説明

車線境界検出装置、車線境界検出プログラム

【課題】撮像画像から得られる車線境界線以外の路面標示の情報を利用して、車線境界の検出精度を向上させる。
【解決手段】車線境界検出装置10は、車線境界線と補助線とからなる複合線が検出された場合に、複合線を構成する車線境界線および補助線の全てを境界線候補とし、これら境界線候補から求めた候補位置パラメータ(車線中央側のエッジの位置を近似した直線を規定するパラメータ)のうち最も信頼性の高いものを基準線に設定する。基準線の横位置D3を算出し、補助線が基準線に設定された場合は、補助線と車線境界線との間隔(線間隔)D2だけ、基準線の横位置D3を車線境界線側にシフトさせる補正をした位置D2+D3を境界パラメータとして設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車線の境界を検出する車線境界検出装置、車線境界検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両が車線から逸脱しそうな場合に、警報を発生する車線逸脱警報装置等に利用するために、車両前方に向けて搭載したカメラで前方風景を撮影し、自車両が走行する車線の境界を示すための路面標示である車線境界線(道路上にペイントされた白線等)を検出して、その車線境界線に関するパラメータ(自車との相対位置、角度、車線の曲率等)を求める車線境界検出装置が知られている。
【0003】
ところで、図11に示すように、車線境界線は、一又は複数の補助線と共に複合線を形成している場合がある。そして、車線境界検出装置は、このような場合でも、車線境界の位置(例えば、車線境界線の車線中央側エッジの位置)を正しく求める必要がある。
【0004】
その一つの手法として、複合線が検出された場合には、複合線の標示パターンの特徴から、複合線であるか否か、および複合線の種類を判定し、複合線であると判定された場合には、車線境界線以外の標示パターン(即ち、補助標示等)をノイズとして除去することで、車線境界の位置を認識する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3748811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車線境界線等の路面標示は、道路にペイントされたものであるため、車両に踏まれることにより部分的に磨耗していたり、路側物の影や雨等の影響によって路面部分とペイント部分とのコントラストが著しく低下し、両者の識別が部分的に困難になっていたりする場合がある。
【0007】
従って、複合線の中から車線境界線を識別できたとしても、その識別した車線境界線の形状(ひいては車線境界の位置)を、精度良く検出することができないという問題があり、更には、車線境界の位置を利用する各種制御の信頼性を低下させてしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するために、撮像画像から得られる車線境界線以外の路面標示の情報を利用して、車線境界の検出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明の車線境界検出装置では、候補抽出手段が、車両前方の路面を撮像した撮像画像中から、車線境界を示すための路面標示である車線境界線の可能性がある境界線候補を抽出し、その境界線候補の位置を示した近似線を規定するパラメータである候補位置パラメータを求める。なお、近似線は、直線であってもよし、n次関数,楕円関数,双曲線関数等によって規定される曲線であってもよい。
【0010】
そして、候補抽出手段にて複数の境界線候補が検出された場合、判定手段が、その複数の境界線候補の配置パターンに基づき、その複数の境界線候補が、車線境界線および一又は複数の補助線からなる複合線を形成しているか否かを判定する。
【0011】
この判定手段により、複数の境界線候補が複合線を形成していると判定された場合、線間間隔検出手段が、複合線を形成する境界線候補の配置パターンから、境界線候補のそれぞれが、車線境界線および補助線のうちいずれに該当するか線種を識別すると共に、補助線に識別された境界線候補毎に車線境界線に識別された境界線候補との間隔である線間隔を求める。
【0012】
また、本発明の車線境界検出装置では、基準線設定手段が、複合線を形成する境界線候補のうち、候補位置パラメータの信頼性が最も高いものを基準線として設定する。すると、境界パラメータ設定手段が、設定された基準線が車線境界線である場合は、その基準線について算出された候補位置パラメータが示す位置を、車線境界の位置を示す境界パラメータとして設定し、一方、設定された基準線が補助線である場合は、その基準線について算出された候補位置パラメータが示す位置を、その基準線について算出された線間隔だけ車線境界線側にシフトさせたものを、車線境界の位置を示す境界パラメータとして設定する。
