説明

車両表面のコーティング剤および車両表面のコーティング方法

【課題】車両表面の塗装面に高度な撥水性、光沢および滑り性を付与するとともに、ウィンドガラス面には吸着せず、簡便な作業にて塗布することができる車両表面のコーティング剤および車両表面のコーティング方法の提供。
【解決手段】トリメチルシロキシケイ酸(成分a)と、フリーのアミノ基を有するアミノ変性ポリシロキサンを実質的に含有しない動粘度が100〜10,000mm2/sのオルガノポリシロキサン(成分b)とカチオン性以外の界面活性剤(成分c)と水とから構成され、上記成分aと成分bとの質量配合比率が成分a/成分b=5/95〜70/30であることを特徴とする車両表面のコーティング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両表面の保護および美観向上に使用するコーティング剤および車両表面のコーティング方法に関し、さらに詳しくは自動車や鉄道などの車両の塗装表面に、撥水性、光沢および滑り性などの美観向上および表面保護を与えるコーティング剤、および該コーティング剤を用いる車両表面のコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両表面を自動式洗車機を用いて行うコーティングにおいて、アミノ変性ポリシロキサンを主要成分とした水性エマルションを水にて数十から数百倍に希釈してスプレー塗布することが行われている。アミノ変性ポリシロキサンは、ジメチルポリシロキサンのメチル基の一部をアミノアルキル基や、アミノアルキル置換アミノアルキル基で置換したものであり、車両表面に塗布した場合、そのアミノ当量や分子量により反応性、吸着性、光沢および滑り性などの性質が変化するものである。
【0003】
このアミノ変性ポリシロキサンは、有機酸などを用いて中和することにより容易に水性エマルションとすることができ、また、吸着性を有することから、このエマルション希釈液をスプレー塗布するだけで容易に車両表面に吸着させることができる。また、吸着した後、車両表面にて空気中の水分および炭酸ガスにより架橋され、耐久性に優れた被膜を形成する。これらの性質から、アミノ変性ポリシロキサンは自動式洗車機を用いたコーティングに多用されており、無くてはならない成分と言える。さらに、被膜成分の吸着性を上げるためにカチオン性界面活性剤を併用すること、カチオン性ワックスを塗布した後にアミノ変性ポリシロキサン含有のコーティング剤を塗布することも行われている。これらは何れも、カチオン基の吸着性を利用して車両表面に被膜を付着させる方法である。
【0004】
上記の従来例としては、アミノ変性ポリシロキサンを非イオン性界面活性剤で乳化し、特定のカチオン性界面活性剤を含有させた自動塗布方法に用いる車両表面用のコーティング剤が特許文献1に開示されている。
【0005】
また、アミノ変性ポリシロキサンをカチオン性界面活性剤および/または非イオン性界面活性剤により乳化した組成物と撥水性を向上せしめるコーティング方法が特許文献2に開示されている。また、アミノ変性ポリシロキサンとジメチルポリシロキサンとをそれぞれ特定のHLBを持つ非イオン性界面活性剤にて乳化し、これらを混合してなる光沢撥水付与組成物が特許文献3に開示されている。
【0006】
トリメチルシロキシケイ酸を使用した車両表面の処理剤としては、アミノ変性ジメチルポリシロキサンと他のオルガノポリシロキサンとを併用し、手作業にて洗浄と撥水処理を同時に行うもの、洗車機用としては、成分中にアミノ変性ポリシロキサンを含有する処理剤、またはアミノ変性ポリシロキサン含有のコーティング剤を塗布した後に、さらに重ねて他のコーティング剤を塗布する方法など、上述と同様に、アミノ変性ポリシロキサンなどのカチオン性基の吸着性を利用した組成物および処理方法が公表されている。
【0007】
トリメチルシロキシケイ酸を使用する従来例としては、トリメチルシロキシケイ酸とオルガノポリシロキサンの混合液を水中分散したエマルションと、アミノ変性ポリジメチルシロキサン、有機酸、アルキルグルコシドを含有する手作業用の洗浄撥水剤が特許文献4に開示されている。
【0008】
また、特定のアミノ変性ポリシロキサンを主成分としたカーポリッシュ用エマルション組成物が特許文献5に開示されている。また、アミノ変性ポリシロキサン含有コーティング剤を塗布した後に、さらに重ねてアミノ変性ポリシロキサンを含有しないコーティング剤を塗布する方法が特許文献6に開示されている。
