説明

車両用空調装置及び車両用空調装置の冷媒漏出診断方法

【課題】車両用空調装置において、冷媒の漏出を装置の運転状態に制約されることなく適確に診断する。
【解決手段】
車両用空調装置の運転状態が安定しているときに、コンプレッサの出口圧Pdと、入口圧Psとに基づいて冷媒漏出判定用閾値Thを設定し、一方、液状冷媒が流通するコンデンサから膨張弁に至る冷媒配管内の体積流量Grを検出し、該体積流量Grが冷媒漏出判定用閾値Thを超えたと判定したときに、冷媒が漏出しているとの診断結果(警報)を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関し、特に冷媒漏出の有無を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプ式空調装置において、冷媒が漏出すると性能低下等の悪影響を生じる。このため、特許文献1には冷媒流量を計測し、該計測値が正常時の値に対して大きく外れたときに冷媒漏出有りと判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−151432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のように、ショーケース内に設置されて定常運転される空調装置の場合は、1つの判定用閾値を設定して冷媒漏出の有無を判定できるが、車両用空調装置においては、コンプレッサを駆動するエンジンの回転数が大きく変化すること等により、冷媒流量が大きく変動するため、駆動される1つの判定用閾値で冷媒漏出の有無を運転状態に制約されることなく適確に判定することは困難であった。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、車両用空調装置において、簡易な構成で冷媒の漏出を空調装置の運転状態に制約されることなく適確に診断することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため本発明は、コンプレッサ、コンデンサ、膨張弁及びエバポレータを、冷媒配管を介して循環接続した車両用空調装置(の冷媒漏出診断方法)であって、以下の各手段(ステップ)を含んで構成される。
A.前記空調装置における液状冷媒が流通する領域で冷媒の体積流量を検出する手段(ステップ)
B.前記空調装置の運転状態に基づいて冷媒漏出判定用閾値を可変に設定する手段(ステップ)
C.前記検出された冷媒体積流量が前記冷媒漏出判定用閾値を超えたときに、冷媒が漏出していると判定する手段(ステップ)
【発明の効果】
【0007】
車量用空調装置において、冷媒が漏出すると、冷媒量が不足して冷媒密度が低下し、凝縮器において冷媒が十分に凝縮しきれなくなり、凝縮器下流など冷媒漏出がない状態で液状冷媒である領域でもガス状冷媒が混入して、気液混合状態となる。このように、密度の低いガス状冷媒を含む気液混合状態の冷媒の体積流量を冷媒流量検出手段で検出すると、正常時に検出される液状冷媒での体積流量に比較し、大きく増大する。
【0008】
一方、空調装置の運転状態によって正常時の液状冷媒の流量も変動する。
したがって、該運転状態変化による冷媒流量の変動に応じて可変に設定された冷媒漏出判定用閾値を用いることにより、空調装置の運転状態に制約されることなく冷媒漏出の有無を適確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る車量用空調装置における冷媒回路の概要を示す図。
【図2】同上装置における冷媒漏出診断の第1の実施形態を示すフローチャート。
【図3】同じく冷媒漏出診断の第2の実施形態を示すフローチャート。
【図4】同じく冷媒漏出診断の第3の実施形態を示すフローチャート。
【図5】同じく冷媒漏出診断の第4の実施形態を示すフローチャート。
【図6】同じく第1の実施形態において冷媒漏出診断に用いる冷媒漏出判定用閾値の設定方法を示す図。
【図7】同じく第2〜第4、第6〜第8の実施形態において、冷媒漏出診断に用いる冷媒漏出判定用閾値の設定方法を示す図。
