車両用等速自在継手
【課題】駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる等速自在継手を提供する。
【解決手段】等速自在継手10であって、外筒部76の円筒内周面72と内筒部82の円筒外周面78との間に設けられ、それら外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を許容しつつそれら内筒部82および外筒部76をその軸心C1方向に案内する案内装置102と、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を抑制するゴム素子92とを備えて構成されていることから、この等速自在継手10を備える駆動系に発生する振動の要因となる軸心C1方向の軸心力Fの伝達が抑制されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる。
【解決手段】等速自在継手10であって、外筒部76の円筒内周面72と内筒部82の円筒外周面78との間に設けられ、それら外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を許容しつつそれら内筒部82および外筒部76をその軸心C1方向に案内する案内装置102と、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を抑制するゴム素子92とを備えて構成されていることから、この等速自在継手10を備える駆動系に発生する振動の要因となる軸心C1方向の軸心力Fの伝達が抑制されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸心の交差角が相対的に変化する2つの回転部材の間を等速回転で連結する車両用等速自在継手の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の変速機或いは差動歯車装置から駆動輪への動力伝達などに際して用いられる車両用等速自在継手が知られている。たとえば、特許文献1に記載されたトリポード型等速自在継手がそれである。このような等速自在継手は、たとえば、軸心方向に平行な複数本の溝を内周面に備えた有底円筒状の外輪と、その外輪の複数本の溝内に転動自在に配設される複数のころを回転自在に支持し、一端部がその外輪の開口から突き出す内輪とを備え、その外輪とその内輪との間でそれらの軸心の斜交角度(ジョイント角)に拘わらず等速でトルクを伝達するようになっている。上記内輪は、例えば、シャフト部材とそのシャフト部材の一端に嵌め付けられたスリーブ部材とから構成される。
【特許文献1】特開2005−133890号公報
【特許文献2】特開平8−40005号公報
【0003】
そして、等速自在継手には、前記内輪が前記外輪に対してその外輪の軸心方向に相対移動することが許容された摺動式等速自在継手として、例えば上記トリポート型等速自在継手、ダブルオフセット型等速自在継手、およびクロスグルーブ型等速自在継手などがあり、また、上記内輪が外輪に対してその外輪の軸心方向において固定され、それら内輪と外輪との最大交差角が比較的大きくとれる固定式等速自在継手として、例えばツェッパ型等速自在継手やアンダーカットフリー型等速自在継手などがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の等速自在継手を含む駆動系では、車両発進時において等速自在継手に作用する誘起スラスト力に起因する車体の横揺れ振動や、アイドリング時において例えばエンジンロール振動等が等速自在継手などを介して車体に伝達されることによるアイドル振動、或いは車両走行時においてエンジンやモータのトルク変動によって生じるドライブシャフトの曲げ共振に起因する車内こもり音または変速機内のギヤの噛合誤差に起因するギヤノイズなどが発生するという問題がある。これらの振動は、前記内輪と前記外輪との軸心方向の相対移動が許容される摺動式等速自在継手を駆動系の一部に用いることによって、ある程度抑制することができる。しかし、このような摺動式等速自在継手においては、外輪の内周面に形成された前記複数の溝内を内輪に支持された前記複数のころが転動することによって内輪が外輪に対してその外輪の軸心方向に相対移動するようになっているが、その相対移動に際して上記溝ところとの間、およびそのころと内輪との間に摩擦が生じるために、前記のような振動を必ずしも十分に吸収して抑制することはできない。
【0005】
特許文献2には、前記内輪を構成するシャフト部材とスリーブ部材とがセレーション嵌合され、それらシャフト部材とスリーブ部材との軸心方向の間隙に弾性部材が設けられた等速自在継手が記載されている。これによれば、シャフト部材にその軸心方向の振動が作用すると弾性部材がその振動を吸収して振動を抑制することができるとされている。しかしながら、この特許文献2に記載の等速自在継手では、トルクがかかっている状態においてシャフト部材とスリーブ部材との間に摺動抵抗が生じるために、それらシャフト部材とスリーブ部材との軸心方向の相対移動作動が十分機能せず、前記のような振動を必ずしも十分に吸収して抑制することはできない。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる車両用等速自在継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(1)有底円筒状の外筒部と、軸心方向に平行な複数本の溝を内周面に備えてその外筒部に対して軸心方向の相対移動可能に外筒部内に嵌め入れられた内筒部とを備えた有底円筒状の外輪と、その内筒部の内周面に軸心方向に平行に形成された複数本の溝内に転動自在にそれぞれ配設された複数のころを回転自在に支持し、一端部が円筒部の開口から突き出す内輪とを備え、外輪と内輪との間でそれらの軸心の斜交角度に拘わらず等速でトルクを伝達する車両用等速自在継手であって、(2)前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面との間に設けられ、前記トルクの大きさに拘わらず内筒部と外筒部との軸心方向の相対移動を許容し且つ内筒部および外筒部をその軸心方向に案内する軸方向案内装置と、(3)外筒部と内筒部との軸心方向の相対移動を抑制する軸方向移動抑制装置とを、含むことにある。
【0008】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記軸方向案内装置は、前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面とにそれぞれ形成された相対向する一対の軸方向溝と、その相対向する一対の軸方向溝内に嵌め入れられた転動体とを有し、その転動体を介して外筒部と内筒部とを軸心方向の相対移動可能に支持するものであることにある。
【0009】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1または2にかかる発明において、前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動量に応じて弾性変形する弾性部材を備えていることにある。
【0010】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至3のいずれか1にかかる発明において、前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えていることにある。
【0011】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれか1にかかる発明において、前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の間隙に設けられていることにある。
【0012】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至5のいずれか1にかかる発明において、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動量を所定の範囲内に規制する軸方向移動制限装置を備えていることにある。
【0013】
また、請求項7にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至6のいずれか1にかかる発明において、前記外筒部と前記内筒部との間に設けられ、それら内筒部と外筒部との相対回転を抑制する相対回転抑制装置を備えていることにある。
【0014】
また、請求項8にかかる発明の要旨とするところは、請求項7にかかる発明において、前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心まわりの相対回転量に応じて弾性変形する弾性部材を備えていることにある。
【0015】
また、請求項9にかかる発明の要旨とするところは、請求項7または8にかかる発明において、前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えていることにある。
【0016】
また、請求項10にかかる発明の要旨とするところは、請求項7乃至9のいずれか1にかかる発明において、前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との周方向の間隙に設けられていることにある。
【0017】
また、請求項11にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至10のいずれか1にかかる発明において、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対回転量を所定の範囲内に規制する相対回転制限装置を備えていることにある。
【0018】
また、請求項12にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至11のいずれか1にかかる発明において、前記外筒部と前記内筒部との間に設けられ、それら内筒部および外筒部の軸心まわりの相対回転を案内する相対回転案内装置を備えていることにある。
【発明の効果】
【0019】
請求項1にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記外輪の外筒部の内周面とその外筒部に嵌め入れられた内筒部の外周面との間に設けられ、前記トルクの大きさに拘わらず内筒部と外筒部との軸心方向の相対移動を許容し且つ内筒部および外筒部をその軸心方向に案内する軸方向案内装置と、外筒部と内筒部との軸心方向の相対移動を抑制する軸方向移動抑制装置とを含んで構成されていることから、この車両用等速自在継手が駆動系の一部の例えばドライブシャフト等に用いられることにより、その駆動系に発生する振動の要因となるドライブシャフトに作用する軸心方向の強制力(スラスト力)の伝達が抑制される(吸収される)ので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる。
【0020】
また、請求項2にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記軸方向案内装置は、前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面とにそれぞれ形成された相対向する一対の軸方向溝と、その相対向する一対の軸方向溝内に嵌め入れられた転動体とを有し、その転動体を介して外筒部と内筒部とを軸心方向の相対移動可能に支持するものであることから、例えば球体などにより構成される転動体と一対の軸方向溝とが線接触或いは点接触することで外筒部と内筒部との間の摺動抵抗が可及的に小さくされ、トルクがかかった状態であっても外筒部と内筒部とが軸心方向に滑らかに相対移動可能であるので、駆動系に発生する振動を十分に吸収して抑制することができる。
【0021】
また、請求項3にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動量に応じて弾性変形する弾性部材を備えていることから、車両用等速自在継手に作用する軸心方向の強制力の大きさに応じてその強制力の伝達方向とは反対の方向へ反発力が作用し、外筒部と内筒部との間において伝播される強制力が低減されるので、その強制力に起因して駆動系にて発生する振動を十分に抑制することができる。
【0022】
また、請求項4にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えていることから、その車両用等速自在継手を含む駆動系にて発生する振動が減衰要素で吸収されるので、駆動系にて発生する振動を十分に抑制することができる。
【0023】
また、請求項5にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の間隙に設けられていることから、車両用等速自在継手に作用する軸心方向の強制力は必ず軸方向移動抑制装置を介して外筒部と内筒部との間を伝播するようになっているので、駆動系にて発生する振動を確実に抑制することができる。
【0024】
また、請求項6にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動量を所定の範囲内に規制する軸方向移動制限装置を備えていることから、軸方向案内装置および軸方向移動抑制装置に過度な負担がかかることを防止できる。
【0025】
また、請求項7にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記外筒部と前記内筒部との間に設けられ、それら内筒部と外筒部との相対回転を抑制する相対回転抑制装置を備えていることから、例えばバネやゴム等の弾性部材を含んで構成される相対回転抑制装置を介して外筒部と内筒部とが相対回転されることで、駆動系の一部である車両用等速自在継手のねじり剛性が低下して駆動系の共振周波数が低下し、ドライブシャフトのねじり共振が抑制されるので、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる。
【0026】
また、請求項8にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心まわりの相対回転量に応じて弾性変形する弾性部材を備えていることから、その弾性部材を含んで構成される相対回転抑制装置を介して外筒部と内筒部とが相対回転されることで、駆動系の一部である車両用等速自在継手のねじり剛性が低下して駆動系の共振周波数が低下し、ドライブシャフトのねじり共振が抑制されるので、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる。
【0027】
また、請求項9にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えていることから、その減衰要素において駆動系に発生するねじり振動が吸収されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる。
【0028】