【0009】
トリメチルシロキシケイ酸は、その性質上有用な成分であり、近年車両表面用コーティング剤にも添加されるようになっている。しかし、主に手作業用コーティング剤に高度な撥水性を付与するために使用されている(特許文献4〜6参照)。
【0010】
前述の他に、ウィンドガラスに付着しない車両表面の艶出し方法として、従来から手作業用のワックス剤に多用されているロウ分などからなるワックス剤を、洗車機を用いて数十倍に水希釈してスプレーし、洗車機付帯の回転ブラシで塗り延ばす方法が使用されていた。従来例としては、ロウとシリコーン化合物を特定の界面活性剤により乳化せしめた組成物によるウィンドガラスに付着しないことを特徴とした車両表面の艶出し方法が特許文献7に開示されている。
【0011】
さらに、一般に、汚れたコーティング剤被膜を洗浄する場合、汚れが強固に付着してしまい通常の温和な洗浄剤では汚れを落としきれないため、強アルカリ性の洗浄剤や研磨粒子を含有させた強力な洗浄剤が用いられている。そして、汚れの除去性を考慮した特定の成分からなるワックス組成物などが考案されている。従来例としては、特定のジメチルポリシロキサン共重合体と脂肪酸などを含有するワックス組成物による被膜を、アルカリ洗剤で洗浄する方法が特許文献8に開示されている。
【0012】
【特許文献1】特開平8−188745号公報
【特許文献2】特開2001−49189号公報
【特許文献3】特開2004−300387号公報
【特許文献4】特開平11−116988号公報
【特許文献5】特開2004−339305号公報
【特許文献6】特開2005−28337号公報
【特許文献7】特公平6−57820号公報
【特許文献8】特開2000−239329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したアミノ変性ポリシロキサンやカチオン性界面活性剤を含有するコーティング剤は、それらの吸着性を利用して塗布することができる反面、車両のウィンドガラスにも同時に吸着することが避けられなかった。ガラス表面は、本来親水性で油性物質は付着し難いが、ガラス表面が弱アニオン性を帯びているため、アミノ変性ポリシロキサンやカチオン性界面活性剤はガラス表面に積極的に吸着し、撥水表面を形成する。この撥水表面は繰り返しのコーティング剤の塗布により油膜となり、光のギラツキや高湿度環境化での結露発生など、車両運行上非常に危険な現象を引き起こす場合がある。
【0014】
また、アミノ変性ポリシロキサンおよびカチオン性界面活性剤は、それらの吸着性により環境中の油性汚染物質を吸着してしまい、コーティング被膜が汚れ易くなる欠点があった。
【0015】
また、アミノ変性ポリシロキサン含有のコーティング剤は、その反応性により車両表面に吸着した後、架橋反応を起こし硬化するため、コーティング被膜は通常の車両使用環境下で1ヶ月間以上の耐久性をも実現できる。しかし、汚染物が付着した場合、汚染物を取り込んだ状態のまま被膜形成され、温和な洗浄剤による簡便な方法で除去することが困難となる。
【0016】
また、アミノ変性ポリシロキサンは、その反応性により洗車機などの配管内壁に吸着した後に硬化して、配管を詰まらせることがある。さらに、希釈水に含まれる硫酸イオンなどのアニオン成分とイオンコンプレックスを生じて析出するため、コーティング剤の水分として地下水を使用すると頻繁に配管の詰まりが発生することがあり問題となっている。
【0017】
ウィンドガラスに油膜などが付着しない処理方法としては、ロウやシリコーン化合物を乳化せしめた水性エマルションを洗車機にて塗布することが行われているが、これは基本的に手作業用ワックスと同類の組成物を洗車機の回転ブラシにて塗り延ばすことにより車両表面に付着させるもので、車両表面に余分なワックス分も残留し、その結果、手作業にて拭き上げるなどの手間を要するものである。また、ガラス表面には吸着はしないものの、余分なワックス分は残留し、やはり拭き上げる必要が生ずる。さらに、手作業にて同類の組成物を使用することもあるが、余分なワックス分の拭き上げ作業は避けられない。さらに、このワックス剤は汚れの洗浄性まで考慮されたものではなく、ロウ分に汚染物が入り込み容易に洗浄できなくなることがある。
【0018】
汚れの洗浄性を考慮した組成物および除去方法として前記特許文献8があるが、ある特定の組成物とアルカリ洗浄によるものであること、主に手作業での方法としての有用性に限られていること、手作業での塗布および自動式洗車機などによる塗布においても、ワックス剤の拭き上げや、ウィンドガラスへの吸着回避などを実現できるものではない。
