車両用空調装置のリンク機構
【課題】車両用空調装置1のダンパ26〜28等を駆動するためのリンク機構30において、複数の従動側リンク部材34〜36へ駆動力を分配する駆動側のリンク部材33を樹脂材により成形する場合に、その冷却硬化時の収縮ムラを抑制することにより、試作に要する労力を軽減するとともに、成形時の温度管理も容易化し、製造コストの低減を図る。
【解決手段】駆動側リンク部材33の外形を略真円形状とする。その一側面における相対的に外周寄りの範囲にそれぞれ設ける3本のカム溝33c〜33eは、周方向にできるだけ均一に配置して、隣り合うカム溝同士のオーバーラップα等を所定以下とする。カム溝33c〜33eはいずれも貫通溝とはせず、丸穴33a,33bや貫通穴33f等の貫通空所は相対的に内周寄りの範囲のみに設ける。
【解決手段】駆動側リンク部材33の外形を略真円形状とする。その一側面における相対的に外周寄りの範囲にそれぞれ設ける3本のカム溝33c〜33eは、周方向にできるだけ均一に配置して、隣り合うカム溝同士のオーバーラップα等を所定以下とする。カム溝33c〜33eはいずれも貫通溝とはせず、丸穴33a,33bや貫通穴33f等の貫通空所は相対的に内周寄りの範囲のみに設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置のエアミックスダンパ等を作動させるためのリンク機構に関し、特に樹脂製リンク部材の構造に係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用空調装置のケースの外側にはアクチュエータモータが配設され、リンク機構を介してケース内のエアミックスダンパや風向切換ダンパ等を作動させるようになっている。そして、例えば特許文献1に開示されるように、温度制御のためのエアミックスダンパの作動と、吹き出しモード切替のための風向切換ダンパの作動とを、1つのアクチュエータモータにより行うようにしたものも知られている。
【0003】
このものでは、アクチュエータモータの出力軸に板状部材からなる分配リンクを取り付け、この分配リンクに設けた複数のカム溝に、それぞれピンにより各リンク部材の一端部を連結する一方、該各リンク部材の他端部は各々エアミックスダンパや風向切換ダンパ等の駆動レバーに連結している。
【0004】
そして、前記アクチュエータモータにより分配リンクを回動させ、これにより各リンク部材を動かして、エアミックスダンパや風向切換ダンパ等を同期して作動させることで、空調装置における温度制御と吹き出しモードの切替えとが適切な相関関係をもって行われるようになっている。
【0005】
ところで、そのようなリンク機構において従動側の各リンク部材に駆動力を分配する分配リンク(駆動側リンク部材)は、同文献の図12、13等に示されるように、カム溝の形成部位以外の余肉を削ぎ落とした異形の板状部材であり、このような異形のリンク部材は通常、形状の自由度が高い樹脂材の成形品とされている。
【特許文献1】特開2003−34125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記のような異形のリンク部材を樹脂材により成形する場合、図13に模式的に示すように、冷却硬化時の収縮による変形量が部位によって大きく異なることから、リンク部材L全体の形状が変わって、それに設けられているカム溝gの形状に狂いが生じるとともに、リンク部材L全体が厚み方向に反ってしまうこともある。
【0007】
そうなると、空調装置のケースや他のリンク部材との組み付け作業が難しくなったり、或いは組み付け後のリンク機構の作動に不具合を生じたりする上に、そのリンク機構によって駆動されるダンパの位置の誤差が大きくなってしまい、空調温度や吹き出しモードの制御が不正確なものになる虞れもある。
【0008】
これに対し、従来より一般的に、成形時の金型の温度を精密に制御し、それを部分的に変えることによって、前記のような収縮ムラをできるだけ小さくするようにしているが、それだけでは不十分であり、実際にリンク部材の量産を開始するまでには、試作品の出来映えに応じて金型の一部を削ったり、それに肉を盛ったりして、型形状を微妙に調整するという作業を繰り返す必要があった。
【0009】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両用空調装置のリンク機構において駆動力を分配する駆動側のリンク部材を樹脂材により成形する場合に、その構造に工夫を凝らして冷却硬化時の収縮ムラを抑制することにより、試作に要する労力を軽減するとともに、成形時の温度管理も容易化し、もって製造コストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明では、樹脂製の板部材からなる駆動側リンク部材の外形を略真円形状としたものである。尚、ここでいう略真円形状とは、その直径の最大値及び最小値の偏差が概略、5%未満のこととする。
【0011】
すなわち、請求項1の発明は、車両用空調装置において1つの駆動側リンク部材から複数の従動側リンク部材に駆動力を伝達するように構成されたリンク機構であって、前記の駆動側リンク部材が、複数の駆動側係合部を有する樹脂製の板部材からなり、一方、複数の従動側リンク部材がそれぞれ前記各駆動側係合部に係合する従動側係合部を有する場合に、その駆動側リンク部材の外形を略真円形状としたものである。
【0012】
前記の構成により、略真円形状の駆動側リンク部材を樹脂材により成形するときには、それが冷却硬化する際の収縮による変形量が周方向について概ね均一になるので、駆動側リンク部材全体の形状はあまり変化せず、それに設けられている駆動側係合部の位置や形状にも狂いは生じ難い。よって、成形時の金型温度の管理が容易になるとともに、その試作時における金型形状の微調整の繰り返しが従来よりも遙かに少なくて済むようになり、もって製造コストの低減が図られる。
【0013】
前記駆動側リンク部材として、より具体的には、その少なくとも一側面の外周寄りの範囲においてそれぞれ周方向に延びるとともに、径方向に屈曲するカム溝の設けられたものとすればよく、この場合、従動側リンク部材は、それぞれ前記カム溝に係合する係合突部を有するものとなる(請求項2の発明)。
【0014】
すなわち、相対的に収縮ムラの影響が大きい外周寄りの範囲に、周方向に延びるカム溝が設けられている場合には、駆動側リンク部材の変形によるカム溝形状の狂いが特に大きくなり、このことに起因する不具合が大きくなりやすいので、このような構成において、前記請求項1の発明が特に有効なものとなる。
【0015】
その場合に好ましいのは、複数のカム溝を周方向全体に設けて、隣り合う2つのカム溝同士が半径方向に重なり合う(オーバーラップする)周方向の範囲と、カム溝の設けられていない周方向範囲との合計を、全周の2割未満とすることである(請求項3の発明)。こうしてカム溝自体を周方向にできるだけ均一に設けることで、溝があることによる収縮ムラを軽減することができる。
【0016】
例えば3本のカム溝を個別に設ける場合には、それぞれを周方向に90度以上且つ130度未満の角度範囲に亘るものとすればよく(請求項4の発明)、こうすれば、前記請求項3の発明のようにカム溝を周方向に概略、均一に設けることが可能になる。
【0017】
また、3本のカム溝を、それぞれ周方向に130度以上の角度範囲に亘って設けるとともに、そのうちの2本を互いに連繋させるようにしてもよい(請求項5の発明)。こうすれば、カム溝を相互のオーバーラップ量はあまり大きくせずに、より大きな角度範囲に亘って設けることができるので、駆動側リンク部材に要求される回動量が大きい場合にも対応可能となる。
【0018】
より好ましいのは、前記のように複数のカム溝が設けられている駆動側リンク部材の外周寄りの範囲には、その各カム溝も含めて当該駆動側リンク部材を貫通するような空所を設けないことである(請求項6の発明)。すなわち、相対的に収縮ムラの影響が大きい外周寄りの範囲に貫通空所が設けられていると、この貫通空所の周囲で駆動側リンク部材が大きく変形する虞れがあるから、その範囲には貫通空所は形成せず、また、カム溝自体も貫通溝にはしないことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、樹脂材の成型品である駆動側リンク部材の外形を略真円形状としたから、その成形時の冷却硬化の際の収縮によるリンク部材全体の変形を抑えて、それに設けられているカム溝等、駆動側係合部の位置や形状の狂いを抑制することができる。これにより、試作の繰り返しに要する労力を軽減し、成形時の温度管理も容易化して、製造コストを低減することができる。
【0020】
特に、請求項3〜5の発明のようにカム溝を周方向にできるだけ均一に設けることで、溝があることによる収縮ムラも軽減でき、さらに、相対的に収縮ムラの影響が大きい外周寄りの範囲には貫通空所を設けないことで、リンク部材全体の変形をより効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1及び図2は、それぞれ、本発明の実施形態に係る車両用空調装置1を車両前後方向の後側及び前側から見た斜視図である。尚、以下の説明では特に説明しない場合、「前」及び「後」はそれぞれ「車両前後方向前」及び「車両前後方向後」を意味しており、「左」及び「右」は、それぞれ車体を基準とした「車幅方向左」(図1の左)及び「車幅方向右」(同図の右)を意味している。
