説明

車輪の組立方法

【課題】 ホイールにタイヤを組付ける際、タイヤのサイドウォール部に石けん水等の潤滑剤が付着するのを防止し、組付けた車輪を段積みして搬送する場合でも、安定した状態で段積みできるようにする。
【解決手段】 ホイールHにタイヤTを組付ける際、ホイールHのリムフランジ部R外面にペースト状またはゾル状のカリ石けんKを薄膜状に塗布するか、またはシート膜状のカリ石けんKを貼り付けた後、タイヤTを組付ける。塗布する場合は、ペースト状またはゾル状のカリ石けんKをハケ等で塗布するようにし、貼り付ける場合は、例えばテープ状の剥離紙上にカリ石けんKを薄くシート状に塗布して乾燥させ、カリ石けんK面をリムフランジ部R外面に当接させ、剥離紙側から押圧することで、カリ石けんKの粘着力と押圧力により貼り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のホイールにタイヤを嵌め込んで車輪を組み立てる際の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は、通常タイヤマウンティング装置によりホイールの外周にタイヤを組み付けて構成されているが、タイヤマウンティング装置によりホイールの外周にタイヤを組み付ける場合、タイヤを円滑に組み付けることができるよう、タイヤビード部の内外周面に潤滑剤として石けん水などを塗布した状態で行われるのが一般的である。
そして、このような潤滑剤の塗布技術として、例えばタイヤを水平に位置決めした後、石けん水等の潤滑剤を付着させたハケを昇降手段により降下させてビード部の内側に挿入し、回転手段によりハケを回転させて遠心力でハケを広げてビード部に塗布するような技術(例えば、特許文献1参照。)や、タイヤを直立姿勢で保持する一対のローラを設け、このローラを回転駆動することでタイヤを回転させるとともに、回転するタイヤの内周部に向けて両側近傍のノズルから潤滑剤を噴出するような技術(例えば、特許文献2参照。)などが知られている。
【特許文献1】実開平6−83403号広報
【特許文献2】特開2000−203223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記のような技術において、石けん水等の潤滑剤を塗布または噴霧する場合、石けん水がタイヤのサイドウォール部に飛散或いは垂れたりすることがあり、また、タイヤマウンティング装置によってタイヤをホイール外周に組付ける際、タイヤの一方のビード部がホイールのリムフランジ部を乗り越えてリム底部に組み入れられる時の衝撃や、落し込みローラによってタイヤのビード部が押圧されるときなどに、石けん水等がタイヤのサイドウォール部に付着するという問題があった。
そして、組み上がった車輪は、車一台分の車輪、すなわち、四本が段積みされ、段積み状態で搬送コンベアにより車体組立ラインに送給された後、車体の車軸に組み付けられるが、車輪を段積みした状態での搬送は、車輪のタイヤ同士の摩擦力によって段積み状態が維持されるのが一般的であるため、タイヤのサイドウォール部に石けん水等が付着していると摩擦力が低減し、コンベアによる搬送時の揺れやストッパによる停止時などの衝撃により段積みが崩れ、車輪が搬送コンベアから脱落するなどの不具合があった。
【0004】
本発明は、上記のような不具合を解消するためのものであり、ホイールにタイヤを組付ける際、タイヤのサイドウォール部に石けん水等の潤滑剤が付着するのを防止し、安定した状態で段積みできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明は、ホイールにタイヤを嵌め込んで車輪を組み立てる際の組立方法において、ホイールのリムフランジ部外面の少なくとも一部にペースト状またはゾル状のカリ石けんを塗布した状態でホイールにタイヤを嵌め込むようにした。
【0006】
