説明

車両用空調装置

【課題】車両用、特にハイブリッド車や電気自動車等用として使用され、固有の熱媒体加熱手段を有する熱媒体回路を備えた空調装置において、加熱用熱交換器に供給される熱媒体が加熱により体積膨張してもその膨張による増大分を吸収することができると共に、熱媒体の酸化、熱媒体への異物の混入も回避する。
【解決手段】車室内空間3に吹き出す空気を加熱するための加熱用熱交換器8を、ヒータ25及びポンプ26と配管接合することにより、この加熱用熱交換器8に熱媒体を供給する熱媒体回路24を構成する。かかる熱媒体回路24は、外気に対し密閉された状態であると共に、当該熱媒体回路24の経路の途中には、熱媒体を収容可能な空間33を有すると共にその収容空間33の容積を拡張することができる熱媒体体積変化吸収部28が配置されたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用、特にハイブリッド車用や電気自動車等用として使用される空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置は、例えば特許文献1に示されるように、送風機で空気流路内に吸い込んだ内外気を、送風機よりも空気流路の下流側に位置するエバポレータ等の冷却用熱交換器で冷却して、エアミックスドアにより、冷却用熱交換器よりも空気流路の下流側に位置する加熱用熱交換器に送られる空気と当該加熱用熱交換器をバイパスする空気とに適宜分けて、加熱用熱交換器により加熱された空気と加熱用熱交換器をバイパスして冷却されたままの空気とを空気流路の下流側で混合等して温調した後、この温調された空気を適宜に選択された吹出口から車室内に吹き出させるようになっていた。そして、ガソリン等の化石燃料を使う自動車にあっては、ヒータコア等の加熱用熱交換器は、同じく特許文献1に示されるように、相対的に高温のエンジン冷却水(温水)が供給され、この冷却水を熱源として空気を加熱するようになっていた。
【0003】
これに対し、近年においてハイブリッド車や電気自動車(electric vehicle 略称:EV)の開発が急速に進んでいるところ、化石燃料利用エンジンを小型化乃至は無くす傾向となっているので、従来のようにエンジン冷却水を加熱用熱交換器の熱源として利用することが容易でなくなる。このため、例えば特許文献2乃至特許文献4に示されるように、温水生成装置等で独自に温水を作り、この温水を加熱用熱交換器に供給することにより、加熱用熱交換器の熱源とする構成の空調装置が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−196507号公報
【特許文献2】特開平10−226223号公報
【特許文献3】特開2003−48422号公報
【特許文献4】特開2004−106634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、外気温と同程度の温度にある熱媒体を80℃前後まで加熱した場合には、熱媒体が温水のときには当該熱媒体の体積が4%前後ほど増大する等、熱媒体の体積が膨張することが知られているところ、これまでの車両用空調装置では化石燃料利用エンジンが備える貯留構造によりその熱媒体の体積膨張による増大分を吸収していたが、例えば特許文献2乃至特許文献4に示されるように、ハイブリッド車や電気自動車用の空調装置が温水生成装置等を用いる構成としたのでは、このような熱媒体の体積膨張による増大分を吸収するための機構・構成を新たに採る必要が生ずる。
【0006】
この点、特許文献2に記載の自動車用空調制御装置では、ヒータコア、温水を循環させるポンプ、及び温水加熱器を配管にて直列に接合させる温水回路の構成が示されているが、熱媒体の体積膨張による増大分を吸収するための機構・構成が開示されていない。また、特許文献3に示される電気自動車及びハイブリッド車用温水暖房装置においても、ヒータコア、循環ポンプ、電熱ヒータを配管にて直列に接合させる温水回路の構成が示されているが、熱媒体の体積膨張による増大分を吸収するための機構・構成が開示されていない。
【0007】
