説明

車両用空調装置

【課題】エンジンルームからの雨水の車室内や空調ケース内への浸入を防止しつつ空調ケース内を流れる空気や結露による水滴の外部への漏洩を確実に防止してシール性の向上を図った車両用空調装置を提供する。
【解決手段】シール部材(60)は、空調ケース(20)の開口孔(23)の周縁に突出して形成された周壁(24a,24b)の頂面を覆うフランジ(63)と冷媒配管に介装された膨張弁部材(50,70)を包み込むよう周壁の内側に膨出する凹部(60a)を備え、該凹部に上記冷媒配管の一部(16,18)を気密及び液密に貫通させる貫通孔(61,62)を有しており、上記周壁にはシール部材を介して膨張弁部材を囲うよう支持する支持壁(26a,26b)が形成され、上記シール部材のうち上記支持壁の頂面と接する部位(64)には貫通孔の周縁を取り囲み且つ空調ケースの内方に向けて延長壁(66)が形成され、開口孔の周縁には切り欠き(28)が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に係り、詳しくは、エンジンルーム内に載置された室外機と車室内に設けられた室内機との間で冷媒を循環させる冷媒配管をエンジンルームと室内間を仕切る隔壁に貫通させる際の当該冷媒配管周りのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置である車両用エアコンディショナ(以下、カーエアコン)としては、従来、エンジン等の駆動力で冷凍サイクルの圧縮機を作動させるものが一般的である。このようなカーエアコンでは、通常、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネル(隔壁)の開口に冷媒配管を貫通させてエンジンルーム内の室外機(コンデンサ、圧縮機等)と車室内の室内機(エバポレータ等)とを連結するようにしている。
【0003】
ところで、雨天時等において、上記ダッシュパネルのエンジンルーム側には、前輪の跳ね上げ等によって雨水が飛散する。この場合、冷媒配管の上記隔壁の貫通部分においてダッシュパネルの開口から雨水が車室内に浸入するという問題ある。そこで、冷媒配管周りにウレタンフォームからなるパッキンを巻き付け、当該パッキンによりダッシュパネルの開口を塞ぐようにしたシール構造が知られている。
【0004】
一方、近年では、カーエアコンにおいて車室内の室内機の小型化、省スペース化が進んでおり、空調ダクトとして機能する樹脂性の空調ケース内にエバポレータ(蒸発器)や冷媒配管の一部であるエバポレータチューブを収納して一体化する技術が開発され実用化されている。また、一般的に、エバポレータチューブの上流側に配設される膨張弁は、騒音や振動を生じ易いことや交換し易いようにすること等からできるだけ車室内ではなくエンジンルーム側に配設したい一方、エンジンの熱から遠ざけたいという要請があり、例えばダッシュパネルの開口に配設するようにしている。しかしながら、このような構造では、ダッシュパネルの開口が大きくなる傾向にあり、例えば弾性体からなるグロメットでダッシュパネルの開口を塞ぐようにし、シール性等の改善を図る技術が開発されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−301927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術では、弾性体からなるグロメットによってエンジンルームからの雨水の車室内側への浸入は防止できるものの、例えばエバポレータチューブが空調ケースの外殻の開口を貫通するため、上記特許文献1にパッキンとして開示されているようなウレタンフォームでは、当該連結部分と空調ケースの外殻の開口との間の隙間から空調ケース内を流れる空気が外部に漏洩し易いという問題がある。
【0006】
また、膨張弁の作用によりエバポレータチューブは低温になり、空調ケース内を流れる空気中の水分がエバポレータチューブ上で結露し易いのであるが、上記公報に開示の技術では、当該結露した水滴も適切に排水されることなく外部、特に車室内に漏洩し易いという問題がある。
