説明

車両用車外障害物衝突安全装置

【課題】袋体の膨張展開により車外障害物の一次的な衝撃緩和を行うと共に、ボンネットフードの変形により二次的な衝撃を緩和することにより、フロントガラスによる衝撃緩和作用に頼ることなく、車外障害物の衝撃を緩和するように構成した。
【解決手段】袋体11を、フロントバンパー5より下方に膨張展開して車外障害物9を受け止める第1膨張袋体11Aと、フロントバンパー5より上方に膨張展開して車外障害物9を受け止める第2膨張袋体11Bとで構成し、第2膨張袋体11Bの膨張展開時の内圧を第1膨張袋体11Aの膨張展開時における内圧より低く設定構成し、且つ、自動車1におけるフロントバンパー5より後方に配設されたボンネットフード3に車外障害物9が衝接した際にボンネットフード3を圧潰変形させて車外障害物9の衝撃を吸収するフード変形手段を有して構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントバンパーの後方における車体に設置されて、車両における車外障害物を検知して膨張展開する袋体を備える車両用車外障害物衝突安全装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来におけるこの種の車両用車外障害物衝突安全装置としては、例えば特許文献1に記載された構成が知られている。
【特許文献1】特開2001−334895号公報
【0003】
特許文献1に記載された車両用車外障害物衝突安全装置(車両用歩行者保護装置)は、車外障害物(歩行者)との当接を予知して該車外障害物を受け止める緩衝用エアバッグ(緩衝部材)をフロントバンパー(前バンパー)前方に展開させる際に、車体と路面との間に前記車外障害物が巻込まれるのを防止するために、前記緩衝部材の展開後に作動する巻き込み防止用エアバッグ(袋体)を備えて構成して、前記緩衝用エアバッグを、前記フロントバンパーの前方に展開させて車外障害物を受け止めると共に、巻き込み防止用エアバッグを作動させて当該車外障害物が車体と路面との間に巻込まれないようにしたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる構成を有する従来の車両用車外障害物衝突安全装置においては、車両がその前方に存する車外障害物を検知した際、車外障害物の下方部が先ず巻き込み防止用エアバッグに当接しその後緩衝用エアバッグに当接して衝撃を緩和するのであるが、この時点における車両は完全に制動しておらず、少なくとも制動距離分前方に移動することになり、結果的に、当該車外障害物を車両の前方に引き摺り移動させることになって、車外障害物が相当傷むことになる。
【0005】
そこで、本発明は、袋体の膨張展開により車外障害物の一次的な衝撃緩和を行うと共に、ボンネットフードの変形により二次的な衝撃を緩和することにより、車外障害物の衝撃を緩和するように構成した車両用車外障害物衝突安全装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両用車外障害物衝突安全装置は、車両のフロントバンパーの部位に設置されて、車外障害物を検知して膨張展開する袋体を有するエアバッグ装置と、前記フロントバンパーより後方に配設され前記車外障害物が衝接したときに圧潰変形して前記車外障害物に加わる衝撃を吸収するボンネットフードとを具備し、前記エアバッグ装置は、前記フロントバンパーより下方に膨張展開する第1膨張袋体と、前記フロントバンパーに対し上方に膨張展開する第2膨張袋体を有し、前記第2膨張袋体の膨張展開時の内圧を前記第1膨張袋体の膨張展開時における内圧より低く設定したことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、車両の前方に存する車外障害物を検知した際、先ず、第1膨張袋体及び第2膨張袋体が膨張展開し、車外障害物の衝撃を緩和するのであるが、この際、車外障害物は、内圧の高い第1膨張体に当接して衝撃を緩和されながら車両のボンネットフード側に倒れ込み、内圧の低い第2膨張袋体を圧潰しながら衝撃を緩和し、その後、ボンネットフードに当接して結果的にフード変形手段によりボンネットフードを変形させて、衝撃が緩和されることになる。
【0008】
かかる過程において、第2膨張袋体の内圧を低く設定しているために、車外障害物は、ボンネットフードの変形により衝撃が緩和されることになって、車外障害物の衝撃緩和効果が出難い形状を有するフロントガラスに衝撃緩和作用を担わさないことになる。
【0009】
又、本発明に係る車両用車外障害物衝突安全装置は、前記フロントバンパーを前記車体に対して前記車両の前方側に移動させるフロントバンパー移動手段を有し、該フロントバンパー移動手段により前記袋体の膨張展開時にフロントバンパーと前記車体との隙間が拡大されるように構成することにより、前記第1膨張袋体を前記隙間より前記フロントバンパーに対して下方に膨張展開させた後前記車両の前方に膨張展開させると共に、前記第2膨張袋体を前記隙間より前記フロントバンパーに対して上方に膨張展開させた後前記車両の前方に膨張展開させるように構成するようにしても良い。
