説明

車両用香り供給装置

【課題】覚醒効果を低下させることなく、迅速に運転者に香り成分を供給できる車両用香り供給装置を提供する。
【解決手段】複数の香り成分を各別に収容する香り成分収容部10と、香り成分収容部10から車内空間Aに香り成分を各別に供給する香り供給路20と、運転者の覚醒度を判定する覚醒度判定部30と、覚醒度判定部30の判定結果に基づき、車内空間Aに対して香り成分収容部10から特定の香り成分を供給する制御部Bと、を備えた車両用香り供給装置X。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香り成分を車内空間に供給して運転者の覚醒度を向上させる車両用香り供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の運転者が運転中に意識の覚醒度が低下したと判定された場合に、車内に香りを供給して当該運転者の覚醒度を向上させることが行なわれている。
【0003】
例えば特許文献1〜4には、車両用の空調設備に、覚醒効果を有する香りを発生する香り発生手段を設けたことが記載してある。
【0004】
特許文献1には、運転者用吹出口への分岐ダクトに連結された香り発生手段と、香りを付加した覚醒空気を分岐ダクト内に滞留させた後、覚醒空気を運転者用吹出口から運転者に向けて圧送する覚醒空気滞留圧送手段とを備えた装置が記載してある。香り発生手段と分岐ダクトとは、送出チューブによって接続してある。
【0005】
特許文献2には、運転者の注意力低下度が規定値以上となったときに運転者の覚醒度が低下したことを判定する覚醒度低下判定手段と、運転者の覚醒度の低下を誘発する単調運転状態であると判定する単調運転状態判定手段と、覚醒用の香りを発生させる香り発生手段とを備えた装置が記載してある。当該単調運転状態判定手段によって単調運転状態にあることが検知されれば、香りをゆらぎ間隔で発生させ、覚醒度低下判定手段により覚醒度が低下したことが検知されれば、単調運転状態を検知した場合に優先して香りをゆらぎ間隔より短い一定間隔で発生させるように香り発生手段の作動を制御している。
【0006】
特許文献3の装置には、意識の覚醒水準を上げるリフレッシュ効果を奏する揮発性のリフレッシュ系芳香剤、および、意識の覚醒水準を下げるリラックス効果を奏する揮発性のリラックス系芳香剤をそれぞれ供給する供給手段を備えた装置が記載してある。
リフレッシュ選択スイッチにてリフレッシュ系芳香剤の供給が選択されたときは、リフレッシュ系芳香剤を供給し、リラックス選択スイッチにてリラックス系芳香剤の供給が選択されたときは、リラックス系芳香剤を所定回数供給した後、リフレッシュ系芳香剤を所定回数供給する供給パターンを繰り返し行うように供給手段を制御している。
本構成では、リラックス系芳香剤が長時間供給され続けることはなく、所定回数でリラックス系芳香剤の供給が自動的に停止されるため、リラックス系芳香剤による乗員の集中力低下を防止して安全運転を確保することができる。
【0007】
特許文献4には、運転者がオーディオを操作し音楽等を流した時に、その音声に対応して香りを発生させる装置が記載してある。香りとしては、覚醒効果のある芳香剤、および、リラックス効果のある芳香剤を使用し、声の種類に応じて選択的に香りを発生させている。これら芳香剤は、選択された後、送風部を経由して対象空間に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3267103号公報
【特許文献2】特許第3763668号公報
【特許文献3】特許第3211410号公報
【特許文献4】特許第3277762号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜4の装置は、車内の空調設備に設けられたダクトから車内に香り成分を供給するように構成される。この場合、供給された香り成分は運転者が香り成分を知覚する前に素早く車内全体に拡散する虞があるため、運転者に到達する香り成分は、当該ダクトから供給された香り成分のうちのほんの一部に過ぎない場合がある。そのため、香り成分を供給した所望の効果を得るのに時間を要することがあった。
