車両用空調装置
【課題】乗員が意図しない空調作動によって乗員に違和感を与えてしまうことを抑制する。
【解決手段】圧縮機11、室内蒸発器26、室内凝縮器12、室外熱交換器16を有し、室内蒸発器26にて冷媒を蒸発させて送風空気を除湿冷却するとともに、室内凝縮器12にて冷媒を放熱させて送風空気を加熱する除湿暖房モードと、室内凝縮器12にて冷媒を放熱させて送風空気を加熱する暖房モードとを切り替え可能に構成された冷凍サイクル10と、乗員の操作により圧縮機11を含む空調機器の省動力化を優先するか否かを設定するための省動力優先設定手段60bと、暖房モードから除湿暖房モードへの切り替えを許可するか否かを判定する除湿暖房許可判定手段S63と、を備え、除湿暖房許可判定手段S63は、省動力優先設定手段60bで省動力化を優先する設定がされていない場合に、除湿暖房モードへの切り替えを許可しない。
【解決手段】圧縮機11、室内蒸発器26、室内凝縮器12、室外熱交換器16を有し、室内蒸発器26にて冷媒を蒸発させて送風空気を除湿冷却するとともに、室内凝縮器12にて冷媒を放熱させて送風空気を加熱する除湿暖房モードと、室内凝縮器12にて冷媒を放熱させて送風空気を加熱する暖房モードとを切り替え可能に構成された冷凍サイクル10と、乗員の操作により圧縮機11を含む空調機器の省動力化を優先するか否かを設定するための省動力優先設定手段60bと、暖房モードから除湿暖房モードへの切り替えを許可するか否かを判定する除湿暖房許可判定手段S63と、を備え、除湿暖房許可判定手段S63は、省動力優先設定手段60bで省動力化を優先する設定がされていない場合に、除湿暖房モードへの切り替えを許可しない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷房モードと暖房モードを切り替え可能な冷凍サイクルを備える車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、駆動源として駆動用モータを備える車両(電気自動車)の空調装置では、車室内の空調モードを冷房モードと暖房モードとに切り替え可能な冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)が広く採用されている。
【0003】
この種の冷凍サイクルは、冷房モード時に室内熱交換器で圧縮機に吸入される冷媒を蒸発させて車室内に送風する空気を冷却し(冷房運転)、暖房モード時に室内熱交換器で圧縮機から吐出された冷媒を放熱させて車室内に送風する空気を加熱している(暖房運転)。
【0004】
ところが、車両用空調装置では、低外気温時において暖房運転を行うと、室外熱交換器の表面に霜が付着しやすくなる。室外熱交換器に霜が付着したまま暖房運転を継続すると、室外熱交換器の吸熱効率が悪化してしまうため、暖房運転から冷房運転に切り替えて圧縮機から吐出した高温の冷媒を室外熱交換器で放熱させて霜を除去する除霜運転を行なっている。
【0005】
但し、除霜運転では、暖房運転時であっても車室内に冷風が送風されてしまう。特に、車両の起動時等に除霜運転が開始されると、車室内の温度が低い状態で冷風が送風されてしまう。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1では、車両用空調装置において車両のIGスイッチ(イグニッションスイッチ)をONした状態で冷凍サイクルの除霜運転を開始すると、その後IGスイッチをOFFにしたとしても、除霜が完了するまで除霜運転を継続させている。このように、一旦開始された除霜運転は除霜が完了するまで継続させることで、車両起動時(再度IGスイッチをONした時)に除霜運転が行なわれて車室内に冷風が送風されてしまうことを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平6−61526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、冷房モードと暖房モードとを切り替え可能な冷凍サイクルを備える車両用空調装置では、除霜運転以外にも、暖房運転における空調機器の省動力化を図る省動力運転、車両の省燃費化を図る省燃費運転等が行なわれる。
【0009】
これらの各種運転時には、単に車室内の冷房または暖房に必要な空調機器の作動だけではなく、乗員が意図しない空調機器の作動が行われることで、乗員に違和感を与えてしまうといった問題がある。
【0010】
例えば、特許文献1では、車両のIGスイッチをOFFした状態でも除霜運転を継続しているが、IGスイッチをOFFしたにも拘らず、空調機器が作動するため、その作動音等によって乗員に車両の故障と誤解(違和感)を与えてしまう虞がある。
【0011】
また、低外気温で湿度が高い条件で冷凍サイクルの暖房運転を行うと、車両のフロント窓ガラス等に窓曇りが発生しやすくなるため、一旦送風空気を冷却して除湿した後に、再加熱するといった除湿機能と暖房機能と兼ねた除湿暖房運転が行なわれている。
【0012】
しかし、除湿暖房運転を行う場合には、一旦送風空気を冷却することになるので、通常の暖房運転時よりも暖房能力が必要となり暖房時の空調機器の消費動力が大きくなりやすい。これは、車室内の空調よりも空調機器の省動力化を優先させたい乗員にとっては、自己の意向が反映されない(意図しない)空調作動が行われることになるので、乗員が違和感を抱く一因となってしまう。
【0013】
本発明は上記点に鑑みて、乗員が意図しない空調作動によって乗員に違和感を与えてしまうことを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)、車室内へ送風される送風空気と冷媒とを熱交換させる冷却用室内熱交換器(26)および加熱用室内熱交換器(12)、室外空気と冷媒とを熱交換させる室外熱交換器(16)を有し、冷却用室内熱交換器(26)にて冷媒を蒸発させて送風空気を除湿冷却するとともに、加熱用室内熱交換器(12)にて冷媒を放熱させて送風空気を加熱する除湿暖房モードと、加熱用室内熱交換器(12)にて冷媒を放熱させて送風空気を加熱する暖房モードとを切り替え可能に構成された冷凍サイクル(10)と、乗員の操作により圧縮機(11)を含む空調機器の省動力化を優先するか否かを設定するための省動力優先設定手段(60b)と、暖房モードから除湿暖房モードへの切り替えを許可するか否かを判定する除湿暖房許可判定手段(S63)と、を備え、除湿暖房許可判定手段(S63)は、省動力優先設定手段(60b)で省動力化を優先する設定がされていない場合に、除湿暖房モードへの切り替えを許可しないことを特徴とする。
【0015】
これによれば、乗員の省動力優先設定手段(60b)の操作により、乗員が除湿を行わない暖房モードと除湿を行う除湿暖房モードとを選択可能にすることができる。例えば、乗員が省動力優先設定手段(60b)で省動力化を優先する設定を行うことで、除湿暖房モードよりも空調機器の消費動力が小さい暖房モードによって車室内を暖房でき、空調機器の省動力化を優先させたい乗員の意向を空調作動に反映させることができる。また、乗員が省動力優先設定手段(60b)で省動力化を優先する設定を行わないことで、空調機器の省動力化よりも車室内の除湿を優先させたい乗員の意向を空調作動に反映させることも可能となる。
【0016】
従って、空調機器の省動力化を優先させたい乗員とそうでない乗員の意向を空調作動に反映させることができる。ひいては、乗員が意図しない空調作動によって乗員に違和感を与えてしまうことを抑制できる。
【0017】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す全体構成図である。
【図2】第1実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す全体構成図である。
【図3】第1実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す全体構成図である。
【図4】第1実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す全体構成図である。
【図5】第1実施形態に係る車両用空調装置の電気制御部を示すブロック図である。
【図6】第1実施形態に係る車両用空調装置の空調制御の概要を示すフローチャートである。
【図7】第1実施形態に係る電磁弁の作動を決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【図8】第1実施形態に係る圧縮機の回転数を決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【図9】冷房モード時の圧縮機の回転数変化量の算出方法を説明する説明図である。
【図10】暖房モード時の圧縮機の回転数変化量の算出方法を説明する説明図である。
【図11】第2実施形態に係るサイクルを決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【図12】第3実施形態に係るサイクルを決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
図1〜10により、本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態では、本発明の車両用空調装置を、車両の駆動手段として内燃機関(エンジン)EGおよび走行用電動モータ(駆動用モータ)を有する車両(いわゆるハイブリッド車両)に適用しており、エンジンEGの駆動時の排熱を利用して車室内を暖房可能に構成されている。図1〜4は、車両用空調装置1の全体構成図である。
【0020】
この車両用空調装置1は、車室内を冷房する冷房モード(COOLサイクル)、車室内を暖房する暖房モード(HOTサイクル)、車室内を除湿する第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)および第2除湿モード(DRY_ALLサイクル)の冷媒回路を切替可能に構成された蒸気圧縮式の冷凍サイクル10を備えている。図1〜4は、それぞれ、冷房モード、暖房モード、第1、第2除湿モード時の冷媒の流れを実線矢印で示している。
【0021】
ここで、第1除湿モードは、暖房能力に対して除湿能力を優先する除湿モードであり、第2除湿モードは、除湿能力に対して暖房能力を優先する除湿モードである。従って、第1除湿モードを低温除湿モード、第2除湿モードを高温除湿モード、第1、第2除湿モードのそれぞれを除湿暖房モードと表現することができる。なお、第1、第2除湿モードは、基本的に車室内を暖房する際に行なわれる運転モードであるため、車室内を冷房する冷房モードと車室内を暖房する運転モードとを区別する意味で、単に暖房モードと表現することもできる。
【0022】
冷凍サイクル10は、圧縮機11、室内熱交換器としての室内凝縮器12および室内蒸発器26、冷媒を減圧膨張させる減圧手段としての温度式膨張弁27および固定絞り14、並びに、冷媒回路切替手段としての複数(本実施形態では5つ)の電磁弁13、17、20、21、24等を備えている。
【0023】
また、この冷凍サイクル10では、冷媒として通常のフロン系冷媒を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。さらに、この冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されており、この冷凍機油は冷媒とともにサイクルを循環している。
【0024】
圧縮機11は、エンジンルーム内に配置され、冷凍サイクル10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するもので、吐出容量が固定された固定容量型圧縮機構11aを電動モータ11bにて駆動する電動圧縮機として構成されている。固定容量型圧縮機構11aとしては、具体的に、スクロール型圧縮機構、ベーン型圧縮機構等の各種圧縮機構を採用できる。
【0025】
電動モータ11bは、インバータ61から出力される交流電圧によって、その作動(回転数)が制御される交流モータである。また、インバータ61は、後述する空調制御装置50から出力される制御信号に応じた周波数の交流電圧を出力する。そして、この回転数制御によって、圧縮機11の冷媒吐出能力が変更される。従って、電動モータ11bは、圧縮機11の吐出能力変更手段を構成している。
【0026】
圧縮機11の吐出側には、室内凝縮器12の冷媒入口側が接続されている。室内凝縮器12は、車両用空調装置1の室内空調ユニット30において車室内へ送風される送風空気の空気通路を形成するケーシング31内に配置されて、その内部を流通する冷媒と後述する室内蒸発器26通過後の送風空気とを熱交換させることで送風空気を加熱する加熱用室内熱交換器(暖房用熱交換器)である。なお、室内空調ユニット30の詳細については後述する。
【0027】
室内凝縮器12の冷媒出口側には、電気式三方弁13が接続されている。この電気式三方弁13は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段である。
【0028】
より具体的には、電気式三方弁13は、電力が供給される通電状態では、室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続する冷媒回路に切り替え、電力の供給が停止される非通電状態では、室内凝縮器12の冷媒出口側と第1三方継手15の1つの冷媒流入出口との間を接続する冷媒回路に切り替える。
【0029】
固定絞り14は、暖房モード、第1および第2除湿モード時に、電気式三方弁13から流出した冷媒を減圧膨張させる暖房除湿用の減圧手段である。この固定絞り14としては、キャピラリチューブ、オリフィス等を採用できる。もちろん、暖房除湿用の減圧手段として、空調制御装置50から出力される制御信号によって絞り通路面積が調整される電気式の可変絞り機構を採用してもよい。固定絞り14の冷媒出口側には、後述する第3三方継手23の冷媒流入出口が接続されている。
【0030】
第1三方継手15は、3つの冷媒流入出口を有し、冷媒流路を分岐する分岐部として機能するものである。このような三方継手は、冷媒配管を接合して構成してもよいし、金属ブロックや樹脂ブロックに複数の冷媒通路を設けて構成してもよい。また、第1三方継手15の別の冷媒流入出口には、室外熱交換器16の一方の冷媒流入出口が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、低圧電磁弁17の冷媒入口側が接続されている。
【0031】
低圧電磁弁17は、冷媒流路を開閉する弁体部と、弁体部を駆動するソレノイド(コイル)を有し、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段である。より具体的には、低圧電磁弁17は、通電状態で開弁して非通電状態で閉弁する、いわゆるノーマルクローズ型の開閉弁として構成されている。
【0032】
低圧電磁弁17の冷媒出口側には、第1逆止弁18を介して、後述する第5三方継手28の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第1逆止弁18は、低圧電磁弁17側から第5三方継手28側へ冷媒が流れることのみを許容している。
【0033】
室外熱交換器16は、エンジンルーム内に配置されて、内部を流通する冷媒と送風ファン16aから送風された車室外空気(外気)とを熱交換させるものである。送風ファン16aは、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。なお、送風ファン16aが本発明の送風手段に相当している。
【0034】
さらに、本実施形態の送風ファン16aは、室外熱交換器16のみならず、エンジンEGの冷却水を放熱させるラジエータ(図示せず)にも室外空気を送風している。具体的には、送風ファン16aから送風された車室外空気は、室外熱交換器16→ラジエータの順に流れる。
【0035】
また、図1〜4の破線で示す冷却水回路には、冷却水を循環させるための図示しない冷却水ポンプが配置されている。この冷却水ポンプは、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(冷却水循環量)が制御される電動式の水ポンプである。
【0036】
室外熱交換器16の他方の冷媒流入出口には、第2三方継手19の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第2三方継手19の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第2三方継手19の別の冷媒流入出口には、高圧電磁弁20の冷媒入口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、熱交換器遮断電磁弁21の一方の冷媒流入出口が接続されている。
【0037】
高圧電磁弁20および熱交換器遮断電磁弁21は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段であり、その基本的構成は、低圧電磁弁17と同様である。但し、高圧電磁弁20および熱交換器遮断電磁弁21は、通電状態で閉弁して非通電状態で開弁する、いわゆるノーマルオープン型の開閉弁として構成されている。
【0038】
高圧電磁弁20の冷媒出口側には、第2逆止弁22を介して、後述する温度式膨張弁27の絞り機構部入口側が接続されている。この第2逆止弁22は、高圧電磁弁20側から温度式膨張弁27側へ冷媒が流れることのみを許容している。
【0039】
熱交換器遮断電磁弁21の他方の冷媒流入出口には、第3三方継手23の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第3三方継手23の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第3三方継手23の別の冷媒流入出口には、前述の如く、固定絞り14の冷媒出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、除湿電磁弁24の冷媒入口側が接続されている。
【0040】
除湿電磁弁24は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段であり、その基本的構成は、低圧電磁弁17と同様である。さらに、除湿電磁弁24もノーマルクローズ型の開閉弁として構成されている。そして、本実施形態の冷媒回路切替手段は、電気式三方弁13、低圧電磁弁17、高圧電磁弁20、熱交換器遮断電磁弁21、除湿電磁弁24の複数(5つ)の電磁弁によって構成される。
【0041】
除湿電磁弁24の冷媒出口側には、第4三方継手25の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第4三方継手25の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第4三方継手25の別の冷媒流入出口には、温度式膨張弁27の絞り機構部出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、室内蒸発器26の冷媒入口側が接続されている。
【0042】
室内蒸発器26は、室内空調ユニット30のケーシング31内のうち、室内凝縮器12の送風空気流れ上流側に配置されて、その内部を流通する冷媒と送風空気とを熱交換させて送風空気を除湿冷却する冷却用室内熱交換器である。
【0043】
室内蒸発器26の冷媒出口側には、温度式膨張弁27の感温部入口側が接続されている。温度式膨張弁27は、絞り機構部入口から内部へ流入した冷媒を減圧膨張させて絞り機構部出口から外部へ流出させる冷房用の減圧手段である。
【0044】
より具体的には、本実施形態では、温度式膨張弁27として、室内蒸発器26出口側冷媒の温度および圧力に基づいて室内蒸発器26出口側冷媒の過熱度を検出する感温部27aと、感温部27aの変位に応じて室内蒸発器26出口側冷媒の過熱度が予め定めた所定範囲となるように絞り通路面積(冷媒流量)を調整する可変絞り機構部27bとを1つのハウジング内に収容した内部均圧型膨張弁を採用している。
【0045】
温度式膨張弁27の感温部出口側には、第5三方継手28の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第5三方継手28の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第5三方継手28の別の冷媒流入出口には、前述の如く、第1逆止弁18の冷媒出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、アキュムレータ29の冷媒入口側が接続されている。
【0046】
アキュムレータ29は、第5三方継手28から、その内部に流入した冷媒の気液を分離して、余剰冷媒を蓄える低圧側気液分離器である。さらに、アキュムレータ29の気相冷媒出口には、圧縮機11の冷媒吸入口が接続されている。
【0047】
次に、室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されて、その外殻を形成するケーシング31内に送風機32、前述の室内蒸発器26、室内凝縮器12、ヒータコア36、PTCヒータ37等を収容したものである。
【0048】
ケーシング31は、車室内に送風される送風空気の空気通路を形成しており、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。ケーシング31内の送風空気流れ最上流側には、内気(車室内空気)と外気(車室外空気)とを切替導入する図示しない内外気切替箱が配置されている。
【0049】
