説明

車両用空調装置のリンク構造

【課題】価格の上昇を抑制しながら、各部品の寸法ばらつきを吸収してダンパのシール性を確保するとともに、異音の発生を防止する。
【解決手段】車両用空調装置のリンク構造は、車両用空調装置が有する空気流路を開閉するダンパに連結される従動リンク103と、従動リンク103に係合する駆動リンク104とを備えている。駆動リンク104には、係合ピン104bが形成され、従動リンク103には、係合ピン104bが挿入された状態で係合する孔部103bが所定方向に延びるように形成されている。係合ピン104bには、孔部103bの内周面に圧接して弾性変形する押圧部104eが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置が有する空気流路を開閉するダンパを駆動するためのリンク構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用空調装置は、冷却用熱交換器及び加熱用熱交換器を収容するケーシングを備えており、このケーシング内には、各熱交換器が配置される空気流路が形成されている。空気流路には、各熱交換器を通過する空気量を調節するための温度調節ダンパや、調和空気の吹出方向を切り替えるための吹出方向切替ダンパが配置されている。また、ケーシングの外部には、ダンパを駆動するためのリンク構造と、駆動力を付与するためのサーボモータからなるアクチュエータとが配設されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のリンク構造は、従動リンクと駆動リンクとを備えている。従動リンクの一端部には、ダンパの回動軸が連結され、他端部には、係合ピンが形成されている。一方、駆動リンクには、アクチュエータの出力軸が固定されるとともに、従動リンクの係合ピンが挿入された状態で係合するスリット状係合部が形成されている。スリット状係合部の周縁部の複数箇所には、係合ピンの外周面を押圧するように弾性変形する押圧部がそれぞれ形成されている。
【特許文献1】特開2007−145213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、空調装置のケーシング、ダンパ及び各リンクには製造上の公差範囲内で寸法ばらつきがあり、この寸法ばらつきの影響により、ダンパを閉状態としたときに十分なシール性が得られないことが考えられる。また、閉状態にしたダンパがケーシング側から反力を受けた際や、ダンパが風圧を受けて振動した際に係合ピンが駆動リンクのスリット状係合部の周縁部に当たって異音が発生することもある。
【0005】
このような問題に対して特許文献1のリンク構造のように、駆動リンクの押圧部で従動リンクの係合ピンを押圧することで、各部品の寸法ばらつきを吸収してダンパのシール性を確保するとともに、異音の発生を防止することが考えられる。この場合、押圧部による係合ピンの押圧力が大きすぎるとリンクの動きが悪くなり、一方、押圧力が小さすぎると寸法ばらつきが吸収できず、異音の発生も防止できなくなるので、押圧部には高い寸法精度が要求され、コスト高の要因となる。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、スリット状係合部が形成された駆動リンクに押圧部を設けるようにしているので、上述のようなコスト高の要因となる押圧部を、係合ピンの軌跡に対応するように広い範囲に複数箇所設ける必要があり、製品価格が高騰する。
【0007】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従動リンク及び駆動リンクを用いてダンパを駆動する場合に、製品価格の上昇を抑制しながら、各部品の寸法ばらつきを吸収してダンパのシール性を確保可能にするとともに、ダンパの振動等による異音の発生を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、係合ピンに、寸法ばらつきの吸収構造及び異音の防止構造を持たせるようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、車両用空調装置が有する空気流路を開閉するダンパに連結される従動リンクと、該従動リンクに係合する駆動リンクとを備えた車両用空調装置のリンク構造であって、上記従動リンクと上記駆動リンクとの一方には、係合ピンが形成され、他方には、該係合ピンが挿入された状態で係合する係合部が所定方向に延びるように形成され、上記係合ピンには、上記係合部に圧接して弾性変形する押圧部が設けられている構成とする。
【0010】
