説明

車輪駆動用の減速装置

【課題】車輪駆動用の減速装置において、特に、減速装置全体のコンパクト性を維持しつつ、該減速装置の伝達トルクをより大きく確保する。
【解決手段】平行軸歯車(ヘリカルギヤ)26を有する平行軸歯車機構14と、該平行軸歯車機構14の後段に設けられ、遊星歯車48および該遊星歯車48が内接噛合する内歯歯車50を有する遊星歯車機構16と、前記平行軸歯車機構14と前記遊星歯車機構16とを収容するケーシング20と、を備え、内歯歯車50と一体化された固定体53とケーシング20との間に存在する隙間S1に、平行軸歯車26の歯部26Aを軸方向に突出・延在させ、該平行軸歯車26の歯部26Aと、内歯歯車50と一体化された固定体53とが、径方向から見てδ1だけ重なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪を駆動するための減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、車両の車輪を駆動するための減速装置が開示されている。
【0003】
この減速装置は、平行軸歯車を有する平行軸歯車機構と、該平行軸歯車機構の後段に設けられ、遊星歯車および該遊星歯車が内接噛合する内歯歯車を有する遊星歯車機構と、を備えている。そして、減速装置の一部が車輪の内側に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO 00/36317号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、減速装置の一部が車輪の内側に配置されるような形態で使用される車輪駆動用の減速装置にあっては、狭い空間に減速装置を収めつつ、いかにして大きな伝達容量を確保するかが重要なテーマとなる。
【0006】
車輪駆動用の減速装置において、伝達トルクをより増大させようとした場合、基本的には個々の部材の大きさをより大きく設計することになる。しかしながら、車輪を駆動するための減速装置の場合、径方向にも、また軸方向にも、部材の大きさを大きくするスペース的余裕がないことが多い。
【0007】
本発明は、車輪駆動用の減速装置において、減速装置全体のコンパクト性を維持しつつ、該減速装置の伝達容量をより大きく確保することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車輪駆動用の減速装置であって、平行軸歯車を有する平行軸歯車機構と、該平行軸歯車機構の後段に設けられ、遊星歯車および該遊星歯車が内接噛合する内歯歯車を有する遊星歯車機構と、前記平行軸歯車機構と前記遊星歯車機構とを収容するケーシングと、を備え、前記内歯歯車または該内歯歯車と一体化された部材と前記ケーシングとの間に存在する隙間に、前記平行軸歯車の歯部を軸方向に突出・延在させ、該平行軸歯車の歯部と、前記内歯歯車または該内歯歯車と一体化された部材とが、径方向から見て重なっている構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0009】
本発明では、減速装置全体のコンパクト性を維持するために、ケーシングと遊星歯車機構の内歯歯車(または内歯歯車と一体化された部材)との間に存在する隙間を有効利用する。
【0010】
すなわち、この隙間に、平行軸歯車の歯部を軸方向に突出・延在させ、結果として径方向から見たときに、平行軸歯車のこの突出・延在させた歯部と、内歯歯車または該内歯歯車と一体化された部材とが重なるように構成している。
【0011】
この結果、平行軸歯車機構の全体重量や大きさが増大するのを防止しながら、すなわち減速装置全体のコンパクト性を維持しつつ、平行軸歯車の歯幅を大きく確保することができ、伝達トルクの増大を図ることができる。
【0012】
