説明

車両用空調装置

【課題】ケースの空気通路に冷却用熱交換器の代わりに通風抵抗部材を配設する場合に、空気の通過による騒音の発生を抑制して車室の静粛化を図る。
【解決手段】空調装置Aは、空気が導入される空気通路を有するケースと、ケース内の空気通路に設けられ、冷却用熱交換器が配設される配設部を備えている。配設部には、冷却用熱交換器の代わりに通風抵抗部材70が配設されている。通風抵抗部材70には、断面が空気流れ上流側へ向けて小さくなるように形成された翼板77が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用空調装置として、例えば特許文献1に開示されているように、ケース内に形成された空気通路に冷却用及び加熱用熱交換器を配設し、空気通路に導入した空気を冷却用熱交換器ないし加熱用熱交換器を通過させることによって調和空気として、車室の各部に供給するように構成されたものが知られている。
【0003】
上記のような車両用空調装置では、例えば、特許文献2に開示されているように、仕様によって冷却用熱交換器を省略することがある。冷却用熱交換器を省略すると、空気通路の通風抵抗が減少して風量が多くなり過ぎるので、特許文献2の車両用空調装置では、冷却用熱交換器が配設されていた所に通風抵抗部材を配設している。この通風抵抗部材は、空気通路を横切る板状をなしており、縦横に並ぶ多数の穴を有している。そして、空気が通風抵抗部材の穴を通る際に通風抵抗が生じるようになっている。
【特許文献1】特開2007−62646号公報
【特許文献2】特開2004−306743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の車両用空調装置のように空気通路に冷却用熱交換器が配設されている場合には、空気の流れは冷却用熱交換器が有するフィンやチューブによってある程度整流されることになるが、特許文献2の車両用空調装置のように多数の穴を設けた通風抵抗板を空気通路に配設した場合には、空気が穴を通った後に流れが急拡大することによって乱流が起こり、騒音が発生し易い。車両用空調装置で発生した騒音は、近年、特に車室内の静粛化が進んでいるので、乗員に聞こえやすいものとなり、乗員の快適性を阻害する要因となる。
【0005】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ケースの空気通路に冷却用熱交換器の代わりに通風抵抗部材を配設する場合に、空気の通過による騒音の発生を抑制して車室の静粛化を図り、ひいては、乗員の快適性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、通風抵抗部材に翼板を設けるようにした。
【0007】
具体的には、第1の発明では、空気が導入される空気通路を有するケースと、上記ケース内の空気通路に設けられ、冷却用熱交換器が配設される配設部と、上記配設部に上記冷却用熱交換器の代わりに配設される通風抵抗部材とを備えた車両用空調装置において、上記通風抵抗部材には、断面が空気流れ上流側へ向けて小さくなるように形成された翼板が設けられている構成とする。
【0008】
この構成によれば、車両用空調装置の仕様によって冷却用熱交換器を省略する場合に、翼板が設けられた通風抵抗部材が空気通路に配設されることになる。この翼板は、断面が空気流れ上流側へ向けて小さくなっているので、空気が通風抵抗部材を通過する際に乱流が起こり難くなる。
【0009】
第2の発明では、第1の発明において、ケースにおける配設部に対応する部位には、冷却用熱交換器に取り付けられる付属部材が挿入される貫通孔が形成され、通風抵抗部材には、上記貫通孔に挿入されて該貫通孔を閉塞する閉塞部が形成されている構成とする。
【0010】
この構成によれば、冷却用熱交換器の付属部材が挿入されるケースの貫通孔が、通風抵抗部材の閉塞部によって閉塞されるので、ケース内の空気が外部に漏れ難くなる。これにより、冷却用熱交換器を配設する場合と、通風抵抗部材を配設する場合とで同じケースを用いることが可能になる。
【0011】
第3の発明では、第1または2の発明において、翼板は、冷却用熱交換器の空気通過面と同じ範囲に形成されている構成とする。
【0012】
この構成によれば、通風抵抗部材の空気が通過する範囲が、冷却用熱交換器の空気が通過する範囲と略等しくなる。
【0013】
第4の発明では、第1から3のいずれか1つの発明において、通風抵抗部材には、複数の翼板が空気流れ方向と交差する方向に間隔をあけて並ぶように設けられ、隣り合う翼板の隙間が不均一に設定されている構成とする。
【0014】
この構成によれば、隣り合う翼板の隙間によってケースの空気通路内の風速分布を調整することが可能になる。
【0015】
