがって大きくなる。
【0018】
そして、凝縮部に設けられたチューブと過冷却部に設けられたチューブとの本数比が9:1のとき過冷却度が6[度]、本数比が7:3のとき過冷却度が15[度]となる凝縮器においては、このように好ましい構成の本発明に係る車両用空調システムに用いられる凝縮器によって、凝縮器の過冷却度を6〜15[度]の範囲に設定することができ、車両用空調システムの冷凍サイクルの性能を最適化することができる。
【0019】
本発明に係る車両用空調システムに用いられる凝縮器においては、過冷却部に設けられた、液相冷媒が通過するチューブの内部における、液相冷媒の流速が、6[m/s]以下に設定されていることが好ましい。
【0020】
凝縮器の凝縮部に設けられたチューブと過冷却部に設けられたチューブとは、そのチューブの、冷媒が通過する通路の断面積や形状は基本的に同一であるため、上述したように、チューブの本数比を規定することにより、凝縮器の過冷却度を6〜15[度]の範囲に設定することができるが、これら凝縮部に設けられたチューブと過冷却部に設けられたチューブとの、冷媒通過通路の断面積や形状が互いに異なるものにあっては、上述したチューブの本数比だけで、凝縮器の過冷却度を6〜15[度]の範囲に設定するのが適切でない場合もある。
【0021】
しかし、過冷却度を6〜15[度]の範囲で液相冷媒の流速が6[m/s]以下となるように設定された凝縮器においては、凝縮部に設けられたチューブと過冷却部に設けられたチューブとの、冷媒通過通路の断面積が互いに異なるものにあっても、上述した本発明の好ましい構成により、過冷却度を6〜15[度]の範囲に設定することができ、車両用空調システムの冷凍サイクルの性能を最適に向上させることができる。
【0022】
本発明に係る車両用空調システムに用いられる凝縮器においては、過冷却部に設けられた前記チューブの内部における前記液相冷媒の流速と、前記過冷却部から送出された液相冷媒の圧力との、予め求められた対応関係に基づいて、前記過冷却部の出口部における前記液相冷媒の圧力が調整されていることが好ましい。
【0023】
このように好ましい構成の本発明に係る車両用空調システムに用いられる凝縮器によれば、過冷却部の出口部における液相冷媒の圧力が所定値乃至所定範囲に調整されていることによって、過冷却部に設けられたチューブの内部における液相冷媒の流速を所定値乃至所定範囲に調整することができ、これによって、過冷却度を6〜15[度]の範囲に設定することができ、車両用空調システムの冷凍サイクルの性能を最適化することができる。
【0024】
なお、過冷却部のチューブ内における冷媒の管内流速が1[m/s]のとき、過冷却部の出口部における液相冷媒の圧力が26[kg/cm2 ]、管内流速が6[m/s]のとき液相冷媒の圧力が15[kg/cm2 ]となる特性を有する車両用空調システムにおいては、出口部における液相冷媒の圧力が、15[kg/cm2 ]以上、かつ26[kg/cm2 ]以下に調整されていることにより、過冷却度を6〜15[度]の範囲に設定することができる。
【0025】
本発明に係る車両用空調システムは、過冷却部を有する凝縮器から膨張弁への、過冷却された液相冷媒通路上に設けられた圧力センサによって、過冷却された液相冷媒の圧力を検出し、この圧力を所定値以上に制御することで、凝縮器における過冷却度を所定範囲に調整することができ、車両用空調システムの冷凍サイクルの性能を最適化するものである。
【0026】
すなわち、本発明に係る車両用空調システムは、気体圧縮機により高圧とされた気相冷媒を外気との熱交換により凝縮させる凝縮部、前記凝縮部により凝縮して得られた気液二相の冷媒を一時的に貯留し、気相冷媒を分離する貯液部、および前記貯液部から供給された液相冷媒を過冷却する過冷却部を有し、前記凝縮部と前記過冷却部とが一体的な熱交換器を形成してなる凝縮器と、前記過冷却部から送出された、過冷却された液相冷媒の圧力を低下させる膨張弁と、を備えた車両用空調システムにおいて、この車両用空調システムは、前記液相冷媒の、前記過冷却部における管内流速が早くなるにしたがって、前記過冷却部から前記膨張弁への前記液相冷媒の通路上における前記液相冷媒の圧力が低くなる特性を有するとともに、前記通路上における前記液相冷媒の圧力が、予め設定された所定の値以上となるように制御されていることを特徴とする。