このようなことから、空調ケース内にエバポレータやエバポレータチューブを収納して一体化したカーエアコンにおいて、膨張弁による騒音や振動を回避しながら、エンジンルームからの雨水の車室内や空調ケース内への浸入を防止しつつ空調ケース内を流れる空気や結露による水滴の外部への漏洩を確実に防止するシール構造が求められるが、さらに、この場合において、斯かるシール構造を組み付け作業性の悪化なく如何に簡単に実現するかも課題となる。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、エンジンルーム内の室外機と車室内の室内機とをエンジンルームと車室とを仕切る隔壁の開口に冷媒配管を貫通させて連結し、空調ダクトとして機能する車室内の空調ケース内に蒸発器や冷媒配管の一部を収納して一体化した車両用空調装置において、膨張弁による騒音や振動を回避し、簡単な構成にして組み付け作業性の悪化を防止しながら、エンジンルームからの雨水の車室内や空調ケース内への浸入を防止しつつ空調ケース内を流れる空気や結露による水滴の外部への漏洩を確実に防止してシール性の向上を図った車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するべく、請求項1の車両用空調装置は、エンジンルームと車室とを仕切る隔壁の開口に冷媒配管を貫通させて前記エンジンルーム内の室外機と前記車室内の室内機とを連結するとともに、前記冷媒配管の一部を空調ケースの外殻の開口孔に貫通させ該空調ケース内に収納して前記室内機を構成し、前記隔壁の開口及び前記開口孔の各隙間をシール部材で塞いでなる車両用空調装置において、前記冷媒配管には、前記隔壁の開口に位置して膨張弁部材が介装され、前記空調ケースの前記開口孔の周縁には、頂面が前記隔壁の開口周縁と前記シール部材を介して当接するよう外方に突出して内側に前記膨張弁部材を収納する周壁が形成され、前記シール部材は、前記隔壁の開口及び前記開口孔の各隙間を塞ぐべく弾性を有するラバー部材で一体に成形されるものであって、前記周壁の前記頂面を覆うフランジを備えるとともに前記膨張弁部材を包み込むよう前記周壁の内側に膨出する凹部を備え、該凹部に前記冷媒配管の一部を気密及び液密に貫通させる貫通孔を有してなり、前記周壁には、前記シール部材を介して前記膨張弁部材を囲うよう支持する支持壁が内側に向け延びて形成され、前記シール部材のうち前記支持壁の頂面と接する部位には、前記貫通孔の周縁を取り囲み且つ前記空調ケースの内方に向け前記支持壁を超えるよう延びて延長壁が形成され、前記開口孔の周縁には、下部に位置して前記周壁まで達する切り欠きが形成されている、ことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2の車両用空調装置では、請求項1において、前記延長壁の下縁には、該延長壁の頂部から鉛直下方に延びて舌部が形成されていることを特徴とする。
また、請求項3の車両用空調装置では、請求項2において、前記舌部は先端が尖って逆三角形状をなしていることを特徴とする。
また、請求項4の車両用空調装置では、請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記膨張弁部材は、膨張弁本体と該膨張弁本体の背面に設けられて前記冷媒配管の一部を該膨張弁本体に締結部材により支持し固定するための膨張弁ステーとからなり、前記支持壁は、前記シール部材を介して前記膨張弁ステーを囲うよう支持することを特徴とする。
【0010】
また、請求項5の車両用空調装置では、請求項4において、さらに、前記周壁は、前記シール部材を介して前記膨張弁本体を囲うよう保持することを特徴とする。