この構成によれば、一方のリンクの係合ピンが他方のリンクの係合部に挿入された状態で、係合ピンの押圧部を係合部に圧接させて弾性変形させることが可能になる。この押圧部の弾性変形により、各部品の寸法ばらつきが吸収されて閉状態のダンパのシール性が確保されるとともに、ダンパがケーシング側から反力を受けた際や、風圧を受けて振動した際の異音の発生が防止される。従って、従来例のように係合部の広い範囲に複数の押圧部を設けることなく、係合ピンに押圧部を設けるだけで済む。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、押圧部は、係合ピンの全周に設けられている構成とする。
【0012】
この構成によれば、駆動リンク及び従動リンクがどのような動作状態であっても押圧部を係合部に圧接させて弾性変形させることが可能になる。
【0013】
第3の発明では、第1または2の発明において、係合ピンは、係合部に挿入されるピン本体と、該ピン本体の外周面との間に所定の隙間を形成するように設けられる押圧部とを有している構成とする。
【0014】
この構成によれば、押圧部はピン本体との間の隙間に対応する量だけ弾性変形し、ピン本体に接することでそれ以上の変形が規制される。つまり、隙間の大きさによって押圧部の変形量を設定することが可能になる。
【0015】
第4の発明では、第3の発明において、ピン本体と押圧部とが一体成形されている構成とする。
【0016】
この構成によれば、部品点数の増加を招くことなく押圧部を設けることが可能になる。
【0017】
第5の発明では、第1または2の発明において、押圧部は、係合ピンとは別部材で構成され、該係合ピンの外側に嵌合されている構成とする。
【0018】
この構成によれば、押圧部を係合ピンやリンクとは別に成形することにより、係合ピンやリンクの形状による制約を受けることなく、押圧部の成形精度を高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明によれば、係合ピンに、係合部に圧接して弾性変形する押圧部を設けたので、コスト高の要因となる押圧部の数を減らし、かつ、押圧部を設ける範囲を狭くして製品価格の上昇を抑制しながら、寸法ばらつきを吸収してダンパのシール性を確保できるとともに、ダンパの振動等による異音の発生を防止できる。
【0020】
第2の発明によれば、押圧部を係合ピンの全周に設けたので、駆動リンク及び従動リンクがどのような動作状態であっても、ダンパのシール性を確保できるとともに、異音の発生を防止できる。
【0021】
第3の発明によれば、ピン本体と押圧部との間に所定の隙間を形成するようにしたので、押圧部の変形量を容易に設定できる。
【0022】
第4の発明によれば、ピン本体と押圧部とを一体成形したので、部品点数が増加せず、コストを低減できる。
【0023】
第5の発明によれば、押圧部を係合ピンとは別部材で構成したので、押圧部の成形精度を容易に高めることができ、寸法ばらつきの吸収効果や異音の防止効果を十分に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
《実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係る車両用空調装置1を自動車の車室内前部に設けたインストルメントパネル2内に配設した状態を示す。この自動車は、運転席及び助手席がそれぞれ車両右側及び左側に設けられた、いわゆる右ハンドル車である。この実施形態の説明では、説明の便宜を図るため、車幅方向左側を単に「左」といい、また、車幅方向右側を単に「右」というものとする。
【0026】
上記空調装置1は、図2にも示すように、空調用空気を送風する送風ユニット3と、この送風ユニット3から送風された空気を導入して調和空気とする空調ユニット4と、この空調ユニット4に送風ユニット3から送風された空調用空気を送るための中間ダクト5とを備えている。
【0027】
上記空調ユニット4は、上記インストルメントパネル2内の左右方向略中央部に配置されている一方、上記送風ユニット3は空調ユニット4に対して左側へ離間して助手席の前方に配置されている。
【0028】
上記送風ユニット3は、その左右方向の略中央部において左右方向に2つに分割されたケーシング6を備えており、それらはファスナ等を用いて一体化されている。このケーシング6の上側約半分は、送風ユニット3へ空調用空気を取り入れるための空気取入部7とされている一方、残りの部分は、その取り入れた空気を上記空調ユニット4へ送風するための送風部8とされている。ケーシング6内には、空気取入部7から送風部8へ延びる空気流路Sが設けられており、空気取入部7から導入された空調用空気が空気流路Sを流通するようになっている。
【0029】