【0027】
このように構成された本発明に係る車両用空調システムは、過冷却部における管内流速が早くなるにしたがって、過冷却部から膨張弁への液相冷媒の通路上での液相冷媒の圧力が低くなる特性を有しているため、過冷却部から膨張弁への液相冷媒の通路上における、過冷却部で過冷却された液相冷媒の圧力が、予め設定された所定の値以上となるように制御されていることで、過冷却部における管内流速を所定範囲に維持することができ、これによって、過冷却部での過冷却度を所定範囲に調整することができ、車両用空調システムの冷凍サイクルの性能を最適に向上させることができる。
【0028】
本発明に係る車両用空調システムにおいては、前記凝縮器に圧縮された気相の冷媒を送出する気体圧縮機と、前記凝縮器に空気を送るクーリングファンと、前記過冷却部から前記膨張弁への前記液相冷媒の通路上に設けられた、前記液相冷媒の圧力を検出する圧力センサと、前記気体圧縮機の駆動(吐出容量、回転数、運転・停止の切替え、斜板式の場合はピストンのストローク等)および前記クーリングファンの駆動(回転数、運転・停止の切替え等)のうち少なくとも一方を制御する制御装置とを備え、前記特性は、高熱負荷時において前記液相冷媒の、前記過冷却部における管内流速が1[m/s]のとき、前記過冷却部から前記膨張弁への前記液相冷媒の通路上における前記液相冷媒の圧力が26[kg/cm2 ]、前記管内流速が6[m/s]のとき、前記液相冷媒の圧力が15[kg/cm2 ]となる特性であり、前記制御装置が、前記圧力センサによって検出される前記液相冷媒の圧力を、15[kg/cm2]以上26[kg/cm2]以下の範囲とするように、前記気体圧縮機の駆動および前記クーリングファンの駆動のうち少なくとも一方を制御することが好ましい。
【0029】
このように好ましい構成の本発明に係る車両用空調システムによれば、過冷却部から膨張弁への液相冷媒の通路上に設けられた圧力センサが、この通路上における過冷却された液相冷媒の圧力を検出し、この検出された圧力が、15[kg/cm2 ]以上26[kg/cm2 ]以下の範囲となるように、制御装置が、気体圧縮機の駆動を制御し、またはクーリングファンの駆動を制御し、またはこれら気体圧縮機およびクーリングファンの両方の駆動を制御することができる。
【0030】
したがって、過冷却部から膨張弁への液相冷媒の通路上における、過冷却部で過冷却された液相冷媒の圧力が、15[kg/cm2 ]以上26[kg/cm2 ]以下の範囲で調整されて、過冷却部における管内流速を所定範囲に維持することができ、これによって、過冷却部での過冷却度が所定範囲(6〜15[度])に調整され、車両用空調システムの冷凍サイクルの性能を最適に向上させることができる。
【0031】
なお、上述した本発明に係る車両用空調システムに用いられる凝縮器、本発明に係る車両用空調システムにおいては、凝縮器の過冷却部における過冷却度が8〜13[度]の範囲となるように設定、調整されていることがより好ましい。
【0032】
このように設定、調整されている車両用空調システムに用いられる凝縮器、車両用空調システムによれば、過冷却度の変化に応じた成績係数COPの変化が最も大きいアイドリング状態においても、成績係数COPを、最大値から最大値の2[%]低下までの範囲に維持することができるとともに、過冷却度の変化に応じた成績係数COPの変化が、アイドリング状態の場合よりも小さい他の速度域(高速走行状態、中速走行状態)においても、成績係数COPを、最大値を含む範囲に維持することができ、成績係数COPを一層高い状態で維持することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る車両用空調システムに用いられる凝縮器、車両用空調システムによれば、冷凍サイクルの性能を適切に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明に係る車両用空調システムおよび車両用空調システムに用いられる凝縮器の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0035】