これに対し、特許文献3では、ヒータコア、温水生成装置、ポンプを配管にて直接に接合させる温水回路の構成が示されていると共にこの温水回路途中にリザーブタンクという機構を新たに有することで、熱媒体の体積膨張による増大分をこのリザーブタンクで吸収することを図っている。
【0008】
しかしながら、この特許文献3に示されるような温水をヒータコアに供給し且つ当該温水を循環させる温水回路の構成では、リザーブタンクを備えることで当該温水回路が半密閉構造となってしまい、熱媒体が空気と接触可能になっていることから、熱媒体が酸化したり、ゴミが熱媒体に混入したりする不具合を有する。
【0009】
そこで、本発明は、車両用、特にハイブリッド車や電気自動車等用として使用され、固有の熱媒体加熱手段を有する熱媒体回路を備えた空調装置において、加熱用熱交換器に供給される熱媒体が加熱により体積膨張してもその増大分を吸収することができると同時に、熱媒体の酸化、熱媒体への異物の混入も回避することができ、それによっても熱媒体回路としての安全を保持することが可能な車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る車両用空調装置は、内部に空気流路が形成された空調ケースと、前記空調ケースの空気流路内に配された加熱用熱交換器とを少なくとも有する車両用空調装置において、前記加熱用熱交換器と、熱媒体を加熱するヒータ及び加熱された熱媒体を循環させるポンプとを配管接合することにより、加熱された熱媒体が前記加熱用熱交換器に供給される熱媒体回路が形成され、この熱媒体回路は外気に対し密閉された状態であると共に、前記熱媒体回路の経路の途中には、熱媒体を収容可能な閉鎖空間を備えて当該閉鎖空間の容積を拡張することができる熱媒体体積変化吸収部が配置されていることを特徴としている(請求項1)。
【0011】
ここで、車両には、例えばハイブリッド車や電気自動車等が挙げられる。また、熱媒体には例えば温水等が挙げられ、更にこの熱媒体には他の臭いと識別可能な臭いが付けられて、熱媒体が万一でも漏洩した場合には、その臭いにより熱媒体の漏洩を知ることが可能としても良いものとなっている。更にまた、熱媒体回路を形成するヒータには例えば電気ヒータ等が挙げられる。そして、空調装置の構成の一例についてより詳述すると、内部に空気流路が形成された空調ケースと、前記空調ケース内に配されて前記空気流路に導入された空気を通過させる冷却用熱交換器と、前記空調ケース内に配されて前記冷却用熱交換器よりも下流側に配された加熱用熱交換器と、前記空気流路の一部を構成し、前記冷却用熱交換器を通過した空気を、前記加熱用熱交換器を通過させて下流側へ導く温風流路及び前記加熱用熱交換器をバイパスさせて下流側へ導く冷風流路と、前記冷却用熱交換器と前記加熱用熱交換器との間に配設され、前記冷風流路を流れる空気と前記温風流路を流れる空気との割合を調節するエアミックスドアと、前記冷風流路を流れてきた空気と前記温風流路を流れてきた空気とを適宜混合して温調された空調空気を車室内に吹き出すために前記空調ケースに形成された吹出用の開口部とを有するものが挙げられる。
【0012】
これにより、熱媒体を収容可能な閉鎖空間を拡張させることができる熱媒体体積変化吸収部を熱媒体回路が有しているので、熱媒体回路を循環する熱媒体がヒータにより加熱されて体積膨張を生じても熱媒体の増大分については熱媒体体積変化吸収部の閉鎖空間を拡張することで吸収することが可能である。また、熱媒体回路は熱媒体体積変化吸収部も含めて外気に対して密閉された状態となっているので、熱媒体の酸化や熱媒体にゴミ等の異物が混入することも抑止される。そして、熱媒体回路を密閉しても熱媒体の体積の増大分を吸収可能な熱媒体体積変化吸収部があるので、熱媒体回路ひいては車両用空調装置全体の安全性も確保することができる。
【0013】
前記熱媒体体積変化吸収部は、前記閉鎖空間を備えた蛇腹形状部を有し、前記蛇腹形状部を拡げてこの蛇腹形状部の閉鎖空間の容積を拡張することにより体積が膨張した熱媒体の増大分を吸収する構成となっている(請求項2)。これにより、熱媒体体積変化吸収部の体積膨張した熱媒体を吸収するための構造を比較的簡単に構成することができる。
【0014】