空気取入部7の上部の車両前側には、車室外の空気を取り入れるための外気取入口10が形成され、車両後側には、車室内の空気を取り入れるための内気取入口11が形成されている。これら両取入口10、11は、空気流路Sの上流端に接続され、内外気切替ダンパ9によって選択的に開閉されるようになっている。内外気切替ダンパ9は、空気流路Sに配設されており、車幅方向に延びる回動軸12と、該回動軸12から径方向の一方向に延出する閉塞部13とを備えている。回動軸12は、ケーシング6の右側壁部を貫通している。ケーシング6の右側壁部には、内外気切替用モータアクチュエータ15及び内外気切替用リンク構造16が配設されている。
【0030】
上記モータアクチュエータ15は、ケーシング6の右側壁部に突設されたボス(図示せず)に締結固定されている。また、上記内外気切替用リンク構造16は、モータアクチュエータ15の出力軸が連結される駆動リンク17と、内外気切替用ダンパ9の回動軸12が連結される従動リンク18とで構成されている。これら駆動リンク17及び従動リンク18は、例えばポリプロピレン等の樹脂材を成形してなるものである。
【0031】
上記モータアクチュエータ15による操作力が駆動リンク17及び従動リンク18を介して内外気切替ダンパ9に伝達されると、内外気切替ダンパ9が回動軸12周りに回動し、上記外気取入口10と内気取入口11との一方は、上記内外気切替ダンパ9により閉状態とされる一方、他方は開状態とされるようになっている。すなわち、内外気切替ダンパ9により外気取入口10が全開状態とされると内気取入口10が全閉状態となって、車室外の空気のみを取り入れる外気取入モードとなる。一方、外気取入口10が全閉状態とされると内気取入口11が全開状態となって、車室内の空気のみを取り入れる内気循環モードとなる。尚、内気取入口11には格子状のグリル14が設けられている。
【0032】
一方、空気取入部7の下部には、上記外気取入口10又は内気取入口11より取り入れられた空気を濾過するためのフィルタ20が配設されたフィルタ配設部21が設けられている。フィルタ配設部21の下方には、遠心式多翼ファン23が、その回転軸を上下方向に向けて配設されており、さらに、このファン23の下方には、該ファン23を駆動するためのファン駆動モータ24が配設されている。尚、図3における矢印は空気の流れを示している。
【0033】
送風部8におけるケーシング6の右側壁部には、上記中間ダクト5の左端部が固定され、この中間ダクト5の左端部はケーシング6の右側壁部に形成された開口(図示せず)を介してケーシング6内の空気流路Sと連通している。中間ダクト5は、その左端部から空調ユニット4の下端部へ向かって斜め下方へ延びるように形成されている。中間ダクト5の右端部は、空調ユニット4のケーシング6の下端部に開口されかつ該ケーシング6内に空調用空気を導入するための導入口25(図3に仮想線で示す)に接続されている。中間ダクト5の上壁には、上記ファン駆動モータ24の回転数を制御するための制御回路26が配設されている。
【0034】
上記空調ユニット4のケーシング30は、全体として上下方向に長く、送風ユニット3のケーシング6よりも大型に形成されている。空調ユニット4のケーシング30は、送風ユニット3のケーシング6と同様に左右方向に2つに分割されている。
【0035】
上記ケーシング30内には、上記導入口25から上方へ延びる空気流路Rが設けられている。図3に示すように、空気流路Rの上流側は、上記導入口25からケーシング30の上下方向略中央部まで延びる冷却通路33で構成されている。上記導入口25から導入された空調用空気は、冷却通路33内で上方へ向きを変えて流れるようになる。
【0036】
上記冷却通路33の上下方向中途部には、該冷却通路33を流れる空調用空気を通過させて冷却する冷却用熱交換器としてのエバポレータ34が該冷却通路33を横切るように配設されている。エバポレータ34は、冷凍サイクルの一要素を構成するものであり、通過する空気を冷却するようになっている。尚、符号35は、エバポレータ34から滴下する凝縮水を排水するためのドレン部である。
【0037】
上記冷却通路33の下流端は車両前後方向に2つに分岐している。冷却通路33の車両前側の下流端に前側冷風吹出口37が形成され、車両後側の下流端に後側冷風吹出口38が形成されている。これら前側冷風吹出口37及び後側冷風吹出口38の間には、ケーシング30内を上記冷却通路33とその上方空間とに区画する中央隔壁40が設けられている。
【0038】