【0010】
特許文献1,2の装置は、一種類の香り成分を所望のタイミングで対象空間に供給している。このように一種類の香りを連続供給されると、供給頻度や濃度が増えたとしても、運転者はその香りに慣れて順応する傾向が認められる。このような順応が認められれば覚醒効果は弱くなるため、香り成分の量に対する覚醒効率は低くなる。
【0011】
一方、特許文献3,4の装置は、二種類の香り成分を選択して対象空間に供給している。供給時には、当該二種類の香り成分は、同一のパイプを経由して対象空間に供給される(特許文献3)、或いは、共通の送風部を経由して対象空間に供給されるように構成される(特許文献4)。後に選択された香り成分は、前に選択された香り成分がパイプ内部や送風部内部に残留した状態で供給されることがある。この場合、二種類の香り成分は混合された状態で供給されることとなり、後に供給した香り成分においては所望の香り成分の効果が期待できなくなる虞がある。
このような香り成分の混合を避けるためには、後に選択された香り成分を供給する際に、前に選択された香り成分をパイプ内部や送風部内部から除去すればよいが、当該除去を行なう分だけ、二種類の香り成分を切り替えて供給するタイミングが遅くなる。
【0012】
従って、本発明の目的は、覚醒効果を低下させることなく、迅速に運転者に香り成分を供給できる車両用香り供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明に係る車両用香り供給装置の第一特徴構成は、複数の香り成分を各別に収容する香り成分収容部と、前記香り成分収容部から車内空間に前記香り成分を各別に供給する香り供給路と、運転者の覚醒度を判定する覚醒度判定部と、前記覚醒度判定部の判定結果に基づき、前記車内空間に対して前記香り成分収容部から特定の香り成分を供給する制御部と、を備えた点にある。
【0014】
本構成によれば、複数種類の香り成分を供給できるため、前に供給した香り成分とは異なる香り成分を後に供給することで、運転者に異なる香りの刺激を付与することができる。この刺激変化により特定の香りに対する順応を避けることができ、運転者の覚醒状態を持続できる時間を長くすることができる。
複数の香り成分のそれぞれは、各別の香り供給路から車内空間に供給されるから、異なる香り成分同士が混合された状態で車内空間に放出されることを阻止できる。このため、それぞれの香り成分が有する、例えば、香りそのものや覚醒作用等の独自の効能を確実に発揮させることができる。
また、それぞれの香り供給路は、各香り成分独自の供給経路であり、異なる香り成分を除去する処理をする必要がないため、迅速に運転者に香り成分を供給できる。
【0015】
本発明に係る車両用香り供給装置の第二特徴構成は、前記制御部が、前記香り成分収容部に空気を供給するコンプレッサと、当該コンプレッサからの空気を一時的に貯留するバッファ容器と、前記香り成分収容部の入口側と出口側とに設けた弁体とを備えた点にある。
【0016】
本構成によれば、香り成分収容部の入口側および出口側を弁体で遮蔽開閉する構成とすることで、香り成分収容部の内部の香り成分濃度を安定的に維持することができる。この香り成分を、コンプレッサとバッファ容器とで生成した所定圧力の空気によって車内空間に放出させるから、所期の量の香り成分を容易に車内空間に供給することができる。
【0017】
本発明に係る車両用香り供給装置の第三特徴構成は、前記香り成分収容部に温度調節器を備えた点にある。
【0018】
本構成によれば、香り成分収容部の温度を適宜設定することで、当該収容部内に発生させる香り成分の量を調節することができる。例えば、濃い香り成分を放出するには温度を上げ、薄い香り成分を放出するには温度を下げればよい。また、車内の温度に拘らず香り成分収容部の温度を常に一定にすることもできる。よって、所定の濃度の香り成分を車内に放出することが可能となり、各香り成分の効能をより確実に発揮させることができる。
【0019】
本発明に係る車両用香り供給装置の第四特徴構成は、前記香り供給路が、前記香り成分を前方に供給可能となるように運転席のヘッドレストに設けた点にある。
【0020】
