説明

車両用空調装置

【課題】暖房運転状態において、デフロスタ開口部から充分な温度の温風を得つつ、フェイス開口部からは充分な温度の冷風を得る。
【解決手段】複数のドア32と、複数のドア32を駆動可能に支持するとともに複数のドア32を取り囲むフレーム部材とでドアカセットが構成され、ドアカセットに、エバポレータ12を通過した冷却空気の一部をフェイス開口部22へ導く冷風バイパス通路16が形成されている。これによれば、暖房運転状態において、デフロスタ開口部20から充分な温度の温風を得つつ、フェイス開口部22からは充分な温度の冷風を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エバポレータを通過した一部の冷却空気を、混合空間の空気と隔ててフェイス開口部へ導く冷風バイパス通路を有する車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷風バイパス通路を有する車両用空調装置の従来技術として、例えば、下記特許文献1に開示されるものが知られている。この車両用空調装置において、デフロスタ開口部を開閉するデフロスタドアの装置内部側面に、冷風バイパス口からの冷風を空気混合部の空気と隔ててフェイス開口部へ導く冷風バイパス通路が、一体で形成されている。
【特許文献1】特開2002−2254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図8は、試作段階における空調ユニット10の縦断面模式図であり、フット吹出モードの状態を示す。図8に示す内部構造の空調ユニット10では、フット吹出モードにすると、ヒータコア13で加熱された温風は、温風側通路18から混合空間19を経てフット(FOOT)開口部24から乗員足元に吹き出されて暖房を行うようになっている。これとともに、混合空間19の温風の一部がデフロスタ(DEF)開口部20から車両前面窓ガラスの内側に吹き出されて、車両前面窓ガラスの曇り止めを行うようになっている。
【0004】
また、このような暖房運転状態において乗員に当たる偏日射が強い場合の顔火照り対策として、冷風バイパス通路とこの冷風バイパス通路を開閉する冷風バイパスドア32とを設けている。そして、暖房運転状態で且つ偏日射量が所定量以上の場合、冷風バイパスドア32を開けて冷風バイパス通路からの冷風をフェイス(FACE)開口部22から乗員の頭胸部に吹き出すようになっている。
【0005】
しかしながら、図8に示す構造では、デフロスタ開口部20へ向かう温風と、フェイス開口部22へ向かう冷風とがケース11内で交差して混ざってしまい、デフロスタ開口部20からは充分な温風が得られず、フェイス開口部22からは充分な冷風が得られないという問題点がある。図9は、図8中のIX−IX断面での温度分布を示す等温線図である。フェイス開口部22へ向かう不確実な5℃程度の冷風流れの断面が表れているとともに、80℃有ったデフロスタ開口部20へ向かう温風は、デフロスタ(DEF)開口部で50℃程度にまで下がっていることが分かる。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目して成されたものであり、その目的は、暖房運転状態において、デフロスタ開口部から充分な温度の温風を得つつ、フェイス開口部からは充分な温度の冷風を得ることのできる車両用空調装置を提供することにある。なお、図8中で説明していない符合は、後述の実施形態中の符合と対応しており、実施形態中で説明するため、ここでの説明は省略する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、空気通路を形成するケース(11)と、ケース(11)内に配設され、通過する空気を冷却するエバポレータ(12)と、エバポレータ(12)の下流側において、ケース(11)の内部に形成される冷風側通路(15)および温風側通路(18)と、冷風側通路(15)および温風側通路(18)の下流側において、ケース(11)の内部に形成される混合空間(19)と、車両のフェイスダクトに接続され、ケース(11)に形成されるフェイス開口部(22)と、温風側通路(18)に配設され、エバポレータ(12)を通過した全部もしくは一部の冷却空気を加熱するヒータコア(13)と、冷風側通路(15)および温風側通路(18)の上流側に配設され、冷風側通路(15)を流れる冷却風の風量と温風側通路(18)を流れる温風の風量との風量割合を調節するエアミックスドア(33〜35)とを備える車両用空調装置において、