第5の発明では、第1から3のいずれか1つの発明において、通風抵抗部材には、複数の翼板が空気流れ方向と交差する方向に間隔をあけて並ぶように設けられ、翼板のピッチが不均一に設定されている構成とする。
【0016】
この構成によれば、翼板のピッチによってケースの空気通路内の風速分布を調整することが可能になる。
【0017】
第6の発明では、第1から5のいずれか1つの発明において、通風抵抗部材の翼板は、空気流れ上流側と下流側とで同形状となっている構成とする。
【0018】
この構成によれば、通風抵抗部材をケースに組み付ける際に、誤って空気流れ方向下流側が空気通路の上流に向くように組み付けられたとしても、翼板の上流側と下流側とが同形状であることから、翼板による効果を得ることが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明によれば、冷却用熱交換器の代わりにケース内の空気通路に配設される通風抵抗部材が翼板を有しているので、空気が通風抵抗部材を通過する際に発生する騒音を抑制できる。これにより、冷却用熱交換器が省略される仕様であっても、車室の静粛化を図ることができ、乗員の快適性を向上できる。
【0020】
第2の発明によれば、冷却用熱交換器に取り付けられる付属部材が挿入される貫通孔を閉塞するための閉塞部を通風抵抗部材に設けたので、冷却用熱交換器を配設する場合と、通風抵抗部材を配設する場合とでケースを共通化でき、コストを低減できる。
【0021】
第3の発明によれば、翼板は、冷却用熱交換器の空気通過面と同じ範囲に形成されているので、通風抵抗部材の空気が通過する範囲と冷却用熱交換器の空気が通過する範囲とを略等しくすることができる。これにより、冷却用熱交換器を配設する場合と、通風抵抗部材を配設する場合とでケース内の風速分布が大きく変化するのを回避でき、通風抵抗部材を配設した場合に空調性能の悪化を防止できる。
【0022】
第4の発明によれば、隣り合う翼板の隙間が不均一にしたので、ケースの空気通路内の風速分布を、ケースの形状や構造を変更せずに通風抵抗部材を利用して容易に調整することができる。
【0023】
第5の発明によれば、翼板のピッチを不均一にしたので、第5の発明と同様に空気通路内の風速分布を容易に調整することができる。
【0024】
第6の発明によれば、通風抵抗部材の翼板の空気流れ上流側と下流側とが同形状であるため、通風抵抗部材が誤組付されても騒音の発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。また、実施形態の説明では、説明の便宜を図るために、「前」とは車両の前側を、また「後」とは車両の後側を、さらに「左」とは車両の左側を、さらにまた「右」とは車両の右側をそれぞれ表すこととしている。
【0026】
図1は、標準仕様に係る車両用空調装置Aを示すものである。標準仕様とは、図2に示すように冷却用熱交換器としてのエバポレータ37を有している仕様であり、他の仕様としては、後述するが、図5に示すように、そのエバポレータ37が省略された仕様がある。
【0027】
車両用空調装置Aは、自動車の車室内に配設されているインストルメントパネル(図示せず)の内部に収容されている。空調装置Aは、エバポレータ37及び加熱用熱交換器としてのヒータコア44を収容するケース8を有している。このケース8には、空気導入口としての外気導入口28及び内気導入口29と、空気吹出口としてのデフロスタ口51、ベント口52、フロントヒート口57及びリアヒート口58とが開口されている。尚、これら外気導入口28、内気導入口29、デフロスタ口51、ベント口52、フロントヒート口57及びリアヒート口58の各々のケース8での開口位置は、本実施形態に記載の位置以外の位置に変更してもよいのは勿論である。
【0028】
また、ケース8の内部には、上記外気導入口28及び内気導入口29をデフロスタ口51、ベント口52、フロントヒート口57及びリアヒート口58に接続する空気通路12が設けられている。この空気通路12には、外気導入口28及び内気導入口29の少なくとも一方から空気を空気通路12に吸い込んだ後にベント口52、フロントヒート口57、リアヒート口58及びデフロスタ口51の少なくとも1つから吹き出させるブロワ23が配設されている。また、空気通路12には、エバポレータ37が配設されるエバポレータ配設部36と、ヒータコア44が配設されるヒータコア配設部43とが設けられている。さらに、空気通路12には、上記エバポレータ37を経由した冷風及びヒータコア44を経由した温風の混合割合を変えてミックスチャンバ15に供給するミックスダンパ46と、開閉ダンパとしてのデフロスタダンパ61、ベントダンパ62及びヒートダンパ63とが配置されている。
【0029】