また、請求項6の車両用空調装置では、請求項1乃至5のいずれかにおいて、前記シール部材のうち前記支持壁の頂面と接する部位には、断続して厚肉部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項7の車両用空調装置では、請求項1乃至6のいずれかにおいて、前記空調ケースは、前記開口孔を割るように上下方向でアッパーケースとロワケースとに分割されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の車両用空調装置によれば、エンジンルームと車室とを仕切る隔壁の開口及び室内機を構成する空調ケースに冷媒配管の一部を収納すべく該冷媒配管の一部を貫通させる外殻の開口孔の各隙間をシール部材で塞ぐ構造において、シール部材は、隔壁の開口及び開口孔の各隙間を塞ぐべく弾性を有するラバー部材で一体に成形され、空調ケースの開口孔の周縁に突出して形成された周壁の頂面を覆うフランジを備えるとともに冷媒配管に介装された膨張弁部材を包み込むよう周壁の内側に膨出する凹部を備え、該凹部に上記冷媒配管の一部を気密及び液密に貫通させる貫通孔を有しているので、空調ケースが車両に組み付けられると、シール部材のフランジの表面が周壁の頂面により隔壁の開口の周縁に押圧されて該周縁と当接することになり、エンジンルームと車室との連通が水密或いは気密に遮断される。これにより、エンジンルームにおいて雨水が飛散しても、当該雨水の車室内への浸入が確実に阻止される。また、冷媒配管の一部は貫通孔を気密及び液密に貫通しているため、エンジンルームと空調ケースの内部との連通も水密或いは気密に遮断される。これにより、雨水の空調ケース内への浸入が確実に阻止されるとともに、空調ケース内を流れる空気のエンジンルームへの漏洩が確実に阻止される。
【0013】
さらに、空調ケースが車両に組み付けられると、シール部材のフランジの背面が周壁の頂面に押圧されて該頂面と当接することにもなり、車室と空調ケース内との連通が水密或いは気密に遮断される。これにより、空調ケース内を流れる空気の車室内への漏洩が確実に阻止されるとともに、冷媒配管の一部が低温になることで結露した水滴の車室内への漏洩が確実に阻止される。
【0014】
また、シール部材は弾性を有するラバー部材で構成されているので、膨張弁部材により騒音や振動が生じても、これら騒音や振動がシール部材に良好に吸収される。
また、シール部材は隔壁の開口及び開口孔の各隙間を塞ぐべく一体に成形されているので、シール部材を簡単に構成でき、装置の組み付け作業性を悪化させることもない。
そして、上記周壁には、シール部材を介して膨張弁部材を囲うよう支持する支持壁が内側に向け延びて形成され、シール部材のうち上記支持壁の頂面と接する部位には、貫通孔の周縁を取り囲み且つ空調ケースの内方に向け支持壁を超えるよう延びて延長壁が形成され、開口孔の周縁には、下部に位置して周壁まで達する切り欠きが形成されているので、冷媒配管の一部が低温になることで結露した水滴は支持壁によっても車室内への漏洩がある程度阻止されるが、当該水滴は冷媒配管の一部を伝って貫通孔の周縁に達したとしても延長壁に堰き止められて該延長壁に沿い流下し、開口孔の周縁の切り欠きを通って空調ケース内に抜け、良好に排水される。
【0015】
このように、本発明に係る請求項1の車両用空調装置によれば、膨張弁部材による騒音や振動を回避し、簡単な構成にして組み付け作業性の悪化を防止しながら、エンジンルームからの雨水の車室内や空調ケース内への浸入を防止しつつ空調ケース内を流れる空気や結露による水滴の外部への漏洩を確実に防止して冷媒配管周りのシール性の向上を図ることができる。
【0016】
また、請求項2の車両用空調装置によれば、延長壁の下縁に該延長壁の頂部から鉛直下方に延びる舌部を形成したので、冷媒配管の一部が低温になることで結露した水滴は延長壁に沿い流下するが、当該流下した水滴を舌部を伝って良好に滴下させ、確実に排水することができる。
また、請求項3の車両用空調装置によれば、舌部は先端が尖って逆三角形状をなしているので、水滴を集積させ易く、より確実に排水することができる。
【0017】
また、請求項4の車両用空調装置によれば、支持壁はシール部材を介して膨張弁ステーを囲うよう支持するので、例えば膨張弁本体の交換時等に膨張弁本体を膨張弁ステーに対し脱着すべく締結部材を締結或いは解除する場合、当該締結或いは解除の際に生じる力を支持壁で良好に受け止めることができ、より一層装置の組み付け作業性の悪化を防止して冷媒配管の一部の変形や破損等を防止しつつ膨張弁本体を良好に着脱可能である。
【0018】
