説明

車両用空調システム

【課題】車室の空気を吸引するブロワの作動音が車室に漏れにくい車両用空調システムを提供する。
【解決手段】車室の空気を吸引するブロワ50と、リアトレイ10に設けられた吸気口11からの空気をブロワ50に導くダクト20Aと、を備える車両用空調システム1であって、ダクト20Aは、内部を流れる空気の流路断面積を、複数回にて増大又は減少させ、ブロワ50から吸気口11に向かうブロワ50の作動音を消音する消音部30Aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の熱源を搭載しない燃料電池自動車や電気自動車は、暖房時において、車室(キャビン)の暖かい空気をそのまま車外に排出するのではなく、車室の空気を、リアトレイの吸引口からブロワで吸引し、熱交換器により、ブロワから吐出される暖かい空気と、冷媒(熱輸送流体)との間で熱交換させ、熱を回収している。そして、暖められた冷媒により、車外から車室に向かう空気を暖め、暖房性能を向上させている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−294135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、ブロワの作動音が、リアトレイの吸引口を介して、車室に漏れてしまっていた。
そこで、本発明は、車室の空気を吸引するブロワの作動音が車室に漏れにくい車両用空調システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、車室の空気を吸引するブロワと、リアトレイに設けられた吸気口からの空気を前記ブロワに導くダクトと、を備える車両用空調システムであって、前記ダクトは、内部を流れる空気の流路断面積を、複数回にて増大及び減少させ、前記ブロワから前記吸気口に向かう前記ブロワの作動音を消音する消音部を備えることを特徴とする車両用空調システムである。
【0006】
このような車両用空調システムによれば、ブロワの作動音は、ダクトの消音部内、つまり、消音部内の空気の流路を通って、リアトレイの吸気口に向かう。
ここで、消音部内の空気の流路断面積は、空気の流れ方向、つまり、ブロワの作動音の伝播方向において、複数回にて、増大及び減少しているので、ブロワからリアトレイの吸気口に向かうブロワの作動音は、小さくなり、消音される。これにより、ブロワの作動音が、車室に漏れることを防止できる。
【0007】
また、前記消音部は、その内面から突出することで流路断面積を減少させると共に、空気の流れ方向において千鳥状に配置された複数の流路断面積減少板部を備え、前記消音部の最下部には、内部の水分を排出するドレン口が形成されていることを特徴とする車両用空調システムである。
【0008】
このような車両用空調システムによれば、千鳥状に配置された複数の流路断面積減少板部が補強部(リブ)としての機能を発揮し、消音部の機械的強度は高くなる。これにより、消音部の上にリアトレイが取り付けられる構成である場合、リアトレイを薄板化できる。
【0009】
また、飲み物、雨水等の液体が、リアトレイの吸気口から消音部内に浸入したとしても、複数の流路断面積減少板部がトラップとして機能し、液体の流れが妨げられる。これにより、浸入した液体が、ブロワに流れ込みにくくなり、ブロワが浸水しにくくなる。そのため、ブロワを防水仕様とせずに、簡易にシステムを構成できる。
したがって、複数の流路断面積減少板部は、液体の流れを容易に堰き止めるように、鉛直上向きで配置されていることが好ましい。
【0010】
さらに、鉛直方向における消音部の最下部、つまり、高さ方向において最も低い位置に形成されたドレン口から、内部の液体を外部に排出することができる。よって、ドレン口の周縁部分は、ドレン口に液体が集まりやすいように、傾斜していることが好ましい。
【0011】
また、前記ブロワから供給される空気と冷媒とを熱交換する熱交換部と、前記熱交換部で発生する凝縮水を回収する凝縮水回収部と、を備え、前記ドレン口の下流は前記凝縮水回収部に接続されていることを特徴とする車両用空調システムである。
【0012】
このような車両用空調システムによれば、熱交換器が低温となることで発生した凝縮水は、凝縮水回収部に回収された後、外部に排出される。
また、ドレン口から排出される消音部内の液体は、凝縮水回収部に導入された後、外部に排出される。すなわち、ドレン口からの液体を排出するための専用装置を備えずに、システムを構成できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車室の空気を吸引するブロワの作動音が車室に漏れにくい車両用空調システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