上記ケース8は、図6に示すように、上部ケース9、下部ケース10及びヒータコアカバーダクト11を一体的に組み付けてなる。上部ケース9は左右中央部で左右に2分割されていて分割部9a,9aからなり、また、ヒータコアカバーダクト11も同様に左右に2分割されていて分割部11a,11aからなる。上記下部ケース10は有底箱状のものである。
【0030】
そして、上記上部及び下部ケース9,10同士は、下部ケース10上端の前半部と上部ケース9下端の前半部とが気密状に接合することで一体的に組み付けられる。この組付状態では、上部ケース9下端の前半部と下部ケース10上端の前半部とがダクト状にシールされて接続され、その内部に空気通路12の一部が形成される。
【0031】
また、上部ケース9下端の後半部と下部ケース10上端の後半部との間には、図2及び図3に示すように、後側に略テーパ状に拡がる切欠状のダクト装着部17が形成され、このダクト装着部17に上記ヒータコアカバーダクト11が嵌合されている。このヒータコアカバーダクト11は、上端及び下端が開口する断面矩形状のダクトからなり、その上端部を上記上部ケース9下端の後半部に、また下端部を下部ケース10上端の後半部にそれぞれ気密状に接合することで組み付けられている。
【0032】
このようにヒータコアカバーダクト11を上部ケース9下端の後半部と下部ケース10上端の後半部との間のダクト装着部17に嵌合して装着したときに、ヒータコアカバーダクト11の上端開口が上部ケース9下端の後半部の開口に、またヒータコアカバーダクト11の下端開口が下部ケース10上端の後半部の開口にそれぞれ気密状に連通して連続状のダクトをなし、その内部に空気通路12の一部たる後述の温風通路14が形成されるようになっている。
【0033】
尚、図6に示すように、上記ダクト装着部17の下端に相当する下部ケース10上端の後半部においてその左右側壁には前後方向に延びるガイドレール部20,20が形成されている一方、ヒータコアカバーダクト11下端の左右側部には上記ガイドレール部20,20に摺動可能に係合する係合部21,21が形成されており、この左右の係合部21,21とガイドレール部20,20との係合により、ヒータコアカバーダクト11が前方向にスライドしながらダクト装着部17に嵌合して装着される。
【0034】
上記上部ケース9には、その前側上部の左右中央に上部ケース9の一部をなす中空円筒状のファンハウジング22(このファンハウジング22も上部ケース9の一部であるので、左右に分割されている)が他の部分と一体に形成され、図2に示すように、このファンハウジング22の内部には上記ブロワ23を構成するシロッコファンからなるブロワファン24が回転軸を左右方向に向けた状態で配置収容されている。図6に示すように、ファンハウジング22の左側壁(右側壁でもよい)にはモータ取付口22aが、また右側壁(左側壁でもよい)には吸込口22bが、さらに下側には吐出部22cがそれぞれ開口されている。モータ取付口22aには上記ブロワ23を構成するブロワモータ(図示せず)が水平左右方向に延びる出力軸をファンハウジング22内に臨ませて気密状に取付固定されている。このブロワモータの出力軸に上記ブロワファン24が回転一体に取付固定されている。
【0035】
一方、上記ファンハウジング22の吸込口22bには、図1に示すように、上部ケース9の一部をなしてはいるが他の部分と別体に形成されたインテークボックス27の下流端が気密状に接続されている。インテークボックス27の前側上部は前側に向かって下側に、また後側上部は後側に向かって下側にそれぞれ傾斜し、前側上部には矩形状の上記外気導入口28が、また後側上部には外気導入口28と略同じ形状の上記内気導入口29がそれぞれ開口されている。上記内気導入口29はインストルメントパネル内で車室内に開放されている一方、外気導入口28は、フロントウィンドガラス前側の車体カウル部(図示せず)を経て車外に連通しており、外気導入口28により車外の空気(外気)を、また内気導入口29により車室内の空気(内気)をそれぞれケース8内の空気通路12に導入するようにしている。
【0036】
上記インテークボックス27の内部には内外気切換ダンパ(図示せず)が配置され、この内外気切換ダンパの支持軸はインテークボックス27に支持され、この支持軸には電動アクチュエータ33が駆動連結されている。そして、ブロワモータの作動に伴うブロワファン24の回転により、外気導入口28からの外気及び/又は内気導入口29からの内気をファンハウジング22内(空気通路12の一部)に吸い込んで吐出部22cから吐出するとともに、電動アクチュエータ33による内外気切換ダンパの回動切換えにより、ファンハウジング22内に導入する空気を外気導入口28からの外気又は内気導入口29からの内気の少なくとも一方に切り換えるようにしている。
【0037】