【図8】同じく冷媒漏出診断の第5の実施形態を示すフローチャート。
【図9】同じく冷媒漏出診断の第6の実施形態を示すフローチャート。
【図10】同じく冷媒漏出診断の第7の実施形態を示すフローチャート。
【図11】同じく冷媒漏出診断の第8の実施形態を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る車両用空調装置における冷媒回路の概要を示す。
前記冷媒回路は、可変容量型のコンプレッサ1、コンデンサ2、膨張弁3及びエバポレータ4を、冷媒配管5を介して環状に接続して構成される。
可変容量型のコンプレッサ1は、内蔵された容量制御弁1aの通電量を制御することにより吐出側と吸入側との連通を開閉する弁体を駆動し、吸入圧力(=入口圧Ps)を調整して吐出容量(プランジャのストローク量)を可変制御するものである(特開2003−301772号公報等参照)。
【0011】
コンプレッサ1は、エンジン(内燃機関)21によって駆動され、該コンプレッサ1から吐出された高圧高温のガス状冷媒は、コンデンサ2に至り、該コンデンサ2の外表面と接触しつつ通過する走行風(外気)と熱交換して冷却され、凝縮液化される。
コンデンサ2を流出した液状冷媒は、膨張弁3によって膨張,減圧された後、車室内に配設されたエバポレータ4に至り、該エバポレータ4において車室内を図示しないファンによって循環送風される空気と熱交換して蒸発,気化された後、再度コンプレッサ1に吸入されて圧縮される。
【0012】
これにより、冷却された空気が車室内に送風されて冷房が行われる。
かかる車両用空調装置において、冷媒漏出の有無を診断する装置が以下のように構成される。
コンデンサ1の吐出口から膨張弁3に至る間の液状冷媒が流通する冷媒配管5に、該液状冷媒の体積流量を検出する体積流量センサ6が配設される。かかる体積流量センサ6は、冷媒配管5に直列に介装されるオリフィス61と、その上流側及び下流側の圧力を検出する1対の圧力センサ62,63とを含んで構成され、これら上流側及び下流側の圧力検出値に基づいて体積流量を算出する構成となっている。体積流量センサとしては、この他、羽根車式等、体積流量を計測できるものであれば、どのような構成のセンサを使用してもよい。
【0013】
上記1対の圧力センサ62,63の圧力検出値は、エアコン・電子制御ユニット(以下、A/C・ECU)22に出力され、A/C・ECU22は、前記圧力検出値に基づいて冷媒の体積流量Grを算出する。
エンジン21には、エンジン回転速度Neを検出する回転速度センサ23が配設され、該回転速度センサ23からのエンジン回転速度検出値は、エンジン・コントロールユニット(以下エンジンECU)24に出力される。
【0014】
エンジンECU24は、前記エンジン回転速度Ne及びその他の検出値に基づいて燃料噴射量Tiを設定してエンジン21の燃料噴射装置に出力する等、エンジン制御を行う一方、エンジン回転速度に比例するコンプレッサ回転速度Ncを算出してA/C・ECU22に出力する。
A/C・ECU22は、前記算出した冷媒体積流量Grとコンプレッサ回転速度Ncとに基づいて、必要な冷媒流量が得られるように、コンプレッサ1の容量制御弁1aに制御電流値Iecvを出力する。
【0015】
また、A/C・ECU22は、冷媒体積流量Gr及びコンプレッサ回転速度Nc等に基づいて、コンプレッサ1の回転トルクTcを算出し、該回転トルクTcの信号をエンジンECU24に出力する。これにより、例えば、エンジンECU24は、コンプレッサ1の回転トルクTcが大きくなるほどエンジン21の燃料噴射量を増量補正してエンジン21の出力トルクTeを増大し、コンプレッサ1の回転変動を抑制することができる。
【0016】
さらに、A/C・ECU22は、検出された冷媒体積流量Grに基づいて冷媒漏出の有無を診断する。
図2は、冷媒漏出診断の第1の実施形態のフローを示す。
ステップS1でエンジン21が始動(イグニッションスイッチがON)された後、ステップS2では、エアコンスイッチがONされたかを判定する。