【0015】
≪車両用空調システムの構成≫
図1に示す車両100は、燃料電池自動車や、電気自動車等であり、エンジン(内燃機関)等の熱源を搭載していない。そして、暖房時において、車外から車室101(キャビン)に向かう空気を(矢印A1参照)、熱交換器102や、ヒートポンプ(図示しない)を構成する熱交換器(コンデンサ、図示しない)で加熱する構成となっている。
【0016】
車両100は、車両用空調システム1を搭載している。車両用空調システム1は、リアトレイ10と、ダクト20Aと、ブロワ50と、熱交換部60と、凝縮水回収部70と、を備えている。
【0017】
<リアトレイ>
リアトレイ10は、後部座席の後方に配置されており、図2に示すように、その右側には、車室101の空気を吸い込むための吸気口11が設けられている(矢印A2参照)。
【0018】
<ダクト>
ダクト20Aは、吸気口11から吸気される車室101の空気を、ブロワ50に導くものであって、ブロワ50の作動音を消音する消音部30Aと、配管部21と、を備えている。
消音部30Aは、車幅方向に細長の箱体であって、その内部を車室101から空気が流通するようになっている。消音部30Aの両端は、車両100のリアインナパネル等のボディに取り付けられており、消音部30Aの上面には、リアトレイ10が取り付けている。消音部30Aを構成する上壁部31の右側には、リアトレイ10の吸気口11に対応して、吸気口32が形成されている。
【0019】
そして、ブロワ50が作動すると車室101の空気が、吸気口11、吸気口32を通って、消音部30A内に吸気され、消音部30A内を、車幅方向の左向きに流れ、配管部21を通って、ブロワ50に導入されるようになっている。
【0020】
<ダクト−消音部>
消音部30A(ダクト)内には、複数(図2では3枚)の上仕切板33(流路断面積減少板部)が、消音部30Aの上壁部31の下面(内面)から、鉛直下向きで突出するように設けられている。なお、上仕切板33の下端は、消音部30Aの下壁部34から離間している(図3(c)参照)。
【0021】
また、複数(図2では2枚)の下仕切板35(流路断面積減少板部)が、消音部30Aの下壁部34の上面から、鉛直上向きで突出するように設けられている。なお、下仕切板35の上端は、消音部30Aの上壁部31から離間している(図3(a)参照)。
【0022】
さらに説明すると、複数の上仕切板33と、複数の下仕切板35とは、消音部30Aの内面からその内側に向かって突出すると共に、消音部30A内を、吸気口32からブロワ50に向かう空気の流れ方向において、千鳥状に配置、つまり、上仕切板33と下仕切板35とが交互に配置されており、空気が鉛直平面において、蛇行するようになっている。そして、上仕切板33及び下仕切板35は、空気の流路断面積を減少させる流路断面積減少板部として機能している。なお、上仕切板33と下仕切板35とは、車幅方向において、等間隔で配置されている(図2、図4参照)。ただし、等間隔に限定されず、ブロワ50の作動音の周波数等に基づいて、適宜に変更してよい。
【0023】
すなわち、消音部30Aは、吸気口32からブロワ50に向かう空気の流路断面積を、流路断面積複数の上仕切板33及び下仕切板35が設けられた部分によって、減少させる機能と(図3(a)、(c)参照)、上仕切板33及び下仕切板35が設けられていない部分によって、増大させる機能と(図3(b)参照)、を備えている。つまり、消音部30Aは、流路断面積の増大及び減少を、複数回にて交互に繰り返させる機能を備えている。因みに、このような消音部30Aは、多段膨張方式と称されることもある。
【0024】
これにより、ブロワ50の作動時において、ブロワ50から、ダクト20Aを構成する配管部21、消音部30Aを順に通り、吸気口32、吸気口11を介して、車室101に向かうブロワ50の作動音は、流路断面積の増大/減少を繰り返す消音部30Aで消音されるようになっている。
【0025】
なお、本実施形態では、上仕切板33又は下仕切板35により減少した流路断面積(リブとして機能する上仕切板33又は下仕切板35部分における開口面積)が、空気の流れ方向(ブロワ50の作動音の伝播方向)において、同一である構成を例示しているが、異なる構成でもよい。
また、上仕切板33又は下仕切板35の厚さ(リブ幅)、つまり、流路断面積が小さい部分における流路長も、同一である構成を例示しているが、異なる構成でもよい。
このような流量断面積や、仕切板33又は下仕切板35の厚さは、例えば、ブロワ50の作動音の周波数や、作動音を減衰させるべき量に基づいて、適宜に設計することが好ましい。