より具体的には、内外気切替箱には、ケーシング31内に内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口が形成されている。さらに、内外気切替箱の内部には、内気導入口および外気導入口の開口面積を連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる内外気切替ドアが配置されている。
【0050】
従って、内外気切替ドアは、ケーシング31内に導入される内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる吸込口モードを切り替える風量割合変更手段を構成する。より具体的には、内外気切替ドアは、内外気切替ドア用の電動アクチュエータ62によって駆動され、この電動アクチュエータ62は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0051】
また、吸込口モードとしては、内気導入口を全開とするとともに外気導入口を全閉としてケーシング31内へ内気を導入する内気モード、内気導入口を全閉とするとともに外気導入口を全開としてケーシング31内へ外気を導入する外気モード、さらに、内気モードと外気モードとの間で、内気導入口および外気導入口の開口面積を連続的に調整することにより、内気と外気の導入比率を連続的に変化させる内外気混入モードがある。
【0052】
内外気切替箱の空気流れ下流側には、内外気切替箱を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する送風機32が配置されている。この送風機32は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機であって、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(送風量)が制御される。
【0053】
送風機32の空気流れ下流側には、前述の室内蒸発器26が配置されている。さらに、室内蒸発器26の空気流れ下流側には、室内蒸発器26通過後の空気を流す加熱用冷風通路33、冷風バイパス通路34といった空気通路、並びに、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34から流出した空気を混合させる混合空間35が形成されている。
【0054】
加熱用冷風通路33には、室内蒸発器26通過後の空気を加熱するための加熱手段としてのヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37が、送風空気流れ方向に向かってこの順で配置されている。ヒータコア36は、車両走行用駆動力を出力するエンジンEGの冷却水と室内蒸発器26通過後の空気とを熱交換させて、室内蒸発器26通過後の空気を加熱する加熱用熱交換器(暖房用熱交換器)である。
【0055】
また、PTCヒータ37は、PTC素子(正特性サーミスタ)を有し、電力を供給されることによって発熱して、室内凝縮器12通過後の空気を加熱する電気ヒータである。なお、本実施形態のPTCヒータ37は、複数本(具体的には3本)設けられており、空調制御装置50が、通電するPTCヒータ37の本数を変化させることによって、複数のPTCヒータ37全体としての加熱能力が制御される。
【0056】
一方、冷風バイパス通路34は、室内蒸発器26通過後の空気を、ヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37を通過させることなく、混合空間35に導くための空気通路である。従って、混合空間35にて混合された送風空気の温度は、加熱用冷風通路33を通過する空気および冷風バイパス通路34を通過する空気の風量割合によって変化する。
【0057】
そこで、本実施形態では、室内蒸発器26の空気流れ下流側であって、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34の入口側に、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34へ流入させる冷風の風量割合を連続的に変化させるエアミックスドア38を配置している。
【0058】
従って、エアミックスドア38は、混合空間35内の空気温度(車室内へ送風される送風空気の温度)を調整する温度調整手段を構成する。より具体的には、エアミックスドア38は、エアミックスドア用の電動アクチュエータ63によって駆動され、この電動アクチュエータ63は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0059】
さらに、ケーシング31の送風空気流れ最下流部には、混合空間35から空調対象空間である車室内へ温度調整された送風空気を吹き出す吹出口(図示せず)が配置されている。この吹出口としては、具体的に、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス吹出口、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット吹出口、および、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ吹出口が設けられている。
【0060】
また、フェイス吹出口、フット吹出口、およびデフロスタ吹出口の空気流れ上流側には、それぞれ、フェイス吹出口の開口面積を調整するフェイスドア、フット吹出口の開口面積を調整するフットドア、デフロスタ吹出口の開口面積を調整するデフロスタドア(いずれも図示せず)が配置されている。
【0061】
これらのフェイスドア、フットドア、デフロスタドアは、吹出口モードを切替える吹出口モード切替手段を構成するものであって、図示しないリンク機構を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータ64に連結されて連動して回転操作される。なお、この電動アクチュエータ64も、空調制御装置50から出力される制御信号によってその作動が制御される。
【0062】
また、吹出口モードとしては、フェイス吹出口を全開してフェイス吹出口から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出すフェイスモード、フェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出すバイレベルモード、フット吹出口を全開するとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出すフットモード、およびフット吹出口およびデフロスタ吹出口を同程度開口して、フット吹出口およびデフロスタ吹出口の双方から空気を吹き出すフットデフロスタモードがある。
【0063】
さらに、乗員が後述する操作パネル60のスイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタ吹出口を全開してデフロスタ吹出口から車両フロント窓ガラス内面に空気を吹き出すデフロスタモードとすることもできる。
【0064】
なお、本実施形態の車両用空調装置1が適用されるハイブリッド車両は、車両用空調装置とは別に、図示しない電熱デフォッガを備えている。電熱デフォッガとは、車室内窓ガラスの内部あるいは表面に配置された電熱線であって、窓ガラスを加熱することで防曇あるいは窓曇り解消を行うものである。この電熱デフォッガについても空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動を制御できるようになっている。
【0065】
次に、図5により、本実施形態の電気制御部について説明する。空調制御装置50は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された圧縮機11の電動モータ11b用のインバータ61、冷媒回路切替手段を構成する各電磁弁13、17、20、21、24、送風ファン16a、送風機32、各種電動アクチュエータ62、63、64等の作動を制御する。
【0066】
なお、空調制御装置50は、上述した各種機器を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、本実施形態では、特に、圧縮機11の吐出能力変更手段である電動モータ11bの作動(冷媒吐出能力)を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を吐出能力制御手段50aとする。もちろん、吐出能力制御手段50aを空調制御装置50に対して別体で構成してもよい。
【0067】
また、空調制御装置50の入力側には、車室内温度Trを検出する内気センサ51、外気温Tamを検出する外気センサ52(外気温検出手段)、車室内の日射量Tsを検出する日射センサ53、圧縮機11吐出冷媒温度Tdを検出する吐出温度センサ54(吐出温度検出手段)、圧縮機11吐出冷媒圧力Pdを検出する吐出圧力センサ55(吐出圧力検出手段)、室内蒸発器26からの吹出空気温度(蒸発器温度)Teを検出する蒸発器温度センサ56(蒸発器温度検出手段)、第1三方継手15と低圧電磁弁17との間を流通する冷媒の温度Tsiを検出する吸入温度センサ57、エンジン冷却水温度Twを検出する冷却水温度センサ、車室内の窓ガラス近傍の車室内空気の相対湿度を検出する湿度センサ、窓ガラス近傍の車室内空気の温度を検出する窓ガラス近傍温度センサ、および窓ガラス表面温度を検出する窓ガラス表面温度センサ等のセンサ群の検出信号が入力される。
【0068】
なお、本実施形態の蒸発器温度センサ56は、具体的に室内蒸発器26の熱交換フィン温度を検出している。もちろん、蒸発器温度センサ56として、室内蒸発器26のその他の部位の温度を検出する温度検出手段を採用してもよいし、室内蒸発器26を流通する冷媒自体の温度を直接検出する温度検出手段を採用してもよい。また、湿度センサ、窓ガラス近傍温度センサ、および窓ガラス表面温度センサの検出値は、窓ガラス表面の相対湿度RHWを算出するために用いられる。
【0069】
さらに、空調制御装置50の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル60に設けられた各種空調操作スイッチ60a〜60gからの操作信号が入力される。
【0070】
各種空調操作スイッチとしては、具体的には、空調制御装置50をON状態にするか否かを設定する空調作動スイッチ60a、圧縮機11の作動をON状態(オン状態)に設定可能なエアコンスイッチ60b(以下、A/Cスイッチと呼ぶ。)、運転モードの切替スイッチ60c、吹出口モードの切替スイッチ60d、送風機32の風量設定スイッチ60e、車室内温度設定スイッチ60f、車両の省燃費を優先させる指令を出力するエコノミースイッチ60g(以下、エコスイッチと呼ぶ。)等が設けられている。
【0071】
ここで、A/Cスイッチ60bが本発明の圧縮機作動設定手段を構成している。なお、本実施形態では、A/Cスイッチ60bは、冷房モードに設定されている場合において圧縮機11の作動をON状態に設定することができる構成としている。但し、除霜運転による冷房モードや暖房モードに設定されている場合には、A/Cスイッチ60bのON/OFFに拘らず、圧縮機11は作動可能(ON状態)となっている。
【0072】
また、空調制御装置50の入力側には、車両の走行システムを作動させる図示しないイグニッションスイッチ(以下、IGスイッチと呼ぶ。)の操作信号が入力される。
【0073】
次に、図6により上記構成における本実施形態の作動を説明する。図6は、本実施形態の車両用空調装置1の制御処理の概要を示すフローチャートである。この制御処理は、車両の走行システムが停止している場合(IGスイッチがOFFされている場合)でも、バッテリから空調制御装置50に電力が供給されることによって実行される。
【0074】
まず、ステップS1では、プレ空調のスタートスイッチ、あるいは操作パネル60の空調作動スイッチ60aが投入(ON)されたか否かを判定する。そして、プレ空調のスタートスイッチ、あるいは空調作動スイッチ60aが投入されるとステップS2へ進む。
【0075】
なお、プレ空調とは、乗員が車両に乗り込む前に車室内の空調を開始する空調制御であって、プレ空調のスタートスイッチは、乗員が携帯する無線装置(リモコン)に設けられている。従って、乗員は車両から離れた場所から車両用空調装置1を始動させることができる。
【0076】
さらに、本実施形態の車両用空調装置1が適用されるハイブリッド車両では、バッテリに対して商用電源(外部電源)から電力を供給することによって、バッテリの充電を行うことができる。そこで、プレ空調は、車両が外部電源に接続されている場合は所定時間(例えば、30分間)だけ行われ、外部電源に接続されていない場合には、バッテリ残量が所定量以下となるまで行うようになっている。
【0077】
ステップS2では、フラグ、タイマ等の初期化、および上述した電動アクチュエータを構成するステッピングモータの初期位置合わせ等が行われる。次のステップS3では、操作パネル60の操作信号、IGスイッチの操作信号等を読み込んでステップS4へ進む。具体的な操作パネル60の操作信号としては、A/Cスイッチ60bの操作信号、エコスイッチ60gの操作信号、車室内温度設定スイッチ60fによって設定される車室内設定温度Tset、吹出口モードの切替スイッチ60dの選択信号、吸込口モードの選択信号、送風機32の風量の設定信号等がある。
【0078】
ステップS4では、空調制御に用いられる車両環境状態の信号、すなわち上述のセンサ群51〜57の検出信号を読み込んで、ステップS5へ進む。ステップS5では、車室内吹出空気の目標吹出温度TAOを算出する。さらに、暖房モードでは、暖房用熱交換器目標温度を算出する。目標吹出温度TAOは、下記数式F1により算出される。TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C…(F1)
ここで、Tsetは車室内温度設定スイッチ60fによって設定された車室内設定温度、Trは内気センサ51によって検出された車室内温度(内気温)、Tamは外気センサ52によって検出された外気温、Tsは日射センサ53によって検出された日射量である。Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
【0079】
また、暖房用熱交換器目標温度は、基本的には上述の数式F1にて算出される値となるが、消費電力の抑制のために数式F1にて算出されたTAOよりも低い値とする補正が行われる場合がある。
【0080】
続く、ステップS6〜S16では、空調制御装置50に接続された各種機器(空調機器)の制御状態が決定される。まず、ステップS6では、空調環境状態に応じて、冷房モード、暖房モード、第1除湿モード、第2除湿モードの選択およびPTC通電の有無の決定等が行われる。
【0081】
ステップS7では、送風機32により送風される空気の目標送風量を決定する。具体的には電動モータに印加するブロワモータ電圧をステップS4にて決定されたTAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。
【0082】
具体的には、本実施形態では、TAOの極低温域(最大冷房域)および極高温域(最大暖房域)でブロワモータ電圧を最大値付近の高電圧にして、送風機32の風量を最大風量付近に制御する。また、TAOが極低温域から中間温度域に向かって上昇すると、TAOの上昇に応じてブロワモータ電圧を減少して、送風機32の風量を減少させる。
【0083】
さらに、TAOが極高温域から中間温度域に向かって低下すると、TAOの低下に応じてブロワモータ電圧を減少して、送風機32の風量を減少させる。また、TAOが所定の中間温度域内に入ると、ブロワモータ電圧を最小値にして送風機32の風量を最小値にするようになっている。
【0084】
ステップS8では、吸込口モード、すなわち内外気切替箱の切替状態を決定する。この吸込口モードもTAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。本実施形態では、基本的に外気を導入する外気モードが優先されるが、TAOが極低温域となって高い冷房性能を得たい場合等に内気を導入する内気モードが選択される。さらに、外気の排ガス濃度を検出する排ガス濃度検出手段を設け、排ガス濃度が予め定めた基準濃度以上となったときに、内気モードを選択するようにしてもよい。
【0085】
ステップS9では、吹出口モードを決定する。この吹出口モードも、TAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。本実施形態では、TAOが低温域から高温域へと上昇するにつれて吹出口モードをフットモード→バイレベルモード→フェイスモードへと順次切り替える。
【0086】
従って、夏季は主にフェイスモード、春秋季は主にバイレベルモード、そして冬季は主にフットモードが選択される。さらに、湿度センサの検出値から窓ガラスに曇りが発生する可能性が高い場合には、フットデフロスタモードあるいはデフロスタモードを選択するようにしてもよい。
【0087】
ステップS10では、エアミックスドア38の目標開度SWを上記TAO、蒸発器温度センサ56によって検出された室内蒸発器26からの吹出空気温度Te、加熱器温度に基づいて算出する。
【0088】
ここで、加熱器温度とは、加熱用冷風通路33に配置された加熱手段(ヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37)の加熱能力に応じて決定される値であって、具体的には、エンジン冷却水温度Twを採用できる。従って、目標開度SWは、次の数式F2により算出できる。SW=[(TAO−Te)/(Tw−Te)]×100(%)…(F2)
なお、SW=0(%)は、エアミックスドア38の最大冷房位置であり、冷風バイパス通路34を全開し、加熱用冷風通路33を全閉する。これに対し、SW=100(%)は、エアミックスドア38の最大暖房位置であり、冷風バイパス通路34を全閉し、加熱用冷風通路33を全開する。
【0089】
ステップS11では、圧縮機11の冷媒吐出能力(具体的には回転数)を決定する。本実施形態の基本的な圧縮機11の回転数の決定手法はファジー推論に基づいて前回の圧縮機11の回転数に対する回転数変化量を算出する等して決定している。本実施形態のステップS11の詳細な内容については後述する。
【0090】
ステップS12では、室外熱交換器16に向けて外気を送風する送風ファン16aの稼働率を決定する。本実施形態の基本的な送風ファン16aの稼働率の決定手法は以下の通りである。つまり、圧縮機11吐出冷媒温度Tdの増加に伴って送風ファン16aの稼働率が増加するように第1の仮稼働率を決定し、エンジン冷却水温度Twの上昇に伴って送風ファン16aの稼働率が増加するように第2の仮稼働率を決定する。
【0091】
さらに、第1、第2の仮稼働率のうち大きい方を選択し、選択された稼働率に対して、送風ファン16aの騒音低減や車速を考慮した補正を行った値を送風ファン16aの稼働率に決定する。なお、ステップS12の制御処理が本発明の稼働率設定手段に相当している。
【0092】
ステップS13では、PTCヒータ37の作動本数の決定および電熱デフォッガの作動状態の決定が行われる。PTCヒータ37の作動本数は、例えば、ステップS6にてPTCヒータ37への通電が必要とされたときに、暖房モード時にエアミックスドア38の目標開度SWが100%となっても、暖房用熱交換器目標温度を得られない場合に、内気温Trと暖房用熱交換器目標温度との差に応じて決定すればよい。
【0093】
また、車室内の湿度および温度から窓ガラスに曇りが発生する可能性が高い場合、あるいは窓ガラスに曇りが発生している場合は、電熱デフォッガを作動させる。
【0094】
次に、ステップS14にて、上述のステップS6で決定された運転モードに応じて、冷媒回路切替手段である各電磁弁13、17、20、21、24の作動状態を決定する。この際、本実施形態では、サイクルに応じた冷媒回路を実現するため、基本的には冷媒が流通する冷媒流路が開となるように各電磁弁を制御し、冷媒圧力の高低圧関係によって冷媒が流通しない冷媒流路については各電磁弁を非通電状態として、消費電力の抑制を行う。
【0095】
ステップS14の詳細については、図7のフローチャートを用いて説明する。まず、ステップS141で、ステップS6で決定された運転モードをメモリCYCLE_VALVEに読み込む。次に、ステップS142にて、車両用空調装置1が停止しているか否か、すなわち車室内の空調を行わないか否かが判定される。
【0096】
ステップS142にて、車両用空調装置1が停止していると判定された場合は、ステップS143にて、メモリCYCLE_VALVEを冷房モード(COOLサイクル)に設定してステップS144へ進む。ステップS143にて、車両用空調装置1が停止していないと判定された場合は、ステップS144へ進む。
【0097】
ステップS144では、各電磁弁13、17、20、21、24の作動状態が決定される。具体的には、メモリCYCLE_VALVEが冷房モード(COOLサイクル)に設定されている場合は、全ての電磁弁を非通電状態とする。また、メモリCYCLE_VALVEが冷房モード(HOTサイクル)に設定されている場合は、電気式三方弁13、高圧電磁弁20、低圧電磁弁17を通電状態とし、残りの電磁弁21、24を非通電状態とする。また、メモリCYCLE_VALVEが第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)に設定されている場合は、電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24および熱交換器遮断電磁弁21を通電状態とし、高圧電磁弁20を非通電状態とする。また、メモリCYCLE_VALVEが第2除湿モード(DRY_ALLサイクル)に設定されている場合は、電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24を通電状態とし、残りの電磁弁20、21を非通電状態とする。