なお、本発明は、車輪駆動用の減速装置であって、平行軸歯車を有する平行軸歯車機構と、前記減速装置の回転部材の回転を制動するブレーキ機構と、前記平行軸歯車機構と前記ブレーキ機構とを収容するケーシングと、を備え、前記ブレーキ機構を構成する一部材と前記ケーシングとの間に存在する隙間に、前記平行軸歯車の歯部を軸方向に突出・延在させ、該平行軸歯車の歯部と、前記ブレーキ機構を構成する前記一部材とが、径方向から見て重なっていることを特徴とする車輪駆動用の減速装置と捉えることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車輪駆動用の減速装置において、減速装置全体のコンパクト性を維持しつつ、該減速装置の伝達トルクをより大きく確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る車輪駆動用の減速装置の要部拡大断面図
【図2】上記減速装置の全体断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る車輪駆動用の減速装置の要部拡大断面図、図2はその全体断面図である。
【0017】
この減速装置12は、図示せぬフォークリフト(車両)の車輪(図示略)を駆動するためのもので、平行軸歯車機構14、遊星歯車機構16、ブレーキ機構18、およびこれらを収容するケーシング20を主な構成要素として備えている。
【0018】
以下順に説明してゆく。
【0019】
平行軸歯車機構14は、図示せぬモータからの動力を受ける入力軸22、該入力軸22に一体的に形成されたヘリカルピニオン24、および該ヘリカルピニオン24と噛合するヘリカルギヤ(平行軸歯車)26とで主に構成されている。
【0020】
平行軸歯車機構14の入力軸22は、ニードル軸受28と第1玉軸受30とによってケーシング20に両持ち支持されている。第1玉軸受30の外輪30Aは、該ケーシング20の一部を構成するサイドカバー32に形成された段差32Aと該サイドカバー32に嵌め込まれた止め輪35に挟まれることでサイドカバー32に固定されている。
【0021】
また、第1玉軸受30の内輪30Bは、入力軸22に形成された段差22Aと該入力軸22に嵌め込まれた止め輪35に挟まれることで、入力軸22の軸方向の動きを拘束している。これにより、ヘリカルピニオン24を介して入力軸22に掛かるスラスト荷重は、第1玉軸受30の内輪30B、転動体30C、および外輪30Aを介してサイドカバー32によって受け止められる構成とされている。
【0022】
前記ヘリカルギヤ26は、第2玉軸受36を介してサイドカバー32の突起部32Bに回転自在に組み込まれている。第2玉軸受36の内輪36Bは、サイドカバー32の突起部32Bの段部32B1に当接するとともに、止め輪38によってサイドカバー32の突起部32Bに固定されている。第2玉軸受36の外輪36Aは、該外輪36Aに嵌め込まれた止め輪40によってヘリカルギヤ26の反車体側(図1、図2の左側)への移動を拘束している。
【0023】
ヘリカルギヤ26は、ボルト41を介してフランジ体42と連結されており、フランジ体42は、後段の遊星歯車機構16の遊星入力軸44と一体化されている。
【0024】
遊星歯車機構16は、いわゆる単純遊星歯車機構で構成されている。遊星歯車機構16は、遊星入力軸44に一体的に形成された太陽歯車46、該太陽歯車46の周りで公転する遊星歯車48、該遊星歯車48が内接噛合する内歯歯車50を有する。内歯歯車50の反車体側には、リング体52が固定され、該リング体52がボルト54によってケーシング20(のケーシング本体56)に固定されている。これにより、ケーシング本体56に対する内歯歯車50の位置決めがなされている。
【0025】
この遊星歯車機構16は、内歯歯車50が固定された状態で、遊星入力軸44から入力された動力を、遊星歯車48を支持しているキャリヤピン58の公転として出力軸60から取り出す構成とされている。出力軸60は、一対のテーパードローラ軸受66、68を介してケーシング20に回転可能に支持されている。出力軸60の外周にはスプライン62が形成されており、該スプライン62を介して出力フランジ64が出力軸60と一体的に回転可能である。出力フランジ64には、車輪取り付け孔64Aが形成されており、図示せぬスタッドボルトによりフォークリフトの車輪を装着可能である。
【0026】
一方、この実施形態では、ブレーキ機構18が、平行軸歯車機構14と遊星歯車機構16との間に配置されている。ブレーキ機構18は、内歯歯車50と一体化された固定体53に対して前記フランジ体(被制動体)42を制動することにより、遊星歯車機構16の遊星入力軸(回転部材)44の回転を制動する。