本構成によれば、香り成分を運転席のヘッドレストから前方に供給するものであれば、運転者が知覚できるだけの少量の香り成分を供給するだけでよい。
また、車内の空調設備に設けたダクトから香り成分を供給する場合に比べて当該ヘッドレストから供給するほうが迅速に運転者に香り成分を知覚させることができる。当該ヘッドレストから香り成分を供給する場合は、運転者が香り成分を知覚する前に素早く車内全体に拡散する虞があるが、本構成ではヘッドレストから供給された香り成分を、直ちに運転者が知覚することができるため、効率よく運転者を覚醒させることができる。
さらに、車内空間の全体に香り成分が供給されるものではないから、他の乗員に不必要に香り成分を知覚させることを回避できる。
【0021】
本発明に係る車両用香り供給装置の第五特徴構成は、前記制御部が、前記覚醒度判定部の判定結果に基づき、前記複数の香り成分を所定の順番で、かつ、予め設定したインターバルで車内空間に供給するように構成した点にある。
【0022】
覚醒度判定部は、例えば運転者の覚醒度合いに応じて数段階の覚醒度を判定することができる。この判定度に応じて、覚醒度が少なく、運転に支障をきたすような場合には運転者を強く覚醒させる必要がある。このような覚醒作用は、それぞれの香り成分の供給量や、供給間隔、供給順序によって異なる効果が得られる。
そこで、本構成では、特に香り成分の供給順序および供給間隔を予め設定しておき、覚醒度に応じて異なる覚醒効果を得ることができる。
【0023】
本発明に係る車両用香り供給装置の第六特徴構成は、前記複数の香り成分をペパーミント及びレモンとした点にある。
【0024】
ペパーミント及びレモンは何れも顕著な覚醒効果を有する。
ただし、双方の香りを例えば交互に供給する場合には、運転者はそれぞれの香りに慣れてしまい、覚醒効果が低下する傾向がある。しかし、ペパーミントとレモンとを交互に知覚させることで、ペパーミントを再度知覚した際に、ペパーミントがより新鮮に感じられるようになる。よって、本構成の組み合わせであれば、夫々の香り成分を複数回交互に供給した場合でも、覚醒効果が低下することを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の車両用香り供給装置の概略を示す平面図である。
【図2】車両用香り供給装置における香り成分の供給の有無を判定する流れ図を示した図である。
【図3】香り成分の供給パターンを示した図
【図4】運転者の覚醒度合いの結果を示した図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
本発明の車両用香り供給装置は、車両の運転者が運転中に意識の覚醒度が低下したと判定された場合に、車内に香り成分を供給して当該運転者の覚醒度を向上させるものである。本発明の車両用香り供給装置では、複数の香り成分を車内に供給できるように構成する。本実施形態では、二種類の香り成分を供給する場合について説明する。
【0027】
図1に示したように、当該香り供給装置Xは、複数の香り成分を各別に収容する香り成分収容部10(10a,10b)と、香り成分収容部10から車内空間に香り成分を各別に供給する香り供給路20(20a,20b)と、運転者の覚醒度を判定する覚醒度判定部30と、覚醒度判定部30の判定結果に基づき、車内空間に対して香り成分収容部10から特定の香り成分を供給する制御部Bと、を備える。
【0028】
香り成分収容部10は、香り成分を含有する液体状・精油状・固体状・気体・ゲル状・ペースト状等の香料を収容するものであり、当該香料を密封できる容器であればよい。例えば香料を追加あるいは交換する作業が容易となるように、それぞれの香料を各別に収容したカセット10a,10bを着脱できるように構成したカセット方式とすることができる。
【0029】
香料は、例えば加温するなどによって香り成分が揮発するものがよいが、これに限られるものではなく、常温で香り成分が揮発するものを使用してもよい。例えば、ヒータなどの温度調節器50によって香料を加温して揮発させる、或いは、加熱した熱板などに液体状の香料を噴霧して揮発させる等の態様が例示される。