図1は、本発明に係る車両用空調システムの一実施形態(車両用空調システム100)を示すとともに、本発明に係る車両用空調システムに用いられる凝縮器の一実施形態(コンデンサ20)を示すブロック図である。
【0036】
図示の車両用空調システム(以下、単に空調システムという。)100は、車両に搭載される空調システムであり、冷媒ガスG(気相冷媒)を圧縮して高温・高圧の冷媒ガスGとして送出するコンプレッサ10(気体圧縮機)と、この送出された冷媒ガスGを外気との熱交換により液相冷媒Lに凝縮させるコンデンサ20(凝縮器)と、コンデンサ20から送出された液相冷媒Lを気化させやすくするために、その圧力を低下させる温度膨張弁30(TXV;膨張弁の一例)と、低圧化された液相冷媒Lを車室内の空気との熱交換により冷媒ガスGに気化させ、コンプレッサ10に送出するエバポレータ40(蒸発器)と、コンデンサ20から温度膨張弁30への液相冷媒Lの通路上に設けられた、液相冷媒Lの圧力を検出する圧力センサ50と、凝縮部21および過冷却部22のチューブ外表面を通過する外気の風量を調整するクーリングファン1と、圧力センサ50の検出した液相冷媒Lの圧力値に応じてコンプレッサ10の駆動(吐出容量、回転数、運転・停止の切替え、斜板式の場合はピストンのストローク等)およびクーリングファンの駆動(回転数、運転・停止の切替え等)のうち少なくとも一方を制御する制御装置60と、を備えた構成である。
【0037】
ここで、コンデンサ20は、車両前部に配置されたラジエータよりも前方の位置に配置されており、冷媒ガスGを外気との熱交換により液相冷媒Lに凝縮させる本質的部分としての凝縮部21と、凝縮部21により凝縮して得られた気液二相の冷媒G、Lを一時的に貯留し、気相冷媒である冷媒ガスGと液相冷媒Lとに分離するリキッドタンク23(貯液部)と、リキッドタンク23から供給された液相冷媒Lを過冷却する過冷却部22とを有し、コンデンサ20から温度膨張弁30に送出される液相冷媒Lは、過冷却部22で過冷却された液相冷媒Lとなる。
【0038】
したがって、圧力センサ50によって検出される圧力は、この過冷却された液相冷媒Lの圧力である。
【0039】
なお、凝縮部21とリキッドタンク23と過冷却部22とは、一体的な熱交換器を形成している。
【0040】
クーリングファン1は、ラジエータの後方に配置されており、ファンコントロールアンプ2によって駆動され、車両前方の空気を後方に流すことで、車両前方の空気をコンデンサ20およびラジエータに強制的に送るようにしている。
【0041】
制御装置60は、A/C(エアコン)コントローラ61とA/Cアンプ62とからなり、コンプレッサ10に対しては、その駆動(吐出容量、回転数、運転・停止の切替え等)をA/Cアンプ62によって直接制御し、一方、クーリングファン1に対しては、A/Cアンプ62からファンコントロールアンプ2を制御することで、その駆動(回転数、運転・停止の切替え等)を間接的に制御している。
【0042】
なお、ファンコントロールアンプ2は、エンジン冷却水の温度管理を行うECUによっても制御されている。
【0043】
また、この空調システム100は、図2に示すように、過冷却部22における液相冷媒Lの管(チューブ)内の流速が早くなるにしたがって、過冷却部22から温度膨張弁30への液相冷媒Lの通路上における液相冷媒Lの圧力が低くなる特性を有し、過冷却部22における液相冷媒Lの管内流速と、過冷却部22から送出された液相冷媒Lの圧力との、予め求められた対応関係は、制御装置60に記憶されている。
【0044】
そして、制御装置60が、これらコンプレッサ10の駆動およびクーリングファン1の駆動のうち少なくとも一方を制御することで、過冷却度を所定範囲(6〜15[度])に設定するのが有効である。