【0022】
(空調装置の構成)
この実施形態の空調装置1は、図示は省略するが、左ハンドル車においてエンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルと、乗員の前方に対向するインストルメントパネルとの間に配置されるものであり、車幅方向の概略中央部に配置される空調ユニット2と、その右側(助手席側)に配置される送風ユニット6と、を備えている。
【0023】
−空調ユニット−
前記空調ユニット2は、送風ユニット6から送られてくる空調用空気を冷却乃至加熱して、温度乃至湿度を調整した調和空気として車室に供給するものであり、図3にも示すように、送風ユニット6からの空気が流通する中間ダクト21が一体となった樹脂製のケース20(以下、空調ケースという)を備えている。この空調ケース20は、下側部分を形成する下側ケース部材20aと、残りの上側部分のうちの右半分を形成する右側ケース部材20bと、左半分を形成する左側ケース部材20cとが、互いに組み合わされてなる。
【0024】
図4にも示すように、前記空調ケース20の右側壁における前側の部位には、下側ケース部材20aと右側ケース部材20bとに跨って中間ダクト21が形成されている。また、図3に示すように、空調ケース20の上面部前側には左右のケース部材20b,20cに跨って、複数の領域に区分されたデフロスト口22が開口しており、一方、上面部の後側には同様にベント口23が開口している。
【0025】
さらに、空調ケース20の後側には下方に向かって開口するようにリヤフット用ダクト24が形成されていて、図示しないが、その下端に連結されるダクトが後席の足下空間にまで延びている。また、前記リヤフット用ダクト24の上端付近におけるケース20の左右両側壁には、それぞれ下方に向かって延びるようにフロントフット用ダクト25(左側のみ図示する)が配設されている。
【0026】
図5にケース20の内部を示すように、前記デフロスト口22及びベント口23には、それぞれの開口を開閉するためのデフロストダンパ26、ベントダンパ27が配置されており、同様に、ケース20内には、フロント及びリヤのフット用ダクト24,25への連通部を開閉するためのフットダンパ28が配置されている。該各ダンパ26〜28は、それぞれ車幅方向に延びる支軸を有し、この支軸の両端が空調ケース20の左右両側壁に回動可能に支持されている。
【0027】
また、前記各ダンパ26〜28の支軸の一方の端部(この例では右側の端部)は、それぞれ空調ケース20の右側壁を貫通して外方に突出しており、図1、3、4に示すように当該ケース20の右側壁外側に取り付けられたアクチュエータモータ29に対して、リンク機構30を介して接続されている。このアクチュエータモータ29は、リンク機構30との干渉を避けるようにケース右側壁に突設された3つのボス部31,31,…(図6参照)に対し、一側(図4の右側)ではブラケット80を介して、また、他側(同左側)では直接、ねじ32,32,…により締結されている。
【0028】
前記リンク機構30は、図6に拡大して示すように、アクチュエータモータ29(仮想線で示す)の出力軸29aにより回転駆動される駆動側リンク部材33と、この駆動側リンク部材33からそれぞれ駆動力を伝達されて動作する3つの従動側リンク部材34〜36と、各ダンパ26〜28の支軸に各々固定されて、前記各従動側リンク部材34〜36によりそれぞれ回動されるクランク部材37〜39と、からなる。
【0029】
前記駆動側リンク部材33は、前記図6とは反対側から見て図7に示すように、樹脂材を射出成形してなる略真円形状の板部材であり、その略中央部を厚み方向に貫通する丸穴33aに図示しないピン部材等が一側(同図の奥側、図6の手前側)から挿入されて、空調ケース20の右側壁に回動可能に取り付けられている。また、中心から所定距離、径方向外方に離れて、モータ出力軸29a(図6に仮想線で示す)に取り付けられるレバー部材先端のピンが回動可能に挿入される丸穴33bも貫通形成されている。
【0030】
また、図7の手前側に示す面には、駆動側リンク部材33の相対的に外周寄りの部位においてそれぞれ周方向に延びるとともに、半径方向に屈曲する所定形状の3本のカム溝33c,33d,33eが形成されており、それぞれに、前記図6に破線で示すように従動側リンク部材34〜36のピン34a〜36aが摺動可能に嵌合(係合)している。尚、図示の符号33fは、ケース20側のボス部31との干渉を避けるように形成された貫通穴である。
【0031】
前記従動側リンク部材34〜36は、それぞれ樹脂材を射出成形してなる一方向に長い板部材であり、その長手方向の一方の端部が他方に比べて大きめに形成されるとともに、それらの中間部位から厚み方向の一側に突出して、前記駆動側リンク部材33の各カム溝33c〜33eに各々係合するピン34a〜36a(係合突部)が形成されている。各従動側リンク部材34〜36の相対的に大きな端部(大端部)には、それぞれ厚み方向に貫通する丸穴34b〜36bが形成され、ピン部材等によって空調ケース20の右側壁に回動可能に取り付けられる一方、相対的に小さな端部(小端部)には、それぞれ前記中間部位のピン34a〜36aとは反対側にピン34c〜36cが突設されている。
【0032】
そして、前記各従動側リンク部材34〜36の小端部が、それぞれピン34c〜36cによって各ダンパ26〜28のクランク部材37〜39に対し回動可能に、且つ該各クランク部材37〜39の長手方向に摺動可能に連結されている。すなわち、各クランク部材37〜39は、それぞれ樹脂材を射出成形してなる一方向に長い板部材であり、その長手方向の一方の端部が各々ダンパ26〜28の支軸に回動不能に固定されるとともに、その固定部位を除く長手方向の略全体に亘って長穴37a〜39aが形成されていて、そこに前記各従動側リンク部材34〜36の小端部のピン34c〜36cが各々回動可能に、且つ該各長穴37a〜39aに沿って摺動可能に嵌合している。
【0033】
そのような構成により、アクチュエータモータ29によって駆動側リンク部材33が回動されると、その各カム溝33c〜33eに係合するピン34a〜36aの変位に応じて各従動側リンク部材34〜36が大端部の周りに揺動し、その小端部に各々ピン34c〜36cにより連結されたクランク部材37〜39が、ダンパ26〜28の各支軸と一体に揺動する。これにより、3つのダンパ26〜28が互いに同期してそれぞれ揺動することになる。
【0034】
さらに、空調ケース20の内部には、前記図5に矢印で示すように、中間ダクト21から導入された空気が前記デフロスト口22、ベント口23並びにフロント及びリヤのフット用ダクト24,25へと至る経路を、その途中で加熱通路と非加熱通路とに分けるように温調ダンパ40が配置されている。この温調ダンパ40は、図示しないが、空調ケース20内を左右に概略半分に仕切る仕切壁を挟んで、その左右両側に1つずつ配置され、それぞれが前記デフロストダンパ26等と同じく車幅方向の支軸を有し、その一方の端部がケース外に突出して、図1、3、4に右側のものについて示すように、リンク部材41等を介してアクチュエータモータ42に接続されている。
【0035】
再び図5に示すように、空調ケース20内の前部には、中間ダクト21内を流通した空気が最初に導入される導入空間部が形成され、この導入空間部と前記温調ダンパ40との間に、空気を冷却するための熱交換器としてエバポレータ44が配置されている。エバポレータ44は、詳細は図示しないが、例えばアルミ合金製のチューブと伝熱フィンとが交互に並べられて一体化された所謂チューブアンドフィンタイプのものであり、この例では縦置きに配置されて、その前面が導入空間部に臨んでいる。
【0036】
前記エバポレータ44の右側には、冷媒の流入タンク及び流出タンクが設けられていて、それぞれに対し冷媒の入口側配管45及び出口側配管46が接続されている。図1、3、4に示すように、それらの配管45,46は、空調ケース20の右側壁を貫通し、中間ダクト21の上方からその前方に引き回された後に、空調ケース20の前端から右側に延出するシールブロック47を貫通して、エンジンルーム側に延びている。この配管45,46を介して図示しないエンジンルーム内の冷媒回路から低温低圧の液冷媒が流入するようになっており、この液冷媒がチューブ内を流通しつつ蒸発することで周囲の熱を奪い、これにより、伝熱フィンの間を通過する空気が冷却される。
【0037】
そうしてエバポレータ44を通過した空気の流れは温調ダンパ40によって、下方の加熱通路と上方の非加熱通路とのいずれかに振り分けられる。すなわち、温調ダンパ40の後方斜め下方には、空気を加熱するための熱交換器であるヒータコア48が若干後傾した状態で縦置きに配置されており、温調ダンパ40により下側に振り分けられた空気の流れが伝熱フィンの間を通過する間に、チューブ内を流通する高温のエンジン冷却水と熱交換して、加熱されるようになっている。
【0038】