【0017】
エアコンスイッチがONされたと判定されると、ステップS3へ進み、コンプレッサ回転速度Nc及び容量制御弁1aへの制御電流値Iecvを入力する。
ステップS4では、前記コンプレッサ回転速度Ncの変動量(所定時間内の変化量)及び制御電流値Iecvの変動量(所定時間内の変化量)が、それぞれ閾値以内で、本空調装置の運転状態が安定しているかを判定する。過渡状態での変動による誤診断を抑制するため、該判定を行う。
【0018】
運転状態が安定していると判定されたときは、ステップS5へ進み、コンプレッサ1の出口圧Pdと、冷媒体積流量Grとを入力する。ここで、コンプレッサ1の出口圧Pdは、車両用空調装置の高圧側冷媒圧力である
次いでステップS6では、冷媒漏出判定用閾値Thを、コンプレッサ1の出口圧Pdの関数f(Pd)として算出する。
【0019】
具体的には、冷媒漏出が無い状態での液状冷媒の体積流量の最大流量を基準として設定する。これは以下の理由による。
冷媒が漏出すると空調装置を流れる全冷媒量が不足し冷媒密度が低下する。このため凝縮器において冷媒が十分に凝縮しきれなくなり、凝縮器下流側など冷媒漏出がない状態で液状冷媒である領域でもガス状の冷媒が混入して、気液混合状態となる。
【0020】
このように、密度の低いガス状冷媒を含む気液混合状態の冷媒の体積流量を冷媒流量検出手段で検出すると、正常時に検出される液状冷媒での体積流量に比較して大きく増大し、液状冷媒での最大体積流量をも上回る。
そこで、上記のように正常時の液状冷媒での体積流量の最大流量を基準として冷媒漏出判定用閾値Thを設定することにより、冷媒の漏出を精度よく判定することができるのである。
【0021】
ここで、体積流量は、コンプレッサ1の出口圧Pdと入口圧Psとの差圧と、膨張弁3の開度で求められ、前記差圧(=Pd−Ps)を生じる運転状態において、膨張弁3の開度が最大のとき最大流量となる。なお、冷媒が漏出してガス状冷媒が混入すると、前記差圧が増大して見かけの体積流量が増大することとなる。出口圧Pdの変化量に比較して入口圧Psの変化量は小さいので、例えば、入口圧Psを一定とし、膨張弁3を最大開度としたときの流量を、取り得る最大流量として算出し、この値を基準として冷媒漏出判定用閾値Thを設定する。例えば、前記基準の値をそのまま、あるいは、所定量増減した値を冷媒漏出判定用閾値Thとして設定する。
【0022】
また、実際の制御において出口圧Pd毎に取り得る最大流量を、実験(実車試験,ベンチ試験等)あるいはシミュレーション等によって求め、求めた出口圧Pd毎の最大流量に基づいて冷媒漏出判定用閾値Thを設定してもよい。
具体的には、図6に示したコンプレッサ1の出口圧Pdに対する冷媒体積流量Grの特性の試験データから求められる変数X,Yを用いて、次式のように設定することができる。
【0023】
Th=X・Pd1/2+Y
ステップS7では、ステップS5で入力した冷媒体積流量GrをステップS6で設定した冷媒漏出判定用閾値Thと比較し、冷媒体積流量Grが冷媒漏出判定用閾値Th以下であるかを判定する。
冷媒体積流量Grが冷媒漏出判定用閾値Th以下のときは、冷媒漏出は発生していないと判定してステップS8へ進む。
【0024】
一方、冷媒体積流量Grが冷媒漏出判定用閾値Th以上と判定されたときは、冷媒漏出を生じているとの診断結果を下す。冷媒漏出があるときは、上述したように冷媒が気液混合状態となるため、体積流量が液状冷媒として取り得る最大流量を大きく超えて増大する。
したがって、検出された冷媒体積流量Grが、液状冷媒での最大流量を基準として設定した冷媒漏出判定用閾値Thを超えたときは、冷媒が漏出していると判定し、ステップS9で冷媒漏出有りとの診断結果信号を出力した後、ステップS8へ進む。なお、診断結果信号を警報ランプの点灯などの警報として出力するようにしてもよい。
【0025】
ステップS8では、エアコンスイッチがOFFとされたかを判定し、ON状態が継続しているときは、ステップS3へ戻って上記診断フローを継続し、OFFとされたときは、当該診断フローを終了する。