【0045】
制御装置60に記憶されている対応関係は、図2に示すように、走行状態が停止(アイドリング(IDL))状態において、過冷却部22における液相冷媒Lの管内流速が1[m/s]のとき過冷却部22から温度膨張弁30への液相冷媒Lの通路上における液相冷媒Lの圧力は26[kg/cm2 ]となり、管内流速が3[m/s]のとき圧力は23[kg/cm2]となっている。また、走行状態が中高速状態において、過冷却部22における液相冷媒Lの管内流速が2[m/s]のとき過冷却部22から温度膨張弁30への液相冷媒Lの通路上における液相冷媒Lの圧力は19[kg/cm2]となり、管内流速が6[m/s]のとき圧力は15[kg/cm2]となっている。
【0046】
そして、制御装置60は、圧力センサ50によって検出される液相冷媒Lの圧力を、15[kg/cm2 ]以上26[kg/cm2 ]以下の範囲とするように、コンプレッサ10の駆動およびクーリングファン1の駆動のうち少なくとも一方を制御している。
【0047】
具体的には、コンプレッサ10が電動モータ駆動のコンプレッサである場合は、モータの回転数を制御することで、コンプレッサ10の駆動(回転数)を制御することができ、また、車載空調装置として一般に用いられている例えば走行用エンジンにより駆動される斜板式のコンプレッサである場合は、制御装置60が、この斜板の傾斜角度を調整制御することで、ピストンのストロークを調整し、これによって吐出容量を制御することもできる。
【0048】
さらに、電磁クラッチ等の断接機構によって、走行用エンジンから伝達される駆動力の断接を制御することで、コンプレッサ10の運転・停止の切替えを制御し、圧力センサ50が検出する液相冷媒Lの圧力を制御してもよい。
【0049】
同様に、制御装置60が、ファンコントロールアンプ2を制御して、クーリングファン1の運転・停止の切替えを制御したり、クーリングファン1の回転数を制御することで、液相冷媒Lの圧力を制御してもよい。
【0050】
次に本実施形態に係る空調システム100の作用について説明する。
【0051】
まず、制御装置60の制御に応じてコンプレッサ10が駆動され、これによりコンプレッサ10に供給された冷媒ガスGは高温・高圧化されてコンプレッサ10から吐出され、この吐出された高温・高圧の冷媒ガスGは、コンデンサ20の凝縮部21に供給される。
【0052】
コンデンサ20の凝縮部21に供給された冷媒ガスGは、凝縮部21を形成する複数のチューブ内を通過する間に、このチューブの外表面に接する外気との間で熱交換が行われることで液相冷媒Lとなるが、冷媒ガスGの一部は気相冷媒のまま残ることもある。
【0053】
そして、得られた液相冷媒Lと残った冷媒ガスGとからなる気液二相の冷媒L,Gがリキッドタンク23に流入し、液相化していない冷媒ガスGはリキッドタンク23において分離され、液相冷媒Lの一部は負荷に応じて一時的に貯留され、残りの液相冷媒Lは過冷却部22に送出される。
【0054】
過冷却部22は供給された液相冷媒Lをさらに冷却することで過冷却状態にする。この過冷却された液相冷媒Lは温度膨張弁30により低圧化され、エバポレータ40を通過する間に、エバポレータ40の外表面に接する、車室内外からこの空調システム100に導入された空気との間で熱交換が行われることで気化し、低圧の冷媒ガスGとなって再びコンプレッサ10に供給される。
【0055】
そして、この液相冷媒Lが冷媒ガスGに気化する間に、エバポレータ40を通過する空気から熱を奪うことで空気を冷却し、この空調システム100が冷凍サイクルとして機能するとともに、空気調和された空気を車室内に供給することで、空調装置として機能する。
【0056】
制御装置60は、コンデンサ20の過冷却部22から温度膨張弁30への、過冷却された液相冷媒Lの通路上に設けられている圧力センサ50により検出された液相冷媒Lの圧力が15[kg/cm2 ]以上26[kg/cm2 ]以下の範囲となるように、コンプレッサ10の駆動(吐出容量、回転数、ストローク、運転・停止の切替え等)およびクーリングファン1の駆動(回転数、運転・停止の切替え等)のうち少なくとも一方を制御する。
