説明

車両用空調装置のダンパ駆動機構およびそれを用いた車両用空調装置

【課題】ダンパ駆動機構の構成に由来するバックラッシやガタを吸収し、ダンパを精度よく位置決めすることができる構成が簡素でコンパクトな車両用空調装置のダンパ駆動機構およびそれを用いた車両用空調装置を提供することを目的とする。
【解決手段】回転自在に支持されているダンパ7が回転軸7Bから離れた位置に設けられているアクチュエータ22を介して駆動可能とされている車両用空調装置1のダンパ駆動機構20において、回転軸7Bに設けられている従動側ピニオン21と、アクチュエータ22の出力軸22Aに設けられている駆動側ピニオン23と、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23と噛合うように架設されているラック24とを備え、ラック24は、可撓性を有し、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23との噛合い部に一定の押付け力が付与されるように撓ませて架設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転自在に支持されているダンパを、該ダンパから離れた位置に設置されているアクチュエータにより駆動する車両用空調装置のダンパ駆動機構およびそれを用いた車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置においては、冷風と温風との混合割合を調整するエアミックスダンパや温調風を吹出す複数の吹出し口に設けられ、該吹出し口を開閉する複数の吹出しモード切替えダンパ、内気導入と外気導入との切替えを行う内外気切替えダンパ等々、数多くのダンパが用いられている。これらのダンパは、回転軸を介してユニットケースに回転自在に支持され、ユニットケースの外面側に設置されたサーボモータ等のアクチュエータにより駆動されるようになっている。
【0003】
車両用空調装置は、一般に車両のインストルメントパネル内側の非常に狭い空間に設置されることから、ユニットケースの外面側に設置されるダンパ駆動機構において、アクチュエータは必ずしもダンパ回転軸と直結可能な位置または近接した位置に設置できるとは限らない。このため、ダンパ回転軸とアクチュエータとが離れた位置に設置されることが多々あり、アクチュエータからの動力を歯車機構やリンク機構等を介してダンパ回転軸に伝動するようにしている。このような状況下、エアミックスダンパでは、温調性能の向上に向けてその位置決め精度の向上が求められるに至り、歯車機構やリンク機構等におけるバックラッシやガタが問題となっている。
【0004】
そこで、上記した歯車機構では、歯車の軸間距離のバラツキやバックラッシによるガタ等を吸収するため、歯車の噛合い部に押付け力を与える変位促進部(スリット)や歯丈を大きくしたフリクション歯を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、ダンパがリンク機構のガタ等により目標開度を維持することが困難となるのを回避するため、リンク機構とは別にダンパを所定開度に拘束する拘束手段を設けたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4111112号公報(図2参照)
【特許文献2】特開2004−268906号公報(図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるように、変位促進部やフリクション歯を設けた歯車を用いたものでは、バックラッシやガタを吸収できるとしても、軸間距離が離れるに従って大形の歯車を使用しなければならなくなるという問題がある。このため、アクチュエータの設置位置がおのずと制約されることになるとともに、歯車が大きくなる分、それに対応してアクチュエータを大きくしなければならないという難点があった。また、特許文献2に示されるものでは、ダンパを駆動するリンク機構の他に、拘束手段を設ける必要があり、構造が複雑化するとともに、余分なコストがかかるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ダンパ駆動機構の構成に由来するバックラッシやガタを吸収し、ダンパを精度よく位置決めすることができる構成が簡素でコンパクトな車両用空調装置のダンパ駆動機構およびそれを用いた車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明の車両用空調装置のダンパ駆動機構およびそれを用いた車両用空調装置は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる車両用空調装置のダンパ駆動機構は、回転軸を介して回転自在に支持されているダンパを備え、該ダンパが前記回転軸から離れた位置に設置されているアクチュエータを介して駆動可能とされている車両用空調装置のダンパ駆動機構において、前記回転軸に設けられている従動側ピニオンと、前記アクチュエータの出力軸に設けられている駆動側ピニオンと、前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンと噛合うように架設されているラックとを備え、前記ラックは、可撓性を有し、前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンとの噛合い部に一定の押付け力が付与されるように撓ませて架設されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ダンパを離れた位置に設置されているアクチュエータにより駆動するダンパ駆動機構が、ダンパの回転軸に設けられている従動側ピニオンと、アクチュエータの出力軸に設けられている駆動側ピニオンと、従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンと噛合うように架設されているラックとを備え、該ラックが可撓性を有し、従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンとの噛合い部に一定の押付け力が付与されるように撓ませて架設されているため、アクチュエータからの動力を駆動側ピニオン、それに噛合うラックおよび該ラックに噛合う従動側ピニオンを介してダンパの回転軸に伝動し、ダンパを離れた位置からアクチュエータにより駆動することができる。