【0010】
かかる構成により、袋体の膨張展開時に、フロントバンパーを車両前方に移動させてフロントバンパーと車体との隙間が拡大されることになって、第1及び第2の膨張袋体の膨張展開方向のスペースが広く確保でき、より拘束面積が大きく車体前後方向の厚みを大きく設定した袋体の展開を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、フロントバンパーの下方に膨張展開する第1膨張袋体の内圧よりフロントバンパーの上方に膨張展開する第2膨張袋体の内圧が、低くなるように設定されていることにより、車外障害物は、フロントガラスにまで到達しないうちにボンネットフードの変形により衝撃が緩和されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の車両用車外障害物衝突安全装置実施の形態について、図を用いて説明する。
【0013】
図1は、本発明の車両用車外障害物衝突安全装置に係る実施の形態を採用した自動車の前部を概略的に描画した斜視図、図2は図1におけるフロントバンパー及び車体フレーム周りを描画した斜視図、図3は図2における車両用車外障害物衝突安全装置の主要部構成を描画した斜視図、図4は図2のA−A断面図、図5は同じく車両用車外障害物衝突安全装置の袋体の膨張展開した状態の自動車の前部を概略的に描画した斜視図、図6は同じく車外障害物による衝撃緩和初期時における自動車の前部側面斜視図、図7は同じく車外障害物による衝撃緩和が進行した状態を描画した自動車の前部側面斜視図、図8は同じく車外障害物による衝撃緩和が更に進行してボンネットフードを変形させた状態を描画した自動車の前部側面斜視図である。
【0014】
先ず図1において、車両、例えば自動車1は、その前部分に自動車1の原動機であるエンジンを設置するエンジンルーム2を備えて構成しており、エンジンルーム2の上部開口はボンネットフード3によって閉塞されている。ボンネットフード3は、例えば前部側を車体4にヒンジ結合することにより、エンジンルーム2の上部開口を開閉可能に構成されている。
【0015】
と共に、ボンネットフード3は、図9に示すように、フード昇降リンク体3aにより自動車1の後方側が跳ね上げられるように構成されており、フード昇降リンク体3aは、自動車1の左右両側のフロントピラー1cに配設されるフロントピラー配設エアバッグ装置15の膨張展開によって、ボンネットフード3を跳ね上げるように構成するものである。
【0016】
即ち、フロントピラー配設エアバッグ装置15は、上部が開口するケース体15aおよび当該上部開口を閉塞する蓋体15bが構成する収容部15c内に、折り畳まれたエアバッグ15dとエアバッグ15dを膨張展開させるインフレータ15eを収容して構成され、前記検知手段が車外障害物の近接を検知した際に、蓋体15bを開動させてケース体15aの上部を開口し、インフレータ15eのガス圧によりエアバッグ15dを膨張展開させて、フロントピラー1cを覆うようになっている。
【0017】
上記蓋体15bは、その開動動作によりボンネットフード3の後端部側を跳上げることになり、この跳上げ状態を折曲されていたフード昇降リンク体3aが直立することによって突っ張り保持している(なお、上記ボンネットフード3の後端部側を跳ね上げさせる前には、前記検知手段の検知信号によってボンネットフード3の施錠状態を解除するように構成されている)。
【0018】
又、自動車1の前部には、その中央部にラジエータグリル1aを設置し、ラジエータグリル1aを挟んでその両側部に、それぞれ前照灯1bが装備されている。
【0019】
更に、自動車1の前部におけるラジエータグリル1aおよび前照灯1bの下部には、フロントバンパー5が設置され、フロントバンパー5は、その内側に存するバンパーレインフォース6を有して構成されている。
【0020】
バンパーレインフォース6は、車体を構成する車体フレーム7のクロスメンバー7aにフロントバンパー移動手段を構成する一対のシリンダ装置8を介して設置されており、シリンダ装置8は、車外障害物9(図6乃至図8参照)を不図示の検知手段が検知した際、自動車1の前方に進出して、バンパーレインフォース6を介してフロントバンパー5を前進させるように構成されている。
【0021】
又、クロスメンバー7aの前面には、エアバッグ装置を構成するケース体10が設置されている。
【0022】