香り成分収容部10の温度を温度調節器50によって適宜設定することで、当該収容部10内に発生させる香り成分の量を調節することができる。例えば、濃い香り成分を放出するには温度調節器50で設定する温度を上げ、薄い香り成分を放出するには温度調節器50で設定する温度を下げればよい。また、車内の温度に拘らず香り成分収容部10の温度を常に一定にすることもできる。よって、所定の濃度の香り成分を車内に放出することが可能となり、各香り成分の効能をより確実に発揮させることができる。
【0030】
香り成分とは、揮発性物質で香りを有するものをいう。運転者が嗅覚によって呼吸と共に空気中に漂う香り成分を吸い込めば、香りの情報が大脳辺縁系に到達すると、意識として香りを感じ、例えば運転者が好む香りであれば心地よい感情が生まれ、意識が覚醒する。また、香り成分は呼吸によって肺にまで到達し、肺静脈などからも吸収され、体に影響を与える。このように、香り成分が車内に供給されることにより、当該運転者の覚醒度を向上させることができる。
本発明では、複数の香り成分を組み合わせ、これら複数の香り成分を別経路でタイミングを計って供給することで、香り成分に対する順応を避け、覚醒度を向上させる。覚醒度は、眠気を解消したり集中力が高まることにより、向上するものと認められる。
本発明で使用する香り成分は、覚醒効果を有するものであれば使用することができ、例えばペパーミント、レモン、ローズマリーおよびユーカリの香り成分などが例示されるが、これに限られるものではなく、眠気を解消したり集中力が高まると運転者が認める香り成分であればよい。複数の香り成分は、二種類の場合はペパーミントおよびレモンを組み合わせるのが好ましいが、これに限定されるものではない。これら二種類の香り成分は、車内に別の香気が漂っていた場合であっても運転者が嗅ぎ分け易いため、特に覚醒効果に優れていると考えられる。
【0031】
香り成分収容部10の内部は、香料が液体状・精油状・固体状・ゲル状・ペースト状の場合、当該香料を収容する収容空間および揮発した香り成分を滞留させる滞留空間を有するように構成すればよい。
【0032】
香り成分収容部10は、空気を流通させることができる孔部11a,11bをそれぞれ上流側および下流側に設けてある。これにより香り成分は、香り成分収容部10の上流側から流下してきた空気と香り成分収容部10の内部で混合される。
【0033】
当該空気は、香り成分収容部10の上流側に設けた空気移送手段60によって空気供給路21を経由して香り成分収容部10の内部に移送される。当該空気移送手段60は、空気を圧送できるエアコンプレッサ61を例示するが、その他にファンなどが例示される。当該エアコンプレッサ61は、車載空調にて使用するエアコンプレッサを使用してもよく、香り供給装置Xに専用に取り付けたエアコンプレッサを使用してもよい。
空気供給路21を流下してきた空気は、上流側の孔部11aから香り成分収容部10の内部に侵入して香り成分と混じり合った混合気体となる。この混合気体(覚醒空気)が下流側の孔部11bから香り供給路20に流下する。香り供給路20の端部は、対象空間Aに香り成分を供給する香り供給口22となっている。
【0034】
香り供給路20は、香り成分に対応する数と同数の流路を設ける。本実施形態では、二種類の香り成分を有するため、二本の香り供給路20a,20bが形成してある。これらはそれぞれ独立した流路であり、対象空間Aに供給されるまでは異なる香り成分が混じり合うことはない。
【0035】
香り供給路20は、車両のフロントパネルから運転者に向けて香り成分を供給できるように香り供給口22をフロントパネルに取り付けることができる。しかし、これに限らず、香り供給路20は、香り成分を前方(車の進行方向)に供給可能となるように香り供給口22を運転席のヘッドレスト(図外)に設けてもよい。香り成分を運転席のヘッドレストから前方に供給するものであれば、運転者が知覚できるだけの少量の香り成分を供給するだけでよい。
また、香り供給装置Xをポータブル態様にして、運転者が所望する位置に載置できるようにしてもよい。
【0036】