【0019】
従って本発明の目的は、車両表面の塗装面に高度な撥水性、光沢および滑り性を付与するとともに、ウィンドガラス面には吸着せず、自動式洗車機を用いて、または、手作業による塗り延ばしのみの簡便な作業にて塗布することができ、また、その被膜は、温和な洗浄剤を使用することで容易に除去することができる車両表面のコーティング剤および車両表面のコーティング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的は本発明によって達成される。すなわち、本発明は、トリメチルシロキシケイ酸(以下「成分a」という場合がある)と、フリーのアミノ基を有するアミノ変性ポリシロキサンを実質的に含有しない動粘度が100〜10,000mm2/sのオルガノポリシロキサン(以下「成分b」という場合がある)とカチオン性以外の界面活性剤(以下「成分c」という場合がある)と水とから構成され、上記成分aと成分bとの質量配合比率が成分a/成分b=5/95〜70/30であることを特徴とする車両表面のコーティング剤を提供する。
【0021】
上記本発明のコーティング剤において、前記成分bは、アミノ基がアニオン性物質により完全に封鎖されているアミノ変性ポリシロキサンであり得る。また、前記成分bは、カルボキシル変性ポリシロキサンを含有することができる。
【0022】
また、本発明は、前記本発明のコーティング剤を、自動式洗車機または手作業で車両表面に付与することを特徴とする車両表面のコーティング方法を提供する。この方法では、一旦形成した被膜は、時間経過後に該被膜(汚れた)は温和な洗浄剤でを洗浄することができ、再度本発明のコーティング剤を車両表面に付与してもコーティング剤成分の蓄積により油膜などが発生しない。
【0023】
本発明者らは、前述の課題を解決するために鋭意研究した結果、従来のコーティング剤において吸着剤として必須成分であったアミノ変性ポリシロキサンおよびカチオン性界面活性剤を使用せずに、トリメチルシロキシケイ酸を利用することで、車両表面に被膜成分を付着させることができることを見いだした。この付着原理は明らかではないが、トリメチルシロキシケイ酸は、その強い親油性により水中(エマルション中)では不安定となり、同じく親油性である車両塗装面に選択的に付着するものと推測できる。故にコーティング剤の成分は親水性であるガラス表面へは付着せず、また、トリメチルシロキシケイ酸の特性を生かすことで諸々の効果を発現させ、本発明の目的を達成するに至った。これらの事実は、当該技術分野において大きな知見であり、その有用性は計り知れないものである。
【発明の効果】
【0024】
上記本発明によれば、車両の塗装面に高度な撥水性、光沢および滑り性を付与するとともに、ウィンドガラス面には吸着せず、自動式洗車機を用いて、または手作業による塗り延ばしのみの簡便な作業にて塗布することができ、またその被膜は、温和な洗浄剤を使用することで容易に除去することができる。また、本発明のコーティング剤は洗車機などの配管詰まりを軽減することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明で使用する成分aは、一般式((CH33SiO1/2x・(SiO2y(y/x=0.1〜0.9)で表され、その構造および構成単位から通称MQレジンとも呼ばれている。これは、水ガラスをQ単位(SiO2/4)の出発原料とし、トリメチルシリル基(M単位 R3SiO1/2)で末端を封鎖したものである。この中から1種または2種以上を選択して使用することができる。そして、成分aは有機溶剤などに溶解したもの、水性エマルションにせしめたものなどが上市されており、例えば、商品名DC593などを、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)などから市場で入手して本発明で使用することができる。
【0026】
本発明で使用する成分bは、フリーのアミノ基を有するアミノ変性ポリシロキサンを実質的に含有しないオルガノポリシロキサンであり、例えば、ジメチルポリシロキサンを始めとして、そのメチル基の一部を有機基で置換した変性ポリシロキサンであり、変性種類には、例えば、アルキル変性、アルキルアラルキル変性、脂肪酸変性、エポキシ変性、カルボキシル変性、ポリエーテル変性、アルコール変性、フルオロアルキル変性、メタクリル変性、メチルフェニル変性、エポキシポリエーテル変性などがある。