【0098】
つまり、本実施形態では、いずれの運転モードの冷媒回路に切り替えた場合であっても、各電磁弁13、17、20、21、24のうち少なくとも1つの電磁弁に対する電力の供給が停止されるように構成されている。
【0099】
ステップS15では、エンジンEGの作動要求有無を決定する。ここで、車両走行用の駆動力をエンジンEGのみから得る通常の車両では、常時エンジンを作動させているのでエンジン冷却水も常時高温となる。従って、通常の車両ではエンジン冷却水をヒータコア36に流通させることで充分な暖房性能を発揮することができる。
【0100】
これに対して、本実施形態のようなハイブリッド車両では、バッテリ残量に余裕があれば、走行用電動モータのみから走行用の駆動力を得て走行することができる。このため、高い暖房性能が必要な場合であっても、エンジンEGが停止しているとエンジン冷却水温度が40℃程度にしか上昇せず、ヒータコア36にて充分な暖房性能が発揮できなくなる。
【0101】
そこで、本実施形態では、暖房に必要な熱源を確保するため、高い暖房性能が必要な場合であってもエンジン冷却水温度Twが予め定めた基準冷却水温度よりも低いときは、空調制御装置50からエンジンEGの制御に用いられるエンジン制御装置(図示せず)に対して、エンジンEGを作動するように要求信号を出力する。
【0102】
これにより、エンジン冷却水温度Twを上昇させて高い暖房性能を得るようにしている。なお、このようなエンジンEGの作動要求信号は、車両走行用の駆動源としてエンジンEGを作動させる必要の無い場合であってもエンジンEGを作動させることになるので、車両燃費を悪化させる要因となる。このため、エンジンEGの作動要求信号を出力する頻度は極力低減させることが望ましい。
【0103】
ステップS16では、室外熱交換器16に着霜が生じている場合に、室外熱交換器16の除霜制御を行う。ここで、暖房モードの冷媒回路のように、室外熱交換器16にて冷媒に吸熱作用を発揮させる際に、室外熱交換器16における冷媒蒸発温度が−12℃程度まで低下すると、室外熱交換器16に着霜が生じることが知られている。
【0104】
このような着霜が生じると、室外熱交換器16に車室外空気が流通できなくなり、室外熱交換器16にて冷媒と車室外空気とが熱交換できなくなってしまう。このため、室外熱交換器16に着霜が生じた際には、強制的に冷房モードとする制御処理を行う。後述するように冷房モードの冷媒回路では、室外熱交換器16にて冷媒が放熱するので、室外熱交換器16に生じた霜を溶かすことができる。なお、ステップS6における制御処理が、本発明の除霜運転手段を構成している。
【0105】
ここで、除霜運転を行うために冷房モードに切り換えている場合には、除霜フラグをONに設定し、通常の冷房モードの場合には、除霜フラグをOFFに設定することで、除霜運転による冷房モードと通常の冷房モードとの違いを判別可能にしている。
【0106】
ステップS17では、上述のステップS6〜S16で決定された制御状態が得られるように、空調制御装置50より各種機器61、13、17、20、21、24、16a、32、62、63、64に対して制御信号および制御電圧が出力される。例えば、圧縮機11の電動モータ11b用のインバータ61に対しては、圧縮機11の回転数がステップS11で決定された回転数となるように制御信号が出力される。
【0107】
次のステップS18では、制御周期τの間待機し、制御周期τの経過を判定するとステップS3に戻るようになっている。なお、本実施形態は制御周期τを250msとしている。これは、車室内の空調制御は、エンジン制御等と比較して遅い制御周期であってもその制御性に悪影響を与えないからである。さらに、車両内における空調制御のための通信量を抑制して、エンジン制御等のように高速制御を行う必要のある制御系の通信量を充分に確保することができる。
【0108】
ここで、例えば、乗員が操作パネル60の送風機32の風量を風量設定スイッチ60eでゼロに設定する場合、空調機器の故障判定により故障と判定された場合等に、車室内への空気の送風を行わない状態、つまり空調システムがOFFされた状態となる。この状態において、ステップS16にて室外熱交換器16に付着した霜を除去するために除霜運転が行なわれると、乗員にとっては、意図せず空調機器が作動することになり、その作動音等によって車両が故障したと誤解(違和感)を与えてしまう虞がある。
【0109】
そこで、本実施形態では、除霜運転を行う際に、乗員に車両の故障と誤解を与えないようにするために、上述のステップS11の圧縮機回転数決定処理等にて対策を施している。具体的な対策の内容について図8〜10に基づいて説明する。図8は、本実施形態に係る圧縮機11の回転数を決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【0110】
図8に示すように、圧縮機回転数決定処理では、先ずステップ101にてファジー推論を用いて冷房モード、暖房モード(第1、第2除湿モードを含む)時の圧縮機11の回転数変化量を算出する。
【0111】
例えば、冷房モードでは、ステップS4で決定したTAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して、室内蒸発器26からの吹出空気温度Teの目標吹出温度TEOを決定する。
【0112】
そして、この目標吹出温度TEOと吹出空気温度Teの偏差En(TEO−Te)を演算し、この偏差Enと、今回算出された偏差Enから前回算出された偏差En−1を減算した偏差変化率Edot(En−(En−1))を算出する。
【0113】
そして、空調制御装置50に記憶された図9に示すメンバーシップ関数と、ファジールールとを用いたファジー推論に基づいて、前回の圧縮機11の回転数fn−1に対する回転数変化量ΔfCを算出する。なお、図9(a)が偏差Enのメンバーシップ関数を示し、図9(b)が偏差変化率Edotのメンバーシップ関数を示し、図9(c)がファジールールを示している。なお、本実施形態のメンバーシップ関数は、6つのファジー集合(NB、NM、NC、Z0、PC、PM、PB)から構成している。
【0114】
具体的には、図9(a)で求まる各ファジー集合のCF1と図9(b)で求まる各ファジー集合のCF2とから下記数式F3に基づいて各ファジー集合の入力適合度CFを求める。そして、各ファジー集合の入力適合度CFと図8(c)に示すファジールールのルール値とから下記数式F4に基づいて圧縮機11の回転数変化量ΔfC(回転数/時間)を算出する。CF=CF1×CF2…(F3)ΔfC=Σ(CF×ルール値)/ΣCF…(F4)
また、暖房モードでは、ステップS4で決定した暖房用熱交換器目標温度等に基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して、吐出冷媒圧力Pdの目標高圧PDOを決定し、この目標高圧PDOと吐出冷媒圧力Pdの偏差Pn(PDO−Pd)を算出する。さらに、この偏差Pnと、今回算出された偏差Pnから前回算出された偏差Pn−1を減算した偏差変化率Pdot(Pn−(Pn−1))を算出する。
【0115】
そして、空調制御装置50に記憶された図10に示すメンバーシップ関数と、ファジールールとを用いたファジー推論に基づいて、前回の圧縮機11の回転数fn−1に対する回転数変化量ΔfHを算出する。なお、図10(a)が偏差Pnのメンバーシップ関数を示し、図10(b)が偏差変化率Pdotのメンバーシップ関数を示し、図10(c)がファジールールを示している。なお、本実施形態のメンバーシップ関数は、6つのファジー集合(NB、NM、NC、Z0、PC、PM、PB)から構成している。
【0116】
具体的には、図10(a)で求まる各ファジー集合のCF1と図10(b)で求まる各ファジー集合のCF2とから下記数式F5に基づいて各ファジー集合の入力適合度CFを求める。そして、各ファジー集合の入力適合度CFと図9(c)に示すファジールールのルール値とから下記数式F6に基づいて圧縮機11の回転数変化量ΔfH(回転数/時間)を算出する。CF=CF1×CF2…(F5)ΔfH=Σ(CF×ルール値)/ΣCF…(F6)
次に、ステップS102に進み、ステップS6(図6参照)で決定された運転モード(サイクル)が冷房モード(除霜運転時を含む)であるか否かを判定する。判定の結果、冷房モードと判定されなかった場合には暖房モード(第1、第2除湿モードを含む)と判断して、ステップS103に進む。そしてステップS103にて、圧縮機11の回転数変化量Δfを暖房モード時の変化量ΔfHに設定する。ステップS102にて冷房モードと判定された場合には、ステップS104に進み、圧縮機11の回転数変化量Δfを冷房モード時の変化量ΔfCに設定する。
【0117】
次に、ステップS105にて、圧縮機11の仮回転数fn1を算出する。圧縮機11の仮回転数fn1は、前回の圧縮機11の回転数fn−1に圧縮機11の回転数変化量Δfを加算して算出している。
【0118】
上述のように、室内空調ユニット30で温度調節された空気を車室内へ送風しない状態(空調システムがOFFとなる状態)、またはIGスイッチがOFFされた状態において圧縮機11等の空調機器が作動すると乗員に違和感を与えてしまう虞がある。特に、空調システムがOFFされた状態で、除霜運転といった乗員が意図しない空調作動が行われると、乗員に車両の故障と誤解を与えてしまう虞がある。
【0119】
そこで、ステップS106にて空調システムがOFF、またはIGスイッチがOFFか否かを判定し、空調システムがOFFまたはIGスイッチがOFFと判定された場合、ステップS107に進み、圧縮機11の最高回転数fn2をゼロ回転に制限する。なお、圧縮機11の最高回転数fn2は、圧縮機11の回転数を制限するために設定している。
【0120】
そして、ステップS108にて、圧縮機11の仮回転数fn1と最高回転数fn2のうち低い方の回転数を今回の圧縮機11の回転数fnとして決定する。つまり、空調システムがOFF、またはIGスイッチがOFFとなっている場合には、今回の圧縮機11の回転数fnを最高回転数fn2(ゼロ回転)に決定して、除霜運転を含めた各種運転を行なわない構成としている。
【0121】
これによれば、空調システムがOFFまたはIGスイッチがOFFされた場合には、圧縮機11を強制的に作動させないので、ステップS16(図6参照)にて除霜運転を行う決定をしたとしても実質的に除霜運転が許可されないことになる。これにより、空調システムのOFF時等に除霜運転等の乗員が意図しない圧縮機11の作動による作動音等が生じてしまうことを抑制できる。なお、ステップS106における空調システムがOFFか否かの判定が、車室内への空気の送風を行うか否かを判定する空調判定手段に相当している。
【0122】
一方、ステップS106にて空調システムがOFFおよびIGスイッチがOFFと判定されなかった場合には、ステップS109に進み、冷房モード(除霜運転時を含む)か否かを判定する。
【0123】
ここで、本実施形態では、暖房モード時には、A/Cスイッチ60bのON/OFFに拘らず圧縮機11の作動がON状態となる設定であるため、暖房モードにおいて圧縮機11が作動しても乗員に違和感を与えてしまうことにはならない。つまり、圧縮機11の作動を第2の仮回転数fn2で制限する必要がないといえる。
【0124】
そのため、ステップS109にて冷房モードと判定されなかった場合、すなわち暖房モードと判定された場合、ステップS110に進み、圧縮機11の最高回転数fn2を、例えば圧縮機11の通常の許容上限値(例えば、10000回転)に設定する。
【0125】
そして、ステップS108にて、圧縮機11の仮回転数fn1と最高回転数fn2のうち低い回転数を今回の圧縮機11の回転数fnとして決定する。なお、ステップS110における上限値を通常の許容上限値に設定している場合には、実質的に最高回転数fn2によって仮回転数fn1を制限しないこととなる。
【0126】
一方、冷房モード時には、A/Cスイッチ60bがONされることで圧縮機11の作動をON状態となる設定であるため、A/Cスイッチ60bがOFFされた場合に、圧縮機11が作動していると乗員に違和感を与えてしまう虞がある。
【0127】
そこで、ステップS109にて冷房モードと判定された場合には、ステップS111に進み、A/Cスイッチ60bがONに設定されているか否かを判定する。換言すれば、ステップS111では、乗員の操作により圧縮機11の作動がON状態に設定されているか否かを判定する。
【0128】
ステップS111にて、A/Cスイッチ60bがONと判定された場合には、ステップS110に進み、最高回転数fn2を通常の許容上限値(例えば、10000回転)に設定する。そして、ステップS108にて、暖房モード時と同様に、今回の圧縮機11の回転数fnを第1の仮回転数fn1に決定する。この場合、冷房モード時にA/Cスイッチ60bがONされているため、圧縮機11が作動していても乗員に車両の故障と誤解を与えることにはならない。
【0129】
ステップS111にて、A/Cスイッチ60bがONと判定されなかった場合には、ステップS112にて、除霜運転による冷房モードか否かを判定する。具体的には、ステップS16(図6参照)の制御処理で設定される除霜フラグがONとなっているか否かを判定する。なお、上述のように、ステップS16(図6参照)の制御処理では、除霜運転による冷房モードの場合に除霜フラグをONし、通常の冷房モードの場合に除霜フラグをOFFする。
【0130】
ステップS112にて除霜運転による冷房モードと判定された場合、すなわち除霜フラグがONと判定された場合、ステップS113に進む。ステップS113にて圧縮機11の回転数が、A/Cスイッチ60bがONである場合に比べて低下するように、圧縮機11の最高回転数fn2を許容上限値よりも低い回転数(例えば、2000回転)に決定する。そして、ステップS108にて、仮回転数fn1と最高回転数fn2のち低い回転数となっているものを今回の圧縮機11の回転数fnとして決定する。
【0131】
つまり、A/Cスイッチ60bがOFFされている場合には、A/Cスイッチ60bがONされている場合に比較して、除霜運転時の圧縮機11の回転数(吐出能力)が低下するように制限している。
【0132】
これにより、A/Cスイッチ60bがOFFされている場合に、圧縮機11を作動させて除霜運転を行なったとしても、圧縮機11の回転数を制限して圧縮機11の作動音等を低減しているので、乗員に車両の故障と誤解を与えてしまうことを抑制することができる。
【0133】
また、ステップS112にて除霜運転による冷房モードと判定されなかった場合、すなわち除霜フラグがOFFと判定された場合、通常の冷房モードにA/Cスイッチ60bがOFFされているので、ステップS107にて最高回転数fn2をゼロ回転に設定する。そして、ステップS108にて今回の圧縮機11の回転数fnを最高回転数fn2(ゼロ回転)に決定し、圧縮機11が作動しないようにする。
【0134】
ここで、上述のステップS107では、空調システムがOFF、またはIGスイッチがOFFとなっている場合に、圧縮機11を停止させているので、実質的に除霜運転を含めた各種運転を許可しない決定をしていることになる。また、空調システムがOFF、またはIGスイッチがOFFとなっている場合に、ステップS113では、圧縮機11を作動可能にしているので、実質的に除霜運転を許可すること決定をしている。従って、ステップS107とステップ113の決定処理が本発明の除霜許可決定手段に相当している。
【0135】
また、本実施形態では、除霜運転時における空調機器の作動音等をさらに低減させるために、ステップS12の送風ファン16aの稼働率を決定する制御処理でも対策を施している。
【0136】
簡単に説明すると、ステップS12の送風ファン16aの稼働率を決定する制御処理では、空調システムがONおよびIGスイッチがONとなっており、A/Cスイッチ60bがOFFとなっている場合には、A/Cスイッチ60bがONされている場合に比べて、除霜運転時の送風ファン16aの稼働率を低下させている。
【0137】
これによれば、除霜運転時における圧縮機11および室外熱交換器16の送風ファン16aといった空調機器の作動音等をより低減させることができるので、乗員に車両の故障と誤解を与えてしまうことを充分に抑制することができる。
【0138】
本実施形態の車両用空調装置1は、以上の如く制御されるので、制御ステップS6にて選択された運転モードに応じて以下のように作動する。
【0139】
(a)冷房モード(COOLサイクル:図1参照)
冷房モードでは、空調制御装置50が全ての電磁弁を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と第1三方継手15の1つの冷媒流入出口との間を接続し、低圧電磁弁17が閉弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が閉弁する。
【0140】
これにより、図1の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→第1三方継手15→室外熱交換器16→第2三方継手19→高圧電磁弁20→第2逆止弁22→温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0141】
この冷房モードの冷媒回路では、電気式三方弁13から第1三方継手15へ流入した冷媒は、低圧電磁弁17が閉弁しているので低圧電磁弁17側へ流出することはない。また、室外熱交換器16から第2三方継手19へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので熱交換器遮断電磁弁21側へ流出することはない。また、温度式膨張弁27の可変絞り機構部27bから流出した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので除湿電磁弁24側へ流出することはない。さらに、温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって第2逆止弁22側に流出することはない。
【0142】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却され、さらに、室外熱交換器16にて外気と熱交換して冷却され、温度式膨張弁27にて減圧膨張される。温度式膨張弁27にて減圧された低圧冷媒は室内蒸発器26へ流入し、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却される。
【0143】
この際、前述の如くエアミックスドア38の開度が調整されるので、室内蒸発器26にて冷却された送風空気の一部(または全部)が冷風バイパス通路34から混合空間35へ流入し、室内蒸発器26にて冷却された送風空気の一部(または全部)が加熱用冷風通路33へ流入してヒータコア36、室内凝縮器12、PTCヒータ37を通過する際に再加熱されて混合空間35へ流入する。
【0144】
これにより、混合空間35にて混合されて車室内へ吹き出す送風空気の温度が所望の温度に調整されて、車室内の冷房を行うことができる。なお、冷房モードでは、送風空気の除湿能力も高いが、暖房能力は殆ど発揮されない。
【0145】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、温度式膨張弁27の感温部27aを介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0146】
(b)暖房モード(HOTサイクル:図2参照)
暖房モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、高圧電磁弁20、低圧電磁弁17を通電状態とし、残りの電磁弁21、24を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が閉弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が閉弁する。
【0147】
これにより、図2の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→熱交換器遮断電磁弁21→第2三方継手19→室外熱交換器16→第1三方継手15→低圧電磁弁17→第1逆止弁18→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0148】
この暖房モードの冷媒回路では、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので除湿電磁弁24側へ流出することはない。また、熱交換器遮断電磁弁21から第2三方継手19へ流入した冷媒は、高圧電磁弁20が閉弁しているので高圧電磁弁20側へ流出することはない。また、室外熱交換器16から第1三方継手15へ流入した冷媒は、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続しているので電気式三方弁13側へ流出することはない。第1逆止弁18から第5三方継手28へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので温度式膨張弁27側へ流出することはない。
【0149】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて送風機32から送風された送風空気と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。この際、エアミックスドア38の開度が調整されるので、冷房モードと同様に、混合空間35にて混合されて車室内へ吹き出す送風空気の温度が所望の温度に調整されて、車室内の暖房を行うことができる。なお、暖房モードでは、送風空気の除湿能力は発揮されない。