ここで、例えば、冷媒漏出判定用閾値を固定値で設定した場合、低い値に設定すると、冷媒漏出のない正常状態での液状冷媒の体積流量が大きいときには、検出された体積流量が閾値を超えて漏出ありとの誤判定を下してしまうことがある。また、閾値を高い値に設定すると、冷媒漏出があるときでも体積流量検出値が閾値を下回って漏出ありとの診断を下せないことがある。
【0026】
これに対し、本実施形態のように、エンジン回転速度等に応じて冷媒流量が変動しても、該変動に見合うように冷媒漏出判定用閾値Thを本空調装置の運転状態に応じて可変に設定したため、該運転状態に制約されることなく冷媒漏出を適確に診断することができる。
特に、本実施形態では、冷媒流量を単一で最も正確に把握できるパラメータであるコンプレッサの出口圧Pdを用いて冷媒漏出判定用閾値Thを設定したため、簡易な設定で適確な冷媒漏出診断を行える。
【0027】
また、膨張弁3は、通常は本空調装置を運転中に設計上可能な最大開度までは開度が増大しないように制御される。したがって、実際の制御において出口圧Pd毎に取り得る最大流量を実験あるいはシミュレーションによって求め、求めた出口圧Pd毎の最大流量に基づいて冷媒漏出判定用閾値Thを設定してもよい。
なお、上記のようにして求めた冷媒漏出判定用閾値Thのマップを設定し、出口圧Pdに基づいて検索するようにしてもよい。
【0028】
また、出口圧Pd以外にコンプレッサ回転速度Nc、あるいは冷媒状態に影響を及ぼす空調装置周辺の環境温度(例えば外気温度)Ta等を冷媒漏出判定用閾値Th設定のパラメータとして併用してもよい。この場合も、マップを設定したり、あるいは重回帰式を設定したりすることにより、冷媒漏出判定用閾値Thを設定することができる。
コンプレッサ回転速度Ncや外気温度Ta等を併用してマップを設定する場合、出口圧Pdに基づいて基本閾値を設定する主マップと、コンプレッサ回転速度Nc,環境温度Taにより基本閾値を補正する補正用マップとを別個のマップとして設定することにより、マップデータ総数を節減しつつ冷媒漏出判定用閾値Thを簡易で適確に設定できる。
【0029】
図3は、冷媒漏出診断の第2の実施形態のフローを示す。
本第2の実施形態においては、図1に点線で示すように、コンプレッサ1の吸入口付近に入口圧を検出する入口圧センサ25を配設する。
ステップS1〜ステップS4までは、第1の実施形態と同様である。
ステップS4で、装置の運転状態が安定していると判定されたときは、ステップS15へ進んで、コンプレッサ1の出口圧Pd及び入口圧Psと、冷媒体積流量Grとを入力する。ここで、コンプレッサ1の入口圧Psは、車両用空調装置の低圧側圧力である。
【0030】
そしてステップS16では、冷媒漏出判定用閾値Thを、前記コンプレッサ1の出口圧Pd及び入口圧の関数f(Pd,Ps)として算出する。
上述したように、体積流量は、コンプレッサ1の出入口差圧(Pd−Ps)を生じる運転状態において、膨張弁3の開度が最大のとき最大流量となるので、基本的には、該最大流量を基準として冷媒漏出判定用閾値Thを設定する。
【0031】
また、第1の実施形態と同様に、実際の制御において出口圧Pdと入口圧Psとの差圧(Pd−Ps)毎に取り得る最大流量を、実験(実車試験,ベンチ試験等)あるいはシミュレーション等によって求め、求めた差圧(Pd−Ps)毎の最大流量に基づいて冷媒漏出判定用閾値Thを設定してもよい。
具体的には、図7に示した(Pd−Ps)に対するGrの特性の試験データから求められる変数X’,Y’を用いて、次式のように設定することができる。
【0032】
Th=X‘・(Pd−Ps)1/2+Y’
冷媒漏出判定用閾値Thのマップを設定して、差圧(Pd−Ps)に基づいて検索する構成とし、さらに、差圧(Pd−Ps)以外にコンプレッサ回転速度Nc、環境温度Ta等を冷媒漏出判定用閾値Th設定のパラメータとして用いてもよいことも第1の実施形態と同様である。
【0033】
ステップS7〜ステップS9は、第1及び第2の実施形態と同様である。