前記ヒータコア48は、エバポレータ44と同じくチューブアンドフィンタイプのものであり、エンジン側から高温の冷却液を導入するための導入管49と、ヒータコア48内の冷却液をエンジン側に戻す導出管50とが接続されている(図2参照)。これら導入管49及び導出管50は、空調ケース20の左側壁を貫通してその前面を中間ダクト21の前方まで引き回された後、エバポレータ44の配管45,46と同様にシールブロック47を貫通して、エンジンルーム側に延びている。
【0039】
そして、前記温調ダンパ40が図5に実線で示す最大加熱位置にあるときには、エバポレータ44を通過した空気が全て加熱通路に向かうことになり、一方、図に仮想線で示す最大冷気位置にあるときには空気が全て非加熱通路に向かうことになる。温調ダンパ40はアクチュエータモータ42により駆動されて、前記最大冷気位置と最大加熱位置との間の複数の開度位置に位置付けられるようになっており、この開度位置に応じて、加熱通路及び非加熱通路を流通する空気の配分が変化することになる。
【0040】
そうして温調ダンパ40により一旦、加熱通路及び非加熱通路に振り分けられた空気の流れは当該温調ダンパ40の上方で合流し、温度乃至湿度の調整された調和空気となる。すなわち、温調ダンパ40の上方で、デフロストダンパ26やベントダンパ27の下方の空間は、冷気と加熱空気とが混ざり合うエアミックス空間部であり、ここで生成された調和空気がデフロスト口22、ベント口23並びにフロント及びリヤのフット用ダクト24,25へと送り出されて、所定カ所から車室内へ供給されるようになっている。
【0041】
尚、この実施形態では、前記図1〜4に示すように、空調ユニット2のエバポレータ44にて発生する凝縮水を外部に排出するための排水ダクト51が、空調ユニット2のケース20から中間ダクト21の下縁に沿って送風ユニット6の側に延びるように設けられている。この排水ダクト51には、空調ユニット2をダッシュパネルに固定するための板状の取付プレート52が一体に形成され、それに設けられた貫通孔52aに、図示しないがダッシュパネルに設けられているスタッドボルトが挿通されて、ナットにより締結されるようになっている。
【0042】
また、前記図1〜4に示すように、空調ケース20の左右両側壁には、それぞれの上端付近において左右外方に延びる板状の取付プレート53,54が一体に形成されている。この各取付プレート53,54は、それぞれ、図示しないインストルメントパネルのフレーム部材(以下、インパネメンバという)に上下方向から重ね合わされて、締結されるものであり、その上面である締結面には、インパネメンバに設けられているスタッドボルト(図示せず)が挿通される貫通孔53a,54aが開口している。
【0043】
−送風ユニット−
次に、前記空調ユニット2へ空調用空気を送給する送風ユニット6について説明する。この実施形態の送風ユニット6は、空調ケース20側の中間ダクト21に接続される接続枠部61(図8参照)が一体に形成された樹脂製のケース60(以下、送風ケースという)を備えており、送風ケース60は、車幅方向に分割された右側ケース部材60a及び左側ケース部材60bの2つの分割体が互いに組み合わされてなる。
【0044】
図8及び図9にも示すように、送風ケース60の上部は、車幅方向に延びる蒲鉾形状を基本とし、その後半部が後側ほど下方に傾斜する円弧面とされ、そこには車内の空気を取り入れるための格子状の内気取入口62が形成されている。一方、ケース上部の前半部には、前方斜め上方に向かって延びる略矩形断面の外気取入ダクト63が形成されており、このダクト63内の通路に連通する送風ケース60内の上部空間が、車室内又は車室外のいずれかから空気を取り入れる空気取入空間部とされている。
【0045】
また、送風ケース60の下部は、その外周側の部位が上下方向の軸心を中心とする渦巻き状に形成され、その内部の渦状通路の内周側には、図示しないが、前記空気取り入れ空間部に取り入れられた空気を吸い込んで、外周側に送り出す遠心式多翼ファンが収容されている。一方、前記渦状通路の終端は、送風ケース60の左側壁の前側下部に開口しており、この開口の周縁から外方(左側)に延びて、空調ケース20の中間ダクト21に接続される接続枠部61が形成されている。
【0046】
また、前記のように蒲鉾状に形成されたケース上部と渦巻き状に形成されたケース下部との中間部位は、前後左右を囲む矩形状に形成され、そこには、空気取り入れ空間部に取り入れられた空気を濾過するためのエアフィルタが配置されるようになっている。このケース中間部位の後部には、図示しないがエアフィルタを交換するための矩形状の開口部が形成されていて、この開口部を開閉する蓋部材64が設けられている。
【0047】
さらに、前記送風ケース60には、図8、9の他、図1、2にも示すように、送風ユニット6をダッシュパネルに固定するための取付プレート65,66,67が一体に形成されている。すなわち、取付プレート65は、送風ケース60の上部左側壁から外方に延びるように設けられ、略水平な取付面に上下方向の貫通孔65aが開口する横板部と、その後端から垂下する縦板部とからなる断面L字状とされており、図1に示すように、空調ケース20の右側壁に形成された取付プレート54と重ね合わされて、図外のインパネメンバに共締めされるようになっている。
【0048】
また、取付プレート66,67は、それぞれ、送風ケース60の上部及び下部の右側壁の後端付近から後方斜め右側に延出した後に、折れ曲がってさらに右側に延びていて、前後方向の貫通孔66a,67aが形成された板部材からなる。この上下の各取付プレート66,67は、それぞれ図示しないインパネメンバに前後方向から重ね合わされ、そこに設けられているスタッドボルトが貫通孔66a,67aを挿通し、これにナットが螺合することで、インパネメンバに締結される。
【0049】
前記のような送風ケース60内の上部に形成された空気取入空間部には、内気取入口62と外気取入ダクト63内の通路とを択一的に閉じるように内外気切換ダンパ70が配置されている。この内外気切換ダンパ70は、車幅方向の軸心回りに揺動するロータリダンパであり、図10に示すように、揺動軸心Yに略直交して径方向外方に向かい拡幅しつつ延びる概略楔形状の一対の側壁部71,71と、その外周縁同士を繋ぐように一体に形成された外周壁部72と、前記両側壁部71,71の内周端からそれぞれ揺動軸心Yに沿って外方に突出する支軸部73,73と、を備えている。
【0050】
また、前記側壁部71,71の揺動方向の両側縁には、それぞれ揺動軸心Y方向外方に突出するようにフランジ74a,74aが形成されるとともに、前記外周壁部72にも、揺動方向の両側縁においてそれぞれ径方向外方に突出するようにフランジ74b,74bが形成され、それらのフランジ74a,74bが各側壁部71及び外周壁部72の連なる角部を回り込んで互いに繋がっていて、内外気切換ダンパ70の全体を周回するようにフランジ74が構成されている。このフランジ74には、それを挟むように発泡樹脂製のシール部材75が取り付けられている。
【0051】
前記内外気切換ダンパ70の両支軸部73,73は、それぞれ、送風ケース60の左右両側壁に回動可能に支持されており、そのうちの一方の支軸部73(この例では左側の支軸部)の先端が送風ケース60の左側壁を貫通して外方に突出していて、前記図8に示すようにリンク部材76を介してアクチュエータモータ77に接続されている。
【0052】
そして、そのアクチュエータモータ77により内外気切換ダンパ70が駆動されて、外気取入ダクト63内の通路を全開とする外気取入状態では、内気取入口62が全閉となり、外気取入ダクト63を介して車室外の空気のみを取り入れるようになる。反対に外気取入ダクト63内の通路を全閉とすれば、内気取入口62が全開となり、ここから車室内の空気のみを取り入れるる内気取入状態になる。
【0053】
そうして車室内外のいずれかから送風ケース60内の空気取入空間部に取り入れられた空気は、その下方のエアフィルタを通過して濾過された後に遠心式多翼ファンに吸い込まれ、その外周を囲むケース下部の渦状通路に吐き出される。この渦状通路で向きを変えた空気の流れは、送風ケース60の左側壁に開口する渦状通路の終端から中間ダクト21を介して、空調ユニット2へと送り出される。
【0054】
(駆動側リンク部材の構造)
次に、本願発明の特徴として、上述の空調ユニット2においてダンパ26〜28を駆動するリンク機構30の駆動側リンク部材33の構造について、詳細に説明する。
【0055】
図6、7を参照して既述したように、リンク機構30は、アクチュエータモータ29により回動される1つの駆動側リンク部材33を備え、この駆動側リンク部材33の3本のカム溝33c〜33eにそれぞれピン34a〜36aが嵌合された3つの従動側リンク部材34〜36が、クランク部材37〜39を介してダンパ26〜28を駆動するようになっている。
【0056】
前記駆動側リンク部材33は、樹脂材の成型品であることから、従来一般的な異形のものとした場合、その成形時の冷却硬化の際に変形してしまい(図13参照)、カム溝33c〜33eの形状に狂いを生じる等して、空調ケース20や従動側リンク部材34〜36との組み付けが難しくなったり、或いは組み付け後のリンク機構30の作動に不具合を生じたりする虞れがあった。