【0150】
また、室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧されて室外熱交換器16へ流入する。室外熱交換器16へ流入した冷媒は、送風ファン16aから送風された車室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器16から流出した冷媒は、低圧電磁弁17、第1逆止弁18等を介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0151】
(c)第1除湿モード(DRY_EVAサイクル:図3参照)
第1除湿モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、低圧電磁弁17、熱交換器遮断電磁弁21および除湿電磁弁24を通電状態とし、高圧電磁弁20を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が閉弁し、除湿電磁弁24が開弁する。
【0152】
これにより、図3の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→除湿電磁弁24→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0153】
この第1除湿モードの冷媒回路では、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒は、熱交換器遮断電磁弁21が閉弁しているので熱交換器遮断電磁弁21側へ流出することはない。また、除湿電磁弁24から第4三方継手25へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b側へ流出することはない。また、温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒は、第1逆止弁18の作用によって第1逆止弁18側へ流出することはない。
【0154】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧されて室内蒸発器26へ流入する。
【0155】
室内蒸発器26へ流入した低圧冷媒は、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却されて除湿される。従って、室内蒸発器26にて冷却されて除湿された送風空気は、ヒータコア36、室内凝縮器12、PTCヒータ37を通過する際に再加熱されて、混合空間35から車室内へ吹き出される。すなわち、車室内の除湿を行うことができる。なお、第1除湿モードでは、送風空気の除湿能力を発揮できるが、暖房能力は小さい。
【0156】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、温度式膨張弁27の感温部27aを介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0157】
(d)第2除湿モード(DRY_ALLサイクル:図4参照)
第2除湿モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24を通電状態とし、残りの電磁弁20、21を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が開弁する。
【0158】
これにより、図4の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→熱交換器遮断電磁弁21→第2三方継手19→室外熱交換器16→第1三方継手15→低圧電磁弁17→第1逆止弁18→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環するとともに、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→除湿電磁弁24→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0159】
つまり、第2除湿モードでは、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒が熱交換器遮断電磁弁21側および除湿電磁弁24側の双方に流出して、第1逆止弁18から第5三方継手28へ流入した冷媒および温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒の双方が第5三方継手28にて合流してアキュムレータ29側へ流出する。
【0160】
なお、この第2除湿モードの冷媒回路では、室外熱交換器16から第1三方継手15へ流入した冷媒は、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続しているので電気式三方弁13側へ流出することはない。また、除湿電磁弁24から第4三方継手25へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b側へ流出することはない。
【0161】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧された後、第3三方継手23にて分岐されて室外熱交換器16および室内蒸発器26へ流入する。
【0162】
室外熱交換器16へ流入した冷媒は、送風ファン16aから送風された車室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器16から流出した冷媒は、低圧電磁弁17、第1逆止弁18等を介して、第5三方継手28へ流入する。室内蒸発器26へ流入した低圧冷媒は、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却されて除湿される。
【0163】
従って、室内蒸発器26にて冷却されて除湿された送風空気は、ヒータコア36、室内凝縮器12、PTCヒータ37を通過する際に再加熱されて、混合空間35から車室内へ吹き出される。この際、第2除湿モードでは、第1除湿モードに対して、室外熱交換器16にて吸熱した熱量を室内凝縮器12にて放熱することができるので、送風空気を第1除湿モードよりも高温に加熱できる。すなわち、第2除湿モードでは、高い暖房能力を発揮させながら除湿能力も発揮させる除湿暖房を行うことができる。
【0164】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、第5三方継手28へ流入して室外熱交換器16から流出した冷媒と合流し、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0165】
以上のように、本実施形態の車両用空調装置1では、空調システムがOFF、またはIGスイッチがOFFされている場合には、今回の圧縮機11の回転数fnをゼロ回転に決定する。つまり、少なくとも車室内の空調を行わない場合(空調システムがOFFの場合)には、圧縮機11を強制的に作動させないことで、除霜運転等の乗員が意図しない空調作動を行わないようにしている。
【0166】
これにより、空調システムのOFF時等に除霜運転等の乗員が意図しない空調作動による作動音等が生じてしまうことを抑制できるので、除霜運転を行う際に乗員に車両の故障と誤解を与えてしまうことを抑制することができる。
【0167】
また、乗員がA/Cスイッチ60bをOFFしている場合、乗員がA/Cスイッチ60bをONしている場合に比べて、除霜運転時の圧縮機11の吐出能力(回転数)および室外熱交換器16の送風ファン16aの稼働率が低下するようにしている。これにより、除霜運転時の圧縮機11および送風ファン16aといった空調機器の作動音等を低減させることができ、乗員に車両の故障と誤解を与えてしまうことを抑制することができる。
【0168】
さらに、車室内の空調を行う場合には、A/Cスイッチ60bがOFFの場合でも、除霜運転を行なうので、A/Cスイッチ60bをOFFした場合に除霜運転を行なわない車両用空調装置に比べて、室外熱交換器16の着霜による冷凍サイクル10の停止頻度を低減することができる。
【0169】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図11に基づいて説明する。ここで、図11は、本実施形態のサイクルを決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。なお、本実施形態では、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0170】
本実施形態では、車室内の除湿を行う際に乗員の意向が反映されない(乗員が意図しない)空調作動を抑制するために、ステップS6(図6参照)の制御処理において対策を施している。
【0171】
図11に示すように、ステップS61では、現在設定されているサイクル(運転モード)が、COOLサイクル(冷房モード)か否かを判定する。判定の結果、COOLサイクルと判定された場合、ステップS62にてCOOLサイクルに決定し、COOLサイクルと判定されなかった場合、ステップS63に進む。
【0172】
ステップS63では、A/Cスイッチ60bがONされているか否か、すなわち乗員の操作により圧縮機11の作動がON状態に設定されているか否かを判定する。
【0173】
ステップS63にてA/Cスイッチ60bがONされていると判定された場合、ステップS64に進み、窓曇り判定を行う。本実施形態の窓曇り判定では、ステップS4(図6参照)にて湿度センサ、窓ガラス近傍温度センサ、および窓ガラス表面温度センサで検出した検出値に基づいて算出された窓ガラス表面の相対湿度RHWが所定基準値(例えば、100)より大きいか否かを判定する。ステップS64にて相対湿度RHWが所定基準値より大きいと判定された場合には、窓曇りの可能性があると判断してステップS65に進む。
【0174】
ステップS65では、図中に示す制御マップに基づいて、除湿の必要度合いを決定している。ここで、除湿の必要度合いは、室内蒸発器26の定常時の蒸発器温度Tec(通常は2℃程度)から実際に蒸発器温度センサ56にて検出した蒸発器温度Teを減算した温度差ΔT(=2−Te)に基づいて決定している。なお、定常時の蒸発器温度Tecから実際の蒸発器温度Teを減算した温度差ΔTが大きいほど室内蒸発器26の除湿能力が高くなるため、除湿の必要度合いが小さく、温度差ΔTが小さいほど除湿能力が低いため、除湿の必要度合いが大きくなる。
【0175】
そこで、温度差ΔTがt1(例えば0.5)よりも小さくなった場合、除湿する必要が「有り」とする。また、温度差ΔTがt2(例えば1.0)よりも大きくなった場合、またはt3(例えば1.5)よりも小さくなった場合に除湿する必要が「小さい」とする。また、温度差ΔTがt4(例えば2.0)よりも大きくなった場合、除湿する必要が「無し」とする。
【0176】
そして、ステップS65にて、除湿する必要が「有り」とした場合、ステップS66にてサイクル(運転モード)を暖房能力に対して除湿能力を優先するDRY_EVAサイクル(第1除湿モード)に決定する。
【0177】
また、ステップS65にて、除湿する必要が「小さい」とした場合、ステップS67にてサイクル(運転モード)を除湿能力に対して暖房能力を優先するDRY_ALLサイクル(第2除湿モード)に決定する。
【0178】
また、ステップS65にて除湿する必要が「無し」とした場合、ステップS68にてサイクル(運転モード)を暖房能力が高いHOTサイクル(暖房モード)に決定する。この場合、室内蒸発器26の温度が充分低いので、車室内へ送風される空気は室内蒸発器26にて除湿冷却された後に室内凝縮器12等にて加熱されることになる。
【0179】
一方、ステップS63にてA/Cスイッチ60bがOFFと判定された場合、サイクルを暖房能力が高いHOTサイクル(暖房モード)に決定する。つまり、乗員がA/Cスイッチ60bをOFFすることで、DRY_EVAサイクル(第1除湿モード)およびDRY_ALLサイクル(第2除湿モード)よりも消費動力の小さいHOTサイクル(暖房モード)を選択することができる。従って、本実施形態のA/Cスイッチ60bは、本発明の省動力優先設定手段に相当している。さらに、ステップS63の判定処理が、本発明の除湿暖房許可判定手段に相当している。
【0180】
以上説明した本実施形態によれば、乗員がA/Cスイッチ60bをOFFすることで、DRY_EVAサイクル(第1除湿モード)およびDRY_ALLサイクル(第2除湿モード)よりも消費動力の小さいHOTサイクル(暖房モード)を選択することができる。これにより、例えば、乗員がA/Cスイッチ60bをOFFすることで、車両用空調装置1の省動力化を優先させたい乗員の意向を空調作動に反映させることができる。また、A/Cスイッチ60bをOFFすることで、空調機器の省動力化よりも車室内の除湿を優先させたい乗員の意向を空調作動に反映させることが可能となる。
【0181】
従って、車両の省動力化を優先させたい乗員とそうでない乗員の意向を空調作動に反映させることができる。ひいては、乗員が意図しない空調作動によって乗員に違和感を与えてしまうことを抑制できる。
【0182】
また、本実施形態では、A/Cスイッチ60bにより省動力優先設定手段を構成しており、既存のA/Cスイッチ60bの操作によって消費動力の小さいHOTサイクル(暖房モード)を選択することができる。そのため、省動力優先設定手段として新たにスイッチを追加する必要がなく、消費動力の小さいHOTサイクル(暖房モード)を選択することができる。なお、省動力優先設定手段としては、A/Cスイッチ60bに限らず、他の既存のスイッチを代用してもよい。
【0183】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図12に基づいて説明する。ここで、図12は、本実施形態のサイクルを決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。本実施形態では、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0184】
本実施形態では、除霜運転時に車室内を暖房する際に乗員の意向が反映されない(乗員が意図しない)空調作動を抑制するために、ステップS6(図6参照)の制御処理において対策を施している。
【0185】
図12に示すように、ステップS61では、現在設定されている運転モードが、COOLサイクル(冷房モード)か否かを判定する。判定の結果、COOLサイクルと判定された場合、ステップS611にて除霜運転時のCOOLサイクル(冷房モード)か否かを判定する。具体的には、ステップS16(図6参照)の制御処理で設定される除霜フラグがONとなっているか否かを判定する。上述のようにステップS16(図6参照)の制御処理では、除霜運転による冷房モードの場合に除霜フラグをONし、通常の冷房モードの場合に除霜フラグをOFFする。
【0186】
ステップS611にて除霜運転によるCOOLサイクル(冷房モード)と判定されなかった場合、ステップS62にてCOOLサイクルに決定する。一方、ステップS611にて除霜運転による冷房モードと判定された場合、ステップS612に進む。そして、ステップS612にてエコスイッチ60gがONされているか否かを判定する。
【0187】
ここで、エコスイッチ60gは、乗員の操作によって車両の省燃費を優先するか否かを設定するものである。つまり、エコスイッチ60gがONされている場合、乗員は車両の省燃費を優先したいと判断できる。逆に、エコスイッチ60gがOFFされている場合、乗員は車両の燃費が悪化したとしても特に違和感を抱かないと判断できる。
【0188】
ステップS612にてエコスイッチ60gがONされていると判定されなかった場合、ステップS613にてエンジン冷却水温度Twが予め定めた基準冷却水温度(本実施形態では目標吹出空気温度TAO)より高い温度であるか否かを判定する。なお、基準冷却水温度は、目標吹出空気温度TAOに限定されるものではなく、例えば、実験等により得られた最適な冷却水温度を採用することができる。
【0189】
ステップS613にてエンジン冷却水温度Twが目標吹出空気温度TAOより低い温度と判定された場合、ステップS614にて、エンジン制御装置に対してエンジンEGを作動するように要求信号を出力する。そして、ステップS62にてCOOLサイクルに決定する。ここで、エンジンEGを作動させた場合、エンジン冷却水温度Twが上昇するので高い暖房性能を得ることができる。
【0190】
なお、エンジン冷却水温度Twが目標吹出空気温度TAO以上であれば、エンジン冷却水による車室内の暖房が可能と判断できるので、ステップS62にてCOOLサイクルに決定する。
【0191】
一方、ステップS612にてエコスイッチ60gがONされていると判定された場合、ステップS615にてPTCヒータ37を作動(ON)させ、ステップS62にてCOOLサイクルに決定する。ここで、PTCヒータ37を利用した車室内の暖房は、ステップS614にてエンジンEGの要求信号を出力した場合の車室内の暖房に比べて、暖房能力が低くなってしまうが、燃料の消費、排気ガスの排出量を低減することができる。
【0192】
つまり、エコスイッチ60gをOFFした場合には、エンジン冷却水を利用して車室内に送風する空気を加熱して車室内を暖房する加熱モード(第1加熱モード)を選択することができる。また、エコスイッチ60gをONした場合には、PTCヒータ37を利用して車室内に送風する空気を加熱して車室内を暖房する加熱モード(第2加熱モード)を選択することができる。従って、エコスイッチ60gが本発明の加熱モード選択手段を構成している。
【0193】
ここで、ステップS61の判定の結果、COOLサイクル(冷房モード)と判定されなかった場合、ステップS65に進み、窓曇り判定を行う。なお、ステップS65〜ステップS68までの処理は第2実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0194】
以上説明した本実施形態によれば、乗員がエコスイッチ60gを操作することで、エンジン冷却水を利用した加熱モード(第1加熱モード)とPTCヒータ37を利用した加熱モード(第2加熱モード)とを選択可能にすることができる。例えば、乗員がエコスイッチ60gをONした場合には、エンジンEGを作動させることなくPTCヒータ37を利用した車室内を暖房できるので、車両の省燃費を優先させたい乗員の意向を空調作動に反映させることができる。また、乗員がエコスイッチ60gをOFFした場合には、エンジンEGを作動させる等して車室内を暖房できるので、車室内の暖房を優先させたい乗員の意向を空調作動に反映させることも可能となる。
【0195】
従って、車両の省燃費を優先させたい乗員とそうでない乗員の意向を空調作動に反映させることができる。ひいては、乗員が意図しない空調作動によって乗員に違和感を与えてしまうことを抑制できる。
【0196】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。例えば、以下のように種々変形可能である。
【0197】
(1)上述の第1実施形態では、A/Cスイッチ60bがOFFされた場合における除霜運転時の圧縮機11の回転数(吐出能力)が低下するように制限するとともに、室外熱交換器16の送風ファン16aの稼働率を低下させているが、これに限定されない。例えば、圧縮機11の回転数および送風ファン16aの稼働率のいずれか一方が低下するようにしてもよい。
【0198】
(2)上述の第1実施形態では、ステップS106(空調判定手段)にて空調システムがOFFまたはIGスイッチがOFFされた場合には、除霜運転を含む各種運転を行なわないとしているが、少なくとも除霜運転を行なわない構成とすることができる。
【0199】
(3)上述の第1実施形態では、圧縮機11の仮回転数fn1をファジー推論に基づいて前回の圧縮機11の回転数に対する回転数変化量を算出しているが、これに限定されず、他の方法にて圧縮機11の仮回転数fn1を算出してもよい。
【0200】
(4)上述の第2実施形態では、A/Cスイッチ60bにより省動力優先設定手段を構成しているが、これに限らず、例えばエコスイッチ60g等の他の既存のスイッチを代用してもよい。
【0201】
(5)上述の各実施形態は、可能な限り適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0202】
1 車両用空調装置
10 冷凍サイクル
11 圧縮機
12 室内凝縮器(室内熱交換器、加熱用室内熱交換器)
16 室外熱交換器
26 室内蒸発器(室内熱交換器、冷却用室内熱交換器)
50 空調制御装置
50a 吐出能力制御手段
60b A/Cスイッチ(圧縮機作動設定手段、省動力優先設定手段)
60g エコスイッチ(加熱モード選択手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷房モードと暖房モードを切り替え可能な冷凍サイクルを備える車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、駆動源として駆動用モータを備える車両(電気自動車)の空調装置では、車室内の空調モードを冷房モードと暖房モードとに切り替え可能な冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)が広く採用されている。
【0003】
この種の冷凍サイクルは、冷房モード時に室内熱交換器で圧縮機に吸入される冷媒を蒸発させて車室内に送風する空気を冷却し(冷房運転)、暖房モード時に室内熱交換器で圧縮機から吐出された冷媒を放熱させて車室内に送風する空気を加熱している(暖房運転)。