図2に示すように、上記ファンハウジング22の吐出部22cは、後側に向かって斜め下方に延びる断面矩形状のダクトからなり、この吐出部22cの下流端部は、上部ケース9内下部の前端部と下部ケース10内の前端部とにより形成されるレジスタ収容部35に接続されている。
【0038】
上記ファンハウジング22の吐出部22cの下流端部はエバポレータ配設部36に上記レジスタ収容部35を介して接続されている。このエバポレータ配設部36は、ファンハウジング22の下側に位置していて、上部ケース9内下部の前部と下部ケース10内の前部とにより形成されており、エバポレータ配設部36には上記エバポレータ37が空気通路12を横切るように配置されて収容されるようになっている。上部ケース9の内面及び下部ケース10の内面には、エバポレータ配設部36に対応する部位に、エバポレータ37が嵌るように形成された保持部9d,10aがそれぞれ形成されている。
【0039】
エバポレータ37は矩形板状のもので、空気通過面が略垂直方向に沿うように縦置きに配置されている。図3に示すように、エバポレータ37は、上下方向に延びる多数のフィン37d及びチューブ37eからなるコア部37aと、コア部37aの上端及び下端に配設された上側タンク37b及び下側タンク37cとを備えている。コア部37aのチューブ37eは空気流れ方向に長い断面形状を有する偏平チューブであり、左右方向に間隔をあけて設けられている。フィン37dは、いわゆるコルゲートフィンであり、隣り合うチューブ37e,37eの間に配設されている。上側タンク37b及び下側タンク37cは、左右方向に延びており、互いに同じ形状となっている。これらタンク37b,37cの内部に仕切板(図示せず)が配設されており、この仕切板により冷媒の流れパターンが設定されている。
【0040】
上側タンク37bの右端面には、図示しないが冷媒流入孔と流出孔とが形成されており、膨張弁ブロック40が締結部材により締結固定されるようになっている。膨張弁ブロック40は、冷凍サイクルの一要素を構成する膨脹弁(図示せず)を内蔵したものであり、図2に示すように、流入孔及び流出孔にそれぞれ連通する連通孔40a,40aを有している。これら連通孔40a,40aには、右1に示すように冷媒配管41,41が接続されている。この膨脹弁ブロック40はエバポレータ37の付属部材である。
【0041】
尚、エバポレータ37のチューブ37e内で液冷媒の蒸発がなくて蒸発潜熱が発生しない状態では、エバポレータ37を通過した空気は冷却されずに流入温度のままで下流側へ流れるが、本実施形態では、その場合もエバポレータ37を通過した空気を冷風とする。
【0042】
また、エバポレータ37は、下部ケース10の上方から下部ケース10内に挿入されて組み付けられるようになっている。
【0043】
図1に示すように、上部ケース9の右側壁には、膨脹弁ブロック40が挿入される貫通孔9bが形成されている。貫通孔9bの形状は、膨脹弁ブロック40の外形状と略一致するようになっている。貫通孔9bの周縁部には、ケース8外方へ突出して膨脹弁ブロック40を囲むように延びる収容壁部9cが形成されている。収容壁部9cと膨脹弁ブロック40との間にはシール材(図示せず)が配設されている。
【0044】
また、図2に示すように、上記ファンハウジング22の吐出部22c下流端部とエバポレータ配設部36との間には、エバポレータ37の直上流側を覆って該エバポレータ37に流入する空気を濾過するフィルタ機構38が配置されている。また、このフィルタ機構38の上流側、つまりレジスタ収容部35の下半部において下部ケース10の右側壁(左側壁でもよい)には放熱用レジスタ39がレジスタ収容部35内に臨むように取り付けられている。この放熱用レジスタ39は、制御用トランジスタ(図示せず)を冷却するためのものである。
【0045】
上記エバポレータ37下流側の空気通路12は冷風通路13と温風通路14とに分岐されている。上記冷風通路13は、エバポレータ37下流側(後側)の略上半部から上記ダクト装着部17の前側を通って略上側に延びるダクト内に形成されるもので、この冷風通路13により、エバポレータ37を経由した冷風の一部ないし全部を直接流すようにしている。
【0046】
一方、温風通路14は、エバポレータ37下流側の略下半部から後方に延びた後に上側に向かって延びている。この温風通路14の途中において上記下部ケース10上端の後半部には温風通路14(空気通路12)の一部をなすヒータコア配設部43が形成され、このヒータコア配設部43内に上記ヒータコア44が温風通路14を横切るように配置されて収容されている。
【0047】