【0027】
ブレーキ機構18は、サイドカバー32内に形成されたシリンダ70内で油圧によって摺動するピストン72と、該ピストン72によって軸方向に駆動される押圧プレート(押圧部材)74と、該押圧プレート74によって押圧されることにより固定体53とフランジ体42の間に摩擦制動力を発生可能な複数の摩擦板80と、を備えている。
【0028】
ブレーキ機構18を、より具体的に説明すると、サイドカバー32内に形成されたシリンダ70の軸方向一端側は、ボルト92を介して固定されたプレート94によって閉塞されている。シリンダ70の端部には、該プレート94と当接してエンドブロック96が配置され、Oリング98によってシリンダ70の内外をシールしている。
【0029】
エンドブロック96とピストン72との間には、油圧室100が設けられ、チューブ102を介してオイルが流入・流出可能である。油圧室100のエンドブロック96とピストン72との間には、第1ばね104が設けられ、油圧室100の(オイルが流入可能な)空間が確保されている。ピストン72の動きは、押圧ピン106を介して押圧プレート74に伝達可能である。
【0030】
押圧プレート(押圧部材)74は、円板状とされ、押圧ピン106によって反車体側に押圧されることで、軸方向に移動可能である。図の符号108は、案内ピンである。案内ピン108は、サイドカバー32の穴32Cおよび押圧プレート74と一体化された受け台75の穴75A1に嵌合して組み込まれ、押圧プレート74を軸方向に移動させる際の回り止めと案内の機能を果たしている。
【0031】
押圧プレート74は、案内ピン108に沿って軸方向に移動することにより、その外周部の薄肉部74D(後述)において摩擦板80を押圧可能である。摩擦板80は、この実施形態では、内歯歯車50と一体化された部材である固定体53に、軸方向に所定の間隔を空けて固設された第1〜第5固定摩擦板81〜85と、該第1〜第5固定摩擦板81〜85の間に挿入・配置された第1〜第4移動摩擦板86〜89によって構成されている。第1〜第4移動摩擦板86〜89は、フランジ体42に固定されている。
【0032】
押圧プレート74は、複数の摩擦板80のうち最も車体側に位置する第1固定摩擦板81を反車体側に押圧可能である。また、第1〜第5固定摩擦板81〜85のうち、最も反車体側に位置する第5固定摩擦板85は、固定体53に組み込まれた止めブロック112に当接することで、軸方向反車体側への移動が拘束されている。
【0033】
一方、フランジ体42の軸方向側面には、前記ボルト41によってばね押さえプレート114が固定されている。ばね押さえプレート114は、同一円周上に複数の凹部114Aを備え、該凹部114Aに第2ばね116の一部を収容している。第2ばね116は、ばね押さえプレート114の該凹部114Aと押圧プレート74との間に設けられている。第2ばね116は、前述した第1ばね104および止め輪40と共同して、ピストン72、押圧ピン106、受け台75、押圧プレート74、ばね押さえプレート114、さらには該ばね押さえプレート114とともにボルト41によって共締めされた(フランジ体42と一体の)遊星入力軸44およびヘリカルギヤ26からなる部材群の軸方向の位置決めを行っている。
【0034】
ここで、ヘリカルギヤ26の歯部26Aと、遊星歯車機構16の内歯歯車50、およびブレーキ機構18の固定体53の周辺の構成について詳細に説明する。
【0035】
ヘリカルギヤ26の歯部26Aは、軸方向反車体側に突出・延在され、内歯歯車50と一体化された(ブレーキ機構18を構成する一部材である)固定体53とケーシング20との間に存在する隙間S1に臨んでいる。この結果、ヘリカルギヤ26の歯部26Aの歯幅W1は、歯部26A以外の部分の軸方向厚さW2よりも大きく(W1>W2)、歯部26Aと固定体53は、径方向から見てδ1だけ重なっている。
【0036】
また、ブレーキ機構18の押圧プレート(押圧部材)74も、ヘリカルギヤ26の歯部26Aと径方向から見て重なっている(この例では、押圧プレート74は、完全にヘリカルギヤ26の歯部26Aの内側に収容されており、径方向から見て該歯部26Aと100%重なっている)。
【0037】