複数のドア(32〜35)と、複数のドア(32〜35)を駆動可能に支持するとともに複数のドア(32〜35)を取り囲むフレーム部材(31)とでドアカセット(30)が構成され、ドアカセット(30)に、エバポレータ(12)を通過した冷却空気の一部をフェイス開口部(22)へ導く冷風バイパス通路(16)が形成されていることを特徴としている。
【0008】
この請求項1に記載の発明によれば、暖房運転状態において、デフロスタ開口部(20)から充分な温度の温風を得つつ、フェイス開口部(22)からは充分な温度の冷風を得ることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の車両用空調装置において、ドアカセット(30)に構成された複数のドア(32〜35)に、冷風バイパス通路(16)を開閉する冷風バイパスドア(32)を有することを特徴としている。この請求項2に記載の発明によれば、暖房運転状態において、デフロスタ開口部(20)から充分な温度の温風を得つつ、フェイス開口部(22)から得る冷風量を自在に調節することができる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の車両用空調装置において、冷風バイパス通路(16)は、ダクト形状に形成されていることを特徴としている。この請求項3に記載の発明によれば、混合空間(19)からデフロスタ開口部(20)へ流れる温風と、冷風バイパス通路(16)からフェイス開口部(22)へ流れる冷風とを隔てて混ざらないようにすることができる。
【0011】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用空調装置において、車両のデフロスタダクトに接続され、ケース(11)に形成されるデフロスタ開口部(20)と、混合空間(19)からデフロスタ開口部(20)へ向かう空気の通風路とを有し、デフロスタ開口部(20)へ向かう空気の通風路が、冷風バイパス通路(16)の間に形成されていることを特徴としている。この請求項4に記載の発明によれば、混合空間(19)からデフロスタ開口部(20)へ流れる温風の通風路を塞ぐことなく、充分に確保することができる。
【0012】
また、請求項5に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用空調装置において、車両のデフロスタダクトに接続され、ケース(11)に形成されるデフロスタ開口部(20)と、混合空間(19)からデフロスタ開口部(20)へ向かう空気の通風路とを有し、デフロスタ開口部(20)へ向かう空気の通風路を横切る部分の冷風バイパス通路(16)のダクトの断面形状が、流線型に形成されていることを特徴としている。
【0013】
この請求項5に記載の発明によれば、混合空間(19)からデフロスタ開口部(20)へ流れる温風の通風路を、フェイス開口部(22)へ連通する冷風バイパス通路(16)のダクトが横切るようにしても、通風抵抗を小さくすることができる。
【0014】
また、請求項6に記載の発明では、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の車両用空調装置において、冷風バイパス通路(16)、もしくはそのダクトの一部分が、フレーム部材(31)と一体に形成されていることを特徴としている。この請求項6に記載の発明によれば、車両用空調装置のコストを抑えることができる。
【0015】
また、請求項7に記載の発明では、請求項2ないし6のいずれか1項に記載の車両用空調装置において、車両にかかる日射負荷を検出する日射負荷検出手段と、日射負荷検出手段から入力される検出値に基づいて冷風バイパスドア(32)を制御する制御手段とを有し、制御手段は、暖房運転状態において、日射負荷検出手段にて検出される日射負荷が所定値以上の場合に、冷風バイパスドア(32)を開くことを特徴としている。
【0016】
この請求項7に記載の発明によれば、暖房運転状態において乗員に当たる偏日射が強い場合、顔火照り対策として、冷風バイパスドア(32)を開けて冷風バイパス通路(16)からの冷風をフェイス開口部(22)から乗員の頭胸部に吹き出すようにすることができる。なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、添付した図1〜5を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態における空調ユニット10の縦断面模式図であり、フット吹出モードの状態を示している。本実施形態の車両用空調装置の通風系は、大別して、図示しない送風機ユニットと、図1に示す空調ユニット10との2つの部分に分かれている。
【0018】