また、請求項10にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との周方向の間隙に設けられていることから、駆動系に発生するねじり振動は必ず相対回転抑制装置を介して外筒部と内筒部との間を伝播するようになっているので、駆動系にて発生するねじり振動を確実に抑制することができる。
【0029】
また、請求項11にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対回転量を所定の範囲内に規制する相対回転制限装置を備えていることから、相対回転抑制装置に過度な負担がかかることを防止できるとともに、例えば加速走行時などの比較的高いトルクが伝達されるときには車両用等速自在継手のねじり剛性が高くされるので、車両用等速自在継手の耐久性や車両の操縦安定性が確保できる。
【0030】
また、請求項12にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記外筒部と前記内筒部との間に設けられ、それら内筒部および外筒部の軸心まわりの相対回転を案内する相対回転案内装置を備えていることから、内筒部および外筒部の回転軸心を略一定に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0032】
図1は、本発明の一実施例のトリポード型摺動式車両用等速自在継手(以下では等速自在継手という)10が適用されたドライブシャフト12を含むドライブトレーン(駆動系)14の一部、および駆動輪16と車体18との連結状態を示す一部断面図である。図1において、このドライブトレーン14は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の駆動形式を採用する車両のものであり、車両走行用の動力源として内燃機関で構成される例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジン20と、そのエンジン20の後段に設けられ、エンジン20の出力を流体を介して伝達するロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ21と、そのトルクコンバータ21の後段に設けられ、トルクコンバータ21の出力回転を変速する変速機22と、その変速機22の出力回転を減速するとともに、左右一対の駆動輪16の回転差を許容しつつそれら一対の駆動輪16を回転駆動する差動歯車装置24とを含んで構成されている。
【0033】
上記駆動輪16は、サスペンション26や複数のリンク部材28を介して車体18に連結されるとともにそのリンク部材28の1つにベアリング30を介して回転可能に支持されたホイールハブ32と、そのホイールハブ32の外周部に嵌め付けられたブレーキディスク34と、外周部にタイヤ36が嵌め付けられるとともにホイールハブ32に固定されたホイール38とを備えている。
【0034】
上記ドライブシャフト12は、差動歯車装置24と左右一対の駆動輪16とをそれぞれ動力伝達可能に連結するものである。本実施例では、車両の左右方向すなわち幅方向に平行な断面図である図1に示すように、差動歯車装置24が車両の右側すなわち図1の右側に配設されている。このため、車両の左側に設けられたドライブシャフト12は、長くなることで強度上において不利となることのないように、一端が差動歯車装置24に動力伝達可能に連結されるとともに他端が車体18に固定されたマウント40により軸心まわりの回転可能に支持された連結シャフト42を介して、間接的に差動歯車装置24と駆動輪16とを連結している。
【0035】
この左右一対のドライブシャフト12は、被動側シャフト部材44と、その被動側シャフト部材44に対して本実施例の等速自在継手10により連結された中間シャフト部材46と、その中間シャフト部材46に対してよく知られた所謂ツェッパ型固定式等速自在継手48により連結された駆動側シャフト部材50とを含んで構成されている。
【0036】
上記被動側シャフト部材44は、一端部が差動歯車装置24の出力部材としての図示しないサイドギヤに対して動力伝達可能なように直接的または間接的に連結された被動側シャフト部52と、底部がその被動側シャフト部52の他端部に結合されることでその被動側シャフト部52と一体的に構成された有底円筒状部材であって、軸心C1方向に平行な複数本の溝54を円筒内周面55に備えた外輪56とを備えている。この外輪56は、等速自在継手10の一部を構成している。
【0037】
図2は、図1の等速自在継手10を外輪56の軸心C1を通る断面で示すII−II矢視部断面図である。また、図3は、等速自在継手10を外輪56の軸心C1に直交する断面で示した図2のIII−III矢視部断面図である。図1乃至および図3において、等速自在継手10は、上記外輪56と、軸心C2を有してその外輪56内に配設された円筒状のボス部58およびそのボス部58の外周面から外輪56の複数本の溝54に向けて径方向外側にそれぞれ突き出す複数の脚軸60を有し、ボス部58において軸心C2方向に形成された軸孔62に前記中間シャフト部材46の一端部がスプライン嵌合されたトリポード部材64と、外輪56の複数本の溝54内に転動自在にそれぞれ配設されるとともに、複数の脚軸60によりその軸心C3まわりに配設された複数の針状ころ66を介して回転自在に支持された複数のローラ(ころ)68とを備えている。
【0038】
上記複数本の溝54には、軸心C1まわりの周方向において相対向するとともに軸心C1に直交する面内において円弧状断面を有する一対のローラ案内面70が形成されている。そして、上記ローラ68の外周面は、その軸心C3を通る面内において円弧状に形成されており、ローラ案内面70に対して線接触或いは点接触するようになっている。なお、トリポード部材64および中間シャフト部材46の結合体が、外輪56の複数本の溝54内に転動自在に配設された複数のローラ68を回転自在に支持するとともに一端部がその外輪56の開口から突き出す本発明における内輪に相当している。
【0039】
ローラ68は、溝54内において、上述のように転動可能すなわち外輪56に対して軸心C1と平行な方向に相対移動可能である。摺動式とは、ローラ68が溝54内で転動することによって、トリポード部材64が外輪56に対して軸心C1と平行な方向に相対移動可能であるということである。さらに、ローラ68は、外輪56に対してその外輪56の軸心C1とトリポード部材64の軸心C2との斜交角度が所定の角度範囲内で変化させられるように揺動可能であるとともに、脚軸60に対して軸心C3に平行な方向に相対移動可能である。
【0040】
このように構成された等速自在継手10においては、ローラ68が外輪56のローラ案内面70に沿ってその外輪56の底部と接触する被動側限界位置(インボード側位置)から外輪56の開口部端手前の駆動側限界位置(アウトボード側位置)まで転動することにより、中間シャフト部材46が外輪56に対して軸心C1方向に相対移動するようになっており、また、ローラ68が外輪56の溝54内において前述のように揺動することにより、中間シャフト部材46が外輪56の開口部と接触するまで外輪56に対して相対角度変化するようになっている。そして、この等速自在継手10においては、外輪56とトリポード部材64との間でそれらの軸心C1およびC2の斜交角度に拘わらず、等速でトルクを伝達するようになっている。
【0041】
ここで、本実施例の等速自在継手10は、上記構成に加えて、以下のような構成を備えている。図2および図3において、本実施例の外輪56は、底部が被動側シャフト部52の他端部に結合されることでその被動側シャフト部52と一体的に構成された有底円筒状部材であって、円筒内周面(内周面)72から軸心C1に平行な方向に連なり且つ軸心C1まわりの所定の間隔で径方向内側に向かって突き出す複数本の凸部74を有する外筒部76と、円筒外周面78から軸心C1に平行な方向に連なり且つ軸心C1まわりの所定の間隔で径方向内側に向かって凹む、上記複数の凸部74がそれぞれ嵌め入れられた複数本の凹部80を有する有底円筒状部材であって、前記複数本の溝54を円筒内周面55に備えて外筒部76に対して軸心C1方向に所定の範囲だけ相対移動可能且つ軸心C1まわりに所定の範囲だけ相対回転可能に嵌め入れられた内筒部82とを、備えて構成されている。
【0042】
外輪56の外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の間隙に相当する外筒部76の内周底面84と内筒部82の外周底面86との間隙89および外筒部76の開口部内端面88と内筒部82の開口部端面90との間隙91には、それぞれ、例えば高粘性シリコンや高粘性オイル等の高粘性物質を内包する弾性変形可能な一対の環状のゴム素子92が設けられている。このゴム素子92は、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を抑制する軸方向移動抑制装置として機能するものである。すなわち、このゴム素子92は、外輪56に外力が作用していない図2に示す状態を原位置としたときの外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動距離(相対移動量)Sに応じて弾性変形することでその変形方向とは反対の方向へ反発力を生じさせる弾性部材であるとともに、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素でもある。なお、ゴム素子92と外筒部76および内筒部82との間には、表面に例えばすべりを良くするためのポリクロロフルオロエチレンの重合体であるフッ素樹脂膜加工などの低摩擦加工が施された摺動板94がそれぞれ設けられている。本実施例において、上記ゴム素子92は、前記原位置を基準として外筒部76と内筒部82との相対移動距離Sが0(零)である場合すなわち上記間隙89、91が所定距離S1である場合において、変形量が0(零)となり且つ一対の摺動板94に対する隙間がそれぞれ0(零)となるように設けられている。
【0043】
外輪56の外筒部76と内筒部82との周方向の間隙に相当する外筒部76の凸部74と内筒部82の凹部80とで形成される周方向の間隙95には、外輪56に外力が作用していない図3に示す状態を原位置としたときの外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転角度(相対回転量)θに応じて弾性変形することでその変形方向とは反対の方向へ反発力を生じさせる弾性部材として、第1ばね96および第2ばね98が設けられている。これら第1ばね96および第2ばね98は、外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転を抑制する相対回転抑制装置として機能するものである。なお、第1ばね96および第2ばね98と凸部74および凹部80との間には、表面に例えばすべりを良くするためのポリクロロフルオロエチレンの重合体であるフッ素樹脂膜加工などの低摩擦加工が施された摺動板100がそれぞれ設けられている。本実施例において、上記第1ばね96は、前記原位置を基準として外筒部76と内筒部82との相対回転角度θが0(零)である場合すなわち上記周方向の間隙が所定角度θ2である場合において、与荷重が0(零)となり且つ一対の摺動板100に対する隙間がそれぞれ0(零)となるように設けられている。また、第2ばね98は、前記原位置を基準として外筒部76と内筒部82との相対回転角度θが所定角度θ1である場合すなわち上記周方向の間隙95が所定角度θ2と所定角度θ1との差である場合において、与荷重が0(零)となり且つ一対の摺動板100に対する隙間がそれぞれ0(零)となるように設けられている。
【0044】
外筒部76の円筒内周面72と内筒部82の円筒外周面78との間には、伝達トルクTの大きさに拘わらず内筒部82と外筒部76との軸心C1方向の相対移動および内筒部82と外筒部76との軸心C1まわりの相対回転を許容し且つそれら内筒部82および外筒部76を軸心C1方向および軸心C1まわりにそれぞれ案内する案内装置102が設けられている。この案内装置102は、軸方向案内装置および相対回転案内装置として機能するものである。具体的には、本実施例の案内装置102は、軸心C1まわりの所定の間隔であって外筒部76の凸部74と内筒部82の凹部80との間において、それぞれ軸心C1方向に2カ所ずつ設けられている。この案内装置102は、外筒部76の凸部74の先端面に矩形断面を有して軸心C1方向に穿設された摺動溝104内に嵌め入れられた直方体状の摺動体106と、その外筒部76の摺動溝104の底面と摺動体106とにそれぞれ形成された相対向する一対の軸方向溝108と、内筒部82の凹部80の底面と摺動体106とにそれぞれ形成された相対向する一対の周方向溝110と、一対の軸方向溝108内に嵌め入れられた球体状の軸方向転動体(転動体)112と、一対の周方向溝110内に嵌め入れられた球体状の周方向転動体(転動体)114とを有し、それら軸方向転動体112および周方向転動体114をそれぞれ介して外筒部76と内筒部82とを軸心C1方向に相対移動可能且つ周方向に相対回転可能に支持している。すなわち、外筒部76と内筒部82とは、軸心C1方向において、計6個設けられた一対の軸方向溝108にそれぞれ線接触或いは点接触する軸方向転動体112により支持されており、また、軸心C1まわりの周方向において、計6個設けられた一対の周方向溝110にそれぞれ線接触或いは点接触する周方向転動体114により支持されている。したがって、外輪56にトルクが作用している場合であっても、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動すなわち摺動が滑らかに行われるようになっている。なお、一対の軸方向溝108が、本発明における外筒部76の内周面と内筒部82の外周面とにそれぞれ形成された相対向する一対の軸方向溝に相当するものである。
【0045】
上記案内装置102は、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動距離Sを所定の範囲内に規制する軸方向移動制限装置、および外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転角度θを所定の範囲内に規制する相対回転制限装置としても機能している。すなわち、案内装置102は、図2の案内装置102を拡大して示す図4において実線で示すように、外筒部76と内筒部82とが軸心C1方向に相対移動することにより軸方向転動体112が一対の軸方向溝108のうち一方の一端部に当接しつつ他方の他端部に当接した場合、それ以上の外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を阻止するようになっている。したがって、外筒部76と内筒部82とは、外力が作用していない図2に示す状態すなわち図4において2点鎖線で示す状態を原位置とした場合、その原位置から図4において実線で示す状態まで相対移動可能となっている。案内装置102によって許容される片側相対移動許容距離Saは、図4に示すように軸方向溝108の軸方向長さLと軸方向転動体112の直径Dとの差となる。なお、これら軸方向長さLおよび直径Dは、片側相対移動許容距離Saが前記所定距離S1を下回るように設定される。すなわち、所定距離S1は、片側相対移動許容距離Saを上回るように設定される。また、前記相対移動距離Sを所定の範囲内に規制するとは、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動距離Sが原位置を基準として−Saから+Saの範囲内に規制されることを意味する。
