説明

車載用多重通信装置

【課題】多重通信回路における信号の反射を抑制する。
【解決手段】複数の電子制御ユニットをバス路線から分岐させた支線を介して夫々接続している車載用多重通信装置であって、前記バス路線および支線を構成するツイストペア電線と、前記バス路線のツイストペア電線の一端に接続して、該バス路線の一端閉回路を形成する第1終端抵抗回路と、前記バス路線のツイストペア電線の他端に接続して、該バス路線の他端閉回路を形成する第2終端抵抗回路と、前記第1終端抵抗回路と第2終端抵抗回路とを内蔵した電気接続箱、電子制御ユニットあるいはコネクタからなる1個の電気機器を備え、前記電気機器を介して前記バス路線をループとしていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用多重通信装置に関し、詳しくは、複数の電子制御ユニットをバス路線から分岐する支線を介して接続する多重通信装置において、支線を短くして信号波形の乱れ発生を抑制するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車においては、車内に配索するワイヤハーネスの電線量を削減するため、ECU、センサ、アクチュエーター等からなる電装品を多重通信線で接続した通信システムが提供されている。
この種の多重通信において、低速の多重通信では1本の信号線とボデイを用いた通信回路より通信システムを構築しているのに対して、数十Kbps〜10Mbpsの高速多重通信ではツイストペア電線等のペア電線をバス路線として用い、該バス路線から分岐した複数の支線に電子制御ユニットが接続されている。
【0003】
この種の多重通信装置において、信号の反射が問題となり、例えば、特開2001−339441号(特許文献1)では、図4(A)に示すように、通信線2a、2bからなるバス路線2に対して複数の端末通信器1−1〜1−4がそれぞれ支線3a〜3dで接続されている多重通信装置において、バス路線2の両端に終端抵抗回路4A、4Bを内蔵するコネクタ5A、5Bを接続している。前記終端抵抗回路4A、4Bはそれぞれ2個の抵抗6a、6bを直列に接続すると共に、これらの抵抗の間に通信信号の高周波振動を抑制するコンデンサ7を接続し、該コンデンサ7の他端をアース接続し、バス路線2に外部ノイズ7で生じる高周波振動を除去できるようにされている。
【0004】
前記のように、幹線となるバス路線の端末に終端抵抗回路を接続して信号の反射を抑制しても、自動車内においては、多重通信装置におけるノードとなる制御ユニットやセンサ等の端末通信器1−1〜1−4は分散配置される場合が多い。この場合、図4(B)に示すように、車両内においてエンジンルーム内のフロント側に一方のコネクタ5A、トランクルーム内のリヤ側にコネクタ5Bを配置すると、コネクタ5A、5Bを結ぶバス路線2の幹線2a、2bより分岐する支線3a〜3dの長さが大となる。
このように、支線長さが大となる場合には、特許文献1の構成としても、信号波形の悪化を防止することはできない。
【0005】
また、他の車載用多重通信装置して、特開2003−204340号公報(特許文献2)において、図5に示すような、複数の端末通信器1−1〜1−11を、内部に終端抵抗回路を有するハブ形式のジョイントコネクタ8A、8B、8Cに支線3を介して夫々接続し、ジョイントコネクタ8A〜8Cをバス線路2で接続したものが開示されている。
このように終端抵抗回路を内部に有するジョイントコネクタを複数用いて分散配置することで、自動車内に分散配置される端末通信機器を、隣接するもの同士を集めてジョイントコネクタに支線を介して接続することで、支線の長さを特許文献1と比較して若干短くすることはできる。
【0006】
しかしながら、ハブ形式のジョイントコネクタ8A〜8Cには、複数の端末通信機器を接続するための嵌合部を複数設ける必要があるため、構造が複雑となると共に大型化し、配置スペースを確保しにくくなると共に、コスト高になる問題もある。
【0007】
【特許文献1】特開2001−339441号公報
【特許文献2】特開2003−204340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、バス路線とノードとなる電子制御ユニット(ECU)とを支線を介して接続する車載用多重通信装置において、信号波形の歪み発生をできるだけ抑制できるように、バス路線と支線とを渡り接続することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、
複数の電子制御ユニットをバス路線から分岐させた支線を介して夫々接続している車載用多重通信装置であって、
前記バス路線および支線を構成するツイストペア電線と、
前記バス路線のツイストペア電線の一端に接続して、該バス路線の一端閉回路を形成する第1終端抵抗回路と、
前記バス路線のツイストペア電線の他端に接続して、該バス路線の他端閉回路を形成する第2終端抵抗回路と、
前記第1終端抵抗回路と第2終端抵抗回路とを内蔵した電気接続箱、電子制御ユニットあるいはコネクタからなる1個の電気機器を備え、