【0013】
このように、本発明の車線境界検出装置では、複数の境界線候補が複合線を形成している場合、補助線の情報をノイズとして除去するのではなく、境界線候補の中で最も信頼性の高い候補位置パラメータの情報を用い、その情報を複合線の配置パターンの情報を用いて必要に応じて補正することによって、車線境界の位置を表す境界パラメータを求めている。
【0014】
従って、本発明の車線境界検出装置によれば、車線境界線の磨耗や、路側物の影や雨等の影響によって車線境界線の形状(ひいては候補位置パラメータ)を正確に検出することができない不安定な環境でも、車線境界線が複合線を形成している場合には、補助線の情報(候補位置パラメータ,線間隔)を用いることで、境界パラメータを精度良く求めることができる。
【0015】
即ち、補助線は、車線境界線に沿ってペイントされ、しかも両者の間隔(線間隔)は一定であるため、補助線の位置を正確に検出できれば、その検出結果を線間隔分だけシフトさせることによって、車線境界の境界パラメータを正確に検出することができるのである。
【0016】
本発明の車線境界検出装置において、候補抽出手段は、例えば、請求項2に記載のように、撮像画像を、画像中における車幅方向に沿って配列された画素の画素値の値が大きく変化するエッジ点の位置を検出値とし、その検出値に対してハフ変換を行うことにより候補位置パラメータを求めるように構成されていてもよい。
【0017】
この場合、基準線設定手段は、請求項3に記載のように、候補位置パラメータの信頼性を、その候補位置パラメータに適合する検出値の数が多いほど高く設定するように構成されていてもよい。
【0018】
なお、候補位置パラメータに適合する検出値の数というのは、ハフ変換における投票数のことであり、ハフ変換によって得られた候補位置パラメータによって規定される近似線上に乗る検出値の数のことを表す。
【0019】
また、請求項4に記載のように、候補抽出手段が、候補位置パラメータと共に、境界線候補の線幅を求めるように構成されている場合、基準線設定手段は、候補位置パラメータの信頼性を、その候補位置パラメータに適合する検出値が属する境界線候補の線幅が、線間隔検出手段にて識別された線種について予め設定されているパターン幅に近いほど高く設定するように構成されていてもよい。
【0020】
また、候補抽出手段は、請求項5に記載のように、処理の対象となる対象画素を中心として設定された規定サイズの領域内の画素値を処理するエッジ抽出フィルタを用いることで、対象画素での画素値の変化の度合いを求めると共に、判定手段での判定結果に基づき、エッジ抽出フィルタの処理対象となる領域サイズを変化させるように構成されていてもよい。
【0021】
つまり、候補抽出手段にて使用するエッジ抽出フィルタの領域サイズは、車線境界線のエッジの検出に最適化(認識性能が最大となるように)することが望ましく、例えば、車線境界線の幅の2倍とすることが考えられる。
【0022】
しかし、この設定では、複合線を構成する車線境界線と補助線との間隔が、車線境界線の幅より狭いと、複合線がペイントされた部分での認識性能が低下する可能性がある。そこで、複合線を検出した場合には、エッジ抽出フィルタの領域サイズを、複合線用に最適化した大きさに変更することが望ましく、例えば、車線境界線と補助線との間隔の2倍とすることが考えられる。
【0023】
こうすることによって、複合線であるか否かによらず、エッジ抽出フィルタの認識性能を常に最大限に引き出すことができる。
ところで、候補位置パラメータは、請求項6に記載のように、例えば、車線の中心側に位置する境界線候補のエッジの位置を表すように設定することが考えられる。但し、これに限らず、境界線候補の中心位置であってもよいし、車線の外側に位置する境界線候補のエッジの位置であってもよい。
【0024】
また、境界パラメータ設定手段は、請求項7に記載のように、撮像画像中における当該車両の正面に相当する位置を基準として領域を左右に分割したそれぞれの領域について、境界パラメータを求めるように構成されていてもよい。
【0025】
更に、判定手段は、請求項8に記載のように、撮像画像中における当該車両の正面に相当する位置を基準として領域を左右に分割したそれぞれの領域にて判定を行い、両者の判定結果が異なる場合には、いずれも複合線ではないと判定するように構成されていてもよい。
【0026】
つまり、複合線は、車線の左右両側に、同じパターンのものが設置されるため、この特徴を利用することによって、複合線でないものを、複合線であると誤判定してしまうことを防止することができる。
【0027】