前記熱媒体体積変化吸収部は、ダイヤフラムにより前記配管と接合された前記閉鎖空間たる第1室と前記配管と接合されていない第2室とに区画されたダイヤフラム部を有し、前記ダイヤフラムを前記第2室側に変形させて前記第1室の閉鎖空間を拡張することにより体積が膨張した熱媒体の増大分を吸収する構成となっている(請求項3)。これにより、熱媒体体積変化吸収部の体積膨張した熱媒体の増大分を吸収するための構造を比較的簡単に構成することができる。
【0015】
また、前記熱媒体体積変化吸収部は、前記熱媒体回路のうち車両の上下方向に沿った方向にて最も高い箇所に配置されている構成も好適である(請求項4)。これにより、熱媒体体積変化吸収部の車両上下方向に沿った方向の上側部分を熱媒体に混入した空気の捕集空間として活用することができる。
【0016】
上記の請求項4に示される熱媒体体積変化吸収部の配置の場合には、前記熱媒体体積変化吸収部は、前記熱媒体回路のうち前記ポンプよりも熱媒体の上流側に配置されている構成が好ましい(請求項5)。これにより、熱媒体中の空気は熱媒体体積変化吸収部に溜まり、ポンプの熱媒体の吸込側は熱媒体で満たされるので、ポンプがエア噛み空転することが抑止される。
【0017】
そして、前記熱媒体回路は熱媒体を注入するための注入口を有し、この注入口は、前記熱媒体回路の前記ポンプと前記熱媒体体積変化吸収部との間の経路のうち車両の上下方向に沿った方向にて最も高い箇所に配置されているようにしても良い(請求項6)。これにより、熱媒体の注入時に空気が熱媒体に混入するのを防止することができる。
【0018】
前記熱媒体体積変化吸収部の閉鎖空間の容積の拡張量は、前記熱媒体回路内の熱媒体の容量の10パーセント以内に設定されている(請求項7)。これにより、熱媒体体積変化吸収部が必要以上に大きくなるのが回避され、熱媒体回路ひいては車両用空調装置全体の小型化の要請に寄与することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、この発明によれば、熱媒体回路を循環する熱媒体がヒータにより加熱されて体積膨張を生じても熱媒体の増大した分については熱媒体体積変化吸収部の収容空間を拡張することで吸収することが可能であるので、熱媒体の酸化や熱媒体にゴミ等の異物が混入することを抑止するために熱媒体回路全体を密閉された状態にしても、熱媒体回路の安全性を確保することができる。しかも、熱媒体回路は、リザーブタンクを備えた構成ではないので、熱媒体回路が半密閉構造となるのを防止することができる。
【0020】
特に請求項2又は請求項3に記載の発明によれば、熱媒体体積変化吸収部の体積膨張した熱媒体の増大分を吸収するための構造を比較的簡単に構成することができるので、熱媒体体積変化吸収部を追加しても熱媒体回路ひいては車両用空調装置の製造コスト増を抑えることが可能である。
【0021】
特に請求項4に記載の発明によれば、熱媒体体積変化吸収部の車両上下方向に沿った方向の上側部分を熱媒体に混入した空気の捕集空間として活用することができるので、熱媒体体積変化吸収部から捕集された空気を熱媒体回路の外部に抜くことが可能となる。
【0022】
特に請求項5に記載の発明によれば、熱媒体中の空気はポンプよりも上流側の熱媒体体積変化吸収部に溜まるため、ポンプの熱媒体の吸込側は熱媒体で満たされた状態を得られることから、ポンプがエア噛みで空転することが抑止されるので、熱媒体回路ひいては加熱用熱交換器の性能を高めることができる。
【0023】
特に請求項6に記載の発明によれば、そもそもにおいて、熱媒体の注入時に空気が熱媒体に混入するのを防止することができるので、熱媒体回路ひいては加熱用熱交換器の性能をより一層高めることが可能である。
【0024】
特に請求項7に記載の発明によれば、熱媒体体積変化吸収部が必要以上に大きくなるのが回避されるので、熱媒体回路ひいては車両用空調装置全体の小型化の要請に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、この発明に係る車両用空調装置及びその熱媒体回路における実施例1の概略構成図であり、熱媒体回路の構成機構が車室内空間側にあると共に熱媒体体積変化吸収部が熱媒体回路の最も上方に配置された状態を示す説明図である。