ケース体10は、ほぼボックス形状に形成されており、その前面板10aに対して上下両側板10bが自動車の後方側にスライド可能に構成されている。このために、上下両側板10bは、一対のワイヤー10cの一端側が互いに離間した状態で止着されており、両ワイヤー10cの他端側は、それぞれ一旦自動車1の後方側に延在した後クロスメンバー7aに取付けたフック輪7bにより前方側に折り返された後、バンパーレインフォース6にシリンダ装置8のロッド8aを設置したブラケット8bを介して止着されている。
【0023】
したがって、シリンダ装置8を作動させることによって、ロッド8aを介してフロントバンパー5と共に、バンパーレインフォース6が自動車1の前方に移動した際、これに連動してワイヤー10cが引っ張られ、結果的に、ケース体10の上下両側板10bが自動車1の後方にスライドして、ケース体10の上下面を開放することになる(図3に示す状態を参照)。
【0024】
ケース体10内には、折り畳み状態の袋体11および袋体11を膨張展開させるインフレータ12が収容されており、前記検知手段が車外障害物9の存在を検知した際、インフレータ12がガスを発生して、袋体11を膨張展開するように構成されている(図10に示す状態を参照)。
【0025】
そして、袋体11は、互いに別体構成とする、フロントバンパー5より下方に一旦展開した後自動車1の前方に膨張展開する第1膨張袋体11Aと、フロントバンパー5より上方に一旦展開した後自動車1の前方に膨張展開する第2膨張袋体11Bとで構成しており、したがって、インフレータ12は、一対で構成して、第1膨張袋体11Aと第2膨張袋体11Bのそれぞれに対応している。
【0026】
そして、第2膨張袋体11B側のインフレータ12は、第1膨張袋体11B側のインフレータ12に比べて、第1膨張袋体11Aの膨張展開時における内圧より第2膨張袋体11Bの膨張展開時における内圧が低くなるように設定されている。
【0027】
更に、本発明に係る実施の形態において、ボンネットフード3は、図9に示すように、自動車1の前後端部内面に閉断面を形成すべくフードインナー13をそれぞれ設置することにより、自動車1の前後方向略中央部に車外障害物9の衝突により変形するフード変形手段14が形成されることになる。
【0028】
以上のように構成する本発明に係る実施の形態においては、不図示の検知手段が自動車1の前方に存在する車外障害物9が近接していることを検知すると、先ず、シリンダ装置8のロッド8aが前進して、フロントバンパー5と共にバンパーレインフォース6を前進させ、フロントバンパー5と車体フレーム7のクロスメンバー7aとの間隙を拡大する。
【0029】
そして、バンパーレインフォース6の前進により、ワイヤー10cが引っ張られて、ケース体10の上下両側板10bを自動車1の後方にスライドさせ、ケース体10の上下面を開口することになる(図3に示す状態)。
【0030】
かかる後、両インフレータ12がガスを発生することによって、クロスメンバー7aとフロントバンパー5との拡大された間隙から、一旦第1膨張袋体11Aは、自動車1の下方に展開した後自動車1の前方に膨張展開すると共に、第2膨張袋体11Bは、自動車1の上方に展開した後自動車1の前方に膨張展開し、これと共に、フロントピラー配設エアバッグ装置15のエアバッグ15dの膨張展開により蓋体15bが開動して、ボンネットフードフードの後端部を跳ね上げることになる(図5に示す状態参照)。
【0031】
そして、図6に示すように、道路標識の如き車外障害物9が、第1膨張袋体11Aおよび第2膨張袋体11Bに当接した際には、1膨張袋体11Aおよび第2膨張袋体11Bが車外障害物9の衝撃を吸収することになる。
【0032】
この際、自動車1は制動距離分前方に移動することになり、第1膨張袋体11Aの内圧より第2膨張袋体11Bの内圧を低く設定していることから、図7に示すように、車外障害物9の衝突により、図7に示すように、第1膨張袋体11Aより第2膨張袋体11Bが大きく圧潰することになり、車外障害物9は、下部側が自動車1の移動と共に前方に移動し、これに関連して慣性モーメントにより上部側がボンネットフード3側に倒れ込み、フロントガラス16側に向かって進み、図8に示すように、車外障害物9の上部側はボンネットフード3の略前後方向中央部に衝突することになる。
【0033】
この時、ボンネットフード3の略中央部は、フード変形手段14が設けてあることから、車外障害物9の衝突によりエンジンルーム2側に凹むことになって、車外障害物9の第2次衝撃を吸収することになって、車外障害物9を確実に捕捉することになる。
【0034】
したがって、かかる構成によって、自動車1の前方に存する車外障害物9を検知した際、先ず、第1膨張袋体11A及び第2膨張袋体11Bが膨張展開し、車外障害物9の衝撃を緩和するのであるが、この際、車外障害物9は、内圧の高い第1膨張体に当接して衝撃を緩和されながら車両のボンネットフード側に倒れ込み、内圧の低い第2膨張袋体を圧潰しながら第1次的衝撃を緩和し、その後、ボンネットフードに当接して結果的にフード変形手段14によりボンネットフード3の略中央部をエンジンルーム2側に凹まし変形させて、第2次的衝撃が緩和されることになる。