すなわち、ヒータコア44は、上記エバポレータ37の下流側に略水平方向に沿うように横置きに配置されている。このヒータコア44も、上記エバポレータ37と同様に、チューブの周りに多数の伝熱フィンを取り付けたタイプの熱交換器であり、チューブの両端は、図1に示す配管47を介して車載エンジンのウォータジャケット(冷却水通路)に接続されており、エンジンの冷却により昇温した冷却水をヒータコア44に流すことにより、エバポレータ37を経由して冷却された冷風の一部ないし全部と熱交換してそれを加熱し温風を生成し、この温風を温風通路14に流すようにしている。尚、ヒータコア44のチューブに高温度の冷却水が流れないときには、ヒータコア44を通過した空気は加熱されずに流入温度のままで下流側へ流れるが、本実施形態では、その場合もヒータコア44から出た空気を温風とする。
【0048】
尚、図6に示すように、下部ケース10の後半部の右側壁(左側壁でもよい)には装着口45が形成されており、この装着口45を通してヒータコア44がヒータコア配設部43に挿入される。そして、このヒータコア44の装着状態では、装着口45はヒータコア44自体により気密状に閉塞されている。
【0049】
図2に示すように、上記冷風通路13の下流端(上端)と温風通路14の下流端(上端)とは互いにミックスチャンバ15(温調室)で連通している(ミックスチャンバ15において実質的に冷風と温風とを混合して温調風を生成している部分を図2に一点鎖線にて示す)。このミックスチャンバ15は空気通路12の一部を構成しており、このミックスチャンバ15において冷風及び温風を混合させ、温調風を生成する。ミックスチャンバ15と冷風通路13及び温風通路14の各下流端との間には、冷風通路13からの冷風と温風通路14からの温風との混合割合を変えて温調風の温度を変更する上記ミックスダンパ46が設けられている。このミックスダンパ46は、バタフライタイプのものであり、冷風通路13及び温風通路14の各開度を逆方向に相対的に変えて、ミックスチャンバ15に流入する冷風及び温風の各流量を変更し、ミックスチャンバ15において冷風及び温風の混合割合を変えて温調風の温度を変更調整するようになっている。
【0050】
ミックスダンパ46の支軸(図示せず)は、上部ケース9の右側壁(左側壁でもよい)から上部ケース9外に突出していて、この突出部には図外の電動アクチュエータが駆動連結されており、この電動アクチュエータによりミックスダンパ46を開閉制御するようにしている。
【0051】
上記ファンハウジング22後側の上部ケース9の上面には前側に上記デフロスタ口51が、また後側に上記ベント口52がそれぞれ前後に並んで開口されている。上記デフロスタ口51は図外のデフロスタダクトを介して上記インストルメントパネルのデフロスタ吹出しノズルに、またベント口52は図外のベントダクトを介してインストルメントパネルのセンタ吹出しノズル及び左右のサイド吹出しノズルにそれぞれ接続されている。
【0052】
また、上部ケース9の上側後部にはヒートダクト部54が一体に形成されている。
【0053】
上記各フロントヒート口57には、下流端がインストルメントパネル下部の車室内(前席に着座した乗員の足元部分)まで延びる図外のフロントヒートダクトの上流端が、またリアヒート口58には、下流端が車室内の後席まで延びる図外のリアヒートダクトの上流端がそれぞれ接続されるようになっており、各フロントヒート口57から温風を吹き出させて、それをフロントヒートダクトを介して前席に着座した乗員の足元に送給する一方、リアヒート口58からも温風を吹き出させて、それをリアヒートダクトを介して後席に着座した乗員の足元に送給するようにしている。
【0054】
そして、上記ミックスチャンバ15は、上記フロントヒート口57及びリアヒート口58に連通されている他に上記デフロスタ口51及びベント口52にも連通されている。このミックスチャンバ15とデフロスタ口51との間には該デフロスタ口51を開閉するためのデフロスタダンパ61が、またミックスチャンバ15とベント口52との間には該ベント口52を開閉するためのベントダンパ62が、さらにミックスチャンバ15とフロントヒート口57及びリアヒート口58との間には該両ヒート口57,58を開閉するためのヒートダンパ63がそれぞれ配置されている。
【0055】
これらデフロスタダンパ61、ベントダンパ62及びヒートダンパ63は、いずれも水平左右方向の軸回りに回動するバタフライ型のもので、その回動によりデフロスタ口51、ベント口52、フロントヒート口57及びリアヒート口58の各開度を変えるようにしている。デフロスタダンパ61、ベントダンパ62及びヒートダンパ63の各軸は、上部ケース9の左側壁(右側壁でもよい)から上部ケース9外に突出していて、この突出部には、電動アクチュエータ(図示せず)が連結されており、この電動アクチュエータにより各ダンパ61〜63を空調モードに合わせて連係させながら開閉制御するようにしている。
【0056】