【0027】
さらに、成分bとしてアミノ基をアニオン性物質で完全に封鎖したアミノ変性ポリシロキサンを使用することもできる。この場合は、ウィンドガラスへの吸着性をなくすためにアミノ変性ポリシロキサンのアミノ基をアニオン性物質、例えは、カルボキシル変性ポリシロキサンなどで完全に封鎖する必要がある。そして、上述の場合でもアミノ変性ポリシロキサンの硬化反応は起こり得るため、添加量はコーティング被膜の耐久性および洗浄性を鑑みて決定しなければならない。本発明は、アミノ変性ポリシロキサンの吸着性以外の特性を利用するもので、従来のアミノ変性ポリシロキサン含有コーティング剤とは本質的に異なるものである。本発明で使用するアミノ変性ポリシロキサンとは、ジメチルポリシロキサンの一部のメチル基をアミノアルキル基や、アミノアルキル置換アミノアルキル基で置換したものである。
【0028】
これらの成分bは、コーティング被膜の撥水性、光沢、滑り性、耐久性、レベリング性および洗浄性などの特性を鑑み適宜選択でき、動粘度は、100〜10,000mm2/sであり、好ましくは300〜5,000mm2/sのものである。また、上記変性や動粘度の異なるものの中から1種または2種以上を使用することができる。このような成分bそれ自体は当該技術分野においてよく知られており、市場から入手して本発明で使用することができる。
【0029】
上記成分bの動粘度が高過ぎると、車両表面でのレベリング性が悪くなり、形成される被膜がムラになり易く、そして被膜が強固になり過ぎて洗浄性が低下する。また、動粘度が低すぎると、レベリング性や洗浄性は良いが、光沢、滑り性、耐久性などが低くなり、車両表面の十分な美観向上効果が得られない。
【0030】
さらに、被膜の耐久性と洗浄性は、成分aと成分bとの配合比率に因っても調整することができる。詳しくは、成分aの配合比率を上げると被膜の耐久性が向上し、洗浄性は低下する。成分aの配合比率を下げると被膜の耐久性は低下し、洗浄性は向上する。すなわち、被膜の質量配合比率は、成分a/成分b=5/95〜70/30であり、好ましくは成分a/成分b=10/90〜40/60である。
【0031】
また、被膜の耐久性を維持しながら、より被膜の洗浄性を向上させる目的で、成分bとしてカルボキシル基変性ポリシロキサンなどの酸性基を有するオルガノポリシロキサンを使用/または併用し、コーティング被膜を弱アルカリ性の洗浄剤(温和な洗浄剤)で除去可能とすることが有効である。これは、ポリシロキサンの酸性基と洗浄剤のアルカリ剤とが中和反応し、被膜を形成しているオルガノポリシロキサン自体に親水性を付加し、被膜の洗浄剤を高めるものである。従ってこの場合には、一旦形成された被膜を時間経過後に除去し、再度車両表面をコーティング処理する際に、上記被膜の洗浄除去に水酸化ナトリウムやエタノールアミンなどを少量含む温和な洗浄剤を使用することができる。
【0032】
本発明で使用する成分cは、カチオン性界面活性剤以外の界面活性剤であり、例えば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルアミンオキサイドなどが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムなどが挙げられる。両イオン性界面活性剤としては、脂肪酸アミドプロピルベタイン、脂肪酸ジメチルアミノ酢酸ベタンなどが挙げられるが、これらの界面活性剤は、その等電点以上のpH域、主に中性からアルカリ性で使用する必要がある。コーティング剤のpHが等電点未満、主に酸性にて使用すると、これらの界面活性剤はカチオン性を呈し、ウィンドガラスへの吸着性を発現してしまうからである。
【0033】
そして、前述の中から本発明のコーティング剤の乳化性や安定性などの特性を鑑み、1種または2種以上の成分cを選択することができ、また、これら成分cそれ自体は当該技術分野においてよく知られており、市場から入手して本発明で使用することができる。
【0034】
本発明における成分a、成分bおよび成分cの配合比率は、これら3成分の合計量を100質量%として成分aは3〜60質量%、成分bは30〜95質量%、成分cは3〜50質量%とし、さらに好ましくは成分aは5〜50質量%、成分bは50〜90質量%、成分cは5〜40質量%とする。
【0035】