さらに、この実施形態では、押圧プレート74の軸方向側面の一部に第1段差74Bがあってヘリカルギヤ26側にδ2だけ該軸方向側面が引き寄せられている(シフトしている)。また、その径方向外側に第2段差74Cがあって、該第2段差74Cの軸方向外側に薄肉部74Dが形成され、押圧プレート74の軸方向側面が、さらにヘリカルギヤ26側にδ3だけ引き寄せられている。その結果、この薄肉部74Dの反ヘリカルギヤ側に確保できたδ4(=δ2+δ3)相当の空間に、(ブレーキ機構18の摩擦板80の一部である)第1固定摩擦板81、第1移動摩擦板86および第2固定摩擦板82までの3枚を入り込ませ、押圧プレート74と摩擦板80の一部とが径方向から見てδ4だけ重なるように構成している。そして、前述したように、押圧プレート74自体の全体が、径方向から見てそっくりヘリカルギヤ26の歯部26Aと重なっている。
【0038】
次に、この車輪駆動用の減速装置12の作用を説明する。
【0039】
図示せぬモータの駆動力によって入力軸22が回転すると、該入力軸22と一体に形成されたヘリカルピニオン24が回転する。ヘリカルピニオン24が回転すると、該ヘリカルピニオン24と噛合しているヘリカルギヤ26が回転する。これにより、該ヘリカルギヤ26とボルト41を介して一体化されているフランジ体42が回転し、該フランジ体42と一体化されている遊星歯車機構16の遊星入力軸44が回転し、該遊星入力軸44に形成された太陽歯車46が回転する。
【0040】
遊星歯車機構16では、内歯歯車50がケーシング20と一体化されて固定状態にあるため、太陽歯車46の回転により遊星歯車48が内歯歯車50に内接噛合しながら太陽歯車46の周りを公転し、この公転成分がキャリヤピン58を介して出力軸60から取り出される。出力軸60が回転するとスプライン62を介して出力フランジ64が回転し、該出力フランジ64に連結されている図示せぬフォークリフトの車輪が回転する。
【0041】
ここで、この実施形態では、ヘリカルピニオン24とヘリカルギヤ26との噛合が、内歯歯車50と一体化された部材である(ブレーキ機構18の)固定体53とケーシング20との間に存在する隙間S1内にまで突出・延在された広い歯幅W1の歯部26Aを介して行われている。
【0042】
具体的には、ヘリカルギヤ26の歯部26Aは、径方向から見たときに固定体53と軸方向の位置がδ1だけ重なっている。この重なりδ1は、平行軸歯車機構14、ひいては減速装置12全体の軸方向の寸法を増大させることなく、ヘリカルギヤ26の歯部26Aの歯幅W1を増大させることができていることを意味している。すなわち、この構成により、減速装置12全体の軸方向の寸法を増大させることなく、より伝達トルクを増大させることができる(伝達トルクが同一ならば、軸方向長さをそれだけ短縮できる)。
【0043】
特に、この実施形態では、低騒音・低振動の性能を確保するために、(スパーピニオンおよびスパーギヤとの組み合わせではなく)ヘリカルピニオン24およびヘリカルギヤ26の組み合わせを採用している。一般に、伝達トルクを増大させようとした場合、ヘリカルピニオンおよびヘリカルギヤの歯部(噛合部)の諸元が同一ならば、噛合部での軸方向分力は伝達トルクの増大に比例して大きくなるため、例えば、第1、第2玉軸受30、36(特に第2玉軸受36)の耐久性の低下を招き易い。それは、この実施形態における各部材の配置からも明らかなように、特に、第2玉軸受36が配置される近傍は、スペースの確保が難しく、容量の大きな軸受の配置が困難な場合が多いためである。
【0044】
このような状況で第2玉軸受36の耐久性を確保するために、ヘリカルによる軸方向の分力の発生を抑えて少しでも第2玉軸受36の負担を軽くさせようとした場合には、ヘリカルの捻れ角を小さく設計せざるを得ないことになる。しかし、歯幅を変更せずに捻れ角のみを小さく設計すると、重なり噛合率の減少により、全噛合率が減少し、低騒音・低振動という意図するヘリカル本来の性能が確保できなくなってしまう。
【0045】
しかしながら、この実施形態によれば、広い歯幅W1を確保することで歯部26Aの強度を高く維持することができ、また、ヘリカルギヤ26の歯部26A以外の部分の軸方向厚さW2を薄く維持することができるため、限られた軸方向スペースをフランジ体42や押圧プレート74の軸方向厚さの確保、および第2玉軸受36の配置寸法の確保等に有効に活用することができる。この結果、組み込まれた第2玉軸受36の負担を軽く維持しながら、(捻れ角の大きな)ヘリカル本来の低騒音・低振動の性能を確保することができる。