【0057】
ここで、本実施形態の空調システム100は、図2のグラフに示した特性を有しているため、液相冷媒Lの圧力が15[kg/cm2 ]以上26[kg/cm2 ]以下の範囲に調整されているとき、過冷却部22の管内における液相冷媒Lの流速は、1[m/s]以上6[m/s]以下の範囲に調整されていることになる。
【0058】
さらに、本実施形態の空調システム100におけるコンデンサ20は、図3のグラフに示すように、過冷却部22における過冷却度が6〜15[度]の範囲で、過冷却部22の管内における液相冷媒Lの流速が6[m/s]以下となる。
【0059】
したがって、液相冷媒Lの圧力が15[kg/cm2 ]以上26[kg/cm2 ]以下の範囲に制御されて、過冷却部22の管内における液相冷媒Lの流速が1[m/s]以上6[m/s]以下の範囲に調整されているとき、コンデンサ20の過冷却度は、6〜15[度]の範囲に設定されていることとなる。
【0060】
ここで、この空調システム100を高熱負荷条件(例えば、外気温30[度]以上の環境)の下で稼働させた場合に、空調システム100が搭載されている車両の各速度域(高速走行状態(100[km/h])、中速走行状態(40[km/h])、停車(アイドリング(IDL)状態)における、空調システム100による冷凍サイクルの成績係数COP(Coefficient of Performance)は、図4の各グラフに示すような特性を示す。
【0061】
そして、コンデンサ20の過冷却度が6〜15[度]の範囲に設定されているとき、アイドリング状態も含めて各速度域における冷凍サイクルの成績係数COPは、いずれも最大値を含む範囲に維持される。
【0062】
しかも、過冷却度の変化に応じた成績係数COPの変化が最も大きいアイドリング状態において、コンデンサ20の過冷却度を6〜15[度]の範囲に設定することにより、成績係数COPを、最大値から最大値の5[%]低下までの範囲に維持することができる。
【0063】
他の速度域においては、アイドリング状態よりも、過冷却度の変化に応じた成績係数COPの変化が小さいため、この過冷却度の範囲では、成績係数COPを、最大値から最大値の5[%]未満低下までの範囲に維持することができる。
【0064】
したがって、本実施形態に係る空調システム100およびこの空調システムに用いられるコンデンサ20によれば、全速度域において、空調システム100の冷凍サイクルの性能を最適化することができる。
【0065】
ここで、成績係数COPは、冷凍サイクルによる冷凍能力[W]と所要動力[W]とにより、下記式で表される。
成績係数COP=冷凍能力/所要動力
したがって、成績係数COPの値は、冷凍能力が大きい場合であっても所要動力が小さい場合であっても、大きい値を示すことになる。
【0066】
そこで、図4に示した過冷却度と成績係数COPとの対応関係に関して、過冷却度6〜15[度]の範囲で成績係数COPが大きな値を示す要因が、冷凍能力の向上によるものであるのか、または所要動力の低下によるものであるのか、を検証した結果が図5である。
【0067】
すなわち、図5は、上述した高熱負荷条件における、コンデンサ20の過冷却部22の過冷却度[度]とエバポレータ40の効率η[%]との対応関係を示すグラフであり、過冷却度6〜15[度]の範囲において、エバポレータ40の効率η[%]は極大値を示している。
【0068】
そして、エバポレータ40の効率ηが極大値を示していることにより、冷凍能力の向上が認められ、この結果、過冷却度6〜15[度]の範囲において成績係数COPが大きな値を示す要因が、冷凍能力の向上によるものであることが明らかであり、冷凍サイクルの性能の向上を実現することができる。
【0069】