【0046】
また、案内装置102は、図3の案内装置102を拡大して示す図5において実線で示すように、外筒部76と内筒部82とが軸心C1まわりに相対移動することにより周方向転動体114が一対の周方向溝110のうち一方の一端部に当接しつつ他方の他端部に当接した場合、それ以上の外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転を阻止するようになっている。したがって、外筒部76と内筒部82とは、外力が作用していない図3に示す状態すなわち図5において2点鎖線で示す状態を原位置とした場合、その原位置から図5において実線で示す状態まで相対回転可能となっている。案内装置102によって許容される片側相対回転許容角度θaは、図5に示すように周方向溝110の周方向角度θRと周方向転動体114の周方向角度θDとの差となる。なお、これら周方向角度θRおよびθDは、片側相対回転許容角度θaが前記所定角度θ2を下回るように設定される。すなわち、所定角度θ2は、片側相対回転許容角度θaを上回るように設定される。また、前記相対回転角度θを所定の範囲内に規制するとは、外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転角度θが原位置を基準として−θaから+θaの範囲内に規制されることを意味する。
【0047】
このように構成された外輪56においては、その外輪56に作用する軸心力Fと相対移動距離Sとの関係を示す図6に示すように、相対移動距離Sが−Sa〜+Saの範囲内(スラスト加振範囲内)では次式(1)が成り立つ。なお、式(1)中において、ksは、ゴム素子92のバネ定数[N/m]すなわち加えられた力の大きさと縮み量または伸び量との比の値である。
【0048】
F=ks×S ・・・(1)
【0049】
そして、相対移動距離Sが−Sa或いは+Saに達すると、前述のように案内装置102によりそれ以上の相対移動が制限されることで、軸心力Fが増加しても相対移動距離Sが変化しないようになっている。
【0050】
したがって、相対移動距離Sが−Sa〜+Saの範囲内である状態においては、駆動系において発生した軸心方向の強制力の伝達が等速自在継手10の外輪56において低減されるようになっている。
【0051】
また、外輪56においては、その外輪56に作用するトルクTと相対回転角度θとの関係を示す図7に示すように、相対回転角度θが−θ1〜+θ1の範囲内では次式(2)が成り立つ。なお、式(2)中において、kθ1は、第1ばね96のねじり剛性[N・m/rad]すなわち加えられたトルクの大きさと縮み量または伸び量との比の値である。
【0052】
T=kθ1×θ ・・・(2)
【0053】
そして、相対回転角度θが−θa〜−θ1および+θ1〜+θaの範囲内では次式(3)が成り立つ。なお、式(3)中において、kθ2は、第2ばね98のねじり剛性[N・m/rad]すなわち加えられたトルクの大きさと縮み量または伸び量との比の値である。
【0054】
T=(kθ1+kθ2)×θ−T1 ・・・(3)
【0055】
さらに、相対回転角度θが−θa或いは+θaに達すると、前述のように案内装置102によりそれ以上の相対回転が制限されることで、トルクTが増加しても相対回転角度θが変化しないようになっている。
【0056】
したがって、相対回転角度θが−θa〜+θaの範囲内である状態においては、相対回転角度θが−θa或いは+θaに達した状態に比較して外輪56のねじり剛性が小さくされるようになっている。特に、本実施例では、相対回転角度θが−θ1〜+θ1の範囲内にあるときは、相対回転角度θが−θa〜−θ1および+θ1〜+θaの範囲内にあるときに比較して外輪56のねじり剛性が小さくされるようになっている。本実施例では、例えば、変速機22や差動歯車装置24内のギヤの噛合誤差に起因するギヤノイズ、およびトルクコンバータ21のロックアップクラッチ係合に起因するロックアップこもり音の発生するトルク範囲が、図7に示すように0(零)から所定角度θ1に対応する所定トルクTθ1までの範囲となるように、上記所定角度θ1が設定されている。また、本実施例では、例えば、アイドリング振動の発生するトルク範囲が、図7に示すように上記所定トルクTθ1から片側相対回転許容角度θaに対応する所定トルクTθaまでの範囲となるように、所定角度θ1および片側相対回転許容角度θaが設定されている。
【0057】
以下においては、上述のように構成される本実施例の等速自在継手10を備える車両の駆動系の振動特性について説明する。
【0058】
先ず、本実施例の外輪56のように外筒部76および内筒部82を備えてそれらが相対移動或いは相対回転するように構成されていない外輪を有する、従来例のトリポード型摺動式等速自在継手を備える車両の振動特性に関して考察する。このような従来例の車両では、発進時にトリポード型摺動式等速自在継手において誘起スラスト力が生じる。この誘起スラスト力は、ドライブシャフト12の折れ角すなわち前記斜交角度が増大するほど大きくなる。この誘起スラスト力に起因する共振によって、駆動系に振動が発生する。この振動は、サスペンション26やリンク部材28或いは図示しないエンジンマウント等を介して駆動系に連結された車体18に伝達され、車体18に横揺れ振動を生じさせる。
【0059】
また、従来例の車両では、アイドリング時に発生する例えば図1に矢印Aで示すようなエンジンロール振動が従来例トリポード型摺動式等速自在継手などを介して車体18に伝達される。これにより、車体18を左右に振動させるアイドル振動が生じる。
【0060】
また、従来例の車両では、エンジン20の例えば爆発1次トルク変動やそのエンジン20とは別に設けられた動力源としてのモータのトルク変動、或いは変速機22や差動歯車装置24内のギヤの噛合誤差に起因して、ドライブシャフト12の曲げ共振やねじり共振が発生する。このドライブシャフト12の曲げ共振やねじり共振によって、振動および車内こもり音やノイズなどの不快な騒音が発生する。
【0061】
図8は、エンジン20において発生した爆発1次トルク変動が駆動系に伝達され、その爆発1次トルク変動によってドライブシャフト12のねじり共振が発生し、ドライブシャフト12から出力されるトルク変動が車体(ボデー)18に伝達されることを示すブロック図である。
【0062】
図9は、車両の駆動系をマス(質量)とダンパとで表した等価4自由度モデル(駆動系ねじり共振モデル)を示す図である。図9において、等価4自由度モデルは、エンジン20のクランクシャフトおよびトルクコンバータ21の1次側(トルクコンバータ21の入力軸およびポンプ翼車)を含み、慣性モーメントI1を有するマスM1と、トルクコンバータ21の2次側(トルクコンバータの出力軸およびタービン翼車)、変速機22、および差動歯車装置24を含み、慣性モーメントI2を有するマスM2と、駆動輪16を含み、慣性モーメントI3を有するマスM3と、サスペンション26および車体18を含み、慣性モーメントI4を有するマスM4とを、備えている。そして、マスM1とマスM2との間は、ねじり剛性kθM12を有するトルクコンバータ16のロックアップダンパにより連結されている。また、マスM2とマスM3との間は、ねじり剛性kθM23を有する上記従来例のトリポード型摺動式等速自在継手を備えるドライブシャフトにより連結されている。また、マスM3とマスM4との間は、ねじり剛性kθM34を有するタイヤ36により連結されている。
【0063】
図9に示す等価4自由度モデルの運動方程式を計算すると、前述のような振動や騒音を発生させる低回転領域のねじり振動に最も影響を与えているのは、ねじり共振2次モードであることがわかる。図10は、その結果、すなわち図9に示す等価4自由度モデルにおける低回転領域のねじり振動の挙動を電子計算機によってシミュレーションした結果を示す図である。図10は、ねじり共振2次モード(振動モード)を示すものであって、マスM1乃至M3のねじれの指標(各マス相互の相対的な振幅または角度)を矢印a、b、cの長さで表した図である。なお、図10において、マスM4はほとんど動いていない。図10に示すように、このねじり共振2次モードにおいて最もねじれているのはマスM2であり、この駆動モードで共振を低減させるには、ドライブシャフト10のねじり剛性KθM23を低下させるか或いはロックアップダンパのねじり剛性KθM12を低下させることが効果的であると考えられる。
【0064】
図11乃至図13は、本実施例の等速自在継手10を含む振動系の全体の振動特性を示す図であって、発生する振動の周波数[Hz]またはエンジン回転速度NE[rpm]とトルク変動伝達率(振動伝達レベル)[dB]との関係を示す図である。図11乃至図13において、点線は、前記従来例のトリポード型摺動式等速自在継手を備えた車両の振動系における振動特性を示すものである。また、実線は、本実施例の等速自在継手10を備えた車両の振動系における振動特性を示すものである。なお、図11は、比較的広範な周波数範囲である50〜1450[Hz]を示す図であり、また、図12は、特に駆動系ねじり共振に関連する周波数範囲である15〜50[Hz]を示す図である。図14は、ドライブシャフト12の曲げ共振による振動モードを点線や1点鎖線で示すものであり、図13は、従来例および本実施例に加えて、曲げ共振を低減するために図14の各振動モードの腹に対応する部分などによく知られた所謂ダイナミックダンパを備えた車両の振動系における振動特性を示すものである。なお、図13は、特に車内こもり音に関連する周波数範囲である50〜200[Hz]を示す図である。
【0065】
図11および図13に示すように、本実施例では、車内こもり音に関連する50〜200[Hz]辺り(図11の矢印dで示す範囲)の振動伝達率が従来例に比較して小さくなっている。また、ダイナミックダンパを備えた例に比較しても、より効果的に振動伝達率が小さくなっている。
【0066】
また、図11に示すように、本実施例では、ギヤノイズに関連する400〜900[Hz]辺り(矢印eで示す範囲)の振動伝達率が従来例に比較して小さくなっている。
【0067】
また、図11に示すように、本実施例では、モータノイズに関連する850〜1450[Hz]辺り(矢印fで示す範囲)の振動伝達率が従来例に比較して小さくなっている。
【0068】
また、図12に示すように、本実施例では、低伝達トルク状態におけるねじり剛性が小さくされたことによって駆動系のねじり共振周波数が矢印gのように低下させられている。すなわち、同じエンジン回転速度NEであっても、本実施例の方が従来例よりも振動レベルを示すトルク変動伝達率が低下させられている。
【0069】
上述のように、本実施例の等速自在継手10によれば、外筒部76の円筒内周面(内周面)72と内筒部82の円筒外周面(外周面)78との間に設けられ、伝達トルクTの大きさに拘わらず外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を許容しつつそれら内筒部82および外筒部76をその軸心C1方向に案内する案内装置(軸方向案内装置)102と、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を抑制するゴム素子(軸方向移動抑制装置)92とを、備えて構成されていることから、この等速自在継手10が駆動系の一部の例えばドライブシャフト12等に用いられることで、その駆動系に発生する振動の要因となるドライブシャフト12に作用する軸心C1方向の軸心力(強制力)Fの伝達が抑制されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる。
【0070】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、案内装置(軸方向案内装置)102は、外筒部76の円筒内周面(内周面)72の凸部74の先端面に矩形断面を有して軸心C1方向に穿設された摺動溝104内に嵌め入れられた直方体状の摺動体106と、その外筒部76の摺動溝104の底面と摺動体106とにそれぞれ形成された相対向する一対の軸方向溝108と、内筒部82の円筒外周面(外周面)78の凹部80の底面と摺動体106とにそれぞれ形成された相対向する一対の周方向溝110と、一対の軸方向溝108内に嵌め入れられた球体状の軸方向転動体112と、一対の周方向溝110内に嵌め入れられた球体状の周方向転動体114とを有し、それら軸方向転動体112および周方向転動体114をそれぞれ介して外筒部76と内筒部82とを軸心C1方向に相対移動可能且つ周方向に相対回転可能に支持するものであることから、軸方向転動体112と一対の軸方向溝108とがそれぞれ線接触或いは点接触することで外筒部76と内筒部82との間の摺動抵抗が可及的に小さくされ、トルクがかかった状態であっても外筒部76と内筒部82とが軸心C1方向に滑らかに相対移動可能であるので、駆動系に発生する振動を十分に吸収して抑制することができる。
【0071】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、ゴム素子(軸方向移動抑制装置)92は、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動距離(相対移動量)Sに応じて弾性変形する弾性部材であることから、等速自在継手10に作用する軸心C1方向の軸心力(強制力)Fの大きさに応じてその軸心力Fの伝達方向とは反対の方向へ反発力が作用し、外筒部76と内筒部82との間において伝播される軸心力Fが低減されるので、その軸心力Fに起因して駆動系にて発生する振動を十分に抑制することができる。
【0072】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、ゴム素子(軸方向移動抑制装置)92は、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素であることから、等速自在継手10を含む駆動系にて発生する振動がゴム素子92で吸収されるので、駆動系にて発生する振動を十分に抑制することができる。
【0073】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、ゴム素子(軸方向移動抑制装置)92は、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の間隙に設けられていることから、等速自在継手10に作用する軸心C1方向の軸心力(強制力)Fは必ずそのゴム素子92を介して外筒部76と内筒部82との間を伝播するようになっているので、駆動系にて発生する振動を確実に抑制することができる。
【0074】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動距離(相対移動量)Sを所定の範囲内すなわち原位置を基準として−Saから+Saの範囲内に規制する案内装置(軸方向移動制限装置)102を備えていることから、ゴム素子92に過度な負担がかかることを防止できる。