ところで、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の車線境界検出装置を構成する各手段は、ハードウェアによって実現してもよいが、請求項9に記載のように、コンピュータをこれら各手段として機能させる車線検出プログラムによって実現してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(A)は本発明の適用された車線逸脱警報システムの概略構成を示すブロック図、(B)はその主要部となる車線境界検出装置の構成を示すブロック図。
【図2】メイン処理の内容を示すフローチャート。
【図3】メイン処理中の境界線候補抽出処理の内容を示すフローチャート。
【図4】メイン処理中の複合線判定処理の内容を示すフローチャート。
【図5】メイン処理中の基準線選択処理の内容を示すフローチャート。
【図6】メイン処理中の境界パラメータ算出処理の内容を示すフローチャート。
【図7】エッジ抽出フィルタの構成および動作を示す説明図。
【図8】境界パラメータの算出方法を例示した説明図。
【図9】(A)はハフ変換による投票数と確からしさ(PFi)との関係を示すマップ、(B)は候補幅パラメータと確からしさ(PPi)との関係を示すマップ。
【図10】エッジ抽出フィルタの変形例を示す説明図。
【図11】複合線を例示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[全体構成]
図1は、車両に搭載された車線逸脱警報システム1の構成を示すブロック図であり、(A)は全体構成、(B)は主要部となる車線境界検出装置の詳細構成である。
【0030】
図1(A)に示すように、車線逸脱警報システム1は、自車両が走行中の車線の境界(以下「車線境界」という)となる位置等を示す境界パラメータを生成する車線境界検出装置10と、車線境界検出装置10とは車載LANを介して接続され、その車載LANを介して車線境界検出装置10から取得する境界パラメータに基づき、自車両が走行中の車線を逸脱する可能性を求めて、その旨をドライバに報知する各種処理を実行する車両制御ECU20とを備えている。
【0031】
車線境界検出装置10は、図1(B)に示すように、車両前方の路面を撮像するように配置されたCCDカメラ11と、CCDカメラ11から出力されるアナログの画像信号をデジタルの画像データに変換するアナログ・デジタル変換器(ADC)12と、ADC12によって得られた画像データを格納する画像メモリ13と、画像メモリ13に記憶されている画像データに基づいて、境界パラメータを生成する処理等を実行するCPU14と、CPU14が実行する処理のプログラムなどを記憶するROM15と、CPU14の作業領域として機能するRAM16と、CPU14での処理結果などを、車載LANを介して外部へ出力するための通信IC17等を備えている。
【0032】
車両制御ECU20は、車線境界検出装置10と同様に、CPU,ROM,RAM,通信ICを備える他、当該ECU20に直結されたセンサ等から検出信号を取り込んだり、制御対象に対する制御信号を出力したりするためのIOポート等を備えている。ここでは、制御対象として、警報音を発生させるスピーカが少なくとも接続されている。
【0033】
なお、車両制御ECU20は、車両が走行レーンから逸脱しないように操舵トルクを制御する操舵トルク制御装置等の交通事故を防止するための装置として機能するように構成されていてもよい。
【0034】
[メイン処理]
次に、CPU14が実行するメイン処理(車線境界検出プログラムによる処理の内容)を、図2に示すフローチャートに沿って説明する。本処理は、イグニションスイッチ等の車両の電源がON状態にされると開始され、その後、一定時間毎(例えば100ms毎)に繰り返し実施される。
【0035】
本処理が起動すると、まず、CCDカメラ11,ADC12を作動させ、画像メモリ13に1画面分の画像データを格納する(S110)。
以下、後で詳述する境界線候補抽出処理(S120)、複合線判定処理(S130)、基準線選択処理(S140)、境界パラメータ算出処理(150)を実行して本処理を終了する。
【0036】
なお、S130〜S140については、撮像画像中における当該車両の正面に相当する位置を基準として領域を左右に分割したそれぞれの領域について処理を実行するものとする。つまり、自車両が走行中の車線の左右両端の車線境界について、境界パラメータが求められることになる。
【0037】
[境界線候補抽出処理]
ここで、先のS120にて実行する境界線候補抽出処理を、図3に示すフローチャートに沿って説明する。なお、本処理は、自車両が走行している車線(以下「走行車線」という)の境界(左右両縁)を示す車線境界線である可能性がある路面標示(路面にペイントされた白線等)を境界線候補として抽出し、その境界線候補の位置を示す候補位置パラメータ等を生成する処理である。