送風機ユニットは、車室内の計器盤下方部のうち、中央部から助手席側へオフセットして配置されている。これに対して空調ユニット10は、車室内の計器盤下方部のうち、車両左右方向の略中央部に配置されている。送風機ユニットは周知の如く、内気(車室内空気)と外気(車室外空気)とを切り替え導入する内外気切替箱と、この内外気切替箱を通して空気を吸入して送風する送風機とから構成されている。この送風機は、周知の遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて回転駆動するものである。
【0019】
空調ユニット10は、送風機ユニットより空気下流側における車室内への空気通路を構成するものであり、本例では左右分割の空調ケース(ケース)11内に、冷凍サイクルのエバポレータ(冷媒蒸発器、冷却用熱交換器)12と、ヒータコア(加熱用熱交換器)13とを両方とも一体的に収納するタイプのものである。
【0020】
空調ケース11は、ポリプロピレンのような、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂の成形品から成り、車両左右方向に分割される縦割りの2つのケース部材にて構成されている。つまり、2つの空調ケース11は、車両右側に位置する右側ケースと、車両左側に位置する左側ケースとから成っている。
【0021】
なお、図1中でハッチングを入れた部分は、実際には2つのケースの分割面を表している。この2つのケースは、上記の熱交換器12、13と、後述のドアなどの機器とを収納した後に、金属バネクリップやネジなどの締結手段により一体に結合されて空調ユニット10を構成する。
【0022】
この空調ユニット10は、車室内の前方部位で車両の前後および上下の方向に対して、図1に示す状態で配置され、空調ケース11の最も車両前方側の部位には、空気流入口14が形成されている。この空気流入口14は、助手席前方の部位に配置される前述の送風機ユニットの空気出口部に接続するため、空調ケース11のうち、助手席側の側面に開口している。
【0023】
本実施形態は右ハンドル車に適用した例を示している。空調ユニット10より車両左側に配置された送風機ユニットから送風される空調用空気が、この空気流入口14に流入する。空調ケース11内において、空気流入口14直後の部位には、前述のエバポレータ12が配置されている。このエバポレータ12は、車両前後方向には薄型の形態で、空調ケース11内通路を横断するように上下左右方向に配置されている。
【0024】
そして、エバポレータ12の車両上下左右方向に延びる前面側から、空気流入口14からの送風空気が流入する。エバポレータ12は、例えば周知の積層型のものであり、アルミニウムなどの金属薄板を2枚張り合わせて構成した偏平チューブ間に、コルゲートフィンを介在させて多数積層配置し、一体にろう付けしたものである。このエバポレータ12は周知の如く、冷凍サイクルの冷媒の蒸発潜熱を空調用空気から吸熱して、通過する空調用空気を冷却する冷却用熱交換器を構成するものである。
【0025】
そして、エバポレータ12の空気流れ下流側(車両後方側)には、所定の間隔を空けてヒータコア13が配置されている。このヒータコア13は、エバポレータ12を通過した冷風を再加熱するものであり、その内部に高温の温水(エンジン冷却水)が流れ、この温水を熱源として空気を加熱する加熱用熱交換器を構成するものである。ヒータコア13は周知のものであり、例えばアルミニウムなどの金属薄板を溶接などによって断面偏平状に接合してなる偏平チューブ間に、コルゲートフィンを介在して多数積層配置し、一体にろう付けしたものである。
【0026】
空調ケース11内の空気通路において、ヒータコア13の上方部位には、このヒータコア13をバイパスして空気(冷風)が流れる冷風側通路15が形成されている。図2は、ドアカセット30の構造を示す縦断面模式図である。上述したエバポレータ12とヒータコア13との間の部位には、ドアカセット30が配設されている。
【0027】
このドアカセット30は、図2に示すように、複数のドア32〜34と、これら複数のドア32〜34を駆動可能に支持するとともに複数のドア32〜34を取り囲むフレーム部材31とで構成されている。そして、このドアカセット30は、上記した冷風側通路15の一部と、ヒータコア13を経由する温風側通路18の一部とを形成している。
【0028】
また、ドアカセット30には、ヒータコア13で再加熱される冷風と、冷風側通路15を通ってヒータコア13をバイパスする冷風との風量割合を調節する平板状のエアミックスドア(風量割合調節手段)33、34が複数配置されている。本実施形態におけるエアミックスドアは、冷風側通路15に配設された二枚のドア33と、温風側通路に配設された二枚のドア34とから構成されている。これらのエアミックスドア33、34は、それぞれ水平方向に配置された回転軸33a、34aと一体に結合されており、この回転軸33a、34aとともに略車両上下方向に回動可能となっている。