【図2】図2は、同上の車両用空調装置及びその熱媒体回路における実施例1の他の概略構成図であり、熱媒体回路の構成機構が車室外域側にあると共に熱媒体体積変化吸収部が熱媒体回路の最も上方に配置された状態を示す説明図である。
【図3】図3は、図1又は図2に示される車両用空調装置の熱媒体回路を構成する熱媒体体積変化吸収部の一例を示すもので、図3(a)は熱媒体体積変化吸収部の収容空間が拡張される前の態様を示し、図3(b)は熱媒体体積変化吸収部の収容空間が拡張された後の態様を示す説明図である。
【図4】図4は、同上の車両用空調装置の熱媒体回路を構成する熱媒体体積変化吸収部の図3に対して他の例を示すもので、図4(a)は熱媒体体積変化吸収部の収容空間が拡張される前の態様を示し、図4(b)は熱媒体体積変化吸収部の収容空間が拡張された後の態様を示す説明図である。
【図5】図5は、同上の車両用空調装置及びその熱媒体回路における実施例2の概略構成図であり、熱媒体回路の構成機構が車室内空間側にあると共に熱媒体体積変化吸収部が熱媒体回路の最も上方以外の箇所に配置された状態を示す説明図である。
【図6】図6は、同上の車両用空調装置及びその熱媒体回路における実施例2の図5に対して他の概略構成図であり、熱媒体回路の構成機構が車室外域側にあると共に熱媒体体積変化吸収部が熱媒体回路の最も上方以外の箇所に配置された状態を示す説明図である。
【図7】図7は、図5又は図6に示される車両用空調装置の熱媒体回路を構成する熱媒体体積変化吸収部の一例を示すもので、図7(a)は熱媒体体積変化吸収部の収容空間が拡張される前の態様を示し、図7(b)は熱媒体体積変化吸収部の収容空間が拡張された後の態様を示す説明図である。
【図8】図8は、同上の車両用空調装置の熱媒体回路を構成する熱媒体体積変化吸収部の図7に対して他の例を示すもので、図8(a)は熱媒体体積変化吸収部の収容空間が拡張される前の態様を示し、図8(b)は熱媒体体積変化吸収部の収容空間が拡張された後の態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1及び図2並びに図5及び図6において、ハイブリッド車や電気自動車等の車両のセンターコンソール部に搭載されるセンター置きタイプの空調装置1が示されている。この空調装置1は、車室外域2と車室内空間3とを仕切る仕切板4よりも車室内空間3側に配されているもので、内部に空気流路5が形成された空調ケース6に、エバポレータ等の冷却用熱交換器7、ヒータコア等の加熱用熱交換器8が車両の前後方向に並んだかたちでそれぞれ立設して収納され、冷却用熱交換器7に対し車両上下方向の上方に送風機9が配されている。
【0028】
この送風機9に対して車両幅方向に沿って運転席側又は助手席側となる位置には、インテーク装置10がオフセットして設けられており、送風機9の回転により内気又は外気がインテーク装置10のインテークドア11の位置(開度)に応じて外気導入口12又は内気導入口13から導入されるようになっている。
【0029】
空調ケース6内には、冷却用熱交換器7を通過した空気について加熱用熱交換器8をバイパスして空気流路5の下流側へ導く冷風流路14と、加熱用熱交換器8を通過した空気を空気流路5の下流側へ導く温風流路15とが空気流路5の一部として形成されており、冷風流路14を通過する空気と温風流路15とを通過する空気の割合が加熱用熱交換器8に対し車両上下方向の上方で且つ冷却用熱交換器7と加熱用熱交換器8との間に設けられたエアミックスドア16によって調節された後、冷風通路14から流れてきた空気と温風流路15とから流れてきた空気とが空気流路5のエアミックスドア16よりも下流側で適宜混合されて温調されるようになっている。
【0030】
空気流路5の最下流側には、図示しないフロントガラスに向けて空気を吹き出すデフロスト開口部17、車室内空間3の上方へ空気を吹き出すベント開口部18、車室内空間3の下方へ空気を吹き出すフット開口部19が形成され、それぞれの開口部17、18、19の開度は、対応する開口部17、18、19の手前側に設けられたモードドア20、21、22によって調節される。