【0075】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、外筒部76と内筒部82との間に設けられ、それら外筒部76と内筒部82との相対回転を抑制するゴム素子(相対回転抑制装置)92を備えていることから、そのゴム素子92を介して外筒部76と内筒部82とが相対回転されることで、駆動系の一部であるドライブシャフト12のねじり剛性Kθ2が低下して駆動系のねじり共振周波数が低下し、ドライブシャフト12のねじり共振が抑制されるので、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる。
【0076】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、ゴム素子(相対回転抑制装置)92は、外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転角度(相対回転量)θに応じて弾性変形する弾性部材であることから、そのゴム素子92を介して外筒部76と内筒部82とが相対回転されることで、駆動系の一部であるドライブシャフト12のねじり剛性Kθ2が低下して駆動系のねじり共振周波数が低下し、ドライブシャフト12のねじり共振が抑制されるので、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる。
【0077】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、ゴム素子(相対回転抑制装置)92は、外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素であることから、そのゴム素子92において駆動系に発生するねじり振動が吸収されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる。
【0078】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、ゴム素子(相対回転抑制装置)92は、外筒部76と内筒部82との周方向の間隙に設けられていることから、駆動系に発生するねじり振動は必ずそのゴム素子92を介して外筒部76と内筒部82との間を伝播するようになっているので、駆動系にて発生するねじり振動を確実に抑制することができる。
【0079】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対回転角度(相対回転量)θを所定の範囲内すなわち原位置を基準として−θaから+θaの範囲内に規制する案内装置(相対回転制限装置)102を備えていることから、ゴム素子92に過度な負担がかかることを防止できるとともに、例えば加速走行時などの比較的高いトルクが伝達されるときには等速自在継手10のねじり剛性が従来どおりに高くされるので、等速自在継手10の耐久性や車両の操縦安定性が確保できる。
【0080】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、外筒部76と内筒部82との間に設けられ、それら外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転を案内する案内装置(相対回転案内装置)102を備えていることから、外筒部76と内筒部82との回転軸心C1を略一定に保つことができる。
【0081】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、前記軸方向移動抑制装置としてのゴム素子92と前記相対回転抑制装置としての第1ばねおよび第2ばねとが外筒部76と内筒部82との間に設けられていることから、外輪56にそれら抑制装置をまとめることができるので、簡便な構成で軸方向および回転方向の制振機能を得ることができる。
【0082】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0083】
たとえば、前述の実施例において、等速自在継手10は、外輪56が外筒部76に対して軸心C1方向に所定の範囲だけ相対移動可能且つ軸心C1まわりに所定の範囲だけ相対回転可能に嵌め入れられた内筒部82を備えて構成されていたが、これに限らない。例えば、図15および図16に示すように、等速自在継手10は、外筒部76に対して軸心C1方向に所定の範囲だけ相対移動可能に嵌め入れられた内筒部82を有する外輪56を備えて構成されてもよい。すなわち、外筒部76と内筒部82とが軸心C1まわりの相対回転不能であっても軸心C1方向に相対移動可能であれば、一応の効果は得られる。
【0084】
外輪56が上述のように構成されることに伴って、案内装置102は、外筒部76と内筒部82との相対回転を案内するための周方向転動体114および周方向溝110を備えていなくても良い。すなわち、案内装置102は、内筒部82の外筒部76に対する軸心C1まわりの相対回転を案内する相対回転案内装置としての機能を備えていなくてもよい。また、案内装置102は、外筒部76と内筒部82との相対回転角度θを所定の範囲内に規制する相対回転制限装置としての機能を備えていなくてもよい。また、案内装置102は、外筒部76と内筒部82との相対回転を抑制するための第1ばね96および第2ばね98を備えていなくてもよい。すなわち、案内装置102は、外筒部76と内筒部82との相対回転を抑制する相対回転抑制装置としての機能を備えていなくてもよい。
【0085】
また、前述の実施例において、等速自在継手10は、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を抑制する軸方向移動抑制装置としてのゴム素子92を備えて構成されていたが、これに限らない。要するに、前記相対移動を抑制する軸方向移動抑制装置として機能するものであれば、ゴム素子92以外であっても用いられ得る。すなわち、外筒部76と内筒部82との相対移動距離Sに応じて弾性変形する弾性部材或いは外筒部76と内筒部82との相対移動速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素の少なくとも一方を備えて構成されていればよい。例えば、図15に示すように、軸心C1方向に伸縮するスプリング116を含んで構成されてもよい。また、例えば、金属や樹脂などから形成されて軸心C1方向に付勢力を発生する板バネを含んで構成されてもよい。また、例えば、液体が流れるときの抵抗を利用して振動を吸収して減衰させる機能を有する所謂ショックアブソーバーであってもよい。
【0086】
また、上記ゴム素子92が用いられる場合であっても、例えば高粘性シリコンや高粘性オイル等の高粘性物質を内包する弾性変形可能な環状のものに限らない。たとえば、ゴム素子92は、円形状或いは多角形状の断面を有する柱状のものであってもよい。また、軸心C1まわりに複数個設けられてもよい。
【0087】
また、前述の実施例において、等速自在継手10は、外筒部76の内周底面84と内筒部82の外周底面86との間および外筒部76の開口部内端面88と内筒部82の開口部端面90との間に一対の環状のゴム素子92がそれぞれ設けられていた。しかし、これに限らず、外筒部76の内周底面84と内筒部82の外周底面86との間、或いは外筒部76の開口部内端面88と内筒部82の開口部端面90との間の少なくとも一方に上記ゴム素子92が設けられていればよい。要するに、軸方向移動抑制装置は、外筒部76と内筒部82との間の軸心C1方向の間隙に設けられていればよい。
【0088】
また、前述の実施例において、等速自在継手10は、駆動形式に拘わらず例えばFF車両やFR車両や4WD車両などの種々の駆動形式を採用する車両において用いられるドライブシャフトやプロペラシャフト等の連結部を構成するものとして好適に用いられる。また、本発明は、動力伝達経路において所定の斜交角度すなわち作動角度を有する駆動側と被動側との2軸間でトルクを伝達する等速自在継手であれば適用することが可能である。すなわち、例えば、トリポート型等速自在継手、ダブルオフセット型等速自在継手、およびクロスグルーブ型等速自在継手などの摺動式等速自在継手、或いはツェッパ型等速自在継手やアンダーカットフリー型等速自在継手などの固定式等速自在継手等に適用することができる。
【0089】
また、前述の実施例において、第1ばね96および第2ばね98は、相対回転抑制装置として機能するものであって、図7に示すように伝達トルクTと相対回転角度θとが2段階の非線形特性を有するものであったが、これに限らず、線形特性を有するものであってもよいし、連続的に特性が変わるものであってもよい。これにより、上記特性は、駆動系に発生する振動に応じてその振動が抑制されるように適宜調整(チューニング)し得る。
【0090】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施例のトリポード型摺動式等速自在継手が適用されたドライブシャフトを含むドライブトレーンの一部、および駆動輪と車体との連結状態を示す一部断面図である。
【図2】図1のトリポード型摺動式等速自在継手を外輪の軸心を通る断面で示すII矢視部断面図である。
【図3】図1のトリポード型摺動式等速自在継手を外輪の軸心に直交する断面で示した図2のIII−III矢視部断面図である。
【図4】図2の案内装置を拡大して示す断面図である。
【図5】図3の案内装置を拡大して示す断面図である。
【図6】図1の外輪に作用する軸心力と相対移動距離との関係を示す図である。
【図7】図1の外輪に作用する軸心力と相対回転角度との関係を示す図である。
【図8】エンジンにおいて発生した爆発1次トルク変動が駆動系に伝達され、その爆発1次トルク変動によってドライブシャフトのねじり共振が発生し、ドライブシャフトから出力されるトルク変動が車体に伝達されることを説明するブロック図である。
【図9】車両の駆動系のねじり振動系をマスとダンパとで簡素化して表した等価4自由度モデルを示す図である。
【図10】図9に示す等価4自由度モデルの運動方程式の計算結果として、ねじれの指標すなわち各マスの相互の相対的な振幅を示した図である。
【図11】図1のトリポード型摺動式等速自在継手を含む振動系の全体の振動特性を示す図であって、発生する振動の周波数とトルク変動伝達率との関係を示す図である。
【図12】図1のトリポード型摺動式等速自在継手を含む振動系の全体の振動特性を示す図であって、発生する振動の周波数またはエンジン回転速度とトルク変動伝達率との関係を示す図である。
【図13】図1のトリポード型摺動式等速自在継手を含む振動系の全体の振動特性を示す図であって、発生する振動の周波数とトルク変動伝達率との関係を示す図である。
【図14】ドライブシャフトの曲げ共振による振動モードを示す図である。
【図15】本発明の他の実施例のトリポード型摺動式等速自在継手を示す図であって、実施例1の図2に対応する断面図である。
【図16】図15のトリポード型摺動式等速自在継手を外輪の軸心に直交する断面で示した図15のXV−XV矢視部断面図である。
【符号の説明】
【0092】
10:トリポード型摺動式車両用等速自在継手(等速自在継手)
54:溝
55、72:円筒内周面(内周面)
56:外輪
68:ローラ(ころ)
76:外筒部
78:円筒外周面(外周面)
82:内筒部
89、91:間隙
92:ゴム素子(軸方向移動抑制装置、弾性部材、減衰要素)
96:第1ばね(相対回転抑制装置、弾性部材)
98:第2ばね(相対回転抑制装置、弾性部材)
102:案内装置(軸方向案内装置、相対回転案内装置、軸方向移動制限装置、相対回転制限装置)
108:軸方向溝
110:周方向溝
112:軸方向転動体(転動体)
114:周方向転動体(転動体)
S:相対移動距離(相対移動量)
θ:相対回転角度(相対回転量)
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸心の交差角が相対的に変化する2つの回転部材の間を等速回転で連結する車両用等速自在継手の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の変速機或いは差動歯車装置から駆動輪への動力伝達などに際して用いられる車両用等速自在継手が知られている。たとえば、特許文献1に記載されたトリポード型等速自在継手がそれである。このような等速自在継手は、たとえば、軸心方向に平行な複数本の溝を内周面に備えた有底円筒状の外輪と、その外輪の複数本の溝内に転動自在に配設される複数のころを回転自在に支持し、一端部がその外輪の開口から突き出す内輪とを備え、その外輪とその内輪との間でそれらの軸心の斜交角度(ジョイント角)に拘わらず等速でトルクを伝達するようになっている。上記内輪は、例えば、シャフト部材とそのシャフト部材の一端に嵌め付けられたスリーブ部材とから構成される。
【特許文献1】特開2005−133890号公報
【特許文献2】特開平8−40005号公報
【0003】
そして、等速自在継手には、前記内輪が前記外輪に対してその外輪の軸心方向に相対移動することが許容された摺動式等速自在継手として、例えば上記トリポート型等速自在継手、ダブルオフセット型等速自在継手、およびクロスグルーブ型等速自在継手などがあり、また、上記内輪が外輪に対してその外輪の軸心方向において固定され、それら内輪と外輪との最大交差角が比較的大きくとれる固定式等速自在継手として、例えばツェッパ型等速自在継手やアンダーカットフリー型等速自在継手などがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の等速自在継手を含む駆動系では、車両発進時において等速自在継手に作用する誘起スラスト力に起因する車体の横揺れ振動や、アイドリング時において例えばエンジンロール振動等が等速自在継手などを介して車体に伝達されることによるアイドル振動、或いは車両走行時においてエンジンやモータのトルク変動によって生じるドライブシャフトの曲げ共振に起因する車内こもり音または変速機内のギヤの噛合誤差に起因するギヤノイズなどが発生するという問題がある。これらの振動は、前記内輪と前記外輪との軸心方向の相対移動が許容される摺動式等速自在継手を駆動系の一部に用いることによって、ある程度抑制することができる。しかし、このような摺動式等速自在継手においては、外輪の内周面に形成された前記複数の溝内を内輪に支持された前記複数のころが転動することによって内輪が外輪に対してその外輪の軸心方向に相対移動するようになっているが、その相対移動に際して上記溝ところとの間、およびそのころと内輪との間に摩擦が生じるために、前記のような振動を必ずしも十分に吸収して抑制することはできない。
【0005】