また、ラックと従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンとの噛合い部でのバックラッシやガタを、ラックの撓みにより得られる押付け力が付与された噛合わせとすることによって吸収することができる。従って、ダンパを駆動するアクチュエータの設置位置の自由度を確保することができるとともに、ダンパの位置決め精度を向上し、制御性を高めることができる。また、ダンパとアクチュエータとの間に距離があっても大形の歯車やリンク等を用いる必要がなく、ダンパ駆動機構をコンパクトに構成することができる。更に、ラック自体撓ませて使うことが前提のため、高精度に作る必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0010】
また、本発明の車両用空調装置のダンパ駆動機構は、上記の車両用空調装置のダンパ駆動機構において、前記ラックは、一方向に湾曲されて架設され、該ラックの湾曲内側面となる片面に設けられているラック歯が前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンに噛合わされていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ラックが、一方向に湾曲されて架設され、該ラックの湾曲内側面となる片面に設けられているラック歯が従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンに噛合わされているため、一方向に湾曲されて架設されている片面のみにラック歯が設けられているラックを介してアクチュエータからの動力をダンパの回転軸に伝動することができ、これにより、ラックと従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンとの噛合い部でのバックラッシやガタ等を吸収することができる。従って、ダンパの位置決め精度を向上することができるとともに、ラックをより作り易くすることができる。なお、この発明は、ラックの撓ませた状態での振れを考慮する必要があり、ダンパとアクチュエータとの間の軸間距離が比較的小さいものに対してより有効に適用することができる。
【0012】
さらに、本発明の車両用空調装置のダンパ駆動機構は、上記の車両用空調装置のダンパ駆動機構において、前記ラックは、S字状に湾曲されて架設され、該ラックの各々湾曲内側面となる両面に設けられているラック歯が前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンに噛合わされていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、ラックが、S字状に湾曲されて架設され、該ラックの各々湾曲内側面となる両面に設けられているラック歯が従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンに噛合わされているため、S字状に湾曲されて架設されている両面にラック歯が設けられているラックを介してアクチュエータからの動力をダンパの回転軸に伝動することができ、これにより、ラックと従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンとの噛合い部でのバックラッシやガタ等を吸収することができる。従って、ダンパの位置決め精度を向上することができるとともに、ラックをS字状に湾曲させることによって撓ませた状態での振れをほとんどなくすることができるため、ダンパとアクチュエータとの間の軸間距離が比較的大きいものに対しても有効に適用することができる。
【0014】
さらに、本発明の車両用空調装置のダンパ駆動機構は、上述のいずれかの車両用空調装置のダンパ駆動機構において、前記ラック歯は、前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンとの噛合い領域のみに設けられていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、ラック歯が、従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンとの噛合い領域のみに設けられているため、ラックの全長に対してラック歯を、従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンとの噛合い領域となる範囲のみにおいて、ラックの片面または両面のいずれかに設ければよく、従って、ラック自体を簡素にし、低コスト化することができる。
【0016】
さらに、本発明の車両用空調装置のダンパ駆動機構は、上述のいずれかの車両用空調装置のダンパ駆動機構において、前記ラック並びに前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンは、それぞれ樹脂製とされていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、ラック並びに従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンが、それぞれ樹脂製とされているため、ラック並びに従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンをそれぞれ樹脂成形によって容易に製造することができる。従って、ダンパ駆動機構の低コスト化、摩耗低減による長寿命化を確保することができる。