【0004】
ところが、車両用空調装置では、低外気温時において暖房運転を行うと、室外熱交換器の表面に霜が付着しやすくなる。室外熱交換器に霜が付着したまま暖房運転を継続すると、室外熱交換器の吸熱効率が悪化してしまうため、暖房運転から冷房運転に切り替えて圧縮機から吐出した高温の冷媒を室外熱交換器で放熱させて霜を除去する除霜運転を行なっている。
【0005】
但し、除霜運転では、暖房運転時であっても車室内に冷風が送風されてしまう。特に、車両の起動時等に除霜運転が開始されると、車室内の温度が低い状態で冷風が送風されてしまう。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1では、車両用空調装置において車両のIGスイッチ(イグニッションスイッチ)をONした状態で冷凍サイクルの除霜運転を開始すると、その後IGスイッチをOFFにしたとしても、除霜が完了するまで除霜運転を継続させている。このように、一旦開始された除霜運転は除霜が完了するまで継続させることで、車両起動時(再度IGスイッチをONした時)に除霜運転が行なわれて車室内に冷風が送風されてしまうことを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平6−61526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、冷房モードと暖房モードとを切り替え可能な冷凍サイクルを備える車両用空調装置では、除霜運転以外にも、暖房運転における空調機器の省動力化を図る省動力運転、車両の省燃費化を図る省燃費運転等が行なわれる。
【0009】
これらの各種運転時には、単に車室内の冷房または暖房に必要な空調機器の作動だけではなく、乗員が意図しない空調機器の作動が行われることで、乗員に違和感を与えてしまうといった問題がある。
【0010】
例えば、特許文献1では、車両のIGスイッチをOFFした状態でも除霜運転を継続しているが、IGスイッチをOFFしたにも拘らず、空調機器が作動するため、その作動音等によって乗員に車両の故障と誤解(違和感)を与えてしまう虞がある。
【0011】
また、低外気温で湿度が高い条件で冷凍サイクルの暖房運転を行うと、車両のフロント窓ガラス等に窓曇りが発生しやすくなるため、一旦送風空気を冷却して除湿した後に、再加熱するといった除湿機能と暖房機能と兼ねた除湿暖房運転が行なわれている。
【0012】
しかし、除湿暖房運転を行う場合には、一旦送風空気を冷却することになるので、通常の暖房運転時よりも暖房能力が必要となり暖房時の空調機器の消費動力が大きくなりやすい。これは、車室内の空調よりも空調機器の省動力化を優先させたい乗員にとっては、自己の意向が反映されない(意図しない)空調作動が行われることになるので、乗員が違和感を抱く一因となってしまう。
【0013】
本発明は上記点に鑑みて、乗員が意図しない空調作動によって乗員に違和感を与えてしまうことを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)、車室内へ送風される送風空気と冷媒とを熱交換させる冷却用室内熱交換器(26)および加熱用室内熱交換器(12)、室外空気と冷媒とを熱交換させる室外熱交換器(16)を有し、冷却用室内熱交換器(26)にて冷媒を蒸発させて送風空気を除湿冷却するとともに、加熱用室内熱交換器(12)にて冷媒を放熱させて送風空気を加熱する除湿暖房モードと、加熱用室内熱交換器(12)にて冷媒を放熱させて送風空気を加熱する暖房モードとを切り替え可能に構成された冷凍サイクル(10)と、乗員の操作により圧縮機(11)を含む空調機器の省動力化を優先するか否かを設定するための省動力優先設定手段(60b)と、暖房モードから除湿暖房モードへの切り替えを許可するか否かを判定する除湿暖房許可判定手段(S63)と、を備え、除湿暖房許可判定手段(S63)は、省動力優先設定手段(60b)で省動力化を優先する設定がされていない場合に、除湿暖房モードへの切り替えを許可しないことを特徴とする。
【0015】
これによれば、乗員の省動力優先設定手段(60b)の操作により、乗員が除湿を行わない暖房モードと除湿を行う除湿暖房モードとを選択可能にすることができる。例えば、乗員が省動力優先設定手段(60b)で省動力化を優先する設定を行うことで、除湿暖房モードよりも空調機器の消費動力が小さい暖房モードによって車室内を暖房でき、空調機器の省動力化を優先させたい乗員の意向を空調作動に反映させることができる。また、乗員が省動力優先設定手段(60b)で省動力化を優先する設定を行わないことで、空調機器の省動力化よりも車室内の除湿を優先させたい乗員の意向を空調作動に反映させることも可能となる。
【0016】
従って、空調機器の省動力化を優先させたい乗員とそうでない乗員の意向を空調作動に反映させることができる。ひいては、乗員が意図しない空調作動によって乗員に違和感を与えてしまうことを抑制できる。
【0017】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す全体構成図である。
【図2】第1実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す全体構成図である。
【図3】第1実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す全体構成図である。
【図4】第1実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す全体構成図である。
【図5】第1実施形態に係る車両用空調装置の電気制御部を示すブロック図である。
【図6】第1実施形態に係る車両用空調装置の空調制御の概要を示すフローチャートである。
【図7】第1実施形態に係る電磁弁の作動を決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【図8】第1実施形態に係る圧縮機の回転数を決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【図9】冷房モード時の圧縮機の回転数変化量の算出方法を説明する説明図である。
【図10】暖房モード時の圧縮機の回転数変化量の算出方法を説明する説明図である。
【図11】第2実施形態に係るサイクルを決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【図12】第3実施形態に係るサイクルを決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
図1〜10により、本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態では、本発明の車両用空調装置を、車両の駆動手段として内燃機関(エンジン)EGおよび走行用電動モータ(駆動用モータ)を有する車両(いわゆるハイブリッド車両)に適用しており、エンジンEGの駆動時の排熱を利用して車室内を暖房可能に構成されている。図1〜4は、車両用空調装置1の全体構成図である。
【0020】
この車両用空調装置1は、車室内を冷房する冷房モード(COOLサイクル)、車室内を暖房する暖房モード(HOTサイクル)、車室内を除湿する第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)および第2除湿モード(DRY_ALLサイクル)の冷媒回路を切替可能に構成された蒸気圧縮式の冷凍サイクル10を備えている。図1〜4は、それぞれ、冷房モード、暖房モード、第1、第2除湿モード時の冷媒の流れを実線矢印で示している。
【0021】
ここで、第1除湿モードは、暖房能力に対して除湿能力を優先する除湿モードであり、第2除湿モードは、除湿能力に対して暖房能力を優先する除湿モードである。従って、第1除湿モードを低温除湿モード、第2除湿モードを高温除湿モード、第1、第2除湿モードのそれぞれを除湿暖房モードと表現することができる。なお、第1、第2除湿モードは、基本的に車室内を暖房する際に行なわれる運転モードであるため、車室内を冷房する冷房モードと車室内を暖房する運転モードとを区別する意味で、単に暖房モードと表現することもできる。
【0022】
冷凍サイクル10は、圧縮機11、室内熱交換器としての室内凝縮器12および室内蒸発器26、冷媒を減圧膨張させる減圧手段としての温度式膨張弁27および固定絞り14、並びに、冷媒回路切替手段としての複数(本実施形態では5つ)の電磁弁13、17、20、21、24等を備えている。
【0023】
また、この冷凍サイクル10では、冷媒として通常のフロン系冷媒を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。さらに、この冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されており、この冷凍機油は冷媒とともにサイクルを循環している。
【0024】
圧縮機11は、エンジンルーム内に配置され、冷凍サイクル10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するもので、吐出容量が固定された固定容量型圧縮機構11aを電動モータ11bにて駆動する電動圧縮機として構成されている。固定容量型圧縮機構11aとしては、具体的に、スクロール型圧縮機構、ベーン型圧縮機構等の各種圧縮機構を採用できる。
【0025】
電動モータ11bは、インバータ61から出力される交流電圧によって、その作動(回転数)が制御される交流モータである。また、インバータ61は、後述する空調制御装置50から出力される制御信号に応じた周波数の交流電圧を出力する。そして、この回転数制御によって、圧縮機11の冷媒吐出能力が変更される。従って、電動モータ11bは、圧縮機11の吐出能力変更手段を構成している。
【0026】
圧縮機11の吐出側には、室内凝縮器12の冷媒入口側が接続されている。室内凝縮器12は、車両用空調装置1の室内空調ユニット30において車室内へ送風される送風空気の空気通路を形成するケーシング31内に配置されて、その内部を流通する冷媒と後述する室内蒸発器26通過後の送風空気とを熱交換させることで送風空気を加熱する加熱用室内熱交換器(暖房用熱交換器)である。なお、室内空調ユニット30の詳細については後述する。
【0027】
室内凝縮器12の冷媒出口側には、電気式三方弁13が接続されている。この電気式三方弁13は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段である。
【0028】
より具体的には、電気式三方弁13は、電力が供給される通電状態では、室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続する冷媒回路に切り替え、電力の供給が停止される非通電状態では、室内凝縮器12の冷媒出口側と第1三方継手15の1つの冷媒流入出口との間を接続する冷媒回路に切り替える。
【0029】
固定絞り14は、暖房モード、第1および第2除湿モード時に、電気式三方弁13から流出した冷媒を減圧膨張させる暖房除湿用の減圧手段である。この固定絞り14としては、キャピラリチューブ、オリフィス等を採用できる。もちろん、暖房除湿用の減圧手段として、空調制御装置50から出力される制御信号によって絞り通路面積が調整される電気式の可変絞り機構を採用してもよい。固定絞り14の冷媒出口側には、後述する第3三方継手23の冷媒流入出口が接続されている。
【0030】
第1三方継手15は、3つの冷媒流入出口を有し、冷媒流路を分岐する分岐部として機能するものである。このような三方継手は、冷媒配管を接合して構成してもよいし、金属ブロックや樹脂ブロックに複数の冷媒通路を設けて構成してもよい。また、第1三方継手15の別の冷媒流入出口には、室外熱交換器16の一方の冷媒流入出口が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、低圧電磁弁17の冷媒入口側が接続されている。
【0031】
低圧電磁弁17は、冷媒流路を開閉する弁体部と、弁体部を駆動するソレノイド(コイル)を有し、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段である。より具体的には、低圧電磁弁17は、通電状態で開弁して非通電状態で閉弁する、いわゆるノーマルクローズ型の開閉弁として構成されている。
【0032】
低圧電磁弁17の冷媒出口側には、第1逆止弁18を介して、後述する第5三方継手28の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第1逆止弁18は、低圧電磁弁17側から第5三方継手28側へ冷媒が流れることのみを許容している。
【0033】
室外熱交換器16は、エンジンルーム内に配置されて、内部を流通する冷媒と送風ファン16aから送風された車室外空気(外気)とを熱交換させるものである。送風ファン16aは、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。なお、送風ファン16aが本発明の送風手段に相当している。
【0034】
さらに、本実施形態の送風ファン16aは、室外熱交換器16のみならず、エンジンEGの冷却水を放熱させるラジエータ(図示せず)にも室外空気を送風している。具体的には、送風ファン16aから送風された車室外空気は、室外熱交換器16→ラジエータの順に流れる。
【0035】
また、図1〜4の破線で示す冷却水回路には、冷却水を循環させるための図示しない冷却水ポンプが配置されている。この冷却水ポンプは、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(冷却水循環量)が制御される電動式の水ポンプである。
【0036】
室外熱交換器16の他方の冷媒流入出口には、第2三方継手19の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第2三方継手19の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第2三方継手19の別の冷媒流入出口には、高圧電磁弁20の冷媒入口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、熱交換器遮断電磁弁21の一方の冷媒流入出口が接続されている。
【0037】
高圧電磁弁20および熱交換器遮断電磁弁21は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段であり、その基本的構成は、低圧電磁弁17と同様である。但し、高圧電磁弁20および熱交換器遮断電磁弁21は、通電状態で閉弁して非通電状態で開弁する、いわゆるノーマルオープン型の開閉弁として構成されている。
【0038】
高圧電磁弁20の冷媒出口側には、第2逆止弁22を介して、後述する温度式膨張弁27の絞り機構部入口側が接続されている。この第2逆止弁22は、高圧電磁弁20側から温度式膨張弁27側へ冷媒が流れることのみを許容している。
【0039】
熱交換器遮断電磁弁21の他方の冷媒流入出口には、第3三方継手23の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第3三方継手23の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第3三方継手23の別の冷媒流入出口には、前述の如く、固定絞り14の冷媒出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、除湿電磁弁24の冷媒入口側が接続されている。
【0040】
除湿電磁弁24は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段であり、その基本的構成は、低圧電磁弁17と同様である。さらに、除湿電磁弁24もノーマルクローズ型の開閉弁として構成されている。そして、本実施形態の冷媒回路切替手段は、電気式三方弁13、低圧電磁弁17、高圧電磁弁20、熱交換器遮断電磁弁21、除湿電磁弁24の複数(5つ)の電磁弁によって構成される。
【0041】
除湿電磁弁24の冷媒出口側には、第4三方継手25の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第4三方継手25の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第4三方継手25の別の冷媒流入出口には、温度式膨張弁27の絞り機構部出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、室内蒸発器26の冷媒入口側が接続されている。
【0042】
室内蒸発器26は、室内空調ユニット30のケーシング31内のうち、室内凝縮器12の送風空気流れ上流側に配置されて、その内部を流通する冷媒と送風空気とを熱交換させて送風空気を除湿冷却する冷却用室内熱交換器である。
【0043】
室内蒸発器26の冷媒出口側には、温度式膨張弁27の感温部入口側が接続されている。温度式膨張弁27は、絞り機構部入口から内部へ流入した冷媒を減圧膨張させて絞り機構部出口から外部へ流出させる冷房用の減圧手段である。
【0044】
より具体的には、本実施形態では、温度式膨張弁27として、室内蒸発器26出口側冷媒の温度および圧力に基づいて室内蒸発器26出口側冷媒の過熱度を検出する感温部27aと、感温部27aの変位に応じて室内蒸発器26出口側冷媒の過熱度が予め定めた所定範囲となるように絞り通路面積(冷媒流量)を調整する可変絞り機構部27bとを1つのハウジング内に収容した内部均圧型膨張弁を採用している。
【0045】
温度式膨張弁27の感温部出口側には、第5三方継手28の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第5三方継手28の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第5三方継手28の別の冷媒流入出口には、前述の如く、第1逆止弁18の冷媒出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、アキュムレータ29の冷媒入口側が接続されている。
【0046】
アキュムレータ29は、第5三方継手28から、その内部に流入した冷媒の気液を分離して、余剰冷媒を蓄える低圧側気液分離器である。さらに、アキュムレータ29の気相冷媒出口には、圧縮機11の冷媒吸入口が接続されている。
【0047】
次に、室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されて、その外殻を形成するケーシング31内に送風機32、前述の室内蒸発器26、室内凝縮器12、ヒータコア36、PTCヒータ37等を収容したものである。
【0048】
ケーシング31は、車室内に送風される送風空気の空気通路を形成しており、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。ケーシング31内の送風空気流れ最上流側には、内気(車室内空気)と外気(車室外空気)とを切替導入する図示しない内外気切替箱が配置されている。
【0049】
より具体的には、内外気切替箱には、ケーシング31内に内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口が形成されている。さらに、内外気切替箱の内部には、内気導入口および外気導入口の開口面積を連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる内外気切替ドアが配置されている。
【0050】
従って、内外気切替ドアは、ケーシング31内に導入される内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる吸込口モードを切り替える風量割合変更手段を構成する。より具体的には、内外気切替ドアは、内外気切替ドア用の電動アクチュエータ62によって駆動され、この電動アクチュエータ62は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0051】
また、吸込口モードとしては、内気導入口を全開とするとともに外気導入口を全閉としてケーシング31内へ内気を導入する内気モード、内気導入口を全閉とするとともに外気導入口を全開としてケーシング31内へ外気を導入する外気モード、さらに、内気モードと外気モードとの間で、内気導入口および外気導入口の開口面積を連続的に調整することにより、内気と外気の導入比率を連続的に変化させる内外気混入モードがある。
【0052】
内外気切替箱の空気流れ下流側には、内外気切替箱を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する送風機32が配置されている。この送風機32は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機であって、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(送風量)が制御される。
【0053】
送風機32の空気流れ下流側には、前述の室内蒸発器26が配置されている。さらに、室内蒸発器26の空気流れ下流側には、室内蒸発器26通過後の空気を流す加熱用冷風通路33、冷風バイパス通路34といった空気通路、並びに、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34から流出した空気を混合させる混合空間35が形成されている。
【0054】