【0038】
本処理では、まずS210にて、画像メモリ13に格納されている画像データを、規定サイズのエッジ抽出フィルタを用いて処理することにより、画素毎に、画像の水平ライン方向(画像中における車幅方向)に沿って隣接する画素の輝度値の変化の度合いを表す微分値を算出する。
【0039】
なお、エッジ抽出フィルタは、図7(A)に示すように、例えば、1行2n列のフィルタサイズを有し、その1行が「1,1,…1,−1,−1,…−1」というように、n個のフィルタパラメータ‘1’と、n個のフィルタパラメータ‘−1’で構成されている。
【0040】
このエッジ抽出フィルタは、図7(B)に示すように、画像上にて、1画素ずつずらしながら適用することにより、画像全体についてフィルタ出力を得る。また、ある対象画素に対してフィルタを適用した場合の出力値の算出方法は、以下の通りである。
【0041】
図7(C)に示す楕円形領域は、図7(B)に示した画像の一部を拡大したものであり、図中のマスは各画素を表現しており、各画素は画素値(輝度)Giを有している。また、画素中の番号は、画素列を識別する番号を示すものであり、k列目の画素を対象画素としてエッジ抽出フィルタを適用する場合を示している。
【0042】
この場合、エッジ抽出フィルタの出力Hkは、対象画素近傍の画素値を用いて(1)式のように算出される。
【0043】
【数1】

なお、フィルタサイズは、車線境界線の幅の2倍となるように、エッジ抽出フィルタを適用する行によって異なる大きさに設定される。また、このようなエッジ抽出フィルタは、例えば特開2000−306110号等に詳述された公知のものである。
【0044】
続くS220では、S210にて求めた微分値に基づき、微分値の絶対値が予め設定された閾値以上である点、即ち、隣接する画素の輝度値が大きく変化する地点をエッジ点として抽出し、その抽出したエッジ点の座標値を、RAM16に登録する。
【0045】
続くS230では、この登録されたエッジ点を用いて周知のハフ(Hough)変換処理を実施することにより、当該車両の進行方向に延びる(当該車両の進行方向とのなす角(ヨー角)が一定値未満の)直線パターンを検出する。
【0046】
なお、ハフ変換処理では、画像データを構成する各画素の画像中における位置が座標(x,y)で表され、直線パターンが一次関数y=ax+bで近似されるものとして、この一次関数で表される近似線を規定する変数(a,b)が求められる。
【0047】
続くS240では、検出された直線パターンから、同一の標示パターンの両縁を表す隣接した直線パターンのペアを境界線候補として抽出しラベリングする。この抽出は、例えばエッジ点での微分値の極性等を用いる周知の手法によって行われる。
【0048】
なお、ラベリングとは、各境界線候補に対してi=0,1,…nというように番号付けをする処理を示す。
続くS250では、境界線候補毎に、候補パラメータを求めてRAM16に登録して、本処理を終了する。
【0049】
なお、候補パラメータとしては、境界線候補の位置を表す候補位置パラメータ、境界線候補の線幅を表す候補幅パラメータが求められる。但し、境界線候補を構成する一対の直線パターンのうち、車線中央側に位置する直線パターンを代表パターンとして、候補位置パラメータとしては、代表パターンについてハフ変換処理によって得られた変数を用い、候補パラメータは、境界線候補を構成する一対の直線パターン間の距離の算出値を用いる。
【0050】
更に、候補パラメータには、代表パターンに対するハフ変換処理での投票数(即ち、代表パターン上に存在するエッジ点の総数)も含まれる。
[複合線判定処理]
次に、先のS130にて実行する複合線判定処理を、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
【0051】
本処理では、まず、S310にて、隣接する境界線候補間の間隔をそれぞれ求める。
なお、ここでは、境界線候補間の間隔として、各境界線候補の代表パターン間の距離を用いる。
【0052】
続くS320では、S250で求めた候補幅パラメータとS310で求めた境界線候補間の間隔とに基づき、境界線候補の配置パターンが、予め規定された複合線の配置パターンと一致するか否かを判断し、一致しなければ、そのまま本処理を終了する。
【0053】
境界線候補の配置が複合線パターンと一致する場合には、S330にて、一致した複合線パターンの構成に従って、境界線候補の線種(車線境界線,補助線)を識別し、RAM16に登録する。
【0054】
S340では、S310での算出結果のうち、補助線(に識別された境界線候補)と車線境界線(に識別された境界線候補)との間隔(以下「線間隔」という)を表すものを、補助線毎にRAM16に登録して本処理を終了する。