【0029】
エアミックスドア33、34の回転軸33a、34aとドア基板とは樹脂で一体的に形成され、そのドア基板の周縁にエラストマ樹脂などで弾性シールリップを形成した構造となっている。回転軸33a、34aは、フレーム部材31に回転自在に支持され、ドアカセット30ごと空調ケース11内に組み付けた後、回転軸33a、34aの一端部に、空調ケース11の外部から図示しないドアレバーが挿入されて接続される。
【0030】
そして、エアミックスドア33、34と接続されたドアレバーは、図示しないリンク機構を介してサーボモータなどを用いたアクチュエータ機構、または手動操作機構に連結されている。これらの機構によってエアミックスドア33、34の回動位置が調節されるようになっている。
【0031】
エアミックスドア33、34は、風量割合の調節により車室内への吹出空気温度を調節する温度調節手段となっているため、基本的には冷風側通路15のドア33の開閉と、温風側通路18のドア34の開閉とが逆に作動するようになっている。フェイスモードなどで吹き出し温度を低くするMAX.COOL(最大冷房)状態では、冷風側通路15のドア33を全開とし、温風側通路18のドア34を全閉とし、逆に、フットモードなどで吹き出し温度を高くするMAX.HOT(最大暖房)状態では、冷風側通路15のドア33を全閉とし、温風側通路18のドア34を全開とする。
【0032】
空調ケース11において、ヒータコア13の空気下流側(車両後方側)の部位には、ヒータコア13との間に所定間隔を空けて上下方向に延びる壁部17が、空調ケース11に一体成形されている。この壁部17により、ヒータコア13の直後から上方に向かう温風通路18が形成されている。温風通路18の下流側(上方側)は、ヒータコア13の後方且つ上方部において冷風側通路15と合流し、冷風と温風との混合を行う混合空間19を形成している。
【0033】
空調ケース11内で混合空間19の下流側には、吹出モード切替部が構成されている。まず、空調ケース11の上面部の車両前方側の部位には、デフロスタ(DEF)開口部20が開口している。このデフロスタ開口部20には、温風通路18からの温風、もしくは混合空間19から温度調節された空調用空気が流入する。このデフロスタ開口部20は、図示しないデフロスタダクトを介して車室内のデフロスタ吹出口に接続され、このデフロスタ吹出口から車両前面窓ガラスの内面に向け、主に曇り止め用の温風が吹き出される。
【0034】
デフロスタ開口部20は、平板状のデフロスタドア21によって開閉される。このデフロスタドア21は、空調ケース11の上面部近傍にて、水平方向に配置された回転軸21aにより回動するようになっている。デフロスタドア21の回転軸21aとドア基板とは樹脂で一体的に形成され、そのドア基板の周縁にエラストマ樹脂などで弾性シールリップを形成した構造となっている。デフロスタ開口部20の周縁部のうち、混合空間19からデフロスタ開口部20に向かう温風または空調用空気の流れの下流側部位に回転軸21aを配置して、デフロスタドア21の先端部は、この温風または空調用空気の流れの上流側に向かうようにしてある。
【0035】
空調ケース11の上面部で、デフロスタ開口部20よりも車両後方側の部位には、フェイス(FACE)開口部22が開口している。このフェイス開口部22には、冷風側通路15からの冷風、もしくは混合空間19から温度調節された空調用空気が流入する。このフェイス開口部22は、図示しないフェイスダクトを介して車室内のフェイス吹出口に接続され、このフェイス吹出口から車室内乗員の頭胸部に向けて主に冷房用の冷風が吹き出される。
【0036】
フェイス開口部22は、平板状のフェイスドア23によって開閉される。このフェイスドア23は、空調ケース11の上面部近傍にて、水平方向に配置された回転軸23aにより回動するようになっている。フェイスドア23の回転軸23aとドア基板とは樹脂で一体的に形成され、そのドア基板の周縁にエラストマ樹脂などで弾性シールリップを形成した構造となっている。
【0037】
空調ケース11において、フェイス開口部22の下方部位には、フット(FOOT)開口部24が開口している。このフット開口部24は、温風通路18からの温風、もしくは混合空間19から温度調節された空調用空気が流入する。このフット開口部24は、図示しないフットダクトが接続されて車室内のフット吹出口に連通しており、このフット吹出口から車室内乗員の足元に向けて主に暖房用の温風が吹き出される。
【0038】