【0018】
さらに、本発明の車両用空調装置のダンパ駆動機構は、上述のいずれかの車両用空調装置のダンパ駆動機構において、前記ラックと前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンとは、互いに異なる材料によって構成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、ラックと従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンとが、互いに異なる材料によって構成されているため、ラックと従動側ピニオンおよび駆動側ピニオンとの間での噛合い音を低減することができる。従って、ダンパ駆動機構の駆動音を小さくすることができる。
【0020】
さらに、本発明にかかる車両用空調装置は、エバポレータおよびヒータが配設されているユニットケース内に、回転軸を介して回転自在に設置されているダンパが、上述のいずれかのダンパ駆動機構により駆動可能とされていることを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、エバポレータおよびヒータが配設されているユニットケース内に、回転軸を介して回転自在に設置されているダンパが、上述のいずれかのダンパ駆動機構により駆動可能とされているため、空調装置用ダンパ駆動機構のラックとピニオンとの噛合い部でのバックラッシやガタ等を吸収することができる。従って、ダンパの位置決め精度を向上し、空調装置の制御性を高めることができる。また、ユニットケースの外面側に設置されるダンパ駆動機構について、アクチュエータの設置位置の自由度を確保できるとともに、ダンパ駆動機構をコンパクト化できるため、その設置を容易化することができる。
【0022】
さらに、本発明の車両用空調装置は、上記の車両用空調装置において、前記ダンパは、前記エバポレータで冷却された冷風と前記ヒータで加熱された温風との混合割合を調整するエアミックスダンパとされていることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、ダンパが、エバポレータで冷却された冷風とヒータで加熱された温風との混合割合を調整するエアミックスダンパとされているため、エアミックスダンパの回転位置をバックラッシやガタ等による影響を排除し、制御指令に基づき高い精度でより正確に位置決めすることが可能となる。従って、車両用空調装置の温調性能を向上することができる。特に、エアミックスダンパでは、最大暖房(マックスホット)付近でのダンパの微妙な開度変化が温調性能に与える影響が非常に大きく、バックラッシやガタの排除は温調性能を向上する上で大きな意義を有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の車両用空調装置のダンパ駆動機構によると、ダンパを駆動するアクチュエータの設置位置の自由度を確保することができるとともに、ダンパの位置決め精度を向上し、制御性を高めることができる。また、ダンパとアクチュエータとの間に距離があっても大形の歯車やリンク等を用いる必要がなく、ダンパ駆動機構をコンパクトに構成することができる。更に、ラック自体撓ませて使うことが前提のため、高精度に作る必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0025】
また、本発明の車両用空調装置によると、ダンパ駆動機構におけるラックとピニオンとの噛合い部でのバックラッシやガタを吸収することができるため、ダンパの位置決め精度を向上し、空調装置の制御性を高めることができる。また、ユニットケースの外面側に設置されるダンパ駆動機構について、アクチュエータの設置位置の自由度を確保できるとともに、ダンパ駆動機構をコンパクト化できるため、その設置を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる車両用空調装置の縦断面図である。
【図2】図1に示す車両用空調装置のダンパ駆動機構の側面図である。
【図3】本発明の第2実施形態にかかる車両用空調装置のダンパ駆動機構の側面図である。
【図4】図2および図3に示すダンパ駆動機構のラックとピニオンとの噛合い部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1、図2および図4を用いて説明する。
図1には、車両用空調装置の縦断面図が示されている。車両用空調装置(HVACユニット;Heating Ventilation and Air Conditioning Unit)1は、分割構造のユニットケース2を備えており、該ユニットケース2内には、ブロア(図示省略)を介して紙面の直角方向から送られてくる空気流を前後方向流れ(図の左側から右側への流れ)に変換し、下流側へと流通させる空気流路3が形成されている。
【0028】
空気流路3の上流部位には、図示省略の冷凍サイクルを構成するエバポレータ4が略鉛直に配設されており、その下流側において、空気流路3はバイパス流路5と加熱流路6とに分離されている。バイパス流路5と加熱流路6との分離部には、エアミックスダンパ7が配設され、バイパス流路5と加熱流路6とに流通される空気流の流量割合が調整可能とされている。加熱流路6側には、図示省略のエンジン等からの冷却水が循環されるヒータ8が略鉛直に配設されている。
【0029】
バイパス流路5と加熱流路6とは、エアミックスダンパ7下流のエアミックス域9で合流され、エアミックス域9の下流側に形成されているデフ吹出し流路10、フェイス吹出し流路11およびフット吹出し流路12へと連通されている。デフ吹出し流路10とフェイス吹出し流路11との間には、デフ/フェイスダンパ13が設けられ、また、フット吹出し流路12の入り口には、フットダンパ14が設けられている。これらデフ/フェイスダンパ13およびフットダンパ14の開閉によって、温調風の吹出しモードが、フェイスモード、フットモード、デフモード、デフ/フットモード、バイレベルモード等に選択的に切替え可能とされている。