上記前側冷風吹出口37には、空気流路Rの空気流れ方向中間部を構成する加熱通路41が接続されている。該加熱通路41は、中央隔壁40の上方において全体として車両後側へ向かって斜め上方に延びている。加熱通路41の中途部には、該加熱通路41を流れる冷風を通過させて加熱する加熱用熱交換器としてのヒータコア43が該加熱通路41を横切るように配設されている。ヒータコア43には、エンジンの冷却水が常時循環しており、この冷却水によってヒータコア43を通過する空気が加熱されるようになっている。
【0039】
上記ヒータコア43の上方には、ケーシング30内の上半部を上記加熱通路41とその上方空間とに区画する上部隔壁45が設けられている。該上部隔壁45の車両後端部と上記中央隔壁40の車両後端部との間には、温風吹出口46が車両後方に向けて開口している。
【0040】
また、ケーシング30内の車両後側における後側冷風吹出口38の上方には、空気流路Rの下流側を構成するエアミックス空間65が設けられている。該エアミックス空間65には、上記後側冷風吹出口38及び温風吹出口46が接続され、これら後側冷風吹出口38及び温風吹出口46から冷風及び温風がそれぞれ流入するようになっている。このエアミックス空間65に流入した冷風及び温風は該エアミックス空間65で混合されて調和空気となる。
【0041】
エアミックス空間65の略真上部におけるケーシング30の上壁部には、図2にも示すように、該エアミックス空間65に接続されるフェイス吹出口66が形成されている。
【0042】
上記フェイス吹出口66は、エアミックス空間65で生成された調和空気を、インストルメントパネル2の左右方向略中央部及び左右両端部にそれぞれ設けたセンタベンチレータ81及びサイドベンチレータ82(図1に示す)にそれぞれ導出させるためのセンタ吹出部66a及びサイド吹出部66bに区画されている。
【0043】
上記センタ吹出部66aは、インストルメントパネル2内に設けたセンタフェイスダクト(図示せず)により上記センタベンチレータ81と接続されている。サイド吹出部66bは、同じくインストルメントパネル2内に設けたサイドフェイスダクト(図示せず)により上記サイドベンチレータ82と接続されている。上記センタベンチレータ81及びサイドベンチレータ82から調和空気が乗員の上半身へ向けて吹き出すようになっている。
【0044】
ケーシング30内の上部隔壁45の上方には、空気流路Rの下流側を構成するデフロスタ導出室68が設けられている。上部隔壁45の車両後端部とケーシング30の上壁部との間には、エアミックス空間65で生成された調和空気をデフロスタ導出室68に流入させるための第1開口部69が設けられている。デフロスタ導出室68上側の車両前側寄りの位置におけるケーシング30の上壁部には、デフロスタ導出室68に流入した調和空気を上記インストルメントパネル2に設けたデフロスタ85及びデミスタ85a(図1に示す)に導出させるためのデフロスタ吹出口70が形成されている。
【0045】
上記デフロスタ吹出口70は、インストルメントパネル2内に設けたデフロスタダクト(図示せず)によりデフロスタ85及びデミスタ85aと接続されており、これらデフロスタ85及びデミスタ85aから調和空気がフロントウインドガラス及びサイドドアのウインドガラスの内面に向かって吹き出すようになっている。
【0046】
ケーシング30内におけるデフロスタ導出室68の車両前側には、空気流路Rの下流側を構成するフット導出室71が形成され、このフット導出室71とデフロスタ導出室68との間の壁部には、デフロスタ導出室68の調和空気をフット導出室71に流入させるための第2開口部72が形成されている。そして、ケーシング30の左側壁部及び右側壁部の上部には上記フット導出室71の調和空気を運転席及び助手席の各乗員の足元に導出させるための左右フット吹出口73がそれぞれ形成されている。すなわち、これら左右フット吹出口73には、各々、ケーシング30の左側壁部及び右側壁部に沿って車両後側かつ下方へ延びる左右フットダクト(図示せず)が接続され、これら両フットダクト74は、運転席及び助手席の各乗員の足元でそれぞれ開口している。これら両フットダクト74の開口から、フット導出室73の調和空気が各乗員の足元に向かって吹き出すようになっている。
【0047】
上記空気流路Rの下流端近傍には、乗員により設定される吹出モードに応じてセンタ吹出部66a及びサイド吹出部66bを同時に開閉する第1吹出方向切替ダンパ76が設けられている。この第1吹出方向切替ダンパ76は、左右方向に延びる回動軸86と、該回動軸86から径方向の一方向に延出する板状の閉塞部87と、該閉塞部87の両面にそれぞれ設けられたシール部材88とを備えている。回動軸86の左右両端部がケーシング30の左右両側壁に支持されている。図4に示すように、回動軸86の左端部は、ケーシング30の左側壁部を貫通している。
【0048】