上述した実施形態の空調システム100においては、コンデンサ20の過冷却部22から送出された液状冷媒Lの圧力、すなわち実質的に過冷却部22の出口部における液状冷媒Lの圧力を所定範囲に調整することにより、過冷却度を所定範囲に維持させ、その結果、冷凍サイクルの効率を向上させるものであるが、コンデンサ20単体において、その過冷却部22の出口部における液状冷媒Lの圧力が予め所定範囲(過冷却度6〜15[度]に対応)に調整されているものであれば、圧力センサ50や制御装置60を備えない空調システムに用いても、過冷却度を6〜15[度]の範囲とすることができる。
【0070】
そして、そのように予め調整されたコンデンサ20単体は本発明に係る凝縮器の一実施形態であり、このコンデンサ20を用いた空調システム100における冷凍サイクルの性能を最適に向上させることができる。
【0071】
また、コンデンサ20単体として、その過冷却部22の出口部における液状冷媒Lの圧力が予め所定範囲に調整されているものに代えて、過冷却部22に設けられた、液相冷媒Lが通過するチューブ、の内部における液相冷媒Lの流速が、1[m/s]以上6[m/s]以下に予め設定、調整されているコンデンサを適用することもできる。
【0072】
すなわち、上述した実施形態の空調システム100は、過冷却部22に設けられたチューブの内部における液相冷媒Lの流速と、過冷却部22から送出された液相冷媒Lの圧力とが、図3のグラフに示すような対応関係を有しているため、コンデンサ20単体として、その過冷却部22に設けられたチューブの内部における液相冷媒Lの流速が1[m/s]以上6[m/s]以下に予め設定されていることにより、過冷却部22の出口部における液状冷媒Lの圧力が予め所定範囲(15〜26[kg/cm2 ])に調整されたものとなり、このようなコンデンサ20を、圧力センサ50や制御装置60を備えない空調システムに用いても、過冷却度を6〜15[度]の範囲とすることができる。
【0073】
そして、そのように予め調整されたコンデンサ20単体は本発明に係る凝縮器の一実施形態であり、このコンデンサ20を用いた空調システム100における冷凍サイクルの性能を向上させることができる。
【0074】
また、本実施形態の空調システム100は、例えば、高熱負荷条件(例えば外気温30度以上の環境)の下で稼働させた場合に、結果的にコンデンサ20の過冷却部22における過冷却度が6〜15[度]の範囲に設定、調整されたものであればよいため、過冷却部22に設けられたチューブの内部における液相冷媒Lの流速が1[m/s]以上6[m/s]以下に設定・調整されたものに限定されるものではない。
【0075】
すなわち、例えば、コンデンサ20の凝縮部21に設けられた、気相冷媒Gが通過するチューブと、過冷却部22に設けられた、液相冷媒Lが通過するチューブとが、その本数比において9:1から7:3までの範囲(コンデンサ20の全体のチューブの本数に対する過冷却部22のチューブの本数の百分率が10〜30[%]の範囲)で形成されているコンデンサ20を用いた空調システム100も、本発明に係る車両用空調システムの一実施形態とすることができる。
【0076】
つまり、本実施形態の空調システム100におけるコンデンサ20の過冷却度は、過冷却部22に設けられたチューブの本数を増加させるにしたがって大きくなる特性を有している。
【0077】
そして、図6のグラフに示すように、凝縮部21に設けられたチューブと過冷却部22に設けられたチューブとの本数比が9:1のとき過冷却度が6[度]、本数比が7:3のとき過冷却度が15[度]となるコンデンサ20において、凝縮部21のチューブ本数と過冷却部22のチューブ本数との比が9:1から7:3までの範囲で設定・調整されていることにより、過冷却度が6〜15[度]の範囲に設定・調整されたコンデンサ20を得ることができる。
【0078】
このようにして得られたコンデンサ20を用いた空調システム100は、過冷却度が6〜15[度]の範囲に設定・調整されたものとなり、冷凍サイクルの性能を最適に向上させることができる。
【0079】