香り供給路20には、覚醒空気の供給量を制御する覚醒空気調整弁体70(70a,70b)が設けてある。また、空気供給路21には、圧縮空気の流通量を制御する圧縮空気調整弁体71(71a,71b)が設けてある。このように弁体70,71は、香り成分収容部の入口側と出口側とに設けられる。これら弁体70,71は、電子制御装置(ECU)40によって開閉制御される電磁弁を使用できる。
【0037】
また、空気供給路21には、圧送されてきた空気の圧力を維持するため逆止弁72、および、バッファ容器73が設けてある。当該バッファ容器73は、ある程度の量の圧縮空気を一時的に貯留させておくことができる容器である。そのため、連続して香り成分を供給する制御を行ったとしても、高い圧力を維持した状態で圧縮空気を香り成分収容部10の側に流下させることができる。
このように、香り成分収容部10a,10bに収容される香り成分は、空気移送手段60(エアコンプレッサ61)、電磁弁70,71、バッファ容器73によって供給の有無が制御される。
エアコンプレッサ61によって圧縮空気を生成し、定圧バッファ容器33に蓄圧された圧縮空気を圧縮空気調整弁体71を制御して香り成分収容部10に圧送すると、香り成分を含有した覚醒空気を、香り供給口22から特に運転者あるいはその近傍に向けて局所的かつ迅速に供給できる。
逆止弁72は、電子制御装置40によって開閉制御して余剰となる圧縮空気を例えば車外に排出する。即ち、電子制御装置40によって電磁弁70,71および逆止弁72の開閉を制御することで、香り成分収容部10から対象空間Aに供給する香り成分の量、供給圧および供給タイミングを制御することができる。
【0038】
即ち、本発明で使用する制御部Bは、電子制御装置40、空気移送手段60(エアコンプレッサ61)、電磁弁70,71、逆止弁72、バッファ容器73によって構成される。このように、香り成分収容部10の入口側および出口側を電磁弁70,71で遮蔽開閉する構成とすることで、香り成分収容部10の内部の香り成分濃度を安定的に維持することができる。そしてこの香り成分を、エアコンプレッサ61とバッファ容器73とで生成した所定圧力の圧縮空気によって車内空間Aに放出させるから、所期の量の香り成分を容易に車内空間Aに供給することができる。
【0039】
当該制御部Bは、覚醒度判定部30の判定結果に基づき、車内空間Aに対して香り成分収容部10から特定の香り成分を供給する。
本発明では、運転者の覚醒度を判定して複数の香り成分を所定の順番で別異に供給する。例えば香り成分が二種類の場合、第一の香り成分を供給した後、予め設定したインターバルで第二の香り成分を供給する。当該インターバルは任意に設定してよい。例えば、第一の香り成分を供給した後、当該第一の香り成分の香りを運転者が認識できなくなる時間を設定する、或いは、第一の香り成分を供給した後、当該第一の香り成分の香りを運転者が認識できるがその香りに順応してしまう時間を設定するとよい。
複数の香り成分を供給する順番や前記インターバルは、運転者の嗜好に応じて適宜変更できるように設定してもよい。
【0040】
覚醒度判定部30は、運転者の注意力低下度が所定値以上となったとき運転者の覚醒度が低下したことを判定する。
当該覚醒度判定部30は、車両横変位の単位時間変化量、操舵角度の単位時間変化量、車両の走行速度、アクセル量、ブレーキ開度、単位時間内の運転者の瞬き回数などのパラメータによって運転者の覚醒度合いを判定する。さらに、瞼の開度を画像解析した結果、および、筋電信号を判定のパラメータに追加してもよい。
これらパラメータは、それぞれの変化量を検出するセンサから得られたデータを数値化できるようにしておく。また、当該パラメータは、それぞれにおいて基準となる所定値を予め設定しておく。
【0041】
図2に、香り成分の供給の有無を判定する流れ図を示す。
最初に、運転者などによって制御開始スイッチ80を押すことで、覚醒度判定部30による判定を開始する(ステップa)。
【0042】