【0046】
また、本実施形態では、押圧プレート(押圧部材)74の形状を工夫するとともに該押圧プレート74自体をそっくり歯部26Aの内側に収めることにより、伝達トルクの増大に対応して、ブレーキ機構18の摩擦板80の枚数も、(軸方向のスペースを増大させることなく)増大させることができている。
【0047】
すなわち、この実施形態では、先ず、押圧プレート74自体が、該押圧プレート74と歯部26Aとを径方向から見たときに両者74、26Aが重なるように配置され、歯部26Aの径方向内側が、押圧プレート74の配置スペースとしても利用されている。
【0048】
その上で、該押圧プレート74の軸方向側面の一部に第1、第2段差74B、74Cを形成し、その結果薄肉部74Dの反ヘリカルギヤ側に確保された空間に摩擦板80の一部(第1、第2固定摩擦板81、82、および第1移動摩擦板86)を入り込ませている。そのため、押圧プレート74の一部と摩擦板80の一部が径方向から見てδ4だけ重なることになり、軸方向のスペースを増大させることなく摩擦板80の枚数を増加させることができるものである。この結果、(同一の押圧プレート74の押圧力であっても)固定体53とフランジ体42のと間にそれだけ強力な制動力を発生させることができ、伝達トルクの増大に対応した制動性能を得ることができる。
【0049】
なお、上記実施形態においては、平行軸歯車機構にヘリカルピニオンとヘリカルギヤの組み合わせを採用していた。この組み合わせは、上述したように、平行軸歯車の噛合部での耐久性の確保に加えて、低騒音・低振動を維持しながら強度的に厳しくなり易い軸受の耐久性も併せて向上させることができるようになるという点で、本発明のメリットが最低限に活きる組み合わせであると言える。
【0050】
しかしながら、本発明は、必ずしもヘリカルピニオンとヘリカルギヤの組み合わせを採用しなければならないというわけではなく、例えばスパーピニオンとスパーギヤの組み合わせであってもよい。スパーピニオンとスパーギヤの組み合わせであっても、噛合部での耐久性の確保と平行軸歯車の歯部以外の軸方向寸法を増大させなくて済むことによるメリット(重量を増大させることなくフランジ体や押圧プレート、軸受等の他の部材の軸方向寸法を確保できること等のメリット)はそのまま享受することができる。
【0051】
また、上記実施形態においては、遊星歯車機構として、単純遊星歯車機構が採用されていたが、本発明における遊星歯車機構は、単純遊星歯車機構に限定されるものではなく、例えば遊星歯車を揺動させながら内歯歯車に内接噛合させるように構成したいわゆる「偏心揺動型」の遊星歯車機構であってもよい。この場合も、相対的に平行軸歯車機構の耐久性が厳しくなることが多く(厳しくない場合には、より一層、軸方向寸法を短縮できるという点で)本発明を適用するメリットがある。
【0052】
また、上記実施形態においては、押圧プレート(押圧部材)の一部とブレーキ機構の摩擦板の一部とが径方向から見て重なった状態とするために、押圧プレートに段差を設けて薄肉部を形成するようにしていたが、(薄肉部ではなく、あるいは薄肉部を形成するとともに)凹部を形成し、該凹部内に摩擦板の一部を入り込ませるように構成してもよい。
【0053】
また、上記実施形態においては、平行軸歯車機構と遊星歯車機構との間にブレーキ機構を配置し、内歯歯車と一体化された一部材である該ブレーキ機構の固定体とケーシングとの間の隙間に平行軸歯車の歯部を突出・延在させるようにしていたが、本発明では、ブレーキ機構は必ずしもこの位置にある必要はない。ブレーキ機構がこの位置にない場合、平行軸歯車の歯部を、内歯歯車(または該内歯歯車と一体化されたブレーキ機構以外の部材、例えばクラッチ)とケーシングとの間の隙間に突出・延在させることで、同様の効果を得ることができる。
【0054】
また、ブレーキ機構が平行軸歯車の近傍に存在する場合でも、該ブレーキ機構の固定体は、必ずしも内歯歯車と一体化された状態で配置されている必要はない。この場合は、(内歯歯車とは別個に配置されている)ブレーキ機構の一部を構成する部材とケーシングとの間の隙間に平行軸歯車の歯部を突出・延在させるようにすればよい。なお、この場合には、後段は必ずしも遊星歯車機構である必要もない。