なお、凝縮部21に設けられたチューブと過冷却部22に設けられたチューブとは、そのチューブの、冷媒が通過する通路の断面積や形状は基本的に同一であるため、上述したように、チューブの本数比を規定することにより、凝縮器の過冷却度を6〜15[度]の範囲に設定することができるが、これら凝縮部に設けられたチューブと過冷却部に設けられたチューブとの、冷媒通過通路の断面積や形状が互いに異なるものにあっては、上述したチューブの本数比だけで、凝縮器の過冷却度を6〜15[度]の範囲に設定するのが不十分となる場合も起こり得る。
【0080】
この場合は、前述したように、過冷却度を6〜15[度]の範囲で液相冷媒Lの流速が6[m/s]以下となるように設定されたコンデンサ20においては、凝縮部21に設けられたチューブと過冷却部22に設けられたチューブとの、冷媒通過通路の断面積や形状が互いに異なるものにあっても、過冷却度を6〜15[度]の範囲に設定することができ、空調システム100の冷凍サイクルの性能を最適に向上させることができる。
【0081】
なお、このように凝縮部21と過冷却部22とにおけるチューブの本数比が予め調整されたコンデンサ20単体は本発明に係る凝縮器の一実施形態であり、このコンデンサ20を用いた空調システム100における冷凍サイクルの性能を向上させることができる。
【0082】
上述した実施形態の空調システム乃至コンデンサ20は、その過冷却度が6〜15[度]の範囲に設定、調整されたものであるが、本発明に係る空調システム乃至コンデンサ(凝縮器)においては、過冷却度が8〜13[度]の範囲に設定、調整されたものであることが、より好ましい。
【0083】
このように過冷却度が8〜13[度]の範囲に設定、調整されている空調システム乃至コンデンサによれば、過冷却度の変化に応じた成績係数COPの変化が最も大きいIDL状態においても、成績係数COPを、最大値から最大値の略2[%]低下までの範囲に維持することができるとともに、過冷却度の変化に応じた成績係数COPの変化が、アイドリング状態の場合よりも小さい他の速度域(高速走行状態、中速走行状態)においても、成績係数COPを、最大値を含む範囲に維持することができ、成績係数COPを、一層高い状態で維持することができるからである。
【0084】
また、制御装置60においてコンプレッサ10の駆動を制御するとともに、クーリングファン1の駆動を制御して、凝縮部21および過冷却部22のチューブ外表面を通過する外気の風量を調整することにより、過冷却度を所定範囲(6〜15[度])に調整するのが好ましい。
【0085】
一般に、コンデンサ20には、モータ等により駆動されるクーリングファン1が設けられており、このクーリングファン1の駆動により、コンデンサ20のチューブ外表面を通過する風量を増減調整することで、冷媒G,Lによる冷却能力を制御しているが、制御装置60が、コンプレッサ10の駆動とクーリングファン1の駆動とを同時並行して制御することで、過冷却度を所定範囲に調整する精度を高めることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用空調システムを示すブロック図である。
【図2】図1に示した空調システムに用いられるコンデンサの、過冷却部における液相冷媒の管内流速と、過冷却部から温度膨張弁への液相冷媒の通路上における液相冷媒の圧力との対応関係(特性)を示すグラフである。
【図3】過冷却部における過冷却度と、過冷却部の管内における液相冷媒の流速との対応関係(特性)を示すグラフである。
【図4】高負荷条件下での、空調システムが搭載されている車両の各速度域(高速走行状態、中速走行状態、停車(アイドリング)状態)における、空調システムによる冷凍サイクルの成績係数COPを示すグラフである。
【図5】高負荷条件下での、コンデンサの過冷却部の過冷却度とエバポレータの効率ηとの対応関係を示すグラフである。
【図6】コンデンサの過冷却度と、過冷却部に設けられたチューブの本数との対応関係(特性)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0087】
1 クーリングファン
10 コンプレッサ(気体圧縮機)
20 コンデンサ(凝縮器)
21 凝縮部
22 過冷却部
23 リザーバタンク(貯液部)