本発明のコーティング剤は、前記の成分aおよび成分bを前記の成分cにより同時にまたは任意の順序にで水中に乳化させることによって得られる。本発明のコーティング剤の前記成分aと前記成分bとの合計濃度は、製造時において約0.1〜80質量%であることが好ましく、また、使用時に希釈される濃度は約0.01〜1質量%であることが好ましい。
【0036】
本発明のコーティング剤は、前記必須成分に加えて、さらに必要に応じて本発明の目的達成を妨げない範囲において低級アルコール、グリコールエーテル、多価アルコールなどの低温安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの成分安定剤、水溶性高分子物質などの乳化安定剤、そしてpH調整剤、防腐剤、防錆剤、着色剤、香料などの助剤を含有することができる。
【0037】
以下に本発明のコーティング剤を車両表面に塗布する方法について詳しく説明する。本発明のコーティング剤の塗布には、門型洗車機、スプレー式洗車機などの自動式洗車機を用いる方法、簡易スプレーなどの洗車治具を用いる方法、および手作業にて塗り延ばす方法にて実施することができる。
【0038】
本発明のコーティング剤は、適正濃度に水希釈して車両表面へ掛けることにより被膜形成させることができ、大きな物理力を必要としないため、門型洗車機、スプレー式洗車機などの自動式洗車機、加圧スプレー、簡易泡出しスプレーなどの洗車治具および、手作業などの組み合わせにより容易にコーティングすることができる。
【0039】
自動式洗車機を用いる場合、例えば、門型洗車機を用いて本発明のコーティング剤を水希釈し、車両表面にスプレー塗布する。その後の工程で余分な、コーティング被膜以外の成分を水洗し、さらに洗車機付帯の送風乾燥機にて水滴を飛散除去することでコーティング処理を完了し、ウィンドガラス面には付着せず、塗装面には高度な撥水性、光沢および滑り性を付与することができる。上記の水希釈倍率は車両表面に塗布する液中に、成分aおよび成分bの合計量が0.01〜1質量%となるように適宜設定することができる。
【0040】
手作業にて塗布する場合、例えば、本発明のコーティング剤の水希釈液をタオルに含浸した後にかたく絞り、車両表面をまんべんなく拭き上げることでコーティング処理を完了する。この処理は、通常のワックス掛けやコーティング処理で行われる自然乾燥工程と、拭き上げ工程およびウィンドガラスの洗浄作業が必要なく、非常に簡便な作業によりウィンドガラス面には付着せず、塗装面へ高度な撥水性、光沢、滑り性を付与することができる。上記の水希釈倍率は車両表面に塗布する液中に、成分aおよび成分bの合計量が0.01〜1質量%となるように適宜設定することができる。
【0041】
本発明のコーティング剤からなる被膜を、時間経過後、例えば、被膜が汚れた場合に再度コーティング処理する際に、洗浄除去する方法は、従来のように強力な洗浄剤は必要なく一般に界面活性剤からなるカーシャンプーとして使用されている中性洗剤などで行うことで達成される。詳しくは、門型洗車機を使用する場合は、中性洗剤などを洗車機にて自動希釈、スプレー塗布した直後から洗車機付帯の回転ブラシにて擦り洗いを行い、さらに水洗後に洗車機付帯の送風乾燥機にて車両表面の残留水を飛散除去して完了する。手作業で行う場合は、中性から弱アルカリ性の洗剤水希釈液をスポンジなどに含浸させ車両表面を擦り洗いした後、水洗し、タオルなどを用いて残留水の拭き上げを行い完了する。使用する洗剤の希釈倍率は、洗浄液中の界面活性剤濃度が0.05〜2質量%となるように、適宜設定することができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明はこれらの実施例によってなんら制限されるものではない。
【0043】
[実施例1]
成分bのオルガノポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン、動粘度3,000mm2/s)8質量%と成分cの界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、HLB11.4)3質量%とを攪拌混合した後、イオン交換水を加えて成分bを攪拌乳化した。このエマルションに成分aのトリメチルシロキシケイ酸水性エマルション2質量%を攪拌添加して、実施例1のコーティング剤とした。なお、上記における「質量%」は最終的に得られたコーティング剤における各成分の濃度である。
【0044】
[実施例2〜3、比較例1〜7]
実施例1と同様の操作により、実施例2、3および比較例1〜7のコーティング剤を得た。各例の組成を表1に、各例で用いた成分の詳細を表2に記載した。