【0057】
そこで、この実施形態では、前記図6、7の他、図11にも示すように、駆動側リンク部材33の外形を略真円形状にすることで、それが冷却硬化する際の収縮による変形量(収縮ムラ)を周方向についてできるだけ均一にするとともに、その一側面に設けるカム溝33c〜33eや貫通穴33fの配置にも工夫を凝らして、変形を可及的に抑制したものである。尚、略真円形状とは、その直径の最大値及び最小値の偏差が概略、5%未満であればよいが、この偏差を1%未満とすれば、より好ましい。
【0058】
より詳しくは、まず、3本のカム溝33c〜33eは、駆動側リンク部材33の一側面において外周縁から半径方向内方に2/5までの外周寄りの範囲(図に斜線を入れて示す範囲)に設けられている。このような外周寄りの範囲では、内周寄りの範囲に比べて相対的に収縮ムラの影響が大きくなるため、カム溝33c〜33eの狂いを抑えるためには、駆動側リンク部材33の変形を抑える必要性が高い。
【0059】
そこで、この実施形態では、駆動側リンク部材33の外形を略真円形状にするとともに、3本のカム溝33c〜33eをそれぞれ周方向に120〜125度くらいの角度範囲に亘るものとして、それらを周方向にできるだけ均一に分布するように配置している。この結果、周方向に隣り合う2つのカム溝33c,33dが互いに半径方向に重なり合う(オーバーラップする)周方向の角度範囲α(図の例では約30°)と、2つのカム溝33d,33eの隣り合う端部同士が周方向に離れていて、カム溝の存在しない周方向の角度範囲β(図の例では約10°)との合計が、全周に対応する角度範囲(360°)の2割未満になっている。尚、2つのカム溝33e,33cのオーバーラップする角度範囲γは略零である。
【0060】
つまり、駆動側リンク部材33の外形を略真円形状にするだけでなく、その一側面の外周寄りの範囲において、カム溝33c〜33eを周方向にできるだけ均一に設けており、こうすることで、カム溝(即ち、部材の厚みの急変する部位)の存在によって起こり得る変形も軽減することができる。
【0061】
さらに、前記の駆動側カム部材33には、空調ケース20のボス部31との干渉を避けるための貫通穴33fや丸穴33a,33bのような厚み方向の貫通空所が設けられているが、これらはいずれも前記カム溝33c〜33eの設けられている外周寄りの範囲ではなく、それよりも内周側の範囲のみに設けられている。これは、前記のように相対的に収縮ムラの影響が大きい外周寄りの範囲に貫通空所が存在すると、その周囲でも部材の変形が大きくなる虞れがあることを考慮したものである。
【0062】
したがって、この実施形態に係る車両用空調装置1のリンク機構30によると、樹脂材の成型品である駆動側リンク部材33の外形を略真円形状とし、3本のカム溝33c〜33eを周方向にできるだけ均一に設けたことで、その成形時の冷却硬化の際の変形が抑制されて、反りが非常に小さくなるとともに、カム溝33c〜33eの狂いも小さくなるので、当該駆動側リンク部材33の試作の繰り返しに要する労力を軽減し、成形時の温度管理も容易化して、製造コストを低減できる。
【0063】
しかも、前記カム溝33c〜33eを貫通溝とはせず、必要な丸穴33a,33bや貫通穴33fは相対的に内周寄りの範囲に設けて、収縮ムラ(変形)の影響が大きい駆動側リンク部材33の外周寄りの範囲には一切、貫通空所を設けないことで、当該駆動側リンク部材33の変形をより効果的に抑制し、前記の効果を高めることができる。
【0064】
尚、この実施形態では、前記のように3本のカム溝33c〜33eを、駆動側リンク部材33の外周縁から半径方向内方に2/5までの範囲に設けているが、これに限らず、外周縁から半径方向内方に1/3〜1/2までの範囲に設けてもよい。この場合、貫通穴33fや丸穴33a,33bのような貫通空所は中心から半径方向外方に2/3〜1/2までの範囲に設けることができるが、特に1/2までの範囲とするのが好ましい。
【0065】
また、前記の実施形態では、カム溝33c〜33eを個別に3本、設けているが、これに限るものではない。すなわち、例えば駆動側リンク部材33により大きな回動量が求められ、これに応じて、各カム溝33c〜33eをより大きな角度範囲に亘って設ける場合(例えば130度以上の角度範囲に亘って設ける場合)、各カム溝33c〜33eを個別に設けたのではそれらのオーバーラップ量が多くなり過ぎる。
【0066】
そこで、そのような場合には、図12に示すように例えば2本のカム溝同士(図の例では33d,33e)を連繋させるようにするのが好ましく、こうすれば、カム溝33c〜33eを、相互のオーバーラップはあまり大きくすることなく、より大きな角度範囲に亘って設けることができる。
【0067】
また、前記の実施形態では、駆動側リンク部材33の一側面に3本のカム溝33c〜33eを設けているが、カム溝の本数は3本に限らず、2本であっても、4本以上であってもよいし、それらを駆動側リンク部材33の両側面に振り分けて設けることもできる。
【0068】
さらに、駆動側リンク部材に設ける駆動側係合部はカム溝に限らず、ピン等とすることもでき、この場合には、そのピン等に係合する溝や長穴を従動側リンク部材に設ければよい。
【0069】
さらにまた、前記の実施形態では、本発明に係るリンク機構30を風向切換用のダンパ26〜28の駆動に用いているが、これに限らず、温調ダンパ40も駆動するものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上、説明したように、本発明は、リンク機構において従動側の各リンク部材に駆動力を分配する駆動側リンク部材を樹脂材により成形する場合に、その試作の繰り返しに要する労力を軽減し、成形時の温度管理も容易化して、製造コストを低減できるものであるから、大量生産される自動車用空調装置での使用に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施形態に係る車両用空調装置の車両前後方向後側から見た斜視図である。
【図2】同じく前側から見た斜視図である。
【図3】車両用空調装置の空調ユニットを車両前後方向後側から見た斜視図である。
【図4】空調ユニットを車幅方向右側から見た側面図である。
【図5】空調ユニットの内部を車幅方向右側から見たレイアウト図である。
【図6】車幅方向右側から見たリンク機構の拡大図である。
【図7】駆動側リンク部材の正面図である。
【図8】送風ユニットを車両前後方向後側の斜め左側から見た斜視図である。
【図9】同じく斜め右側からの斜視図である。
【図10】内外気切換ダンパの斜視図である。
【図11】駆動側リンク部材の構造上の特徴を示す説明図である。
【図12】2本のカム溝を連繋させた変形例に係る図7相当図である。
【図13】従来一般的な異形の駆動側リンク部材が収縮により変形する様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0072】
1 車両用空調装置
30 リンク機構
33 駆動側リンク部材
33c〜33e カム溝
34〜36 従動側リンク部材
34a〜36a ピン(係合突部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置のエアミックスダンパ等を作動させるためのリンク機構に関し、特に樹脂製リンク部材の構造に係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用空調装置のケースの外側にはアクチュエータモータが配設され、リンク機構を介してケース内のエアミックスダンパや風向切換ダンパ等を作動させるようになっている。そして、例えば特許文献1に開示されるように、温度制御のためのエアミックスダンパの作動と、吹き出しモード切替のための風向切換ダンパの作動とを、1つのアクチュエータモータにより行うようにしたものも知られている。
【0003】
このものでは、アクチュエータモータの出力軸に板状部材からなる分配リンクを取り付け、この分配リンクに設けた複数のカム溝に、それぞれピンにより各リンク部材の一端部を連結する一方、該各リンク部材の他端部は各々エアミックスダンパや風向切換ダンパ等の駆動レバーに連結している。
【0004】
そして、前記アクチュエータモータにより分配リンクを回動させ、これにより各リンク部材を動かして、エアミックスダンパや風向切換ダンパ等を同期して作動させることで、空調装置における温度制御と吹き出しモードの切替えとが適切な相関関係をもって行われるようになっている。
【0005】
ところで、そのようなリンク機構において従動側の各リンク部材に駆動力を分配する分配リンク(駆動側リンク部材)は、同文献の図12、13等に示されるように、カム溝の形成部位以外の余肉を削ぎ落とした異形の板状部材であり、このような異形のリンク部材は通常、形状の自由度が高い樹脂材の成形品とされている。