また、下部ケース10底部には、エバポレータ37にて発生した凝縮水を排水させるためのドレン口68が開口されている。図2中、符号69はドレン口68に接続されたドレンホースである。
【0057】
上記エバポレータ37を省略する仕様の場合には、図5に示すように、エバポータ配設部36にはエバポレータ37の代わりに通風抵抗部材70が配設されるようになっている。この通風抵抗部材70と、上記した他の構成部材とで、本発明の車両用空調装置Aが構成されることになる。
【0058】
図7及び図8に示すように、通風抵抗部材70は、樹脂材の一体成形品であり、厚肉板状をなしており、厚みはエバポレータ37の空気流れ方向の寸法と略同じに設定され、上下寸法及び左右寸法も、エバポレータ37の同方向の寸法とそれぞれ同じに設定されている。図7に示すように、通風抵抗部材70の上部には、左右方向に延びる上板部71が設けられており、この上板部71の上下寸法及び左右寸法は、エバポレータ37の上側タンク37bの同方向の寸法とそれぞれ同じに設定されている。この上板部71の周縁部には、周壁部71aが空気流れ方向両側にそれぞれ突設されている。周壁部71aの内方には、上板部71から突出して上下方向に延びる複数の縦リブ71bと、上板部71から突出して左右方向に延びる横リブ71cとが設けられている。これら縦リブ71b及び横リブ71cは互いに交わっているとともに、周壁部71aに連なっている。
【0059】
また、通風抵抗部材70の下部には、上板部71と同様な下板部72が設けられている。下板部72の上下寸法及び左右寸法は、エバポレータ37の上側タンク37bの同方向の寸法とそれぞれ同じに設定されている。また、下板部72には、上板部71と同様に、周壁部72a、縦リブ72b及び横リブ72cが設けられている。
【0060】
通風抵抗部材70の左端部及び右端部には、上下方向に延びる左端板73及び右端板74がそれぞれ設けられている。図9に示すように、左端板73の空気流れ上流端部には、左湾曲板部75が連なっている。左湾曲板部75は、空気流れ下流側へ行くほど左端板73から右方向へ離れるように湾曲しながら延びている。また、右端板74の空気流れ上流端部には、右湾曲板部76が連なっている。右湾曲板部76は、空気流れ下流側へ行くほど右端板74から左方向へ離れるように湾曲しながら延びている。
【0061】
図7に示すように、通風抵抗部材70の上板部71と下板部72との間には、上下方向に延びる複数の翼板77が左右方向に間隔をあけて設けられている。図9に示すように、各翼板77の断面は、空気流れ上流側に向けて小さくなるように形成されており、各翼板77は上流側へ向けて尖った形状となっている。また、翼板77の内部は、空気流れ方向下流側へ開放する中空状に形成されている。
【0062】
図7にも示すように、最も左側に位置する翼板77と左湾曲板75との間には、隙間S1が形成されている。また、最も右側に位置する翼板77と右湾曲板76との間には、隙間S2が形成されている。さらに、隣り合う翼板77の間には、隙間S3が形成されている。これら隙間S1,S2,S3は、互いに同じであり、上下方向に延びるスリット形状となっている。
【0063】
翼板77が形成される範囲は、空気が通過する範囲となっており、この範囲は、エバポレータ37の空気が通過する範囲と同じに設定されている。
【0064】
右端板74の上部には、右方向へ突出する有底の筒状部78(閉塞部)が形成されている。この筒状部78の位置は、通風抵抗部材70をエバポレータ配設部36に配設したときに、膨脹弁ブロック40があった位置と同じ位置となるように設定されている。また、筒状部78の形状は、膨脹弁ブロック40の外形状と同じとされている。筒状部78の内部には、右端板74から突出するリブ78aが形成されている。リブ78aは、通風抵抗部材70の厚み方向に延びている。
【0065】
このように構成された通風抵抗部材70をケース8に組み付ける際には、エバポレータ37と同様に、下部ケース10に上方から挿入する。これにより、図5に示すように、通風抵抗部材70の下側が下部ケース10の保持部10aにより保持される。また、下部ケース10を上部ケース9に組み付けると、通風抵抗部材70の上側が上部ケース9の保持部9dにより保持される。また、上部ケース9の分割部9a,9aを合わせると、図4に示すように、通風抵抗部材70の筒状部78が上部ケース9の貫通孔9bに挿入されて上部ケース9の外方へ突出し、収容壁部9cにより覆われた状態となる。この筒状部78により貫通孔9bが閉塞されて、ケース8の空気通路12内の空気が貫通孔9bから外部に漏れにくくなっている。
【0066】