【0055】
つまり、図8(A)に示すように、車線境界線の両側に補助線が存在する場合には、S310では、境界線候補間の間隔としてD1,D2が算出され、S320,S340にて各境界線候補の線種が識別され、S340では、車線境界線より外側に位置する補助線の線間隔としてD1、車線境界線より内側に位置する補助線の線間隔としてD2が登録されることになる。
【0056】
[基準線選択処理]
次に、先のS140にて実行する基準線選択処理を、図5に示すフローチャートに沿って説明する。
【0057】
本処理では、まずS410にて、先のS120にて実行される境界線候補抽出処理で抽出された境界線候補のうちの1つ(i=0のもの)を選択する。
S420では、選択した境界線候補について算出された候補位置パラメータの信頼度を表す第1の確からしさ(PFi)を算出する。
【0058】
ここでは、S250の処理にて記録されたハフ変換による投票数が多いほど、第1の確からしさ(PFi)を高い値に設定する。具体的には、図9(A)に示すように、ハフ変換による投票数が決定すれば、確からしさが一義的に決定するマップを用いて第1の確からしさ(PFi)を算出する。図5(A)に示すマップでは、投票数が50以下の場合には第1の確からしさ(PFi)を0に設定するとともに、投票数が150以上の場合には第1の確からしさ(PFi)を0.5に設定している。
【0059】
そして、投票数が50以上かつ150未満の場合には、投票数が多くなるにつれて比例的に第1の確からしさ(PFi)が増加するように設定している。なお、ハフ変換による投票数は、候補位置パラメータが示す直線に適合する(直線上に位置する)検出値の数を表す。
【0060】
S430では、選択した境界線候補について算出された候補幅パラメータの信頼度を表す第2の確からしさ(PPi)を算出する。
ここでは、S250にて算出された候補幅パラメータに応じて確からしさが一義的に決定するマップを用いて第2の確からしさ(PPi)を算出する。このマップにおいては、境界線候補幅が、車線境界線や補助線が採りうる幅に近いほど、第2の確からしさが、より高い値になるように設定されている。
【0061】
具体的には、図9(B)に示すように、境界線候補幅が0.15m〜0.3mの範囲内であれば、第2の確からしさ(PPi)を最大値である0.5に設定すると共に、境界線候補幅が0.45m以上であれば、第2の確からしさ(PPi)を最小値である0に設定する。また、境界線候補幅が0〜0.15mの範囲内であれば、境界線候補幅が長いほど、第2の確からしさ(PPi)の値を比例的に大きく設定し、境界線候補幅が0.3〜0.45mの範囲内の場合、境界線候補幅が長いほど第2の確からしさ(PPi)の値を比例的に小さく設定する。
【0062】
S440では、各確からしさ(PFiおよびPPi)の和である総合的な確からしさ(Pi)を算出して、これをS410で選択した境界線候補と対応づけてRAM16に登録する。
【0063】
S450では、全ての車線境界線候補についてS410〜S440の処理を実行したか否かを判定し、未処理の境界線候補が存在すれば、S410に戻って、未処理の境界線候補(ここではiの値が1だけ大きなもの)を選択し、S420以下の処理を繰り返す。
【0064】
一方、S450にて、全ての境界線候補を処理済みであると判定された場合は、S460に進み、撮像画像中の当該車両の正面に相当する位置(例えば左右方向における画像中央)を基準として領域を左右に分割したそれぞれの領域において、最も高い総合的な確からしさ(Pi)を有する境界線候補を基準線として選択し、これをRAM16に登録して、本処理を終了する。
【0065】
[境界パラメータ算出処理]
次に、先のS150にて実行する境界パラメータ算出処理を、図6に示すフローチャートに沿って説明する。
【0066】
本処理では、まずS510にて、S140にて選択された基準線に基づき、自車両から予め設定された規定距離だけ離れた位置での、基準線の横位置、角度を境界パラメータとして算出する。
【0067】
S520では、基準線は補助線であるか否かを判断し、補助線でなければ、即ち、車線境界線であれば、そのまま本処理を終了する。つまり、この場合、S510にて算出された境界パラメータがそのまま、車線境界を表す境界パラメータとなる。
【0068】
基準線が補助線である場合は、S530に進み、S510にて算出された横位置を、基準線についてS340にて算出された線間隔だけ補正して、本処理を終了する。つまり、この場合、S510にて算出された境界パラメータを、S530の処理によって補正したものが、車線境界を表す境界パラメータとなる。
【0069】