【0045】
<試験>
上記実施例および比較例のコーティング剤を用いて、下記の如く車両表面をコーティングし、下記の各種試験を行った。試験方法および評価基準を以下に示し、試験結果を後記表3、4に示した。
【0046】
[試験方法1 撥水性試験]
(自動式洗車機による試験)
車両表面を、洗浄剤を用いて、完全に水濡れ状態となるまで洗浄した。次に門型洗車機に前記本発明および比較例のコーティング剤をセットし、水道水にて200倍に自動希釈された液をスプレー塗布した。さらに水洗後、塗装面の撥水状態を目視判定した。
【0047】
(手施工による試験)
車両表面を、洗浄剤を用いて、完全に水濡れ状態となるまで洗浄した。次に前記実施例および比較例のコーティング剤を水道水にて20倍に希釈し、その液をタオルに含浸させた後に堅く絞り車両表面をまんべんなく拭き上げることでコーティング剤を塗布した。そして、霧状に水をスプレーし塗装面の撥水状態を目視判定した。
【0048】
[試験方法2 光沢試験]
(自動式洗車機による試験)
試験方法1と同一操作によりコーティングを行った後に、門型洗車機の送風乾燥機にて水滴を除去し、乾燥表面を得た。光沢は目視により、未処理部分と比較判定した。
(手施工による試験)
試験方法1と同一操作によりコーティングを行った後に、乾いたタオルにて水滴を拭き上げることにより、乾燥表面を得た。光沢は目視により、未処理部分と比較判定した。
【0049】
[試験方法3 滑り性試験]
試験方法2と同一操作により車両表面にコーティングを行った。そして、500gの分銅をペーパータオルで包み、車両表面の傾斜面に静かに載せて、これが滑り落ちる速さを目視により比較判定した。
【0050】
[試験方法4 洗浄性試験]
(自動式洗車機による試験)
白色アクリル系塗料を焼付け塗装した塗装板を車両天井部へテープにて貼り付け、試験方法2と同一操作によりコーティングを行った。この塗装板を1ヶ月間屋外暴露して汚染させた後に、車両天井部へテープにて貼り付け、門型洗車機を用いて洗浄した。洗浄は、下記組成の弱アルカリ性洗剤液を門型洗車機よりスプレー塗布させ、その直後から洗車機付帯の回転ブラシにて擦り洗いし、さらに水洗した後に、その水濡れ性と汚染残留性を目視により比較判定した。
【0051】
(手施工による試験)
白色アクリル系塗料を焼付け塗装した塗装板を、試験方法2と同一操作によりコーティングを行った。この塗装板を1ヶ月間屋外暴露して汚染させた後に、下記組成の弱アルカリ性洗剤液を含浸させたスポンジを用いて擦り洗いし、さらに水洗した後に、その水濡れ性と汚染残留性を目視により比較判定した。
*弱アルカリ性洗剤組成(洗浄時に使用する液中の成分濃度)
・非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル
HLB13.3 レオックスCC−90 ライオン(株)社製)0.2質量%
・モノエタノールアミン 0.2質量%
・クエン酸(pH調整剤 pH10に調整) 微量
・水 残量
【0052】
<評価基準>
各試験法の評価基準は次の通りである。
[試験方法1 撥水性試験](目視判定)
(塗装面評価基準)
◎:水滴が球形に近く、水滴が流れ落ちてゆく状態。
○:水滴が半円形に近く、水滴の流れも遅い。
△:水滴が楕円状となり、不均一な水流となる。
×:水滴が不均一で、水濡れする部分がある。
(ガラス面評価基準)
◎:全面が完全に水濡れ状態である。
△:部分的に弱い撥水を示す。
×:全面が完全に撥水状態である。
【0053】
[試験方法2 光沢試験](目視判定)
◎:均一で明らかな光沢の向上が観られた。
○:光沢の向上が観られるが、光沢にムラがある。
△:やや光沢の向上が観られるが、光沢にムラがある。
×:未処理部分と殆ど光沢の差異がない。
【0054】
[試験方法3 滑り性試験](目視判定)
◎:手を離すと直ぐに滑り落ちる。
○:やや遅いが直ぐに滑り落ちる。
△:ゆっくりと滑り落ちる。
×:未処理部分と殆ど差異が無くあまり滑らない。
【0055】
[試験方法4 洗浄性試験]
◎:汚れ残りがなく、殆ど撥水しない。
○:汚れ残りがなく、やや撥水する。
△:やや汚れと撥水がある。
×:汚れが残り、撥水する。
【0056】

【0057】

【0058】

【0059】

【0060】