第1吹出方向切替ダンパ76は、センタ吹出部66a及びサイド吹出部66bを全開状態とする位置と全閉状態にする位置との間で回動軸86周りに回動するようになっている。図3に示すように、第1吹出方向切替ダンパ76が、上記センタ吹出部66a及びサイド吹出部66bを全開状態にすると、上記第1開口部69が全閉状態とされ、一方、図示しないが、第1吹出方向切替ダンパ76が、上記センタ吹出部66a及びサイド吹出部66bを全閉状態とすると、上記第1開口部69が全開状態とされる。
【0049】
上記空気流路Rの下流端近傍には、上記吹出モードに応じてデフロスタ吹出口70を開閉する第2吹出方向切替ダンパ77が設けられている。この第2吹出方向切替ダンパ77は、上記第1吹出方向切替ダンパ76と同様に、左右方向に延びる回動軸92と閉塞部93とシール部材94とを備えている。回動軸92の左右両端部がケーシング30の左右両側壁に支持されている。図4に示すように、回動軸92の左端部は、ケーシング30の左側壁部を貫通している。
【0050】
第2吹出方向切替ダンパ77は、デフロスタ吹出口70を全開状態とする位置と全閉状態とする位置との間で回動軸92周りに回動するようになっている。図3に示すように、第2吹出方向切替ダンパ77がデフロスタ吹出口70を全閉状態とすると、第2開口部72が全開状態とされ、一方、図示しないが、第2吹出方向切替ダンパ77がデフロスタ吹出口70を全開状態とすると、第2開口部72が全閉状態とされる。
【0051】
ケーシング30の左側壁部の上部には、図2に示すように、吹出方向切替用モータアクチュエータ100と吹出方向切替用リンク構造101とが配設されている。このモータアクチュエータ100は、左側壁部から突出するボス(図示せず)に締結固定されていて、該左側壁部から左側へ離れている。このモータアクチュエータ100とケーシング30の左側壁部との間に、上記吹出方向切替用リンク構造101が配設されている。尚、図4ではモータアクチュエータ100を省略している。
【0052】
このリンク構造101は、図4に示すように、モータアクチュエータ100の出力軸(図示せず)が連結される駆動板102と、第1吹出方向切替ダンパ76の回動軸86に固定された第1従動リンク103と、第1従動リンク103に係合する第1駆動リンク104と、第2吹出方向切替ダンパ77の回動軸92に固定された第2従動リンク105と、第2従動リンク105に係合する第2駆動リンク106とを備えている。
【0053】
上記駆動板102、第1従動リンク103、第1駆動リンク104、第2従動リンク105及び第2駆動リンク106は、例えばポリプロピレン等の樹脂材を成形してなるものである。駆動板102が最も左側に位置付けられ、この駆動板102の右側に第1駆動リンク104及び第2駆動リンク106が位置付けられ、これら駆動リンク104、106の右側に第1従動リンク103及び第2従動リンク105が位置付けられている。
【0054】
駆動板102は、大略半円盤状に形成されている。駆動板102の中央部近傍には、モータアクチュエータ100の出力軸(図示せず)が挿入されて回転一体に連結される連結孔102aが形成されている。駆動板102の周縁部には、周方向一側に第1スリット102bが形成され、周方向他側に第2スリット102cが形成されている。第1スリット102b及び第2スリット102cは、各々の長手方向の中途部で駆動板102の半径方向に屈曲している。
【0055】
上記第1従動リンク103は、略直線状に形成されている。第1従動リンク103の一端部には、第1吹出方向切替ダンパ76の回動軸86が嵌入する第1嵌入孔103aが形成されており、回動軸86と第1従動リンク103とは回転一体とされている。第1従動リンク103の他端側には、該リンク103の長手方向に長く延びるスリット状の第1孔部(係合部)103bが形成されている。尚、第1孔部103bは、スリット状でなくてもよく、例えば、溝であってもよい。
【0056】
第1駆動リンク104は、大略L字状に形成されている。第1駆動リンク104の角部には、該リンク104をケーシング30に取り付けるための締結部材107が挿通する孔部104aが形成されている。第1駆動リンク104は、締結部材107によりケーシング30に取り付けられた状態で、該締結部材107周りに回転するようになっている。
【0057】
第1駆動リンク104の一端部には、上記第1従動リンク103の第1孔部103bに挿入された状態で係合する一側ピン(係合ピン)104bが突設され、他端部には、第1スリット102bに挿入された状態で係合する他側ピン104cが突設されている。
【0058】