前記電気機器を介して前記バス路線をループとしていることを特徴とする車載用多重通信装置を提供している。
【0010】
前記ループとしたバス路線と前記各電子制御ユニットとを渡り配線で接続している。
【0011】
前記のように、本発明では、バス路線を構成するツイストペア電線の両端を夫々第1終端抵抗回路、第2終端抵抗回路にそれぞれ接続して閉回路を形成し、これら第1と第2終端抵抗回路を1つの電気機器中に内蔵すると、バス路線は構造的に1つの電気機器を介在させてループ状に配索されることとなる。
このように、バス路線の両端末終端抵抗回路を1つのコネクタ等の電気機器に内蔵することにより、前記特許文献2のように複数のジョイントコネクタを分散配置する構成と比べて部品点数の削減、配索作業の削減、設置スペースの削減等を図ることができる。
【0012】
また、バス路線を車両内にループ状に配索することにより、該バス路線を車内に点在配置される電子制御ユニットに近接した位置に配索することが可能となり、バス路線と電子制御ユニットとを渡り接続する支線長さを短くでき、信号の反射を抑制することができる。 前記支線長さが(L)、信号の立ち上がり時間と下がり時間の短い方の時間を(T)、信号の支線伝播速度(υ)とすると、支線に反射が生じない長さであるL≦(υT)/2としていることが好ましい。
なお、通常、車載LANにおいてはループ型の配索をすると、アンテナの効果でノイズを拾いやすくなり、不要な輻射が多くなる問題があるが、本発明では、バス路線をツイストペア電線で形成することにより、前記アンテナ効果を発生させないようにしている。
【発明の効果】
【0013】
上述したように、本発明の車載用多重通信回路では、バス路線をツイストペア電線で形成すると共に、該バス路線の両端に接続する終端抵抗回路を単一のコネクタ等の電気機器内に内蔵してループ状に配索していることで、ノイズを拾うことなく且つ不要な輻射を低減した状態で、自動車に配索する多重通信回路の構成を簡単にすることができる。
さらに、自動車内に点在する電子制御ユニットの設置位置に、バス路線を近接させて配索することができる。その結果、該幹線から分岐して電子制御ユニットに渡り接続する支線長さを短くでき、信号の反射が起こりにくくでき、多重通信回路において発生する信号の反射を、幹線の両端末に設けた終端抵抗回路で抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態を図1乃至図3を参照して説明する。
図1は多重通信回路を示し、図2は自動車に適用した状態の位置関係を示し、図3は終端抵抗回路を内蔵したコネクタとバス路線の接続形態を示す。
【0015】
幹線のバス路線33は一対のツイストペア電線からなる通信線31、32で構成し、これら通信線31、32の両側端末をそれぞれ第1終端抵抗回路11、第2終端抵抗回路12で接続して閉回路としている。前記第1終端抵抗回路11と第2終端抵抗回路12とは1つのコネクタ10内に収容して、ツイストペア電線の通信線31、32からなるバス路線33をループ状に配索している。
【0016】
詳細には、図3に示すように、コネクタ10には、2個のコネクタ嵌合部13、14を設け、コネクタ嵌合部13に2個の端子15、16、コネクタ嵌合部14に2個の端子17、18を配置している。前記端子15と16とはコネクタ10の内部に収容した抵抗19を介して接続して前記第1終端抵抗回路11を形成し、同様に、端子17と18とを抵抗20を介して接続して前記第2終端抵抗回路12を形成している。
【0017】
前記コネクタ嵌合部13には、バス路線33の通信線31、32の一端31a、32aに接続したコネクタ22を嵌合させ、コネクタ嵌合部14には通信線31、32の他端31b、32bに接続したコネクタ23を嵌合させている。これにより、幹線の通信線31、32の両端をコネクタ10で接続して、バス路線33をループ形状としている。
【0018】
前記ループ形状となるバス路線33の通信線31、32は、車内に点在配置されている電子制御ユニット(以下、ECUと称す)21〜26と最も近接する位置から支線41〜46を分岐し、支線41〜46を各ECU21〜26に渡り接続している。
前記支線41〜46の長さを(L)とし、信号の立ち上がり時間と下がり時間の短い方の時間を(T)、信号の支線伝播速度(υ)とすると、支線に反射が生じない長さであるL≦(υT)/2となる位置に、バス路線33の支線分岐位置を設定している。
【0019】
前記ECU21〜26は図2に示すように、自動車のエンジンルーム側、車室内のインストルメントパネル近傍、サイドドア側、リア側と自動車の全域にわたって分散配置されている。詳細には、エンジンルームの左右一方側にABS用のECU21、左右他方側には横滑り防止やスリップ防止等の走行時の車体を安定させるための種々の機能を制御するECU26、サイドドアに近接してドア施解錠用のECU22、車室中央部にはパワーシート用のECU25、リヤ側の左右一方側にはクリアランスセンサ用のECU23、左右他方側にはトランクオープナー用のECU24を搭載している。