【0026】
また、複数の上仕切板33及び下仕切板35が、リブとして機能し、消音部30Aの剛性(強度)は高められている。これにより、消音部30Aの上面に取り付けられるリアトレイ10を、薄肉とすることもできる。
【0027】
さらに、雨水等の水分(液体)が、リアトレイ10の吸気口11から消音部30A内に侵入したとしても、鉛直上向きに突設された複数の下仕切板35が水分のトラップとして機能し、水分が、そのまま、ブロワ50に流れ込まないようになっている。これにより、ブロワ50(特にブロワ50動力源となる図示しないモータ)を防水仕様にする必要はない。したがって、車両用空調システム1を低コストで構成できる。
【0028】
これに加えて、消音部30Aの下壁部34は、車両100の前後方向において、中央が低くなるように傾斜している(図3参照)。さらに、下壁部34は、車幅方向において、左側が低くなるように傾斜している(図2参照)。すなわち、下壁部34の中央左側の部分が、鉛直方向における消音部30Aの最下部36となっている。これにより、水分が消音部30A内に浸入したとしても、この水分が、最下部36に集まるようになっている。また、各下仕切板35の下部には、トラップされた水分が、後記するドレン口37に向かうように、車幅方向において、連通孔35aが形成されている。
【0029】
そして、最下部36には、消音部30A内の水分を排出するドレン口37が形成されており、ドレン口37の下流は、ドレン配管38を介して、凝縮水回収部70に接続されている。これにより、最下部36に集まった水分は、ブロワ50をバイパスして、凝縮水回収部70に流れ込み、そして、後記する配管71を介して、車外に排出されるようになっている。したがって、ブロワ50を防水仕様にする必要はなく、低コストでシステム構成可能となっている。
【0030】
<ブロワ>
ブロワ50は、車室101の空気を吸引するための装置である。そして、ブロワ50の羽根車51は、ECU(図示しない)の指令に従って、燃料電池自動車に搭載されている高圧バッテリ等(図示しない)を電源とし、適宜作動するようになっている。また、ブロワ50から吐出される空気は、配管52を介して、熱交換部60に送られるようになっている。
【0031】
<熱交換部>
熱交換部60は、ブロワ50から圧送され、車外に排出される空気から、熱を回収する部分であり、熱交換部60と、車室101に向かう空気を加熱する熱交換器102とを経由して、冷媒が循環するように構成されている(図1参照)。そして、熱交換部60において、ブロワ50から圧送される暖かい空気と冷媒との間で熱交換し、冷媒が加熱されるようになっている。次いで、加熱された冷媒は、冷媒ポンプ(図示しない)等によって圧送され、熱交換器102において、車室101に向かう空気を加熱するようになっている。このようにして、車室101から排出される廃熱が有効利用されるようになっている。
一方、熱交換後の空気は、配管61を介して、トランクルームや車外等に排出されるようになっている。
【0032】
<凝縮水回収部>
凝縮水回収部70は、熱交換部60の温度が下がることにより、熱交換部60で発生した凝縮水を集め、回収する部分であり、熱交換部60の鉛直下方に配置されている。すなわち、熱交換部60で発生した凝縮水は、その自重により、凝縮水回収部70に流れ込んだ後、配管71を通って車外に排出されるようになっている。
【0033】
≪車両用空調システムの作用・効果≫
車両用空調システム1の動作・効果を説明する。
暖房時において、ブロワ50が作動すると、車室101の暖かい空気は吸引され、吸気口11、吸気口32、ダクト20Aを通って、ブロワ50に向かう。そして、ブロワ50から吐出される暖かい空気の熱は、熱交換部60で回収され、熱交換器102で車室101に向かう空気を暖めるために利用される。
【0034】
また、ブロワ50が作動することで発生し、配管部21、消音部30Aを通って車室101に向かうブロワ50の作動音は、流路断面積の増大/減少を繰り返す消音部30Aで消音される。これにより、ブロワ50の作動音が車室101に漏れることは防止される。その結果、車室101の静粛性は確保される。
【0035】
さらに、雨水等の水分が、吸気口11から消音部30A内に浸入したとしても、この水分は、下仕切板35でトラップされ、さらに、ドレン口37、ドレン配管38を通って、ブロワ50をバイパスし、凝縮水回収部70に排出される。これにより、ブロワ50が浸水することは防止される。
【0036】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、例えば次のように変更することができ、また、次の構成を適宜組合させてもよい。