各種センサからデータを取得し(ステップb)、所定値と比較してその大小関係を判定する(ステップc)。当該判定は、所定値より大きいデータをもつパラメータの有無を検出する。このとき、覚醒度合いを複数段階に分けて設定するとよい。例えば、レベル1〜3の三段階の覚醒度合いを設定する。レベル1は「正常状態」で、全てのパラメータにおいて所定値より小さいデータをもつ状態とする。レベル2は「やや意識低下状態」で、一部のパラメータが所定値より大きいデータをもつ状態とする。レベル3は「大きく意識低下状態」で、全てのパラメータにおいて所定値より大きいデータをもつ状態とする。
【0043】
設定した基準に基づき、覚醒度の低下が認められない(レベル1)と判断されれば、再度、各種データ取得(ステップb)、判定(ステップc)を繰り返す。
覚醒度が低下した(レベル2,3)と判断されれば、制御部40によって電磁弁70,71および逆止弁72の開度を制御することで、第一の香り成分を香り成分収容部10から対象空間Aに供給する(ステップd)。所定時間経過後、同様に第二の香り成分を供給する(ステップe)。当該所定時間は、覚醒度合いの判定レベルに応じて、或いは、車内空間の温度などに応じて適宜設定すればよく、例えばレベル2の場合は30秒、レベル3の場合は15秒とする。香り成分を供給する時間は適宜設定すればよいが、例えば0.1秒程度とする。
尚、香り供給ステップd,eはレベル3の場合のみに行なうように制御してもよい。
【0044】
本実施形態では香り成分は二種類であるため、香り供給ステップはステップd,eのみであるが、ステップd,eを所定回数だけ繰り返すように制御してもよい。尚、当該香り成分が三種類以上である場合は、この香り供給ステップでは、香り成分の数だけステップ数は増えることとなる。このようにして制御部40によって複数の香り成分を所定の順番で、かつ予め設定したインターバルで対象空間Aに供給するように制御する。
このように香り供給ステップd,eを行なうことで、異なる香り成分を交互に供給できる。
【0045】
香り成分の供給が終われば、覚醒度の回復判定を行なう(ステップf)。当該回復判定は、ステップcにおける覚醒度の低下判断と同様の判断基準で行なうのがよい。
設定した基準に基づき、覚醒度の回復が認められない(レベル2,3)と判断されれば、再度、香り供給ステップd,eを行なう。覚醒度が回復した(レベル1)と判断されれば、制御部40によって電磁弁70を閉じ制御することで、香り成分の供給を停止する(ステップg)。尚、香り供給ステップd,eをレベル3の場合のみに行なうように制御した場合は、レベル1,2が覚醒度が回復したと判断されるため、このレベルで香り成分の供給を停止する。
香り成分の供給を停止した後、覚醒度の低下を検出するステップbを行う。
【0046】
本発明の香り供給装置Xによれば、複数種類の香り成分を供給できるため、前に供給した香り成分とは異なる香り成分を後に供給することで、運転者に異なる香りの刺激を付与することができる。この刺激変化により特定の香りに対して運転者が順応するのを抑制することができる。運転者の覚醒状態を持続できる時間を長くすることができる。
【実施例】
【0047】
〔実施例1〕
本発明の香り供給装置Xを使用して、運転者の覚醒度がどのように変化するかを調べた。
香り成分は、二種類の場合はペパーミント((株)日本香堂製)およびレモン((株)日本香堂製)とし、覚醒度判定部30において車両横変位量をパラメータとして、室温で以下のようにして実験を行なった。被験者は二名(S1,S2)とした。
【0048】
香り成分の供給は、上記二種の香り成分を交互に供給する方法(実施例1)、および、上記二種の香り成分をそれぞれ単独で供給する方法(比較例1−1(ペパーミント),1−2(レモン))とした。図3に香り成分の供給パターンを示した。香り成分を供給する時間は0.1秒とした。実施例1ではペパーミント、レモンの順で交互に供給した。それぞれの香り成分の供給インターバルは60秒とした。
【0049】
車両の操作情報は、カットモデルを付したドライビングシミュレータ(DS:三菱プレシジョン社製)を使用して取得した。走行シーンは、夜間の単調高速走行(約100km/h)を選択した。車両横変位は、車両中心とセンターラインとの距離を測定し、単位時間あたりの車両横変位量を算出した。表1に示したように三段階の覚醒レベルを設定した。
【0050】
【表1】

【0051】