特許文献2には、前記内輪を構成するシャフト部材とスリーブ部材とがセレーション嵌合され、それらシャフト部材とスリーブ部材との軸心方向の間隙に弾性部材が設けられた等速自在継手が記載されている。これによれば、シャフト部材にその軸心方向の振動が作用すると弾性部材がその振動を吸収して振動を抑制することができるとされている。しかしながら、この特許文献2に記載の等速自在継手では、トルクがかかっている状態においてシャフト部材とスリーブ部材との間に摺動抵抗が生じるために、それらシャフト部材とスリーブ部材との軸心方向の相対移動作動が十分機能せず、前記のような振動を必ずしも十分に吸収して抑制することはできない。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる車両用等速自在継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(1)有底円筒状の外筒部と、軸心方向に平行な複数本の溝を内周面に備えてその外筒部に対して軸心方向の相対移動可能に外筒部内に嵌め入れられた内筒部とを備えた有底円筒状の外輪と、その内筒部の内周面に軸心方向に平行に形成された複数本の溝内に転動自在にそれぞれ配設された複数のころを回転自在に支持し、一端部が円筒部の開口から突き出す内輪とを備え、外輪と内輪との間でそれらの軸心の斜交角度に拘わらず等速でトルクを伝達する車両用等速自在継手であって、(2)前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面との間に設けられ、前記トルクの大きさに拘わらず内筒部と外筒部との軸心方向の相対移動を許容し且つ内筒部および外筒部をその軸心方向に案内する軸方向案内装置と、(3)外筒部と内筒部との軸心方向の相対移動を抑制する軸方向移動抑制装置とを、含むことにある。
【0008】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記軸方向案内装置は、前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面とにそれぞれ形成された相対向する一対の軸方向溝と、その相対向する一対の軸方向溝内に嵌め入れられた転動体とを有し、その転動体を介して外筒部と内筒部とを軸心方向の相対移動可能に支持するものであることにある。
【0009】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1または2にかかる発明において、前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動量に応じて弾性変形する弾性部材を備えていることにある。
【0010】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至3のいずれか1にかかる発明において、前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えていることにある。
【0011】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれか1にかかる発明において、前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の間隙に設けられていることにある。
【0012】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至5のいずれか1にかかる発明において、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動量を所定の範囲内に規制する軸方向移動制限装置を備えていることにある。
【0013】
また、請求項7にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至6のいずれか1にかかる発明において、前記外筒部と前記内筒部との間に設けられ、それら内筒部と外筒部との相対回転を抑制する相対回転抑制装置を備えていることにある。
【0014】
また、請求項8にかかる発明の要旨とするところは、請求項7にかかる発明において、前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心まわりの相対回転量に応じて弾性変形する弾性部材を備えていることにある。
【0015】
また、請求項9にかかる発明の要旨とするところは、請求項7または8にかかる発明において、前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えていることにある。
【0016】
また、請求項10にかかる発明の要旨とするところは、請求項7乃至9のいずれか1にかかる発明において、前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との周方向の間隙に設けられていることにある。
【0017】
また、請求項11にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至10のいずれか1にかかる発明において、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対回転量を所定の範囲内に規制する相対回転制限装置を備えていることにある。
【0018】
また、請求項12にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至11のいずれか1にかかる発明において、前記外筒部と前記内筒部との間に設けられ、それら内筒部および外筒部の軸心まわりの相対回転を案内する相対回転案内装置を備えていることにある。
【発明の効果】
【0019】
請求項1にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記外輪の外筒部の内周面とその外筒部に嵌め入れられた内筒部の外周面との間に設けられ、前記トルクの大きさに拘わらず内筒部と外筒部との軸心方向の相対移動を許容し且つ内筒部および外筒部をその軸心方向に案内する軸方向案内装置と、外筒部と内筒部との軸心方向の相対移動を抑制する軸方向移動抑制装置とを含んで構成されていることから、この車両用等速自在継手が駆動系の一部の例えばドライブシャフト等に用いられることにより、その駆動系に発生する振動の要因となるドライブシャフトに作用する軸心方向の強制力(スラスト力)の伝達が抑制される(吸収される)ので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる。
【0020】
また、請求項2にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記軸方向案内装置は、前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面とにそれぞれ形成された相対向する一対の軸方向溝と、その相対向する一対の軸方向溝内に嵌め入れられた転動体とを有し、その転動体を介して外筒部と内筒部とを軸心方向の相対移動可能に支持するものであることから、例えば球体などにより構成される転動体と一対の軸方向溝とが線接触或いは点接触することで外筒部と内筒部との間の摺動抵抗が可及的に小さくされ、トルクがかかった状態であっても外筒部と内筒部とが軸心方向に滑らかに相対移動可能であるので、駆動系に発生する振動を十分に吸収して抑制することができる。
【0021】
また、請求項3にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動量に応じて弾性変形する弾性部材を備えていることから、車両用等速自在継手に作用する軸心方向の強制力の大きさに応じてその強制力の伝達方向とは反対の方向へ反発力が作用し、外筒部と内筒部との間において伝播される強制力が低減されるので、その強制力に起因して駆動系にて発生する振動を十分に抑制することができる。
【0022】
また、請求項4にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えていることから、その車両用等速自在継手を含む駆動系にて発生する振動が減衰要素で吸収されるので、駆動系にて発生する振動を十分に抑制することができる。
【0023】
また、請求項5にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の間隙に設けられていることから、車両用等速自在継手に作用する軸心方向の強制力は必ず軸方向移動抑制装置を介して外筒部と内筒部との間を伝播するようになっているので、駆動系にて発生する振動を確実に抑制することができる。
【0024】
また、請求項6にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動量を所定の範囲内に規制する軸方向移動制限装置を備えていることから、軸方向案内装置および軸方向移動抑制装置に過度な負担がかかることを防止できる。
【0025】
また、請求項7にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記外筒部と前記内筒部との間に設けられ、それら内筒部と外筒部との相対回転を抑制する相対回転抑制装置を備えていることから、例えばバネやゴム等の弾性部材を含んで構成される相対回転抑制装置を介して外筒部と内筒部とが相対回転されることで、駆動系の一部である車両用等速自在継手のねじり剛性が低下して駆動系の共振周波数が低下し、ドライブシャフトのねじり共振が抑制されるので、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる。
【0026】
また、請求項8にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心まわりの相対回転量に応じて弾性変形する弾性部材を備えていることから、その弾性部材を含んで構成される相対回転抑制装置を介して外筒部と内筒部とが相対回転されることで、駆動系の一部である車両用等速自在継手のねじり剛性が低下して駆動系の共振周波数が低下し、ドライブシャフトのねじり共振が抑制されるので、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる。
【0027】
また、請求項9にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えていることから、その減衰要素において駆動系に発生するねじり振動が吸収されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる。
【0028】
また、請求項10にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との周方向の間隙に設けられていることから、駆動系に発生するねじり振動は必ず相対回転抑制装置を介して外筒部と内筒部との間を伝播するようになっているので、駆動系にて発生するねじり振動を確実に抑制することができる。
【0029】
また、請求項11にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対回転量を所定の範囲内に規制する相対回転制限装置を備えていることから、相対回転抑制装置に過度な負担がかかることを防止できるとともに、例えば加速走行時などの比較的高いトルクが伝達されるときには車両用等速自在継手のねじり剛性が高くされるので、車両用等速自在継手の耐久性や車両の操縦安定性が確保できる。
【0030】
また、請求項12にかかる発明の車両用等速自在継手によれば、前記外筒部と前記内筒部との間に設けられ、それら内筒部および外筒部の軸心まわりの相対回転を案内する相対回転案内装置を備えていることから、内筒部および外筒部の回転軸心を略一定に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0032】
図1は、本発明の一実施例のトリポード型摺動式車両用等速自在継手(以下では等速自在継手という)10が適用されたドライブシャフト12を含むドライブトレーン(駆動系)14の一部、および駆動輪16と車体18との連結状態を示す一部断面図である。図1において、このドライブトレーン14は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の駆動形式を採用する車両のものであり、車両走行用の動力源として内燃機関で構成される例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジン20と、そのエンジン20の後段に設けられ、エンジン20の出力を流体を介して伝達するロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ21と、そのトルクコンバータ21の後段に設けられ、トルクコンバータ21の出力回転を変速する変速機22と、その変速機22の出力回転を減速するとともに、左右一対の駆動輪16の回転差を許容しつつそれら一対の駆動輪16を回転駆動する差動歯車装置24とを含んで構成されている。
【0033】
上記駆動輪16は、サスペンション26や複数のリンク部材28を介して車体18に連結されるとともにそのリンク部材28の1つにベアリング30を介して回転可能に支持されたホイールハブ32と、そのホイールハブ32の外周部に嵌め付けられたブレーキディスク34と、外周部にタイヤ36が嵌め付けられるとともにホイールハブ32に固定されたホイール38とを備えている。
【0034】
上記ドライブシャフト12は、差動歯車装置24と左右一対の駆動輪16とをそれぞれ動力伝達可能に連結するものである。本実施例では、車両の左右方向すなわち幅方向に平行な断面図である図1に示すように、差動歯車装置24が車両の右側すなわち図1の右側に配設されている。このため、車両の左側に設けられたドライブシャフト12は、長くなることで強度上において不利となることのないように、一端が差動歯車装置24に動力伝達可能に連結されるとともに他端が車体18に固定されたマウント40により軸心まわりの回転可能に支持された連結シャフト42を介して、間接的に差動歯車装置24と駆動輪16とを連結している。
【0035】
この左右一対のドライブシャフト12は、被動側シャフト部材44と、その被動側シャフト部材44に対して本実施例の等速自在継手10により連結された中間シャフト部材46と、その中間シャフト部材46に対してよく知られた所謂ツェッパ型固定式等速自在継手48により連結された駆動側シャフト部材50とを含んで構成されている。
【0036】
上記被動側シャフト部材44は、一端部が差動歯車装置24の出力部材としての図示しないサイドギヤに対して動力伝達可能なように直接的または間接的に連結された被動側シャフト部52と、底部がその被動側シャフト部52の他端部に結合されることでその被動側シャフト部52と一体的に構成された有底円筒状部材であって、軸心C1方向に平行な複数本の溝54を円筒内周面55に備えた外輪56とを備えている。この外輪56は、等速自在継手10の一部を構成している。
【0037】
図2は、図1の等速自在継手10を外輪56の軸心C1を通る断面で示すII−II矢視部断面図である。また、図3は、等速自在継手10を外輪56の軸心C1に直交する断面で示した図2のIII−III矢視部断面図である。図1乃至および図3において、等速自在継手10は、上記外輪56と、軸心C2を有してその外輪56内に配設された円筒状のボス部58およびそのボス部58の外周面から外輪56の複数本の溝54に向けて径方向外側にそれぞれ突き出す複数の脚軸60を有し、ボス部58において軸心C2方向に形成された軸孔62に前記中間シャフト部材46の一端部がスプライン嵌合されたトリポード部材64と、外輪56の複数本の溝54内に転動自在にそれぞれ配設されるとともに、複数の脚軸60によりその軸心C3まわりに配設された複数の針状ころ66を介して回転自在に支持された複数のローラ(ころ)68とを備えている。