また、請求項5の車両用空調装置によれば、さらに、周壁はシール部材を介して膨張弁本体を囲うよう保持するので、例えば例えば膨張弁本体の交換時等に冷媒配管の一部を膨張弁本体に装着する場合において冷媒配管の一部を横方向の力をかけずに真っ直ぐに挿入でき、さらに装置の組み付け作業性の悪化を防止して冷媒配管の一部の変形や破損等を防止しつつ膨張弁本体を良好に着脱可能である。
【0019】
また、請求項6の車両用空調装置によれば、シール部材のうち支持壁の頂面と接する部位には、断続して厚肉部が形成されているので、支持壁は厚肉部を介して膨張弁ステーを囲うよう支持することになり、例えば膨張弁本体の交換時等に膨張弁本体を膨張弁ステーに対し脱着すべく締結部材を締結する際、当該締結力を厚肉部で良好に受け止めることができるとともに、膨張弁部材により発生する騒音や振動を効果的に抑制することが可能である。
【0020】
また、請求項7の車両用空調装置によれば、空調ケースが開口孔を割るように上下方向でアッパーケースとロワケースとに分割されている場合であっても、アッパーケースとロワケースの繋ぎ目を一体に成形されたシール部材で完全に塞ぐことができ、雨水の車室内や空調ケースへの浸入を確実に阻止可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面により本発明の一実施形態について説明する。
図1は、車両1に搭載された本発明に係る車両用空調装置を示す概略構成図である。
車両用空調装置、即ち車両用エアコンディショナ(以下、カーエアコン)は、エンジンルーム2内に圧縮機10、コンデンサ(図示せず)等が室外機として配設され、車室6内に空調ダクトとして機能する樹脂製の空調ケース20が内部にエバポレータ(図示せず)や金属製のエバポレータチューブ(冷媒配管の一部)16、18を擁して室内機として配設されて構成され、これら室外機と室内機とが金属製のパイプ12、14で連結されることで冷凍サイクルが形成されている。
【0022】
即ち、当該カーエアコンは、エンジン4の駆動力で圧縮機10を作動させることで車室内の空調を行うことが可能に構成されている。
図1に示すように、車両1には、エンジンルーム2と車室6とを仕切るようにしてダッシュパネル(隔壁)8が設けられており、パイプ12、14等の冷媒配管がダッシュパネル8の開口9を貫通して室外機と室内機とを連結している。
【0023】
詳しくは、エンジンルーム2側のパイプ12、14と車室6側のエバポレータチューブ16、18とは膨張弁(膨張弁部材)50を介してそれぞれ接続されており、当該膨張弁50が冷媒配管の構成要素としてダッシュパネル8の開口9に位置している。
エバポレータチューブ16、18は、空調ケース20の外殻の開口孔を貫通して空調ケース20内に延びており、当該エバポレータチューブ16、18の貫通部分には、開口孔の隙間を塞ぐとともに上記ダッシュパネル8の開口9の隙間を塞ぐことが可能なよう、一体にして、弾性を有するラバー製(例えば、EPDM製)のグロメット(シール部材)60が設けられている。
【0024】
図2を参照すると、図1の矢視A方向から見た空調ケース20の内部であって、空調ケース20の外殻に開口した開口孔23の周辺が示されており、同図に示すように開口孔23は上下方向で長孔状に穿設され、エバポレータチューブ16、18は共に当該長孔状の開口孔23を貫通して空調ケース20の内部に延びている。
一方、図3には、図1の矢視B方向から見たダッシュパネル8の開口9の周辺が示されており、同図に示すようにグロメット60の中央部分には膨張弁50を包み込むよう凹部60aが形成されている。そして、当該凹部60aには膨張弁50が嵌入されており、平面をなすグロメット60の周縁フランジ63がダッシュパネル8の開口9の周縁と当接している。
【0025】
図4を参照すると、エバポレータチューブ16、18、空調ケース20、膨張弁50及びグロメット60の分解構成図が示されている。
同図に示すように、空調ケース20は、開口孔23を上開口孔23aと下開口孔23bとに割るように上下方向でアッパーケース21とロワケース22とに分割され、各外殻21a、22a同士を当接させて最中状に重ね合わせるようにして構成されている。