【0030】
以下に、ダンパ駆動機構の一例について、エアミックスダンパ(ダンパ)7の駆動機構を例にして説明する。図2には、エアミックスダンパ7に対するダンパ駆動機構20の概略構成が示されている。
エアミックスダンパ7は、長方形状をなす板状ダンパ7Aの長手方向の一端側に回転軸7Bが設けられた構成とされており、該回転軸7Bを介してユニットケース2に回転自在に支持されている。回転軸7Bは、一端がユニットケース2から外方に突出され、ダンパ駆動機構20と連結されるようになっている。
【0031】
ダンパ駆動機構20は、回転軸7Bのユニットケース2から外方に突出された一端に設けられている従動側ピニオン21と、回転軸7Bから離れた位置においてユニットケース2の外面側に設置されているサーボモータ等からなるアクチュエータ22と、アクチュエータ22の出力軸22Aに設けられている駆動側ピニオン23と、片面側に従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23と噛合わされるラック歯24Aが設けられ、両ピニオン21,23間に架設されている可撓性を有するラック24と、ラック24を撓ませた状態で架設する一対のガイドピン25A,25Bとから構成されている。
【0032】
上記従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23とラック24とは、ラック24の一側に従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23が配設されるとともに、ラック24がガイドピン25A,25Bを介して両ピニオン21,23側に凹状となるように一方向に湾曲され、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23との噛合い部に対して一定の押付け力(予圧)が付与されるように撓まされて架設されている。なお、一対のガイドピン25A,25Bは、ラック24を撓ませて架設するため、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23の軸間の外側に配置され、ラック24を支持している。
【0033】
このように、ラック24を従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23との噛合い部に一定の押付け力が付与されるように撓ませて架設すると、図4に示されるように、ラック24の基準ピッチ線PLが、両ピニオン21,23の基準ピッチ円PCDに対して所要量δだけピニオン21,23の中心寄りとなるように噛合わされるようになる。これによって、それぞれの噛合い部でのバックラッシやガタ等が吸収される。なお、ラック24のラック歯24Aは、少なくとも従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23との噛合い領域の範囲に設けられておればよく、ラック24の全長にわたって設ける必要はない。
【0034】
また、ラック24と従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23とは、それぞれ樹脂材による成形品とされており、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23が例えばPOM(ポリアセタール樹脂)の場合は、ラック24が例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂)、また、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23が例えばPDT樹脂の場合は、ラック24が例えばPOM樹脂というように、互いに異なる材料の樹脂材製とされている。
【0035】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果が奏される。
ブロア(図示省略)により側方から送られてくる外気または内気は、ユニットケース2の入り口において前後方向流れに変換され、空気流路3内を下流側へと流通される。この空気流は、エバポレータ4を通過する過程で冷却された後、エアミックスダンパ7の開度に応じてバイパス流路5および加熱流路6への流量割合が調整され、加熱流路6に分流された空気流の一部がヒータ8によって加熱される。
【0036】
バイパス流路5および加熱流路6を経た空気流は、エアミックス域9で混合されて温調された後、その下流側に連なっているデフ吹出し流路10、フェイス吹出し流路11およびフット吹出し流路12のいずれかから、デフ/フェイスダンパ13およびフットダンパ14の開閉によって選択されるフェイスモード、フットモード、デフモード、デフ/フットモード、バイレベルモード等の吹出しモードに従い車室内へと吹出され、車室内の空調に供される。
【0037】
かかるHVACユニット1において、エアミックスダンパ7は、冷風と温風との混合割合を調整して設定温度の温調風を生成する機能を担っており、その開度によって車室内に吹出される温調風の温度が決定されるため、エアミックスダンパ7のダンパ駆動機構20にガタがあると、それがエアミックスダンパ7の位置決めに誤差となって現れ、温調性能に影響を及ぼすことになる。特に、最大暖房(マックスホット)付近では、エアミックスダンパ7の微妙な開度変化が温調性能に大きな影響を及ぼす。
【0038】