具体的には、車線境界線より内側に位置する補助線が基準線に設定された場合は、S510では、基準線の横位置としてD3が算出され(図8(B)参照)、S530では、基準線となった補助線と車線境界線との間隔(線間隔)D2だけ、基準線の横位置D3を車線境界線側にシフトさせる補正をした位置D2+D3が境界パラメータとなる(図8(C)参照)。
【0070】
なお、このように算出され(場合によっては補正された)境界パラメータは、車載LANを介して車両制御ECU20に提供され、例えば、当該車両がレーン境界線に接近する接近速度を検出し、この接近速度に基づいて検出された走行レーンを逸脱する可能性を表す逸脱可能性を判定する周知の逸脱判定処理等に使用される。
【0071】
[効果]
以上説明したように、車線逸脱警報システム1において、車線境界検出装置10は、車線境界線と補助線とからなる複合線が検出された場合に、複合線を構成する車線境界線および補助線の全てを境界線候補とし、これら境界線候補から求めた候補位置パラメータのうち最も信頼性の高いものと、複合線の配置パターン(線間隔)とを利用して、車線境界の位置を表す境界パラメータを求めている。
【0072】
従って、車線境界検出装置10によれば、車線境界線の磨耗や、路側物の影や雨等の影響によって車線境界線の形状(ひいては候補位置パラメータ)を正確に検出することができない不安定な環境でも、車線境界線が複合線を形成している場合には、補助線の情報(候補位置パラメータ,線間隔)を用いることで、車線境界を表す境界パラメータを精度良く求めることができる。更には、この境界パラメータを利用する逸脱判定処理等の制御精度を向上させることができる。
【0073】
[発明との対応]
上記実施形態において、S120が候補抽出手段、S310〜S320が判定手段、S330〜S340が線間隔検出手段、S140が基準線設定手段、S150が境界パラメータ設定手段に相当する。
【0074】
[他の実施形態]
本発明の実施の形態は、上記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0075】
例えば、上記実施形態では、S210において、画像データの微分値として、画素の輝度値の変化を求めているが、CCDカメラ11がカラーカメラである場合には、カラーカメラから出力されるRGB信号や、RGB信号を輝度信号と色差信号とに変換した際の色差信号の変化を求めるようにしてもよい。
【0076】
上記実施形態では、画像面内でエッジ抽出フィルタを適用する位置に応じて処理対象とする領域の大きさ(以下「フィルタサイズ」という)を変化させているが、画像に撮像されているものが複合線であるか否かによって、フィルタサイズを変化させるように構成してもよい。この場合、図10に示すように、検出対象が複合線ではない場合は、フィルタサイズを車線境界線の幅の2倍に設定し、検出対象が複合線である場合は、車線境界線と補助線との間の路面が露出した部分の幅の2倍に設定することが望ましい。
【0077】
また、上記実施形態では、エッジ抽出フィルタとして、対象画素を中心にして一次元的に設定された領域を処理対象とするものを用いているが、対象画素を中心にして二次元的に設定された領域を処理対象とするものを用いたり、その両者を組み合わせたものを用いたりしてもよい。
【0078】
上記実施形態では、候補位置パラメータおよび候補幅パラメータから、境界線候補の確からしさ(Pi)を求めているが、例えば、候補位置パラメータに適合する検出値での画素値の変化が大きいほど、その境界線候補の確からしさ(Pi)を高めるようしてもよい。また、走行車線の幅等に関する情報を図示しないナビゲーション装置から取得できる場合には、その情報に応じて車線境界線や補助線が検出される領域を推定し、その推定された領域に存在する境界線候補の確からしさを高めるようにしてもよい。
【0079】
上記実施形態では、車線の左右両側で個別に複合線であるか否かの判定を行っているが、両側とも複合線であると判定された場合にだけ、複合線に対する処理を実行するように構成してもよい。但し、この場合、複数存在する境界線候補のうち、いずれが車線境界線であるかを、複合線のパターンから判定することができないため、例えば、基準線として選択される境界線候補を、そのまま、車線境界線として扱うように構成することが考えられる。
【符号の説明】
【0080】
1…車線逸脱警報システム 10…車線境界検出装置 11…CCDカメラ 12…アナログ・デジタル変換器(ADC) 13…画像メモリ 14…CPU 15…ROM 16…RAM 17…通信IC 20…車両制御ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、走行中の車線である走行車線の境界を示す車線境界を検出する車線境界検出装置であって、