【0026】
そして、空調ケース20には、アッパーケース21とロワケース22とを重ね合わせた状態で、開口孔23の周縁から外方に突出して環状の周壁24が形成され、当該周壁24に囲まれるようにして膨張弁50を嵌入させたグロメット60の凹部60aを保持する収容部25が形成されており、アッパーケース21とロワケース22とには、周壁24を上下に分割してそれぞれ上周壁24a、下周壁24bが形成されている。
【0027】
一方、図5を参照すると、グロメット60の背面から見た斜視図が示されており、図4及び当該図5に示すように、ラバー製のグロメット60は、詳しくは凹部60aの底部にエバポレータチューブ16、18の貫通する貫通孔61、62を有して一体に型成形されて構成されている。
これより、同図に示すように、エバポレータチューブ16、18は、それぞれ当該グロメット60の貫通孔61、62を貫通するとともに、Oリング17、19を介して膨張弁50の通路孔52、54に嵌合され、膨張弁ステー(膨張弁部材)70がビス72で締結されることによってフランジ16a、18aが膨張弁(膨張弁本体)50に押圧され固定されており、膨張弁50とともに当該膨張弁ステー70がグロメット60の凹部60aに嵌入されている。
【0028】
なお、グロメット60の貫通孔61、62の各内径はエバポレータチューブ16、18の各外径よりも若干小さくされており、貫通孔61、62はエバポレータチューブ16、18に対して締まり嵌めに構成されている。
そして、空調ケース20の周壁24に囲まれた上記収容部25には、アッパーケース21とロワケース22とを重ね合わせた状態で、グロメット60の凹部60aのうち上記膨張弁ステー70に対応する側部64を囲うように支持すべく支持壁26が形成されており、アッパーケース21とロワケース22とには、支持壁26を上下に分割してそれぞれ上支持壁26a、下支持壁26bが形成されている。
【0029】
このように空調ケース20に支持壁26が形成され、アッパーケース21とロワケース22とにそれぞれ上支持壁26a、下支持壁26bが形成されていることで、外殻21aのうち上開口孔23aの周縁と上支持壁26aとの間及び外殻22aのうち下開口孔23bの周縁と下支持壁26bとの間、即ちアッパーケース21とロワケース22とを重ね合わせた状態で開口孔23の周縁と支持壁26との間には、空隙27が形成されている。
【0030】
そして、外殻22aのうち下開口孔23bの周縁部分には、下開口孔23bから下周壁24bまで切り欠かれてスリット(切り欠き)28が形成されており、空隙27と空調ケース20の内部とがスリット28をも介して連通している。
再び図5を参照すると、グロメット60のうち支持壁26の頂面と接する部位、即ち膨張弁ステー70に対応する側部64には、上部を除き空調ケース20の内方に向け延びて延長壁66が形成されている。詳しくは、当該延長壁66は支持壁26を超えるように延びている。
【0031】
さらに、延長壁66の下縁には、延長壁66の頂部から鉛直下方に延びて舌部67が設けられており、当該舌部67は、同図に示すように先端が尖って逆三角形状をなしている。
また、側部64及び延長壁66には複数の隆起部65が形成されており、これより、支持壁26は、実際には上支持壁26a、下支持壁26bが当該隆起部65と当接することによって側部64を支持する。
【0032】
また、周縁フランジ63の上端、下端には、空調ケース20の内方に向け延びてそれぞれガイドフランジ68、69が形成されている。
このように構成されたエバポレータチューブ16、18、空調ケース20、膨張弁50及びグロメット60は、組み立て工程においては、エバポレータチューブ16、18が取り付けられるとともにグロメット60の凹部60aに膨張弁50及び膨張弁ステー70が嵌入され、この状態で、先ず、これらは、エバポレータチューブ18が下開口孔23bを貫通し、周縁フランジ63やガイドフランジ69の背面が下周壁24bの頂面を覆うとともに膨張弁ステー70に対応するグロメット60の側部64ひいては隆起部65が下支持壁26bに嵌合し、延長壁66の先端及び舌部67が空隙27に位置するようにしてロワケース22側の下周壁24b内に収納される。次に、これらは、エバポレータチューブ16が上開口孔23aを貫通し、周縁フランジ63やガイドフランジ68の背面が上周壁24aの頂面を覆うとともに側部64ひいては隆起部65が上支持壁26aに嵌合するようにしてアッパーケース21がロワケース22に各外殻21a、22a同士が当接するよう重ね合わされる。これによりエバポレータチューブ16、18、膨張弁50、膨張弁ステー70及びグロメット60が容易にして空調ケース20に装着される。