加熱用冷風通路33には、室内蒸発器26通過後の空気を加熱するための加熱手段としてのヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37が、送風空気流れ方向に向かってこの順で配置されている。ヒータコア36は、車両走行用駆動力を出力するエンジンEGの冷却水と室内蒸発器26通過後の空気とを熱交換させて、室内蒸発器26通過後の空気を加熱する加熱用熱交換器(暖房用熱交換器)である。
【0055】
また、PTCヒータ37は、PTC素子(正特性サーミスタ)を有し、電力を供給されることによって発熱して、室内凝縮器12通過後の空気を加熱する電気ヒータである。なお、本実施形態のPTCヒータ37は、複数本(具体的には3本)設けられており、空調制御装置50が、通電するPTCヒータ37の本数を変化させることによって、複数のPTCヒータ37全体としての加熱能力が制御される。
【0056】
一方、冷風バイパス通路34は、室内蒸発器26通過後の空気を、ヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37を通過させることなく、混合空間35に導くための空気通路である。従って、混合空間35にて混合された送風空気の温度は、加熱用冷風通路33を通過する空気および冷風バイパス通路34を通過する空気の風量割合によって変化する。
【0057】
そこで、本実施形態では、室内蒸発器26の空気流れ下流側であって、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34の入口側に、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34へ流入させる冷風の風量割合を連続的に変化させるエアミックスドア38を配置している。
【0058】
従って、エアミックスドア38は、混合空間35内の空気温度(車室内へ送風される送風空気の温度)を調整する温度調整手段を構成する。より具体的には、エアミックスドア38は、エアミックスドア用の電動アクチュエータ63によって駆動され、この電動アクチュエータ63は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0059】
さらに、ケーシング31の送風空気流れ最下流部には、混合空間35から空調対象空間である車室内へ温度調整された送風空気を吹き出す吹出口(図示せず)が配置されている。この吹出口としては、具体的に、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス吹出口、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット吹出口、および、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ吹出口が設けられている。
【0060】
また、フェイス吹出口、フット吹出口、およびデフロスタ吹出口の空気流れ上流側には、それぞれ、フェイス吹出口の開口面積を調整するフェイスドア、フット吹出口の開口面積を調整するフットドア、デフロスタ吹出口の開口面積を調整するデフロスタドア(いずれも図示せず)が配置されている。
【0061】
これらのフェイスドア、フットドア、デフロスタドアは、吹出口モードを切替える吹出口モード切替手段を構成するものであって、図示しないリンク機構を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータ64に連結されて連動して回転操作される。なお、この電動アクチュエータ64も、空調制御装置50から出力される制御信号によってその作動が制御される。
【0062】
また、吹出口モードとしては、フェイス吹出口を全開してフェイス吹出口から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出すフェイスモード、フェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出すバイレベルモード、フット吹出口を全開するとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出すフットモード、およびフット吹出口およびデフロスタ吹出口を同程度開口して、フット吹出口およびデフロスタ吹出口の双方から空気を吹き出すフットデフロスタモードがある。
【0063】
さらに、乗員が後述する操作パネル60のスイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタ吹出口を全開してデフロスタ吹出口から車両フロント窓ガラス内面に空気を吹き出すデフロスタモードとすることもできる。
【0064】
なお、本実施形態の車両用空調装置1が適用されるハイブリッド車両は、車両用空調装置とは別に、図示しない電熱デフォッガを備えている。電熱デフォッガとは、車室内窓ガラスの内部あるいは表面に配置された電熱線であって、窓ガラスを加熱することで防曇あるいは窓曇り解消を行うものである。この電熱デフォッガについても空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動を制御できるようになっている。
【0065】
次に、図5により、本実施形態の電気制御部について説明する。空調制御装置50は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された圧縮機11の電動モータ11b用のインバータ61、冷媒回路切替手段を構成する各電磁弁13、17、20、21、24、送風ファン16a、送風機32、各種電動アクチュエータ62、63、64等の作動を制御する。
【0066】
なお、空調制御装置50は、上述した各種機器を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、本実施形態では、特に、圧縮機11の吐出能力変更手段である電動モータ11bの作動(冷媒吐出能力)を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を吐出能力制御手段50aとする。もちろん、吐出能力制御手段50aを空調制御装置50に対して別体で構成してもよい。
【0067】
また、空調制御装置50の入力側には、車室内温度Trを検出する内気センサ51、外気温Tamを検出する外気センサ52(外気温検出手段)、車室内の日射量Tsを検出する日射センサ53、圧縮機11吐出冷媒温度Tdを検出する吐出温度センサ54(吐出温度検出手段)、圧縮機11吐出冷媒圧力Pdを検出する吐出圧力センサ55(吐出圧力検出手段)、室内蒸発器26からの吹出空気温度(蒸発器温度)Teを検出する蒸発器温度センサ56(蒸発器温度検出手段)、第1三方継手15と低圧電磁弁17との間を流通する冷媒の温度Tsiを検出する吸入温度センサ57、エンジン冷却水温度Twを検出する冷却水温度センサ、車室内の窓ガラス近傍の車室内空気の相対湿度を検出する湿度センサ、窓ガラス近傍の車室内空気の温度を検出する窓ガラス近傍温度センサ、および窓ガラス表面温度を検出する窓ガラス表面温度センサ等のセンサ群の検出信号が入力される。
【0068】
なお、本実施形態の蒸発器温度センサ56は、具体的に室内蒸発器26の熱交換フィン温度を検出している。もちろん、蒸発器温度センサ56として、室内蒸発器26のその他の部位の温度を検出する温度検出手段を採用してもよいし、室内蒸発器26を流通する冷媒自体の温度を直接検出する温度検出手段を採用してもよい。また、湿度センサ、窓ガラス近傍温度センサ、および窓ガラス表面温度センサの検出値は、窓ガラス表面の相対湿度RHWを算出するために用いられる。
【0069】
さらに、空調制御装置50の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル60に設けられた各種空調操作スイッチ60a〜60gからの操作信号が入力される。
【0070】
各種空調操作スイッチとしては、具体的には、空調制御装置50をON状態にするか否かを設定する空調作動スイッチ60a、圧縮機11の作動をON状態(オン状態)に設定可能なエアコンスイッチ60b(以下、A/Cスイッチと呼ぶ。)、運転モードの切替スイッチ60c、吹出口モードの切替スイッチ60d、送風機32の風量設定スイッチ60e、車室内温度設定スイッチ60f、車両の省燃費を優先させる指令を出力するエコノミースイッチ60g(以下、エコスイッチと呼ぶ。)等が設けられている。
【0071】
ここで、A/Cスイッチ60bが本発明の圧縮機作動設定手段を構成している。なお、本実施形態では、A/Cスイッチ60bは、冷房モードに設定されている場合において圧縮機11の作動をON状態に設定することができる構成としている。但し、除霜運転による冷房モードや暖房モードに設定されている場合には、A/Cスイッチ60bのON/OFFに拘らず、圧縮機11は作動可能(ON状態)となっている。
【0072】
また、空調制御装置50の入力側には、車両の走行システムを作動させる図示しないイグニッションスイッチ(以下、IGスイッチと呼ぶ。)の操作信号が入力される。
【0073】
次に、図6により上記構成における本実施形態の作動を説明する。図6は、本実施形態の車両用空調装置1の制御処理の概要を示すフローチャートである。この制御処理は、車両の走行システムが停止している場合(IGスイッチがOFFされている場合)でも、バッテリから空調制御装置50に電力が供給されることによって実行される。
【0074】
まず、ステップS1では、プレ空調のスタートスイッチ、あるいは操作パネル60の空調作動スイッチ60aが投入(ON)されたか否かを判定する。そして、プレ空調のスタートスイッチ、あるいは空調作動スイッチ60aが投入されるとステップS2へ進む。
【0075】
なお、プレ空調とは、乗員が車両に乗り込む前に車室内の空調を開始する空調制御であって、プレ空調のスタートスイッチは、乗員が携帯する無線装置(リモコン)に設けられている。従って、乗員は車両から離れた場所から車両用空調装置1を始動させることができる。
【0076】
さらに、本実施形態の車両用空調装置1が適用されるハイブリッド車両では、バッテリに対して商用電源(外部電源)から電力を供給することによって、バッテリの充電を行うことができる。そこで、プレ空調は、車両が外部電源に接続されている場合は所定時間(例えば、30分間)だけ行われ、外部電源に接続されていない場合には、バッテリ残量が所定量以下となるまで行うようになっている。
【0077】
ステップS2では、フラグ、タイマ等の初期化、および上述した電動アクチュエータを構成するステッピングモータの初期位置合わせ等が行われる。次のステップS3では、操作パネル60の操作信号、IGスイッチの操作信号等を読み込んでステップS4へ進む。具体的な操作パネル60の操作信号としては、A/Cスイッチ60bの操作信号、エコスイッチ60gの操作信号、車室内温度設定スイッチ60fによって設定される車室内設定温度Tset、吹出口モードの切替スイッチ60dの選択信号、吸込口モードの選択信号、送風機32の風量の設定信号等がある。
【0078】
ステップS4では、空調制御に用いられる車両環境状態の信号、すなわち上述のセンサ群51〜57の検出信号を読み込んで、ステップS5へ進む。ステップS5では、車室内吹出空気の目標吹出温度TAOを算出する。さらに、暖房モードでは、暖房用熱交換器目標温度を算出する。目標吹出温度TAOは、下記数式F1により算出される。TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C…(F1)
ここで、Tsetは車室内温度設定スイッチ60fによって設定された車室内設定温度、Trは内気センサ51によって検出された車室内温度(内気温)、Tamは外気センサ52によって検出された外気温、Tsは日射センサ53によって検出された日射量である。Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
【0079】
また、暖房用熱交換器目標温度は、基本的には上述の数式F1にて算出される値となるが、消費電力の抑制のために数式F1にて算出されたTAOよりも低い値とする補正が行われる場合がある。
【0080】
続く、ステップS6〜S16では、空調制御装置50に接続された各種機器(空調機器)の制御状態が決定される。まず、ステップS6では、空調環境状態に応じて、冷房モード、暖房モード、第1除湿モード、第2除湿モードの選択およびPTC通電の有無の決定等が行われる。
【0081】
ステップS7では、送風機32により送風される空気の目標送風量を決定する。具体的には電動モータに印加するブロワモータ電圧をステップS4にて決定されたTAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。
【0082】
具体的には、本実施形態では、TAOの極低温域(最大冷房域)および極高温域(最大暖房域)でブロワモータ電圧を最大値付近の高電圧にして、送風機32の風量を最大風量付近に制御する。また、TAOが極低温域から中間温度域に向かって上昇すると、TAOの上昇に応じてブロワモータ電圧を減少して、送風機32の風量を減少させる。
【0083】
さらに、TAOが極高温域から中間温度域に向かって低下すると、TAOの低下に応じてブロワモータ電圧を減少して、送風機32の風量を減少させる。また、TAOが所定の中間温度域内に入ると、ブロワモータ電圧を最小値にして送風機32の風量を最小値にするようになっている。
【0084】
ステップS8では、吸込口モード、すなわち内外気切替箱の切替状態を決定する。この吸込口モードもTAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。本実施形態では、基本的に外気を導入する外気モードが優先されるが、TAOが極低温域となって高い冷房性能を得たい場合等に内気を導入する内気モードが選択される。さらに、外気の排ガス濃度を検出する排ガス濃度検出手段を設け、排ガス濃度が予め定めた基準濃度以上となったときに、内気モードを選択するようにしてもよい。
【0085】
ステップS9では、吹出口モードを決定する。この吹出口モードも、TAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。本実施形態では、TAOが低温域から高温域へと上昇するにつれて吹出口モードをフットモード→バイレベルモード→フェイスモードへと順次切り替える。
【0086】
従って、夏季は主にフェイスモード、春秋季は主にバイレベルモード、そして冬季は主にフットモードが選択される。さらに、湿度センサの検出値から窓ガラスに曇りが発生する可能性が高い場合には、フットデフロスタモードあるいはデフロスタモードを選択するようにしてもよい。
【0087】
ステップS10では、エアミックスドア38の目標開度SWを上記TAO、蒸発器温度センサ56によって検出された室内蒸発器26からの吹出空気温度Te、加熱器温度に基づいて算出する。
【0088】
ここで、加熱器温度とは、加熱用冷風通路33に配置された加熱手段(ヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37)の加熱能力に応じて決定される値であって、具体的には、エンジン冷却水温度Twを採用できる。従って、目標開度SWは、次の数式F2により算出できる。SW=[(TAO−Te)/(Tw−Te)]×100(%)…(F2)
なお、SW=0(%)は、エアミックスドア38の最大冷房位置であり、冷風バイパス通路34を全開し、加熱用冷風通路33を全閉する。これに対し、SW=100(%)は、エアミックスドア38の最大暖房位置であり、冷風バイパス通路34を全閉し、加熱用冷風通路33を全開する。
【0089】
ステップS11では、圧縮機11の冷媒吐出能力(具体的には回転数)を決定する。本実施形態の基本的な圧縮機11の回転数の決定手法はファジー推論に基づいて前回の圧縮機11の回転数に対する回転数変化量を算出する等して決定している。本実施形態のステップS11の詳細な内容については後述する。
【0090】
ステップS12では、室外熱交換器16に向けて外気を送風する送風ファン16aの稼働率を決定する。本実施形態の基本的な送風ファン16aの稼働率の決定手法は以下の通りである。つまり、圧縮機11吐出冷媒温度Tdの増加に伴って送風ファン16aの稼働率が増加するように第1の仮稼働率を決定し、エンジン冷却水温度Twの上昇に伴って送風ファン16aの稼働率が増加するように第2の仮稼働率を決定する。
【0091】
さらに、第1、第2の仮稼働率のうち大きい方を選択し、選択された稼働率に対して、送風ファン16aの騒音低減や車速を考慮した補正を行った値を送風ファン16aの稼働率に決定する。なお、ステップS12の制御処理が本発明の稼働率設定手段に相当している。
【0092】
ステップS13では、PTCヒータ37の作動本数の決定および電熱デフォッガの作動状態の決定が行われる。PTCヒータ37の作動本数は、例えば、ステップS6にてPTCヒータ37への通電が必要とされたときに、暖房モード時にエアミックスドア38の目標開度SWが100%となっても、暖房用熱交換器目標温度を得られない場合に、内気温Trと暖房用熱交換器目標温度との差に応じて決定すればよい。
【0093】
また、車室内の湿度および温度から窓ガラスに曇りが発生する可能性が高い場合、あるいは窓ガラスに曇りが発生している場合は、電熱デフォッガを作動させる。
【0094】
次に、ステップS14にて、上述のステップS6で決定された運転モードに応じて、冷媒回路切替手段である各電磁弁13、17、20、21、24の作動状態を決定する。この際、本実施形態では、サイクルに応じた冷媒回路を実現するため、基本的には冷媒が流通する冷媒流路が開となるように各電磁弁を制御し、冷媒圧力の高低圧関係によって冷媒が流通しない冷媒流路については各電磁弁を非通電状態として、消費電力の抑制を行う。
【0095】
ステップS14の詳細については、図7のフローチャートを用いて説明する。まず、ステップS141で、ステップS6で決定された運転モードをメモリCYCLE_VALVEに読み込む。次に、ステップS142にて、車両用空調装置1が停止しているか否か、すなわち車室内の空調を行わないか否かが判定される。
【0096】
ステップS142にて、車両用空調装置1が停止していると判定された場合は、ステップS143にて、メモリCYCLE_VALVEを冷房モード(COOLサイクル)に設定してステップS144へ進む。ステップS143にて、車両用空調装置1が停止していないと判定された場合は、ステップS144へ進む。
【0097】
ステップS144では、各電磁弁13、17、20、21、24の作動状態が決定される。具体的には、メモリCYCLE_VALVEが冷房モード(COOLサイクル)に設定されている場合は、全ての電磁弁を非通電状態とする。また、メモリCYCLE_VALVEが冷房モード(HOTサイクル)に設定されている場合は、電気式三方弁13、高圧電磁弁20、低圧電磁弁17を通電状態とし、残りの電磁弁21、24を非通電状態とする。また、メモリCYCLE_VALVEが第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)に設定されている場合は、電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24および熱交換器遮断電磁弁21を通電状態とし、高圧電磁弁20を非通電状態とする。また、メモリCYCLE_VALVEが第2除湿モード(DRY_ALLサイクル)に設定されている場合は、電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24を通電状態とし、残りの電磁弁20、21を非通電状態とする。
【0098】
つまり、本実施形態では、いずれの運転モードの冷媒回路に切り替えた場合であっても、各電磁弁13、17、20、21、24のうち少なくとも1つの電磁弁に対する電力の供給が停止されるように構成されている。
【0099】
ステップS15では、エンジンEGの作動要求有無を決定する。ここで、車両走行用の駆動力をエンジンEGのみから得る通常の車両では、常時エンジンを作動させているのでエンジン冷却水も常時高温となる。従って、通常の車両ではエンジン冷却水をヒータコア36に流通させることで充分な暖房性能を発揮することができる。
【0100】
これに対して、本実施形態のようなハイブリッド車両では、バッテリ残量に余裕があれば、走行用電動モータのみから走行用の駆動力を得て走行することができる。このため、高い暖房性能が必要な場合であっても、エンジンEGが停止しているとエンジン冷却水温度が40℃程度にしか上昇せず、ヒータコア36にて充分な暖房性能が発揮できなくなる。
【0101】
そこで、本実施形態では、暖房に必要な熱源を確保するため、高い暖房性能が必要な場合であってもエンジン冷却水温度Twが予め定めた基準冷却水温度よりも低いときは、空調制御装置50からエンジンEGの制御に用いられるエンジン制御装置(図示せず)に対して、エンジンEGを作動するように要求信号を出力する。
【0102】
これにより、エンジン冷却水温度Twを上昇させて高い暖房性能を得るようにしている。なお、このようなエンジンEGの作動要求信号は、車両走行用の駆動源としてエンジンEGを作動させる必要の無い場合であってもエンジンEGを作動させることになるので、車両燃費を悪化させる要因となる。このため、エンジンEGの作動要求信号を出力する頻度は極力低減させることが望ましい。
【0103】
ステップS16では、室外熱交換器16に着霜が生じている場合に、室外熱交換器16の除霜制御を行う。ここで、暖房モードの冷媒回路のように、室外熱交換器16にて冷媒に吸熱作用を発揮させる際に、室外熱交換器16における冷媒蒸発温度が−12℃程度まで低下すると、室外熱交換器16に着霜が生じることが知られている。
【0104】