このようにホイールのリムフランジ部(リムフランジの一番外側先端からリム底面端までの間)外面の少なくとも一部にペースト状またはゾル状のカリ石けんを塗布すれば、タイヤを組付ける際の摩擦を軽減して楽に組み付けが行えるとともに、ペースト状またはゾル状物質のため、塗布時の垂れ下がりや、組付け時の衝撃などによりタイヤのサイドウォール部にカリ石けんが付着するような不具合がなく、段積みした場合でも安定した状態に維持できる。この際、リムフランジ部外面にカリ石けんを塗布する範囲としては、少なくとも、タイヤ組み付け時にタイヤのビード部が通過する箇所の一部が含まれるようにする。
また、ペースト状またはゾル状のカリ石けんを塗布する際の具体的方法や塗布時期などは任意であるが、例えば、ホイール製造工程において、ハケ等を使用して薄膜となるように塗布し、タイヤマウティング工程に搬入することも可能である。
【0007】
また、請求項2のように、ホイールのリムフランジ部外面の少なくとも一部にシート膜状のカリ石けんを貼着することも可能である。
この場合は、例えば、カリ石けんをテープ状の剥離紙上に薄く薄膜シート状に塗布し、これを乾燥させてロール状にするとともに、カリ石けん面をホイールのリムフランジ部外面に当接させ、剥離紙上から押圧することにより、カリ石けんの粘着力と押圧力によりリムフランジ部外面に貼り付ける。
この場合も、ホイール製造工程からタイヤマウンティング工程間のいずれの工程で貼着しても良い。
【0008】
また、本発明では前記カリ石けんとして、大豆油脂脂肪酸、またはコーン油脂脂肪酸、またはヤシ油脂脂肪酸、またはこれらを混合したものを水酸化カリウムと反応させて製造するようにした。
このような成分にすることで、金属表面の腐食が防止され、ホイールの耐久性を損なう虞がない。
【発明の効果】
【0009】
ホイールにタイヤを嵌め込んで車輪を組み立てる際、ホイールのリムフランジ部外面の少なくとも一部にペースト状またはゾル状のカリ石けんを塗布するか、またはシート膜状のカリ石けんを貼着することにより、ホイール外周にタイヤを嵌め込んで組付ける際に、タイヤのサイドウォール部に潤滑剤が付着するような不具合がなくなり、安定した状態で車輪を段積みすることができる。また、カリ石けんの成分を所定のものとすることで、金属表面の腐食を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
ここで図1乃至図4はカリ石けんが塗布あるいは貼着されたホイールにタイヤを組付ける状態を示す説明図、図5はカリ石けんの塗布領域あるいは貼着領域の他の例を示す説明図、図6はタイヤのビード部を拡大した説明図、図7乃至図10はタイヤマウンティング装置によるタイヤ組付け状態を示す説明図である。
【0011】
本発明に係る車輪の組立方法は、ホイールにタイヤを組付ける際、タイヤのサイドウォール部に石けん水等の潤滑剤が付着するのを防止するため、ホイールのリムフランジ部外面にペースト状またはゾル状のカリ石けんを塗布するか、またはリムフランジ部外面にシート膜状のカリ石けんを貼着することを特徴としており、組付けた車輪を段積みして搬送する場合でも、安定した状態で段積みできるようにされている。
【0012】
まず、ホイールのリムフランジ部外面にカリ石けんを塗布または貼り付ける際の要領について説明する。
本実施例で使用する潤滑剤は、大豆油脂脂肪酸、またはコーン油脂脂肪酸、またはヤシ油脂脂肪酸、またはこれらを混合したものと水酸化カリウムを反応させたいわゆるカリ石けんを使用する。この成分のカリ石けんは、金属表面を腐食させることがない。
【0013】
このようなカリ石けんKを、図1に示すようなホイールHのリムRの上下端のリムフランジ部R1外面に塗布または貼着する。塗布する場合は、例えば、タイヤマウンティング工程でペースト状またはゾル状のカリ石けんをはけ等により薄膜となるよう塗布するが、ホイール製造工程において予めはけ等により塗布しておき、タイヤマウンティング工程に搬入することも可能である。貼着する場合は、例えば、カリ石けんをテープ状の剥離紙上に薄く塗布して乾燥させ、ロール状にしたものを使用し、カリ石けん面をリムフランジ部R1外面に当接させ、剥離紙側から押圧することにより、カリ石けんの粘着力と押圧力によりリムフランジ部R1外面に貼り付ける。