一側ピン104bは、図5に示すように、ピン本体104dと、第1孔部103bの内周面に圧接して弾性変形する押圧部104eとを有している。ピン本体104dは、円柱状とされており、その外径寸法は、第1孔部103bの幅寸法よりも短く設定されている。押圧部104eは、ピン本体104dの突出方向先端部に連なり、該ピン本体104dの外周面との間に所定の隙間Xを形成した状態でピン本体104dの基端側まで延びる円筒形状をなしている。従って、押圧部104eは一側ピン104bの全周に設けられている。
【0059】
押圧部104eにおけるピン本体104d基端側の端部は、第1駆動リンク104の側面から離れている。従って、押圧部104eは、外部から径方向内方へ向かう力を受けると、ピン本体104dの先端側を起点として全体が径方向内方へ撓むように変形し、所定量以上変形すると、ピン本体104dに接してそれ以上の変形が阻止されることになる。押圧部104eの変形量は、隙間Xの大きさにより容易に変更可能となっている。
【0060】
また、図4に示すように、上記第2従動リンク105は、第1従動リンク103と略同じ形状に形成されており、第2嵌入孔105aと第2孔部105bとを有している。
【0061】
第2駆動リンク106は、略直線状に形成されている。第2駆動リンク106の一端部には、該リンク106をケーシング30に取り付けるための締結部材108が挿通する孔部106aが形成されている。第2駆動リンク106は、締結部材108によりケーシング30に取り付けられた状態で、該締結部材108周りに回転するようになっている。第2駆動リンク106の他端部には、第2孔部105bに挿入された状態で係合する一側ピン106bが突設されている。第2駆動リンク106の孔部106aよりも一側ピン106b寄りの部位には、第2スリット102cに挿入された状態で係合する他側ピン106cが突設されている。一側ピン106bは、上記一側ピン104bと同様に構成され、押圧部(図示せず)を備えている。
【0062】
上記モータアクチュエータ100が作動することにより駆動板102に操作力が付与され、該駆動板102が回動する。この駆動板102の回動により、第1スリット102b及び第2スリット102cが回動方向に変位する。第1スリット102bの変位により、第1駆動リンク104の他側ピン104cが第1スリット102bの周縁部に係合して変位し、第1駆動リンク104が第1スリット102bの形状に対応した軌跡を描いて動くことになる。この第1駆動リンク104の動きにより、一側ピン104bが第1孔部103bの周縁部に係合して第1従動リンク103が動き、これにより、第1吹出方向切替ダンパ76が回動する。
【0063】
第1駆動リンク104が動くと、一側ピン104bが第1孔部103bに挿入された状態なので、一側ピン104bの押圧部104eが第1孔部103bの内周面に圧接して弾性変形する。これにより、例えば第1吹出方向切替ダンパ76を閉じた際に、各部品に生じている寸法ばらつきを吸収して該ダンパ76に対して閉方向に付勢力を作用させることができるので、閉状態の第1吹出方向切替ダンパ76のシール性が確保される。また、第1吹出方向切替ダンパ76を閉状態としてケーシング30側から反力を受けた際には、押圧部104eが弾性変形することでその反力が吸収されて異音の発生が防止される。さらに、第1吹出方向切替ダンパ76が風圧を受けて振動した際には、その振動が第1従動リンク103を介して第1駆動リンク104に伝達されることになるが、押圧部104eが弾性変形することで振動が弱められ、このことによっても、異音の発生が防止される。
【0064】
また、第2スリット102cの変位により、第2駆動リンク106の他側ピン106cが第2スリット102cの周縁部に係合して変位し、第2駆動リンク106が第2スリット102cの形状に対応した軌跡を描いて動くことになる。この第2駆動リンク106の動きにより、一側ピン106bが第2従動リンク105の第2孔部105bの周縁部に係合して第2従動リンク105が動き、これにより、第2吹出方向切替ダンパ77が回動する。この第2吹出方向切替ダンパ77が回動する場合も、上述した第1吹出方向切替ダンパ76と同様に、シール性を確保できるとともに、異音の発生も防止できる。
【0065】
上記のように駆動板102の第1スリット102b及び第2スリット102cに、第1駆動リンク104の他側ピン104c及び第2駆動リンク106の他側ピン106cをそれぞれ挿入して操作力を伝達するようにしているので、スリット102b、102cの形状により第1駆動リンク104及び第2駆動リンク106の動きを容易に設定することが可能になっている。
【0066】