【0038】
上記複数本の溝54には、軸心C1まわりの周方向において相対向するとともに軸心C1に直交する面内において円弧状断面を有する一対のローラ案内面70が形成されている。そして、上記ローラ68の外周面は、その軸心C3を通る面内において円弧状に形成されており、ローラ案内面70に対して線接触或いは点接触するようになっている。なお、トリポード部材64および中間シャフト部材46の結合体が、外輪56の複数本の溝54内に転動自在に配設された複数のローラ68を回転自在に支持するとともに一端部がその外輪56の開口から突き出す本発明における内輪に相当している。
【0039】
ローラ68は、溝54内において、上述のように転動可能すなわち外輪56に対して軸心C1と平行な方向に相対移動可能である。摺動式とは、ローラ68が溝54内で転動することによって、トリポード部材64が外輪56に対して軸心C1と平行な方向に相対移動可能であるということである。さらに、ローラ68は、外輪56に対してその外輪56の軸心C1とトリポード部材64の軸心C2との斜交角度が所定の角度範囲内で変化させられるように揺動可能であるとともに、脚軸60に対して軸心C3に平行な方向に相対移動可能である。
【0040】
このように構成された等速自在継手10においては、ローラ68が外輪56のローラ案内面70に沿ってその外輪56の底部と接触する被動側限界位置(インボード側位置)から外輪56の開口部端手前の駆動側限界位置(アウトボード側位置)まで転動することにより、中間シャフト部材46が外輪56に対して軸心C1方向に相対移動するようになっており、また、ローラ68が外輪56の溝54内において前述のように揺動することにより、中間シャフト部材46が外輪56の開口部と接触するまで外輪56に対して相対角度変化するようになっている。そして、この等速自在継手10においては、外輪56とトリポード部材64との間でそれらの軸心C1およびC2の斜交角度に拘わらず、等速でトルクを伝達するようになっている。
【0041】
ここで、本実施例の等速自在継手10は、上記構成に加えて、以下のような構成を備えている。図2および図3において、本実施例の外輪56は、底部が被動側シャフト部52の他端部に結合されることでその被動側シャフト部52と一体的に構成された有底円筒状部材であって、円筒内周面(内周面)72から軸心C1に平行な方向に連なり且つ軸心C1まわりの所定の間隔で径方向内側に向かって突き出す複数本の凸部74を有する外筒部76と、円筒外周面78から軸心C1に平行な方向に連なり且つ軸心C1まわりの所定の間隔で径方向内側に向かって凹む、上記複数の凸部74がそれぞれ嵌め入れられた複数本の凹部80を有する有底円筒状部材であって、前記複数本の溝54を円筒内周面55に備えて外筒部76に対して軸心C1方向に所定の範囲だけ相対移動可能且つ軸心C1まわりに所定の範囲だけ相対回転可能に嵌め入れられた内筒部82とを、備えて構成されている。
【0042】
外輪56の外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の間隙に相当する外筒部76の内周底面84と内筒部82の外周底面86との間隙89および外筒部76の開口部内端面88と内筒部82の開口部端面90との間隙91には、それぞれ、例えば高粘性シリコンや高粘性オイル等の高粘性物質を内包する弾性変形可能な一対の環状のゴム素子92が設けられている。このゴム素子92は、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を抑制する軸方向移動抑制装置として機能するものである。すなわち、このゴム素子92は、外輪56に外力が作用していない図2に示す状態を原位置としたときの外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動距離(相対移動量)Sに応じて弾性変形することでその変形方向とは反対の方向へ反発力を生じさせる弾性部材であるとともに、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素でもある。なお、ゴム素子92と外筒部76および内筒部82との間には、表面に例えばすべりを良くするためのポリクロロフルオロエチレンの重合体であるフッ素樹脂膜加工などの低摩擦加工が施された摺動板94がそれぞれ設けられている。本実施例において、上記ゴム素子92は、前記原位置を基準として外筒部76と内筒部82との相対移動距離Sが0(零)である場合すなわち上記間隙89、91が所定距離S1である場合において、変形量が0(零)となり且つ一対の摺動板94に対する隙間がそれぞれ0(零)となるように設けられている。
【0043】
外輪56の外筒部76と内筒部82との周方向の間隙に相当する外筒部76の凸部74と内筒部82の凹部80とで形成される周方向の間隙95には、外輪56に外力が作用していない図3に示す状態を原位置としたときの外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転角度(相対回転量)θに応じて弾性変形することでその変形方向とは反対の方向へ反発力を生じさせる弾性部材として、第1ばね96および第2ばね98が設けられている。これら第1ばね96および第2ばね98は、外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転を抑制する相対回転抑制装置として機能するものである。なお、第1ばね96および第2ばね98と凸部74および凹部80との間には、表面に例えばすべりを良くするためのポリクロロフルオロエチレンの重合体であるフッ素樹脂膜加工などの低摩擦加工が施された摺動板100がそれぞれ設けられている。本実施例において、上記第1ばね96は、前記原位置を基準として外筒部76と内筒部82との相対回転角度θが0(零)である場合すなわち上記周方向の間隙が所定角度θ2である場合において、与荷重が0(零)となり且つ一対の摺動板100に対する隙間がそれぞれ0(零)となるように設けられている。また、第2ばね98は、前記原位置を基準として外筒部76と内筒部82との相対回転角度θが所定角度θ1である場合すなわち上記周方向の間隙95が所定角度θ2と所定角度θ1との差である場合において、与荷重が0(零)となり且つ一対の摺動板100に対する隙間がそれぞれ0(零)となるように設けられている。
【0044】
外筒部76の円筒内周面72と内筒部82の円筒外周面78との間には、伝達トルクTの大きさに拘わらず内筒部82と外筒部76との軸心C1方向の相対移動および内筒部82と外筒部76との軸心C1まわりの相対回転を許容し且つそれら内筒部82および外筒部76を軸心C1方向および軸心C1まわりにそれぞれ案内する案内装置102が設けられている。この案内装置102は、軸方向案内装置および相対回転案内装置として機能するものである。具体的には、本実施例の案内装置102は、軸心C1まわりの所定の間隔であって外筒部76の凸部74と内筒部82の凹部80との間において、それぞれ軸心C1方向に2カ所ずつ設けられている。この案内装置102は、外筒部76の凸部74の先端面に矩形断面を有して軸心C1方向に穿設された摺動溝104内に嵌め入れられた直方体状の摺動体106と、その外筒部76の摺動溝104の底面と摺動体106とにそれぞれ形成された相対向する一対の軸方向溝108と、内筒部82の凹部80の底面と摺動体106とにそれぞれ形成された相対向する一対の周方向溝110と、一対の軸方向溝108内に嵌め入れられた球体状の軸方向転動体(転動体)112と、一対の周方向溝110内に嵌め入れられた球体状の周方向転動体(転動体)114とを有し、それら軸方向転動体112および周方向転動体114をそれぞれ介して外筒部76と内筒部82とを軸心C1方向に相対移動可能且つ周方向に相対回転可能に支持している。すなわち、外筒部76と内筒部82とは、軸心C1方向において、計6個設けられた一対の軸方向溝108にそれぞれ線接触或いは点接触する軸方向転動体112により支持されており、また、軸心C1まわりの周方向において、計6個設けられた一対の周方向溝110にそれぞれ線接触或いは点接触する周方向転動体114により支持されている。したがって、外輪56にトルクが作用している場合であっても、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動すなわち摺動が滑らかに行われるようになっている。なお、一対の軸方向溝108が、本発明における外筒部76の内周面と内筒部82の外周面とにそれぞれ形成された相対向する一対の軸方向溝に相当するものである。
【0045】
上記案内装置102は、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動距離Sを所定の範囲内に規制する軸方向移動制限装置、および外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転角度θを所定の範囲内に規制する相対回転制限装置としても機能している。すなわち、案内装置102は、図2の案内装置102を拡大して示す図4において実線で示すように、外筒部76と内筒部82とが軸心C1方向に相対移動することにより軸方向転動体112が一対の軸方向溝108のうち一方の一端部に当接しつつ他方の他端部に当接した場合、それ以上の外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を阻止するようになっている。したがって、外筒部76と内筒部82とは、外力が作用していない図2に示す状態すなわち図4において2点鎖線で示す状態を原位置とした場合、その原位置から図4において実線で示す状態まで相対移動可能となっている。案内装置102によって許容される片側相対移動許容距離Saは、図4に示すように軸方向溝108の軸方向長さLと軸方向転動体112の直径Dとの差となる。なお、これら軸方向長さLおよび直径Dは、片側相対移動許容距離Saが前記所定距離S1を下回るように設定される。すなわち、所定距離S1は、片側相対移動許容距離Saを上回るように設定される。また、前記相対移動距離Sを所定の範囲内に規制するとは、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動距離Sが原位置を基準として−Saから+Saの範囲内に規制されることを意味する。
【0046】
また、案内装置102は、図3の案内装置102を拡大して示す図5において実線で示すように、外筒部76と内筒部82とが軸心C1まわりに相対移動することにより周方向転動体114が一対の周方向溝110のうち一方の一端部に当接しつつ他方の他端部に当接した場合、それ以上の外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転を阻止するようになっている。したがって、外筒部76と内筒部82とは、外力が作用していない図3に示す状態すなわち図5において2点鎖線で示す状態を原位置とした場合、その原位置から図5において実線で示す状態まで相対回転可能となっている。案内装置102によって許容される片側相対回転許容角度θaは、図5に示すように周方向溝110の周方向角度θRと周方向転動体114の周方向角度θDとの差となる。なお、これら周方向角度θRおよびθDは、片側相対回転許容角度θaが前記所定角度θ2を下回るように設定される。すなわち、所定角度θ2は、片側相対回転許容角度θaを上回るように設定される。また、前記相対回転角度θを所定の範囲内に規制するとは、外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転角度θが原位置を基準として−θaから+θaの範囲内に規制されることを意味する。
【0047】
このように構成された外輪56においては、その外輪56に作用する軸心力Fと相対移動距離Sとの関係を示す図6に示すように、相対移動距離Sが−Sa〜+Saの範囲内(スラスト加振範囲内)では次式(1)が成り立つ。なお、式(1)中において、ksは、ゴム素子92のバネ定数[N/m]すなわち加えられた力の大きさと縮み量または伸び量との比の値である。
【0048】
F=ks×S ・・・(1)
【0049】
そして、相対移動距離Sが−Sa或いは+Saに達すると、前述のように案内装置102によりそれ以上の相対移動が制限されることで、軸心力Fが増加しても相対移動距離Sが変化しないようになっている。
【0050】
したがって、相対移動距離Sが−Sa〜+Saの範囲内である状態においては、駆動系において発生した軸心方向の強制力の伝達が等速自在継手10の外輪56において低減されるようになっている。
【0051】
また、外輪56においては、その外輪56に作用するトルクTと相対回転角度θとの関係を示す図7に示すように、相対回転角度θが−θ1〜+θ1の範囲内では次式(2)が成り立つ。なお、式(2)中において、kθ1は、第1ばね96のねじり剛性[N・m/rad]すなわち加えられたトルクの大きさと縮み量または伸び量との比の値である。
【0052】
T=kθ1×θ ・・・(2)
【0053】
そして、相対回転角度θが−θa〜−θ1および+θ1〜+θaの範囲内では次式(3)が成り立つ。なお、式(3)中において、kθ2は、第2ばね98のねじり剛性[N・m/rad]すなわち加えられたトルクの大きさと縮み量または伸び量との比の値である。
【0054】
T=(kθ1+kθ2)×θ−T1 ・・・(3)
【0055】
さらに、相対回転角度θが−θa或いは+θaに達すると、前述のように案内装置102によりそれ以上の相対回転が制限されることで、トルクTが増加しても相対回転角度θが変化しないようになっている。
【0056】
したがって、相対回転角度θが−θa〜+θaの範囲内である状態においては、相対回転角度θが−θa或いは+θaに達した状態に比較して外輪56のねじり剛性が小さくされるようになっている。特に、本実施例では、相対回転角度θが−θ1〜+θ1の範囲内にあるときは、相対回転角度θが−θa〜−θ1および+θ1〜+θaの範囲内にあるときに比較して外輪56のねじり剛性が小さくされるようになっている。本実施例では、例えば、変速機22や差動歯車装置24内のギヤの噛合誤差に起因するギヤノイズ、およびトルクコンバータ21のロックアップクラッチ係合に起因するロックアップこもり音の発生するトルク範囲が、図7に示すように0(零)から所定角度θ1に対応する所定トルクTθ1までの範囲となるように、上記所定角度θ1が設定されている。また、本実施例では、例えば、アイドリング振動の発生するトルク範囲が、図7に示すように上記所定トルクTθ1から片側相対回転許容角度θaに対応する所定トルクTθaまでの範囲となるように、所定角度θ1および片側相対回転許容角度θaが設定されている。
【0057】
以下においては、上述のように構成される本実施例の等速自在継手10を備える車両の駆動系の振動特性について説明する。
【0058】