【特許文献1】特開2003−34125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記のような異形のリンク部材を樹脂材により成形する場合、図13に模式的に示すように、冷却硬化時の収縮による変形量が部位によって大きく異なることから、リンク部材L全体の形状が変わって、それに設けられているカム溝gの形状に狂いが生じるとともに、リンク部材L全体が厚み方向に反ってしまうこともある。
【0007】
そうなると、空調装置のケースや他のリンク部材との組み付け作業が難しくなったり、或いは組み付け後のリンク機構の作動に不具合を生じたりする上に、そのリンク機構によって駆動されるダンパの位置の誤差が大きくなってしまい、空調温度や吹き出しモードの制御が不正確なものになる虞れもある。
【0008】
これに対し、従来より一般的に、成形時の金型の温度を精密に制御し、それを部分的に変えることによって、前記のような収縮ムラをできるだけ小さくするようにしているが、それだけでは不十分であり、実際にリンク部材の量産を開始するまでには、試作品の出来映えに応じて金型の一部を削ったり、それに肉を盛ったりして、型形状を微妙に調整するという作業を繰り返す必要があった。
【0009】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両用空調装置のリンク機構において駆動力を分配する駆動側のリンク部材を樹脂材により成形する場合に、その構造に工夫を凝らして冷却硬化時の収縮ムラを抑制することにより、試作に要する労力を軽減するとともに、成形時の温度管理も容易化し、もって製造コストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明では、樹脂製の板部材からなる駆動側リンク部材の外形を略真円形状としたものである。尚、ここでいう略真円形状とは、その直径の最大値及び最小値の偏差が概略、5%未満のこととする。
【0011】
すなわち、請求項1の発明は、車両用空調装置において1つの駆動側リンク部材から複数の従動側リンク部材に駆動力を伝達するように構成されたリンク機構であって、前記の駆動側リンク部材が、複数の駆動側係合部を有する樹脂製の板部材からなり、一方、複数の従動側リンク部材がそれぞれ前記各駆動側係合部に係合する従動側係合部を有する場合に、その駆動側リンク部材の外形を略真円形状としたものである。
【0012】
前記の構成により、略真円形状の駆動側リンク部材を樹脂材により成形するときには、それが冷却硬化する際の収縮による変形量が周方向について概ね均一になるので、駆動側リンク部材全体の形状はあまり変化せず、それに設けられている駆動側係合部の位置や形状にも狂いは生じ難い。よって、成形時の金型温度の管理が容易になるとともに、その試作時における金型形状の微調整の繰り返しが従来よりも遙かに少なくて済むようになり、もって製造コストの低減が図られる。
【0013】
前記駆動側リンク部材として、より具体的には、その少なくとも一側面の外周寄りの範囲においてそれぞれ周方向に延びるとともに、径方向に屈曲するカム溝の設けられたものとすればよく、この場合、従動側リンク部材は、それぞれ前記カム溝に係合する係合突部を有するものとなる(請求項2の発明)。
【0014】
すなわち、相対的に収縮ムラの影響が大きい外周寄りの範囲に、周方向に延びるカム溝が設けられている場合には、駆動側リンク部材の変形によるカム溝形状の狂いが特に大きくなり、このことに起因する不具合が大きくなりやすいので、このような構成において、前記請求項1の発明が特に有効なものとなる。
【0015】
その場合に好ましいのは、複数のカム溝を周方向全体に設けて、隣り合う2つのカム溝同士が半径方向に重なり合う(オーバーラップする)周方向の範囲と、カム溝の設けられていない周方向範囲との合計を、全周の2割未満とすることである(請求項3の発明)。こうしてカム溝自体を周方向にできるだけ均一に設けることで、溝があることによる収縮ムラを軽減することができる。
【0016】
例えば3本のカム溝を個別に設ける場合には、それぞれを周方向に90度以上且つ130度未満の角度範囲に亘るものとすればよく(請求項4の発明)、こうすれば、前記請求項3の発明のようにカム溝を周方向に概略、均一に設けることが可能になる。
【0017】
また、3本のカム溝を、それぞれ周方向に130度以上の角度範囲に亘って設けるとともに、そのうちの2本を互いに連繋させるようにしてもよい(請求項5の発明)。こうすれば、カム溝を相互のオーバーラップ量はあまり大きくせずに、より大きな角度範囲に亘って設けることができるので、駆動側リンク部材に要求される回動量が大きい場合にも対応可能となる。
【0018】
より好ましいのは、前記のように複数のカム溝が設けられている駆動側リンク部材の外周寄りの範囲には、その各カム溝も含めて当該駆動側リンク部材を貫通するような空所を設けないことである(請求項6の発明)。すなわち、相対的に収縮ムラの影響が大きい外周寄りの範囲に貫通空所が設けられていると、この貫通空所の周囲で駆動側リンク部材が大きく変形する虞れがあるから、その範囲には貫通空所は形成せず、また、カム溝自体も貫通溝にはしないことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、樹脂材の成型品である駆動側リンク部材の外形を略真円形状としたから、その成形時の冷却硬化の際の収縮によるリンク部材全体の変形を抑えて、それに設けられているカム溝等、駆動側係合部の位置や形状の狂いを抑制することができる。これにより、試作の繰り返しに要する労力を軽減し、成形時の温度管理も容易化して、製造コストを低減することができる。
【0020】
特に、請求項3〜5の発明のようにカム溝を周方向にできるだけ均一に設けることで、溝があることによる収縮ムラも軽減でき、さらに、相対的に収縮ムラの影響が大きい外周寄りの範囲には貫通空所を設けないことで、リンク部材全体の変形をより効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1及び図2は、それぞれ、本発明の実施形態に係る車両用空調装置1を車両前後方向の後側及び前側から見た斜視図である。尚、以下の説明では特に説明しない場合、「前」及び「後」はそれぞれ「車両前後方向前」及び「車両前後方向後」を意味しており、「左」及び「右」は、それぞれ車体を基準とした「車幅方向左」(図1の左)及び「車幅方向右」(同図の右)を意味している。
【0022】
(空調装置の構成)
この実施形態の空調装置1は、図示は省略するが、左ハンドル車においてエンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルと、乗員の前方に対向するインストルメントパネルとの間に配置されるものであり、車幅方向の概略中央部に配置される空調ユニット2と、その右側(助手席側)に配置される送風ユニット6と、を備えている。
【0023】
−空調ユニット−
前記空調ユニット2は、送風ユニット6から送られてくる空調用空気を冷却乃至加熱して、温度乃至湿度を調整した調和空気として車室に供給するものであり、図3にも示すように、送風ユニット6からの空気が流通する中間ダクト21が一体となった樹脂製のケース20(以下、空調ケースという)を備えている。この空調ケース20は、下側部分を形成する下側ケース部材20aと、残りの上側部分のうちの右半分を形成する右側ケース部材20bと、左半分を形成する左側ケース部材20cとが、互いに組み合わされてなる。
【0024】
図4にも示すように、前記空調ケース20の右側壁における前側の部位には、下側ケース部材20aと右側ケース部材20bとに跨って中間ダクト21が形成されている。また、図3に示すように、空調ケース20の上面部前側には左右のケース部材20b,20cに跨って、複数の領域に区分されたデフロスト口22が開口しており、一方、上面部の後側には同様にベント口23が開口している。
【0025】
さらに、空調ケース20の後側には下方に向かって開口するようにリヤフット用ダクト24が形成されていて、図示しないが、その下端に連結されるダクトが後席の足下空間にまで延びている。また、前記リヤフット用ダクト24の上端付近におけるケース20の左右両側壁には、それぞれ下方に向かって延びるようにフロントフット用ダクト25(左側のみ図示する)が配設されている。
【0026】
図5にケース20の内部を示すように、前記デフロスト口22及びベント口23には、それぞれの開口を開閉するためのデフロストダンパ26、ベントダンパ27が配置されており、同様に、ケース20内には、フロント及びリヤのフット用ダクト24,25への連通部を開閉するためのフットダンパ28が配置されている。該各ダンパ26〜28は、それぞれ車幅方向に延びる支軸を有し、この支軸の両端が空調ケース20の左右両側壁に回動可能に支持されている。
【0027】
また、前記各ダンパ26〜28の支軸の一方の端部(この例では右側の端部)は、それぞれ空調ケース20の右側壁を貫通して外方に突出しており、図1、3、4に示すように当該ケース20の右側壁外側に取り付けられたアクチュエータモータ29に対して、リンク機構30を介して接続されている。このアクチュエータモータ29は、リンク機構30との干渉を避けるようにケース右側壁に突設された3つのボス部31,31,…(図6参照)に対し、一側(図4の右側)ではブラケット80を介して、また、他側(同左側)では直接、ねじ32,32,…により締結されている。