しかるに、本実施形態においては、エアミックスダンパ7を離れた位置に設けられているアクチュエータ22により駆動するダンパ駆動機構20が、エアミックスダンパ7の回転軸7Bに設けられている従動側ピニオン21と、アクチュエータ22の出力軸22Aに設けられている駆動側ピニオン23と、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23と噛合うように架設されている可撓性を有するラック24とを備えており、ラック24が一対のガイドピン25A,25Bを介して従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23との噛合い部に対して一定の押付け力(予圧)が付与されるように撓ませて架設された構成とされている。
【0039】
このため、アクチュエータ22からの動力が駆動側ピニオン23、それに噛合うラック24および該ラック24に噛合う従動側ピニオン21を介してエアミックスダンパ7の回転軸7Bに伝動され、離れた位置に設けられているアクチュエータ22を介してエアミックスダンパ7を駆動することが可能となる。しかも、ラック24と従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23との噛合い部でのバックラッシやガタを、ラック24の撓みにより得られる押付け力が与えられた噛合わせとすることによって吸収することができる。
【0040】
従って、スペース確保が厳しいユニットケース2の外面で、エアミックスダンパ7を駆動するアクチュエータ22の設置位置の自由度を確保できるとともに、エアミックスダンパ7の位置決め精度を向上し、温調制御性を高めることができる。また、エアミックスダンパ7とアクチュエータ22との間に距離がある場合でも大形の歯車やリンク等を用いる必要がなく、ダンパ駆動機構20をコンパクトに構成することができる。さらに、ラック24自体は、撓ませて使うことが前提のため、高精度に作る必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0041】
また、本実施形態では、ラック24が、一方向に湾曲されて架設され、その湾曲内側面となる片面に設けられているラック歯24Aが従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23に噛合わされているため、片面のみにラック歯24Aが設けられているラック24を介してアクチュエータ22からの動力を駆動側ピニオン23、ラック24および従動側ピニオン21を介してダンパ回転軸7Bに伝動することができ、これにより、ラック24と従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23との噛合い部でのバックラッシやガタ等を吸収することができる。
【0042】
従って、エアミックスダンパ7の位置決め精度を向上することができるとともに、ラック24をより作り易くすることができる。しかも、ラック歯24Aは、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23との噛合い領域となる範囲のみに設ければよく、ラック24を更に簡素にし、低コスト化することができる。なお、この実施形態は、ラック24の撓ませた状態での振れを考慮する必要があり、エアミックスダンパ7とアクチュエータ22との間の軸間距離が比較的小さいものに対してより有効に適用することができる。
【0043】
さらに、ラック24と従動側ピニオン21および駆動側ピニオン22とが、それぞれ樹脂製とされているため、ラック24と従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23をそれぞれ樹脂成形によって容易に製造することができ、従って、ダンパ駆動機構20の低コスト化、摩耗低減による長寿命化を確保することができる。また、ラック24と従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23とが、例えば一方がTOM、他方がPBTというように互いに異なる材料によって構成されているため、ラック24と従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23との間での噛合い音を低減することができ、従って、ダンパ駆動機構20の駆動音を小さくすることが可能となる。
【0044】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図3および図4を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、アクチュエータ22の設置位置とラック34の架設の仕方が異なっている。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、図3に示されるように、アクチュエータ22が第1実施形態の場合よりもエアミックスダンパ7の回転軸7Bから離れた位置に設置されている。そして、ラック34は、回転軸7Bに設けられている従動側ピニオン21とアクチュエータ22の出力軸22Aに設けられている駆動側ピニオン23との間において、一側に従動側ピニオン21が、他側に駆動側ピニオン23が配置されるように一対のガイドピン25A,25Bを介してS字状に湾曲されて架設されている。
【0045】
また、ラック34には、それぞれS字状湾曲の内側面となる両面に、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23に噛合わされるラック歯34Aが、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23との噛合い領域となる範囲のみに設けられている。なお、このラック34もS字状に撓まされて架設されることにより、図4に示す噛合い状態とされ、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23との噛合い部に対して一定の押付け力が付与されるようになっている。
【0046】