先ず、本実施例の外輪56のように外筒部76および内筒部82を備えてそれらが相対移動或いは相対回転するように構成されていない外輪を有する、従来例のトリポード型摺動式等速自在継手を備える車両の振動特性に関して考察する。このような従来例の車両では、発進時にトリポード型摺動式等速自在継手において誘起スラスト力が生じる。この誘起スラスト力は、ドライブシャフト12の折れ角すなわち前記斜交角度が増大するほど大きくなる。この誘起スラスト力に起因する共振によって、駆動系に振動が発生する。この振動は、サスペンション26やリンク部材28或いは図示しないエンジンマウント等を介して駆動系に連結された車体18に伝達され、車体18に横揺れ振動を生じさせる。
【0059】
また、従来例の車両では、アイドリング時に発生する例えば図1に矢印Aで示すようなエンジンロール振動が従来例トリポード型摺動式等速自在継手などを介して車体18に伝達される。これにより、車体18を左右に振動させるアイドル振動が生じる。
【0060】
また、従来例の車両では、エンジン20の例えば爆発1次トルク変動やそのエンジン20とは別に設けられた動力源としてのモータのトルク変動、或いは変速機22や差動歯車装置24内のギヤの噛合誤差に起因して、ドライブシャフト12の曲げ共振やねじり共振が発生する。このドライブシャフト12の曲げ共振やねじり共振によって、振動および車内こもり音やノイズなどの不快な騒音が発生する。
【0061】
図8は、エンジン20において発生した爆発1次トルク変動が駆動系に伝達され、その爆発1次トルク変動によってドライブシャフト12のねじり共振が発生し、ドライブシャフト12から出力されるトルク変動が車体(ボデー)18に伝達されることを示すブロック図である。
【0062】
図9は、車両の駆動系をマス(質量)とダンパとで表した等価4自由度モデル(駆動系ねじり共振モデル)を示す図である。図9において、等価4自由度モデルは、エンジン20のクランクシャフトおよびトルクコンバータ21の1次側(トルクコンバータ21の入力軸およびポンプ翼車)を含み、慣性モーメントI1を有するマスM1と、トルクコンバータ21の2次側(トルクコンバータの出力軸およびタービン翼車)、変速機22、および差動歯車装置24を含み、慣性モーメントI2を有するマスM2と、駆動輪16を含み、慣性モーメントI3を有するマスM3と、サスペンション26および車体18を含み、慣性モーメントI4を有するマスM4とを、備えている。そして、マスM1とマスM2との間は、ねじり剛性kθM12を有するトルクコンバータ16のロックアップダンパにより連結されている。また、マスM2とマスM3との間は、ねじり剛性kθM23を有する上記従来例のトリポード型摺動式等速自在継手を備えるドライブシャフトにより連結されている。また、マスM3とマスM4との間は、ねじり剛性kθM34を有するタイヤ36により連結されている。
【0063】
図9に示す等価4自由度モデルの運動方程式を計算すると、前述のような振動や騒音を発生させる低回転領域のねじり振動に最も影響を与えているのは、ねじり共振2次モードであることがわかる。図10は、その結果、すなわち図9に示す等価4自由度モデルにおける低回転領域のねじり振動の挙動を電子計算機によってシミュレーションした結果を示す図である。図10は、ねじり共振2次モード(振動モード)を示すものであって、マスM1乃至M3のねじれの指標(各マス相互の相対的な振幅または角度)を矢印a、b、cの長さで表した図である。なお、図10において、マスM4はほとんど動いていない。図10に示すように、このねじり共振2次モードにおいて最もねじれているのはマスM2であり、この駆動モードで共振を低減させるには、ドライブシャフト10のねじり剛性KθM23を低下させるか或いはロックアップダンパのねじり剛性KθM12を低下させることが効果的であると考えられる。
【0064】
図11乃至図13は、本実施例の等速自在継手10を含む振動系の全体の振動特性を示す図であって、発生する振動の周波数[Hz]またはエンジン回転速度NE[rpm]とトルク変動伝達率(振動伝達レベル)[dB]との関係を示す図である。図11乃至図13において、点線は、前記従来例のトリポード型摺動式等速自在継手を備えた車両の振動系における振動特性を示すものである。また、実線は、本実施例の等速自在継手10を備えた車両の振動系における振動特性を示すものである。なお、図11は、比較的広範な周波数範囲である50〜1450[Hz]を示す図であり、また、図12は、特に駆動系ねじり共振に関連する周波数範囲である15〜50[Hz]を示す図である。図14は、ドライブシャフト12の曲げ共振による振動モードを点線や1点鎖線で示すものであり、図13は、従来例および本実施例に加えて、曲げ共振を低減するために図14の各振動モードの腹に対応する部分などによく知られた所謂ダイナミックダンパを備えた車両の振動系における振動特性を示すものである。なお、図13は、特に車内こもり音に関連する周波数範囲である50〜200[Hz]を示す図である。
【0065】
図11および図13に示すように、本実施例では、車内こもり音に関連する50〜200[Hz]辺り(図11の矢印dで示す範囲)の振動伝達率が従来例に比較して小さくなっている。また、ダイナミックダンパを備えた例に比較しても、より効果的に振動伝達率が小さくなっている。
【0066】
また、図11に示すように、本実施例では、ギヤノイズに関連する400〜900[Hz]辺り(矢印eで示す範囲)の振動伝達率が従来例に比較して小さくなっている。
【0067】
また、図11に示すように、本実施例では、モータノイズに関連する850〜1450[Hz]辺り(矢印fで示す範囲)の振動伝達率が従来例に比較して小さくなっている。
【0068】
また、図12に示すように、本実施例では、低伝達トルク状態におけるねじり剛性が小さくされたことによって駆動系のねじり共振周波数が矢印gのように低下させられている。すなわち、同じエンジン回転速度NEであっても、本実施例の方が従来例よりも振動レベルを示すトルク変動伝達率が低下させられている。
【0069】
上述のように、本実施例の等速自在継手10によれば、外筒部76の円筒内周面(内周面)72と内筒部82の円筒外周面(外周面)78との間に設けられ、伝達トルクTの大きさに拘わらず外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を許容しつつそれら内筒部82および外筒部76をその軸心C1方向に案内する案内装置(軸方向案内装置)102と、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を抑制するゴム素子(軸方向移動抑制装置)92とを、備えて構成されていることから、この等速自在継手10が駆動系の一部の例えばドライブシャフト12等に用いられることで、その駆動系に発生する振動の要因となるドライブシャフト12に作用する軸心C1方向の軸心力(強制力)Fの伝達が抑制されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる。
【0070】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、案内装置(軸方向案内装置)102は、外筒部76の円筒内周面(内周面)72の凸部74の先端面に矩形断面を有して軸心C1方向に穿設された摺動溝104内に嵌め入れられた直方体状の摺動体106と、その外筒部76の摺動溝104の底面と摺動体106とにそれぞれ形成された相対向する一対の軸方向溝108と、内筒部82の円筒外周面(外周面)78の凹部80の底面と摺動体106とにそれぞれ形成された相対向する一対の周方向溝110と、一対の軸方向溝108内に嵌め入れられた球体状の軸方向転動体112と、一対の周方向溝110内に嵌め入れられた球体状の周方向転動体114とを有し、それら軸方向転動体112および周方向転動体114をそれぞれ介して外筒部76と内筒部82とを軸心C1方向に相対移動可能且つ周方向に相対回転可能に支持するものであることから、軸方向転動体112と一対の軸方向溝108とがそれぞれ線接触或いは点接触することで外筒部76と内筒部82との間の摺動抵抗が可及的に小さくされ、トルクがかかった状態であっても外筒部76と内筒部82とが軸心C1方向に滑らかに相対移動可能であるので、駆動系に発生する振動を十分に吸収して抑制することができる。
【0071】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、ゴム素子(軸方向移動抑制装置)92は、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動距離(相対移動量)Sに応じて弾性変形する弾性部材であることから、等速自在継手10に作用する軸心C1方向の軸心力(強制力)Fの大きさに応じてその軸心力Fの伝達方向とは反対の方向へ反発力が作用し、外筒部76と内筒部82との間において伝播される軸心力Fが低減されるので、その軸心力Fに起因して駆動系にて発生する振動を十分に抑制することができる。
【0072】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、ゴム素子(軸方向移動抑制装置)92は、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素であることから、等速自在継手10を含む駆動系にて発生する振動がゴム素子92で吸収されるので、駆動系にて発生する振動を十分に抑制することができる。
【0073】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、ゴム素子(軸方向移動抑制装置)92は、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の間隙に設けられていることから、等速自在継手10に作用する軸心C1方向の軸心力(強制力)Fは必ずそのゴム素子92を介して外筒部76と内筒部82との間を伝播するようになっているので、駆動系にて発生する振動を確実に抑制することができる。
【0074】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動距離(相対移動量)Sを所定の範囲内すなわち原位置を基準として−Saから+Saの範囲内に規制する案内装置(軸方向移動制限装置)102を備えていることから、ゴム素子92に過度な負担がかかることを防止できる。
【0075】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、外筒部76と内筒部82との間に設けられ、それら外筒部76と内筒部82との相対回転を抑制するゴム素子(相対回転抑制装置)92を備えていることから、そのゴム素子92を介して外筒部76と内筒部82とが相対回転されることで、駆動系の一部であるドライブシャフト12のねじり剛性Kθ2が低下して駆動系のねじり共振周波数が低下し、ドライブシャフト12のねじり共振が抑制されるので、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる。
【0076】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、ゴム素子(相対回転抑制装置)92は、外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転角度(相対回転量)θに応じて弾性変形する弾性部材であることから、そのゴム素子92を介して外筒部76と内筒部82とが相対回転されることで、駆動系の一部であるドライブシャフト12のねじり剛性Kθ2が低下して駆動系のねじり共振周波数が低下し、ドライブシャフト12のねじり共振が抑制されるので、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる。
【0077】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、ゴム素子(相対回転抑制装置)92は、外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素であることから、そのゴム素子92において駆動系に発生するねじり振動が吸収されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる。
【0078】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、ゴム素子(相対回転抑制装置)92は、外筒部76と内筒部82との周方向の間隙に設けられていることから、駆動系に発生するねじり振動は必ずそのゴム素子92を介して外筒部76と内筒部82との間を伝播するようになっているので、駆動系にて発生するねじり振動を確実に抑制することができる。
【0079】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対回転角度(相対回転量)θを所定の範囲内すなわち原位置を基準として−θaから+θaの範囲内に規制する案内装置(相対回転制限装置)102を備えていることから、ゴム素子92に過度な負担がかかることを防止できるとともに、例えば加速走行時などの比較的高いトルクが伝達されるときには等速自在継手10のねじり剛性が従来どおりに高くされるので、等速自在継手10の耐久性や車両の操縦安定性が確保できる。
【0080】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、外筒部76と内筒部82との間に設けられ、それら外筒部76と内筒部82との軸心C1まわりの相対回転を案内する案内装置(相対回転案内装置)102を備えていることから、外筒部76と内筒部82との回転軸心C1を略一定に保つことができる。
【0081】
また、本実施例の等速自在継手10によれば、前記軸方向移動抑制装置としてのゴム素子92と前記相対回転抑制装置としての第1ばねおよび第2ばねとが外筒部76と内筒部82との間に設けられていることから、外輪56にそれら抑制装置をまとめることができるので、簡便な構成で軸方向および回転方向の制振機能を得ることができる。
【0082】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0083】
たとえば、前述の実施例において、等速自在継手10は、外輪56が外筒部76に対して軸心C1方向に所定の範囲だけ相対移動可能且つ軸心C1まわりに所定の範囲だけ相対回転可能に嵌め入れられた内筒部82を備えて構成されていたが、これに限らない。例えば、図15および図16に示すように、等速自在継手10は、外筒部76に対して軸心C1方向に所定の範囲だけ相対移動可能に嵌め入れられた内筒部82を有する外輪56を備えて構成されてもよい。すなわち、外筒部76と内筒部82とが軸心C1まわりの相対回転不能であっても軸心C1方向に相対移動可能であれば、一応の効果は得られる。
【0084】
外輪56が上述のように構成されることに伴って、案内装置102は、外筒部76と内筒部82との相対回転を案内するための周方向転動体114および周方向溝110を備えていなくても良い。すなわち、案内装置102は、内筒部82の外筒部76に対する軸心C1まわりの相対回転を案内する相対回転案内装置としての機能を備えていなくてもよい。また、案内装置102は、外筒部76と内筒部82との相対回転角度θを所定の範囲内に規制する相対回転制限装置としての機能を備えていなくてもよい。また、案内装置102は、外筒部76と内筒部82との相対回転を抑制するための第1ばね96および第2ばね98を備えていなくてもよい。すなわち、案内装置102は、外筒部76と内筒部82との相対回転を抑制する相対回転抑制装置としての機能を備えていなくてもよい。