【実施例1】
【0031】
更に、空調装置1は、加熱用熱交換器8の熱源を得るために、図1に示されるように車室内空間3に熱媒体回路24を有し、又は図2に示されるように車室外域2に熱媒体回路24を有している。これらの熱媒体回路24は、ともに前述した加熱用熱交換器8と、例えば電気式のヒータ25と、例えば電気で稼動されるポンプ26とを、パイプ27を用いて一列に配管接合することで基本的に構成されているもので、この実施例1では、加熱用熱交換器8の熱媒体の出口部8bよりも熱媒体の下流側にヒータ25が配され、このヒータ25よりも熱媒体の下流側にポンプ26が配され、このポンプ26よりも熱媒体の下流側に加熱用熱交換器8の入口部8aが配置されたものとなっている。
【0032】
尚、車室内空間3に配置された熱媒体回路24のヒータ25及びポンプ26は、図1に示されるように、空調装置1の空調ケース6外において且つ空調装置1に対し車両幅方向のいずれか一方に配され、車室外域2に配置された熱媒体回路24のヒータ25及びポンプ26は、図2に示されるように、仕切板4よりも車両前方側にて仕切板4に近接して配置されているが、上記配列順通りであれば必ずしもこの配置に限定されない。
【0033】
これにより、空気流路5内を流れる空気と熱交換された温水等の熱媒体は、ポンプ26を稼動させることによって、加熱用熱交換器8の出口部8bからヒータ25に送られて、このヒータ25で所定温度(80℃等)まで加熱された後、ポンプ26を通って加熱用熱交換器8に熱媒体の入口部8aから戻される。しかも、この熱媒体回路24は、上記のように熱媒体が熱媒体回路24内を循環する際に外気に対して接することがないように密閉された状態となっている。
【0034】
更に、空調装置1は、図1及び図2の熱媒体回路24の双方において、加熱用熱交換器8の熱媒体の出口部8bとヒータ25との間に、熱媒体回路24が密閉された状態を維持しつつ、熱媒体体積変化吸収部28を有している。
【0035】
熱媒体体積変化吸収部28は、ヒータ25の加熱によって生じた、熱媒体の体積膨張による増大分を吸収するための機構であり、図3においては、配管27、27との連結部29と、蛇腹形状部30とを有して構成されている。以下、この熱媒体体積変化吸収部28の構成について説明する。
【0036】
熱媒体体積変化吸収部28の連結部29は、配管27の内径寸法と略同じか若干小さな外径寸法を有して、それぞれの配管27に挿入可能であると共に内部に通路を有する一対の挿入部29aと、蛇腹形状部30の下記する管状部分31の内径寸法と略同じか若干小さな外径寸法を有して、蛇腹形状部30の管状部分31に挿入可能であると共に内部に通路を有する一つの挿入部29bとを備えるもので、これにより配管27及び蛇腹形状部30と連通することができる略T字状の通路を内部に備えている。
【0037】
そして、連結部29は、図3に示されるように、この実施例では、挿入部29aを配管27に挿入した後、バンド等からなる締結装置34で配管27及び挿入部29bを配管27の径方向外側から締め付けることにより、配管27と挿入部29aとを密着させて、両者の隙間から熱媒体が外部に漏洩するのをより確実に防止している。
【0038】
熱媒体体積変化吸収部28の蛇腹形状部30は、その軸方向の一方側が開口した管状部分31と、この管状部分31の軸方向の他方側端にて連接され、当該管状部分の軸方向に沿って山部32a、谷部32bを複数回にわたって繰り返すかたちで蛇腹状になっている蛇腹部分32とで構成され、熱媒体を収納することができる収納空間33を内部に有している。そして、蛇腹部分32は、各山部32aと各谷部32bとの管状部分の軸方向に沿った間隔が拡がったり縮まったりすることができる一方で、内外からの加圧がない通常状態では各山部32aと各谷部32bとの管状部分の軸方向に沿った間隔が最も縮まった状態に設定されている。
【0039】