次に、上記空調装置Aの動作について説明する。インテークボックス27内の内外気切換ダンパの切換作動により、外気導入口28もしくは内気導入口29が全開になるか又は双方が中間開度で開かれ、ブロワ23の作動により、外気導入口28からの外気もしくは内気導入口29からの内気又はそれらの双方がケース8内の空気通路12の上流端部、つまりファンハウジング22内に吸い込まれ、この空気はファンハウジング22の吐出部22cから吐出された後にケース8のエバポレータ配設部36内に配設された通風抵抗部材70を通過する。
【0067】
この通風抵抗部材70が設けられていることによって、風量が多くなり過ぎるのが抑制される。さらに、通風抵抗部材70には、空気流れ上流側へ向けて小さくなる断面形状を有する翼板77が設けられているので、空気が通風抵抗部材70を通過する際に乱流が起こり難くなる。
【0068】
そして、ミックスダンパ46が冷風通路13を全開し、温風通路14を全閉しているときには、通風抵抗部材70を通過した空気の全てが温風通路14に流れずに冷風通路13に流れ、その冷風通路13を通って下流側のミックスチャンバ15に導入されて温調風となる。
【0069】
一方、ミックスダンパ46が冷風通路13を全閉し、温風通路14を全開しているときには、通風抵抗部材70を通過した空気の全てが冷風通路13に流れずに温風通路14に流れ、その温風通路14を通って下流側のミックスチャンバ15に導入される。この温風通路14にはヒータコア配設部43内にヒータコア44が配置されているので、温風通路14を通る間にヒータコア44により加熱されて温風となり、その温風は温風通路14下流側のミックスチャンバ15に流入して温調風となる。
【0070】
さらに、上記ミックスダンパ46を、冷風通路13又は温風通路14の一方の開度が他方の開度に対し相対的に逆になるように切換変更することで、冷風通路13の風量と温風通路14の風量とが相対的に逆向きに変化する。このことで、ミックスチャンバ15では温度を変更調整された温調風が生成される。
【0071】
基本的には、このようにしてミックスチャンバ15で温調風が生成される。この温調風は、インストルメントパネルのデフロスタ吹出しノズルに連通するデフロスタ口51、インストルメントパネルのセンタ吹出しノズル及び左右のサイド吹出しノズルに接続されたベント口52、フロントヒートダクトに接続されたフロントヒート口57、又はリアヒートダクトに接続されたリアヒート口58の少なくとも一部から吹き出される。これら複数の吹出し口のいずれかを選択するかは、空調モードに応じてデフロスタダンパ61、ベントダンパ62及びヒートダンパ63の連係した開閉切換えにより切り換えられる。
【0072】
以上説明したように、この実施形態に係る空調装置Aによれば、ケース8内の空気通路12に配設される通風抵抗部材70に翼板77を設けたので、空気が通風抵抗部材70を通過する際に発生する騒音を抑制できる。これにより、エバポレータ37が省略される仕様であっても、車室の静粛化を図ることができ、乗員の快適性を向上できる。
【0073】
また、ケース8に、エバポレータ37に取り付けられる膨脹弁ブロック40が挿入される貫通孔9bを形成している場合に、貫通孔9bを閉塞するための筒状部78を通風抵抗部材70に設けて貫通孔9bからの空気漏れを抑制できるので、エバポレータ37を配設する場合と、通風抵抗部材70を配設する場合とでケース8を共通化でき、コストを低減できる。
【0074】
また、通風抵抗部材70の翼板77は、エバポレータ37の空気通過面と同じ範囲に形成されているので、通風抵抗部材70の空気が通過する範囲とエバポレータ37の空気が通過する範囲とを略等しくすることができる。これにより、エバポレータ37を配設する場合と、通風抵抗部材70を配設する場合とでケース8内の風速分布が大きく変化するのを回避でき、通風抵抗部材70を配設した場合に空調性能の悪化を防止できる。
【0075】
上記実施形態では、通風抵抗部材70の隙間S1,S2,S3を均一にしたが、これに限らず、図10に示す変形例1のように、不均一にしてもよい。こうすることで、ケース8の空気通路12内の風速分布を、ケース8の形状や構造を変更せずに通風抵抗部材70を利用して容易に調整することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、通風抵抗部材70の翼板77のピッチ(隣り合う翼板77の中心間距離)を均一にしたが、これに限らず、図11に示す変形例2のように、不均一にしてもよい。こうすることで、ケース8の空気通路12内の風速分布を、ケース8の形状や構造を変更せずに通風抵抗部材70を利用して容易に調整することができる。
【0077】
また、図12に示す変形例3のように、通風抵抗部材70の翼板77は、空気流れ上流側と下流側とが同形状となるように成形してもよい。すなわち、翼板77の空気流れ上流側部分77aは、断面が空気流れ上流側へ向けて小さくなるように形成される一方、下流側部分77bは、断面が空気流れ下流側へ向けて小さくなるように形成されている。このようにすることで、通風抵抗部材70をケース8に組み付ける際に、誤って空気流れ方向下流側が空気通路12の上流に向くように組み付けられたとしても、翼板77の上流側と下流側とが同形状であることから、翼板77による効果を得ることができ、騒音の発生を抑制できる。