すなわち、ステップS7で、ステップS15で入力した冷媒体積流量GrをステップS16で設定した冷媒漏出判定用閾値Thと比較し、冷媒体積流量Grが冷媒漏出判定用閾値Th以上と判定されたときには、ステップS8で冷媒漏出有りとの診断結果信号(警報)を出力し、ステップS9でエアコンスイッチがOFFと判定されるまで、本診断フローを継続する。
【0034】
本実施形態によれば、コンプレッサ1の差圧(Pd−Ps)に基づいて、より高精度に求められた最大流量に基づいて冷媒漏出判定用閾値Thを設定できるため、冷媒漏出の有無を、より適確に診断することができる。
図4は、冷媒漏出診断の第3の実施形態のフローを示す。
ステップS1〜ステップS4までは、第1の実施形態と同様である。
【0035】
ステップS4で、装置の運転状態が安定していると判定されたときは、ステップS25へ進んで、コンプレッサ1の出口圧Pd及び容量制御弁の制御電流値Iecvと、冷媒体積流量Grとを入力する。
ステップS26では、コンプレッサ1の入口圧Psを、前記制御電流値Iecvの関数値に基づいて、f(Iecv)として推定する。容量制御弁1aは、既述したように制御電流値Iecvによって吐出側と吸入側との連通を開閉する弁体を駆動し、吸入圧力(=入口圧Ps)を調整して吐出容量を可変制御するものである。したがって、制御電流値Iecvとコンプレッサ1の入口圧Psとが相関し、制御電流値Iecvの関数値f(Iecv)としてコンプレッサ1の入口圧Psを推定することができる。
【0036】
ステップ27では、前記コンプレッサ1の検出した出口圧Pdと推定した入口圧Psとを用いて、前記第2の実施形態のステップS16と同様にして、冷媒漏出判定用閾値Thを設定する。
ステップS7〜ステップS9は、第1及び第2の実施形態と同様である。
すなわち、ステップS7で、ステップS25で入力した冷媒体積流量GrをステップS26で設定した冷媒漏出判定用閾値Thと比較し、冷媒体積流量Grが冷媒漏出判定用閾値Th以上と判定されたときには、ステップS8で冷媒漏出有りとの診断結果信号(警報)を出力し、ステップS9でエアコンスイッチがOFFと判定されるまで、本診断フローを継続する。
【0037】
第3の実施形態によれば、第2の実施形態同様、コンプレッサ1の出入口差圧(Pd−Ps)に基づいて、より高精度に求められた最大流量に基づいて冷媒漏出判定用閾値Thを設定できるため、冷媒漏出の有無をより適確に診断することができる。
また、コンプレッサ1の入口圧Psを制御電流値Iecvの関数値に基づいて、f(Iecv)として推定するため、入口圧センサが不要となり、低コストで実施できる。なお、制御電流値Iecvは、A/C・ECU22で算出して設定された値を用いればよいので、電流センサは不要である。
【0038】
また、本第3の実施形態の変形態様として、容量制御弁1aによって吸入圧力を制御することにより、最終的には冷媒を吐出するプランジャのストローク量が可変に制御されるので、このストローク量を調整する斜板の傾斜角を検出している場合には、この傾斜角の検出値に基づいてコンプレッサ1の入口圧Psを推定することも可能である(特開2003−301772号公報等参照)。
図5は、冷媒漏出診断の第4の実施形態のフローを示す。
【0039】
本第4の実施形態においては、図1に一点鎖線で示すように、エバポレータ4の出口付近に、出口温度(冷媒温度又は空気温度)Tevaを検出する温度センサ26を配設する。
ステップS1〜ステップS4までは、第1の実施形態と同様である。
ステップS4で、装置の運転状態が安定していると判定されたときは、ステップS35へ進んで、コンプレッサ1の出口圧Pdと、エバポレータ4の出口温度Tevaと、冷媒体積流量Grとを入力する。
【0040】
ステップS36では、コンプレッサ1の入口圧Psを、エバポレータ4の出口温度Tevaの関数値f(Teva)として推定する。エバポレータ4内部では冷媒の気液割合は変化するが、温度、圧力は略一定に維持され、エバポレータ4の出口温度Tevaと出口圧Pevaとは相関する。