【0035】
かかる過程において、第2膨張袋体11Bの内圧を低く設定しているために、車外障害物9は、フロントガラス16にまで到達させないようにしてボンネットフードの変形により衝撃が緩和されることになる。
【0036】
又、本実施の形態によれば、袋体11を構成する第1膨張袋体11A及び第2膨張袋体11Bの膨張展開時に、フロントバンパー5をバンパーレインフォース6と共に自動車1の前方に移動させて、フロントバンパー5と車体4における車体フレーム7のクロスメンバー7aとの隙間が拡大されることになって、第1膨張袋体11A及び第2の膨張袋体11Bの膨張展開方向のスペースが広く確保でき、より拘束面積が大きく車体前後方向の厚みを大きく設定した袋体の展開を容易にさせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上説明したように、本発明は、フロントバンパーの下方に膨張展開する第1膨張袋体の内圧よりフロントバンパーの上方に膨張展開する第2膨張袋体の内圧が、低くなるように設定されていることになり、車外障害物は、フロントガラスにまで到達しないうちにボンネットフードの変形により衝撃が緩和できるために、車両のフロントバンパーの後方における車体に設置されて、車両における車外障害物を検知して膨張展開する袋体を備えて構成する車両用車外障害物衝突安全装置等に好適であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の車両用車外障害物衝突安全装置に係る実施の形態を採用した自動車の前部を概略的に描画した斜視図である。
【図2】図1におけるフロントバンパー及び車体フレーム周りを描画した斜視図である。
【図3】図2における車両用車外障害物衝突安全装置の主要構成を描画した斜視図である。
【図4】図2のA−A断面図である。
【図5】同じく車両用車外障害物衝突安全装置の袋体の膨張展開した状態における自動車の前部を概略的に描画した斜視図である。
【図6】同じく車外障害物による衝撃緩和初期時における自動車の前部側面斜視図である。
【図7】同じく車外障害物による衝撃緩和が進行した状態を描画した自動車の前部側面斜視図である。
【図8】同じく車外障害物による衝撃緩和が更に進行してボンネットフードを変形させた状態を描画した自動車の前部側面斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るフード変形手段を備えた自動車前部の通常時における概略部分的縦断面図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るフード変形手段の作動時を描画した自動車前部における概略部分的縦断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 自動車
3 ボンネットフード
4 車体
5 フロントバンパー
6 バンパーレインフォース
7 車体フレーム
8 シリンダ装置(フロントバンパー移動手段)
9 車外障害物
11 袋体
11A 第1膨張袋体
11B 第2膨張袋体
14 フード変形手段
16 フロントガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントバンパーの部位に設置されて、車外障害物を検知して膨張展開する袋体を有するエアバッグ装置と、前記フロントバンパーより後方に配設され前記車外障害物が衝接したときに圧潰変形して前記車外障害物に加わる衝撃を吸収するボンネットフードとを具備し、前記エアバッグ装置は、前記フロントバンパーより下方に膨張展開する第1膨張袋体と、前記フロントバンパーに対し上方に膨張展開する第2膨張袋体を有し、前記第2膨張袋体の膨張展開時の内圧を前記第1膨張袋体の膨張展開時における内圧より低く設定したことを特徴とする車両用車外障害物衝突安全装置。
【請求項2】
前記フロントバンパーを前記車体に対して前記車両の前方側に移動させるフロントバンパー移動手段を有し、該フロントバンパー移動手段により前記袋体の膨張展開時にフロントバンパーと前記車体との隙間が拡大されるように構成することにより、前記第1膨張袋体を前記隙間より前記フロントバンパーに対して下方に膨張展開させた後前記車両の前方に膨張展開させると共に、前記第2膨張袋体を前記隙間より前記フロントバンパーに対して上方に膨張展開させた後前記車両の前方に膨張展開させるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の車両用車外障害物衝突安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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