【0078】
また、変形例3のように通風抵抗部材70の左湾曲板75及び右湾曲板76を省略してもよい。
【0079】
また、翼板77の上流側部分77aと下流側部分77bとを同形状とする場合には、図13に示す変形例4のように、通風抵抗部材70を上流側部材80と下流側部材81とに分割した状態で成形し、組み合わせるようにしてもよい。これにより、通風抵抗部材70が空気流れ方向について対称形状となるので、組付方向が一方に限られることはなく、組付作業性を良好にできる。
【0080】
また、通風抵抗部材70の筒状部78は省略してもよい。この場合、別部材によりケース8の貫通孔9bを閉塞しておくのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本発明に係る車両用空調装置は、冷却用熱交換器を省略する仕様の空調装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】エバポレータを有する仕様の空調装置の右側面図である。
【図2】エバポレータを有する仕様の空調装置の縦断面図である。
【図3】エバポレータを空気流れ上流側から見た正面図である。
【図4】エバポレータを省略した仕様の図1相当図である。
【図5】エバポレータを省略した仕様の図2相当図である。
【図6】エバポレータを省略した仕様の空調装置の分解斜視図である。
【図7】通風抵抗部材を空気流れ上流側から見た正面図である。
【図8】通風抵抗部材の右側面図である。
【図9】図7のIX−IX線断面図である。
【図10】変形例1に係る図9相当図である。
【図11】変形例2に係る図9相当図である。
【図12】変形例3に係る図9相当図である。
【図13】変形例4に係る図9相当図である。
【符号の説明】
【0083】
8 ケース
9b 貫通孔
12 空気通路
36 エバポレータ配設部
37 エバポレータ(冷却用熱交換器)
40 膨脹弁ブロック(付属部材)
70 通風抵抗部材
77 翼板
78 筒状部(閉塞部)
A 車両用空調装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気が導入される空気通路を有するケースと、
上記ケース内の空気通路に設けられ、冷却用熱交換器が配設される配設部と、
上記配設部に上記冷却用熱交換器の代わりに配設される通風抵抗部材とを備えた車両用空調装置において、
上記通風抵抗部材には、断面が空気流れ上流側へ向けて小さくなるように形成された翼板が設けられていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空調装置において、
ケースにおける配設部に対応する部位には、冷却用熱交換器に取り付けられる付属部材が挿入される貫通孔が形成され、
通風抵抗部材には、上記貫通孔に挿入されて該貫通孔を閉塞する閉塞部が形成されていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用空調装置において、
翼板は、冷却用熱交換器の空気通過面と同じ範囲に形成されていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の車両用空調装置において、
通風抵抗部材には、複数の翼板が空気流れ方向と交差する方向に間隔をあけて並ぶように設けられ、
隣り合う翼板の隙間が不均一に設定されていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1つに記載の車両用空調装置において、
通風抵抗部材には、複数の翼板が空気流れ方向と交差する方向に間隔をあけて並ぶように設けられ、
翼板のピッチが不均一に設定されていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の車両用空調装置において、
通風抵抗部材の翼板は、空気流れ上流側と下流側とで同形状となっていることを特徴とする車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−64597(P2010−64597A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232449(P2008−232449)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000152826)株式会社日本クライメイトシステムズ (154)
【Fターム(参考)】