これにより、熱媒体回路24を循環している熱媒体の温度が相対的に低い温度である場合には、図3(a)に示されるように、熱媒体体積変化吸収部28の蛇腹形状部30は各山部32aと各谷部32bとの管状部分の軸方向に沿った間隔が最も縮まった状態にあって、収納空間33の容積も最も小さい状態になっている。そして、熱媒体回路24を循環している熱媒体の温度が相対的に高温(例えば80℃以上)となった場合には、熱媒体は熱膨張によりその体積が相対的に増大するところ、収納空間33内の熱媒体からの圧力により熱媒体体積変化吸収部28の蛇腹形状部30が内方から押されて、図3(b)に示されるように、熱媒体体積変化吸収部28の蛇腹形状部30は各山部32aと各谷部32bとの管状部分の軸方向に沿った間隔が拡がり、収納空間33の容積も相対的に大きくなって、熱媒体の増大分が吸収される。
【0040】
もっとも、熱媒体体積変化吸収部28の収納空間33の図3(a)に示す状態から図3(b)に示す状態への容積の変化量は、熱媒体体積変化吸収部28が大型化するのを抑止するために、熱媒体回路24内を移動する熱媒体の全容量の10パーセント以下になっていることが好ましい。
【0041】
尚、図3において、熱媒体体積変化吸収部28は、熱媒体体積変化吸収部28の連結部29と蛇腹形状部30とが別個の部材として図示されているが、連結部29と蛇腹形状部30とを一体化させても良い。
【0042】
また、熱媒体体積変化吸収部28は、図4においては、配管27、27との連結部29と、ダイヤフラム部35とを有して構成されている。以下、この熱媒体体積変化吸収部28の構成について説明する。但し、連結部29の構成及びこの連結部29と配管27との装着関係は、挿入部29bが蛇腹形状部30ではなくダイヤフラム部35に挿入可能である以外は、図3に示される熱媒体体積変化吸収部28の連結部29の構成と同様であるのでその説明を省略した。
【0043】
熱媒体体積変化吸収部28のダイヤフラム部35は、図4に示されるように、その軸方向の一方側が開口し、連結部29の挿入部29bが挿入可能な管状部分31と、この管状部分31の軸方向の他方側端にて連接されたダイヤフラム部本体36とを有している。そして、ダイヤフラム部本体36は、内部空間が薄い膜状のダイヤフラム37により連結部29ひいては配管27と連通した第1の室38と、連結部29ひいては配管27と連通していない第2の室39とに区画されている。そして、ダイヤフラム37は、第2の室39側に湾曲するように変形させることが可能となっており、この場合には第2の室39内に充填された気体又は液体が第2の室39に連通する通路部40から第2の室39外に抜けるようになっている一方で、ダイヤフラム37に対する第1の室38側からの加圧がない通常状態では直線的かこの実施例のように第1の室38側に湾曲した状態となるように設定されている。
【0044】
これにより、熱媒体回路24を循環している熱媒体の温度が相対的に低い温度である場合には、図4(a)に示されるように、ダイヤフラム37はこの実施例では第1の室38側に湾曲した状態にあって、第1の室38の容積も最も小さい状態になっている。そして、熱媒体回路24を循環している熱媒体の温度が相対的に高温(例えば80℃以上)となった場合には、熱媒体は熱膨張によりその体積が相対的に増大するところ、第1の室38からの圧力によりダイヤフラム37が第2の室39側に押されて、図4(b)に示されるように、第2の室39側に湾曲する形で変形し、第1の室38の容積も相対的に大きくなって、熱媒体の増大分が吸収される。
【0045】
もっとも、熱媒体体積変化吸収部28の第1の室38の図4(a)に示す状態から図4(b)に示す状態への容積の変化量は、熱媒体体積変化吸収部28が大型化するのを抑止するために、熱媒体回路24内を移動する熱媒体の全容量の10パーセント以下になっていることが好ましい。
【0046】
尚、通路部40の先端には、図4に示されるように、第2の室39に充填された気体又は液体が通路部40を通って送られてくることを利用して当該気体又は液体の圧力を測定する圧力センサ41を配置しても良い。これにより、ダイヤフラム37に対する熱媒体からの加圧の値を、第2の室39から通路部40を通って圧力センサ41に送られる気体又は液体の圧力を測定することで検出することが可能となるため、ダイヤフラム37が破損するおそれがあるほど大きな加圧がダイヤフラム37にかかっても、図4に示されるように、圧力センサ41から制御装置42に送られた圧力値が所定値以上の圧力値であるとの判定に基づいて、制御装置42がヒータ25の稼動をOFFする制御を行うことにより、ダイヤフラム37の破損を防止することが可能である。