【0028】
前記リンク機構30は、図6に拡大して示すように、アクチュエータモータ29(仮想線で示す)の出力軸29aにより回転駆動される駆動側リンク部材33と、この駆動側リンク部材33からそれぞれ駆動力を伝達されて動作する3つの従動側リンク部材34〜36と、各ダンパ26〜28の支軸に各々固定されて、前記各従動側リンク部材34〜36によりそれぞれ回動されるクランク部材37〜39と、からなる。
【0029】
前記駆動側リンク部材33は、前記図6とは反対側から見て図7に示すように、樹脂材を射出成形してなる略真円形状の板部材であり、その略中央部を厚み方向に貫通する丸穴33aに図示しないピン部材等が一側(同図の奥側、図6の手前側)から挿入されて、空調ケース20の右側壁に回動可能に取り付けられている。また、中心から所定距離、径方向外方に離れて、モータ出力軸29a(図6に仮想線で示す)に取り付けられるレバー部材先端のピンが回動可能に挿入される丸穴33bも貫通形成されている。
【0030】
また、図7の手前側に示す面には、駆動側リンク部材33の相対的に外周寄りの部位においてそれぞれ周方向に延びるとともに、半径方向に屈曲する所定形状の3本のカム溝33c,33d,33eが形成されており、それぞれに、前記図6に破線で示すように従動側リンク部材34〜36のピン34a〜36aが摺動可能に嵌合(係合)している。尚、図示の符号33fは、ケース20側のボス部31との干渉を避けるように形成された貫通穴である。
【0031】
前記従動側リンク部材34〜36は、それぞれ樹脂材を射出成形してなる一方向に長い板部材であり、その長手方向の一方の端部が他方に比べて大きめに形成されるとともに、それらの中間部位から厚み方向の一側に突出して、前記駆動側リンク部材33の各カム溝33c〜33eに各々係合するピン34a〜36a(係合突部)が形成されている。各従動側リンク部材34〜36の相対的に大きな端部(大端部)には、それぞれ厚み方向に貫通する丸穴34b〜36bが形成され、ピン部材等によって空調ケース20の右側壁に回動可能に取り付けられる一方、相対的に小さな端部(小端部)には、それぞれ前記中間部位のピン34a〜36aとは反対側にピン34c〜36cが突設されている。
【0032】
そして、前記各従動側リンク部材34〜36の小端部が、それぞれピン34c〜36cによって各ダンパ26〜28のクランク部材37〜39に対し回動可能に、且つ該各クランク部材37〜39の長手方向に摺動可能に連結されている。すなわち、各クランク部材37〜39は、それぞれ樹脂材を射出成形してなる一方向に長い板部材であり、その長手方向の一方の端部が各々ダンパ26〜28の支軸に回動不能に固定されるとともに、その固定部位を除く長手方向の略全体に亘って長穴37a〜39aが形成されていて、そこに前記各従動側リンク部材34〜36の小端部のピン34c〜36cが各々回動可能に、且つ該各長穴37a〜39aに沿って摺動可能に嵌合している。
【0033】
そのような構成により、アクチュエータモータ29によって駆動側リンク部材33が回動されると、その各カム溝33c〜33eに係合するピン34a〜36aの変位に応じて各従動側リンク部材34〜36が大端部の周りに揺動し、その小端部に各々ピン34c〜36cにより連結されたクランク部材37〜39が、ダンパ26〜28の各支軸と一体に揺動する。これにより、3つのダンパ26〜28が互いに同期してそれぞれ揺動することになる。
【0034】
さらに、空調ケース20の内部には、前記図5に矢印で示すように、中間ダクト21から導入された空気が前記デフロスト口22、ベント口23並びにフロント及びリヤのフット用ダクト24,25へと至る経路を、その途中で加熱通路と非加熱通路とに分けるように温調ダンパ40が配置されている。この温調ダンパ40は、図示しないが、空調ケース20内を左右に概略半分に仕切る仕切壁を挟んで、その左右両側に1つずつ配置され、それぞれが前記デフロストダンパ26等と同じく車幅方向の支軸を有し、その一方の端部がケース外に突出して、図1、3、4に右側のものについて示すように、リンク部材41等を介してアクチュエータモータ42に接続されている。
【0035】
再び図5に示すように、空調ケース20内の前部には、中間ダクト21内を流通した空気が最初に導入される導入空間部が形成され、この導入空間部と前記温調ダンパ40との間に、空気を冷却するための熱交換器としてエバポレータ44が配置されている。エバポレータ44は、詳細は図示しないが、例えばアルミ合金製のチューブと伝熱フィンとが交互に並べられて一体化された所謂チューブアンドフィンタイプのものであり、この例では縦置きに配置されて、その前面が導入空間部に臨んでいる。
【0036】
前記エバポレータ44の右側には、冷媒の流入タンク及び流出タンクが設けられていて、それぞれに対し冷媒の入口側配管45及び出口側配管46が接続されている。図1、3、4に示すように、それらの配管45,46は、空調ケース20の右側壁を貫通し、中間ダクト21の上方からその前方に引き回された後に、空調ケース20の前端から右側に延出するシールブロック47を貫通して、エンジンルーム側に延びている。この配管45,46を介して図示しないエンジンルーム内の冷媒回路から低温低圧の液冷媒が流入するようになっており、この液冷媒がチューブ内を流通しつつ蒸発することで周囲の熱を奪い、これにより、伝熱フィンの間を通過する空気が冷却される。
【0037】
そうしてエバポレータ44を通過した空気の流れは温調ダンパ40によって、下方の加熱通路と上方の非加熱通路とのいずれかに振り分けられる。すなわち、温調ダンパ40の後方斜め下方には、空気を加熱するための熱交換器であるヒータコア48が若干後傾した状態で縦置きに配置されており、温調ダンパ40により下側に振り分けられた空気の流れが伝熱フィンの間を通過する間に、チューブ内を流通する高温のエンジン冷却水と熱交換して、加熱されるようになっている。
【0038】
前記ヒータコア48は、エバポレータ44と同じくチューブアンドフィンタイプのものであり、エンジン側から高温の冷却液を導入するための導入管49と、ヒータコア48内の冷却液をエンジン側に戻す導出管50とが接続されている(図2参照)。これら導入管49及び導出管50は、空調ケース20の左側壁を貫通してその前面を中間ダクト21の前方まで引き回された後、エバポレータ44の配管45,46と同様にシールブロック47を貫通して、エンジンルーム側に延びている。
【0039】
そして、前記温調ダンパ40が図5に実線で示す最大加熱位置にあるときには、エバポレータ44を通過した空気が全て加熱通路に向かうことになり、一方、図に仮想線で示す最大冷気位置にあるときには空気が全て非加熱通路に向かうことになる。温調ダンパ40はアクチュエータモータ42により駆動されて、前記最大冷気位置と最大加熱位置との間の複数の開度位置に位置付けられるようになっており、この開度位置に応じて、加熱通路及び非加熱通路を流通する空気の配分が変化することになる。
【0040】
そうして温調ダンパ40により一旦、加熱通路及び非加熱通路に振り分けられた空気の流れは当該温調ダンパ40の上方で合流し、温度乃至湿度の調整された調和空気となる。すなわち、温調ダンパ40の上方で、デフロストダンパ26やベントダンパ27の下方の空間は、冷気と加熱空気とが混ざり合うエアミックス空間部であり、ここで生成された調和空気がデフロスト口22、ベント口23並びにフロント及びリヤのフット用ダクト24,25へと送り出されて、所定カ所から車室内へ供給されるようになっている。
【0041】
尚、この実施形態では、前記図1〜4に示すように、空調ユニット2のエバポレータ44にて発生する凝縮水を外部に排出するための排水ダクト51が、空調ユニット2のケース20から中間ダクト21の下縁に沿って送風ユニット6の側に延びるように設けられている。この排水ダクト51には、空調ユニット2をダッシュパネルに固定するための板状の取付プレート52が一体に形成され、それに設けられた貫通孔52aに、図示しないがダッシュパネルに設けられているスタッドボルトが挿通されて、ナットにより締結されるようになっている。
【0042】
また、前記図1〜4に示すように、空調ケース20の左右両側壁には、それぞれの上端付近において左右外方に延びる板状の取付プレート53,54が一体に形成されている。この各取付プレート53,54は、それぞれ、図示しないインストルメントパネルのフレーム部材(以下、インパネメンバという)に上下方向から重ね合わされて、締結されるものであり、その上面である締結面には、インパネメンバに設けられているスタッドボルト(図示せず)が挿通される貫通孔53a,54aが開口している。
【0043】
−送風ユニット−
次に、前記空調ユニット2へ空調用空気を送給する送風ユニット6について説明する。この実施形態の送風ユニット6は、空調ケース20側の中間ダクト21に接続される接続枠部61(図8参照)が一体に形成された樹脂製のケース60(以下、送風ケースという)を備えており、送風ケース60は、車幅方向に分割された右側ケース部材60a及び左側ケース部材60bの2つの分割体が互いに組み合わされてなる。