フット開口部24は、平板状のフットドア25によって開閉される。このフットドア25は、空調ケース11の車両後方側壁部で、水平方向に配置された回転軸25aにより回動するようになっている。フットドア25の回転軸25aとドア基板とは樹脂で一体的に形成され、そのドア基板の周縁にエラストマ樹脂などで弾性シールリップを形成した構造となっている。なお、上述した各ドアのシールは、ウレタン材などを用いたパッキンシールであっても良い。
【0039】
上記した吹出モードドアとしてのデフロスタドア21、フェイスドア23、フットドア25は、共通の図示しないリンク機構を介してサーボモータなどを用いたアクチュエータ機構、または手動操作機構に連結され、これらの機構によって吹出モードドアの回動位置を可変して吹出モードを可変するようになっている。なお、吹出モードとしては、フェイスモード、バイレベルモード、フットモード、フット/デフロスタモード、デフロスタモードなどがある。なお、本空調装置の制御に関する構成、および作動の概要については、説明を省略する。
【0040】
次に、本実施形態の特徴部分として、冷風バイパス通路16について説明する。図3は、図2のドアカセット30のIII−III断面を示す横断面図であり、図4は、図1中の矢印IV方向から見た場合のフェイス開口部22の平面図である。前述したドアカセット30の冷風側通路15の上方には、エバポレータ12を通過した一部の冷却空気を混合空間19の空気と隔ててフェイス開口部22へ導く冷風バイパス通路16が形成されている。この冷風バイパス通路16は、ダクト形状となっている。
【0041】
また、ドアカセット30には、この冷風バイパス通路16を開閉して流通する冷風量を調節する冷風バイパスドア32が構成されている。冷風バイパスドア32は、エアミックスドア33、34と同様の構造であり、水平方向に配置された回転軸32aと一体に結合されており、この回転軸32aとともに略車両上下方向に回動可能となっている。冷風バイパスドア32の回転軸32aとドア基板とは樹脂で一体的に形成され、そのドア基板の周縁にエラストマ樹脂などで弾性シールリップを形成した構造となっている。
【0042】
回転軸32aは、フレーム部材31に回転自在に支持され(図3参照)、ドアカセット30ごと空調ケース11内に組み付けた後、回転軸32aの一端部に、空調ケース11の外部から図示しないドアレバーが挿入されて接続される。そして、冷風バイパスドア32と接続されたドアレバーは、図示しないリンク機構を介してサーボモータなどを用いたアクチュエータ機構、または手動操作機構に連結されている。これらの機構によって冷風バイパスドア32の回動位置が調節されるようになっている。
【0043】
この冷風バイパス通路16のダクト部は、ドアカセット30のフレーム部材31に一体に形成されたものであっても良いが、本実施形態では、別体のダクト部をドアカセット30のフレーム部材31に組み付ける構成となっている。そのダクト部は、図3に示すように、左右用の二つで構成しており、それぞれのダクト部の中央部には、混合空間19からデフロスタ開口部20へ向かう空気の通風路(温風路)が開けられており、フェイス開口部22への冷風路はこの温風路の両脇を回り込むように形成されている。
【0044】
そして、冷風バイパス通路16のそれぞれの吹出口16aは、図4に示すように、フェイス開口部22の各コーナー(本実施形態では4箇所)に開口されている。なお、メインのフェイス開口部22aは、図4に示すように略凸字形状の2分割となっており、対応して略凸字形状の2分割となったフェイスドア23(二点鎖線)で開閉されるようになっている。
【0045】
本実施形態の車両は、車両に掛かる日射負荷を検出する図示しない日射センサ(日射負荷検出手段)を備えており、その検出信号は、当空調装置を制御する図示しない制御装置(制御手段)に入力されるようになっている。そして、冷風バイパスドア32は、フェイスモードで冷房を行うときには全開に制御され、フットモードやバイレベルモードで暖房運転状態であり、且つ日射センサで検出される日射負荷が所定値以上の場合に冷風バイパスドア32を開くように制御されている。これにより、暖房運転状態であっても乗員に当たる偏日射が強い場合、乗員の顔火照りを防ぐことができる。
【0046】
次に、本実施形態の特徴と、その効果について述べる。まず、複数のドア32〜34と、複数のドア32〜34を駆動可能に支持するとともに複数のドア4(32〜34を取り囲むフレーム部材31とでドアカセット30が構成され、ドアカセット30に、エバポレータ12を通過した冷却空気の一部をフェイス開口部22へ導く冷風バイパス通路16が形成されている。
【0047】