【0033】
図6を参照すると、図2のC−C線に沿う断面図、即ちエバポレータチューブ16、18、膨張弁50及びグロメット60が空調ケース20に装着され車両1に搭載された状態の断面図が示され、図7を参照すると、エバポレータチューブ16、18、膨張弁50及びグロメット60がロワケース22に装着された状態の上視図が示され、図8を参照すると、図2の矢視D方向から見た透視図が示されており、以下これら図6〜図8に基づき本発明に係る車両用空調装置の作用及び効果について説明する。
【0034】
先ず、上述したように、グロメット60は、開口孔23を塞ぐとともにダッシュパネル8の開口9を塞ぐことが可能なよう一体に型成形されている。これにより、グロメット60を簡単な構成にでき、グロメット60や膨張弁50等の装置の組み付け作業性の悪化を防止可能である。
また、上述し、図6〜図8からも明らかなように、グロメット60の周縁フランジ63の表面はダッシュパネル8の開口9の周縁と当接している。このように弾性を有するラバー製のグロメット60の周縁フランジ63の表面が開口9の周縁と当接していることで当該周縁フランジ63の表面がシール部として機能する。これにより、エンジンルーム2と車室6との連通が水密或いは気密に遮断され、図1に矢印で示すように雨水が飛散しても、当該雨水の車室内への浸入が確実に阻止される。
【0035】
特に、本発明に係る車両用空調装置では、開口孔23を上開口孔23aと下開口孔23bとに割るように上下方向でアッパーケース21とロワケース22とに分割しており、これにより上述した如く簡単な構成にして容易にエバポレータチューブ16、18、膨張弁50及びグロメット60を空調ケース20に装着可能であるが、このような構造であっても、アッパーケース21とロワケース22の繋ぎ目をグロメット60で完全に塞ぐことができ、雨水の車室内への浸入を確実に阻止可能である。
【0036】
また、グロメット60の周縁フランジ63やガイドフランジ68、69の背面は上周壁24a、下周壁24bの頂面を覆い、これらとそれぞれ当接している。このように周縁フランジ63の背面が周壁24の頂面と当接していることで当該周縁フランジ63の背面もシール部として機能する。これにより、車室6と周壁24に囲まれた収容部25ひいては空調ケース20内との連通が水密或いは気密に遮断され、図1に鎖線矢印で示すように空調ケース20内を流れる空気が開口孔23から開口孔23の周縁と支持壁26との間の空隙27を経て収容部25内に流入しても、当該空気の車室6内への漏洩が確実に阻止される。
【0037】
さらに、膨張弁50の作用によりエバポレータチューブ16、18は低温になると、空調ケース20内を流れる空気中の水分がエバポレータチューブ16、18上で結露するが、このように周縁フランジ63の背面がシール部として機能することにより、当該結露した水滴の車室6内への漏洩も確実に阻止される。なお、グロメット60の側部64は支持壁26によって囲うように支持されていることから、これによっても結露した水滴の車室6内への漏洩はある程度阻止される。
【0038】
また、上述したように、グロメット60の貫通孔61、62はエバポレータチューブ16、18に対して締まり嵌めにより水密及び気密に構成されており、膨張弁50や膨張弁ステー70はグロメット60の凹部60aに嵌入されているので、貫通孔61、62の周縁や凹部60a自体もシール部として機能する。これにより、エンジンルーム2と空調ケース20内との連通が水密或いは気密に遮断され、雨水の空調ケース20内への浸入が確実に阻止されるとともに、空調ケース20内を流れる空気や上記結露による水滴のエンジンルーム2への漏洩も確実に阻止される。