表3および表4の評価結果より、実施例1〜3では、自動式洗車機および手作業でのコーティングにおいて、いずれも十分な撥水性、光沢、滑り性、洗浄性を有していた。すなわち、成分aおよび成分bはガラス面には吸着せず、塗装面には高度な美観向上効果を付与し、さらに汚染した後の被膜の洗浄性をも兼ね備えていることを確認した。この結果から車両表面用コーティングでは従来にない特出した効果であると言える。
【0061】
比較例1および2は、成分bの動粘度が本発明の範囲から外れたコーティング剤である。比較例1は、成分bの動粘度が低すぎるために吸着した被膜の性能が低く、十分な光沢および滑り性が得られなかった。また、被膜の硬度が低くなり耐久性が低下したことにより、程々の洗浄性が得られたと考察する。比較例2は、成分bの動粘度が高すぎるために吸着した被膜がムラとなり、光沢および滑り性を有するものの美観向上においてやや低い仕上がりとなった。そして、被膜の硬度が高くなり、洗浄しきれずに汚染被膜が残留してしまった。
【0062】
比較例3および4は、成分aと成分bの配合比率が本発明の範囲から外れたコーティング剤である。比較例3は、成分aの配合比率が高すぎるために被膜が非常に硬く、成分aの性質が強く現れた結果、光沢および滑り性が不十分となり、また、その被膜は強固となり洗浄性を低下させた。比較例4は、成分aが少なすぎるために吸着性が弱く、車両塗装面にも十分な被膜を作れなかった。これにより全体に効果が薄く、反面洗浄性は程々の結果が得られた。また、洗車機を用いたコーティングと比較して手作業により塗り延ばす方法では、その物理的な作用により被膜の吸着を上げることができた。
【0063】
比較例5および6は、いずれもカチオン性成分を含むコーティング剤である。これらは、車両表面に良好な吸着性を示したが、同時にガラス面にも吸着し、さらに汚染した被膜を洗浄除去することができなかった。特に比較例6は被膜が強固で洗浄剤が殆ど作用しない状態であった。
【0064】
比較例7は、成分aを含有せず他にも吸着性を持つ成分を含まないコーティング剤である。これは殆ど被膜形成されず、美観向上の効果が全く得られなかった。洗浄性も改善はなく、殆ど車両表面の塗装面自体の性能であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のコーティング剤は、自動式洗車機を用いた、または手作業での車両表面のコーティングにおいて、コーティング剤の乾燥工程および拭き上げ作業を必要としない簡便な方法により、高度な撥水性、光沢および滑り性を有するとともに、容易に洗浄除去することができる被膜をウィンドガラス以外の車両表面に付与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリメチルシロキシケイ酸(成分a)と、フリーのアミノ基を有するアミノ変性ポリシロキサンを実質的に含有しない動粘度が100〜10,000mm2/sのオルガノポリシロキサン(成分b)とカチオン性以外の界面活性剤(成分c)と水とから構成され、上記成分aと成分bとの質量配合比率が成分a/成分b=5/95〜70/30であることを特徴とする車両表面のコーティング剤。
【請求項2】
前記成分bが、アミノ基がアニオン性物質により完全に封鎖されているアミノ変性ポリシロキサンである請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
前記成分bが、カルボキシル変性ポリシロキサンを含有する請求項2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング剤を、自動式洗車機または手作業で車両表面に付与することを特徴とする車両表面のコーティング方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング剤を、自動式洗車機または手作業で車両表面に付与して被膜を形成し、時間経過後の該被膜を温和な洗浄剤で洗浄し、さらに請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング剤を車両表面に付与することを特徴とする車両表面のコーティング方法。

【公開番号】特開2007−131674(P2007−131674A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323655(P2005−323655)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(391013106)株式会社パーカーコーポレーション (27)
【Fターム(参考)】