第1吹出方向切替ダンパ76及び第2吹出方向切替ダンパ77の回動により、センタ吹出部66a、サイド吹出部66b、デフロスタ吹出口70及び第2開口部72がそれぞれ開閉されて、空調装置1がフェイスモード、デフロスタモード、フットモード等の任意の吹出モードになる。
【0067】
図2に示すように、上記ケーシング30の空気流路Rにおける前側冷風吹出口37及び後側冷風吹出口38近傍には、乗員により設定される室内温度に応じて各吹出口37、38をそれぞれ開閉する第1温度調節ダンパ48及び第2温度調節ダンパ49が配置されている。
【0068】
上記第1温度調節ダンパ48は、回動軸58と、該回動軸58の径方向両側に延出する2つの閉塞部59とを備えたバタフライダンパである。閉塞部59の周縁部には、シール部材61がそれぞれ配設されている。第1温度調節ダンパ48の回動軸58の左右両端部がケーシング30の左右両側壁に支持されている。回動軸58の左端部は、ケーシング30の左側壁部を貫通している。
【0069】
上記第2温度調節ダンパ49は、回動軸50と、該回動軸50の径方向両側に延出する閉塞部51とを備えたバタフライダンパである。閉塞部51の周縁部には、互いに反対側の面にシール部材56がそれぞれ配設されている。第2温度調節ダンパ49の回動軸50の左右両端部がケーシング30の左右両側壁に支持されている。回動軸50の左端部は、ケーシング30の左側壁部を貫通している。
【0070】
ケーシング30の左側壁部の上部には、図2に示すように、温度調節用モータアクチュエータ110と温度調節用リンク構造111とが配設されている。これらモータアクチュエータ110と温度調節用リンク構造111とは、上記吹出方向切替用モータアクチュエータ10と吹出方向切替用リンク構造101と同様に構成されている。
【0071】
以上説明したように、この実施形態1に係る車両用空調装置1のリンク構造101によれば、弾性変形可能な押圧部104eを第1駆動リンク104の一側ピン104bに設けたので、コスト高の要因となる押圧部の数を減らし、かつ、押圧部を設ける範囲を狭くして製品価格の上昇を抑制しながら、各部品の寸法ばらつきを吸収して第1吹出方向切替ダンパ76のシール性を確保できるとともに、異音の発生を防止できる。第2吹出方向切替ダンパ77についても同様である。
【0072】
また、押圧部104eを一側ピン104bの全周に設けたので、第1駆動リンク104及び第1従動リンク103がどのような動作状態であっても、第1吹出方向切替ダンパ76のシール性を確保できるとともに、異音の発生を防止できる。
【0073】
また、ピン本体104dと押圧部104eとの間に所定の隙間Xを形成するようにしたので、隙間Xの大きさによって押圧部104eの変形量を容易に設定できる。
【0074】
また、ピン本体104dと押圧部104eとを一体成形したので、部品点数が増加せず、コストを低減できる。
【0075】
《実施形態2》
図6は、本発明の実施形態2に係るリンク構造を構成する第1従動リンク103及び第1駆動リンク104を示すものである。実施形態2のリンク構造は、第1駆動リンク104の構造が実施形態1のものと異なるだけで、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0076】
この実施形態2の第1駆動リンク104の一側ピン104bには、該一側ピン104bとは別部材で構成された押圧部120が設けられている。押圧部120は、第1孔部103bの周縁部に圧接して弾性変形するものであり、一側ピン104bが嵌る内筒部120aと、内筒部120aと同心状に配置された大径の外筒部120bと、内筒部120aの外面及び外筒部120bの内面を連結する4つの連結板120cとを備えており、これらはポリプロピレン等の樹脂材を用いて一体成形されている。連結板120cは、内筒部120aの周方向に等間隔に配置されている。連結板120cは、容易に変形できるように屈曲している。この連結板120cが弾性変形することで、外筒部120bが内筒部120aに対し径方向に移動する。
【0077】
上記リンク構造101の組み立て要領について説明すると、まず、押圧部120をピン104bの外側に嵌合して押圧部120とピン104bとを一体化する。そして、押圧部120を第1駆動リンク104の第1孔部103bに挿入する。
【0078】
この状態で第1駆動リンク104が動くと、押圧部120が第1孔部103bの内周面に圧接するようになる。このとき、押圧部120の連結板120cが弾性変形することで、実施形態1と同様に、各部品に生じている寸法ばらつきが吸収されて閉状態の第1吹出方向切替ダンパ76のシール性が確保されるとともに、異音の発生が防止される。
【0079】