このように、ペースト状またはゾル状のカリ石けんを塗布したり、シート膜状のカリ石けんを貼り付けた状態では、搬送時の衝撃等により垂れ落ちて周囲に拡散するような不具合はない。
【0014】
なお、カリ石けんKの塗布または貼着範囲は、図1に示すように、リムフランジ部R1外面の全域に限定されるものではなく、例えば、図5に示すように、タイヤTにホイールHをマウンティングして組み付けた状態で、タイヤTのビード部Bが着座するホイールHの着座部Rを除くリムフランジ部Rの外面が含まれるようにすればよく、このような範囲に設定することで、タイヤTのホイールHに対するグリップ力をより確実に保持しつつ組付け(マウンティング)を容易に行うことができる。
また、図6に示すように、前記図5の実施例に対応するタイヤTのビードBのうち、前記着座部Rに着座するシール部Bを除くビードBの外ビードB、内ビードBにカリ石けんKを塗布あるいは貼着することにより、更に容易に組付けを行うことができる。
【0015】
次に、タイヤマウンティング装置1によるタイヤTの組付け手順について図7乃至図10に基づき説明する。
タイヤマウンティング装置1は、図7、図10に示すように、ホイールHを位置決め載置せしめることのできる載置台2と、載置台2の上方で昇降可能な昇降ロッド3と、昇降ロッド3の下端部に設けられ且つホイールHのセンタ孔Hcに挿入可能な位置決めピン4と、前記昇降ロッド3に対して昇降ロッド3の軸心周りにお互いに反対方向に往復回動自在な一対の回動アーム5(図10)と、各回動アーム5の下面に取り付けられるそれぞれ一対の拡径ローラ6と、前記回動アーム5の上面に取り付けられる昇降シリンダ7と、この昇降シリンダ7から回動アーム5を挿通して下方に延出するシリンダロッド7aと、シリンダロッド7aの先端に取り付けられる押圧ローラ8と、回動アーム5の回動原点位置(図7、図10の位置)に対向する位置の載置台2近傍に配設される落し込み機構10を備えており、この落し込み機構10は、基板11に垂直に取り付けられるシリンダ12と、基板11及びシリンダロッド12a先端に枢着されるリンク13と、リンク13の先端に取り付けられる落し込みローラ14を備えている。
【0016】
そして、ホイールHをホイールディスク部Dが上になるよう載置台2上に位置決めし、次いで、タイヤTを回動アーム5に回動原点側で、下方のビード部Bの一部がホイールHのリム底面部Rに当接し、反対側のビード部Bの一部がホイールHのリムフランジ部Rの上部にくるよう斜めに載置し、次いで、昇降ロッド3を下降させて位置決めピン4をホイールHのセンタ孔Hcに挿入する。
この状態を拡大したものが、図1の通りである。
【0017】
次いで、図10に示すような一対の回動アーム5をお互いに反対方向に回動させ、拡径ローラ6と押圧ローラ8を二点鎖線で示される位置まで移動させる。この状態を示すのが図8であり、図7から図8に回動アーム5が移動する間に、拡径ローラ6がタイヤTのビード部Bを拡径するようにホイールHの上端のリムフランジ部R直上を旋回し、同時に押圧ローラ8がタイヤTの上端ビード部Bを押圧しながら旋回することにより、タイヤTの下端のビード部Bは、ホイールHのリム底面部Rに移動する。この状態を示すのが図2の通りである。
【0018】
以上の工程において、タイヤTの下端のビード部Bは、ホイールH上端のリムフランジ部R外面に塗布または貼着したカリ石けんKにより、スムーズにリム底面部Rに移動する。
【0019】
次いで、昇降シリンダ7の作動によって押圧ローラ8が下降することにより、図8の実線に示すように、タイヤTの上端のビード部Bの一部が、ホイールHのリムフランジ部R付近に移動し、更に、この状態から、落し込み機構10のシリンダ12の作動によって落し込みローラ14がタイヤTの上面を押圧(図9)することにより、タイヤTの上端のビード部Bの一部がホイールHのリム底面部Rに移動する。この状態を示すのが図3である。
【0020】
この場合も、タイヤTの上端のビード部Bの一部は、ホイールH上端のリムフランジ部R外面に塗布あるいは貼着されたカリ石けんKにより、スムーズにリム底面部Rに移動する。
【0021】