図5は、図1中のV−V断面での温度分布を示す等温線図である。80℃でヒータコアから吹き出された温風は、デフロスタ(DEF)開口部で70℃に保たれており、エバポレータから吹き出された冷風は、4箇所配置された冷風バイパス通路で5℃を確保されてフェイス開口部22へ向かっていることが分かる。このように、暖房運転状態において、デフロスタ開口部20から充分な温度の温風を得つつ、フェイス開口部22からは充分な温度の冷風を得ることができる。
【0048】
また、ドアカセット30に構成された複数のドア32〜34に、冷風バイパス通路16を開閉する冷風バイパスドア32を有している。これによれば、暖房運転状態において、デフロスタ開口部20から充分な温度の温風を得つつ、フェイス開口部22から得る冷風量を自在に調節することができる。また、冷風バイパス通路16は、ダクト形状に形成されている。これによれば、混合空間19からデフロスタ開口部20へ流れる温風と、冷風バイパス通路16からフェイス開口部22へ流れる冷風とを隔てて混ざらないようにすることができる。
【0049】
また、車両のデフロスタダクトに接続され、空調ケース11に形成されるデフロスタ開口部20と、混合空間19からデフロスタ開口部20へ向かう空気の通風路とを有し、デフロスタ開口部20へ向かう空気の通風路が、冷風バイパス通路16の間に形成されている。これによれば、混合空間19からデフロスタ開口部20へ流れる温風の通風路を塞ぐことなく、充分に確保することができる。また、冷風バイパス通路16、もしくはそのダクトの一部分が、フレーム部材31と一体に形成されている。これによれば、車両用空調装置のコストを抑えることができる。
【0050】
また、車両に掛かる日射負荷を検出する日射センサと、日射センサから入力される検出値に基づいて冷風バイパスドア32を制御する制御装置とを有し、制御装置は、暖房運転状態において、日射センサにて検出される日射負荷が所定値以上の場合に、冷風バイパスドア32を開くようにしている。これによれば、暖房運転状態において乗員に当たる偏日射が強い場合、顔火照り対策として、冷風バイパスドア32を開けて冷風バイパス通路16からの冷風をフェイス開口部22から乗員の頭胸部に吹き出すようにすることができる。
【0051】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。例えば、図6は、その他の実施形態における空調ユニット10の縦断面模式図である。上述の実施形態では、エアミックスドアを複数枚のドア33、34で構成していたが、図6に示すように、一枚のエアミックスドア35と一枚の冷風バイパスドア32とで構成したドアカセット30であっても良い。
【0052】
また、図7は、その他の実施形態における冷風バイパス通路16のダクト縦断面図である。冷風バイパス通路16のダクト部の断面形状は、矩形、円形、楕円形など、限定するものではないが、図7では、デフロスタ開口部20へ向かう空気の通風路を横切る部分の冷風バイパス通路16のダクト断面形状を、涙滴形状や翼形状などの流線型に形成している。これによれば、混合空間19からデフロスタ開口部20へ流れる温風の通風路を、フェイス開口部22へ連通する冷風バイパス通路16のダクトが横切るようにしても、通風抵抗を小さくすることができる。
【0053】
また、冷風バイパス通路16のダクト部は、ドアカセット30のフレーム部材31と一体であっても別体であっても良い。フレーム部材31とダクト部を一体に形成すれば、コストを抑えることができる。また、フレーム部材31とダクト部を別体で構成し、空調装置の仕様によってダクト部の有無を設定しても良いし、ドアカセット30を異なる車種用の空調装置間で共通使用とし、各空調装置に対応したダクト部を付け分ける構成としても良い。これらにおいては、多種の空調装置を作ってゆく上でのコストを抑えることができる。
【0054】
また、上述の実施形態では冷風バイパスドア32を、回転軸32aがドア基板の中央側に設けたバタフライドアとしているが、ドア種類を限るものではなく、回転軸をドア基板の一端側に設けた片持ちドア、回転軸をドア基板と離間させたロータリドア、回動ではなく面スライドする各種の面スライドアなどで構成しても良い。
【0055】
また、上述の実施形態では、フェイス開口部22とフェイスドア23、フット開口部24とフットドア25をそれぞれ設けた空調ユニット10となっているが、フェイス開口部とフット開口部とに連通する共通の流入部を有し、この流入部からの風流れを1枚のフェイス−フットドアでフェイス開口部とフット開口部とに切り替える構造の空調ユニットであっても良い。また、さらにドア群を左右用それぞれに分けて構成した左右独立コントロールタイプの空調ユニットであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態における空調ユニット10の縦断面模式図であり、フット吹出モードの状態を示す。
【図2】ドアカセット30の構造を示す縦断面模式図である。