【0055】
また、上記実施形態では、平行軸歯車機構+遊星歯車機構の2段で構成されていたが、平行軸歯車機構の前段や遊星歯車機構の後段に、さらに減速機構を配置するようにしてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、内歯歯車と固定体が(単一の部材として)一体形成されていたが、それぞれが別体として形成され、ボルト等で固定されることによって一体化されるものであってもよい。
【0057】
また、上記実施形態においては、フォークリフトの車輪を駆動するための減速装置に本発明が適用されていたが、本発明は、広く車両の車輪を駆動するための減速装置として、例えば、建設車両や乗用車両等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
12…減速装置
14…平行軸歯車機構
16…遊星歯車機構
18…ブレーキ機構
20…ケーシング
22…入力軸
24…ヘリカルピニオン
26…ヘリカルギヤ
26A…歯部
30…第1玉軸受
36…第2玉軸受
42…フランジ体
44…遊星入力軸
46…太陽歯車
48…遊星歯車
50…内歯歯車
53…固定体
74…押圧プレート(押圧部材)
80…摩擦板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪駆動用の減速装置であって、
平行軸歯車を有する平行軸歯車機構と、
該平行軸歯車機構の後段に設けられ、遊星歯車および該遊星歯車が内接噛合する内歯歯車を有する遊星歯車機構と、
前記平行軸歯車機構と前記遊星歯車機構とを収容するケーシングと、を備え、
前記内歯歯車または該内歯歯車と一体化された部材と前記ケーシングとの間に存在する隙間に、前記平行軸歯車の歯部を軸方向に突出・延在させ、
該平行軸歯車の歯部と、前記内歯歯車または該内歯歯車と一体化された部材とが、径方向から見て重なっている
ことを特徴とする車輪駆動用の減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記減速装置の回転部材の回転を制動するブレーキ機構を有するとともに、該ブレーキ機構を構成する一部材が、前記内歯歯車と一体化されており、前記平行軸歯車の歯部と該ブレーキ機構を構成する一部材とが、径方向から見て重なっている
ことを特徴とする車輪駆動用の減速装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記ブレーキ機構が、該ブレーキ機構を構成する前記一部材に対して相対的に軸方向に変位可能な押圧部材を備え、
該押圧部材も、前記平行軸歯車の歯部と、径方向から見て重なっている
ことを特徴とする車輪駆動用の減速装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記押圧部材の軸方向側面の一部に、凹部または薄肉部が形成され、
該凹部または薄肉部に前記ブレーキ機構の摩擦板の一部が入り込み、
該摩擦板の一部と前記押圧部材の一部とが、径方向から見て重なっている
ことを特徴とする車輪駆動用の減速装置。
【請求項5】
車輪駆動用の減速装置であって、
平行軸歯車を有する平行軸歯車機構と、
前記減速装置の回転部材の回転を制動するブレーキ機構と、
前記平行軸歯車機構と前記ブレーキ機構とを収容するケーシングと、
を備え、
前記ブレーキ機構を構成する一部材と前記ケーシングとの間に存在する隙間に、前記平行軸歯車の歯部を軸方向に突出・延在させ、
該平行軸歯車の歯部と、前記ブレーキ機構を構成する前記一部材とが、径方向から見て重なっている
ことを特徴とする車輪駆動用の減速装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87824(P2013−87824A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227157(P2011−227157)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】