車両前方の路面を撮像した撮像画像中から、車線境界を示すための路面標示である車線境界線の可能性がある境界線候補を抽出し、該境界線候補の位置を示した近似線を規定するパラメータである候補位置パラメータを求める候補抽出手段と、
前記候補抽出手段にて複数の境界線候補が検出された場合、該複数の境界線候補の配置パターンから、該複数の境界線候補が車線境界線および一又は複数の補助線からなる複合線を形成しているか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記複数の境界線候補が複合線を形成していると判定した場合、該複合線を形成する前記境界線候補の配置パターンから、該境界線候補のそれぞれが、前記車線境界線および前記補助線のうちいずれに該当するか線種を識別すると共に、前記補助線に識別された前記境界線候補毎に前記車線境界線に識別された前記境界線候補との間隔である線間隔を求める線間隔検出手段と、
前記複合線を形成する前記境界線候補のうち、前記候補位置パラメータの信頼性が最も高いものを基準線として設定する基準線設定手段と、
前記基準線が前記車線境界線である場合は、該基準線について算出された前記候補位置パラメータが示す位置を、前記基準線が前記補助線である場合は、該基準線について算出された前記候補位置パラメータが示す位置を、該基準線について算出された前記線間隔だけ前記車線境界線側にシフトさせたものを、前記車線境界の位置を示す境界パラメータとして設定する境界パラメータ設定手段と、
を備えることを特徴とする車線境界検出装置。
【請求項2】
前記候補抽出手段は、前記撮像画像を、画像中における車幅方向に沿って配列された画素の画素値の値が大きく変化するエッジ点の位置を検出値とし、該検出値に対してハフ変換を行うことにより前記候補位置パラメータを求めることを特徴とする請求項1に記載の車線境界検出装置。
【請求項3】
前記基準線設定手段は、前記候補位置パラメータの信頼性を、該候補位置パラメータに適合する前記検出値の数が多いほど高く設定することを特徴とする請求項2に記載の車線境界検出装置。
【請求項4】
前記候補抽出手段は、前記候補位置パラメータと共に、前記境界線候補の線幅を求め、
前記基準線設定手段は、前記候補位置パラメータの信頼性を、該候補位置パラメータに適合する前記検出値が属する前記線幅が、前記線間隔検出手段にて識別された線種について予め設定されているパターン幅に近いほど高く設定することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の車線境界検出装置。
【請求項5】
前記候補抽出手段は、処理の対象となる対象画素を中心として設定された規定サイズの領域内の画素値を処理するエッジ抽出フィルタを用いることで、前記対象画素での画素値の変化の度合いを求めると共に、前記判定手段での判定結果に基づき、前記エッジ抽出フィルタの処理対象となる領域サイズを変化させることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の車線境界検出装置。
【請求項6】
前記候補位置パラメータは、前記車線の中心側に位置する前記境界線候補のエッジの位置を表すことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の車線境界検出装置。
【請求項7】
前記境界パラメータ設定手段は、前記撮像画像中における当該車両の正面に相当する位置を基準として領域を左右に分割したそれぞれの領域について、前記境界パラメータを求めることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の車線境界検出装置。
【請求項8】
前記判定手段は、前記撮像画像中における当該車両の正面に相当する位置を基準として領域を左右に分割したそれぞれの領域にて判定を行い、両者の判定結果が異なる場合には、いずれも複合線ではないと判定することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の車線境界検出装置。
【請求項9】
コンピュータを、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の車線境界検出装置を構成する各手段として機能させることを特徴とする車線境界検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−243161(P2011−243161A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117319(P2010−117319)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】