【0037】
前記した実施形態では、空気の流れ方向の下流に向かって、ブロワ50、熱交換部60が順に配置された構成を例示したが、逆の配置、つまり、熱交換部60、ブロワ50の順でもよい。
【0038】
前記した実施形態では、ブロワ50から吐出される空気が熱交換部60に供給される構成を例示したが、熱交換部60に代えて、又は、熱交換部60の上流若しくは下流に、充放電により発熱する高圧バッテリを配置する構成としてもよい。このような構成にすれば、車外に排出される空気によって、高圧バッテリを冷却することができ、過昇温による高圧バッテリの劣化を防止できる。
【0039】
その他、図5に示す車両用空調システム2でもよい。車両用空調システム2は、ダクト20Bを備えており、その消音部30Bの下壁部34は、車幅方向において、中央が最も低くなるように傾斜しており、最下部36が車幅方向の中央に配置されている。
【0040】
また、図6に示す消音部30Cでもよい。消音部30Cでは、その前壁部41の後面から後方に突出するように、複数の前仕切板42(流路断面積減少板部)が設けられており、その後壁部43の前面から前方に突出するように、複数の後仕切板44(流路断面積減少板部)が設けられている。前仕切板42及び後仕切板44は、空気の流れ方向において、千鳥状、つまり、交互に配置されており、空気が水平面で、蛇行するようなっている。
なお、前仕切板42及び後仕切板44の下部には、消音部30C内の水分が、ドレン口37に流れ込むように、連通孔42a、連通孔44aがそれぞれ形成されている。
【0041】
また、図7に示す車両用空調システム3でもよい。車両用空調システム3は、ダクト20Dを備えており、ダクト20Dの消音部30Dは、複数の拡径部45(流路断面積増大部)と、複数の縮径部46(流路断面積増大部)とを、空気の流れ方向において、交互に有する略筒体によって構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態に係る車両用空調システムを搭載した車両の側面図である。
【図2】本実施形態に係る車両用空調システムを搭載した車両の後面図である。
【図3】(a)は図2のA−A線断面図であり、(b)はB−B線断面図であり、(c)はC−C線断面図である。
【図4】図2のD−D線断面図(本実施形態に係る消音部の平断面図)である。
【図5】変形例に係る車両用空調システムを搭載した車両の後面図である。
【図6】変形例に係る消音部の平面図である。
【図7】変形例に係る車両用空調システムを搭載した車両の後面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 車両用空調システム
10 リアトレイ
11 吸気口
20A ダクト
30A 消音部
33 上仕切板(流路断面積減少板部)
35 下仕切板(流路断面積減少板部)
37 ドレン口
50 ブロワ
60 熱交換部
70 凝縮水回収部
100 車両
101 車室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の空気を吸引するブロワと、
リアトレイに設けられた吸気口からの空気を前記ブロワに導くダクトと、
を備える車両用空調システムであって、
前記ダクトは、内部を流れる空気の流路断面積を、複数回にて増大及び減少させ、前記ブロワから前記吸気口に向かう前記ブロワの作動音を消音する消音部を備える
ことを特徴とする車両用空調システム。
【請求項2】
前記消音部は、その内面から突出することで流路断面積を減少させると共に、空気の流れ方向において千鳥状に配置された複数の流路断面積減少板部を備え、
前記消音部の最下部には、内部の水分を排出するドレン口が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用空調システム。
【請求項3】
前記ブロワから供給される空気と冷媒とを熱交換する熱交換部と、
前記熱交換部で発生する凝縮水を回収する凝縮水回収部と、
を備え、
前記ドレン口の下流は前記凝縮水回収部に接続されている
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用空調システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−202692(P2009−202692A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45778(P2008−45778)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】