【0047】
ここで、熱媒体体積変化吸収部28は、図1及び図2に示されるように、熱媒体回路24のうちで車両の上下方向において最も高い箇所に配置されていると共に、熱媒体体積変化吸収部28の蛇腹形状部30又はダイヤフラム部35は、配管27よりも車両上下方向の上方に位置しているのが望ましい。これにより、熱媒体回路24を移動する熱媒体内に空気が混入しても、混入した空気を蛇腹部分32の収納空間33の上部やダイヤフラム部本体36の第1の室38の上部に捕集することが可能であるから、収納空間33の上部やダイヤフラム部本体36の第1の室38の上部と連通する、開閉式の抜き孔を設けることによって、熱媒体内に混入した空気を外部に排出することができる。
【0048】
更に、熱媒体体積変化吸収部28が最も高い箇所に配置された構成としたときに、熱媒体体積変化吸収部28は、加熱用熱交換器8の熱媒体の出口部8bを基点とした場合に、熱媒体回路24のうちポンプ26よりも熱媒体の上流側に配置されているのがより望ましい。これにより、熱媒体中の空気は上記したように熱媒体体積変化吸収部28に溜まり、ポンプ26の熱媒体の吸込側が熱媒体で満たされるので、ポンプ26がエア噛みで空転することが抑止される。
【0049】
更にまた、熱媒体回路24は熱媒体を注入するための注入口を有し、この注入口は、図示しないが、熱媒体回路24のポンプ26と熱媒体体積変化吸収部28との間のパイプ27のうち車両の上下方向に沿った方向にて最も高い箇所に配置されている。これにより、熱媒体の注入時に空気が混入するのを防止することができる。
【実施例2】
【0050】
そして、空調装置1は、加熱用熱交換器8の熱源を得るために、図5に示されるように車室内空間3に熱媒体回路24を有し、又は図6に示されるように車室外域2に熱媒体回路24を有する場合もある。これらの熱媒体回路24は、加熱用熱交換器8、ヒータ25、ポンプ26、及び熱媒体体積変化吸収部28について、配管27を用いて一列に配管接合することで構成されている点では、先述した実施例1と同様である。更には、熱媒体回路24が、加熱用熱交換器8の熱媒体の出口部8bよりも熱媒体の下流側にヒータ25が配され、このヒータ25よりも熱媒体の下流側にポンプ26が配され、このポンプ26よりも熱媒体の下流側に加熱用熱交換器8の入口部8aが配置されている点でも、先述した実施例1と同様である。
【0051】
その一方で、この実施例2では、熱媒体体積変化吸収部28は、図5及び図6の双方において示されるように、ポンプ26と加熱用熱交換器8の熱媒体の入口部8aとの間に配置されている。
【0052】
但し、図7及び図8に示される実施例2の熱媒体体積変化吸収部28の構成は、図3及び図4において示される実施例1の熱媒体体積変化吸収部28と対比して、蛇腹形状部30又はダイヤフラム部35が配管27よりも車両上下方向の下方に位置している点以外については、同様であるから、先の実施例1と同じ符号を付してその説明を省略した。
【0053】
これにより、熱媒体体積変化吸収部28が蛇腹形状部30を有して構成されているときには、熱媒体回路24を移動する熱媒体の温度が相対的に低い温度である場合には、図7(a)に示されるように、熱媒体体積変化吸収部28の蛇腹形状部30は各山部32aと各谷部32bとの管状部分の軸方向に沿った間隔が最も縮まった状態にあって、収納空間33の容積も最も小さい状態になっている。そして、ヒータ25による加熱で熱媒体回路24を移動する熱媒体の温度が相対的に高温(例えば80℃以上)となった場合には、熱媒体は熱膨張によりその体積が相対的に増大するところ、収納空間33内の熱媒体からの圧力により熱媒体体積変化吸収部28の蛇腹形状部30が内方から押されて、図7(b)に示されるように、熱媒体体積変化吸収部28の蛇腹形状部30は各山部32aと各谷部32bとの管状部分の軸方向に沿った間隔が拡がり、収納空間33の容積も相対的に大きくなって、熱媒体の増大分が吸収される。
【0054】