【0044】
図8及び図9にも示すように、送風ケース60の上部は、車幅方向に延びる蒲鉾形状を基本とし、その後半部が後側ほど下方に傾斜する円弧面とされ、そこには車内の空気を取り入れるための格子状の内気取入口62が形成されている。一方、ケース上部の前半部には、前方斜め上方に向かって延びる略矩形断面の外気取入ダクト63が形成されており、このダクト63内の通路に連通する送風ケース60内の上部空間が、車室内又は車室外のいずれかから空気を取り入れる空気取入空間部とされている。
【0045】
また、送風ケース60の下部は、その外周側の部位が上下方向の軸心を中心とする渦巻き状に形成され、その内部の渦状通路の内周側には、図示しないが、前記空気取り入れ空間部に取り入れられた空気を吸い込んで、外周側に送り出す遠心式多翼ファンが収容されている。一方、前記渦状通路の終端は、送風ケース60の左側壁の前側下部に開口しており、この開口の周縁から外方(左側)に延びて、空調ケース20の中間ダクト21に接続される接続枠部61が形成されている。
【0046】
また、前記のように蒲鉾状に形成されたケース上部と渦巻き状に形成されたケース下部との中間部位は、前後左右を囲む矩形状に形成され、そこには、空気取り入れ空間部に取り入れられた空気を濾過するためのエアフィルタが配置されるようになっている。このケース中間部位の後部には、図示しないがエアフィルタを交換するための矩形状の開口部が形成されていて、この開口部を開閉する蓋部材64が設けられている。
【0047】
さらに、前記送風ケース60には、図8、9の他、図1、2にも示すように、送風ユニット6をダッシュパネルに固定するための取付プレート65,66,67が一体に形成されている。すなわち、取付プレート65は、送風ケース60の上部左側壁から外方に延びるように設けられ、略水平な取付面に上下方向の貫通孔65aが開口する横板部と、その後端から垂下する縦板部とからなる断面L字状とされており、図1に示すように、空調ケース20の右側壁に形成された取付プレート54と重ね合わされて、図外のインパネメンバに共締めされるようになっている。
【0048】
また、取付プレート66,67は、それぞれ、送風ケース60の上部及び下部の右側壁の後端付近から後方斜め右側に延出した後に、折れ曲がってさらに右側に延びていて、前後方向の貫通孔66a,67aが形成された板部材からなる。この上下の各取付プレート66,67は、それぞれ図示しないインパネメンバに前後方向から重ね合わされ、そこに設けられているスタッドボルトが貫通孔66a,67aを挿通し、これにナットが螺合することで、インパネメンバに締結される。
【0049】
前記のような送風ケース60内の上部に形成された空気取入空間部には、内気取入口62と外気取入ダクト63内の通路とを択一的に閉じるように内外気切換ダンパ70が配置されている。この内外気切換ダンパ70は、車幅方向の軸心回りに揺動するロータリダンパであり、図10に示すように、揺動軸心Yに略直交して径方向外方に向かい拡幅しつつ延びる概略楔形状の一対の側壁部71,71と、その外周縁同士を繋ぐように一体に形成された外周壁部72と、前記両側壁部71,71の内周端からそれぞれ揺動軸心Yに沿って外方に突出する支軸部73,73と、を備えている。
【0050】
また、前記側壁部71,71の揺動方向の両側縁には、それぞれ揺動軸心Y方向外方に突出するようにフランジ74a,74aが形成されるとともに、前記外周壁部72にも、揺動方向の両側縁においてそれぞれ径方向外方に突出するようにフランジ74b,74bが形成され、それらのフランジ74a,74bが各側壁部71及び外周壁部72の連なる角部を回り込んで互いに繋がっていて、内外気切換ダンパ70の全体を周回するようにフランジ74が構成されている。このフランジ74には、それを挟むように発泡樹脂製のシール部材75が取り付けられている。
【0051】
前記内外気切換ダンパ70の両支軸部73,73は、それぞれ、送風ケース60の左右両側壁に回動可能に支持されており、そのうちの一方の支軸部73(この例では左側の支軸部)の先端が送風ケース60の左側壁を貫通して外方に突出していて、前記図8に示すようにリンク部材76を介してアクチュエータモータ77に接続されている。
【0052】
そして、そのアクチュエータモータ77により内外気切換ダンパ70が駆動されて、外気取入ダクト63内の通路を全開とする外気取入状態では、内気取入口62が全閉となり、外気取入ダクト63を介して車室外の空気のみを取り入れるようになる。反対に外気取入ダクト63内の通路を全閉とすれば、内気取入口62が全開となり、ここから車室内の空気のみを取り入れるる内気取入状態になる。
【0053】
そうして車室内外のいずれかから送風ケース60内の空気取入空間部に取り入れられた空気は、その下方のエアフィルタを通過して濾過された後に遠心式多翼ファンに吸い込まれ、その外周を囲むケース下部の渦状通路に吐き出される。この渦状通路で向きを変えた空気の流れは、送風ケース60の左側壁に開口する渦状通路の終端から中間ダクト21を介して、空調ユニット2へと送り出される。
【0054】
(駆動側リンク部材の構造)
次に、本願発明の特徴として、上述の空調ユニット2においてダンパ26〜28を駆動するリンク機構30の駆動側リンク部材33の構造について、詳細に説明する。
【0055】
図6、7を参照して既述したように、リンク機構30は、アクチュエータモータ29により回動される1つの駆動側リンク部材33を備え、この駆動側リンク部材33の3本のカム溝33c〜33eにそれぞれピン34a〜36aが嵌合された3つの従動側リンク部材34〜36が、クランク部材37〜39を介してダンパ26〜28を駆動するようになっている。
【0056】
前記駆動側リンク部材33は、樹脂材の成型品であることから、従来一般的な異形のものとした場合、その成形時の冷却硬化の際に変形してしまい(図13参照)、カム溝33c〜33eの形状に狂いを生じる等して、空調ケース20や従動側リンク部材34〜36との組み付けが難しくなったり、或いは組み付け後のリンク機構30の作動に不具合を生じたりする虞れがあった。
【0057】
そこで、この実施形態では、前記図6、7の他、図11にも示すように、駆動側リンク部材33の外形を略真円形状にすることで、それが冷却硬化する際の収縮による変形量(収縮ムラ)を周方向についてできるだけ均一にするとともに、その一側面に設けるカム溝33c〜33eや貫通穴33fの配置にも工夫を凝らして、変形を可及的に抑制したものである。尚、略真円形状とは、その直径の最大値及び最小値の偏差が概略、5%未満であればよいが、この偏差を1%未満とすれば、より好ましい。
【0058】
より詳しくは、まず、3本のカム溝33c〜33eは、駆動側リンク部材33の一側面において外周縁から半径方向内方に2/5までの外周寄りの範囲(図に斜線を入れて示す範囲)に設けられている。このような外周寄りの範囲では、内周寄りの範囲に比べて相対的に収縮ムラの影響が大きくなるため、カム溝33c〜33eの狂いを抑えるためには、駆動側リンク部材33の変形を抑える必要性が高い。
【0059】
そこで、この実施形態では、駆動側リンク部材33の外形を略真円形状にするとともに、3本のカム溝33c〜33eをそれぞれ周方向に120〜125度くらいの角度範囲に亘るものとして、それらを周方向にできるだけ均一に分布するように配置している。この結果、周方向に隣り合う2つのカム溝33c,33dが互いに半径方向に重なり合う(オーバーラップする)周方向の角度範囲α(図の例では約30°)と、2つのカム溝33d,33eの隣り合う端部同士が周方向に離れていて、カム溝の存在しない周方向の角度範囲β(図の例では約10°)との合計が、全周に対応する角度範囲(360°)の2割未満になっている。尚、2つのカム溝33e,33cのオーバーラップする角度範囲γは略零である。
【0060】
つまり、駆動側リンク部材33の外形を略真円形状にするだけでなく、その一側面の外周寄りの範囲において、カム溝33c〜33eを周方向にできるだけ均一に設けており、こうすることで、カム溝(即ち、部材の厚みの急変する部位)の存在によって起こり得る変形も軽減することができる。
【0061】
さらに、前記の駆動側カム部材33には、空調ケース20のボス部31との干渉を避けるための貫通穴33fや丸穴33a,33bのような厚み方向の貫通空所が設けられているが、これらはいずれも前記カム溝33c〜33eの設けられている外周寄りの範囲ではなく、それよりも内周側の範囲のみに設けられている。これは、前記のように相対的に収縮ムラの影響が大きい外周寄りの範囲に貫通空所が存在すると、その周囲でも部材の変形が大きくなる虞れがあることを考慮したものである。
【0062】
したがって、この実施形態に係る車両用空調装置1のリンク機構30によると、樹脂材の成型品である駆動側リンク部材33の外形を略真円形状とし、3本のカム溝33c〜33eを周方向にできるだけ均一に設けたことで、その成形時の冷却硬化の際の変形が抑制されて、反りが非常に小さくなるとともに、カム溝33c〜33eの狂いも小さくなるので、当該駆動側リンク部材33の試作の繰り返しに要する労力を軽減し、成形時の温度管理も容易化して、製造コストを低減できる。