このような着霜が生じると、室外熱交換器16に車室外空気が流通できなくなり、室外熱交換器16にて冷媒と車室外空気とが熱交換できなくなってしまう。このため、室外熱交換器16に着霜が生じた際には、強制的に冷房モードとする制御処理を行う。後述するように冷房モードの冷媒回路では、室外熱交換器16にて冷媒が放熱するので、室外熱交換器16に生じた霜を溶かすことができる。なお、ステップS6における制御処理が、本発明の除霜運転手段を構成している。
【0105】
ここで、除霜運転を行うために冷房モードに切り換えている場合には、除霜フラグをONに設定し、通常の冷房モードの場合には、除霜フラグをOFFに設定することで、除霜運転による冷房モードと通常の冷房モードとの違いを判別可能にしている。
【0106】
ステップS17では、上述のステップS6〜S16で決定された制御状態が得られるように、空調制御装置50より各種機器61、13、17、20、21、24、16a、32、62、63、64に対して制御信号および制御電圧が出力される。例えば、圧縮機11の電動モータ11b用のインバータ61に対しては、圧縮機11の回転数がステップS11で決定された回転数となるように制御信号が出力される。
【0107】
次のステップS18では、制御周期τの間待機し、制御周期τの経過を判定するとステップS3に戻るようになっている。なお、本実施形態は制御周期τを250msとしている。これは、車室内の空調制御は、エンジン制御等と比較して遅い制御周期であってもその制御性に悪影響を与えないからである。さらに、車両内における空調制御のための通信量を抑制して、エンジン制御等のように高速制御を行う必要のある制御系の通信量を充分に確保することができる。
【0108】
ここで、例えば、乗員が操作パネル60の送風機32の風量を風量設定スイッチ60eでゼロに設定する場合、空調機器の故障判定により故障と判定された場合等に、車室内への空気の送風を行わない状態、つまり空調システムがOFFされた状態となる。この状態において、ステップS16にて室外熱交換器16に付着した霜を除去するために除霜運転が行なわれると、乗員にとっては、意図せず空調機器が作動することになり、その作動音等によって車両が故障したと誤解(違和感)を与えてしまう虞がある。
【0109】
そこで、本実施形態では、除霜運転を行う際に、乗員に車両の故障と誤解を与えないようにするために、上述のステップS11の圧縮機回転数決定処理等にて対策を施している。具体的な対策の内容について図8〜10に基づいて説明する。図8は、本実施形態に係る圧縮機11の回転数を決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【0110】
図8に示すように、圧縮機回転数決定処理では、先ずステップ101にてファジー推論を用いて冷房モード、暖房モード(第1、第2除湿モードを含む)時の圧縮機11の回転数変化量を算出する。
【0111】
例えば、冷房モードでは、ステップS4で決定したTAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して、室内蒸発器26からの吹出空気温度Teの目標吹出温度TEOを決定する。
【0112】
そして、この目標吹出温度TEOと吹出空気温度Teの偏差En(TEO−Te)を演算し、この偏差Enと、今回算出された偏差Enから前回算出された偏差En−1を減算した偏差変化率Edot(En−(En−1))を算出する。
【0113】
そして、空調制御装置50に記憶された図9に示すメンバーシップ関数と、ファジールールとを用いたファジー推論に基づいて、前回の圧縮機11の回転数fn−1に対する回転数変化量ΔfCを算出する。なお、図9(a)が偏差Enのメンバーシップ関数を示し、図9(b)が偏差変化率Edotのメンバーシップ関数を示し、図9(c)がファジールールを示している。なお、本実施形態のメンバーシップ関数は、6つのファジー集合(NB、NM、NC、Z0、PC、PM、PB)から構成している。
【0114】
具体的には、図9(a)で求まる各ファジー集合のCF1と図9(b)で求まる各ファジー集合のCF2とから下記数式F3に基づいて各ファジー集合の入力適合度CFを求める。そして、各ファジー集合の入力適合度CFと図8(c)に示すファジールールのルール値とから下記数式F4に基づいて圧縮機11の回転数変化量ΔfC(回転数/時間)を算出する。CF=CF1×CF2…(F3)ΔfC=Σ(CF×ルール値)/ΣCF…(F4)
また、暖房モードでは、ステップS4で決定した暖房用熱交換器目標温度等に基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して、吐出冷媒圧力Pdの目標高圧PDOを決定し、この目標高圧PDOと吐出冷媒圧力Pdの偏差Pn(PDO−Pd)を算出する。さらに、この偏差Pnと、今回算出された偏差Pnから前回算出された偏差Pn−1を減算した偏差変化率Pdot(Pn−(Pn−1))を算出する。
【0115】
そして、空調制御装置50に記憶された図10に示すメンバーシップ関数と、ファジールールとを用いたファジー推論に基づいて、前回の圧縮機11の回転数fn−1に対する回転数変化量ΔfHを算出する。なお、図10(a)が偏差Pnのメンバーシップ関数を示し、図10(b)が偏差変化率Pdotのメンバーシップ関数を示し、図10(c)がファジールールを示している。なお、本実施形態のメンバーシップ関数は、6つのファジー集合(NB、NM、NC、Z0、PC、PM、PB)から構成している。
【0116】
具体的には、図10(a)で求まる各ファジー集合のCF1と図10(b)で求まる各ファジー集合のCF2とから下記数式F5に基づいて各ファジー集合の入力適合度CFを求める。そして、各ファジー集合の入力適合度CFと図9(c)に示すファジールールのルール値とから下記数式F6に基づいて圧縮機11の回転数変化量ΔfH(回転数/時間)を算出する。CF=CF1×CF2…(F5)ΔfH=Σ(CF×ルール値)/ΣCF…(F6)
次に、ステップS102に進み、ステップS6(図6参照)で決定された運転モード(サイクル)が冷房モード(除霜運転時を含む)であるか否かを判定する。判定の結果、冷房モードと判定されなかった場合には暖房モード(第1、第2除湿モードを含む)と判断して、ステップS103に進む。そしてステップS103にて、圧縮機11の回転数変化量Δfを暖房モード時の変化量ΔfHに設定する。ステップS102にて冷房モードと判定された場合には、ステップS104に進み、圧縮機11の回転数変化量Δfを冷房モード時の変化量ΔfCに設定する。
【0117】
次に、ステップS105にて、圧縮機11の仮回転数fn1を算出する。圧縮機11の仮回転数fn1は、前回の圧縮機11の回転数fn−1に圧縮機11の回転数変化量Δfを加算して算出している。
【0118】
上述のように、室内空調ユニット30で温度調節された空気を車室内へ送風しない状態(空調システムがOFFとなる状態)、またはIGスイッチがOFFされた状態において圧縮機11等の空調機器が作動すると乗員に違和感を与えてしまう虞がある。特に、空調システムがOFFされた状態で、除霜運転といった乗員が意図しない空調作動が行われると、乗員に車両の故障と誤解を与えてしまう虞がある。
【0119】
そこで、ステップS106にて空調システムがOFF、またはIGスイッチがOFFか否かを判定し、空調システムがOFFまたはIGスイッチがOFFと判定された場合、ステップS107に進み、圧縮機11の最高回転数fn2をゼロ回転に制限する。なお、圧縮機11の最高回転数fn2は、圧縮機11の回転数を制限するために設定している。
【0120】
そして、ステップS108にて、圧縮機11の仮回転数fn1と最高回転数fn2のうち低い方の回転数を今回の圧縮機11の回転数fnとして決定する。つまり、空調システムがOFF、またはIGスイッチがOFFとなっている場合には、今回の圧縮機11の回転数fnを最高回転数fn2(ゼロ回転)に決定して、除霜運転を含めた各種運転を行なわない構成としている。
【0121】
これによれば、空調システムがOFFまたはIGスイッチがOFFされた場合には、圧縮機11を強制的に作動させないので、ステップS16(図6参照)にて除霜運転を行う決定をしたとしても実質的に除霜運転が許可されないことになる。これにより、空調システムのOFF時等に除霜運転等の乗員が意図しない圧縮機11の作動による作動音等が生じてしまうことを抑制できる。なお、ステップS106における空調システムがOFFか否かの判定が、車室内への空気の送風を行うか否かを判定する空調判定手段に相当している。
【0122】
一方、ステップS106にて空調システムがOFFおよびIGスイッチがOFFと判定されなかった場合には、ステップS109に進み、冷房モード(除霜運転時を含む)か否かを判定する。
【0123】
ここで、本実施形態では、暖房モード時には、A/Cスイッチ60bのON/OFFに拘らず圧縮機11の作動がON状態となる設定であるため、暖房モードにおいて圧縮機11が作動しても乗員に違和感を与えてしまうことにはならない。つまり、圧縮機11の作動を第2の仮回転数fn2で制限する必要がないといえる。
【0124】
そのため、ステップS109にて冷房モードと判定されなかった場合、すなわち暖房モードと判定された場合、ステップS110に進み、圧縮機11の最高回転数fn2を、例えば圧縮機11の通常の許容上限値(例えば、10000回転)に設定する。
【0125】
そして、ステップS108にて、圧縮機11の仮回転数fn1と最高回転数fn2のうち低い回転数を今回の圧縮機11の回転数fnとして決定する。なお、ステップS110における上限値を通常の許容上限値に設定している場合には、実質的に最高回転数fn2によって仮回転数fn1を制限しないこととなる。
【0126】
一方、冷房モード時には、A/Cスイッチ60bがONされることで圧縮機11の作動をON状態となる設定であるため、A/Cスイッチ60bがOFFされた場合に、圧縮機11が作動していると乗員に違和感を与えてしまう虞がある。
【0127】
そこで、ステップS109にて冷房モードと判定された場合には、ステップS111に進み、A/Cスイッチ60bがONに設定されているか否かを判定する。換言すれば、ステップS111では、乗員の操作により圧縮機11の作動がON状態に設定されているか否かを判定する。
【0128】
ステップS111にて、A/Cスイッチ60bがONと判定された場合には、ステップS110に進み、最高回転数fn2を通常の許容上限値(例えば、10000回転)に設定する。そして、ステップS108にて、暖房モード時と同様に、今回の圧縮機11の回転数fnを第1の仮回転数fn1に決定する。この場合、冷房モード時にA/Cスイッチ60bがONされているため、圧縮機11が作動していても乗員に車両の故障と誤解を与えることにはならない。
【0129】
ステップS111にて、A/Cスイッチ60bがONと判定されなかった場合には、ステップS112にて、除霜運転による冷房モードか否かを判定する。具体的には、ステップS16(図6参照)の制御処理で設定される除霜フラグがONとなっているか否かを判定する。なお、上述のように、ステップS16(図6参照)の制御処理では、除霜運転による冷房モードの場合に除霜フラグをONし、通常の冷房モードの場合に除霜フラグをOFFする。
【0130】
ステップS112にて除霜運転による冷房モードと判定された場合、すなわち除霜フラグがONと判定された場合、ステップS113に進む。ステップS113にて圧縮機11の回転数が、A/Cスイッチ60bがONである場合に比べて低下するように、圧縮機11の最高回転数fn2を許容上限値よりも低い回転数(例えば、2000回転)に決定する。そして、ステップS108にて、仮回転数fn1と最高回転数fn2のち低い回転数となっているものを今回の圧縮機11の回転数fnとして決定する。
【0131】
つまり、A/Cスイッチ60bがOFFされている場合には、A/Cスイッチ60bがONされている場合に比較して、除霜運転時の圧縮機11の回転数(吐出能力)が低下するように制限している。
【0132】
これにより、A/Cスイッチ60bがOFFされている場合に、圧縮機11を作動させて除霜運転を行なったとしても、圧縮機11の回転数を制限して圧縮機11の作動音等を低減しているので、乗員に車両の故障と誤解を与えてしまうことを抑制することができる。
【0133】
また、ステップS112にて除霜運転による冷房モードと判定されなかった場合、すなわち除霜フラグがOFFと判定された場合、通常の冷房モードにA/Cスイッチ60bがOFFされているので、ステップS107にて最高回転数fn2をゼロ回転に設定する。そして、ステップS108にて今回の圧縮機11の回転数fnを最高回転数fn2(ゼロ回転)に決定し、圧縮機11が作動しないようにする。
【0134】
ここで、上述のステップS107では、空調システムがOFF、またはIGスイッチがOFFとなっている場合に、圧縮機11を停止させているので、実質的に除霜運転を含めた各種運転を許可しない決定をしていることになる。また、空調システムがOFF、またはIGスイッチがOFFとなっている場合に、ステップS113では、圧縮機11を作動可能にしているので、実質的に除霜運転を許可すること決定をしている。従って、ステップS107とステップ113の決定処理が本発明の除霜許可決定手段に相当している。
【0135】
また、本実施形態では、除霜運転時における空調機器の作動音等をさらに低減させるために、ステップS12の送風ファン16aの稼働率を決定する制御処理でも対策を施している。
【0136】
簡単に説明すると、ステップS12の送風ファン16aの稼働率を決定する制御処理では、空調システムがONおよびIGスイッチがONとなっており、A/Cスイッチ60bがOFFとなっている場合には、A/Cスイッチ60bがONされている場合に比べて、除霜運転時の送風ファン16aの稼働率を低下させている。
【0137】
これによれば、除霜運転時における圧縮機11および室外熱交換器16の送風ファン16aといった空調機器の作動音等をより低減させることができるので、乗員に車両の故障と誤解を与えてしまうことを充分に抑制することができる。
【0138】
本実施形態の車両用空調装置1は、以上の如く制御されるので、制御ステップS6にて選択された運転モードに応じて以下のように作動する。
【0139】
(a)冷房モード(COOLサイクル:図1参照)
冷房モードでは、空調制御装置50が全ての電磁弁を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と第1三方継手15の1つの冷媒流入出口との間を接続し、低圧電磁弁17が閉弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が閉弁する。
【0140】
これにより、図1の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→第1三方継手15→室外熱交換器16→第2三方継手19→高圧電磁弁20→第2逆止弁22→温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0141】
この冷房モードの冷媒回路では、電気式三方弁13から第1三方継手15へ流入した冷媒は、低圧電磁弁17が閉弁しているので低圧電磁弁17側へ流出することはない。また、室外熱交換器16から第2三方継手19へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので熱交換器遮断電磁弁21側へ流出することはない。また、温度式膨張弁27の可変絞り機構部27bから流出した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので除湿電磁弁24側へ流出することはない。さらに、温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって第2逆止弁22側に流出することはない。
【0142】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却され、さらに、室外熱交換器16にて外気と熱交換して冷却され、温度式膨張弁27にて減圧膨張される。温度式膨張弁27にて減圧された低圧冷媒は室内蒸発器26へ流入し、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却される。
【0143】
この際、前述の如くエアミックスドア38の開度が調整されるので、室内蒸発器26にて冷却された送風空気の一部(または全部)が冷風バイパス通路34から混合空間35へ流入し、室内蒸発器26にて冷却された送風空気の一部(または全部)が加熱用冷風通路33へ流入してヒータコア36、室内凝縮器12、PTCヒータ37を通過する際に再加熱されて混合空間35へ流入する。
【0144】
これにより、混合空間35にて混合されて車室内へ吹き出す送風空気の温度が所望の温度に調整されて、車室内の冷房を行うことができる。なお、冷房モードでは、送風空気の除湿能力も高いが、暖房能力は殆ど発揮されない。
【0145】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、温度式膨張弁27の感温部27aを介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0146】
(b)暖房モード(HOTサイクル:図2参照)
暖房モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、高圧電磁弁20、低圧電磁弁17を通電状態とし、残りの電磁弁21、24を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が閉弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が閉弁する。
【0147】
これにより、図2の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→熱交換器遮断電磁弁21→第2三方継手19→室外熱交換器16→第1三方継手15→低圧電磁弁17→第1逆止弁18→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0148】
この暖房モードの冷媒回路では、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので除湿電磁弁24側へ流出することはない。また、熱交換器遮断電磁弁21から第2三方継手19へ流入した冷媒は、高圧電磁弁20が閉弁しているので高圧電磁弁20側へ流出することはない。また、室外熱交換器16から第1三方継手15へ流入した冷媒は、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続しているので電気式三方弁13側へ流出することはない。第1逆止弁18から第5三方継手28へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので温度式膨張弁27側へ流出することはない。
【0149】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて送風機32から送風された送風空気と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。この際、エアミックスドア38の開度が調整されるので、冷房モードと同様に、混合空間35にて混合されて車室内へ吹き出す送風空気の温度が所望の温度に調整されて、車室内の暖房を行うことができる。なお、暖房モードでは、送風空気の除湿能力は発揮されない。
【0150】
また、室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧されて室外熱交換器16へ流入する。室外熱交換器16へ流入した冷媒は、送風ファン16aから送風された車室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器16から流出した冷媒は、低圧電磁弁17、第1逆止弁18等を介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0151】
(c)第1除湿モード(DRY_EVAサイクル:図3参照)
第1除湿モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、低圧電磁弁17、熱交換器遮断電磁弁21および除湿電磁弁24を通電状態とし、高圧電磁弁20を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が閉弁し、除湿電磁弁24が開弁する。
【0152】
これにより、図3の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→除湿電磁弁24→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0153】
この第1除湿モードの冷媒回路では、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒は、熱交換器遮断電磁弁21が閉弁しているので熱交換器遮断電磁弁21側へ流出することはない。また、除湿電磁弁24から第4三方継手25へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b側へ流出することはない。また、温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒は、第1逆止弁18の作用によって第1逆止弁18側へ流出することはない。
【0154】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧されて室内蒸発器26へ流入する。