以上説明したように、実施形態2に係る車両用空調装置1のリンク構造101によれば、実施形態1のものと同様に、製品価格の上昇を抑制しながら、各部品の寸法ばらつきを吸収して第1吹出方向切替ダンパ76のシール性を確保できるとともに、異音の発生を防止できる。
【0080】
尚、上記実施形態1、2では、第1吹出方向切替ダンパ76及び第2吹出方向切替ダンパ77をモータアクチュエータ100による操作力で自動的に開閉するようにした場合について説明したが、本発明は、このモータアクチュエータ100を省略して、第1吹出方向切替ダンパ76及び第2吹出方向切替ダンパ77を、乗員が操作する操作ワイヤ(図示せず)による操作力で手動で開閉するように構成した空調装置に適用することができる。この操作ワイヤの一端部は、例えばインストルメントパネル2の操作ダイヤルや操作レバーに連結され、他端部は、駆動板102に連結されており、乗員による操作力が駆動板102に直接付与されるようになっている。
【0081】
また、図示しないが、第1及び第2従動リンク103、105に、押圧部を有する係合ピンを設け、第1及び第2駆動リンク104、106に、係合ピンが挿入された状態で係合する孔部を設けるようにしてもよい。
【0082】
また、この実施形態では、本発明を送風ユニット3と空調ユニット4とが左右方向に並んで設けられた、いわゆるセミセンタタイプの空調装置1に適用した場合について説明したが、本発明は、送風ユニットと空調ユニットとが一体化された、いわゆるフルセンタタイプの空調装置にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明したように、本発明に係る車両用空調装置のリンク構造は、吹出方向切替ダンパや温度調節ダンパ等を駆動する場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】車室前部の斜視図である。
【図2】実施形態1に係る車両用空調装置を車両後側から見た図である。
【図3】空調ユニットの断面図である。
【図4】空調ユニットの上部の左側面図である。
【図5】図4のA−A線断面図である。
【図6】実施形態2に係るリンク構造の分解斜視図である。
【図7】押圧部の平面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 車両用空調装置
76 第1吹出方向切替ダンパ
101 吹出方向切替用リンク構造
103 第1従動リンク
104 第1駆動リンク
104b 係合ピン
104d ピン本体
104e 押圧部
120 押圧部
R 空気流路
X 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用空調装置が有する空気流路を開閉するダンパに連結される従動リンクと、該従動リンクに係合する駆動リンクとを備えた車両用空調装置のリンク構造であって、
上記従動リンクと上記駆動リンクとの一方には、係合ピンが形成され、他方には、該係合ピンが挿入された状態で係合する係合部が所定方向に延びるように形成され、
上記係合ピンには、上記係合部に圧接して弾性変形する押圧部が設けられていることを特徴とする車両用空調装置のリンク構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空調装置のリンク構造において、
押圧部は、係合ピンの全周に設けられていることを特徴とする車両用空調装置のリンク構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用空調装置のリンク構造において、
係合ピンは、係合部に挿入されるピン本体と、該ピン本体の外周面との間に所定の隙間を形成するように設けられる押圧部とを有していることを特徴とする車両用空調装置のリンク構造。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用空調装置のリンク構造において、
ピン本体と押圧部とが一体成形されていることを特徴とする車両用空調装置のリンク構造。
【請求項5】
請求項1または2に記載の車両用空調装置のリンク構造において、
押圧部は、係合ピンとは別部材で構成され、該係合ピンの外側に嵌合されていることを特徴とする車両用空調装置のリンク構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−208430(P2010−208430A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55285(P2009−55285)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000152826)株式会社日本クライメイトシステムズ (154)
【Fターム(参考)】