【0063】
しかも、前記カム溝33c〜33eを貫通溝とはせず、必要な丸穴33a,33bや貫通穴33fは相対的に内周寄りの範囲に設けて、収縮ムラ(変形)の影響が大きい駆動側リンク部材33の外周寄りの範囲には一切、貫通空所を設けないことで、当該駆動側リンク部材33の変形をより効果的に抑制し、前記の効果を高めることができる。
【0064】
尚、この実施形態では、前記のように3本のカム溝33c〜33eを、駆動側リンク部材33の外周縁から半径方向内方に2/5までの範囲に設けているが、これに限らず、外周縁から半径方向内方に1/3〜1/2までの範囲に設けてもよい。この場合、貫通穴33fや丸穴33a,33bのような貫通空所は中心から半径方向外方に2/3〜1/2までの範囲に設けることができるが、特に1/2までの範囲とするのが好ましい。
【0065】
また、前記の実施形態では、カム溝33c〜33eを個別に3本、設けているが、これに限るものではない。すなわち、例えば駆動側リンク部材33により大きな回動量が求められ、これに応じて、各カム溝33c〜33eをより大きな角度範囲に亘って設ける場合(例えば130度以上の角度範囲に亘って設ける場合)、各カム溝33c〜33eを個別に設けたのではそれらのオーバーラップ量が多くなり過ぎる。
【0066】
そこで、そのような場合には、図12に示すように例えば2本のカム溝同士(図の例では33d,33e)を連繋させるようにするのが好ましく、こうすれば、カム溝33c〜33eを、相互のオーバーラップはあまり大きくすることなく、より大きな角度範囲に亘って設けることができる。
【0067】
また、前記の実施形態では、駆動側リンク部材33の一側面に3本のカム溝33c〜33eを設けているが、カム溝の本数は3本に限らず、2本であっても、4本以上であってもよいし、それらを駆動側リンク部材33の両側面に振り分けて設けることもできる。
【0068】
さらに、駆動側リンク部材に設ける駆動側係合部はカム溝に限らず、ピン等とすることもでき、この場合には、そのピン等に係合する溝や長穴を従動側リンク部材に設ければよい。
【0069】
さらにまた、前記の実施形態では、本発明に係るリンク機構30を風向切換用のダンパ26〜28の駆動に用いているが、これに限らず、温調ダンパ40も駆動するものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上、説明したように、本発明は、リンク機構において従動側の各リンク部材に駆動力を分配する駆動側リンク部材を樹脂材により成形する場合に、その試作の繰り返しに要する労力を軽減し、成形時の温度管理も容易化して、製造コストを低減できるものであるから、大量生産される自動車用空調装置での使用に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施形態に係る車両用空調装置の車両前後方向後側から見た斜視図である。
【図2】同じく前側から見た斜視図である。
【図3】車両用空調装置の空調ユニットを車両前後方向後側から見た斜視図である。
【図4】空調ユニットを車幅方向右側から見た側面図である。
【図5】空調ユニットの内部を車幅方向右側から見たレイアウト図である。
【図6】車幅方向右側から見たリンク機構の拡大図である。
【図7】駆動側リンク部材の正面図である。
【図8】送風ユニットを車両前後方向後側の斜め左側から見た斜視図である。
【図9】同じく斜め右側からの斜視図である。
【図10】内外気切換ダンパの斜視図である。
【図11】駆動側リンク部材の構造上の特徴を示す説明図である。
【図12】2本のカム溝を連繋させた変形例に係る図7相当図である。
【図13】従来一般的な異形の駆動側リンク部材が収縮により変形する様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0072】
1 車両用空調装置
30 リンク機構
33 駆動側リンク部材
33c〜33e カム溝
34〜36 従動側リンク部材
34a〜36a ピン(係合突部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用空調装置において1つの駆動側リンク部材から複数の従動側リンク部材に駆動力を伝達するように構成されたリンク機構であって、
前記駆動側リンク部材は、複数の駆動側係合部を有する樹脂製の板部材からなり、
前記複数の従動側リンク部材は、それぞれ前記各駆動側係合部に係合する従動側係合部を有しており、
前記駆動側リンク部材の外形が略真円形状とされていることを特徴とする車両用空調装置のリンク機構。
【請求項2】
駆動側係合部は、駆動側リンク部材の少なくとも一側面の外周寄りの範囲においてそれぞれ周方向に延びるとともに、半径方向に屈曲するように設けられたカム溝であり、
従動側係合部は、それぞれ前記カム溝に係合するように各従動側リンク部材に設けられた係合突部であることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置のリンク機構。
【請求項3】
複数のカム溝は、周方向全体に設けられていて、隣り合う2つのカム溝同士が半径方向に重なり合う周方向の範囲と、カム溝の設けられていない周方向範囲との合計が、全周の2割未満とされていることを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置のリンク機構。
【請求項4】
3本のカム溝が、それぞれ、周方向に90度以上且つ130度未満の角度範囲に亘って個別に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の車両用空調装置のリンク機構。
【請求項5】
3本のカム溝が、それぞれ周方向に130度以上の角度範囲に亘って設けられるとともに、そのうちの2本が互いに連繋していることを特徴とする請求項3に記載の車両用空調装置のリンク機構。
【請求項6】
複数のカム溝が設けられている駆動側リンク部材の外周寄りの範囲には、その各カム溝も含めて該駆動側リンク部材を貫通する空所が存在しないことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つに記載の車両用空調装置のリンク機構。
【請求項1】
車両用空調装置において1つの駆動側リンク部材から複数の従動側リンク部材に駆動力を伝達するように構成されたリンク機構であって、
前記駆動側リンク部材は、複数の駆動側係合部を有する樹脂製の板部材からなり、
前記複数の従動側リンク部材は、それぞれ前記各駆動側係合部に係合する従動側係合部を有しており、
前記駆動側リンク部材の外形が略真円形状とされていることを特徴とする車両用空調装置のリンク機構。
【請求項2】
駆動側係合部は、駆動側リンク部材の少なくとも一側面の外周寄りの範囲においてそれぞれ周方向に延びるとともに、半径方向に屈曲するように設けられたカム溝であり、
従動側係合部は、それぞれ前記カム溝に係合するように各従動側リンク部材に設けられた係合突部であることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置のリンク機構。
【請求項3】
複数のカム溝は、周方向全体に設けられていて、隣り合う2つのカム溝同士が半径方向に重なり合う周方向の範囲と、カム溝の設けられていない周方向範囲との合計が、全周の2割未満とされていることを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置のリンク機構。
【請求項4】
3本のカム溝が、それぞれ、周方向に90度以上且つ130度未満の角度範囲に亘って個別に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の車両用空調装置のリンク機構。
【請求項5】
3本のカム溝が、それぞれ周方向に130度以上の角度範囲に亘って設けられるとともに、そのうちの2本が互いに連繋していることを特徴とする請求項3に記載の車両用空調装置のリンク機構。
【請求項6】
複数のカム溝が設けられている駆動側リンク部材の外周寄りの範囲には、その各カム溝も含めて該駆動側リンク部材を貫通する空所が存在しないことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つに記載の車両用空調装置のリンク機構。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−245801(P2007−245801A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68730(P2006−68730)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000152826)株式会社日本クライメイトシステムズ (154)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000152826)株式会社日本クライメイトシステムズ (154)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]