30 TXV(膨張弁)
40 エバポレータ(蒸発器)
50 圧力センサ
60 制御装置
100 車両用空調システム
G 冷媒ガス(気相冷媒)
L 液相冷媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用空調システムに用いられる凝縮器であって、
気相冷媒を外気との熱交換により凝縮させる凝縮部、前記凝縮部により凝縮して得られた気液二相の冷媒を一時的に貯留し、気相冷媒を分離する貯液部、および前記貯液部から供給された液相冷媒を過冷却する過冷却部を備え、前記凝縮部と前記過冷却部とが一体的な熱交換器を形成し、
前記過冷却部は、その過冷却度が6〜15[度]の範囲となるように設定されていることを特徴とする凝縮器。
【請求項2】
前記凝縮部に設けられた、前記気相冷媒が通過するチューブと、前記過冷却部に設けられた、前記液相冷媒が通過するチューブとが、その本数比において9:1から7:3までの範囲で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の凝縮器。
【請求項3】
前記過冷却部に設けられた、前記液相冷媒が通過するチューブの内部における、前記液相冷媒の流速が、6[m/s]以下に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の凝縮器。
【請求項4】
前記過冷却部に設けられた前記チューブの内部における前記液相冷媒の流速と、前記過冷却部から送出された液相冷媒の圧力との、予め求められた対応関係に基づいて、前記過冷却部の出口部における前記液相冷媒の圧力が調整されていることを特徴とする請求項3に記載の凝縮器。
【請求項5】
気体圧縮機により高圧とされた気相冷媒を外気との熱交換により凝縮させる凝縮部、前記凝縮部により凝縮して得られた気液二相の冷媒を一時的に貯留し、気相冷媒を分離する貯液部、および前記貯液部から供給された液相冷媒を過冷却する過冷却部を有し、前記凝縮部と前記過冷却部とが一体的な熱交換器を形成してなる凝縮器と、
前記過冷却部から送出された、過冷却された液相冷媒の圧力を低下させる膨張弁と、を備えた車両用空調システムにおいて、
前記液相冷媒の、前記過冷却部における管内流速が早くなるにしたがって、前記過冷却部から前記膨張弁への前記液相冷媒の通路上における前記液相冷媒の圧力が低くなる特性を有するとともに、前記通路上における前記液相冷媒の圧力が、予め設定された所定の値以上となるように制御されていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項6】
前記凝縮器に圧縮された気相の冷媒を送出する気体圧縮機と、前記凝縮器に空気を送るクーリングファンと、前記過冷却部から前記膨張弁への前記液相冷媒の通路上に設けられた、前記液相冷媒の圧力を検出する圧力センサと、前記気体圧縮機の駆動および前記クーリングファンの駆動のうち少なくとも一方を制御する制御装置と、を備え、
前記特性は、高熱負荷時において前記液相冷媒の、前記過冷却部における管内流速が1[m/s]のとき、前記過冷却部から前記膨張弁への前記液相冷媒の通路上における前記液相冷媒の圧力が26[kg/cm2 ]、前記管内流速が6[m/s]のとき、前記液相冷媒の圧力が15[kg/cm2 ]となる特性であり、
前記制御装置が、前記圧力センサによって検出される前記液相冷媒の圧力を、15[kg/cm2 ]以上26[kg/cm2 ]以下の範囲とするように、前記気体圧縮機の駆動および前記クーリングファンの駆動のうち少なくとも一方を制御することを特徴とする請求項5に記載の車両用空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−65914(P2010−65914A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232101(P2008−232101)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】