【図3】図2のドアカセット30のIII−III断面を示す横断面図である。
【図4】図1中の矢印IV方向から見た場合のフェイス開口部22の平面図である。
【図5】図1中のV−V断面での温度分布を示す等温線図である。
【図6】その他の実施形態における空調ユニット10の縦断面模式図である。
【図7】その他の実施形態における冷風バイパス通路16のダクト縦断面図である。
【図8】試作段階における空調ユニット10の縦断面模式図であり、フット吹出モードの状態を示す。
【図9】図8中のIX−IX断面での温度分布を示す等温線図である。
【符号の説明】
【0057】
11…空調ケース(ケース)
12…エバポレータ
13…ヒータコア
15…冷風側通路
16…冷風バイパス通路
18…温風側通路
19…混合空間
20…デフロスタ開口部
22…フェイス開口部
30…ドアカセット
31…フレーム部材
32…複数のドア、冷風バイパスドア
33〜35…エアミックスドア、複数のドア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気通路を形成するケース(11)と、
前記ケース(11)内に配設され、通過する空気を冷却するエバポレータ(12)と、
前記エバポレータ(12)の下流側において、前記ケース(11)の内部に形成される冷風側通路(15)および温風側通路(18)と、
前記冷風側通路(15)および温風側通路(18)の下流側において、前記ケース(11)の内部に形成される混合空間(19)と、
車両のフェイスダクトに接続され、前記ケース(11)に形成されるフェイス開口部(22)と、
前記温風側通路(18)に配設され、前記エバポレータ(12)を通過した全部もしくは一部の冷却空気を加熱するヒータコア(13)と、
前記冷風側通路(15)および温風側通路(18)の上流側に配設され、前記冷風側通路(15)を流れる冷却風の風量と前記温風側通路(18)を流れる温風の風量との風量割合を調節するエアミックスドア(33〜35)とを備える車両用空調装置において、
複数のドア(32〜35)と、前記複数のドア(32〜35)を駆動可能に支持するとともに前記複数のドア(32〜35)を取り囲むフレーム部材(31)とでドアカセット(30)が構成され、
前記ドアカセット(30)に、前記エバポレータ(12)を通過した冷却空気の一部を前記フェイス開口部(22)へ導く冷風バイパス通路(16)が形成されていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記ドアカセット(30)に構成された前記複数のドア(32〜35)に、冷風バイパス通路(16)を開閉する冷風バイパスドア(32)を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記冷風バイパス通路(16)は、ダクト形状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
車両のデフロスタダクトに接続され、前記ケース(11)に形成されるデフロスタ開口部(20)と、前記混合空間(19)から前記デフロスタ開口部(20)へ向かう空気の通風路とを有し、前記デフロスタ開口部(20)へ向かう空気の通風路が、前記冷風バイパス通路(16)の間に形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
車両のデフロスタダクトに接続され、前記ケース(11)に形成されるデフロスタ開口部(20)と、前記混合空間(19)から前記デフロスタ開口部(20)へ向かう空気の通風路とを有し、前記デフロスタ開口部(20)へ向かう空気の通風路を横切る部分の前記冷風バイパス通路(16)のダクトの断面形状が、流線型に形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記冷風バイパス通路(16)、もしくはそのダクトの一部分が、前記フレーム部材(31)と一体に形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
車両に掛かる日射負荷を検出する日射負荷検出手段と、
前記日射負荷検出手段から入力される検出値に基づいて前記冷風バイパスドア(32)を制御する制御手段とを有し、
前記制御手段は、暖房運転状態において、前記日射負荷検出手段にて検出される日射負荷が所定値以上の場合に、前記冷風バイパスドア(32)を開くことを特徴とする請求項2ないし6のいずれか1項に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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