【0039】
また、本発明の車両用空調装置では、グロメット60のうち膨張弁ステー70に対応する側部64から延長壁66が延びているので、図8に示すように、エバポレータチューブ16、18上で結露した水滴がエバポレータチューブ16、18を伝ってグロメット60に達しても、当該水滴は延長壁66に堰き止められ、当該延長壁66に沿って流下して開口孔23の周縁と支持壁26との間の空隙27に滴下して集積され、スリット28を通って空調ケース20内に排水される。なお、図示しないが、空調ケース20には排水ドレンが設けられており、水滴は空調ケース20内に溜まることはなく、良好に外部に排水される。
【0040】
特に、本発明の車両用空調装置では、延長壁66の下縁に延長壁66の頂部から下方に延びて逆三角形状の舌部67が設けられているので、延長壁66に沿って流下した水滴の全ては当該舌部67を伝って良好に空隙27に集積され、確実に排水される。
また、上述し、図7からも明らかなように、側部64及び延長壁66には肉厚とされた複数の隆起部(厚肉部)65が形成されており、当該隆起部65が弾性変形しつつ上支持壁26a、下支持壁26bに当接することで側部64は上支持壁26a、下支持壁26bに支持されている。このように、膨張弁ステー70に対応する側部64が隆起部65を介して上支持壁26a、下支持壁26bに確実に当接していると、例えば膨張弁50の交換時等に膨張弁50を膨張弁ステー70に対し脱着すべくビス(締結部材)72を回転(締結或いは解除)させた場合において、当該回転させる力を上支持壁26a、下支持壁26bで良好に受け止めることができ、より一層装置の組み付け作業性の悪化を防止してエバポレータチューブ16、18の変形や破損等を防止しつつ膨張弁50を良好に着脱可能である。
【0041】
また、膨張弁50はグロメット60の凹部60aに嵌入されて収容部25に保持されているので、例えば膨張弁50の交換時等にエバポレータチューブ16、18を膨張弁50の通路孔52、54に嵌合する場合において、エバポレータチューブ16、18を横方向の力をかけずに真っ直ぐに通路孔52、54に挿入でき、さらに装置の組み付け作業性の悪化を防止してエバポレータチューブ16、18の変形や破損等を防止しつつ膨張弁50を良好に着脱可能である。
【0042】
また、上述したように膨張弁50は騒音や振動を生じ易く、車両1の乗員に不快感を与え易いのであるが、膨張弁50をダッシュパネル8の開口9に位置させ、ラバー製(例えば、EPDM製)のグロメット60で膨張弁50を包み込むようにしたことにより、斯かる騒音や振動をグロメット60の弾性により吸収して良好に軽減することができる。特に、膨張弁ステー70が肉厚の隆起部65を介して支持壁26に支持されているので、当該隆起部65の作用によって上記騒音や振動を効果的に抑制することが可能である。
【0043】
以上で本発明の一実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。
例えば、上記実施形態では、グロメット60の側部64及び延長壁66に複数の隆起部(厚肉部)65を形成するようにしたが、例えば側部64及び延長壁66の肉厚が十分大きければ必ずしも隆起部65はなくてもよく、この場合であっても上記同様の効果を得ることは可能である。
【0044】
また、上記実施形態では、グロメット60にガイドフランジ68、69を設けるようにしたが、これらは特に必須ではない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る車両用空調装置を示す概略構成図である。
【図2】図1の矢視A方向から見た空調ケースの内部であって、開口孔周辺を示す図である。
【図3】図1の矢視B方向から見たダッシュパネルの開口の周辺を示す図である。
【図4】エバポレータチューブ、空調ケース、膨張弁及びグロメットの分解構成図である。
【図5】グロメットの背面から見た斜視図である。
【図6】図2のC−C線に沿う断面図である。
【図7】エバポレータチューブ、膨張弁及びグロメットがロワケースに装着された状態を示す上視図である。