次いで、回動アーム5は、図9に示すように回動原点に向けて復動する。このとき、拡径ローラ6によりタイヤTは確実にホイールHに組み付けられる。次いで、組み付けられた車輪のタイヤT内に圧縮空気を入れることにより、図4に示すように、タイヤTのビード部Bは、ホイールHのリムフランジ部R外面に当接し、正規の組付け状態となる。この圧縮空気を入れたときも、ホイールHの両端のリムフランジ部R外面に塗布または貼着されたカリ石けんKにより、ビード部Bはスムーズにリムフランジ部R外面に移動する。
【0022】
そして、このように組み付けられた車一台分の車輪、すなわち四個を段積みし、搬送コンベアによって車体組立ラインに送給するが、上記のようなタイヤ組付け手順において、拡径ローラ6や押圧ローラ8がビード部Bに接触する際、石けん液等の潤滑剤が拡径ローラ6や押圧ローラ8に付着してサイドウォール部Ta(図1)に飛散することがないため、段積み状態の摩擦力が低減する虞がなくなり、搬送時の揺れやストッパによる停止時の衝撃などにより段積み崩れや脱落等の不具合が発生することなく、安定した状態で搬送することができる。
【0023】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
例えば、タイヤマウンティング装置1の具体的構成等は一例である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
ホイールにタイヤを組付ける際、スムーズに組み付けできるとともに、タイヤのサイドウォール部などに潤滑剤が付着するような不具合を抑制できるため、特に、車両の組立工程等における車輪の組み付けに効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ホイールに対するカリ石けんの塗布領域と、タイヤを組付ける際の最初の段階の説明図
【図2】ホイールにタイヤを組付ける際の次ぎの段階の説明図
【図3】ホイールにタイヤを組付ける際の更に次ぎの段階の説明図
【図4】ホイールにタイヤを組付ける際の最終段階の説明図
【図5】ホイールに対するカリ石けんの塗布領域の他の実施例図
【図6】タイヤのビード部を拡大した説明図
【図7】タイヤマウンティング装置によるタイヤ組み付け状態の最初の段階の説明図
【図8】タイヤマウンティング装置によるタイヤ組み付け状態の次ぎの段階の説明図
【図9】タイヤマウンティング装置によるタイヤ組み付け状態の最終段階の説明図
【図10】図7の状態のタイヤマウンティング装置の平面図
【符号の説明】
【0026】
H…ホイール、K…カリ石けん、T…タイヤ、B…ビード部、R…リム、R…リムフランジ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールにタイヤを嵌め込んで車輪を組み立てる際の組立方法であって、ホイールのリムフランジ部外面の少なくとも一部にペースト状またはゾル状のカリ石けんを塗布した状態でホイールにタイヤを嵌め込むことを特徴とする車輪の組立方法。
【請求項2】
ホイールにタイヤを嵌め込んで車輪を組み立てる際の組立方法であって、ホイールのリムフランジ部外面の少なくとも一部にシート膜状のカリ石けんを貼着した状態でホイールにタイヤを嵌め込むことを特徴とする車輪の組立方法。
【請求項3】
前記カリ石けんは、大豆油脂脂肪酸、またはコーン油脂脂肪酸、またはヤシ油脂脂肪酸、またはこれらを混合したものを水酸化カリウムと反応させて製造したものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車輪の組立方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−207688(P2008−207688A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46648(P2007−46648)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(506203257)株式会社アシオ化工 (4)
【出願人】(505184285)ニュー・エコ・マテリアル株式会社 (2)