【0085】
また、前述の実施例において、等速自在継手10は、外筒部76と内筒部82との軸心C1方向の相対移動を抑制する軸方向移動抑制装置としてのゴム素子92を備えて構成されていたが、これに限らない。要するに、前記相対移動を抑制する軸方向移動抑制装置として機能するものであれば、ゴム素子92以外であっても用いられ得る。すなわち、外筒部76と内筒部82との相対移動距離Sに応じて弾性変形する弾性部材或いは外筒部76と内筒部82との相対移動速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素の少なくとも一方を備えて構成されていればよい。例えば、図15に示すように、軸心C1方向に伸縮するスプリング116を含んで構成されてもよい。また、例えば、金属や樹脂などから形成されて軸心C1方向に付勢力を発生する板バネを含んで構成されてもよい。また、例えば、液体が流れるときの抵抗を利用して振動を吸収して減衰させる機能を有する所謂ショックアブソーバーであってもよい。
【0086】
また、上記ゴム素子92が用いられる場合であっても、例えば高粘性シリコンや高粘性オイル等の高粘性物質を内包する弾性変形可能な環状のものに限らない。たとえば、ゴム素子92は、円形状或いは多角形状の断面を有する柱状のものであってもよい。また、軸心C1まわりに複数個設けられてもよい。
【0087】
また、前述の実施例において、等速自在継手10は、外筒部76の内周底面84と内筒部82の外周底面86との間および外筒部76の開口部内端面88と内筒部82の開口部端面90との間に一対の環状のゴム素子92がそれぞれ設けられていた。しかし、これに限らず、外筒部76の内周底面84と内筒部82の外周底面86との間、或いは外筒部76の開口部内端面88と内筒部82の開口部端面90との間の少なくとも一方に上記ゴム素子92が設けられていればよい。要するに、軸方向移動抑制装置は、外筒部76と内筒部82との間の軸心C1方向の間隙に設けられていればよい。
【0088】
また、前述の実施例において、等速自在継手10は、駆動形式に拘わらず例えばFF車両やFR車両や4WD車両などの種々の駆動形式を採用する車両において用いられるドライブシャフトやプロペラシャフト等の連結部を構成するものとして好適に用いられる。また、本発明は、動力伝達経路において所定の斜交角度すなわち作動角度を有する駆動側と被動側との2軸間でトルクを伝達する等速自在継手であれば適用することが可能である。すなわち、例えば、トリポート型等速自在継手、ダブルオフセット型等速自在継手、およびクロスグルーブ型等速自在継手などの摺動式等速自在継手、或いはツェッパ型等速自在継手やアンダーカットフリー型等速自在継手などの固定式等速自在継手等に適用することができる。
【0089】
また、前述の実施例において、第1ばね96および第2ばね98は、相対回転抑制装置として機能するものであって、図7に示すように伝達トルクTと相対回転角度θとが2段階の非線形特性を有するものであったが、これに限らず、線形特性を有するものであってもよいし、連続的に特性が変わるものであってもよい。これにより、上記特性は、駆動系に発生する振動に応じてその振動が抑制されるように適宜調整(チューニング)し得る。
【0090】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施例のトリポード型摺動式等速自在継手が適用されたドライブシャフトを含むドライブトレーンの一部、および駆動輪と車体との連結状態を示す一部断面図である。
【図2】図1のトリポード型摺動式等速自在継手を外輪の軸心を通る断面で示すII矢視部断面図である。
【図3】図1のトリポード型摺動式等速自在継手を外輪の軸心に直交する断面で示した図2のIII−III矢視部断面図である。
【図4】図2の案内装置を拡大して示す断面図である。
【図5】図3の案内装置を拡大して示す断面図である。
【図6】図1の外輪に作用する軸心力と相対移動距離との関係を示す図である。
【図7】図1の外輪に作用する軸心力と相対回転角度との関係を示す図である。
【図8】エンジンにおいて発生した爆発1次トルク変動が駆動系に伝達され、その爆発1次トルク変動によってドライブシャフトのねじり共振が発生し、ドライブシャフトから出力されるトルク変動が車体に伝達されることを説明するブロック図である。
【図9】車両の駆動系のねじり振動系をマスとダンパとで簡素化して表した等価4自由度モデルを示す図である。
【図10】図9に示す等価4自由度モデルの運動方程式の計算結果として、ねじれの指標すなわち各マスの相互の相対的な振幅を示した図である。
【図11】図1のトリポード型摺動式等速自在継手を含む振動系の全体の振動特性を示す図であって、発生する振動の周波数とトルク変動伝達率との関係を示す図である。
【図12】図1のトリポード型摺動式等速自在継手を含む振動系の全体の振動特性を示す図であって、発生する振動の周波数またはエンジン回転速度とトルク変動伝達率との関係を示す図である。
【図13】図1のトリポード型摺動式等速自在継手を含む振動系の全体の振動特性を示す図であって、発生する振動の周波数とトルク変動伝達率との関係を示す図である。
【図14】ドライブシャフトの曲げ共振による振動モードを示す図である。
【図15】本発明の他の実施例のトリポード型摺動式等速自在継手を示す図であって、実施例1の図2に対応する断面図である。
【図16】図15のトリポード型摺動式等速自在継手を外輪の軸心に直交する断面で示した図15のXV−XV矢視部断面図である。
【符号の説明】
【0092】
10:トリポード型摺動式車両用等速自在継手(等速自在継手)
54:溝
55、72:円筒内周面(内周面)
56:外輪
68:ローラ(ころ)
76:外筒部
78:円筒外周面(外周面)
82:内筒部
89、91:間隙
92:ゴム素子(軸方向移動抑制装置、弾性部材、減衰要素)
96:第1ばね(相対回転抑制装置、弾性部材)
98:第2ばね(相対回転抑制装置、弾性部材)
102:案内装置(軸方向案内装置、相対回転案内装置、軸方向移動制限装置、相対回転制限装置)
108:軸方向溝
110:周方向溝
112:軸方向転動体(転動体)
114:周方向転動体(転動体)
S:相対移動距離(相対移動量)
θ:相対回転角度(相対回転量)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状の外筒部と、軸心方向に平行な複数本の溝を内周面に備えて該外筒部に対して軸心方向の相対移動可能に該外筒部内に嵌め入れられた内筒部とを備えた有底円筒状の外輪と、該内筒部の内周面に軸心方向に平行に形成された複数本の溝内に転動自在にそれぞれ配設された複数のころを回転自在に支持し、一端部が該円筒部の開口から突き出す内輪とを備え、該外輪と該内輪との間でそれらの軸心の斜交角度に拘わらず等速でトルクを伝達する車両用等速自在継手であって、
前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面との間に設けられ、前記トルクの大きさに拘わらず該内筒部と該外筒部との軸心方向の相対移動を許容し且つ該内筒部および該外筒部を該軸心方向に案内する軸方向案内装置と、
該外筒部と該内筒部との軸心方向の相対移動を抑制する軸方向移動抑制装置と
を、含むことを特徴とする車両用等速自在継手。
【請求項2】
前記軸方向案内装置は、前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面とにそれぞれ形成された相対向する一対の軸方向溝と、該相対向する一対の軸方向溝内に嵌め入れられた転動体とを有し、該転動体を介して該外筒部と該内筒部とを軸心方向の相対移動可能に支持するものであることを特徴とする請求項1の車両用等速自在継手。
【請求項3】
前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動量に応じて弾性変形する弾性部材を備えていることを特徴とする請求項1または2の車両用等速自在継手。
【請求項4】
前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項5】
前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の間隙に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項6】
前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動量を所定の範囲内に規制する軸方向移動制限装置を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項7】
前記外筒部と前記内筒部との間に設けられ、該内筒部と該外筒部との相対回転を抑制する相対回転抑制装置を備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項8】
前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心まわりの相対回転量に応じて弾性変形する弾性部材を備えていることを特徴とする請求項7の車両用等速自在継手。
【請求項9】
前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えていることを特徴とする請求項7または8の車両用等速自在継手。
【請求項10】
前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との周方向の間隙に設けられていることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項11】
前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対回転量を所定の範囲内に規制する相対回転制限装置を備えていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項12】
前記外筒部と前記内筒部との間に設けられ、該内筒部および該外筒部の軸心まわりの相対回転を案内する相対回転案内装置を備えていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項1】
有底円筒状の外筒部と、軸心方向に平行な複数本の溝を内周面に備えて該外筒部に対して軸心方向の相対移動可能に該外筒部内に嵌め入れられた内筒部とを備えた有底円筒状の外輪と、該内筒部の内周面に軸心方向に平行に形成された複数本の溝内に転動自在にそれぞれ配設された複数のころを回転自在に支持し、一端部が該円筒部の開口から突き出す内輪とを備え、該外輪と該内輪との間でそれらの軸心の斜交角度に拘わらず等速でトルクを伝達する車両用等速自在継手であって、
前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面との間に設けられ、前記トルクの大きさに拘わらず該内筒部と該外筒部との軸心方向の相対移動を許容し且つ該内筒部および該外筒部を該軸心方向に案内する軸方向案内装置と、
該外筒部と該内筒部との軸心方向の相対移動を抑制する軸方向移動抑制装置と
を、含むことを特徴とする車両用等速自在継手。
【請求項2】
前記軸方向案内装置は、前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面とにそれぞれ形成された相対向する一対の軸方向溝と、該相対向する一対の軸方向溝内に嵌め入れられた転動体とを有し、該転動体を介して該外筒部と該内筒部とを軸心方向の相対移動可能に支持するものであることを特徴とする請求項1の車両用等速自在継手。
【請求項3】
前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動量に応じて弾性変形する弾性部材を備えていることを特徴とする請求項1または2の車両用等速自在継手。
【請求項4】
前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項5】
前記軸方向移動抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の間隙に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項6】
前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対移動量を所定の範囲内に規制する軸方向移動制限装置を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項7】
前記外筒部と前記内筒部との間に設けられ、該内筒部と該外筒部との相対回転を抑制する相対回転抑制装置を備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項8】
前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心まわりの相対回転量に応じて弾性変形する弾性部材を備えていることを特徴とする請求項7の車両用等速自在継手。
【請求項9】
前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との軸心まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えていることを特徴とする請求項7または8の車両用等速自在継手。
【請求項10】
前記相対回転抑制装置は、前記外筒部と前記内筒部との周方向の間隙に設けられていることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項11】
前記外筒部と前記内筒部との軸心方向の相対回転量を所定の範囲内に規制する相対回転制限装置を備えていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1の車両用等速自在継手。
【請求項12】
前記外筒部と前記内筒部との間に設けられ、該内筒部および該外筒部の軸心まわりの相対回転を案内する相対回転案内装置を備えていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1の車両用等速自在継手。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−144763(P2010−144763A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320256(P2008−320256)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
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