【0155】
室内蒸発器26へ流入した低圧冷媒は、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却されて除湿される。従って、室内蒸発器26にて冷却されて除湿された送風空気は、ヒータコア36、室内凝縮器12、PTCヒータ37を通過する際に再加熱されて、混合空間35から車室内へ吹き出される。すなわち、車室内の除湿を行うことができる。なお、第1除湿モードでは、送風空気の除湿能力を発揮できるが、暖房能力は小さい。
【0156】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、温度式膨張弁27の感温部27aを介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0157】
(d)第2除湿モード(DRY_ALLサイクル:図4参照)
第2除湿モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24を通電状態とし、残りの電磁弁20、21を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が開弁する。
【0158】
これにより、図4の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→熱交換器遮断電磁弁21→第2三方継手19→室外熱交換器16→第1三方継手15→低圧電磁弁17→第1逆止弁18→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環するとともに、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→除湿電磁弁24→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0159】
つまり、第2除湿モードでは、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒が熱交換器遮断電磁弁21側および除湿電磁弁24側の双方に流出して、第1逆止弁18から第5三方継手28へ流入した冷媒および温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒の双方が第5三方継手28にて合流してアキュムレータ29側へ流出する。
【0160】
なお、この第2除湿モードの冷媒回路では、室外熱交換器16から第1三方継手15へ流入した冷媒は、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続しているので電気式三方弁13側へ流出することはない。また、除湿電磁弁24から第4三方継手25へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b側へ流出することはない。
【0161】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧された後、第3三方継手23にて分岐されて室外熱交換器16および室内蒸発器26へ流入する。
【0162】
室外熱交換器16へ流入した冷媒は、送風ファン16aから送風された車室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器16から流出した冷媒は、低圧電磁弁17、第1逆止弁18等を介して、第5三方継手28へ流入する。室内蒸発器26へ流入した低圧冷媒は、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却されて除湿される。
【0163】
従って、室内蒸発器26にて冷却されて除湿された送風空気は、ヒータコア36、室内凝縮器12、PTCヒータ37を通過する際に再加熱されて、混合空間35から車室内へ吹き出される。この際、第2除湿モードでは、第1除湿モードに対して、室外熱交換器16にて吸熱した熱量を室内凝縮器12にて放熱することができるので、送風空気を第1除湿モードよりも高温に加熱できる。すなわち、第2除湿モードでは、高い暖房能力を発揮させながら除湿能力も発揮させる除湿暖房を行うことができる。
【0164】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、第5三方継手28へ流入して室外熱交換器16から流出した冷媒と合流し、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0165】
以上のように、本実施形態の車両用空調装置1では、空調システムがOFF、またはIGスイッチがOFFされている場合には、今回の圧縮機11の回転数fnをゼロ回転に決定する。つまり、少なくとも車室内の空調を行わない場合(空調システムがOFFの場合)には、圧縮機11を強制的に作動させないことで、除霜運転等の乗員が意図しない空調作動を行わないようにしている。
【0166】
これにより、空調システムのOFF時等に除霜運転等の乗員が意図しない空調作動による作動音等が生じてしまうことを抑制できるので、除霜運転を行う際に乗員に車両の故障と誤解を与えてしまうことを抑制することができる。
【0167】
また、乗員がA/Cスイッチ60bをOFFしている場合、乗員がA/Cスイッチ60bをONしている場合に比べて、除霜運転時の圧縮機11の吐出能力(回転数)および室外熱交換器16の送風ファン16aの稼働率が低下するようにしている。これにより、除霜運転時の圧縮機11および送風ファン16aといった空調機器の作動音等を低減させることができ、乗員に車両の故障と誤解を与えてしまうことを抑制することができる。
【0168】
さらに、車室内の空調を行う場合には、A/Cスイッチ60bがOFFの場合でも、除霜運転を行なうので、A/Cスイッチ60bをOFFした場合に除霜運転を行なわない車両用空調装置に比べて、室外熱交換器16の着霜による冷凍サイクル10の停止頻度を低減することができる。
【0169】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図11に基づいて説明する。ここで、図11は、本実施形態のサイクルを決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。なお、本実施形態では、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0170】
本実施形態では、車室内の除湿を行う際に乗員の意向が反映されない(乗員が意図しない)空調作動を抑制するために、ステップS6(図6参照)の制御処理において対策を施している。
【0171】
図11に示すように、ステップS61では、現在設定されているサイクル(運転モード)が、COOLサイクル(冷房モード)か否かを判定する。判定の結果、COOLサイクルと判定された場合、ステップS62にてCOOLサイクルに決定し、COOLサイクルと判定されなかった場合、ステップS63に進む。
【0172】
ステップS63では、A/Cスイッチ60bがONされているか否か、すなわち乗員の操作により圧縮機11の作動がON状態に設定されているか否かを判定する。
【0173】
ステップS63にてA/Cスイッチ60bがONされていると判定された場合、ステップS64に進み、窓曇り判定を行う。本実施形態の窓曇り判定では、ステップS4(図6参照)にて湿度センサ、窓ガラス近傍温度センサ、および窓ガラス表面温度センサで検出した検出値に基づいて算出された窓ガラス表面の相対湿度RHWが所定基準値(例えば、100)より大きいか否かを判定する。ステップS64にて相対湿度RHWが所定基準値より大きいと判定された場合には、窓曇りの可能性があると判断してステップS65に進む。
【0174】
ステップS65では、図中に示す制御マップに基づいて、除湿の必要度合いを決定している。ここで、除湿の必要度合いは、室内蒸発器26の定常時の蒸発器温度Tec(通常は2℃程度)から実際に蒸発器温度センサ56にて検出した蒸発器温度Teを減算した温度差ΔT(=2−Te)に基づいて決定している。なお、定常時の蒸発器温度Tecから実際の蒸発器温度Teを減算した温度差ΔTが大きいほど室内蒸発器26の除湿能力が高くなるため、除湿の必要度合いが小さく、温度差ΔTが小さいほど除湿能力が低いため、除湿の必要度合いが大きくなる。
【0175】
そこで、温度差ΔTがt1(例えば0.5)よりも小さくなった場合、除湿する必要が「有り」とする。また、温度差ΔTがt2(例えば1.0)よりも大きくなった場合、またはt3(例えば1.5)よりも小さくなった場合に除湿する必要が「小さい」とする。また、温度差ΔTがt4(例えば2.0)よりも大きくなった場合、除湿する必要が「無し」とする。
【0176】
そして、ステップS65にて、除湿する必要が「有り」とした場合、ステップS66にてサイクル(運転モード)を暖房能力に対して除湿能力を優先するDRY_EVAサイクル(第1除湿モード)に決定する。
【0177】
また、ステップS65にて、除湿する必要が「小さい」とした場合、ステップS67にてサイクル(運転モード)を除湿能力に対して暖房能力を優先するDRY_ALLサイクル(第2除湿モード)に決定する。
【0178】
また、ステップS65にて除湿する必要が「無し」とした場合、ステップS68にてサイクル(運転モード)を暖房能力が高いHOTサイクル(暖房モード)に決定する。この場合、室内蒸発器26の温度が充分低いので、車室内へ送風される空気は室内蒸発器26にて除湿冷却された後に室内凝縮器12等にて加熱されることになる。
【0179】
一方、ステップS63にてA/Cスイッチ60bがOFFと判定された場合、サイクルを暖房能力が高いHOTサイクル(暖房モード)に決定する。つまり、乗員がA/Cスイッチ60bをOFFすることで、DRY_EVAサイクル(第1除湿モード)およびDRY_ALLサイクル(第2除湿モード)よりも消費動力の小さいHOTサイクル(暖房モード)を選択することができる。従って、本実施形態のA/Cスイッチ60bは、本発明の省動力優先設定手段に相当している。さらに、ステップS63の判定処理が、本発明の除湿暖房許可判定手段に相当している。
【0180】
以上説明した本実施形態によれば、乗員がA/Cスイッチ60bをOFFすることで、DRY_EVAサイクル(第1除湿モード)およびDRY_ALLサイクル(第2除湿モード)よりも消費動力の小さいHOTサイクル(暖房モード)を選択することができる。これにより、例えば、乗員がA/Cスイッチ60bをOFFすることで、車両用空調装置1の省動力化を優先させたい乗員の意向を空調作動に反映させることができる。また、A/Cスイッチ60bをOFFすることで、空調機器の省動力化よりも車室内の除湿を優先させたい乗員の意向を空調作動に反映させることが可能となる。
【0181】
従って、車両の省動力化を優先させたい乗員とそうでない乗員の意向を空調作動に反映させることができる。ひいては、乗員が意図しない空調作動によって乗員に違和感を与えてしまうことを抑制できる。
【0182】
また、本実施形態では、A/Cスイッチ60bにより省動力優先設定手段を構成しており、既存のA/Cスイッチ60bの操作によって消費動力の小さいHOTサイクル(暖房モード)を選択することができる。そのため、省動力優先設定手段として新たにスイッチを追加する必要がなく、消費動力の小さいHOTサイクル(暖房モード)を選択することができる。なお、省動力優先設定手段としては、A/Cスイッチ60bに限らず、他の既存のスイッチを代用してもよい。
【0183】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図12に基づいて説明する。ここで、図12は、本実施形態のサイクルを決定する制御処理の詳細を示すフローチャートである。本実施形態では、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0184】
本実施形態では、除霜運転時に車室内を暖房する際に乗員の意向が反映されない(乗員が意図しない)空調作動を抑制するために、ステップS6(図6参照)の制御処理において対策を施している。
【0185】
図12に示すように、ステップS61では、現在設定されている運転モードが、COOLサイクル(冷房モード)か否かを判定する。判定の結果、COOLサイクルと判定された場合、ステップS611にて除霜運転時のCOOLサイクル(冷房モード)か否かを判定する。具体的には、ステップS16(図6参照)の制御処理で設定される除霜フラグがONとなっているか否かを判定する。上述のようにステップS16(図6参照)の制御処理では、除霜運転による冷房モードの場合に除霜フラグをONし、通常の冷房モードの場合に除霜フラグをOFFする。
【0186】
ステップS611にて除霜運転によるCOOLサイクル(冷房モード)と判定されなかった場合、ステップS62にてCOOLサイクルに決定する。一方、ステップS611にて除霜運転による冷房モードと判定された場合、ステップS612に進む。そして、ステップS612にてエコスイッチ60gがONされているか否かを判定する。
【0187】
ここで、エコスイッチ60gは、乗員の操作によって車両の省燃費を優先するか否かを設定するものである。つまり、エコスイッチ60gがONされている場合、乗員は車両の省燃費を優先したいと判断できる。逆に、エコスイッチ60gがOFFされている場合、乗員は車両の燃費が悪化したとしても特に違和感を抱かないと判断できる。
【0188】
ステップS612にてエコスイッチ60gがONされていると判定されなかった場合、ステップS613にてエンジン冷却水温度Twが予め定めた基準冷却水温度(本実施形態では目標吹出空気温度TAO)より高い温度であるか否かを判定する。なお、基準冷却水温度は、目標吹出空気温度TAOに限定されるものではなく、例えば、実験等により得られた最適な冷却水温度を採用することができる。
【0189】
ステップS613にてエンジン冷却水温度Twが目標吹出空気温度TAOより低い温度と判定された場合、ステップS614にて、エンジン制御装置に対してエンジンEGを作動するように要求信号を出力する。そして、ステップS62にてCOOLサイクルに決定する。ここで、エンジンEGを作動させた場合、エンジン冷却水温度Twが上昇するので高い暖房性能を得ることができる。
【0190】
なお、エンジン冷却水温度Twが目標吹出空気温度TAO以上であれば、エンジン冷却水による車室内の暖房が可能と判断できるので、ステップS62にてCOOLサイクルに決定する。
【0191】
一方、ステップS612にてエコスイッチ60gがONされていると判定された場合、ステップS615にてPTCヒータ37を作動(ON)させ、ステップS62にてCOOLサイクルに決定する。ここで、PTCヒータ37を利用した車室内の暖房は、ステップS614にてエンジンEGの要求信号を出力した場合の車室内の暖房に比べて、暖房能力が低くなってしまうが、燃料の消費、排気ガスの排出量を低減することができる。
【0192】
つまり、エコスイッチ60gをOFFした場合には、エンジン冷却水を利用して車室内に送風する空気を加熱して車室内を暖房する加熱モード(第1加熱モード)を選択することができる。また、エコスイッチ60gをONした場合には、PTCヒータ37を利用して車室内に送風する空気を加熱して車室内を暖房する加熱モード(第2加熱モード)を選択することができる。従って、エコスイッチ60gが本発明の加熱モード選択手段を構成している。
【0193】
ここで、ステップS61の判定の結果、COOLサイクル(冷房モード)と判定されなかった場合、ステップS65に進み、窓曇り判定を行う。なお、ステップS65〜ステップS68までの処理は第2実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0194】
以上説明した本実施形態によれば、乗員がエコスイッチ60gを操作することで、エンジン冷却水を利用した加熱モード(第1加熱モード)とPTCヒータ37を利用した加熱モード(第2加熱モード)とを選択可能にすることができる。例えば、乗員がエコスイッチ60gをONした場合には、エンジンEGを作動させることなくPTCヒータ37を利用した車室内を暖房できるので、車両の省燃費を優先させたい乗員の意向を空調作動に反映させることができる。また、乗員がエコスイッチ60gをOFFした場合には、エンジンEGを作動させる等して車室内を暖房できるので、車室内の暖房を優先させたい乗員の意向を空調作動に反映させることも可能となる。
【0195】
従って、車両の省燃費を優先させたい乗員とそうでない乗員の意向を空調作動に反映させることができる。ひいては、乗員が意図しない空調作動によって乗員に違和感を与えてしまうことを抑制できる。
【0196】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。例えば、以下のように種々変形可能である。
【0197】
(1)上述の第1実施形態では、A/Cスイッチ60bがOFFされた場合における除霜運転時の圧縮機11の回転数(吐出能力)が低下するように制限するとともに、室外熱交換器16の送風ファン16aの稼働率を低下させているが、これに限定されない。例えば、圧縮機11の回転数および送風ファン16aの稼働率のいずれか一方が低下するようにしてもよい。
【0198】
(2)上述の第1実施形態では、ステップS106(空調判定手段)にて空調システムがOFFまたはIGスイッチがOFFされた場合には、除霜運転を含む各種運転を行なわないとしているが、少なくとも除霜運転を行なわない構成とすることができる。
【0199】
(3)上述の第1実施形態では、圧縮機11の仮回転数fn1をファジー推論に基づいて前回の圧縮機11の回転数に対する回転数変化量を算出しているが、これに限定されず、他の方法にて圧縮機11の仮回転数fn1を算出してもよい。
【0200】
(4)上述の第2実施形態では、A/Cスイッチ60bにより省動力優先設定手段を構成しているが、これに限らず、例えばエコスイッチ60g等の他の既存のスイッチを代用してもよい。
【0201】
(5)上述の各実施形態は、可能な限り適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0202】
1 車両用空調装置
10 冷凍サイクル
11 圧縮機
12 室内凝縮器(室内熱交換器、加熱用室内熱交換器)
16 室外熱交換器
26 室内蒸発器(室内熱交換器、冷却用室内熱交換器)
50 空調制御装置
50a 吐出能力制御手段
60b A/Cスイッチ(圧縮機作動設定手段、省動力優先設定手段)
60g エコスイッチ(加熱モード選択手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)、車室内へ送風される送風空気と冷媒とを熱交換させる冷却用室内熱交換器(26)および加熱用室内熱交換器(12)、室外空気と冷媒とを熱交換させる室外熱交換器(16)を有し、前記冷却用室内熱交換器(26)にて冷媒を蒸発させて前記送風空気を除湿冷却するとともに、前記加熱用室内熱交換器(12)にて冷媒を放熱させて前記送風空気を加熱する除湿暖房モードと、前記加熱用室内熱交換器(12)にて冷媒を放熱させて前記送風空気を加熱する暖房モードとを切り替え可能に構成された冷凍サイクル(10)と、
乗員の操作により前記圧縮機(11)を含む空調機器の省動力化を優先するか否かを設定するための省動力優先設定手段(60b)と、
前記暖房モードから前記除湿暖房モードへの切り替えを許可するか否かを判定する除湿暖房許可判定手段(S63)と、を備え、
前記除湿暖房許可判定手段(S63)は、前記省動力優先設定手段(60b)で省動力化を優先する設定がされていない場合に、前記除湿暖房モードへの切り替えを許可しないことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項1】
冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)、車室内へ送風される送風空気と冷媒とを熱交換させる冷却用室内熱交換器(26)および加熱用室内熱交換器(12)、室外空気と冷媒とを熱交換させる室外熱交換器(16)を有し、前記冷却用室内熱交換器(26)にて冷媒を蒸発させて前記送風空気を除湿冷却するとともに、前記加熱用室内熱交換器(12)にて冷媒を放熱させて前記送風空気を加熱する除湿暖房モードと、前記加熱用室内熱交換器(12)にて冷媒を放熱させて前記送風空気を加熱する暖房モードとを切り替え可能に構成された冷凍サイクル(10)と、
乗員の操作により前記圧縮機(11)を含む空調機器の省動力化を優先するか否かを設定するための省動力優先設定手段(60b)と、
前記暖房モードから前記除湿暖房モードへの切り替えを許可するか否かを判定する除湿暖房許可判定手段(S63)と、を備え、
前記除湿暖房許可判定手段(S63)は、前記省動力優先設定手段(60b)で省動力化を優先する設定がされていない場合に、前記除湿暖房モードへの切り替えを許可しないことを特徴とする車両用空調装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−14327(P2013−14327A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−205809(P2012−205809)
【出願日】平成24年9月19日(2012.9.19)
【分割の表示】特願2009−152093(P2009−152093)の分割
【原出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月19日(2012.9.19)
【分割の表示】特願2009−152093(P2009−152093)の分割
【原出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]