また、熱媒体体積変化吸収部28がダイヤフラム部35を有して構成されているときには、熱媒体回路24を移動する熱媒体の温度が相対的に低い温度である場合には、図8(a)に示されるように、ダイヤフラム37はこの実施例では第1の室38側に湾曲した状態にあって、第1の室38の容積も最も小さい状態になっている。そして、ヒータ25による加熱で熱媒体回路24を移動する熱媒体の温度が相対的に高温(例えば80℃以上)となった場合には、熱媒体は熱膨張によりその体積が相対的に増大するところ、第1の室38からの圧力によりダイヤフラム37が第2の室39側に押されて、図8(b)に示されるように、第2の室39側に湾曲する形で変形し、第1の室38の容積も相対的に大きくなって、熱媒体の増大分が吸収される。
【符号の説明】
【0055】
1 空調装置
2 車室外域
3 車室内空間
4 仕切板
5 空気流路
6 空調ケース
7 冷却用熱交換器
8 加熱用熱交換器
9 送風機
10 インテーク装置
11 インテークドア
12 外気導入口
13 内気導入口
14 冷風流路
15 温風流路
16 エアミックスドア
17 デフロスト開口部
18 ベント開口部
19 フット開口部
20 モードドア
21 モードドア
22 モードドア
24 熱媒体回路
25 ヒータ
26 ポンプ
27 パイプ(配管)
28 熱媒体体積変化吸収部
30 蛇腹形状部
33 熱媒体収納空間
35 ダイヤフラム部
38 第1の室
39 第2の室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空気流路が形成された空調ケースと、前記空調ケースの空気流路内に配された加熱用熱交換器とを少なくとも有する車両用空調装置において、
前記加熱用熱交換器と、熱媒体を加熱するヒータ及び加熱された熱媒体を循環させるポンプとを配管接合することにより、加熱された熱媒体が前記加熱用熱交換器に供給される熱媒体回路が形成され、この熱媒体回路は外気に対し密閉された状態であると共に、前記熱媒体回路の経路の途中には、熱媒体を収容可能な閉鎖空間を備えて当該閉鎖空間の容積を拡張することができる熱媒体体積変化吸収部が配置されていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記熱媒体体積変化吸収部は、前記閉鎖空間を備えた蛇腹形状部を有し、前記蛇腹形状部を拡げてこの蛇腹形状部の閉鎖空間の容積を拡張することにより体積が膨張した熱媒体の増大分を吸収することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記熱媒体体積変化吸収部は、ダイヤフラムにより前記配管と接合された前記閉鎖空間たる第1室と前記配管と接合されていない第2室とに区画されたダイヤフラム部を有し、前記ダイヤフラムを前記第2室側に変形させて前記第1室の閉鎖空間を拡張することにより体積が膨張した熱媒体の増大分を吸収することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記熱媒体体積変化吸収部は、前記熱媒体回路のうち車両の上下方向に沿った方向にて最も高い箇所に配置されていることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記熱媒体体積変化吸収部は、前記熱媒体回路のうち前記ポンプよりも熱媒体の上流側に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記熱媒体回路は熱媒体を注入するための注入口を有し、この注入口は、前記熱媒体回路の前記ポンプと前記熱媒体体積変化吸収部との間の経路のうち車両の上下方向に沿った方向にて最も高い箇所に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記熱媒体体積変化吸収部の閉鎖空間の容積の拡張量は、前記熱媒体回路内の熱媒体の容量の10パーセント以内に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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