【0020】
前記コネクタ10はインストルメントパネル内に配置し、幹線のバス路線33は車室前部でインストルメントパネル内部を横断させてフロアの左右両側に沿ってリア側へと配索し、リア側で左右方向に横断させてループ状に配索している。
このようにループ状に配索した幹線のバス路線33には、前記ECU21〜26に最も近接した位置で前記支線41〜46を分岐させて、これら支線の長さをできるだけ短くしている。
【0021】
前記構成からなる本発明の多重通信装置では、バス路線33を構成するツイストペア電線の両端末を第1終端抵抗回路11と第2終端抵抗回路12に接続し、これら第1、第2終端抵抗回路11、12を1個のコネクタ10に内蔵して、バス路線33をループ状に配索している。このようにバス路線33を車両内においてループ状に配索していることで、車両の全域に亙って点在配置されるECU21〜26に近接させて配索することが可能となる。よって、各ECU21〜26と最も近接した位置でバス路線33から支線41〜46を分岐し、これら支線41〜46を介してECU21〜26に渡り接続することができる。その結果、支線41〜46の長さを短くでき、これら支線41〜46の長さLを、前記L≦(υT)/2として、各ECUと支線との接続端で、支線に発生する信号の反射を起らないようにすることができる。
かつ、バス路線33の両端に接続する第1、第2終端抵抗回路11、12を1つのコネクタに内蔵する構成としているので、従来のようにバス路線の両端に設ける終端抵抗回路を有するコネクタをそれぞれ別個に設ける場合と比較して、部品点数の削減、取り付け作業の低減、省スペース化を図ることができる。
【0022】
前記実施形態では、第1、第2終端抵抗回路11、12をコネクタ内に設けているが、該バス路線に接続される複数のECUの内の1つのECU内に前記第1、第2終端抵抗回路を設けてバス路線の両端を接続してもよい。
さらに、前記コネクタやECUに替えて、ジャンクションボックス、ヒューズボックス、リレーボックス等からなる電気接続箱の内部に前記第1、第2終端抵抗回路を設けてもよい。
【0023】
前記ジャンクションボックスからなる電気接続箱に第1、第2終端抵抗回路を設ける場合も前記実施形態と同様で、ジャンクションボックス内に収容するバスバーに抵抗を接続し、該バスバーに形成したタブ状端子をボックスに形成したコネクタ嵌合部に突出させ、前記バス路線の両端末に接続したコネクタと嵌合接続させればよい。
【0024】
また、前記実施形態ではバス路線は車室内の前部から後部にかけてループ状に配索しているが、車室とエンジンルームを仕切るダッシュパネルの貫通孔を通して、エンジンルーム内のフロント側からトランクルームのリア側にかけてループ状にバス路線を配索し、エンジンルーム側においても、エンジンルーム内に配索するバス路線からエンジンルーム内に搭載するECUに支線を渡り接続してもよい。該構成とすることで、エンジンルーム側に搭載するECUに接続する支線長さも短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る多重通信回路の概略構成図である。
【図2】自動車内に設けた多重通信回路を示す概略構成図である。
【図3】第1、第2終端抵抗回路を内蔵したコネクタとバス路線端末のコネクタとの接続形態を示す該略図である。
【図4】(A)は従来例を示す図面、(B)は従来例の問題点を示す図面である。
【図5】他の従来例を示す図面である。
【符号の説明】
【0026】
10 コネクタ
11 第1終端抵抗回路
12 第2終端抵抗回路
15〜18 端子
19、20 抵抗
21〜26 ECU
31、32 通信線
33 バス路線
41〜46 支線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電子制御ユニットをバス路線から分岐させた支線を介して夫々接続している車載用多重通信装置であって、
前記バス路線および支線を構成するツイストペア電線と、
前記バス路線のツイストペア電線の一端に接続して、該バス路線の一端閉回路を形成する第1終端抵抗回路と、
前記バス路線のツイストペア電線の他端に接続して、該バス路線の他端閉回路を形成する第2終端抵抗回路と、
前記第1終端抵抗回路と第2終端抵抗回路とを内蔵した電気接続箱、電子制御ユニットあるいはコネクタからなる1個の電気機器を備え、
前記電気機器を介して前記バス路線をループとしていることを特徴とする車載用多重通信装置。
【請求項2】
前記ループとしたバス路線と前記各電子制御ユニットとを渡り配線で接続している請求項1に記載の車載用多重通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−49695(P2007−49695A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196032(P2006−196032)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】