そして、エバポレータ4から吐出された冷媒は、殆ど状態変化することなくコンプレッサ1に吸入されるので、エバポレータ4の出口圧Pevaは、コンプレッサ1の入口圧Psと略等しい。したがって、エバポレータ4の出口温度Tevaの関数値f(Teva)としてコンプレッサ1の入口圧Psを推定することができる。
【0041】
ステップ37では、前記コンプレッサ1の検出した出口圧Pdと推定した入口圧Psとを用いて、前記第2の実施形態のステップS16と同様にして、冷媒漏出判定用閾値Thを設定する。
ステップS7〜ステップS9は、第1〜第3の実施形態と同様である。
すなわち、ステップS7で、ステップS35で入力した冷媒体積流量GrをステップS36で設定した冷媒漏出判定用閾値Thと比較し、冷媒体積流量Grが冷媒漏出判定用閾値Th以上と判定されたときには、ステップS8で冷媒漏出有りとの診断結果信号(警報)を出力し、ステップS9でエアコンスイッチがOFFと判定されるまで、本診断フローを継続する。
【0042】
第4の実施形態によれば、第2,第3の実施形態同様、コンプレッサ1の差圧(=Pd−Ps)に基づいて、より高精度に求められた最大流量に見合った冷媒漏出判定用閾値Thを設定できるため、冷媒漏出の有無をより適確に診断することができる。
また、エバポレータ4の出口温度Tevaを冷房空気温度として検出し、該冷房空気温度に基づいて空調装置の制御(冷媒流量等)を行うものでは、該制御のための温度センサを流用することができ、コストアップを抑制できる。
【0043】
また、図示しないが、第5の実施形態として、コンプレッサ1の冷媒吐出容量の目標値を設定して該目標値に近づけるように制御する場合には、冷媒漏出判定用閾値Thを該冷媒吐出容量の目標値に基づいて、例えば、該目標値より少し高めの値に設定する構成としてもよい。
このようにすれば、冷媒漏出量が少量である場合でも冷媒漏出有りと判定することができる。
【0044】
また、図6、図7に矢印で示したように、検出される冷媒体積流量Grは、冷媒漏出量が増大してガス状冷媒の割合が増大するほど、冷媒漏出判定用閾値Thを超えて、より大きくなる。そこで、冷媒漏出有りとの診断結果に加え、冷媒体積流量Grが冷媒漏出判定用閾値Thを超えた度合いに基づき冷媒漏出度合いを算出して出力するようにしてもよい。この場合、例えば、Gr−Th、あるいは、(Gr−Th)/Thを指標として冷媒漏出度合いを設定することができる。
【0045】
さらに、前記図2〜図5に示した第1〜第4の実施形態に対応して、図8〜図11に第5〜第8の実施形態を示す。これら第5〜第8の実施形態では、冷媒体積流量Grが冷媒漏出判定用閾値Th以上と判定されて冷媒漏出有りと診断したときに(ステップS7,8)、さらに、冷媒体積流量Grが冷媒漏出判定用閾値Thを大きく上回っているか否かを判定し(ステップ101)、大きく上回っている(Thに正の所定値を加算した値を上回る)と判定されたときには、コンプレッサ1の運転を停止する(ステップS102)。
【0046】
このようにすれば、冷媒漏出量が大きいときには、コンプレッサ1の運転が停止されるので、運転によって冷媒の漏出がさらに増大することを抑制できるので、より望ましい。
【符号の説明】
【0047】
1…コンプレッサ、1a…容量制御弁、2…コンデンサ、3…膨張弁、4…エバポレータ、5…冷媒配管、6…冷媒流量センサ、21…エンジン、22…A/C・ECU、23…回転速度センサ、24…エンジンECU、25…コンプレッサ1の入口圧センサ、26…エバポレータ4の出口温度センサ、Pd…コンプレッサ1の出口圧、Ps…コンプレッサ1の入口圧、Gr…冷媒体積流量、Iecv…容量制御弁1aへの制御電流値、Th…冷媒漏出判定用閾値、Teva…エバポレータ4の出口温度、Nc…コンプレッサ1aの回転速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサ、コンデンサ、膨張弁及びエバポレータを、冷媒配管を介して循環接続した車両用空調装置であって、