【図8】図2の矢視D方向から見た透視図である。
【符号の説明】
【0046】
1 車両
2 エンジンルーム
6 車室
8 ダッシュパネル(隔壁)
9 開口
16、18 エバポレータチューブ(冷媒配管の一部)
20 空調ケース
21 アッパーケース
22 ロワケース
23 開口孔
24 周壁
25 収納部
26 支持壁
28 スリット(切り欠き)
50 膨張弁(膨張弁部材、膨張弁本体)
60 グロメット(シール部材)
60a 凹部
61、62 貫通孔
63 周縁フランジ(フランジ)
64 側部
65 隆起部(厚肉部)
66 延長壁
67 舌部
70 膨張弁ステー(膨張弁部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームと車室とを仕切る隔壁の開口に冷媒配管を貫通させて前記エンジンルーム内の室外機と前記車室内の室内機とを連結するとともに、前記冷媒配管の一部を空調ケースの外殻の開口孔に貫通させ該空調ケース内に収納して前記室内機を構成し、前記隔壁の開口及び前記開口孔の各隙間をシール部材で塞いでなる車両用空調装置において、
前記冷媒配管には、前記隔壁の開口に位置して膨張弁部材が介装され、
前記空調ケースの前記開口孔の周縁には、頂面が前記隔壁の開口周縁と前記シール部材を介して当接するよう外方に突出して内側に前記膨張弁部材を収納する周壁が形成され、
前記シール部材は、前記隔壁の開口及び前記開口孔の各隙間を塞ぐべく弾性を有するラバー部材で一体に成形されるものであって、前記周壁の前記頂面を覆うフランジを備えるとともに前記膨張弁部材を包み込むよう前記周壁の内側に膨出する凹部を備え、該凹部に前記冷媒配管の一部を気密及び液密に貫通させる貫通孔を有してなり、
前記周壁には、前記シール部材を介して前記膨張弁部材を囲うよう支持する支持壁が内側に向け延びて形成され、
前記シール部材のうち前記支持壁の頂面と接する部位には、前記貫通孔の周縁を取り囲み且つ前記空調ケースの内方に向け前記支持壁を超えるよう延びて延長壁が形成され、
前記開口孔の周縁には、下部に位置して前記周壁まで達する切り欠きが形成されている、
ことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記延長壁の下縁には、該延長壁の頂部から鉛直下方に延びて舌部が形成されていることを特徴とする、請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記舌部は先端が尖って逆三角形状をなしていることを特徴とする、請求項2記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記膨張弁部材は、膨張弁本体と該膨張弁本体の背面に設けられて前記冷媒配管の一部を該膨張弁本体に締結部材により支持し固定するための膨張弁ステーとからなり、
前記支持壁は、前記シール部材を介して前記膨張弁ステーを囲うよう支持することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか記載の車両用空調装置。
【請求項5】
さらに、前記周壁は、前記シール部材を介して前記膨張弁本体を囲うよう保持することを特徴とする、請求項4記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記シール部材のうち前記支持壁の頂面と接する部位には、断続して厚肉部が形成されていることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記空調ケースは、前記開口孔を割るように上下方向でアッパーケースとロワケースとに分割されていることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−67356(P2009−67356A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240847(P2007−240847)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】