上記構成とすることにより、従動側ピニオン21と駆動側ピニオン23との間に、S字状に湾曲させて架設されている両面にラック歯34Aが設けられているラック34を介してアクチュエータ22からの動力をエアミックスダンパ7の回転軸7Bに伝動することができ、これにより、ラック34と従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23との噛合い部でのバックラッシやガタ等を吸収することが可能となる。従って、本実施形態によっても、第1実施形態と同様に、エアミックスダンパ7の位置決め精度を高め、温調性能を向上することができる。また、ラック34をS字状に湾曲させることによって撓ませた状態での振れをほとんどなくすることができるため、エアミックスダンパ7とアクチュエータ22との間の軸間距離が比較的大きいものに対しても有効に適用することができる。
【0047】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記実施形態では、エアミックスダンパ7のダンパ駆動機構20に適用した例について説明したが、吹出しモード切替えダンパ等、他のダンパの駆動機構にも同様に適用することができる。また、車両用空調装置のダンパ駆動機構に限らず、回転ダンパの駆動機構全般に広く適用することができる。
【0048】
さらに、上記実施形態では、ラック24,34と従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23とを互いに異なる樹脂材による成形品として例について説明したが、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23は、必ずしも樹脂材製である必要はなく、金属材製としてもよい。また、従動側ピニオン21および駆動側ピニオン23は、ダンパ回転軸7Bおよびアクチュエータ出力軸22Aと一体成形品とすることにより、部品点数を更に削減することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 車両用空調装置(HVACユニット)
2 ユニットケース
4 エバポレータ
7 エアミックスダンパ(ダンパ)
7B 回転軸
8 ヒータ
20 ダンパ駆動機構
21 従動側ピニオン
22 アクチュエータ
22A アクチュエータの出力軸
23 駆動側ピニオン
24,34 ラック
24A,34A ラック歯


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を介して回転自在に支持されているダンパを備え、該ダンパが前記回転軸から離れた位置に設置されているアクチュエータを介して駆動可能とされている車両用空調装置のダンパ駆動機構において、
前記回転軸に設けられている従動側ピニオンと、前記アクチュエータの出力軸に設けられている駆動側ピニオンと、前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンと噛合うように架設されているラックとを備え、
前記ラックは、可撓性を有し、前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンとの噛合い部に一定の押付け力が付与されるように撓ませて架設されていることを特徴とする車両用空調装置のダンパ駆動機構。
【請求項2】
前記ラックは、一方向に湾曲されて架設され、該ラックの湾曲内側面となる片面に設けられているラック歯が前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンに噛合わされていることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置のダンパ駆動機構。
【請求項3】
前記ラックは、S字状に湾曲されて架設され、該ラックの各々湾曲内側面となる両面に設けられているラック歯が前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンに噛合わされていることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置のダンパ駆動機構。
【請求項4】
前記ラック歯は、前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンとの噛合い領域のみに設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載の車両用空調装置のダンパ駆動機構。
【請求項5】
前記ラック並びに前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンは、それぞれ樹脂製とされていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両用空調装置のダンパ駆動機構。
【請求項6】
前記ラックと前記従動側ピニオンおよび前記駆動側ピニオンとは、互いに異なる材料によって構成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の車両用空調装置のダンパ駆動機構。
【請求項7】
エバポレータおよびヒータが配設されているユニットケース内に、回転軸を介して回転自在に設置されているダンパが、請求項1ないし6のいずれかに記載のダンパ駆動機構により駆動可能とされていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項8】
前記ダンパは、前記エバポレータで冷却された冷風と前記ヒータで加熱された温風との混合割合を調整するエアミックスダンパとされていることを特徴とする請求項7に記載の車両用空調装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−253973(P2010−253973A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102921(P2009−102921)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】