前記車両用空調装置における液状冷媒が流通する領域で、冷媒の体積流量を検出する冷媒流量検出手段と、
前記車両用空調装置の運転状態に基づいて冷媒漏出判定用閾値を可変に設定する閾値設定手段と、
前記検出された冷媒体積流量が前記冷媒漏出判定用閾値を超えたときに、冷媒が漏出していると判定する冷媒漏出判定手段と、
を含んで構成される車両用空調装置。
【請求項2】
前記閾値設定手段は、前記車両用空調装置の高圧側冷媒圧力を含むパラメータに基づいて前記冷媒漏出判定用閾値を可変に設定する請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記閾値設定手段は、前記車両用空調装置の高圧側冷媒圧力と、低圧側冷媒圧力と、を含むパラメータに基づいて前記冷媒漏出判定用閾値を可変に設定する請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記コンプレッサが、冷媒吐出容量を容量制御弁によって可変に制御する可変容量型コンプレッサであり、
前記閾値設定手段は、前記車両用空調装置の低圧側冷媒圧力を前記容量制御弁の制御値に基づいて推定する請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記閾値設定手段は、前記車両用空調装置の低圧側冷媒圧力を前記エバポレータの出口部の温度検出値に基づいて推定する請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記コンプレッサが、冷媒吐出容量を可変に制御する可変容量型コンプレッサであり、
前記閾値設定手段は、前記冷媒吐出容量の目標値を含むパラメータに基づいて前記冷媒漏出判定用閾値を可変に設定する請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記閾値設定手段は、前記各パラメータに応じて設定された冷媒漏出判定用閾値の基本値を、コンプレッサの回転速度および車両用空調装置周辺の環境温度の少なくとも一方に基づいて補正して最終的な冷媒漏出判定用閾値を設定する請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
【請求項8】
前記冷媒漏出判定手段は、前記冷媒が漏出していると判定したときに、前記冷媒体積流量が前記冷媒漏出判定用閾値を超えた度合いに基づいて、冷媒漏出度合いを算出して出力する請求項1〜請求項7のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
【請求項9】
前記冷媒漏出判定手段は、前記車両用空調装置の安定状態を判定した後、前記冷媒漏出の有無を判定する請求項1〜請求項8のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
【請求項10】
前記冷媒流量検出手段は、前記車両用空調装置のコンデンサ出口から膨張弁入口までの冷媒通路に配設される請求項1〜請求項9のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
【請求項11】
コンプレッサ、コンデンサ、膨張弁及びエバポレータを、冷媒配管を介して循環接続した車両用空調装置の冷媒漏出診断方法であって、
前記車両用空調装置における液状冷媒が流通する領域で、冷媒の体積流量を検出し、
前記車両用空調装置の運転状態に基づいて冷媒漏出判定用閾値を可変に設定し、
前記検出された冷媒体積流量が前記冷媒漏出判定用閾値を超えたときに、冷媒が漏出していると判定する
車両用空調装置の冷媒漏出診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−255831(P2011−255831A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133542(P2010−133542)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】