覚醒度合いの判定は、データ取得中(a)は視察で表1に基づいて3段階判定し、データ取得後(b)はDSの車両横変位量から算出した30秒毎の標準偏差で判定した。効果持続時間は、覚醒度合い判定(a)のレベル3以降で車両横変位量標準偏差≦0.4区間の時間とした。被験者S1,S2のうち、S1で得られた結果を図4((a)実施例1、(b)比較例1−1、(c)比較例1−2)に示した。
各被験者の効果持続時間の結果を表2に示した。
【0052】
【表2】

【0053】
この結果、被験者S1において本発明の実施例1では効果持続時間は14分であるのに対して、比較例では8〜9分の効果持続時間であった。これより、S1では本発明の実施例1は比較例の1.5〜1.7倍程度の覚醒度の効果が持続するものと認められた。
被験者S2において本発明の実施例1では効果持続時間は9.5分であるのに対して、比較例では4.5〜6分の効果持続時間であった。これより、S2では本発明の実施例1は比較例の1.6〜2.1倍程度の覚醒度の効果が持続するものと認められた。
従って、本発明の車両用香り供給装置Xを使用すれば、運転者の覚醒度は従来の手法より1.5倍以上の効果を持続することが判明した。
【0054】
〔別実施の形態1〕
上述した実施形態では、香り供給路20の香り供給口22から香り成分を供給する態様について説明した。これに加えて、局所供給手段として、ノズル様の部材(図外)を香り供給口22に付設してもよい。
【0055】
本構成では、ノズル様部材を香り供給口22に付設することで、運転者により近い位置で香り成分を運転者に供給することができる。
例えばノズル様部材の先端部を運転者の鼻腔に向けて設置する。この場合、香り成分の供給直後の被供給範囲を、例えば運転者の鼻腔に特定することができる。そのため、仮に車内で空調による空気の流れがあったとしても、香り成分の供給直後であれば、当該香り成分は運転者の鼻腔近傍を漂わせることができる。そのため、より確実に運転者の鼻腔に向けて香り成分を供給することができ、運転者の覚醒度を確実に向上させ易くなる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の車両用香り供給装置は、香り成分を車内空間に供給して運転者の覚醒度を向上させるために利用できる。
【符号の説明】
【0057】
X 車両用香り供給装置
A 車内空間
B 制御部
10 香り成分収容部
20 香り供給路
30 覚醒度判定部
50 温度調節器
61 エアコンプレッサ
70 覚醒空気調整弁体
71 圧縮空気調整弁体
73 バッファ容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の香り成分を各別に収容する香り成分収容部と、
前記香り成分収容部から車内空間に前記香り成分を各別に供給する香り供給路と、
運転者の覚醒度を判定する覚醒度判定部と、
前記覚醒度判定部の判定結果に基づき、前記車内空間に対して前記香り成分収容部から特定の香り成分を供給する制御部と、を備えた車両用香り供給装置。
【請求項2】
前記制御部が、前記香り成分収容部に空気を供給するコンプレッサと、当該コンプレッサからの空気を一時的に貯留するバッファ容器と、前記香り成分収容部の入口側と出口側とに設けた弁体とを備える請求項1に記載の車両用香り供給装置。
【請求項3】
前記香り成分収容部に温度調節器を備えた請求項2に記載の車両用香り供給装置。
【請求項4】
前記香り供給路が、前記香り成分を前方に供給可能となるように運転席のヘッドレストに設けてある請求項1〜3の何れか一項に記載の車両用香り供給装置。
【請求項5】
前記制御部が、前記覚醒度判定部の判定結果に基づき、前記複数の香り成分を所定の順番で、かつ、予め設定したインターバルで車内空間に供給するように構成してある請求項1〜4の何れか一項に記載の車両用香り供給装置。
【請求項6】
前記複数の香り成分が、ペパーミント及びレモンである請求項1〜5の何れか一項に記載の車両用香り供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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